【実施例】
【0076】
実施例:急性心筋梗塞の標的療法の新戦略としての血小板-単球相互作用の生体模倣
有効な心臓保護治療戦略の開発は難しい状態が続いている。というのも、可能性のある多くの心臓保護薬が基礎医学での結果を臨床での結果に結びつけるのに失敗しているからである。鍵となる問題の1つは、梗塞を起こした心臓を標的とした薬剤送達の最適化である。封入された薬剤を梗塞領域へと能動的に送達するための薬剤送達系がいくつか報告されてきたが、そうした薬剤送達系の機能化された表面は、薬剤を標的部位により長く保持すること、または薬剤の循環半減期をより長くすることを可能にしているだけである。したがって、これら送達系のための薬剤送達の主要経路として、増大した透過性と保持(EPR)の効果が相変わらず必要とされている。
【0077】
本研究により、EPR効果に頼ることなく心臓の梗塞領域に心臓保護薬を送達するための新規な薬剤送達系が提供される。この新規な薬剤送達系は、心筋梗塞(MI)後に血小板が循環単球と相互作用することを真似ている。例えば血小板様プロテオリポソーム(PLP)は、精製されたヒト血小板膜タンパク質と脂質(例えば1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)脂質)を用いて作製した。この戦略の概略を
図1Bに示す。インビトロのデータから、PLPは単球とマクロファージに対して強い親和性を示すが、内皮細胞に対してはそうでないことがわかった。生体多光子イメージングから、PLPは、対照である空リポソームよりも組織損傷部位のほうを標的とすることが明らかになった。再灌流を72時間実施して単球のリクルートが最大レベルに達したときPLPを注入すると、心臓の梗塞部位には対照領域よりも有意に多いPLPが存在していた。さらに、PLPに封入されたコバルトプロトポルフィリン(CoPP)(PLP-CoPP)は、MIのマウスモデルにおいて、心臓機能を改善しつつ、封入されたその薬剤の有害な効果を減らすことがわかった。
【0078】
本研究から得られた結果は、本明細書に記載のPLP系を用いて薬剤を望む部位(例えば心臓の梗塞部位)にうまく送達できることを示している。
【0079】
材料と方法
動物実験
すべての研究で使用する8週齢のオスのBALB/cマウスは国研院動物中心(台湾国)から購入し、餌と水に自由にアクセスできるようにして12時間夜/昼のサイクルを維持した。
【0080】
心筋虚血-再灌流(I/R)のための手術を、Ojhaら((2008年)、Am J Physiol Heart Circ Physiol第294巻:H2435〜H2443ページ)に公開されているプロトコルに従って実施した。簡単に述べると、マウスに、部屋の空気-イソフランを適切な速度と一回換気量で呼吸させた。左胸腔切開により心臓にアクセスした。そのとき、左肺を引っ込めて心膜に入れるようにした。その後、左心房を持ち上げて左前下行冠動脈(LAD)を露出させ、テーパー針に取り付けた7-0絹縫合糸を用いて隔離された状態にした。縫合糸をポリエチレン-10チューブにきつく縛り、冠動脈の閉塞を通じた可逆的な虚血を提供した。閉塞後、虚血の状態を45分間継続させた。45分後、縫合糸を緩め、損傷した心筋の再灌流が可能になるようにした。翌日、マウスに心エコー検査を実施して外科手術の成功を調べた。同様に、心筋虚血(MI)のマウスモデルで左心耳から遠位2〜3 mmの位置でLADを恒久的に結紮するという外科手術を実施した。
【0081】
心エコー検査
I/RとMI両方のマウスモデルにおける心臓機能を、Chenら((2015年)、Stem Cells Trans Med 第4巻:269〜275ページ)に公開されている方法に従い、30-MHzプローブ(Vevo770;Visual Sonics社、トロント、オンタリオ州、カナダ国)を用いて評価した。マウスを最初に左側面位の状態にした。胸骨傍長軸画像をMモード画像と2次元心エコー画像の両方について取得した。乳頭筋挿入部位の位置で心室の長軸に垂直に左心室拡張終期直径(LVEDD)と左心室収縮終期直径(LVESD)を測定した。LVEVは、心エコーシステムが(LVEDV - LVESV)/LVEDV×100%によって自動的に計算した。この式でLVEDVは左心室拡張終期体積であり、7.0×LVEDD
3/(2.4 + LVEDD)として計算され、LVESVは左心室収縮終期体積であり、7.0×LVESD
3/(2.4 + LVESD)として計算される。
【0082】
ヒト血小板の単離と血小板膜タンパク質の精製
不活性化された血小板または一部が活性化された血小板を、中央研究院の生物医学科学研究所からの倫理的承認を得た上で、ヒトドナーから回収した。血液を、酸性クエン酸デキストロース(ACD)で抗凝固処理した真空容器(BD Sciences社、カタログ番号366450)の中に回収した。血液を室温にて350×gで20分間遠心分離することにより、血小板が豊富になった血漿(PRP)を用意した。上層(PRP)を新しい試験管に移し、下層を廃棄した。次にPRPを室温にて1,200×gで遠心分離すると、血小板が少ない血漿を含む血小板ペレットが上清として得られた。この血小板ペレットをタイロードの緩衝液(1.8 mM CaCl
2、1 mM MgCl
2、2.7 mM KCl、136.9 mM NaCl、0.4 mM NaH
2PO
4、11.9 mM NaHCO
3、5.6 mM D-グルコース、0.1U/mlアピラーゼ)に再懸濁させ、再び室温にて1,200×gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、血小板を1 mlのタイロードの緩衝液に再懸濁させた。
【0083】
ヒト血小板膜タンパク質(PMP)を精製する方法は、Donovanら((2013年)、Alzheimer’s Res Ther第5巻:32ページ)に公開されているプロトコルをいくらか改変したものに基づいていた。簡単に述べると、精製したヒト血小板ペレットをタイロード緩衝液に再懸濁させ、室温にて1,100×gで15分間遠心分離した後、ペレットを5 mlの血小板溶解緩衝液(10 mMトリスHCl、1.5 mM MgCl
2、10 mM KCl、0.5 mM PMSF、pH 8)に再懸濁させ、氷の上で30分間インキュベートした。その後、再懸濁させた血小板溶液を氷の上で6×15秒間超音波処理し、次いで室温にて1,500×gで10分間遠心分離した。そのとき、分離された血小板オルガネラを廃棄し、上清の中の血小板タンパク質成分の残りを保持した。4℃にて180,000×gで2時間遠心分離した後、ペレットを氷の上で100 mM Na
2CO
3、pH 11に15分間再懸濁させることで、残った脂質をタンパク質成分から除去した。次にこの溶液を4℃にて180,000×gで2時間遠心分離し、ペレットを殺菌水に再懸濁させた。
図1Cは、全血小板ホモジェネートからPMPを精製する方法の一例を示している。
【0084】
タンパク質の同定
精製したヒト血小板膜タンパク質溶液に含まれる膜タンパク質の同定は、IBMS 蛋白質体核心設施(中央研究院、台湾国)で実施した。
【0085】
細胞
マウス内皮細胞SVEC(CRL-2181、ATCC)と単球RAW264.7細胞(TIB-71、ATCC)を、2 mMのグルタミンと10%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の中で培養した。Zhangら((2008年)、Curr Protoc Immunol第14巻:14.1ページ)に従ってマウス腹腔マクロファージ(MΦ)を成体マウスから単離した。簡単に述べると、マウスを2 mlの3%チオグリコール酸塩に少なくとも3日間曝露した。冷たいPBS(10 ml)を用いて腹腔滲出細胞を回収した。その細胞を37℃で2時間放置して組織培養プレートに接着させた後、新鮮な培地(DMEM/F-12+10%FBS)と交換した。
【0086】
SDS-PAGEとウエスタンブロッティング
サンプルを4〜12%SDS-ポリアクリルアミドゲル(BioRad社、アメリカ合衆国)上で分離した。PVDF膜に移した後、一次抗体と二次抗体を適用し、信号をECL-プラス試薬で検出した。ヒトGPIIbに対する一次抗体(GTX113758)、ヒトCD42cに対する一次抗体(GTX113355)、β-アクチンに対する一次抗体(GTX109639)をGeneTex社(アメリカ合衆国)から購入した。抗ヒトCD62P(sc-19672)はSanta Cruz社(アメリカ合衆国)からのものであった。ウサギポリクローナル抗HO-1抗体は、Linら((2013年)、Arterioscler Thromb Vasc Biol 第33巻:785〜794ページ)に従って自作した。
【0087】
組織学的染色
サンプルをスクロース溶液(15%w/v)の中で6時間脱水し、次いで濃(30%w/v)スクロース溶液に一晩入れた後、-20℃で組織凍結媒体の中に埋め込み、低温で切片にした。厚さ5μmの各切片をスライドガラスの上に装着した後、マッソンの三色染色プロトコルに従ってヘマトキシリン-エオシンで染色した。染色した切片を、顕微鏡(Axiovert200M;Zeiss社、ドイツ国)に取り付けたディジタルカメラ(モデルD30、日立製作所、日本国)で撮影した。
【0088】
免疫蛍光イメージング
空リポソームとPLPをDiIC18(Life Technologies社、アメリカ合衆国)で標識した。その後、DiIで標識した両方の材料とさまざまなタイプの細胞の相互作用を調べた。細胞を最初にスライドガラスの上に播種し、どちらかの材料に37℃で6時間曝露した。結合しなかったあらゆる材料を温かいPBSで洗い流した。その後、スライドガラスの上に播種した細胞をカバースリップで覆い、Zeiss社のAxioscope顕微鏡で画像を取得し、AxioVisionソフトウエアで処理した。凍結させた心臓切片に含まれるDiIで標識した空リポソームとPLPを免疫検出するため、マウス心筋細胞を染色するための抗マウストロポニンI(DSHB社、アメリカ合衆国)でその心臓切片を標識し、核をDAPI(0.1 mg/ml)で対比染色した。画像をやはりZeiss社のAxioscope顕微鏡で取得し、AxioVisionソフトウエアで処理した。
【0089】
非筋細胞の単離
成体マウスから心臓を切除した後、その組織を冷たいハンクス平衡塩溶液(HBSS)+1%FBSで3回洗浄した。心臓を灌流して過剰な血液を除去した後、200μlのディスパーゼII溶液(5 U/mlディスパーゼII、5 mM CaCl
2、0.1 U/mlコラゲナーゼB)の中に入れた。次に、カミソリの刃で心臓を切断して細かいメッシュにした後、5 mlのディスパーゼII溶液の中で37℃にて30分間インキュベートした。その後、5 mlのDMEM+10%FBSを溶液に添加し、氷の上で40μmのフィルタを用いて濾過した。濾液を保管し、4℃にて1,000 rpmで5分間遠心分離した。次に、ペレットでフローサイトメトリーを実施した。
【0090】
フローサイトメトリー
細胞を、DiIで標識した空リポソームまたはDiIで標識したPLPに曝露した後、温かいPBSで洗浄した。室温にて1,000 rpmで5分間遠心分離することにより、結合しなかった空リポソームまたはPLPを除去した。その後、細胞ペレットを5%ヤギ血清の混合物とともに氷の上で30分間インキュベートした。サンプルを4℃にて1,000 rpmで5分間遠心分離した後、それぞれの一次抗体、すなわち抗マウスF4/80 APC(MCA497APC、AbDSerotec社、アメリカ合衆国)、または抗マウスCD11b(14-0112、eBioscience社、アメリカ合衆国)、または抗CD144(555289、BD Science社、アメリカ合衆国)とともに4℃にて暗所で1時間インキュベートした。過剰な一次抗体を4℃にて1,000 rpmで5分間遠心分離することによって除去した。その後、サンプルを蛍光標識したそれぞれの二次抗体とともに4℃にて暗所で1時間インキュベートした。過剰な二次抗体を遠心分離によって除去した後、サンプルに対してフローサイトメトリー分析(BD Science社、アメリカ合衆国)を実施した。
【0091】
PCR分析
TRI試薬(1 ml/心臓全体)を用いて全RNAを心臓全体から単離した。その後、ランダムプライマーミキサー(ProtoScript M-MuLV First Strand cDNA合成キット、New England BioLabs社)を用いて1μgのRNAをcDNAに転写し、特異的プライマー(表1)を用いてPCRにより35サイクルかけて増幅した。反応物に対して95℃で1分間、58℃で1分間、72℃で1.5分間のサイクルを実施し、変性、アニーリング、伸長がそれぞれ可能になるようにした。次に、TBE緩衝液(80 mMトリス塩基、80 mMホウ酸、2 mM EDTA、pH 8)の中の1%(w/v)寒天ゲル上で60 Vにて1時間にわたってPCR産物を分離した。HealthView Nucleic Acid Stain(Genomics社、台北、台湾国)を用いてゲルを30分間染色した後、UV光のもとで可視化した。
【0092】
【表1】
【0093】
血小板様プロテオリポソームの調製
血小板様プロテオリポソームの調製は、薄膜水和法に基づいていた。Jang他、(2012年)、PNAS第109巻:1679〜1684ページ。方法の一例を
図1Aに示す。1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)の10 mg/ml貯蔵溶液と3.28 mgのコレステロール(Avanti Polar Lipids社)の10 mg/ml貯蔵溶液を1 mlのクロロホルムとメタノール(9:1 v/v)に溶かし、体積にて6:4のモル比で混合した。薄膜をロータリーエバポレータによって形成した。脂質にDiIC18(Life Technologies社、アメリカ合衆国)の標識があらかじめ付けられている場合、染料を原初の混合物に添加した後、薄膜形成工程(10 mgのDOPCにつき20μl)を実施した。次に、薄膜を1 mlのHEPES-PBS緩衝液に再懸濁させると、脂質の最終濃度は約10 mg/mlであった。凍結-解凍を何回か実施した後、脂質溶液を100 nmのポリカーボネート膜(Whatman社、アメリカ合衆国)を通過させて押し出した。
【0094】
次に、形成された脂質溶液を、1%n-オクチル-β-D-グルコピラノシド(OG)の存在下で、精製したヒト血小板膜タンパク質と30:1の比で室温にて1時間混合した。SM-2-BioBeadsを製造者(BioRad社)のプロトコルに従って用いて洗浄剤を除去した。その後、4℃にて6,000×gで5分間遠心分離することによってPLPをビーズから分離した。洗浄剤なしのプロテオリポソームを含んでいた上清をPBSに対して透析し、結合しなかったヒトPMPをすべて除去した。PLPへのコバルトプロトポルフィリン(CoPP、Enzo社)の封入は、Hamoriら((1993年)、Pediatr Res 第34巻:1〜5ページ)に従って実施した。封入する望みの量のCoPPを洗浄剤なしのPLP溶液と混合した後、液体窒素の中で凍結させた。その後、この混合物を一晩凍結乾燥させた。翌日、凍結乾燥した生成物をPBSで水和し、4℃にて80,000 rpmで2時間遠心分離した。ペレットを再懸濁させ、超遠心分離をさらに1時間繰り返して過剰なCoPPを洗い流した。最後にペレットを望む体積のPBSの中に再懸濁させた。
【0095】
HPLCによる定量
その後のHPLC分析のため、Chenら((2015年)、Nanoscale 第7巻:15863〜15872ページ)に従ってサンプルを調製した。DiIで標識した空リポソームまたはPLPを注射してから4時間後、すべてのマウスにPBSを灌流して血管内のDiIで標識したすべての材料を洗い流した。その後マウスを安楽死させ、主要な臓器(脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓)を手早く回収した。回収した組織を約100 mgのいくつかの断片に切断して計量した。IPA緩衝液(0.5 ml、0.075 M HCl と混合した10%イソプロパノール、9:1 v/v)を各サンプルに添加した後、ジルコニアビーズを備えるMagNALyser装置(Roche社、マンハイム、ドイツ国)を用いて完全なホモジェネートにした。次に、ホモジェネートになったサンプルを4℃にて3,000 rpmで20秒間遠心分離した後、0.5 mlのIPA緩衝液をさらに添加した。サンプルを4℃で一晩放置した後、4℃にて14,000 rpmで15分間遠心分離した。抽出された蛍光染料を含む上清を取り出して希釈し、HPLC分析を実施した。HPLCは、Waters社のe2695 Separation ModuleとWaters社の2475 FLR Detector(アメリカ合衆国)を用いて実施した。X-Bridge C18カラム(250×4.6 mm、5μm, Waters社、アメリカ合衆国)を40℃で使用し、蛍光検出器を励起波長505 nm、発光波長515 nmに設定した。移動相はメタノールと脱イオン水(77:23、v/v)からなり、流速は1 ml/分であった。DiIで標識した既知の濃度の空リポソームまたはPLPの段階希釈によってHPLC標準を測定した。
【0096】
空リポソームまたはPLPへのCoPPの封入効率は、空リポソームに封入されたCoPP(リポ-CoPP)溶液とPLPに封入されたCoPP(PLP-CoPP)溶液の両方を溶解緩衝液(90%エタノール/10%1M HCl、v/v)で処理した後に空リポソームまたはPLPから放出されたCoPPの量を測定することによって求めた。これらの溶液に対してHPLC分析を実施した。X-Bridge C18カラム(250×4.6 mm、5μm、Waters社、アメリカ合衆国)を40℃で用い、UV検出器を励起波長404 nm、発光波長417 nmに設定した。Rossi他、(1986年)、Biomed Chrom第1巻:163〜168ページ。濃度が既知のCoPPの標準曲線を構成し、各サンプルの封入効率を求めた。
【0097】
クライオEMとTEM
クライオEM画像を得るためのサンプル調製と撮影は、独立したスタッフが中央研究院(台湾国)の学術及儀器事務所の低温電顕核心実験室で実施した。簡単に述べると、Tecnai F20電子顕微鏡(FEI)を200 keVで用いて空リポソームまたはPLPの画像を取得した。各曝露に関する低用量条件は、約20e-/Å2であった。焦点を2〜3μm外して画像を取得し、4k×4k CCDカメラ(Gatan社、アメリカ合衆国)に記録した。
【0098】
ファゴサイトーシスを受けたPLPを含むマクロファージのTEM画像は、中央研究院(台湾国)の生物医学科学研究所の穿透式電子顕微鏡核心実験室の独立したスタッフが撮影した。サンプルは、最初に細胞をACLARフィルム(EMS社、アメリカ合衆国)の上に37℃で一晩播種することによって調製した。その後、播種した細胞をPLPに37℃で6時間曝露し、過剰なPLPを温かいPBSで洗い流した。その後、サンプルのTEMイメージングを実施した。
【0099】
生体多光子顕微鏡法
生体多光子イメージング実験のためのイメージング手続きは、以前にLeeら((2012年)、Nat Commun 第3巻:1054ページ)が記載しているようにして実施した。実験の前に、耳を脱毛し、75%エタノールと水で拭った。多光子レーザービームを耳の真皮の限られた領域に約30秒間フォーカスさせることによってレーザー損傷を誘導した。すべてのマウスを2.5%イソフラン(Minrad社)で麻酔した後、実験中は1.5%イソフランの状態を維持した。FITC-デキストランを尾の静脈から静脈内注射してマウスの血管を標識し、マウスを空リポソーム処理群またはPLP処理群に分けた(n=3)。4時間安定化させた後、FVMPE-RSマルチモード多光子走査顕微鏡(Olympus社)を用いて組織損傷領域を撮影した。その後、DiIで標識した5 mg/mlの空リポソームまたはPLPを尾の静脈から100μl静脈内注射し、その直後から30分後まで耳の組織損傷領域を観察した。その間、画像を5分ごとに撮影した。
【0100】
HO-1活性アッセイ
CoPPに曝露した細胞内で誘導されたHO-1の比活性を求めるため、分析した細胞抽出物に含まれるビリルビンの量を測定した。Lam他、(2005年)、J Immunol第174巻:2297〜2304ページ。マグネシウムを補足したリン酸カリウム溶液(0.1M KPO
4 と2 mM MgCl
2;pH 7.4)に細胞ペレットを再懸濁し、凍結-解凍サイクルを3回実施し、超音波処理によって細胞質のHO-1タンパク質を放出させた。HO-1酵素アッセイでは、100 mM PBS、2 mM MgCl
2、3 mgのラット肝臓サイトゾル、0.8 mM NADPH、2 mMグルコース-6-リン酸塩、0.2 Uグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、20μM酵素基質ヘミンを含む反応混合物と、1mgのサンプルを用いた。反応を各サンプルの最終体積が1 mlになるまで行なわせ、暗所で37℃にて1時間インキュベートした。クロロホルムを添加して反応を終了させ、ビリルビンを遠心分離によって抽出し、分光測光によって464 nmと530 nmでの吸光度の差として測定した(ビリルビンの消光係数は40 mM
-1cm
-1)。各サンプル中のタンパク質の濃度をBradfordタンパク質アッセイで求め、HO-1活性を、1時間にタンパク質1 mgにつき形成されたビリルビンのマイクロモル数として表わした。
【0101】
血液検査
血液検査はすべて、台湾小鼠診所で独立したスタッフが実施した。約56週齢のオスのBALB/cマウスをすべての分析で用いた(各群でn=5)。
【0102】
統計分析
一元ANOVA(分散の分析)検定の後、チュキー事後検定を利用して試験条件下での処理の間の統計的有意性を比較した。p値が0.05未満を有意であると見なした。
【0103】
結果
ヒト血小板からの血小板膜タンパク質の精製
精製した血小板膜タンパク質溶液が細胞質タンパク質をまったく含んでいないことを確認するため、SDS-PAGE分析とウエスタンブロッティング分析を実施した(それぞれ
図1Dと
図1E)。SDS-PAGEにより、精製したPMPを装填したレーンで多数のバンドが明らかになった。これらのバンドは、さまざまなPMPを表わしている可能性が大きい(白い長方形、
図1D)。約42 kDaの位置にある共通のバンドはβ-アクチンを表わしており(Moebius他、(2005年)、Mol Cell Proteomics 第4巻:1754〜1761ページ)、精製したヒトPMPを除く全サンプルで検出された(黒い長方形、
図1D)。β-アクチンは血小板の中の主要な細胞質タンパク質である(Lewandrowski他、(2009年)、Blood第114巻:E10〜E19ページ)ため、その不在は、精製したPMP溶液が細胞質タンパク質によって実質的に汚染されていないことを示唆していた。次に、検出されたバンドのいくつかが何であるかをウエスタンブロッティングによって確認した。
【0104】
図1Eに示したように、PLPサンプルでは、CD62、GPIIb、CD42cといった血小板タンパク質が検出されたが、β-アクチンは検出されなかった。CD62D(P-セレクチン)は、単球表面のp-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)と相互作用することでよく知られる活性化された血小板受容体であるのに対し、フィブリノーゲンが、単球表面のGPIIb(インテグリンαIIb)とCD11b(インテグリンαM)の相互作用を媒介する。血小板CD42c(GPIb)は、単球表面のCD11bと直接相互作用することがわかっている。単球と相互作用する既知の他の血小板受容体とともに、精製したPMP溶液中の3種類の血小板受容体が何であるかも質量分析によって確認した(表2)。GPIIbとCD42cの両方とも血小板膜の表面で構成的に発現するのに対し、CD62Pは初期血小板活性化マーカーであり、針で破裂させることによって「弱く」誘導することができる。Murakami他、(1996年)、European J of Clin Invest第26巻:966〜1003ページ;Marquardt他、(2002年)、Stroke第33巻:2570〜2574ページ;Harmon他、(2011年)、Int Cellular Med Society 1〜11ページ。
【0105】
【表2】
【0106】
上の表に掲載した1種類以上の血小板膜タンパク質を用いて本明細書に記載のPLPを作製することができる。いくつかの例では、血小板-単球相互作用に関与することが明らかにされている太字にした少なくとも1種類のタンパク質を用いて本明細書に記載のPLPが作製される。
【0107】
PLPは、DOPC系リポソームを用いたヒトPMPの再構成によって作製される
薄膜水和法(Jang他、(2012年)、PNAS 第109巻:1679〜1684ページ)によってPLPのバッチを調製した。このPLP は、DOPCとコレステロールの混合物(9:1、w/w)と、精製したヒトPMPを30:1の比にしたものからなる。クライオEM画像では、空リポソームは不規則な形と凝集を示した(
図1F)。それに対してPLPでは一様な円形が見られた。しかしクライオEM画像から、PLPのサイズが揃っておらず、すべてのPLPが約100 nmのサイズになっているわけではないことがわかった。動的光散乱(DLS)測定から同様の結果が明らかになり、平均すると大半のPLPはサイズが100 nmに近い(PDI=0.077)のに対し、空リポソームは平均サイズが約130 nmであった(PDI=0.12、表3)。重要なことだが、PLPの全表面電荷は空リポソームと比べてより大きな負の値であることが示された。血小板膜タンパク質は負に帯電していることが知られているため、これは、DOPC系リポソームへのヒトPMPの共役が成功したことを示唆していた。Lewandrowski他、(2009年)、Blood 第214巻:E10〜E19ページ。さらに、PLPの表面にヒトPMPが存在することが、ウエスタンブロッティングによって確認された(
図1G)。なぜなら抗ヒトGPIIb抗体と抗ヒトCD42c抗体の両方ともPLPに対してプラスの反応性を持っていたが、空リポソームに対してはプラスの反応性を持たなかったからである。
【0108】
【表3】
【0109】
異なる3つのバッチのDOPC系リポソームとPLP(n=3)のサイズ、表面電荷、多分散性指数(PDI)をMalvern Zetasizer Nano ZSによって測定した。PLPの水力直径とゼータ電位をリポソームと統計的に比較した。**、P<0.01、***、P<0.001。
【0110】
PLPは、単球に対して標的特異性を示すが、内皮細胞に対しては標的特異性を示さない
ヒトPMPが機能的役割を持つことを証明するため、DiIで標識した空リポソームとDiIで標識したPLPを、マウス内皮細胞(SVEC)、マウス単球(RAW264.7)、マウス腹腔マクロファージ(MΦ)とともに37℃で4時間インキュベートした。その後、DiIで標識した空リポソームまたはDiIで標識したPLPで過剰なもの、または結合しなかったものを除去し、次いでフローサイトメトリー分析を実施した(
図3A)。空リポソームとは異なり、PLPはRAW264.7に対して強い結合親和性を示したが、SVECに対しては結合親和性を示さなかった。MΦのファゴサイトーシス活性が原因で、空リポソームとPLPの両方とも、MΦでは他の2つのタイプの細胞におけるよりもDiI信号が小さかった。それに加え、PLPをMΦに曝露すると多数の小胞が形成され(白い矢印、
図3B)、いくつかの小胞の中にPLPを見ることができた(白い矢印、
図3B)。
【0111】
同様の結果が蛍光画像でも見られた。これは、DiIで標識した空リポソームとPLPがこれら3つのタイプの細胞と相互作用することを示している。調べた全部で3つのタイプの細胞は、DiIで標識した空リポソームと確かに相互作用をした(
図3D)。それに対してPLPはSVECとまったく相互作用しなかったが、RAW264.7とMΦではDiI信号が検出された(
図3E)。RAW264.7細胞の中に凝集していることが見られた空リポソームとは異なり、PLPは、細胞ゾルの中よりもRAW264.7細胞の表面に断然局在していた。
【0112】
まとめると、これらの結果は、PLPの表面にヒトPMPが存在することで、プロテオリポソームは単球に結合できるが、内皮細胞には結合できないことを示していた。この性質は重要である。なぜならPLPは、静脈内注射する場合には内皮に沿って凝集する可能性が小さいことと、空リポソームよりも循環単球に接着する可能性が大きいことを示しているからである。その代わりに、またはそれに加えて、本明細書に記載のプロテオリポソームは、血小板および/または赤血球細胞に対する結合活性が低いため、血栓形成を誘導するリスクが減る可能性がある。さらに、曝露4時間後に大半のPLPは細胞ゾルの中よりもRAW264.7の表面に局在した。これは、PLPが循環単球によるファゴサイトーシスを受ける可能性がより小さく、したがって薬剤の放出が早すぎる可能性が最小になることを示唆している。
【0113】
蛍光イメージングの結果を
図2Aに示す。DiIで標識したリポソームは、内皮細胞、単球、マクロファージに強く結合した。逆に、DiIで標識した血小板様プロテオリポソームは、単球とマクロファージでだけ正の信号を示しただけであった。さらに、血小板様プロテオリポソームの蛍光信号は、マクロファージの内側に局在していたが、単球とともにインキュベートしたときには膜表面に局在した。したがってデータは、血小板様プロテオリポソームは単球に対する標的特異性を持つが、内皮細胞に対しては持たないことを示唆していた。それに加え、血小板様プロテオリポソームは、単球の膜表面に局在していたが、マクロファージとともにインキュベートしたときには細胞内に局在した。同じ結果が、フローサイトメトリー分析でも見られた(
図2B)。
【0114】
PLPは、空リポソームよりも組織損傷部位のほうを標的とする
傷の治癒における炎症反応はCHD患者で見られるのと同様であるため、レーザーで誘導したマウスの耳組織の傷をモデルとして、空リポソームとPLPの標的プロファイルを生体内で調べた。損傷を作り出した後、マウスを約48時間放置し、次いでDiIで標識した空リポソームまたはPLPをマウスの尾の静脈を通じて静脈内注射した。注射するとき、2光子顕微鏡のレンズの焦点を損傷領域に合わせ、2種類のリポソームの画像を30分後まで5分ごとに取得した。PLPを注射したマウス(
図4B)と比較すると、注射した空リポソームのうちのごく少量(白い矢印の先頭、
図4A)が損傷領域に見られた。30分後の時点で撮影した画像から3D回転画像を構成すると、DiIで標識したPLPは大量に組織損傷部位に浸潤した一方で、ごく少量の空リポソームしか損傷組織では見られないことがわかった。損傷領域に存在していなかった血管を30分後の時点で可視化すると、DiIで標識した空リポソームが大量に存在していることがわかった(
図4C)。逆に、損傷部位の外側の領域ではDiIで標識したPLPがごく少量しか検出されなかった(
図4D)。PLPを注射したマウスは、PBSまたは空リポソームで処理したマウスと比べて損傷部位で有意に大きいDiI信号を示した(
図9)。結論として、生体多光子イメージングデータから、PLPは空リポソームよりも損傷部位のほうを標的とすることが証明された。これは、リクルートされた単球に背負われたことによる可能性が大きい。
【0115】
PLPは、虚血/再灌流(I/R)で損傷した心臓をより多く標的とした
PLPを臨床で冠動脈心疾患(CHD)患者に応用できることを証明するため、空リポソームとPLPの組織分布をI/R損傷のマウスモデルで調べた。マウスに外科的に誘導した虚血を45分間起こした後、再灌流させた。ヒトCHD患者では、梗塞を起こした心臓にリクルートされる単球の数が梗塞の72時間後にピークに達すること(van der Laan他、(2014年)、Eur Heart J 第35巻:376〜385ページ)が明らかにされているため、再灌流の24時間後または72時間後に、DiIで標識した5 mg/kgの空リポソームまたはPLPをマウスに100μl注射した。その後、空リポソームとPLPの両方を4時間循環させてからマウスを安楽死させ、臓器中のDiI信号のレベルをHPLC分析で調べた(
図5Aと
図5B)。
【0116】
再灌流を24時間実施した時点でマウスに空リポソームまたはPLPを投与したとき、脳はどちらの脂質材料に対してもプラスのDiI検出信号を示さなかった。最小レベルの信号が心臓、肺、腎臓で検出されたが、空リポソームとPLPの間で検出信号に有意差はなかった。肝臓と脾臓が、空リポソームとPLPの両方で最も大きなDiI信号を示した2つの主要な臓器であった。興味深いことに、脾臓では、PLPの検出が空リポソームよりも有意に少なかった。これは、PLP表面のヒトPMPが、脾臓にPLPが捕捉されるのを阻止する役割を果たしている可能性があることを示唆している。同様の分布プロファイルが、心臓を除き、再灌流を72時間実施した時点でDiIで標識した空リポソームまたはPLPを静脈内注射したときに見られた。注目すべきことに、有意差は脾臓で見られただけではない。なぜならPLPは、心臓で空リポソームより高い応答を示すことも見られたからである。これは、PLPの表面にPMPが存在していると、梗塞を起こした心臓をより多く標的とすることを示している。梗塞を起こした心臓にPLPが存在することは、再灌流を72時間実施した時点でPLPを投与した心臓組織切片でも検出できた(
図5C)。シャム群とは異なり、DiIで標識した空リポソームで処理した群でも、DiIで標識したPLPで処理した群でも、まったく無傷のサルコメア構造をI/Rで損傷した心臓で見ることはできなかった。しかしPLPの蛍光信号が梗塞領域ではっきりと見られたのに対し、空リポソームで処理した心臓サンプルでは目に見える検出信号はなかった。
【0117】
損傷した心筋へのPLPの輸送が実際には単球を媒介とすることを証明するため、心臓全体に浸潤した単球の数をフローサイトメトリーによって求めた(
図5D)。再灌流を24時間実施した後に安楽死させたマウスからの心臓は、空リポソームで処理した群とPLPで処理した群の両方で非常にわずかのCD11b
+しか示さなかった。逆に、再灌流を72時間実施した後に安楽死させたマウスは、損傷した心臓でCD11b
+細胞の有意な増加を示した(
図5E)。さらに、心臓内のCD11b
+ DiI
+細胞の数は、再灌流を72時間実施した時点で投与したPLPで処理したマウスでは、再灌流を24時間実施した時点で投与したPLPで処理したマウスよりも有意に多かった(
図5F)。再灌流を24時間または72時間実施した時点で空リポソームを投与したマウスでは同じ効果は見られなかった。したがってこのデータは、再灌流を72時間実施した時点で注射すると、有意な量のPLPが損傷した心筋に浸潤することと、その浸潤は単球を媒介とすることを示していた。
【0118】
PLPに封入したコバルトプロトポルフィリンIX(CoPP)を用いた処理により心臓の梗塞領域が小さくなった
コバルトプロトポルフィリンIX(CoPP)は、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現を通じてマクロファージの炎症活性を抑えることが知られている小分子である(
図10A)。HO-1は、ヘムが壊れてビリベルジンと一酸化炭素(CO)と鉄になる触媒として機能した。COおよびビリベルジンと、ヘム最終分解代謝産物であるビリルビンは、強い抗酸化活性と抗炎症活性を持つことが知られていて(Zao他、(2013年)、PLoS One第8巻:e75927ページ)、副生成物である鉄は、抗アポトーシス活性を持つフェリチンの合成に関与することが明らかにされている(Zao他、(2013年)、PLoS One第8巻:e75927ページ)。CoPPを用いた治療によって心臓の梗塞領域が有意に小さくなることが示されている。Sodhi他、(2015年)、J Cardiol Ther第2巻:291〜301ページ;Cao他、(2012年)、Front Physiol第3巻:160ページ;Chen他、(2013年)、Int J Mol Sci第14巻:2684〜2706ページ。そこで、I/R損傷のマウスモデルにおいてPLPに封入したCoPP(PLP-CoPP)を静脈内注射すると同様の治療効果が見られるかどうかを調べた。
【0119】
最初に、PLP-CoPPがHO-1の発現を誘導する能力をSVEC、RAW264.7細胞、MΦで調べた(
図10B)。β-アクチンの発現と比較すると、空リポソームに封入したCoPP(リポ-CoPP)またはPLP-CoPPは、SVECでは有意なHO-1の発現にならなかったが、単独のCoPPを用いた処理は、いくらかの発現を誘導する結果になっているように見える。逆に、単独のCoPPまたはリポ-CoPPを用いた処理は、処理していない対照と比べてHO-1の強い発現を誘導した。PLP-CoPP で処理したRAW264.7細胞におけるHO-1の発現は、処理していない対照よりも強かったが、バンドは、単独のCoPPまたはリポ-CoPPを用いた処理と比べて強度が小さかった。したがってこのデータから、PLPの表面のヒトPMPは、リポ-CoPPとは異なり、封入されたCoPPが細胞によって容易に取り込まれるのを阻止していることが示唆される。SVECおよびRAW264.7細胞と比較すると、CoPPで処理したMΦのすべての形態でHO-1の強い発現が見られた。さらに、インビトロ活性アッセイでビリルビンのレベルを測定することにより、CoPPによって誘導されるHO-1の発現はすべて酵素活性であることが証明された(
図10C)。それに加え、それぞれにおけるHO-1の酵素活性は、CoPPで処理した各サンプルにおける酵素の発現レベルに対応していた。
【0120】
PLP-CoPPがI/R損傷のマウスモデルにおいて心臓の梗塞領域を小さくする能力を調べる実験を行なう前に、空リポソームとPLPに封入されたCoPPの安定性を調べた(表5)。DLS測定から、PLP-CoPPの封入効率は、封入直後に測定した値と比べて3日後も違いがないが、リポ-CoPPではそうでないことがわかった。さらに、PLP-CoPPのサイズは、最初に封入してから3日後も違いがなかった。しかし7日目以降はCoPP封入効率の有意な低下がリポ-CoPPとPLP-CoPPの両方で見られた。したがってその後のすべての動物実験において、リポ-CoPPは生体内実験の1日前に調製したのに対し、PLP-CoPPは実験の3〜4日前に新たに調製した。
【0121】
【表4】
リポソームまたはPLPに封入したコバルトプロトポルフィリンIX(CoPP)の3つのバッチ(n=3)に対して動的レーザー散乱分析を実施し、封入後の粒子のサイズを求めた。異なるインキュベーション時間でのリポソームまたはPLPへのCoPPの封入効率はHPLCによって求めた。リポソームまたはPLPへのCoPPの封入効率を封入直後に測定した値との比較で、**、P<0.01、***、P<0.001。
【0122】
マウスにおけるCoPPの以前の薬物動態研究から、5 mg/kgのCoPPを5日ごとに用いると生体内でHO-1の強い発現を誘導するのに十分であることが示されている。Chen他、(2013年)、Int J Mol Sci第14巻:2684〜2706ページ。マウスを45分間虚血にし、再灌流を約72時間実施した後、5 mg/kgの単独のCoPP、リポ-CoPP、PLP-CoPPを尾の静脈を通じて100μl注射した(
図6A)。次に、再灌流後21日目まで同じ用量を5日ごとに投与した後、マウスを安楽死させ、心臓を回収して組織学的分析を行なった(
図6Bと
図11)。I/R+生理食塩水群と比較すると、リポ-CoPPで処理したマウスは梗塞領域を小さくすることに関してあまり改善を示さなかったが、単独のCoPPまたはPLP-CoPPで処理したマウスでは有意な縮小が見られた(
図6C)。これらの結果から、PLPへのCoPPの封入はこの薬剤の治療効果を低下させないことが証明された。さらに、空リポソームに封入されたCoPPは梗塞を起こした心臓に治療効果を及ぼさなかったという事実は、共役したヒトPMPが封入された薬剤を梗塞を起こした心臓に送達する上で重要な役割を果たしていることを明らかに示している。
【0123】
CoPPまたはPLP-CoPPを用いた処理は、I/Rで損傷した心臓でいくつかの炎症促進遺伝子を下方調節することがわかった(
図6D)。CoPPまたはPLP-CoPPを静脈内注射したマウスの心臓では、生理食塩水やリポ-CoPPで処理したマウスと比べ、HO-1遺伝子(HMXO1)の発現が上方調節された。比較すると、TNFα、MCP-1、IL6、IL1βといった炎症促進遺伝子が、CoPPやPLP-CoPPで処理した群において下方調節された。したがってこれらの結果は、CoPP またはPLP-CoPPがI/Rで損傷した心臓でHO-1の発現を誘導できることと、HO-1が抗炎症効果を及ぼし、その結果としていくつかの炎症促進サイトカインを下方調節することを示していた。
【0124】
PLPはCoPPの有害な効果を最少にする
MIの動物モデルにおけるCoPPの治療上の利点が文献によく記載されているが、その望まない標的外効果も報告されている。Schmidt、(2007年)、FASEB J 第21巻:2639ページ;Ryter他、(2006年)、Physiol Rev 第86巻:583〜650ページ。PLP-CoPPの全体的効果を評価するため、非再灌流MIのマウスモデルにおいてPLP-CoPP処理後の心臓機能を最初に調べた。虚血を外科手術によって誘導した後、マウスに5 mg/kgの単独のCoPP、リポ-CoPP、PLP-CoPPを梗塞の3日後に100μl静脈内注射した。その後、マウスに同じ用量を梗塞の28日後まで5日ごとに投与した(
図7A)。MIの28日後に全処理群でマウスの心臓機能を心エコー検査によって評価した(
図7B)。血液が心臓と1回接触するごとに心臓を離れる血液の量を測定する左心室駆出率(LVEF、%)は、MI+PLP-CoPPの群において、MI+生理食塩水の群、MI+リポ-CoPPの群、2種類のビヒクルだけの群よりも有意に大きかった。MI+CoPPの群とMI+PLP-CoPPの群の間に有意差はなかった。同様の結果が、心筋の厚さの影響を受ける短縮率(FS%)の測定でも見られ、PLP-CoPPで処理した群は、MI+CoPPの群を除く他の処理群と比べてFS%の有意な改善を示した。左心室拡張終期体積(LVEDV)と左心室収縮終期体積(LVESV)における血液の体積もすべての群で評価した。単独のCoPPまたはPLP-CoPPでの処理は、シャム群で見られたのと同じレベルまでLVEDVとLVESVを下げることはなかったが、それでも結果は、他の処理群と比べて有意に優れていた。同様に、拡張期における心室間隔膜厚(IVSd)または収縮期における心室間隔膜厚(IVSs)の測定値はさらに、PLP-CoPPが、単独のCoPPで処理した場合と同様にマウスの心臓機能全体を改善させることを示していた。
【0125】
次に、PLPが他の臓器に対するCoPPの標的外効果を最少にする能力を調べるため、全処理群の血液で28日間の処理の終了時に血清分析を実施した(
図7C〜
図7E)。血清中のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、全ビリルビンのレベルをバイオマーカーとして用い、CoPPの肝臓毒性を評価した(
図7C)。ASTとTBILの測定では処理群の間に有意差がなかった。しかしMI+CoPPの群では、MI+PLP-CoPPの群よりも有意に高いALTのレベルが検出された。さらに、MI+リポ-CoPPの群とMI+PLP-CoPPの群の両方が、シャム群と同様のALTレベルを示した。同様の結果が、腎臓毒性のバイオマーカーである血液尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)の血清レベルの測定値でも見られた(
図7D)。リポ-CoPP処理もPLP-CoPP処理も、CoPP処理と同様、BUNまたはCREの血清レベルを上昇させなかったことが明らかであった。心臓毒性のバイオマーカーであるクレアチンキナーゼMB(CKMB)の血清レベルの測定値は、MI+CoPPの群とMI+PLP-CoPPの群の両方が他の処理群と比べて有意に低いCKMBレベルであることを示していた(
図7E)。これは、CoPPそのものは追加の心臓毒性を誘導せず、CKMBのあらゆるレベル上昇は虚血による損傷の結果である可能性が大きいことを示していた。
【0126】
合わせて考えると、本研究の結果は、本明細書に記載のPLPが心臓の損傷領域にCoPPを有効に送達し、CoPPの標的外送達に伴う副作用を最少にすることを示していた。このプロセスを
図8に示す。
【0127】
考察
潜在的な心臓保護薬の基礎医学における有望な結果を臨床に移すことは困難な仕事に留まっている。過去数十年にわたって投資が続けられているにもかからわず、有効な心臓保護薬は相変わらず市販されていない。Altamirano他、(2015年)、J Physiol 第593巻:3773〜3788ページ;Perricone他、(2014年)、Pharmacol Res 第89巻:36〜45ページ;Sluijter他、(2014年)、Pharmacol Ther 第144巻:60〜70ページ。臨床でうまくいっていないいくつかの結果は、不適切な動物モデルとヒト患者の個々のライフスタイルに帰されてきた。しかし全身に送達される薬剤の標的特異性を最大にすることもまだ実現されないままである。例えばアメリカ合衆国のFDAがII型糖尿病を治療するための抗糖尿病薬として認可したメトフォルミンは、いくつかの動物モデルで心臓保護効果を持つことが示されている。Whittington他、(2013年)、Cardiovasc Drug Ther 第27巻:5〜16ページ。しかし冠動脈バイパス手術の間にCHD患者をメトフォルミンであらかじめ治療した最近の臨床試験は、心筋の損傷を有意に減らすことに失敗した。El Messaoudi他、(2015年)、Lancet Diabetes Endocrinol 第3巻:615-623ページ。さらに、メトフォルミンで治療した群の患者は、プラセボ群と比べて下痢やそれ以外の胃腸の不快感の発生が有意に多かった。したがって臨床の結果は、メトフォルミンが、治療した患者の心臓保護機能を持たないだけでなく、不利な効果も誘導することを示していた。報告されているいくつかの薬剤送達系は、梗塞を起こした心臓に能動的に送達されると主張されているが、これら送達系の機能化された表面は、標的部位にそれをよりよく保持すること、および/またはその循環半減期を長くすることを可能にするだけである。Dvir他、(2011年)、Nano Lett 第11巻:4411〜4414ページ;Yan他、(2014年)、Biomaterials 第35巻:1063〜1073ページ;Chang他、(2013年)、J Control Release 第170巻:287〜294ページ;Nguyen他、(2015年)、Adv Mater 第27巻:5547〜5552ページ。これら送達系は、標的部位に到達する主要経路として相変わらずEPR効果に頼っている。いくつかの報告と臨床研究が、今や、EPR効果は、がんの治療を含め、もはや依存できる薬剤送達戦略ではないことを示している。Nichols他、(2014年)、J Control Release第190巻:451〜464ページ。したがって本明細書に開示した単球を媒介とする送達戦略は、薬剤送達の真に能動的な形態である。
【0128】
単球を媒介とする戦略は、がんの薬剤の送達に関して以前に報告されている。しかし報告されている送達系は、内皮によっても認識される機能化された表面を有する(Qin他、(2015年)、Nanomedicine第11巻:391〜400ページ)か、循環単球によるファゴサイトーシスをより容易にする機能化されていない表面を有する(Nagaoka他、(2015年)、PLoS One第10巻:e0132451ページ;Afergan他、(2008年)、J Control Release第132巻:84〜90ページ)か、送達用ビヒクルを全身に送達する前に単球の外部供給源とあらかじめ混合する必要があった(Anselmo他、(2015年)、J Control Release第199巻:29〜36ページ)。それに対して本明細書に記載のPLPは、梗塞後の血小板と循環単球の間の生理的相互作用を真似るように設計された。PLP上のPMPは、送達系が、梗塞を起こした心臓にリクルートされつつある循環単球にヒッチハイクすることを可能にする。それと同時にこのタンパク質は、内皮に対する物理的障害を提供して、望ましくない血栓形成を阻止する可能性が大きい。それに加え、PLPは、細胞によるファゴサイトーシスを受けるのではなく、曝露の4時間後に単球の表面に凝集することが明らかにされた。このような性質は極めて重要である。というのもファゴサイトーシスが早く起こると封入された薬剤の放出が早すぎて望まない効果が誘導される可能性があるからである。
【0129】
本研究で開示したPLPを媒介とする薬剤送達系の例は、血管損傷部位への血小板の凝集を促進する上で重要な役割を果たすことが知られている血小板膜リン脂質を含む血小板膜全体ではなく、純粋なPMP溶液を利用していた。Davi他、(2007年)、N Engl J Med 第357巻:2482〜2494ページ。目的は、単球の表面にPLPが付着する機会を最大にすることであるため、膜リン脂質が存在していると、望ましくない凝集が内皮の表面上とPLP相互間で促進される可能性が大きいと考えられる。さらに、ポリマーではなくリポソームがPLPのコアとして選択された。なぜならリポソームは多彩な薬剤を封入することができ、調節体により受け入れられやすいからである。Torchilin他、(2014年)、Nat Rev Drug Discov 第13巻:813〜827ページ。さらに、血小板膜全体が使用される場合、血小板膜リン脂質が存在していると、ヒトPMPとDOPC脂質の共役の成功が阻止される可能性が大きくなると考えられる。
【0130】
本明細書に記載のPLPは、作製するのに単一のタイプの組み換えタンパク質を使用したり、所定の組み換えタンパク質の混合物を使用したりしなくてもよく、その代わりに、精製したヒトPMPの混合物を全面的に含むことができる。そのようなPLPは単球と高いレベルの相互作用をし、そのことによって薬剤送達活性を高めた。
【0131】
本研究で証明されたのは、梗塞を起こした心臓で再灌流の72時間後にだけPLPを検出でき、24時間後には検出できなかったことである。この結果は予想外であった。というのも、単球と相互作用する血小板受容体のいくつかは、ヒト患者で梗塞を起こした心臓に梗塞後24時間以内にリクルートされる好中球とも相互作用することが知られているからである。Hausenloy他、(2015年)、N Engl J Med 第373巻:1073〜1075ページ。共役プロセスがヒトPMPにいくらか改変を誘導し、その結果として好中球に対する親和性が小さくなった可能性がある。しかし灌流を72時間実施した時点で静脈内注射すると、注射された全PLPの約5%が心臓の中に存在していたが、注射された全空リポソームのほうは約0.3%であった。さらに、PLPの数の増加は、梗塞を起こした心臓で72時間後の時点で検出される単球の数の増加と相関していた。これは、単球を媒介として標的に向かったことを示唆している。このようなデータは、リクルートされる単球の数が梗塞後72時間の時点でピークに達し、その大半は梗塞領域にあるというヒトの臨床データに対応している。van der Laan他、(2014年)、Eur Heart J 第35巻:376〜385ページ。
【0132】
最近の臨床研究に基づくと、再灌流相の間に起こる炎症応答が、虚血を生き延びる心筋細胞の生存に莫大な効果を及ぼすことが明らかである。Hausenloy他、(2015年)、N Engl J Med 第373巻:1073〜1075ページ;Altamirano他、(2015年)、J Physiol 第593巻:3773〜3788ページ。いくつかの抗炎症薬が開発されているが、どの薬剤も有効であることが証明されたことはこれまでにない。よく報告されているのは、リクルートされた単球が二相特性を持つことと、開発された多くの薬剤が目指す標的はMI相の間の炎症活性であることである。しかしこれら抗炎症薬のいくつかは常在性心臓マクロファージにも影響を与えることも指摘された。単球由来の浸潤するマクロファージとは異なり、常在性心臓マクロファージは主に胚性前駆体に由来し、ゴミを内部化し、アポトーシスする心筋細胞を飲み込むことをより効率的に行なう。Epelman他、(2014年)、Immunity第40巻:91〜104ページ。さまざまな研究から、これらの細胞は、止血において重要な役割を持つことが明らかになった。なぜなら、その炎症活性を抑制すると実際に炎症相全体が延長され、最終的に心臓機能が低下する結果になったからである。Wan他、(2013年)、Circ Res 第113巻:1004〜1012ページ。
【0133】
したがって本研究のPLPは、単球由来の新たにリクルートされたマクロファージだけを標的とする可能性が大きい。なぜなら対照である空リポソームは、再灌流を72時間実施した時点で注射したときには、梗塞を起こした心臓に蓄積しなかったからである。したがって再灌流を72時間実施した時点で注射されたPLP-CoPPは、常在性心臓マクロファージと自由に相互作用することができたというよりは、損傷した心筋に浸潤した直後に、単球からマクロファージになった担体によるファゴサイトーシスを受けた可能性が大きい。常在性心臓マクロファージに対するCoPPの効果に関する報告は存在していないが、本研究は、CoPPで処理したマウスとPLP-CoPPで処理したマウスの間で治療結果に有意差がないことを示した。常在性心臓マクロファージの数は、リクルートされた単球に由来するマクロファージよりも少ないことが知られている(Luo他、(2014年)、Stem Cells Transl Med第3巻:734〜744ページ)ため、CoPPとPLP-CoPPの間の有意差は、よりあとの時点でだけ見られる可能性が大きい。しかし本研究により、梗塞後72時間の時点でPLP-CoPPを静脈内注射することが、常在性心臓マクロファージを残しておきつつ、新たにリクルートされた単球に由来するマクロファージの炎症活性を低下させるための優れた戦略となる可能性のあることが明らかに証明された。
【0134】
CoPPは、転写因子FOXO1の発現を増大させ、HO-1のプロモータにFOXO1が結合しやすくすることが知られているため、HO-1の転写活性を増大させる。Liu他、(2013年)、PLoS One第8巻:e80521ページ。最近、CoPPであらかじめ処理すると、ヒト胚性幹細胞由来の心筋がI/R損傷から保護されることがインビトロモデルと生体内モデルの両方で証明された。Luo他、(2014年)、Stem Cells Transl Med第3巻:734〜744ページ。I/R損傷のマウスモデルの心臓を調べることで、生理食塩水またはリポ-CoPPで処理したマウスとは異なり、CoPPまたはPLP-CoPPの送達がHO-1の発現を誘導することがわかった。CoPPが誘導するHO-1の発現増大によっていくつかの炎症促進遺伝子の発現が下方調節された。別の研究者たちは、HO-1が、いくつかの炎症促進サイトカインの発現を直接的または間接的に下方調節する心臓保護酵素であることを示した。Sodhi他、(2015年)、J Cardiol Ther 第2巻:291〜301; Collino他、(2013年)、Dis Model Mech第6巻:1012〜1020ページ;Wang他、(2010年)、Circulation 第121巻:1912〜1925ページ。
【0135】
多くの研究によってさまざまな動物モデルでI/R損傷におけるCoPPの利点が証明されてきたが、この薬剤の効果に関するヒトの臨床データは入手できない。重要な懸念の1つは、CoPPのコバルト成分が重金属であることである。初期の研究により、長期にわたるCoPPの全身注射により肝臓毒性が生じる可能性のあることが示唆された。Schmidt、(2007年)、FASEB J第21巻:2639ページ。実際、CoPP処理後のMIのマウスモデルの心臓機能に関する生体内研究では、肝臓毒性の最も重要な標準バイオマーカーであるALTの血清レベルが有意に上昇することがわかった。ASTとTBILの両方についても肝臓毒性に関して臨床で試験されているところである。しかしALTとは異なり、ASTとTBILのアッセイは、これらバイオマーカーの間で相違が頻繁に見られることが原因で、ALT測定を支持する補足材料としか見なされていない。Ozer他、(2008年)、Toxicology第245巻:194〜205ページ。AST測定とTBIL測定でCoPP処理群の間に有意差が見られなかったとはいえ、単独のCoPPで処理した群でのALTレベルの上昇は、ALTが実際に肝臓毒性をいくらか誘導したことを示していた。より重要なのは、リポ-CoPPで処理した群もPLP-CoPPで処理した群も、28日後までの期間にALT血清レベルの有意な上昇を示さなかったことである。同様に、単独のCoPPは、腎臓毒性を誘導することが示された。なぜならBUNとCREの血清レベルが他の処理群よりも有意に高かったからである。まとめると、全身に送達された単独のCoPPは、MIのマウスモデルにおいて、心臓機能全体を改善するが追加の心臓毒性は誘導しないことが示されたが、肝臓毒性と腎臓毒性の兆候が観察された。逆に、PLP-CoPPは、心臓の改善レベルに関しては同様であったが、肝臓と腎臓に対する有害な効果は誘導しなかった。したがって送達されたCoPPの効果が大きく改善された。
【0136】
まとめると、本研究に記載したPLPは、ヒトPMPのタンパク質成分だけを利用し、膜リン脂質は利用しなかった。その帰結として、このPLPは、インビトロモデルと生体内モデルの両方で内皮に対して示す親和性が小さかったため、心筋梗塞後にリクルートされる循環単球に結合する機会が増大する。したがってこのPLPは、循環単球にヒッチハイクすることを通じ、梗塞を起こした心臓を標的とすることが空リポソームよりも多かった。こうすることで、心臓に到達する主経路としてのEPR効果に依存する必要性が最少になった。再灌流を72時間実施した時点でPLP-CoPPを投与することは、心臓の炎症を少なくするための優れた治療戦略である。なぜなら封入されたCoPPは、常在性心臓マクロファージを残しておきつつ、リクルートされた単球由来のマクロファージの炎症活性を下方調節する可能性が大きいからである(
図8)。さらに、静脈内注射したPLP-CoPPは、この薬剤の有害な効果を減らしつつ、単独のCoPPと同レベルの心臓改善効果を示した。
【0137】
他の実施態様
本明細書に開示されているどの特徴も任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同じ目的、または等価な目的、または同様の目的で機能する代わりの特徴で置き換えることができる。したがって特に断わらない限り、開示されている各特徴は、一般的な一連の等価な特徴または同様の特徴の一例にすぎない。
【0138】
上記の記述から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、本発明をさまざまな用途や条件に合わせるため、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、本発明をさまざまに変更したり改変したりすることができる。したがって他の実施態様も請求項に含まれる。
【0139】
均等物
本発明のいくつかの実施態様をここに記載し、図示してきたが、当業者は、本明細書に記載の機能を実行するための多彩な他の手段および/または構造、および/または、本明細書に記載の結果および/または利点の1つ以上を得るための多彩な他の手段および/または構造を容易に想起するであろう。そうしたバリエーションおよび/または改変のそれぞれは、本明細書に記載の本発明の実施態様の範囲に含まれると見なされる。より一般に、本明細書に記載のあらゆるパラメータ、サイズ、材料、構成は例示を意味していること、そして実際のパラメータ、および/またはサイズ、および/または材料、および/または構成は、本発明の教示が利用される具体的な用途に依存することを当業者は容易に理解するであろう。当業者は、定型的な実験以上のものを利用することなく、本明細書に記載の本発明の具体的な実施態様と等価な多くのことを認識するか、確認することができるであろう。したがって、上記の実施態様は単なる例示であり、添付の請求項および均等の範囲内で、具体的に説明して請求項に記載したのとは異なる本発明の実施態様を実施することができると理解すべきである。本開示の本発明の実施態様は、本明細書に記載の個々の特徴、および/または系、および/または物品、および/または材料、および/またはキット、および/または方法を対象としている。それに加え、そのような特徴、および/または系、および/または物品、および/または材料、および/またはキット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせは、本開示の本発明の範囲に含まれる。
【0140】
本明細書で規定して使用するあらゆる定義は、辞書の定義、および/または参照により組み込まれている文献における定義、および/または規定した用語の通常の意味に優先すると理解されるべきである。
【0141】
本明細書と請求項で用いる不定冠詞「1つの」は、特に断わらない限り、「少なくとも1つの」を意味すると理解されるべきである。
【0142】
本明細書と請求項で用いる「および/または」という句は、そのように組み合わされている要素、すなわちある場合には組み合わされて存在し、別の場合には分かれて存在する要素の「いずれか、または両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」とともに列挙されている多数の要素は、同様に解釈すべきである。すなわち、要素の「1つ以上」がそのように組み合わされていると解釈すべきである。「および/または」という句によって具体的に明示されている要素とは別の要素が場合によっては存在していてもよく、それら別の要素は、具体的に明示されている要素と関連していてもいなくてもよい。したがって非限定的な例として、「Aおよび/またはB」は、「含む」などの数の限定がない表記と組み合わせて使用するとき、1つの態様では、Aだけ(場合によってはB以外の要素も含む)を意味し、別の1つの態様では、Bだけ(場合によってはA以外の要素も含む)を意味し、さらに別の1つの態様では、AとBの両方(場合によっては他の要素も含む)意味することなどが可能である。
【0143】
本明細書と請求項で用いる「または」は、上に定義した「および/または」と同じ意味を持つと理解されるべきである。例えばあるリストの中の項目を分けるとき、「または」または「および/または」は、包括的であると解釈される。すなわち、多数の要素またはリストにされた要素の少なくとも1つだけでなく、2つ以上と、場合によってはリストにない追加の項目も含むと解釈される。そうではないことが明確に指示されている句、例えば「…のうちの1つだけ」または「…のうちの正確に1つ」や、請求項で用いるときの「…からなる」は、多数の要素またはリストにされた要素の中の正確に1つの要素を含むことを意味する。一般に、本明細書で用いる「または」という単語は、排他性を示す「…のいずれか」、「…のうちの1つ」、「…のうちの1つだけ」、「…のうちの正確に1つ」といった句が前にあるときには、排他的な代替要素を指す(すなわち「一方または他方であって両方ではない」)とだけ解釈される。「主に…からなる」は、請求項で用いるときには、特許法の分野で用いられている通常の意味を持つ。
【0144】
本明細書と請求項で1つ以上の要素からなるリストに言及して用いられる「少なくとも1つの」という句は、その要素リストに含まれる任意の1つ以上の要素から選択した少なくとも1つの要素を意味するが、その要素リストに具体的に掲載されている少なくとも1つの単独の要素を含んでいる必要は必ずしもなく、その要素リストに含まれる要素の任意の組み合わせも除外されないと理解されるべきである。この定義により、「少なくとも1つの」が言及する要素リストの中に具体的に明示されている要素とは別の要素が場合によっては存在することが可能になり、それら別の要素は、具体的に明示されている要素と関連していてもいなくてもよい。したがって非限定的な例として、「AとBのうちの少なくとも1つ」(またはそれと同等な「AとBの少なくとも1つ」、またはそれと同等な「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの態様では、少なくとも1つ(場合によっては2つ以上)のAを意味し、Bは存在せず(場合によってはB以外の要素を含む)を意味し、別の1つの態様では、少なくとも1つ(場合によっては2つ以上)のBを意味し、Aは存在せず(場合によってはA以外の要素を含む)、さらに別の1つの態様では、少なくとも1つ(場合によっては2つ以上)のAと少なくとも1つ(場合によっては2つ以上)のBを含むこと意味することなどが可能である。
【0145】
特に明確に断わらない限り、1つ以上の工程または操作を含む本明細書に記載のどの方法でも、その方法のそれら工程または操作の順番は、必ずしもその方法のそれら工程または操作が記載されている順番に限定されない。
【0146】
請求項では、明細書におけるのと同様、「含む」、「含有する」、「備える」、「有する」、「含んでいる」、「関係する」、「保持する」、「からなる」などのつなぎの句はすべて、終わりが決められていないこと、すなわち含まれる事項の数に制限がないことを意味すると理解されるべきである。「…からなる」と「主に…からなる」というつなぎの句だけは、アメリカ合衆国特許庁特許審査手続きマニュアルの2111.03項に記載されているように、それぞれ、数が制限されたつなぎの句、または数がある程度制限されたつなぎの句である。