(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンと、第1および第2電動機と、前記第1および第2電動機と電力をやり取りする蓄電装置と、前記第1電動機に連結される第1回転要素、前記第2電動機に連結される第2回転要素および前記エンジンに連結される第3回転要素を有する遊星歯車と、前記遊星歯車の前記第2回転要素に連結される入力軸、出力軸および複数の係合要素を有し、前記入力軸に伝達された動力を複数段に変速して前記出力軸に伝達する変速機とを含むハイブリッド車両において、
前記第1および第2電動機と前記蓄電装置とが電気的に切り離された状態で、前記第1および第2電動機の一方により発電された電力を他方に消費させながら出力制限範囲内のトルクが前記変速機の前記出力軸に出力されるように前記エンジン、前記第1および第2電動機並びに前記変速機を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記第1および第2電動機と前記蓄電装置とが電気的に切り離された状態での前記ハイブリッド車両の走行中に前記変速機の変速段を変更する場合、変速判断から前記入力軸の回転変化を生じるまでの間、あるいは前記変速判断から前記入力軸の回転変化が終了するまでの間に、前記出力制限範囲を前記変速段が変更されない場合に比べて継続して狭め、前記出力軸に出力されるトルクを前記出力制限範囲内に制限して前記変速機の前記入力軸に伝達されるトルクを前記変速段が変更されない場合に比べて減らすことを特徴とするハイブリッド車両。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本開示のハイブリッド車両20を示す概略構成図である。同図に示すハイブリッド車両20は、エンジン22と、動力分配用の遊星歯車30と、モータジェネレータMG1およびMG2と、バッテリ(蓄電装置)40と、バッテリ40に接続されると共にモータジェネレータMG1およびMG2を駆動する電力制御装置(以下、「PCU」という)50と、モータジェネレータMG2と駆動輪DWとの間の動力伝達経路に設けられた自動変速機60と、車両全体を制御する制御装置であるハイブリッド電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを含む。なお、ハイブリッド車両20は、いわゆるプラグイン式のハイブリッド車両であってもよいことはいうまでもない。
【0012】
エンジン22は、ガソリンや軽油、LPGといった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を発生する内燃機関である。エンジン22は、図示しないCPU等を含むマイクロコンピュータであるエンジン電子制御装置(以下、「エンジンECU」という)25により制御される。遊星歯車30は、サンギヤ(第1回転要素)31と、リングギヤ(第2回転要素)32と、複数のピニオンギヤ33を回転自在に支持するプラネタリキャリヤ(第3回転要素)34とを有するシングルピニオン式の遊星歯車である。サンギヤ31は、モータジェネレータMG1のロータに接続され、リングギヤ32は、モータジェネレータMG2のロータに連結される。また、プラネタリキャリヤ34は、図示しないダンパを介してエンジン22のクランクシャフトに連結される。
【0013】
モータジェネレータMG1およびMG2は、何れも同期発電電動機であり、PCU50を介してバッテリ40と電力をやり取りする。第1電動機としてのモータジェネレータMG1は、主に、負荷運転されるエンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて電力を生成する発電機として動作する。第2電動機としてのモータジェネレータMG2は、主に、バッテリ40からの電力およびモータジェネレータMG1からの電力の少なくとも何れか一方により駆動されて動力を発生する電動機として動作すると共に、ハイブリッド車両20の制動時に回生制動トルクを出力する。
【0014】
バッテリ40は、リチウムイオン二次電池またはニッケル水素二次電池といった二次電池であり、図示しないCPU等を含むマイクロコンピュータである電源管理電子制御装置(以下、「電源管理ECU」という)45により管理される。電源管理ECU45は、バッテリ40の電圧センサからの端子間電圧や、電流センサからの充放電電流IB、温度センサからの電池温度TB等に基づいて、当該バッテリ40のSOC等を算出する。なお、バッテリ40の代わりに、キャパシタが採用されてもよい。
【0015】
PCU50は、モータジェネレータMG1を駆動する第1インバータ51や、モータジェネレータMG2を駆動する第2インバータ52、第1および第2インバータ51,52とバッテリ40との間で電力を昇圧または降圧する昇降圧コンバータ(電圧変換装置)53、第1および第2インバータ51,52と昇降圧コンバータ53との間の電圧を平滑化する平滑コンデンサ54等を含む。PCU50は、システムメインリレーSMRを介してバッテリ40に接続されると共に、図示しないCPU等を含むマイクロコンピュータであるモータ電子制御装置(以下、「MGECU」という)55により制御される。
【0016】
MGECU55は、HVECU70からの指令信号や、図示しない電圧センサにより検出される昇降圧コンバータ53の昇圧前電圧VL、電圧センサ56により検出される昇降圧コンバータ53の昇圧後電圧VH、モータジェネレータMG1,MG2のロータの回転位置を検出する図示しないレゾルバの検出値、モータジェネレータMG1,MG2に印加される相電流等を入力する。MGECU55は、これらの入力信号に基づいて第1および第2インバータ51,52や昇降圧コンバータ53をスイッチング制御する。また、MGECU55は、レゾルバの検出値に基づいてモータジェネレータMG1およびMG2のロータの回転数を算出する。
【0017】
自動変速機60は、
図2に示すように、遊星歯車30のリングギヤ32およびモータジェネレータMG2のロータに連結される入力軸60iと、デファレンシャルギヤ35を介して左右の駆動輪DWに連結される出力軸60oと、シングルピニオン式の第1および第2遊星歯車61,62を組み合わせて構成されるCR−CR式(4要素式)の複合遊星歯車機構63と、第1および第2クラッチ(係合要素)C1,C2と、第1および第2ブレーキ(係合要素)B1,B2とを含む。
【0018】
図示するように、複合遊星歯車機構63では、複数の第1ピニオンギヤ61pを支持する第1遊星歯車61の第1キャリヤ61cと、第2遊星歯車62の第2リングギヤ62rとが常時連結されると共に、第1遊星歯車61の第1リングギヤ61rと、複数の第2ピニオンギヤ62pを支持する第2遊星歯車62の第2キャリヤ62cとが常時連結されている。また、第1クラッチC1は、入力軸60iと、複合遊星歯車機構63(第2遊星歯車62)の第2サンギヤ62sとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。第2クラッチC2は、入力軸60iと、複合遊星歯車機構63の第1キャリヤ61cおよび第2リングギヤ62rとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。第1ブレーキB1は、複合遊星歯車機構63(第1遊星歯車61)の第1サンギヤ61sを静止部材としてのトランスミッションケースに回転不能に固定(接続)すると共に第1サンギヤ61sのトランスミッションケースに対する固定を解除するものである。第2ブレーキB2は、複合遊星歯車機構63の第1キャリヤ61cおよび第2リングギヤ62rをトランスミッションケースに回転不能に固定(接続)すると共に第1キャリヤ61cおよび第2リングギヤ62rのトランスミッションケースに対する固定を解除するものである。
【0019】
本実施形態において、第1および第2クラッチC1,C2は、ピストン、複数の摩擦係合プレート、それぞれ作動油が供給される係合油室および遠心油圧キャンセル室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。また、第1および第2ブレーキB1,B2は、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキ(摩擦係合要素)である。そして、第1および第2クラッチC1,C2並びに第1および第2ブレーキB1,B2は、油圧制御装置65による作動油の給排を受けて動作する。
【0020】
自動変速機60では、油圧制御装置65により第1および第2クラッチC1,C2並びに第1および第2ブレーキB1,B2を
図3に示すように係合または解放させることで、入力軸60iから出力軸60oまでの間に前進回転方向に4通りおよび後進回転方向に1通りの動力伝達経路、すなわち第1速段から第4速段の前進段および後進段を設定することができる。本実施形態において、油圧制御装置65は、HVECU70により制御される。HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vと、自動変速機60の変速段との関係を規定する図示しない変速線図(変速マップ)に従って第1および第2クラッチC1,C2並びに第1および第2ブレーキB1,B2の少なくとも何れか1つが係合または解放されるように油圧制御装置65を制御する。
【0021】
HVECU70は、図示しないCPU,ROM,RAM,入出力装置等を含むマイクロコンピュータであり、ネットワーク(CAN)を介してECU25,45,55と各種信号をやり取りする。また、HVECU70は、例えばハイブリッド車両20のシステム起動を指示するためのスタートスイッチ(イグニッションスイッチ)80からの信号や、シフトポジションセンサ82により検出されるシフトレバー81のシフトポジションSP、アクセルペダルポジションセンサ84により検出されるアクセルペダル83の踏み込み量を示すアクセル開度Acc、車速センサ85により検出される車速V、MGECU55からのモータジェネレータMG1,MG2の回転数等を入力する。
【0022】
ハイブリッド車両20の走行に際して、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて、運転者の要求に応じて自動変速機60の出力軸60oに出力されるべきトルクである要求トルクTr*を設定する。更に、HVECU70は、当該要求トルクTr*やバッテリ40の充放電電力、自動変速機60の変速比γ等に基づいてエンジン22の要求パワーPe*および目標回転数Ne*、モータジェネレータMG1,MG2に対するトルク指令Tm1*,Tm2*等を設定する。そして、HVECU70は、エンジン22の要求パワーPe*および目標回転数Ne*をエンジンECU25に送信すると共に、トルク指令Tm1*,Tm2*をMGECU55に送信する。エンジンECU25は、エンジン22から要求パワーPe*に相当するパワーが出力されるように吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行する。MGECU55は、トルク指令Tm1*,Tm2*に基づいて第1および第2インバータ51,52等をスイッチング制御する。
【0023】
また、HVECU70は、スタートスイッチ80がオンされている間、PCU50の平滑コンデンサ54の端子間電圧を示す昇圧後電圧VHを監視する。HVECU70は、昇圧後電圧VHが予め定められた上限電圧を上回るか、あるいは予め定められた下限電圧を下回った場合、モータジェネレータMG1,MG2からトルクを適正に出力させ得なくなったとみなし、ハイブリッド車両20をREADY−ON状態(走行可能状態)からREADY−OFF状態(走行禁止状態)に移行させる。加えて、HVECU70は、システムメインリレーSMRを開閉制御する。すなわち、HVECU70は、スタートスイッチ80がオンされると、バッテリ40とPCU50とを電気的に接続すべくシステムメインリレーSMRを閉成させる。また、HVECU70は、例えば電源管理ECU45によりバッテリ40の異常が検知された場合、当該バッテリ40とPCU50すなわちモータジェネレータMG1,MG2との電気的な接続を解除すべくシステムメインリレーSMRを開成させる。
【0024】
バッテリ40の異常に起因してシステムメインリレーSMRが開成されて当該バッテリ40とPCU50すなわちモータジェネレータMG1,MG2とが電気的に切り離された状態でハイブリッド車両20を走行(退避走行)させる場合、HVECU70は、変速線図に従って自動変速機60を制御すると共に、次のようにして、エンジン22、モータジェネレータMG1およびMG2を制御する。この場合、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて、要求トルクTr*を上限トルクTmaxおよび下限トルクTminにより規定される出力制限範囲内に設定した上で、要求トルクTr*に応じたハイブリッド車両20の走行に要求される走行要求パワー(要求トルクTr*×出力軸60oの回転数)をエンジン22の要求パワーPe*に設定する。更に、HVECU70は、予め定められた上限回転数を超えないようにエンジン22の目標回転数Ne*を設定し、エンジン22の回転数が目標回転数Ne*になり、かつ要求トルクTr*に応じたトルクが自動変速機60の出力軸60oに出力されるようにモータジェネレータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。
【0025】
これにより、主に、エンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電するモータジェネレータMG1からの電力のすべてがモータジェネレータMG2により消費されながら、運転者の要求に応じたトルクが自動変速機60の出力軸60oに出力される。この結果、バッテリ40の異常に起因してシステムメインリレーSMRが開成された際には、当該バッテリ40の充電および放電を伴わないハイブリッド車両20のバッテリレス走行(退避走行)が実行されることになる。また、ハイブリッド車両20のバッテリ走行中にアクセルペダル83の踏み込みが解除された際等には、モータジェネレータMG2により回生(発電)された電力をモータジェネレータMG1に消費させてエンジン22をモータリングして、自動変速機60の入力軸60iにエンジン22からのフリクショントルク(減速トルク)を出力することもできる。なお、本実施形態のハイブリッド車両20では、何らかの異常の発生により昇降圧コンバータ53がシャットダウン(トランジスタのゲート遮断)されたことによりバッテリ40とPCU50すなわちモータジェネレータMG1,MG2とが電気的に切り離された際にも、バッテリレス走行が実行される。
【0026】
ここで、自動変速機60を含むハイブリッド車両20では、加速性能や車速が確保されるように、バッテリレス走行中にも変速線図に従って当該自動変速機60の変速段が変更される。ただし、自動変速機60の変速に際しては、入力軸60iの回転変動に伴ってモータジェネレータMG1,MG2の回転数が変動する。例えば、自動変速機60の変速段が第1速段から第2速段にアップシフトされる場合には、
図4からわかるように、モータジェネレータMG1の回転数が高まる一方、モータジェネレータMG2の回転数が低下する。また、変速段が第2速段から第1速段にダウンシフトされる場合には、
図4からわかるように、モータジェネレータMG1の回転数が低下する一方、モータジェネレータMG2の回転数が高まることになる。
【0027】
このため、バッテリレス走行中に自動変速機60の変速段が変更される場合には、モータジェネレータMG1,MG2の回転数の急変により当該モータジェネレータMG1,MG2間の電力収支のバランスが崩れることで平滑コンデンサ54が過充電または過放電されてしまうおそれがある。そして、このように平滑コンデンサ54が過充電または過放電された場合、READY−ON状態(走行可能状態)からREADY−OFF状態(走行禁止状態)への移行により、モータジェネレータMG1,MG2のトルク制御によりハイブリッド車両20を走行させ得なくなってしまうおそれがある。これを踏まえて、本実施形態のハイブリッド車両20では、自動変速機60の変速段を変更して加速性能や車速を確保しつつバッテリレス走行を継続させるために、要求トルクTr*が以下に説明するように設定される。
【0028】
図5は、ハイブリッド車両20において実行される要求トルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。同図に示す要求トルク設定ルーチンは、ハイブリッド車両20の走行中(アクセルオン時およびアクセルオフ時)にHVECU70によって所定時間おきに繰り返し実行される。
【0029】
図5のルーチンの開始に際して、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accおよび車速センサ85からの車速Vを入力する(ステップS100)。次いで、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vと、運転者の要求(アクセルペダル83の踏み込み量)に応じて自動変速機60の出力軸60oに出力されるべきトルクとの関係を規定する図示しないマップからステップS100にて入力したアクセル開度Accおよび車速Vに対応した値を導出し、導出した値を仮要求トルクTrtmpに設定する(ステップS110)。
【0030】
仮要求トルクTrtmpを設定した後、HVECU70は、ハイブリッド車両20の走行状態がバッテリレス走行状態であるか否かを判定する(ステップS120)。ステップS120において、HVECU70は、バッテリ40の異常の発生によりシステムメインリレーSMRが開成された際にオンされるフラグや、異常の発生により昇降圧コンバータ53がシャットダウンされた際にオンされるフラグの値に基づいて判定処理を実行する。ステップS120にてハイブリッド車両20の走行状態がバッテリレス走行状態ではないと判定した場合、HVECU70は、ステップS110にて設定した仮要求トルクTrtmpを要求トルクTr*に設定し(ステップS125)、本ルーチンを一旦終了させる。そして、HVECU70は、上述のように、ステップS125にて設定した要求トルクTr*に基づいてエンジン22の要求パワーPe*等を設定すると共に、エンジン22の回転数が目標回転数Ne*になり、かつ要求トルクTr*に応じたトルクが自動変速機60の出力軸60oに出力されるようにモータジェネレータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。
【0031】
また、ステップS120にてハイブリッド車両20の走行状態がバッテリレス走行状態であると判定した場合、HVECU70は、変速線図に従って自動変速機60の変速段を変更すべき旨の判断(変速判断)がなされているか否かを判定する(ステップS130)。ステップS130において、HVECU70は、自動変速機60の変速段を変更すべきと判定された時点でオンされて変速が完了した時点でオフされるフラグの値に基づいて判定処理を実行する。ステップS130にて変速判断がなされていないと判定した場合、HVECU70は、自動変速機60の変速段に応じて予め定められたトルク値Trefを上記出力制限範囲の上限である上限トルクTmaxに設定すると共に、トルク値−Trefを出力制限範囲の下限である下限トルクTminに設定する(ステップS135)。本実施形態において、トルク値Trefは、自動変速機60の60iに伝達されるトルクが例えば、100〜150Nm程度の値に制限されるように変速段ごとに定められている。
【0032】
更に、HVECU70は、上限トルクTmaxおよび仮要求トルクTrtmpの小さい方と、下限トルクTminとの大きい方を要求トルクTr*に設定し(ステップS160)、本ルーチンを一旦終了させる。この場合も、HVECU70は、ステップS160にて設定した要求トルクTr*に基づいてエンジン22の要求パワーPe*等を設定すると共に、エンジン22の回転数が目標回転数Ne*になり、かつ要求トルクTr*に応じたトルクが自動変速機60の出力軸60oに出力されるようにモータジェネレータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。
【0033】
一方、ステップS130にて変速判断がなされていると判定した場合、HVECU70は、変速判断がなされた後であって自動変速機60の入力軸60iの回転変化を生じる前であるか否か(変速フェーズがトルクフェーズ以前であるか否か)を判定する(ステップS140)。ステップS140において、HVECU70は、それぞれ図示しない回転数センサにより検出される自動変速機60の入力軸60iおよび出力軸60oの回転数に基づいて判定処理を実行する。ステップS140にて入力軸60iの回転変化を生じる前である(変速フェーズがトルクフェーズ以前である)と判定した場合、HVECU70は、上記出力制限範囲を規定する上限トルクTmaxおよび下限トルクTminをそれぞれ値0に設定する(ステップS150)。更に、HVECU70は、上限トルクTmaxおよび仮要求トルクTrtmpの小さい方と、下限トルクTminとの大きい方、すなわち値0を要求トルクTr*に設定し(ステップS160)、本ルーチンを一旦終了させる。
【0034】
ステップS160にて運転者の要求に拘わらず要求トルクTr*が値0に設定された場合、エンジン22の要求パワーPe*も値0となる。この場合、エンジンECU25は、トルクを実質的に発生することなく、かつ回転数が変速前の回転数に維持されるようにエンジン22を自立運転させる。また、モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*は、PCU50の図示しないDC/DCコンバータの消費分やモータジェネレータMG1,MG2における損失分を賄うのに必要な電力が発電されるように設定されてもよく、それぞれ値0に設定されてもよい。
【0035】
このように、ハイブリッド車両20では、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリ40とが電気的に切り離された状態でのバッテリレス走行中に自動変速機60の変速段を変更する場合、変速段が変更されない場合(ステップS135)に比べて、上限トルクTmaxおよび下限トルクTminにより規定される出力制限範囲が狭められる(ステップS150)。そして、変速判断からトルクフェーズが完了するまでの間に、自動変速機60の入力軸60iに伝達されるトルク(絶対値)は、出力軸60oに出力されるトルクすなわち要求トルクTr*を出力制限範囲内に制限する(ゼロにする)ことで変速段が変更されない場合に比べて減ぜられ、本実施形態では、実質的にゼロになる。
【0036】
これにより、変速段の変更中に、一時的なトルク抜けを生じることにはなるが、モータジェネレータMG1,MG2の出力トルク(絶対値)を減らして(小さくして)当該モータジェネレータMG1,MG2の回転変動に伴う充電電力または放電電力の変動(パワー変動)を抑制することが可能となる。従って、変速段の変更中、すなわち第1および第2クラッチC1,C2並びに第1および第2ブレーキB1,B2の少なくとも1つを係合または解放させるトルクフェーズにおいて(入力軸60iの回転変化を生じる前に)、モータジェネレータMG1,MG2の電力収支のバランスが崩れてしまうのを抑制することができる。この結果、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリ40とが電気的に切り離された状態で、自動変速機60の変速段を変更して加速性能や車速を良好に確保しながらハイブリッド車両20を走行させることが可能となる。
【0037】
また、ステップS130にて変速判断がなされていると判定した後にステップS140にて入力軸60iの回転変化を生じている(変速フェーズがイナーシャフェーズに移行した)と判定した場合、仮要求トルクTrtmpの値(符号)に応じたレート値ΔTを設定する(ステップS170)。ステップS170において、仮要求トルクTrtmpが正の値(駆動トルク)である場合、予め定められた比較的小さい正の値がレート値ΔTに設定され、仮要求トルクTrtmpが負の値(減速トルク)である場合、予め定められた絶対値が比較的小さい負の値がレート値ΔTに設定される。
【0038】
更に、HVECU70は、本ルーチンの前回実行時に設定された要求トルクTr*(前回Tr*)とレート値ΔTとの和と、ステップS110にて設定した仮要求トルクTrtmpとの小さい方または大きい方を要求トルクTr*に設定し(ステップS180)、本ルーチンを一旦終了させる。ステップS180において、レート値ΔTが正の値である場合、前回の要求トルクTr*とレート値ΔTとの和と仮要求トルクTrtmpとの小さい方が要求トルクTr*に設定され、レート値ΔTが負の値である場合、前回の要求トルクTr*とレート値ΔTとの和と仮要求トルクTrtmpとの大きい方が要求トルクTr*に設定される。これにより、自動変速機60の入力軸60iに伝達されるトルクは、当該入力軸60iの回転変化を生じるイナーシャフェーズから、運転者の要求に応じた値すなわち仮要求トルクTrtmpまで緩変化させられていく。この結果、モータジェネレータMG1,MG2の電力収支のバランスが崩れてしまうのを抑制しつつ、自動変速機60の出力軸60oに出力されるトルクを運転者の要求に応じた値である仮要求トルクTrtmpに速やかに近づけていくことが可能となる。
【0039】
以上説明したように、本開示のハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリ40とが電気的に切り離された状態で、モータジェネレータMG1,MG2の一方により発電された電力を他方に消費させながら上限トルクTmaxおよび下限トルクTminにより規定される出力制限範囲内のトルクが自動変速機60の出力軸60oに出力されるようにエンジン22、モータジェネレータMG1,MG2および自動変速機60を制御する制御装置としてのHVECU70を含む。そして、HVECU70は、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリ40とが電気的に切り離された状態でのハイブリッド車両20のバッテリレス走行中に自動変速機60の変速段を変更する場合、出力制限範囲を変速段が変更されない場合(ステップS135)に比べて狭め(ステップS150)、変速判断から変速完了までの間(イナーシャフェーズの開始前)に、出力軸60oに出力されるトルク(要求トルクTr*)を当該出力制限範囲内に制限して自動変速機60の入力軸60iに伝達されるトルクを変速段が変更されない場合に比べて減らす(ステップS160)。
【0040】
これにより、変速段の変更中にモータジェネレータMG1,MG2の出力トルクを減らして当該モータジェネレータMG1,MG2の回転変動に伴う充電電力または放電電力の変動(パワー変動)を抑制することが可能となる。この結果、変速段の変更中にモータジェネレータMG1,MG2の電力収支のバランスが崩れてしまうのを抑制することができるので、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリ40とが電気的に切り離された状態で、自動変速機60の変速段を変更して加速性能や車速を良好に確保しながらハイブリッド車両20を走行させることが可能となる。
【0041】
なお、上記実施形態では、変速判断から自動変速機60の入力軸60iの回転変化を生じるまでの間、
図5のステップS150およびS160の処理により要求トルクTr*を値0に設定することで当該入力軸60iに伝達されるトルクを実質的にゼロにしているが、これに限られるものではない。すなわち、変速判断から自動変速機60の入力軸60iの回転変化を生じるまでの間、モータジェネレータMG1,MG2の電力収支のバランスが崩れず、昇圧後電圧VHすなわち平滑コンデンサ54の端子間電圧の変動が許容される範囲内に収まるのであれば、
図5のステップS150では、上限トルクTmaxおよび下限トルクTminを値0に設定する代わりに、両者により規定される出力制限範囲を変速段が変更されない場合(ステップS135)に比べて狭めてもよい。この場合、ステップS150では、上限トルクTmaxを値0よりも大きく、かつトルク値Trefよりも小さい値に設定すると共に、下限トルクTminを値0よりも小さく、かつトルク値−Trefよりも大きい値に設定してもよい。これにより、変速判断から入力軸60iの回転変化を生じるまでの間に当該入力軸60iにトルクを伝達して変速中の一時的なトルク抜けを低減化すると共に、自動変速機60の出力軸60oに出力されるトルクの運転者の要求値(仮要求トルクTrtmp)からの乖離を少なくすることが可能となる。
【0042】
また、
図5のステップS140では、自動変速機60の入力軸60iの回転変化を生じる前であるか否かを判定する代わりに、自動変速機60の入力軸60iの回転変化が終了しているか(イナーシャフェーズが終了しているか否か)を判定してもよい。すなわち、自動変速機60の入力軸60iに伝達されるトルクは、イナーシャフェーズが終了してから、運転者の要求に応じた値すなわち仮要求トルクTrtmpまで緩変化させられてもよい。更に、
図5のステップS170では、モータジェネレータMG2の回転数が高いほど同一のトルクを出力軸60oに出力するのに必要なパワーが増加することを考慮して、レート値ΔTをモータジェネレータMG2の回転数に応じて変化させてもよい。この場合、ステップS170では、モータジェネレータMG2の回転数が高いほどレート値ΔTの絶対値を小さくすればよい。また、モータジェネレータMG2の単位時間(
図5のルーチンの実行周期)あたりのパワー変動の許容値を“ΔPa(kW/msec)”とし、モータジェネレータMG2の回転数を“Nm2(rad/sec)”とすれば、ステップS170では、レート値ΔTを、ΔT=ΔPa×1000/Nm2という関係式から導出してもよい。更に、
図5のステップS170,S180の処理は、例えば時定数を用いたなまし処理で置き換えられてもよい。
【0043】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。