特許第6875115号(P6875115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 蛇の目ミシン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6875115-ボビン 図000002
  • 特許6875115-ボビン 図000003
  • 特許6875115-ボビン 図000004
  • 特許6875115-ボビン 図000005
  • 特許6875115-ボビン 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875115
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ボビン
(51)【国際特許分類】
   D05B 57/28 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   D05B57/28
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-242992(P2016-242992)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-94197(P2018-94197A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】蛇の目ミシン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐樹
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−085558(JP,U)
【文献】 実開昭58−114270(JP,U)
【文献】 実公昭39−009817(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00−97/12
B65H75/00−75/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、外周部において糸を巻取る巻取軸と、
円筒状に形成され且つ前記巻取軸における軸方向両側の少なくとも一方の端部内に嵌合された嵌合部と、前記嵌合部の基端部から突出されたフランジと、を有するフランジ部材と、
を備え、
前記嵌合部の外周部には、第1ネジ部が形成され、
前記巻取軸における前記嵌合部が嵌合された端部には、前記第1ネジ部と螺合される第2ネジ部と、前記巻取軸を周方向に分割し且つ前記巻取軸の軸方向外側へ開放した切欠部と、が形成されており、
複数の前記切欠部によって前記巻取軸が径方向に弾性変形可能に構成され、
前記嵌合部の前記巻取軸への嵌合解除状態では、前記糸によって前記巻取軸における前記嵌合部が嵌合された端部が径方向内側に弾性変形するボビン。
【請求項2】
前記フランジ部材が、前記巻取軸の軸方向一端部に設けられ、
前記巻取軸の軸方向他端部には、前記巻取軸から突出された軸側フランジが形成されており、
前記切欠部が、前記巻取軸の軸方向一端部から軸方向他端部に亘って延在されている請求項1に記載のボビン。
【請求項3】
前記フランジには、前記巻取軸の外周部と当接可能に構成されたストッパが形成されている請求項1又は請求項2に記載のボビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン用のボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のボビンでは、ボビンが分割構造になっている。具体的には、ボビンが、左側ボビンと、右側ボビンと、を有しており、左側ボビンの中空軸部と、右側ボビンの中空軸部と、が、ネジ結合されている。つまり、ボビンが、中空軸部(巻取軸)において、軸方向に分割される構成になっている。これにより、左側ボビン及び右側ボビンを分離させることで、中空軸部に巻付けられた残りの糸(以下、「残糸」と称する)を、ボビンから取外すことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3062074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のボビンでは、中空軸部に巻き付けられた残糸を、ボビンから取外すときに、中空軸部に対する残糸の巻付圧力によって、残糸の形崩れが発生する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、残糸の形崩れを抑制して残糸を取外すことができるボビンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する第1の形態は、筒状に形成され、外周部において糸を巻取る巻取軸と、円筒状に形成され且つ前記巻取軸における軸方向両側の少なくとも一方の端部内に嵌合された嵌合部と、前記嵌合部の基端部から突出されたフランジと、を有するフランジ部材と、を備え、前記嵌合部の外周部には、第1ネジ部が形成され、前記巻取軸における前記嵌合部が嵌合された端部には、前記第1ネジ部と螺合される第2ネジ部と、前記巻取軸を周方向に分割し且つ前記巻取軸の軸方向外側へ開放した切欠部と、が形成されており、複数の前記切欠部によって前記巻取軸が径方向に弾性変形可能に構成され、前記嵌合部の前記巻取軸への嵌合解除状態では、前記糸によって前記巻取軸における前記嵌合部が嵌合された端部が径方向内側に弾性変形するボビンである。
【0009】
上記課題を解決する第の形態は、前記フランジ部材が、前記巻取軸の軸方向一端部に設けられ、前記巻取軸の軸方向他端部には、前記巻取軸から突出された軸側フランジが形成されており、前記切欠部が、前記巻取軸の軸方向一端部から軸方向他端部に亘って延在されているボビンである。
【0010】
上記課題を解決する第の形態は、前記フランジには、前記巻取軸の外周部と当接可能に構成されたストッパが形成されているボビンである。
【発明の効果】
【0011】
上記構成のボビンによれば、残糸の形崩れを抑制して残糸を取外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るボビンを示す分解斜視図である。
図2図1に示されるボビンの縦断面図(図1の2−2線断面図)である。
図3】(A)は、図2に示されるフランジ部材を先端側から見た平面図であり、(B)は、図2に示されるボビン本体を先端側から見た平面図である。
図4】(A)は、図1に示される嵌合部と被嵌合部との嵌合構造の変形例を示す分解斜視図であり、(B)図1に示される嵌合部と被嵌合部との嵌合構造の他の変形例を示す分解斜視図である。
図5】(A)は、図1に示されるボビン構造の変形例を示す側面図であり、(B)は、(A)に示されるスリットの位置及び長さを変更した例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて、本実施の形態に係るボビン10について説明する。図1図3に示されるように、ボビン10は、ミシン用のボビンとされており、全体として、軸方向両端部にフランジを有する略円筒状に形成されている。そして、ボビン10は、軸方向中央部に糸を巻付けた状態で、図示しないミシンの釜内に装着されて、使用されるようになっている。なお、図面において適宜示される矢印Aは、ボビン10の軸方向一方側を示し、矢印Bは、ボビン10の軸方向他方側を示している。
【0014】
ボビン10は、樹脂製とされると共に、ボビン10の軸方向一方側の部分を構成するフランジ部材20と、ボビン10の軸方向中央部及び軸方向他方側の部分を構成するボビン本体30と、を含んで構成されている。以下、フランジ部材20及びボビン本体30の各構成について説明する。
【0015】
(フランジ部材について)
フランジ部材20は、略円筒状に形成された「嵌合部」としての嵌合筒部22と、嵌合筒部22の基端部(図1及び図2の矢印A方向側の端部)から嵌合筒部22の径方向外側へ張り出されたフランジ24と、を含んで構成されている。
【0016】
嵌合筒部22の外周部には、「第1ネジ部」としての雄ネジ部22Aが形成されており、雄ネジ部22Aは、雄ネジを有している。フランジ24は、略円環板状に形成されて、嵌合筒部22の軸方向を板厚方向として、嵌合筒部22の基端部に一体に形成されている。すなわち、嵌合筒部22が、フランジ24の内周部からボビン10の軸方向他方側に突出されている。
【0017】
また、フランジ24の板厚方向内側(図1及び図2の矢印B方向側)の面には、嵌合筒部22に対して径方向外側の位置において、ストッパ26が一体に形成されており、ストッパ26は、略円環状(リング状)に形成されて、フランジ24からボビン10の軸方向他方側に突出されている。すなわち、ストッパ26は、フランジ24から嵌合筒部22と同じ方向へ突出されており、ストッパ26の突出高さが、嵌合筒部22の突出高さに比べて低く設定されている。
【0018】
図2に示されるように、ストッパ26は、周方向から見た断面視において、略台形状に形成されている。具体的には、ストッパ26は、フランジ24と平行に配置された頂面26Aと、頂面26Aの径方向内側端から嵌合筒部22の軸方向に沿ってフランジ24側へ延出されたストッパ面26Bと、頂面26Aの径方向外側端からフランジ24側へ向かうに従いフランジ24の径方向外側へ傾斜された傾斜面26Cと、を有している。これにより、嵌合筒部22の外周部とストッパ面26Bとが、嵌合筒部22の径方向において対向して配置されている。
【0019】
(ボビン本体について)
図1図2、及び図3(B)に示されるように、ボビン本体30は、略円筒状に形成された巻取軸32を有しており、巻取軸32は、フランジ部材20の嵌合筒部22と同軸上に配置されている。また、巻取軸32の基端部(図1及び図2の矢印B方向側の端部)には、略円環板状に形成された軸側フランジ34が一体に形成されており、軸側フランジ34は、巻取軸32の軸方向を板厚方向として巻取軸32から径方向外側へ張り出されている。そして、軸側フランジ34の外形寸法とフランジ部材20のフランジ24の外形寸法とが略同じ寸法に設定されている。
【0020】
また、巻取軸32の内径寸法は、嵌合筒部22の内径寸法と略同じに設定されており、巻取軸32の外径寸法が、ストッパ26の内径寸法(すなわち、ストッパ面26Bの直径寸法)よりも僅かに小さく設定されている。
【0021】
さらに、巻取軸32の軸方向一方側の端部は、フランジ部材20の嵌合筒部22に対応した被嵌合部36とされており、嵌合筒部22が被嵌合部36内に嵌合されるようになっている。すなわち、被嵌合部36内に嵌合筒部22が嵌合されるように、被嵌合部36の内径が、巻取軸32の一般部(被嵌合部36以外の部分)の内径よりも大きく設定されており、巻取軸32の内周面には、被嵌合部36と一般部との境界部分に段差が形成されている。
【0022】
また、被嵌合部36の内周面には、「第2ネジ部」としての雌ネジ部36Aが形成されており、雌ネジ部36Aは、雌ネジを有している。そして、フランジ部材20の雄ネジ部22Aが雌ネジ部36Aに螺合されて、嵌合筒部22が巻取軸32の被嵌合部36内に嵌合されている。これにより、ボビン10の組付状態では、フランジ部材20がボビン本体30に締結固定されている。すなわち、本実施の形態のボビン10は、巻取軸32を軸方向に2分割する構成ではなく、フランジ部材20と巻取軸32とを分割する構成になっている。そして、フランジ24又は軸側フランジ34に形成された図示しない孔に糸を通して、ボビン10を軸回りに回転させることで、巻取軸32が外周部において糸を巻取るようになっている。
【0023】
また、フランジ部材20のボビン本体30への組付状態では、巻取軸32(被嵌合部36)の開口端部が、嵌合筒部22とストッパ26との間に嵌め込まれて、巻取軸32の開口端部における外周面とストッパ26(のストッパ面26B)とが、巻取軸32の径方向において、僅かな隙間を有した状態で対向して配置されている。これにより、巻取軸32の開口端部における径方向外側への変位を、ストッパ26(ストッパ面26B)よって制限する構成になっている。
【0024】
さらに、巻取軸32の軸方向一方側の端部(すなわち、嵌合筒部22が嵌合される側の端部)には、複数(本実施の形態では、4箇所)の「切欠部」としてのスリット38が形成されている。このスリット38は、巻取軸32の軸方向に沿って直線状に延在されると共に、巻取軸32の軸方向一方側(軸方向外側)へ開放しており、巻取軸32の周方向に等間隔毎(90°毎)に配置されている。さらに、スリット38は、巻取軸32の軸方向一端から軸方向他端に亘って延在されており、スリット38の幅寸法がスリット38の延在方向において一定に設定されている。これにより、巻取軸32が、スリット38によって周方向に分割されて、複数(本実施の形態では、4箇所)の分割片32Aによって構成されている。また、巻取軸32がスリット38によって分割されることで、径方向における巻取軸32の曲げ剛性が、スリット38を省略した場合と比べて低く設定されて、巻取軸32が、自身の径方向に弾性変形可能に構成されている。なお、フランジ部材20のボビン本体30への組付状態では、嵌合筒部22が巻取軸32の被嵌合部36内に嵌合されているため、巻取軸32の径方向内側への変位が嵌合筒部22によって制限されている。
【0025】
(作用及び効果)
次に、本実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0026】
上記のように構成されたボビン10では、ボビン10が、フランジ部材20と、ボビン本体30と、によって構成されて、フランジ部材20の嵌合筒部22が、ボビン本体30における巻取軸32の被嵌合部36内に嵌合されている。また、ボビン10の巻取軸32に外周部には、糸が巻付けられている。
【0027】
そして、巻取軸32に巻付けられた残糸をボビン10から取外すときには、初めにフランジ部材20をボビン本体30から取外す。具体的には、フランジ部材20をボビン本体30に対して相対回転させて、フランジ部材20の嵌合筒部22の雄ネジ部22Aと、ボビン本体30の被嵌合部36の雌ネジ部36Aと、の螺合状態を解除する。これにより、嵌合筒部22と巻取軸32(被嵌合部36)との嵌合状態が解除される。
【0028】
ところで、巻取軸32による糸の巻取り状態では、糸が巻取軸32の外周部に周方向に巻付いているため、巻取軸32が当該糸によって締付けられて、巻取軸32に径方向内側への荷重F1(図3(B)の矢印F1を参照)が作用する。このため、巻取軸32から残糸を軸方向一方側へ引抜く(取外す)ときには、残糸の巻取軸32に対する摺動抵抗が上記荷重F1によって比較的高くなり、残糸を巻取軸32から良好に取外すことができない可能性がある。詳しくは、残糸を巻取軸32から引抜く(取外す)ときに、残糸の形崩れが発生する可能性がある。
【0029】
ここで、巻取軸32における嵌合筒部22が嵌合される端部(軸方向一方側端部)には、巻取軸32の軸方向外側(本実施の形態では、軸方向一方側)へ開放したスリット38が巻取軸32の軸方向に沿って延在されている。このため、径方向における巻取軸32の曲げ剛性が低くなり、巻取軸32を径方向に弾性変形可能に構成することができる。そして、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態が解除されると、上述した荷重F1によって、巻取軸32の分割片32Aが径方向内側へ弾性変形する。具体的には、巻取軸32の先端側(軸方向一方側)が開放されているため、巻取軸32(分割片32A)の先端側の変位量が大きくなるように、巻取軸32の分割片32Aが径方向内側へ弾性変形する。これにより、仮に巻取軸32においてスリット38を省略した場合と比べて、残糸の巻取軸32の外周部に対する摺動抵抗が低くなる。その結果、残糸の形崩れを抑制しつつ、残糸を巻取軸32から良好に取外すことができる。
【0030】
また、巻取軸32及び嵌合筒部22が円筒状に形成されている。このため、残糸から巻取軸32へ作用する荷重F1が、巻取軸32の周方向において、均一に作用すうように構成できる。これにより、当該荷重F1によって巻取軸32が径方向内側へ弾性変形するときの巻取軸32の弾性変形量を、巻取軸32の周方向において均一化することができる。したがって、残糸の形崩れを効果的に抑制して、残糸を巻取軸32から良好に取外すことができる。
【0031】
さらに、巻取軸32に複数のスリット38が形成されており、スリット38が巻取軸32の周方向に等間隔に配置されている。このため、巻取軸32を構成する各分割片32Aの曲げ剛性を、均一化することができる。これにより、巻取軸32の径方向内側への弾性変形量を、巻取軸32の周方向において均一化することができる。したがって、上述と同様に、残糸の形崩れを効果的に抑制して、残糸を巻取軸32から良好に取外すことができる。
【0032】
また、フランジ部材20の嵌合筒部22には、雄ネジ部22Aが形成されており、巻取軸32の被嵌合部36には、雄ネジ部22Aと螺合される雌ネジ部36Aが形成されている。このため、嵌合筒部22と巻取軸32とを締結固定しつつ、巻取軸32の端部内に嵌合筒部22を嵌合させることができる。これにより、巻取軸32と嵌合筒部22との嵌合状態を良好に維持することができる。
【0033】
また、巻取軸32に形成されたスリット38は、巻取軸32の軸方向一端部から軸方向他端部に亘って形成されている。このため、巻取軸32を軸方向の全長に亘って弾性変形可能に構成することができる。これにより、残糸を巻取軸32から引抜く(取外す)ときの、残糸の巻取軸32の摺動抵抗を一層低くすることができる。したがって、残糸を巻取軸32から、一層容易に引抜く(取外す)ことができる。
【0034】
さらに、フランジ部材20のフランジ24にストッパ26が形成されており、ストッパ26(のストッパ面26B)は、嵌合筒部22の径方向外側に配置されて、嵌合筒部22の外周面と当接可能に構成されている。このため、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態を良好に維持することができる。
【0035】
すなわち、本実施の形態では、巻取軸32における嵌合筒部22が嵌合される側の端部にスリット38が形成されて、巻取軸32が径方向に弾性変形可能に構成されている。そして、ボビン10において、例えば、軸側フランジ34の外周部にボビン10の軸方向一方側への外力F2(図2の矢印F2を参照)が作用すると、軸側フランジ34が図2の2点鎖線で示されるように反った状態に変形する。また、このときには、巻取軸32の軸方向一方側の部分(すなわち、被嵌合部36)が径方向外側へ変位しようとする。このため、仮に、フランジ部材20において、ストッパ26を省略した場合には、巻取軸32の被嵌合部36が嵌合筒部22に対して径方向外側へ変位して、被嵌合部36と嵌合筒部22との嵌合状態が解除される可能性がある。
【0036】
これに対して、本実施の形態では、上述のように、フランジ部材20のフランジ24にストッパ26が形成されており、ストッパ26(のストッパ面26B)は、嵌合筒部22の径方向外側に配置されて、巻取軸32の外周面と当接可能に構成されている。このため、上述のように、軸側フランジ34に入力された外力F2によって、巻取軸32の被嵌合部36が径方向外側へ変位しようとしても、被嵌合部36の径方向外側への変位がストッパ26によって制限される。したがって、被嵌合部36と嵌合筒部22との嵌合状態を良好に維持することができる。
【0037】
(スリットのバリエーションについて)
本実施の形態では、巻取軸32に複数のスリット38を形成するように構成されているが、巻取軸32に1本のスリット38を形成するように構成してもよい。この場合においても、巻取軸32を径方向に弾性変形可能に構成することができるため、残糸の形崩れを抑制して巻取軸32から残糸を容易に取外すことができる。
【0038】
また、本実施の形態では、スリット38が巻取軸32の軸方向に沿って直線状に延在されているが、スリット38の形状はこれに限らない。例えば、巻取軸32の径方向外側から見て、スリット38を巻取軸32の軸方向に対して傾斜させてもよい。すなわち、スリット38を巻取軸32の軸方向一方側から他方側へ向かうに従い巻取軸32の周方向一方側又は他方側へ傾斜させてもよい。また、例えば、スリット38を巻取軸32の径方向外側から見て波形状に湾曲させてもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、スリット38が巻取軸32の軸方向一端部から他端部に亘って形成されているが、スリット38の長さは任意に変更可能である。
【0040】
また、本実施の形態では、スリット38の幅寸法がスリット38の延在方向において一定に設定されているが、スリット38の幅寸法は任意に変更可能である。例えば、スリット38の幅寸法を、巻取軸32の軸方向他端部から一端部へ向かうに従い大きく設定してもよい。この場合には、分割片32Aの幅寸法が、先端側へ向かうに従い狭くなるため、巻取軸32の基端部に比べて、巻取軸32の先端側(軸方向一方側)の弾性変形をし易く構成することができる。すなわち、残糸を巻取軸32から引抜く(取外す)出口側である巻取軸32の先端側の弾性変形量が大きくなるため、残糸を巻取軸32から一層容易に取外すことができる。また、例えば、スリット38の幅寸法を、巻取軸32の軸方向一端部から他端部へ向かうに従い大きく設定してもよい。この場合には、分割片32Aの幅寸法が、基端側へ向かうに従い狭くなるため、軸側フランジ34が接続された巻取軸32の基端側の弾性変形をし易く構成することができる。これにより、巻取軸32から残糸を引抜く(取外す)ときの、残糸と巻取軸32との摺動抵抗を、巻取軸32の軸方向に均一になるようにすることができる。
【0041】
(嵌合筒部と巻取軸との嵌合構造の変形例について)
(嵌合構造の変形例1)
嵌合構造の変形例1では、フランジ部材20の嵌合筒部22において、雄ネジ部22Aが省略されており、ボビン本体30の巻取軸32の被嵌合部36において、雌ネジ部36Aが省略されている。そして、嵌合筒部22の外径寸法が、被嵌合部36の内径寸法に比べて若干大きく設定されており、嵌合筒部22が巻取軸32の被嵌合部36内に嵌入されている。すなわち、フランジ部材20の嵌合筒部22と、ボビン本体30の被嵌合部36とが、しまりばめとして嵌合されている。これにより、フランジ部材20のボビン本体30への組付状態では、巻取軸32の径方向内側の変位を嵌合筒部22によって制限することができると共に、フランジ部材20がボビン本体30から取外しされたときには、巻取軸32(分割片32A)を径方向内側へ弾性変形可能な状態にすることができる。
【0042】
また、変形例1の場合では、嵌合筒部22及び被嵌合部36の軸方向の長さを本実施の形態よりも長く設定してもよい。これにより、嵌合筒部22及び被嵌合部36の嵌合代が増えるため、嵌合筒部22を巻取軸32に嵌入させた構成にしても、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態を良好に維持することができる。
【0043】
また、変形例1において、巻取軸32の径寸法を軸方向一方側へ向かうに従い小さく設定してもよい。換言すると、巻取軸32(被嵌合部36)の嵌合筒部22との非嵌合状態において、巻取軸32の外周面が巻取軸32の軸方向一方側へ向かうに従い径方向内側へ傾斜するように、巻取軸32を構成してもよい。さらに、この場合には、嵌合筒部22が巻取軸32の被嵌合部36内に嵌入されたときに、巻取軸32の外周面が巻取軸32の軸方向に沿って配置されるように(すなわち、巻取軸32の外径寸法が巻取軸32の軸方向において一定になるように)、嵌合筒部22の長さや外径寸法を設定してもよい。これにより、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態を解除したときに、残糸の残量(荷重F1の大きさ)によらずに、巻取軸32を嵌合筒部22との非嵌合状態に戻して、残糸の巻取軸32に対する摺動抵抗を低くすることができる。これにより、残糸の巻取軸32から取外しに対して有効に寄与することができる。
【0044】
さらに、図4(A)に示されるように、変形例1において、フランジ部材20における嵌合筒部22の外周面に、径方向外側へ突出された係合突起22Bと形成すると共に、巻取軸32の被嵌合部36の内周面に、係合突起22Bに係合する係合孔部36Bを形成してもよい。これにより、この場合においても、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態を良好に維持することができる。なお、この場合には、嵌合筒部22における係合突起22Bに対して嵌合筒部22の周方向両側部分に、軸方向に沿ったスリット22Cを形成して、一対のスリット22Cによって挟まれた部分を嵌合筒部22の径方向に弾性変形可能に構成する。また、例えば、一対のスリット22Cによって挟まれた部分の板厚等を調整して、当該部分の曲げ剛性を、巻取軸32の分割片32Aの曲げ剛性よりも低く設定する。これにより、嵌合筒部22の巻取軸32内に嵌入させるときなどに、嵌合筒部22における係合突起22Bの形成された部分が、径方向内側へ弾性変形するため、巻取軸32が径方向外側へ変位することを抑制できる。したがって、嵌合筒部22を巻取軸32内に良好に嵌入させることができる。
【0045】
(嵌合構造の変形例2)
本変形例2では、図4(B)に示されるように、嵌合構造の変形例1と同様に、フランジ部材20の嵌合筒部22において、雄ネジ部22Aが省略されており、ボビン本体30の巻取軸32の被嵌合部36において、雌ネジ部36Aが省略されている。また、巻取軸32のスリット38が、巻取軸32の軸方向一端部から巻取軸32の軸方向中間部まで延びている。さらに、スリット38の開口端とは反対側の端部は、巻取軸32の周方向一方側へ屈曲されている。一方、嵌合筒部22の下端部には、径方向外側へ突出された嵌合突起22Dが一体に形成されており、嵌合突起22Dは、スリット38に対応して形成されている。具体的には、嵌合突起22Dは、嵌合筒部22の径方向外側から見て、略正方形状に形成されており、嵌合突起22Dの一辺の長さが、スリット38の幅寸法に対して僅かに小さく設定されている。これにより、嵌合筒部22を巻取軸32の軸方向一方側から被嵌合部36内に嵌入させるときに、嵌合突起22Dがスリット38の開口側からスリット38内に挿入される。そして、嵌合筒部22を被嵌合部36内に嵌入させた後に、フランジ部材20を巻取軸32に対して周方向一方側へ相対回転させることで、嵌合突起22Dがスリット38の開口側とは反対側の端部に配置される。これにより、巻取軸32の軸方向において、嵌合突起22Dがスリット38の当該端部に係合するため、フランジ部材20のボビン本体30に対するボビン10の軸方向一方側への相対移動が制限されて、フランジ部材20がボビン本体30から抜け出ることを抑制できる。したがって、変形例2において、嵌合筒部22と巻取軸32との嵌合状態を良好に維持することができる。
【0046】
(ボビンの構造の変形例)
本実施の形態では、巻取軸32の軸方向一方側にフランジ部材20を設ける構造にしたが、ボビン構造の変形例では、巻取軸32の軸方向両側にフランジ部材20を設ける構造になっている。すなわち、図5(A)に示されるように、ボビン本体30では、軸側フランジ34が省略されており、巻取軸32の軸方向両側の端部に、雌ネジ部36Aを有する被嵌合部36が形成されている。そして、スリット38が、巻取軸32の軸方向両側の部分にそれぞれ形成されて、巻取軸32の径方向外側(図5(A)の矢印A方向側及び矢印B方向側)へそれぞれ開放されている。また、巻取軸32の軸方向一端側及び軸方向他端側に形成されたスリット38は、巻取軸32の周方向において一致する位置に配置されると共に、巻取軸32の軸方向に離間して配置されている。すなわち、スリット38が、巻取軸32の軸方向一端又は軸方向他端から巻取軸32の軸方向中間部(軸方向の中央部の手前)まで延出されている。
【0047】
これにより、本変形例では、残糸を巻取軸32から取外すために、巻取軸32とフランジ部材20との嵌合状態を解除すると、巻取軸32に軸方向両端が開放された状態になる。このため、本実施の形態に比べて、巻取軸32の軸方向他方側の径方向内側への弾性変形量を大きくすることができる。したがって、残糸を巻取軸32から取外すときに、残糸の巻取軸32の外周部に対する摺動抵抗を一層低くすることができる。したがって、残糸の形崩れを有効に抑制して、残糸を巻取軸32から取外すことができる。
【0048】
また、巻取軸32の軸方向両側の部分にフランジ部材20を設ける場合には、図5(B)に示されるように、巻取軸32の軸方向一方側及び軸方向他方側に形成されたスリット38を、巻取軸32の周方向に交互に配置するように構成してもよい。この場合には、各スリット38が巻取軸32の軸方向中央部よりも延びるように、スリット38の長さを設定してもよい。つまり、巻取軸32の軸方向一方側の部分に形成されたスリット38と、巻取軸32の軸方向他方側の部分に形成されたスリット38と、が、巻取軸32の中央部において、巻取軸32の周方向にラップする(重なる)ように構成してもよい。これにより、巻取軸32の軸方向中央部においてもスリット38が形成される。このため、残糸を巻取軸32から取外すために、巻取軸32とフランジ部材20との嵌合状態を解除したときに、巻取軸32の軸方向中央部の弾性変形を可能にすることができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、ボビン10が樹脂製とされているが、ボビン10を金属製としてもよい。すなわち、巻取軸32の分割片32Aが巻取軸32の径方向に弾性変形可能に構成されていれば、ボビン10の材料は特に限定されない。
【0050】
また、巻取軸32は円筒状に形成されているが、巻取軸32の外形を多角形状に形成してもよい。さらに、嵌合筒部22は円筒状に形成されているが、嵌合筒部22の外形を多角形状に形成してもよい。この場合には、上記嵌合構造の変形例1及び変形例2に記載のように、嵌合筒部22において雄ネジ部22Aを省略すると共に、巻取軸32の被嵌合部36の外形を嵌合筒部22に対応した多角形状に形成し、当該被嵌合部36において雌ネジ部36Aを省略してもよい。
【0051】
また、フランジ部材20のストッパ26は、円環状(リング状)に形成されているが、ストッパ26の形状はこれに限らない。例えば、ストッパ26を、周方向に分割した形状に構成してもよい。また、ストッパ26の頂面26Aの径方向外側端をフランジ24の外周部まで延ばしてもよい。
【0052】
また、フランジ部材20のボビン本体30への組付状態において、巻取軸32(被嵌合部36)の径方向外側への変位を抑制するという観点からすると、フランジ部材20にストッパ26を形成することが望ましいが、フランジ部材20においてストッパ26を省略してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 ボビン
20 フランジ部材
22 嵌合筒部
22A 雄ネジ部(第1ネジ部)
22B 係合突起
22C スリット
22D 嵌合突起
24 フランジ
26 ストッパ
26A 頂面
26B ストッパ面
26C 傾斜面
30 ボビン本体
32 巻取軸
32A 分割片
34 軸側フランジ
36 被嵌合部
36A 雌ネジ部(第2ネジ部)
36B 係合孔部
38 スリット(切欠部)
図1
図2
図3
図4
図5