(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875117
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ストレス低減用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20210510BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20210510BHJP
A23L 2/56 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L2/00 F
!A23L2/56
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-245132(P2016-245132)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-100223(P2018-100223A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆文
(72)【発明者】
【氏名】金谷 知華
(72)【発明者】
【氏名】小林 理奈
(72)【発明者】
【氏名】大屋 怜奈
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/129876(WO,A1)
【文献】
特開2012−149042(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第105748763(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0095087(US,A1)
【文献】
国際公開第99/035917(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0089600(US,A1)
【文献】
Beni-Suef University Journal of Basic and Applied Sciences,2016年 6月,5(2),pp.187-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
CAPlus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN),
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バニリンを有効成分として含有する、ストレス低減用食品組成物であって、
バニリンの含有量が40〜400重量ppbであるストレス低減用食品組成物。
【請求項2】
飲料である請求項1に記載のストレス低減用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレスを低減させるための食品組成物に関し、バニリン及びボルネオールの少なくとも一方を有効成分として含有する食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代はストレス過負荷の時代である。過度なストレスは免疫系、神経系、消化器系又は循環器系等の広範囲にわたって影響を及ぼし、その結果として多岐にわたる疾患を発現させて、生活の質を低下させる要因となる。
【0003】
ストレスが原因の一つとなって引き起こされるストレス関連症状としては、免疫系では免疫力の低下による日和見感染症、神経系ではうつ病等の神経症、消化器系では胃・十二指腸潰瘍又は過敏性腸症候群、循環器系では高血圧又は虚血性心疾患等が挙げられる。
【0004】
これらの疾患の予防又は改善のため、ストレスの原因を減らすことが根本的な解決方法であるが、それが困難なのが現状であり、日常的に手軽にストレスを低減することのできる技術が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、日常的に手軽に飲食品等として摂取することにより、ストレスを低減する効果を発揮できる食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記のストレス低減用食品組成物等により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]バニリン及びボルネオールの少なくとも一方を有効成分として含有する、ストレス低減用食品組成物。
[2]バニリンの含有量が40〜400重量ppbである[1]に記載のストレス低減用食品組成物。
[3]ボルネオールの含有量が4〜40重量ppbである[1]または[2]に記載のストレス低減用食品組成物。
[4]飲料である[1]〜[3]のいずれか1に記載のストレス低減用食品組成物。
[5]バニリン及びボルネオールの少なくとも一方を有効成分として含有する、ストレス低減用剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のストレス低減用食品組成物は、バニリン及びボルネオールの少なくとも一方を有効成分として含有することにより、リラックス促進作用、鎮静作用、抗不安作用及び自律神経調節作用を有し、これを摂取することによりストレスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】
図3Aおよび
図3Cは、明箱(Light bоx)における滞在時間を示す図である。また、
図3Bおよび
図3Dは明箱への侵入回数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のストレス低減用食品組成物(以下、本発明の食品組成物ともいう)は、バニリン及びボルネオールの少なくとも一方を有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
本発明に用いるバニリンは、合成物であってもよいが、天然のバニリン含有植物から溶剤に溶解する成分を溶解させることにより抽出する抽出法で抽出された、天然バニラエキストラクト又は天然のバニラなどの抽出物から精製されたものであってもよい。また、天然バニラエキストラクトからストレス低減効果を阻害するバニリンの他の揮発性成分を除去したものであってもよい。
【0012】
本明細書において、「天然バニラエキストラクト」は、キュアリング処理を施したバニラビーンズに、各種溶剤を抽出溶媒として作用させ、抽出した抽出液又はキュアリング処理を施したバニラビーンズから圧搾抽出した抽出液をいう。
【0013】
また、「天然バニラ」とは、ラン目ラン科バニラ属の果実であるバニラビーンズそのもの、あるいはバニラビーンズに物理的、化学的若しくは生物学的加工(キュアリングも含む)を単回行ったもの、各加工を組み合わせたもの、各加工を単独で若しくは組み合わせて複数回行ったもの、又はバニラビーンズそのもの及びバニラビーンズを前記加工したものに対し、抽出加工を行い、その結果出てくる残渣物、さらには得られた抽出物を再加工した結果出てくる残渣物をいう。
【0014】
本発明の食品組成物における有効成分であるバニリンの含有量は、40重量ppb以上であることが好ましく、より好ましくは100重量ppb以上、さらに好ましくは200重量ppbである。また、400重量ppb以下であることが好ましく、より好ましくは350重量ppb以下、さらに好ましくは300重量ppb以下である。バニリンの含有量を前記範囲とすることにより、ストレス低減効果を十分に得ることができる。
【0015】
本発明に用いるボルネオールは合成物であってもよいが、竜脳香料(Dipterocarpaceae)に属する常緑高木である竜脳呑樹(Dryobalanops aromatic GAERTNER)の樹脂又は樹幹と枝を切って水蒸気で蒸留して得られる精製物であってもよい。
【0016】
本発明の食品組成物における有効成分であるボルネオールの含有量は、4重量ppb以上であることが好ましく、より好ましくは10重量ppb以上、さらに好ましくは20重量ppbである。また、40重量ppb以下であることが好ましく、より好ましくは35重量ppb以下、さらに好ましくは30重量ppb以下である。ボルネオールの含有量を前記範囲とすることにより、ストレス低減効果を十分に得ることができる。
【0017】
本発明の食品組成物は飲食品の形態として提供することができる。飲食品には、上記有効成分をそのまま、又はそれらを含む剤の形態で、配合することができる。飲食品の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状又は液体状に任意に成形することができる。
【0018】
飲食品には、上記有効成分の他、栄養補助成分などの他の成分を含むことができる。かかる成分としては、例えば、ビタミン類、ミネラル類、各種植物体並びにその抽出物、精製物及び分画物、微生物並びにその増殖因子及び微生物生産物、食物繊維及びその酵素分解物、動物体並びにその抽出物、精製物、分解物及び生産物、各種オリゴ糖、脂質、各種タンパク質並びにタンパク分解物などが挙げられる。
【0019】
また、飲食品に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤又はpH調整剤などの賦形剤が挙げられる。
【0020】
飲食品の具体例としては、例えば、ジュース、清涼飲料水、乳飲料、茶飲料、機能性飲料、栄養補助飲料及びノンアルコールビール等の各種飲料;ビール及び発泡酒等のアルコール飲料;スープ、味噌汁及びお吸い物などの液状飲食品;飯類、餅類、麺類、パン類及びパスタ類等の炭水化物含有飲食品;クッキー及びケーキなどの洋菓子類、饅頭及び羊羹等の和菓子類、グミ類、タブレット類、キャンディー類、ガム類、チョコレート類並びにゼリー、ヨーグルト及びプリンなどの冷菓又は氷菓などの各種菓子類;卵を用いた加工品、及び魚介類又は畜肉の加工品;調味料;などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に飲料が好ましい。
【0021】
また、飲食品には、美容食品・健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、又は、病者用食品のような分類のものも包含される。機能性表示及び疾病リスク低減表示としては、例えば、ストレス関連症状を予防、改善、抑制及び/又は緩和するためのものである旨の表示が挙げられる。
【0022】
本発明の食品組成物は、精神的ストレス又は精神的プレッシャーが高まる期間の前又は最中に少なくとも1回、好ましくは一定時間をおいて数回摂取されることが好ましい。より好ましくは、ストレス要因が生じる前に少なくとも1回摂取される。また、精神的に過酷な状況の直前に摂取してもよい。
【0023】
ストレス要因としては、例えば、試験、運転、プレゼンテーション、緊張の多いスポーツ・イベント、ビジネス・ミーティング、反復作業、知的労働、更年期における精神的不安定及び月経前の精神的不安定などが挙げられる。
【0024】
本発明の食品組成物を、ヒトを含む哺乳動物に経口的に摂取させる場合の摂取量は、当該哺乳動物の年齢、ストレス要因の高低、ストレスに対する感受性の程度などにより変動し、一概に規定することはできないが、体重1kg1日当たり、バニリン量として300〜3000ngが好ましく、また、ボルネオール量として30〜300ngが好ましい。
【0025】
本発明の食品組成物を上記の様にして摂取することにより、リラックス促進作用、鎮静作用、抗不安作用及び自律神経調節作用が得られ、ストレスを低減することができる。また、本発明の食品組成物によりストレスを低減した結果、ストレスに起因する各種疾患の予防又は改善等も期待できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1:鎮静効果(活動量の評価)
バニリンおよびボルネオールがマウスの活動量に与える影響を赤外線による活動量により評価した。6週齢以上のICRマウス(雄)を体重に従って群分け(8匹/群)したものを試験動物として用いた。
【0028】
バニリン(ナカライテスク株式会社製、投与用量は0.0004mg/kg、0.004mg/kg、0.04mg/kg、0.4mg/kg又は4mg/kg b.w.)又はボルネオール(東京化成工業株式会社製、投与用量は0.000004mg/kg、0.00004mg/kg、0.0004mg/kg、0.004mg/kg又は0.04mg/kg b.w.)を0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液に溶解したものを、前記試験動物に経口投与(投与容量10ml/kg b.w.)し、投与後から6.5時間までの間の活動量を測定した。
【0029】
活動量は、自発運動量簡易測定センサー(株式会社ニューロサイエンス社製)を用いて、該装置が有するレンズによってマウスの体温(遠赤外線)を感知して1時間毎の活動回数をカウントした。結果を
図1Aおよび
図1Bに示す。
【0030】
図1Aに示すように、マウスにバニリンを0.004〜0.04mg/kg b.w.の用量で単回投与した際に、活動量の低下が確認された。この投与用量を体表面積換算でヒト(60kg)に外挿すると、20〜200μgとなり、仮に500mL飲料に添加する場合最終濃度は40〜400重量ppbの濃度となる。
【0031】
また、
図1Bに示すように、マウスにボルネオールを0.0004〜0.004mg/kg b.w.の用量で単回投与した際に活動量の低下が確認された。この投与用量を体表面積換算でヒト(60kg)に外挿すると、2〜20μgとなり、仮に500mL飲料に添加する場合最終濃度は4〜40重量ppbの濃度となる。
【0032】
実施例2:ストレス低減効果(心拍変動の測定)
バニリンおよびボルネオールが自律神経に与える影響を心拍変動によって評価した。6週齢以上のWistarラット(雄)を体重に従って群分け(7〜8匹/群)したものを試験動物として用いた。
【0033】
経口投与する60分前から心拍の測定を開始し、バニリン(ナカライテスク株式会社製、投与用量は0.004mg/kg b.w.)又はボルネオール(東京化成工業株式会社製、投与用量は0.0004mg/kg b.w.)を0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液に溶解したものを、前記試験動物に経口投与(投与容量10ml/kg b.w.)後120分間の心拍を測定した。心拍測定テレメトリー装置(DSI社製)を用いて測定した心拍変動から自律神経活動の指標であるLF/HFを算出し、自律神経活動を評価した。結果を
図2Aおよび
図2Bに示す。
【0034】
図2Aおよび
図2Bにそれぞれ示すように、バニリン(0.004mg/kg b.w.)、ボルネオール(0.0004mg/kg b.w.)、をラットに単回投与した際に、投与後のLF/HFが低値で推移することが確認された。この投与用量を体表面積換算でヒト(60kg)に外挿すると、バニリンでは40μg、ボルネオールでは4μgとなる。
【0035】
実施例3:抗不安効果(明暗箱による評価)
バニリンおよびボルネオールの抗不安作用を、明暗箱により不安状態を評価する試験によって評価した。5週齢以上のDdyマウス(雄)を体重に従って群分け(7〜8匹/群)したものを試験動物として用いた。
【0036】
試験を行う60分前にバニリン(ナカライテスク株式会社製、投与用量は0.0004mg/kg、0.004mg/kg又は0.4mg/kg b.w.)又はボルネオール(東京化成工業株式会社製、投与用量は0.0004mg/kg、0.004mg/kg又は0.4mg/kg b.w.)を0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液に溶解したものを、前記試験動物に経口投与(投与容量10ml/kg b.w.)した。試験は、明箱と暗箱を連結させた装置にマウスを入れ、明箱への侵入回数、明箱における滞在時間を指標として、5分間実施した。結果を
図3A〜
図3Dに示す。
【0037】
図3A〜
図3Dにそれぞれ示すように、バニリン、ボルネオールともにマウス0.0004〜0.004mg/kgで単回投与した際に抗不安効果が確認された。この投与用量を体表面積換算でヒト(60kg)に外挿すると、2〜20μgとなる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の食品組成物は、リラックス促進作用、鎮静作用、抗不安作用及び自律神経調節作用を有し、これを摂取することによりストレスを低減する効果を有する。この特徴から、本発明の食品組成物は、ストレス関連症状を予防、改善、抑制及び/又は緩和するための新たな飲食品などとして利用されることが期待される。