【実施例1】
【0011】
図1は、レーザ投射表示装置の全体構成を示す図である。レーザ投射表示装置1(以下、単に表示装置とも呼ぶ)の筐体5内には、制御系統として、システム制御部6、温度補償部7、画像処理部8、ミラー駆動部9、光源駆動部10、温度調整部11、を有する。また投射モジュール12として、レーザ光源13(以下、単に光源とも呼ぶ)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)14、走査ミラー(以下、単にミラーとも呼ぶ)15、加熱・冷却部16、温度計17,18を有する。投射モジュール12と加熱・冷却部16は、気密構造のハウジング20に収納される。表示装置1は表示領域3にレーザ光2を投射し、水平方向及び垂直方向に2次元走査することで画像4を表示する。以下、各部の動作を説明する。
【0012】
システム制御部6は、ミラー駆動部9に対し水平駆動情報(Hinfo)と垂直駆動情報(Vinfo)を送る。これらの駆動情報には、ミラーの水平/垂直走査を行う周波数、振幅、位相の情報が含まれる。ミラー駆動部9は、水平駆動情報(Hinfo)と垂直駆動情報(Vinfo)に従い、正弦波の水平駆動信号(Hdrive)と鋸歯状波の垂直駆動信号(Vdrive)を生成し、MEMS14に供給する。これに従いMEMS14の走査ミラー15は、水平軸と垂直軸の周りに揺動回転を行う。
【0013】
MEMS14では、走査ミラー15の水平軸と垂直軸の回転角をセンサ(歪みセンサ)で検出し、それぞれセンサ信号(Hsens、Vsens)として温度補償部7へ送る。また、MEMS14の近傍には温度計17を配置し、MEMS近傍の空間の温度(内気温度)Taを測定して温度補償部7へ送る。温度補償部7は、センサ信号(Hsens、Vsens)からミラー回転角の振幅(Hamp、Vamp)と位相(Hphase、Vphase)を求め、システム制御部6へ送る。その際温度補償部7は、温度計17で測定したハウジング20内の内気温度Taにより、センサ信号伝送路の伝達特性の温度依存性を補償する。
【0014】
画像処理部8は、外部から入力される画像信号(Video In)に各種補正を加えた投射用の画像信号を生成し、図示しないフレームメモリに一旦格納する。ここで行う補正には、走査ミラー15の走査に伴う画像歪み補正、画像の階調調整などが含まれる。一方システム制御部6は画像処理部8に対し、ミラー回転に同期して水平同期信号(Hsync)と垂直同期信号(Vsync)を送る。画像処理部8は、同期信号(Hsync、Vsync)に同期してフレームメモリから画像信号を読出し、光源駆動部10へ供給する。
【0015】
光源駆動部10は、画像処理部8から供給された画像信号に応じて、レーザ光源13の駆動電流を変調する。光源13は、例えばRGB用に3個の半導体レーザを有し、画像信号のRGB成分に対応したレーザ光を出射する。RGBの3つのレーザ光は、図示しないダイクロイックミラーにより合成され、走査ミラー15に照射される。
【0016】
光源13から出射されたレーザ光2は、水平軸と垂直軸の周りに揺動回転する走査ミラー15で反射されることにより表示領域3を2次元状に走査され、画像4を描画する。なお、水平方向の走査は往復走査(HscanA、HscanB)で描画される。
【0017】
動作中の光源13は高温になるため、加熱・冷却部16により加熱または冷却される。加熱・冷却素子として、ペルチエ素子やヒータなどを用いる。光源13の近傍には温度計13を配置し、光源温度Tbを測定して温度調整部11へ送る。温度調整部11は、システム制御部6から与えられた目標温度と温度計18からの光源温度Tbを比較し、加熱・冷却部16を駆動する。
【0018】
図2は、MEMS14の構成を示す図である。MEMS14は2軸(H軸、V軸)の回転機構を有し、走査ミラー15で表示画像を走査する。ミラー駆動部9からの駆動信号(Hdrive、Vdrive)によって、ミラー15を水平方向(H軸周り)と垂直方向(V軸周り)の2方向に揺動回転させる。例えば、水平方向は30kHzの正弦波、垂直方向は60Hzの鋸歯状波で駆動する。ミラー15の水平方向、垂直方向の回転角(揺動角)を±θh、±θvとすると、反射されたレーザ光2の表示領域3上の走査角は2倍の±2θh、±2θvとなる。
【0019】
MEMS14のH軸とV軸には、それぞれの回転角を検出するセンサ21h、21vを取り付ける。各センサ21h、21vは、H軸とV軸に発生する歪からミラーの回転角を示す信号(Hsens、Vsens)を生成し(以下、センサ信号と呼ぶ)、温度補償部7を介しシステム制御部6へ伝送する。当然ながら、センサ信号(Hsens、Vsens)は駆動信号(Hdrive、Vdrive)に連動しているが、ミラーの機械特性が周囲温度や周囲気圧で変化するので、振幅や位相の対応関係がくずれる。そこでシステム制御部6は、ミラーの実際の回転状態をフィードバックして、所定の回転状態となるようミラー駆動部9へ送る駆動情報(Hinfo、Vinfo)を補正する。
【0020】
また、センサ信号(Hsens、Vsens)を伝送する信号伝送路22は、配線パターンや中継ケーブル、図示しない処理回路で構成されるが、それらに含まれる配線抵抗や線間容量の値は周囲温度で変化する。また、センサ21h、21v自身も抵抗ブリッジ回路で構成されるので、センサ抵抗の温度特性の影響も受ける。その結果、センサ21h、21Vから伝送されるセンサ信号(Hsens、Vsens)の伝達特性が変化する。
【0021】
そこで本実施例では、温度計17と温度補償部7を設けている。温度計17はMEMS14の近傍に非接触状態で取り付ける。非接触としたのは、MEMS14との熱伝導を避け、ハウジング20内の信号伝送路22の温度環境に近づけるためである。温度計17で測定した内気温度Taを温度補償部7へ送り、温度補償部7では、内気温度Taに応じて信号伝送路22の伝達特性を補償する。具体的には、センサ信号(Hsens、Vsens)から得られるミラー回転の振幅と位相を補正してシステム制御部6へ送る。
【0022】
図3は、MEMS14の周波数特性の温度依存性を示す図である。(a)はH軸の振幅特性を周波数を横軸に示している。周囲温度がT1からT2に変化すると(T1<T2)、ミラーの共振周波数はf1からf2に変化する(f1<f2)。(b)はH軸の位相特性を周波数を横軸に示している。ここでの位相特性は、駆動信号とミラーの振れ角(回転角)の位相差を表す。周囲温度がT1からT2に変化すると、それぞれの温度での共振周波数f1、f2に連動して位相差(進み/遅れ)が切り替わる。
【0023】
このようなMEMSの周波数特性の変化は、ミラーの機械特性の温度依存性によるものである。これ以外に、ミラーの機械特性は周囲気圧(空気密度)の影響も受ける。システム制御部6では、センサ21h、21vで検出したミラーの回転角信号をもとに、所定の振幅と位相となるようミラー駆動部9に供給する駆動情報(Hinfo、Vinfo)を補正する。これにより、周囲温度や気圧の変化によるMEMS特性の変動をなくすことができる。
【0024】
図4は、温度補償部7の内部構成を示す図である。温度補償部7には、温度計17からの内気温度Taと、センサ21h、21vからのセンサ信号(Hsens、Vsens)が入力する。温度補償部7では、温度Taに応じた温度補償処理を行ってミラーの振幅(Hamp、Vamp)と位相(Hphase、Vphase)を算出し、システム制御部6へ出力する。各信号の処理について説明する。
【0025】
H軸のセンサ信号(Hsens)はフィルタ回路31hでノイズを除去された後、最大振幅検出回路32hでミラー回転角の最大振幅(Hamp’)を検出する。また、2値化回路33hは、ゼロクロス点を求めることで駆動信号に対する位相差(Hphase’)を検出する。次にこれらの温度補償を行う。振幅補正LUT(ルックアップテーブル)34hと位相補正LUT35hには、各温度Taに対する信号伝送路22における伝達特性を予め実測し、それに対する補償量、すなわち振幅の補正量αhと位相の補正量βhを格納している。
【0026】
乗算器36hは、最大振幅検出回路32hで検出した最大振幅(Hamp’)に対して、振幅補正LUT34hから読み出した補正量αhを乗算し、補償後の最大振幅(Hamp)をシステム制御部6へ送る。一方加算器37hは、2値化回路33hで検出した位相差(Hphase’)に対して、位相補正LUT35hから読み出した補正量βhを加算(減算)し、補償後の位相差(Hphase)をシステム制御部6へ送る。
【0027】
V軸のセンサ信号(Vsens)についてもH軸と同様の処理回路を備えており、乗算器36vからは補償後の最大振幅(Vamp)を、加算器37vからは補償後の位相差(Vphase)をシステム制御部6へ送る。
【0028】
以上の温度補償処理により、センサ21h、21vの信号伝送路22における伝達特性の温度変化が補正され、センサ21h、21vが検出したミラーの回転角の情報を忠実にシステム制御部6へ送ることができる。よってシステム制御部6では、ミラー駆動部9に供給する駆動情報(Hinfo、Vinfo)や、画像処理部8に供給する同期信号(Hsync,Vsync)が正確になり、表示する画像の精度が向上する。
【0029】
図5は、MEMS走査信号の温度補償について信号波形で説明する図である。ここではH軸の走査信号について示している。
【0030】
(a)はH軸駆動信号(Hdrive)を、(b)はセンサ21hによる検出時の走査ミラー15のH軸回転角の信号(Hsens)を示している。このように、センサ信号(Hsens)は駆動信号(Hdrive)に対し、位相がほぼπ/2だけずれた関係となる。
【0031】
(c)は温度補償部7に伝送後のセンサ信号(Hsens)の波形を示す。センサ21hから温度補償部7までの伝送路22の伝達特性が内気温度で変化するため、温度補償部7に伝送するセンサ信号(Hsens)は(b)の検出時の波形に比べ、振幅と位相が変化する。ここには、2つの温度T1,T2での変化の例を示している。
【0032】
温度補償部7では、
図4に示したように、ルックアップテーブル34h、35hを参照して、温度T1,T2に応じた振幅補正αhと位相補正βhを施す。その結果、伝送したセンサ信号(Hsens)の振幅Hampは補正され、(b)の検出時の値、すなわち真値が復元される。
【0033】
(d)は、(b)に示した検出時のセンサ信号(Hsens)のゼロクロス点の位置、すなわち位相(Hphase)を示している。(e)は、(c)に示した伝送後のセンサ信号(Hsens)の位相(Hphase)を示し、伝送路22の伝達特性の温度変化により、温度T1,T2において、伝達遅延d1、d2が発生している。温度補償部7では、温度T1、T2に応じた位相補正βhを施すことで、伝送後の位相(Hphase)は(d)の検出時の値、すなわち真値が復元される。
【0034】
(f)は画像処理部8からの画像信号の出力タイミングを示し、
図1に示したH方向の往復走査(HscanA、HscanB)に対応する画像供給を行う。(g)は温度補償後の走査軌跡を示している。往復走査(HscanA、HscanB)の描画開始/終了位置が縦方向に揃っているので、表示される画像は隣接する走査線間で水平方向のずれが生じない。一方(h)は比較のために温度補償なしでの走査軌跡を示している。伝送路での位相遅延d1,d2のため、往復走査(HscanA、HscanB)の描画開始/終了位置が縦方向に揃っていない。よって、表示される画像は隣接する走査線間で水平方向のずれが生じることになる。
【0035】
図6は、温度補償の効果を表示画像で説明する図である。
(a)は温度補償なしで走査位相がずれた場合の表示画像を示す。
図5(h)で説明したように、往復走査(HscanA、HscanB)における画像の描画開始/終了位置が縦方向に揃わないので、往復走査で描画される画像4a、4bに水平方向に位相ずれが生じ、二重画像が表示される。
【0036】
(b)は温度補償なしで走査振幅が変化した場合の表示画像を示す。H走査幅、またはV走査幅が伸縮することになり、それに伴って表示領域は3c、3dのように変形する。その結果、描画される画像は4c、4dのように縦方向または横方向に歪んだ画像となる。また、表示面積が変化するので、表示画面の明るさも変化する。
【0037】
(c)は温度補償により走査位相と走査振幅を補正した表示画像を示す。往復走査(HscanA、HscanB)における画像の描画開始/終了位置が縦方向に揃っているので、往復走査で描画される画像4a、4bの位相が揃っており、1つの画像4となって表示される。また、H走査幅とV走査幅が一定であるので、表示面積は変化せず、表示画面の明るさが一定となる。
【0038】
このように実施例1によれば、ハウジング内の内気温度が変化して、ミラーの回転角の検出信号を伝送する伝送路22の特性が変化しても、温度補償部7により振幅と位相の補償処理を行うようにした。よって、システム制御部6からミラー駆動部9に供給する駆動情報や、画像処理部8に供給する同期信号が正確になり、表示する画像の精度が向上する効果がある。