【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各施設の分析装置は、所定の期間に含まれる測定結果から所定数の測定結果を選択し、選択した所定数の測定結果を統計処理することにより、前記第2精度管理情報を算出する、請求項1ないし3の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報を参照可能な画面と前記第2精度管理情報を参照可能な画面を別々に表示部に表示させる、請求項1ないし4の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報をそれぞれ参照可能な画面を表示部に表示させる、請求項1ないし5の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報の組み合わせを、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報を2軸とする座標空間で示すグラフを前記表示部に表示させる、請求項6に記載の精度管理方法。
前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報を、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報との間で比較可能な画面を前記表示部に表示させる、請求項5ないし9の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報と、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報との関係が、所定の条件に合致した場合に、前記精度管理に関する情報として報知情報を出力する、請求項1ないし10の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報が、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて設定された所定の範囲を越えた領域に分布している場合に、前記報知情報を出力させる、請求項11に記載の精度管理方法。
前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報のばらつきの幅が、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて設定された所定の幅の範囲から外れた場合に、前記報知情報を出力させる、請求項11または12に記載の精度管理方法。
前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させる、請求項1ないし13の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、前記一の施設の前記分析装置に前記ネットワークを介してリモートアクセスし、前記分析装置の画面を表示部に表示させる、請求項14または15に記載の精度管理方法。
前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させる、請求項14ないし17の何れか一項に記載の精度管理方法。
複数の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて、精度管理に異常が生じたか否かを判定するための前記条件を設定する、請求項11ないし19の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記フローサイトメータにより複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報と、精度管理物質を測定して得た測定データを分析して得た測定結果とを組み合わせて、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを判定する、請求項1ないし20の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記第1精度管理情報が正常であり、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させる、請求項1ないし21の何れか一項に記載の精度管理方法。
前記分析装置は、所定の期間に含まれる測定結果から所定数の測定結果を選択し、選択した所定数の測定結果を統計処理することにより、前記第2精度管理情報を算出する、請求項23ないし25の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報を参照可能な画面と前記第2精度管理情報を参照可能な画面を別々に表示部に表示させるための処理を行う、請求項23ないし26の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報をそれぞれ参照可能な画面を表示部に表示させるための処理を行う、請求項23ないし26の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記画面において、前記第2精度管理情報とともに、前記第1精度管理情報を時系列で表示させるための処理を行う、請求項29に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記精度管理に関する情報として、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報との組み合わせを、前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報を2軸とする座標空間で示すグラフを前記表示部に表示させるための処理を行う、請求項28に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報を、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報との間で比較可能な画面を前記表示部に表示させるための処理を行う、請求項27ないし31の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報と、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報との関係が、所定の条件に合致した場合に、前記精度管理に関する情報として報知情報を出力する処理を行う、請求項23ないし32の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報が、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて設定された所定の範囲を超えた領域に分布している場合に、前記報知情報を出力させるための処理を行う、請求項33に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報のばらつきの幅が、前記一の施設とは異なる他の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて設定された所定の幅の範囲から外れた場合に、前記報知情報を出力させるための処理を行う、請求項33または34に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させるための処理を行う、請求項23ないし35の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第2精度管理情報が所定のばらつきの範囲から外れた場合に、前記報知情報を出力させるための処理を行う、請求項36に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記一の施設の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、前記一の施設の前記分析装置に前記ネットワークを介してリモートアクセスし、前記分析装置の画面を表示部に表示させるための処理を行う、請求項36または37に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、前記第2精度管理情報の生成に用いた検体の分析結果を表示するための情報をさらに取得し、取得した前記情報に基づいて、前記分析結果を表示部に表示させるための処理を行う、請求項36ないし38の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させる処理を行う、請求項36ないし39の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、前記精度管理情報の生成に用いた検体を測定した測定データをさらに取得し、取得した前記測定データに基づいて、試薬の異常の判定として、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを判定する、請求項40に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、複数の前記分析装置から取得した前記第2精度管理情報に基づいて、精度管理に異常が生じたか否かを判定するための前記条件を設定する、請求項33ないし41の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記分析装置は、前記フローサイトメータにより複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報と、精度管理物質を測定して得た測定データを分析して得た測定結果とを前記管理装置に送信し、
前記管理装置は、受信した前記統計情報と前記測定結果とを組み合わせて、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを判定する、請求項23ないし42の何れか一項に記載の精度管理システム。
前記管理装置は、前記第1精度管理情報が正常であり、前記第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を前記精度管理に関する情報として出力させるための処理を行う、請求項23ないし43の何れか一項に記載の精度管理システム。
人工的に生成された精度管理物質を測定して得られた第1精度管理情報と、複数の検体を測定して得られた測定結果に基づく第2精度管理情報とを、ネットワークを介して、複数施設のそれぞれに設置された少なくとも光学式のフローサイトメータを備える分析装置から取得し、
取得した前記第1精度管理情報および前記第2精度管理情報に基づいて、少なくとも一の施設の分析装置の精度管理に関する情報を出力し、
前記第2精度管理情報は、前記フローサイトメータにより複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報を含む、管理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および特許文献2のように、精度管理には複数の手法があるものの、精度管理においては主として精度管理物質が用いられている。たしかに特許文献2には精度管理物質と検体を用いた手法が開示されているが、検体は採取された被検者によって性状が大きく異なることがあるため、検体間で測定結果のばらつきが大きく、検体の測定結果は精度管理には十分に用いられていない実態がある。
【0006】
精度管理は検査結果の信頼性を担保するうえで極めて重要であるため、精度管理物質と検体の両方の測定結果を十分に活用して精度管理の質を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、ネットワーク(13)を介して複数施設(12)のそれぞれに設置された分析装置(20)と接続された管理装置(30)で用いられる精度管理方法に関する。
各施設の分析装置(20)は、
少なくとも、光学式のフローサイトメータ(54)を備える。本態様に係る精度管理方法において、各施設(12)の分析装置(20)が人工的に生成された精度管理物質を測定して得た第1精度管理情報と、複数の検体を測定して得た測定結果に基づく第2精度管理情報とを、ネットワーク(13)を介して、各施設(12)の分析装置(20)からそれぞれ取得し、取得した第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づいて、少なくとも一の施設(12)の分析装置(20)の精度管理に関する情報を出力する。第2精度管理情報は、フローサイトメータ(54)により複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報を含む。
【0008】
本態様に係る精度管理方法によれば、複数の施設のそれぞれに設置された分析装置から取得した第1精度管理情報および第2精度管理情報を、管理装置に集約できる。このため、分析装置における精度管理の状況を、管理装置側において、分析装置のモニター担当者等よって適切に評価できる。また、発明者らは、
フローサイトメータにより複数の検体から取得した光の強度を統計処理して得た統計情報を第2精度管理情報として取得した場合に、第2精度管理情報のばらつきが顕著に小さいことを新たに見いだし、
光の強度について第2精度管理情報を参照することで、分析装置における精度管理の状況を精度よく評価できることを見いだした。したがって、第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づいて、精度管理に関する情報を出力することにより、分析装置の状態をより適切かつ精度よく評価できる。よって、精度管理物質と検体の両方の測定結果を十分に活用して精度管理の質を高めることができる。
【0009】
なお、「精度管理物質」とは、検体に含まれる粒子を模したラテックス粒子や、動物から採取した検体から所定の成分を抽出して調製された物質等、人工的に生成された精度管理用の物質を広く含み得る。精度管理に関する情報とは、たとえば、両方の精度管理情報を比較可能な画面や、両方の精度管理情報に基づく精度管理状態の判定結果などである。精度管理に関する情報は、たとえば、表示部への表示、音声を鳴らすこと、他の装置に送信すること、などにより出力される。
【0012】
この場合に、測定結果は、光の強度に基づいて算出される検体中の粒子種類ごとの粒子計数値をさらに含み、第2精度管理情報は、光の強度を統計処理して得た第1統計情報と、粒子計数値を統計処理して得た第2統計情報とを含む。ここで、第2精度管理情報に含まれる第1統計情報および第1精度管理情報に基づいて精度管理に関する情報を出力する。第2精度管理情報に含まれる第2統計情報のばらつきは、第2精度管理情報に含まれる第1統計情報のばらつきに比べて大きい。すなわち、第2精度管理情報に含まれる第2統計情報の信頼性は高くない。したがって、上記のように第2精度管理情報に含まれる第1統計情報を用いることにより、精度管理の評価をするユーザが、適切に精度管理の状況を評価できる。
【0013】
本態様に係る精度管理方法において、励起光により蛍光を生じる染料で検体を染色し、光の強度は、検体を染色した染料から生じた蛍光の強度である。ここで、精度管理物質は、人工的に生成されており、通常、一定の使用期間において保存され精度管理に用いられるため、使用期間において経時劣化することがある。一方、検体は、分析精度を担保するために新鮮な状態で測定される。また、蛍光を生じる染料の反応性は、染色対象の試料の劣化状態に応じて異なる。したがって、検体の染料への反応性は、精度管理物質の染料への反応性に比べて、ばらつきが小さくなる。これにより、第1精度管理情報と第2精度管理情報の取得において光の強度として蛍光を用いる場合、第2精度管理情報のばらつきを、第1精度管理情報に比べて顕著に抑制できる。よって、第2精度管理情報を出力することにより、精度管理の状況を適切に評価できる。
【0014】
本態様に係る精度管理方法において、各施設(12)の分析装置(20)は、所定の期間に含まれる測定結果から所定数の測定結果を選択し、選択した所定数の測定結果を統計処理することにより、第2精度管理情報を算出する。統計処理に適する検体の測定結果を選択して統計処理を行うことによって、検体に基づく精度管理情報の質を高めることができる。
【0015】
本態様に係る精度管理方法において、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報を参照可能な画面と第2精度管理情報を参照可能な画面を別々に表示部(40)に表示させる。こうすると、2つの画面をそれぞれ表示させることにより、分析装置の精度管理状況を視覚的に評価できる。
【0016】
本態様に係る精度管理方法において、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報および第2精度管理情報をそれぞれ参照可能な画面(310)を表示部(40)に表示させる。こうすると、第1精度管理情報および第2精度管理情報を参照可能な画面により、分析装置の精度管理状況を視覚的に評価できる。なお、表示部は、必ずしも管理装置の表示部でなくてもよく、管理装置が設置された施設内の他の装置の表示部や、管理装置が設置された施設以外の施設に設置された表示部をも含むものである。
【0017】
この場合に、画面(310)において、第2精度管理情報を時系列で表示させる。こうすると、第2精度管理情報が大きく変化するタイミングを把握でき、そのタイミングで精度管理に異常が生じた可能性があることを把握できる。よって、そのタイミングにおいて、第1精度管理情報がどのように推移したかを参照し、さらに、適宜、精度管理上検討すべきその他の情報を把握することにより、精度管理の異常およびその原因を推定でき、適切な精度管理を実施できる。
【0018】
この場合に、画面(310)において、第2精度管理情報とともに、第1精度管理情報を時系列で表示させる。こうすると、第2精度管理情報の推移と、第1精度管理情報の推移とを、1つの画面で見比べることができる。よって、第1精度管理情報および第2精度管理情報を比較することにより、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを、円滑かつ簡便に判断できる。
【0019】
本態様に係る精度管理方法において、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報および第2精度管理情報の組み合わせを、第1精度管理情報および第2精度管理情報を2軸とする座標空間で示すグラフを表示部(40)に表示させる。こうすると、第1精度管理情報と第2精度管理情報を参照しながら円滑に精度管理の評価を行うことができる。
【0020】
本態様に係る精度管理方法において、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報を、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報との間で比較可能な画面(330)を表示部(40)に表示させる。こうすると、一の施設の分析装置の状態が、他の施設の分析装置の状態からどの程度乖離しているかを把握できる。よって、精度管理結果の乖離を抑制するように、一の施設の分析装置を調整できる。
【0021】
本態様に係る精度管理方法において、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報と、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報との関係が、所定の条件に合致した場合に、精度管理情報に関する情報として報知情報を出力する。なお、「報知情報」とは、画像や音声の他、振動等の操作者が把握可能な種々の情報を含み得る。また、「報知情報」は、精度管理情報がどの条件に合致したかを示す情報を含んでいてもよい。
【0022】
この場合に、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報が、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて設定された所定の範囲を越えた領域に分布している場合に、報知情報を出力させる。この条件を用いることにより、分析装置の測定結果の正確さに異常が生じた可能性があることを適正に判定できる。
【0023】
また、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報のばらつきの幅が、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて設定された所定の幅の範囲から外れた場合に、報知情報を出力させる。この条件を用いることにより、分析装置の測定結果の精密さに異常が生じた可能性があることを適正に判定できる。
【0024】
本態様に係る精度管理方法において、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させる。これにより、分析装置に精度管理異常が生じた可能性があることを的確に把握できるため、精度管理に異常が生じたか否かを円滑に調べることができる。
【0025】
この場合に、第2精度管理情報が所定のばらつきの範囲から外れた場合に、報知情報を出力させる。この条件を用いることにより、分析装置に精度管理異常が生じた可能性があることを適正に判定できる。
【0026】
本態様に係る精度管理方法において、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、一の施設(12)の分析装置(20)にネットワーク(13)を介してリモートアクセスし、分析装置(20)の画面を表示部(40)に表示させる。こうすると、分析装置20の設置場所まで移動することなく、分析装置の精度管理の状況を直接確認できる。
【0027】
本態様に係る精度管理方法において、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、第2精度管理情報の生成に用いた検体の分析結果を表示するための情報をさらに取得し、取得した情報に基づいて、分析結果を表示部(40)に表示させる。こうすると、精度管理に異常が生じた原因を詳細に調査できる。
【0028】
本態様に係る精度管理方法において、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させる。こうすると、試薬に異常が生じた可能性があることを把握できる。
【0029】
この場合に、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理情報の生成に用いた検体を測定した測定データをさらに取得し、取得した測定データに基づいて、試薬の異常の判定として、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを判定する。こうすると、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを的確に判定できる。
【0030】
本態様に係る精度管理方法において、複数の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて、精度管理に異常が生じたか否かを判定するための条件を設定する。こうすると、分析装置の特性に応じた条件を設定できる。
【0031】
本態様に係る精度管理方法において
、フローサイトメータ(54)により複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報と、精度管理物質を測定して得た測定データを分析して得た測定結果とを組み合わせて、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを判定する。こうすると、フローサイトメータにより複数の検体から取得した光の強度に基づく統計情報を第2精度管理情報として取得した場合、第2精度管理情報のばらつきが顕著に抑制される。また、精度管理物質から取得した測定データを分析して得た測定結果を第1精度管理情報として取得した場合、第1精度管理情報のばらつきが顕著に抑制される。したがって、これら2つの精度管理情報を組み合わせると、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを精度よく判定できる。
【0032】
本態様に係る精度管理方法において、第1精度管理情報が正常であり、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させる。こうすると、試薬に異常が生じた可能性があることを把握できる。
【0033】
本発明の第2の態様は、精度管理システム(10)に関する。本態様に係る精度管理システム(10)は、複数の施設(12)のそれぞれに設置された分析装置(20)と、ネットワーク(13)を介して各施設(12)の分析装置(20)と接続された管理装置(30)と、を備える。
各施設(12)の分析装置(20)は、
少なくとも、光学式のフローサイトメータ(54)を備え、人工的に生成された精度管理物質を測定して得た第1精度管理情報と、複数の検体を測定して得た測定結果に基づく第2精度管理情報とを、ネットワーク(13)を介して、管理装置(30)に送信し、管理装置(30)は、分析装置(20)から受信した第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づいて、少なくとも一の施設(12)の分析装置(20)の精度管理に関する情報を出力する。第2精度管理情報は、フローサイトメータ(54)により複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報を含む。
【0034】
本態様に係る精度管理システムによれば、第1の態様と同様の効果が奏される。
【0037】
この場合に、測定結果は、光の強度に基づいて算出される検体中の粒子種類ごとの粒子計数値をさらに含む。分析装置(20)は、光の強度を統計処理して得た第1統計情報と、粒子計数値を統計処理して得た第2統計情報とを含む第2精度管理情報を管理装置(30)に送信し、管理装置(30)は、受信した第2精度管理情報に含まれる第1統計情報および第1精度管理情報に基づいて精度管理に関する情報を出力するよう構成され得る。
【0038】
本態様に係る精度管理システム(10)において、分析装置(20)は、励起光により蛍光を生じる染料で検体を染色し、光の強度は、検体を染色した染料から生じた蛍光の強度であるよう構成され得る。
【0039】
本態様に係る精度管理システム(10)において、分析装置(20)は、所定の期間に含まれる測定結果から所定数の測定結果を選択し、選択した所定数の測定結果を統計処理することにより、第2精度管理情報を算出するよう構成され得る。
【0040】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報を参照可能な画面と第2精度管理情報を参照可能な画面を別々に表示部(40)に表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0041】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報および第2精度管理情報をそれぞれ参照可能な画面(310)を表示部(40)に表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0042】
この場合に、管理装置(30)は、画面(310)において、第2精度管理情報を時系列で表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0043】
この場合に、管理装置(30)は、画面(310)において、第2精度管理情報とともに、第1精度管理情報を時系列で表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0044】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、精度管理に関する情報として、第1精度管理情報および第2精度管理情報との組み合わせを、第1精度管理情報および第2精度管理情報を2軸とする座標空間で示すグラフを表示部(40)に表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0045】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報を、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報との間で比較可能な画面(330)を表示部(40)に表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0046】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報と、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報との関係が、所定の条件に合致した場合に、精度管理に関する情報として報知情報を出力する処理を行うよう構成され得る。
【0047】
この場合に、管理装置(30)は、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報が、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて設定された所定の範囲を超えた領域に分布している場合に、報知情報を出力させるための処理を行うよう構成され得る。
【0048】
また、管理装置(30)は、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報のばらつきの幅が、一の施設(12)とは異なる他の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて設定された所定の幅の範囲から外れた場合に、報知情報を出力させるための処理を行うよう構成され得る。
【0049】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させるための処理を行うよう構成され得る。
【0050】
この場合に、管理装置(30)は、第2精度管理情報が所定のばらつきの範囲から外れた場合に、報知情報を出力させるための処理を行うよう構成され得る。
【0051】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、一の施設(12)の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、一の施設(12)の分析装置(20)にネットワーク(13)を介してリモートアクセスし、分析装置(20)の画面を表示部(40)に表示させるための処理を行う。
【0052】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、第2精度管理情報の生成に用いた検体の分析結果を表示するための情報をさらに取得し、取得した情報に基づいて、分析結果を表示部(40)に表示させるための処理を行うよう構成され得る。
【0053】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させる処理を行うよう構成され得る。
【0054】
この場合に、管理装置(30)は、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、精度管理情報の生成に用いた検体を測定した測定データをさらに取得し、取得した測定データに基づいて、試薬の異常の判定として、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを判定するよう構成され得る。
【0055】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、複数の分析装置(20)から取得した第2精度管理情報に基づいて、精度管理に異常が生じたか否かを判定するための条件を設定するよう構成され得る。
【0056】
本態様に係る精度管理システム(10)において、分析装置(20)は
、フローサイトメータ(54)により複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報と、精度管理物質を測定して得た測定データを分析して得た測定結果とを管理装置(30)に送信し、管理装置(30)は、受信した統計情報と測定結果とを組み合わせて、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを判定するよう構成され得る。
【0057】
本態様に係る精度管理システム(10)において、管理装置(30)は、第1精度管理情報が正常であり、第2精度管理情報が所定の条件に合致した場合に、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報を精度管理に関する情報として出力させるための処理を行うよう構成され得る。
【0058】
本発明の第3の態様は、管理装置(30)に関する。本態様に係る管理装置(30)は、人工的に生成された精度管理物質を測定して得られた第1精度管理情報と、複数の検体を測定して得られた測定結果に基づく第2精度管理情報とを、ネットワーク(13)を介して、複数施設(12)のそれぞれに設置された
少なくとも光学式のフローサイトメータ(54)を備える分析装置(20)から取得し、取得した第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づいて、少なくとも一の施設(12)の分析装置(20)の精度管理に関する情報を出力する。第2精度管理情報は、フローサイトメータ(54)により複数の検体のそれぞれを測定して得た光の強度を統計処理して得た統計情報を含む。
【0059】
本態様に係る管理装置によれば、第1の態様と同様の効果が奏される。
【0063】
本態様に係る精度管理異常判定方法によれば、第1精度管理情報と第2精度管理情報のいずれか基づいて精度管理異常を判定する場合に比べて、より精度よく精度管理異常を判定できる。
【発明の効果】
【0066】
本発明によれば、精度管理物質と検体の両方の測定結果を十分に活用して精度管理の質を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図1に示すように、精度管理システム10は、分析装置20と管理装置30を備える。管理装置30は、カスタマーサポートセンターなどの施設11に設置されている。分析装置20は、病院や検査センターなどの施設12に設置されている。施設12は、施設11とは異なる施設である。分析装置20と管理装置30は、インターネットなどのネットワーク13に接続されており、ネットワーク13を介して互いに通信可能である。
図1に示す例では、精度管理システム10は、複数の施設12を備える。また、複数の施設12は、それぞれ、1以上の分析装置20を備える。
【0069】
施設12には、通常、1人以上の検査技師が配置される。検査技師は、配置された施設12において、分析装置20を操作する。分析装置20は、人工的に生成された精度管理物質を測定し、被検者や患者などから採取された検体を測定する。分析装置20は、測定により得た測定データを分析して測定結果を取得する。分析装置20は、精度管理物質を測定することにより得られる第1精度管理情報と、検体を複数測定することにより得られる第2精度管理情報とを、ネットワーク13を介して管理装置30に送信する。管理装置30は、第1精度管理情報および第2精度管理情報を、ネットワーク13を介して各施設12の分析装置20から取得して記憶する。
【0070】
なお、「精度管理物質」とは、検体に含まれる粒子を模したラテックス粒子や、動物から採取した検体から所定の成分を抽出して調製された物質等、人工的に生成された精度管理用の物質を広く含み得る。
【0071】
管理装置30は、分析装置20から取得して記憶した第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づいて、少なくとも一の施設12の分析装置20の精度管理に関する情報を出力する。精度管理に関する情報とは、たとえば、第1精度管理情報および第2精度管理情報を比較可能な画面や、第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づく精度管理状態の判定結果などである。精度管理情報に関する情報は、たとえば、管理装置30の表示部40への表示、管理装置30のスピーカを鳴らすこと、他の装置に送信することなどにより出力される。
【0072】
施設11には、分析装置20のモニター担当者が配置されている。モニター担当者は、管理装置30を操作するとともに、検査技師からの分析装置20に関する問い合わせに対応する。管理装置30は、分析装置20から受信した第1精度管理情報および第2精度管理情報をそれぞれ参照可能な画面等を、表示部40に表示させる。モニター担当者は、表示部40に表示した画面を参照して、分析装置20における精度管理の状況の評価を行う。
【0073】
このように、実施形態によれば、複数の施設12のそれぞれに設置された分析装置20から取得した第1精度管理情報および第2精度管理情報を、管理装置30に集約できる。このため、分析装置20における精度管理の状況を、管理装置30側においてモニター担当者によって適切に評価できる。また、後述するように、発明者らは、複数の検体を測定して得られた第2精度管理情報は、所定の項目においてばらつきが顕著に小さいことを新たに見いだし、この項目について第2精度管理情報を参照することで、分析装置20における精度管理の状況を精度よく評価できることを見いだした。したがって、第1精度管理情報と第2精度管理情報とに基づいて、精度管理に関する情報を出力することにより、分析装置20の精度管理状況をより適切かつ精度よく評価できる。よって、精度管理物質と検体の両方の測定結果を十分に活用して精度管理の質を高めることができる。
【0074】
図2に示すように、分析装置20は、測定部50と情報処理部60を備える。
【0075】
測定部50は、測定制御部51と、検体吸引部52と、試料調製部53と、フローサイトメータ54と、電気抵抗式検出部55と、ヘモグロビン検出部56と、信号処理回路57と、を備える。
【0076】
測定制御部51は、たとえば、CPU、MPUなどにより構成される。測定制御部51は、測定部50の各部が出力する信号を受信し、測定部50の各部を制御する。測定制御部51は、情報処理部60と通信を行う。測定制御部51は、記憶部51aを備える。記憶部51aは、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。測定制御部51は、記憶部51aに記憶されたプログラムに基づいて処理を実行する。検体吸引部52は、図示しない吸引管を有し、検体容器に収容された検体および容器に収容された精度管理物質を吸引管により吸引する。実施形態の検体は、被検者から採取された末梢血の全血である。
【0077】
試料調製部53には、測定に用いるための複数の試薬をそれぞれ収容する複数の容器が接続されている。試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、白血球を計数し、好塩基球および有核赤血球を分類および計数するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「WNR測定試料」と称する。試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、好中球、リンパ球、単球および好酸球を分類および計数し、幼若白血球および異型リンパ球などの異常細胞を検出するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「WDF測定試料」と称する。試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、網赤血球を分類および計数するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「RET測定試料」と称する。試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、芽球、リンパ球系の異常細胞を検出するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「WPC測定試料」と称する。WNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料を調製する際に用いる試薬は、いずれも励起光により蛍光を生じる染料が含まれている。
【0078】
また、試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、赤血球数および血小板を計数するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「RBC/PLT測定試料」と称する。試料調製部53は、検体と所定の試薬とを混合して、ヘモグロビン濃度を測定するための測定試料を調製する。この測定試料を、以下「HGB測定試料」と称する。
【0079】
また、試料調製部53は、検体と同様、精度管理物質と所定の試薬とを混合して、WNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料、WPC測定試料、RBC/PLT測定試料、およびHGB測定試料を調製する。
【0080】
WNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料は、フローサイトメータ54に送られて、フローサイトメータ54により測定される。RBC/PLT測定試料は、電気抵抗式検出部55に送られて、電気抵抗式検出部55により測定される。HGB測定試料は、ヘモグロビン検出部56に送られて、ヘモグロビン検出部56により測定される。
【0081】
図3に示すように、フローサイトメータ54は、フローサイトメトリー法により血球の測定を行う光学式のフローサイトメータである。フローサイトメータ54は、フローセル101と、光源102と、受光部103、104、105と、コリメータレンズ111と、集光レンズ112と、ビームストッパ113と、集光レンズ114と、ダイクロイックミラー115と、光学フィルタ116と、を備える。
【0082】
フローセル101には、測定の際に、WNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料が別々に供給される。フローセル101は、透光性を有する材料によって管状に構成されている。各測定試料は、シース液に包まれた状態でフローセル101内に流される。これにより、各測定試料に含まれる粒子は、一列に整列した状態でフローセル101内を通る。光源102は、半導体レーザ光源であり、所定波長のレーザ光を出射する。光源102から出射される光は、各測定試料に含まれる染料を励起して、染料から所定波長帯域の蛍光を生じさせる励起光である。
【0083】
コリメータレンズ111と集光レンズ112は、光源102から出射された光を集光して、フローセル101内を流れる各測定試料に照射する。光源102からの光が各測定試料に照射されると、各測定試料中の粒子から、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とが生じる。前方散乱光は、粒子の大きさに関する情報を反映し、側方散乱光は、粒子の内部情報を反映し、蛍光は、粒子の染色度合いを反映する。フローセル101に照射された光のうち、粒子に照射されずにフローセル101を透過した光は、ビームストッパ113により遮断される。受光部103は、たとえば、フォトダイオードにより構成される。受光部103は、前方散乱光を受光し、受光した前方散乱光に応じた電気信号を出力する。
【0084】
集光レンズ114は、フローセル101の側方に生じた側方散乱光および蛍光を集光する。ダイクロイックミラー115は、集光レンズ114により集光された側方散乱光を反射させ、集光レンズ114により集光された蛍光を透過する。受光部104は、たとえば、フォトダイオードにより構成される。受光部104は、ダイクロイックミラー115により反射された側方散乱光を受光し、受光した側方散乱光に応じた電気信号を出力する。光学フィルタ116は、ダイクロイックミラー115を透過した光のうち、受光部105で受光させる蛍光のみを透過させる。受光部105は、たとえば、アバランシェフォトダイオードにより構成される。受光部105は、光学フィルタ116を透過した蛍光を受光し、受光した蛍光に応じた電気信号を出力する。
【0085】
図2に戻り、電気抵抗式検出部55は、シースフローDC検出法により血球の測定を行う。電気抵抗式検出部55の図示しないフローセルには、測定の際にRBC/PLT測定試料が供給される。電気抵抗式検出部55は、電気抵抗式検出部55のフローセルを流れるRBC/PLT測定試料に電圧を印加し、粒子が通過することによる電圧の変化を捉えて粒子を検出する。電気抵抗式検出部55は、検出信号を出力する。
【0086】
ヘモグロビン検出部56は、SLS−ヘモグロビン法によりヘモグロビンの測定を行う。ヘモグロビン検出部56の図示しないセルには、測定の際にHGB測定試料が供給される。ヘモグロビン検出部56は、ヘモグロビン検出部56のセル中に収容されたHGB測定試料に光を照射し、HGB測定試料による吸光度を検出する。ヘモグロビン検出部56は、検出信号を出力する。
【0087】
信号処理回路57は、受光部103〜105から出力された信号に対して信号処理を行う。具体的には、信号処理回路57は、受光部103〜105から出力された信号に基づいて、粒子に対応する波形を抽出し、粒子ごとの波形のピーク値、幅、面積などを算出する。以下、受光部103〜105から出力された信号に基づく波形のピーク値を、それぞれ、「前方散乱光強度」、「側方散乱光強度」および「蛍光強度」と称する。なお、前方散乱光強度、側方散乱光強度および蛍光強度は、それぞれ、波形の幅や面積であってもよい。
【0088】
また、信号処理回路57は、電気抵抗式検出部55から出力された信号に基づいて、粒子に対応する波形を抽出し、粒子ごとの波形のピーク値を算出する。信号処理回路57は、ヘモグロビン検出部56から出力された信号に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出する。
【0089】
信号処理回路57は、フローサイトメータ54、電気抵抗式検出部55およびヘモグロビン検出部56から出力された信号を、上記のような信号処理を行って測定データを取得し、取得した測定データを測定制御部51に出力する。
【0090】
測定制御部51は、信号処理回路57から出力された測定データを記憶部51aに記憶する。検体および精度管理物質の測定が終わると、測定制御部51は、記憶部51aに記憶した測定データを、情報処理部60に送信する。「測定データ」とは、信号処理回路57により取得され、測定部50から情報処理部60に送られるデータを示す。
【0091】
情報処理部60は、分析部61と、記憶部62と、表示部63と、入力部64と、送信部65と、を備える。
【0092】
分析部61は、たとえば、CPUにより構成される。分析部61は、情報処理部60の各部が出力する信号を受信し、情報処理部60の各部を制御する。分析部61は、送信部65を介して測定部50と通信を行う。分析部61は、送信部65とネットワーク13を介して、管理装置30と通信を行う。記憶部62は、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。分析部61は、記憶部62に記憶されたプログラムに基づいて処理を実行する。
【0093】
表示部63は、たとえば、ディスプレイにより構成される。表示部63は、分析結果を示す画面を表示する。入力部64は、たとえば、マウス、キーボードなどにより構成される。入力部64は、検査技師による入力を受け付ける。表示部63と入力部64は、タッチパネルなどにより一体的に構成されてもよい。送信部65は、たとえば、ネットワークインターフェースカードにより構成される。送信部65は、他の装置から受信した情報を分析部61に出力し、分析部61から出力された情報を他の装置に送信する。
【0094】
分析部61は、測定部50から受信した測定データを記憶部62に記憶する。分析部61は、測定部50から受信した測定データに基づいて、以下に示すように分析結果を生成する。
【0095】
分析部61は、検体の測定データに基づいて、血球の分類および計数といった分析を行い、複数の測定項目の測定結果を算出する。また、分析部61は、精度管理物質の測定データに基づいて、血球の分析と同様に、粒子の分類および計数といった分析を行い、複数の測定項目の測定結果を算出する。測定項目には、たとえば、白血球数、赤血球数、血小板数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、平均赤血球容積、平均赤血球血色素量、および平均赤血球血色素濃度などの、いわゆるCBC項目が含まれる。
【0096】
また、分析部61は、測定データに含まれる前方散乱光強度、側方散乱光強度および蛍光強度から、1つの前方散乱光強度、1つの側方散乱光強度および1つの蛍光強度を測定結果として算出する。たとえば、WNR測定試料の場合、測定により粒子の数に応じた複数の前方散乱光強度が取得される。分析部61は、測定データに含まれる複数の前方散乱光強度から中央値を算出し、算出した中央値を1つの前方散乱光強度とする。同様に、分析部61は、WNR測定試料から得られた複数の側方散乱光強度および複数の蛍光強度から、それぞれ中央値を算出し、算出した中央値を1つの側方散乱光強度および1つの蛍光強度とする。分析部61は、精度管理物質に基づくWNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料に対して、上記のような処理を行い、検体に基づくWNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料に対して、上記のような処理を行う。なお、中央値に代えて平均値が用いられてもよい。
【0097】
こうして、分析部61は、精度管理物質および検体の測定データに含まれる各光の強度に基づいて、1つの前方散乱光強度、1つの側方散乱光強度および1つの蛍光強度を測定結果として算出する。上記のように算出した各光の1つの強度を、以下「感度項目」と称する。感度項目には、WNR測定試料、WDF測定試料、RET測定試料およびWPC測定試料ごとに、1つの前方散乱光強度、1つの側方散乱光強度および1つの蛍光強度が含まれる。
【0098】
さらに、分析部61は、複数の検体に基づく測定項目の測定結果を統計処理して統計情報を取得し、複数の検体に基づく感度項目の測定結果を統計処理して統計情報を取得する。統計情報については、追って
図5、6を参照して説明する。
【0099】
「測定結果」とは、測定項目ごとに算出された数値と、感度項目ごとに算出された数値とを示す。「分析結果」とは、測定結果と、測定結果の算出に関連するスキャッタグラムと、測定結果を統計処理して得られる統計情報と、を含む概念である。
【0100】
分析部61は、精度管理物質に基づく測定項目の測定結果と、精度管理物質に基づく感度項目の測定結果とを、第1精度管理情報として、ネットワーク13を介して管理装置30に送信する。また、分析部61は、複数の検体に基づく測定項目の統計情報と、複数の検体に基づく感度項目の統計情報とを、第2精度管理情報として、ネットワーク13を介して管理装置30に送信する。
【0101】
上記のように複数の検体に基づく測定結果が統計処理されると、統計処理により得られた統計情報がネットワーク13を介して送信されても、各検体の測定結果が外部に流出することを抑制できる。よって、各検体の測定結果が外部に流出することを防ぎながら、管理装置30側において分析装置20における精度管理の状況を適切に評価できる。
【0102】
また、分析部61は、第1精度管理情報および第2精度管理情報に加えて、装置情報をネットワーク13を介して管理装置30に送信する。装置情報は、施設名、施設番号、分析装置番号、分析装置の種類、試薬名、試薬ロット、精度管理物質名、精度管理物質ロット、日時、装置温度、などを含む。
【0103】
図4に示すように、管理装置30は、制御部31と、記憶部32と、入力部33と、送信部34と、表示部40と、を備える。
【0104】
制御部31は、たとえば、CPUにより構成される。制御部31は、管理装置30の各部が出力する信号を受信し、管理装置30の各部を制御する。制御部31は、ネットワーク13を介して、分析装置20の情報処理部60と通信を行う。記憶部32は、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。記憶部32は、プログラム32aと、受信データベース32bと、判定結果データベース32cと、を記憶している。制御部31は、記憶部32に記憶されたプログラム32aに基づいて処理を実行する。
【0105】
受信データベース32bは、各分析装置20から送信された第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報と、を記憶する。判定結果データベース32cは、精度管理異常の判定結果を含む。精度管理異常を判定するための条件は、記憶部32に記憶されている。
【0106】
表示部40は、たとえば、ディスプレイにより構成される。入力部33は、たとえば、マウス、キーボードなどにより構成される。表示部40と入力部33は、タッチパネルなどにより一体的に構成されてもよい。送信部34は、たとえば、ネットワークインターフェースカードにより構成される。送信部34は、他の装置から受信した情報を制御部31に出力し、制御部31から出力された情報を他の装置に送信する。
【0107】
次に、
図5を参照して、情報処理部60から管理装置30へ送信される精度管理情報について説明する。
【0108】
上述したように、情報処理部60の分析部61は、精度管理物質に基づく測定項目の測定結果と、精度管理物質に基づく感度項目の測定結果とを算出する。また、分析部61は、複数の検体に基づく測定項目の測定結果を統計処理して得た統計情報と、複数の検体に基づく感度項目の測定結果を統計処理して得た統計情報とを算出する。
【0109】
図5において、測定結果群201は、1つの精度管理物質から得られた測定項目の測定結果および感度項目の測定結果を含んでいる。測定結果群202は、1つの検体から得られた測定項目の測定結果および感度項目の測定結果を含んでいる。精度管理物質の測定は、所定の時間間隔ごとに行われ、検体の測定は、精度管理物質の測定の間に行われる。したがって、
図5に示すように、測定結果群201、202は、時系列に沿って並び、2つの測定結果群201の間に複数の測定結果群202が並ぶ。
【0110】
分析部61は、測定部50から精度管理物質に基づく測定データを受信すると、受信した測定データに基づいて測定結果群201を生成し、測定部50から検体に基づく測定データを受信すると、受信した測定データに基づいて測定結果群202を生成する。
【0111】
分析部61は、測定結果群201を生成すると、生成した測定結果群201を第1精度管理情報として管理装置30に送信する。このとき、分析部61は、生成した測定結果群201と1つ前に生成した測定結果群201との間にある複数の測定結果群202と、1つ前に算出したXbarM(i−1)とから、今回のXbarM(i)を統計情報として算出する。XbarMは、複数の検体の測定結果を後述する計算式を用いて加重平均した値である。XbarM(i)は、測定項目および感度項目ごとに算出される。分析部61は、算出した測定項目および感度項目ごとのXbarM(i)を第2精度管理情報として管理装置30に送信する。
【0112】
具体的に、分析部61が、
図5の右端に位置する測定結果群201を生成したときの処理を例に挙げて説明する。以下に示すように、実施形態における検体の測定結果を用いた精度管理手法は、正常者平均値法に基づくものである。
【0113】
分析部61は、右端に位置する測定結果群201と1つ前の測定結果群201との間にある測定結果群202から、N個の測定結果群202を選択する。具体的には、分析部61は、測定結果群202に含まれる測定項目の測定結果が正常な値である測定結果群202を選択する。なお、必ずしも測定結果が正常な値である測定結果群202が選択されなくてもよく、統計処理に適する測定結果を含む測定結果群202であればよい。また、実施形態のNの値は20であるが、20以外の値でもよい。
【0114】
選別したN個の測定結果群202の集合を、「i番目のバッチ」と称する。i番目のバッチに含まれる各測定結果群202は、それぞれ、複数の測定項目の測定結果および複数の感度項目の測定結果を含んでいる。以下、測定項目および感度項目のうち1つの項目を、「対象項目」と称し、対象項目についてXbarM(i)を算出する手順を説明する。
【0115】
i番目のバッチ中のj番目の測定結果群202に含まれる対象項目の測定結果を、Xbar(j、i)とし、(i−1)番目のバッチの対象項目の統計情報をXbarM(i−1)とすると、i番目のバッチの対象項目の統計情報であるXbarM(i)は、
図6に示す式(1)により算出される。
図6に示す式(1)において、Fの値は、
図6に示す式(2)により算出される。分析部61は、上記手順をi番目のバッチの他の項目についても行い、算出した測定項目および感度項目ごとのXbarMを第2精度管理情報として管理装置30に送信する。
【0116】
なお、上記バッチは、2つの精度管理物質の測定の間に1つだけ設定されてもよく、複数設定されてもよい。また、分析部61は、右端に位置する測定結果群201を生成したときに、直前に生成した測定結果群201を第1精度管理情報として管理装置30に送信し、i番目のバッチに基づくXbarM(i)を第2精度管理情報として管理装置30に送信してもよい。すなわち、第1精度管理情報の生成タイミングに対して、直前の期間のXbarMが送信されてもよく、直後の期間のXbarMが送信されてもよい。
【0117】
図7は、同じタイミングで生成された所定項目についての第1精度管理情報および第2精度管理情報の組み合わせを、第1精度管理情報と第2精度管理情報を2軸とする座標空間にプロットするためのグラフである。このグラフには、第1精度管理情報および第2精度管理情報における頻度を示すヒストグラムが合わせて示されている。第1精度管理情報の値を示す横軸には、第1精度管理情報に基づいて精度管理を判定した場合に精度管理が適正であると判定される範囲211が示されている。第2精度管理情報の値を示す縦軸には、第2精度管理情報に基づいて精度管理を判定した場合に精度管理が適正であると判定される範囲212が示されている。
【0118】
一般的には、精度管理の判定は、精度管理物質から得られる第1精度管理情報のみに基づいて行われる。この場合、たとえば、座標点が範囲211に含まれると、分析装置20の精度管理は適正であると判定され、座標点が範囲211から外れると、分析装置20の精度管理は適正ではないと判定される。一方、精度管理の判定が複数の検体から得られる第2精度管理情報に基づいて行われる場合、たとえば、座標点が範囲212に含まれると、分析装置20の精度管理は適正であると判定され、座標点が範囲212から外れると、分析装置20の精度管理は適正ではないと判定される。
【0119】
したがって、第1精度管理情報に加えて第2精度管理情報を精度管理の判定に用いれば、座標点が
図7において破線で示す領域213に含まれる場合、第1精度管理情報に基づく判定は適正であるにもかかわらず、第2精度管理情報に基づく判定は適正ではないことになる。すなわち、第1精度管理情報に加えて第2精度管理情報を精度管理の判定に用いれば、第1精度管理情報に基づく判定だけでは検知できない精度管理の異常を検出できるようになる。
【0120】
次に、第1精度管理情報と第2精度管理情報の特徴について説明する。
【0121】
図8(a)は、6つの施設12に設置された18の分析装置20から実際に取得された精度管理情報の変動係数CVを、項目ごとに示す図である。WBCは白血球数を示し、RBCは赤血球数を示し、PLTは血小板数を示し、HGBはヘモグロビン量を示し、HCTはヘマトクリット値を示し、MCVは平均赤血球容積を示し、MCHは平均赤血球血色素量を示し、MCHCは平均赤血球血色素濃度を示す。
【0122】
WNR−X、WNR−YおよびWNR−Zは、WNR測定試料に基づく測定結果であり、それぞれ、側方散乱光強度、蛍光強度および前方散乱光強度を示す。WDF−X、WDF−YおよびWDF−Zは、WDF測定試料に基づく測定結果あり、それぞれ、側方散乱光強度、蛍光強度および前方散乱光強度を示す。RET−RBC−X、RET−RBC−YおよびRET−RBC−Zは、RET測定試料に基づく測定結果であり、それぞれ、側方散乱光強度、蛍光強度および前方散乱光強度を示す。WPC−X、WPC−YおよびWPC−Zは、WPC測定試料に基づく測定結果であり、それぞれ、側方散乱光強度、蛍光強度および前方散乱光強度を示す。なお、精度管理物質は、各分析装置20において同一のロット番号のものが用いられた。第2精度管理情報の算出におけるNの値は20とされた。
【0123】
図8(a)に示すように、WBCからMCHCまでの測定項目、すなわちCBC項目では、第1精度管理情報の変動係数CVは、第2精度管理情報の変動係数CVよりも概ね小さくなっている。特に、WBCからHCTまでの測定項目では、第1精度管理情報の変動係数CVは、第2精度管理情報の変動係数CVよりも顕著に小さくなっている。
【0124】
したがって、CBC項目を用いて精度管理を行う場合には、精度管理物質を測定して得られた第1精度管理情報を用いて行われるのが好ましいことが分かる。なお、従来は、CBC項目の第1精度管理情報が取得されており、これに加えてCBC項目の第2精度管理情報も取得されていた。しかしながら、上記のように、CBC項目の第2精度管理情報はばらつきが大きいため、CBC項目に基づく精度管理には、第1精度管理情報が優先して用いられていた。
【0125】
一方、WNR−XからWPC−Zまでの感度項目では、第2精度管理情報の変動係数CVは、第1精度管理情報の変動係数CVよりも概ね小さくなっている。特に、WDF測定試料およびRET測定試料に基づく感度項目では、第2精度管理情報の変動係数CVは、第1精度管理情報の変動係数CVよりも顕著に小さくなっているものがある。したがって、感度項目を用いて精度管理を行う場合には、複数の検体を測定して得られた第2精度管理情報を用いて行われるのが好ましいことが分かる。
【0126】
このように、発明者らは、測定項目および感度項目について、第1精度管理情報の変動係数CVと、第2精度管理情報の変動係数CVとを比較したところ、感度項目においては、第2精度管理情報の変動係数CVの方が小さくなることを見いだした。したがって、精度管理を行う際に、測定項目においては第1精度管理情報を用い、感度項目においては第2精度管理情報を用いると、精度管理情報のばらつきを小さくできるため、精度管理異常が生じたことを的確に把握でき、安定して精度管理を行うことができる。
【0127】
また、上記のように、測定項目においては第1精度管理情報の変動係数CVが小さく、感度項目においては第2精度管理情報の変動係数CVの値が小さい。このため、
図7に示したように、第1精度管理情報と第2精度管理情報を組み合わせて精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを判定する場合には、第1精度管理情報については測定項目の測定結果を用い、第2精度管理情報については感度項目の測定結果を用いるのが好ましい。この場合、第1精度管理情報および第2精度管理情報に基づく座標点が、
図7において範囲211、212の両方に含まれる場合に、精度管理が適正に行われていると判定され、それ以外の場合には、精度管理異常が生じていると判定される。
【0128】
分析装置20が、第1精度管理情報および第2精度管理情報を管理装置30に送信せず、設置された施設12内で精度管理が行われるような場合、たとえば、第1精度管理情報および第2精度管理情報の全ての項目を用いて、精度管理異常を判定する処理が行われる。このような精度管理が実施される場合、
図8(a)に示したように第1精度管理情報と第2精度管理情報にはばらつきの大きい項目があるため、第1精度管理情報および第2精度管理情報の各項目のうち、ばらつきの大きい項目に基づいて信頼性の低い精度管理異常の報知が頻繁に行われてしまう。このように信頼性の低い報知が頻繁に行われると、報知情報を閲覧するオペレータは、報知情報を信用しにくくなる。
【0129】
しかしながら、実施形態の精度管理システム10は、第1精度管理情報および第2精度管理情報の各項目のうち、ばらつきの小さい項目に基づいて信頼性の高い精度管理異常の報知が行われるよう構成される。具体的には、測定項目については第1精度管理情報を用いて精度管理異常が判定され、感度項目については第2精度管理情報を用いて精度管理異常が判定される。これにより、信頼性の高い精度管理異常のみが報知される。このように信頼性の高い報知情報のみがオペレータに提供されると、オペレータは、適切に分析装置20の精度管理の状態を評価し、精度管理を向上させるための必要な措置を取れる。
【0130】
なお、発明者らの調査によれば、第2精度管理情報の算出におけるNの値をさらに大きく、たとえば99に設定すると、測定項目においても第2精度管理情報の変動係数CVを抑制できることが分かった。したがって、Nの値を大きくすれば、測定項目に基づく精度管理を行う際に、第2精度管理情報を用いても安定した精度管理を実現できる可能性がある。
【0131】
図8(b)は、同じタイミングで生成された第1精度管理情報および第2精度管理情報の組み合わせを、第1精度管理情報と第2精度管理情報を2軸とする座標空間にプロットするためのグラフである。領域221、222、223は、WDF−Yの項目について、それぞれ、3つの異なる分析装置20から得られる第1精度管理情報および第2精度管理情報の組み合わせを示す座標点が分布する領域を例示している。
【0132】
図8(b)に示すように、領域221〜223において、第2精度管理情報に対応する縦方向の幅は、いずれも、第1精度管理情報に対応する横方向の幅に比べて小さい。これは、
図8(a)に示したWDF−Yの項目において、第2精度管理情報の変動係数CVが、第1精度管理情報の変動係数CVよりも小さいことに対応する。
【0133】
横軸の第1精度管理情報に着目すると、領域221〜223は互いに重なり合っている。このことから、第1精度管理情報のばらつきにおいては、分析装置20によって大差がないと言える。一方、縦軸の第2精度管理情報に着目すると、隣り合う領域は互いに重なり合っているものの、領域221、223は互いに重なり合っていない。このことから、第2精度管理情報のばらつきにおいては、分析装置20によって差があるといえる。したがって、感度項目の第2精度管理情報を用いれば、対象となる分析装置20の精度管理が、他の分析装置20の精度管理からどの程度乖離しているかを把握できる。言い換えれば、感度項目について分析装置20ごとに第2精度管理情報の分布を取得すれば、精度管理を行う分析装置20において、他の分析装置20との精度管理の状況の違いを把握できる。
【0134】
図9に示すグラフにおいて、横軸は日付による時系列を示しており、縦軸はWDF−Yにおける精度管理情報の値を示している。なお、実際の精度管理の際には、
図9に示すように濃度レベルの異なる2種類の精度管理物質が測定され、濃度レベルごとに第1精度管理情報が算出される。
図9のグラフ中央付近に示す破線は、精度管理物質が交換されたタイミングを示している。
【0135】
図9に示すように、精度管理物質を測定して得られた第1精度管理情報は、時間の経過とともに小さくなる傾向がある。また、第1精度管理情報の場合、精度管理物質が交換されると、値が大きく変化する傾向がある。一方、複数の検体を測定して得られた第2精度管理情報は、時間が経過してもほぼ一定である。このことからも、感度項目においては、第1精度管理情報よりも第2精度管理情報の方が、ばらつき度合いが小さいことが分かる。したがって、第2精度管理情報を用いれば、精度管理情報の値がばらつきにくいため、安定的に精度管理を行うことができる。
【0136】
ここで、精度管理物質は、人工的に生成されており、通常、一定の使用期間において保存され精度管理に用いられるため、使用期間において経時劣化することがある。一方、検体は、分析精度を担保するために新鮮な状態で測定される。また、蛍光を生じる染料の反応性は、染色対象の試料の劣化状態に応じて異なる。したがって、検体の染料への反応性は、精度管理物質の染料への反応性に比べて、ばらつきが小さくなる。このような理由から、
図9に示すように、第1精度管理情報は時間の経過により変化し、第2精度管理情報は時間の経過によらずほぼ一定となる。これにより、第1精度管理情報と第2精度管理情報の取得において光の強度として蛍光を用いる場合、第2精度管理情報のばらつきを、第1精度管理情報に比べて顕著に抑制できる。よって、第2精度管理情報を出力することにより、精度管理の状況を適切に評価できる。
【0137】
次に、
図10〜
図12を参照して、精度管理システム10の処理について説明する。
【0138】
図10は、分析装置20の処理を示すフローチャートである。
図10の各ステップは、測定部50の測定制御部51または情報処理部60の分析部61によって実行される。
【0139】
分析部61が、測定開始指示を測定部50に送信すると、ステップS101において、測定制御部51は、測定部50の各部を制御して、精度管理物質または検体について測定処理を行う。そして、上述したように、測定制御部51は、測定により取得した測定データを情報処理部60に送信する。
【0140】
ステップS102において、分析部61は、受信した測定データに基づいて測定結果群を算出し、算出した測定結果群を記憶部62に記憶する。具体的には、ステップS101で精度管理物質が測定された場合、分析部61は、受信した測定データに基づいて、
図5に示した測定結果群201を算出する。ステップS101で検体が測定された場合、分析部61は、受信した測定データに基づいて、
図5に示した測定結果群202を算出する。算出された測定結果群201または測定結果群202は、上述したように、測定項目および感度項目の測定結果を含む。
【0141】
ステップS103において、分析部61は、直前のステップS101において精度管理物質が測定されたか否かを判定する。直前のステップS101において精度管理物質が測定されなかった場合、すなわち、直前のステップS101で検体が測定された場合は、処理が終了する。直前のステップS101において精度管理物質が測定された場合、ステップS104において、分析部61は、
図5、6を参照して説明した手順に従って、各測定項目および各感度項目について、それぞれ、i番目のバッチ中の測定結果群202と、1つ前に算出したXbarM(i−1)とに基づいて、今回のXbarM(i)を算出する。
【0142】
続いて、ステップS105において、分析部61は、第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報とを管理装置30に送信する。第1精度管理情報は、精度管理物質を測定して得られた、測定項目および感度項目ごとの測定結果を含む測定結果群201である。第2精度管理情報は、ステップS104で算出した、測定項目および感度項目ごとのXbarM(i)である。
【0143】
なお、
図10に示す処理では、ステップS105の各情報が、精度管理物質の測定の際に管理装置30に送信されているが、これに限らず、所定のタイミング、たとえば6時間ごとに管理装置30に送信されてもよい。
【0144】
図11は、管理装置30の処理を示すフローチャートである。
【0145】
ステップS201において、管理装置30の制御部31は、第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報とを受信したか否かを判定する。制御部31は、
図10のステップS105の処理により送信されたこれらの情報を受信すると、ステップS202において、受信した第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報とを互いに関連付けた状態で受信データベース32bに記憶する。
【0146】
続いて、ステップS203において、制御部31は、直前のステップS202で記憶した情報に基づいて、精度管理に関する異常判定処理を行う。制御部31は、受信した第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報とが、所定の条件に合致したか否かを判定することにより、精度管理に関する異常判定を行う。ステップS203の判定で用いられる所定の条件は、あらかじめ管理装置30の記憶部32に記憶されるほか、複数の分析装置20から取得した第1精度管理情報と、第2精度管理情報と、装置情報とに基づいて、制御部31により設定されてもよい。制御部31により条件が設定されると、分析装置20の特性に応じた条件を設定できる。異常判定処理の具体的例については、追って
図14(a)〜
図15を参照して説明する。続いて、ステップS204において、制御部31は、ステップS203で行った異常判定処理の結果を、判定結果データベース32cに記憶する。
【0147】
図12は、管理装置30の処理を示すフローチャートである。
【0148】
ステップS301において、管理装置30の制御部31は、入力部33を介してモニター担当者から表示指示の入力が行われたか否かを判定する。表示指示には、施設番号、分析装置番号、表示期間、項目名などが含まれている。表示指示の入力が行われると、ステップS302において、制御部31は、受信データベース32bおよび判定結果データベース32cから、表示要求に含まれる施設番号、分析装置番号、表示期間、項目名などに基づいて、第1精度管理情報、第2精度管理情報および異常判定結果を抽出する。
【0149】
続いて、ステップS303において、制御部31は、第1精度管理情報と第2精度管理情報とを含む画面を表示部40に表示する。なお、制御部31は、タブの切り替え操作に応じて、第1精度管理情報を参照可能な画面と第2精度管理情報を参照可能な画面を別々に表示部40に表示してもよい。ステップS304において、制御部31は、ステップS302で抽出した異常判定結果が「精度管理異常」であるか否かを判定する。異常判定結果が「精度管理異常」である場合、ステップS305において、制御部31は、対象となる分析装置20において精度管理異常が生じていることを示す報知情報を出力する。具体的には、制御部31は、ステップS303で表示部40に表示した画面に、精度管理異常が生じた旨を表示する。
【0150】
なお、ステップS305において、制御部31は、管理装置30または他の装置に設けられたスピーカから、精度管理異常が生じた旨を示す音声を出力してもよく、管理装置30または他の装置に設けられた振動発生装置から、モニター担当者が把握可能な振動等の情報を出力してもよい。報知情報は、どのような精度管理異常の判定条件に合致したかを示す情報を含んでいてもよい。
【0151】
図12に示す処理では、モニター担当者による表示指示の入力に応じて、精度管理情報等を含む画面が表示部40に表示されたが、
図11において精度管理情報等が受信データベース32bに記憶され、異常判定結果が判定結果データベース32cに記憶されたタイミングで、自動的に表示部40に精度管理情報等を含む画面が表示されてもよい。
【0152】
図11に示す処理では、異常判定処理および異常判定結果の記憶は、管理装置30が分析装置20から精度管理情報等を受信したタイミングで行われたが、これに限らず、
図12のステップS301において表示指示が入力されたときに行われてもよい。
【0153】
図12に示す処理において、制御部31は、管理装置30以外の装置、たとえば施設11内の他の装置から表示要求を受信した場合にも、精度管理情報と異常判定結果を、表示要求を送信した装置に対して送信してもよい。この場合、表示要求を送信した装置において、精度管理情報と異常判定結果が表示される。
【0154】
以上のように、ステップS303において、第1精度管理情報および第2精度管理情報を参照可能な画面が表示部40に表示されると、モニター担当者は、分析装置20の精度管理の状況を視覚的に把握できる。また、ステップS305において、分析装置20に精度管理異常が生じていることを示す報知情報が出力されると、モニター担当者は、分析装置20の精度管理に異常が生じていることを知ることができる。これにより、モニター担当者は、精度管理異常が生じている分析装置20が設置された施設12の検査技師に連絡するなど、精度管理を改善するための対処をとることができる。
【0155】
図13(a)、(b)は、
図12のステップS303で表示される画面の一例を示す図である。
【0156】
図13(a)、(b)に示す画面310は、第1精度管理情報および第2精度管理情報を時系列で表示するグラフ311と、精度管理物質の名前およびロット番号を示す表示領域312と、試薬の名前およびロット番号を示す表示領域313と、を備える。
図13(a)に示す画面310は、項目としてWDF−Xが表示された状態を示しており、
図13(b)に示す画面310は、項目としてWDF−Yが表示された状態を示している。
【0157】
管理装置30を操作するモニター担当者は、画面310を参照することにより、第1精度管理情報および第2精度管理情報が時系列に沿って変化する状況を確認できる。また、モニター担当者は、画面310を参照することにより、第1精度管理情報および第2精度管理情報が大きく変化するタイミングを把握でき、そのタイミングで精度管理に異常が生じた可能性があることを把握できる。よって、モニター担当者は、そのタイミングにおいて、精度管理情報がどのように推移したかを参照し、さらに適宜、精度管理上検討すべきその他の情報を把握することにより、精度管理の異常およびその原因を推定でき、適切な精度管理を実施できる。また、モニター担当者は、第1精度管理情報の推移と第2精度管理情報の推移とを、1つの画面310で見比べることができる。よって、モニター担当者は、2つの精度管理情報を比較することにより、精度管理に異常が生じた可能性があるか否かを、円滑かつ簡便に判断できる。
【0158】
ここで、
図13(a)、(b)に示す画面310の例では、試薬のロットが変更されたタイミングで、第2精度管理情報に変化が生じていることが分かる。すなわち、
図13(a)の場合は、試薬のロットが変更されたタイミングで、グラフ311中に破線矢印で示すように、WDF−Xの第2精度管理情報が一段小さくなっている。
図13(b)の場合は、試薬のロットが変更されたタイミングで、グラフ311中に破線矢印で示すように、WDF−Yの第2精度管理情報が一段大きくなっている。しかしながら、
図13(a)、(b)のいずれの場合も、第1精度管理情報には特に変化は見られない。このように、精度管理物質に基づく第1精度管理情報に変化が見られないにもかかわらず、検体に基づく第2精度管理情報に変化が見られるような場合、画面310を見たモニター担当者は、試薬に問題が生じている可能性を想定できる。
【0159】
なお、
図13(a)、(b)に示すように、第1精度管理情報が正常であり、第2精度管理情報が大きく変化することにより所定の条件に合致した場合、試薬に異常が生じた可能性があることを示す報知情報が出力されてもよい。この場合、たとえば、
図13(a)、(b)の画面310内に、「試薬異常」が表示されてもよく、試薬異常を報知するための音声や振動が出力されてもよい。これにより、モニター担当者は、試薬に異常が生じた可能性があることを把握できる。
【0160】
図14(a)は、
図12のステップS305で表示される画面の一例を示す図である。
【0161】
図14(a)に示す画面320は、精度管理情報を時系列で表示するグラフ321と、精度管理状況を示す表示領域322と、を備える。
図14(a)に示す画面320は、項目としてWDF−Yが表示された状態、および、対象となる精度管理情報として第2精度管理情報が表示された状態を示している。
図14(a)に示す例では、直近の値が連続して所定のばらつきの範囲から外れたため、
図11のステップS203において精度管理に異常が生じていると判定されている。より具体的には、直近の2つの値が3SDを越えたため、精度管理に異常が生じていると判定されている。SDとは、標準偏差(Standard Deviation)のことである。このような条件が用いられると、分析装置20に精度管理異常が生じた可能性があることを適正に判定できる。精度管理に異常が生じたと判定されたことにより、表示領域322には「異常あり」が表示されている。
【0162】
なお、直近の1つの値が所定のばらつきの範囲から外れた場合に、精度管理に異常が生じていると判定されてもよい。また、
図14(b)に示すように、直近の値が中心線に対して所定の回数連続してプラス側またはマイナス側に偏った場合に、精度管理に異常が生じていると判定されてもよい。
図14(c)に示すように、直近の点が所定の回数連続して上昇または下降した場合に、精度管理に異常が生じていると判定されてもよい。
【0163】
グラフ321に示された中心線およびばらつきの範囲は、対象となる分析装置20における対象項目の複数の値に基づいて設定される。なお、グラフ321に示された中心線およびばらつきの範囲は、対象となる分析装置20および他の分析装置20における対象項目の複数の値に基づいて設定されてもよい。この場合、対象となる分析装置20の精度管理情報を、他の分析装置20の精度管理情報と比較できる。
【0164】
管理装置30を操作するモニター担当者は、画面320を参照することにより、対象となる分析装置20において、精度管理情報が所定の範囲から外れていること、および、精度管理異常が生じた可能性があることを的確に把握できる。これにより、モニター担当者は、精度管理に異常が生じたか否かを円滑に調べることができる。また、モニター担当者は、対象となる分析装置20が、他の分析装置20における精度管理からどの程度乖離しているかを把握できる。よって、モニター担当者は、分析装置20を調整して精度管理の乖離を抑制する対処をとることができる。
【0165】
なお、管理装置30の制御部31が、
図7に示すような第1精度管理情報と第2精度管理情報とを2軸とするグラフに基づいて精度管理異常を判定する場合に、表示部40には、
図7に示すようなグラフを含む画面が表示されてもよい。この場合、モニター担当者は、2つの精度管理情報を参照しながら、円滑に精度管理の評価を行うことができる。また、
図7に示すようなグラフに基づいて精度管理異常が生じていると判定された場合も、精度管理異常が生じていることを示す報知情報が管理装置30において出力されてもよい。
【0166】
図15は、
図12のステップS305で表示される画面の一例を示す図である。
【0167】
図15に示す画面330は、グラフ331、332と、精度管理状況を示す表示領域333と、を備える。グラフ331は、対象となる分析装置20の精度管理情報の正確さを示している。すなわち、グラフ331は、精度管理情報群が、他の分析装置20から取得した精度管理情報に基づいて設定された値にどの程度近いかを示している。グラフ332は、対象となる分析装置20の精度管理情報の精密さを示している。すなわち、グラフ332は、精度管理情報のばらつきの幅が、他の分析装置20から取得した精度管理情報に基づいて設定された所定の幅の範囲にどの程度近いかを示している。
【0168】
グラフ331の横軸および縦軸は、それぞれ、第1精度管理情報の対象項目のSDIおよび第2精度管理情報の対象項目のSDIを示している。対象となる分析装置20における精度管理情報の対象項目のSDIは、以下の式により算出される。
【0169】
SDI=(対象となる分析装置から得られた測定値−全施設の分析装置から得られた測定値の平均値)/全体のSD
【0170】
グラフ332の横軸および縦軸は、それぞれ、第1精度管理情報の対象項目のPIおよび第2精度管理情報の対象項目のPIを示している。対象となる分析装置20における精度管理情報の対象項目のPIは、以下の式により算出される。
【0171】
PI=対象となる分析装置から得られた測定値のSD/全施設の分析装置から得られた測定値のSDの平均値
【0172】
上記2つの式において、「測定値」とは、第1精度管理情報の場合は、対象項目の測定結果のことであり、第2精度管理情報の場合は、対象項目の統計情報のことである。
【0173】
たとえば、1日の測定により、グラフ331、332のそれぞれに1つの点がプロットされる場合について説明する。精度管理物質の測定が朝夕の2回行われる場合、1つのプロットにおける第1精度管理情報のSDIおよびPIは、2個の測定結果に基づいて上記式により算出される。この場合、SDIの算出式における「対象となる分析装置から得られた測定値」は2個の測定結果の平均値となる。また、この場合、2回の精度管理物質の測定の間に5バッチが設定されたとすると、1つのプロットにおける第2精度管理情報のSDIおよびPIは、5個の統計情報に基づいて上記式により算出される。この場合、SDIの算出式における「対象となる分析装置から得られた測定値」は5個の統計情報の平均値となる。なお、1日に限らず、たとえば1週間の測定により、グラフ331、332のそれぞれに1つの点がプロットされてもよい。
【0174】
グラフ331、332には、1日や1週間などの所定期間の間に得られた測定値に基づいて1つの点がプロットされることに限らず、バッチごとの統計情報が取得されるタイミングで1つの点がプロットされてもよい。たとえば、朝に精度管理物質が測定され第1精度管理情報が取得されると、次に精度管理物質が測定されるまでの間、朝得られた第1精度管理情報のSDIおよびPIに対応付けて、複数のバッチごとに得られた第2精度管理情報のSDIおよびPIが関連付けられてもよい。こうすると、グラフ331、332上において、バッチ数に応じて縦方向に複数の点が並ぶことになり、精度管理状況の経時的な変化を把握できる。
【0175】
図15に示す画面330では、項目として「感度項目」が指定されている。このように感度項目が指定されると、
図15のグラフ331、332に示すように、全ての感度項目に対応するSDIとPIがプロットされる。なお、1つの項目が指定されている場合、グラフ331、332には、それぞれ、1つの項目に対応するSDIとPIがプロットされる。
【0176】
図15に示す画面330の例では、項目として感度項目が指定されており、第2精度管理情報のSDIおよびPIがともに3を越えた領域に分布している。したがって、表示領域333には、第2精度管理情報のSDIに基づいて、他の分析装置20と比較して精度管理情報の正確さに問題が生じていることが表示されている。また、表示領域333には、第2精度管理情報のPIに基づいて、他の分析装置20と比較して精度管理情報の精密さに問題が生じていることが表示されている。
【0177】
このように、他の分析装置20と比較して精度管理の異常が判定されると、分析装置20側で精度管理の異常が判定される場合に比べて、判定精度を高めることができる。これにより、信頼性の低い報知が頻繁に行われることを抑制して、信頼性の高い報知のみを行うことができる。よって、モニター担当者は、分析装置20の検査技師に電話等により連絡することで、分析装置20において対処を行うべきことを確実に伝達できる。
【0178】
図15に示す画面330の例では、第1精度管理情報のSDIおよびPIは、ともに3より小さい領域に分布しているが、第2精度管理情報のSDIおよびPIは、ともに3を越えた領域に分布している。この場合、第1精度管理情報のみに基づけば、精度管理に異常なしと判定されてしまう。しかしながら、実施形態のように第2精度管理情報を用いることにより、精度管理に異常が生じていることを適正に判定できる。
【0179】
また、グラフ331、332によれば、精度管理異常がどのような原因で生じたかを判定できる。
【0180】
たとえば、グラフ331において、プロットされた点が右上、右下、左上、または左下に分布している場合、第1精度管理情報と第2精度管理情報のいずれに基づいても精度管理は異常と判定される。この場合、たとえば、分析装置20および試薬の両方に異常が生じていると判定できる。また、グラフ331において、プロットされた点が中央上側または中央下側に分布している場合、第1精度管理情報に基づいて精度管理は正常と判定され、第2精度管理情報に基づいて精度管理は異常と判定される。この場合、たとえば、検体または試薬に異常が生じていると判定できる。また、グラフ331において、プロットされた点が中央左側または中央右側に分布している場合、第1精度管理情報に基づいて精度管理は異常と判定され、第2精度管理情報に基づいて精度管理は正常と判定される。この場合、たとえば、精度管理物質に劣化が生じていると判定できる。
【0181】
このように、管理装置30を操作するモニター担当者は、第1精度管理情報と第2精度管理情報を組み合わせることにより、精度管理異常の原因を詳細に特定できる。また、上記のような精度管理異常の判定および精度管理異常の原因特定は、モニター担当者によって行われることに限らず、管理装置30の制御部31が自動で行ってもよい。また、グラフ331、332の両方に基づいて精度管理の原因が特定されてもよい。
【0182】
また、モニター担当者は、画面330を参照することにより、対象となる分析装置20の精度管理情報を、他の分析装置20との間で比較できるため、適切かつ精度よく精度管理の状況を把握できる。また、表示領域333には、上記のような正確さおよび精密さに関する異常を報知するための内容が表示されるため、モニター担当者は、分析装置20の測定結果の正確さおよび精密さに異常が生じた可能性があることを適正に判定できる。
【0183】
なお、表示領域333に表示される内容は、
図15に示す内容に限らず、対象となる分析装置20において他の分析装置20とは異なる精度管理がなされている可能性があることを示す内容が表示されてもよい。また、グラフ331、332に基づく精度管理異常の判定は、第1精度管理情報と第2精度管理情報の両方に基づいて行われてもよい。また、項目として測定項目の一部または全体が選択された場合には、グラフ331、332に基づく精度管理異常の判定は、第1精度管理情報に基づいて行われてもよい。
【0184】
次に、モニター担当者が画面310、320、330を参照して精度管理に異常が生じていることを疑う場合に、さらに異常の原因を探る方法の一例について説明する。
【0185】
モニター担当者は、管理装置30を操作して、精度管理に異常が生じていると考えられる分析装置20に対して、情報処理部60の表示部63の画面を共有する指示を送信する。これにより、対象となる分析装置20の情報処理部60と、管理装置30との間で画面共有のための通信処理が行われ、表示部63の画面が、管理装置30の表示部40に表示される。モニター担当者は、表示部40に表示される情報処理部60の画面を参照して、精度管理状況をさらに詳細に把握する。
【0186】
図16(a)、(b)は、それぞれ、管理装置30および分析装置20の処理を示すフローチャートである。
【0187】
以下に説明する処理においては、画面共有を実現するために、管理装置30が情報処理部60を直接操作できるように通信する、いわゆるリモートアクセスが行われる。実施形態では、リモートアクセスを実現するためのコンピュータプログラムとして、たとえば、マイクロソフト社のオペレーティングシステム「Windows(登録商標)」上で実行可能な通信アプリケーション「リモートデスクトップ」が用いられる。
【0188】
管理装置30の制御部31は、
図12のステップS304において精度管理異常が生じたと判定した場合に、
図16(a)の処理を開始し、リモートアクセスの開始指示を入力するための入力画面を、表示部40に表示する。入力画面は、分析装置20にログインするためのユーザ名およびパスワードと、分析装置20を特定するためのIPアドレスとを入力するための領域を備える。また、入力画面は、リモートアクセスを開始するための開始ボタンを備える。
【0189】
図16(a)に示すように、ステップS401において、制御部31は、入力画面の開始ボタンを介して、リモートアクセスの開始指示が入力されたか否かを判定する。リモートアクセスの開始指示が入力されると、ステップS402において、制御部31は、入力画面に入力された情報に基づいて、対象となる分析装置20の情報処理部60に接続要求を送信する。そして、対象となる分析装置20の情報処理部60との間で通信が確立すると、ステップS403において、制御部31は、情報処理部60との間でリモートアクセスの通信を開始する。
【0190】
図16(b)の処理は、分析装置20の情報処理部60が起動すると開始される。分析装置20を操作する検査技師は、管理装置30を操作するモニター担当者から電話等によりリモートアクセスを開始する指示を受けた場合、入力部64を操作して、リモートアクセスの受け入れを開始させるプログラムを実行する。
【0191】
図16(b)に示すように、ステップS411において、情報処理部60の分析部61は、リモートアクセスの受け入れを開始させるプログラムが実行されたことにより、リモートアクセスの受入指示が入力されたか否かを判定する。リモートアクセスの受入指示が入力されると、ステップS412において、分析部61は、リモートアクセスの受け入れを開始する。続いて、ステップS413において、分析部61は、
図16(a)のステップS402において管理装置30から送信された接続要求を受信したか否かを判定する。管理装置30の接続要求を受信すると、ステップS414において、分析部61は、管理装置30との間でリモートアクセスの通信を開始する。
【0192】
こうして管理装置30が分析装置20に対してリモートアクセスすると、管理装置30の表示部40に、情報処理部60の表示部63の表示画面が表示され、管理装置30の入力部33により、情報処理部60の入力部64と同様に情報処理部60を操作できるようになる。これにより、管理装置30を操作するモニター担当者は、情報処理部60を直接操作して、分析部61により行われた検体および精度管理物質の測定結果などを、管理装置30の表示部40に表示できる。よって、モニター担当者は、分析装置20の設置場所まで移動することなく、分析装置20の精度管理の状況を直接確認できる。
【0193】
具体的には、管理装置30を操作するモニター担当者は、画面共有により、
図17(a)、(b)に示すような、分析装置20の表示部63に表示されるスキャッタグラム340を、管理装置30の表示部40に表示できる。
図17(a)、(b)に示す例では、スキャッタグラム340の横軸は、SSCすなわち側方散乱光強度を示しており、スキャッタグラム340の縦軸は、FLすなわち蛍光強度を示している。
図17(a)、(b)に示す例では、WDF測定試料の測定により得られたスキャッタグラム340が示されており、スキャッタグラム340には、WDF測定試料の測定により得られた側方散乱光強度および蛍光強度を座標点とする粒子がプロットされている。
図17(b)のスキャッタグラム340上の粒子分布は、
図17(a)のスキャッタグラム340上の粒子分布に比べて、縦方向すなわち蛍光強度の値が圧縮されたような形状となっている。
【0194】
管理装置30を操作するモニター担当者は、画面共有により表示部40に、
図17(a)のように縦方向の幅が正常レベルのスキャッタグラム340が表示されるべきところを、
図17(b)に示すように縦方向の幅が小さいスキャッタグラム340が表示された場合、純正の試薬以外の試薬が用いられている可能性が高いと判定できる。このように、モニター担当者は、精度管理異常を疑う場合に、画面を共有することにより、分析装置20の状態をより詳細に知ることができる。
【0195】
管理装置30の制御部31は、第2精度管理情報に基づいて精度管理に異常が生じていると判定した場合、分析装置20に対して第2精度管理情報の生成に用いた検体の分析結果を表示するための情報を要求する信号を送信してもよい。この場合、分析装置20は、第2精度管理情報の生成に用いた検体を測定した測定データを記憶部62から読み出し、読み出した測定データを管理装置30に送信する。被検者を特定する情報を除いて測定データが管理装置30に送信される。
【0196】
管理装置30は、分析装置20から測定データを受信すると、受信した測定データに基づいて、分析結果としてスキャッタグラム340を生成し、生成したスキャッタグラム340を表示部40に表示する。これにより、モニター担当者は、表示部40に表示されたスキャッタグラム340を参照し、試薬の異常の判定、すなわち、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かの判定を行うことができる。
【0197】
また、管理装置30は、受信した測定データに基づいてスキャッタグラム340を生成する際に、さらにスキャッタグラム340上の粒子分布が縦方向に圧縮されているか否かを判定することにより、対象となる分析装置20において純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを判定してもよい。こうすると、純正の試薬以外の試薬が用いられているか否かを自動的に判定できる。また、判定結果が表示部40に表示されると、モニター担当者は試薬の異常を視覚的かつ迅速に把握できる。なお、制御部31は、受信した測定データからスキャッタグラム340を生成することなく、測定データに対してデータ処理を行うことにより粒子分布の蛍光強度が圧縮されているか否かを判定してもよい。また、制御部31は、分析装置20から測定データを受信することに代えて、測定データに基づくスキャッタグラム340の画像のみを受信してもよい。