特許第6875138号(P6875138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875138積層塗膜、塗装物及び積層塗膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875138
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】積層塗膜、塗装物及び積層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20210510BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20210510BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210510BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20210510BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B05D7/24 303E
   B05D5/06 101A
   B32B7/023
   B32B27/20 A
   B32B27/18 A
   C09D201/00
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-17047(P2017-17047)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-123248(P2018-123248A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 英司
(72)【発明者】
【氏名】嵐 正晴
(72)【発明者】
【氏名】清永 浩
(72)【発明者】
【氏名】辻岡 英顕
(72)【発明者】
【氏名】山根 貴和
(72)【発明者】
【氏名】寺本 浩司
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−185527(JP,A)
【文献】 特開2014−42891(JP,A)
【文献】 特開2011−240255(JP,A)
【文献】 特開2001−347223(JP,A)
【文献】 特開2016−188332(JP,A)
【文献】 特開平9−124976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B32B 1/00−43/00
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の表面に重ねられた光輝材を含有する第1ベース層と、該第1ベース層の表面に重ねられた有機系顔料を含有する透光性を有する第2ベース層と、該第2ベース層の表面に重ねられた透明クリヤ層とを備えている積層塗膜であって、
上記被塗物が、自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース層及び第2ベース層各々が、分子量が500以上700以下である同種の有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記有機系顔料が赤系顔料であり、
上記赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項2】
請求項1において、
上記赤系顔料がペリレンレッドであることを特徴とする積層塗膜。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記第2ベース層が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする積層塗膜。
【請求項4】
請求項3において、
上記無機系紫外線吸収剤が、酸化鉄のナノ粒子であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記被塗物はその表面に電着塗膜を有し、該電着塗膜の表面に上記第1ベース層が重ねられていることを特徴とする積層塗膜。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記第1ベース層が赤系顔料を含有することを特徴とする積層塗膜。
【請求項7】
被塗物に請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の積層塗膜を備えることを特徴とする塗装物。
【請求項8】
被塗物の表面に第1ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース層を形成する工程、該未硬化の第1ベース層の表面に第2ベース塗料を塗装して未硬化の透光性を有する第2ベース層を形成する工程、該未硬化の第2ベース層の表面にクリヤ塗料を塗装して未硬化の透明クリヤ層を形成する工程、並びに上記未硬化の第1ベース層、未硬化の第2ベース層、および未硬化の透明クリヤ層を同時に加熱硬化する工程を含む積層塗膜の形成方法であって、
上記被塗物が、硬化した電着塗膜を表面に有する自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース塗料が、光輝材、及び分子量が500以上700以下である有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記第2ベース塗料が、有機系赤系顔料、及び上記第1ベース塗料の上記紫外線吸収剤と同種の分子量が500以上700以下である有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記有機系赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項9】
請求項8において、
上記赤系顔料がペリレンレッドであることを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9において、
上記第2ベース塗料が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項11】
請求項10において、
上記無機系紫外線吸収剤が、酸化鉄のナノ粒子であることを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11のいずれか一において、
上記第1ベース塗料が赤系顔料を含有することを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層塗膜、塗装物及び積層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の高い意匠性が求められる被塗物については、ハイライトの彩度が高い塗色を得ることが要望されている。これに対して、特許文献1には、自動車関連部材等に有用な成形用積層シートに関し、深み感のある意匠を得ることが記載されている。それは、金属光沢層の上に着色層を重ねた積層シートでおいて、着色層の透過光の明度Lを20〜80とし、金属光沢層の光沢値を200以上とし、45度の正反射光の彩度Cを150以上にするというものである。しかし、上記成形用積層シートは用途が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−281451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被塗物に光輝材を含有する第1ベース層(メタリックベース層)、有機系顔料を含有する第2ベース層(カラークリヤ層)及び透明クリヤ層を順に重ねてなる積層塗膜を設けることは一般に知られている。このような積層塗膜によれば、意匠性の高い塗色を得ることができるものの、紫外線による有機系顔料の劣化、すなわち、退色が見られる。
【0005】
本発明の課題は、第2ベース層の有機系顔料を紫外線から確実に保護し、積層塗膜の退色を長期にわたって抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、第1ベース層及び第2ベース層に分子量が大きい同種の有機系紫外線吸収剤を添加するようにした。
【0007】
ここに開示する積層塗膜は、被塗物の表面に重ねられた光輝材を含有する第1ベース層と、該第1ベース層の表面に重ねられた有機系顔料を含有する透光性を有する第2ベース層と、該第2ベース層の表面に重ねられた透明クリヤ層とを備えていて、
上記被塗物が、自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース層及び第2ベース層各々が、分子量が500以上700以下である同種の有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記有機系顔料が赤系顔料であり、
上記赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする。
【0008】
上記積層塗膜において、第2ベース層中の有機系紫外線吸収剤は、分子量が大きいから、低分子量の紫外線吸収剤に比べて長期間にわたって紫外線吸収効果を発揮する。
【0009】
第2ベース層だけでなく、第1ベース層にも同種の紫外線吸収剤を添加しているのは、第2ベース層から第1ベース層への紫外線吸収剤の移行を抑制するためである。
【0010】
この点をさらに具体的に説明する。
【0011】
まず、紫外線吸収剤は、赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあることによって、該顔料を紫外線から有効に保護することができる。しかし、第2ベース層に紫外線吸収剤を分散させただけでは、その紫外線吸収剤が赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあるとは必ずしも限らない。本発明は、透明クリヤ層に紫外線吸収剤を添加することを妨げるものではないが、透明クリヤ層は、積層塗膜のトップコート層であって、その表面が外部に露出している。すなわち、雨水や光に直接晒される。そのため、透明クリヤ層に紫外線吸収剤を添加しても、その紫外線吸収剤が透明クリヤ層の表面から失われやすく、該紫外線吸収剤の減少速度が速い。
【0012】
一方、第2ベース層に添加された上記紫外線吸収剤が透明クリヤ層側に移動することは、問題がなく、むしろ好ましい。つまり、その移動によって透明クリヤ層の紫外線吸収剤の減少が補われ、紫外線吸収剤が赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあることになって、該顔料の紫外線からの保護に有利になるからである
しかし、仮に第2ベース層のみに上記有機系紫外線吸収剤を添加し、当該紫外第1ベース層に当該紫外線吸収剤を添加していないならば、第2ベース層の紫外線吸収剤は、透明クリヤ層側に移動するだけでなく、第1ベース層側にも移動するから、透明クリヤ層側への移動量が少なくなる。むしろ、第2ベース層の紫外線吸収剤が、透明クリヤ層側ではなく、第1ベース層側に多く移動することになる。そのため、第2ベース層の赤系顔料よりも透明クリヤ層側にある紫外線吸収剤の量が期待するほどは多くならない。
【0013】
そこで、本発明は、第2ベース層だけでなく、第1ベース層にも当該紫外線吸収剤を添加することにより、第1ベース層側への紫外線吸収剤の移動を抑え、紫外線吸収剤が透明クリヤ層側へ相対的に多く移動するようにしたものである。これにより、第2ベース層の赤系顔料が有効に保護されるから、長期にわたって積層塗膜の退色防止効果が得られる。
【0014】
好ましいのは、第2ベース層の上記紫外線吸収剤の濃度を第1ベース層の上記紫外線吸収剤の濃度の1/3倍以上3倍以下にすることである。
【0015】
また、上記第2ベース層の上記赤系顔料の平均粒径(「個数平均粒径」のこと。以下、同じ。)100nm以下である。
【0016】
このようなナノ粒子顔料を採用すると、その粒径が可視光線の波長よりも小さいことから、当該顔料粒子による可視光線の拡散反射光が少なくなる。また、波長600nm以下の光透過率が低くなって、波長600nmを超える赤の光透過率が高くなる。すなわち、彩度が高い言わば透明感のある赤色の塗色を得ることに有利になる。
【0017】
その一方で、顔料粒径が小さいことから、顔料の紫外線による劣化が進み易くなるとともに、波長が短い青色の光の散乱(レイリー散乱)を生じ易くなるが、上述の有機系紫外線吸収剤によって、紫外線から当該顔料を保護することができるとともに、レイリー散乱による青の光を吸収することができる。
【0018】
すなわち、上述の有機系紫外線吸収剤を第1及び第2の両ベース層に添加しているから、紫外線からの顔料の保護効果及びレイリー散乱光の吸収効果が得られ、そのため、顔料粒径のナノ化による高彩度化をより一層図ることができるとともに、高彩度な発色を長期間にわたって維持することができる。
【0019】
好ましい実施形態では、少なくとも上記第2ベース層が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有する。
【0020】
上述の有機系紫外線吸収剤は紫外線の吸収に有効であるものの、その特性上400nm付近の波長の光の吸収性が高くない。そこで、当該実施形態では、第2ベース層に粒径が小さい無機系のナノ粒子紫外線吸収剤を添加するものである。これにより、波長450nm以下の光透過率を大きく低下させることができるから、第1ベース層や該第1ベース層の下地(例えば、電着塗膜)の紫外線からの保護に有利になる。
【0021】
さらに、無機系のナノ粒子紫外線吸収剤であれば、上記ナノ粒子顔料による高彩度塗色の発現を妨げることなく、紫外線吸収効果を得ることができる。しかも、無機系紫外線吸収剤は、紫外線による劣化がほとんどなく、また、塗膜中を実質的に移動しないことから、長期間にわたって紫外線吸収効果が維持される。そうして、第2ベース層への無機系のナノ粒子紫外線吸収剤の添加により、この第2ベース層への上記有機系紫外線吸収剤の添加量を減らすことができ、上記ナノ粒子顔料による高彩度塗色の発現に有利になる。
【0022】
好ましい実施形態では、上記被塗物はその表面に電着塗膜を有し、該電着塗膜の表面に上記第1ベース層が重ねられている。上記有機系紫外線吸収剤が、さらには上記無機系紫外線吸収剤が電着塗膜を紫外線から保護することになる。よって、電着塗膜の表層部の劣化が防止され、その上側の積層塗膜が剥離することが防止される。
【0023】
ここに、電着塗膜を紫外線から保護する観点から、上記無機系紫外線吸収剤を上記第2ベース層だけでなく、上記第1ベース層にも添加することが好ましい。
【0024】
好ましい実施形態では、上記第1ベース層が顔料を含有する。これにより、第2ベース層を透過して光輝材で拡散反射される光が第1ベース層の顔料によって吸収されるため、塗装物を視る角度によって明度が変化し、積層塗膜の陰影感ないしは金属質感が高くなる。
【0025】
ここに開示する積層塗膜の形成方法は、被塗物の表面に第1ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース層を形成する工程、該未硬化の第1ベース層の表面に第2ベース塗料を塗装して未硬化の透光性を有する第2ベース層を形成する工程、該未硬化の第2ベース層の表面にクリヤ塗料を塗装して未硬化の透明クリヤ層を形成する工程、並びに上記未硬化の第1ベース層、未硬化の第2ベース層、および未硬化の透明クリヤ層を同時に加熱硬化する工程を含み、
上記被塗物が、硬化した電着塗膜を表面に有する自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース塗料が、光輝材、及び分子量が500以上700以下である有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記第2ベース塗料が、有機系赤系顔料、及び上記第1ベース塗料の上記紫外線吸収剤と同種の分子量が500以上700以下である有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記有機系赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする。
【0026】
これにより、上述の長期にわたって退色及び電着塗膜の紫外線劣化が抑制された積層塗膜を形成することができる。
【0028】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記赤系顔料がペリレンレッドである。
【0029】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記第2ベース塗料が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有する。
【0030】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記無機系紫外線吸収剤が、酸化鉄のナノ粒子である。
【0031】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記第1ベース塗料が赤系顔料を含有する。
【0032】
自動車用内外装品としては、コンソールパネル、インストルメントパネル、各ピラートリム、ドアトリム等の自動車用内装品、バンパ、サイドシルガーニッシュ、サイドミラーハウジング、フロントアンダスポイラ、リアアンダスポイラ、ラジエータグリルパネル等の自動車用外装品が挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、被塗物の表面に重ねられた光輝材を含有する第1ベース層と、該第1ベース層の表面に重ねられた赤系顔料を含有する透光性を有する第2ベース層と、該第2ベース層の表面に重ねられた透明クリヤ層とを備え、上記第1ベース層及び第2ベース層各々が、分子量が500以上700以下である同種の有機系紫外線吸収剤を含有し、赤系顔料の平均粒径が100nm以下であるから、第2ベース層から第1ベース層側への紫外線吸収剤の移動を抑えられ、紫外線吸収剤が相対的に透明クリヤ層側へ多く移動するようになる。よって、第2ベース層の赤系顔料が紫外線吸収剤によって効果的に保護され、長期にわたって積層塗膜の退色防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】塗装物を模式的に示す断面図。
図2】赤系顔料に可視光が入射したときの現象の顔料粒径による違いを示す説明図。
図3】各種第2ベース層の光透過スペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0036】
<積層塗膜の構成例>
図1に示す本実施形態に係る塗装物は、自動車の車体(鋼板)1の表面にカチオン電着塗膜2が設けられてなる被塗物に、第1ベース層3,透光性を有する第2ベース層4及び透明クリヤ層5よりなる積層塗膜が設けられてなる。第1ベース層3は、光輝材11、赤系顔料12、分子量500以上の有機系高分子量型紫外線吸収剤13及び無機系のナノ粒子紫外線吸収剤14各々を樹脂中に分散した状態で含有する。第2ベース層4は、有機系の赤系顔料15、分子量500以上の有機系高分子量型紫外線吸収剤13及び無機系のナノ粒子紫外線吸収剤14各々を樹脂中に分散した状態で含有する。透明クリヤ層5は、有機系紫外線吸収剤16を樹脂中に分散した状態で含有する。
【0037】
第1ベース層3の光輝材11としては、特に限定されるものではないが、フレーク状の光輝材、特にアルミフレークを採用することが好ましい。
【0038】
第1ベース3の赤系顔料12としては、特に限定されるものではないが、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ペリレン、ペリノン、インジゴイド等を採用することができ、特に高彩度の赤の発色等の観点からペリレンレッドを採用することが好ましい。
【0039】
第1ベース層3及び第2ベース層4の分子量500以上の紫外線吸収剤13としては、特に限定されるものではないが、例えば、CAS No.103597-45-1(分子量659)等の高分子量型ベンゾトリアゾール系や、CAS No.371146-04-2(分子量512)、CAS No.222529-65-9(分子量700)、CAS No.153519-44-9(分子量647)等のトリアジン系の紫外線吸収剤を採用することができる。
【0040】
紫外線吸収剤13に関し、その分子量が大きくなると、該紫外線吸収剤による拡散反射を生じ易くなるから、これを抑える観点から、その分子量は700以下であることが好ましい。
【0041】
第1ベース層3及び第2ベース層4の無機系のナノ粒子紫外線吸収剤14としては、特に限定されるものではないが、金属酸化物のナノ粒子、例えば、酸化亜鉛、酸化鉄等を採用することができ、特に酸化鉄(α−Fe)のナノ粒子を採用することが好ましい。酸化鉄ナノ粒子の場合、波長600nm以下の光透過率が低くなり(青から紫外領域の光透過率は略ゼロ)、しかも波長600nmを超える赤の光透過率が高くなることから、彩度の高い赤の発色に有利になる。
【0042】
第2ベース層4の有機系赤系顔料15としては、特に限定されるものではないが、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ペリレン、ペリノン、インジゴイド等を採用することができ、特に高彩度の赤の発色等の観点からペリレンレッドを採用することが好ましい。
【0043】
透明クリヤ層5の有機系紫外線吸収剤16としては、特に限定されるものではないが、例えば、CAS No.2440-22-4(分子量225)、CAS No.3896-11-5(分子量315)、CAS No.70321-86-7(分子量447)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、CAS No.1843-05-6(分子量326)等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等を採用することができる。
【0044】
第1ベース層3及び第2ベース層4は、水性ベース塗料或いは油性(溶剤型)ベース塗料の塗装によって形成することができる。水性ベース塗料に関し、主成分である水性樹脂については、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニル樹脂等を用いることができる。水性ベース塗料には、必要に応じて、架橋剤、扁平顔料、硬化触媒、増粘剤、有機溶剤、塩基性中和剤、光安定剤、表面調整剤、酸化防止剤、シランカップリング剤等の塗料用添加剤等を適宜配合することができる。
【0045】
透明クリヤ層5を形成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、或いはカルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等が挙げられる。例えば、2液ウレタンクリヤ塗料は、水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する。有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。クリヤ塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜配合することができる。
【0046】
<第2ベース層4の赤系顔料の粒径及び紫外線吸収の要求について>
図2(a)に示すように、赤系顔料の粒径が大きいとき(例えば500nm程度)は、顔料に入射した可視光線が全波長にわたって幾何光学的に反射ないし散乱され、顔料を透過する赤の光透過率も低い。これに対して、顔料粒径が図2(b)、(c)に示すように小さくなると(図2(b)は例えば100nm)、図2(c)は例えば50nm)、幾何光学的な反射は少なくなるとともに、赤の光透過率が高くなっていく。その一方で、青の散乱光(レイリー散乱)を生ずるようになる。
【0047】
従って、赤の彩度を高くするという観点から、当該赤系顔料の平均粒径は、100nm以下であること、さらには70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらにが好ましい。
【0048】
但し、上述の如く、顔料粒径が小さくなると、レイリー散乱によって青味が出てくる。
【0049】
従って、第2ベース層4の赤系顔料15の紫外線による劣化を防止、並びに電着塗膜2の紫外線からの保護に加えて、上記レイリー散乱による青味によって赤の彩度が落ちることを避けるためにも、紫外線吸収剤が必要になる。
【0050】
図3は、第2ベース層に関し、赤系顔料15としてのペリレンレッドのみを添加したケース、ペリレンレッドと有機UVA(有機系紫外線吸収剤)を添加したケース、ペリレンレッドとナノ酸化鉄(無機系紫外線吸収剤としての酸化鉄ナノ粒子)を添加したケース、並びにペリレンレッドと有機UVAとナノ酸化鉄を添加したケース各々の光透過スペクトルを示す。いずれも第2ベース層の厚さは12μmである。ペリレンレッドの平均粒径50nmであり、添加量は2質量%である。有機UVAは分子量659のベンゾトリアゾール系UVAであり、添加量は3質量%である。ナノ酸化鉄の平均粒径は50nmであり、その添加量は2質量%である。
【0051】
ペリレンレッドのみのケースでは、400nm付近に透過率の大きなピークが現れ、且つ400nm以下の波長域の透過率も高くなっている。これに対して、有機UVAを添加したケース(ナノ酸化鉄なし)では、370nm以下の波長域の透過率が大きく低下している。酸化鉄ナノ粒子を添加したケース(有機UVAなし)では、450nm以下の透過率が大きく低下しているが、350nm付近の透過率は有機UVAを添加したケース(ナノ酸化鉄なし)よりも高くなっている。そうして、有機UVAとナノ酸化鉄を添加したケースでは、400nm強付近のピークが低くなっているとともに、370nm以下の波長域の透過率が略零になっており、これから、赤の彩度が高くなること、並びに紫外線からの電着塗膜の保護に有利になることがわかる。
【0052】
<積層塗膜の具体例>
−サンプル1−
リン酸亜鉛処理したダル鋼板(基板)に、カチオン電着塗料を乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。得られた被塗物の電着塗膜の上に、第1ベース塗料(アクリルエマルション系水性塗料)を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の第1ベース層を形成した。当該塗料には、光輝材としてのアルミフレークを12質量%、顔料としての平均粒径50nmのペリレンレッドを8質量%、有機系紫外線吸収剤としての高分子量型ベンゾトリアゾール系UVA(CAS No.103597-45-1(分子量659))を3質量%、無機系紫外線吸収剤としての酸化鉄ナノ粒子(平均粒径50nm)を2質量%となるように配合した。ここに、「質量%」は全塗料固形分質量に対する百分率である(以下同じ。)。
【0053】
次いで、第1ベース層の上に、第2ベース塗料(アクリルエマルション系水性塗料)を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の透光性を有する第2ベース層を形成した。当該塗料には、有機顔料としてのペリレンレッドを2質量%、有機系紫外線吸収剤としての高分子量型ベンゾトリアゾール系UVA(CAS No.103597-45-1(分子量659))を3質量%、無機系紫外線吸収剤としての酸化鉄ナノ粒子(平均粒径50nm)を2質量%となるように配合した。
【0054】
次いで、第2ベース層の上に、2液ウレタンクリヤ塗料を回転霧化式静電塗装機によって塗装することにより、未硬化の透明クリヤ層を形成した。当該クリヤ塗料には、有機系紫外線吸収剤としての低分子量型ベンゾトリアゾール系UVA(CAS No.70321-86-7(分子量447))を5質量%となるように配合した。
【0055】
しかる後、上記未硬化の第1ベース層、未硬化の第2ベース層、および未硬化の透明クリヤ層を同時に加熱(140℃で20分間加熱)硬化させた。
【0056】
このサンプル1において、第1ベース層及び第2ベース層各々の乾燥厚さは12μmであり、透明クリヤ層の乾燥厚さは30μmである。
【0057】
なお、第1ベース塗料及び第2ベース塗料をウェットオンウェットで塗装した後、プレヒート(80℃で3分間加熱)を行ない、クリヤ塗装後に焼付け(140℃で20分間加熱)を行なうようにしてもよい。
【0058】
−サンプル2−8−
表1に示すように、第1ベース層及び第2ベース層をサンプル1とは異なる配合のベース塗料で形成したサンプル2−8を作製した。その作製はサンプル1と同様にして行なった。
【0059】
【表1】
【0060】
サンプル2−4は、サンプル1とは分子量が異なる有機系紫外線吸収剤を第1ベース層及び第2ベース層に用いている。すなわち、サンプル2ではCAS No.371146-04-2のトリアジン系紫外線吸収剤(分子量512)を用い、サンプル3ではCAS No.222529-65-9のトリアジン系紫外線吸収剤(分子量700)を用い、サンプル4ではCAS No.2440-22-4のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(分子量225)を用いている。
【0061】
サンプル5は、平均粒径400nmのペリレンレッドを第2ベース層の有機顔料として用いた点がサンプル1と相違する。
【0062】
サンプル6は、第1ベース層の有機系紫外線吸収剤の配合量を零にした点がサンプル1と相違する。
【0063】
サンプル7は、第2ベース層の無機系紫外線吸収剤の配合量を零にして、第2ベース層の有機系紫外線吸収剤の量を多くした点がサンプル1と相違する。
【0064】
サンプル8は、第1ベース層及び第2ベース層の有機系紫外線吸収剤として、分子量が760であるCAS No.84268-08-6のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 を用いた点がサンプル1と相違する。
【0065】
サンプル2―8の他の構成(基板、電着塗膜及び透明クリヤ塗膜の各構成、並びに、第1ベース層及び第2ベース層各々の乾燥厚さ)はサンプル1と同じである。
【0066】
[サンプル1―8に係る積層塗膜の評価]
サンプル1―8各々の塗装仕上げ直後の彩度(初期彩度)及び耐候試験後の彩度を測定した。
【0067】
耐候試験は、JASO M 351(自動車外装部品―キセノンア―クランプによる促進耐候性試験方法)に規定される方法で行ない、放射露光量600MJ/mとなるようにした。結果を表1に示す。
【0068】
サンプル1―3は、初期彩度が高く、耐候試験後においての彩度の大きな低下はない。
【0069】
これに対して、サンプル4は、初期彩度は高いものの、耐候試験後の彩度が低くなっている。第1ベース層及び第2ベース層に用いた有機系紫外線吸収剤が低分子量であるため、この有機系紫外線吸収剤が劣化して第2ベース層の顔料ペリレンレッドの劣化が進んだためと認められる。
【0070】
サンプル5は、初期彩度がサンプル1に比べて低くなっており、その結果、耐候試験後の彩度も低くなっている。第2ベース層に用いたペリレンレッドの粒径が大きいためと認められる。
【0071】
サンプル6は、初期彩度は高いものの、耐候試験後の彩度が低くなっている。第1ベース層の有機系紫外線吸収剤の含有量が零であるため、第2ベース層から第1ベース層への有機系紫外線吸収剤の移行量が多くなったためと認められる。すなわち、第2ベース層の有機系紫外線吸収剤によるペリレンレッドの紫外線からの保護が不十分になったためと認められる。
【0072】
サンプル7は、初期彩度がサンプル1に比べて低くなっている。第2ベース層の高分子量型の有機系紫外線吸収剤の量が多いためと認められる。耐候試験による彩度も低下度合も大きい。第2ベース層に添加された紫外線吸収剤は有機系のみであり、該紫外線吸収剤の移行や劣化によると認められる。
【0073】
サンプル8は、初期彩度がサンプル1に比べて低くなっており、その結果、耐候試験後の彩度も低くなっている。第1ベース層及び第2ベース層に用いた有機系紫外線吸収剤の分子量が過度に大きいために、該紫外線吸収剤による拡散反射が強くなって彩度が落ちたものと認められる。
【符号の説明】
【0074】
1 自動車の車体(鋼板)
2 電着塗膜
3 第1ベース層
4 第2ベース層
5 透明クリヤ層
11 光輝材
12 赤系顔料
13 有機系高分子量型紫外線吸収剤
14 無機系のナノ粒子紫外線吸収剤
15 有機系の赤系顔料
16 有機系紫外線吸収剤
図1
図2
図3