【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、第1ベース層及び第2ベース層に分子量が大きい同種の有機系紫外線吸収剤を添加するようにした。
【0007】
ここに開示する積層塗膜は、被塗物の表面に重ねられた光輝材を含有する第1ベース層と、該第1ベース層の表面に重ねられた有機系顔料を含有する透光性を有する第2ベース層と、該第2ベース層の表面に重ねられた透明クリヤ層とを備えていて、
上記被塗物が、自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース層及び第2ベース層各々が、分子量が500以上
700以下である同種の有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記有機系顔料が赤系顔料で
あり、
上記赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする。
【0008】
上記積層塗膜において、第2ベース層中の有機系紫外線吸収剤は、分子量が大きいから、低分子量の紫外線吸収剤に比べて長期間にわたって紫外線吸収効果を発揮する。
【0009】
第2ベース層だけでなく、第1ベース層にも同種の紫外線吸収剤を添加しているのは、第2ベース層から第1ベース層への紫外線吸収剤の移行を抑制するためである。
【0010】
この点をさらに具体的に説明する。
【0011】
まず、紫外線吸収剤は、赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあることによって、該顔料を紫外線から有効に保護することができる。しかし、第2ベース層に紫外線吸収剤を分散させただけでは、その紫外線吸収剤が赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあるとは必ずしも限らない。本発明は、透明クリヤ層に紫外線吸収剤を添加することを妨げるものではないが、透明クリヤ層は、積層塗膜のトップコート層であって、その表面が外部に露出している。すなわち、雨水や光に直接晒される。そのため、透明クリヤ層に紫外線吸収剤を添加しても、その紫外線吸収剤が透明クリヤ層の表面から失われやすく、該紫外線吸収剤の減少速度が速い。
【0012】
一方、第2ベース層に添加された上記紫外線吸収剤が透明クリヤ層側に移動することは、問題がなく、むしろ好ましい。つまり、その移動によって透明クリヤ層の紫外線吸収剤の減少が補われ、紫外線吸収剤が赤系顔料よりも透明クリヤ層側にあることになって、該顔料の紫外線からの保護に有利になるからである
しかし、仮に第2ベース層のみに上記有機系紫外線吸収剤を添加し、当該紫外第1ベース層に当該紫外線吸収剤を添加していないならば、第2ベース層の紫外線吸収剤は、透明クリヤ層側に移動するだけでなく、第1ベース層側にも移動するから、透明クリヤ層側への移動量が少なくなる。むしろ、第2ベース層の紫外線吸収剤が、透明クリヤ層側ではなく、第1ベース層側に多く移動することになる。そのため、第2ベース層の赤系顔料よりも透明クリヤ層側にある紫外線吸収剤の量が期待するほどは多くならない。
【0013】
そこで、本発明は、第2ベース層だけでなく、第1ベース層にも当該紫外線吸収剤を添加することにより、第1ベース層側への紫外線吸収剤の移動を抑え、紫外線吸収剤が透明クリヤ層側へ相対的に多く移動するようにしたものである。これにより、第2ベース層の赤系顔料が有効に保護されるから、長期にわたって積層塗膜の退色防止効果が得られる。
【0014】
好ましいのは、第2ベース層の上記紫外線吸収剤の濃度を第1ベース層の上記紫外線吸収剤の濃度の1/3倍以上3倍以下にすることである。
【0015】
また、上記第2ベース層の上記赤系顔料の平均粒径(「個数平均粒径」のこと。以下、同じ。)
は100nm以下である。
【0016】
このようなナノ粒子顔料を採用すると、その粒径が可視光線の波長よりも小さいことから、当該顔料粒子による可視光線の拡散反射光が少なくなる。また、波長600nm以下の光透過率が低くなって、波長600nmを超える赤の光透過率が高くなる。すなわち、彩度が高い言わば透明感のある赤色の塗色を得ることに有利になる。
【0017】
その一方で、顔料粒径が小さいことから、顔料の紫外線による劣化が進み易くなるとともに、波長が短い青色の光の散乱(レイリー散乱)を生じ易くなるが、上述の有機系紫外線吸収剤によって、紫外線から当該顔料を保護することができるとともに、レイリー散乱による青の光を吸収することができる。
【0018】
すなわち、上述の有機系紫外線吸収剤を第1及び第2の両ベース層に添加しているから、紫外線からの顔料の保護効果及びレイリー散乱光の吸収効果が得られ、そのため、顔料粒径のナノ化による高彩度化をより一層図ることができるとともに、高彩度な発色を長期間にわたって維持することができる。
【0019】
好ましい実施形態では、少なくとも上記第2ベース層が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有する。
【0020】
上述の有機系紫外線吸収剤は紫外線の吸収に有効であるものの、その特性上400nm付近の波長の光の吸収性が高くない。そこで、当該実施形態では、第2ベース層に粒径が小さい無機系のナノ粒子紫外線吸収剤を添加するものである。これにより、波長450nm以下の光透過率を大きく低下させることができるから、第1ベース層や該第1ベース層の下地(例えば、電着塗膜)の紫外線からの保護に有利になる。
【0021】
さらに、無機系のナノ粒子紫外線吸収剤であれば、上記ナノ粒子顔料による高彩度塗色の発現を妨げることなく、紫外線吸収効果を得ることができる。しかも、無機系紫外線吸収剤は、紫外線による劣化がほとんどなく、また、塗膜中を実質的に移動しないことから、長期間にわたって紫外線吸収効果が維持される。そうして、第2ベース層への無機系のナノ粒子紫外線吸収剤の添加により、この第2ベース層への上記有機系紫外線吸収剤の添加量を減らすことができ、上記ナノ粒子顔料による高彩度塗色の発現に有利になる。
【0022】
好ましい実施形態では、上記被塗物はその表面に電着塗膜を有し、該電着塗膜の表面に上記第1ベース層が重ねられている。上記有機系紫外線吸収剤が、さらには上記無機系紫外線吸収剤が電着塗膜を紫外線から保護することになる。よって、電着塗膜の表層部の劣化が防止され、その上側の積層塗膜が剥離することが防止される。
【0023】
ここに、電着塗膜を紫外線から保護する観点から、上記無機系紫外線吸収剤を上記第2ベース層だけでなく、上記第1ベース層にも添加することが好ましい。
【0024】
好ましい実施形態では、上記第1ベース層が顔料を含有する。これにより、第2ベース層を透過して光輝材で拡散反射される光が第1ベース層の顔料によって吸収されるため、塗装物を視る角度によって明度が変化し、積層塗膜の陰影感ないしは金属質感が高くなる。
【0025】
ここに開示する積層塗膜の形成方法は、被塗物の表面に第1ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース層を形成する工程、該未硬化の第1ベース層の表面に第2ベース塗料を塗装して未硬化の透光性を有する第2ベース層を形成する工程、該未硬化の第2ベース層の表面にクリヤ塗料を塗装して未硬化の透明クリヤ層を形成する工程、並びに上記未硬化の第1ベース層、未硬化の第2ベース層、および未硬化の透明クリヤ層を同時に加熱硬化する工程を含み、
上記被塗物が、硬化した電着塗膜を表面に有する自動車の車体又は自動車用内外装品であり、
上記第1ベース塗料が、光輝材、及び分子量が500以上
700以下である有機系紫外線吸収剤を含有し、
上記第2ベース塗料が、有機系赤系顔料、及び上記第1ベース塗料の上記紫外線吸収剤と同種の分子量が500以上
700以下である有機系紫外線吸収剤を含有
し、
上記有機系赤系顔料の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする。
【0026】
これにより、上述の長期にわたって退色及び電着塗膜の紫外線劣化が抑制された積層塗膜を形成することができる。
【0028】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記赤系顔料がペリレンレッドである。
【0029】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記第2ベース塗料が、粒径が100nm以下である無機系紫外線吸収剤を含有する。
【0030】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記無機系紫外線吸収剤が、酸化鉄のナノ粒子である。
【0031】
上記積層塗膜の形成方法の好ましい実施形態では、上記第1ベース塗料が赤系顔料を含有する。
【0032】
自動車用内外装品としては、コンソールパネル、インストルメントパネル、各ピラートリム、ドアトリム等の自動車用内装品、バンパ、サイドシルガーニッシュ、サイドミラーハウジング、フロントアンダスポイラ、リアアンダスポイラ、ラジエータグリルパネル等の自動車用外装品が挙げられる。