特許第6875174号(P6875174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875174酵母培養用培地ならびにそれを用いた酵母の培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875174
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】酵母培養用培地ならびにそれを用いた酵母の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   C12N1/16 E
   C12N1/16 A
   C12N1/16 F
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-71417(P2017-71417)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-171003(P2018-171003A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】518148478
【氏名又は名称】シーシーアイホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】平野 達也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−034249(JP,A)
【文献】 特開2012−110352(JP,A)
【文献】 Biotechnol. Prog. 2000, Vol.16, pp.657-660
【文献】 Biotechnol. Biofuels, 2015, Vol.8 ,No.104, pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源と、窒素源と、リン源と、マグネシウム源と、溶媒と、を含有する酵母培養用培地であって、
前記炭素源が100g/L超のグリセロールを含み
鉄、カルシウム、銅、ホウ素、およびマンガンからなる微量元素をこれらの元素換算の合計量で0.0008g/L以上含有し、かつ、
前記微量元素の含有量が、0.0008〜0.0012g/Lであることを特徴とする、酵母培養用培地。
【請求項2】
前記グリセロールの含有量が、150〜250g/Lである、請求項1に記載の酵母培養用培地。
【請求項3】
前記微量元素の含有量(元素換算)が、ホウ素原子の含有量を1質量部としたときに、鉄原子が6〜8質量部、カルシウム原子が6〜8質量部、銅原子が5〜7質量部、マンガン原子が4〜6質量部である、請求項1または2に記載の酵母培養用培地。
【請求項4】
前記窒素源が無機窒素源である、請求項1〜のいずれか1項に記載の酵母培養用培地。
【請求項5】
前記無機窒素源が、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニアおよび尿素からなる群から選択される、請求項に記載の酵母培養用培地。
【請求項6】
前記酵母が、ヤロウィア属、キャンディダ属、ピキア属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、およびトリコスポロン属からなる群から選択される酵母である、請求項1〜のいずれか1項に記載の酵母培養用培地。
【請求項7】
前記酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である、請求項に記載の酵母培養用培地。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の酵母培養用培地で酵母を培養することを有する、酵母の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母培養用培地ならびにそれを用いた酵母の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母は、発酵食品、アルコール、有機酸などの製造に利用されている。さらに、油脂分解能を有する酵母は、グリーストラップなどにおいて、排水中の油脂を分解するために利用されている。
【0003】
厨房や食品工場からの排水には、多くの油分が含まれており、これらの油分を集積し上層部に浮上した油分を分離して破棄するためにグリーストラップが設けられている。しかしながら、グリーストラップ内で集積した油分が固形化し、グリーストラップの水面にスカム(油の塊)として残留したり、グリーストラップの内壁面や配管内部に集積・付着して配管を閉塞したりすることがある。このとき、集積した油分は、酸化・腐敗して、悪臭・害虫の発生原因となることがある。また、集積した油分を放置すると、グリーストラップの油分除去能力が低下し、下水や河川に油分を流出させてしまう。そのため、グリーストラップ内で油分が集積した場合、専門の業者に依頼してバキューム処理や高圧洗浄処理などで油分の除去を行う必要があるためコストがかかってしまう。
【0004】
そこで、グリーストラップにおいて、効率よく油分を低減するため、油脂分解能を有する酵母を用いる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、グリーストラップ内における油分の低減効果に優れたヤロウィア・リポリティカが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−192611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酵母の培養では、栄養が豊富な培地であるYM培地やYPD培地などが通常使用されている。ここで、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の酵母をYM培地やYPD培地を用いて培養した場合には、培地の単位容積あたりの集菌量が小さいという問題があることが判明した。例えば、YM培地を用いてジャーファーメンター中で特許文献1に記載の酵母を培養すると、72時間培養しても得られる菌体重量は40g/Lに満たないことが判明したのである。このように培地の単位容積あたりの集菌量が小さいと、目的の菌量を得るために多量の培地が必要となり、きわめて効率が悪い。そのため、より培養効率を高める(すなわち、培地の単位容積あたりの集菌量を多くする)技術の開発が望まれていた。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、酵母の培養効率を向上させて、培地の単位容積あたりの集菌量を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、炭素源としてグリセロールを用いてその濃度をある値よりも大きくするとともに、ある値以上の量の微量元素(鉄、カルシウム、銅、ホウ素、およびマンガンからなる)を含有させることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酵母の培養効率を向上させて、培地の単位容積あたりの集菌量を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
【0012】
<酵母培養用培地>
本発明の一形態によれば、炭素源と、窒素源と、リン源と、マグネシウム源と、溶媒と、を含有する酵母培養用培地であって、前記炭素源が100g/L超のグリセロールを含み、かつ、鉄、カルシウム、銅、ホウ素、およびマンガンからなる微量元素をこれらの元素換算の合計量で0.0008g/L以上含有することを特徴とする、酵母培養用培地が提供される。かかる構成を備えた培地を用いて酵母を培養することにより、酵母の培養効率を向上させて、培地の単位容積あたりの集菌量を高めることが可能となる。以下、形態に係る酵母培養用培地について、より詳細に説明する。
【0013】
まず、本形態に係る酵母培養用培地は、基本構成として、炭素源と、窒素源と、リン源と、マグネシウム源と、溶媒と、を含有するものである。溶媒を含有することから、本形態に係る酵母培養用培地は、液体培地である。
【0014】
(炭素源)
本形態に係る酵母培養用培地は、炭素源としてグリセロールを必須に含有する。そして、グリセロールの含有量は、100g/L超である点に特徴がある。グリセロール(C)は、グルコース(C12)と比較して化学的により還元された物質であり、酵母の代謝過程上でより向上した還元力を提供することができる。そして、酵母の代謝過程では還元力が要求される場合が多いことから、グリセロールを100g/L超の量で含有することにより、培養効率の向上が図られているものと考えられる。なお、本形態に係る酵母培養用培地におけるグリセロールの含有量は、好ましくは110g/L以上であり、より好ましくは120g/L以上であり、さらに好ましくは130g/L以上であり、特に好ましくは140g/L以上であり、最も好ましくは150g/L以上である。一方、グリセロールの含有量の上限値について特に制限はないが、通常は250g/L以下程度であればよい。
【0015】
また、本形態に係る酵母培養用培地は、炭素源としてグリセロール以外の物質をさらに含有してもよい。グリセロール以外の炭素源としては、グルコース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、アラビノース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α−メチル−D−グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、N−アセチル−D−グルコサミン、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。これらの炭素源は、培養する酵母による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記グリセロール以外の炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
【0016】
(窒素源)
本形態に係る酵母培養用培地は、窒素源として無機窒素源を含有することが好ましい。一般的に、酵母の培養に使用される培地としては、YM培地、YPD培地などが挙げられる。酵母培養用培地の窒素源として無機窒素源を用いると、酵母の増殖を促進させることができる。これは、酵母が窒素源として利用しやすい無機窒素源を優先的に取り込むことにより、その増殖が促進されるものと考えられる。
【0017】
無機窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;硝酸ナトリウム、硝酸カルシウムなどの硝酸塩;亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩;アンモニア;尿素などが例示できる。無機窒素源としては、1種または2種以上選択して使用することができる。これらのうち、無機窒素源は、酵母の増殖を促進できるとの観点から、好ましくは塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、および硫酸アンモニウムからなる群から選択され、より好ましくは塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウムおよび硝酸アンモニウムからなる群から選択され、さらに好ましくは塩化アンモニウムまたは硝酸ナトリウムであり、特に好ましくは塩化アンモニウムである。無機窒素源として塩化アンモニウムを用いることにより、他の無機窒素源よりも培養効率(培地の単位容積あたりの菌体重量)を高めることができる。
【0018】
また、本形態に係る酵母培養用培地は、窒素源として有機窒素源をさらに含有してもよい。有機窒素源としては、酵母エキス、麦エキス、肉エキス、魚エキス、ペプトン、ポリペプトン、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物などが挙げられる。これらの有機窒素源は、培養する酵母による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記有機炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
【0019】
窒素源の配合量は、酵母培養用培地全量に対して、例えば1.0〜5.0w/v%であり、好ましくは2.0〜4.0w/v%である。これらのうち、無機窒素源の配合量は、酵母培養用培地全量に対して、例えば0.5〜3.0w/v%であり、好ましくは1.0〜2.0w/v%である。
【0020】
(リン源)
リン源としては、リン酸塩が好適に用いられうる。リン源としてのリン酸塩としては、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられ、なかでもリン酸二水素カリウムが好ましく用いられうる。
【0021】
リン源の配合量は、酵母培養用培地全量に対するリン源化合物の重量換算で、例えば0.1〜0.5w/v%であり、好ましくは0.2〜0.4w/v%である。
【0022】
(マグネシウム源)
マグネシウム源としては、マグネシウム塩が好適に用いられうる。マグネシウム源としてのマグネシウム塩としては、硝酸塩、塩化物などが挙げられ、硫酸マグネシウムやその水和物(例えば硫酸マグネシウム七水和物)が好ましく用いられうる。
【0023】
マグネシウム源の配合量は、酵母培養用培地全量に対するマグネシウム源化合物の重量換算で、例えば0.05〜0.3w/v%であり、好ましくは0.1〜0.3w/v%である。
【0024】
(溶媒)
溶媒としては、通常、水が用いられる。水は、純水、蒸留水、脱イオン水、RO水、などが挙げられるが、特に制限はない。
【0025】
(微量元素)
さらに、本形態に係る酵母培養用培地は、鉄、カルシウム、銅、ホウ素、およびマンガンからなる5種の微量元素を必須に含有するものであり、かつ、これらの元素換算の合計含有量が0.0008g/L以上である点にも特徴を有している。このように、所定の微量元素をある程度の含有量で含有しつつ、上述したようにグリセロールの含有量についても所定の値を超えるように設定することで、酵母の培養効率を相乗的に向上させることが可能となり、培地の単位容積あたりの菌体重量を飛躍的に増加させることが可能となったものである。なお、このような効果が奏されるメカニズムについては完全には明らかとはなっていないが、これらの所定の微量元素が酵母の代謝過程に介在する酵素に対して触媒的に作用することで酵母の代謝過程が菌体の増殖の方向に促進されることによるものと考えられる。なお、上記所定の(5種の)微量元素の含有量(元素換算の合計含有量)は、好ましくは0.0009g/L以上であり、より好ましくは0.0010g/L以上であり、さらに好ましくは0.0011g/L以上である。また、上記所定の(5種の)微量元素の含有量(元素換算の合計含有量)は、好ましくは0.0008〜0.0012g/Lである。なお、これらの(5種の)微量元素のそれぞれの含有量(元素換算)の割合について特に制限はないが、本発明の効果をよりいっそう発揮させるという観点から、ホウ素原子の含有量を1質量部としたときに、鉄原子が5〜9質量部、カルシウム原子が5〜9質量部、銅原子が4〜8質量部、マンガン原子が3〜7質量部である。また、より好ましくは、ホウ素原子の含有量を1質量部としたときに、鉄原子が6〜8質量部、カルシウム原子が6〜8質量部、銅原子が5〜7質量部、マンガン原子が4〜6質量部である。
【0026】
なお、上記所定の微量元素が培地中に含有される形態について特に制限はなく、鉄源としては2価または3価の鉄の塩化物、硫酸塩、臭化塩、硝酸塩など(例えば、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、これらの水和物など)が挙げられる。カルシウム源としてはカルシウムの塩化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩など(例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、これらの水和物など)が挙げられる。銅源としては、銅の硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、臭化塩、など(例えば、硫酸銅、リン酸銅、酢酸銅、臭化銅、これらの水和物など)が挙げられる。ホウ素源としては、ホウ酸などが挙げられる。マンガン源としては、マンガンの硫酸塩、硝酸塩など(例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン、これらの水和物など)が挙げられる。
【0027】
また、本形態に係る酵母培養用培地は、上記所定の(5種の)微量元素以外の微量元素をさらに含有してもよい。上記所定の微量元素以外の微量元素としては、例えば、ナトリウム、コバルト、亜鉛、硫黄、ニッケルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
(pH)
本形態に係る酵母培養用培地のpHに特に制限はないが、一般的に酵母の培養は弱酸性条件下において行うことが好ましいことから、好ましくは5.0〜7.0であり、より好ましくは5.5〜6.5である。特に、後述する実施例において用いられている酵母であるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等のヤロウィア属の培養に好適である。ここで、酵母培養用培地のpHは、pHメーターを用いて測定することができる。なお、培地のpHは、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸;または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、等の塩基をpH調整剤として用いることにより調整することができる。
【0029】
(酵母)
本形態に係る酵母培養用培地で培養される酵母としては、特に制限されないが、ヤロウィア属(Yarrowia)、キャンディダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、ハンセヌラ属(Hansenura)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、トリコスポロン属(Trichosporon)、リポマイセス属(Lipomyces)、ロードトルラ(Rhodotorula)属、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)等の酵母が好ましく用いられる。
【0030】
本発明の酵母培養用培地では、これらの酵母のうち、油分分解活性の高いヤロウィア属の酵母の培養効率をより向上させることができる。ヤロウィア属の酵母としては、ヤロウィア・リポリティカ ATCC48436、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1548、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)、ヤロウィア・リポリティカ NBRC0746、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1209のようなヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウィア YH−01のようなヤロウィア スピーシーズ(Yarrowia sp.)等が例示できるが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)がより好ましく、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)がさらに好ましい。なお、上述の酵母は、ATCC、NBRC、DSMZ等のカルチャーコレクションから入手可能である。
【0031】
(酵母培養用培地の調製方法)
上述したように、本形態に係る酵母培養用培地は、液体培地である。本形態に係る培地の調製方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、炭素源(グリセロールを必須に含む)、窒素源、リン源、マグネシウム源、および上記所定の微量元素を水に代表される溶媒に溶解することで調製することができる。酵母培養用培地のpHを調製する必要がある場合、pH調整剤として、上述した酸やアルカリを用いればよい。また、必要に応じて消泡剤を添加してもよい。
【0032】
<酵母の培養方法>
本発明の一形態によれば、上記酵母培養用培地で酵母を培養することを有する、酵母の培養方法が提供される。
【0033】
本発明に係る酵母の培養は、通常の方法によって行うことができる。酵母の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で培養する。前者の場合には、酵母の培養は、振とうあるいは通気撹拌などによって行われる。また、酵母を連続的にまたはバッチで培養してもよい。培養条件は、適宜選択され、本発明に係る酵母が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する酵母の種類に応じて適宜選択されうる。また、酵母培養培地に添加する菌体量についても、特に制限されず、適宜調整することができる。
【0034】
培養温度は、通常15〜50℃であり、好ましくは25〜40℃である。
【0035】
培養時間は、特に制限されず、培養条件、培養後の酵母の使用形態などによって異なる。
【0036】
本発明に係る酵母培養用培地を用いることにより、酵母の培養効率を高め、培地の単位容積あたりの菌体重量を増加させることができる。例えば、後述する実施例に記載の方法で培養した場合、従来使用されているYM培地を含むジャーファーメンター中でヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)を培養すると、72時間培養しても得られる菌体重量は40g/Lに満たない。これに対し、本発明に係る酵母培養用培地を用いることで、同じ培養条件下において得られる菌体重量を7倍以上に増加させることができる。
【0037】
上述のとおり、本発明に係る酵母培養用培地は、従来の培地に比べて、酵母を高い培養効率で増殖させることができる。
【実施例】
【0038】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0039】
≪酵母培養用培地の調製≫
(実施例1)
下記表1の組成となるように、各成分を蒸留水に溶解し、実施例1の酵母培養用培地を調製した。なお、微量元素(Fe、Ca、Cu、B、Mn)については、水100mLに対してFe0.03w/v%、Ca0.02w/v%、Cu0.02w/v%、B0.005w/v%、Mn0.02w/v%の濃度となるように下記表1に記載の成分を溶解させた濃縮溶液を予め調製しておき、これを下記表1に記載の濃度となるように添加することにより培地を調製した。
【0040】
【表1】
【0041】
(比較例1)
下記表2の組成となるように、各成分を蒸留水に溶解し、比較例1の酵母培養用培地(YM培地)を調製した。
【0042】
【表2】
【0043】
(比較例2)
微量元素を配合しなかったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、比較例2の酵母培養用培地を調製した。
【0044】
(比較例3)
微量元素の配合量を半量としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、比較例3の酵母培養用培地を調製した。
【0045】
(比較例4)
グリセロールの濃度を1/3量(50g/L(=5w/v%))としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、比較例4の酵母培養用培地を調製した。
【0046】
(比較例5)
グリセロールの濃度を1/3量(50g/L(=5w/v%))としたこと以外は、上述した比較例2と同様の手法により、比較例5の酵母培養用培地を調製した。
【0047】
(比較例6)
グリセロールの濃度を1/3量(50g/L(=5w/v%))としたこと以外は、上述した比較例3と同様の手法により、比較例6の酵母培養用培地を調製した。
【0048】
≪種培養≫
坂口フラスコ4本に上記で調整した実施例および各比較例の培地を各100mL入れ、滅菌した。
【0049】
次いで、各フラスコに酵母(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))を一白金耳ずつ植菌し、30℃にて72時間振とう培養した。
【0050】
≪ジャーファーメンターでの培養≫
上記で調整した実施例および各比較例の培地のそれぞれについて、以下の手法によりジャーファーメンターを用いた培養を行った。
【0051】
まず、ジャーファーメンターに培地を5L入れ、滅菌した。次いで、上記で種培養を行った培養液を400mL添加し、30℃にて72時間培養した。この際、pH6±0.1となるように、水酸化ナトリウムおよび硫酸を用いてpHを調整した。
【0052】
≪集菌≫
ジャーファーメンターでの培養物について、遠心分離機を用いて菌を沈殿させた後、上清を捨てて菌体重量を測定した。結果を下記の表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示す結果からわかるように、実施例1では比較例1〜6のそれぞれと比較して培養効率(菌体重量)が大幅に増加した。特に、酵母の培養用培地として従来汎用されてきたYM培地を用いた場合と比較すると、7倍以上と飛躍的に培養効率(菌体重量)が増加したことがわかる。