特許第6875176号(P6875176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875176無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、無機フィラー含有シート
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  • 特許6875176-無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、無機フィラー含有シート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875176
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、無機フィラー含有シート
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20210510BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20210510BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08F2/44 A
   C08F2/48
   C08G59/18
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-72768(P2017-72768)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172594(P2018-172594A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 博之
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−221862(JP,A)
【文献】 特開2015−221863(JP,A)
【文献】 特開2010−224170(JP,A)
【文献】 特開2005−002283(JP,A)
【文献】 特開2016−148034(JP,A)
【文献】 特開2014−214196(JP,A)
【文献】 特開2011−195673(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/022068(WO,A1)
【文献】 特開2014−227460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C08G 59/00−59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ラジカル重合性化合物、光ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、非ラジカル重合性可塑剤、及び、無機フィラーを含有する無機フィラー含有光硬化性組成物であって、
前記光ラジカル重合性化合物100重量部に対して、前記光ラジカル重合開始剤を10重量部以上、前記連鎖移動剤を10重量部以上、かつ、前記非ラジカル重合性可塑剤を5重量部以上含有する
ことを特徴とする無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項2】
光硬化性組成物を光硬化して得られた硬化物のショア硬度がA80未満であることを特徴とする請求項1記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項3】
光ラジカル重合開始剤1重量部に対して連鎖移動剤を0.1重量部以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項4】
非ラジカル重合性可塑剤は、脂環式化合物のヘテロ原子置換体を有する化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項5】
脂環式化合物のヘテロ原子置換体を有する化合物は、エポキシ化合物であることを特徴とする請求項4記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項6】
光ラジカル重合性化合物100重量部に対して非ラジカル重合性可塑剤を10〜400重量部含有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項7】
無機フィラーは、熱伝導性フィラーであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項8】
無機フィラーの含有量が、光硬化性組成物の重量に対して50重量%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項9】
連鎖移動剤は、スズ系錯体又は非共役ビニルモノマーであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項10】
連鎖移動剤は、ジラウリル酸ジブチルスズ又は酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の無機フィラー含有光硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の無機フィラー含有光硬化性組成物を用いてなることを特徴とする無機フィラー含有シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量の無機フィラーを含有するにもかかわらず、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができ、接着性にも優れる無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、該無機フィラー含有光硬化性組成物を用いてなる無機フィラー含有シートに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分野において、様々な無機フィラーを配合した光硬化性組成物が利用されている。例えば、無機フィラーとして熱伝導性フィラーを配合した光硬化性組成物は、放熱ペースト等に利用されており(例えば、特許文献1、2等)、無機フィラーとして導電性フィラーを配合した光硬化性組成物は、電子部品の導電接合等に利用されている。
【0003】
例えば、近年、電子機器の小型化、高性能化に伴って、内蔵される電子デバイスも高密度化が進んでおり、電子デバイスの単位面積当たりの発熱量は増加している。電子デバイスに熱が蓄積すると信頼性低下の原因となるため、発生した熱をいかに効率よく外部に放出できるかが重要な課題となってきている。従って、熱伝導性の光硬化性組成物にも、より高い熱伝導性が求められるようになってきている。
【0004】
ここで光硬化性組成物の熱伝導性を向上させるには、より大量の熱伝導性フィラーを配合することが考えられる。近年の高熱伝導性の要求に対して、50重量%を大きく超えて熱伝導性フィラーを配合した光硬化性組成物も提案されている。しかしながら、大量の熱伝導性フィラーを配合した光硬化性組成物は、期待したほどには高熱伝導性を発揮しないことがあるという問題があった。また、大量の熱伝導性フィラーを配合した光硬化性組成物は、接着性の点でも問題になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−24965号公報
【特許文献2】特開2012−229342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、大量の無機フィラーを含有するにもかかわらず、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができ、接着性にも優れる無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、該無機フィラー含有光硬化性組成物を用いてなる無機フィラー含有シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光ラジカル重合性化合物、光ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、非ラジカル重合性可塑剤、及び、無機フィラーを含有する無機フィラー含有光硬化性組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、無機フィラーを配合することにより熱伝導性及び接着性を発揮させる光硬化性組成物において、大量の無機フィラーを配合したにもかかわらず、期待した性能が発揮されない原因について検討を行った。その結果、大量の無機フィラーを配合した光硬化性組成物では、光を照射したときに無機フィラーにより内部への光の浸透が阻害されるため、内部の硬化が不充分となっていることが原因であることを突き止めた。この理由は明らかではないが、硬化物中に未硬化の部分があると、無機フィラーが硬化物中で動きやすくなるためではないかと考えられた。
そこで本発明者らは、光硬化性組成物の硬化性を向上させるために、連鎖移動剤の併用を検討した。連鎖移動剤は、ラジカル重合において生長ポリマー鎖の末端に反応してポリマーの生長を停止させると同時に新たな重合開始ラジカルを発生させることのできる剤である。連鎖移動剤を配合することにより、無機フィラーにより光照射が阻害された部分でも、充分に硬化できることが期待された。しかしながら、実際には、連鎖移動剤を配合しても、無機フィラーにより光照射が阻害された部分を充分に硬化させることはできず、所期の性能を得ることはできなかった。
【0009】
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、連鎖移動剤とともに、非ラジカル重合性可塑剤を併用することにより、はじめて無機フィラーにより光照射が阻害された部分も充分に硬化させることができ、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができるとともに、接着性にも優れた光硬化性組成物を提供できることを見出し、本発明を完成した。これは、非ラジカル重合性可塑剤を併用することにより、光硬化時に連鎖移動剤を充分に組成物で移動させ拡散させることができるため、光照射が阻害された部分であっても充分に硬化させることができるためと考えられる。
【0010】
本発明の無機フィラー含有光硬化性組成物(以下、単に「光硬化性組成物」ともいう。)は、光ラジカル重合性化合物、光ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、非ラジカル重合性可塑剤、及び、無機フィラーを含有する。
上記光ラジカル重合性化合物は特に限定されないが、不飽和二重結合を有する化合物が好適であり、反応性に優れることから、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物がより好適である。また、硬化後における接着性に優れることから、光硬化性組成物を光硬化して得られた硬化物のガラス転移点が30℃以下となる光ラジカル重合性化合物が好適である。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を意味する。
【0011】
上記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、及び、反応性の官能基を変性して(メタ)アクリロイルオキシ基を分子中に保有するもの等が挙げられる。なかでも、光の照射により発生した活性ラジカルで速やかに重合又は架橋が進行することから、(メタ)アクリル酸エステルが好適である。
なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0012】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られるエステル化合物、(メタ)アクリル酸とエポキシ化合物とを反応させることにより得られるエポキシ(メタ)アクリレート、イソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体を反応させることにより得られるウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られるエステル化合物が好適である。
なお、本明細書において上記エポキシ(メタ)アクリレートとは、エポキシ化合物中の全てのエポキシ基を(メタ)アクリル酸と反応させた化合物のことを表す。
【0013】
上記(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られるエステル化合物は特に限定されず、単官能のものとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ビシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0014】
また、上記(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られるエステル化合物のうち2官能のものとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、カーボネートジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエーテルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
また、上記(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られるエステル化合物のうち3官能以上のものとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0016】
上記光ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジル、チオキサントン等が挙げられる。
【0017】
上記光ラジカル重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、IRGACURE184、IRGACURE369、IRGACURE379、IRGACURE651、IRGACURE819、IRGACURE907、IRGACURE2959、IRGACURE OXE01、ルシリンTPO(いずれもBASF社製)、ベンソインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル(いずれも東京化成工業社製)等が挙げられる。
【0018】
上記光ラジカル重合開始剤の含有量は、上記光ラジカル重合性化合物100重量部に対する好ましい下限が10重量部である。上記光ラジカル重合開始剤を10重量部以上含有することにより、本発明の光硬化性組成物は、光照射することにより確実に硬化させることができる。上記光ラジカル重合開始剤の含有量のより好ましい下限は20重量部である。上記光ラジカル重合開始剤の含有量の上限は特に限定されないが、好ましい上限は40重量部、より好ましい上限は35重量部である。
【0019】
上記連鎖移動剤は、ラジカル重合において生長ポリマー鎖の末端に反応してポリマーの生長を停止させると同時に新たな重合開始ラジカルを発生させることのできる剤である。このような連鎖移動剤を配合することにより、無機フィラーにより光照射が阻害された部分であっても充分に硬化でき、本発明の光硬化性組成物の所期の性能を発揮させることができる。
【0020】
上記連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、酸化還元反応を伴い、ラジカルを移送する化合物が挙げられる。具体的には例えば、金属錯体、チオール化合物、非共役ビニルモノマー等が挙げられる。なかでも、良好な接着性を発現する観点から、金属錯体又は非共役ビニルモノマーが好適である。
上記金属錯体としては、例えば、ジラウリル酸ジブチルスズ等のスズ系錯体や、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸亜鉛(II)二ナトリウム塩四水和物等の亜鉛系錯体や、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸銅(II)二ナトリウム塩四水和物や、コバルトフタロシアニン等が挙げられる。なかでも、スズ系錯体又は亜鉛系錯体が好適である。
上記非共役ビニルモノマーとは、モノマーに対する連鎖移動定数Cが10000以上のモノマーを意味する。具体的には例えば、酢酸ビニル、酢酸アリル等が挙げられる。なかでも、酢酸ビニルが好適である。
【0021】
上記連鎖移動剤の含有量は、上記光ラジカル重合性化合物100重量部に対する好ましい下限が10重量部である。上記連鎖移動剤を10重量部以上含有することにより、本発明の光硬化性組成物は、無機フィラーにより光照射が阻害された部分であっても充分に硬化させることができるので、接着性をより高めることができる。上記連鎖移動剤の含有量のより好ましい下限は20重量部である。上記連鎖移動剤の含有量の上限は特に限定されないが、好ましい上限は100重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0022】
上記連鎖移動剤の含有量は、上記光ラジカル重合開始剤1重量部に対する好ましい下限が0.1重量部である。上記連鎖移動剤の含有量を0.1重量部以上とすることにより、本発明の光硬化性組成物は、無機フィラーにより光照射が阻害された部分であっても充分に硬化させることができるので、接着性をより高めることができる。上記連鎖移動剤の含有量のより好ましい下限は0.2重量部、更に好ましい下限は0.5重量部である。上記連鎖移動剤の含有量の上限は特に限定されないが、充分に硬化させ、接着性をより高める観点からは、好ましい上限は10重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0023】
上記非ラジカル重合性可塑剤は、上記連鎖移動剤と併用することにより、無機フィラーにより光照射が阻害された部分であっても充分に硬化でき、本発明の光硬化性組成物の所期の性能を発揮させる役割を果たす。
上記非ラジカル重合性可塑剤としては、ラジカル重合性官能基を有しない可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機酸エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等の従来公知の非ラジカル重合性可塑剤を用いることができる。
【0024】
上記非ラジカル重合性可塑剤としては、また、エポキシ化合物、エピスルフィド化合物、オキセタン化合物、ピロリジン化合物、テトラヒドロフラン化合物、テトラヒドロチオフェン化合物、ピペリジン化合物、テトラヒドロピラン化合物、テトラヒドロチオピラン化合物、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド化合物等の脂環式化合物のヘテロ原子置換体を有する化合物も好適に用いることができる。このような脂環式化合物のヘテロ原子置換体を有する化合物を配合した場合には、本発明の光硬化性組成物に熱硬化性を付与することができ、光硬化後に加熱することにより、更に確実に硬化させることも可能となる。なかでも、より接着性信頼性、熱伝導性、及び、熱硬化性にも優れることから、エポキシ化合物が好適である。
【0025】
上記非ラジカル重合性可塑剤の含有量は、上記光ラジカル重合性化合物100重量部に対する好ましい下限が5重量部である。上記非ラジカル重合性可塑剤の含有量が5重量部以上であることにより、本発明の光硬化性組成物は、無機フィラーにより光照射が阻害された部分であっても充分に硬化させることができる。上記非ラジカル重合性可塑剤の含有量のより好ましい下限は10重量部である。上記非ラジカル重合性可塑剤の含有量の上限は特に限定されないが、好ましい上限が400重量部、より好ましい上限は150重量部である。
【0026】
上記無機フィラーは、本発明の光硬化性組成物に種々の性質を付与する役割を有する。例えば、無機フィラーとして熱伝導性フィラーを配合することにより、光硬化性組成物に熱伝導性を付与した熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。また、導電性フィラーを配合することにより、光硬化性組成物に導電性を付与した導電性樹脂組成物を提供することができる。
【0027】
上記熱伝導性フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、アルミニウム、窒化ケイ素、ジルコニア、酸化マグネシウム等の従来公知の熱伝導性フィラーを用いることができる。
上記導電性フィラーとしては、例えば、銅、ニッケル、銀、ニッケル等の導電金属や、カーボンブラック等の従来公知の導電性フィラーを用いることができる。
【0028】
上記無機フィラーの含有量は特に限定されないが、近年ではより高い性能を目的に、より大量の無機フィラーを配合する傾向にあり、光硬化性組成物の重量に対して50重量%以上、80重量%以上、90重量%以上の無機フィラーを含有することもある。本発明の光硬化性組成物は、このように大量の無機フィラーを含有する場合にでも、光照射により内部まで充分に硬化させることができ、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができる。
【0029】
本発明の光硬化性組成物は、上記非ラジカル重合性可塑剤として脂環式化合物のヘテロ原子置換体を有する化合物を含有する場合には、熱硬化剤を含有することが好ましい。
上記熱硬化剤としては特に限定されず、例えば、ヒドラジド系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、多価フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤等の従来公知の熱硬化剤を用いることができる。
【0030】
本発明の光硬化性組成物は、必要に応じて、更に、乳化剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤等の従来公知の添加剤等を含有してもよい。
【0031】
本発明の光硬化性組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、上記光ラジカル重合性化合物、光ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、非ラジカル重合性可塑剤、無機フィラー及び必要に応じて配合する添加剤を混合する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明の光硬化性組成物は、光硬化して得られた硬化物のショア硬度がA80未満であることが好ましい。上記硬化物のショア硬度がA80未満であることにより、硬化物にある程度の柔軟性があり、よりすぐれた接着性を発揮することができる。
なお、上記硬化物のショア硬度は、例えば、以下の方法により測定することがきる。
まず、本発明の光硬化性組成物を、離型フィルム上に、厚みが500μmとなるよう塗布し、次いで、高圧水銀灯を用いて波長410nmの光を500mW/cmの照度で照射量が1000mJ/cmとなるように照射して硬化物を得る。得られた硬化物を、25℃、60分間静置したものを試験片とする。得られた試験片のショア硬度を、JIS K 6253に準ずる方法によりゴム硬度計(例えば、テクロック社製、A型デュロメータ等)を用いて測定する。
【0033】
本発明の光硬化性組成物を用いてなる無機フィラー含有シートもまた本発明の1つである。
本発明の無機フィラー含有シートは、例えば、本発明の光硬化性組成物を離型処理したフィルム上に塗工し、光を照射して硬化させることにより製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、大量の無機フィラーを含有するにもかかわらず、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができ、接着性にも優れる無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、該無機フィラー含有光硬化性組成物を用いてなる無機フィラー含有シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例における接着剤の引張せん断接着強さ試験方法に用いた試験片を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
光ラジカル重合性化合物として2−エチルヘキシルアクリレート(三菱化学社製)46重量部、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、ATM−35E)5重量部、アクリル酸(三菱化学社製)3重量部と、光ラジカル重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(BASF社製、TPO)12重量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製、Irgacure819)6重量部と、連鎖移動剤としてジラウリル酸ジブチルスズ(東京化成工業社製)16重量部と、非ラジカル重合性可塑剤としてビスフェノールA型エポキシモノマー(三菱化学社製、jER828)99重量部と、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(昭和電工社製、AS−40)640重量部、酸化アルミニウム(アドマテックス社製、AO−502)160重量部とを、ホモディスパー型撹拌機を用いて30分間攪拌、混合した。その後、真空脱泡を行って、光硬化性組成物を調製した。
【0038】
(実施例2〜4、比較例1〜6)
各成分の配合量を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を得た。なお、表1中、非ラジカル重合性可塑剤として用いたDISPERBYK111は、ビックケミー・ジャパン社製である。また、連鎖移動剤として用いた酢酸ビニルは、東京化成工業社製である。熱硬化剤として用いたEH−5030Sは、ADEKA社製の変性ポリアミン硬化剤である。
【0039】
(評価)
実施例及び比較例で得た光硬化性組成物について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0040】
(1)熱伝導率の評価
得られた光硬化性組成物を、離型フィルム上に、厚みが500μmとなるよう塗布した。次いで、高圧水銀灯を用いて波長410nmの光を500mW/cmの照度で照射量が1000mJ/cmとなるように照射した。光照射後の硬化物上に、離型フィルムを重ね、重さ100gの重しを載せ、25℃、60分間静置することにより、試験片を得た。なお、実施例4で得られた光硬化性組成物については、同様の方法により得られた試験片を、更に100℃、30分間加熱処理を行ったものを試験片とした。
得られた試験片の熱伝導率を、定常法により測定した。
【0041】
(2)引張せん断力の評価
JIS K6850に準ずる方法により、光硬化性組成物の引張せん断接着強さ試験を行った。
即ち、得られた光硬化性組成物を、アルミニウム板(日本テストパネル社製、A1050P)上に、幅25mm、長さ10mm、厚みが500μmとなるよう塗布した。次いで、高圧水銀灯を用いて波長410nmの光を500mW/cmの照度で照射量が1000mJ/cmとなるように照射した。光照射後の硬化物上に、銅板(日本テストパネル社製、C1100)を置き、重さ100gの重しを載せ、25℃、60分間静置することにより、図1に示したような試験片を得た。なお、実施例4で得られた光硬化性組成物については、同様の方法により得られた試験片を、更に100℃、30分間加熱処理を行ったものを試験片とした。
得られた試験片を、引張り試験機を用いて、23℃、クロスヘッドスピード50mm/分の条件で接着面に平行に引っ張って破断した時の最大荷重を求め、これを接着面積(せん断面積)で割ることにより、引張せん断力(kPa)を算出した。
ただし、比較例1〜6の光硬化性組成物を用いて作製した試験片については、引張り試験機への取り付け時に自然剥離してしまったため、引張せん断力を測定できなかった。
【0042】
(3)ショア硬度(ショアA)の評価
得られた光硬化性組成物を、離型フィルム上に、厚みが500μmとなるよう塗布した。次いで、高圧水銀灯を用いて波長410nmの光を500mW/cmの照度で照射量が1000mJ/cmとなるように照射した。光照射後の硬化物上に、離型フィルムを重ね、重さ100gの重しを載せ、25℃、60分間静置することにより、試験片を得た。なお、実施例4で得られた光硬化性組成物については、同様の方法により得られた試験片を、更に100℃、30分間加熱処理を行ったものを試験片とした。
得られた試験片のショア硬度を、JIS K 6253に準ずる方法によりゴム硬度計(テクロック社製、A型デュロメータ)を用いて測定した。
ただし、比較例1〜3の光硬化性組成物を用いて作製した試験片については、探針が埋没してしまい、デュロメータにて0と表示されてしまったため、ショア硬度を測定できなかった。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、大量の無機フィラーを含有するにもかかわらず、無機フィラーを配合する効果を充分に発揮することができ、接着性にも優れる無機フィラー含有光硬化性組成物、及び、該無機フィラー含有光硬化性組成物を用いてなる無機フィラー含有シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 基板(アルミニウム板及び銅板)
2 支持体(基板材料と同一の厚さ、同質のもの)
3 接着部分
4 つかみ部分
図1