特許第6875180号(P6875180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6875180-コンクリート製品の養生方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875180
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】コンクリート製品の養生方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/24 20060101AFI20210510BHJP
   C04B 40/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B28B11/24
   C04B40/04
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-76789(P2017-76789)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-176486(P2018-176486A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
(72)【発明者】
【氏名】織田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 敦
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆正
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−199919(JP,A)
【文献】 特開2013−231283(JP,A)
【文献】 特開2010−156133(JP,A)
【文献】 特開2013−238044(JP,A)
【文献】 特開2015−218451(JP,A)
【文献】 特開2014−214553(JP,A)
【文献】 特開2006−062102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B11/00−19/00
C04B2/00−32/02
C04B40/00−40/06
E04G9/00−19/00
E04G21/00−21/10
E04G25/00−25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製品の表面に設置されて、前記表面に水分を供給する養生装置を用いたコンクリート製品の養生方法であって、
前記養生装置は、可撓性を有した透水板と、前記透水板と前記表面との当接面の側縁および下縁に配設されるシール材と、前記透水板を前記表面に固定する治具と、を有し、
前記透水板は、養生液を貯留可能な中空部材で、かつ、前記表面との当接面から前記養生液を排出可能であり、
前記コンクリート製品から所定の間隔をあけて他のコンクリート製品が並設されており、
前記治具は、前記透水板と、隣接する前記他のコンクリート製品との間に横架された棒状部材であり、
前記コンクリート製品の表面に前記透水板を添設するとともに、前記透水板と前記表面との当接面の側縁および下縁に前記シール材を設置する作業と、
前記治具により前記透水板を固定する作業と、
前記透水板に養生液を供給する作業と、を備えていることを特徴とする、コンクリート製品の養生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製品の養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを養生する際には、コンクリート表面に水を供給することで、コンクリート表面の乾燥を防ぎ、かつ、コンクリートの内部と外部とにおける温度差を低減させるのが望ましい。このようにすれば、コンクリートの強度、緻密性、ひび割れ抵抗性およびそれに伴う耐久性を高めることができる。
このような養生方法としては、例えば、脱型後のコンクリート製品を養生槽に入れて水中養生する方法や、コンクリート表面に布などの養生マットを設置して水を供給することで水中養生に近い環境を作る方法がある。また、特許文献1には、脱型後のコンクリート製品の表面に散水する散水養生が開示されている。さらに、特許文献2には、脱型後のコンクリート製品の表面にラップフィルムを装着して湿潤状態を保持する封緘養生が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−149606号公報
【特許文献2】特開2003−335587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水中養生は、コンクリート製品を収納可能な養生槽を必要とする。そのため、大型のコンクリート製品を製造する場合には、大型の養生槽を設置するためのスペースを確保する必要がある。また、コンクリート製品を水中に浸漬するため、鉄筋等の補強部材が露出した部材や、ハイブリッド部材のように鋼材部分を含む部材の場合には、鉄筋や鋼材等が腐食するおそれがある。
養生マットは、湾曲した部材や隅角部等において浮いてしまい(コンクリート表面から離れてしまい)、水分の供給が不均一になるおそれがあった。また、養生マットに定期的に水分を供給する必要があるため、多量の水が必要となる。
特許文献1の散水養生は、コンクリートの上面等の水平面については水中養生に近い環境を作ることができるものの、側面等の鉛直面や斜面に対しては、ムラなく均一に保水することが難しい。また、散水に多量の水が必要となる。
特許文献2の封緘養生は、コンクリートに水分を供給するものではないため、水中養生に近い環境を作ることはできなかった。
このような観点から、本発明は、比較的少ない水量によって、コンクリート製品の表面に対して均一に水分を供給することが可能な養生装置を利用したコンクリート製品の養生方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、コンクリート製品の表面に設置されて、前記表面に水分を供給する養生装置を利用したコンクリート製品の養生方法である。この養生装置は、可撓性を有した透水板と、前記透水板と前記表面との当接面の側縁および下縁に配設されたシール材と、前記透水板を前記表面に固定する治具とを有し、前記透水板は、養生液を貯留可能な中空部材であり、かつ、前記表面との当接面から前記養生液を排出可能である。
この養生装置を利用した本発明のコンクリート製品の養生方法は、前記コンクリート製品の表面に前記透水板を添設するとともに、前記透水板と前記表面との当接面の側縁および下縁に前記シール材を設置する作業と、前記治具により前記透水板を固定する作業と、前記透水板に養生液を供給する作業とを備えていることを特徴としている。
なお、前記コンクリート製品から所定の間隔をあけて他のコンクリート製品が並設されており、前記治具には、前記透水板と隣接する前記他のコンクリート製品との間に横架された棒状部材を使用する
【0006】
本発明のコンクリート製品の養生方法によれば、大掛かりな設備を要することなく、簡易に、水中養生に近い環境を形成することができる。透水板は、養生液を貯留することができるため、比較的少量の養生液により湿潤養生を行うことができる。また、透水板は可撓性を有しているため、コンクリート製品の表面に当接させることができる。そのため、コンクリート製品の表面に対して均一に養生液を供給することができる。また、透水板の周縁にシール材が設置されているため、漏水が防止されている。さらに、鋼材等を含むコンクリート製品であっても、所定の表面のみに養生液を供給するため、鋼材等が養生液に接して腐食することがない。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンクリート製品の養生方法によれば、比較的少ない水量によって、養生中のコンクリート製品の表面に対して均一に水分を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る養生装置を示す斜視図、(b)は(a)の部分拡大図である。
図2図1の養生装置を示す拡大断面図である。
図3】(a)は養生装置の設置状況を示す正面図、(b)は同側面図、(c)は同平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、コンクリート製品1を製造する過程において、当該コンクリート製品1を水中養生に近い環境で養生するコンクリート製品の養生方法について説明する。コンクリート製品1の養生には、図1(a)に示すように、脱型したコンクリート製品1の表面に設置されて、このコンクリート製品1の表面に水分を供給する養生装置2を使用する。
なお、本実施形態では、コンクリート製品1として、鋼殻にコンクリートが充填されたコンクリート一体型鋼製セグメントを製造する場合について説明する。
【0010】
本実施形態の養生装置2は、図1(b)に示すように、透水板3と、シール材4と、固定用の治具5とを備えている。
透水板3は、養生液を貯留可能な中空部材であって、可撓性を有している。
本実施形態の透水板3は、図2に示すように、芯材30と、この芯材30の両面にそれぞれ積層された面材33,33とを備えている。芯材30は、複数の中空凸部32,32,…が形成された2枚の熱可塑性樹脂シート31,31を互いの中空凸部32同士を突き合わせた状態で熱融着して形成される。
熱可塑性樹脂シート31,31の中空凸部32,32,…は、円錐台状であり、同一の寸法を有している。複数の中空凸部32,32,…は、熱可塑性樹脂シート31の一方の面に規則的かつ千鳥状に間隔をあけて配設されていて、芯材30の内部(中空凸部32の周囲)には連続した内部空間34が形成されている。なお、中空凸部32の形状は円錐台状に限定されるものではなく、例えば角錐台状や円柱状であってもよい。また、中空凸部32の大きさや配置も限定されない。
熱可塑性樹脂シート31を構成する材料は限定されるものではないが、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロック状ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂は、生産性、コスト面、物性、耐低温性、耐熱性等の観点から好ましい。
【0011】
芯材30の両面に積層された面材33,33は、熱可塑性樹脂により構成された板材またはシート(熱可塑性樹脂シート)からなる。面材33の材質は限定されるものではないが、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロック状ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、芯材30との相溶性があり熱融着が可能であること、コスト面、物性、耐低温性、耐熱性等に優れている。
透水板3の側端面および下端面は、シート材により封止されている。本実施形態では、シート材(封止材)を熱溶着することにより封止するが、封止方法は限定されるものではない。なお、シート材を構成する材料は限定されないが、本実施形態では、面材33と同じ材質からなる。
【0012】
透水板3のコンクリート製品1側の面(コンクリート製品1との当接面)には、複数の貫通孔35,35,…が形成されていて、水分(養生液等)の流出入が可能に構成されている。貫通孔35は、面材33および芯材30の両方に形成されていて、いくつかの貫通孔35は、内部空間34に至る。
そのため、内部空間34に養生液を供給した際には、貫通孔35から養生液が流出し、コンクリート製品1の表面に供給される。
貫通孔35の大きさは限定されるものではないが、本実施形態では、直径1mm以上とすることが好ましい。また、貫通孔35の配置も限定されるものではないが、本実施形態では、貫通孔35同士の間隔(隣り合う貫通孔35,35の間の距離)を10mm以上とする。さらに、貫通孔35の形成方法は限定されるものではないが、透水板3の一面側から、多数の針状部材が植設された板材を押し当て、針状部材を刺し込むことにより形成することができる。
【0013】
本実施形態では、養生液として水(例えば、水道水、雨水、地下水、工業用水、河川水)Wを使用する。なお、養生液に使用する液体として、水Wの他に、水酸化カルシウム(飽和)溶液、シリカ系含浸剤、浸透性防錆剤等を使用することで、コンクリートCの硬化体をより緻密に形成し、耐久性を向上させることを図ってもよい。これらの液体を使用すれば、外部から有効成分を追加で供給することができるので、水和反応を促進したり、水和生成物を増量することができる。その結果、物質の移動経路となりやすい連続的な空隙を効果的に遮断することができ、さらには、養生効果に加えて、撥水効果や防錆効果などの付加的な機能を付与することもできる。
【0014】
シール材4は、図3(a)に示すように、透水板3をコンクリート製品1の表面に設置した際に、コンクリート製品1と透水板3との当接面の側縁および下縁に沿うように、U字状(凹字状)に設ける。すなわち、シール材4は、透水板3の周縁部において、コンクリート製品1と透水板3との隙間を塞いでいる。本実施形態では。シール材4としてゴムパッキンを使用する。なお、シール材4を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、独立気泡のスポンジ材料や樹脂系の弾性材料であってもよい。
治具5は、透水板3をコンクリート製品1の表面に固定する。本実施形態では、図3(b)および(c)に示すように、透水板3の縁部分を把持する万力型の第一治具51と、透水板3の中央部を抑える棒状の第二治具52とを使用する。なお、治具5の構成は限定されるものではなく、例えば、ゴムバンド等でコンクリート製品1に透水板3を巻き付けることができる。
【0015】
養生装置2を用いたコンクリート製品の養生方法では、まず、脱型したコンクリート製品1を養生ヤードに配設する。本実施形態では、複数のコンクリート製品1,1,…を間隔をあけて列状に並設する。隣り合うコンクリート製品1は、一方のコンクリート製品1の表面(コンクリート面)と、他方のコンクリート製品1の背面(鋼殻面)とが向き合うように並べる。
次に、コンクリート製品1の表面(コンクリート面)に透水板3を添設する。透水板3は、弧状のコンクリート製品1の湾曲した面に沿って配設する。透水板3をコンクリート製品1の表面に添設したら、図3(a)に示すように、透水板3とコンクリート製品1の表面との当接面の側縁および下縁にシール材4を設置する。
【0016】
続いて、図3(b)および(c)に示すように、治具5を利用して、コンクリート製品1の表面に透水板3を固定する。透水板3を固定する際には、第一治具51の一端をコンクリート製品1の裏面に押し付けるとともに、第一治具51の他端を透水板3の表面に押し付けることで透水板3の側縁部分を把持する(第一治具51によりコンクリート製品1および透水板3を挟持する)。また、透水板3の表面と、隣接する他のコンクリート製品1の背面との間に第二治具52を横架させることで、コンクリート製品1の湾曲面に対して、透水板3を湾曲させた状態で押さえ付ける。すなわち、第二治具52は、他のコンクリート製品1から反力をとって透水板3を押さえ付ける突っ張り棒状の部材である。本実施形態では、透水板3の上下の縁にそれぞれ第二治具52を5本ずつ配設するとともに、透水板3の左右の縁において中間部に第二治具52を1本ずつ配設し、さらに中央部において第二治具52を縦に2本(合計14本)配設している。なお、第二治具52の本数および配置は限定されるものではない。また、透水板3の表面と治具5との間には分散板6を介設しておくことで、治具5による固定時の応力を分散させて、透水板3に破損が生じることを防止する。
【0017】
透水板3を固定したら、透水板3の内部空間34に水Wを供給する。水Wは、透水板3の上端の開口部から供給する。内部空間34に供給された水Wは、内部空間34に貯留されるが、その一部が貫通孔35を通じてコンクリート製品1の表面に供給される。水Wは、透水板3とコンクリート製品1との当接面に対して全面的に供給されるため、コンクリート製品1は、水中養生に近い環境で養生が行われる。
【0018】
以上、本実施形態の養生装置2およびコンクリート製品の養生方法によれば、大掛かりな設備を要することなく、簡易に、水中養生に近い環境を形成することができる。すなわち、コンクリート製品1の表面に固定した透水板3に水Wを供給するのみで、コンクリート製品1の表面に水Wが供給されて、水中養生に近い環境が形成される。養生装置2は、コンクリート製品1の任意の表面のみに水Wを供給するため、鋼材部分が水Wによって腐食することもない。
透水板3は、水Wを貯留することができるため、比較的少量の水Wにより湿潤養生を行うことができる。また、透水板3は可撓性を有しているため、湾曲したコンクリート製品1の表面に対して密着させることができる。また、透水板3の中央部を第二治具52により押さえ付けるため、湾曲したコンクリート製品1の表面から透水板3が浮くことはなく(隙間が形成されることなく)、透水板3を全面的に密着させることができる。そのため、コンクリート製品1の表面に対して均一に水Wを供給することができる。また、透水板3の周縁にシール材4が設置されているため、透水板3の周囲への漏水が防止されている。
【0019】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、コンクリート一体型鋼製セグメントを養生する場合について説明したが、養生装置2およびコンクリート製品の養生方法が適用可能なコンクリート製品1は限定されるものではなく、例えば、コンクリートセグメント、壁部材、擁壁、床版コンクリート等、あらゆるコンクリート2次製品に適用可能である。
また、養生装置2は、コンパクトであるため、水中養生に使用する水槽等を設置することができない場所や、散水設備等を設置することができない場所であっても、水中養生に近い環境でコンクリート製品1を養生することができる。そのため、養生装置2およびこれを利用したコンクリート製品の養生方法は、コンクリート2次製品を工場生産する場合だけでなく、コンクリート2次製品を現場製造する場合等においても水中養生に近い環境を作ることが可能である。
【0020】
透水板3の構成は、養生液の貯留が可能な中空部材であり、コンクリート製品1の形状に応じて、適宜変形させることが可能であれば、前記実施形態で示したものに限定されるものではない。例えば、透水板3は、内部空間34が複数に区画されていてもよい。
前記実施形態では、コンクリート製品1の一面のみに養生装置2を設置する場合について説明したが、養生装置2の設置個所は限定されるものではなく、例えば、コンクリート製品1の全ての面(6面)を覆うように設置してもよい。
前記実施形態では、透水板3の上端面が開口している場合について説明したが、透水板3の上端は遮蔽されていてもよい。この場合には、透水板3の上部に養生液(水W)を注入するための注入孔を形成しておく。
また、コンクリート製品1と透水板3との間には、コンクリート製品1の表面に対して均等に養生液が浸透しやすくなるように、必要に応じて不織布等を介設しておいてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 コンクリート製品
2 養生装置
3 透水板
4 シール材
5 治具
W 水(養生液)
図1
図2
図3