(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の技術では、保守すべき機器を推定することはできるものの、その緊急性を把握することができず、結果的に優先度が高い機器の保守が後回しになってしまうことがあり、必ずしも効率的に保守作業が行われているとは言い難い。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、プラントに異常が発生した場合、保守すべき機器および緊急性を提示することが可能な機器診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)複数のセンサにより計測されたプラントの状態を表す計測値を用い、前記プラントを構成する複数の機器の中から保守すべき機器を特定する機器診断システムであって、
前記プラントの正常な動作時における前記センサの計測値を格納した正常時計測値データベースと、
前記機器それぞれの記録を格納した機器情報データベースと、
計測した前記センサの計測値と、前記正常時計測値データベースに格納された前記センサの計測値とを用い、前記プラントの異常度を算出する異常度計算手段と、
前記異常度計算手段により算出された異常度に基づき、異常なパラメータを推定する異常パラメータ推定手段と、
前記機器情報データベースに格納された記録を用い、推定された前記異常なパラメータから異常な機器を特定する異常機器特定手段と、
特定された前記異常な機器により発生する前記プラントへのリスクを計算するリスク計算手段と、
計算された前記リスクに基づき、前記異常な機器の保守優先度を判定する優先度判定手段とを備えている機器診断システム、
(2)記録が機器の異常発生記録であり、前記機器の異常発生記録が前記機器名とパラメータ名とを含んでいる前記(1)に記載の機器診断システム、
(3)記録が機器の仕様書であり、前記機器の仕様書が前記機器名とパラメータ名とを含んでいる前記(1)に記載の機器診断システム、および
(4)プラントが原子力発電プラントであり、リスクが炉心損傷頻度またはプラント停止確率である前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の機器診断システム
に関する。
【0008】
なお、本明細書において、「異常度」とは、機器に関連するパラメータが、当該機器の正常状態における分布からどの程度離れているかを表す指標である。また、本明細書において、「機器の異常発生記録」とは、当該機器に異常が発生した際の記録であって、少なくとも当該機器の機器名と当該機器に関連するパラメータ名とが記載されているドキュメントを意味し、「機器の仕様書」とは、少なくとも当該機器の機器名と、当該機器に関連するパラメータ名とが記載されているドキュメントを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、プラントに異常が発生した場合、保守すべき機器および緊急性を提示することが可能な機器診断システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の機器診断システムは、複数のセンサにより計測されたプラントの状態を表す計測値を用い、上記プラントを構成する複数の機器の中から保守すべき機器を特定する機器診断システムであって、上記プラントの正常な動作時における上記センサの計測値を格納した正常時計測値データベースと、上記機器それぞれの記録を格納した機器情報データベースと、計測した上記センサの計測値と、上記正常時計測値データベースに格納された上記センサの計測値とを用い、上記プラントの異常度を算出しかつ異常なパラメータを推定する異常度計算手段と、上記機器情報データベースに格納された記録を用い、推定された上記異常なパラメータから異常な機器を特定する異常機器特定手段と、特定された上記異常な機器により発生する上記プラントへのリスクを計算するリスク計算手段と、計算された上記リスクに基づき、上記異常な機器の保守優先度を判定する優先度判定手段とを備えていることを特徴とする。
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、原子力発電プラントを例にとって説明する。なお、本発明は、図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態を示す概略構成図である。当該機器診断システム1は、複数のセンサ(不図示)により計測されたプラントの状態を表す計測値を用い、プラントを構成する複数の機器の中から保守すべき機器を特定するものであり、例えば、本実施形態で示す原子力発電プラント等に適用される。当該機器診断システム1は、
図1に示すように、概略的に、正常時計測値データベース10と、機器情報データベース20と、計測値入力手段30と、異常度計算手段40と、異常パラメータ推定手段50と、異常機器特定手段60と、リスク計算手段70と、優先度判定手段80と、結果出力手段90とにより構成されている。
【0014】
正常時計測値データベース10は、プラントの正常な動作時におけるセンサの計測値を格納する。このデータベース10には、具体的には、
図2に示すように、プラントの状態を表すパラメータとなる配管温度、ポンプ圧力、配管流量等の正常時の時系列データが格納されている。なお、上記パラメータは、プラントに取り付けられた複数のセンサそれぞれにより計測される。
【0015】
機器情報データベース20は、プラントを構成する機器それぞれの記録21を格納する。記録21は、機器の名称およびパラメータの両者が記録されたものである限り特に限定されないが、記録21が機器の異常発生記録であり、機器の異常発生記録が機器名と、異常が発生した際に変化が確認されたパラメータ名とを含んでいることが好ましい。このような記録21としては、例えば、機器に異常が発生した際の異常の発生日時、異常の概要、異常の原因、保守作業の対応内容などが記載された報告書等が挙げられる。これにより、機器の異常発生記録から保守優先度を判定することができ、保守すべき機器を緊急性に応じて確実に選定することができる。
【0016】
また、記録21が機器の仕様書であり、機器の仕様書が機器名とパラメータ名とを含んでいることも好ましい。これにより、機器の仕様書から保守優先度を判定することができ、保守すべき機器を緊急性に応じて確実に選定することができる。
【0017】
計測値入力手段30は、センサで測定されたプラントの状態を示すパラメータの計測値をリアルタイムで入力する。計測値入力手段30に入力される計測値としては、本実施形態の場合、例えば、
図2に示すような配管温度、ポンプ圧力、配管流量等である。
【0018】
異常度計算手段40は、計測したセンサの計測値と、正常時計測値データベース10に格納されたセンサの計測値とを用い、プラントの異常度を算出する。この異常度計算手段40は、具体的には、正常時計測値データベース10から正常時の計測値、計測値入力手段30からリアルタイムの計測値をそれぞれ入力し、これらの計測値の差分を用いて異常度を算出する。異常度を算出する手法としては特に限定されず、例えば、マハラノビス距離を計算(例えば、「田口玄一、「MTシステムにおける技術開発」、日本規格協会、2002年6月」参照)して異常度とする手法等を採用することができる。異常度は、
図4に示すように、各時刻においてリアルタイムで算出される。
【0019】
異常パラメータ推定手段50は、異常度計算手段40により算出された異常度に基づき、異常なパラメータを推定する。この推定手法としては、例えば、各パラメータの寄与率を比較することで異常なパラメータを特定する。上記各パラメータの寄与率は、そのパラメータを含めた場合の異常度と上記パラメータを除外した場合の異常度とを算出し、これら異常度の差分の大きさとして求めることができる。
【0020】
異常パラメータ推定手段50により算出された寄与率は、
図5に示すように、各時刻においてリアルタイムで求められ、この図の例では、時刻00:06において、配管温度が10%、ポンプ圧力が80%、配管流量が10%の確率で異常なパラメータであると推定される。なお、最も確率が高いポンプ圧力を異常なパラメータとみなして以下説明する。
【0021】
異常機器特定手段60は、機器情報データベース20に格納された記録21を用い、推定された異常なパラメータから異常な機器を特定する。この異常機器特定手段60は、機器抽出部61と異常機器特定部63とを有している。
【0022】
機器抽出部61は、機器情報データベース20に格納された記録21を用い、パラメータごとに記録21中に登場する各機器名(例えば「給水ポンプ」などの文字列)の数を数えてリストを作成する。本実施形態では、
図3に示すような給水ポンプ等の異常発生記録21を集め、
図6に示すようにポンプ圧力などのパラメータごとに、登場する各機器名(例えば「給水ポンプ」などの文字列)の数をリスト化する。
【0023】
異常機器特定部63は、異常パラメータ推定手段50にて推定された異常なパラメータから異常な機器を特定する。例えば、
図5に示すようなポンプ圧力を異常なパラメータとしたとき、機器抽出部61にて作成したリスト(
図6参照)に基づいて給水ポンプを最も異常な可能性が高い機器として特定する。なお、次に異常な可能性が高い圧力調整弁を異常な機器に含めてもよい。
【0024】
リスク計算手段70は、異常機器特定手段60にて特定された異常な機器により発生する保守対象機器が故障した場合のプラントへのリスクを計算する。
【0025】
なお、本実施形態のようにプラントが原子力発電プラントである場合、リスクが炉心損傷頻度またはプラント停止確率であることが好ましい。上記炉心損傷頻度は、確率論的安全評価で計算する方法が知られている。また、炉心損傷頻度の代わりに、リスクとしてプラント停止確率を計算してもよい。これにより、炉心の損傷またはプラントの停止を低減できるように保守計画を作成することができる。
【0026】
優先度判定手段80は、リスク計算手段70にて計算されたリスクに基づき、異常な機器の保守優先度を判定する。例えば、本実施形態の原子力発電プラントの場合、炉心損傷頻度が一定値以上になる場合や、炉心損傷頻度の上昇幅が一定値以上になる場合、保守すべき優先度が高いと判定する。
【0027】
結果出力手段90は、異常機器特定手段60で特定した保守対象機器と、優先度判定手段80にて判定した保守対象機器の優先度をディスプレイなどに出力する。本実施形態では、例えば
図7に示すように、ディスプレイ画面Gに、異常度のデータから異常が発生したと認定された「時刻」、「異常度」、「異常なパラメータ」、「保守対象機器」、および「優先度」が表示されている。
【0028】
なお、上述した異常度計算手段40、異常パラメータ推定手段50、異常機器特定手段60、リスク計算手段70、および優先度判定手段80は、計算機にて実行可能なプログラムであってもよい。また、正常時計測値データベース10および/または機器情報データベース20は、上記計算機内に含まれた構成であってもよい。
【0029】
次に、当該機器診断システム1を用いて実行される保守対象機器の判定について、
図8を参照して説明する。
【0030】
当該機器診断システム1は、まず計測値入力手段30が、センサにより測定されたプラントの状態を表す計測値を取得する(ステップS101)。
【0031】
次に、異常度計算手段40が、正常時計測値データベース10から正常時の計測値を取得し、センサにより計測されたリアルタイムの計測値と、上記正常時の計測値との差分を計算して異常度を算出する(ステップS102)。次いで、異常度計算手段40は、上記異常度と閾値とを比較し(ステップS103)、異常度が閾値を超えた場合に異常と判定して次の処理(ステップS104)に進む。一方、異常度が閾値以下である場合にはステップS101に戻り、計測値入力手段がセンサからの計測値を引き続き取得する。本実施形態において、閾値を1.0に設定すると、
図4に示すように、時刻00:06において異常度が1.0よりも大きくなるため、異常と判定されてステップS104に進む。
【0032】
次に、異常パラメータ推定手段50において、異常なパラメータを推定する(ステップS104)。具体的には、異常パラメータ推定手段50が、異常度に与える各パラメータの寄与率を比較することで、例えば最も大きな寄与率のパラメータを異常なパラメータであると推定する。本実施形態では、
図5に示すように、異常度が1.0を超えた時刻00:06では、ポンプ圧力の寄与率が最も高いため、このポンプ圧力が異常なパラメータであると推定される。
【0033】
次に、異常機器特定手段60において、機器抽出部61が、機器情報データベース20に格納された記録21を用い、パラメータごとに、登場する各機器名の数を数えてリスト化する(ステップS105)。次いで、異常機器特定部63が、ステップS104にて推定された異常なパラメータから異常な機器を特定する(ステップS106)。例えば、本実施形態では、異常パラメータ推定手段50により異常なパラメータであると推定されたポンプ圧力のリストから、給水ポンプが最も異常な可能性が高い機器として特定される。
【0034】
次に、リスク計算手段70が、ステップS106にて特定された機器のプラントへのリスクを計算する(ステップS107)。本実施形態では、炉心損傷をリスクの対象とし、起因事象A(例えば、地震や火災など)の発生、出力制御、給水および減圧の故障のいずれもが同時に生じたときに炉心損傷が発生する場合を想定している(
図9参照)。ここで、起因事象Aの発生確率(P0)を1×10
−2、出力制御の故障確率(P1)を1×10
−2、減圧の故障確率(P3)を1×10
−2とする。また、給水ポンプと給水制御装置のいずれかが故障した場合に給水機能が喪失するものとし(
図10参照)、その発生確率(P2)は、給水ポンプと給水制御装置の故障確率の和として1×10
−2回/年である。(
図11参照)。したがって、現状で機器に異常がないときに炉心損傷が発生する確率(炉心損傷頻度P)は、P0×P1×P2×P3=1×10
−2×1×10
−2×1×10
−2×1×10
−2=1×10
−8回/年と算出される。一方、ステップS106にて特定された給水ポンプが、現状で故障している場合には、P2=1となり、炉心損傷頻度P=1×10
−6回/年と算出される。なお、起因事象が複数存在する場合には、起因事象ごとに炉心損傷頻度を算出し、その和を炉心損傷頻度Pとする。
【0035】
次に、優先度判定手段80が、ステップS107にて計算されたリスクに基づき、異常な機器の保守優先度を判定する(ステップS108)。優先度判定手段80は、通常、リスクが所定値以上となったとき優先度が高いとして保守作業を早期に実施する。例えば、機器故障時の炉心損傷頻度が1.0×10
−7以上である場合、その機器の保守優先度が高いとして保守を計画よりも早めて行う。一方、炉心損傷頻度が1.0×10
−7未満である場合、保守優先度が低いとして当初の計画通り定期検査時に保守を行う。上記例では給水ポンプ故障時の炉心損傷頻度が1.0×10
−6であるので、給水ポンプの保守優先度は高いと判定される。なお、特定された保守対象機器、算出された優先度などの結果は、結果出力手段によりディスプレイ画面への表示等で出力される。
【0036】
以上のように、当該機器診断システム1は、上述した構成であるので、プラントに異常が発生した場合、異常なパラメータから容易かつ確実に異常な機器を特定しかつ当該機器の保守優先度を判定することができ、保守すべき機器および緊急性を提示することができる。その結果、機器の保守作業を効率よく行うことができる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、プラントが原子力プラントであり、リスクが炉心損傷頻度である機器診断システム1について説明したが、リスクがプラント停止確率である機器診断システムや、プラントが原子力プラント以外のものも本発明の意図する範囲内である。