【文献】
家田 明,銀行勘定における金利リスクの簡便な把握手法について,日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ(1997年収録分) [online],日本銀行,1998年 4月 1日,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化したリスク評価システムの一実施形態を
図1〜
図10に従って説明する。本実施形態では、階層ベイズモデルを用いて、IRRBBを評価する場合を想定する。ここでは、階層ベイズモデル(ベイズ統計モデル)として、鎖状グラフィカルモデル(例えば、ベイジアンネットワーク)を用いる。この鎖状グラフィカルモデルは、データの時系列的な変動を表現する「システムモデル」と、ある時点のデータから目的とする情報(潜在変数)を計算する「観測モデル」と呼ばれる2種類のモデルで構成される。本実施形態では、このモデルの構築をベイズ統計で行なう。
【0012】
図1に示すように、本実施形態では、クライアント端末10、支援サーバ20を用いる。
クライアント端末10は、本サービスを利用するユーザが用いるコンピュータ端末である。クライアント端末10は、制御部、出力部、入力部を備える。制御部は、各種アプリケーションを実行する。本実施形態では、制御部は、支援サーバ20にアクセスするためのブラウザとして機能する。出力部は、ディスプレイにより構成され、各種情報の出力を行なう。入力部は、キーボードやポインティングデバイスにより構成され、ユーザによって入力された指示を取得する。
【0013】
支援サーバ20は、階層ベイズモデルを用いて、金利リスクを評価するコンピュータシステムである。この支援サーバ20は、制御部21、公開情報記憶部22、個別情報記憶部23を備えている。
制御部21は、制御手段(CPU、RAM、ROM等)を備え、後述する処理(金利予測段階、コア預金予測段階、定期預金予測段階、繰上返済率予測段階、リスク計算段階、ヘッジシミュレーション段階の各処理)を行なう。このためのリスク評価プログラムを実行することにより、制御部21は、金利予測部211、コア預金予測部212、定期預金予測部213、繰上返済率予測部214、リスク計算部215、ヘッジシミュレーション部216として機能する。
金利予測部211は、ゼロ・クーポン・イールドカーブの将来予測を行ない、ディスカウントレートを算出する処理を実行する。
コア預金予測部212は、階層ベイズモデルを用いて、ショックシナリオにおけるコア預金残高を算出する処理を実行する。
定期預金予測部213は、階層ベイズモデルを用いて、ショックシナリオにおける定期預金額(残高)を算出する処理を実行する。
繰上返済率予測部214は、階層ベイズモデルを用いて、ショックシナリオにおける繰上返済率を算出する処理を実行する。
【0014】
コア預金予測部212〜繰上返済率予測部214が用いる階層ベイズモデルは、個別情報及び公開情報を用いて生成される。なお、新たな個別情報及び公開情報を取得した場合には、階層ベイズモデルは更新される。
リスク計算部215は、推計した金利、コア預金、定期預金額、繰上返済率を用いて、金利リスクを算出する処理を実行する。
ヘッジシミュレーション部216は、金利リスクに対応したヘッジのシミュレーション処理を実行する。
【0015】
公開情報記憶部22には、包括的な公開情報(ここでは、全国情報)が記録される。公開情報は、公開情報を取得した場合に記録される。この公開情報には、金利、コア預金、定期預金額、繰上返済率を算出するための階層ベイズモデルを生成するために必要な情報が記録される。
個別情報記憶部23には、金融機関における個別情報が記録される。個別情報は、金融機関から個別情報を取得した場合に記録される。この個別情報には、公開情報を用いて生成された階層ベイズモデルを調整するための情報(個別サマリー情報)が記録される。
【0016】
(処理手順の概要)
図2を用いて、処理手順の概要を説明する。ここでは、包括的な情報で階層ベイズモデルを作成し、部分的な情報に基づいてIRRBBを予測する。
まず、支援サーバ20の制御部21は、あらゆる場面を想定したモデル作成処理を実行する(ステップS1−1)。ここでは、公開された全体情報(全国情報)を用いる。
【0017】
次に、支援サーバ20の制御部21は、個別情報を用いてモデル調整処理を実行する(ステップS1−2)。ここでは、リスク評価を行なう特定の金融機関の個別情報を用いる。
次に、支援サーバ20の制御部21は、調整されたモデルによる予測処理を実行する(ステップS1−3)。ここでは、階層ベイズモデルを用いて、金利、コア預金、定期預金額、繰上返済率を算出する。
次に、支援サーバ20の制御部21は、予測に対応する実績の取得処理を実行する(ステップS1−4)。
次に、支援サーバ20の制御部21は、モデル更新処理を実行する(ステップS1−5)。ここでは、公開された包括的情報(更新情報)を取得した場合には、階層ベイズモデルを更新する。
【0018】
(本システムで用いるデータの概要)
図3を用いて、本システムで用いるモジュールとデータの概要を説明する。
まず、金利予測部211は、ゼロ・クーポン・イールドカーブ作成ロジック31により、公開情報を用いて、ゼロ・クーポン・イールドカーブ及びディスカウントファクタを算出する。ここでは、IRRBB規制において指定されている各通貨のゼロ・クーポン・イールドカーブ及びディスカウントファクタを算出する。そして、金利予測部211は、ゼロ・クーポン・イールドカーブ及びディスカウントファクタから算出した予測開始時点の日本円のゼロ・クーポン・イールドカーブと、公開情報であるマクロ経済指標とを、金利予測モデル32(階層ベイズモデル)に導入する。これにより、任意の時点のゼロ・クーポン・イールドの確率分布が算出される。
【0019】
次に、コア預金予測部212は、任意の時点のゼロ・クーポン・イールドの確率分布、ヒストリカルの流動性預金金利、個人・法人別流動性預金残高を、コア預金推計モデル33(階層ベイズモデル)に導入する。これにより、期間バケット毎のコア預金額が算出される。
【0020】
次に、定期預金予測部213は、任意の時点のゼロ・クーポン・イールドの確率分布、期間バケット毎のコア預金額、ヒストリカルの契約年限別定期預金金利、残高を、定期預金額推計モデル34(階層ベイズモデル)に導入する。これにより、期間バケット毎の定期預金額が算出される。
【0021】
更に、繰上返済率予測部214は、期間バケット毎に元本合計、契約件数、平均値、標準偏差、分位点を、固定金利ローン繰上返済率推計モデル35(階層ベイズモデル)に導入する。これにより、期間バケット毎の繰上返済率が算出される。
リスク計算部215は、期間バケット毎のコア預金額、期間バケット毎の定期預金額、期間バケット毎の繰上返済率を、金利リスク指標計算モジュール36に導入する。これにより、リスク評価結果が算出される。リスク評価結果として、ポートフォリオ全体金利、ショックシナリオ別の純資産の変動(ΔEVE)、純金利収益の変動(ΔNII)を算出する。
【0022】
そして、ヘッジシミュレーション部216は、ヘッジポジションシミュレータ37により、シミュレーション処理を実行する。
【0023】
(ゼロ・クーポン・イールドカーブ作成ロジック)
次に、
図4を用いて、ゼロ・クーポン・イールドカーブ作成ロジックを説明する。ここでは、日本円の通貨のゼロ・クーポン・イールドカーブの将来予測を行ない、このイールドカーブを任意の通貨に展開する。
【0024】
まず、支援サーバ20の制御部21は、スワップレートカーブと通貨スワップレートの情報の取得処理を実行する(ステップS2−1)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、予め準備したスワップレートカーブと通貨スワップレートの情報を取得する。
【0025】
次に、支援サーバ20の制御部21は、通貨毎に、ゼロ・クーポン・イールドカーブの作成処理を実行する(ステップS2−2)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、取得した情報から、IRRBBの計算において考慮すべき各通貨のゼロ・クーポン・イールドカーブを作成する。次に、金利予測部211は、各期間バケット別のディスカウントレートを算出する。
【0026】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケット毎に、ディスカウントレートの算出処理を実行する(ステップS2−3)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、各通貨のゼロ・クーポン・イールドカーブから、後述する金利予測モデルを用いて、ディスカウントレートの算出を繰り返す。なお、ゼロ・クーポン・イールドカーブが、OIS(翌日物金利スワップ)のスワップレートの年限をベースにして推定されている場合には、期間バケットの中心年限の値を計算するために、Bスプライン近似による線形補完を行なう。
【0027】
(金利予測モデル)
次に、
図5を用いて、金利予測モデルを説明する。この金利予測モデルでは、ある時点の日本円の通貨のゼロ・クーポン・イールドカーブの将来予測を行ない、そのイールドカーブを任意の通貨に展開する。
【0028】
まず、支援サーバ20の制御部21は、マクロ経済指標の取込処理を実行する(ステップS3−1)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、公開情報記憶部22から、階層ベイズモデルに使用するマクロ経済指標を取得する。
【0029】
次に、支援サーバ20の制御部21は、予測開始時点の日本円のゼロ・クーポン・イールドカーブの取込処理を実行する(ステップS3−2)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、ステップS2−2において、算出した日本円のゼロ・クーポン・イールドカーブを取得する。
【0030】
次に、支援サーバ20の制御部21は、将来のゼロ・クーポン・イールドカーブの予測処理を実行する(ステップS3−3)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、階層ベイズモデルから将来の金利カーブを予測する。ここでは、Nelson-Siegelモデルを採用した階層ベイズモデルを用いる。パラメータは、水準、傾き、曲率をそれぞれ表現するためのβ_1,β_2,β_3及び共通パラメータとして必要となるλ、経過月数m(mの推定は不要)、β_1,β_2,β_3を以下の線形ガウシアンモデルで推計する。なお、「_」は下付き文字を意味する。
状態変数x_tとし、HはNelson-Siegelモデルで算出するλと経過月数から求まる値とし、マクロ経済指標(基準貸付利率、消費者物価指数(生鮮品を除く)対前年同月比、米国財務証券(10年)利回り、米国FFレート、東証株価指数、鉱工業生産指数対前年同月比)を使用する。略号は順にBDR_t-1,CPI_t-1,US_10t-1,FF_t-1,TOPIX_(t-1,IIP_(t-1))とすると、β_1t,β_2t,β_3tは下式で記述できる。
【0032】
このとき、ハイパーパラメータは誤差項であるω_t,υ_t,μ_tと、状態モデルに含まれるα,γ、状態モデルの「説明変数に対する係数のような働き」をするaからfである。ω_t,υ_t,μ_tは、それぞれ無情報を想定した正規分布N(0,10)とする。データの観測開始をt=1とした場合のその他のハイパーパラメータ(仮にhpとする)は、以下の方法で算出する。これは、観測開始期を除き、推定対象とする期のパラメータの確率分布の平均として、前期の当該パラメータの確率分布を当てはめる時系列構造を反映している。なお、「^」はべき乗を意味する。
【0034】
なお、パラメータλは正規分布に従う。上記のパラメータβの推定における誤差項以外のハイパーパラメータと同じ時系列構造を反映した設定で推定を行なう。
【0035】
次に、支援サーバ20の制御部21は、任意の通貨への展開処理を実行する(ステップS3−4)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、ゼロ・クーポン・イールドカーブ作成ロジックを用いて、任意の通貨の期間バケット毎の値を算出する。
【0036】
次に、支援サーバ20の制御部21は、ディスカウントレートの算出処理を実行する(ステップS3−5)。具体的には、制御部21の金利予測部211は、任意の通貨についてディスカウントレートを算出する。
【0037】
(コア預金推計モデル)
次に、
図6を用いて、コア預金推計モデルを説明する。このコア預金推計モデルでは、市場金利の変動に応じて流動性預金のうち引き出されることなく滞留する預金(コア預金)の量が変わる。これを個人預金(更に、非取引性、取引性に区分)、法人預金に分けて推計する。
【0038】
まず、支援サーバ20の制御部21は、ヒストリカルの流動性預金金利の取得処理を実行する(ステップS4−1)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、クライアント端末10において、ヒストリカル(5年程度を想定)の流動性預金金利のアップロードを促すメッセージを出力する。そして、コア預金予測部212は、クライアント端末10からアップロードされたヒストリカルの流動性預金金利を個別情報記憶部23に記録する。
【0039】
次に、支援サーバ20の制御部21は、個人・法人別流動性預金残高の取得処理を実行する(ステップS4−2)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、クライアント端末10において、個人・法人別流動性預金残高のアップロードを促すメッセージを出力する。そして、コア預金予測部212は、クライアント端末10からアップロードされた個人・法人別流動性預金残高を個別情報記憶部23に記録する。
【0040】
次に、支援サーバ20の制御部21は、流動性預金金利の市場追随率の推定処理を実行する(ステップS4−3)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、個別情報記憶部23に記録されたヒストリカルデータと流動性預金金利の市場金利追随率モデル(後述する階層ベイスモデル)を用いて、流動性預金金利の市場追随率を推定する。
ここでは、1か月ゼロ・クーポン・レートを市場調達金利とし、市場調達金利と流動性預金金利(普通預金金利など)及び流動性預金金利の追随率を用いて、流動性預金金利と固定預金金利からなる調達金利と一致するような複製ポートフォリオを想定する。これを解くことで、追随率θを推定する階層ベイズモデルが生成され、下式で表される。
【0042】
追随率θは、平均μ、標準偏差をハイパーパラメータとする正規分布に従い、両ハイパーパラメータは、データ開始期をt=1とする、以下の時系列構造を反映したモデルである(ハイパーパラメータをまとめてphと表記する)。
【0044】
また、構築したこの階層ベイズモデルを用いて、市場調達金利r_m^tを変動させれば、将来の流動性預金金利を算出できる。
【0045】
次に、支援サーバ20の制御部21は、日本円ゼロ・クーポン・イールドカーブの予測処理を実行する(ステップS4−4)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、算出した流動性預金金利の市場追随率と金利予測モデルから、流動性預金金利の確率分布の事後分布を推定する。
【0046】
次に、支援サーバ20の制御部21は、流動性預金残高の事後分布の推定処理を実行する(ステップS4−5)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、算出した日本円ゼロ・クーポン・イールドカーブと流動性預金の将来水準を予測するモデル(後述する階層ベイスモデル)を用いて流動性預金残高の事後分布パラメータを推定する。
ここでは、将来期間tにおける流動性預金額M_tを、AR1構造をベースとした階層ベイズモデルで表現する。
【0048】
パラメータκは、流動性金利とマクロ経済指標、金融機関毎に設定する調整項の影響を受ける。マクロ経済指標をρ_iとすると以下の式で表すことができる。
【0050】
定数項Iとマクロ経済指標の係数のような働きをするハイパーパラメータa及びb_iは、データの観測開始をt=1とした場合(仮にhpとする。ハイパーパラメータ毎に読み替える。)において、以下の方法で算出する。これは、観測開始期を除き、推定対象とする期のパラメータの確率分布の平均として、前期の当該パラメータの確率分布を当てはめる時系列構造を反映している。
【0052】
次に、支援サーバ20の制御部21は、モデルによるコア預金額の推定処理を実行する(ステップS4−6)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、事後分布から算出した各期間バケットの99%下限を当該期間のコア預金額とする。
【0053】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケット配分率の調整処理を実行する(ステップS4−7)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、算出した期間バケット別コア預金額から、期間バケット別のコア預金分配率を算出し、ここからコア預金の平均残存期間を計算する。この値が規制に定める預金種別の平均残存期間上限を超える場合は、最も長期の期間バケットのコア預金分配率から順に低下させ、平均残存期間が規制上限と一致するように調整する。
【0054】
次に、支援サーバ20の制御部21は、コア預金総額の調整処理を実行する(ステップS4−8)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、推定した期間バケット別コア預金額を合算したコア預金総額が規制に定める流動性預金に占めるコア預金額比率の上限を超える場合には、コア預金額比率が上限に一致するようにコア預金総額を減少させる。
【0055】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケットへのコア預金の分配処理を実行する(ステップS4−9)。具体的には、制御部21のコア預金予測部212は、ステップS4−8において調整されたコア預金総額に、ステップS4−7において調整された期間バケット別コア預金分配率を乗じ、各期間バケットにコア預金を分配する。
【0056】
(定期預金額推計モデル)
次に、
図7を用いて、定期預金額推計モデルを説明する。この定期預金額推計モデルでは、市場金利の変動に応じて定期預金の残高は変動する。これを契約年限別に推計し、期間バケット毎に定期預金の解約額を計算し、適切な期間バケットに再配分する。
【0057】
まず、支援サーバ20の制御部21は、ヒストリカルの契約年限別定期預金金利、同残高の取得処理を実行する(ステップS5−1)。具体的には、制御部21の定期預金予測部213は、クライアント端末10において、契約年限別定期預金金利、契約年限別定期預金残高のアップロードを促すメッセージを出力する。そして、定期預金予測部213は、クライアント端末10からアップロードされたヒストリカルの契約年限別定期預金金利、契約年限別定期預金残高を個別情報記憶部23に記録する。
【0058】
次に、支援サーバ20の制御部21は、定期預金金利追随率の計算処理を実行する(ステップS5−2)。具体的には、制御部21の定期預金予測部213は、ユーザがアップロードしたヒストリカルデータと定期預金金利の市場金利追随率モデル(後述する階層ベイズモデル)を用いて、定期預金金利の市場追随率を推定する。
【0059】
定期預金プールの契約年限が含まれる期間バケットのゼロ・クーポン・レートを市場調達金利とし、市場調達金利と定期預金金利及び定期預金金利の追随率を用いて、定期預金金利と固定金利からなる調達金利と一致するような複製ポートフォリオを想定する。これを解くことで追随率θを推定する階層ベイズモデルであり、下式で表される。
【0061】
追随率θは、平均μ、標準偏差をハイパーパラメータとする正規分布に従い、両ハイパーパラメータはデータ開始期をt=1とする、以下の時系列構造を反映したモデルである(ハイパーパラメータをまとめてphと表記する)。
【0063】
また、構築したこの階層ベイズモデルを用いて、市場調達金利r_m^tを変動させれば、将来の定期預金金利を算出できる。
【0064】
次に、支援サーバ20の制御部21は、日本円ゼロ・クーポン・イールドカーブの予測処理を実行する(ステップS5−3)。具体的には、制御部21の定期預金予測部213は、計算した定期預金金利追随率と金利予測モデルから、定期預金金利の確率分布の事後分布を推定する。
【0065】
次に、支援サーバ20の制御部21は、定期預金残高の事後分布の推定処理を実行する(ステップS5−4)。具体的には、制御部21の定期預金予測部213は、予測した日本円ゼロ・クーポン・イールドカーブと定期預金量モデル(後述する階層ベイズモデル)を用いて定期預金残高の事後分布パラメータを推定する。
将来期間tにおける定期預金額M_tを、AR1構造をベースとした階層ベイズモデルで表現する。
【0067】
パラメータκは定期預金金利とマクロ経済指標、金融機関毎に設定する調整項の影響を受ける。マクロ経済指標をρ_iとすると以下の式で表すことができる。
【0069】
定数項Iとマクロ経済指標の係数のような働きをするハイパーパラメータa及びb_iは、データの観測開始をt=1とした場合(仮にhpとする。ハイパーパラメータ毎に読み替える。)において、以下の方法で算出する。これは、観測開始期を除き、推定対象とする期のパラメータの確率分布の平均として、前期の当該パラメータの確率分布を当てはめる時系列構造を反映している。
【0071】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケットへの定期預金額の配分処理を実行する(ステップS5−5)。具体的には、制御部21の定期預金予測部213は、事後分布から経過期間別の定期預金額を期間バケット毎に集計することにより、当該期間バケットの定期預金額を算出する。
【0072】
(固定金利ローン繰上返済率推計モデル)
次に、
図8を用いて、固定金利ローン繰上返済率推計モデルを説明する。この固定金利ローン繰上返済率推計モデルでは、固定金利ローンの内、特に市場金利の変動によって繰上返済のインセンティブが変化しやすいポジションの繰上返済率を推計する。具体的に想定するポジションは、住宅ローン及び投資用モーゲージローン等の比較的長期の証書貸付を対象とする。
【0073】
なお、カードローン等の極度枠取引や金融機関とのリレーション維持等の観点から、単純に借換等の行動を取りにくい事業性融資は対象としない。
【0074】
まず、支援サーバ20の制御部21は、データ項目毎に元本合計、契約件数、平均値、標準偏差、分位点のサマリーデータの取得処理を実行する(ステップS6−1)。具体的には、制御部21の繰上返済率予測部214は、クライアント端末10において、サマリーデータのアップロードを促すメッセージを出力する。サマリーデータとしては、契約上の残存期間(全期間固定金利契約の場合は約定返済の満期、一定期間の固定金利又は変動金利の場合は金利変更時期)に相当する期間バケット毎に以下のデータ項目を使用する。ここでは、データ項目毎に、元本合計、契約件数、平均値、標準偏差、分位点(10%点、20%点、30%点、40%点、50%点、60%点、70%点、80%点、90%点)のサマリーデータを用いる。データ項目としては、元本残高、約定金利、残存月数、申込時年収、申込時自己資金比率、申込時返済負担率、物件所在都道府県を用いる。そして、繰上返済率予測部214は、クライアント端末10からアップロードされたサマリーデータを個別情報記憶部23に記録する。
【0075】
次に、支援サーバ20の制御部21は、繰上返済率推定モデルのパラメータの推計処理を実行する(ステップS6−2)。具体的には、制御部21の繰上返済率予測部214は、予め住宅金融支援機構の観測データから推定したパラメータの確率分布を、ユーザがアップロードしたデータで更新する。
ここで、繰上返済率の時系列推移は対数正規分布に近い過程となることが実務上知られている。そこで、対数正規分布を想定した階層ベイズモデルを構築する。
経過年数tにおける繰上返済率(CPR)は、確率分布(dCPR)と経過年数tからなる関数である。
【0077】
このdCPRの平均(期待値)をm、分散をvとする。このとき対数正規分布のパラメータμ及びθと期待値m、分散vとの関係は以下の通り表すことができる。
【0079】
なお、期待値mは、定数項Iとマクロ経済指標、申込時年収、申込時自己資金比率、申込時返済負担率、物件所在都道府県等(数式上のw_1〜w_j)を用いる線形結合モデルである。
【0080】
更に、金融機関の差異による調整項(υ_i)が存在するものとし、分散vは正規分布に従うものとする。よって、I,c,υ_i及びμ',θ'は、いずれもハイパーパラメータである。これらのうち、υ_iは無情報の正規分布、μ',θ'は無情報のガンマ分布を設定する。データの観測開始をt=1とした場合のその他のハイパーパラメータ(仮にhpとする。ハイパーパラメータ毎に読み替える。)は、以下の方法で算出する。これは、観測開始期を除き、推定対象とする期のパラメータの確率分布の平均として、前期の当該パラメータの確率分布を当てはめる時系列構造を反映している。
【0082】
次に、支援サーバ20の制御部21は、更新後の繰上返済推計モデルを用いて、期間バケット別の繰上返済率の推定処理を実行する(ステップS6−3)。具体的には、制御部21の繰上返済率予測部214は、期間バケット毎の繰上返済率の確率分布を推定し、その平均値(CPR’)を算出する。そして、繰上返済率を計算しようとする期間バケットの年限yを用いて、以下の計算をした結果を繰上返済率(CPR)とする。
【0084】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケット別元本の修正処理を実行する(ステップS6−4)。具体的には、制御部21の繰上返済率予測部214は、一期前の繰上返済率と元本とを乗算した金額を、約定返済に基づき計算した期間バケット別元本から差し引いた額を繰上返済考慮後の元本として算出する。ここでは、すべてのバケットについて順に計算する。
【0085】
(金利リスク指標計算モジュール)
次に、
図9を用いて、金利リスク指標計算モジュールを説明する。この金利リスク指標計算モジュールでは、バーゼル委員会の最終文書に記載されている標準化プラットフォームに基づく手法を実装する。ユーザの選択に応じ、行動オプション性を有するポジションの計算方法を選択できる。
【0086】
まず、支援サーバ20の制御部21は、集計ポジションの仕分処理を実行する(ステップS7−1)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、バンキング勘定の全ポジションのうち、金利リスクの影響を受けるものを、標準化、標準化不適、標準化不可の3つに区分する。
【0087】
次に、支援サーバ20の制御部21は、金利オプション性を持つポジションの区分処理を実行する(ステップS7−2)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、標準化不適のうち、契約等で明確に規定されている自動的な金利オプション性を有するポジションを区分する。ただし、このポジションは、以下の計算でも、金利オプション性がないポジションとして各種計算の対象となる。
【0088】
次に、支援サーバ20の制御部21は、期間バケットへの区分処理を実行する(ステップS7−3)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、金利リスクの計測対象ポジションを期間パケットに区分する。ここでは、元本返済(契約上の満期)、金利更改時期、これら以外のトランシェに対する金利の支払時期に基づき期間パケットを設定する。
【0089】
次に、支援サーバ20の制御部21は、ゼロ・クーポン・イールドカーブと割引率の計算処理を実行する(ステップS7−4)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、ゼロ・クーポン・イールドカーブ作成ロジックを用いる。
【0090】
次に、支援サーバ20の制御部21は、行動オプション性ポジションのキャッシュフロー計算処理を実行する(ステップS7−5)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、コア預金、定期預金額、繰上返済率、プル・スロー率についてのキャッシュフローを計算する。
【0091】
<コア預金>
コア預金については、まず、リスク計算部215は、満期のない預金(NMD)を以下に区分する。
・リテール預金口座(決済性):リテール預金のうち給与振込等の定期的取引口座又は付利しない口座
・リテール預金(非決済性):取引口座ではないリテール預金口座
・ホールセール
なお、リテール預金口座の決済性、非決済性の判別が難しい場合は、コア預金比率の上限が保守的である非決済性口座として取り扱う。
内部モデルを使用しない場合は、ユーザが入力した推計値を使用し、内部モデルを使用する場合は、上述したコア預金推計モデルにて算出したコア預金額に応じて、NMDを各期間バケットに配分する。
【0092】
<定期預金額>
内部モデルを使用しない場合、リスク計算部215は、金利ショックシナリオ別のシナリオ乗数と金融機関が推定した定期預金中途解約率(TDRR)を用いて、TDRRパラメータを計算する。そして、リスク計算部215は、定期預金残高にTDRRを乗じてキャッシュフローを計算する。一方、内部モデルを用いる場合、リスク計算部215は、上述した定期預金額推計モデルを用いてキャッシュフローを推計する。
【0093】
<繰上返済率>
期限前償還リスクのある固定金利ローンのキャッシュフローを、内部モデルを用いずに推計する場合、リスク計算部215は、金利ショックシナリオ別のシナリオ乗数とユーザが提供する実績繰上返済率を用いて期間バケット別の繰上返済率を計算する。
内部モデルを用いて推計する場合には、リスク計算部215は、上述した固定金利ローン繰上返済率推計モデルを用いて推計した繰上返済率を使用する。
そして、リスク計算部215は、本来の約定返済計画に従った元利キャッシュフローに対し、一期前の元本に上記繰上返済率を乗じた値を加算するとともに、最も期先の期間バケットの元本を減少させることで、繰上返済を考慮した元本キャッシュフローを作成する。
【0094】
<プル・スルー率>
リスク計算部215は、固定金利ローンのコミットメントに対するプル・スルー率を、ユーザのヒストリカルの実績値から計算した平均値に、〔1.96σ〕を加算した値をベース値として算出する。そして、リスク計算部215は、計算基準日時点の固定金利ローンのコミットメントの約定返済予定に、このベース値を乗算して、キャッシュフローを計算する。
【0095】
次に、支援サーバ20の制御部21は、利息を加えたキャッシュフローの計算処理を実行する(ステップS7−6)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、元本キャッシュフローから各ポジションの期間バケット別利息収入額を計算し、利息発生時期に対応する期間バケットのキャッシュフローに反映する。
【0096】
次に、支援サーバ20の制御部21は、現在割引価値の計算処理を実行する(ステップS7−7)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、通貨別、期間パケット別のゼロ・クーポン・イールド(R)を用いて、割引率〔exp(-R×t_k)〕を計算する。なおt_kは当該期間パケットの中央点を表す。
【0097】
次に、リスク計算部215は、算出した割引率を、期間バケット別のキャッシュフローに乗算して、金利ショックシナリオ別の現在割引価値を算出する。
【0098】
次に、支援サーバ20の制御部21は、ΔNIIの計算処理を実行する(ステップS7−8)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、将来12か月(6つの短期の期間バケットが該当)の現在割引価値を計算する。
【0099】
ただし、ここでは、満期が到来する、金利が変更された後も同様のキャッシュフローに置き換わる場合(例:流動性預金や変動金利ローン)、B/S上は当該ポジションは計測期間中不変として計算する。
【0100】
そして、リスク計算部215は、期間バケットの合算値をNIIとして算出する。次に、リスク計算部215は、金利ショックシナリオのNIIから計算基準日の金利水準のNIIを差し引いたΔNII(収益アプローチ)を計算する。ただし、ΔNIIの計算に使用する金利ショックシナリオはパラレルシフト2種類のみである。
【0101】
次に、支援サーバ20の制御部21は、金利オプション性を有するポジションのアドオン計算処理を実行する(ステップS7−9)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、区分した金利オプション性を有するポジションに基づくアドオンについて、金利オプションの行使が可能な時期に対応する期間バケットに各ポジションの元本を配分し、これまで作成したキャッシュフローとは別に計算する。更に、リスク計算部215は、通貨別、期間パケット別に設定される金利ショックシナリオ時の金利を用いて、インプライドボラティリティを、25%を条件にしたアメリカン・オプションと見なしてオプション価値(A)を計算する。また、リスク計算部215は、計算基準日時点の金利水準で同様にオプション価値(B)を計算する。
そして、リスク計算部215は、期間バケット別に売りポジションの〔A−B〕の合計から、買いポジションの〔A−B〕の合計を引いて、当該期間バケットのアドオン(KAO)を算出する。
【0102】
次に、支援サーバ20の制御部21は、ΔEVEの計算処理を実行する(ステップS7−10)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、すべての期間バケットの現在割引価値を計算した後、算出した金利オプション性を有するポジションのアドオンを反映する。そして、リスク計算部215は、全ての期間バケットの合算値をEVEとする。そして、金利ショックシナリオのEVEから計算基準日時点の金利水準のEVEを差し引いたΔEVE(経済価値アプローチ)を計算する。
【0103】
次に、支援サーバ20の制御部21は、修正デュレーションの計算処理を実行する(ステップS7−11)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、すべての期間バケットの現在割引価値から、以下の修正デュレーション計算式に基づき、修正デュレーションを計算する。
【0105】
ただし、CF_(i j)は金利ショックシナリオiにおける期間バケットjのキャッシュフロー、D_(adji)は同シナリオにおける修正デュレーションである。
【0106】
次に、支援サーバ20の制御部21は、結果の集計処理を実行する(ステップS7−12)。具体的には、制御部21のリスク計算部215は、計算基準日時点の金利水準及び6つの金利ショックシナリオ別のEVE、NII、ΔEVE、ΔNII、修正デュレーションを集計する。そして、リスク計算部215は、計算結果をクライアント端末10に出力する。
【0107】
(ヘッジポジションシミュレーション)
次に、
図10を用いて、ヘッジポジションシミュレーションを説明する。このヘッジポジションシミュレーションでは、目標とする金利リスク関連指標の水準とそれを超過する可能性に係る許容水準、使用するデリバティブの種別、予測対象期間を予め設定すると条件を満たすヘッジポジションの構築例を提示する。
【0108】
まず、支援サーバ20の制御部21は、ポートフォリオの選択処理を実行する(ステップS8−1)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、クライアント端末10において、シミュレーションの対象とするポートフォリオの選択画面を出力する。そして、ヘッジシミュレーション部216は、クライアント端末10の選択画面において選択されたポートフォリオを取得する。
次に、支援サーバ20の制御部21は、将来金利の確率分布の作成処理を実行する(ステップS8−2)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、上述した金利予測モデルを用いて、将来のゼロ・クーポン・イールドカーブの事後分布を作成する。
【0109】
次に、支援サーバ20の制御部21は、割引率作成処理を実行する(ステップS8−3)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、ゼロ・クーポン・イールドカーブの事後分布を用いて、割引率の確率分布を作成する。
次に、支援サーバ20の制御部21は、金利リスク関連指標の計算処理を実行する(ステップS8−4)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、作成した将来金利の確率分布、割引率、事前に計算したキャッシュフローから、ポートフォリオに対応した金利シナリオ別の金利リスク指標(ΔEVE、ΔNII、修正デュレーションの分布)の目標値を作成する。
【0110】
次に、支援サーバ20の制御部21は、最適化による最適ヘッジ後のポートフォリオ探索処理を実行する(ステップS8−5)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、ベイズ最適化手法を用いて、シミュレーションの設定条件を満たし、かつ現在割引価値とヘッジの複雑さから作成した目的変数を最小化(効果を最大化)するポートフォリオを探索する。
【0111】
<ΔEVEの最適ヘッジ戦略>
ΔEVEの最適ヘッジ戦略は、以下の最適化問題を順に解くことで定まる。ベイズ最適化はガウス過程回帰を用いた逐次近似最適化法により行なう。
ヘッジ対象とする期間バケットとそのヘッジによる当該期間バケットの金利リスク変化幅を決定するため、以下の目的関数を最小化するα_1〜α_19の集合を計算する。目的関数の意味は、金利ヘッジ後の現在割引価値の最大化を目指しつつ、過度なヘッジを回避するため、期間バケット毎の現在割引価値の変動幅から作成するペナルティ項を付したものである。
【0113】
なお、EVE'_iの添字iは、6種類の金利ショックシナリオを指す。
EVE'_iは、金利ヘッジ効果を加味した現在割引価値PV_iの事後分布の標準化を行なったものである。
α_(i1),α_(i2),…,α_(i19)は、最も短期の期間バケット(O/N)から順に19区分について、それぞれヘッジを行なうことによる金利リスク変化幅であり、0%〜150%まで10%区分の離散値を取る。
τ_(i1),τ_(i2),…,τ_(i19)は、期間バケット毎の現在割引価値であり、h_EはヘッジによるΔEVEの削減額である。
ヘッジに用いるデリバティブは、固定金利と変動金利(OIS)のスワップであるプレインスワップのみを想定する。また、通貨間のスワップは想定しない。従って、金利リスクの主たる発生要因が通貨間のベーシス・リスクに起因するものであっても、本シミュレーションでは同一通貨(日本円)のみとみなし計算を行なう。
上記の最適化問題で得られたα_ijを、想定元本等を自由に設定できるOTCのプレインスワップでフルヘッジしたと想定し、期間バケット毎のOISスワップレートとヘッジ対象の想定元本から、仮想ポジションの構築コストを算出する。
【0114】
<ΔNIIの最適ヘッジ戦略>
ここで、ΔNIIの最適ヘッジ戦略は、ΔEVEとほぼ同様の最適化問題に基づくが、ヘッジ対象とする期間バケットとそのヘッジによる当該期間バケットの割引キャッシュフローを決定するため、以下の目的関数を最小化するα_1〜α_6の集合を計算することになる。また、金利ショックシナリオも上下のパラレルシフトの2つのみになるので、そのように読み替える。
【0115】
<修正デュレーションの最適ヘッジ戦略>
期間バケット毎の現在割引価値からポートフォリオ全体の現在割引価値(PV)を算出し、また以下のデュレーション計算式を用いて算出した値をポートフォリオ全体のPVで除して修正デュレーションを求める必要がある。
【0117】
ただし、CF_(i j)は金利ショックシナリオiにおける期間バケットjのキャッシュフロー、D_(adji)は同シナリオにおける修正デュレーションである。
このように算出したD_(adj i)を用いて、以下の目的関数を最小化する。D_(adj i)の最大値を任意の金利パスにおける修正デュレーションとして採用すること、目的関数がヘッジ後の修正デュレーションとあらかじめ設定された修正デュレーションとの誤差の最小化であること、ペナルティ項としての分散の値のオーダーを合わせていることの3点以外は、考え方はΔEVEと同じである。
【0119】
ここで、前述のデュレーションの計算式を書き換える。
【0121】
次に、支援サーバ20の制御部21は、最適ヘッジ戦略の提示処理を実行する(ステップS8−6)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、金利スワップ(固定金利と変動金利の交換)を用いて、最適化による最適ヘッジ後のポートフォリオを実現するために必要なヘッジポジションを計算する。
【0122】
次に、支援サーバ20の制御部21は、ヘッジ後の金利リスク関連指標の計算処理を実行する(ステップS8−7)。具体的には、制御部21のヘッジシミュレーション部216は、最適ヘッジ戦略における金利スワップを用いた場合のΔEVE、ΔNII、修正デュレーションを再計算する。そして、ヘッジシミュレーション部216は、計算結果をクライアント端末10に出力する。
【0123】
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、コア預金予測部212、定期預金予測部213、繰上返済率予測部214は、階層ベイズモデルを用いる。階層ベイズモデルは、過去から現在に至るまでの経済状況の変化を反映しつつ、新しいデータ(金融機関のデータおよび経済状況の変化)が加わると、自立的にその影響を学習し最適化するベイズ更新により構築した鎖状グラフィカルモデルである。
従来のベイズ統計を用いた統計モデルは、金融機関が過去から保有するスタティックな情報を用いて構築し、推計精度はデータを提供した金融機関に対して最適化されている。本実施形態では、ベイズ更新を用いることで、データの時系列構造(ダイナミクス)を加味し、任意の金融機関の情報を取り込んで、推計精度を、その都度、最適化する。また、従来の統計モデルの運用にはモデルを構築する全ての説明変数のデータが必須であるが、本実施形態では、ベイズ統計手法で構築しているため、欠損情報があっても、欠損情報の確率分布を代替的に使用することで合理的にリスクを評価することができる。従って、任意の金融機関の情報に対応することができる。更に、個別の契約情報を用いて計算する従来の統計モデルでは、個々の契約情報がすべての説明変数を包含している必要があったが、本発明では、欠損情報があっても、リスクを評価することができる。
【0124】
階層ベイズ構造を持つ鎖状グラフィカルモデルを構築することで、モデル構築時の情報を事前情報として考慮しつつ、その後の経済状況等の劇的な変化を適切に反映できる。
また、スタティックデータで構築した統計モデルの場合は、構築後の時間の経過により、推計精度は劣化する。本実施形態では、新しく追加されたデータだけを用いて統計モデルを更新するので、効率的に統計モデルの更新を行なうことができる。これにより、過去のデータの推移を踏まえつつ、モデル構築時に想定していなかった環境にも迅速に最適化し、高い推計精度を維持することができる。
【0125】
(2)本実施形態では、階層ベイズ構造を用いることで、統計モデルを構成する変数が、すべて確率分布を持つことになる。従って、データ構造がわからなくても、事前に作成した確率分布を利用する金融機関の確率分布を用いて更新したり、事前確率分布をそのまま用いたりすることにより、合理的に推計が可能である。更に、金融機関毎の特性のばらつきを表現する調整項を加えることで、金融機関の地域性、経営方針の違い等の個性を反映した推計が可能である。
また、新しいデータの影響をベイズ更新により反映できるので、更新前のモデルの特徴をある程度保持しつつ(モデルの推計結果の連続性を維持しつつ)、統計モデルの性能の劣化を回避できる。
【0126】
(3)本実施形態では、支援サーバ20の制御部21は、データ項目毎に元本合計、契約件数、平均値、標準偏差、分位点のサマリーデータの取得処理を実行する(ステップS6−1)。そして、支援サーバ20の制御部21は、繰上返済率推定モデルのパラメータの推計処理を実行する(ステップS6−2)。1つ1つの債権毎のキャッシュフローを計算するのではなく、サマリーで計算することにより、誤差を抑制しながら、個別債権の契約内容を用いることなく、計算を行なうことができる。
【0127】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、コア預金予測部212〜繰上返済率予測部214は、階層ベイズモデルを用いる。少なくとも一部において、階層ベイズモデルを用いていれば、他の統計モデルを用いることも可能である。
・上記実施形態では、コア預金残高、定期預金額、繰上返済率を算出する。リスク計算を計算するために必要な情報であれば、これらに限定されるものではない。
・上記実施形態では、リスク評価のために、クライアント端末10、支援サーバ20を用いる。ハードウェア構成は、これらに限定されるものではない。