(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定スクロール及び旋回スクロールにより区画される圧縮室の容積を増減すると共に、冷媒回路の途中から取り出された気体冷媒を前記圧縮室にインジェクションし、吸入室に導入された気体冷媒を前記圧縮室で圧縮して吐出室から吐出するスクロール型圧縮機において、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに向けて押し付ける背圧室の背圧を調整する背圧制御弁であって、
前記吐出室に連通する弁孔、前記背圧室に連通する第1の圧力室、前記吸入室に連通する第2の圧力室、前記背圧室に連通する第3の圧力室、前記圧縮室にインジェクションされる気体冷媒のインジェクション圧力が導入される第4の圧力室、及び、基準圧力が導入される第5の圧力室が直列に配置されたボディと、
前記第1の圧力室から前記第4の圧力室に亘って延在し、前記第1の圧力室側から前記弁孔に離接して開度を調整する弁体と、
前記第4の圧力室と前記第5の圧力室とを仕切りつつ前記弁体を支持し、前記インジェクション圧力と前記基準圧力との差圧を検知して前記弁体を開閉方向に移動させる感圧部材と、
を備え、
前記弁体は、前記弁孔を介して吐出圧力を開弁方向に受ける第1の受圧面と、前記第2の圧力室にて吸入圧力を開弁方向に受ける第2の受圧面と、前記第3の圧力室にて前記背圧を閉弁方向に受ける第3の受圧面と、前記第4の圧力室にて前記感圧部材を介して前記インジェクション圧力を開弁方向に受ける第4の受圧面と、を有する、
背圧制御弁。
前記第2の受圧面の有効受圧面積をAs、前記第3の受圧面の有効受圧面積をAm、前記第4の受圧面の有効受圧面をAinjとした場合、Ainj<Am<Asの関係が成立する、
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の背圧制御弁。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態の前提となる、ガスインジェクションサイクルを適用した冷凍サイクル100の一例を示す。ここで、冷凍サイクル100が、冷媒回路の一例として挙げられる。
【0011】
冷凍サイクル100は、冷媒が循環する冷媒配管110に対して、圧縮機120、凝縮器130、第1膨張弁140、気液分離器150、第2膨張弁160及び蒸発器170をこの順番で配設して構成されている。圧縮機120は、低温・低圧の気体冷媒を圧縮して高温・高圧の気体冷媒にする。凝縮器130は、圧縮機120を通過した高温・高圧の気体冷媒を冷却して低温・高圧の液体冷媒にする。第1膨張弁140及び第2膨張弁160は、低温・高圧の液体冷媒を2段階で減圧して低温・低圧の液体冷媒にする。蒸発器170は、低温・低圧の液体冷媒を気化させて低温・低圧の気体冷媒にする。また、気液分離器150は、第1膨張弁140で減圧された中間圧の液体冷媒から気体冷媒を分離し、これをインジェクションガスとして圧縮機120へと供給する。
【0012】
図2は、ガスインジェクションサイクルのモリエル線図を示す。
凝縮器130を通過した高圧Phの液体冷媒は、第1膨張弁140で中間圧のインジェクション圧力Pinjまで減圧されて気液二相となり、気液分離器150へと導入される。気液分離器150では、入口の状態がA点で、内部でB点の飽和気体冷媒とC点の飽和液体冷媒に分離される。その後、飽和液体冷媒は、第2膨張弁160でさらに減圧されて低圧Plとなり、蒸発器170へと導入される。蒸発器170では、外気と熱交換することで、低圧Plの液体冷媒が気化して気体冷媒となり、圧縮機120へと導入される。一方、インジェクション圧力Pinjの飽和気体冷媒は、圧縮機120の圧縮室にインジェクションされる。
【0013】
次に、ガスインジェクションサイクルを構成する圧縮機120の一例として、固定スクロール及び旋回スクロールによって気体冷媒を圧縮する、スクロール型圧縮機200について説明する。
【0014】
図3は、スクロール型圧縮機200の一例を示す。
スクロール型圧縮機200は、スクロールユニット220と、気体冷媒の吸入室H1及び吐出室H2を内包するハウジング240と、スクロールユニット220を駆動させる電動モータ260と、電動モータ260を駆動制御するインバータ280と、を備えている。なお、インバータ280は、スクロール型圧縮機200に組み込まれていなくてもよい。
【0015】
スクロールユニット220は、互いに噛み合わされる固定スクロール222及び旋回スクロール224を有している。固定スクロール222は、円板形状の底板222Aと、底板222Aの一面から立設するインボリュート形状(渦巻形状)のラップ222Bと、を含んでいる。旋回スクロール224は、固定スクロール222と同様に、円板形状の底板224Aと、底板224Aの一面から立設するインボリュート形状のラップ224Bと、を含んでいる。
【0016】
固定スクロール222及び旋回スクロール224は、そのラップ222B及び224Bを噛み合わせるように配置されている。詳細には、固定スクロール222のラップ222Bの先端部が、旋回スクロール224の底板224Aの一面に接触し、旋回スクロール224のラップ224Bの先端部が、固定スクロール222の底板222Aの一面に接触するように配置されている。なお、ラップ222B及び224Bの先端部には、チップシール(図示せず)が取り付けられている。
【0017】
また、固定スクロール222及び旋回スクロール224は、そのラップ222B及び224Bの周方向の角度が互いにずれた状態で、そのラップ222B及び224Bの側壁が互いに部分的に接触するように配置されている。従って、固定スクロール222のラップ222Bと旋回スクロール224のラップ224Bとの間には、圧縮室H3として機能する、三日月形状の密閉空間が形成されている。
【0018】
旋回スクロール224は、その自転が阻止された状態で、後述するクランク機構を介して、固定スクロール222の軸心周りに公転可能に配置されている。従って、スクロールユニット220は、固定スクロール222のラップ222Bと旋回スクロール224のラップ224Bとにより区画される圧縮室H3を中央部に移動させ、その容積を徐々に減少させる。その結果、スクロールユニット220は、ラップ222B及び224Bの外端部から圧縮室H3に吸入される気体冷媒を圧縮する。
【0019】
ハウジング240は、電動モータ260及びインバータ280を収容するフロントハウジング242と、スクロールユニット220を収容するセンターハウジング244と、リアハウジング246と、インバータカバー248と、を有している。そして、フロントハウジング242、センターハウジング244、リアハウジング246及びインバータカバー248が、例えば、ボルト及びワッシャを含む締結具(図示せず)によって一体的に締結されることで、スクロール型圧縮機200のハウジング240が構成されている。
【0020】
フロントハウジング242は、略円筒形状の周壁部242Aと略薄板形状の仕切壁部242Bとを有している。フロントハウジング242の内部空間は、仕切壁部242Bにより、電動モータ260を収容するための空間とインバータ280を収容するための空間とに仕切られている。周壁部242Aの一端側、即ち、インバータ280を収容するための空間の開口は、インバータカバー248によって閉塞されている。また、周壁部242Aの他端側、即ち、電動モータ260を収容するための空間の開口は、センターハウジング244によって閉塞されている。仕切壁部242Bには、その径方向の中央部に後述する駆動軸266の一端部を回転自由に支持する、略円筒形状の支持部242B1が、周壁部242Aの他端側に向かって突設されている。
【0021】
また、フロントハウジング242の周壁部242A及び仕切壁部242Bとセンターハウジング244とにより、気体冷媒の吸入室H1が区画されている。吸入室H1には、周壁部242Aに形成された吸入ポートP1を介して、低温・低圧の気体冷媒が吸入される。なお、吸入室H1では、気体冷媒が電動モータ260の周囲を流通して電動モータ260を冷却可能になっており、電動モータ260の左右の空間が連通する、1つの吸入室H1が形成されている。吸入室H1には、回転駆動される駆動軸266などの摺動部位の潤滑のため、適量の潤滑油が貯留されている。このため、吸入室H1においては、気体冷媒は潤滑油との混合流体として流れている。
【0022】
センターハウジング244は、フロントハウジング242との締結側とは反対側が開口した略有底円筒形状をなし、その内部にスクロールユニット220を収容することができる。センターハウジング244は、円筒部244Aとその一端側の底壁部244Bとを有している。円筒部244Aと底壁部244Bとによって区画される空間に、スクロールユニット220が収容されている。円筒部244Aの他端側には、固定スクロール222が嵌合する嵌合部244A1が形成されている。従って、センターハウジング244の開口は、固定スクロール222によって閉塞されている。また、底壁部244Bは、その径方向の中央部が電動モータ260に向かって膨出するように形成されている。底壁部244Bの膨出部244B1の径方向の中央部には、駆動軸266の他端部を貫通させるための貫通孔が形成されている。そして、膨出部244B1のスクロールユニット220側には、駆動軸266の他端部を回転可能に支持するベアリング300が嵌合する嵌合部が形成されている。
【0023】
センターハウジング244の底壁部244Bと旋回スクロール224の底板224Aとの間には、略薄板円環形状のスラストプレート310が配置されている。底壁部244Bの外周部は、スラストプレート310を介して、旋回スクロール224からのスラスト力を受ける。底壁部244B及び底板224Aのスラストプレート310と当接する部位には、シール部材320が夫々埋設されている。
【0024】
また、底板224Aの電動モータ260側端面と底壁部244Bとの間、つまり、旋回スクロール224の固定スクロール222とは反対側の端面とセンターハウジング244との間には、背圧室H4が形成されている。センターハウジング244には、吸入室H1からスクロールユニット220のラップ222B及び224Bの外端部付近の空間H5へと気体冷媒を導入する、冷媒導入通路L1が形成されている。冷媒導入通路L1は、空間H5と吸入室H1とを連通しているため、空間H5の圧力は、吸入室H1の圧力(吸入圧力Ps)と等しくなっている。
【0025】
リアハウジング246は、センターハウジング244の円筒部244Aの嵌合部244A1側端部に、締結具によって締結されている。従って、固定スクロール222は、その底板222Aが嵌合部244A1とリアハウジング246との間に挟持されて固定されている。また、リアハウジング246は、センターハウジング244との締結側が開口した略有底円筒形状をなし、円筒部246Aとその他端部の底壁部246Bとを有している。
【0026】
リアハウジング246の円筒部246A及び底壁部246Bと固定スクロール222の底板222Aとによって、気体冷媒の吐出室H2が区画されている。底板222Aの中央部には、気体冷媒の吐出通路(吐出孔)L2が形成されている。吐出通路L2には、吐出室H2からスクロールユニット220への気体冷媒の流れを規制する、例えば、リードバルブからなる逆止弁330が付設されている。吐出室H2には、スクロールユニット220の圧縮室H3で圧縮された気体冷媒が吐出通路L2及び逆止弁330を介して吐出される。吐出室H2の気体冷媒は、底壁部246Bに形成された吐出ポートP2を介して、凝縮器130へと吐出される。
【0027】
なお、図示を省略するが、リアハウジング246には、吐出室H2の気体冷媒から潤滑油を分離するためのオイルセパレータが配置されている。オイルセパレータにより潤滑油が分離された気体冷媒は、吐出ポートP2を介して凝縮器130へと吐出される。一方、オイルセパレータにより分離された潤滑油は、詳細を後述する背圧供給通路L3を介して、背圧室H4へと供給される。
【0028】
電動モータ260は、例えば、三相交流モータからなり、ロータ262と、ロータ262の径方向外側に配置されるステータコアユニット264と、を有している。そして、例えば、車載のバッテリ(図示せず)からの直流電流が、インバータ280によって交流電流に変換され、電動モータ260のステータコアユニット264に供給される。
【0029】
ロータ262は、その径方向中心に形成された軸孔に圧入される駆動軸266を介して、ステータコアユニット264の径方向内側で回転可能に支持されている。駆動軸266の一端部は、すべり軸受340を介して、フロントハウジング242の支持部242B1に回転可能に支持されている。駆動軸266の他端部は、センターハウジング244に形成された貫通孔を貫通して、ベアリング300によって回転可能に支持されている。インバータ280からの給電によって、ステータコアユニット264に磁界が発生すると、ロータ262に回転力が作用し、駆動軸266が回転駆動される。駆動軸266の他端部は、クランク機構を介して、旋回スクロール224に連結されている。
【0030】
クランク機構は、旋回スクロール224の底板224Aの背圧室H4側端面に突出形成された略円筒形状のボス部350と、駆動軸266の他端部に設けられたクランク360に偏心状態で取り付けられた偏心ブッシュ370と、を有している。偏心ブッシュ370は、すべり軸受380を介して、ボス部350の内周面に回転可能に支持されている。従って、旋回スクロール224は、その自転が阻止された状態で、クランク機構を介して、固定スクロール222の軸心周りに公転可能になっている。なお、駆動軸266の他端部には、旋回スクロール224の遠心力に対抗するバランサウェイト390が取り付けられている。
【0031】
図4は、スクロール型圧縮機200における、気体冷媒及び潤滑油の流れを説明するためのブロック図である。
図3及び
図4に示すように、蒸発器170からの低温・低圧の気体冷媒は、吸入ポートP1を介して吸入室H1へと導入された後、冷媒導入通路L1を介してスクロールユニット220の外端部付近の空間H5へと導かれる。そして、空間H5の気体冷媒は、スクロールユニット220の圧縮室H3に取り込まれて圧縮される。圧縮室H3で圧縮された気体冷媒は、吐出通路L2及び逆止弁330を経由して吐出室H2へと吐出された後、吐出ポートP2を介して凝縮器130へと吐出される。このようにして、吸入室H1を介して流入される気体冷媒を圧縮室H3で圧縮し、この気体冷媒を吐出室H2を介して吐出するスクロールユニット220が構成される。
【0032】
ここで、
図3に示すように、スクロール型圧縮機200は、背圧室H4の背圧を調整する背圧制御弁400を更に備えている。
背圧制御弁400は、吸入室H1の吸入圧力Ps、吐出室H2の吐出圧力Pd及びインジェクション圧力Pinjに応じて作動し、吸入圧力Ps、吐出圧力Pd及びインジェクション圧力Pinjに応じた目標背圧Pcに背圧室H4の背圧Pmが近づくように、その弁開度を自動的に調整する機械式(自律式)の圧力調整弁である。背圧制御弁400は、リアハウジング246の底壁部246Bにおいて、底壁部246Bの外周面から電動モータ260の駆動軸266の中心軸と直交する方向に延びるように形成された収容室246Cに収容されている。なお、背圧制御弁400の構造及び背圧調整動作については後述する。
【0033】
スクロール型圧縮機200は、
図3及び
図4に示すように、冷媒導入通路L1及び吐出通路L2に加えて、背圧供給通路L3、放圧通路L4、吸入圧力感知通路L5、インジェクションガス導入通路L6及びインジェクション圧力感知通路L7を備えている。
【0034】
背圧供給通路L3は、吐出室H2と背圧室H4とを連通するように、リアハウジング246及びセンターハウジング244に形成されている。ここで、リアハウジング246における背圧供給通路L3は、背圧制御弁400が収容される収容室246Cを経由している。そして、オイルセパレータにより吐出室H2の気体冷媒から分離された潤滑油は、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと導かれて、各摺動部位の潤滑に供されると共に、背圧室H4の背圧Pmを上昇させる。
【0035】
背圧制御弁400は、背圧供給通路L3の一部を形成するように、背圧供給通路L3の途上に配置されている。従って、吐出室H2の気体冷媒から分離された潤滑油は、背圧制御弁400によって適宜減圧されつつ、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される。つまり、背圧室H4の入口側(上流側)に接続される背圧供給通路L3の開度を背圧制御弁400によって調整することで、背圧室H4へと流入する潤滑油の流量を増減して背圧Pmを調整する。
【0036】
放圧通路L4は、背圧室H4と吸入室H1とを連通するように、駆動軸266の軸方向に貫通して形成されている。放圧通路L4の途上、例えば、駆動軸266の吸入室H1側の端部には、オリフィスOLが配置されている。従って、背圧室H4の潤滑油は、オリフィスOLによって流量が制限されつつ、吸入室H1へと戻される。
【0037】
吸入圧力感知通路L5は、背圧制御弁400において吸入室H1の吸入圧力Psを感知できるようにすべく、スクロールユニット220の外端部付近の空間H5と収容室246Cとを連通する。具体的には、吸入圧力感知通路L5は、固定スクロール222の底板222A及びリアハウジング246に形成されている。なお、吸入圧力感知通路L5は、空間H5を介して吸入室H1の吸入圧力Psを間接的に感知しているが、吸入室H1の吸入圧力Psを直接感知することもできる。
【0038】
インジェクションガス導入通路L6は、気液分離器150によって分離されたインジェクションガスを圧縮室H3に導入してインジェクションできるようにすべく、リアハウジング246の外周面と圧縮室H3とを連通する。具体的には、インジェクションガス導入通路L6は、リアハウジング246及び固定スクロール222の底板222Aに形成されている。
【0039】
インジェクション圧力感知通路L7は、背圧制御弁400においてインジェクション圧力Pinjを感知できるようにすべく、リアハウジング246の底壁部246Bに形成されている。なお、インジェクション圧力感知通路L7は、例えば、リアハウジング246において、インジェクションガス導入通路L6から分岐して収容室246Cへと延びる通路とすることもできる。
【0040】
ここで、上述したように、背圧室H4の背圧Pmによって、旋回スクロール224が固定スクロール222に向けて押し付けられる。スクロールユニット220の圧縮運転中において、旋回スクロール224の底板224Aの背圧室H4側端面に作用する背圧Pmの合力が底板224Aの圧縮室H3側端面に作用する圧縮反力より低すぎる、即ち、背圧不足状態になると、旋回スクロール224のラップ224Bの先端部と固定スクロール222の底板222Aとの間に隙間が生じると共に、旋回スクロール224の底板224Aと固定スクロール222のラップ222Bの先端部との間に隙間が生じて、圧縮機の体積効率が低下する。背圧制御弁400は、背圧Pmが目標背圧Pcを下回った場合、背圧不足状態にならないように、背圧Pmを上昇させて目標背圧Pcに近づける。
【0041】
一方、背圧室H4の背圧Pmによる合力が圧縮反力よりも高すぎる、即ち、背圧過剰状態になると、固定スクロール222と旋回スクロール224との間の摩擦力が大きくなるため、圧縮機の機械効率が低下する。背圧制御弁400は、背圧Pmが目標背圧Pcを上回った場合、背圧過剰状態にならないように、背圧Pmを低下させて目標背圧Pcに近づける。
【0042】
図5は、背圧制御弁400の一例を示す。
背圧制御弁400は、大別すると、弁体420と、弁体420を軸方向に摺動可能に収容するボディ(弁箱)440と、可撓性を有する略薄板円板形状の感圧部材460と、を備えている。
【0043】
弁体420は、略中空円柱形状の軸部422と、略円柱形状の第1の円柱部424と、略円柱形状の第2の円柱部426と、を含んで構成されている。軸部422の一端部は、テーパ面(円錐面)に形成されている。また、第1の円柱部424は、軸部422より大径に形成され、軸部422の中間部、具体的には、テーパ面とは反対側の他端部寄りの位置に一体的に固定されている。第2の円柱部426は、軸部422より大径かつ第1の円柱部424より小径に形成され、軸部422の他端部近傍に一体的に固定されている。さらに、軸部422の周壁であって、テーパ面の近傍並びに第1の円柱部424と第2の円柱部426との間に位置する部位には、軸部422の内部空間と連通する少なくとも1つの連通孔422A及び422Bが夫々形成されている。ここで、軸部422の内部空間並びに連通孔422A及び422Bが、内部通路の一例として挙げられる。
【0044】
ボディ440は、略段付円柱形状の外形を有する第1のケーシング442と、第1のケーシング442の大径端面に圧入又は螺合される略円筒形状の第2のケーシング444と、を含んで構成されている。
【0045】
第1のケーシング442の小径端面には、ここから軸方向に向かって延びる、5段階に縮径する略段付円柱形状の内周面を有する第1の凹部442Aが形成されている。また、第1のケーシング442の大径端面には、ここから軸方向に向かって延びる、2段階に縮径する略段付円柱形状の内周面を有する第2の凹部442Bが形成されている。さらに、第1のケーシング442の内部であって、第1の凹部442Aと第2の凹部442Bとの間に位置する部位には、略円柱形状の内周面を有する密閉空間442Cが形成されている。ここで、第1の凹部442A、第2の凹部442B及び密閉空間442Cは、第1のケーシング442の軸心周りに同軸に配置されている。
【0046】
第1のケーシング442において、第1の凹部442Aと密閉空間442Cとの間に位置する隔壁には、弁体420の軸部422が摺動可能に貫通する貫通孔が形成されている。また、第1のケーシング442において、密閉空間442Cと第2の凹部442Bとの間に位置する隔壁には、弁体420の第2の円柱部426が摺動可能に貫通する貫通孔が形成されている。
【0047】
そして、弁体420は、第1の凹部442Aの大径端面から4番目の部位にテーパ面が位置し、密閉空間442Cに第1の円柱部424が位置し、かつ、密閉空間442Cと第2の凹部442Bとの間に位置する隔壁の貫通孔に第2の円柱部426が位置するように、第1のケーシング442に対して摺動可能に内挿されている。
【0048】
第1の凹部442Aの最奥部に位置する底面には、弁体420の軸部422とのシールを確保するOリング480が埋設されている。第1の凹部442Aの最奥部の部位には、その大径端面を向く端面が開口すると共に弁体420の軸部422が貫通する貫通孔が形成された、略有底円筒形状のシール固定部材482が圧入されている。従って、シール固定部材482の先端面と第1の凹部442Aの底面とによって、Oリング480が挟持されて固定されている。
【0049】
第1の凹部442Aの大径端面から3番目の部位には、その大径端面を向く端面が開口する、略有底円筒形状の弁孔形成部材484が圧入されている。弁孔形成部材484の底壁には、所定寸法を有する弁孔484Aが形成されている。従って、弁体420は、その軸部422のテーパ面が弁孔484Aに離接可能となっており、弁体420を軸方向に変位させることで、弁孔484Aの開度を変化させることができる。
【0050】
第1の凹部442Aの大径端面の開口は、収容室246Cの上流側に位置する背圧供給通路L3を介して吐出室H2に連通されている。従って、第1の凹部442A内に位置する弁孔484Aは、吐出室H2に連通している。第1の凹部442Aの大径端面から2番目の部位には、オイルセパレータによって吐出室H2の気体冷媒から分離された潤滑油の異物(コンタミネーション)を除去する、例えば、金属メッシュなどからなるフィルタ486が取り付けられている。ここで、弁体420の軸部422のテーパ面は、弁孔484Aを介して吐出圧力Pdを開弁方向に受ける第1の受圧面S1を形成する。
【0051】
そして、第1のケーシング442には、第1の凹部442Aの内周面、シール固定部材482及び弁孔形成部材484によって区画される、略段付円柱形状の内周面を有する第1の圧力室H6が形成されている。第1のケーシング442の周壁であって、第1の圧力室H6を臨む部位には、収容室246Cの下流側に位置する背圧供給通路L3を介して背圧室H4に連通する、少なくとも1つの第1の連通孔442Dが形成されている。従って、第1の圧力室H6は、背圧供給通路L3を介して背圧室H4に連通している。
【0052】
第1のケーシング442の密閉空間442Cには、弁体420の第1の円柱部424を介して、弁体420を開弁方向に付勢する第1のコイルばね488が配設されている。具体的には、弁体420の第1の円柱部424によって二分割される密閉空間442Cのうち、第1のケーシング442の大径側の密閉空間442Cに第1のコイルばね488が配設されている。第1のケーシング442の周壁であって、第1のコイルばね488が配設された密閉空間442Cを臨む部位には、吸入圧力感知通路L5を介して吸入室H1に連通する、少なくとも1つの第2の連通孔442Eが形成されている。ここで、第1のコイルばね488が配設された密閉空間442Cは、吸入室H1に連通する第2の圧力室H7を形成する。また、弁体420の第1の円柱部424の一面(上面)は、第2の圧力室H7にて吸入圧力Psを開弁方向に受ける第2の受圧面S2を形成する。
【0053】
弁体420の第1の円柱部424によって二分割される密閉空間442Cのうち、第1のコイルばね488が配設されていない密閉空間442Cは、弁体420の軸部422に形成された連通孔422A及び422B並びに軸部422の内部空間を介して、第1の圧力室H6に連通している。従って、第1のコイルばね488が配設されていない密閉空間442Cは、第1の圧力室H6を介して、背圧室H4に連通する第3の圧力室H8を形成する。また、弁体420の第1の円柱部424の他面(下面)は、第3の圧力室H8にて背圧Pmを閉弁方向に受ける第3の受圧面S3を形成する。
【0054】
第1のケーシング442の周壁であって、第2の凹部442Bの最奥部の部位を臨む部位には、インジェクション圧力感知通路L7を介して、気液分離器150によって分離されたインジェクションガスを導入する第3の連通孔442Fが形成されている。
【0055】
第1のケーシング442において、第2の凹部442Bの大径部から小径部へと移行する部位には、感圧部材460が配設されている。ここで、感圧部材460としては、例えば、可撓性を有する材料から形成されたダイヤフラムなどを使用することができる。また、感圧部材460の中央部を貫通し、その一端部にて弁体420の軸部422の他端部を支持する、略段付円柱形状の支持部材490が取り付けられている。
【0056】
感圧部材460は、ボディ440の第1のケーシング442と第2のケーシング444との間に挟持される挟持部材492によって固定されている。挟持部材492は、第1のケーシング442の第2の凹部442Bの最奥部側が大径に形成されると共に、第2の凹部442Bの大径端面を向く端面が開口する、略段付円筒形状をなしている。また、挟持部材492の大径端面の中央部には、略円形断面を有する凹部492Aが形成されると共に、凹部492Aの底壁に支持部材490が摺動可能に貫通する貫通孔が形成されている。
【0057】
そして、第1のケーシング442の第2の凹部442Bには、その最奥部から開口側に向かって、感圧部材460及び挟持部材492が挿入され、第2の凹部442Bの開口に第2のケーシング444が圧入又は螺合されることで、感圧部材460が固定されている。感圧部材460と一体化された支持部材490は、挟持部材492の貫通孔を貫通して、その内部まで突出している。ここで、第2の凹部442Bの最奥部の部位は、感圧部材460によって閉塞され、インジェクション圧力Pinjが導入される第4の圧力室H9を形成する。また、支持部材490の周囲の感圧部材460の一面(上面)は、第4の圧力室H9にて感圧部材460を介してインジェクション圧力Pinjを開弁方向に受ける第4の受圧面S4を形成する。
【0058】
挟持部材492の内部には、支持部材490を介して、弁体420を閉弁方向に付勢する第2のコイルばね494が配設されている。第2のコイルばね494は、支持部材490を向く端面が開口した略ハット形状の受け部材496を介して支持部材490の先端部に連結されると共に、挟持部材492の開口を閉塞する略円筒形状の閉塞部材498の一面に支持されている。従って、挟持部材492の内部空間は、閉塞部材498の開口を介して、基準圧力P0の一例として挙げられる大気圧が導入される第5の圧力室H10を形成する。
【0059】
従って、感圧部材460は、第4の圧力室H9と第5の圧力室H10とを仕切りつつ弁体420を支持し、インジェクション圧力Pinjと基準圧力P0との差圧を検知して、弁体420を開閉方向に移動させる。
【0060】
また、挟持部材492の凹部492Aに位置する支持部材490には、支持部材490を介して弁体420の開弁方向への移動を規制する、支持部材490よりも大径を有する略円柱形状の規制部490Aが形成されている。従って、弁体420が開弁方向に移動し、支持部材490の規制部490Aが凹部492Aの底面に当接すると、弁体420の移動が規制されることとなる。
【0061】
なお、弁体420の第1の円柱部424と第1のケーシング442の密閉空間442Cの内周面との間、第1のケーシング442の第2の凹部442Bの最奥部と感圧部材460との間、リアハウジング246の収容室246Cに当接する第1のケーシング442の外周面には、シールを確保するOリング500、510及び520が夫々装着されている。
【0062】
次に、背圧制御弁400による背圧Pmの調整動作について説明する。
背圧制御弁400の弁体420には、第1の受圧面S1が吐出圧力Pdから受ける開弁方向への力F1、第2の受圧面S2が吸入圧力Psから受ける開弁方向への力F2、第3の受圧面S3が背圧Pmから受ける閉弁方向への力F3、及び、第4の受圧面S4がインジェクション圧力Pinjから受ける開弁方向への力F4が作用している。また、弁体420には、上記力F1〜F4に加え、第1のコイルばね488による開弁方向への力F5、第2のコイルばね494による閉弁方向への力F6、及び、受け部材496が基準圧力P0から受ける閉弁方向への力F7が更に作用している。
【0063】
弁体420は、上記力F1〜F7が釣り合っている場合、即ち、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)と閉弁方向への合力(F3+F6+F7)とが等しいとき(平衡状態)、弁孔484Aの開度を一定に保っている。そして、弁孔484Aの開度が一定である状態から、吐出圧力Pd、吸入圧力Ps及びインジェクション圧力Pinjの少なくとも1つが変化すると、力の釣り合いが崩れて、力F1〜F7の合力が作用する方向に弁体420が移動する。弁体420が移動すると、背圧室H4に供給される潤滑油の流量が増減して、背圧Pmが変化する。すると、第3の受圧面S3が背圧Pmから受ける閉弁方向への力F3が変化し、新たな平衡状態となるように弁体420が移動し、背圧Pmが調整される。
【0064】
具体的には、平衡状態から吐出圧力Pdが上昇すると、弁孔484Aを介して第1の受圧面S1が吐出圧力Pdから受ける開弁方向への力F1が大きくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より大きくなる。すると、弁体420が開弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が大きくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が増加する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が増加し、背圧室H4の背圧Pmが上昇する。
【0065】
背圧Pmが上昇すると、第3の受圧面S3が背圧Pmから受ける閉弁方向への力F3が大きくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より小さくなる。すると、弁体420が閉弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が小さくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が減少する。その結果、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が減少し、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)と閉弁方向への合力(F3+F6+F7)とが等しくなる新たな平衡状態になる。
【0066】
一方、平衡状態から吐出圧力Pdが低下すると、弁孔484Aを介して第1の受圧面S1が吐出圧力Pdから受ける開弁方向への力F1が小さくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より小さくなる。すると、弁体420が閉弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が小さくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が減少する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が減少し、背圧室H4の背圧Pmが低下する。
【0067】
背圧Pmが低下すると、第3の受圧面S3が背圧Pmから受ける閉弁方向への力F3が小さくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より大きくなる。すると、弁体420が開弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が大きくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が増加する。その結果、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が増加し、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)と閉弁方向への合力(F3+F6+F7)とが等しくなる新たな平衡状態になる。
【0068】
また、平衡状態から吸入圧力Psが上昇すると、第2の受圧面S2が吸入圧力Psから受ける開弁方向への力F2が大きくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より大きくなる。すると、弁体420が開弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が大きくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が増加する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が増加し、背圧室H4の背圧Pmが上昇する。なお、背圧Pmが上昇してから新たな平衡状態となるまでの調整動作は、平衡状態から吐出圧力Pdが上昇した場合と同様であるので、その説明を省略する(以下同様)。
【0069】
一方、平衡状態から吸入圧力Psが低下すると、第2の受圧面S2が吸入圧力Psから受ける開弁方向への力F2が小さくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より小さくなる。すると、弁体420が閉弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が小さくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が減少する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が減少し、背圧室H4の背圧Pmが低下する。なお、背圧Pmが低下してから新たな平衡状態となるまでの調整動作は、平衡状態から吐出圧力Pdが低下した場合と同様であるので、その説明を省略する(以下同様)。
【0070】
また、平衡状態からインジェクション圧力Pinjが上昇すると、第4の受圧面S4がインジェクション圧力Pinjから受ける開弁方向への力F4が大きくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より大きくなる。すると、弁体420が開弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が大きくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が増加する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が増加し、背圧室H4の背圧Pmが上昇する。
【0071】
一方、平衡状態からインジェクション圧力Pinjが低下すると、第4の受圧面S4がインジェクション圧力Pinjから受ける開弁方向への力F4が小さくなって、開弁方向への合力(F1+F2+F4+F5)が閉弁方向への合力(F3+F6+F7)より小さくなる。すると、弁体420が閉弁方向へと移動して弁孔484Aの開度が小さくなり、弁孔484Aを介して第1の圧力室H6へと供給される潤滑油の流量が減少する。そして、背圧供給通路L3を介して背圧室H4へと供給される潤滑油の流量が減少し、背圧室H4の背圧Pmが低下する。
【0072】
従って、背圧制御弁400は、吸入圧力Ps及び吐出圧力Pdに加え、インジェクション圧力Pinjに応じて、背圧室H4の背圧Pmを目標背圧Pcに調整することができる。このとき、所望の作動特性を実現すべく、弁体420の第1の受圧面S1、第2の受圧面S2、第3の受圧面S3及び第4の受圧面S4の有効受圧面積、第1のコイルばね488及び第2のコイルばね494のばね定数などを適宜設定することができる。ここでは、第2の受圧面S2の有効受圧面積をAs、第3の受圧面S3の有効受圧面積をAm、第4の受圧面S4の有効受圧面をAinjとした場合、Ainj<Am<Asの関係が成立することが望ましい。このようにすれば、所望の作動特性を容易に実現することができる。
【0073】
以上、本発明を実施するための実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。