(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、燃料電池を構成するセルのアノードの面内において部分的に燃料としての水素が欠乏した部分水素欠の状態が発生すると、その欠乏した水素を補うために、カソードでプロトン(H
+)が生成され、電解質を介してアノードに移動する。カソードにおけるプロトンの生成は、カソードの触媒を担持したカーボンによって水が電気分解されることによるため、カソードのカーボンが劣化するという問題がある。このため、部分水素欠を検知して部分水素欠を回避することが望ましい。部分水素欠の検知は、基本的には、低周波インピーダンスの測定値が閾値を超えたか否か判断することによって検知可能であると考えられる。
【0005】
しかしながら、インジェクタのような燃料供給弁の開閉を繰り返すことにより燃料電池への燃料ガスを間欠的に供給(以下、「間欠供給」とも呼ぶ)する構成の燃料電池システムでは、以下の問題がある。すなわち、燃料供給弁が閉じられて燃料供給弁からの燃料ガスの供給が停止する期間においては、低周波インピーダンスが上昇する傾向にある。このため、単純に、低周波インピーダンスが閾値を超えた場合に部分水素欠と判断し、部分水素欠を回避するための制御を行なうとすると、実際には部分水素欠の状態ではない場合においても部分水素欠を回避するための制御を行なってしまう可能性がある。なお、燃料ガス用のマニホールドが閉塞されることによりセルの全体で水素欠乏の状態が発生し、セルのアノードの触媒層の劣化を招く完全水素欠は、セルの電圧をモニタすることで検知できるが、部分水素欠はセルの電圧をモニタすることでは検知できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは;燃料電池と;前記燃料電池へ燃料ガスを間欠的に供給するための燃料ガス供給部と;前記燃料電池へ酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と;前記燃料電池の低周波インピーダンスを計測するインピーダンス計測部と;前記燃料電池の発電動作を制御する制御部と;を備える。前記インピーダンス計測部は、前記酸化ガスが供給されるとともに、前記燃料ガスが間欠的に供給されている状態において、前記低周波インピーダンスを順次計測して、あらかじめ定めた区間を移動平均の算出の単位として前記低周波インピーダンスの移動平均値を求めるとともに、前記移動平均値を求めた区間に含まれる前記低周波インピーダンスのうちの最大値を求める。前記制御部は、前記最大値と前記移動平均値との差分が予め設定された閾値よりも大きくなった場合には、前記燃料ガス供給部による前記燃料ガスの供給量を増加させる制御を行ない、前記差分が前記閾値未満の場合には、前記燃料ガス供給部が供給する前記燃料ガスの供給量を維持させる。
この形態の燃料電池システムによれば、低周波インピーダンスの最大値と移動平均値を比較することにより、燃料ガスの供給が停止する期間において、低周波インピーダンスが変動した場合であっても、燃料ガスの部分欠乏状態が発生しているか否かを切り分けることができ、燃料ガスの部分欠乏状態を回避する制御を不必要に行わないようにすることが可能である。
【0008】
本発明は、上述した燃料電池システム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムの制御方法や燃料ガスの部分欠乏状態を検知する方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1は本発明の第1実施形態としての燃料電池システム10の概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、例えば、車両に搭載され、運転者からの要求に応じて、車両の動力源となる電力を出力する。燃料電池システム10は、燃料電池20と、水素供給排出機構50と、空気供給排出機構30と、冷却水循環機構70と、制御部80と、DC/DCコンバータ90と、インピーダンス計測部95と、を備える。燃料電池システム10は、不図示のパワースイッチのON操作によって始動し、OFF操作によって停止する。
【0011】
燃料電池20は、エンドプレート21と、絶縁板22と、集電板23と、複数のセル24と、集電板23と、絶縁板22と、エンドプレート21とが、この順に積層されたスタック構造を有する。
【0012】
水素供給排出機構50は、制御部80の制御に従って、燃料電池20のアノードに燃料ガスとしての水素ガスの供給及び排出を行なう。水素供給排出機構50は、水素タンク40と、シャットバルブ41と、水素供給流路51と、レギュレータ53と、インジェクタ54と、循環流路55と、気液分離部56と、水素ポンプ57と、排水シャットバルブ58と、排出流路59と、とを備える。
【0013】
水素タンク40は、水素を貯蔵する。水素タンク40には、数十MPaを有する高圧の燃料ガスとしての水素ガスが貯蔵されている。水素供給流路51は、水素タンク40と燃料電池20とを接続する配管である。シャットバルブ41は、水素タンク40から水素供給流路51への水素ガスの供給を遮断する弁であり、主止弁とも呼ばれる。シャットバルブ41は、制御部80によってその開閉が制御される。制御部80の制御によってシャットバルブ41が開かれると、水素タンク40から水素供給流路51を通じて燃料電池20のアノードに水素ガスが供給され、シャットバルブ41が閉じられると、水素ガスの供給が遮断される。
【0014】
レギュレータ53は、制御部80の制御により、水素タンク40から供給される水素ガスの圧力を調整する。インジェクタ54は、レギュレータ53によって圧力が調整された水素ガスを、制御部80の制御に従いアノードに向けて間欠的に噴射(供給)する。
【0015】
気液分離部56は、アノードから排出された気体と液体とを分離する。水素ポンプ57は、気液分離部56によって分離された気体を、燃料電池20に再度供給する。気液分離部56によって分離された気体は、主に、消費されずに排出された水素と燃料電池が備える膜電極接合体を介してカソード側から透過した窒素と、飽和した水分(水蒸気)である。排出流路59は、気液分離部56と、空気供給排出機構30に備えられる空気排出流路39(後述)とを接続する配管である。排水シャットバルブ58は、排出流路59上に設けられている。排水シャットバルブ58は、気液分離部56によって分離された液体と窒素を排出するために開かれる。インジェクタ54と排水シャットバルブ58の制御部80による制御によって、燃料電池20への水素ガスの供給量が調整される。なお、水素供給排出機構50が「燃料ガス供給部」に相当し、インジェクタ54が「燃料供給弁」に相当する。
【0016】
空気供給排出機構30は、制御部80の制御に従って、燃料電池20のカソードに酸化ガスとしての酸素を含む空気の供給及び排出をする。空気供給排出機構30は、コンプレッサ31と、空気供給流路32と、分流弁33と、調圧弁36と、バイパス流路38と、空気排出流路39とを備える。
【0017】
空気供給流路32は、燃料電池20と空気供給流路32の大気開放口を接続する配管である。空気排出流路39は、燃料電池20と空気排出流路39の大気開放口とを接続する配管である。バイパス流路38は、空気供給流路32の燃料電池20よりも上流側から分岐して、空気排出流路39に接続される配管である。コンプレッサ31は、空気供給流路32の途中に設けられ、空気供給流路32の大気開放口側から空気を吸入して圧縮する。コンプレッサ31が設けられる位置は、空気供給流路32とバイパス流路38との接続部位よりも大気開放口に近い位置である。
【0018】
分流弁33は、空気供給流路32において、コンプレッサ31の下流側、つまりコンプレッサ31と燃料電池20との間であって、空気供給流路32とバイパス流路38との接続部位に設けられる。分流弁33は、コンプレッサ31から流れてくる空気の流れる方向を燃料電池20側とバイパス流路38側とのいずれかに切り替える。このような分流弁33は、三方弁とも呼ばれる。バイパス流路38は、分流弁33と空気排出流路39とを接続する配管である。調圧弁36は、空気排出流路39において、空気排出流路39とバイパス流路38との接続部位よりも燃料電池20側に設けられる。調圧弁36は、開度に応じて空気排出流路39の流路断面積を調整する。調圧弁36を通過した空気は、バイパス流路38との接続部位を通過した後、大気開放口から大気に排出される。コンプレッサ31、分流弁33、及び調圧弁36の動作は、制御部80からの制御に従って調整される。なお、空気供給排出機構30が「酸化ガス供給部」に相当する。
【0019】
冷却水循環機構70は、制御部80の制御に従って燃料電池20を冷却する。冷却水循環機構70は、ラジエータ71と、冷却水ポンプ72と、冷却水排出流路73と、冷却水供給流路74と、を備える。
【0020】
冷却水供給流路74は、ラジエータ71と燃料電池20との間を接続する流路であり、燃料電池20に冷却水を供給するための配管である。冷却水排出流路73は、燃料電池20とラジエータ71とを接続する流路であり、燃料電池20から冷却水を排出するための配管である。冷却水ポンプ72は、ラジエータ71と燃料電池20との間の冷却水供給流路74に設けられており、冷却水ポンプ72によって冷却水が循環される。ラジエータ71及び冷却水ポンプ72の動作は、制御部80からの制御に従って調整される。
【0021】
制御部80は、CPUとRAMとROMとを備えるコンピュータとして構成されており、具体的にはECU(Electronic Control Unit)である。制御部80は、燃料電池システム10の動作を制御するための信号を出力する。制御部80は、発電要求を受けて、燃料電池システム10の各部30,50,70を制御して燃料電池20を発電させる。また、制御部80は、水素欠判定部82として機能し、後述する水素欠判定を実行する。
【0022】
DC/DCコンバータ90は、燃料電池20から出力される電力を、制御部80からの制御に応じて負荷に供給可能な電力(電圧及び電流)に変換して出力する電力制御回路である。例えば、燃料電池20からの掃引電流を制御して、燃料電池20の出力電圧を制御することにより発電動作を制御するとともに、負荷へ出力する電圧及び電流を制御する。
【0023】
インピーダンス計測部95は、交流信号印加部96及び計測実行部97を備える。交流信号印加部96及び計測実行部97は、制御部80の水素欠判定部82からの指示に従って、以下で説明するように動作する。交流信号印加部96は、燃料電池20の正負両極端子に予め定めた低周波の交流信号(交流電圧あるいは交流電流)を印加する。本例では、交流電圧を印加するものとする。計測実行部97は、電圧計98によって計測される正負両極端子間の交流電圧及び電流計99によって計測される正負両極端子間を流れる交流電流から、印加した交流信号の周波数における正負両極端子間の交流インピーダンス(以下、「低周波インピーダンス」とも呼ぶ)を順次計測し、低周波インピーダンスの移動平均値を算出するとともに、移動平均値を求めた区間に含まれる低周波インピーダンスのうちの最大値を求める。求めた低周波インピーダンスの移動平均値及び最大値は、制御部80の水素欠判定部82に送られて水素欠判定に用いられる。
【0024】
図2は、制御部80の水素欠判定部82による水素欠判定処理の手順を示す説明図である。水素欠判定部82は、燃料電池20の発電が開始されてから発電が終了するまで水素欠判定処理を継続する。水素欠判定部82は、水素欠判定処理を開始すると、インピーダンス計測部95によるインピーダンス計測を開始する(ステップS101)。この時、上述したように、インピーダンス計測部95の交流信号印加部96が、燃料電池20の正負両極端子間に予め定めた低周波の周波数fz(以下、「低周波数fz」とも呼ぶ)を有する交流信号(例えば、交流電圧)を印加する。低周波数fzは、アノード(水素極)及びカソード(酸素極)の反応抵抗が検出される低周波領域(0.1〜200Hz程度の周波数の領域)において、水素欠乏状態の発生に応じて変化するアノード(水素極)の反応抵抗を効果的に検出できる周波数に設定されることが好ましい。本例では、fz=20Hzとする。
【0025】
そして、インピーダンス計測部95の計測実行部97は、低周波数fzにおける交流インピーダンス(低周波インピーダンス)を計測し(ステップS102)、計測した低周波インピーダンスの移動平均値(Zavg)を算出するとともに、移動平均値を算出する単位としての区間Tmに含まれる低周波インピーダンスのうちの最大値(Zmax)を求める(ステップS103)。求めた移動平均値(Zavg)及び最大値(Zmax)は水素欠判定部82へ送られる。なお、移動平均を求める単位としての区間Tmは、移動平均値を算出可能な長さ、少なくとも、インジェクタ54の開閉の1周期以上の長さに設定される。本例では、インジェクタ54の開閉の周期は200ms(開期間が100ms,閉期間が100ms)とされており、区間Tmは200ms以上に設定される。例えば、区間Tm=200msとした場合、fz=20Hzの低周波インピーダンスは、1つの区間Tm(=200ms)において少なくとも4つ計測されるので、4つの計測値により平均値が算出される。
【0026】
水素欠判定部82は、順に送られてくる低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)の差分(Zdif=[Zmax−Zavg]を算出し(ステップS104)、差分(Zdif)を予め定めた閾値(Zth)と比較する(ステップS105)。閾値(Zth)は、燃料電池20のセル24の劣化量と水素欠乏状態でない場合の差分との関係から、あらかじめ、燃料電池20のいずれかのセル24において発生した部分的な水素欠乏(「部分水素欠」とも呼ぶ)の状態を切り分けるための境界値を求めることにより設定される。なお、この閾値(Zth)については後述する。
【0027】
水素欠判定部82は、差分(Zdif)≦閾値(Zth)の場合には、燃料電池20の内部に水素欠乏状態は発生していないため、インピーダンス計測(ステップS102)からの処理を繰り返す。これに対して、差分(Zdif)>閾値(Zth)の場合には、燃料電池20の内部で部分水素欠の状態が発生していると判定(水素欠判定)し(ステップS106)、制御部80の水素供給排出機構50の制御部(不図示)に燃料ガスの供給量(以下、「燃料供給量」とも呼ぶ)の増加を要求する(ステップS107)。これにより、水素供給排出機構50による燃料供給量の増加が行われ、部分水素欠の状態が回避されるように制御される。そして、水素欠判定部82は、処理の終了が指示されるまで(ステップS108:YES)、インピーダンス計測(ステップS102)からの処理を繰り返す。
【0028】
図3は、計測される低周波インピーダンスの様子を模式的に示す説明図である。上段は間欠的に開かれるインジェクタ54(燃料供給弁)の様子を示し、中段は燃料電池20へ供給される燃料ガス(水素ガス)の供給量(燃料供給量)の様子を示し、下段はfz=20Hzの低周波インピーダンスの様子を示している。
【0029】
インジェクタ54の開閉の周期に合わせて燃料供給量は増減する。このため、インジェクタ54が開いているときには、燃料電池20は燃料リッチな状態になり、インジェクタ54が閉じているときには、燃料電池20は燃料ガスが消費されて燃料リーンな状態になる。この際、水素極反応抵抗を含む低周波インピーダンスは、燃料供給量が減少したとき、すなわち、インジェクタ54が閉じているときに上昇し、燃料供給量が増加したとき、すなわち、インジェクタ54が開いているときに減少する。そして、インジェクタ54が閉じて燃料供給量が減少したときに、燃料電池20の内部で燃料ガスの部分欠乏状態、すなわち、部分水素欠の状態が発生した場合には、低周波インピーダンスは、燃料供給量の減少による上昇に加えて、水素欠乏の度合いに応じて上昇する。従って、インジェクタ54の開閉の周期に応じて周期的に変化する低周波インピーダンスの最大値(Zmax)の変化を検出すれば、インジェクタ54が閉じているときに発生した部分水素欠の状態の判定が可能と考えられる。具体的には、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)が、低周波インピーダンスの移動平均値(Zavg)と閾値(Zth)の加算値(Zavg+Zth)を超えた場合に、部分水素欠の状態の発生の判定が可能と考えられる。すなわち、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)の差分(Zmax−Zavg)が閾値(Zth)を超えた場合に、部分水素欠の状態の発生の判定が可能と考えられる。
【0030】
ここで、
図3に示した燃料供給量のオフセットは、水素ポンプ57(
図1)によって循環供給される水素ガス量を示している。通常の発電時においては、気液分離部56で分離された水分及び窒素が排水シャットバルブ58を介して適宜排出されるとともに、この排出に合わせてインジェクタ54から供給される水素ガス量が調整されるので、オフセットが維持された状態となる。但し、気液分離部56で分離された水分及び窒素が排水シャットバルブ58を介して排出されない状態で発電が行われる場合もある。この場合、図示は省略するが、循環供給される水素ガス分は発電によって徐々に消費され、最終的には、オフセットが無い状態となり、燃料電池20への水素ガスの供給量はインジェクタ54からの供給量のみに減少する。従って、この場合における燃料電池20の発電は、水素濃度が低くなった低水素濃度の状態での発電となる。このような低水素濃度発電状態における水素ガスの供給量の変動の割合は、オフセットを有する通常発電時に比べて大きくなる。このため、インジェクタ54の開閉による水素ガスの供給量の増減に応じた低周波インピーダンスの変化は、通常発電時における変化よりも大きくなる。
【0031】
図4は、低周波インピーダンスの計測値、最大値及び移動平均値の一例を示す説明図である。時間「0sec」は、低水素濃度発電開始時を示している。
図4に示すように、低水素濃度発電の開始直後は、通常発電時と同様の低周波インピーダンスの状態であるが、水素濃度の低下に応じて低周波インピーダンスの変動は大きくなり、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)も上昇する。しかしながら、低周波インピーダンスの移動平均値(Zavg)の上昇量は最大値(Zmax)の上昇量に比べて非常に小さく、移動平均値(Zavg)と最大値(Zmax)とを比較すれば、燃料供給量が多い通常発電時においても燃料供給量が少ない低水素濃度時においても、部分水素欠の状態の発生の判定が可能と分かる。
【0032】
従って、上述したように、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)の差分(Zmax−Zavg)が閾値(Zth)を超えたか否かにより、部分水素欠の状態の発生の判定(水素欠判定)が可能である、と言える。
【0033】
図5は、
図4に示した低周波インピーダンスの計測値に基づく水素欠判定結果を示す説明図である。上述したように、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)の差分(Zdif)と閾値(Zth)を比較すれば、
図5に示したように、燃料電池20内の一部の箇所において水素欠乏(部分水素欠)の状態が発生していることが判定可能であることが分かる。また、図示および説明は省略するが、通常発電時においても同様である。従って、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)の差分(Zdif)と閾値(Zth)を比較すれば、燃料供給量が多い通常発電時か燃料供給量が少ない低水素濃度時かに関係なく、燃料電池20内の一部の箇所において水素欠乏(部分水素欠)の状態が発生していることが判定可能である。
【0034】
図6は、燃料ガスの供給時及び停止時における燃料電池の等価回路を示す説明図である。低周波領域の周波数における交流インピーダンス(低周波インピーダンス)は、酸素極(カソード)側の電気二重層を構成する酸素極反応抵抗(Zo)及び容量成分(Co)と、電解質膜の膜抵抗(Rohm)と、水素極(アノード)側の電気二重層を構成する水素極反応抵抗(Zh)及び容量成分(Ch)と、を含む。このため、低周波インピーダンスは、基本的には、燃料電池への燃料ガス(水素ガス)の供給の状態だけでなく、酸化ガス(酸素ガスを含む空気)の供給状態、電解質膜の湿潤状態によっても変動する。
【0035】
インジェクタ54の開閉により燃料ガス(水素ガス)を間欠供給した場合には、燃料ガスの供給時と停止時とでは、空気供給量及び電解質膜の湿潤状態が一定であるとすると、水素極反応抵抗のみが変動する。燃料ガスの供給時の水素極反応抵抗Zhに対して、燃料ガスの停止時の水素極反応抵抗は、燃料ガスの減少量に応じて変動量(Zα)だけ大きくなる。このため、燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの平均値(Zonavg)と停止時の低周波インピーダンスの最大値(Zmax=Zh+Zα)の差分をとることで、燃料ガスの間欠供給による水素極反応抵抗の変動量Zαのみを抽出することができる。なお、燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスは、酸素極側の容量成分Co及び水素極側の容量成分Coに起因した応答特性やノイズ等によって変動するため、燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの平均値(Zonavg)をその代表値として用いて示した。
【0036】
変動量Zαは、燃料電池20の内部において水素欠乏状態の発生度合いに応じてさらに大きくなる。そこで、例えば、燃料電池20の内部の一部に発生した水素欠乏(部分水素欠)の状態での変動量Zαを検出可能とするように、その変動量Zαにマージンを考慮した閾値(Zth)を設定する。そして、低周波インピーダンスの最大値(Zmax)と燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの平均値(Zonavg)との差分(Zdif)を閾値(Zth)と比較することで、燃料電池20の内部に部分水素欠の状態が発生している否かの判定が可能となる。なお、実際には、上述したように(
図2,3参照)、燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの平均値(Zonavg)を算出することは困難であるので、間欠供給の周期以上の長さに設定された区間Tmごとの移動平均値(Zavg)としている。移動平均値(Zavg)は、インジェクタの開閉周期に応じた周期変動分が平滑化された値となるので、
図4に示したように、低周波インピーダンスの変動の影響は小さく、また、低周波インピーダンスの計測値のノイズ等を除去することもできる。従って、低周波インピーダンスの移動平均値(Zavg)を、燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの平均値(Zonavg)に置き換えて用いても差し支えない。
【0037】
以上のように、本実施形態では、燃料電池20へ燃料ガスを間欠的に供給する場合において、低周波数(fz=20Hz)の交流インピーダンス(低周波インピーダンス)の最大値(Zmax)と移動平均値(Zavg)との差分(Zdif)を閾値(Zth)と比較することで、燃料電池20の内部に部分的な水素欠乏の状態(部分水素欠の状態)が発生しているか否か判定することができる。そして、部分水素欠の状態が発生している場合には、インジェクタ54から供給する燃料ガスの供給量を増加させて、部分水素欠の状態を回避するように制御することができる。
【0038】
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の水素欠判定処理の手順を示す説明図である。この水素欠判定処理は、第1実施形態と同様に、燃料電池システム10(
図1)における制御部80の水素欠判定部82(
図1)において実行される。
【0039】
第1実施形態の水素欠判定処理(
図2)では、
図6を用いて説明した燃料ガスの供給時の低周波インピーダンスの値(Zon)に対応する値として、移動平均値(Zavg)を用いた場合を例に説明したが、移動平均値(Zavg)に代えて同じ区間Tmにおける最小値(Zmin)を用いてもよい。そこで、
図7の水素欠判定処理では、第1実施形態の水素欠判定処理(
図2)のステップS103,S104が、ステップS103B,S104Bに置き換えられている。
【0040】
ステップS103Bでは、ステップS103(
図2)と同様の区間Tmごとに、低周波数(fz=20Hz)の交流インピーダンス(低周波インピーダンス)の最大値(Zmax)を求めるとともに、最小値(Zmin)を求める。そして、ステップS104Bでは、求めた最大値(Zmax)と最小値(Zmin)の差分(Zdif=[Zmax−Zmin])を算出する。そして、差分(Zdif)と閾値(Zth)を比較する(ステップS105)ことにより、第1実施形態と同様に、燃料電池20の内部に部分的な水素欠乏の状態(部分水素欠の状態)が発生しているか否か判定することができる。そして、部分水素欠の状態が発生している場合には、インジェクタ54から供給する燃料ガスの供給量を増加させて、部分水素欠の状態を回避するように制御することができる。
【0041】
C.他の実施形態:
(1)上記実施形態では、交流信号印加部96から燃料電池20の正負両極端子間に交流電圧を印加する場合を例に説明したが、交流電流を印加するようにしてもよい。
【0042】
(2)上記実施形態では、インピーダンス計測部95の交流信号印加部96が交流信号を燃料電池20の正負両極端子間に印加する構成を例に説明したが、制御部80をインピーダンス計測部として機能させてもよい。この場合、インピーダンス計測部としての制御部80は、DC/DCコンバータ90を制御して、燃料電池20の正負両極端子間の電流または電圧をあらかじめ定めた低周波数で変化させ、電圧計98および電流計99によって計測される交流電圧及び交流電流から正負両極端子間の低周波インピーダンスを計測するようにしてもよい。
【0043】
本発明は、上述の実施形態や他の実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態や変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組合せを行うことが可能である。また、前述した実施形態及び各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。