(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記相対回転数が前記第1規定値よりも小さい第2規定値以下になったと判定したときに、前記待機位置から前記係合位置に前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方を移動させる制御信号を出力する、
請求項1に記載の作業車両。
前記制御部は、前記相対回転数が前記第1規定値よりも大きい第3規定値以上になったと判定したときに、前記待機位置から前記解放位置に前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方を移動させる制御信号を出力する、
請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
前記制御部は、前記低速クラッチの前記相対回転数が第5規定値以上になったと判定したときに、前記待機位置から前記解放位置に前記低速クラッチの前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方を移動させる制御信号を出力する、
請求項4に記載の作業車両。
前記制御部は、前記低速クラッチの前記相対回転数が前記第5規定値よりも小さい第6規定値以下になったと判定したときに、前記待機位置から前記係合位置に前記低速クラッチの前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方を移動させる制御信号を出力する、
請求項5に記載の作業車両。
前記待機位置設定部は、前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方が前記係合位置に配置されたときの前記ストロークセンサの検出信号に基づいて、前記待機位置を更新する、
請求項7に記載の作業車両。
入力軸から出力軸に動力を伝達する動力伝達装置の少なくとも2つの動力の伝達経路の切り換え時点の判定結果に基づいて、クラッチのディスク及びプレートの少なくとも一方を係合位置及び解放位置の少なくとも一方から前記係合位置と前記解放位置との間の待機位置に移動させることと、
前記ディスクと前記プレートとの相対回転数に基づいて前記切り換え時点を判定し、前記相対回転数が第1規定値以下になったと判定したときに、前記待機位置に前記ディスク及び前記プレートの少なくとも一方を移動させることと、を含む、
作業車両の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0015】
[作業車両]
図1は、本実施形態に係る作業車両1の一例を模式的に示す側面図である。本実施形態においては、作業車両1がホイールローダであることとする。以下の説明においては、作業車両1を適宜、ホイールローダ1、と称する。
【0016】
図1に示すように、ホイールローダ1は、車体フレーム2と、作業機3と、走行輪4及び走行輪5を含む走行装置10と、運転室7とを備える。ホイールローダ1は、作業機3を用いて掘削作業及び運搬作業を実施する。
【0017】
作業機3は、ブーム11とバケット12とを有する。ブーム11は、車体フレーム2に支持される。ホイールローダ1は、リフトシリンダ13とバケットシリンダ14とを備える。リフトシリンダ13及びバケットシリンダ14のそれぞれは、油圧シリンダである。作業機3は、リフトシリンダ13及びバケットシリンダ14によって駆動される。リフトシリンダ13の一端部は、車体フレーム2に連結される。リフトシリンダ13の他端部は、ブーム11に連結される。リフトシリンダ13が伸縮することによって、ブーム11が上げ動作及び下げ動作する。バケット12は、ブーム11の先端部に連結される。バケットシリンダ14の一端部は、車体フレーム2に連結される。バケットシリンダ14の他端部は、ベルクランク15を介してバケット12に連結される。バケットシリンダ14が伸縮することによって、バケット12がダンプ動作及び掘削動作する。
【0018】
走行装置10は、車体フレーム2を支持する。走行装置10の走行輪4及び走行輪5が回転することによって、ホイールローダ1は走行する。
【0019】
運転室7は、車体フレーム2に支持される。運転室7には、ホイールローダ1の運転者が着座するシート及び運転者に操作される操作装置が配置される。車体フレーム2は、前フレーム16と後フレーム17とを有する。前フレーム16と後フレーム17とは、左右方向に屈曲可能に連結される。
【0020】
ホイールローダ1は、ステアリングシリンダ18を備える。ステアリングシリンダ18は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ18の一端部は、前フレーム16に連結される。ステアリングシリンダ18の他端部は、後フレーム17に連結される。ステアリングシリンダ18が伸縮することによって、ホイールローダ1の進行方向が左右に変更される。
【0021】
図2は、本実施形態に係るホイールローダ1の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、ホイールローダ1は、エンジン21と、パワーテイクオフ(PTO:Power Take Off)22と、動力伝達装置60と、走行装置10と、操作装置50と、制御装置100とを備える。
【0022】
エンジン21は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン21に燃料噴射装置21Cが設けられる。燃料噴射装置21Cは、制御装置100に制御される。燃料噴射装置21Cは、エンジン21のシリンダに噴射される燃料量を調整して、エンジン21の出力を調整する。
【0023】
ホイールローダ1は、作業機ポンプ23と、ステアリングポンプ24と、トランスミッションポンプ25とを有する。作業機ポンプ23、ステアリングポンプ24、及びトランスミッションポンプ25のそれぞれは、油圧ポンプである。パワーテイクオフ22は、エンジン21で発生した動力を、作業機ポンプ23、ステアリングポンプ24、トランスミッションポンプ25、及び動力伝達装置60のそれぞれに分配する。
【0024】
作業機ポンプ23は、エンジン21によって駆動される。作業機ポンプ23は、可変容量型油圧ポンプである。作業機ポンプ23から吐出された作動油は、作業機制御弁41を介して、リフトシリンダ13及びバケットシリンダ14のそれぞれに供給される。
【0025】
ステアリングポンプ24は、エンジン21によって駆動される。ステアリングポンプ24は、可変容量型油圧ポンプである。ステアリングポンプ24から吐出された作動油は、ステアリング制御弁42を介して、ステアリングシリンダ18に供給される。
【0026】
トランスミッションポンプ25は、エンジン21によって駆動される。トランスミッションポンプ25は、固定容量型油圧ポンプである。トランスミッションポンプ25から吐出された作動油は、クラッチ制御弁Vを介して、動力伝達装置60のクラッチCに供給される。
【0027】
動力伝達装置60は、エンジン21で発生した動力を走行装置10に伝達する。走行装置10は、アクスル6と、走行輪4及び走行輪5とを有する。アクスル6は、動力伝達装置60からの動力を走行輪4及び走行輪5に伝達する。これにより、走行輪4及び走行輪5が回転する。
【0028】
ホイールローダ1は、相対回転数センサ31と、車速センサ32とを備える。
【0029】
相対回転数センサ31は、クラッチCのディスクとプレートとの相対回転数を検出する。相対回転数センサ31の検出信号は、制御装置100に出力される。
【0030】
車速センサ32は、ホイールローダ1(走行装置10)の走行速度を検出する。車速センサ32は、動力伝達装置60の出力軸62の回転速度を示す出力回転速度を検出する。車速センサ32の検出信号は、制御装置100に出力される。出力回転速度とホイールローダ1の走行速度とは1対1で対応する。制御装置100は、出力回転速度に基づいて、ホイールローダ1の走行速度を算出する。
【0031】
操作装置50は、運転室7に搭乗した運転者によって操作される。操作装置50は、走行装置10の駆動のために操作されるアクセル操作装置51と、作業機3の作動のために操作される作業機操作装置52と、動力伝達装置60の変速パターンの選択のために操作される変速操作装置53と、ホイールローダ1の前進と後進との切り換えのために操作される前後進操作装置54と、ホイールローダ1の進行方向の変更のために操作されるステアリング操作装置57と、走行装置10の制動のために操作されるブレーキ操作装置58とを有する。
【0032】
[動力伝達装置]
図3は、本実施形態に係る動力伝達装置60の一例を模式的に示す図である。動力伝達装置60は、第1の遊星歯車機構68及び第2の遊星歯車機構69を含み、入力軸61から出力軸62に動力を伝達する。
【0033】
図3に示すように、動力伝達装置60は、歯車機構63と、第1モータMG1と、第2モータMG2とを備える。
【0034】
入力軸61は、パワーテイクオフ22を介してエンジン21と接続される。エンジン21で発生した動力は、パワーテイクオフ22を介して入力軸61に伝達される。入力軸61は、エンジン21から伝達された動力に基づいて回転する。
【0035】
歯車機構63は、入力軸61から出力軸62に動力を伝達する。
【0036】
出力軸62は、歯車機構63を介して入力軸61から伝達された動力に基づいて回転する。出力軸62は、走行装置10に接続される。入力軸61から伝達された動力は、出力軸62を介して走行装置10に伝達される。出力軸62が回転することにより、走行装置10の走行輪4及び走行輪5が回転する。これにより、ホイールローダ1は走行する。
【0037】
歯車機構63は、前後進切換機構63Aと変速機構63Bとを有する。前後進切換機構63Aと変速機構63Bとは、伝達軸67を介して連結される。また、歯車機構63は、複数のクラッチC及び複数のクラッチ制御弁Vを有する。
【0038】
クラッチCは、前後進切換機構63Aに設けられる前進用クラッチCF及び後進用クラッチCRと、変速機構63Bに設けられる高速クラッチであるHクラッチCH及び低速クラッチであるLクラッチCLとを含む。
【0039】
クラッチ制御弁Vは、前後進切換機構63Aに設けられる前進用クラッチ制御弁VF及び後進用クラッチ制御弁VRと、変速機構63Bに設けられるHクラッチ制御弁VH及びLクラッチ制御弁VLとを含む。
【0040】
クラッチC(CF,CR,CH,CL)は、油圧式クラッチである。クラッチCは、トランスミッションポンプ25から供給された作動油に基づいて作動する。
【0041】
前後進切換機構63Aは、前進用クラッチCFと、後進用クラッチCRと、前進用クラッチ制御弁VFと、後進用クラッチ制御弁VRとを有する。前進用クラッチCFに供給される作動油の圧力は、前進用クラッチ制御弁VFによって制御される。後進用クラッチCRに供給される作動油の圧力は、後進用クラッチ制御弁VRによって制御される。前進用クラッチ制御弁VF及び後進用クラッチ制御弁VRのそれぞれは、制御装置100によって制御される。制御装置100は、前進用クラッチ制御弁VFに制御信号を出力して、前進用クラッチ制御弁VFを制御する。制御装置100は、後進用クラッチ制御弁VRに制御信号を出力して、後進用クラッチ制御弁VRを制御する。前進用クラッチCFの係合及び解放と、後進用クラッチCRの係合及び解放とが切り換えられることによって、伝達軸67の回転方向が切り換わる。伝達軸67の回転方向が切り換わることによって、ホイールローダ1は、前進又は後進する。
【0042】
変速機構63Bは、遊星歯車機構68と、遊星歯車機構69と、モード切換機構70と、出力ギア71とを有する。
【0043】
動力伝達装置60は、入力軸61から出力軸62に動力を伝達する少なくとも2つの動力の伝達経路を有する。本実施形態において、動力伝達装置60は、第1モード及び第2モードの2つの動力の伝達経路を有する。モード切換機構70は、動力伝達装置60における動力の伝達経路を第1モードと第2モードとで切り換える。本実施形態において、第1モードは、ホイールローダ1の走行速度が高い高速モード(Hモード)であり、第2モードは、ホイールローダ1の走行速度が低い低速モード(Lモード)である。クラッチCは、動力の伝達経路をHモードとLモードとで切り換える。Hモードにおいては、高速クラッチであるHクラッチCHが係合され、低速クラッチであるLクラッチCLが解放される。Lモードにおいては、低速クラッチであるLクラッチCLが係合され、高速クラッチであるHクラッチCHが解放される。
【0044】
モード切換機構70は、HクラッチCHと、LクラッチCLと、Hクラッチ制御弁VHと、Lクラッチ制御弁VLとを有する。HクラッチCHに供給される作動油の圧力は、Hクラッチ制御弁VHによって制御される。LクラッチCLに供給される作動油の圧力は、Lクラッチ制御弁VLによって制御される。Hクラッチ制御弁VH及びLクラッチ制御弁VLのそれぞれは、制御装置100によって制御される。制御装置100は、Hクラッチ制御弁VHに制御信号を出力して、Hクラッチ制御弁VHを制御する。制御装置100は、Lクラッチ制御弁VLに制御信号を出力して、Lクラッチ制御弁VLを制御する。HクラッチCHの係合及び解放と、LクラッチCLの係合及び解放とが切り換えられることによって、第1モードと第2モードとが切り換わる。
【0045】
遊星歯車機構68は、サンギアS1と、複数の遊星ギアP1と、複数の遊星ギアP1を支持するキャリアCa1と、リングギアR1とを有する。サンギアS1は、伝達軸67に連結される。複数の遊星ギアP1は、サンギアS1と噛み合う。複数の遊星ギアP1は、キャリアCa1に回転可能に支持される。キャリアCa1の外周にキャリアギアGc1が設けられる。リングギアR1は、複数の遊星ギアP1と噛み合い、回転可能である。リングギアR1の外周にリング外周ギアGr1が設けられる。
【0046】
遊星歯車機構69は、サンギアS2と、複数の遊星ギアP2と、複数の遊星ギアP2を支持するキャリアCa2と、リングギアR2とを有する。サンギアS2は、遊星歯車機構68のキャリアCa1に連結される。複数の遊星ギアP2は、サンギアS2と噛み合う。複数の遊星ギアP2は、キャリアCa2に回転可能に支持される。リングギアR2は、複数の遊星ギアP2と噛み合い、回転可能である。リングギアR2の外周にリング外周ギアGr2が設けられる。リング外周ギアGr2は、出力ギア71と噛み合う。リングギアR2が回転すると、出力ギア71が回転する。出力ギア71は、出力軸62に接続される。出力ギア71が回転すると、出力軸62が回転する。
【0047】
本実施形態において、遊星歯車機構68のサンギアS1の回転軸と、遊星歯車機構69のサンギアS2の回転軸と、伝達軸67の回転軸AXとは、一致する。
【0048】
HクラッチCHは、遊星歯車機構68のリングギアR1と遊星歯車機構69のキャリアCa2との間の動力の伝達及び遮断を実施する。すなわち、HクラッチCHは、リングギアR1とキャリアCa2との固定及び固定解除を実施する。
【0049】
LクラッチCLの一部は、固定端72に固定される。固定端72は、例えば車体フレーム2の一部である。LクラッチCLは、キャリアCa2と固定端72との間の動力の伝達及び遮断を実施する。すなわち、LクラッチCLは、キャリアCa2と固定端72との固定及び固定解除を実施する。
【0050】
LクラッチCLによりキャリアCa2と固定端72とが固定され、キャリアCa2の回転が拘束されると、キャリアCa2に支持されている遊星ギアP2の公転が拘束される。LクラッチCLにおいてキャリアCa2と固定端72との固定が解除され、キャリアCa2の回転が許容されると、キャリアCa2に支持されている遊星ギアP2の公転が許容される。遊星ギアP2の公転とは、遊星ギアP2が伝達軸67の周囲を移動することをいう。
【0051】
LクラッチCLによりキャリアCa2と固定端72とが固定されている状態においては、キャリアCa2と固定端72との相対回転数はゼロである。
【0052】
相対回転数センサ31は、伝達軸67の回転軸AXを中心とするクラッチCのディスクとプレートとの相対回転数Nrを検出する。本実施形態において、相対回転数センサ31は、第1の遊星歯車機構68のリングギアR1の回転数を検出して、クラッチCのディスクとプレートとの相対回転数Nrを検出する。
【0053】
第1モータMG1及び第2モータMG2は、電力に基づいて動力を発生する電動モータである。また、第1モータMG1及び第2モータMG2は、入力される動力に基づいて電力を発生するジェネレータとして機能する。第1モータMG1は、第1インバータI1と接続される。第2モータMG2は、第2インバータI2と接続される。
【0054】
第1モータMG1の出力軸に第1モータギアGm1が固定される。第1モータギアGm1は、キャリアギアGc1と噛み合う。第2モータMG2の出力軸に第2モータギアGm2が固定される。第2モータギアGm2は、リング外周ギアGr1と噛み合う。
【0055】
[Lクラッチ及び駆動装置]
図4及び
図5は、本実施形態に係るLクラッチCLの一例を模式的に示す断面図である。
図4は、LクラッチCLが解放されている状態を示す。
図5は、LクラッチCLが係合(接続)されている状態を示す。LクラッチCLは、油圧式クラッチである。ホイールローダ1は、LクラッチCLを油圧で駆動する駆動装置90を備える。
【0056】
図4及び
図5に示すように、LクラッチCLは、伝達軸67の回転軸AXの周囲に配置される部材である。上述のように、伝達軸67の回転軸AXは、遊星歯車機構69のサンギアS2の回転軸と一致する。
【0057】
LクラッチCLは、固定端72に固定されるシリンダ81と、キャリアCa2に支持されるディスク82と、シリンダ81に支持されるプレート83とを有する。
【0058】
シリンダ81は、プレート83を支持する。シリンダ81は、回転軸AXを囲むように配置される円環状の部材である。シリンダ81は、回転軸AXの放射方向においてキャリアCa2よりも外側に配置される。シリンダ81は、固定端72に固定される。
【0059】
ディスク82は、キャリアCa2に支持される。上述のように、キャリアCa2は、遊星ギアP2に接続される。ディスク82は、キャリアCa2を介して遊星ギアP2に接続される。ディスク82は、回転軸AXを囲むように配置される円環状の部材である。ディスク82は、回転軸AXと平行な方向に間隔をあけて複数配置される。
【0060】
プレート83は、シリンダ81に支持される。プレート83は、回転軸AXを囲むように配置される円環状の部材である。プレート83の少なくとも一部は、回転軸AXの放射方向においてディスク82よりも外側に配置される。プレート83の少なくとも一部は、ディスク82と対向する。プレート83は、回転軸AXと平行な方向に移動可能である。プレート83は、回転軸AXと平行な方向に間隔をあけて複数配置される。プレート83は、回転軸AXと平行な方向においてディスク82の隣に配置される。内端部を含むプレート83の内側部分は、ディスク82の間に配置される。外端部を含むプレート83の外側部分の間にばね85が配置される。ばね85は、複数のプレート83どうしが離れるように弾性力を発生する。
【0061】
シリンダ81は、プレート83の外端部を支持する支持部81Sと、回転軸AXと平行な方向において支持部81Sの一方側に配置される第1プレート部81Aと、支持部81Sの他方側に配置される第2プレート部81Bとを有する。支持部81Sと第1プレート部81Aと第2プレート部81Bとによって、ディスク82及びプレート83が配置される空間81Hが規定される。また、シリンダ81は、トランスミッションポンプ25からの作動油が供給される流路84を有する。流路84は、支持部81Sに設けられる。
【0062】
駆動装置90は、ディスク82とプレート83とが接触する係合位置Peと、ディスク82とプレート83とが離れる解放位置Pfとの間でプレート83を移動させる。駆動装置90は、作動油を吐出するトランスミッションポンプ25と、トランスミッションポンプ25から吐出されLクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整するLクラッチ制御弁VLとを有する。Lクラッチ制御弁VLは、制御装置100に制御される。
【0063】
また、駆動装置90は、油圧により作動してプレート83を係合位置Peに移動させる力を発生するピストン91と、プレート83を解放位置Pfに戻す力を発生するばね92とを有する。
【0064】
ピストン91は、回転軸AXを囲むように配置される円環状の部材である。回転軸AXの放射方向において、ピストン91は、シリンダ81よりも内側に配置される。ピストン91は、シリンダ81に移動可能に支持される。ピストン91は、回転軸AXと平行な方向に移動可能である。
【0065】
ピストン91は、空間81Hに配置される内側プレート部91Aと、空間81Hの外側に配置される外側プレート部91Bと、内側プレート部91Aと外側プレート部91Bとを連結する連結部91Cとを有する。
【0066】
ばね92は、第2プレート部81Bと外側プレート部91Bとの間に配置される。ばね92は、ピストン91がプレート83から離れるように弾性力を発生する。
【0067】
キャリアCa2が回転軸AXを中心に回転したとき、そのキャリアCa2に支持されているディスク82は、キャリアCa2と一緒に回転軸AXを中心に回転する。すなわち、キャリアCa2及びディスク82は、回転軸AXを中心に回転可能な回転体である。
【0068】
シリンダ81及びプレート83は、回転軸AXを中心とする回転方向の位置を固定される固定体である。プレート83は、回転軸AXと平行な方向には移動可能であるものの、回転軸AXを中心とする回転方向には回転しない。
【0069】
ピストン91は、回転軸AXを中心とする回転方向の位置を固定される固定体である。ピストン91は、回転軸AXと平行な方向には移動可能であるものの、回転軸AXを中心とする回転方向には回転しない。
【0070】
ピストン91は、Lクラッチ制御弁VLを介してトランスミッションポンプ25から供給された作動油の圧力により回転軸AXと平行な方向に移動する。本実施形態においては、ピストン91とシリンダ81の第2プレート部81Bとの間の空間に作動油が供給され、ピストン91に油圧が作用すると、ピストン91は、プレート83に近付くように移動する。
【0071】
図4に示すように、ピストン91に油圧が作用していない場合、ピストン91は、ばね92の弾性力により、第1プレート部81Aから離れるように移動する。ピストン91が第1プレート部81Aから離れるように移動すると、ばね85の弾性力によりプレート83が回転軸AXと平行な方向に変位し、複数のプレート83と複数のディスク82とが離れる。これにより、LクラッチCLの係合が解除され、LクラッチCLは解放される。ディスク82の回転が許容されている場合、キャリアCa2の回転が許容され、遊星ギアP2の公転が許容される。
【0072】
図5に示すように、トランスミッションポンプ25から吐出された作動油がLクラッチ制御弁VLを介して空間84に供給されると、その作動油は、ピストン91とシリンダ81の第2プレート部81Bとの間の空間に供給され、ピストン91に油圧を作用する。ピストン91に油圧が作用した場合、ピストン91は、油圧の力により、第1プレート部81Aに近付くように移動する。ピストン91が第1プレート部81Aに近付くように移動すると、プレート83が変位し、複数のプレート83と複数のディスク82とが接触し合う。これにより、LクラッチCLが係合され、ディスク82の回転が拘束される。ディスク82の回転が拘束されることにより、キャリアCa2の回転が拘束される。キャリアCa2の回転が拘束されることにより、遊星ギアP2の公転が拘束される。
【0073】
本実施形態において、LクラッチCLは、ディスク82とプレート83との間に潤滑油が供給される湿式クラッチである。潤滑油は、例えばキャリアCa2に設けられている給油口から空間81Hに供給される。
【0074】
また、ホイールローダ1は、回転軸AXと平行な方向のプレート83の位置を検出するストロークセンサ34を備える。本実施形態において、ストロークセンサ34は、本体部材34Bと、本体部材34Bに移動可能に支持される接触部材34Pとを有する。ストロークセンサ34は、接触部材34Pの移動量を電気信号に変換して、制御装置100に出力する。
【0075】
本実施形態において、接触部材34Pは、ピストン91と接触する。ストロークセンサ34は、接触部材34Pとピストン91の外側プレート部91Bとが接触するように配置される。本体部材34Bの位置は、シリンダ81と同様、固定端72に固定される。回転軸AXと平行な方向にピストン91が移動すると、接触部材34Pは、本体部材34Bに対して移動する。ストロークセンサ34は、接触部材34Pの移動量に基づいて、ピストン91の移動量を検出する。
【0076】
図4に示すように、プレート83が解放位置Pfに配置されている状態で、ピストン91の内側プレート部91Aと複数のプレート83のうち最もピストン91に近いプレート83とが接触する。また、
図5に示すように、プレート83が係合位置Peに配置されている状態で、ピストン91の内側プレート部91Aと複数のプレート83のうち最もピストン91に近いプレート83とが接触する。すなわち、本実施形態においては、ピストン91の可動範囲において、ピストン91の内側プレート部91Aと複数のプレート83のうち最もピストン91に近いプレート83とは、常に接触する。
【0077】
そのため、ストロークセンサ34は、回転軸AXと平行な方向のピストン91の移動量に基づいて、回転軸AXと平行な方向のプレート83の移動量を検出することができる。また、ストロークセンサ34は、ピストン91の移動量を検出することによって、回転軸AXと平行な方向における所定の基準位置に対するピストン91の位置を検出することができる。ストロークセンサ34は、回転軸AXと平行な方向のピストン91の位置に基づいて、回転軸AXと平行な方向における所定の基準位置に対するプレート83の位置を検出することができる。基準位置は、例えば係合位置Peである。ストロークセンサ34は、係合位置Peを基準とする回転軸AXと平行な方向のプレート83の位置を検出することができる。ストロークセンサ34の検出信号は、制御装置100に出力される。
【0078】
なお、本実施形態においては、ストロークセンサ34は接触式センサであるが、接触式センサでなくてもよい。例えば、ストロークセンサ34は、レーザ光又は渦電流を用いて移動量を非接触で検出可能な非接触式センサでもよい。
【0079】
[制御装置]
図6は、本実施形態に係る制御装置100の一例を示す機能ブロック図である。
図6に示すように、制御装置100は、相対回転数センサ31、ストロークセンサ34、及び駆動装置90のそれぞれと接続される。
【0080】
相対回転数センサ31は、伝達軸67の回転軸AXを中心とするディスク82とプレート83との相対回転数Nrを検出する。すなわち、相対回転数センサ31は、キャリアCa2とプレート83との相対回転数を検出する。プレート83は、回転軸AXを中心とする回転方向の位置を固定される。相対回転数センサ31は、回転軸AXを中心とするキャリアCa2の回転数を検出して、ディスク82とプレート83との相対回転数Nrを検出する。
【0081】
上述のように、相対回転数センサ31は、第1の遊星歯車機構68のリングギアR1の回転数を検出する。Lモードにおいては、LクラッチCLが係合し、キャリアCa2が停止する。そのため、HクラッチCHの相対回転数Nrは、リングギアR1の回転数となる。一方、Hモードにおいては、HクラッチCHが係合し、リングギアR1とキャリアCa2とが同じ回転数で回転する。LクラッチCLのプレート83は、回転方向における位置を固定されている。そのため、LクラッチCLの相対回転数Nrは、リングギアR1の回転数となる。このように、相対回転数センサ31は、HクラッチCHのディスク82とプレート83との相対回転数Nr、及びLクラッチCLのディスク82とプレート83との相対回転数Nrのそれぞれを検出することができる。相対回転数センサ31の検出信号は、制御装置100に出力される。
【0082】
なお、リングギアR1と第2モータギアGm2とは噛み合っている。そのため、リングギアR1と第2モータギアGm2との回転数は一定比率となる。したがって、相対回転数センサ31は、第2モータMG2に設置されたレゾルバでもよい。
【0083】
ストロークセンサ34は、LクラッチCLに設けられる。ストロークセンサ34は、ピストン91の位置を検出して、回転軸AXと平行な方向のプレート83の位置を検出する。
【0084】
駆動装置90は、Hクラッチ制御弁VHと、Lクラッチ制御弁VLとを有する。HクラッチCHに供給される作動油の圧力は、Hクラッチ制御弁VHによって制御される。LクラッチCLに供給される作動油の圧力は、Lクラッチ制御弁VLによって制御される。制御装置100は、制御信号を出力して、Hクラッチ制御弁VH及びLクラッチ制御弁VLを制御する。
【0085】
制御装置100は、コンピュータシステムを含む。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを含む演算処理装置100Aと、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)のようなメモリを含む記憶装置100Bと、入出力インターフェース100Cとを有する。相対回転数センサ31、ストロークセンサ34、駆動装置90、演算処理装置100A、及び記憶装置100Bは、入出力インターフェース100Cを介して接続され、信号及びデータを相互に送受信することができる。
【0086】
記憶装置100Bは、規定値記憶部107を有する。規定値記憶部107には、Hモード及びLモードの一方のモードから他方のモードに切り換えるときのクラッチCのディスク82とプレート83との相対回転数Nrについて予め規定された複数の規定値が記憶されている。本実施形態において、規定値記憶部107には、HモードからLモードに切り換えるときのクラッチCの相対回転数Nrについて規定された第1規定値Nr1、第2規定値Nr2、及び第3規定値Nr3と、LモードからHモードに切り換えるときのクラッチCの相対回転数Nrについて規定された第4規定値Nr4、第5規定値Nr5、及び第6規定値Nr6とが記憶されている。
【0087】
第1規定値Nr1、第2規定値Nr2、第3規定値Nr3、第5規定値Nr5、及び第6規定値Nr6は、LクラッチCLの相対回転数Nrについて規定された規定値である。第4規定値Nr4は、HクラッチCHの相対回転数Nrについて規定された規定値である。
【0088】
演算処理装置100Aは、相対回転数取得部102と、プレート位置取得部103と、待機位置設定部105と、制御部106とを有する。
【0089】
相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号を取得する。相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号及び検出信号を取得するときのモード(Lモード又はHモード)に基づいて、クラッチC(LクラッチCL又はHクラッチCH)のディスク82とプレート83との相対回転数Nrを取得する。LクラッチCLが係合されHクラッチCHが解放されているLモードにおいて、相対回転数取得部102は、HクラッチCHのディスク82とプレート83との相対回転数Nrを取得する。HクラッチCHが係合されLクラッチCLが解放されているHモードにおいて、相対回転数取得部102は、LクラッチCLのディスク82とプレート83との相対回転数Nrを取得する。
【0090】
プレート位置取得部103は、ストロークセンサ34の検出信号を取得する。プレート位置取得部103は、LクラッチCLに設けられているストロークセンサ34から回転軸AXと平行な方向のLクラッチCLのプレート83の位置を取得する。
【0091】
待機位置設定部105は、ディスク82とプレート83とが接触する係合位置Peとディスク82とプレート83とが離れる解放位置Pfとの間のプレート83の待機位置Pwを設定する。
【0092】
図7は、本実施形態に係る解放位置Pfと待機位置Pwと係合位置Peとの関係を模式的に示す図である。
【0093】
プレート83の解放位置Pfとは、プレート83の可動範囲において、ディスク82から最も離れた位置である。
図7に示すように、プレート83が解放位置Pfに配置されているとき、プレート83とディスク82とは距離Dfだけ離れる。距離Dfは、例えば5[mm]である。
【0094】
プレート83の係合位置Peとは、プレート83の可動範囲において、ディスク82と接触する位置である。
図7に示すように、プレート83が係合位置Peに配置されているとき、プレート83とディスク82との距離はゼロである。
【0095】
プレート83の待機位置Pwとは、プレート83の可動範囲において、ディスク82から距離Dfよりも短い距離Dwだけ離れた位置である。距離Dwは、例えば1[mm]である。
【0096】
なお、解放位置Pfから移動するときのプレート83の待機位置Pwと、係合位置Peから移動するときのプレート83の待機位置Pwとは、同じ位置でもよいし、異なる位置でもよい。
【0097】
制御部106は、動力伝達装置60の動力の伝達経路の切り換え時点の判定結果に基づいて、待機位置Pwにプレート83を移動させる制御信号を駆動装置90に出力する。本実施形態において、伝達経路の切り換え時点は、ディスク82とプレート83との相対回転数Nrに基づいて判定される。制御部106は、ディスク82とプレート83との相対回転数Nrに基づいて、動力の伝達経路の切り換え時点を判定する。
【0098】
制御部106は、HモードからLモードへの切り換えにおいて、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1以下になったと判定したときに、HモードからLモードへの切り換えの準備のために、解放位置Pfから待機位置PwにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号を駆動装置90に出力する。制御部106は、駆動装置90のLクラッチ制御弁VLに制御信号を出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が解放位置Pfから待機位置Pwに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0099】
第1規定値Nr1は、HモードからLモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第1規定値Nr1に基づいて、LクラッチCLのプレート83が解放位置Pfから待機位置Pwに移動するか否かが判定される。
【0100】
また、制御部106は、HモードからLモードへの切り換えにおいて、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1よりも小さい第2規定値Nr2以下になったと判定したときに、HモードからLモードへ切り換えるために、待機位置Pwから係合位置PeにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0101】
第2規定値Nr2は、HモードからLモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第2規定値Nr2は、第1規定値Nr1よりも小さい。第2規定値Nr2に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動するか否かが判定される。
【0102】
また、制御部106は、HモードからLモードへの切り換えにおいて、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1よりも大きい第3規定値Nr3以上になったと判定したときに、HモードからLモードへの切り換えが中止され、Hモードに戻るように、待機位置Pwから解放位置PfにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0103】
第3規定値Nr3は、HモードからLモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第3規定値Nr3は、第1規定値Nr1よりも大きい。第3規定値Nr3に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動するか否かが判定される。
【0104】
また、制御部106は、LモードからHモードへの切り換えにおいて、HクラッチCHの相対回転数Nrが第4規定値Nr4以下になったと判定したときに、LモードからHモードへの切り換えのために、解放位置Pfから係合位置PeにHクラッチCHのプレート83を移動させる制御信号をHクラッチ制御弁VHに出力する。Hクラッチ制御弁VHは、制御部106からの制御信号に基づいて、HクラッチCHのプレート83が解放位置Pfから係合位置Peに移動するように、HクラッチCHに供給される作動油の圧力を調整する。
【0105】
また、制御部106は、LモードからHモードへの切り換えにおいて、HクラッチCHの相対回転数Nrが第4規定値Nr4以下になったと判定したときに、LモードからHモードへの切り換えの準備のために、係合位置Peから待機位置PwにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peから待機位置Pwに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0106】
第4規定値Nr4は、LモードからHモードに切り換えるときのHクラッチCHの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第4規定値Nr4に基づいて、HクラッチCHのプレート83が解放位置Pfから係合位置Peに移動するか否かが判定され、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peから待機位置Pwに移動するか否かが判定される。
【0107】
また、制御部106は、LモードからHモードへの切り換えが完了し、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5以上になったと判定したときに、待機位置Pwから解放位置PfにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0108】
第5規定値Nr5は、LモードからHモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第5規定値Nr5に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動するか否かが判定される。
【0109】
また、制御部106は、LモードからHモードへの切り換えにおいて、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5よりも小さい第6規定値Nr6以下になったと判定したときに、LモードからHモードへの切り換えが中止され、Lモードに戻るように、待機位置Pwから係合位置PeにLクラッチCLのプレート83を移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する。Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0110】
第6規定値Nr6は、LモードからHモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて予め定められている規定値である。第6規定値Nr6は、第5規定値Nr5よりも小さい。第6規定値Nr6に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動するか否かが判定される。
【0111】
制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、クラッチ制御弁V(Lクラッチ制御弁VL又はHクラッチ制御弁VH)に制御信号を出力する。制御部106は、プレート83が目標位置に配置されるように、プレート位置取得部103で取得されたプレート83の位置に基づいて、クラッチ制御弁Vをフィードバック制御する。本実施形態においては、制御部106は、プレート位置取得部103で取得されたプレート83の検出位置とプレート83の目標位置との偏差が小さくなるように、例えばPID(Proportional Integral Differential)制御の手法に基づいてクラッチ制御弁Vをフィードバック制御する。
【0112】
プレート83の目標位置は、解放位置Pf、係合位置Pe、及び待機位置設定部105で設定された待機位置Pwを含む。制御部106は、プレート83を現在位置から目標位置に移動させるとき、プレート83の移動方向を判定し、現在位置と目標位置との距離に基づいてクラッチ制御弁Vに制御信号を出力する。例えば、プレート83の現在位置が待機位置Pwであり、目標位置が係合位置Peである場合、制御部106は、プレート83の移動方向がディスク82に近付く方向であると判定する。制御部106は、判定した移動方向と、現在位置(待機位置Pw)と目標位置(係合位置Pe)との距離(Dw)とに基づいて、プレート83が目標位置に配置されるように、クラッチ制御弁Vに制御信号を出力する。また、プレート83の現在位置が待機位置Pwであり、目標位置が解放位置Pfである場合、制御部106は、プレート83の移動方向がディスク82から離れる方向であると判定する。制御部106は、判定した移動方向と、現在位置(待機位置Pw)と目標位置(解放位置Pf)との距離(Df−Dw)とに基づいて、プレート83が目標位置に配置されるように、クラッチ制御弁Vに制御信号を出力する。
【0113】
[待機位置の更新]
図8は、本実施形態に係る待機位置設定部105による待機位置Pwの更新処理を説明するための模式図である。本実施形態において、待機位置設定部105は、プレート83が係合位置Peに配置されたときのストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwを更新する。
【0114】
図8(A)に示すように、待機位置設定部105は、ディスク82とプレート83とが距離Dwだけ離れるように、プレート83の待機位置Pwを設定する。本実施形態において、距離Dwは、1[mm]である。
【0115】
例えばディスク82とプレート83とが接触を繰り返すことにより、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方の摩耗が進行する可能性がある。摩耗が進行しているにもかかわらず、プレート83を待機位置Pwに配置させるためにクラッチ制御弁VLからCクラッチCLに供給される作動油の圧力が一定であると、
図8(B)に示すように、ディスク82と待機位置Pwに配置されたプレート83とが目標距離である距離Dwよりも大きい距離Dweに変化してしまう可能性がある。換言すれば、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方の摩耗に起因して、ディスク82とプレート83との実際の距離Dweが目標距離である距離Dwよりも大きくなってしまう可能性がある。その結果、プレート83を待機位置Pwから係合位置Peに移動させる時間が長期化し、クラッチCが係合するときに相対回転数Nrが大きくなる可能性がある。
【0116】
本実施形態においては、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方が摩耗しても、待機位置設定部105は、ディスク82と待機位置Pwに配置されたプレート83の距離Dwが一定値に維持されるように、待機位置Pwを更新する。
【0117】
図8(C)に示すように、待機位置設定部105は、プレート83がディスク82と接触する係合位置Peに配置されたときのストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwを更新する。すなわち、待機位置設定部105は、ディスク82と接触したときのプレート83の位置を基準位置として、待機位置Pwを再設定する。
【0118】
待機位置設定部105は、プレート83が係合位置Peに配置されるようにLクラッチ制御弁VLに制御信号が出力され、且つ、プレート83の移動が停止した位置を、プレート83がディスク82と接触した位置であると判定する。待機位置設定部105は、プレート83がディスク82と接触した位置を基準位置として更新する。待機位置設定部105は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、基準位置から距離Dwだけ離れた位置を新たな待機位置Pwに設定する。これにより、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方が摩耗しても、距離Dwが一定値に維持されるように、その摩耗量に応じて待機位置Pwを変動させることができる。
【0119】
[制御方法]
次に、本実施形態に係るクラッチCの制御方法について説明する。
図9は、本実施形態に係るクラッチCの制御方法の一例を示すタイミングチャートである。
図10、
図11、及び
図12は、本実施形態に係るクラッチCの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0120】
図9において、横軸は時間tである。縦軸は、ホイールローダ1の走行速度、LクラッチCLのディスク82とプレート83との相対回転数Nr、LクラッチCLのプレート83の位置、及び制御部106からLクラッチ制御弁VL及びHクラッチ制御弁VHのそれぞれに出力される制御信号である。本実施形態において制御部106は、制御信号として、Lクラッチ制御弁VLにL指令電流を出力し、Hクラッチ制御弁VHにH指令電流を出力する。以下、説明を簡単にするために、エンジン21の回転数は一定とする。
【0121】
図9において、ラインLaは、LクラッチCLの相対回転数Nrを示す。ラインLbは、ホイールローダ1の走行速度を示す。
【0122】
図9において、Lクラッチ係合区間とは、LクラッチCLが係合し、HクラッチCHが解放されている区間をいう。Hクラッチ係合区間とは、HクラッチCHが係合し、LクラッチCLが解放されている区間をいう。Hクラッチ係合区間においては、動力の伝達経路はHモード(第1モード)に設定される。Lクラッチ係合区間においては、動力の伝達経路はLモード(第2モード)に設定される。
【0123】
待機制御区間とは、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwに配置されている区間をいう。本実施形態において、待機制御区間は、Lクラッチ係合区間からHクラッチ係合区間に移行するときのLH待機制御区間と、Hクラッチ係合区間からLクラッチ係合区間に移行するときのHL待機制御区間とを含む。
【0124】
すなわち、Lクラッチ係合区間においては、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peに配置され、HクラッチCHのプレート83が解放位置Pfに配置される。Hクラッチ係合区間においては、HクラッチCHのプレート83が係合位置Peに配置され、LクラッチCLのプレート83が解放位置Pfに配置される。LH待機制御区間においては、LモードからHモードへの切り換えにおいてLクラッチCLのプレート83が待機位置Pwに配置される。HL待機制御区間においては、HモードからLモードへの切り換えにおいてLクラッチCLのプレート83が待機位置Pwに配置される。
【0125】
ラインLa及びラインLbで示すように、ホイールローダ1の走行速度が高くなると、LモードからHモードに切り換えられる。ホイールローダ1の走行速度が低くなると、HモードからLモードに切り換えられる。
【0126】
HモードからLモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて、第1規定値Nr1、第2規定値Nr2、及び第3規定値Nr3が規定される。第1規定値Nr1、第2規定値Nr2、及び第3規定値Nr3のうち、第3規定値Nr3が最も大きく、第3規定値Nr3に次いで第1規定値Nr1が大きく、第2規定値Nr2が最も小さい。
【0127】
LモードからHモードに切り換えるときのLクラッチCLの相対回転数Nrについて、第5規定値Nr5及び第6規定値Nr6が規定される。第5規定値Nr5と第6規定値Nr6とでは、第5規定値Nr5が大きい。また、LモードからHモードに切り換えるときのHクラッチCHの相対回転数Nrについて、第4規定値Nr4が規定される。
【0128】
図9に示すように、LクラッチCLの相対回転数Nrについて規定されている第1規定値Nr1、第2規定値Nr2、第3規定値Nr3、第5規定値Nr5、及び第6規定値Nr6のうち、第3規定値Nr3が最も大きく、第3規定値Nr3に次いで第5規定値Nr5が大きく、第5規定値Nr5に次いで第1規定値Nr1が大きく、第1規定値Nr1に次いで第2規定値Nr2が大きく、第6規定値Nr6が最も小さい。
【0129】
本実施形態において、第1規定値Nr1は、例えば200[rpm]である。第2規定値Nr2、第4規定値Nr4、及び第6規定値Nr6のそれぞれは、ゼロ又はゼロよりも僅かに大きい値である。
【0130】
なお、第2規定値Nr2は、第6規定値Nr6よりも小さくてもよい。
【0131】
図9及び
図10を参照しながら、動力の伝達経路をHモードからLモードに切り換えるときのクラッチCの制御方法について説明する。
【0132】
相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号に基づいて、LクラッチCLの相対回転数Nrを取得する(ステップSHL10)。プレート位置取得部103は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、回転軸AXと平行な方向のLクラッチCLのプレート83の位置を取得する。
【0133】
制御部106は、相対回転数取得部102からLクラッチCLの相対回転数Nrを取得する。制御部106は、Hクラッチ係合区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1以下であるか否かを判定する(ステップSHL20)。
【0134】
ステップSHL20において、Hクラッチ係合区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1以下でないと判定したとき(ステップSHL20:No)、制御部106は、HモードからLモードへの動力の伝達経路の切り換えを実施せず、ステップSHL10に戻る。
【0135】
ステップSHL20において、Hクラッチ係合区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが低下して第1規定値Nr1以下になったと判定したとき(ステップSHL20:Yes)、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、解放位置Pfに配置されているLクラッチCLのプレート83を、解放位置Pfから待機位置Pwに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSHL30)。
【0136】
Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、プレート83が待機位置Pwに配置されるように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0137】
相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号に基づいて、LクラッチCLの相対回転数Nrを取得する(ステップSHL35)。
【0138】
制御部106は、HL待機制御区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1よりも小さい第2規定値Nr2以下であるか否かを判定する(ステップSHL40)。
【0139】
ステップSHL40において、HL待機制御区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが低下して第2規定値Nr2以下になったと判定したとき(ステップSHL40:Yes)、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwに配置されているLクラッチCLのプレート83を、待機位置Pwから係合位置Peに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSHL50)。
【0140】
Lクラッチ制御弁VLは、制御部106からの制御信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動するように、LクラッチCLに供給される作動油の圧力を調整する。
【0141】
制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peに移動したと判定したとき、HクラッチCHを解放するための制御信号をHクラッチ制御弁HLに出力する。以上により、動力の伝達経路がHモードからLモードに切り換えられる。
【0142】
ステップSHL40において、HL待機制御区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第2規定値Nr2以下になっていないと判定したとき(ステップSHL40:No)、制御部106は、LクラッチCLの相対回転数Nrが第1規定値Nr1よりも大きい第3規定値Nr3以上であるか否かを判定する(ステップSHL60)。
【0143】
例えば、ホイールローダ1が急に下り坂を走行し始めたり、作業機3の負荷が急に軽減されたりしたとき、徐々に低下するように変化していたLクラッチCLの相対回転数Nrが、
図9のラインLa3で示すように急激に上昇する可能性がある。その結果、LクラッチCLの相対回転数Nrが急激に第3規定値Nr3よりも大きくなる可能性がある。
【0144】
ステップSHL60において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第2規定値Nr2よりも大きく第3規定値Nr3よりも小さいと判定したとき(ステップSHL60:No)、制御部106は、ステップSHL35の処理に戻る。
【0145】
ステップSHL60において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第3規定値Nr3以上になったと判定したとき(ステップSHL60:Yes)、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwに配置されているLクラッチCLのプレート83を、待機位置Pwから解放位置Pfに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSHL70)。ステップSHL70の処理の後、制御部106は、ステップSHL10の処理に戻る。
【0146】
すなわち、急激に上昇したLクラッチCLの相対回転数Nrが第3規定値Nr3以上になった場合、制御部106は、待機位置Pwに配置されていたプレート83を解放位置Pfに戻す。換言すれば、LクラッチCLの相対回転数Nrが第3規定値Nr3以上になった場合、制御部106は、HモードからLモードへの動力の伝達経路の切り換えをやめて、Hモードに戻す。
【0147】
次に、
図9、
図11、及び
図12を参照しながら、動力の伝達経路をLモードからHモードに切り換えるときのクラッチCの制御方法について説明する。
【0148】
図11を参照しながら、HクラッチCHの相対回転数Nrに基づいて実施されるLクラッチ係合区間からLH待機制御区間に遷移するときのクラッチCの制御方法について説明する。
図11は、HクラッチCHの相対回転数Nrに基づいて実施されるLクラッチ係合区間からLH待機制御区間に遷移するときのフローチャートである。
【0149】
相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号に基づいて、HクラッチCHの相対回転数Nrを取得する(ステップSLH10)。上述のように、LクラッチCLが係合しているとき、HクラッチCHの相対回転数Nrは、相対回転数センサ31により検出可能である。プレート位置取得部103は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、回転軸AXと平行な方向のHクラッチCHのプレート83の位置を取得する。
【0150】
制御部106は、相対回転数取得部102からHクラッチCHの相対回転数Nrを取得する。制御部106は、Lクラッチ係合区間において、HクラッチCHの相対回転数Nrが第4規定値Nr4以下であるか否かを判定する(ステップSLH20)。
【0151】
ステップSLH20において、Lクラッチ係合区間において、HクラッチCHの相対回転数Nrが第4規定値Nr4以下でないと判定したとき(ステップSLH20:No)、制御部106は、LモードからHモードへの動力の伝達経路の切り換えを実施せず、ステップSLH10に戻る。
【0152】
ステップSLH20において、Lクラッチ係合区間において、HクラッチCHの相対回転数Nrが低下して第4規定値Nr4以下になったと判定したとき(ステップSLH20:Yes)、制御部106は、解放位置Pfに配置されているHクラッチCHのプレート83を、解放位置Pfから係合位置Peに移動させる制御信号をHクラッチ制御弁VHに出力する。また、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、係合位置Peに配置されているLクラッチCLのプレート83を、係合位置Peから待機位置Pwに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSLH30)。
【0153】
次に、
図9及び
図12を参照しながら、LクラッチCLの相対回転数Nrに基づいて実施されるLH待機制御区間におけるクラッチCの制御方法について説明する。
図12は、LクラッチCLの相対回転数Nrに基づいて実施されるLH待機制御区間におけるクラッチCの制御方法のフローチャートである。
【0154】
相対回転数取得部102は、相対回転数センサ31の検出信号に基づいて、LクラッチCLの相対回転数Nrを取得する(ステップSLH40)。プレート位置取得部103は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、回転軸AXと平行な方向のLクラッチCLプレート83の位置を取得する。
【0155】
制御部106は、相対回転数取得部102からLクラッチCLの相対回転数Nrを取得する(ステップSLH40)。
【0156】
制御部106は、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5以上であるか否かを判定する(ステップSLH50)。
【0157】
ステップSLH50において、LH待機制御区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5定値Nr5以上になったと判定したとき(ステップSLH50:Yes)、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwに配置されているLクラッチCLのプレート83を、待機位置Pwから解放位置Pfに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSLH60)。
【0158】
以上により、動力の伝達経路がLモードからHモードに切り換えられる。
【0159】
ステップSLH50において、LH待機制御区間において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5定値Nr5以上になっていないと判定したとき(ステップSLH50:No)、制御部106は、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5よりも小さい第6規定値Nr6以下であるか否かを判定する(ステップSLH70)。
【0160】
例えば、ホイールローダ1が急に上り坂を走行し始めたり、作業機3の負荷が急に増大したりしたとき、徐々に上昇するように変化していたLクラッチCLの相対回転数Nrが急激に低下する可能性がある。その結果、
図9のラインLa6で示すように、LクラッチCLの相対回転数Nrが急激に第6規定値Nr6以下よりも小さくなる可能性がある。本実施形態において、制御部106は、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5よりも小さい第6規定値Nr6以下になったか否かを判定する。
【0161】
ステップSLH70において、LクラッチCLの相対回転数Nrが第5規定値Nr5よりも小さく第6規定値Nr6よりも大きいと判定されたとき(ステップSLH70:No)、制御部106は、ステップSLH50の処理に戻る。
【0162】
ステップSLH70において、相対回転数Nrが第6規定値Nr6以下になったと判定したとき(ステップSLH70:Yes)、制御部106は、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwに配置されているLクラッチCLのプレート83を、待機位置Pwから係合位置Peに移動させる制御信号をLクラッチ制御弁VLに出力する(ステップSLH80)。また、制御部106は、HクラッチCHを解放するための制御信号をHクラッチ制御弁VHに出力する。
【0163】
すなわち、急激に低下したLクラッチCLの相対回転数Nrが第6規定値Nr6以下になった場合、制御部106は、待機位置Pwに配置されていたLクラッチCLのプレート83を係合位置Peに戻す。換言すれば、LクラッチCLの相対回転数Nrが第6規定値Nr6以下になった場合、制御部106は、HモードからLモードへの切り換えをやめて、Lモードに戻す。
【0164】
[効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、係合位置Peと解放位置Pfとの間にプレート83の待機位置Pwが設定される。ディスク82とプレート83との相対回転数Nrが取得され、相対回転数Nrが第1規定値Nr1以下になったときにプレート83が待機位置Pwに移動する。待機位置Pwと係合位置Peとの距離Dwは、解放位置Pfと係合位置Peとの距離Dfよりも短い。そのため、ディスク82とプレート83とを係合(接続)させるとき、待機位置Pwに配置されているプレート83を係合位置Peに短時間で移動させることができる。これにより、相対回転数Nrが十分に小さい適切なタイミングで、プレート83を係合位置Peに移動させることができる。相対回転数Nrが十分に小さい適切なタイミングでプレート83を係合位置Peに移動させることができるので、クラッチCによる動力の伝達経路の切り換えにおいてショックの発生を抑制することができる。
【0165】
例えば、ディスク82とプレート83とを接続させるために解放位置Pfに存在するプレート83を係合位置Peまで一気に移動させようとすると、相対回転数Nrが十分に小さい適切なタイミングでディスク82とプレート83とを接触させることが困難となる可能性が高い。換言すれば、プレート83を長い距離Dfだけ移動させる場合、相対回転数Nrが十分に低くならないタイミングでディスク82とプレート83とが接続されてしまう確率が高くなる。
【0166】
本実施形態においては、ディスク82とプレート83とを接続させるとき、プレート83は予め待機位置Pwに配置される。待機位置Pwと係合位置Peとの距離Dwは短いため、相対回転数Nrが十分に小さい適切なタイミングでディスク82とプレート83とを接続させることができる確率が高くなる。そのため、ショックの発生が抑制される。
【0167】
本実施形態において、クラッチCは、ディスク82とプレート83との間に潤滑油が供給される湿式クラッチである。そのため、ディスク82とプレート83との距離が常に短いと、ディスク82が回転しているとき、潤滑油の粘性抵抗により、クラッチCでエネルギーロスが発生し、その結果、エンジン21の燃費が悪化する。本実施形態においては、動力の伝達経路をHモード及びLモードの一方から他方に切り換えるときだけ、プレート83がディスク82に接近するように待機位置Pwに配置される。一方、動力の伝達経路の切り換え時点から離れた時点においては、プレート83はディスク82から離れた解放位置Pfに配置される。プレート83がディスク82から離れることにより、潤滑油の粘性抵抗は低下する。したがって、エンジン21の燃費の低下が抑制される。
【0168】
また、本実施形態においては、相対回転数Nrが第1規定値Nr1よりも小さい第2規定値Nr2以下になったときにプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動する。これにより、相対回転数Nrがゼロになるタイミングでディスク82とプレート83とを接続させることができる可能性が高くなる。したがって、ショックの発生はより効果的に抑制される。
【0169】
また、本実施形態においては、HモードからLモードに切り換えるとき、プレート83が解放位置Pfから待機位置Pwに移動し、相対回転数Nrが第3規定値Nr3以上になったときにプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動する。これにより、例えばホイールローダ1の走行速度が急激に上昇し、LモードからHモードに切り換える必要が生じたときに、ショックの発生を抑制することができる。
【0170】
例えば、ディスク82とプレート83との接続を解除するために係合位置Peに存在するプレート83を解放位置Pfまで一気に移動させた場合、HモードからLモードに切り換えられた後、ホイールローダ1の走行速度が急激に上昇してLモードからHモードに切り換える必要が生じたとき、プレート83は係合位置Peから解放位置Pfに移動しなければならない。この場合、LクラッチCLの解放及びHクラッチCHの再係合に時間がかかり、ショックが発生する可能性が高くなる。本実施形態によれば、相対回転数Nrが第2規定値Nr2以下になるまでは、LクラッチCLのプレート83は待機位置Pwに配置される。そのため、LクラッチCLの相対回転数Nrが第2規定値Nr2以下になる前にLモードからHモードに切り換える必要が生じたとき、プレート83は待機位置Pwから解放位置Pfに移動すればよい。したがって、ショックの発生が抑制される。
【0171】
また、本実施形態においては、LモードからHモードに切り換えるとき、HクラッチCHの相対回転数Nrが検出され、HクラッチCHの相対回転数Nrが第4規定値Nr4以下になったときに、HクラッチCHのプレート83が解放位置Pfから係合位置Peに移動し、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peから待機位置Pwに移動する。そのため、LモードからHモードに切り換えるときにおいても、クラッチCによる動力の伝達経路の切り換えにおいてショックの発生を抑制することができる。
【0172】
また、本実施形態においては、LモードからHモードへの切り換えにおいて、Hモードへの切り換えが完了した後、待機位置Pwに配置されているLクラッチCLのプレート83とディスク82との相対回転数Nrが第5規定値Nr5以上になったときに、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動する。HクラッチCHが係合してHモードへの切り換えが完了した後、LクラッチCLの相対回転数Nrが十分に大きくなってから、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから解放位置Pfに移動する。これにより、例えばLモードからHモードに切り換えられた後、ホイールローダ1の走行速度が急激に低下してHモードからLモードに切り換える必要が生じたとき、LクラッチCLのプレート83は待機位置Pwから係合位置Peに短時間で移動することができ、LクラッチCLの再係合が短時間で実施される。
【0173】
また、本実施形態においては、LモードからHモードに切り換えるとき、LクラッチCLのプレート83が係合位置Peから待機位置Pwに移動し、相対回転数Nrが第6規定値Nr6以下になったときに、LクラッチCLのプレート83が待機位置Pwから係合位置Peに移動する。これにより、例えばホイールローダ1の走行速度が急激に低下し、HモードからLモードに切り換える必要が生じたときに、ショックの発生を抑制することができる。
【0174】
例えば、LクラッチCLのディスク82とプレート83との接続を解除するために係合位置Peに存在するLクラッチCLのプレート83を解放位置Pfまで一気に移動させた場合、LモードからHモードに切り換えられた後、ホイールローダ1の走行速度が急激に低下してHモードからLモードに切り換える必要が生じたとき、プレート83は解放位置Pfから係合位置Peに移動しなければならない。この場合、LクラッチCLの再係合に時間がかかり、ショックが発生する可能性が高くなる。本実施形態によれば、相対回転数Nrが第5規定値Nr5以上になるまでは、プレート83は待機位置Pwに配置される。そのため、相対回転数Nrが第5規定値Nr5以上になる前に第6規定値Nr6以下となってHモードからLモードに切り換える必要が生じたとき、プレート83は待機位置Pwから係合位置Peに移動すればよい。したがって、ショックの発生が抑制される。
【0175】
また、本実施形態においては、プレート83の位置を検出するストロークセンサ34が設けられ、ストロークセンサ34の検出信号に基づいて、プレート83の位置が調整される。これにより、プレート83を目標位置に正確に配置することができる。
【0176】
また、本実施形態においては、プレート83が係合位置Peに配置されたときのストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwが更新される。これにより、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方が摩耗しても、係合位置Peと待機位置Pwとの距離Dwを一定値に維持することができる。
【0177】
また、本実施形態においては、プレート83を移動させる駆動装置90は、油圧により作動してプレート83を係合位置Peに移動させる力を発生するピストン91と、プレート83を解放位置Pfに戻す力を発生するばね92とを有する。ストロークセンサ34は、ピストン91と接触部材34Pとを接触させて、プレート83の位置を検出する。ピストン91に油圧を作用させる作動油の温度が変化する場合、ピストン91に作用する油圧が変化する。その結果、油圧の力とばね92の弾性力とのバランスが変化し、プレート83を目標位置に配置することが困難となる可能性がある。本実施形態によれば、ピストン91と接触する接触部材34Pを有するストロークセンサ34を用いて、ピストン91を介してプレート83の位置が検出される。ストロークセンサ34の検出信号に基づいて油圧が調整されることにより、作動油の温度が変化しても、プレート83を目標位置に配置することができる。
【0178】
なお、上述の実施形態においては、クラッチCLにおいて、回転軸AXと平行な方向において、ディスク82が実質的に移動せずに、プレート83が移動することとした。プレート83が移動せずにディスク82が移動してもよいし、ディスク82及びプレート83の両方が移動してもよい。例えば、ディスク82とプレート83とが接触する係合位置Peと離れる解放位置Pfとの間でディスク82が移動してもよいし、ディスク82及びプレート83の両方が移動してもよい。回転軸AXと平行な方向にディスク82が移動する場合、ストロークセンサ34は、回転軸AXと平行な方向のディスク82の位置を検出してもよい。回転軸AXと平行な方向にディスク82及びプレート83の両方が移動する場合、ストロークセンサ34は、回転軸AXと平行な方向のディスク82及びプレート83の両方の位置を検出してもよい。待機位置設定部105は、ディスク82及びプレート83の少なくとも一方が係合位置Peに配置されたときのストロークセンサ34の検出信号に基づいて、待機位置Pwを更新することができる。
【0179】
なお、上述の実施形態においては、クラッチCLにおいて、ディスク82が回転軸AXを中心に回転し、プレート83は回転しないこととした。ディスク82が回転せず、プレート83が回転してもよいし、ディスク82及びプレート83の両方が回転してもよい。
【0180】
なお、上述の実施形態においては、LクラッチCLに待機位置Pwが設定され、HクラッチCHには待機位置Pwが設定されない状態で、LクラッチCL及びHクラッチCHが制御されることとした。HクラッチCHに待機位置Pwが設定され、LクラッチCLには待機位置Pwが設定されない状態で、LクラッチCL及びHクラッチCHが制御されてもよい。LクラッチCL及びHクラッチCHの両方に待機位置Pwが設定された状態で、LクラッチCL及びHクラッチCHが制御されてもよい。
【0181】
なお、上述の実施形態においては、複数の規定値Nr1,Nr2,Nr3,Nr4,Nr5,Nr6が予め規定され、規定値記憶部107に記憶されていることとした。複数の規定値Nr1,Nr2,Nr3,Nr4,Nr5,Nr6の少なくとも一つが、ホイールローダ1の走行状態に基づいて、所定の周期でリアルタイムに算出され規定されてもよい。例えば、制御装置100は、相対回転数センサ31で検出された相対回転数Nrの変化率を算出し、相対回転数Nrの変化率が大きいときに、規定される規定値を大きくし、相対回転数Nrの変化率が小さいときに、規定される規定値を小さくしてもよい。
【0182】
なお、上述の実施形態においては、動力伝達装置60が電動モータを有するEMTであることとした。動力伝達装置60は、油圧モータを有するHMTでもよい。
【0183】
なお、上述の実施形態においては、動力の伝達経路の切り換え時点がクラッチCの相対回転数Nrに基づいて判定されることとした。入力軸61の回転数を検出する相対回転数センサ31の検出信号と出力軸62の回転数を検出する車速センサ32の検出信号とに基づいて算出される入力軸回転数と出力軸回転数の比である速度比に基づいて、動力の伝達経路の切り換え時点が判定されてもよい。
【0184】
なお、上述の実施形態においては、Lクラッチ制御弁VLは圧力を制御するものとしたが、作動油の流量を制御してもよいし、圧力及び流量の両方を制御してもよい。
【0185】
なお、上述の実施形態においては、作業車両1がホイールローダであることとした。上述の実施形態で説明した構成要素が適用される作業車両1は、ホイールローダに限定されず、クラッチCを有する作業車両1に広く適用可能である。