特許第6875230号(P6875230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875230
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20210510BHJP
   G01N 27/18 20060101ALI20210510BHJP
   G01N 25/22 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   G01N27/16 B
   G01N27/18
   G01N25/22
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-168549(P2017-168549)
(22)【出願日】2017年9月1日
(65)【公開番号】特開2019-45297(P2019-45297A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅広
(72)【発明者】
【氏名】北野谷 昇治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】松倉 佑介
(72)【発明者】
【氏名】市川 大祐
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−124716(JP,A)
【文献】 特開平08−285803(JP,A)
【文献】 特開平08−170954(JP,A)
【文献】 特開2015−194464(JP,A)
【文献】 特開2001−033425(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0265422(US,A1)
【文献】 特開平09−269307(JP,A)
【文献】 実開昭50−126293(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/10
G01N 27/14−27/24
G01N 25/22
G01N 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出雰囲気中の水素ガスを検出するためのガスセンサであって、
第1ガス検出素子と、
前記第1ガス検出素子が格納された第1内部空間を有する第1格納部と、
第2ガス検出素子と、
前記第2ガス検出素子が格納された第2内部空間を有する第2格納部と、
台座と、
前記台座に連結された保護キャップと、
を備え、
前記第1格納部は、
前記第1内部空間と前記被検出雰囲気とを連通すると共に、水蒸気を透過する固体高分子電解質の膜体で覆われた第1ガス導入口と、
前記第1内部空間内に侵入する水素を酸化する水素酸化触媒と、
を有し、
前記第2格納部は、前記第2格納部と前記被検出雰囲気とを前記膜体を介さず連通する第2ガス導入口を有し、
前記第1格納部及び前記第2格納部は、それぞれ前記台座及び前記保護キャップによって構成され、
前記膜体及び前記水素酸化触媒は、前記第1内部空間及び前記第1ガス導入口の外側から前記第1ガス導入口を覆うように配置され
前記水素酸化触媒は、前記膜体と前記第1内部空間との間に配置される、ガスセンサ。
【請求項2】
前記水素酸化触媒は、前記膜体の前記第1内部空間側の面に配置されたシート体である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記第1格納部は、前記膜体及び前記水素酸化触媒の少なくとも一方を支持するシート状のサポート部材をさらに有する、請求項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスを検出するガスセンサとして、水分(つまり湿度)の影響を受けないガスセンサが公知である(特許文献1参照)。特許文献1のガスセンサでは、検知対象ガスに開放した空間に検知用のガス検出素子が配置され、水蒸気を透過しかつ被検出ガスを透過しない膜体を介して検知対象ガスに連通する空間に参照用のガス検出素子が配置される。
【0003】
これにより、1対のガス検出素子の湿度条件が同じになるため、特許文献1のガスセンサでは、湿度の影響を受けずにガスを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−124716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ガスセンサにおいて、被検出雰囲気中の水素ガス濃度が高い場合に、水素ガス濃度が変化していないにも関わらず、図8に示すように、ガスセンサの出力が時間の経過に伴って低下する現象が発生することがある。このような現象が発生すると、水素ガス濃度を正しく得ることができない。
【0006】
本開示の一局面は、高濃度の水素ガス環境下における出力の低下を抑制できるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ガスセンサの出力が低下する上記現象は、参照用のガス検出素子側に設けられた膜体を水素ガスが通過し、参照用のガス検出素子が配置された空間内の水素ガス濃度が上昇することに起因することを見出した。
【0008】
この知見に基づいた本開示の一態様は、被検出雰囲気中の水素ガスを検出するためのガスセンサである。ガスセンサは、第1ガス検出素子と、第1ガス検出素子が格納された第1内部空間を有する第1格納部と、第2ガス検出素子と、第2ガス検出素子が格納された第2内部空間を有する第2格納部と、を備える。第1格納部は、第1ガス導入口と、水素酸化触媒と、を有する。第1ガス導入口は、第1内部空間と被検出雰囲気とを連通すると共に、水蒸気を透過する固体高分子電解質の膜体で覆われる。水素酸化触媒は、第1内部空間内に侵入する水素を酸化する。第2格納部は、第2格納部と被検出雰囲気とを膜体を介さず連通する第2ガス導入口を有する。
【0009】
このような構成によれば、高濃度の水素ガス環境下で膜体を通過した水素ガスが、水素酸化触媒によって水蒸気に変化することで、第1内部空間内から除去される。その結果、水素ガス濃度が高い場合でも、参照用のガス検出素子が配置された空間と、検知用のガス検出素子が配置された空間との間での水素ガス濃度の差が維持され、ガスセンサの出力低下を抑制できる。
【0010】
本開示の一態様では、水素酸化触媒は、膜体と第1内部空間との間及び第1内部空間内
の少なくとも一方に配置されてもよい。このような構成によれば、第1内部空間に侵入する水素ガスをより確実に除去できる。
【0011】
本開示の一態様では、水素酸化触媒は、第1ガス導入口内に配置されてもよい。このような構成によれば、膜体を通過した水素ガスを水素酸化触媒に効率よく接触させられるので、ガスセンサの出力低下をより確実に抑制できる。
【0012】
本開示の一態様では、水素酸化触媒は、第1ガス導入口を覆うように配置されてもよい。このような構成によれば、膜体を通過した水素ガスが水素酸化触媒に接触しやすくなるため、ガスセンサの出力低下をさらに確実に抑制できる。
【0013】
本開示の一態様では、水素酸化触媒は、膜体の第1内部空間側の面に配置されたシート体であってもよい。このような構成によれば、膜体と水素酸化触媒とを一体に配置することができる。そのため、水素酸化触媒を容易かつ確実に第1ガス導入口を覆うように配置できる。
【0014】
本開示の一態様では、第1格納部は、膜体及び水素酸化触媒の少なくとも一方を支持するシート状のサポート部材をさらに有してもよい。このような構成によれば、膜体及び水素酸化触媒の反りを抑制して、第1ガス導入口の密閉性を高めることができる。また、膜体及び水素酸化触媒を一体化したシートのハンドリング性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のガスセンサを示す模式的な断面図である。
図2図1のガスセンサの第1格納部及び第2格納部近傍の模式的な部分拡大断面図である。
図3図1のガスセンサのガス検出素子の模式的な平面図である。
図4図3のVI−VI線での模式的な断面図である。
図5図1のガスセンサの模式的な回路図である。
図6図6Aは、図2とは異なる実施形態のガスセンサにおける第1格納部及び第2格納部近傍の模式的な部分拡大断面図であり、図6Bは、図2及び図6Aとは異なる実施形態のガスセンサにおける第1格納部及び第2格納部近傍の模式的な部分拡大断面図である。
図7】実施例1におけるガスセンサの出力変化を示すグラフである。
図8】比較例1におけるガスセンサの出力変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示すガスセンサ1は、被検出雰囲気中の水素ガスを検出するためのガスセンサである。
【0017】
ガスセンサ1は、図1及び図2に示すように、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3と、第1格納部4及び第2格納部5と、ケーシング6と、回路基板10と、演算部12とを備える。
【0018】
<第1ガス検出素子及び第2ガス検出素子>
第1ガス検出素子2は、自身の温度変化により抵抗値が変化する発熱抵抗体を有する熱伝導式の検出素子である。
第1ガス検出素子2は、図3及び図4に示すように、発熱抵抗体20と、絶縁層21と
、配線22と、1対の第1電極パッド23A,23Bと、測温抵抗体24と、1対の第2電極パッド25A,25Bと、基板26とを有する。
【0019】
発熱抵抗体20は、渦巻き形状にパターン化された導体であり、絶縁層21の中央部分に埋設されている。また、発熱抵抗体20は、配線22を介して第1電極パッド23A,23Bに電気的に接続されている。
【0020】
第1電極パッド23A,23Bは、絶縁層21の表面に形成されている。また、第1電極パッド23A,23Bの一方は、グランドに接続される。
なお、図4に示すように、絶縁層21の第1電極パッド23A,23Bと反対側の表面には、シリコン製の基板26が積層されている。基板26は、発熱抵抗体20が配置される領域には存在しない。この領域は、絶縁層21が露出する凹部27となり、ダイアフラム構造を構成している。
【0021】
測温抵抗体24は、発熱抵抗体20よりも絶縁層21の外縁側に埋設され、第2電極パッド25A,25Bと電気的に接続されている。具体的には、測温抵抗体24は、絶縁層21の1辺の近傍に配置されている。また、第2電極パッド25A,25Bの一方は、グランドに接続される。
【0022】
発熱抵抗体20は、自身の温度変化により抵抗値が変化する部材であり、温度抵抗係数が大きい導電性材料で構成される。発熱抵抗体20の材料としては、例えば白金(Pt)が使用できる。
【0023】
また、測温抵抗体24は、抵抗値が温度に比例して変化する導電性材料で構成される。測温抵抗体24の材料としては、例えば発熱抵抗体20と同様の白金(Pt)が使用できる。配線22、第1電極パッド23A,23B、及び第2電極パッド25A,25Bの材料も、発熱抵抗体20と同様とすることができる。
【0024】
なお、絶縁層21は、単一の材料で形成されてもよいし、異なる材料を用いた複数の層から構成されてもよい。絶縁層21を構成する絶縁性材料としては、例えば、酸化珪素(SiO)、窒化珪素(Si)等が挙げられる。
【0025】
第2ガス検出素子3は、第1ガス検出素子2と同様、自身の温度変化により抵抗値が変化する発熱抵抗体を有する熱伝導式の検出素子である。第2ガス検出素子3の構成は、第1ガス検出素子2と同様であるので、詳細な説明は省略する。なお、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体とは、抵抗値が同じであることが好ましい。
【0026】
<第1格納部及び第2格納部>
第1格納部4は、図2に示すように、第1内部空間4Aと、第1ガス導入口4Bと、膜体4Cと、水素酸化触媒4Dとを有する。また、第1格納部4は、絶縁性セラミック製の台座7と、絶縁性セラミック製の保護キャップ8とを有する。
【0027】
膜体4Cは、水蒸気を透過し、かつ、水蒸気に比べ水素ガスを透過しにくい性質(つまり水素ガスの透過を阻害する性質)を有する固体高分子電解質からなる。このような膜体4Cとしては、フッ素樹脂系のイオン交換膜が好適に使用できる。具体的には、例えばNafion(登録商標)、Flemion(登録商標)、Aciplex(登録商標)等が挙げられる。また、膜体4Cとして、被検出ガスと水蒸気とを分離できる中空糸膜を用いてもよい。
【0028】
第1内部空間4Aには、第1ガス検出素子2が格納されている。また、第1ガス導入口4Bは、第1内部空間4Aと被検出雰囲気(つまり第1内部空間4Aの外部であるケーシング6の内部)とを連通する。さらに、膜体4Cは、第1ガス導入口4Bの全体を覆って塞ぐように配置されている。
【0029】
このように、第1内部空間4Aは膜体4Cによって被検出ガスの流入が規制されている。そのため、第1ガス検出素子2は、被検出ガス雰囲気に晒されない参照素子として機能するが、膜体4Cが水蒸気を透過させるので、湿度条件は第2ガス検出素子3と同じになる。なお、第1格納部4は、第1ガス導入口4B以外に開口を有さない。
【0030】
水素酸化触媒4Dは、第1内部空間4A内に侵入する水素ガスを酸化して水又は水蒸気に変換する触媒である。このような触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも白金又は白金−ルテニウム合金が好適に使用できる。
【0031】
水素酸化触媒4Dは、膜体4Cと第1内部空間4Aとの間に配置されている。具体的には、水素酸化触媒4Dは、第1ガス導入口4B内に、第1ガス導入口4Bを覆うように配置されている。つまり、水素酸化触媒4Dは、第1ガス導入口4Bの貫通方向(つまり中心軸方向)から視て、第1ガス導入口4Bと重なるように配置されている。
【0032】
また、水素酸化触媒4Dは、膜体4Cの第1内部空間4A側の面に配置された多孔質のシート体である。水素酸化触媒4Dは、担持体によって担持されることでシート体を構成している。また、水素酸化触媒4Dは、膜体4Cに例えば熱圧着等によって接合されている。
【0033】
担持体としては、活性炭、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ等のカーボン材が使用できる。また、担持体として、多孔質状のアルミナ等のセラミック、チタン等の金属などを用いてもよい。
【0034】
本実施形態では、膜体4C及び水素酸化触媒4Dは、第1内部空間4Aの外側から第1ガス導入口4Bを覆うように配置されている。これにより、台座7及び保護キャップ8のリフローによって第1内部空間4Aを形成してから膜体4C及び水素酸化触媒4Dを配置することができる。そのため、リフロー時の第1内部空間4A内の空気の膨張によって膜体4C及び水素酸化触媒4Dが変形することが防止できる。ただし、第1内部空間4A側から第1ガス導入口4Bを覆うように膜体4C及び水素酸化触媒4Dを配置してもよい。
【0035】
膜体4C及び水素酸化触媒4Dは、保護キャップ8に設けられた凹部に配置され、絶縁性の接着剤により保護キャップ8に接着されている。膜体4C及び水素酸化触媒4Dは、周縁が接着剤によって封止されている。
【0036】
高濃度環境下で膜体4Cを通過した水素ガスは、水素酸化触媒4Dと接触し酸化され、水又は水蒸気になる。これにより、膜体4Cの内側(つまり第1内部空間4A側)における湿度が高くなるため、膜体4Cを介して第1内部空間4Aの外に水分が排出される。
【0037】
第2格納部5は、第2内部空間5Aと、第2ガス導入口5Bとを有する。また、第2格納部5は、絶縁性セラミック製の台座7と、絶縁性セラミック製の保護キャップ8とを、第1格納部4と共有している。
【0038】
第2内部空間5Aには、第2ガス検出素子3が格納されている。また、第2ガス導入口5Bは、第2内部空間5Aと被検出雰囲気(つまり第2内部空間5Aの外部であるケーシ
ング6の内部)とを連通する。第2ガス導入口5Bには膜体4Cが配置されておらず、開放されている。そのため、ケーシング6の内部から第2ガス導入口5Bを介して第2内部空間5Aに被検出ガスが供給される。つまり、第2ガス導入口5Bは、膜体等を介さずに、第2内部空間5Aに被検出ガスを直接導入する。なお、第2格納部5は、第2ガス導入口5B以外に開口を有さない。
【0039】
第1内部空間4A及び第2内部空間5Aは、それぞれ、台座7に保護キャップ8を被せることで形成されている。つまり、台座7及び保護キャップ8は、第1格納部4を構成すると共に第2格納部5も構成している。
【0040】
また、第1内部空間4A及び第2内部空間5Aは、台座7及び保護キャップ8を連結することで構成される壁によって仕切られている。つまり、第1格納部4及び第2格納部5は、1枚の壁を共有するように隣接して設けられている。このように第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとを近接して配置することで、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの温度差を低減できる。その結果、温度変化に対するガスセンサ1の出力変動が小さくなり、センサ出力の誤差を低減することができる。
【0041】
(台座)
台座7は、第1ガス検出素子2が載置される凹部と、第2ガス検出素子3が載置される凹部とを有する。また、台座7は、回路基板10の表面に設置されている。
【0042】
台座7の材質は、絶縁性セラミックである。台座7を構成する好適な絶縁性セラミックとしては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア等が挙げられる。本実施形態では、台座7は保護キャップ8と同一の絶縁性セラミックで構成される。
【0043】
(保護キャップ)
保護キャップ8は、台座7と、台座7の2つの凹部に載置された第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3とを覆うように台座7に接着されている。
【0044】
保護キャップ8には、第1ガス導入口4B及び第2ガス導入口5Bが設けられている。また、第1ガス導入口4Bにおける第1内部空間4Aの外側の開口部分には膜体4Cが接着剤等によって固定されている。
【0045】
保護キャップ8の材質は、絶縁性セラミックである。保護キャップ8を構成する好適な絶縁性セラミックとしては、例えばアルミナが挙げられる。上述のように、本実施形態では、台座7と保護キャップ8とは同一の絶縁性セラミックで構成される。
【0046】
台座7と保護キャップ8とは絶縁性接着剤により接着されている。この絶縁性接着剤としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化樹脂等を主成分とするものが使用できる。これらの中でも台座7と保護キャップ8との密着性を高める観点から、熱硬化性樹脂を主成分とする絶縁性接着剤が好ましい。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えばエポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。なお、「主成分」とは、80質量%以上含有される成分を意味する。
【0047】
<ケーシング>
ケーシング6は、第1格納部4及び第2格納部5を収容する。ケーシング6は、被検出ガスを内部に導入する開口6Aと、開口6Aに配置されたフィルタ6Bとを有する。
【0048】
具体的には、第1格納部4及び第2格納部5(つまり台座7及び保護キャップ8)は、ケーシング6と回路基板10との間に設けられた内部空間6Cに収容されている。内部空
間6Cは、ケーシング6の内部に突出した内枠6Dにシール部材11を介して回路基板10を固定することで形成されている。
【0049】
また、開口6Aは、被検出雰囲気と内部空間6Cとを連通するように形成されている。開口6Aから内部空間6Cに取り入れられた被検出ガスは、被検出ガスの濃度が低い場合には、第2ガス導入口5Bを通じて第2内部空間5Aのみに供給される。一方、内部空間6C内の水蒸気は、第1内部空間4A及び第2内部空間5Aの双方に拡散可能である。
【0050】
フィルタ6Bは、被検出ガスを透過しかつ液状の水を透過しない(つまり、被検出ガスに含まれている水滴を除去する)撥水フィルタである。フィルタ6Bにより、開口6Aから内部空間6Cに、水滴及びその他の異物が侵入することが抑制される。なお、本実施形態では、フィルタ6Bは、開口6Aを塞ぐようにケーシング6の内面に取り付けられている。
【0051】
<回路基板>
回路基板10は、ケーシング6内に配置される板状の基板であり、図5に示す回路を備えている。この回路は、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3の第1電極パッド23A,23B及び第2電極パッド25A,25Bと、それぞれ電気的に接続されている。
【0052】
<演算部>
演算部12は、被検出雰囲気中のガスの濃度を演算する。具体的には、図5に示すように、演算部12は、直列に接続された第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20及び第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30に一定の電圧Vccを印加したときの、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30との間の電位から濃度を演算する。
【0053】
より詳細には、演算部12は、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30との間の電位と、発熱抵抗体20,30と並列に配置された固定抵抗R3と固定抵抗R4との間の電位との電位差を作動増幅回路により増幅させた電位差Vdを取得する。演算部12は、電位差Vdから水素ガスの濃度Dを算出し、出力する。
【0054】
なお、演算部12及び回路基板10には直流電源40から電流が供給される。直流電源40は、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20及び第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30に電圧を印加する。
【0055】
[1−2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)高濃度の水素ガス環境下で膜体4Cを通過した水素ガスが、水素酸化触媒4Dによって酸化されることで、第1内部空間4A内から水素ガスが除去される。その結果、被検出雰囲気中の水素ガス濃度が高い場合でも、第1内部空間4Aと検知用の第2ガス検出素子3が配置された第2内部空間5Aとの間での水素ガス濃度の差が維持され、ガスセンサ1の出力低下を抑制できる。
【0056】
(1b)水素酸化触媒4Dが第1ガス導入口4B内に第1ガス導入口4Bを覆うように配置されることで、膜体4Cを通過した水素ガスを水素酸化触媒4Dに効率よく接触させられる。そのため、ガスセンサ1の出力低下をより確実に抑制できる。
【0057】
(1c)水素酸化触媒4Dが膜体4Cの第1内部空間4A側の面に配置されたシート体であるので、膜体4Cと水素酸化触媒4Dとを一体に配置することができる。そのため、水素酸化触媒4Dを容易かつ確実に第1ガス導入口4Bを覆うように配置できる。
【0058】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0059】
(2a)上記実施形態のガスセンサ1において、水素酸化触媒4Dは、図6Aに示すように、第1ガス導入口4B内に配置されることなく、第1ガス導入口4Bを覆ってもよい。なお、図6Aでは、第1格納部4は、膜体4C及び水素酸化触媒4Dを支持するシート状のサポート部材4Eを有している。サポート部材4Eは、多孔質体であり、ガスを透過させるように構成されている。サポート部材4Eは、例えばカーボン材、セラミック等で構成される。
【0060】
サポート部材4Eによって、膜体4C及び水素酸化触媒4Dの反りを抑制して、第1ガス導入口4Bの密閉性を高めることができる。また、膜体4C及び水素酸化触媒4Dを一体化したシートのハンドリング性を高めることができる。なお、サポート部材4Eは、図6Aでは水素酸化触媒4Dの膜体4Cとは反対側の面に積層されているが、膜体4Cの水素酸化触媒4Dとは反対側の面に積層されてもよい。
【0061】
(2b)上記実施形態のガスセンサ1において、水素酸化触媒4Dは、必ずしも第1ガス導入口4Bを覆う必要はなく、例えば第1ガス導入口4Bを構成する第1格納部4の内壁に配置されてもよい。また、水素酸化触媒4Dは、必ずしも第1ガス導入口4B内に配置されなくてもよい。例えば、図6Bに示すように、水素酸化触媒4Dは、第1内部空間4A内に配置されてもよい。また、水素酸化触媒4Dは、必ずしもシート状でなくてもよい。
【0062】
さらに、水素酸化触媒4Dは必ずしも膜体2Dと第1内部空間4Aとの間、又は第1内部空間4A内に配置される必要はない。例えば、水素酸化触媒4Dは、2つの膜体4Cの間に積層されてもよい。また、水素酸化触媒4Dは、膜体4Cの中に拡散して含まれてもよい。
【0063】
(2c)上記実施形態のガスセンサ1において、第1格納部4を構成する台座及び保護キャップと、第2格納部5を構成する台座及び保護キャップとは、別部材であってもよい。つまり、第1格納部4の台座及び保護キャップと、第2格納部5の台座及び保護キャップとを別々に設けてもよい。また、第1格納部4と第2格納部5とは離間して配置されてもよい。
【0064】
さらに、第1格納部4及び第2格納部5は、必ずしも絶縁性セラミック製の台座や保護キャップを有さなくてもよい。つまり、第1格納部4及び第2格納部5は、それぞれ、1つの部材で構成されてもよい。
【0065】
(2d)上記実施形態のガスセンサ1において、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3は、測温抵抗体24を備えなくてもよい。また、第1格納部4及び第2格納部5に測温抵抗体24以外の測温手段が設けられてもよい。
【0066】
(2e)上記実施形態のガスセンサ1において、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3は、熱伝導式に限定されない。したがって、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3は、貴金属等の燃焼触媒により水素ガスを燃焼させる接触燃焼式の検出素子であってもよい。
【0067】
(2f)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分
散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0068】
[3.実施例]
以下、本開示の効果を確認するために行った実施例1と比較例1との比較について説明する。
【0069】
(実施例)
図1に示すガスセンサ1を25℃、相対湿度95%の雰囲気下に配置した。このガスセンサ1に、2体積%の水素ガスを15分間供給し、ガスセンサ1の出力を測定した。結果を図7に示す。
【0070】
(比較例)
図1に示すガスセンサ1から水素酸化触媒4Dを取り除いたガスセンサを作製した。このガスセンサに対し、実施例1と同じ条件で水素ガスを15分間供給し、その出力を測定した。結果を図8に示す。
【0071】
(考察)
図8に示されるように、水素酸化触媒を備えない比較例1のガスセンサでは、ガスセンサの出力が時間経過に伴って低下した。
【0072】
一方、水素酸化触媒を備える実施例1のガスセンサでは、図7に示されるように、その出力が時間経過によって低下することなく一定に保たれており、精度よく水素濃度が出力された。
【符号の説明】
【0073】
1…ガスセンサ、2…第1ガス検出素子、3…第2ガス検出素子、
4…第1格納部、4A…第1内部空間、4B…第1ガス導入口、
4C…膜体、4D…水素酸化触媒、4E…サポート部材、5…第2格納部、
5A…第2内部空間、5B…第2ガス導入口、6…ケーシング、6A…開口、
6B…フィルタ、6C…内部空間、6D…内枠、7…台座、8…保護キャップ、
10…回路基板、11…シール部材、12…演算部、20…発熱抵抗体、
21…絶縁層、22…配線、23A,23B…第1電極パッド、24…測温抵抗体、
25A,25B…第2電極パッド、26…基板、27…凹部、30…発熱抵抗体、
40…直流電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8