(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0020】
[熱可塑性樹脂(A)]
本発明の成形方法で使用される熱可塑性樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)としては、周知のものを特に制限なく使用することが可能である。
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性PPE、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンスルファイドなどを挙げることができる。これらの樹脂は単独のみならず、2種類またはそれ以上の混合物や共重合体としても使用することができる。
【0021】
各種熱可塑性樹脂の中でも、特に芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は透明性、耐衝撃性、耐熱性などに優れ、しかも、得られる成形品は寸法安定性などにも優れることから、筐体などにおいて、美麗な外観を得ることができるからである。
【0022】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0023】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0024】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0025】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0026】
上述した芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は用途により任意であり、適宜選択して決定すればよいが、成形性、強度等の点から芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量[Mv]で、15,000〜40,000、好ましくは15,000〜30,000である。この様に、粘度平均分子量を15,000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。ここでの粘度平均分子量〔Mv〕は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]であり、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4M
0.83から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[c](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0030】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、中でも17,000〜30,000、特に19,000〜27,000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記した好適な範囲から外れる芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となることが望ましい。
本発明における樹脂シート100質量部中の熱可塑性樹脂(A)の割合は40〜80質量部、好ましくは45〜75質量部、より好ましくは50〜70質量部である。
【0031】
[繊維状無機フィラー(B)]
本発明に使用する熱可塑性樹脂シートは、成形品の曲げ弾性率、曲げ強度等の曲げ特性を高めるために繊維状無機フィラー(B)(以下、「(B)成分」と称す場合がある。)を含有することを特徴とする。
【0032】
本発明で用いる繊維状無機フィラー(B)としては、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に優れることから、ガラス系強化材、炭素系強化材を用いることができる。その中でも特にガラス系強化材を用いることが好ましい。いずれのガラス系強化材もその形状から繊維状無機フィラー、板状無機フィラーに分類される。本発明に使用する繊維状のガラス繊維としては、チョップドストランド、ロービングガラス、熱可塑性樹脂とガラス繊維の(長繊維)マスターバッチ等の配合時のガラス繊維の形態を問わず、公知のいかなる形態のガラス繊維も使用可能である。ただし、生産性の観点よりチョップドストランド(チョップドガラス繊維)が好ましい。原料として用いる繊維状無機フィラー(B)の平均長さは50μm以上であり、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上である。
原料として用いる繊維状無機フィラー(B)は、樹脂ペレットの製造やシート成形などの工程で破断され短くなるため、一定以上の長さを有することが必要である。
【0033】
成形品中の無機フィラーの平均長さは、50〜500μmであり、好ましくは100〜500μm、より好ましくは150〜500μmである。繊維長が長すぎると、シートまたはフィルムの賦形性が悪くなり、また、シートまたはフィルムの表面から繊維が突出する可能性がある。一方、繊維長が短すぎると成形品の剛性が不足する。
繊維長は、以下のように測定する。すなわち、繊維状無機フィラーを含む成形品約2gを600℃の電気炉に2時間放置し、灰分として残った繊維状無機フィラーをガラス上に広げて光学顕微鏡により観察し、撮影した後、画像解析装置(三谷商事(株)製WinRoof2013)にて500本測定して平均値を算出する。なお、上述のように、繊維状無機フィラーは、シートまたはフィルムの形成時に破断されるため、シートまたはフィルムに含まれる実際の繊維長は、原料として用いた繊維状無機フィラーの繊維長よりも短くなる。このため、上述のように、シートまたはフィルムを用いた成形品における繊維状無機フィラーの実際の繊維長は、上述の方法により測定される。
また、繊維状無機フィラーの平均繊維径は、1〜50μmであることが好ましく、3〜40μmであることがより好ましい。
【0034】
本発明において、無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、平均繊維径や平均長さなどの異なるガラス繊維(ミルドファイバーを含む)の2種以上を併用してもよく、平均粒径や、平均厚さ、アスペクト比の異なるガラスフレークの2種以上を併用してもよく、1種又は2種以上のガラス繊維(ミルドファイバーを含む)を組み合わせて用いたり、1種又は2種以上のフレークと、1種又は2種以上のガラス繊維(ミルドファイバーを含む)とを組み合わせて用いてもよい。
また寸法安定化を目的に粒径ガラスビーズを併用することができる。
【0035】
これらの無機フィラーは、表面処理剤により表面処理されたものであってもよく、このような表面処理により、樹脂成分と粒状ガラスとの接着性が向上し、高い機械的強度を達成することができるようになる。
本発明における樹脂シート100質量部中の繊維状無機フィラー(B)の割合は20〜60質量部、好ましくは25〜55質量部、より好ましくは30〜50質量部である。
【0036】
なお、繊維状無機フィラーの配向性について特に制限はなく、例えば、プレス成形の前にフィラーを一方向に沿って配向させておき、プレス成形によって配向状態を変化させてて一方向のみに沿わないよう、フィラーの配向の異方性を緩和しても良い。
【0037】
<その他の無機フィラー>
上記の無機フィラーの他、本発明においては、珪酸塩系強化材も用いることができ、繊維状フィラーとしてワラストナイト等、板状フィラーとしてタルク、マイカ等を用いることができる。またその他繊維状フィラーとして金属繊維や、チタン酸カリウムウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、酸化チタンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、硫酸マグネシウムウイスカーといったウイスカーや、板状フィラーとしては金属フレーク、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等を用いることもできる。これらのその他の無機フィラーについても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。繊維状以外の無機フィラー、例えば板状フィラーを添加する場合の使用量は、樹脂シート100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは5〜10質量部である。
【0038】
本発明の範囲を著しく損なわない限り、樹脂中に、リン系熱安定剤、酸化防止剤、耐候性向上剤、強度向上のための添加剤等を配合することが可能である。
【0039】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0040】
その具体例を挙げると、本発明に係る熱可塑性樹脂(A)と繊維状無機フィラー(B)、必要に応じて配合されるリン系熱安定剤、酸化防止剤、さらにはその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0041】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、サイドフィーダを用い押出機に供給、溶融混練して、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することもできる。特に、無機フィラー(B)は破砕を抑制するため、樹脂成分とは別に押出機下流側に設置したサイドフィーダから供給して混合することが好ましい。
【0042】
[シートおよびフィルムの製造方法]
本発明における熱可塑性樹脂シートおよびフィルムを作製する方法としては、溶融押出法(例えば、Tダイ成形法)が好適に用いられる。
【0043】
なお、「シート」と「フィルム」とは、本明細書では、明確に区別されるものではなく、双方とも同じ意味として用いられる。
【0044】
[プレス成形方法]
ここで、プレス成形とは、型(金型)、加工機械、及び工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法を意味する。また、プレス成形の方法としては、いずれも型を用いて成形をおこなう成形法、例えば、金型プレス法、ラバープレス法(静水圧成形法)、押出し成形法などが例示される。
【0045】
本発明では、前記熱可塑性樹脂シートをプレス成形する際に、樹脂シートの余白部分のそれぞれの長さが5mm〜50mmになるように調整する。例えば、プレス成形金型および樹脂シートの具体例を示す
図1〜
図6では、1a〜1dとして示す樹脂シート2の余白部分1の長さが、いずれも5mm〜50mmになるように調整する。すなわち、凸部3aを有する上金型3と下金型4との間で、下金型4の凹部4aを覆うように樹脂シート1を配置するときに、樹脂シート2の余白部分1a〜1dの長さは、いずれも5mm〜50mmである。
本発明における樹脂シートの余白部分とは、プレス前の下金型上に配置した樹脂シートにおいて、下金型の凹部を除く平坦な部分と接触している領域をいう。そして、余白部分の長さとは、余白部分における、下金型の凹部の輪郭線から、樹脂シートの輪郭線までの距離(最短の長さ)を意味する。
【0046】
例えば、樹脂シート2とプレス前の下金型4とを示す平面図である
図5においては、樹脂シート2の余白部分1の長さは1a〜1dで表わされ、これらの長さは、それぞれ5mm〜50mmである。なお、
図1〜5においては、余白部分の長さ1aと1b、及び1cと1dとはそれぞれ同じであるが、これらの長さが異なる場合は、1a〜1dのすべての長さが5mm〜50mmの範囲にあることが好ましい。同一のシートについて、複数の余白部分の長さが異なる場合においては、少なくとも余白部分の長さの一部は5mm〜50mmの範囲内にあることを必要とする。例えば、
図5の例では、余白部分の長さ1a(または1b)と、余白部分の長さ1c(または1d)とのいずれかは5mm〜50mmの範囲内にある。そして、複数の互いに異なる余白部分の長さの平均値、例えば、
図5における余白部分の長さ1a(または1b)と、余白部分の長さ1c(または1d)との平均値は、5mm〜50mmの範囲にあることが好ましい。
なお
図5においては、樹脂シート2の輪郭線2cと、下金型4の凹部4aの輪郭線4cとがいずれも矩形状であるが、樹脂シート2と下金型4の凹部4aの形状は、
図5に示されたものには限定されない。例えば、樹脂シート2と下金型4の凹部4aとの少なくとも一方が、楕円形などの矩形以外の形状であっても、上述の定義により規定される余白部分の長さの少なくとも一部は5mm〜50mmの範囲内にあり、好ましくは複数の余白部分の長さ、特に好ましくは全ての余白部分の長さが上述の範囲内にある。また、複数の余白部分の長さの平均値もまた、上述の範囲内にあることが好ましい。
【0047】
このように、樹脂シートのシート長さを調整することにより、シート端部と金型の外周部分との接着による型締時における樹脂の破断を抑制し、成形品側面部に穴あき・割れがなく優れた外観の成形品を得ることができる。
この主な理由は以下の通りである。フィラーを含有する樹脂シートは、破断し易い傾向にあり、通常、数%伸びると破断する。そして、フィラーを含有する樹脂シートが高温の金型に接触すると、接触面の樹脂が溶けて接着力が発生する。その後のプレス時において、フィラーを含有する樹脂シートは、下金型の凹部に押し込まれるが、このときに余白部分の大きさが適切である場合には前述の接着力が小さく、樹脂シートは凹部に引き込まれて正常に賦形できる。これに対し、樹脂シートの余白部分が大き過ぎる場合には、樹脂シートの下金型に対する接触面積が大きいため、接着力がより大きくなり、下金型の凹部に引き込まれずに引っ張られて伸び、破断し易い。このため、余白部分が大きいフィラー含有樹脂シートは、正常に賦形できない可能性が高い。
また、樹脂シートの余白部分が小さ過ぎると、下金型の凹部の周囲において成形体を形成することが困難となり得る。このため、樹脂シートの余白部分の長さ(mm)/下金型の凹部の深さ(mm)の比の値は、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。また、余白部分の長さ(mm)/下金型の凹部の深さ(mm)の比の値は、10.0以下であることが好ましい。なお、下金型の凹部の深さとは、下金型の凹部の開口と、凹部の最も深い領域との距離である。
【0048】
樹脂シートの余白部分の長さは、好ましくは5〜40mm、より好ましくは7〜30mm、特に好ましくは7〜20mmである。
また、樹脂シートの厚さは、0.3〜1.2mmであり、好ましくは0.4〜1.1mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。樹脂シートが薄すぎる場合には賦形時に側面部が破れやすくなり、さらに成形体の剛性も不足する。樹脂シートが厚すぎる場合には成形体のR部分の賦形性が不十分である。
【0049】
本発明に使用する下金型の凹部の深さは、上述のように、プレス前のシート設置面から最も深くなっている部分までの長さに相当する。例えば、
図6においては4dで示される下金型4の深さは1mm〜50mm、好ましくは1mm〜30mm、さらに好ましくは1mm〜20mmである。
下金型の深さが50mmを超えるものは、シート端部と金型の外周部分との接着面積が大きくなり型締時に樹脂が破断し、キャビティ内部に入り込まず、成形品側面部に穴あき・割れが生じ易い傾向にある。また、下金型凹部の側面深さ4eについても、深さ4dと同様であり、50mmを超えるものは成形品側面部に穴あき・割れを生じさせ易い。よって側面深さ4eの値も、上述の深さ4dについて規定した範囲内にあることが好ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂シートは、一層でも、または多層構成をとりうるように積層したものを用いることができる。金型を加熱するために使用される加熱媒体としては、熱水、水蒸気、加熱油、電気加熱体、超音波もしくは電磁誘導またはそれらの併用を使用することが挙げられる。金型の降温のために使用される冷却媒体としては、冷水または冷却油の少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0051】
加熱時の温度設定は、冷水、冷却油の供給を止めて、金型に熱をかける。また、冷却時には、熱水、加熱蒸気、加熱油の供給を止めるか、あるいは超音波発振機、ヒーター等への通電を止め、冷水、冷却油を同一の金型温調用管路あるいは別々の金型温調用管路に供給することによって冷却する。なお、加熱、冷却の媒体が液体の場合、同一の管路を使用してもよい。
【0052】
このようにして得られる本発明のプレス成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、スマートフォンおよびタブレット型PCに代表される情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品および筐体が挙げられる。これらのなかでも、優れた表面平滑性から本発明により製造される成形品は、スマートフォンおよびタブレット型PCなどの高意匠性が要求される筐体用途として非常に好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限りにおいて任意に変更して実施することができる。
以下の実施例および比較例で用いた測定・評価法並びに使用材料は、以下の通りである。
【0054】
[測定・評価方法]
【0055】
<側面部割れ>
熱プレス成形品の側面部の未充填部分、穴あき・割れ部分がない場合は特に良好、一部薄くなっている箇所があるものの、穴あき・割れが生じていない場合を良好、穴あき・割れが生じている場合は不良と評価した。
【0056】
<賦形性>
金型形状を転写し、側面部以外の全ての表面が平滑な場合を「特に良好」、平滑性がやや劣る部分があるものの、全体的に表面が平滑な場合を「良好」、側面部以外の全ての表面の平滑性が乏しい場合を「不良」と評価した。
【0057】
<剛性>
プレス成形品の中央部に直径30mmの円筒形状の重りを載せ、4.5Nの静荷重を加えたときのたわみの最大値を測定した。たわみの最大値が5mm未満の場合を「特に良好」、5mm以上10mm未満の場合を「良好」、10mm以上の場合を「不良」とした。
【0058】
<繊維長>
成形品約2gを600℃の電気炉に2時間放置し、灰分として残った無機フィラーをガラス上に広げて光学顕微鏡により観察し、撮影した後、画像解析装置(三谷商事(株)製WinRoof2013)にて500本測定して平均値を算出した。
【0059】
[使用材料]
<熱可塑性樹脂(A)>
<(A−1)芳香族ポリカーボネート>
界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000FN」)
<(A−2)ポリプロピレン>
ホモタイプポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP MA−3H」)
<(A−3)ポリエスエル>
ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバデュラン(登録商標)5010R5」)
【0060】
<無機フィラー(B)>
<(B−1)繊維状フィラー>
(B−1−1)ガラスチョップドストランド(日本電気硝子社製「T−571」、平均繊維径13μm、平均繊維長さ3mm、アミノシラン処理、耐熱ウレタン集束)
(B−1−2)ガラスチョップドストランド 平均繊維径7μm、平均繊維長さ3mm、アミノシラン処理、耐熱ウレタン集束)(以下「7φ」)
(B−1−3)ガラス繊維 平均繊維径17μm、繊維長10〜50mm(以下「17φ」)
(B−1−4)断面扁平形状ガラスチョップドストランド 平均長径24μm/平均短径7μm(以下「扁平」)
(B−1−5)炭素繊維(チョップドストランド)(三菱レイヨン(株)製「TR−06U」、平均繊維径7μm、平均繊維長さ6mm、ウレタン系化合物集束、表面処理なし)
<(B−2)板状フィラー>
(B−2−1)ガラスフレーク(日本板硝子社製「ガラスフレークMEG160FY−M01」、平均粒径160μm、平均厚み0.7μm、アミノシランエポキシシラン処理)
(以下「FY−M01」)
<(B−3)球状フィラー>
(B−3−1)ガラスビーズ(ポッターズバロディーニ社製「EGB731B」、平均粒径18μm、アミノシラン処理)
【0061】
[実施例1]
<樹脂ペレットの製造>
熱可塑性樹脂(A)として芳香族ポリカーボネート(A−1)、無機フィラー(B)として(B−1−1)ガラスチョップドストランドを使用した。
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のコンパウンドを、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機TEX30α(C18ブロック、L/D=63)を用いて、スクリュ回転数200rpm、吐出量20kg/h、シリンダ温度270℃の条件下で混練し、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して樹脂ペレットを得た。(A)成分は押出機上流側(C1)から供給、(B)成分は表1、表2に示す混合比に従い、サイドフィーダを用いて、押出機下流側(C13バレル)より供給した。
【0062】
<樹脂シートの製造>
上記樹脂ペレットを原料として、バレル直径32mm、スクリュのL/D=35の二軸押出成形機を用い、吐出量20kg/h、スクリュ回転数200rpm、シリンダ温度270℃の条件で、幅400mm、表1〜3に記載の厚みの樹脂シートを成形した。ダイより流れ出した樹脂は、鏡面仕上げされた3本のポリッシングロールに導かれ、このときに1番ロール、2番ロール、3番ロールの温度を160℃に設定した。各種シート厚みは、引取速度を調整することで調整した。なお1番ロール/2番ロール間のロール挟み圧は油圧表示で5MPaであった。
【0063】
<熱プレス方法>
金型として、上型3(コア型)が加熱・冷却回路のないシリコーンゴム製、下型4(キャビティ型)が電磁誘導による加熱回路、冷水による冷却回路をもつ鋼材製で、箱型成形品の投影面寸法が190×240mm、側面深さ4e=7mm、中央部深さ4d=15mmのものを用いた(
図6を参照)。そして下部金型4を200℃まで加熱したのち、シート余白部分の長さを金型に対して表1、2に示す一定の長さとなるように裁断した樹脂シート2を、下型金4上に凹部4aを覆うように置き、1MPaの加圧空気で型締して1分間保持して、樹脂シート2を成形した。次いで下金型4を80℃まで冷却することで熱賦形品を得た。
なお、実施例1におけるシート余白部分の長さは20mmであり(表1参照)、下金型(下型4)の凹部の開口から最も深い領域までの距離は15mm(中央部深さ4d)であることから、「余白部分の長さ/下金型の凹部の深さの比の値」=1.3となる(20(mm)/15(mm))。このように、下金型の凹部の深さに対する余白部分の長さを大きくすることにより、シートから形成される成形品の側面部において樹脂が未充填となることを確実に防止できる。
【0064】
[実施例2]
熱可塑性樹脂をポリプロピレン(A−2)、無機フィラー(B)含有量を30wt%とし、コンパウンド時のシリンダ温度を220℃、樹脂シート製造時のシリンダ温度を220℃、1番ロール〜3番ロール温度を60℃、熱プレス時の下部金型の加熱温度を190℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0065】
[実施例3]
熱可塑性樹脂をポリブチレンテレフタレート(A−3)、無機フィラー(B)含有量を30wt%とし、コンパウンド時のシリンダ温度を265℃、樹脂シート製造時のシリンダ温度を265℃、1番ロール〜3番ロール温度を140℃、熱プレス時の下部金型の加熱温度を180℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0066】
[実施例4]
無機フィラー(B)の含有量を55wt%とした以外は、実施例1と同様である。
【0067】
[実施例5]
無機フィラー(B)を、直径7μmのガラスチョップドストランド(B−1−2)とした以外は、実施例1と同様である。
【0068】
[実施例6]
無機フィラー(B)を、断面が扁平形状のガラスチョップドストランド(B−1−4)とした以外は、実施例1と同様である。
【0069】
[実施例7]
無機フィラー(B)を炭素繊維30wt%(B−1−5)とした以外は、実施例1と同様である。
【0070】
[実施例8]
無機フィラー(B)を、直径13μmの円形断面ガラスチョップドストランド40wt%(B−1−1)と、厚さ0.7μmのガラスフレーク10wt%(B−2−1)の併用とした以外は、実施例1と同様である。
【0071】
[実施例9]
シートの余白部分の長さを5mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0072】
[実施例10]
シートの余白部分の長さを40mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0073】
[実施例11]
シートの厚みを0.3mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0074】
[実施例12]
シートの厚みを1.2mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0075】
[比較例1]
シートの余白部分の長さを60mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0076】
[比較例2]
シートの余白部分の長さを2mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0077】
[比較例3]
シートの厚みを0.2mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0078】
[比較例4]
シートの厚みを1.3mmとした以外は、実施例1と同様である。
【0079】
[比較例5]
無機フィラー(B)の含有量を10wt%とした以外は、実施例1と同様である。
【0080】
[比較例6]
無機フィラー(B)の含有量を65wt%とした以外は、実施例1と同様である。
【0081】
[比較例7]
無機フィラー(B)をガラスビーズ40wt%(B−3−1)とした以外は、実施例1と同様である。
【0082】
[比較例8]
ポリプロピレン粉末(A−2)と、繊維長10〜50mmのガラス繊維(B−1−3)を水中に分散させて抄造したウェブ状の成形材料を180℃の熱風で乾燥させ、220℃、0.2MPaで熱プレスを行った後、同圧力で冷間プレスを行い、ガラス繊維を40重量%含むガラス繊維強化ポリプロピレン成形品を得た。
【0083】
[評価結果]
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
表1〜表3に示す実施例、及び比較例の結果より、以下のことが明らかになった。
実施例1〜12においては、いずれも
図6の1aおよび1bとして示す、樹脂シートの余白部分の長さが5mm〜50mmであることにより、プレス成形品側面部に樹脂の未充填部分、穴あき・割れ部分がなく、成形品は、良好な外観を有していた。また、成形品は、無機フィラーにより高い剛性を有するため、成形品中央部に4.5Nの静荷重を加えたときの最大たわみ量が小さかった。なお、
図6に示された金型とは形状の異なる金型、例えば、
図1〜4に示された形状を有する金型も使用可能である。
【0087】
これに対して、余白部分の長さが60mmである比較例1においては、シート端部と金型の外周部分との接着により型締時に樹脂シートが破断し、キャビティ内部に入り込まず、成形品側面部に穴あき・割れが生じた。
【0088】
余白部分の長さが2mmである比較例2においては、樹脂量が不十分であり、成形品側面部が未充填となった。
【0089】
樹脂シートの厚さが0.2mmである比較例3においては、厚みが薄過ぎたため、型締時に破断し、成形品側面部に穴あき・割れが生じるとともに、成形品の剛性も不十分であった。
【0090】
樹脂シートの厚さが1.3mmである比較例4においては、成形品側面部の破れは生じないが、R部分の賦形性が不十分であった。
【0091】
無機フィラーの含有量が10wt%である比較例5においては、成形品に静荷重4.5Nの荷重を加えたときの最大たわみが10mmを超えており、剛性が不十分であった。
【0092】
無機フィラーの含有量が65wt%である比較例6においては、無機フィラーの含有量が高く、樹脂シートが破断しやいため、プレス成形品側面部に樹脂の未充填部分、穴あき・割れ部分が生じた。さらに、無機フィラーにより意匠面の表面平滑性が著しく低下した。
【0093】
無機フィラーをガラスビーズとした比較例7においては、成形品の無機フィラーが短いため、最大たわみが10mmを超えており、剛性が不十分であった。
【0094】
繊維長10〜50mmのガラス繊維を用いて抄造法により製造した比較例8においては、成形品表面で繊維が突出し、意匠面の表面平滑性が不十分であった。