特許第6875294号(P6875294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6875294-浸潤鉄材料 図000003
  • 特許6875294-浸潤鉄材料 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875294
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】浸潤鉄材料
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20210510BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20210510BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20210510BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210510BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20210510BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20210510BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20210510BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   B22F3/11 A
   C22C38/00 304
   B22F1/00 T
   B22F3/26 B
   B22F3/26 H
   B22F3/16
   C22C1/08 F
   B22F3/11 B
   B22F3/02 M
   B33Y10/00
   B29C64/165
   B29C64/379
   B33Y40/00
   !C22C9/02
【請求項の数】22
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-559288(P2017-559288)
(86)(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公表番号】特表2018-510267(P2018-510267A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】US2016016356
(87)【国際公開番号】WO2016126814
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】62/111,395
(32)【優先日】2015年2月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307611
【氏名又は名称】ザ・ナノスティール・カンパニー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ディー・タッフィル
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド・レムケ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・イー・マック
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101812657(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0100720(US,A1)
【文献】 特表2010−522273(JP,A)
【文献】 特開平07−216411(JP,A)
【文献】 特開平04−183840(JP,A)
【文献】 米国特許第4710223(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0136941(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0080495(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0109431(US,A1)
【文献】 米国特許第6709739(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0167965(US,A1)
【文献】 Samuel M.Allen and Emanuel M.Sachs,Three-Dimensional Printing of Metal Parts for Tooling and Other Appiications,METALS AND MATERIALS,Vol.6,No.6(2000),p589-594
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自立型の金属部品の多層の形成方法であって、
(a)結合剤噴射プロセスを用いて複数の層を含む物品を形成する段階であって、
前記複数の層の各々が、金属合金粒子及びバインダーを含み、
前記金属合金粒子が、重量%で、以下の組成:
17.0<Cr<22.0;
8.0<Mo<12.0;
2.0<B<5.0;
3.0<W<7.0;
0.5<C<2.0;
1.0<Mn<4.0;
1.0<Si<3.0;
残部のFe;及び
不可避不純物の金属合金を含む、形成する段階と、
(b)20から60%の多孔度を有する硬化された物品を生成するために前記物品を加熱する段階であって、前記加熱する段階が、前記バインダーを硬化し、前記金属合金粒子間に結合を形成する、加熱する段階と、
前記硬化された物品を焼結する段階であって、前記焼結する段階が、前記バインダーを除去するために前記硬化された物品を加熱する段階、及び、多孔質の金属骨格を形成するために5℃/分未満の速度で冷却する段階を含む、焼結する段階と、
)前記多孔質の金属骨格に第2の材料を浸潤させ、前記自立型の金属部品を形成する段階であって、前記自立型の金属部品がASTM G65−04(2010)に従って測定した際に130mm以下の体積減少を有する段階と、
を含む、自立型金属部品の多層の形成方法。
【請求項2】
前記金属粒子が、0.005から0.300mmの範囲の粒径分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のの各々が、0.010から0.300mmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記物品が、0.010mmから300mmの総厚を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質の金属骨格が、15%から59.1%の多孔度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質の金属骨格の浸潤が、15/85から60/40の範囲の溶浸材対骨格の最終的な体積比を提供するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の材料を用いた前記多孔質の金属骨格の浸潤が、金属合金を用いた浸潤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の材料を用いた前記多孔質の金属骨格の浸潤が、ポリマー樹脂を用いた浸潤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記自立型の金属部品が、ASTM G65−04(2010)によって測定される際に30mmから130mmの体積減少を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
自立型の金属部品の多層の形成方法であって、
(a)結合剤噴射プロセスを用いて複数の層を含む物品を形成する段階であって、
前記複数の層の各々が、金属合金粒子及びバインダーを含み、
前記金属合金粒子が、重量%で、以下の組成:
12.0<Cr<17.0;
2.0<B<6.0;
1.0<Nb<5.0;
0.5<C<2.0;
Mn<2.0;
Si<2.0;
残部のFe;及び
不可避不純物の金属合金を含む、形成する段階と、
(b)20から60%の多孔度を有する硬化された物品を生成するために前記物品を加熱する段階であって、前記加熱する段階が、前記バインダーを硬化し、前記金属合金粒子間に結合を形成する、加熱する段階と、
前記硬化された物品を焼結する段階であって、前記焼結する段階が、前記バインダーを除去するために前記硬化された物品を加熱する段階、及び、多孔質の金属骨格を形成するために5℃/分未満の速度で冷却する段階を含む、焼結する段階と、
)前記多孔質の金属骨格に第2の材料を浸潤させ、前記自立型の金属部品を形成する段階であって、前記自立型の金属部品がASTM G65−04(2010)に従って測定した際に130mm以下の体積減少を有する段階と、
を含む、自立型金属部品の多層の形成方法。
【請求項11】
前記金属粒子が、0.005から0.300mmの範囲の粒径分布を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複数のの各々が、0.010から0.300mmの範囲の厚さを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記物品が、0.010mmから300mmの範囲の総厚を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記多孔質の金属骨格が、15%から59.1%の多孔度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質の金属骨格の浸潤が、15/85から60/40の範囲の溶浸材対骨格の最終的な体積比を提供するように構成される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の材料を用いた前記多孔質の金属骨格の浸潤が、金属合金を用いた浸潤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の材料を用いた前記多孔質の金属骨格の浸潤が、ポリマー樹脂を用いた浸潤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記自立型の金属部品が、ASTM G65−04(2010)によって測定される際に30mmから130mmの体積減少を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記冷却する段階が、2℃/分未満の速度である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記冷却する段階が、2℃/分未満の速度である、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記焼結する段階中に、前記金属合金におけるナノスケール構造が変態し、均一な等軸組織を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記焼結する段階中に、前記金属合金におけるナノスケール構造が変態し、均一な等軸組織を生成する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2015年2月3日付けで出願された米国仮特許出願第62/111,395号の利益を要求し、それは参照することによって本明細書に完全に含まれる。
【0002】
本発明は、合金、及び層状形式の自立型の金属材料の調製に関する。
【背景技術】
【0003】
飾り加工、ダイ、ドリリング、ポンピング、農業及び採鉱において見られるような多くの用途において、部品の耐久性及び寿命を増加させるために高い耐摩耗性を有する部品が要求されている。高い耐摩耗性を有するバルク材料を提供することによって、又は、マトリクス全体に高い耐摩耗性の粒子を含有する低い耐摩耗性のマトリクスからなる複合材料を提供することによって、部品に高い他摩耗性を与えるように材料が設計されている。これらの材料の多くは、耐摩耗性を与えるための構造体を得るために、急冷及び焼きなまし処理等の硬化熱処理を必要とする。材料の耐摩耗性を増加させる点において硬化処理が有効である一方で、それらは、熱に起因する応力からの部品の歪み及びクラッキングのために、硬化処理に晒される部品の寸法制御及び完全性において悪影響を有し得る。
【0004】
本明細書において、層状構成とは、構成要素を組み立てるために層毎に材料の層が上下に組み立てられるプロセスとして理解される。層状構成の例は、レーザー又は電子線エネルギー源、指向性エネルギー堆積、結合剤噴射、シート積層、材料押し出し、材料噴射、及び液槽光重合を用いた粉末床溶融を含む。金属を用いて使用される主な層状構成プロセスは、粉末床溶融、指向性エネルギー堆積、及び結合剤噴射を含む。この発明の焦点は、結合剤噴射部品の浸潤を含む結合剤噴射の分野にある。
【0005】
結合剤噴射プロセスは、粉末の床にバインダーを噴射し(又は印刷し)、バインダーを硬化し、新規な粉末の層を堆積し、繰り返すことによって網形状の部品を構成する優れた性能を有する層状構成プロセスである。このプロセスは、砂、セラミックス、並びに、それぞれ以下ではUNS記号S31600及びS42000と称されるタイプ316ステンレス鋼及びタイプ420ステンレス鋼を含む種々の金属から部品を製造するために市場で使用されている。
【0006】
固相結合剤噴射プロセスにおける粉末の床の性質のために、この方法で生成される部品は、本質的に大きな多孔度を有する。印刷されたバインダーを硬化した後、“グリーンボンド”金属部品は、典型的には、40%以上の多孔度を有する。グリーンボンド部品の焼結は、粒子間の金属結合を生成し、多孔度を低減させることによって部品の構造安定性を増加させる。長い焼結時間は、5%を超えて多孔度を低減させるために使用され得るが、これはまた、部品の部分的な収縮及び歪みをもたらし、材料の構造に悪影響を及ぼし得る。従って、グリーンボンド結合剤噴射部品の焼結の目的は、粒間金属結合を生成することによって部分強度を増加することだけではなく、多孔性の減少を最小化することによって歪み及び収縮を最小化することである。焼結収縮は、典型的には、多孔度の小さな低減を有して結合剤噴射部品の1〜5%の範囲であり、それは、35%を超える多孔度を有する焼結部品をもたらす。
【0007】
焼結部品における多孔度は、部品の機械的特性に悪影響を与え、そのため、焼結部品の多孔度をさらに低減することが望まれる。毛細管作用を介した浸潤は、焼結部品内の孔を液相の他の材料で充填することによって多孔度を低減するために使用されるプロセスである。部分浸潤は、多くの粉末冶金プロセスと同様に、焼結された結合剤噴射部品に関して使用され、そのため周知である。浸潤で遭遇し得る主要な問題は、不完全な浸潤をもたらす焼結骨格と溶浸材との間の乏しい湿潤性、焼結骨格及び新規の相形成の溶解浸食等の焼結骨格と溶浸材との間の材料の相互作用、並びに、不整合な材料特性によって出現し得る内部応力を含むことである。
【0008】
新規な材料系を開発する試みは、結合剤噴射及び浸潤プロセスにおいて行われているが、上記の問題のために、殆ど商用化されていない。産業製品の結合剤噴射に存在する2つの金属材料系は、(1)90〜10の青銅が浸潤されたS31600、及び、(2)90〜10の青銅が浸潤されたS42000である。S31600合金は、重量%で、16<Cr<18、10<Ni<14、2.0<Mo<3.0、Mn<2.0、Si<1.0、C<0.08、残部のFeの組成を有する。S31600は、熱処理によって硬化可能ではなく、それは、柔らかく、浸潤された状態のままで低い耐摩耗性を有する。従って、青銅が浸潤されたS31600は、高い耐摩耗性の部品には相応しい材料ではない。S42000は、重量%で、12<Cr<14、Mn<1.0、Si<1.0、C≧0.15、残部のFeの組成を有する。S42000は、急冷及び焼きなましプロセスによって硬化可能であり、そのため、それは、耐摩耗性を要求する結合剤噴射部品用の耐摩耗性材料として有用である。
【0009】
結合剤噴射S42000部品を浸潤するために使用されるプロセスは、焼結及び浸潤プロセス中において部品を支持し、部品の変形に対抗する支持構造体として作用する微粒子のセラミック材料に部品を埋め込むことを含む。結合剤噴射部品をセラミックに入れることはまた、部品内の熱の均一化を容易にし、それは、熱勾配、並びにその勾配に起因する部品の歪み及びクラッキングの可能性を低減する。S42000は、オーステナイト構造から高い硬度及び耐摩耗性を提供するマルテンサイト構造に変換するために浸潤温度からの比較的高い急冷速度に依存する。S42000は、空気硬化可能な合金と考えられるが、全てのオーステナイトをマルテンサイトに変換するために部品の厚さにわたって冷却速度が十分であることを保証するために、油中で部品が急冷されることが非常に推奨される。90〜10の青銅用の浸潤温度からの急冷に際し、油急冷は、20℃/秒を超える典型的な急冷速度を有する一方で、空気急冷速度は、約5℃/秒である。浸潤炉、及び急冷の熱障壁として作用する結合剤噴射部品の周囲のセラミック層の急冷性能の組合せは、部品に対して実現される急冷速度を制限し、そのため、部品の硬度を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、高い耐摩耗性を有し、このようなものを要求する用途において使用され得る網形状の部品を結合剤噴射及び浸潤を用いて生成することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、多層構成が高温で安定な高い耐摩耗性の自立型材料を生成するために金属合金に適用される生成物及び方法の両方に関する。耐摩耗性の値は、本発明の多層構成プロセスを用いて生成される青銅が浸潤された市販のS42000材料より1桁程度大きい。例えば、この材料の耐摩耗性は、ASTM G65−10−04(2010)手順Aによって測定されるように、130mm以下の体積損失をもたらす。高い耐摩耗性を可能にするこれらの構造は、好ましくは、急冷及び焼きなまし又は溶体化及び時効等の熱硬化プロセスを用いて組み立てられた多層の後処理の必要性なく実現され、これらの構造体は、比較的高温においても安定である。多層構成は、射出成形、ダイ、ポンプ及びベアリング等の用途に利用され得る金属構成要素の形成を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】鉄金属A1粉末のマイクロ構造を示す。
図2】本発明の青銅が浸潤された鉄A1合金骨格のマイクロ構造を示す。浸潤された青銅は、右上象限に見られ、鉄骨格は、顕微鏡写真の残部を作り出す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、連続する金属層の層毎の組み立て並びにそれに続く焼結及び金属構造物の浸潤を用いて、自立型で比較的硬質で耐摩耗性の鉄基金属材料を構成する方法に関する。自立型の金属材料とは、本明細書では、多層の組み立てが、焼結され、他の材料が浸潤される所定の組立構造物を形成するように採用される場合として理解される。浸潤された構造物は、次いで、射出成形ダイ並びにポンプ及びベアリング部品等の多様な用途における金属部品構成要素として機能する。
【0014】
本明細書に記載される多層の手順は、液体バインダーが粉末の床に選択的に印刷され、バインダーが乾燥され、粉末の新たな層がその前の層に広がり、バインダーがその粉末に選択的に印刷され、乾燥され、部品が完成されるまで、このプロセスが繰り返される、結合剤噴射として一般的に知られている。
【0015】
バインダーは、プリントヘッドを通して選択的に印刷され得る液体であり得、乾燥する際に、追加の層が既存の層の上部に続いて組み立てられ得るように粉末粒子を結合するように作用し、硬化する際に、部品(“グリーンボンド”)に損傷を与えることなく部品を取り扱うことを可能にする粒子間に結合を生成する。バインダーはまた、部品内の粉末粒子の焼結に干渉しないように、炉内で焼失することができなければならない。結合剤噴射に相応しいバインダーの一例は、エチレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールの溶液である。バインダーが印刷された後に、30〜100℃の範囲に粉末表面を加熱する熱源を用いて、各層においてバインダーが乾燥される。部品が完全に組み立てられると、部品内のバインダーは、100〜300℃の範囲、より好ましくは150〜200℃の範囲の温度においてオーブンで硬化され得る。硬化温度における時間は、2〜20時間の範囲であり、好ましくは6〜10時間の範囲である。
【0016】
本明細書における多層手順は、各々が0.010〜0.300mmの範囲、より好ましくは0.070〜0.130mmの範囲の厚さを有する個々の層の組立を予想する。そのため、多層手順は、0.010mmから100mm超の範囲、より一般的には300mm超の範囲の総高を有する組み立てられた構成物を提供し得る。従って、組み立てられる層に対する適切な厚さの範囲は、0.010mm以上である。しかしながら、より一般的には、その厚さ範囲は、0.100〜300mmである。多層手順の固体粒子の充填は、印刷され、硬化された部品をもたらし、それは、20〜60%の範囲、より具体的には40〜50%の範囲の粒子間多孔度を有する。
【0017】
粉末層拡散中に、球形状の粒子は、それらがより自由に転がり、また互いを捕獲する不規則形状のために凝集する可能性が低いので、非球形状の粒子より容易に流れる。焼結された鉄の骨格を生成するために使用される金属粉末は、概ね球形を有し、0.005〜0.300mmの範囲、より好ましくは0.010〜0.100mmの範囲、さらに好ましくは0.015〜0.045mmの範囲の粒径分布を有する。
【0018】
鋼骨格を生成するために使用される鉄基合金粉末の比較的高い硬度及び耐摩耗性は、粉末を生成するために利用される液相噴霧プロセスで処理される際における鉄基合金に存在する比較的微細なスケールのマイクロ構造及び相の結果であると予想される。より具体的には、本明細書における鉄基合金は、上昇した温度で液相に形成され、冷却し、凝固して粉末粒子になることを可能にする際に、この構造物が好ましくは、鉄リッチのマトリクス内のホウ素炭化物、モリブデン炭化物、モリブデン炭化物、ニオブ炭化物、クロム炭化物、及び複合炭化物等の、均一に分布された硬質カーバイドの相の比較的高い体積割合からなるようなものであり、このカーバイドの相は、約10〜10,000nmのサイズの範囲である。図1は、本願発明の鉄合金(A1)粉末の実施例における構造を示す。
【0019】
例示の鉄合金は、少なくとも50原子%のFe、及び、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、W、Al、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも1つの元素、及び、B、C、N、O、P及びSからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。本発明の特有の側面において、合金は、式Fe(100−x−y)(x)(y)(原子%)によって表される組成を有し、ここで、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Mo、Ta、Cr、W及びMnから選択される少なくとも1つの元素であり、30≧x≧4であり、25≧y≧0であり、45≧(x+y)≧7である。合金はさらに、X(Si、Ge、P、Ga等)及び/又はT(Au、Co、Ni等)を含有し得る。
【0020】
上記合金が、クラックに比較的影響を受けやすく、比較的高いレベルのクラックを含有するコーティングとして典型的には採用されることに注目すべきである。従って、このような合金は、本明細書に記載される多層手順に有用であると期待されず、予想に反して、予期しない硬度及び摩耗特性を有する金属構成要素を提供した。
【0021】
多層手順を用いて生成された硬化部品は、粒子間の金属結合を発達させることによって部品強度を増加させるために焼結されなければならない。焼結プロセスは、制御された雰囲気を有する炉内で行われる多段階熱プロセスである。焼結プロセスステージは、バインダーの焼失、焼結、及び冷却を含み、それぞれ特定の温度及び時間に加えて、既に記載された温度間のランプ速度によって規定される。バインダーの除去(例えば、バインダーの焼失)のための温度及び時間は、バインダー及び粒子サイズに依存し、典型的には300℃から800℃で30分間から240分間の焼失時間及び温度である。焼結は、部品の収縮を最小限にしながら、粒子間ネックが形成されるのを引き起こすのに十分な温度及び時間で行われる。焼結は、800〜1200℃の温度範囲、より好ましくは950〜1100℃の範囲で行われる。部品全体が焼結温度にある焼結時間は、1〜120分間の範囲である。焼結は、20〜60%の範囲の多孔度を有する硬化されたバインダーの状態から0.1〜5%の範囲の多孔度の減少をもたらす。従って、焼結された部品は、15〜59.1%の範囲の多孔度を有し得る。
【0022】
多層手順を用いて生成された焼結部品の多孔度を減少させるために、部品は、炉内で再加熱され、他の材料を用いて浸潤された後に冷却するか、他の材料を用いた浸潤が、焼結炉サイクル内の追加の段階として焼結に続く。浸潤プロセスにおいて、液相の溶浸材は、毛細管作用により部品に引き込まれ、鋼骨格を囲うボイドを満たす。鋼骨格に対する溶浸材の最終的な体積比は、15/85から60/40の範囲である。浸潤前に、溶浸材は、溶浸材の固相線温度未満に炉温度を低減させることによって凝固される。浸潤後に残っている多孔は、0〜20%の範囲、より具体的には0〜5%の範囲である。次いで、炉及び部品は、室温まで冷却される。硬化可能な鋼合金と異なり、本発明の鋼合金は、冷却温度に対する低い依存度を有し、そのようなものとして、冷却中における歪み、クラック及び残留応力の可能性を減少させるために低速で冷却されることができ、以前として高い硬度及び耐摩耗性を維持する。5℃/分未満、より具体的には2℃/分未満の冷却速度は、歪み、クラック及び残留応力を低減させるために使用され得る。高い硬度及び耐摩耗性を提供することが予想される本発明の鋼合金におけるナノスケール構造は、鋼粉末が生成される際に最初に急速凝固を介して発達される。焼結及び浸潤の炉サイクルにおいて、構造体は変態し、あるスケールを有する均一な等軸組織をナノスケールの領域に生成する。この構造体が等軸組織に変態すると、それは、焼結及び浸潤の温度を通じて非常に安定し、そのようなものとして、構造体のスケールは、部品をゆっくり冷却することを可能にする炉サイクルを通して保持される。この構造体のスケールは、図1及び図2において見られ、それらは、鉄合金(A1)粉末、並びに焼結、浸潤及び冷却後の鋼骨格における構造体の例を示す。低速冷却は、歪みを減少させ、それによって、高い寸法制御、及び寸法要求に適合させるための低減した製造後機械加工を可能にする。
【0023】
多様な材料が、種々の金属合金及びエポキシ樹脂等のポリマー樹脂を含む溶浸材として使用され得、それは、金属骨格構造内に架橋ポリマー構造をもたらす。好ましくは溶浸材として使用される金属合金は、銅及び青銅の合金を含む。青銅とは、銅及び錫の合金をいい、銅は、主成分(>70%)であり、残部は、錫、及び/又はアルミニウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉄、マンガン、シリコン及び鉛等の他の金属である。溶浸材に対する好ましい1つの基準は、それが、焼結骨格の液相温度未満の液相温度を有し、それが、好ましくは焼結骨格の表面を湿らすということである。溶浸材に適合し得る主要点は、残留多孔率、材料反応及び残留応力を含む。残留多孔率は、典型的には、焼結骨格と溶浸材との間の乏しい湿潤性、完全な浸潤のための不十分な時間、又は高い粘土の溶浸材をもたらす不十分な浸潤温度の1つ又はそれ以上による。材料反応は、焼結骨格及び溶浸材の間で起こり得、焼結骨格の溶解浸食及び金属間形成等である。残留応力はまた、不整合な材料の特性によって出現し得る。
【0024】
適切な溶浸材を選択する際に主要な基準及び問題を考慮することが重要である。本発明の鋼骨格を浸潤させるための適切な溶浸材の例は、銅及び青銅等の金属材料である。銅が、それ自体によって又は青銅合金において、鋼の鉄(Fe)を好ましく湿らすので、銅(Cu)及び青銅は、鋼骨格との良好な溶浸材である。青銅における錫(Sn)は、好ましくは、Sn濃度に異存して385℃まで銅の液相温度未満の液相温度を抑制し、それは、好ましくは、粘土を低減させるために青銅を過熱することを可能にし、Cu及びSnは、過熱温度でFeにおける難溶解性を有する。1083℃でFe中のCu、Cu中のFe、Fe中のSn、及びSn中のFeの溶解度はそれぞれ、3.2、7.5、8.4及び9.0原子%である。以下ではCu10Snと称される90重量%のCu及び10重量%のSnの組成を有する合金を含む種々の青銅合金が、好ましくは使用され得る。
【0025】
浸潤された材料の複合構造が、骨格材料及び溶浸材の結合からそのバルク特性を得る一方で、耐摩耗性は、構造体の骨格によって大いに提供されるように予想される。硬度は、材料の摩耗特性の代わりになるものとして一般的に使用されるが、それは、必ずしも複合材料において良好な指標ではない。マイクロ硬度測定が、溶浸材及び骨格領域において個々に行われるのに対して、マクロ硬度測定の高負荷及び浸透深さは、複合材料の測定結果、すなわち両方の成分の硬度の混合したものをもたらす。バルク複合材料のマクロ硬度、並びに浸潤された様々な金属合金におけるバルク複合材料の溶浸材及び骨格材料のマイクロ硬度が表1に示される。ASTM 65−04(2010)手順Aの方法によって測定された際のこれらの材料の耐摩耗性も表1に示される。A1及びA2は、本発明の例示の鉄合金である。A1合金は、重量%で、17.0<Cr<22.0、8.0<Mo<12.0、2.0<B<5.0、3.0<W<7.0、0.5<C<2.0、1.0<Mn<4.0、1.0<Si<3.0、残部のFeの組成を有する。A2合金は、重量%で、12.0<Cr<17.0、2.0<B<6.0、1.0<Nb<5.0、0.5<C<2.0、Mn<2.0、Si<2.0、残部のFeの組成を有する。従って、後者の組成におけるMn及びSiの存在は、任意である。S42000合金は、重量%で、12<Cr<14、Mn<1.0、Si<1.0、C≧0.15、残部のFeの組成を有する。各材料系におけるバルク材料のマクロ硬度及び青銅溶浸材のミクロ硬度は、同様の値を有し、これらの材料においてS42000並びにA1及びA2合金の鋼骨格のミクロ構造は全て、高い硬度範囲にあり、耐摩耗性は全く異なる。耐摩耗性における大きな差異の程度は、S42000の最適ではない硬化条件、及び本発明の鋼骨格に存在する均一に分布した小さなカーバイド相の高い体積割合の結果であると予想される。青銅の浸潤されたS42000の最適ではない硬化が、構造体のオーステナイトからマルテンサイトに完全に変態するための浸潤プロセスの不十分な冷却速度のために固有のプロセス制限であることに気づくことが重要である。
【0026】
【表1】
【0027】
以上に見られるように、本明細書における合金の摩耗の体積損失は、示されるように、S42000−Cu10Snより数ケタ小さい。従って、本明細書に記載された合金に関する本発明の文脈において、ASTM G65−04(2010)によって測定されるような耐摩耗性における体積損失が130mm以下であることが分かる。より具体的には、本明細書における耐摩耗性の体積損失は、それが、30mm、35mm、40mm、45mm等、130mmまでの全ての値及び増分を含んで、30mmから130mmの範囲に含まれるものである。
【0028】
多くの硬化可能な金属は、相転移によって材料が軟化し又は砕けやすくなる最大動作温度性能を超える、相対的に低い最大動作温度性能を有する。例えば、S42000の安定な構造における最大動作温度は500℃である。本発明において、浸潤された部品における鋼構造の高温安定性は、1000℃までの高温動作温度を可能にする。
【0029】
浸潤された鉄合金の熱特性は、射出成形ダイ等の高速熱サイクルを要求する鋼に魅力的である。鉄合金に対して青銅の熱伝導度がほぼ1桁大きいために、青銅が浸潤された鉄合金における熱伝導性は、P20グレード等の、典型的な射出成形鋼より非常に高いものと予想される。浸潤された鉄合金の高い熱電導度は、材料全体に亘る高い加熱及び冷却速度を可能にする。本発明の浸潤された鋼部品は、射出成形ダイ等の熱サイクルを必要する用途における寸法制御を容易にする鋼骨格の低い熱膨張のために、低い熱膨張を有することが予想される。本発明の浸潤された鉄合金の高い熱伝導性及び低い熱膨張の両方が、高い熱サイクルを要求する用途において向上した材料性能をもたらす一方で、これらの特性の組合せは、高い生産性及び高い寸法制御を与える材料をもたらすことが予想され、これらの特性の一方が増加すると、通常他方の犠牲となるので、予期せぬ組合せである。
図1
図2