(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875298
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷素子のアレイを駆動するための電子回路
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20210510BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20210510BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20210510BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/045
B41J2/015 101
B41J2/01 201
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-565165(P2017-565165)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-519191(P2018-519191A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】EP2016064527
(87)【国際公開番号】WO2017001276
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】15174229.3
(32)【優先日】2015年6月29日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】16156242.6
(32)【優先日】2016年2月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016732
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ネザーランド ビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ヘイデン,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】フェンネル,コール
(72)【発明者】
【氏名】フェーンストラ,ヒルケ
【審査官】
長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−098798(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/183280(WO,A1)
【文献】
特開平11−197602(JP,A)
【文献】
特開2011−218745(JP,A)
【文献】
特開2003−285441(JP,A)
【文献】
特開2016−055645(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0054867(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気波形を用いて印刷素子のアレイにおけるインクジェット印刷素子を駆動するための電子回路であって、印刷素子は前記電気波形を機械的変位に変換する圧電トランスデューサーを含み、前記電気波形は個々の印刷素子に対して調整可能であり、当該回路は、前記印刷素子から独立した共通の電気波形を提供するために、印刷データに依存する第1のスイッチを通じて前記圧電トランスデューサーに接続された共通波形生成器を含み、当該回路は固定電圧源からの電気エネルギーを前記共通の電気波形に加える第2のスイッチを制御するために前記印刷素子及び前記印刷データに依存する波形調整部をさらに含み、前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチは前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチにおける散逸の量を制限するために飽和状態又は遮断状態のいずれかで動作可能である、電子回路。
【請求項2】
前記固定電圧源は前記共通波形生成器からのピーク電圧よりも低い電圧を有する、請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記調整部は隣接する印刷素子の印刷データにもさらに依存する、請求項1に記載の電子回路。
【請求項4】
前記調整部は前の波形に関連する印刷データに従属する、請求項1に記載の電子回路。
【請求項5】
前記波形の、前記印刷素子を安定化させる部分に電気エネルギーを加えるために第3のスイッチが前記印刷素子に設けられている、請求項1に記載の電子回路。
【請求項6】
前記波形調整部は前記第2のスイッチを制御するためのタイミングパラメータを含む、請求項1に記載の電子回路。
【請求項7】
請求項1に記載の電子回路を含むモジュールによって接続されたプリントヘッドチップ及びドライバー基板を含むプリントヘッドモジュールであって、前記プリントヘッドは印刷素子のアレイを含み、前記モジュールは前記印刷素子に電気波形を印加するための前記スイッチを含み、前記ドライバー基板は前記共通波形生成器及び前記電圧源を含む、プリントヘッドモジュール。
【請求項8】
前記ドライバー基板は前記印刷素子のアレイの印刷素子のための波形調整パラメータを保存するためのメモリを含む、請求項7に記載のプリントヘッドモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2015年6月29日に出願された欧州特許出願第15174229.3号及び2016年2月18日に出願された欧州特許出願第16156242.6号の優先権を主張する。それらの出願の全体は、参照により本願に明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、電気波形を用いて印刷素子のアレイ(array of print elements)におけるインクジェット印刷素子を駆動するための電子回路に関する。具体的には、本発明は、印刷素子から独立した調整可能な波形(tunable waveform)の選択を可能にする回路に関する。さらに、本発明はインクの液滴を噴出するためのプリントヘッドモジュールに関する。
【背景技術】
【0003】
300頁よりも多い枚数のA4サイズ用紙をフルカラーで印刷可能な大量印刷プリンタ(high volume printer)が知られている。これらはシングルパスインクジェットプロセスを用いる。シングルパスインクジェットプロセスでは、要求される性能を得るために、複数のプリントヘッドが組み合わされて1頁幅の印刷アレイが構成される。満足のいく印刷品質を得るために、小さな液滴サイズ(<10pl(ピコリットル))及び高ノズル密度(>600npi(インチ毎のノズル数))が用いられる。
【0004】
印刷素子において圧電アクチュエータを用いる現代のプリントヘッドは、数十kHzの噴出周波数で動作される。適切な電気信号又は波形を用いて作動された後、インクで満たされた流路に取り付けられた圧電アクチュエータは、インク等の液滴が流路の端部でノズルから放出されるようにする。液滴の吐出後、印刷素子はさらなる液滴を吐出する状態にあることが好ましいが、印刷素子を安定させるには多少の時間が必要になり得る。この安定化プロセスを促進するために波形に第2の部分を加えることが知られている。
【0005】
液滴のサイズ及び速度の変動に関連する液滴の均一性は、流路の形状及び寸法並びにそれがどのように波形によって作動されるかに大きく依存する。具体的には、波形は、作動への反応を測定することにより個々の印刷素子に対して調整され得る。前記反応は液滴の特性を直接測定することにより又は流路内の残留インクの動き、例えばノズル内のメニスカスの位置等を特定することにより又は液滴が基材に到達することでできるドットを観測することのうちのいずれかによって得られる。各印刷素子のための個々の波形を用いてプリントヘッドを駆動するのに用いられる電子回路は、一般に作動波形を生成するのにリニアクラスAB型の増幅器を用いる。
【0006】
電子回路にとって、圧電アクチュエータは先ず(in first order)容量性負荷として動作して、印加された電圧の二乗及び容量に比例するエネルギーを波形生成器に消費させる。各印刷素子には、関連する素子に対して波形を調整することが可能な専用の生成器が必要になるため、プリントヘッドにおける印刷素子の密度の増加に伴って生成器における電力消費が大幅に増加する。そのため、波形生成器において関連する電力散逸(power dissipation)を得ることなくプリントヘッド内の各圧電アクチュエータのために個々の調整可能な波形を適用できる電子回路を得るのに問題がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、電気波形を用いて印刷素子のアレイにおけるインクジェット印刷素子を駆動するための電子回路が提供される。印刷素子は前記電気波形を機械的変位に(in a mechanical displacement)変換する圧電トランスデューサーを含み、前記電気波形は個々の印刷素子に対して調整可能であり、当該回路は、前記印刷素子から独立した共通の電気波形を提供するために第1の印刷データ依存スイッチを通じて前記圧電トランスデューサーに接続された共通波形生成器を含み、当該回路は固定電圧源からの電気エネルギーを前記電気波形に加える第2のスイッチを制御するために前記印刷素子及び前記印刷データに依存する波形調整部をさらに含み、前記スイッチは前記スイッチにおける散逸の量を制限するために飽和状態又は遮断状態のいずれかで動作可能である。
【0008】
トランジスタの形態のスイッチは遮断、導通及び飽和状態の3つの状態で動作し得ることが良く知られている。一般的な駆動回路では、アクチュエータ内にエネルギーを届けるために必要な電圧を得るのに個別化された波形が生成され、導通状態にあるトランジスタによって増幅され、これらの回路において散逸がもたらされる。遮断状態では、アクチュエータ負荷に電流が送られないため散逸は起こらない。飽和状態では、スイッチにわたって電圧差が起こらないため散逸は起こらない。本発明によれば、波形の短期間の間にアクチュエータ負荷に接続されるように切り替えられる固定電圧源から波形調整部が得られる。アクチュエータにわたる電圧の変化の間だけ電圧差の二乗に比例する電力が散逸される。固定電圧源に起因する電圧差は波形全体の調整部にしか関連していないためむしろ小さい。調整自体はこの固定電圧が印加される時間を調整することにより実現される。そのため、電圧調整による波長調整と比較して回路の電力が軽減される。
【0009】
好ましい実施形態では、固定電圧源は前記共通波形生成器からのピーク電圧よりも低い電圧を有する。そのため、固定電圧源により容量性負荷から電気エネルギーが取り除かれる。そして、調整部は一般的な状態の2回ではなく1回の電圧変化のみにしか関与しないため、調整回路の散逸電力が2倍低減される。
【0010】
さらなる実施形態では、前記調整部は隣接する印刷素子の印刷データにもさらに依存する。高い統合密度により、印刷素子は完全には独立して動作しない。そのため、隣接する印刷素子のあり得る作動を補償するために波形の調整が用いられ得る。
【0011】
さらなる実施形態では、前記波形の第2の部分に電気エネルギーを加えるために第3のスイッチが前記印刷素子に設けられている。印刷素子を作動するために固定波形を適用するための第1のスイッチ及び波形の駆動パルスに調整部を適用するための第2のスイッチに加えて、印刷素子を安定化させる波形の部分に電気エネルギーを加えるのに第3のスイッチが使用され得る。この場合、波形は極性が逆の又は場合によっては同じ極性の2つのパルスを含み、第2の部分又はブレーキパルスも最適に動作するように調整される。
【0012】
本発明のさらなる詳細は従属クレームに記載されている。本発明は、説明した電気回路を含むモジュールにより接続されたプリントヘッドチップ及びドライバー基板を含むプリントヘッドモジュールとしても実施され得る。
【0013】
本発明は、インク液滴を吐出するために印刷素子のアレイにおける印刷素子を作動するための電気波形を適合するための方法をさらに含む。前記波形は特定の印刷素子から独立した第1のパルスを含み、該第1のパルスに加えられた第2のパルスをさらに含み、該第2のパルスは、前記電気波形による作動から得られるインク液滴の特性が変更されるように固定された強度及び調整可能な期間を有する。印刷プロセスに関連するインク液滴の特性はその体積速度であり、印刷素子の下にある基材にインク液滴が当たったときにできるドットのサイズを決定する。インク液滴の別の特性はその速度である。アレイ内の様々な印刷素子にわたってこれらの特性をより均一にするために、電気波形を示した方法で調整する必要があり得る。
【0014】
本発明の利用可能性のさらなる範囲は下記の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、当業者とってはこの詳細な説明から本発明の範囲内で様々な変更及び改変が明らかであるため、本発明の好ましい実施形態を示す詳細な説明及び具体例は説明のためのものにすぎないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
下記の詳細な説明及び添付の概略図から本発明をより完全に理解できる。詳細な説明及び図面は説明を目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
【
図4】
図4は、意図する調整可能な波形を提供する電子回路の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照しながら本発明を以下で説明する。図面において、同じ又は同様の要素は同じ参照符号で特定されている。
【0017】
図1は、従来技術で知られている2つの部分又は2つのパルスを含む波形1を示す。該波形は5〜25us(マイクロ秒)程度の時間をとり、最大電圧は30〜80V(ボルト)程度である。第1のパルス2(ジェットパルス)は、印刷素子におけるノズルからインク液滴を吐出するために印刷素子の圧電アクチュエータに印加される。第2のパルス3(ブレーキパルス)は印刷素子内のインクの残留振動を低減するために印加される。双方のパルスは、吐出される液滴の速度及び体積を調整し、ブレーキパルスの効果を調整するために、最大電圧に対してそれぞれ調整可能である。なお、波形1は圧電アクチュエータの容量性負荷によって多少変形し得る。
【0018】
図2は本発明に係る回路によって印加される波形を示す。この波形では、ジェットパルス2及びブレーキパルス3は、印刷素子から独立した基本部分(basic part)で構成される。この基本部分に加えて、追加電圧(extra voltage)4及び追加電圧5が容量性負荷に供給される。双方の追加電圧は可変期間6及び7を有するため、圧電アクチュエータの変形及び印刷素子内のインクに供給されるエネルギーが調整される。
【0019】
図3は好ましい波形を示す。追加電圧は、ジェットパルス2及びブレーキパルス3の双方において、共通波形生成器からのピーク電圧よりも低い電圧を有する。可変タイミング6及び7で電圧の変化は1度しかないため、回路の調整部での電力散逸は、
図2に示す波形に対して2倍低減される。
【0020】
図4はプリントヘッドモジュールであり、印刷素子は
図2又は
図3の波形に従って作動される。プリントヘッドモジュールはプリントヘッドドライバー基板10と、ドライバーASIC11と、印刷素子23を含むプリントヘッドチップ12とを含む。各印刷素子は、素子のインク内で電圧から音響波に変換するための圧電アクチュエータを有する。圧電アクチュエータは電気的に電子回路のための容量性負荷である。
【0021】
ドライバー基板10は、特定の印刷素子から独立した基本波形を生成する共通波形生成器13を含む。2つの固定電圧源14及び15は波形に追加電圧4及び5を供給するために用いるために基板上にある。個々の印刷素子23に対して波形を調整するためにタイミング6及び7を特定する波形選択モジュール17のためにプリントデータメモリ16が利用可能である。ドライバーASIC11は寄生効果を低減するためにプリントヘッド12に可能な限り近くに位置している。ASIC11は各印刷素子のために主スイッチコントロール(switch control)20及びスイッチモジュール22を含む。各スイッチモジュール22は調整スイッチコントロール21及び3つのトランジスタスイッチ31、32及び33を含む。主スイッチコントロール20は、生成器13によって生成される波形の基本部分を印刷素子に接続するための第1のスイッチ31のタイミングをプリントデータ16から決定する。波形選択モジュール17は、スイッチ
32及び33を開いた遮断状態から閉じた飽和状態にするタイミングを決定するために、調整スイッチコントロール21のためにパラメータを供給する。そのため、これらのトランジスタは導通状態では動作しないため、それらがもたらす散逸が制限される。結果として得られる印刷素子23に供給される電圧は、各印刷素子のために個々に調整可能な作動を得るために様々なスイッチによって制御される固定源の数の合計である。
【0022】
当業者であれば、添付のクレームの範囲内で他の実施形態も可能であることを認識する。
【0023】
本発明を説明してきたが、本発明は多くの方法で変更され得ることが分かる。そのような変更は本発明の範囲からの逸脱として見なすべきでなく、当業者であればそのような変更の全ては下記のクレームの範囲内に含まれることを意図したものであることが分かる。