【文献】
SHANG, Rui et al.,Effect of MgO and PVA on the Synthesis and Properties of Negative Thermal Expansion Ceramics of Zr2(,International Journal of Applied Ceramic Technology,2013年 9月,Vol.10, No.5,p.849-856
【文献】
ISOBE, Toshihiro et al.,Preparation and properties of negative thermal expansion Zr2WP2O12 ceramics,Materials Research Bulletin,2009年11月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、V、Li、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Hf、Nb、Sb、Te、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoからなる群から選ばれる1種以上の副成分元素を含有することを特徴とする請求項1記載の負熱膨張材。
W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を混合して、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を含有するスラリーを調製する第1工程と、該スラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第2工程と、該反応前駆体を焼成してAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムを得る第3工程と、を有する負熱膨張材の製造方法において、
該第1工程において、Al原子の含有量が、該第3工程を行い得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムに対して100〜6000質量ppmとなるように、該スラリーにAl源を混合すること、
該第3工程を行い得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムの熱膨張係数が−2.0×10−6〜−3.0×10−6/Kであること、
を特徴とする負熱膨張材の製造方法。
前記第1工程において、前記スラリーに、更に、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、V、Li、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Hf、Nb、Sb、Te、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoからなる群から選ばれる1種又は2種以上の副成分元素を有する化合物の1種又は2種以上を混合することを特徴とする請求項5記載の負熱膨張材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る負熱膨張材は、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムからなり、熱膨張係数が−2.0×10
-6〜−3.3×10
-6/Kであることを特徴とする負熱膨張材である。
【0024】
本発明の負熱膨張材は、リン酸タングステン酸ジルコニウムに、Al原子を含有させてなるものである。そして、本発明の負熱膨張材では、Al原子は、リン酸タングスデン酸ジルコニウムに固溶して存在している。
【0025】
本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム、すなわち、Al原子を含有させるリン酸タングステン酸ジルコニウムは、基本的に下記一般式(1)で表される。
Zr
x(WO
4)
y(PO
4)
z (1)
(式中、xは、1.7≦x≦2.3、好ましくは1.8≦x≦2.1であり、yは、0.8≦y≦1.2、好ましくは0.9≦y≦1.1であり、zは、1.7≦z≦2.3、好ましくは1.8≦z≦2.1である。)
【0026】
本発明の負熱膨張材中のAl原子の含有量は、負熱膨張材全体、すなわち、Al原子を含有し、必要に応じて、副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに対して、100〜6000質量ppm、好ましくは1000〜5000質量ppm、特に好ましくは1500〜5000質量ppmである。本発明の負熱膨張材では、Al原子の含有量が増えるに従って、熱膨張係数が大きくなる傾向がある。本発明の負熱膨張材において、Al原子の含有量が、上記範囲未満だと、Al原子の添加効果が不足し、一方、上記範囲を超えると、実用的な範囲の熱膨張係数でなくなり、負熱膨張の特性が損なわれる。本発明では、負熱膨張材に、良好な負熱膨張特性を持たせる観点から、Al原子の含有量は、負熱膨張材全体に対して100〜6000質量ppm、好ましくは1000〜5000質量ppm、特に好ましくは1500〜5000質量ppmとする。なお、本発明において、上記Al原子の含有量は、負熱膨張材が副成分元素を含有しない場合は、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに対する含有割合を指し、また、負熱膨張材が副成分元素を含有する場合は、Al原子及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに対する含有割合を指す。
【0027】
本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウムは、正熱膨張材に対する分散性や充填性を向上させることを目的として、副成分元素を含有することができる。副成分元素としては、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、V、Li、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Hf、Nb、Sb、Te、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoが挙げられ、これらの副成分元素は、1種であっても、2種以上であってもよい。これらの副成分元素のうち、Mg及び/又はVが、正熱膨張材に対する分散性や充填特性が高くなる点で好ましく、Mgが、Alとの相性がよい点で特に好ましい。なお、副成分元素とは、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに500ppm以上含有されているAl、Zr、W、P及びO以外の全ての元素を示す。
【0028】
本発明の負熱膨張材が、副成分元素を含有する場合、本発明の負熱膨張材中の副成分元素の合計含有量は、負熱膨張材全体、すなわち、Al原子及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに対して、好ましくは0.1〜3質量%、特に好ましくは0.2〜2質量%である。本発明の負熱膨張材中の副成分元素の含有量が、上記範囲にあることにより、優れた負熱膨張性を有し、分散性及び充填性に優れたものになる。なお、本発明の負熱膨張材中の副成分元素の合計含有量は、本発明の負熱膨張材が副成分元素を1種のみ含有する場合は、その1種の副成分元素の含有量を示し、また、本発明の負熱膨張材が、2種以上の副成分元素を含有する場合は、それら2種以上の副成分元素の含有量の合計量を示す。
【0029】
本発明の負熱膨張材は、リン酸タングステン酸ジルコニウムからなる負熱膨張材であり、熱膨張係数に特徴がある。なお、本発明において、熱膨張係数は、以下の手順により求められる。先ず、負熱膨張材試料0.5gとバインダー樹脂0.05gとを混合し、3mm×20mmの金型に全量充填し、次いで、バンドプレスを用いて2tの圧力で成形して成形体を作成する。この成形体を電気炉中1100℃で2時間大気雰囲気で焼成して、セラミック成形体を得る。得られるセラミック成形体を、熱機械測定装置を用いて、窒素雰囲気で、荷重10g、温度50〜250℃として、熱膨張係数を測定する。熱機械測定装置としては、例えば、NETZSCH JAPAN製 TMA400SEを用いることができる。
【0030】
本発明の負熱膨張材の熱膨張係数は、−2.0×10
-6〜−3.3×10
-6/K、好ましくは−2.2×10
-6〜−3.1×10
-6/K、特に好ましくは−2.2×10
-6〜−3.0×10
-6/Kである。従来のリン酸タングステン酸ジルコニウム及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムからなる負熱膨張材は、熱膨張係数が概ね−3.0×10
-6〜−3.3×10
-6/Kとなるが、本発明の負熱膨張材は、Al原子の含有量により、従来のリン酸タングステン酸ジルコニウム及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムの熱膨張係数が、上記範囲で調整されている。
【0031】
本発明の負熱膨張材のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜50m
2/g、特に好ましくは0.1〜20m
2/gである。負熱膨張材のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等のフィラーとして用いる際に、取扱いが容易になる。
【0032】
本発明の負熱膨張材の平均粒子径は、特に制限されないが、走査型電子顕微鏡観察法により求められる平均粒子径で、好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.5〜30μmである。負熱膨張材の平均粒子径が上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等のフィラーとして用いる際に、取扱いが容易になる。
【0033】
本発明の負熱膨張材の粒子形状は、特に制限されず、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、破砕状であってもよい。
【0034】
本発明の負熱膨張材は、以下に述べる本発明のリン酸タングステン酸ジルコニウムの製造方法により、好適に製造される。
【0035】
本発明のリン酸タングステン酸ジルコニウムの製造方法は、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を混合して、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を含有するスラリーを調製する第1工程と、該スラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第2工程と、該反応前駆体を焼成してAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムを得る第3工程と、を有する負熱膨張材の製造方法において、該第1工程において、Al原子の含有量が、該第3工程を行い得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムに対して100〜6000質量ppmとなるように、該スラリーにAl源を混合すること、を特徴とする負熱膨張材の製造方法である。
【0036】
本発明のリン酸タングステン酸ジルコニウムの製造方法は、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を混合して、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を含有するスラリーを調製する第1工程と、スラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第2工程と、反応前駆体を焼成してAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムを得る第3工程と、を有する。
【0037】
本発明のリン酸タングステン酸ジルコニウムの製造方法に係る第1工程は、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を混合して、W源と、Zr源と、P源と、Al源と、を含有する水性スラリーを調製する工程である。つまり、第1工程では、W源、Zr源、P源及びAl源を水溶媒に分散させて、W源、Zr源、P源及びAl源が水溶媒に分散している水性スラリーを調製する。
【0038】
第1工程に係るW源は、W原子を有する化合物である。W源としては、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物が好ましく、例えば、三酸化タングステン、タングスデン酸アンモニウム、塩化タングステン等が挙げられる。
【0039】
第1工程に係るZr源は、Zr原子を有する化合物である。Zr源としては、水酸化ジルコニウム及び/又は炭酸ジルコニウム等が挙げられる。炭酸ジルコニウムは、塩基性塩であってもよく、アンモニアやナトリウム、カリウムなどの復塩であってもよい。
【0040】
第1工程に係るP源は、P原子を有する化合物である。P源としては、リン酸が好ましい。
【0041】
第1工程に係るAl源は、Al原子を有する化合物である。Al源としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、重リン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等が挙げられ、これらのうち硝酸アルミニウムが、安価で工業的に入手が容易であり、また、良好な負熱膨張特性を有する負熱膨張材が得られ易い点で好ましい。
【0042】
第1工程におけるスラリーの調製方法は、各原料が均一に分散したスラリーが得られれば、特に制限はないが、先にW源が均一に分散した水性スラリーを調製し、これにP源及びZr源を混合し、次いでAl源を混合することが、各原料が均一に分散した水性スラリーを調製し易い点で好ましい。また、スラリーの調製において、必要により、スラリーをメディアミルで湿式粉砕処理することができる。メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ及びサンドミルが好ましい。湿式粉砕処理の運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置サイズや処理量に応じて適切に選択される。
【0043】
第1工程におけるスラリーの調製において、メディアミルを用いる湿式粉砕処理を一層効率的に行う観点から、スラリーに、分散剤を混合してもよい。スラリーに混合させる分散剤としては、各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩等が挙げられる。スラリー中の分散剤の濃度は、分散効果が高くなる点で、好ましくは0.01〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0044】
第1工程におけるスラリーの調製において、メディアミルを用いる湿式粉砕処理を行う場合、レーザー回折・散乱法により求められる固形分の平均粒子径が、好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.1μm以上0.5μm以下となるまで、湿式粉砕処理を行う。固形分の平均粒子径が上記範囲となるまで、湿式粉砕処理を行うことが、反応性に一層優れた反応前駆体が得られる点で好ましい。
【0045】
第1工程におけるスラリーへのP源の混合量については、スラリー中のW源のW原子に対するP源のP原子の原子換算のモル比(P/W)が、好ましくは1.7〜2.3.特に好ましくは1.9〜2.1である。スラリー中のW源のW原子に対するP源のP原子の原子換算のモル比(P/W)が上記範囲にあることが、反応性に優れた反応前駆体が得られる点で好ましい。
【0046】
第1工程におけるスラリーへのZr源の混合量については、スラリー中のW源のW原子に対するZr源のZr原子の原子換算のモル比(Zr/W)が、好ましくは1.7〜2.3、特に好ましくは1.9〜2.1である。スラリー中のW源のW原子に対するZr源のZr原子の原子換算のモル比(Zr/W)が上記範囲にあることが、反応性に優れた反応前駆体が得られる点で好ましい。
【0047】
第1工程では、Al原子の含有量が、第3工程を経て得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムに対して、100〜6000質量ppm、好ましくは1000〜5000ppm、特に好ましくは1500〜5000質量ppmとなるように、スラリーにAl源を混合する。本発明では、リン酸タングステン酸ジルコニウム中のAl原子の含有量が増えるに従って、負熱膨張材の熱膨張係数が大きくなる傾向がある。スラリー中のAl原子の含有量が、上記範囲未満だと、負熱膨張材へのAl原子の添加効果が不足し、また、上記範囲を超えると、負熱膨張材が実用的な範囲の熱膨張係数でなくなり、負熱膨張の特性が損なわれる。なお、本発明では、第3工程を経て得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムとは、負熱膨張材に副成分元素を含有させない場合は、第3工程を経て得られるAl原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムであり、負熱膨張材に副成分元素を含有させる場合は、Al原子及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムである。また、第3工程を経て得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムの生成量は、第1工程においてスラリーに混合するW源と、Zr源と、P源と、Al源と、必要に応じて混合される副生分元素を有する化合物の混合量から算出される。
【0048】
スラリー濃度、すなわち、スラリー中の固形分含有量は、好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。スラリー濃度が上記範囲にあることにより、操作性と取扱いが容易な粘度となる。
【0049】
第1工程の形態例としては、P源としてリン酸を用い、Zr源として水酸化ジルコニウム及び炭酸ジルコニウムを用いることにより、リン酸とZr源がスラリー中で反応し、W源と、P及びZrを含む無定形の化合物が均一分散した中間スラリー(A)を得、次いで、この中間スラリー(A)にAl源を混合することによりスラリー(1)を得る第1工程(1)が挙げられる。第1工程(1)を行い得られるスラリー(1)を第2工程に用いることが、優れた反応性を有する反応前駆体が得られる点で好ましい。
【0050】
第1工程(1)の中間スラリー(A)の調製において、リン酸とZr源とを反応させる温度は、好ましくは5〜100℃、特に好ましくは20〜90℃であり、リン酸とZr源とを反応させる時間は、0.5時間以上が好ましい。
【0051】
また、中間スラリー(A)の調製において、中間スラリー(A)を、更にメディアミルで湿式粉砕処理することが、更に均一性を高め、反応性が高い反応前駆体が得られる点で好ましい。メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ及びサンドミルが好ましい。湿式粉砕処理の運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置サイズや処理量に応じて適切に選択される。
【0052】
第1工程(1)では、次いで、中間スラリー(A)に、Al源を混合して、必要により、撹拌等の混合処理を施して、スラリーにAl源を分散させて、スラリー(1)を得る。
【0053】
第1工程では、第1工程が完了するまでの間に、スラリーに、更に、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、V、Li、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Hf、Nb、Sb、Te、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoからなる群から選ばれる1種又は2種以上の副成分元素を有する化合物の1種又は2種以上を混合することができる。
【0054】
副成分元素としては、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、V、Li、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Hf、Nb、Sb、Te、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHo等が挙げられる。そして、副成分元素を有する化合物としては、副成分元素を有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、アンモニウム塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙がられる。副成分元素を有する化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0055】
第1工程において、スラリーに副成分元素を有する化合物を混合する場合に、スラリーへの副生分元素を有する化合物の混合量であるが、副成分元素の原子換算の含有量が、第3工程を経て得られるAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウム、すなわち、Al原子及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムに対して、好ましくは0.1〜3質量%、特に好ましくは0.2〜2質量%となるように、スラリーに副成分元素を有する化合物を混合する。スラリーへの副成分元素を有する化合物の混合量が、上記範囲にあることが、負熱膨張材が優れた負熱膨張性を有し、分散性及び充填性に優れたものになる点で好ましい。
【0056】
本発明の負熱膨張材の製造方法に係る第2工程は、第1工程で得られるスラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る工程である。
【0057】
噴霧乾燥により乾燥処理を行うと原料粒子が密に詰まった状態の造粒物が得られることから、より一層X線回折的には単相のAl原子を含有するリン酸タングスデン酸ジルコニウが得られ易くなる。
【0058】
噴霧乾燥法においては、所定手段によりスラリーを霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることで反応前駆体を得る。スラリーの霧化には、例えば、回転円盤を用いる方法と、圧力ノズルを用いる方法がある。第2工程においてはいずれの方法も用いることができる。
【0059】
噴霧乾燥法において、霧化された液滴の大きさは特に限定されないが、1〜40μmが好ましく、5〜30μmが特に好ましい。噴霧乾燥装置へのスラリーの供給量は、この観点を考慮して決定することが好ましい。
【0060】
なお、噴霧乾燥装置において乾燥のために用いる熱風の温度は、100〜270℃、好ましくは150〜230℃であることが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0061】
第2工程で得られる反応前駆体は、リン酸タングステン酸ジルコニウムを生成する原料成分のW、P及びZrと、Alと、更には必要により含有させた副成分元素と、を含有する造粒粒子である。反応前駆体は、少なくともリン酸とW源とがスラリー中で反応して生成されるPとZrを含む無定形の化合物を含むものであることが、反応性の優れた反応前駆体となる点で好ましい。なお、P源としてリン酸を用い、Zr源として水酸化ジルコニウム及び炭酸ジルコニウムを用いる場合には、リン酸とZr源が反応し、PとZrを含む無定形の化合物が生成することは知られている(例えば、特許第6105140号公報、特許第6190023号公報等参照)。
【0062】
第3工程は、反応前駆体を焼成することにより、目的とする負熱膨張材を得る工程である。
【0063】
第3工程において、反応前駆体を焼成する焼成温度は900〜1300℃である。反応前駆体の焼成温度が、上記範囲未満だと、未反応の酸化物等が残存し、X線回折的に単相のAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムを得ることが難しくなる傾向があり、また、上記範囲を超えると、粒子同士が固結した状態の塊になり、粉末が得られ難い傾向がある。
【0064】
第3工程において、反応前駆体を焼成する焼成時間は、特に制限されず、X線回折的に単相のAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムが生成するまで十分な時間反応を行う。第3工程においては、多くの場合、焼成時間が、1時間以上、好ましくは2〜20時間で、満足の行く諸物性のAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムが生成する。また、第3工程において、反応前駆体を焼成する焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよい。
【0065】
第3工程では、焼成を1回行ってもよいし、所望により複数回行ってもよい。或いは、第3工程では、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再度、焼成を行ってもよい。
【0066】
第3工程において、焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕、解砕、分級等を行い、目的とするX線回折的に単相のAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムを得る。
【0067】
本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材は、X線回折的に単相のAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウムである。なお、本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材は、副成分元素を有する化合物を用いない場合には、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムであり、副成分元素を有する化合物を用いる場合には、Al原子及び副成分元素を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウムである。
【0068】
以上にようにして、本発明の負熱膨張材の製造方法では、第1工程から第3工程を経て、負熱膨張材を得る。
【0069】
本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察により求められる平均粒子径で、好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.5〜30μmであり、また、負熱膨張材のBET比表面積は、好ましくは0.1〜50m
2/g、好ましくは0.1〜20m
2/gである。負熱膨張材の平均粒子径及びBET比表面積が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等へのフィラー用として用いる際に、取り扱いが容易になる点で好ましい。
【0070】
本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材の熱膨張係数は、前述した方法で求められる熱膨張係数で、−2.0×10
-6〜−3.3×10
-6/K、好ましくは−2.2×10
-6〜−3.0×10
-6/Kである。そして、本発明の負熱膨張材の製造方法では、第1工程で混合するAl源の量を上記範囲で調節することにより、負熱膨張材の熱膨張係数を上記範囲に調節することができる。
【0071】
本発明の負熱膨張材は、粉体又はペーストとして用いられる。本発明の負熱膨張材をペーストとして用いる場合には、粘性の低い液状樹脂と混合し、ペーストの状態で、本発明の負熱膨張材を用いることができる。あるいは、本発明の負熱膨張材を、粘性の低い液状樹脂に分散させ、更に必要により、バインダー、フラックス材及び分散剤等を含有させて、ペーストの状態で本発明の負熱膨張材を用いても良い。
【0072】
また、本発明の負熱膨張材の樹脂やゴム等への分散性を改良する目的で、本発明の負熱膨張材をシランカップリン剤で表面処理して用いることができる。
【0073】
本発明の負熱膨張材を、正熱膨張材と併用して、複合材料として用いることができる。
【0074】
本発明の複合材料は、上記本発明の負熱膨張材と正熱膨張材とを含むことを特徴とする複合材料である。
【0075】
本発明の複合材料において、本発明の負熱膨張材と併用する正熱膨張材としては、各種有機化合物又は無機化合物が用いられる。正熱膨張材として用いられる有機化合物または無機化合物としては、特に限定されない。正熱膨張材として用いられる有機化合物としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS、ポリアクリレート、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂(PET樹脂)およびポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。また、正熱膨張材として用いられる無機化合物としては、例えば、二酸化ケイ素、グラファイト、サファイア、各種のガラス材料、コンクリート材料、各種のセラミック材料などが挙げられる。これらのうち、正熱膨張材が、金属、合金、ガラス、セラミックス、ゴム及び樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0076】
本発明の複合材料における本発明の負熱膨張材の含有量としては、当該分野において一般的な含有量が採用される。本発明の複合材料の用途や要求性能に応じて、本発明の負熱膨張材の含有量が選択される。
【0077】
本発明の複合材料においては、本発明の負熱膨張材と他の化合物との配合比率を適宜選択することによって、負熱膨張率、零熱膨張率又は低熱膨張率を実現することが可能である。本発明の負熱膨張材では、リン酸タングステン酸ジルコニウムにAl原子を含有させることにより、熱膨張係数を−2.0×10
-6〜−3.3×10
-6/Kと広範囲で調節が可能であるので、本発明の負熱膨張材を用いる本発明の複合材料は、本発明の負熱膨張材の含有量及び正熱膨張材の種類を選択することにより、熱膨張率の調節が容易となる。
【0078】
本発明の複合材料は、特に、封着材料、電子部品の封止材料等として好適に用いられる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
<第1工程>
市販の三酸化タングステン(WO
3;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水150質量部を添加して、室温(25℃)で60分間撹拌して、三酸化タングステンを含む9質量%スラリーを調製した。次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと85質量%リン酸水溶液と水酸化マグネシウムとを、スラリー中のZr:W:Pのモル比が2:1:2となるように添加し、更に水酸化マグネシウムを0.35質量部添加して、室温(25℃)で60分間撹拌した。
次いで、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1.3質量部、仕込み、スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア攪拌型ビーズミルに供給し、湿式粉砕を行った。レーザー回折・散乱法により求められる湿式粉砕後のスラリー中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
次いで、湿式粉砕後のスラリーに硝酸アルミニウム・9水和物 2.8質量部を添加して、室温(25℃)で60分間撹拌して、原料スラリーを得た。
<第2工程>
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、少なくともPとZrを含む無定形の化合物を含有する反応前駆体を得た。
<第3工程>
次いで、得られた反応前駆体を1050℃で2時間大気中で焼成反応を行い、白色の焼成品を得た。焼成品を乳鉢で粉砕してAl原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0081】
(実施例2)
第1工程において、湿式粉砕後のスラリーに添加する硝酸アルミニウム・9水和物を1.1質量部とする以外は、実施例1と同様の操作を行い、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0082】
(実施例3)
第1工程において、湿式粉砕後のスラリーに添加する硝酸アルミニウム・9水和物を0.84質量部とする以外は、実施例1と同様の操作を行い、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0083】
(
参考例
1)
第1工程において、湿式粉砕後のスラリーに添加する硝酸アルミニウム・9水和物を0.56質量部とする以外は、実施例1と同様の操作を行い、Al原子を含有するリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0084】
(比較例1)
<第1工程>
市販の三酸化タングステン(WO
3;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水150質量部を添加して、室温(25℃)で60分間撹拌して、三酸化タングステンを含む9質量%スラリーを調製した。次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと85質量%リン酸水溶液と水酸化マグネシウムとを、スラリー中のZr:W:Pのモル比が2:1:2となるように添加し、更に水酸化マグネシウムを0.35質量部添加して、室温(25℃)で60分間撹拌した。
次いで、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1.3質量部、仕込み、スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア攪拌型ビーズミルに供給し、湿式粉砕を行った。レーザー回折・散乱法により求められる湿式粉砕後のスラリー中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
<第2工程>
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、少なくともPとZrを含む無定形の化合物を含有する反応前駆体を得た。
<第3工程>
次いで、得られた反応前駆体を1050℃で2時間大気中で焼成反応を行い、白色の焼成品を得た。焼成品を乳鉢で粉砕してリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0085】
(比較例2)
比較例1の第1工程で、スラリーに水酸化マグネシウムを添加しないこと以外は、比較例1と同様な操作を行い、白色の焼成品を得た。焼成品を乳鉢で粉砕してリン酸タングステン酸ジルコニウム粉末を得、これを負熱膨張材試料とした。
得られた負熱膨張材試料をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。
【0086】
<物性評価>
実施例及び比較例で得られた負熱膨張材試料について、平均粒子径、BET比表面積及び熱膨張係数を測定した。なお、平均粒子径及び熱膨張係数は下記のようにして測定した
。その結果を表1に示す。また、実施例1で得られた負熱膨張材試料のX線回折図を
図1に、SEM写真を
図2に示す。
【0087】
(平均粒子径)
負熱膨張材試料の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察において倍率400倍で任意に抽出した粒子50個以上の平均値により求めた。
【0088】
(線熱膨張係数)
<セラミック成型体の作製>
実施例及び比較例で得られた負熱膨張材試料0.5gとバインダー(SpectroBlend 44μm Powder)0.05gを乳鉢で5分間混合し、3mm×20mmの金型に全量充填した。次いで、ハンドプレスを用いて2tの圧力で成型して粉末成型体を作製した。得られた粉末成型体を電気炉にて1100℃で2時間、大気雰囲気中で焼成して、リン酸タングステン酸ジルコニウムのセラミック成型体を得た。
<熱膨張係数の測定>
セラミック成型体の線熱膨張係数を熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)で測定した。測定条件は、窒素雰囲気、荷重10g、温度範囲50℃〜250℃とした。
【0089】
【表1】
1)Al含有量は、第3工程を経て生成するAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウム全体に対する硝酸アルミニウム中のAl原子の割合を示す。
2)Mg含有量は、第3工程を経て生成するAl含有リン酸タングステン酸ジルコニウム全体に対する水酸化マグネシウム中のMg原子の割合を示す。
【0090】
表1の結果より、比較例1及び比較例2から明らかなように、リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、Mgを含有させることにより小さくなることが分かる。これに対して、比較例1と実施例1〜4から明らかなように、Alを含有させることにより、リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数が大きくなり、MgとAlとは負熱膨張特性に及ぼす挙動が異なることが分かる。また、実施例1〜4から明らかなようにAlの含有量を変化させることにより、リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数を調整することができることが分かる。
【0091】
(実施例4〜5及び参考例
2)
<エポキシ樹脂複合体の作製>
液状エポキシ樹脂(三菱化学828EL)4gに対して表2に示す体積%(Vol%)となるように実施例3で得られた負熱膨張材試料を秤量し、硬化剤(四国化成キュアゾール2E4MZ)を0.12g加えてミキサーにて回転速度2000rpmで1分間混合してペーストを作成し、1.5mlのマイクロチューブ容器に充填した。次いで、乾燥機で回転させながら80℃で2時間保持し、次いで、150℃で0.5時間静置状態で硬化させエポキシ樹脂複合体試料を得た。
得られたエポキシ樹脂複合体試料を切断し、熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)にて、加重50g、昇温温度5℃/minで線膨張を測定し、40〜200℃の範囲の熱膨張係数(CTE)を求めた。その結果を表2に示した。
また、エポキシ樹脂にフィラーを添加しないもの(ブランク)及びエポキシ樹脂にシリカフィラー(平均粒子径6.4μm:宇部日東社製、ハイプレシカ)を添加したもの(参考例
2)についても同様な試験を行い、その結果も表2に併記した。
【0092】
【表2】
【0093】
表2により明らかなように、本発明の負熱膨張材をエポキシ樹脂に含有させたエポキシ樹脂複合体は、無添加(ブランク)と比べて、熱膨張が抑制され、また、40Vol%配合したもの(実施例5)は、シリカを同量配合したもの(参考例1)と比べて、熱膨張が抑制されていることが分かる。