(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1の実施の形態〕
[ワイヤ放電加工機の構成]
図1はワイヤ放電加工機10の構成図である。ワイヤ放電加工機10はワーク12とワイヤ電極14との間の極間において放電を生じさせてワーク12の加工を行なう。
【0011】
ワイヤ放電加工機10は、極間に放電誘起電圧を印加する放電誘起回路16、極間に加工電流を供給する主放電回路18、極間電圧を検出する極間電圧検出部20、極間電圧に応じて極間状態を判定する極間状態判定部22、判定された極間状態を記録する極間状態記録部24、過去の極間状態の情報に基づいて加工電流の大きさを設定する加工電流設定部26、極間に放電誘起電圧を印加するように放電誘起回路16を制御する放電誘起電圧制御部28、および、極間に加工電流を供給するように主放電回路18を制御する加工電流制御部30を有している。
【0012】
放電誘起回路16は、極間に放電誘起電を印加して、極間に放電を生じさせる。
主放電回路18は、極間に放電が生じた後に、ワーク12を加工するための加工電流を供給する。
【0013】
極間電圧検出部20は、極間に放電誘起電圧が印加されているときのワーク12とワイヤ電極14との間の電圧(極間電圧)を検出する。
【0014】
極間状態判定部22は、極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間電圧に基づいて、極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態を判定する。極間状態とは、極間において放電が生じている正常状態、ワーク12とワイヤ電極14とが接触している、または、ワーク12とワイヤ電極14との間に加工屑が滞留していることによる短絡状態、および、極間において通電していない開放状態のいずれかのことを示す。極間状態判定部22における極間状態判定処理については後に詳述する。
【0015】
極間状態記録部24は、極間に放電誘起電圧が印加されるたびに、極間状態判定部22において判定された極間状態を記録する。
【0016】
加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態に応じて、後に説明する正常加工電流の大きさを設定する。前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態は、極間状態記録部24に記録されている。加工電流設定部26における加工電流設定処理については後に詳述する。
【0017】
放電誘起電圧制御部28は、所定周期で所定電圧の放電誘起電圧を極間に印加するように放電誘起回路16を制御する。
【0018】
加工電流制御部30は、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態に応じて、加工電流として極間に正常加工電流を供給する、もしくは、短絡加工電流を供給する、または、極間に加工電流を供給しないように主放電回路18を制御する。加工電流制御部30における加工電流制御処理については後に詳述する。
【0019】
[極間状態判定処理]
図2は、極間状態判定部22において行われる極間状態判定処理の流れを示すフローチャートである。極間状態判定処理は、極間に放電誘起電圧が印加されている間に行われる。
【0020】
ステップS1において、極間状態判定部22は、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T1が経過したか否かを判定する。時間T1が経過した場合にはステップS2へ移行し、時間T1が経過していない場合にはステップS1の処理を繰り返す。
【0021】
ステップS2において、極間状態判定部22は、極間電圧が電圧V1以上であるか否かを判定する。極間電圧が電圧V1以上である場合にはステップS3へ移行し、極間電圧が電圧V1未満である場合にはステップS7に移行する。
【0022】
ステップS3において、極間状態判定部22は、極間電圧が電圧V2以下であるか否かを判定する。極間電圧が電圧V2以下である場合にはステップS4へ移行し、極間電圧が電圧V2より大きい場合にはステップS5に移行する。
【0023】
ステップS4において、極間状態判定部22は、極間状態を正常状態と判定して、極間状態判定処理を終了する。
【0024】
ステップS5において、極間状態判定部22は、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T2が経過したか否かを判定する。時間T2が経過した場合にはステップS6へ移行し、時間T2が経過していない場合にはステップS3に戻る。
【0025】
ステップS6において、極間状態判定部22は、極間状態を開放状態と判定して、極間状態判定処理を終了する。
【0026】
ステップS7において、極間状態判定部22は、極間状態を短絡状態と判定して、極間状態判定処理を終了する。
【0027】
[極間状態毎の極間電圧の波形]
図3A〜
図3Cは、極間状態毎の極間電圧の波形を示す図である。
図3Aは、正常状態の極間電圧の波形を示す。
図3Bは、開放状態の極間電圧の波形を示す。
図3Cは、短絡状態の極間電圧の波形を示す。
【0028】
まず、正常状態における極間電圧の波形について説明する。正常状態では、放電誘起電圧が印加される直前において、適切な広さの極間が確保されている。極間は加工液によって満たされており、極間は絶縁状態である。このとき、放電誘起電圧が印加されると極間電圧が上昇し、
図3Aに示されるように極間電圧は電圧V1以上となる。その後、ワイヤ電極14がワーク12に接近し、極間が狭くなると極間の絶縁が破壊されて放電が生じてワイヤ電極14とワーク12とが電気的に接続される。そのため、極間電圧が低下し、
図3Aに示されるように極間電圧は電圧V2(V2<V1)以下となる。したがって、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T1経過したときの極間電圧が電圧V1以上であって、さらに時間T2経過を経過するまでの間に極間電圧が電圧V2以下となった場合には、極間に放電が生じており、極間状態は正常状態であると判定することができる。
【0029】
次に、開放状態における極間電圧の波形について説明する。開放状態では、放電誘起電圧が印加される直前において、正常状態に比べて極間が広くなっている。そのため、ワイヤ電極14がワーク12に接近しても、極間が十分に狭くならないため、極間は絶縁されたままであり、放電が生じない。そのため、
図3Bに示されるように、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T2経過しても、極間電圧は電圧V2以下とならない。したがって、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T1経過したときの極間電圧が電圧V1以上であって、時間T2経過したときの極間電圧が電圧V2より大きい場合には、極間に放電が生じておらず、極間状態は開放状態であると判定することができる。
【0030】
最後に、短絡状態における極間電圧の波形について説明する。短絡状態では、放電誘起電圧が印加される直前において、ワーク12とワイヤ電極14とが接触している、または、ワーク12とワイヤ電極14との間に加工屑が滞留している。そのため、極間は放電誘起電圧が印加される前から電気的に接続された状態となっており、放電誘起電圧が印加されても極間電圧はほとんど上昇しない。したがって、極間に放電誘起電圧が印加されてから時間T1経過したときの極間電圧が電圧V1未満である場合には、極間状態は短絡状態であると判定することができる。
【0031】
なお、上記のように電圧V2は電圧V1よりも小さくなるように設定されてもよいし、電圧V2は電圧V1と等しくなるように設定されていてもよい。
【0032】
[加工電流設定処理]
図4は、加工電流設定部26において行われる加工電流設定処理の流れを示すフローチャートである。
【0033】
ステップS11において、加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態は開放状態であるか否かを判定する。開放状態である場合にはステップS13へ移行し、開放状態でない場合にはステップS12へ移行する。
【0034】
ステップS12において、加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態は短絡状態であるか否かを判定する。短絡状態である場合にはステップS13へ移行し、短絡状態でない(正常状態である)場合にはステップS14へ移行する。
【0035】
ステップS13において、加工電流設定部26は、正常加工電流を所定電流よりも大きく設定して、加工電流設定処理を終了する。
【0036】
ステップS14において、加工電流設定部26は、正常加工電流を所定電流に設定して、加工電流設定処理を終了する。
【0037】
なお、
図4に示された加工電流設定部26において行われる加工電流設定処理の流れを示すフローチャートでは、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態の場合、または、短絡状態である場合に、加工電流設定部26は正常加工電流を所定電流よりも大きく設定している。これを、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態の場合に、加工電流設定部26は正常加工電流を所定電流よりも大きく設定し、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態の場合には、加工電流設定部26は正常加工電流を所定電流に設定してもよい。または、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態の場合に、加工電流設定部26は正常加工電流を所定電流に設定し、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態の場合には、加工電流設定部26は正常加工電流を所定電流よりも大きく設定してもよい。
【0038】
[加工電流制御処理]
図5は、加工電流制御部30において行われる加工電流制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0039】
ステップS21において、加工電流設定部26は、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態であるか否かを判定する。正常状態である場合にはステップS22へ移行し、正常状態でない場合にはステップS23へ移行する。
【0040】
ステップS22において、加工電流設定部26は、極間に正常加工電流を供給するように主放電回路18を制御して、加工電流制御処理を終了する。極間には、加工電流設定部26において設定された大きさの正常加工電流が供給される。
【0041】
ステップS23において、加工電流設定部26は、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態であるか否かを判定する。短絡状態である場合にはステップS24へ移行し、短絡状態でない場合にはステップS25へ移行する。
【0042】
ステップS24において、加工電流設定部26は、極間に短絡加工電流を供給するように主放電回路18を制御して、加工電流制御処理を終了する。極間には所定電流よりも小さな短絡電流が供給される。
【0043】
ステップS25において、加工電流設定部26は、極間に加工電流を供給しないように主放電回路18を制御して、加工電流制御処理を終了する。
【0044】
[加工電流について]
図6Aは、極間電圧のタイムチャートである。
図6Bは、加工電流のタイムチャートである。
【0045】
図6Aおよび
図6Bに示されるように、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態であって、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態である場合には、所定電流よりも大きな正常加工電流が加工電流として極間に供給される(加工電流MC1参照)。これにより、1回の主放電におけるワーク12の加工量を大きくすることができる。
【0046】
図6Aおよび
図6Bに示されるように、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態であって、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態である場合には、所定電流よりも大きな正常加工電流が加工電流として極間に供給される(加工電流MC2参照)。これにより、1回の主放電におけるワーク12の加工量を大きくすることができる。
【0047】
図6Aおよび
図6Bに示されるように、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態であって、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態である場合には、所定電流と等しい正常加工電流が極間に加工電流として供給される(加工電流MC3参照)。これにより、主放電によるワイヤ電極14の断線を抑制することができる。
【0048】
図6Aおよび
図6Bに示されるように、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態である場合には、所定電流よりも小さい短絡加工電流が加工電流として極間に供給される(加工電流MC4、MC5参照)。これにより、主放電時の衝撃により、ワイヤ電極14をワーク12から離すことができる、または、ワーク12とワイヤ電極14との間に滞留している加工屑を除去することができる。
【0049】
図7Aおよび
図7Bは、加工電流の大きさの調整方法について説明する図である。
図7Aは、三角波の加工電流を示す。
図7Bは、台形波の加工電流を示す。加工電流の大きさは、主放電回路18の図示しないスイッチング素子のオン時間によって調整する。本実施の形態では、加工電流として三角波または台形波が用いられるが、別の波形状の加工電流を用いるようにしてもよい。
【0050】
[作用効果]
ワイヤ放電加工機10によりワーク12の加工速度を向上させるためには加工電流を大きくすればよい。しかし、加工電流を大きくすると、ワイヤ電極14が断線する可能性が高くなる。
【0051】
本出願人は、放電誘起電圧の印加時に開放状態である場合には、極間に加工電流が供給されないため、極間への単位時間あたりのエネルギ投入量が減少する点に着目した。本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回以前において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態に応じて正常加工電流の大きさを設定する。具体的には、加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態である場合には、正常加工電流を所定電流よりも大きく設定する。そして、今回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態である場合には、加工電流制御部30は、設定された正常加工電流を極間に供給するように主放電回路18を制御する。これにより、エネルギ投入量の時間平均を増加させることができ、ワイヤ放電加工機10によるワーク12の加工速度を向上させるとともに、ワイヤ電極14が断線する可能性を低減することができる。
【0052】
また、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態のみに基づいて、正常加工電流の大きさを設定する。これにより、加工電流設定部26における加工電流設定処理を簡易な処理とすることができる。
【0053】
また、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態である場合には、正常加工電流を所定電流よりも大きく設定する。放電誘起電圧の印加時に短絡状態である場合には、極間には所定電流よりも小さい短絡加工電流が供給されるため、極間への単位時間あたりのエネルギ投入量が減少する。前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態である場合には、加工電流設定部26は、正常加工電流を所定電流よりも大きく設定する。これにより、エネルギ投入量の時間平均を増加させることができ、ワイヤ放電加工機10によるワーク12の加工速度を向上させるとともに、ワイヤ電極14が断線する可能性を低減することができる。
【0054】
〔第2の実施の形態〕
第1の実施の形態では、前回において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態のみに基づいて、正常加工電流の大きさを設定していたが、前回以前の複数回において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態に基づいて、正常加工電流の大きさを設定するようにしてもよい。
【0055】
本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回以前において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が開放状態である連続回数が多いほど、正常加工電流を大きく設定する。
【0056】
図8Aは、極間電圧のタイムチャートである。
図8Bは、加工電流のタイムチャートである。
図8Aおよび
図8Bに示されるように、前回以前の極間状態が開放状態である連続回数が2回である場合の正常加工電流に比べて、前回以前の極間状態が開放状態である連続回数が5回である場合の正常加工電流は大きく設定される(加工電流MC11、MC12参照)。
【0057】
[作用効果]
極間状態が開放状態である連続回数が多いほど、極間への単位時間あたりのエネルギ投入量が減少する。そこで、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回以前において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が開放状態である連続回数が多いほど、正常加工電流を大きく設定する。これにより、エネルギ投入量の時間平均を増加させることができ、ワイヤ放電加工機10によるワーク12の加工速度を向上させるとともに、ワイヤ電極14が断線する可能性を低減することができる。
【0058】
〔第3の実施の形態〕
第1の実施の形態では、前回において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態のみに基づいて、正常加工電流の大きさを設定していたが、前回以前の複数回において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態に基づいて、正常加工電流の大きさを設定するようにしてもよい。
【0059】
本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回以前の所定回数において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が開放状態である回数が多いほど、正常加工電流を大きく設定する。
【0060】
図9Aは、極間電圧のタイムチャートである。
図9Bは、加工電流のタイムチャートである。
図9Aおよび
図9Bに示されるように、前回以前の所定回数(例えば、4回)において極間状態が開放状態である回数が2回である場合の正常加工電流に比べて、前回以前の所定回数において極間状態が開放状態である回数が3回である場合の正常加工電流は大きく設定される(加工電流MC21、MC22参照)。
【0061】
[作用効果]
所定回数内において、極間状態が開放状態である回数が多いほど、極間への単位時間あたりのエネルギ投入量が減少する。そこで、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、前回以前の所定回数において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が開放状態である回数が多いほど、正常加工電流を大きく設定する。これにより、エネルギ投入量の時間平均を増加させることができ、ワイヤ放電加工機10によるワーク12の加工速度を向上させるとともに、ワイヤ電極14が断線する可能性を低減することができる。
【0062】
〔第4の実施の形態〕
第1の実施の形態〜第3の実施の形態のワイヤ放電加工機10では、前回以前において極間に放電誘起電圧が印加されているときの極間状態に基づいて、正常加工電流の大きさを設定していた。これに対して、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、今回において極間に放電誘起電圧が印加されてから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、設定されている正常加工電流を大きくするように補正する。
【0063】
図10Aは、極間電圧のタイムチャートである。
図10Bは、加工電流のタイムチャートである。
図10Aおよび
図10Bに示されるように、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が正常状態である場合、今回において極間に放電誘起電圧が印加されてから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、設定されている正常加工電流を大きくするように補正される(加工電流MC31、M32参照)。
【0064】
図10Aおよび
図10Bに示されるように、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が開放状態である場合、今回において極間に放電誘起電圧が印加されてから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、設定されている正常加工電流を大きくするように補正される(加工電流MC33、M34参照)。
【0065】
図10Aおよび
図10Bに示されるように、前回において極間に放電誘起電圧が印加されたときの極間状態が短絡状態である場合、今回において極間に放電誘起電圧が印加されてから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、設定されている正常加工電流を大きくするように補正される(加工電流MC35、M36参照)。
【0066】
[作用効果]
極間に放電誘起電圧を印加してから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、極間のエネルギ密度が小さい状態であると推定される。そこで、本実施の形態のワイヤ放電加工機10では、加工電流設定部26は、今回において極間に放電誘起電圧を印加してから極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、正常加工電流を大きくするように補正する。これにより、エネルギ投入量の時間平均を増加させることができ、ワイヤ放電加工機10によるワーク12の加工速度を向上させるとともに、ワイヤ電極14が断線する可能性を低減することができる。
【0067】
〔実施の形態から得られる技術的思想〕
上記実施の形態から把握しうる技術的思想について、以下に記載する。
【0068】
ワーク(12)とワイヤ電極(14)との間の極間において放電を生じさせて前記ワークの加工を行なうワイヤ放電加工機(10)であって、前記極間に放電誘起電圧を印加する放電誘起回路(16)と、前記極間に加工電流を供給する主放電回路(18)と、前記極間に前記放電誘起電圧が印加されているときの極間電圧に基づいて、前記極間に前記放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が、前記極間において放電が生じる正常状態、前記極間が短絡している短絡状態、前記極間において通電しない開放状態のいずれかであることを判定する極間状態判定部(22)と、前記極間状態として、前記正常状態、前記短絡状態、前記開放状態の少なくとも1つについて記録する極間状態記録部(24)と、前回以前の前記極間状態に応じて正常加工電流の大きさを設定する加工電流設定部(26)と、今回の前記極間状態が前記正常状態である場合には、前記極間に前記正常加工電流を供給するように前記主放電回路を制御し、
今回の前記極間状態が前記短絡状態である場合には、前記極間に所定電流よりも小さい短絡加工電流を供給するように前記主放電回路を制御し、
今回の前記極間状態が前記開放状態である場合には、前記極間に前記加工電流を供給しないように前記主放電回路を制御する加工電流制御部(30)と、を有する。
【0069】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記極間状態記録部は、少なくとも前記開放状態について記録し、前記加工電流設定部は、少なくとも前回の前記極間状態が前記開放状態である場合には、前記正常加工電流を前記所定電流よりも大きく設定してもよい。
【0070】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記加工電流設定部は、前回の前記極間状態のみに基づいて、前記正常加工電流の大きさを設定してもよい。
【0071】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記加工電流設定部は、前回以前の前記極間状態が前記開放状態である連続回数が多いほど、前記正常加工電流を大きく設定してもよい。
【0072】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記加工電流設定部は、前回以前の所定回数における前記極間状態が前記開放状態である割合が大きいほど、前記正常加工電流を大きく設定してもよい。
【0073】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記極間状態記録部は、少なくとも前記短絡状態について記録し、前記加工電流設定部は、少なくとも前回の前記極間状態が前記短絡状態である場合には、前記正常加工電流を前記所定電流よりも大きく設定してもよい。
【0074】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記加工電流設定部は、今回において前記極間に前記放電誘起電圧を印加してから前記極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、前記正常加工電流を大きくするように補正してもよい。
【0075】
ワーク(12)とワイヤ電極(14)との間の極間において放電を生じさせて前記ワークの加工を行なうワイヤ放電加工機(10)の制御方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、前記極間に放電誘起電圧を印加する放電誘起回路(16)と、前記極間に加工電流を供給する主放電回路(18)と、を備え、前記極間に前記放電誘起電圧が印加されているときの極間電圧に基づいて、前記極間に前記放電誘起電圧が印加されているときの極間状態が、前記極間において放電が生じる正常状態、前記極間が短絡している短絡状態、前記極間において通電しない開放状態のいずれかであることを判定する極間状態判定ステップと、前記極間状態として、前記正常状態、前記短絡状態、前記開放状態の少なくとも1つについて記録する極間状態記録ステップと、前回以前の前記極間状態に応じて正常加工電流の大きさを設定する加工電流設定ステップと、今回の前記極間状態が前記正常状態である場合には、前記極間に前記正常加工電流を供給するように前記主放電回路を制御し、
今回の前記極間状態が前記短絡状態である場合には、前記極間に所定電流よりも小さい短絡加工電流を供給するように前記主放電回路を制御し、
今回の前記極間状態が前記開放状態である場合には、前記極間に前記加工電流を供給しないように前記主放電回路を制御する加工電流制御ステップと、を有する。
【0076】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記極間状態記録ステップは、少なくとも前記開放状態について記録し、前記加工電流設定ステップは、少なくとも前回の前記極間状態が前記開放状態である場合には、前記正常加工電流を前記所定電流よりも大きく設定してもよい。
【0077】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記加工電流設定ステップは、前回の前記極間状態のみに基づいて、前記正常加工電流の大きさを設定してもよい。
【0078】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記加工電流設定ステップは、前回以前の前記極間状態が前記開放状態である連続回数が多いほど、前記正常加工電流を大きく設定してもよい。
【0079】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記加工電流設定ステップは、前回以前の所定回数における前記極間状態が前記開放状態である割合が大きいほど、前記正常加工電流を大きく設定してもよい。
【0080】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記極間状態記録ステップは、少なくとも前記短絡状態について記録し、前記加工電流設定ステップは、少なくとも前回の前記極間状態が前記短絡状態である場合には、前記正常加工電流を前記所定電流よりも大きく設定してもよい。
【0081】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記加工電流設定ステップは、今回において前記極間に前記放電誘起電圧を印加してから前記極間に放電が生じるまでの放電遅れ時間が長いほど、前記正常加工電流を大きくするように補正してもよい。