(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
傷害を有するまたは有すると推測される対象において、アストロサイト突起の退縮および傷害領域へのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の走化性移動を防止することにおいて使用するための、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合し、かつ、SEMA4DのSEMA4D受容体またはその一部分との相互作用を阻害する単離された抗体またはその抗原結合断片の有効量を含む薬学的組成物。
抗体またはその断片は、SEQ ID NO: 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1〜3を含む可変重鎖(VH)、ならびにSEQ ID NO: 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1〜3を含む可変軽鎖(VL)を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の組成物。
単離された抗体またはその抗原結合断片が、重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列SEQ ID NO: 9および軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列SEQ ID NO: 17を含む参照モノクローナル抗体と同一のSEMA4Dエピトープに結合する、請求項1〜7のいずれか一項記載の組成物。
単離された抗体またはその断片が、重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列SEQ ID NO: 9および軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列SEQ ID NO: 17を含む参照モノクローナル抗体のSEMA4Dへの結合を競合的に阻害する、請求項8記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
開示の詳細な説明
I. 定義
「1つの」(「a」または「an」)実体という用語は、1つまたは複数のその実体を指し;例えば、「抗SEMA4D抗体(an anti-SEMA4D antibody)」は、1つまたは複数の抗SEMA4D抗体を表すように理解されることに注意されたい。そのように、「1つの」、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つの」という用語は、本明細書において互換的に使用することができる。
【0014】
さらに、本明細書において使用される際、「および/または」とは、他方を含み、または他方を含まずに、2つの指定された特色または成分の各々を具体的に開示するものとして解釈されたい。従って、本明細書において「Aおよび/またはB」のような句において使用される際、「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)、および「B」(単独)を含むように意図される。同様に、「A、B、および/またはC」のような句において使用される際、「および/または」という用語は、以下の態様の各々を包含するように意図される:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本開示が関係している技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 2nd ed., 2002, CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 3rd ed., 1999, Academic Press;およびthe Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology, Revised, 2000, Oxford University Pressが、本開示において使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0016】
単位、接頭辞、および記号は、国際単位系 (SI)によって認められた形態で示される。数的な範囲は、範囲を定義する数を含む。他に示されない限り、アミノ酸配列は、左から右へ、アミノからカルボキシへの方向で記される。本明細書において提供される見出しは、明細書を全体として参照することによって入手され得る、開示の様々な局面を限定するものではない。従って、以下に定義される用語は、明細書全体を参照することによって、より完全に定義される。
【0017】
本明細書において使用される際、「天然に存在しない」物質、組成物、実体、および/または物質、組成物、もしく実体の組み合わせ、またはその文法的な変化形は、「天然に存在する」と当業者によって十分に理解されているか、または「天然に存在する」と審査官もしくは行政機関もしくは司法機関によって決定もしくは解釈されているか、もしくは任意の時点で決定もしくは解釈される可能性のある、物質、組成物、実体、および/または物質、組成物、もしくは実体の組み合わせを明示的に除外するが、それらを除外するに過ぎない、条件的な用語である。
【0018】
本明細書において使用される際、「神経変性障害」または「神経変性疾患」という用語は、神経系の1つまたは複数の領域におけるニューロンの死、およびその後の患部の機能的障害を特徴とする中枢神経系(CNS)の障害を指す。神経変性障害の例は、非限定的に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害(HAND、HIV関連神経認知障害)、CNSループス、および軽度認知障害を含む。神経変性疾患は、影響された個人およびその家族、さらには社会全体の生活に多大な影響を及ぼす。
【0019】
本明細書において使用される際、「アルツハイマー病」という用語は、初期には部分健忘、後期には不穏状態、失見当識、失語、失認、または失行(認知機能低下)、認知症、時には、多幸症または抑うつとして顕在化する進行性の疾患を指す。この疾患は、典型的には、40〜90歳で発病し、主に女性が罹患する。有病率に関しては、65歳を超える集団の約13%と推定されている。
【0020】
本明細書において使用される際、「ハンチントン病」という用語は、(HTT遺伝子によって発現される)タンパク質ハンチンチンのN末端におけるポリグルタミン鎖の伸長による神経変性疾患を指す。変異型タンパク質(mHTT)における伸長は、アミノ酸グルタミンの35〜40回を超える繰り返しであり得る。この疾患は、古典的な協調運動障害および「舞踏病」のような運動の出現を決定する、線条体の中サイズ有棘ニューロンにおける毒性を含む、異なる脳区域における進行性のニューロン死を呈する。mHTTの作用機序は、野生型タンパク質と比較した機能獲得および機能喪失の両方として記載されており、異なる細胞コンパートメントにおいて様々なタンパク質と相互作用する能力の獲得または喪失を含む。
【0021】
「治療的有効量」という用語は、対象または哺乳動物において疾患または障害を「処置する」ために有効である、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機低分子、または他の薬物の量を指す。神経変性障害の場合、治療的有効量の薬物は、障害の症状を軽減することができるか;症状の発生を減少させるか、低下させるか、遅延させるか、もしくは停止させることができるか;症状の重症度を減少させるか、低下させるか、遅延させることができるか;症状の顕在化を阻害すること、例えば、抑制するか、遅延させるか、防止するか、停止させるか、もしくは逆転させることができるか;障害に関連した症状のうちの1つもしくは複数をある程度まで和らげることができるか;罹患率および死亡率を低下させることができるか;生活の質を改善することができるか;またはそのような効果の組み合わせを有する。
【0022】
本明細書において言及される際、「症状」という用語は、例えば、(1)精神神経症状、(2)認知症状、および(3)運動機能障害を指す。精神神経症状の例は、例えば、不安様行動を含む。認知症状の例は、例えば、学習および記憶の欠陥を含む。運動機能障害の例は、例えば、自発運動を含む。
【0023】
「処置」または「軽減」または「改善」などの用語は、1)診断された病理学的状態または障害を治癒する、それを減速させる、その症状を減少させる、それを逆転する、および/またはその進行を停止させる治療的手段、ならびに2)標的とした病理学的状態または障害を予防する、および/またはその発症を緩徐化する防御的手段または予防的手段の両方を指す。従って、処置を必要とする人々は、既に障害を有する人々;障害を有する傾向がある人々;および障害が予防されるべき人々を含む。有益なまたは望ましい臨床結果は、検出可能であろうとまたは検出不可能であろうと、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患の安定化(すなわち悪化させないこと)、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または一時的緩和、および寛解(部分的であろうとまたは全体的であろうと)、あるいはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。「処置」とはまた、処置を受けていない場合に期待される生存と比較した際に延長した生存も意味することができる。処置を必要とする人々は、既に状態もしくは障害を有する人々、および、状態もしくは障害を有する傾向がある人々、または、状態もしくは障害が予防されるべき人々を含む。
【0024】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」により、それについて診断、予後診断、または治療が望ましい任意の対象、特に、哺乳動物対象が意味される。哺乳動物対象は、ヒト、家庭内の動物、農場の動物、および、動物園、スポーツ、またはペットの動物、例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌ウシ、クマなどを含む。
【0025】
本明細書において使用される際、「抗SEMA4D抗体の投与から恩恵を受けるであろう対象」および「処置を必要とする動物」などの句は、例えば、SEMA4Dポリペプチドの検出のために(例えば診断手順のために)使用される抗SEMA4D抗体もしくは他のSEMA4D結合分子の投与から、および/または、抗SEMA4D抗体もしくは他のSEMA4D結合分子での処置、すなわち、疾患の軽減または予防から恩恵を受けるであろう、哺乳動物対象などの対象を含む。
【0026】
本開示の「結合分子」または「抗原結合分子」は、その最も広い意味において、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。1つの態様において、結合分子は、SEMA4Dに、例えば、約150 kDaの膜貫通SEMA4Dポリペプチドまたは約120 kDaの可溶性SEMA4Dポリペプチド(一般的にsSEMA4Dと呼ばれる)に特異的に結合する。別の態様において、本開示の結合分子は、抗体またはその抗原結合断片である。別の態様において、本開示の結合分子は、抗体分子の少なくとも1個の重鎖CDRまたは軽鎖CDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも2個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも3個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも4個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも5個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも6個のCDRを含む。
【0027】
本開示は、神経変性疾患を有する対象における症状を軽減させる方法であって、抗SEMA4D結合分子、たとえば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を、対象に投与する段階を含む方法に向けられる。天然に存在する抗体などの完全なサイズの抗体に具体的に言及しない限り、「抗SEMA4D抗体」という用語は、完全なサイズの抗体、およびそのような抗体の抗原結合断片、変異体、類似体、または誘導体、例えば、天然に存在する抗体、または免疫グロブリン分子、または工学により作製された抗体分子、または抗体分子と類似した様式で抗原に結合する断片を包含する。
【0028】
本明細書において使用される際、「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または、下記および例えばKucherlapatiらによる米国特許第5,939,598号に記載されるような、1種または複数のヒト免疫グロブリンの遺伝子導入動物であって、内因性の免疫グロブリンを発現しない動物から単離された抗体を含む。「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、少なくとも重鎖の可変ドメイン、または少なくとも重鎖および軽鎖の可変ドメインを含み、該可変ドメインがヒト免疫グロブリン可変ドメインのアミノ酸配列を有する抗体もまた含む。
【0029】
「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、本明細書において記載される抗体分子(例えば、VH領域および/またはVL領域)の変異体(誘導体を含む)を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、抗体またはその断片がSEMA4Dポリペプチドまたはその断片もしくは変異体に免疫特異的に結合する、上記のような「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体もまた含む。アミノ酸置換を結果として生じる部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発を含むがこれらに限定されない、当業者に公知である標準的な技術を、ヒト抗SEMA4D抗体をコードするヌクレオチド配列中に変異を導入するために使用することができる。一部の態様では、変異体(誘導体を含む)は、参照VH領域、VHCDR1、VHCDR2、VHCDR3、VL領域、VLCDR1、VLCDR2、またはVLCDR3に対して、50アミノ酸未満の置換、40アミノ酸未満の置換、30アミノ酸未満の置換、25アミノ酸未満の置換、20アミノ酸未満の置換、15アミノ酸未満の置換、10アミノ酸未満の置換、5アミノ酸未満の置換、4アミノ酸未満の置換、3アミノ酸未満の置換、または2アミノ酸未満の置換をコードする。
【0030】
ある特定の態様において、アミノ酸置換は、下記でさらに議論される保存的アミノ酸置換である。あるいは、変異を、飽和変異誘発などにより、コード配列のすべてまたは一部に沿って無作為に導入することができ、結果として生じた変異体を、活性(例えば、SEMA4Dポリペプチド、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに結合する能力)を保持する変異体を同定するために生物学的活性についてスクリーニングすることができる。「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体のそのような変異体(またはその誘導体)は、「最適化された」または「抗原結合について最適化された」ヒト抗体または完全ヒト抗体と呼ぶこともでき、抗原に対して改善された親和性を有する抗体を含む。
【0031】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において互換的に使用される。抗体または免疫グロブリンは、少なくとも重鎖の可変ドメインを含み、通常、少なくとも重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリン構造は、比較的よく理解されている。例えば、Harlow et al. (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.; Cold Spring Harbor Laboratory Press)を参照されたい。
【0032】
本明細書において使用される際、「免疫グロブリン」という用語は、生化学的に区別することができる種々の広範なクラスのポリペプチドを含む。当業者は、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として、それらの中にいくつかのサブクラス(例えばγ1〜γ4)を伴って分類されることを認識するであろう。抗体の「クラス」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgG、またはIgEと決定することが、この鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などは、十分に特徴決定されており、機能的特殊化を与えることが公知である。これらのクラスおよびアイソタイプの各々の修飾バージョンは、本開示を考慮して当業者が容易に識別可能であり、従って、本開示の範囲内である。すべての免疫グロブリンクラスが、明らかに本開示の範囲内であり、以下の議論は概して、IgGクラスの免疫グロブリン分子に向けられる。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量およそ23,000ダルトンの2個の同一の軽鎖ポリペプチド、および分子量53,000〜70,000の2個の同一の重鎖ポリペプチドを含む。4本の鎖は典型的に、ジスルフィド結合により「Y」形態に連結され、軽鎖が、「Y」の口部から始まり可変領域を通して連続して、重鎖をひとまとめにする。
【0033】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)のいずれかとして分類される。各重鎖のクラスは、κ軽鎖またはλ軽鎖のいずれと結合しうる。概して、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞、または遺伝子工学により作製された宿主細胞のいずれかにより生成される際、軽鎖および重鎖は互いに共有結合し、かつ2個の重鎖の「尾」部分は、共有ジスルフィド結合または非共有結合により互いに結合している。重鎖において、アミノ酸配列は、Y形態の叉状端のN末端から各鎖の底部のC末端までおよぶ。
【0034】
軽鎖および重鎖は両方とも、構造的および機能的な相同性領域に分割される。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。この点において、軽鎖の可変ドメイン(VLまたはVK)および重鎖の可変ドメイン(VH)両方の部分は、抗原認識および特異性を決定することが、認識されるであろう。逆に、軽鎖の定常ドメイン(CL)および重鎖の定常ドメイン(典型的にはCH1、CH2、またはCH3)は、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などのような重要な生物学的特性を与える。慣例により、定常領域ドメインのナンバリングは、抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠くなるにつれて増大する。N末端部分が可変領域であり、C末端部分が定常領域である;CH3ドメインおよびCLドメインは典型的には、それぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0035】
上記に示されるように、可変領域は、抗体が抗原上のエピトープを選択的に認識し、かつ特異的に結合することを可能にする。すなわち、抗体のVLドメインおよびVHドメイン、またはこれらの可変ドメイン内の相補性決定領域(CDR)のサブセットは、組み合わさって、三次元の抗原結合部位を規定する可変領域を形成する。この4要素からなる抗体構造は、Yの各腕の末端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖およびVL鎖の各々上の3個のCDRにより規定される。いくつかの場合には、例えば、ラクダ科の種に由来するかまたはラクダ科の免疫グロブリンに基づいて工学により作製されたある特定の免疫グロブリン分子は、完全な免疫グロブリン分子が軽鎖を有さず、重鎖のみからなり得る。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448 (1993)を参照されたい。
【0036】
天然に存在する抗体において、各抗原結合ドメイン中に存在する6個の「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境においてその三次元形態を呈する際に抗原結合ドメインを形成するように特異的に位置づけられる、アミノ酸の短い非隣接の配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる抗原結合ドメイン中のアミノ酸の残りの部分は、より低い分子間の可変性を示す。フレームワーク領域は、主としてβシート立体配座を採り、CDRは、βシート構造を連結し、いくつかの場合にはその一部を形成するループを形成する。従って、フレームワーク領域は、CDRを鎖間の非共有相互作用により正確な配向に位置づけることを提供する足場を形成するように作用する。位置づけられたCDRにより形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに対して相補性の表面を規定する。この相補性の表面が、抗体のその同起源エピトープに対する非共有結合を促進する。それぞれCDRおよびフレームワーク領域を構成するアミノ酸は、正確に定義されているため(下記参照)、任意の所定の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインについて当業者が容易に同定することができる。
【0037】
当技術分野内で使用される、および/または受け入れられる用語の2つまたはそれより多い定義がある場合には、本明細書において使用される用語の定義は、それとは反対に明示的に述べられない限り、そのような意味のすべてを含むように意図される。具体例は、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチド両方の可変領域内に見出される非隣接の抗原結合部位を記載するための、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用である。この特定の領域は、参照により本明細書に組み入れられる、Kabat et al. (1983) U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of Proteins of Immunological Interest"およびChothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)によって記載されており、定義は、互いに対して比較した際のアミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。それにもかかわらず、抗体またはその変異体のCDRに言及するためのいずれかの定義の適用は、本明細書において定義されかつ使用される用語の範囲内であることが意図される。上記で引用される参照文献の各々により定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸残基を、比較として下記の表1に示す。特定のCDRを包含する正確な残基の数字は、CDRの配列およびサイズに応じて変動するであろう。当業者は日常的に、抗体の可変領域アミノ酸配列を考慮して、どの残基が特定のCDRを構成するかを決定することができる。
【0038】
(表1)CDRの定義
1
1表1におけるすべてのCDRの定義のナンバリングは、Kabatらにより示されるナンバリング慣例に従う(下記参照)。
【0039】
Kabatらはまた、任意の抗体に適用可能である可変ドメイン配列についてのナンバリングシステムも定義した。当業者は、配列自体を超えるいずれの実験データにも頼ることなく、「Kabatナンバリング」のこのシステムを任意の可変ドメイン配列に明白に割り当てることができる。本明細書において使用される際、「Kabatナンバリング」とは、Kabat et al. (1983) U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequence of Proteins of Immunological Interest."により示されるナンバリングシステムを指す。別の方法で特定化されない限り、本開示の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体における特定のアミノ酸残基の位置のナンバリングについての言及は、Kabatナンバリングシステムに従う。
【0040】
本開示の抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、少なくとも1本の腕がSEMA4Dに特異的である多重特異性抗体および二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab'およびF(ab')
2、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VLドメインまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーにより産生された断片、ならびに抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書において開示される抗SEMA4D抗体に対する抗Id抗体を含む)を含むが、これらに限定されない。ScFv分子は当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,892,019号に記載されている。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2など)、またはサブクラスであり得る。
【0041】
本明細書において使用される際、「重鎖部分」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。ある特定の態様において、重鎖部分を構成するポリペプチドは、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中間部、および/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはその変異体もしくは断片の、少なくとも1つを含む。例えば、本開示における使用のための結合ポリペプチドは、CH1ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH2ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖、または、CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖を含んでもよい。別の態様において、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを構成するポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示における使用のための結合ポリペプチドは、CH2ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインのすべてまたは部分)を欠如していてもよい。上記に示されるように、これらのドメイン(例えば重鎖部分)は、アミノ酸配列において天然に存在する免疫グロブリン分子とは異なるように修飾されてもよいことが、当業者に理解されるであろう。
【0042】
本明細書において開示されるある特定の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体において、多量体の1本のポリペプチド鎖の重鎖部分は、多量体の2本目のポリペプチド鎖上のものと同一である。あるいは、本開示の重鎖部分を含有する単量体は、同一ではない。例えば、各単量体は、例えば二重特異性抗体を形成する、異なる標的結合部位を含んでもよい。
【0043】
本明細書中で開示される方法における使用のための結合分子の重鎖部分は、異なる免疫グロブリン分子に由来してもよい。例えば、ポリペプチドの重鎖部分は、IgG1分子に由来するC
H1ドメインおよびIgG3分子に由来するヒンジ領域を含むことができる。別の例において、重鎖部分は、部分的にIgG1分子に、および部分的にIgG3分子に由来するヒンジ領域を含むことができる。別の例において、重鎖部分は、部分的にIgG1分子に、および部分的にIgG4分子に由来するキメラヒンジを含むことができる。
【0044】
本明細書において使用される際、「軽鎖部分」という用語は、免疫グロブリン軽鎖、例えば、κ軽鎖またはλ軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。一部の局面において、軽鎖部分は、VLドメインまたはCLドメインの少なくとも1つを含む。
【0045】
本明細書において開示される抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、これらが認識するかまたは特異的に結合する抗原、例えば、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えばSEMA4D)のエピトープまたは部分の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。抗体の抗原結合ドメインと特異的に相互作用する標的ポリペプチドの部分が、「エピトープ」または「抗原決定基」である。標的ポリペプチドは、単一のエピトープを含むことができるが、典型的には、少なくとも2個のエピトープを含み、かつ、抗原のサイズ、立体配座、およびタイプに応じて、任意の数のエピトープを含むことができる。さらに、標的ポリペプチド上の「エピトープ」は、非ポリペプチド要素であってもよいか、またはそれを含んでもよく、例えば、エピトープは炭水化物側鎖を含んでもよいことに注意されたい。
【0046】
抗体のためのペプチドまたはポリペプチドエピトープの最小サイズは、約4個〜5個のアミノ酸であると考えられている。ペプチドまたはポリペプチドエピトープは、例えば、少なくとも7個、少なくとも9個、または少なくとも約15個〜約30個の間のアミノ酸を含有しうる。CDRは、その三次形態において抗原性ペプチドまたはポリペプチドを認識することができるため、エピトープを構成するアミノ酸は、隣接している必要がなく、いくつかの場合には、別個のペプチド鎖上にありうる。本開示の抗SEMA4D抗体により認識されるペプチドまたはポリペプチドエピトープは、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、または約15個〜約30個の間の、SEMA4Dの隣接または非隣接のアミノ酸の配列を含有しうる。
【0047】
「特異的に結合する」により、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、および結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間のいくらかの相補性を必然的に伴うことが、概して意味される。この定義に従って、抗体が、無作為の関連のないエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープに結合する際、抗体はエピトープに「特異的に結合する」と言われる。「特異性」という用語は、それによりある特定の抗体がある特定のエピトープに結合する相対的親和性を認定するために、本明細書において使用される。例えば、抗体「A」は、所定のエピトープに対して抗体「B」よりも高い特異性を有すると考えられ得、または抗体「A」は、関連するエピトープ「D」に対して有するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言うこともできる。
【0048】
「優先的に結合する」により、抗体が、関連する、同様の、相同の、または類似のエピトープに結合するよりも容易に、エピトープに特異的に結合することが意味される。従って、所定のエピトープに「優先的に結合する」抗体は、そのような抗体が関連するエピトープと交差反応し得るにもかかわらず、関連するエピトープよりもそのエピトープに結合する可能性が高いであろう。
【0049】
非限定的な例として、抗体は、第2のエピトープについての抗体の解離定数(K
D)より低いK
Dで第1のエピトープに結合する場合、該第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のK
Dより少なくとも1桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1の抗原に優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のK
Dより少なくとも2桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。
【0050】
別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のオフ速度(off rate)(k(オフ))より低いk(オフ)で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のk(オフ)より少なくとも1桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のk(オフ)より少なくとも2桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。本明細書において開示される抗体、または抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、5×10
-2 秒
-1、10
-2 秒
-1、5×10
-3 秒
-1、または10
-3 秒
-1より低いかまたはそれと同等のオフ速度(k(オフ))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言いうる。特定の局面において、本開示の抗体は、5×10
-4 秒
-1、10
-4 秒
-1、5×10
-5 秒
-1、または10
-5 秒
-1、5×10
-6 秒
-1、10
-6 秒
-1、5×10
-7 秒
-1、または10
-7 秒
-1より低いかまたはそれと同等のオフ速度(k(オフ))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言われてもよい。
【0051】
本明細書において開示される抗体、または抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、10
3 M
-1秒
-1、5×10
3 M
-1秒
-1、10
4 M
-1秒
-1、または5×10
4 M
-1秒
-1より高いかまたはそれと同等のオン速度(on rate)(k(オン))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言われてもよい。一部の局面において、本開示の抗体は、10
5 M
-1秒
-1、5×10
5 M
-1秒
-1、10
6 M
-1秒
-1、または5×10
6 M
-1秒
-1、または10
7 M
-1秒
-1より高いかまたはそれと同等のオン速度(k(オン))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言うことができる。
【0052】
抗体は、参照抗体のエピトープへの結合をある程度遮断する範囲でそのエピトープに優先的に結合する場合、参照抗体の所定のエピトープへの結合を競合的に阻害すると言われる。競合的阻害は、当技術分野において公知である任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイにより測定されてもよい。抗体は、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、または少なくとも50%、参照抗体の所定のエピトープへの結合を競合的に阻害すると言われてもよい。
【0053】
本明細書において使用される際、「親和性」という用語は、個々のエピトープの免疫グロブリン分子のCDRとの結合の強度の尺度を指す。例えば、Harlow et al. (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed.) の27〜28ページを参照されたい。本明細書において使用される際、「結合力」という用語は、免疫グロブリンの集団と抗原との間の複合体の全体の安定性、すなわち、免疫グロブリン混合物の抗原との機能的結合強度を指す。例えば、Harlowの29〜34ページを参照されたい。結合力は、集団中の個々の免疫グロブリン分子の特異的なエピトープとの親和性、ならびにまた免疫グロブリンおよび抗原の結合価の両方に関連する。例えば、2価のモノクローナル抗体と、ポリマーなどの高度に反復するエピトープ構造を有する抗原との間の相互作用は、高い結合力の1つであろう。
【0054】
本開示の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体はまた、その交差反応性の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。本明細書において記載される際、「交差反応性」という用語は、1種の抗原に特異的な抗体の第2の抗原と反応する能力;2種の異なる抗原性物質の間の関連性の尺度を指す。従って、抗体が、その形成を誘導したエピトープ以外のエピトープに結合する場合、交差反応性である。交差反応性エピトープは、概して、誘導エピトープと同一の相補的構造特性の多くを含有し、いくつかの場合には、実際に元よりも良好に適合し得る。
【0055】
例えば、ある特定の抗体は、関連するが同一ではないエピトープ、例えば、参照エピトープと少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも60%、少なくとも55%、および少なくとも50%の同一性(当技術分野において公知でありかつ本明細書において記載される方法を用いて算出した際)を有するエピトープに結合する、ある程度の交差反応性を有する。抗体は、参照エピトープと95%未満、90%未満、85%未満、80%未満、75%未満、70%未満、65%未満、60%未満、55%未満、および50%未満の同一性(当技術分野において公知でありかつ本明細書において記載される方法を用いて算出した際)を有するエピトープに結合しない場合、ほとんどまたはまったく交差反応性を有さないと言われてもよい。抗体は、そのエピトープの任意の他の類似体、オーソログ、または相同体に結合しない場合、ある特定のエピトープについて「高度に特異的」であると考えられてもよい。
【0056】
本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体はまた、本開示のポリペプチド、例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに対するその結合親和性の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。特定の局面において、結合親和性は、5×10
-2 M、10
-2 M、5×10
-3 M、10
-3 M、5×10
-4 M、10
-4 M、5×10
-5 M、10
-5 M、5×10
-6 M、10
-6 M、5×10
-7 M、10
-7 M、5×10
-8 M、10
-8 M、5×10
-9 M、10
-9 M、5×10
-10 M、10
-10 M、5×10
-11 M、10
-11 M、5×10
-12 M、10
-12 M、5×10
-13 M、10
-13 M、5×10
-14 M、10
-14 M、5×10
-15 M、または10
-15 Mより低い解離定数またはKdを有するものを含む。ある特定の態様において、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、約5×10
-9〜約6×10
-9のKdでヒトSEMA4Dに結合する。別の態様において、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、約1×10
-9〜約2×10
-9のKdでマウスSEMA4Dに結合する。
【0057】
本明細書において使用される際、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性領域または部位が第1の種から取得されているかまたは由来し、かつ、定常領域(本開示に従って、無傷であるか、部分的であるか、または修飾されていてもよい)が第2の種から取得されている任意の抗体を意味すると考えられるであろう。特定の態様において、標的結合領域または部位は、非ヒト供給源(例えば、マウスまたは霊長類)由来であると考えられ、かつ、定常領域はヒトである。
【0058】
本明細書において使用される際、「工学により作製された抗体」という用語は、重鎖または軽鎖のいずれかまたは両方における可変ドメインが、公知の特異性の抗体由来の1個または複数のCDRの少なくとも部分的な置換により、ならびに、必要な場合、部分的なフレーム領域の置換および配列交換により変更されている抗体を指す。CDRは、フレームワーク領域が由来する抗体と同一のクラスまたはさらにサブクラスの抗体に由来してもよいが、CDRが異なるクラスの抗体、または異なる種由来の抗体に由来することが、想定される。公知の特異性の非ヒト抗体由来の1個または複数の「ドナー」CDRがヒト重鎖または軽鎖のフレームワーク領域中に移植されている、工学により作製された抗体は、本明細書において「ヒト化抗体」と呼ばれる。1個の可変ドメインの抗原結合能力を別の可変ドメインに移すために、CDRのすべてをドナー可変ドメイン由来の完全なCDRで置換することは、必ずしも必要ではない。むしろ、標的結合部位の活性を維持するために必要とされる残基のみを移すことができる。
【0059】
ヒト化抗体の重鎖または軽鎖または両方における可変ドメイン内のフレームワーク領域は、ヒト起源の残基のみを含んでもよいことがさらに認識され、この場合、ヒト化抗体のこれらのフレームワーク領域は、「完全ヒトフレームワーク領域」と呼ばれる(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2010/0285036 A1号においてMAb 2503として開示されているMAb 1515/2503または67)。あるいは、ドナー可変ドメインのフレームワーク領域の1個または複数の残基は、SEMA4D抗原に対する妥当な結合を維持するためまたは結合を増強するために、必要な場合、ヒト化抗体の重鎖または軽鎖または両方における可変ドメインのヒトフレームワーク領域の対応する位置の中で、工学により変更することができる。この様式において工学により変更されているヒトフレームワーク領域は、従って、ヒトおよびドナーのフレームワーク残基の混合物を含み、本明細書において「部分的ヒトフレームワーク領域」と呼ばれる。
【0060】
例えば、抗SEMA4D抗体のヒト化は、Winterおよび共同研究者の方法に従って(Jones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988))、げっ歯類または変異げっ歯類のCDRまたはCDR配列を、ヒト抗SEMA4D抗体の対応する配列と置換することにより、本質的に行うことができる。参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,225,539号;米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;米国特許第5,859,205号もまた参照されたい。結果として生じたヒト化抗SEMA4D抗体は、ヒト化抗体の重鎖および/または軽鎖の可変ドメインの完全ヒトフレームワーク領域内に少なくとも1個のげっ歯類または変異げっ歯類のCDRを含むであろう。いくつかの例において、ヒト化抗SEMA4D抗体の1個または複数の可変ドメインのフレームワーク領域内の残基は、対応する非ヒト(例えばげっ歯類)残基により置換されており(例えば、米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;および米国特許第6,180,370号を参照されたい)、その場合、結果として生じたヒト化抗SEMA4D抗体は、重鎖および/または軽鎖の可変ドメイン内に部分的ヒトフレームワーク領域を含むであろう。
【0061】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中またはドナー抗体中に見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は、抗体の性能をさらに磨くために(例えば望ましい親和性を得るために)なされる。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1個の、および典型的には2個の可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられ、その中で、CDRのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含むであろう。さらに詳細には、参照により本明細書に組み入れられるJones et al., Nature 331:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。従って、そのような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインが非ヒト種由来の対応する配列により置換されているとは実質的に言えない抗体を含んでもよい。実際には、ヒト化抗体は、典型的に、いくつかのCDR残基および場合によりいくつかのフレームワーク残基が、げっ歯類抗体中の類似した部位由来の残基により置換されているヒト抗体である。例えば、米国特許第5,225,539号;米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;米国特許第5,859,205号を参照されたい。また、あらかじめ決定された抗原について改善された親和性を有するヒト化抗体を産生するためのヒト化抗体および技術が開示されている、米国特許第6,180,370号、および国際公開公報第01/27160号も参照されたい。
【0062】
本明細書において使用される際、「医療提供者」という用語は、生存している対象、例えば、ヒト患者と直接接するかまたは投与を行う個人または機関を指す。医療提供者の非限定的な例は、医師、看護師、技師、セラピスト、薬剤師、カウンセラー、代替医療実務者、医療施設、医院、病院、救急室、診療所、緊急ケアセンター、代替医療診療所/施設、ならびに一般医学的な、専門医学的な、外科的な、かつ/またはその他の型の処置、査定、維持、治療、薬物治療、および/または助言を含むが、これらに限定されない、患者の健康状態の全部または一部に関する一般的なかつ/または専門的な処置、査定、維持、治療、薬物治療、および/または助言を提供する他の実体を含む。
【0063】
本明細書において使用される際、「医療給付金提供者」という用語は、1つまたは複数の医療給付金、給付プラン、医療保険、および/または医療費請求プログラムを、完全にまたは部分的に、提供するか、提示するか、提案するか、支払うか、またはそれらへの患者のアクセスに他の方法で関連している、個々の団体、組織、またはグループを包含する。
【0064】
本明細書において使用される際、「臨床検査室」という用語は、生存している対象、例えば、ヒトに由来する材料または画像の調査または処理のための施設を指す。処理の非限定的な例は、例えば、生存している対象、例えば、ヒトの疾患もしくは障害の診断、防止、もしくは処置、または健康の査定のための情報を提供することを目的とした、ヒト身体に由来する材料またはヒト身体の一部もしくは全部の生物学的調査、生化学的調査、血清学的調査、化学的調査、免疫血液学的調査、血液学的調査、生物物理学的調査、細胞学的調査、病理学的調査、遺伝学的調査、画像に基づく調査、または他の調査を含む。これらの調査は、生存している対象、例えば、ヒトの身体、または生存している対象、例えば、ヒトの身体から入手された試料において、画像、試料を収集するか、もしくは他の方法で入手するか、様々な物質を調製するか、その存在もしくは欠如を決定するか、測定するか、または他の方法で記載するための手法も含んでいてよい。
【0065】
II.標的ポリペプチドの説明
本明細書において使用される際、「セマフォリン-4D」、「SEMA4D」、および「SEMA4Dポリペプチド」という用語は、「SEMA4D」および「Sema4D」のように、互換的に使用される。ある特定の態様において、SEMA4Dは、細胞の表面上に発現しているか、または細胞により分泌される。別の態様において、SEMA4Dは膜結合性である。別の態様において、SEMA4Dは可溶性、例えばsSEMA4Dである。他の態様において、SEMA4Dは、完全なサイズのSEMA4D、またはその断片、またはSEMA4D変異体ポリペプチドを含んでもよく、該SEMA4Dの断片またはSEMA4D変異体ポリペプチドは、完全なサイズのSEMA4Dのいくつかまたはすべての機能特性を保持している。
【0066】
完全なサイズのヒトSEMA4Dタンパク質は、150 kDaの2本のポリペプチド鎖からなるホモ二量体膜貫通タンパク質である。SEMA4Dは、細胞表面受容体のセマフォリンファミリーに属し、CD100とも呼ばれる。ヒトおよびマウス両方のSEMA4D/Sema4Dは、それらの膜貫通型からタンパク質分解性に切断されて120-kDaの可溶型を生じ、2種のSema4Dアイソフォームの存在を示す(Kumanogoh et al., J. Cell Science 116(7):3464 (2003))。セマフォリンは、ニューロンとその適切な標的との間の正確な連結を確立する際に重要な役割を果たす発生中の軸索ガイダンス因子として元来定義された、可溶性タンパク質および膜結合性タンパク質からなる。SEMA4Dは、構造的にクラスIVセマフォリンと考えられ、アミノ末端のシグナル配列の後に、17個の保存されたシステイン残基を含有する特徴的な「セマ」ドメイン、Ig様ドメイン、リジンに富んだストレッチ、疎水性膜貫通領域、および細胞質尾部からなる。
【0067】
SEMA4Dのポリペプチド鎖は、約13アミノ酸のシグナル配列を含み得、約512アミノ酸のセマフォリンドメイン、約65アミノ酸の免疫グロブリン様(Ig様)ドメイン、104アミノ酸のリジンに富んだストレッチ、約19アミノ酸の疎水性膜貫通領域、および110アミノ酸の細胞質尾部をさらに含む。細胞質尾部中のチロシンリン酸化のためのコンセンサス部位は、SEMA4Dのチロシンキナーゼとの予測される会合を支持する(Schlossman, et al., Eds. (1995) Leucocyte Typing V (Oxford University Press, Oxford))。
【0068】
SEMA4Dは、少なくとも3種の機能的受容体、プレキシン-B1、プレキシン-B2、およびCD72を有することが公知である。受容体の1種であるプレキシン-B1は、非リンパ系組織において発現し、SEMA4Dに対する高親和性(1 nM)受容体であることが示されている(Tamagnone et al., Cell 99:71-80 (1999))。プレキシン-B1シグナル伝達のSEMA4D刺激は、ニューロンの成長円錐虚脱を誘導すること、ならびにオリゴデンドロサイトの突起伸長虚脱およびアポトーシスを誘導することが示されている(Giraudon et al., J. Immunol. 172:1246-1255 (2004);Giraudon et al., NeuroMolecular Med. 7:207-216 (2005))。プレキシン-B1シグナル伝達は、SEMA4Dへの結合後に、R-Rasの不活性化を媒介して、細胞外マトリクスへのインテグリン媒介性付着の減少およびRhoAの活性化をもたらし、細胞骨格の再構成および細胞遊走をもたらす。Kruger et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 6:789-800 (2005);Pasterkamp, TRENDS in Cell Biology 15:61-64 (2005)を参照されたい。一方、プレキシン-B2はSEMA4Dに対して中間的な親和性を有し、最近の報告により、プレキシン-B2は成人脳室下帯における皮質ニューロンの遊走ならびに神経芽細胞の増殖および遊走を調節することが示されている(Azzarelli et al,. Nat Commun 2014 Feb 27, 5:3405, DOI: 10.1038/ncomms4405; およびSaha et al., J. Neuroscience, 2012 November 21, 32(47):16892-16905)。
【0069】
リンパ系組織においては、CD72が、低親和性(300nM)SEMA4D受容体として利用されている(Kumanogoh et al., Immunity 13:621-631 (2000))。B細胞およびAPCがCD72を発現し、抗CD72抗体は、CD40により誘導されるB細胞応答およびCD23のB細胞切断の増強などの、sSEMA4Dと同一の作用の多くを有する。CD72は、多くの抑制性受容体と会合することができるチロシンホスファターゼSHP-1を動員することにより、B細胞応答の負の制御因子として働くと考えられている。SEMA4DのCD72との相互作用は、SHP-1の解離、およびこの負の活性化シグナルの損失を結果としてもたらす。SEMA4Dは、インビトロでT細胞刺激ならびにB細胞の凝集および生存を促進することが報告されている。SEMA4D発現細胞またはsSEMA4Dの添加によって、インビトロでCD40により誘導されるB細胞増殖および免疫グロブリン産生が増強され、ならびにインビボの抗体応答が加速化される(Ishida et al., Inter. Immunol. 15:1027-1034 (2003);Kumanogoh and H. Kukutani, Trends in Immunol. 22:670-676 (2001))。sSEMA4Dは、共刺激分子の上方制御およびIL-12の分泌の増加を含む、CD40により誘導される樹状細胞(DC)の成熟を増強する。さらに、sSEMA4Dは、免疫細胞の遊走を阻害することができ、それは、遮断する抗SEMA4D抗体の添加により逆転させることができる(Elhabazi et al., J. Immunol. 166:4341-4347 (2001);Delaire et al., J. Immunol. 166:4348-4354 (2001))。
【0070】
Sema4Dは、脾臓、胸腺、およびリンパ節を含むリンパ系器官において、ならびに、脳、心臓、および腎臓などの非リンパ系器官において高レベルで発現している。リンパ系器官において、Sema4Dは、休止T細胞上に豊富に発現しているが、休止B細胞、およびDCなどの抗原提示細胞(APC)上には弱くしか発現していない。細胞の活性化により、SEMA4Dの表面発現および可溶性SEMA4D(sSEMA4D)の生成が増加する。
【0071】
SEMA4Dの発現パターンにより、SEMA4Dが免疫系において重要な生理学的役割および病理学的役割を果たすことが示唆される。SEMA4Dは、B細胞の活性化、凝集、および生存を促進し;CD40により誘導される増殖および抗体産生を増強し;T細胞依存性抗原に対する抗体応答を増強し;T細胞増殖を増加させ;樹状細胞の成熟およびT細胞を刺激する能力を増強し;かつ脱髄および軸索変性に直接関係していることが、示されている(Shi et al., Immunity 13:633-642 (2000);Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002);およびWatanabe et al., J Immunol 167:4321-4328 (2001))。
【0072】
SEMA4Dノックアウト(SEMA4D-/-)マウスは、SEMA4Dが体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方において重要な役割を果たすことの追加的な証拠を提供している。SEMA4D-/-マウスにおいて、非リンパ系組織の主要な異常性は知られていない。SEMA4D-/-マウス由来のDCは、不十分な同種刺激能力を有し、sSEMA4Dの添加により救出することができる共刺激分子の発現の欠陥を示す。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質特異的なT細胞が、SEMA4Dの非存在下では十分に生成されないため、SEMA4Dが欠損している(SEMA4D-/-)マウスは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質ペプチドにより誘導される実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症することができない(Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002))。有意な量の可溶性SEMA4Dがまた、自己免疫の傾向があるMRL/lprマウス(SLEなどの全身性自己免疫疾患のモデル)の血清中に検出されるが、正常マウスにおいては検出されない。さらに、sSEMA4Dのレベルは、自己抗体のレベルと相関し、年齢とともに増加する(Wang et al., Blood 97:3498-3504 (2001))。可溶性SEMA4Dはまた、脱髄性疾患を有する患者の脳脊髄液および血清中に蓄積することも示されており、sSEMA4Dは、インビトロでヒト多能性神経前駆体(Dev細胞)のアポトーシスを誘導し、かつ、ラットオリゴデンドロサイトの突起伸長を阻害するとともにそのアポトーシスを誘導する(Giraudon et al., J Immunol 172(2):1246-1255 (2004))。このアポトーシスは、抗SEMA4D MAbにより遮断された。
【0073】
III.抗SEMA4D抗体
SEMA4Dに結合する抗体は、当技術分野において記載されている。例えば、米国特許第8,496,938号、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号、米国特許出願公開第2010/0285036 A1号、および米国特許出願公開第2006/0233793 A1号、国際特許出願である国際公開公報第93/14125号、国際公開公報第2008/100995号、および国際公開公報第2010/129917号、ならびにHerold et al., Int. Immunol. 7(1): 1-8 (1995)を参照されたく、これらの各々は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0074】
本開示は、概して、神経炎症性もしくは神経変性障害を有する対象、例えばヒト患者において、症状を軽減させる方法であって、SEMA4Dに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与を含む方法に関連する。ある特定の態様において、抗体は、SEMA4Dの1種または複数のその受容体、例えばプレキシン-B1との相互作用を遮断する。これらの特性を有する抗SEMA4D抗体を、本明細書中で提供される方法において使用することができる。使用することができる抗体は、米国特許出願公開第2010/0285036 A1号に完全に記載されているMAb VX15/2503、67、および76、ならびにその抗原結合断片、変異体、または誘導体を含むが、これらに限定されない。本明細書中で提供される方法において使用することができる追加的な抗体は、米国特許出願公開第2006/0233793 A1号に記載されているBD16およびBB18抗体、ならびにその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体;または、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号に記載されているMAb 301、MAb 1893、MAb 657、MAb 1807、MAb 1656、MAb 1808、Mab 59、MAb 2191、MAb 2274、MAb 2275、MAb 2276、MAb 2277、MAb 2278、MAb 2279、MAb 2280、MAb 2281、MAb 2282、MAb 2283、MAb 2284、およびMAb 2285の任意、ならびにその任意の断片、変異体、もしくは誘導体を含む。ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに結合する。また、前述の抗体の任意と同一のエピトープに結合する抗体、および/またはの任意の前述の抗体を競合的に阻害する抗体も有用である。
【0075】
ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、参照抗SEMA4D抗体分子、例えば上記のもののアミノ酸配列と少なくとも約80%、約85%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、または約95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。さらなる態様において、結合分子は、参照抗体と少なくとも約96%、約97%、約98%、約99%、または100%の配列同一性を共有する。
【0076】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 9または10のCDR1、CDR2、またはCDR3と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0077】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0078】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8と、1、2、3、4、または5個の保存的アミノ酸置換以外は同一であるアミノ酸配列を有する。
【0079】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、SEQ ID NO: 9またはSEQ ID NO: 10と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するVHドメインを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該コードされたVHドメインを含む抗SEMA4D抗体は、SEMA4Dに特異的または優先的に結合する。
【0080】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 17または18のCDR1、CDR2、またはCDR3と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0081】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 15、またはSEQ ID NO: 16と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0082】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 15、またはSEQ ID NO: 16と、1、2、3、4、または5個の保存的アミノ酸置換以外は同一であるアミノ酸配列を有する。
【0083】
さらなる態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、SEQ ID NO: 17またはSEQ ID NO: 18と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するVLドメインを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該コードされたVLドメインを含む抗SEMA4D抗体は、SEMA4Dに特異的または優先的に結合する。
【0084】
また、本明細書中で提供される方法における使用のために、本明細書において記載されるような抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体をコードするポリペプチド、そのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、およびそのようなベクターまたはポリヌクレオチドを含む宿主細胞も含まれ、すべては、本明細書中で記載される方法における使用のために、抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を産生するためのものである。
【0085】
本開示の抗SEMA4D抗体の適した生物学的に活性を有する変異体を、本開示の方法において使用することができる。そのような変異体は、親抗SEMA4D抗体の望ましい結合特性を保持しているであろう。抗体変異体を作製する方法は、当技術分野において一般的に利用可能である。
【0086】
変異誘発およびヌクレオチド配列変更のための方法は、当技術分野において周知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Walker and Gaastra, eds. (1983) Techniques in Molecular Biology (MacMillan Publishing Company, New York);Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488-492 (1985);Kunkel et al., Methods Enzymol. 154:367-382 (1987);Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor, N.Y.);米国特許第4,873,192号;およびこれらにおいて引用される参照文献を参照されたい。関心対象のポリペプチドの生物学的活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換についての手引きは、全体として参照により本明細書に組み入れられるAtlas of Protein Sequence and Structure (Natl. Biomed. Res. Found., Washington, D.C.)の345-352ページにおけるDayhoffらのモデル(1978)において見出され得る。Dayhoffらのモデルは、適した保存的アミノ酸置換を決定するために、Point Accepted Mutation(PAM)アミノ酸類似度マトリクス(PAM 250マトリクス)を使用する。特定の態様において、1個のアミノ酸を類似した特性を有する別のアミノ酸と交換するような保存的置換を用いうる。DayhoffらのモデルのPAM250マトリクスにより教示される保存的アミノ酸置換の例は、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、およびPhe⇔Trp⇔Tyrを含むが、これらに限定されない。
【0087】
関心対象のポリペプチドである、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片の変異体を構築する際には、変異体が、例えば、本明細書において記載されるような、例えば、細胞の表面上に発現しているかまたは細胞により分泌されるSEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに特異的に結合することができる、およびSEMA4D遮断活性を有する、望ましい特性を保有し続けるように修飾がなされる。明らかに、変異体ポリペプチドをコードするDNA中に作製されるどのような変異も、配列をリーディングフレームの外に置いてはならず、特定の態様においては、mRNAの二次構造を生じ得る相補性領域を創出しない。欧州特許出願公開第75,444号を参照されたい。
【0088】
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の結合特異性を測定する方法は、標準的な競合結合アッセイ、T細胞またはB細胞による免疫グロブリン分泌をモニタリングするためのアッセイ、T細胞増殖アッセイ、アポトーシスアッセイ、ELISAアッセイなどを含むが、これらに限定されない。例えば、すべてが参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第93/14125号;Shi et al., Immunity 13:633-642 (2000);Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002);Watanabe et al., J Immunol 167:4321-4328 (2001);Wang et al., Blood 97:3498-3504 (2001);およびGiraudon et al., J Immunol 172(2):1246-1255 (2004)において開示される、そのようなアッセイを参照されたい。
【0089】
本明細書において開示される定常領域、CDR、VHドメイン、またはVLドメインを含む任意の特定のポリペプチドが、別のポリペプチドと少なくとも約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはさらに約100%同一であるか否かを、本明細書において議論する際、%同一性は、BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)などの、しかしこれに限定されない、当技術分野において公知である方法およびコンピュータプログラム/ソフトウェアを用いて決定することができる。BESTFITは、2種の配列間の相同性の最も高いセグメントを見出すために、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-489の局所相同性アルゴリズムを使用する。特定の配列が、例えば、本開示による参照配列と95%同一であるか否かを判定するためにBESTFITまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いる際は、パラメータを、当然、同一性のパーセンテージが参照ポリペプチド配列の完全長にわたって計算されるように、かつ参照配列中のアミノ酸の総数の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、設定する。
【0090】
本開示の目的で、パーセント配列同一性を、Smith-Waterman相同性検索アルゴリズムを使用して、12のギャップ開始ペナルティおよび2のギャップ伸長ペナルティ、62のBLOSUMマトリクスを有するアフィンギャップ検索を用いて決定してもよい。Smith-Waterman相同性検索アルゴリズムは、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-489において教示される。変異体は、例えば、参照抗SEMA4D抗体(例えば、MAb VX15/2503、67、または76)と、わずか1〜15個のアミノ酸残基、わずか1〜10個のアミノ酸残基、例えば6〜10個、わずか5個、わずか4個、3個、2個、またはさらに1個のアミノ酸残基が異なっていてもよい。
【0091】
2種の最適に整列化された配列を比較ウインドウにおいて比較することによっても、「配列同一性」の百分率を決定することができる。配列を比較のために最適に整列化するためには、参照配列を一定に保ったまま、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の部分に、付加またはギャップと呼ばれる欠失を含めることができる。最適な整列化とは、ギャップを含んでいるとしても、参照配列と比較配列との間の「同一の」位置の数を可能な限り大きくする整列化である。2004年9月1日時点でNational Center for Biotechnology Informationから入手可能であったプログラム「BLAST 2 Sequences」のバージョンを使用して、2種の配列の間の「配列同一性」百分率を決定することができる。このプログラムには、Karlin and Altschul(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(12):5873-5877, 1993)のアルゴリズムに基づくプログラムBLASTN(ヌクレオチド配列比較のため)およびBLASTP(ポリペプチド配列比較のため)が組み込まれている。「BLAST 2 Sequences」を利用する時、ワードサイズ(3)、オープンギャップペナルティ(11)、エクステンションギャップペナルティ(1)、ギャップドロップオフ(50)、期待値(10)、およびマトリックスオプションを含むが、これに限定されない、他の必要とされるパラメータについて、2004年9月1日時点でデフォルトパラメータであったパラメータを使用することができる。
【0092】
抗SEMA4抗体の定常領域は、多数の方式でエフェクター機能を変化させるように変異させることができる。例えば、Fc受容体に対する抗体結合を最適化するFc変異を開示している、米国特許第6,737,056B1号および米国特許出願公開第2004/0132101A1号を参照されたい。
【0093】
本明細書中で提供される方法において有用である、ある特定の抗SEMA4D抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体において、Fc部分を、当技術分野において公知である技術を用いてエフェクター機能を低下させるように変異させることができる。例えば、定常領域ドメインの(点変異または他の手段を通した)欠失または不活性化は、循環する修飾抗体のFc受容体結合を低減させ、それにより腫瘍局在化を増加させることができる。他の場合には、本開示と一致する定常領域修飾は、補体結合を緩和し、従って血清半減期を低減させる。定常領域のさらに他の修飾を、ジスルフィド結合またはオリゴ糖部分を修飾して、抗原特異性または抗体柔軟性の増加による局在化の増強を可能にするために、使用することができる。結果として生じた修飾体の生理学的プロフィール、生物学的利用能、および他の生化学的作用、例えば、腫瘍局在化、生体内分布、および血清半減期は、過度の実験を伴わない周知の免疫学的技術を用いて、容易に測定および定量化することができる。本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、例えば、共有結合が抗体のその同起源のエピトープに対する特異的結合を妨げないような、任意のタイプの分子の抗体への共有結合により修飾されている誘導体を含む。例えば、しかし限定としてではなく、抗体誘導体は、例えば、グルコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/遮断基による誘導体化、タンパク質分解性切断、細胞性リガンドまたは他のタンパク質への結合などにより修飾されている抗体を含む。多数の化学修飾の任意は、特異的化学切断、アセチル化、ホルミル化などを含むがこれらに限定されない公知の技術により行うことができる。さらに、誘導体は、1個または複数の非古典的アミノ酸を含有することができる。
【0094】
「保存的アミノ酸置換」とは、その中でアミノ酸残基が類似した電荷をもつ側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられているものである。類似した電荷をもつ側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。あるいは、変異を、例えば飽和変異誘発により、コード配列のすべてまたは一部に沿って無作為に導入することができ、結果として生じた変異体を、活性(例えば、抗SEMA4Dポリペプチドに結合する能力、SEMA4Dのその受容体との相互作用を遮断する能力、または、患者における神経変性障害に関連する症状を軽減させる能力)を保持する変異体を同定するために生物学的活性についてスクリーニングすることができる。
【0095】
例えば、抗体分子のフレームワーク領域のみまたはCDR領域のみに変異を導入することが可能である。導入された変異は、サイレント変異または中立ミスセンス変異である、すなわち、抗原に結合する抗体の能力に対して何も効果を有さないか、またはほとんど効果を有さないことができる。これらのタイプの変異は、コドン使用頻度を最適化するため、またはハイブリドーマの抗体産生を改善するために有用であり得る。あるいは、非中立ミスセンス変異は、抗原に結合する抗体の能力を変更してもよい。当業者は、抗原結合活性の無変更または結合活性の変更(例えば、抗原結合活性の改善または抗体特異性の変化)などの望ましい特性を有する変異体分子を、設計しかつ試験することができるであろう。変異誘発後に、コードされたタンパク質を、日常的に発現させてもよく、コードされたタンパク質の機能的活性および/または生物学的活性(例えば、SEMA4Dポリペプチドの少なくとも1個のエピトープに免疫特異的に結合する能力)を、本明細書において記載される技術を用いて、または当技術分野において公知である日常的な修飾技術により、測定することができる。
【0096】
ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、少なくとも1個の最適化された相補性決定領域(CDR)を含む。「最適化されたCDR」により、CDRが、最適化されたCDRを含む抗SEMA4D抗体に付与される結合親和性および/または抗SEMA4D活性を改善するように、修飾されかつ最適化されていることが意図される。「抗SEMA4D活性」または「SEMA4D遮断活性」は、SEMA4Dと関連する以下の活性の1つまたは複数を調節する活性を含むことができる:B細胞の活性化、凝集、および生存;CD40により誘導される増殖および抗体産生;T細胞依存性抗原に対する抗体応答;T細胞もしくは他の免疫細胞の増殖;樹状細胞の成熟;脱髄および軸索変性;多能性神経前駆体および/もしくはオリゴデンドロサイトのアポトーシス;内皮細胞遊走の誘導;自発性単球遊走の阻害;細胞表面プレキシン-B1もしくは他の受容体に対する結合、または、可溶性SEMA4DもしくはSEMA4D+細胞の表面上に発現しているSEMA4Dと関連する任意の他の活性。抗SEMA4D活性はまた、リンパ腫を含む特定のタイプの癌、自己免疫疾患、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患、移植片拒絶、ならびに浸潤性血管新生を含むが、これらに限定されない、SEMA4Dの発現と関連する疾患の発生率または重症度の低下に帰することができる。マウス抗SEMA4D MAb BD16およびBB18に基づく最適化された抗体の例は、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号、国際特許出願である国際公開公報第93/141251号、およびHerold et al., Int. Immunol. 7(1): 1-8 (1995)に記載され、これらの各々は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。修飾は、抗SEMA4D抗体が、SEMA4D抗原についての特異性を保持し、かつ改善された結合親和性および/または改善された抗SEMA4D活性を有するように、CDR内のアミノ酸残基の置換を含んでもよい。
【0097】
IV. アストロサイト
アストロサイトは、血流、液体/イオン/pH/神経伝達物質の恒常性、シナプス形成/機能、エネルギーおよび代謝、ならびに血液脳関門維持の制御を含む多くの必須の複雑な機能を健康なCNSにおいて実施する特殊な膠細胞である(Barres BA (2008) The mystery and magic of glia: a perspective on their roles in health and disease. Neuron 60:430-440)。重要なこととして、アストロサイトは、神経炎症性疾患および神経変性疾患の主要な病理学的特徴として役立つ反応性アストログリオーシスと呼ばれる過程を通してCNS損傷に応答する。正常なアストロサイト機能の喪失または異常な活性の獲得を介して、CNS障害において主要なまたは貢献的な役割を果たす反応性アストログリオーシスの可能性を指摘する証拠が、増加しつつある。多くのCNS疾患における中心的な役割のため、疾患進行を効果的に遅くするかまたはさらに逆転させるため、正常なアストロサイト機能を回復させる新しい分子標的を同定し、厳密に試験する必要が大いに存在する。アストロサイトがCNS疾患に影響を与えることができる可能性のある経路はいくつか存在する。
【0098】
アストロサイトおよびOPCサポート
多発性硬化症のような神経炎症性疾患において起こる脱髄は、オリゴデンドロサイト系統を含む細胞の著しい破壊および喪失に関連している(Ozawa K, et al. Patterns of oligodendroglia pathology in multiple sclerosis. Brain. 1994;117:1311-1322)。一部には、OPCが成熟した有髄化オリゴデンドロサイトへ完全に分化することができないために、回復期に、内在性の再有髄化機序が失敗する(Wolswijk G.慢性期多発性硬化症の病変部におけるオリゴデンドロサイトの生存、喪失、および誕生。Brain. 2000;123:105-115)。他の実験的に誘導された脱髄モデルから入手されたデータは、生存している成熟オリゴデンドロサイトとは対照的に、新しく成熟するOPCが、回復期における再有髄化のために必要とされることを示している(Levine JM, Reynolds R.臭化エチジウムによって誘導された脱髄における内在性オリゴデンドロサイト前駆細胞の活性化および増殖。Exp Neurol. 1999;160:333-347)。アストロサイトは、オリゴデンドロサイト系統の機能および生存可能性の支持において大きな役割を果たすことが示されている。例えば、Talbottらは、臭化エチジウムによって誘導された脱髄病変において、Nkx2.2+/Olig2+OPCがオリゴデンドロサイトへ完全に分化し、再有髄化を実施するために、アストロサイトが必要とされることを示した(Exp Neurol. 2005 Mar; 192(1):11-24.内在性Nkx2.2+/Olig2+オリゴデンドロサイト前駆細胞はアストロサイトの非存在下で脱髄成体ラット脊髄を再有髄化することができない。Talbott JF, Loy DN, Liu Y, Qiu MS, Bunge MB, Rao MS, Whittemore SR)。AraiおよびLoは、アストロサイトが、増加した酸化ストレスからこれらの細胞を保護する可溶性栄養因子サポートをOPCに提供することをインビトロで証明した(Arai, K. and Lo, E. H. (2010)、アストロサイトはMEK/ERKシグナル伝達およびPI3K/Aktシグナル伝達を介してオリゴデンドロサイト前駆細胞を保護する。J. Neurosci. Res., 88: 758-763. doi: 10.1002/jnr.22256)。実験的自己免疫性脳脊髄炎、実験的視神経炎、および脊髄損傷の状況において、アストロサイト活性化の阻害が、改善された再有髄化プロファイルおよび機能的な転帰尺度を引き起こすことを示した者もいる(Brambilla R, Persaud T, Hu X, Karmally S, Shestopalov VI, Dvoriantchikova G, Ivanov D, Nathanson L, Barnum SR, Bethea JR. 2009.アストログリアNFκBのトランスジェニック阻害は慢性中枢神経系炎症を抑制することによって実験的自己免疫性脳脊髄炎における機能的転帰を改善する。J Immunol 182:2628-2640;Brambilla R, Dvoriantchikova G, Barakat D, Ivanov D, Bethea JR, Shestopalov VI. 2012.アストログリアNFκBのトランスジェニック阻害は実験的視神経炎において視神経傷害および網膜神経節細胞喪失から保護する。J Neuroinflammation 9:213;Brambilla R, Bracchi-Ricard V, Hu WH, Frydel B, Bramwell A, Karmally S, Green EJ, Bethea JR. 2005.アストログリア核内因子κBの阻害は炎症を低下させ、脊髄損傷後の機能的回復を改善する。J Exp Med 202:145-156)。
【0099】
OPCの生存および機能の助長においてアストロサイトが果たす役割のため、ここで同定されたSEMA4D発現OPCおよびSEMA4D受容体発現アストロサイトの隣接は、プレキシン-B受容体およびSEMA4Dシグナル伝達の関連したアップレギュレーションによる、疾患に関連したアストロサイト活性化が、OPC機能に対して甚大な効果を及ぼすことを示唆している。
【0100】
アストロサイトおよびニューロンサポート
アストロサイトが、グルタミン酸、プリン(ATPおよびアデノシン)、GABA、ならびにD-セリンを含むシナプス活性分子の制御された放出を通して、シナプス伝達において直接役割を果たしていることを示す証拠が、蓄積されつつある(Halassa MM, Fellin T, Haydon PG (2007) 三者間シナプス:健康状態および疾患状態におけるグリオトランスミッションのための役割。Trends Mol Med 13:54-63;Nedergaard M, Ransom B, Goldman SA (2003) アストロサイトの新たな役割:脳の機能的構造の再定義。Trends Neurosci 26:523-530によって概説されている)。そのようなグリオトランスミッターの放出は、ニューロンシナプス活性の変化に応答して起こり、アストロサイトカルシウムシグナル伝達の増加に反映されるアストロサイト興奮性を含み、ニューロン興奮性を改変することができる(Halassa MM, Fellin T, Haydon PG (2007)、三者間シナプス:健康状態および疾患状態におけるグリオトランスミッションのための役割。Trends Mol Med 13:54-63;Nedergaard M, Ransom B, Goldman SA (2003) アストロサイトの新たな役割:脳の機能的構造の再定義。Trends Neurosci 26:523-530)。グリオトランスミッターの放出を介してシナプス活性に対して直接効果を及ぼすことに加えて、アストロサイトは、増殖因子および関連分子の放出を通して、シナプス機能に対して強力な長期的な影響を及ぼす可能性を有する(Barres BA (2008) グリアの謎およびマジック:健康状態および疾患状態における役割に関する見込み。Neuron 60:430-440)。
【0101】
アストロサイトおよびBBB完全性
アストロサイトは、適切なニューロン機能のために重大な恒常性維持過程である、血液脳関門(BBB)の形成およびBBBを介した輸送の制御において必須の役割を果たす。BBBは、周皮細胞、アストロサイト、および内皮細胞から構成される、分化した神経血管系の高度に複雑な脳内皮構造である。BBBの損壊は、髄膜炎、脳浮腫、てんかん、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および多発性硬化症(MS;Zlokovic BV. アルツハイマー病および他の障害における神経変性への神経血管経路。Nat Rev Neurosci. 2011;12:723-738によって概説されている)を含む、多数の神経変性疾患に関係している。
【0102】
アストロサイトは、独特の細胞機構および特定の細胞型と相互作用する膜成分から構成される特殊な膜突起を伸長させるという点で「極性のある」細胞である。例えば、脳微小血管または軟膜に近位のアストロサイト突起は、水チャネル、アクアポリン4(Aqp4)の高い密度を特徴とする(Neely JD, Amiry-Moghaddam M, Ottersen OP, Froehner SC, Agre P, Adams ME (2001) アクアポリン-4水チャネルタンパク質のシントロフィン依存性の発現および局在化。Proc Natl Acad Sci U S A 98, 14108-14113;Amiry-Moghaddam M, Otsuka T, Hurn PD, Traystman RJ, Haug FM, Froehner SC, Adams ME, Neely JD, Agre P, Ottersen OP, Bhardwaj A (2003) アストログリアエンドフィートにおけるAQP4のαシントロフィン依存性のプールは血液と脳との間の二方向水流を与える。Proc Natl Acad Sci U S A 100, 2106-2111)。対照的に、シナプス領域に面するアストロサイト突起には、グルタミン酸トランスポーターが豊富であり、Aqp4の密度は比較的低い(Nielsen S, Nagelhus EA, Amiry-Moghaddam M, Bourque C, Agre P, Ottersen OP (1997) グリア細胞における水輸送のための特殊な膜ドメイン:ラット脳におけるアクアポリン-4の高分解能イムノゴールド細胞化学。J Neurosci 17, 171-180; Chaudhry FA, Lehre KP, van Lookeren Campagne M, Ottersen OP, Danbolt NC, Storm-Mathisen J (1995) グリア細胞膜におけるグルタミン酸トランスポーター:定量的超微細構造的免疫細胞化学によって明らかになった高度に分化した局在化。Neuron 15, 711-720)。興味深いことに、神経変性を受けた脳においては、アストロサイト極性が破壊される。例えば、ADの状況において、アミロイド斑量の多い領域においては、Aqp4染色強度が有意に減少する。実際、Yangらは、tg-ArcSwe ADマウスにおけるアミロイド病理の蓄積が、時間的にも空間的にもアストロサイト極性の喪失と連関していることを示した(J Alzheimer's Dis. 2011; 27(4):711-22. doi: 10.3233/JAD-2011-110725;アルツハイマー病のtg-ArcSweマウスモデルにおけるアストロサイト極性の喪失。Yang JL, Lunde LK, Nuntagij P, Oguchi T, Camassa LM, Nilsson LN, Lannfelt L, Xu Y, Amiry-Moghaddam M, Ottersen OP, Torp R)。
【0103】
アストロサイト活性化の促進におけるSEMA4Dシグナル伝達の役割
SEMA4D受容体発現とアストロサイト活性化マーカーGFAPとの関連のため、疾患状態においてSEMA4Dシグナル伝達がアストロサイト活性化を強化し、それによって、「フィードフォワード」機序を提供するという可能性が存在する。アストロサイト活性化に対するSEMA4Dの効果を調査するため、ラットアストロサイトの初代培養物を生成し、単独で、またはインビボでプレキシン-B1発現を誘導することが示されている周知の肝毒性かつ肝発癌性の薬剤、チオアセトアミド(TAA)(Lim, J. S., Jeong, S. Y., Hwang, J. Y., Park, H. J., Cho, J. W., & Yoon, S. (2006) マウスにおけるチオアセトアミドによって誘導される肝毒性に関するトキシコゲノミクス分析。MOLECULAR & CELLULAR TOXICOLOGY, 2(2), 126-133) (下記の実施例6および
図18A)もしくはCNSにおいてミクログリアによって産生される既知の活性化因子、プロスタグランジンD2(下記の実施例6および
図18B)と組み合わせて、SEMA4Dによって処置した。
【0104】
V. 治療用抗SEMA4D抗体を使用した処置方法
本開示の方法は、神経変性障害を有する対象を処置するための、抗SEMA4D結合分子、例えば、その抗原結合断片、バリアント、および誘導体を含む抗体の使用に向けられる。ある特定の態様において、内皮細胞がSEMA4D受容体を発現し、他の態様において、ニューロン細胞がSEMA4D受容体を発現し、他の態様において、内皮細胞およびニューロン細胞の両方がSEMA4D受容体を発現する。ある特定の態様において、受容体はプレキシン-B1である。以下の考察は、抗SEMA4D抗体の投与に言及するが、本明細書において記載された方法は、これらの抗SEMA4D抗体の抗原結合断片、変異体、および誘導体、または本開示の抗SEMA4D抗体の所望の特性を保持する、例えば、SEMA4D、例えば、ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、またはヒトSEMA4DおよびマウスSEMA4Dに特異的に結合し、SEMA4D中和活性を有し、かつ/またはSEMA-4Dのその受容体、例えば、プレキシン-B1との相互作用を阻止することができる、他の生体物質または低分子にも適用可能である。別の態様において、方法は、抗SEMA4D抗体の投与を指し、本明細書において記載された方法は、プレキシン-B1および/またはプレキシン-B2に特異的に結合し、SEMA-4Dのそのプレキシン受容体のうちの一方または両方、例えば、プレキシン-B1および/またはプレキシン-B2との相互作用を阻止することができる、抗プレキシン-B1結合分子または抗プレキシン-B2結合分子の投与も指すことができる。
【0105】
1つの態様において、処置は、患者が神経変性障害を有するかまたはそれを発症するリスクを有する場合の、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体もしくはその抗原結合断片、または本明細書において記載されるSEMA4Dに結合しそれを中和する他の生体物質もしくは低分子の患者への適用または投与を含む。別の態様において、処置は、患者が神経変性障害を有するかまたはそれを発症するリスクを有する場合の、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物の患者への適用または投与も含むように意図される。
【0106】
本明細書において記載される抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその結合断片は、様々な神経変性障害の処置のために有用である。いくつかの態様において、神経変性障害の処置は、障害に関連した症状の改善を誘導するように意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、症状顕在化の増加を低下させるか、遅延させるか、または停止させるように意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、症状の顕在化を阻害する、例えば、抑制するか、遅延させるか、防止するか、停止させるか、または逆転させるように意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、障害に関連した症状の1つまたは複数をある程度和らげるように意図される。これらの状況において、症状は、精神神経症状、認知症状、および/または運動機能障害であり得る。他の態様において、神経変性障害の処置は、罹患率および死亡率を低下させるように意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、生活の質を改善するように意図される。
【0107】
1つの態様において、本開示は、具体的には、障害に関連した症状を改善するための神経変性障害の処置において使用するための薬剤としての、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の使用に関する。
【0108】
本開示の方法に従って、少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体、または本明細書中の他の場所で定義される他の生体分子もしくは低分子を、神経変性障害に関する正の治療応答を促進するために使用することができる。神経変性障害に関する「正の治療応答」とは、障害に関連した症状の改善を含むように意図される。そのような正の治療応答は、投与ルートに限定されず、ドナー、(例えば、器官灌流のような)ドナー組織、ホスト、それらの任意の組み合わせ等への投与を含むことができる。具体的には、本明細書において提供される方法は、患者における神経変性障害の進行の阻害、防止、低下、軽減、または縮小に向けられる。従って、例えば、臨床的に観察可能な症状の欠如、臨床的に観察可能な症状の発生率の減少、または臨床的に観察可能な症状の変化として、障害の改善を特徴決定することができる。
【0109】
神経変性障害に関連した症状を変化させる活性を、インビボマウスモデルを使用して、検出し測定することができる。ある特定の態様において、CVNマウスモデルを利用することができる。CVNマウスには、ADに関連した脳炎症の状態のいくつかを再生する変異と共に、3つの独立した家系における家族性アルツハイマー病(AD)に特徴的なAβ前駆タンパク質の変異が組み入れられている(Colton et al., J Alzheimer's Dis.15:571-587, 2008; Van Nostrand et al., Stroke 41:S135-S138, 2010)。CVNモデルは、アルツハイマー病に関連した主要な病理のいくつかを示す:Aβ斑、神経原線維タングルおよび細胞死(ニューロン喪失)を誘発する高リン酸化型タウ、ならびに一貫した空間記憶障害および神経血管欠陥。アルツハイマー病のモデル化のために使用されている他のマウス変異体と比較して、CVNマウスは、より若齢でより多くのアルツハイマー関連病理を示す。他の態様において、ハンチントン病(HD)のYAC128マウスモデルを利用することができる。YAC128マウスは、全長変異ヒトハンチンチン遺伝子(mHTT)を発現し、HDの兆候および症状の多くを正確に再現する。当業者であれば、神経変性障害における疾患機序の研究および症状の処置のため、他のモデルが文献に記載され、有用に利用されており、本開示が特定の1つのモデルに限定されないことを認識するであろうことが理解されるべきである。
【0110】
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体、または他の生体物質もしくは低分子を、神経変性障害のための少なくとも1つまたは複数の他の処置と組み合わせて使用してもよく;その場合、追加的な治療は、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の治療の前、その間、またはその後に施される。従って、組み合わせ治療が、別の治療剤の投与と組み合わせて、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与を含む場合、本開示の方法は、同時投与またはいずれかの順番での連続的投与による、別々の製剤または単一の薬学的製剤を使用した共投与を包含する。
【0111】
ある特定の態様において本開示の方法および系を適用するため、セマフォリン-4D(SEMA4D)に特異的に結合する単離された結合分子の有効量の、神経変性障害を有すると決定された対象または神経変性障害を有すると推測される対象への投与の前、またはその後、またはその前後に、患者から試料または画像を入手してもよい。いくつかの場合には、治療を開始した後、または治療を中止した後、または治療の前後に、連続的な試料または画像を患者から入手してもよい。試料または画像は、例えば、医療提供者(例えば、医師)または医療給付金提供者によって請求され、同一のまたは異なる医療提供者(例えば、看護師、病院)または臨床検査室によって入手されかつ/または処理され、処理後、結果がさらに別の医療提供者、医療給付金提供者、または患者に転送されてもよい。同様に、1つまたは複数のスコアの測定/決定、スコアの比較、スコアの評価、および処置決定が、1つまたは複数の医療提供者、医療給付金提供者、および/または臨床検査室によって実施されてもよい。
【0112】
前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病またはハンチントン病である。
【0113】
いくつかの局面において、医療提供者は、対象が神経変性障害を有するか、有すると決定されたか、または有すると推測される場合に、セマフォリン-4D(SEMA4D)に特異的に結合する単離された結合分子の有効量を含む治療を投与するかまたはそれを投与するよう別の医療提供者に指示することができる。医療提供者は、以下の行為を実行するかまたはそれを実施するよう別の医療提供者もしくは患者に指示することができる:試料または画像を入手すること、試料または画像を処理すること、試料または画像を提出すること、試料または画像を受け取ること、試料または画像を移動させること、試料または画像を分析するかまたは測定すること、試料または画像を定量化すること、試料または画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果を提供すること、試料または画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果を受け取ること、1つまたは複数の試料または画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果を比較/判定すること、1つまたは複数の試料からの比較/判定を提供すること、1つまたは複数の試料または画像からの比較/判定を入手すること、治療(例えば、セマフォリン-4D(SEMA4D)に特異的に結合する単離された結合分子の有効量)を投与すること、治療の投与を開始すること、治療の投与を中止すること、治療の投与を継続すること、治療の投与を一時的に中断すること、投与される治療剤の量を増加させること、投与される治療剤の量を減少させること、ある量の治療剤の投与を継続すること、治療剤の投与の頻度を増加させること、治療剤の投与の頻度を減少させること、治療剤の同一の投薬頻度を維持すること、治療または治療剤を少なくとも1つの別の治療または治療剤に交換すること、治療または治療剤を少なくとも1つの別の治療または追加的な治療剤と組み合わせること。
【0114】
いくつかの局面において、医療給付金提供者は、例えば、試料の収集、試料の処理、試料の提出、試料の受け取り、試料の移動、試料の分析もしくは測定、試料の定量化、試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の提供、試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の移動、1つもしくは複数の試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の比較/判定、1つもしくは複数の試料からの比較/判定の移動、治療もしくは治療剤の投与、治療もしくは治療剤の投与の開始、治療もしくは治療剤の投与の中止、治療もしくは治療剤の投与の継続、治療もしくは治療剤の投与の一時的中断、投与される治療剤の量の増加、投与される治療剤の量の減少、ある量の治療剤の投与の継続、治療剤の投与の頻度の増加、治療剤の投与の頻度の減少、治療剤の同一の投薬頻度の維持、治療もしくは治療剤の少なくとも1つの別の治療もしくは治療剤への交換、または治療もしくは治療剤の少なくとも1つの別の治療もしくは追加的な治療剤との組み合わせを、認定するかまたは否認することができる。
【0115】
前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病またはハンチントン病である。
【0116】
さらに、医療給付金提供者は、例えば、治療の処方を認定するかまたは否認することができ、治療の保障を認定するかまたは否認することができ、治療費の償還を認定するかまたは否認することができ、治療の適格性を決定するかまたは否認することができる。
【0117】
いくつかの局面において、臨床検査室は、例えば、試料の収集もしくは入手、試料の処理、試料の提出、試料の受け取り、試料の移動、試料の分析もしくは測定、試料の定量化、試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の提供、試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の受け取り、1つもしくは複数の試料の分析/測定/定量化の後に入手された結果の比較/判定、1つもしくは複数の試料からの比較/判定の提供、1つもしくは複数の試料からの比較/判定の入手、またはその他の関連した作業を行うことができる。
【0118】
前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病またはハンチントン病である。
【0119】
ある特定の局面において、対象が神経変性障害を有するか否かを決定するため、前記手法のいずれかを使用することができる。ある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。前記手法のいずれかのある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病またはハンチントン病である。
【0120】
いくつかの局面において、医療提供者、臨床検査室、または他の実体は、例えば、画像の収集もしくは入手、画像の処理、画像の提出、画像の受け取り、画像の移動、画像の分析もしくは測定、画像の定量化、画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果の提供、画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果の受け取り、1つもしくは複数の画像の分析/測定/定量化の後に入手された結果の比較/判定、1つもしくは複数の画像からの比較/判定の提供、1つもしくは複数の画像からの比較/判定の入手、またはその他の関連した作業を行うことができる。そのような局面において使用することができる画像は、血管造影、超音波検査、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影(PET)、光干渉断層撮影(OCT)、近赤外線分光法(NIRS)、およびNIR蛍光によって入手された画像を含むが、これらに限定されない。ある特定の態様において、文献に記載された画像技術を使用することができる(Tardif et al. Circ Cardiovasc Imaging 4:319-333 (2011))。
【0121】
VI.薬学的組成物および投与法
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を調製する方法、およびこれらを必要とする対象に投与する方法は、当業者に周知であるか、または当業者により容易に決定される。抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与の経路は、例えば、経口であるか、非経口であるか、吸入によるか、または局所であることができる。本明細書において使用される非経口という用語は、例えば、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、または膣投与を含む。投与のこれらの形態のすべてが、本開示の範囲内であると明らかに企図されるが、投与のための形態の例は、注射用、特に、静脈内または動脈内の注射または点滴用の溶液であろう。注射に適した薬学的組成物は、緩衝剤(例えば、酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、またはクエン酸緩衝剤)、界面活性剤(例えばポリソルベート)、任意で安定剤(例えばヒトアルブミン)などを含むことができる。しかしながら、本明細書における教示と適合する他の方法において、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を、有害な細胞集団の部位に直接送達し、それにより患部組織の治療剤への曝露を増加させることができる。
【0122】
本明細書において議論される際、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、神経変性障害のインビボ処置のための薬学的有効量で投与することができる。この点において、開示される結合分子を、投与を容易にし、かつ活性剤の安定性を促進するように製剤化できることが、認識されるであろう。ある特定の態様において、本開示に従う薬学的組成物は、生理食塩水、非毒性緩衝剤、保存薬などのような、薬学的に許容される非毒性の滅菌担体を含む。本出願の目的で、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の薬学的有効量は、標的に対する有効な結合を達成するため、および有益性を達成するため、例えば、神経変性障害に関連する症状の改善に十分な量を意味すると見なされる。
【0123】
本開示において使用される薬学的組成物は、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリラート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂を含む、薬学的に許容される担体を含む。
【0124】
非経口投与のための調製物は、滅菌の水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液を含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体は、例えば、水、食塩水および緩衝媒体を含むアルコール性/水性溶液、乳濁液、または懸濁液を含む。本開示において、薬学的に許容される担体は、0.01〜0.1 M、例えば約0.05 Mのリン酸緩衝液または0.8%の食塩水を含むが、これらに限定されない。他の一般的な非経口賦形剤は、リン酸ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー溶液、または固定油を含む。静脈内賦形剤は、リンガーデキストロースに基づくものなどのような、流体および栄養補液、電解質補液を含む。例えば、抗微生物薬、抗酸化薬、キレート剤、および不活性ガスなどのような保存薬および他の添加物もまた、存在してもよい。
【0125】
より詳細に、注射可能な使用に適した薬学的組成物は、滅菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製のための滅菌水性溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌粉末を含む。そのような場合に、組成物は滅菌でなければならず、かつ、易注射性(easy syringability)が存在する程度に流動性であるべきである。組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されうる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物を含有する、溶媒または分散媒であることができる。妥当な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、維持することができる。本明細書において開示される治療法における使用に適した製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co.) 16th ed. (1980)に記載されている。
【0126】
微生物の作用の予防は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含みうる。注射可能な組成物の長期の吸収を、組成物中に吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによりもたらすことができる。
【0127】
いずれの場合にも、滅菌の注射可能な溶液を、活性化合物を(例えば、抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体をそれ自体でまたは他の活性剤と組み合わせて)、必要に応じて本明細書において列挙される成分の1つまたは組み合わせを有する適切な溶媒中に必要量組み入れ、その後濾過滅菌することにより、調製することができる。概して、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒および上記で列挙されるもの由来の必要な他の成分を含有する滅菌賦形剤中に組み入れることにより、調製する。滅菌の注射可能な溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製法は、真空乾燥および凍結乾燥を含み、活性成分に加えて任意の追加的な望ましい成分の粉末を、事前に濾過滅菌したその溶液から生じる。注射用の調製物を、当技術分野において公知である方法に従って無菌的条件下で、加工処理し、アンプル、袋、瓶、シリンジ、またはバイアルなどの容器中に満たし、密封する。さらに、調製物を、キットの形態でパッケージングして、販売してもよい。そのような製造品は、付随する組成物が、疾患または障害を患うかまたはその素因を有する対象を処置するために有用であることを示す、標識またはパッケージ挿入物を有することができる。
【0128】
非経口製剤は、単回ボーラス用量、注入、またはその後維持用量が続く負荷ボーラス用量であることができる。これらの組成物は、特異的な固定された間隔もしくは可変の間隔で、例えば1日に1回、または「必要に応じて」随時、投与することができる。
【0129】
本開示において使用されるある特定の薬学的組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液、または溶液を含む許容される剤形において経口投与することができる。ある特定の薬学的組成物はまた、鼻エアロゾルまたは吸入によっても投与することができる。そのような組成物は、ベンジルアルコールまたは他の適当な保存薬、生物学的利用能を増強するための吸収促進剤、および/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用して、食塩水中の溶液として調製することができる。
【0130】
単一剤形を産生するために担体材料と組み合わされるべき抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体の量は、処置される宿主、および投与の特定の様式に応じて変動すると考えられる。組成物は、単一用量として、複数用量として、または確立された期間にわたって注入において投与することができる。投薬レジメンはまた、最適な望ましい応答(例えば、治療応答または防御応答)を提供するように調整することもできる。
【0131】
本開示の範囲に沿って、抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を、前述の処置の方法に従って治療効果を生じるのに十分な量で、ヒトまたは他の動物に投与することができる。抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、公知の技術に従って本開示の抗体を従来の薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせることにより調製された従来の剤形において、そのようなヒトまたは他の動物に投与することができる。薬学的に許容される担体または希釈剤の形態および特徴は、それと組み合わされるべき活性成分の量、投与の経路、および他の周知の変数により規定されることが、当業者により認識されるであろう。当業者はさらに、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の1つまたは複数の種を含むカクテルを使用できることを、認識するであろう。
【0132】
「治療的有効用量もしくは量」または「有効量」により、投与された際に、処置されるべき疾患を有する患者の処置に関して正の治療応答をもたらす、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の量が意図される。神経変性障害の場合、正の治療応答は、該障害の症状の軽減;症状の発生率の減少、低下、遅滞、もしくは停止;症状の重篤度の減少、低下、遅滞;症状の発現の阻害、例えば、抑制、遅滞、予防、停止、もしくは逆行;該障害に関する症状の1つもしくは複数の、ある程度の緩和;罹患率および死亡率の低下;生活の質の改善;またはこのような効果の組み合わせでありうる。
【0133】
症状の発生率の減少ための、本開示の組成物の治療的有効用量は、投与の手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるかまたは動物であるか、投与される他の薬剤、および処置が防御的であるかまたは治療的であるかを含む、多くの異なる要因に応じて変動する。ある特定の態様において、患者はヒトであるが、遺伝子導入哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物もまた、処置することができる。処置投薬量を、安全性および有効性を最適化するように、当業者に公知である日常的な方法を用いて滴定してもよい。
【0134】
投与されるべき少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその結合断片、変異体、もしくは誘導体の量は、本開示を考慮して過度の実験を伴わずに、当業者が容易に決定する。投与の様式、および少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、その抗原結合断片、変異体、または誘導体のそれぞれの量に影響を及ぼす要因は、疾患の重症度、疾患の履歴、ならびに治療を受ける個体の年齢、身長、体重、健康、および身体状態を含むが、これらに限定されない。同様に、投与されるべき抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体の量は、投与の様式、および、対象がこの剤の単一用量を受けるかまたは複数用量を受けるかに依存するであろう。
【0135】
本開示はまた、神経変性障害を処置するために対象を処置する薬剤であって、少なくとも1つの他の療法で前処置されている対象において使用される薬剤の製造における、抗SEMA4D結合分子、例えば、本開示の抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の使用も提供する。「前処置される」または「前処置」により、対象が、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を含む薬剤を受ける前に、1つまたは複数の他の治療を受けている(例えば、少なくとも1つの他の神経変性療法で処置されている)ことが意図される。「前処置される」または「前処置」とは、抗SEMA4D結合分子、例えば、本明細書において開示されるモノクローナル抗体VX15/2503、67、もしくは76、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を含む薬剤での処置の開始の前の2年以内、18か月以内、1年以内、6か月以内、2か月以内、6週間以内、1か月以内、4週間以内、3週間以内、2週間以内、1週間以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、またはさらに1日以内に少なくとも1つの他の療法で処置されている対象を含む。対象が、1つまたは複数の先の療法での前処置に対して応答者であったことは必要ではない。従って、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を含む薬剤を受ける対象は、先の療法での前処置に対して、または前処置が複数の療法を含んだ先の療法の1つもしくは複数に対して、応答していてもよく、または応答できていなくてもよい。
【0136】
本開示の実施は、別の方法で指示されない限り、当技術分野の技能内である、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、遺伝子導入生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の従来の技術を使用するであろう。そのような技術は、文献において完全に説明されている。例えば、Sambrook et al., ed. (1989) Molecular Cloning A Laboratory Manual (2nd ed.; Cold Spring Harbor Laboratory Press);Sambrook et al., ed. (1992) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Cold Springs Harbor Laboratory, NY);D. N. Glover ed., (1985) DNA Cloning, Volumes I and II;Gait, ed. (1984) Oligonucleotide Synthesis;Mullis et al. 米国特許第4,683,195号;Hames and Higgins, eds. (1984) Nucleic Acid Hybridization;Hames and Higgins, eds. (1984) Transcription And Translation;Freshney (1987) Culture Of Animal Cells (Alan R. Liss, Inc.);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press) (1986);Perbal (1984) A Practical Guide To Molecular Cloning;論文であるMethods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.);Miller and Calos eds. (1987) Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells, (Cold Spring Harbor Laboratory);Wu et al., eds., Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155;Mayer and Walker, eds. (1987) Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Academic Press, London);Weir and Blackwell, eds., (1986) Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV;Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1986);およびAusubel et al. (1989) Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, Baltimore, Md.)を参照されたい。
【0137】
抗体工学の一般原理は、Borrebaeck, ed. (1995) Antibody Engineering (2nd ed.; Oxford Univ. Press)に示されている。タンパク質工学の一般原理は、Rickwood et al., eds. (1995) Protein Engineering, A Practical Approach (IRL Press at Oxford Univ. Press, Oxford, Eng.)に示されている。抗体および抗体-ハプテン結合の一般原理は、Nisonoff (1984) Molecular Immunology (2nd ed.; Sinauer Associates, Sunderland, Mass.);およびSteward (1984) Antibodies, Their Structure and Function (Chapman and Hall, New York, N.Y.)に示されている。さらに、当技術分野において公知であり、かつ具体的に記載されていない免疫学における標準的な方法は、概して、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York;Stites et al., eds. (1994) Basic and Clinical Immunology (8th ed; Appleton & Lange, Norwalk, Conn.)、およびMishell and Shiigi (eds) (1980) Selected Methods in Cellular Immunology (W.H. Freeman and Co., NY)におけるように従う。
【0138】
免疫学の一般原理を示す標準的な参照著作物は、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York;Klein (1982) J., Immunology: The Science of Self-Nonself Discrimination (John Wiley & Sons, NY);Kennett et al., eds. (1980) Monoclonal Antibodies, Hybridoma: A New Dimension in Biological Analyses (Plenum Press, NY);Campbell (1984) "Monoclonal Antibody Technology" in Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, ed. Burden et al., (Elsevire, Amsterdam);Goldsby et al., eds. (2000) Kuby Immunology (4th ed.; H. Freemand & Co.);Roitt et al. (2001) Immunology (6th ed.; London: Mosby);Abbas et al. (2005) Cellular and Molecular Immunology (5th ed.; Elsevier Health Sciences Division);Kontermann and Dubel (2001) Antibody Engineering (Springer Verlag);Sambrook and Russell (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press);Lewin (2003) Genes VIII (Prentice Hall2003);Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press);Dieffenbach and Dveksler (2003) PCR Primer (Cold Spring Harbor Press)を含む。
【0139】
上記で引用された参照文献のすべて、および本明細書において引用されるすべての参照文献は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
以下の実施例は、例証として提供され、限定としては提供されない。
【実施例】
【0141】
実施例1:CVNマウスモデルにおけるアルツハイマー病(AD)に対する抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしく誘導体、例えば、VX15/2503、67、または76の効果の試験
実験設計
ADに関連した病理および症状に対する抗SEMA4D抗体(例えば、MAb67)の効果を研究するため、CVNモデルを使用した。CVNマウスには、ADに関連した神経炎症機序を促進するための遺伝子(一酸化窒素合成酵素-2)の欠失と共に、3つの独立した家系における家族性アルツハイマー病(AD)に特徴的なヒトAβ前駆タンパク質の変異が組み入れられている(Colton et al., J Alzheimers Dis.15:571-587, 2008;Van Nostrand et al., Stroke 41:S135-S138, 2010)。
【0142】
基本的な実験設計を
図1に示す。ADに対する抗SEMA4D結合分子の効果を試験するため、(Charles Riverから入手された)アルツハイマー病易発性CVNマウスを使用した。10週齢で、基線血清学レベルを入手するため、マウスから採血した。10〜12週齢の間に、マウスは、研究に参加可能であることを確実にするための行動予備試験を受けた。無作為化の後、CVNマウスを、26週目から38週目まで、抗SEMA4D抗体(Mab-67)またはアイソタイプ対照抗体(MAb 2B8) (30mg/kg、i.v.)によって毎週処置し、その時点で、いくつかの行動試験を施した。行動試験は、オープンフィールドテストおよび放射状水迷路であった。
【0143】
オープンフィールドテスト
10週齢および38週齢で、可能性のある処置によって誘導される活動低下もしくは活動亢進(対照試験)または他の効果について、動物の探索活動をオープンフィールドテストにおいて研究する。実験ルームの条件への少なくとも30分の馴化のため、マウスを実験ルームに置いた後、試験を行う。アクティビティチャンバー(Med Associates Inc, St Albans、VT;27×27×20.3cm)には、IRビームが装備されている。マウスをチャンバーの中心部に置き、30分間、5分のビンで行動を記録する。以下の5つの従属の尺度に対して定量分析を実施する:全移動距離、オープンフィールドの中心部における移動距離、中心部における立ち上がり率、全立ち上がり頻度、および速度。光をおよそ10〜30ルクスの赤色光に低下させた低ストレス条件で動物を試験する。
【0144】
放射状水迷路
11週齢および39週齢で、実験ルームの条件への少なくとも30分の馴化のため、マウスを実験室に置いた後、試験を行う。2日間放射状水迷路は、以前に詳細に記載されている(Alamed et al. 2006)。簡単に説明すると、6アーム迷路を、水のプールに沈め、プラットフォームを1つのアームの端に置く。マウスは、1日15回のトライアルを2日間受け、各トライアルにおいて、異なるアームから出発するが、プラットフォームを含有しているアームは、各マウスについて同一のままにしておく。所定の週齢においては各マウスについてプラットフォーム位置を2日間一定のままにするが、11週齢の試験時と40週齢の試験時とでは各マウスについてこの位置を変化させる。ルームの周囲の視覚的な合図を使用して、マウスは、エスケーププラットフォームの位置を学習する。最初の10回のトライアルはトレーニングと見なし、見えるプラットフォームと隠れたプラットフォームを交互にする。1日目の最終トライアルおよび2日目の全てのトライアルは、隠れたプラットフォームを使用する。エラー(間違ったアームへの進入)の数を、1分間数えた。エラーを、3回のトライアルで平均化し、2日間で10ブロックを得る。
【0145】
行動試験の結論の後、マウスを屠殺し、脳組織をホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)免疫組織化学のために処理した。抑制性GABA作動性シナプスの誘導におけるSEMA4Dの役割の報告(Kuzirian et al., J Neuroscience, 33:8961-8973・8961, 2013)を考慮して、小胞の密度、および小胞GABAトランスポーター(VGAT)の発現の強度を、処置されたCVNマウスの歯状回において決定した。歯状回は、成体CNSにおいて継続する神経発生の少数の主要な中心のうちの1つであり、記憶の形成および保持において役割を果たすと考えられている。全てのトライアルについて、二方向ANOVA検定を使用して統計分析を実施した。
【0146】
抗SEMA4Dは不安様行動を低下させる
抗SEMA4Dまたはアイソタイプ対照によって処置された12匹のAD易発性CVNマウスの群において、探索活動を研究した。可能性のある処置によって誘導される自発運動活動および不安様行動に対する効果についてのオープンフィールドテストを38週齢で施した。マウスを照明付きチャンバーの中心部に置き、30分間、6つの5分タイムビンにおいて、行動を記録した。当技術分野において公知であるように、不安関連行動の尺度である、全移動距離(
図2A)およびオープンフィールドの中心部における移動距離(
図2B) について、定量分析を実施した。
【0147】
結果は、抗SEMA4D抗体によって毎週処置されたAD易発性CVNマウスが、対照MAb 2B8によって処置されたマウスより、多くのオープンフィールド探索および少ない不安様行動(フィールドの中心部への侵入)を示すことを示した。これらの結果は
図2に示される。
【0148】
抗SEMA4Dは空間記憶を改善する
39週齢で、抗SEMA4Dまたは2B8アイソタイプ対照によって処置されたCVNマウス(n=9〜13/群)を、放射状水迷路(Alamed et al. 2006、
図3Aに示される)において2日間試験した。簡単に説明すると、各マウスは、連続する2日の各々で1日当たり15回のトライアル(1ブロック当たり3回のトライアル)を受けた。プラットフォームを含有しているアームは各トライアルについて同一にしたまま、各トライアルを異なるアームから開始した。1日目のトライアルブロックは、トレーニングの目的で、見えるプラットフォームと隠れたプラットフォームとを交互にした。2日目は、空間記憶を査定するため、全てのトライアルを隠れたプラットフォームで実施した。1日目はトレーニング/学習期間であり、2日目に、プラットフォームを見つけるまでの所要時間を記録した。
【0149】
結果は、抗SEMA4D抗体(MAb 67)投与が、対照(2B8 MAbによって処置された)コホートと比較して、空間記憶の改善を示唆する、所要時間の測定可能な減少を引き起こすことを示した。結果は
図3Bに示される。
【0150】
抗SEMA4DはGABA作動性シナプスを減少させる
Mab-67またはMAb2B8によって処置されたCVNマウスおよびWTマウス(n=9〜13/群)に由来するFFPE脳組織切片を、GABA作動性シナプス小胞を検出するため、抗VGAT抗体によって染色した。VGAT陽性小胞シグナルの百分率および1小胞当たりのVGATシグナル強度を、全ての動物の歯状回において定量化し、スキャンされた全歯状回面積に対して標準化した。
【0151】
結果は、CVN ADマウスの抗SEMA4D抗体処置が、VGAT陽性小胞の密度の減少の傾向(
図4A)および1小胞当たりのVGAT染色強度レベルの統計的に有意な減少(
図4B)を引き起こすことを示した。この所見は、インビボのGABA作動性シグナル伝達のモジュレーションにおけるSEMA4Dの役割を示唆し、MAb67によって処置されたCVNマウスにおいて観察された行動効果の機序に関する洞察を提供することができる。GABA作動性シグナル伝達は、抑制性ニューロンの不均一なクラスに関連している。下記実施例6の
図15において証明されるように、ソマトスタチン陽性ニューロン、NPY陽性ニューロン、またはNPY2R陽性ニューロンのサブセットに分析の焦点を当てた時、抗SEMA4D抗体による処置の、抑制性ニューロンの密度に対する、より有意な効果が観察される。
【0152】
実施例2:YAC128マウスモデルにおけるハンチントン病(HD)に対する抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体、例えば、MAb VX15/2503または67の効果の試験
実験設計
HDに関連した病理および症状に対する抗SEMA4D抗体の効果を研究するため、インビボYAC128モデルを利用した第2の実験を実施した。基本的な実験設計は、上記の実施例1および
図1に示されたものと類似していたが、この場合には、1群当たり13〜22匹のYAC128マウスまたはWTマウスで、MAb(抗体)投薬を6週目〜47週目まで毎週実施した。YAC128マウスは、University of British Columbia, Centre for Molecular Medicine and Therapeuticsで飼育され維持された。
【0153】
抗SEMA4DはYAC128マウスモデルにおける不安様行動を低下させる
オープンフィールド探索において不安を査定するため、蛍光天井灯によって明るく照明されたルームで、高さ20cmの側面を有する50×50cmの開放式の灰色のアクリルボックスの左下の角に、MAbによって処置されたマウスを置いた。天井に設置されたビデオカメラによってオープンフィールド活動を10分間記録した。フィールドの中心部への進入回数(
図5A)およびそこでの滞在時間(
図5B)を、不安様行動の尺度としてスコア化した。
【0154】
YAC128マウスがオープンフィールド探索において野生型(WT)マウスより大きい不安様行動を示した対照によって処置された動物とは対照的に、抗SEMA4D抗体(MAb 67)によって処置されたWTマウスとYAC128マウスとの間には差がなく、このことは、MAb-67がYAC128マウスにおける不安様行動を寛解させることを示している。これらの結果は
図5に示される。
【0155】
抗SEMA4DはYAC128マウスモデルにおいて空間記憶を改善する
新規位置における既知の物体についての嗜好性を査定するため、2つの異なる新規物体を、オープンフィールドボックスの左上および右上の角に置いた。抗SEMA4Dによって処置されたマウスを、ボックスの左下角に投入し、天井に設置されたビデオカメラによって5分間記録し、その間に、2つの新規物体の探索の回数をスコア化した(トライアル1、
図6A)。次いで、マウスを5分間ボックスから取り出し、ボックスの右上角の物体をボックスの右下角へ移動させた。マウスをボックスへ再度投入し、さらに5分間記録した(トライアル2、
図6B)。全嗅ぎ行動と比べた標的物体(新しい位置のもの)に対する探索または嗅ぎ行動の割合を計算した。
【0156】
トライアル2において新規位置にある物体を優先的に探索する対照動物またはMab67によって処置された野生型(WT)動物とは対照的に、対照によって処置されたYAC128マウスは、新規位置にある物体を認識しないかまたはそれに対する嗜好性を示さない。抗SEMA4D抗体による処置は、YAC128マウスにおける正常な新規物体嗜好性を回復させる(p<0.01)。これは、YAC128マウスにおける空間記憶がMab-67処置によって改善されたために、物体が新規位置にあることをマウスが認識したことを示唆する。結果は
図6に示される。
【0157】
抗SEMA4DはYAC128マウスにおける皮質および脳梁の変性を防止する
12ヶ月齢のMAbによって処置されたYAC128マウスおよびWTマウス(n=13〜21/群)に由来する流動性の脳組織切片を、抗NeuN抗体によって染色した。連続切片内の画定された構造の周辺を、StereoInvestigatorソフトウェア(Microbrightfield)を使用してトレースすることによって、皮質(
図7A)および脳梁(
図7B)の体積を決定し、体積をCavalieri原理を使用して決定した。
【0158】
結果は、12ヶ月齢のYAC128マウスにおいて、抗SEMA4D抗体による処置が、通常の疾患に関連した皮質および脳梁の体積の低下を阻害することを示す。結果は
図7に示される。
【0159】
Mab67はYAC128マウスにおいて精巣変性を防止する
精巣変性は、男性HD患者において観察され、雄YAC128マウスにおいて再現される。
図8に示されるように、抗SEMA4D抗体による処置は、12ヶ月齢YAC128マウスにおいて精巣変性を防止する。脳および精巣の両方に対する疾患および抗SEMA4D抗体の効果は、これらの組織の正常機能における細胞内アクチン依存性輸送機序に対する共通の依存性を反映している可能性がある。
【0160】
実施例3:ラットCNSにおけるSEMA4D、プレキシン-B1、プレキシン-B2、およびCD72の発現パターンの調査
SEMA4Dおよびその受容体プレキシン-B1、プレキシン-B2、およびCD72を発現するCNS内の細胞型を可視化するため、未感作ラットに由来する冠状脊髄切片に対して共免疫組織化学を実施した(
図9A〜P)。オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーNkx2.2およびSEMA4D(
図9A〜C)、プレキシン-B1およびアストロサイトマーカーGFAP(
図9E〜G)、プレキシン-B1およびCD72(
図9I〜K)、ならびにプレキシン-B1およびミクログリアマーカーIba1(
図9M〜O)についての共染色を、未感作ラットに由来する脊髄切片に対して実施した。さらに、細胞核を可視化するため、全ての切片をDAPIによって染色した(
図9D、H、L、およびP)。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたExi-Aqua-14ビットカメラを使用して、60倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0161】
図9の結果は、正常CNSにおいて、SEMA4Dは、Nkx2.2陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞において頑強に発現されており、その受容体、プレキシン-B1、プレキシン-B2(示されないデータ)、およびCD72は、複数の細胞型において発現されており、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)陽性アストロサイトにおいて特に顕著であることを示している。
【0162】
実施例4:CVNアルツハイマー病マウスモデルにおけるプレキシン-B1受容体およびプレキシン-B2受容体の発現パターンの特徴決定
ホモ接合体バイジェニックCVN ADマウスは、同齢の野生型マウスと比較して、海馬台における古典的なアミロイド病理およびグリア活性化を示す。プレキシン-B1の発現パターンを、アルツハイマー病のCVNマウスモデルにおいて調査した。 (APPSwDI/NOS2-/-としても公知の)CVNバイジェニックマウスは、アミロイド前駆タンパク質スウェーデン-オランダ-アイオワ変異体(APPSwDI)トランスジーン、および一酸化窒素合成酵素2(Nos2、または誘導型NOS、iNOS)遺伝子座の標的特異的な「ヌル」変異を保有している。41週齢で、CVNマウスおよび野生型対照マウスを屠殺し、DAB免疫組織化学のために処理した。結果は
図10に示され、上パネルが野生型マウス切片、下パネルがCVNマウス切片である。切片を、アミロイドβ1-42ペプチド(左の上下パネル)、ミクログリアマーカーIba1(中央の上下パネル)、またはアストロサイトマーカーGFAP(右の上下パネル)について別々に染色した。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたRetiga QICAM-12ビットカメラを使用して、20倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0163】
図10の結果は、ホモ接合性バイジェニックCVNマウス(APPSwDI/NOS2-/-)が、古典的なアミロイド病理、ミクログリア活性化、およびアストログリオーシスを発症することを示している(下パネル)。
【0164】
CVN ADマウスにおける活性化されたアストロサイトは同齢の野生型マウスと比較して増強されたプレキシン-B1発現を示す
41週齢で、CVNマウスおよび野生型対照マウスを屠殺し、蛍光共免疫組織化学のために処理した(
図11A)。切片を、SEMA4D受容体プレキシン-B1およびアストロサイトマーカーGFAP、ならびに細胞核を可視化するためのDAPIについて別々に染色した。複合画像が左端のパネルに示される。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたEXi-Aqua-14ビットカメラを使用して、60倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0165】
図11Aに示されるように、CVNマウスおよび同齢の野生型マウスの脳内のプレキシン-B1陽性アストロサイト(左から2番目のパネル)およびGFAP陽性アストロサイト(左から3番目のパネル)の共免疫組織化学的分析は、GFAPマーカー染色の増加によって証拠付けられるアストロサイト活性化が、重ね合わせられたプレキシン-B1発現の増強と正に相関することを証明しており、そのことから、SEMA4D/プレキシンシグナル伝達がアストロサイト活性化の過程に関係していることが示唆される。
【0166】
CVN ADマウスにおけるSEMA4Dシグナル伝達の阻害は同齢の野生型マウスと比較してプレキシン-B2発現を回復させる
CVN ADマウスにおけるSEMA4Dシグナル伝達の阻止が、AD病原において初期に影響される脳領域において、プレキシン-B1および/またはその代替的な同族受容体プレキシン-B2の発現に影響を与えるか否かを決定するため、26週齢のCVNマウスおよび野生型対照マウスに、13週間、毎週、30mg/kgの抗SEMA4Dモノクローナル抗体(67-2)または対照IgG(2B8)を静脈内注射した。41週齢で、マウスを屠殺し、抗SEMA4D処置が進行中のAD関連病原の状況において同族受容体発現を改変させるか否かを検出するため、MAbによって処置されたマウスに由来する脳組織切片を、抗プレキシン-B1または抗プレキシン-B2によって染色した。プレキシン-B1陽性シグナルおよびプレキシン-B2陽性シグナルの割合を、全ての動物の海馬台において定量化し、スキャンされた全海馬台面積に対して標準化した。
【0167】
図11Bに示されるように、CVN ADマウスの抗SEMA4D抗体処置は、プレキシン-B2(右グラフ)染色強度レベルの、WT対照マウスにおいて定量化されたものへの回復を引き起こしたが、同齢のCVN AD対照マウスと比べたプレキシン-B1レベル(左グラフ)の有意な変化は引き起こさなかった。これらの結果は、抗体によって媒介されるSEMA4D阻害が、プレキシン-B2の不安定化を選択的に引き起こし、かつ/またはプレキシン-B2発現を選択的に促進するSEMA4Dによって駆動されるフィードフォワード機序を妨害することを示唆している。
【0168】
実施例5:YAC128ハンチントン病マウスモデルにおけるプレキシン-B2受容体の発現パターンの特徴決定
YAC128マウスは、全長変異体ヒトハンチントン遺伝子(mHTT)を発現し、HDの兆候および症状の多くを正確に再現する(実施例2も参照すること)。YAC128ハンチントン病マウスにおける活性化されたアストロサイトは、同齢の野生型マウスと比較して増強されたプレキシン-B2発現を示す。12ヶ月齢で、YAC128マウスおよび野生型対照マウスを屠殺し、蛍光共免疫組織化学のために処理した(
図12)。切片を、プレキシン-B2(プレキシン-B2、左から3番目のパネル)、アストロサイトマーカーGFAP(左から2番目のパネル)、および細胞核を可視化するためのDAPIについて共染色した。複合画像が左端のパネルに示される。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたEXi-Aqua-14ビットカメラを使用して、60倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0169】
図12に示されるように、YAC128マウスおよび野生型マウスの脳におけるプレキシン-B2陽性アストロサイトおよびGFAP陽性アストロサイトの共免疫組織化学的分析は、GFAPマーカー染色の増加によって証拠付けられるアストロサイト活性化が、再び、重ね合わせられたSEMA4D受容体発現と正に相関することを証明している。最もよく特徴決定されているリガンドがSEMA4Cであるプレキシン-B2は、SEMA4Dに対しても中程度の親和性を有している(Azzarelli R, et al. プレキシンB2とRnd3との間の拮抗性相互作用はRhoA活性および皮質ニューロン遊走を調節する。Nature Commun. 2014; DOI:10.1038/ncomms4405)。
【0170】
実施例6:SEMA4Dシグナル伝達がアストロサイト機能をモジュレートすることができる機序の調査
AD神経変性疾患およびHD神経変性疾患の両方の状況におけるSEMA4D受容体発現増強とアストロサイト活性化との間の相関は、SEMA4Dシグナル伝達がアストロサイトの機能および/または機能障害において役割を果たすことを示唆している。理論によって拘束されることは望まないが、この実施例は、SEMA4Dシグナル伝達が、急性刺激によるか慢性刺激によるかに関わらず、CNS損傷に対する応答の際のアストロサイト機能の制御に関係している証拠を提供する。SEMA4Dシグナル伝達がアストロサイト機能を潜在的にモジュレートすることができる3つの機序を示している
図13に、データによって支持された模式的なモデルが示される。これらの3つの機序を以下に考察する。
【0171】
アストロサイトの役割およびOPCサポート
プレキシン+アストロサイト突起は、SEMA4D+NKX2.2+オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を互いに組み合わせ、栄養サポートを提供する。CNS疾患においては、活性化されたアストロサイトが、SEMA4Dシグナル伝達を介して、プレキシン発現をアップレギュレートし、突起を退縮させる。局所的には、アストロサイト:OPC近接のこの喪失が、栄養サポートの低減、および走化性によって駆動される傷害領域へのOPC移動の増加をもたらすことができ、病変部位におけるアストロサイトサポートの欠如が、OPCの分化および再有髄化を妨害することができる。
【0172】
この仮説を試験するため、野生型対照ラットを屠殺し、脊髄を蛍光共免疫組織化学のために処理した(
図14)。切片を、SEMA4D(左から2番目のパネル)、アストロサイトマーカーGFAP(左から3番目のパネル)、および細胞核を可視化するためのDAPI(右パネル)について共染色した。複合画像が左端のパネルに示され、点線のボックスは、下の1.67倍に拡大された挿入写真を示す。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたEXi-Aqua-14ビットカメラを使用して、60倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0173】
図14に示されるように、SEMA4Dを発現するOPCは、GFAP+アストロサイト突起と密接に近接して方向付けられている。アストロサイトがOPCの生存および機能の助長において果たす役割のため、SEMA4D発現OPCおよびSEMA4D受容体発現アストロサイトの隣接は、プレキシン-B受容体およびSEMA4Dシグナル伝達の関連したアップレギュレーションによる、疾患に関連したアストロサイトの活性化が、OPC機能に影響を与えることができることを示唆する。
【0174】
ニューロンサポートにおけるアストロサイトの役割
CNS疾患において、アストロサイト活性化は、プレキシン発現のアップレギュレーション、SEMA4Dシグナル伝達の増加、および突起退縮を引き起こし、それが、ニューロン軸索ガイダンスの喪失、栄養サポートの減少、および/またはグルタミン酸取り込み/放出の制御異常をもたらす。最終的には、疾患刺激の重症度によって、シナプス喪失およびその後の興奮毒性ニューロン死が起こり得る。
【0175】
CVN ADマウスにおけるSEMA4Dシグナル伝達の阻止が、AD病原の初期に影響される脳領域におけるシナプスマーカー発現に影響を与えるか否かを決定するため、26週齢のCVNマウスおよび野生型対照マウスに、13週間、毎週、30mg/kgの抗SEMA4Dモノクローナル抗体(67-2)または対照IgG(2B8)を静脈内注射した。41週齢で、マウスを屠殺し、初期ADにおいて変性する抑制性ニューロンの具体的なサブセットを検出するため、MAbによって処置されたマウスに由来する脳組織切片を、抗ソマトスタチン抗体、抗ニューロペプチドY(NPY)、抗NPY受容体1(NPY1R)、または抗NPY受容体2(NPY2R)によって染色した。全ての動物について、ソマトスタチン陽性シグナルの割合を海馬台において定量化し、NPY陽性シグナル、NPY1R陽性シグナル、またはNPY2R陽性シグナルを歯状回において定量化し、それぞれ、スキャンされた全海馬台面積または全歯状回面積に対して標準化した。結果は
図15A〜Dに示される。
【0176】
図15A〜15Dは、CVN ADマウスの抗SEMA4D抗体処置が、ソマトスタチン(パネルA)、NPY(パネルB)、およびNPY2R(パネルD)の染色強度レベルの、野生型マウスに特徴的なレベルへの回復を引き起こすことを示している。興味深いことに、NPY1Rのアゴニストは、ストレスおよび不安を低下させることが報告されているが、NPY2Rに特異的なアンタゴニストは、ストレスおよび不安を低下させる(Markus Heilig. ストレス、不安、および抑うつにおけるNPY系。Neuropeptides 38 (2004) 213-224)。上記
図2に示されたように、抗SEMA4Dによって処置されたCVNマウスは、オープンフィールドテストにおいて不安の重症度の低下を示したが(この所見は、正常化された(より低い)NPY2Rレベルと相関した)、NPY1Rレベルは、抗SEMA4D MAb処置によって変化せず、野生型マウスより高いままであった。従って、NPY受容体レベルのこれらの変化は、抗SEMA4Dによって処置されたCVNマウスにおいて観察された不安行動の低下と一致しており、この所見は、インビボの神経伝達のモジュレーションにおけるSEMA4Dの役割をさらに支持している。CVN ADモデルにおいて見られた抑制性NPY神経伝達物質のダウンレギュレーションも、アルツハイマー病を有する患者の大脳皮質において報告されていることは、注目すべきである(Beal, et al., Ann. Neurol. 20, 282-288 (1986)。
【0177】
血液脳関門完全性の維持におけるアストロサイトの役割
本明細書中の他の場所において考察されるように、脳微小血管または軟膜に近位のアストロサイト突起は、水チャネル、アクアポリン4(Aqp4)の高い密度を特徴とする。シナプス領域に面するアストロサイト突起には、グルタミン酸トランスポーターが豊富に存在し、Aqp4の密度は比較的低い。CNS疾患によって誘導されたアストロサイト活性化は、プレキシンを通したSEMA4Dシグナル伝達を増加させ、それが、アクアポリン-4の再分布によって証拠付けられるアストロサイト足突起の退縮を引き起こす。これは、BBBの制御異常および透過性をもたらし、それによって、内皮炎症およびその後のCNSへの白血球進入を助長する。ADの状況において、Aqp4染色強度は、アミロイド斑量の多い領域において有意に減少する。
【0178】
同齢の野生型マウスと比較して、CVN ADマウスにおけるアクアポリン-4発現パターンを測定するため、CVNマウスおよび野生型対照マウスを、41週齢で屠殺し、蛍光共免疫組織化学のために処理した。結果は
図16に示され、上パネルが野生型マウス、下パネルがCVNマウスである。切片を、アクアポリン-4(左から2番目のパネル)、アストロサイトマーカーGFAP(左から3番目のパネル)、および細胞核を可視化するためのDAPI(右パネル)について共染色した。複合画像が左端のパネルに示される。Olympus Ix50顕微鏡に取り付けられたEXi-Aqua-14ビットカメラを使用して、60倍の倍率で、スライドを画像化した。
【0179】
図16に示されるように、同齢のCVNマウスにおけるAqp4染色は、びまん性パターンへの有意なシフトを明らかにした。これは、微小血管系に近位の区域に制限された海馬台におけるAqp4染色パターンを示す、野生型マウスの脳内のAqp4陽性アストロサイトおよびGFAP陽性アストロサイトの共免疫組織化学的分析とは対照的である。Aqp4分布のこの改変または極性の喪失は、GFAP染色の強度の増加によって証拠付けられる高度のアストロサイト活性化と相関する。活性化されたアストロサイトにおけるプレキシン-B1染色の強力な重ね合わせ(
図11)および細胞突起退縮におけるSEMA4D/プレキシン-B1シグナル伝達の役割のため、これらのデータは、SEMA4Dシグナル伝達が、疾患の際のBBB界面におけるアストロサイト極性の改変において役割を果たし得ることを示唆している。
【0180】
BBBに対するSEMA4Dの影響を分析するため、動的インビトロ血液脳関門(DIV-BBB)モデルを利用した。簡単に説明すると、モデルは、直径2〜4μmの経毛細管孔を含有している中空ポリプロピレンファイバーからなる。ファイバー内の媒体および実験化合物の連続流ならびに内皮フロー受容体(endothelial flow receptors)の正常な刺激を助長する拍動ポンプに、ファイバーを接続した。ヒト脳内皮細胞を、管腔側コンパートメントへ接種し、ファイバーの内壁に付着させ、内壁を覆うようにさせ、ヒトアストロサイトを、ファイバーの外表面が浸っている反管腔側コンパートメントへ接種した。内皮細胞およびアストロサイトは、膜を介して相互作用して、内皮細胞間の密着結合による関門の形成を誘導する。経内皮電気抵抗(TEER)の測定によって、この関門の完全性を連続的にモニタリングすることができる。ヒト脳内皮細胞を、管腔側コンパートメントへ接種し、ポリプロピレンファイバーに付着させ、ヒトアストロサイトを、ファイバーの反管腔側表面に別々に接種した。ピークTEER(インビトロでおよそ14日)において、0.5μg/ml、5μg/ml、および50μg/mlの組換えSEMA4Dを、12時間間隔で連続的に添加した。最初のSEMA4D曝露から36時間後に、250μg/mlの対照IgG(MAb 2955;1 DIV-BBB単位)または抗SEMA4D(VX15/2503;2 DIV-BBB単位)を添加し、さらに132時間TEERを測定した。結果は
図17に示される。エラーバーは標準偏差を表す。示されたデータは、3つの独立した実験の代表であり、各々、DIV-BBB完全性に対するSEMA4Dおよび抗体の類似した効果を証明している。
【0181】
図17に示されるように、BBBの崩壊は、抗SEMA4D抗体(VX15/2503)の添加によって、24時間以内に逆転した。対照組換えタンパク質の導入は、TEERの減少をもたらさなかった(示されないデータ)。さらに、対照IgG抗体(MAb 2955)の導入は、SEMA4Dによって誘導されたBBB損壊に影響しなかった。
【0182】
これらのデータは、CNS疾患によって誘導されたアストロサイト活性化が、プレキシン-B1および/またはプレキシン-B2のアップレギュレーションを通してSEMA4Dシグナル伝達を増加させ、それが、アクアポリン-4の再分布によって証拠付けられるアストロサイト足突起の退縮を引き起こすことを示唆している。これは、BBBの制御異常および透過性をもたらし、それによって、内皮炎症およびその後のCNSへの白血球進入を助長する。
【0183】
アストロサイト活性化の促進におけるSEMA4Dシグナル伝達の役割
SEMA4D受容体発現とアストロサイト活性化マーカーGFAPとの関連のため、SEMA4Dシグナル伝達がアストロサイト活性化を強化し、それによって、疾患状態における「フィードフォワード」機序を提供する可能性が存在する。アストロサイト活性化に対するSEMA4Dの効果を調査するため、ラットアストロサイトの初代培養物を生成し、単独で、またはインビボでプレキシン-B1発現を誘導することが示されている周知の肝毒性かつ肝発癌性の薬剤チオアセトアミド(TAA)前処置(Lim, J. S., et al., (2006). Mol. Cell. Tox., 2(2), 126-133)と組み合わせて、SEMA4Dによって処置した。ラット初代アストロサイトを、TAAによって4時間前処置し、続いて、可溶性SEMA4Dによって24時間処置した。次いで、細胞を固定し、GFAPについて染色し、20倍の倍率でスキャンした。エラーバーは標準偏差を表す。「
*」=p<0.05(ボンフェローニの多重比較検定による一方向ANOVAによる)。
【0184】
図18Aに示されるように、TAAによって前処置された細胞へのSEMA4Dの添加によって、アストロサイトの活性化マーカーGFAPの有意な増強が観察され、そのことから、SEMA4Dシグナル伝達がアストロサイト活性化を増強することが示唆された。
【0185】
インビトロ研究の第2のセットにおいて、初代ラットアストロサイトを培養し、CNSにおいてミクログリアによって産生される公知の活性化因子プロスタグランジンD2によって処置し、または処置せずに、続いて、組換えSEMA4Dタンパク質に8時間または24時間曝した。細胞を固定し、ファロイジン(F-アクチン)およびDnase(G-アクチン)組織化学のために処理し、F-アクチン/G-アクチン面積比を各処置条件について計算した。エラーバーは標準偏差を表す。「
**」=p<0.01(ボンフェローニの多重比較検定による二方向ANOVAによる)。
【0186】
図18Bに示されるように、組換えSEMA4Dに曝されたPGD2によって活性化されたアストロサイトは、アクチン細胞骨格の球状から繊維状への遷移を受け、これは、SEMA4D/プレキシンによって媒介されるシグナル伝達およびアストロサイト活性化状態の亢進を示す。
【0187】
本明細書において示される本開示の多くの修飾および他の態様が、前述の説明および関連する図面において提示される教示の恩恵を受ける、これらの開示が属する技術分野の当業者には、思い浮かぶであろう。従って、本開示は、開示された具体的な態様に限定されるべきではないこと、ならびに修飾および他の態様は添付の特許請求の範囲および本明細書において開示される態様の列挙の範囲内に含まれるように意図されることが、理解されるべきである。具体的な用語が本明細書において使用されるが、それらは、一般的で説明的な意味でのみ使用されており、限定の目的で使用されているのではない。