(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875364
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ギヤ機構、ギヤ調整方法およびロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 17/02 20060101AFI20210517BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20210517BHJP
F16H 57/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
B25J17/02 B
F16H1/06
F16H57/12 A
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-244772(P2018-244772)
(22)【出願日】2018年12月27日
(65)【公開番号】特開2020-104204(P2020-104204A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 元貴
【審査官】
貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−213437(JP,A)
【文献】
特開昭60−20890(JP,A)
【文献】
特開2007−125647(JP,A)
【文献】
特開平6−297377(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0095104(US,A1)
【文献】
特開2008−6869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
F16H 1/00 − 1/26
F16H 57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線を中心とする円筒内面と円筒外面との嵌合によって、位置決め状態に組み付けられる一対のハウジングと、
一方の該ハウジングに、前記第1軸線および該第1軸線に平行な第2軸線回りに回転可能に取り付けられる2つの第1ギヤと、
他方の前記ハウジングに回転可能に取り付けられ、一対の前記ハウジングが組み付けられた状態で2つの前記第1ギヤにそれぞれ噛み合う2つの第2ギヤとを備え、
前記第2軸線回りに回転可能に取り付けられた前記第1ギヤと、該第1ギヤに噛み合う前記第2ギヤとが、前記第1軸線回りの前記ハウジング間の相対回転によって、軸間距離が変化する位置に配置されているギヤ機構。
【請求項2】
前記円筒内面が、両方の前記ハウジングに設けられ、
前記円筒外面が、両方の前記ハウジングの円筒内面に同時に嵌合する円環状部材に備えられている請求項1に記載のギヤ機構。
【請求項3】
前記円環状部材が、前記第1ギヤを前記ハウジングに前記第1軸線回りに回転可能に支持する軸受である請求項2に記載のギヤ機構。
【請求項4】
前記円環状部材が、前記第1ギヤを前記ハウジングに前記第1軸線回りに回転可能に支持する軸受に前記第1軸線に沿う方向に隣接して配置されるスペーサである請求項2に記載のギヤ機構。
【請求項5】
前記円筒内面が、前記軸受の外輪を嵌合可能な内径寸法を有する請求項4に記載のギヤ機構。
【請求項6】
前記円筒内面が、一方の前記ハウジングに設けられ、
前記円筒外面が、他方の前記ハウジングに設けられた突起に備えられている請求項1に記載のギヤ機構。
【請求項7】
相互に平行な第1軸線および第2軸線回りに2つの第1ギヤを第1ハウジングに回転可能に取り付け、
2つの前記第1ギヤにそれぞれ噛み合う2つの第2ギヤを第2ハウジングに回転可能に取り付け、
前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとを前記第1軸線回りに回転させることにより、前記第2軸線回りに回転可能な前記第1ギヤと該第1ギヤに噛み合う前記第2ギヤとの軸間距離を調整するギヤ調整方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のギヤ機構を備えるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ機構、ギヤ調整方法およびロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1つのケーシングに2つのモータを平行に設け、コンパクトで軽量な構造となるとともに、平歯車を採用して各部品の組み込みを一方向から行えることとして、調整作業を容易にして組立作業の効率化が図れるとともに低コストの業用ロボットの手首構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−123685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、平歯車を採用することにより、傘歯車で必要なスペーサ等によるバックラッシュ調整が不要となっている。しかし、駆動ギヤと従動ギヤとの軸間距離は、各部品の公差によってばらつきが生ずるため、軸間距離が調整可能であることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、第1軸線を中心とする円筒内面と円筒外面との嵌合によって、位置決め状態に組み付けられる一対のハウジングと、一方の該ハウジングに、前記第1軸線および該第1軸線に平行な第2軸線回りに回転可能に取り付けられる2つの第1ギヤと、他方の前記ハウジングに回転可能に取り付けられ、一対の前記ハウジングが組み付けられた状態で2つの前記第1ギヤにそれぞれ噛み合う2つの第2ギヤとを備え、前記第2軸線回りに回転可能に取り付けられた前記第1ギヤと、該第1ギヤに噛み合う前記第2ギヤとが、前記第1軸線回りの前記ハウジング間の相対回転によって、軸間距離が変化する位置に配置されているギヤ機構である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロボットの手首ユニットを示す部分的な縦断面図である。
【
図2】
図1の手首ユニットに備えられた本実施形態に係るギヤ機構を分離した状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図3】
図2のギヤ機構を組み付けた状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図4】
図2の第1駆動ギヤと第1従動ギヤとを噛み合わせた状態を示す模式図である。
【
図5】
図3の第1ハウジングと第2ハウジングとを相対回転させて第2駆動ギヤと第2従動ギヤとを噛み合わせた状態を示す模式図である。
【
図6】
図2のギヤ機構の変形例を示す縦断面図である。
【
図7】
図2のギヤ機構の他の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施形態に係るギヤ機構1、ギヤ調整方法およびロボットについて、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るロボットは、例えば、直立多関節型ロボットであって、
図1に示すように、手首ユニット110を備えている。
【0008】
手首ユニット110は、アーム120に対して第1手首軸A回りに回転可能な第1手首要素111と、第1手首要素111の先端に第1手首軸Aに直交する第2手首軸B回りに回転可能な第2手首要素112と、第2手首軸Bに直交し第1手首軸Aおよび第2手首軸Bの交点を通過する第3手首軸C回りに回転可能な第3手首要素113とを備えている。
【0009】
第1手首要素111は、第1手首軸Aに直交する接合平面111aによって分割可能に組み付けられ、図示しないボルトの締結により相互に固定される基端側の第1ハウジング(ハウジング)2および先端側の第2ハウジング(ハウジング)3を備えている。
第1ハウジング2は、第2手首要素112および第3手首要素113を駆動するための2つのモータ(図示略)を内蔵している。
【0010】
一方のモータは、
図2に示されるように、第1ハウジング2に、軸受(円環状部材)4によって、第1軸線D回りに回転可能に支持されたシャフト5を備えている。シャフト5の先端に、平歯車からなる第1駆動ギヤ(第1ギヤ)6が設けられている。
他方のモータも、
図2に示されるように、第1ハウジング2に、軸受4によって、第1軸線Dに間隔をあけて平行に配置された第2軸線E回りに回転可能に支持されたシャフト7を備え、シャフト7の先端に、平歯車からなる第2駆動ギヤ(第1ギヤ)8が設けられている。
【0011】
各モータのシャフト5,7に設けられた第1駆動ギヤ6および第2駆動ギヤ8は、第1ハウジング2の接合平面111aから突出させられた状態に配置されている。
第1ハウジング2には、接合平面111aに開口する2つの嵌合孔9が設けられている。これらの嵌合孔9の内面(円筒内面)9aは、軸受4の外輪を嵌合可能な内径寸法を有しており、第1駆動ギヤ6および第2駆動ギヤ8を支持する軸受4の外周面(円筒外面)4aが嵌合している。
第1駆動ギヤ6を回転可能に支持する軸受4は、その外周面4aを接合平面111aから部分的に突出させて嵌合孔9の内面9aに嵌合している。
【0012】
第2ハウジング3には、第2手首要素112が回転可能に取り付けられ、第2手首要素112には第3手首要素113が回転可能に取り付けられている。
また、第2ハウジング3には、接合平面111aを密着させて第1ハウジング2に組み付けたときに、第1駆動ギヤ6に噛み合う第1従動ギヤ(第2ギヤ)10および第2駆動ギヤ8に噛み合う第2従動ギヤ(第2ギヤ)11が、軸受12によって、平行な軸線F,G回りに回転可能に取り付けられている。各従動ギヤ10,11は、各駆動ギヤ6,8から入力されてくるモータの動力を図示しない減速機構にそれぞれ入力し、第2手首要素112および第3手首要素113を駆動する。
【0013】
第2ハウジング3には、第1ハウジング2に組み付けたときに、第1軸線Dを中心とする第1ハウジング2の嵌合孔9と同径の嵌合孔13が接合平面111aに開口して設けられている。これにより、
図3に示されるように、接合平面111aを密着させる状態まで第1ハウジング2と第2ハウジング3とを組み付けると、第1ハウジング2の接合平面111aから突出している軸受4の外周面4aが第2ハウジング3の嵌合孔13の内面(円筒内面)13aにも嵌合する。
【0014】
すなわち、第1軸線D回りに第1駆動ギヤ6を回転可能に支持する軸受4の外周面4aが、第1ハウジング2および第2ハウジング3の両方に設けられた嵌合孔9の内面9aに同時に嵌合することにより、第1ハウジング2と第2ハウジング3とは第1軸線D回りに相対回転可能に組み付けられる。
また、第2駆動ギヤ8と第2従動ギヤ11とは、
図4および
図5に示されるように、第1軸線D回りに第1ハウジング2と第2ハウジング3とを相対回転させたときに、軸間距離が変化する位置関係に配置されている。この場合、第2ハウジング3には、接合平面111aに開口する一方の嵌合孔13よりも径寸法が大きい嵌合孔14が設けられている。
【0015】
また、第1駆動ギヤ6と第1従動ギヤ10とは、第1ハウジング2と第2ハウジング3とが精度よく位置決めされた状態で組み付けられたときに、適正なバックラッシュとなる状態に構成されている。
本実施形態に係るギヤ機構1は、第1ハウジング2、第2ハウジング3、第1駆動ギヤ6、第2駆動ギヤ8、第1従動ギヤ10および第2従動ギヤ11を備えている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係るギヤ機構1を用いたギヤ調整方法について以下に説明する。
本実施形態に係るギヤ調整方法は、まず、
図3に示されるように、第1ハウジング2に設けられた嵌合孔9に部分的に嵌合している軸受4を、第2ハウジング3に設けられた嵌合孔13にも部分的に嵌合させて、第1ハウジング2の接合平面111aと第2ハウジング3の接合平面111aとを密着させる位置まで近接させる。
【0017】
これにより、第1ハウジング2と第2ハウジング3とは、軸受4をピンの代わりにして、精度よく位置決めされた状態に組み付けられる。したがって、この状態で、
図4に示されるように、第1駆動ギヤ6と第1従動ギヤ10とが、適正なバックラッシュとなる状態に噛み合わせられる。
【0018】
次いで、
図4に矢印で示すように、第1ハウジング2と第2ハウジング3とを第1軸線D回りに相対回転させる。これにより、第2駆動ギヤ8と第2従動ギヤ11との軸間距離が変化するので、
図5に示されるように、適正な軸間距離となるまで第1ハウジング2と第2ハウジング3とを相対回転させる。そして、回転後の位置で、第1ハウジング2と第2ハウジング3とをボルトの締結によって固定することにより、第2駆動ギヤ8と第2従動ギヤ11とが適正なバックラッシュを有する状態に調整される。
【0019】
このように、本実施形態に係るギヤ構造1、ギヤ調整方法およびロボットによれば、2つの駆動ギヤ6,8を支持する第1ハウジング2と2つの従動ギヤ10,11を支持する第2ハウジング3とを、軸受4をピンの代わりにして精度よく位置決めすることができる。したがって、ピンが不要となって部品点数および加工工数を削減しつつ、第1駆動ギヤ6と第1従動ギヤ10とを適正に噛み合わせることができるという利点がある。
【0020】
また、第1ハウジング2と第2ハウジング3とを第1軸線D回りに相対回転させるだけで、第1駆動ギヤ6と第1従動ギヤ10との適正な噛み合い状態を維持しつつ、第2駆動ギヤ8と第2従動ギヤ11との噛み合いを適正に調整することができる。第2駆動ギヤ8と第2従動ギヤ11との噛み合いの調整作業中に第1駆動ギヤ6と第1従動ギヤ10との噛み合い状態が変化しないので、調整作業を容易に行うことができるという利点がある。
【0021】
なお、本実施形態においては、第1駆動ギヤ6を回転可能に支持する軸受4の外周面4aを第1ハウジング2および第2ハウジング3に設けた嵌合孔9,13の内面9a,13aに同時に嵌合させることとしたが、これに代えて、
図6に示されるように、軸受4の第1軸線Dに沿う方向に隣接する位置に、軸受4を第1軸線Dに沿う方向に位置決めする円筒状のスペーサ(円環状部材)15を配置し、スペーサ15の外周面(円筒外面)15aを第1ハウジング2および第2ハウジング3の嵌合孔9,13の内面9a,13aに同時に嵌合させることにしてもよい。
【0022】
これにより、軸受4と同様にして、スペーサ15をピンの代わりに用いて、第1ハウジング2と第2ハウジング3とを第1軸線D回りに相対回転させることができる。スペーサ15の外径寸法を軸受4の外径寸法と同一とすることにより、嵌合孔9の内面9aに段差を形成せずに済み、内面9aを精度よく加工することができる。また、同径にすることにより、スペーサ15を軸受4のズレ止めのためのCリング等の代用とすることができる。
【0023】
ここで、スペーサ15の外径寸法は軸受4の外径寸法と異なっていてもよい。すなわち、スペーサ15の外径寸法が軸受4の外径寸法よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。
また、スペーサ15を用いる場合に、第1駆動ギヤ6を回転可能に支持する軸受4はなくてもよい。
【0024】
また、
図7に示されるように、第1ハウジング2に、第1軸線Dを中心とする円筒状の突起16を設け、該突起16の外周面(円筒外面)16aを、第2ハウジング3に設けられた嵌合孔17の円筒内面17aに嵌合させることにしてもよい。この場合にも、第1駆動ギヤ6を回転可能に支持する軸受4は、あってもよいし、なくてもよい。また、第2ハウジング3に突起16を設け、第1ハウジング2に嵌合孔17を設けてもよい。
【0025】
また、本実施形態においては、2つの軸受4が同一の仕様であるものを例示したが、これに代えて、形状等がそれぞれ異なる仕様のものを採用してもよい。また、軸受12も同様に、それぞれ仕様が異なるものを採用してもよい。
【0026】
なお、以下の態様を導くことができる。
本発明の一態様は、第1軸線を中心とする円筒内面と円筒外面との嵌合によって、位置決め状態に組み付けられる一対のハウジングと、一方の該ハウジングに、前記第1軸線および該第1軸線に平行な第2軸線回りに回転可能に取り付けられる2つの第1ギヤと、他方の前記ハウジングに回転可能に取り付けられ、一対の前記ハウジングが組み付けられた状態で2つの前記第1ギヤにそれぞれ噛み合う2つの第2ギヤとを備え、前記第2軸線回りに回転可能に取り付けられた前記第1ギヤと、該第1ギヤに噛み合う前記第2ギヤとが、前記第1軸線回りの前記ハウジング間の相対回転によって、軸間距離が変化する位置に配置されているギヤ機構である。
【0027】
本態様によれば、第1軸線を中心とする円筒内面と円筒外面とを嵌合させることによって、一対のハウジングが精度よく位置決めされた状態に組み付けられる。これにより、第1軸線回りに回転可能に一方のハウジングに取り付けられている第1ギヤに、他方のハウジングに回転可能に取り付けられている第2ギヤを適正に噛み合わせることができる
【0028】
この状態で、一対のハウジングを第1軸線回りに相対回転させると、第1軸線回りの第1ギヤと第2ギヤとの適正な噛み合い状態が維持されたまま、第1軸線に平行な第2軸線回りに回転可能に取り付けられた第1ギヤと、これに噛み合う第2ギヤとの軸間距離を変化させることができる。したがって、これらの第1ギヤと第2ギヤとが適正に噛み合う軸間距離に調整して、バックラッシュを適正に調整することができる。
【0029】
上記態様においては、前記円筒内面が、両方の前記ハウジングに設けられ、前記円筒外面が、両方の前記ハウジングの前記円筒内面に同時に嵌合する円環状部材に備えられていてもよい。
この構成により、両方のハウジングに設けられた円筒内面に、共通の円環状部材に備えられた円筒外面を同時に嵌合させることにより、2つのハウジングを第1軸線回りに回転可能に組み付けることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 ギヤ機構
2 第1ハウジング(ハウジング)
3 第2ハウジング(ハウジング)
4 軸受(円環状部材)
4a,15a,16a 外周面(円筒外面)
6 第1駆動ギヤ(第1ギヤ)
8 第2駆動ギヤ(第1ギヤ)
9a,13a 内面(円筒内面)
10 第1従動ギヤ(第2ギヤ)
11 第2従動ギヤ(第2ギヤ)
15 スペーサ(円環状部材)
16 突起
17a 円筒内面
D 第1軸線
E 第2軸線