(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875411
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】イオン交換クロマトグラフィーを用いた一塩基置換検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20210517BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20210517BHJP
C12Q 1/6858 20180101ALI20210517BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20210517BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20210517BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20210517BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
G01N30/02 B
C12Q1/6858 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6806 Z
!C12N15/09 ZZNA
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-544280(P2018-544280)
(86)(22)【出願日】2017年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2017035441
(87)【国際公開番号】WO2019064483
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2020年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 桂
(72)【発明者】
【氏名】塚本 百合子
【審査官】
松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2002/046393(WO,A1)
【文献】
特開2010−035532(JP,A)
【文献】
特開2009−125020(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/133834(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/096329(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のアレル特異的プライマーを用いて増幅された2種類以上の遺伝子増幅産物を、アニオン交換クロマトグラフィーを用いて判別する方法であって、前記アレル特異的プライマー若しくはそれと対をなすプライマーの少なくとも一方の5’末端が、非ヌクレオチド成分を付加されていることを特徴とする、遺伝子変異を検出する方法: ここで、当該非ヌクレオチド成分は、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子であり、かつ、当該遺伝子増幅産物の大きさの差は、0塩基対、1塩基対、又は2塩基対である。
【請求項2】
以下の工程を含む、試料中の二本鎖デオキシリボ核酸に含まれる多型部位における少なくとも一つのアレルの存在を検出する方法:
(a)多型部位を含む二本鎖デオキシリボ核酸を含む試料を提供する工程;
(b)第1のプライマー、第2のプライマー、及び第3のプライマーを提供する工程、
ここで、第1のプライマーの配列は、当該多型部位において第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖に相補的でありかつ3'末端の3つの塩基の何れか1つ又は2つ又は3つの塩基或いは3'末端の2つの塩基の一方又は両方の塩基が当該多型部位に対応し、
第2のプライマーの配列は、当該多型部位において第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖に相補的でありかつ3'末端の3つの塩基の何れか1つ又は2つ又は3つの塩基或いは3'末端の2つの塩基の一方又は両方の塩基が当該多型部位に対応し、
第3のプライマーの配列は、当該多型部位を含まずかつ当該二本鎖デオキシリボ核酸の第1の鎖に相補的であり、
第1のプライマー及び第2のプライマーの少なくとも1つが、非ヌクレオチド成分を付加されている、
ここで、当該非ヌクレオチド成分は、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子である;
(c)ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程、
ここで、当該ポリメラーゼ連鎖反応は、第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第1のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長が、第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第2のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長と比較して優先的に生じ、かつ、第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第2のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長が、第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第1のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長と比較して優先的に生じる条件で行われる;
(d)当該ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物をアニオン交換クロマトグラフィーに掛ける工程;
ここで、第1のプライマー及び第3のプライマーからのポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物と第2のプライマー及び第3のプライマーからのポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物の大きさの差は、0塩基対、1塩基対、又は2塩基対である;及び
(e)第1及び第2のアレルの一方又は両方の存在を前記増幅産物の溶出位置又は溶出時間に基づいて検出する工程。
【請求項3】
前記(a)の工程が、ヒトなどの哺乳類体細胞検体からゲノムDNAを抽出する工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記多型部位が、UGT1A1*28多型(rs8175347)、UGT1A1*6多型(rs4148323)、JAK2 1849G>T (V617F)変異部位(rs77375493)、MPL 1589G>T (W515L)変異部位(rs121913615)、又はMPL 1588:1599TG>AA (W515K)変異部位(rs121913616)である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
第3のプライマーが非ヌクレオチド成分を付加されている、請求項2〜4
の何れかに記載の方法:
ここで、当該非ヌクレオチド成分は、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料中に含まれる一塩基置換若しくは点変異などの変異の特異的な検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子変異には、遺伝的に受け継がれる生殖細胞変異と後天的に一つ一つの細胞内で引き起こされる体細胞変異があるが、生殖細胞変異の中で特定の遺伝子の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP)の特定の遺伝子型や体細胞変異の点変異(一塩基置換)、挿入、欠失などが、各種疾病に関連していることが報告されており、近年それらの塩基配列を同定することによって、特定の薬剤に効果が期待される患者の選別に利用されている。例えば、UGT1A1の遺伝子多型は、抗がん剤であるイリノテカンの重篤な副作用の発現のリスクを判断することに利用されている。UGT1A1の遺伝子多型検査においては、2つの塩基配列(*6、*28)を対象に、それぞれ変異を持たない野生型、野生型と変異型の両方を持つヘテロ接合体、変異型のみのホモ接合体を判別する必要がある。骨髄性増殖性疾患の遺伝子変異の1つである真性赤血球増加症の診断に用いられているJAK2遺伝子変異は、機能獲得型の後天的体細胞変異であり、エクソン14の1849 G>Tの点変異により、恒常的な受容体型チロシンキナーゼの活性化をもたらす。この点変異は、検出されるだけでなく、量的推移が診療上有用とされることから、アレル頻度を算出することが要求される。すなわち、遺伝子多型検出と同様に、点変異検出においても変異型及び野生型の両方を定量的に検出する必要がある。さらに、原発性骨髄繊維症でWHO分類の診断基準に設定されているMPL(Myeloproliferative leukemia virus)遺伝子変異は、エクソン10、コドン515の1543〜1544番目の塩基に点変異や欠失・挿入変異が入ることから、同じ位置でいくつかの変異パターンがあり、そのパターンを区別して検出することが望ましい。
【0003】
核酸を短時間に精度良く分離検出できる方法として、イオン交換クロマトグラフィーが利用されている。このイオン交換クロマトグラフィーを核酸の検出に応用する利点としては、核酸をその鎖長に依り分離できることから、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、polymerase chain reaction)による増幅産物の長さを調節すれば、複数の増幅産物を一度の測定で分離及び検出することも可能となることである。この原理は、上記のような複数存在する遺伝子変異の検出への応用も理論的には可能であるが、一塩基置換や点変異のような僅か1塩基の違いを検出するためには、工夫が必要である。一塩基置換検出の場合、単純にSNP部位を挟むようにPCR用のプライマーを設計して、増幅産物を得たとしても、一塩基の違いをイオン交換クロマトグラフィーで分離するのは困難である。これに対して、特許文献1には、アレル特異的プライマー(Allele Specific Primer; ASP)の5’末端に鋳型DNAと不完全相補な配列(タグ配列)を付加させることで、PCRによる増幅産物の長さを人為的に変化させて、イオン交換クロマトグラフィーにてSNPを分離検出する方法が開示されている。しかしながら、付加する塩基配列が長すぎるとプライマーとしてのTm値の変化が大きくなり、特異性が保てなくなる可能性がある。逆に短すぎると、増幅産物長の差が小さくなることでイオン交換クロマトグラフィーの分離が悪くなり、一塩基多型を正確に判定することが出来なくなることが懸念される。
【0004】
一方、ASPの設計を、二本鎖のフォワード側及びリバース側に設計し、その対となるプライマーを、変異部位以外の適当な場所に設計することにより、2種類の大きさが異なる増幅産物を得ることで、キャピラリー電気泳動を用いて分離できることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、この方法では変異と関係ないプライマー同士が対となった増幅が進んでしまうことから、増幅に必要な成分が消費され、特異反応に影響する可能性がある。さらに、2組の対となるプライマーを用いていることから、ハイブリダイゼーション及び増幅の効率に差が生じやすく、JAK2遺伝子変異などの遺伝子変異を検出する際に、アレル頻度を正確に算出するのは困難であった。さらに加えて、この方法では、2種類までの変異検出が限界であり、MPLのコドン515周辺の複数変異や、KRASやNRASなどのコドン12やコドン13の点変異のように、多くの種類の変異には適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2012/133834
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takei H, Morishita S, Araki M, Edahiro Y, Sunami Y, Hironaka Y, Noda N, Sekiguchi Y, Tsuneda S, Ohsaka A, Komatsu N. Detection of MPLW515L/K mutations and determination of allele frequencies with a single-tube PCR assay. PLoS One. 2014 Aug 21;9(8):e104958.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来の課題を鑑みて、多種類の遺伝子変異、特に一塩基置換若しくは点変異を、正確かつ定量的に分離及び検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、遺伝子変異、特に一塩基置換若しくは点変異を解析するためのASPにおいて、そのASP及びそれと対をなすプライマーの少なくとも1つの5’末端に、非ヌクレオチド成分を付加してPCRにより増幅し、その増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することで、増幅産物の長さが同じでも、分離検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の〔1〕〜〔8〕の構成からなる。
〔1〕
2種類以上のアレル特異的プライマーを用いて増幅された2種類以上の遺伝子増幅産物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて判別する方法であって、前記2種類以上のアレル特異的プライマーの少なくとも一つの5’末端が、非ヌクレオチド成分を付加されていることを特徴とする、遺伝子変異を検出する方法: ここで、当該非ヌクレオチド成分は、好ましくは、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子であり、更に好ましくは、表1に示される蛍光物質であり、かつ、当該遺伝子増幅産物の大きさの差は、好ましくは、0塩基対、1塩基対、2塩基対、3塩基対、4塩基対、5塩基対、6塩基対、7塩基対、8塩基対、9塩基対、又は10塩基対であり、より好ましくは、0塩基対、1塩基対、又は2塩基対であり、更に好ましくは、0塩基対である。
〔2〕
イオン交換クロマトグラフィーが、アニオン交換クロマトグラフィーである上記〔1〕に記載の検出方法。
〔3〕
非ヌクレオチド成分が、プライマーの5’末端の電荷に変化を引き起こさせる物質である上記〔1〕又は〔2〕に記載の検出方法。
〔4〕
以下の工程を含む、試料中の二本鎖デオキシリボ核酸に含まれる多型部位における少なくとも一つのアレルの存在を検出する方法:
(a)多型部位を含む二本鎖デオキシリボ核酸を含む試料を提供する工程;
(b)第1のプライマー、第2のプライマー、及び第3のプライマーを提供する工程、
ここで、第1のプライマーの配列は、当該多型部位において第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖に相補的でありかつ3'末端の3つの塩基の何れか1つ又は2つ又は3つの塩基或いは3'末端の2つの塩基の一方又は両方の塩基が当該多型部位に対応し、
第2のプライマーの配列は、当該多型部位において第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖に相補的でありかつ3'末端の3つの塩基の何れか1つ又は2つ又は3つの塩基或いは3'末端の2つの塩基の一方又は両方の塩基が当該多型部位に対応し、
第3のプライマーの配列は、当該多型部位を含まずかつ当該二本鎖デオキシリボ核酸の第1の鎖に相補的であり、
第1のプライマー及び第2のプライマーの少なくとも1つが、非ヌクレオチド成分を付加されている、
ここで、当該非ヌクレオチド成分は、好ましくは、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子であり、更に好ましくは、表1に示される蛍光物質である;
(c)ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程、
ここで、当該ポリメラーゼ連鎖反応は、第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第1のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長が、第1のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第2のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長と比較して優先的に生じ、かつ、第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第2のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長が、第2のアレルを持つ二本鎖デオキシリボ核酸の第2の鎖にハイブリダイズした第1のプライマーからのポリメラーゼによる鎖の伸長と比較して優先的に生じる条件で行われる;
(d)当該ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーに掛ける工程、ここで、好ましくは、イオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーである;
ここで、第1のプライマー及び第3のプライマーからのポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物と第21のプライマー及び第3のプライマーからのポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物の大きさの差は、0塩基対、1塩基対、2塩基対、3塩基対、4塩基対、5塩基対、6塩基対、7塩基対、8塩基対、9塩基対、又は10塩基対であり、より好ましくは、0塩基対、1塩基対、又は2塩基対であり、更に好ましくは、0塩基対である;及び
第1及び第2のアレルの一方又は両方の存在を前記増幅産物の溶出位置又は溶出時間に基づいて検出する工程。
〔5〕
前記(a)の工程が、ヒトなどの哺乳類体細胞検体からゲノムDNAを抽出する工程である、上記〔4〕に記載の方法。
〔6〕
前記多型部位が、UGT1A1*28多型(rs8175347)、UGT1A1*6多型(rs4148323)、JAK2 1849G>T (V617F)変異部位(rs77375493)、MPL 1589G>T (W515L)変異部位(rs121913615)、又はMPL 1588:1599TG>AA (W515K)変異部位(rs121913616)である、上記〔4〕又は〔5〕に記載の方法。
〔7〕
前記非ヌクレオチド成分が、プライマーの5’末端の電荷に変化を引き起こさせる物質である、上記〔4〕〜〔6〕の何れかに記載の方法。
〔8〕
第3のプライマーが非ヌクレオチド成分を付加されている、上記〔4〕〜〔7〕の何れかに記載の方法:
ここで、当該非ヌクレオチド成分は、好ましくは、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択されるイオン性官能基、又は、当該イオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子であり、更に好ましくは、表1に示される蛍光物質である。
【発明の効果】
【0009】
一塩基置換若しくは点変異を解析するためのASPでは、増幅産物の長さが同じ、若しくは配列によっては、1〜2塩基程度異なることはあるが、一般にイオン交換クロマトグラフィーでの分離検出は困難である。
【0010】
これに対して、ASP及びそれと対をなすプライマーの少なくとも1つの5’末端に、非ヌクレオチド成分を付加してPCRにより増幅すると、その増幅産物に1つ若しくは2つの非ヌクレオチド成分が標識されていることになる。この僅かな標識物の物性並びに個数の違いにより、増幅産物のイオン強度が微妙に変化し、イオン交換クロマトグラフィーでの溶出位置が変化し、この特性を用いて増幅産物の分離検出することが可能となると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるアレル特異的プライマーは、その遺伝子多型や遺伝子変異の塩基配列に対して特異的に結合できるプライマーであればよく、一塩基置換だけでなく、挿入や欠失変異を含む塩基配列などに特異的で、かつ本発明による分離に適用できるものであれば特に制限なく利用可能である。
【0012】
本発明に用いられる非ヌクレオチド成分としては、プライマーの5’末端の電荷に変化を引き起こさせる物質であることが好適で、それが付加されたアレル特異的プライマーを用いて増幅された遺伝子増幅産物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析又は判別する場合に、溶出パターンが変化するものであれば特に制限はない。好ましい非ヌクレオチド成分としては、例えば、イオン性官能基そのもの、若しくはイオン性官能基を少なくとも1つ以上含む分子が挙げられる。イオン性官能基は、特に制限されなく、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、スルホン酸基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが例示できる。プライマーの修飾として用いられる蛍光色素も非ヌクレオチド成分として利用でき、例えば、Alexa Fluorシリーズ、Cyシリーズ、ATTOシリーズ、DYシリーズ、DyLightシリーズ、FAM、TAMRAなどが挙げられる。さらに、ジゴキシン(DIG)、ビオチンなどの機能性物質の付加やアミド基修飾なども制限なく利用可能である。非ヌクレオチド成分として利用できる蛍光色素の例を、表1に示す。
これら修飾物質の効果は、アレル特異的プライマーを用いて増幅された遺伝子増幅産物の長さを至適化することで、さらに発揮される。即ち、同じ修飾物質であっても、遺伝子増幅産物の長さが短いほどのその違いが顕著に表れる。従って、本発明では、5’末端に非ヌクレオチド成分が付加されたアレル特異的プライマーを用いて増幅された遺伝子増幅産物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析又は判別する際に、非ヌクレオチド成分の種類だけでなく、遺伝子増幅産物の長さを適切に組み合わせることによって、本発明の効果を最大限に発揮することが可能となる。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【0013】
本発明の方法において、イオン交換クロマトグラフィーとして、カチオン交換クロマトグラフィーまたはアニオン交換クロマトグラフィーを、測定対象物質の等電点、溶離液(移動相ともいう)のpHや塩濃度等を考慮して選択することができる。核酸など、負の電荷を帯びている測定対象物質の場合には、アニオン交換クロマトグラフィーを用いることが好ましい。
【0014】
本明細書において、「核酸」とは、リボ核酸(以下、ribonucleic acid、RNAともいう。)とデオキシリボ核酸(以下、deoxyribonucleic acid、DNAともいう。)の総称であり、塩基、糖、及びリン酸からなるヌクレオチドが、ホスホジエステル結合で連なったものを意味する。本発明において、抽出される核酸は、DNA及びRNAのどちらであってもよく、また断片化しているものであっても、していないものであっても対象となる。該核酸の由来は、動物、植物、微生物を含むあらゆる生物、ウィルスが挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞核内の核酸や、ミトコンドリアや葉緑体や核小体等に代表されるオルガネラが保持する核外由来の核酸でもよい。更に、人工的合成された核酸や、一般にベクターとして用いられるプラスミドやウイルスベクターでもよい。本発明の方法に好ましい核酸として二本鎖デオキシリボ核酸が例示でき、より好ましい核酸として、その塩基配列に一塩基多型、点変異、及び/または欠失・挿入変異が入る塩基配列を含む二本鎖デオキシリボ核酸が例示できる。
【0015】
PCR増幅の方法としては特に制限はなく、増幅対象の核酸の配列、長さ、量などに応じて、公知の手法を適宜選択して用いることができる。PCR増幅産物の鎖長は、PCRの増幅時間の短縮、ならびにイオン交換クロマトグラフィーでの分析時間の短縮や分離性能の維持等の要素を勘案して適宜選択することができる。例えば、PCR増幅産物の鎖長の上限は、1000bp以下、700bp以下、600bp以下、500bp以下、400bp以下、300bp以下、200bp以下、190bp以下、180bp以下、170bp以下、160bp以下、150bp以下、140bp以下、130bp以下、又は120bp以下である。別の態様においては、PCR増幅産物の鎖長の上限は、110bp以下、100bp以下、90bp以下、80bp以下、70bp以下、60bp以下、又は50bp以下である。一方、PCR増幅産物の鎖長の下限は、30bp以上、又は40bp以上である。別の態様においては、PCR増幅産物の鎖長の下限は、40bp以上、50bp以上、60bp以上、70bp以上、80bp以上、90bp以上、100bp以上、又は110bp以上である。別の好ましい態様においては、PCR増幅産物の鎖長は40bp以上120bp以下である。
【0016】
本発明の方法で検出可能な一塩基多型、点変異、及び/または欠失・挿入変異として、UGT1A1*28多型(rs8175347)、UGT1A1*6多型(rs4148323)、JAK2 1849G>T (V617F)変異部位(rs77375493)、MPL 1589G>T (W515L)変異部位(rs121913615)、MPL 1588:1599TG>AA (W515K)変異部位(rs121913616)が例示できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、3つの蛍光標識プライマー(配列番号3、7及び8)による増幅産物の溶出ピークを重ね書きした結果を示す。
【
図2】
図2は、非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたUGT1A1遺伝子の*6多型部位からの増幅産物の分離及び検出を示す。
【
図3】
図3は、非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたMPL遺伝子のコドン515部位周辺からの増幅産物の分離及び検出を示す。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたUGT1A1遺伝子の*6多型部位からの増幅産物
【0020】
ヒトUGT1A1遺伝子の*6アレル(211G>A)で、ミスマッチ塩基を一箇所無味入れた当該アレルを特異的に増幅できるASP(配列番号1)及びそのリバースプライマー(配列番号12)を用意し(シグマアルドリッジ株式会社へ委託)、さらにASPの5’末端に、非ヌクレオチド成分を修飾したプライマーを別に用意した(配列番号2は、サーモフィッシャー株式会社へ委託、配列番号8は、ユーロフィンジェノミクス株式会社へ委託、配列番号4及び6は、Integrated DNA Technologies MBL株式会社へ委託、それ以外は、シグマアルドリッジ株式会社へ委託)。配列番号、プライマー配列、オリゴヌクレオチドの長さ(bp)、非ヌクレオチド成分の種類、並びに、非ヌクレオチド成分の励起波長及び蛍光波長(nm)を表2に示す。なお、実施例1〜3において、「Alexa488」は表1の「Alexa Fluor 488 meta-isomer」と「Alexa Fluor 488 para-isomer」との混合物を示し、「FAM」は表1の「5-FAM」を示し、「ATTO488」は表1の「ATTO 488」を示し、「Cy3」は表1の「Cy3」を示し、「Alexa546」は表1の「Alexa Fluor 546」を示し、「TAMRA」は表1の「TAMRA」を示し、「Cy3.5」は表1の「Cy3.5」を示し、「Cy5」は表1の「Cy5」を示し、「Cy5.5」は表1の「Cy5.5」を示し、「DIG」は表1の「Digoxigenin」を示す。
【表2】
【0021】
・試薬、増幅条件及びイオン交換クロマトグラフィー条件
【0022】
以下の試薬を含む25μLの反応溶液を調製し、CFX96(バイオラッド社)にて2ステップのアレル特異的PCRによる増幅を行った。この検討では、UGT1A1遺伝子*6のアレルがホモ接合体の人から採取した精製DNAを用いた。
【表3】
【0023】
その結果を表4に示す。すべての増幅産物の鎖長は117bpとなるが、未標識増幅産物と比較して、各種非ヌクレオチド成分が標識されたプライマーを用いて増幅された産物のイオン交換クロマトグラフィーでの溶出時間(保持時間とも言う。)は、早まったり遅延したりと様々なパターンを示す興味深い知見が得られた。その中から、特に溶出時間の変化が大きかった3つの蛍光標識プライマー(配列番号3、7及び8)による増幅産物の溶出ピークを重ね書きした結果を
図1に示す。この結果は、同じ部位にいくつかパターンがある遺伝子多型や遺伝子変異を特定するための特異的なプライマー毎に、標識する非ヌクレオチド成分を変化させることによって、仮にその増幅産物の鎖長が同一になる場合においても、一回のイオン交換クロマトグラフィー分離において、複数変異のマルチプレックス解析が可能であることを支持するものである。
【表4】
【0024】
[実施例2]非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたUGT1A1遺伝子の*6多型部位からの増幅産物の分離及び検出
【0025】
*6アレル検出用のプライマーは、実施例1に記載の配列番号3を用いた。一方、*6多型部位における野生型検出用のプライマーは、実施例1に記載の配列番号1と同様に、非標識でミスマッチ塩基を一箇所に導入して野生型を特異的に増幅できるASP(配列番号13)を別に用意した。この検討では、UGT1A1遺伝子*6の遺伝子多型部位が、野生型、*6アレルのヘテロ接合体及びホモ接合体の人から採取した精製DNAを用いた。
【0026】
配列番号13
5’-GTTGTACATCAGAGACGAA-3’
【0027】
・試薬、増幅条件及びイオン交換クロマトグラフィー条件
【0028】
以下の試薬を含む25μLの反応溶液を調製し、CFX96(バイオラッド社)にて2ステップのアレル特異的PCRによる増幅を行った。イオン交換クロマトグラフィーの測定は、実施例1と同じ条件を用いて実施した。
【表5】
【0029】
その結果を
図2に示す。*6アレルのヘテロ接合体である検体1では、未標識増幅産物の溶出位置(溶出時間8.6分付近)とFAM標識増幅産物の溶出位置(溶出時間9.2分)に2つの溶出ピークを認め、*6アレルのホモ接合体である検体2では、FAM標識増幅産物の溶出位置にのみ溶出ピークを認め、野生型である検体3では、未標識増幅産物の溶出位置のみ溶出ピークを認めたことから、UGT1A1遺伝子の*6多型部位の遺伝子型が容易かつ正確に判別することが可能であることがわかった。
【0030】
実施例3 非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたMPL遺伝子変異(コドン515)の分離検出
【0031】
MPL遺伝子のコドン515には、W515L、W515K、W515Aの3つの変異パターンがあり、それぞれ1543-1544番目の2塩基の配列が異なる。フォワードプライマーとして、それぞれの変異型検出用の未標識ASP(配列番号14〜16)を用意し、それと対となるリバースプライマー(配列番号17)を用意した。別に、W515K用の非ヌクレオチド成分を付加したASP(配列番号18、19、20)も用意した。また、それぞれの遺伝子変異配列(配列番号21〜23)を組み込んだプラスミドDNAを、検体用として用意(ユーロフィンジェノミクス株式会社へ委託)した。
【0032】
配列番号14 (W515L用ASP)
5’-CTGCTGCTGCTGAGGTTTC-3’
【0033】
配列番号15 (W515K用ASP)
5’-CTGCTGCTGCTGAGGAA-3’
【0034】
配列番号16 (W515A用ASP)
5’-TGCTGCTGCTGAGCGC-3’
【0035】
配列番号17 (共通リバースプライマー)
5’-GGCGGTACCTGTAGTGTGC-3’
【0036】
配列番号18 (ビオチン標識W515K用ASP)
5’-Biotin-CTGCTGCTGCTGAGGAA-3’
【0037】
配列番号19 (アミノ基標識W515K用ASP)
5’-NH2-CTGCTGCTGCTGAGGAA-3’
【0038】
配列番号20 (Cy3.5蛍光色素標識W515K用ASP)
5’-Cy3.5-CTGCTGCTGCTGAGGAA-3’
【0039】
配列番号21 (W515L遺伝子変異配列)
【化1】
【0040】
配列番号22 (W515K遺伝子変異配列)
【化2】
【0041】
配列番号23 (W515A遺伝子変異配列)
【化3】
【0042】
・試薬、増幅条件及びイオン交換クロマトグラフィー条件
以下の試薬を含む25μLの反応溶液を調製し、CFX96(バイオラッド社)にて2ステップのアレル特異的PCRによる増幅を行った。
【0043】
【表6】
【0044】
図3に、非ヌクレオチド成分付加ASPを用いたMPL遺伝子のコドン515部位周辺からの増幅産物のイオン交換クロマトグラフィー分離及び検出結果を示す。先ず、未標識ASPを用いた場合のイオン交換クロマトグラフィー分離結果について、W515Aの増幅産物(45bp)の溶出位置(溶出時間3.82分)は、W515L及びW515Kの増幅産物(それぞれ46bp)の溶出位置と異なることから判別可能であるが、W515LとW515Kの増幅産物は、ほぼ同じ溶出位置(溶出時間4.42分と4.35分)となり、変異の有無は確認されるが、そのパターンの同定は出来ないことが判明した。それに対して、W515K用の非ヌクレオチド成分を付加したASP(配列番号18、19、20)を用いた増幅産物の溶出位置は、それぞれ、4.16分、3.91分、4.97分となり、W515Lの溶出位置と重ならないことに加えて、W515Aの増幅産物の溶出位置にも重ならないことも確認された。
【0045】
この結果は、ASPを用いた増幅産物の長さが類似して、イオン交換クロマトグラフィーを用いた分離検出で溶出位置による差が認められない場合に、ASPに適当な非ヌクレオチド成分を付加することで、分離検出が可能となることを支持する。
【0046】
上記の知見を踏まえると、複数のASPにイオン交換クロマトグラフィーによる溶出時間が変化する複数の非ヌクレオチド成分を付加し、さらにそれと対をなすプライマーにも非ヌクレオチド成分を付加することによって、様々な溶出時間を調整することが可能となる。さらに、非ヌクレオチド成分に、蛍光色素を用いることによって、蛍光波長がクロストークしないものを選択することで、溶出時間に差が無くとも、検出する波長で判別することも可能となる。
【0047】
増幅産物の検出方法としては、増幅反応した試薬をそのままイオン交換クロマトグラフィーで分離する方法以外に、複数の増幅試薬を別々に準備し、その混合液をイオン交換クロマトグラフィーで分離する方法も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
従って、本発明によれば、従来法では困難であった複数の遺伝子多型の遺伝子型や一塩基置換を、容易にかつ正確に検出でき、近年需要が高まってきている遺伝子検査のマルチプレックス化に対応可能な方法が提供される。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]