(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、高架道路や橋梁等を構成する鉄筋コンクリート床版やコンクリート箱桁のウェブ部、地中構造物を構成するボックスカルバート等のように、鉄筋等の鋼材が埋設された厚みのあるコンクリート部を有するコンクリート構造物では、コンクリートの中性化、コンクリートの材料に含まれる塩分、外部からの飛来塩分や凍結防止材等の影響(塩害)によって内部鋼材が腐食し、コンクリート構造物の劣化を招く場合がある。
【0003】
このような鉄筋等の鋼材の腐食対策には、鋼材に電流を供給することにより鉄筋等の鋼材(以下、防食対象鋼材という)の腐食を防止する電気化学的防食工法が知られており、電流の供給方式によって外部電源方式と流電(犠牲)陽極方式とに大別される。
【0004】
外部電源方式は、コンクリート表面又はコンクリート内部にチタン等からなる不溶性陽極を設置し、この不溶性陽極と陰極を成す鉄筋との間に直流電源装置を接続し、鉄筋に不溶性陽極から電流を供給するものであって、電流量を調節でき、長期の防食性にも優れていることから、鉄筋コンクリート構造物の電気化学的防食工法に多く用いられている。
【0005】
しかし、この種の外部電源方式による電気化学的防食工法は、外部電源装置やその制御装置等を必要とする為、設備費が高価であるとともに、その維持管理費も嵩むという問題があった。
【0006】
それに対し、流電陽極方式は、防食対象鋼材に比べて酸化還元電位の低い亜鉛、アルミニウム等からなる流電陽極をコンクリート表面部に設置し、この流電陽極と鉄筋との電位差を利用して鉄筋に電流を供給するものであって、発生する電流量は小さいが、十分な防食効果が期待でき、且つ、外部電源等が不要で導入費用や維持管理費用が安価であることから、この方式による防食工法のコンクリート床版、コンクリート箱桁、ボックスカルバート等の各種コンクリート構造物への適用が望まれている。
【0007】
一方、コンクリート構造物の電気化学的防食構造では、防食対象鋼材が埋設されたコンクリート部に対する陽極の配置によって、面状陽極方式、線状陽極方式及び点状陽極方式に分類される。
【0008】
面状陽極方式は、シート状又は網状に形成された陽極材をコンクリート部の表面に敷設するものであり、線状陽極方式では、コンクリート部表面に複数の溝を形成し、その溝に線状の陽極材が埋め込まれる(特許文献1参照)。点状陽極方式は、鉄筋量に応じてコンクリートに複数の穴を設け、そこに陽極を挿入した後、当該穴をセメント系の無収縮性モルタル等によって埋め戻し、陽極をコンクリート内に設置する工法である(特許文献2参照)。
【0009】
さらに、流電陽極方式の電気化学的防食構造では、流電陽極の保護とともに溶解反応の活性化を目的として、流電陽極の周囲をバックフィルと呼ばれるイオン導電体材料で包囲することが行われる場合がある(特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
面状陽極方式は、陽極材によってコンクリート表面が覆われるので、腐食抑制効果がコンクリートの全面において漏れなく得られることが期待できる。しかし、コンクリート面が見えなくなるため、コンクリート表面側から防食効果を確認することが困難である。さらに、面状陽極方式は、防食対策を必要としない部位をも含めて陽極材によってコンクリート表面が全体的に覆われるため、部分的に防食したい場合に不向きである。線状陽極方式においても面状陽極方式ほどではないものの、やはり線状陽極の埋め込み部分が防食効果確認の際の障害物になる、部分的な防食対策に不向きであるなど、同様な課題がある。また、線状陽極方式は、埋め込んだ線状陽極材同士を導線で電気的に接続する必要があり、その作業に多大な手間を要する。
【0012】
また、線状陽極方式および点状陽極方式では、陽極材をコンクリート構造物に埋設して防食対象鋼材と電気的に接続するために、防食対象鋼材が露出するまでコンクリートの表面部分を斫り取ることが行われることが多い。しかしながら、コンクリートの斫り作業、斫り取った部分の修復作業などに多大な手間と時間がかかる。また、このような埋設型の点状陽極方式は、流電陽極材をコンクリート構造物の表面に鉛直に挿入埋設することなどによって、コンクリート構造物の表面近くの鉄筋のみならず、それより奥にある鉄筋に対しても防食効果を得られることが期待できるものの、コンクリート構造物に流電陽極材を埋め込むための削孔をコアドリルなどの大がかりな器具を使ってくり抜く必要があり、やはり手間とコストが嵩む。
【0013】
さらに、一般的には面状陽極方式、線状陽極方式ともコンクリート構造物表面全体に対して施されるが、電気防食が必要な領域は偏在していることが多いため、流電陽極材が局部的に溶解してしまい、一部交換が必要な場合であっても広範囲に交換する必要があった。
【0014】
また、コンクリート部の切削量を抑え、流電陽極材の消耗状態の確認や交換を容易化するために、流電陽極をコンクリート構造物の外に配置する構造が本発明者らによって検討されている。この場合、外部に配置した流電陽極をバックフィル材で包囲した構造とするために、例えば、流電陽極をケースに収容し、このケース内に流動性の高いバックフィル材をケースに開けられた注入口から注入することによって充填する方法が提案されている。しかしながら、このような作業には時間と手間がかかって効率が悪いことが予想される。また、流電陽極を収容したケースをコンクリート構造物に取り付けた後での注入作業となるため、ケース内のバックフィル材の充填状態を確認しにくく、場合によってはバックフィル材の充填不足が生じ、バックフィル材の十分な効果を発揮できないケースが生じるおそれもあった。
【0015】
本発明の目的は、コンクリートの修復、流電陽極材の交換が容易な電気化学的防食ユニットが得られるとともに、流電陽極をコンクリート構造物の外に配置するために流電陽極材をケースに収容した構成とした場合の、ケース内へのバックフィル材の充填作業を大幅に効率化し、かつ充填性の向上も期待できる流電陽極材の設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明に係る一形態の流電陽極材の設置方法は、
防食対象鋼材が埋設されたコンクリート構造物のコンクリート表面に、前記防食対象鋼材と導通する板状の流電陽極材と、前記コンクリート表面に対する対向面が開口し、前記コンクリート表面と自らの内面によって前記流電陽極材を立体的に包囲する空間を形成するカバーと、前記流電陽極材ならびに前記カバーを支持し、一端部がアンカーに着脱可能な金属製棒材と、前記空間に充填されたバックフィル材とを有し、前記防食対象鋼材と前記流電陽極材とを少なくとも前記金属製棒材を通じて電気的に接続する電気化学的防食ユニットを設置するにあたり、前記コンクリート表面に前記防食対象鋼材の位置に合わせて削孔した施工孔の底面または施工孔の近傍の前記コンクリート表面にアンカー孔を設け、前記アンカー孔に前記金属製棒材の前記一端部を固着し、流動性を有するバックフィル材を余盛状態にして入れた前記カバーを、前記開口した対向面が前記コンクリート表面で塞がれるまで前記コンクリート表面に向けて移動させ、前記カバーの移動が完了するまでに前記カバーと前記コンクリート表面との隙間から前記カバー内の前記バックフィル材の余剰分を漏出させ、前記カバーの移動が完了した位置で前記カバーを前記金属製棒材に固定する。
【0017】
本発明の一形態の流電陽極材の設置方法によれば、点状陽極方式の流電陽極材をコンクリート構造物の外に取り付けることができる。このため、コンクリート構造物の防食対象鋼材と導通をとるために必要な部分だけコンクリート部を削孔すれば済むなど、コンクリート部の切削量をより低く抑えることができ、流電陽極材の設置作業を効率的に行うことができる。さらに、流電陽極材をコンクリート構造物の外部に棒材を介して着脱可能な状態で取り付けたことによって、カバーを外すだけで流電陽極材の消耗状態を目視確認することができ、消耗がすすんだ流電陽極材の交換作業を含めた保守管理コストも低く抑えることができる。さらに、この流電陽極材の設置方法によれば、流動性を有するバックフィル材を余盛状態にして入れたカバーを、開口する対向面をコンクリート表面に向けて持ち上げ、対向面が前記コンクリート表面に突き当たるまでコンクリート表面と対向面との隙間からカバー内のバックフィル材の余剰部分を溢れさせ、対向面がコンクリート表面に突き当たった位置でカバーを棒材に固定することによって、バックフィル材の充填作業を効率良く行うことができるとともに、バックフィル材の充填性の向上も期待できる。
【0018】
また、上記の流電陽極材の設置方法において、前記棒材の他端部に前記カバーを仮止めした状態で前記カバー内に前記バックフィル材を余盛状態に投入するようにしてもよい。
これにより、設置作業中のカバーの落下を防止できるとともに、棒材がカバーを持ち上げる際のガイドとして機能することによって、カバーを持ち上げる方向に対して直交する二軸方向での位置決めを容易に行うことができる。これによって、カバーの取り付け作業の効率化を図れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1は本発明に係る第1の実施形態のコンクリート構造物の電気化学的防食構造を示す断面図である。
同図において、コンクリート構造物である鉄筋コンクリート床版1には、下面1Uから所定距離離れた位置に防食対象鋼材である鉄筋2が配設されている。鉄筋コンクリート床版1の下面1Uには、点状陽極方式の電気化学的防食ユニット10が設置される。この電気化学的防食ユニット10は、棒材である取り付けボルト11と、流電陽極材13と、カバー15とを有する。
【0022】
取り付けボルト11は、鉄筋コンクリート床版1の下面1U側に電気化学的防食ユニット10を取り付けるための一本の棒状部材である。取り付けボルト11は例えばアルミニウム材、炭素鋼材などの耐食性を有する金属材料で構成される。取り付けボルト11の全長部分あるいはその一部の周面にはねじ山が設けられている。取り付けボルト11は、鉄筋コンクリート床版1に設置されたアンカー3に挿入されて固定される上端部11aと、流電陽極材13を支持する支持部11bと、カバー15を支持する部分を含む下端部11cとを有する。
【0023】
本実施形態のコンクリート構造物の電気化学的防食構造では、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに、例えば鉄筋2の下端またはその近傍の深さにまでに達する鉄筋接続用の施工孔1Hが削孔される。この施工孔1Hの奥底面には、鉄筋コンクリート床版1の鉄筋2に対して互いの側面同士が接触するように金属製のアンカー3が設置される。
【0024】
図2は
図1のコンクリート構造物の電気化学的防食構造における施工孔1H周辺の構造を拡大して示す断面図である。同図に示すように、アンカー3には、例えば、本体打ち込み式メスネジタイプの金属製のアンカー3などを用い得る。本体打ち込み式メスネジタイプのアンカー3は、施工孔1Hの底面1Kに削孔されたアンカー孔4に圧入保持されるアンカー本体である中空筒状のスリーブ3Aを有し、スリーブ3Aの一方端部は拡張部3Cを有する。拡張部3Cは、スリーブ3Aの軸方向一端部に開けられた開口3Fよりスリーブ3A内に押し込まれたプラグ3Eによって半径方向に拡張し、拡張部3Cの外周部3Bがアンカー孔4の内壁面4Aに圧接する。これによって、アンカー3がアンカー孔4に固着される。また、スリーブ3Aは、軸方向他端面に開口したネジ孔3Jを有する。このネジ孔3Jに取り付けボルト11の上端部11aが螺入されることによって、取り付けボルト11がアンカー3に固定される。
【0025】
上記のように、施工孔1Hの底面1Kに鉄筋コンクリート床版1中の鉄筋2に対して互いの周面同士が接触するように金属製のアンカー3を設置し、このアンカー3に取り付けボルト11の上端部11aを固定することによって、鉄筋2、アンカー3および取り付けボルト11が電気的に接続され、鉄筋2と流電陽極材13との電位差に起因した防食電流が流れるようになっている。
【0026】
図1に戻って、取り付けボルト11の支持部11bには流電陽極材13とカバー15が支持される。流電陽極材13は、防食対象鋼材である鉄筋2に比べ酸化還元電位の低い材料例えば亜鉛、アルミニウム、マグネシウム合金等からなる板状例えば円盤状の部材である。流電陽極材13の例えば中心部などの所定の部位には取り付けボルト11が挿通される孔部13aがあり、流電陽極材13は、この孔部13aに挿通された取り付けボルト11に一対の取付金具14A、14Bによって取り付けられる。
【0027】
カバー15は、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに対向する対向面が開口した筒形(円筒形あるいは多角筒型)なす。カバー15は、取り付けボルト11の下端部11cに座金付きナットなどの取付金具14Cを用いて着脱可能に取り付けられる。カバー15は、開口された対向面周縁の上端面15aを、パッキン材16を挟んで鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに突き当てた状態にして設置されることによって、コンクリート表面1Uとの間で流電陽極材13を立体的に包囲する空間を形成する。
【0028】
流電陽極材13は、カバー15の内面とコンクリート表面1Uとで形成される立体空間の略中央に配置される。この空間内にはバックフィル材18が充填される。バックフィル材18は、流電陽極材13の周囲近傍の抵抗を下げることによって、流電陽極材13の溶解を容易にすることなどを目的とするものである。なお、バックフィル材18には、例えば石膏、ベントナイトなどを主剤とする流動性材料を用い得る。あるいは、フェノール樹脂連続発泡体等の保水性を有する多孔質部材内部に電解質溶液を含浸保持したものなども用い得る。
【0029】
鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに削孔した施工孔1Hは、例えばカバー15が取り付けられる前に、例えば無収縮性モルタルあるいはバックフィル材などの充填材19によって埋められてもよい。
【0030】
<施工手順1>
次に、本実施形態のコンクリート構造物の電気化学的防食構造に係る流電陽極材の設置方法の手順について
図3から
図8を用いて説明する。
まず、防食施工対象の鉄筋コンクリート床版1の設計図等を参照し、鉄筋コンクリート床版1内の防食対象鋼材である鉄筋2の位置を調べ、施工孔1Hの位置を決定する。あるいは、コンクリート内部探査レーダを使用して鉄筋2を探索して施工孔1Hの位置を決定してもよい。
【0031】
次に、
図3に示すように、鉄筋コンクリート床版1の下面1U側にドリルカッターなどを使って施工孔1Hを削孔する。この際、鉄筋2の位置を目視できる程度の深さまで削孔し、鉄筋2の直ぐ脇にアンカー3を設置可能な領域が確保されるように施工孔1Hの位置が決められる。
【0032】
次に、
図4に示すように、施工孔1Hの底面1Kにハンドドリルなどを用いてアンカー孔4を穿孔し、このアンカー孔4にアンカー3を圧入して設置する。このとき、アンカー3のスリーブ3Aと鉄筋2の互いの側面同士が接触して両者の電気的な接続が確実に得られるように注意すべきである。
【0033】
次に、
図5に示すように、取り付けボルト11の一端部11aをアンカー3のスリーブ3Aのネジ孔3J内に螺入してアンカー3に取り付けボルト11を固定する。続いて、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに削孔した施工孔1Hを、例えば無収縮性モルタルやバックフィル材などの充填剤19で埋める。なお、この工程は、カバー15内にバックフィル材18を充填する際に同時に施工孔1Hもバックフィル材で埋める場合には省くことができる。
【0034】
続いて、
図6に示すように、取り付けボルト11の支持部11bに流電陽極材13を上下一対の座金付きナットなどの取付金具14A、14Bで取り付ける。取り付けボルト11において流電陽極材13が取り付けられる高さ位置は、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uより低い位置であり、あるいは、バックフィル材18の充填性を考慮すると、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uから下方に突出した取り付けボルト11の略中間の高さ位置が適当である。すなわち、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uから流電陽極材13までの隙間が狭すぎると、その隙間部分にバックフィル材18が十分充填されない可能性があるからである。
【0035】
次に、
図1に示したように、取り付けボルト11の支持部11bに取付金具14Cでカバー15を取り付けるとともに、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとカバー15の内面とによって形成される立体空間内にバックフィル材18を充填する。
【0036】
以上のように、この第1の実施形態のコンクリート構造物の電気化学的防食構造および流電陽極材の設置方法によれば、点状陽極方式の流電陽極材13を鉄筋コンクリート床板1の外に取り付けることができる。これにより、流電陽極材を鉄筋コンクリート床板1のコンクリート部に埋め込む工法に比べ、コンクリート部の切削量を低く抑えることができる。具体的には、鉄筋コンクリート床板1中の鉄筋2と導通をとるために必要な部分だけコンクリート部を削孔すれば済む。このコンクリート切削量の低減によって、流電陽極材を含む電気化学的防食ユニットの設置作業を効率的に行うことが可能になる。さらに、流電陽極材13を鉄筋コンクリート床板1の外に取り付けたことによって、カバー15を外すだけで流電陽極材13の防食による消耗状態を目視確認することができる。したがって、コンクリート部に流電陽極材を埋め込む工法などに比べ、流電陽極材13の交換作業を速やかに行うことができ、保守管理コストを低減できる。
【0037】
<バックフィル材の充填方法>
次に、流動性のバックフィル材18を鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとカバー15の内面とによって形成される立体空間内に充填する方法について説明する。
流動性のバックフィル材を充填する方法には、注入方法(典型例)と、本発明に係る余盛方法が挙げられる。
【0038】
注入方法は、取り付けボルト11の支持部11bにカバー15を仮止めした状態でバックフィル材18を徐々に注入する方法である。
図7に示すように、カバー15内に流動性のバックフィル材18を注入するために、カバー15には注入口15bが設けられる。注入口15bは、例えば、カバー15の取り付け完了状態において底部となる部位などに設けられることが好ましい。注入口15bにバックフィル材供給用のノズル17を指し込み、ノズル17を通じてカバー15内にバックフィル材18を注入(圧入)する。
【0039】
カバー15内へのバックフィル材18の注入によってカバー15内の空間のエアーEがバックフィル材18で置き換えられることに伴って、エアーEがスムースにカバー15外に排出されるように、バックフィル材18の注入時、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとカバー15の上部開口周りの端面15aに接着されたパッキン材16の端面との間に適度な隙間Gを確保しておくことが望ましい。
【0040】
図8に示すように、カバー15内がバックフィル材18でほぼ満たされると、上記の隙間Gからバックフィル材18が溢れ出すので、この状態をバックフィル材18の充填完了状態と見なしてバックフィル材18の注入を終了し、ノズル17を外すとともに注入口15bを蓋などで塞ぐ。
【0041】
この後、カバー15を、開口周りの上端面15aに接着されたパッキン材16の上面が鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに突き当たる高さまでを持ち上げ、取り付け金具14Cでカバー15の高さ位置を固定する。もって電気化学的防食ユニット10の取り付けが完了する。
【0042】
図9、
図10は本発明に係る余盛方法その1を説明するための図である。
図9に示すように、予め、例えばカバー15を取り付けボルト11に取り付ける前などに、カバー15内に開口側から、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとカバー15の内面とにより形成される空間(流電陽極材13が占める空間を除く。)を満たすのに十分な量のバックフィル材18を余盛状態にして入れる。
【0043】
次に、
図10に示すように、カバー15の底面に設けられた孔部15cに取り付けボルト11を通しながら、カバー15を鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに向けて作業者が持ち上げる。カバー15の開口周縁の上端面15aに接着されたパッキン材16の上面(以下、「カバー上端面」と呼ぶ。)が鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに接近すると、カバー15内のバックフィル材18の余剰分が上記カバー上端面と鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとの隙間Gから溢れはじめる。したがって、上記カバー上端面が鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに突き当たった時点では、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとカバー15の内面とにより形成される立体空間内にバックフィル材18が満たされた状態となる。なお、上記カバー上端面と鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとが突き当たった状態、あるいはその直前などに、カバー15を軽く叩くなどして適度な振動を与えることによって、カバー15内のバックフィル材18の充填性をより一層の向上を期待できる。最後に、
図1に示したように、カバー15を取り付けボルト11の下端部11cに取付金具14Cで高さ位置を固定する。以上で、バックフィル材18が充填された電気化学的防食ユニット10の取り付けが完了する。
【0044】
また、流電陽極材13の上面と鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとの間の空間にバックフィル材18が十分回り込むように、
図11に示すように、流電陽極材13にバックフィル材18を通過させるための貫通口13bを設けてもよい。この貫通口13bは、網目状のものであってもよい。また、貫通口13bなどによる開口の領域の密度を流電陽極材13の中心に行くほど高くすることによって、最も充填不足が生じる可能性が高い流電陽極材13の上面と鉄筋コンクリート床版1の下面1Uとの間の領域の取り付けボルト11周辺の領域へもバックフィル材18を十分到達させることができ、全体的な充填性をより向上させることができる。
【0045】
この余盛方法によれば、上記の注入方法に比べ、バックフィル材18の充填を短時間に行うことができる。また、バックフィル材18をカバー15内に余盛状態に入れる作業は、地上で作業者が下向きに行うことができる。よって、上記の作業者にとって上向き作業となる注入方法に比べ、作業効率に優れ、カバー15に注入口を設けたり、注入口を塞ぐための蓋を用意する必要がないため、低コスト化を期待できる。
【0046】
図12は本発明に係る余盛方法その2を説明するための図である。
この余盛方法その2では、カバー15を取り付けボルト11の下端部11cに取付金具14Cで仮止めし、この取り付けボルト11に仮止めされたカバー15内に開口側からバックフィル材18を余盛状態で投入する。この際、カバー15を取り付けボルト11の下端部11cの末端位置に取付金具14Cで仮止めすることによって、カバー15の開口から鉄筋コンクリート床版1の下面1Uまでの距離をできるだけ大きくとることができ、バックフィル材18の投入作業が容易になる。そのため、取り付けボルト11は、余盛方法1の場合よりも長尺のものを使用すべきである。
【0047】
また、上記の余盛方法その1では、バックフィル材18を入れたカバー15を鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに向けて持ち上げる際に、カバー15の底面に設けた孔部15cからバックフィル材18が漏れ出すおそれがあるのに対し、余盛方法その2によれば、孔部15cは取付金具14Cで塞がれた状態でカバー15を持ち上げられることから、バックフィル材18のカバー15の孔部15cからの漏出が生じにくい。また、余盛方法その2によれば、バックフィル材18を入れたカバー15を人手で持ち上げねばならない距離を最小限に抑えられるので、設置作業のさらなる高効率化を図れる。
【0048】
<変形例1>
次に、本発明に係るコンクリート構造物の電気化学的防食構造および流電陽極材の設置方法を変形例を説明する。
図13は変形例1であるコンクリート構造物の電気化学的防食構造および流電陽極材の設置方法を示す断面図、
図14は
図13の要部を拡大して示す断面図である。
【0049】
この変形例1では、鉄筋コンクリート床版1内の鉄筋2と取り付けボルト11との電気的な接続に金属製のタッピングネジなどの金属ネジ21とリード線23とが用いられる。
【0050】
鉄筋コンクリート床版1の下面1Uには、例えば鉄筋2の下端またはその近傍の深さにまでに達する施工孔1Jが削孔される。この施工孔1Jの底面1Kには、鉄筋2に対して互いの側面同士が接触するように金属ネジ21がねじ込まれる。より詳細には、施工孔1Jの底面1Kには、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uに対して直交方向にネジ孔5がハンドドリルなどを使用して穿孔され、このネジ孔5に金属ネジ21が鉄筋2の側面に接触しつつねじ込まれる。
【0051】
ネジ孔5にねじ込まれた金属ネジ21の頭部21aと施工孔1Jの底面1Kとの間には、リード線23の一端が接続された第1の端子金具25が挟持される。施工孔1Jは、例えば無収縮性モルタルあるいはバックフィル材などの充填材19によって埋められる。
【0052】
鉄筋コンクリート床版1の下面1Uの施工孔1Jの近傍には、例えば本体打ち込み式メスネジタイプなどのアンカー3が設置され、このアンカー3のアンカー本体である中空筒状のスリーブ3Aに取り付けボルト11の上端部11aが螺入される。なお、この変形例において、アンカー3は必ずしも導電性を有するものである必要はない。そして施工孔1J内で金属ネジ21の頭部21aと施工孔1Jの底面1Kとの間に挟持された第1の端子金具25に一端が接続されたリード線23の他端側の部分が施工孔1Jから鉄筋コンクリート床版1の下面1Uより下方に引き出され、そのリード線23の他端部は、第2の端子金具26を介して取り付けボルト11に電気的に接続される。
【0053】
流電陽極材13、カバー15、およびカバー15内のバックフィル材18については第1の実施形態と同様のため、これらの構成の説明については省略する。
【0054】
以上のようにして、この変形例1の電気化学的防食構造では、金属ネジ21、リード線23、および取り付けボルト11などを通じて、鉄筋コンクリート床版1内の鉄筋2と流電陽極材13とが電気的に接続され、鉄筋2と流電陽極材13との電位差に起因した防食電流が流れるようになっている。
【0055】
<施工手順>
次に、変形例1のコンクリート構造物の電気化学的防食構造に係る流電陽極材の設置方法の手順について説明する。
まず、防食施工対象の鉄筋コンクリート床版1の設計図等を参照したり、コンクリート内部探査レーダを使用するなどして、鉄筋コンクリート床版1内の防食対象鋼材である鉄筋2の位置を調べ、施工孔1Jの位置を決定する。
【0056】
次に、鉄筋コンクリート床版1の下面1U側にドリルカッターなどを使って施工孔1Jを削孔する。この際、施工孔1Jの奥に鉄筋2の位置を目視できる程度の深さまで削孔し、その鉄筋2の直ぐ脇に金属ネジ21を打ち込むことが可能な領域が確保されるように施工孔1Jの位置が決められる。
【0057】
続いて、施工孔1Jの底面1Kにネジ孔5をハンドドリルなどを使って穿孔し、このネジ孔5に金属ネジ21をねじ入れる。この際、リード線23の一端が接続された第1の端子金具25が、金属ネジ21の頭部21aと施工孔1Jの底面1Kとの間で挟持されるようにする。
【0058】
ここで、金属ネジ21として鉄筋2より硬度の高いものを使用するとともに、ネジ孔5の内径を金属ネジ21の径よりネジ山分だけ小さいものとし、金属ネジ21をネジ孔5にねじ入れる際に金属ネジ21のネジ山をネジ孔5の内壁面に喰い込ませる。これによって鉄筋2と金属ネジ21との電気的接続がより確実になる。
【0059】
逆に、金属ネジ21として鉄筋2より硬度の低いものを使用し、金属ネジ21をネジ孔5にねじ込んだ際にネジ山が鉄筋2に潰された状態としてもよい。
【0060】
続いて、一端が第1の端子金具25に接続されたリード線23の他端側の部分を施工孔1Jから引き出した状態で、施工孔1Jを無収縮性モルタルやバックフィル材などの充填剤19で埋める。なお、充填材19の充填は、カバー15内にバックフィル材18を充填する際に同時に施工孔1Jもそのバックフィル材18で埋める場合には省くことができる。
【0061】
次に、鉄筋コンクリート床版1の下面1Uの施工孔1Jの近傍にアンカー孔4をドリルカッターなどを使って削孔し、このアンカー孔4にアンカー3を圧入して設置する。続いて、施工孔1Jから引き出されたリード線23の他端部を第2の端子金具26を用いて取り付けボルト11と電気的に接続する。
【0062】
この後、取り付けボルト11への流電陽極材13およびカバー15の取り付け、バックフィル材19の充填を行う。この際、バックフィル材18の充填を、特に余盛方法その1あるいはその2にて行うことによって、バックフィル材18の充填を効率良く行うことができるとともに、良好な充填状態が得られる。
【0063】
この変形例1のコンクリート構造物の電気化学的防食構造および流電陽極材の設置方法によっても、第1の実施形態と同様、点状陽極方式の流電陽極材13を鉄筋コンクリート床板1の外に取り付けることができるとともに、主に鉄筋コンクリート床板1中の鉄筋2と導通をとるために必要な部分だけコンクリート部を削孔すればよいため、コンクリート部の切削量を低く抑えることができ、流電陽極材を含む電気化学的防食ユニット101の設置作業を効率的に行うことが可能になる。さらに、流電陽極材13の交換作業を速やかに行うことができ、保守管理コストを低減できる。また、コンクリート構造物中の鉄筋2の位置に合わせて削孔した施工孔1Jの位置に対して、電気化学的防食ユニット101の位置を高い自由度で決めることができる。
【0064】
<変形例2>
次に、変形例2を説明する。
図15は、上記変形例1の流電陽極材の設置方法のさらなる変形例2を示す断面図である。
この変形例2は、取り付けボルト11の鉄筋コンクリート床版1への固定および鉄筋2との電気的接続に金属製のクリップ部材6を用いた例である。
【0065】
クリップ部材6は、バネ鋼板などのバネ鋼材から曲げ加工などによって製作され得るものであり、基部6aと、互いに対向する一対の脚部6b、6cからなる。基部6aは、鉄筋2の外周形状に対応する略円筒形の断面形状を有し、鉄筋2を内側に嵌め込むことによって鉄筋2に掛止される。一対の脚部6b、6cは基部6aから延設された部分であり、取り付けボルト11の上端部11aを両側より挟持する。それぞれの脚部6b、6cは鉄筋2を基部6aの内側に嵌め込むために脚部6b、6c間を通過する際に内側から外に押圧されて開脚し、鉄筋2が基部6a内に収まると弾性復元力によって閉脚して鉄筋2を基部6a内にホールドする。この後、閉脚状態の一対の脚部6b、6cの間に、取り付けボルト11の上端部11aが挿入され、溶着あるいは接着などによって互いに固着される。
【0066】
以降は、第1の実施形態の設置方法と同様に、施工孔1M内への充填材の充填、流電陽極材13およびカバー15の取り付け、バックフィル材18の充填が行われて防食ユニットの設置作業が完了となる。
【0067】
なお、この変形例2では、鉄筋2をクリップ部材6の基部6aの内側に嵌め込むために、施工孔1Mの奥に露出した鉄筋2の全周囲のコンクリート部を斫り取ることによってクリップ設置空間7を形成する必要がある。
【0068】
なお、本発明に係るコンクリート構造物の電気化学的防食構造は、上述の鉄筋コンクリート床版の例に限定されず、例えば、コンクリート箱桁や、地中に埋設されたボックスカルバート、その他のコンクリート構造物にも適用することができる。
【0069】
図16はコンクリート箱桁に本発明に係るコンクリート構造物の電気化学的防食構造を採用した施行例を示す断面図である。
この施工例では、コンクリート箱桁30の下床版32の下側の鉄筋2、および各ウェブ33、34の外側の鉄筋2を防食対象鋼材とするため、下床版32の下側面と各ウェブ33、34の外側面にそれぞれ電気的に独立した電気化学的防食ユニット10が設置される。
なお、下床版32の上側の鉄筋、各ウェブ33、34の内側の鉄筋、あるいは上床版31の鉄筋2を防食対象鋼材とする場合も同様に、その防食対象鋼材である鉄筋2の配置位置に近いコンクリート面側に電気化学的防食ユニット10を設置すればよい。