(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875516
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】抗肥満および抗糖尿病効能を有するペプチド、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20210517BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20210517BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20210517BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20210517BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20210517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
C07K7/06ZNA
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A61K38/08
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】13
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-520822(P2019-520822)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公表番号】特表2019-533680(P2019-533680A)
(43)【公表日】2019年11月21日
(86)【国際出願番号】KR2017003448
(87)【国際公開番号】WO2018074682
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2019年5月20日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0135615
(32)【優先日】2016年10月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
【審査官】
平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0288223(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0185025(US,A1)
【文献】
Journal of Cellular Biochemistry, 2006, 98:194-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 38/00−38/58
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドであって、
前記ペプチドは、N‐末端に、アセチル基(acetyl group)、フルオレニルメトキシカルボニル基(fluoreonylmethoxycarbonyl group)、ホルミル基(formyl group)、パルミトイル基(palmitoyl group)、ミリスチル基(myristyl group)、ステアリル基(stearyl group)、およびポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)からなる群から選択される保護基が結合しているか、
C‐末端に、ヒドロキシ基(hydroxyl group、‐OH)、アミノ基(amino group、‐NH2)、またはアジド(azide、‐NHNH2)が結合している、ペプチド。
【請求項2】
抗肥満または抗糖尿病活性を有する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
PPARγ(Peroxisome proliferator‐activated receptor gamma)、ACC(Acetyl‐CoA carboxylase)、およびaP2(adipose‐specific fatty acid‐binding protein 2)からなる群から選択される1種以上の脂質生成標識因子の発現を減少させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
pHSL(phospho‐hormone‐sensitive lipase)、AMPK‐α1(AMP‐activated protein kinase α1)、CGI‐58(Comparative Gene Identification‐58)、およびATGL(Adipose triglyceride lipase)からなる群から選択される1種以上の脂肪分解因子の発現を増加させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
脂肪分解を増加させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
脂質生成を抑制する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項7】
血糖を減少させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項8】
脂肪細胞の大きさを減少させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項9】
血中コレステロールを減少させる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含む、肥満の予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドをさらに含む、請求項10に記載の肥満の予防または治療用医薬組成物。
【請求項12】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含む、糖尿病の予防または治療用医薬組成物。
【請求項13】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドをさらに含む、請求項12に記載の糖尿病の予防または治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満および抗糖尿病効能を有するペプチド、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、韓国では、経済成長および食生活の西欧化により食物から得る脂肪分の摂取量が増加しており、運動不足などにより、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化症、および脂肪肝などのような代謝性疾患が増加している傾向にある。また、肥満は、若者にとって、痩せ体型を好む美容上の外見を損なうだけでなく、肥満の持続により、種々の疾患が取り扱われている。
【0003】
現在、肥満を治療する治療剤は、中枢神経系に作用して食欲に影響を与える薬剤と、胃腸管に作用して吸収を阻害する薬物と、に大別される。中枢神経系に作用する薬物としては、それぞれの機序によって、セロトニン(5‐HT)神経系を阻害するフェンフルラミン、デクスフェンフルラミンなどの薬物、ノルアドレナリン神経系を介したエフェドリンおよびカフェインなどの薬物、および近年は、セロトニンおよびノルアドレナリン神経系に同時に作用して肥満を阻害するシブトラミンなどの薬物が市販されている。その他にも、胃/腸管に作用して肥満を阻害する薬物であって、腸管リパーゼを阻害して脂肪の吸収を減らす肥満治療剤として許可されたオルリスタートなどが代表的な薬物として用いられている。
【0004】
しかしながら、従来に用いられてきた薬物のうち、フェンフルラミンなどの薬物は、その副作用により、原発性肺高血圧や心臓弁膜病変を引き起こし、最近使用が禁止されており、他の薬物も、血圧減少や乳酸血症などの問題が発生し、心不全、腎臓疾患などの患者には使用できないという問題がある。
【0005】
糖尿病は、インスリンの分泌量が足りないか、正常な機能がなされないなどの代謝疾患の一種であって(DeFronzo、1988)、血中ブドウ糖の濃度が高くなる高血糖を特徴とし、高血糖によって種々の症状および徴候を引き起こし、小便にブドウ糖を排出することになる疾患である。近年、肥満率、特に、腹部肥満の増加により、糖尿病の発生率が爆発的に増加している傾向にある。
【0006】
糖尿病患者の数は、2000年に全世界的に1億7千万名と評価されており、2030年には3億7千万名に達すると予想されていたが、最近の分析によると、2008年に既に全世界的に約3億5千万名に達したと報告され、予想よりも遥かに深刻な水準である(Danaei et al.,2011)。2型糖尿病患者の約80%以上が肥満であるのに比べて、肥満患者のただ10%未満のみが糖尿病であると報告されている(Harris et al.,1987)。
【0007】
かかる糖尿病と肥満の連関性は、アディポカイン(adipokine)と遊離脂肪酸(free fatty acid)の不規則的な分泌により、脂肪酸がベータ細胞や腎臓、肝、心臓などのインスリン敏感性組織内に蓄積されて脂肪毒性(lipotoxicity)を示すためである。慢性的な高血糖状態で適切な治療が行われないと、身体で種々の病的症状が伴われるが、代表的なものが網膜病症、腎機能障害、神経病症、血管障害などであって、これらによる合併症を予防するためには、効果的な血糖管理が必須である。
【0008】
現在、血糖を調節する方法としては、生活習慣の矯正(食餌療法、運動療法)および薬物療法などが用いられている。しかし、食餌療法や運動療法は厳格な管理および実施が困難であり、その効果においても限界がある。したがって、殆どの糖尿病患者は、生活習慣の矯正とともに、インスリン、インスリン分泌促進剤、インスリン感受性改善剤、および血糖降下剤などの薬物による血糖調節に依存している。
【0009】
組換え方法により生産されているインスリンは、1型糖尿病患者や、血糖が調節されない2型糖尿病患者において必須な薬物であって、血糖の調節においては有利であるが、注射針に対する拒否感、投与方法の困難性、低血糖の危険、そして体重増加などの欠点を有している。
【0010】
インスリン分泌促進剤の一種であるメグリチニド系は、薬効が非常に速い製剤であって、食前に服用し、ノボナム(レパグリニド)、ファスティック(ナテグリニド)、グルファスト(ミチグリニド)などがある。インスリン感受性改善剤は、単独で服用時に低血糖が殆どないことが特徴であり、ビグアナイド(biguanide)系薬物であるメトフォルミン(metformin)、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系のアバンディア(ロシグリタゾン)、アクトス(ピオグリタゾン)などがある。
【0011】
最近開発されている薬物としては、インスリン分泌を促進させるホルモンであるグルカゴン様ペプチド‐1(Glucagon‐like peptide‐1)の作用を利用して開発されたGLP‐1アゴニスト(agonist)が挙げられ、エキセナチド(exenatide)とビクトーザ(liraglutide)がこれに該当する。また、GLP‐1を速かに不活性化させる酵素であるDPP‐4(Dipeptidyl peptidase‐4)の作用を抑制するDPP‐4抑制剤(Inhibitor)も最近開発された新薬であり、ジャヌビア(成分名:シタクリプチン(sitagliptin))が代表的である。
【0012】
しかしながら、これらの薬剤は、肝毒性、胃膓障害、心血関系疾患、および発癌性などの副作用が報告されており、年間治療費用も高いため、糖尿病の治療において障害となっている。実際に、前糖尿病(pre‐diabetes)および糖尿病関連費用は、2007年を基準として米国のみで約200兆ウォンに肉薄し(Dall et al.,2010)、肥満関連費用も2008年を基準として米国のみで150兆ウォンに肉薄する(Finkelstein et al.,2009)。したがって、体重を減少させ、血糖を効果的に低めることで、糖尿病および肥満性糖尿病の治療の両方に使用でき、且つ副作用の少ない薬剤の開発が至急な状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明者らは、肥満治療のためのより改善された方法を見出すために、近年、エネルギー代謝を調節する機序に関心を持ち、こちらの系の化合物がより高い安全性(低い毒性)を有しなければならないということを前題に、ヒトが高脂肪食餌を摂取した時に脂肪として蓄積されるシグナルと、脂肪の蓄積に影響を与えるタンパク質に関する研究を行い、かかる脂肪蓄積に関与するタンパク質の発現を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解させるためのシグナルおよび関与タンパク質の研究により、脂肪分解を促進するペプチドを開発するに至った。
【0014】
そこで、本発明の目的は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、抗肥満または抗糖尿病活性を有する、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドを含む、肥満の予防および/または治療用医薬組成物を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドを含む、糖尿病の予防および/または治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、生物学的に有効な活性を有する多数の優れたペプチドを開発するために鋭意努力した結果、配列番号1〜配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドが、高脂肪食餌により誘導された脂肪蓄積を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解して抗肥満効果を示すだけでなく、糖尿病、肥満性糖尿病、および糖尿病合併症に対して優れた予防および/または治療効果を示すということを糾明することにより、本発明を完成した。
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本発明の一態様は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【0021】
本発明の他の態様は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなる抗肥満および/または抗糖尿病活性を有するペプチドに関する。
【0022】
前記ペプチドは、アミノ酸配列の一部部位を選定し、その活性を増加させるために、N‐末端および/またはC‐末端の変形が誘導されたものであってもよい。このようなN‐末端および/またはC‐末端の変形により、本発明のペプチドの安定性を著しく向上させることができ、例えば、ペプチドの生体内への投与時に、半減期を増加させることができる。
【0023】
前記N‐末端の変形は、ペプチドのN‐末端に、アセチル基(acetyl group)、フルオレニルメトキシカルボニル基(fluoreonylmethoxycarbonyl group)、ホルミル基(formyl group)、パルミトイル基(palmitoyl group)、ミリスチル基(myristyl group)、ステアリル基(stearyl group)、およびポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)からなる群から選択される保護基が結合したものであってもよい。前記保護基は、生体内のタンパク質切断酵素の攻撃から本発明のペプチドを保護する作用をする。
【0024】
前記C‐末端の変形は、ペプチドのC‐末端に、ヒドロキシ基(hydroxyl group、‐OH)、アミノ基(amino group、‐NH2)、アジド(azide、‐NHNH2)などが結合したものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明の一態様によると、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドは、高脂肪食餌により誘導された脂肪蓄積を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解する効果を奏する。
【0026】
また、前記ペプチドは、脂質生成標識因子であるPPARγ(Peroxisome proliferator‐activated receptor gamma)、ACC(Acetyl‐CoA carboxylase)、および/またはaP2(adipose‐specific fatty acid‐binding protein 2)の発現を減少させる。
【0027】
また、前記ペプチドは、脂肪分解因子であるpHSL(phospho‐hormone‐sensitive lipase)、AMPK‐α1(AMP‐activated protein kinase α1)、CGI‐58(Comparative Gene Identification‐58)、および/またはATGL(Adipose triglyceride lipase)の発現を増加させ、脂肪細胞の大きさを減少させる。
【0028】
また、前記ペプチドは、脂肪分解の増加、脂質生成の抑制、血糖の減少、脂肪細胞の大きさの減少、血中コレステロール数値の減少という効果がある。
【0029】
このような結果は、本発明のペプチドが、肥満、糖尿病、および肥満性糖尿病の治療において非常に優れた効能を有するということを意味する。
【0030】
本発明によると、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれ配列番号3または配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチドのSerがCysで置換されたものであって、ペプチドとしてのこれらの抗肥満および/または抗糖尿病活性は略同様である。
【0031】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1〜配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドの2種以上を含む、抗肥満および/または抗糖尿病活性を有するペプチド複合体に関する。
【0032】
前記ペプチド複合体は、配列番号2および配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドの1種以上を含み、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドの1種以上をさらに含んでもよい。
【0033】
例えば、前記ペプチド複合体は、下記のようなペプチドの組み合わせであってもよい:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド;および
(c)配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド。
【0034】
また、前記ペプチド複合体は、下記のようなペプチドの組み合わせであってもよい:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド;および
(c)配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド。
【0035】
本発明のペプチドは、配列番号1〜配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドだけでなく、これらの複合体も、優れた抗肥満および抗糖尿病活性を示す。
【0036】
本発明のさらに他の態様は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上を有効成分として含む、肥満の予防または治療用医薬組成物に関する。
【0037】
前記ペプチドは、脂肪の生成を抑制し、脂質を分解する機能に著しく優れ、肥満の予防および/または治療に用いられることができる。
【0038】
前記肥満の予防および/または治療用医薬組成物は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドをさらに含んでもよい。
【0039】
本発明のさらに他の態様は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上を有効成分として含む、糖尿病の予防および/または治療用医薬組成物に関する。
【0040】
前記ペプチドは、糖尿病動物モデルで、増加された血糖を効果的に減少させる効能を示し、糖尿病の予防および/または治療に用いられることができる。
【0041】
前記糖尿病の予防および/または治療用医薬組成物は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種以上のペプチドをさらに含んでもよい。
【0042】
本発明の好ましい態様によると、前記肥満または糖尿病の予防または治療用医薬組成物は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドの薬学的有効量;および薬学的に許容される担体;を含んでもよい。
【0043】
前記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明の医薬組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
適した薬学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0046】
前記医薬組成物は、経口または非経口、好ましくは非経口で投与することができ、非経口投与の場合は、筋肉注入、静脈内注入、皮下注入、腹腔注入、局所投与、経皮投与などで投与してもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
前記医薬組成物の投与量は、1日当たり0.0001〜1000ug(マイクログラム)、0.001〜1000ug、0.01〜1000ug、0.1〜1000ug、または1.0〜1000ugであってもよいが、これに限定されるものではなく、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、および反応感応性などのような要因によって多様に処方可能である。
【0048】
前記医薬組成物は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することで、単位用量形態で製造されるか、または多用量容器中に納めて製造されてもよい。
【0049】
前記剤型は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤および/または安定化剤をさらに含んでもよい。
【0050】
本明細書において用語「ペプチド」は、ペプチド結合によってアミノ酸残基が互いに結合されて形成された直鎖状の分子を意味する。本発明のペプチドは、当業界で公知の化学的合成方法、特に、固相合成技術(solid‐phase synthesis techniques;Merrifield,J.Amer.Chem.Soc.85:2149‐54(1963);Stewart,et al.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd.ed.,Pierce Chem.Co.:Rockford,111(1984))または液相合成技術(US登録特許第5,516,891号)により製造されてもよい。
【0051】
本明細書において用語「安定性」は、インビボ安定性だけでなく、保存安定性(例えば、常温保存安定性)も含む意味である。
【0052】
本明細書において用語「薬学的有効量」は、上述のペプチドの効能または活性を達成するのに十分な量を意味する。
【発明の効果】
【0053】
本発明は、抗肥満および抗糖尿病効能を有するペプチド、およびそれを含む肥満または糖尿病の予防または治療用組成物に関し、本発明のペプチドは、糖尿病および肥満性糖尿病において顕著な効能を示す。高脂肪食餌により誘発される脂肪蓄積または肝や筋肉などの脂肪蓄積により現れるインスリンのシグナルの抑制、およびそれにより誘発されるインスリンの耐性が糖尿病の原因となるが、本発明のペプチドは、このような糖尿病および肥満性糖尿病の予防または治療用途に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1a】本発明の一実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪をオイルレッドO染色により確認した結果である。
【
図1b】本発明の一実施例による配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪をオイルレッドO染色により確認した結果である。
【
図2a】本発明の一実施例によるペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、蓄積された脂肪を確認するためにオイルレッドO染色により確認した結果グラフである。
【
図2b】本発明の一実施例によるペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、蓄積された脂肪を確認するためにオイルレッドO染色により確認した結果写真である。
【
図3a】本発明の一実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、脂肪の生成に関与する遺伝子であるaP2の発現量を測定した結果である。
【
図3b】本発明の一実施例による配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、脂肪の生成に関与する遺伝子であるaP2の発現量を測定した結果である。
【
図4】本発明の一実施例によってペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂質合成時における重要な遺伝子であるPPARγ、ACC、aP2遺伝子の発現量を測定した結果である。
【
図5a】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂質合成時における重要なタンパク質であるPPARγ、および脂質分解時における重要なタンパク質であるphospho‐HSLタンパク質の発現量を測定した結果である。
【
図5b】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂質合成時における重要なタンパク質であるPPARγタンパク質の発現量を測定した結果グラフである。
【
図5c】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂質分解時における重要なタンパク質であるphospho‐HSLタンパク質の発現量を測定した結果グラフである。
【
図6a】本発明の一実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与する遺伝子であるAMPK‐α1とCGI58の発現量を測定した結果である。
【
図6b】本発明の一実施例による配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与する遺伝子であるAMPK‐α1とCGI58の発現量を測定した結果である。
【
図6c】本発明の一実施例によるペプチド複合体を処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与する遺伝子であるAMPK‐α1とCGI58の発現量を測定した結果である。
【
図7a】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるATGLの発現量を測定した結果写真である。
【
図7b】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるATGLの発現量を測定した結果グラフである。
【
図8a】本発明の一実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるPhospho‐HSLの発現量を免疫染色により測定した結果である。
【
図8b】本発明の一実施例による配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるPhospho‐HSLの発現量を免疫染色により測定した結果である。
【
図8c】本発明の一実施例によるペプチド複合体を処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるPhospho‐HSLの発現量を免疫染色により測定した結果である。
【
図9】本発明のペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、グリセロールの生成量を測定した結果である。
【
図10a】本発明のペプチド複合体を肥満マウス実験モデルに濃度毎に処理した後、分解される脂肪組織を測定した結果である。
【
図10b】本発明のペプチド複合体を肥満マウス実験モデルに処理した後、分解される脂肪組織の大きさおよび数値を測定した結果である。
【
図11】本発明のペプチド複合体を処理した時に、蓄積された脂肪を分解する過程に関与するタンパク質であるPhospho‐HSLの発現量を免疫染色により測定した結果である。
【
図12】本発明のペプチド複合体を処理した時に、肥満マウスにおける体重変化(a)および飼料摂取変化(b)を測定した結果である。
【
図13】本発明のペプチド複合体を処理した時に、肥満マウスの姿を測定した結果である。
【
図14】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、マイクロCT撮影により脂肪の分布を測定した結果である。
【
図15】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して観察した結果である。
【
図16a】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞の形状を観察した結果である。
【
図16b】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞の大きさを観察した結果である。
【
図16c】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞の大きさを観察した結果グラフである。
【
図17】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞中の脂肪分解に作用するタンパク質であるphospho‐HSLの発現量を観察した結果である。
【
図18】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取してコレステロールの量を測定した結果である。
【
図19】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに脂っこい飼料を摂取させて肥満マウスモデルを作製し、本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖を測定した結果である。
【
図20】糖尿病が誘発されたdb/dbマウスモデルに本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図21】糖尿病が誘発されたdb/dbマウスモデルに本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取してコレステロールの変化を測定した結果である。
【
図22】本発明の一実施例によって、糖尿病が誘発されたdb/dbマウスモデルに配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図23】本発明の一実施例によって、糖尿病が誘発されたdb/dbマウスモデルに配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図24a】本発明の一実施例によって、血糖の高い糖尿病患者に本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図24b】本発明の一実施例によって、血糖の高い糖尿病患者に本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図24c】本発明の一実施例によって、血糖の高い糖尿病患者に本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【
図24d】本発明の一実施例によって、血糖の高い糖尿病患者に本発明のペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明を下記の実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0057】
実施例
合成例1:ペプチドの合成
クロロトリチルクロリドレジン(Chloro trityl chloride resin;CTL resin、Nova biochem Cat No.01‐64‐0021)700mgを反応容器に入れ、メチレンクロリド(MC)10mlを加えて3分間撹拌した。溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)10mlを入れて3分間撹拌した後、さらに溶媒を除去した。反応器に10mlのジクロロメタン溶液を入れ、Fmoc‐Asn(Trt)‐OH(Bachem、Swiss)200mmoleおよびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)400mmoleを入れた後、撹拌してよく溶かし、1時間撹拌しながら反応させた。反応後に洗浄し、メタノールとDIEA(2:1)をDCM(dichloromethane)に溶かして10分間反応させ、過量のDCM/DMF(1:1)で洗浄した。溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)を10ml入れて3分間撹拌した後、さらに溶媒を除去した。脱保護溶液(20%のピペリジン(Piperidine)/DMF)10mlを反応容器に入れ、10分間常温で撹拌してから溶液を除去した。同量の脱保護溶液を入れ、さらに10分間反応を維持した後、溶液を除去し、それぞれ3分ずつDMFで2回、MCで1回、DMFで1回洗浄してAsn‐CTLレジン(Resin)を製造した。新しい反応器に10mlのDMF溶液を入れ、Fmoc‐Arg(Pbf)‐OH(Bachem、Swiss)200mmole、HoBt200mmole、およびBop200mmoleを入れた後、撹拌してよく溶かした。反応器に400mmoleのDIEAを分画で2回にわたって入れた後、全ての固体が溶けるまで少なくとも5分間撹拌した。溶かしたアミノ酸混合溶液を、脱保護されたレジンのある反応容器に入れ、1時間常温で撹拌しながら反応させた。反応液を除去し、DMF溶液で3回5分ずつ撹拌してから除去した。少量の反応レジンを取り、カイザーテスト(Ninhydrin Test)により反応程度を調べた。脱保護溶液で、上記と同様に2回脱保護反応させ、Arg‐Asn‐CTLレジンを製造した。DMFとMCで十分に洗浄し、さらに1回カイザーテストを行った後、上記と同様に下記のアミノ酸付着実験を行った。選定されたアミノ酸配列に基づき、Fmoc‐Thr(tBu)‐OH、Fmoc‐Lys(Boc)‐OH、およびFmoc‐Leu‐OHの順に連鎖反応させた。Fmoc‐保護基を脱保護溶液で10分ずつ2回反応させた後、よく洗浄して除去した。無水酢酸とDIEA、HoBtを入れてアセチル化を1時間行った後、製造されたペプチジルレジンをDMF、MC、およびメタノールでそれぞれ3回洗浄し、窒素空気をゆっくりと流して乾燥した後、P2O5下で真空減圧して完全に乾燥した後、脱漏溶液[トリフルオロ酢酸(Trifluroacetic acid)81.5%、蒸留水5%、チオアニソール(Thioanisole)5%、フェノール(Phenol)5%、EDT2.5%、およびTIS1%]30mlを入れた後、常温でたまに振りながら反応を2時間維持した。フィルタリングしてレジンを濾過し、レジンを少量のTFA溶液で洗浄した後、母液と合わせた。減圧により、全体積の半分程度残るように蒸留し、50mlの冷たいエーテルを加えて沈殿を誘導した後、遠心分離により沈殿を集め、さらに冷たいエーテルで2回洗浄した。母液を除去し、窒素下で十分に乾燥することで、精製前のNH2‐Leu‐Lys‐Thr‐Arg‐Asn‐COOHのペプチド(配列番号1)を0.85g合成(収率:92%)した。NH2‐Lys‐Gly‐Ala‐
Cys‐Thr‐Gly‐Trp‐Met‐Ala‐COOH(配列番号2)を0.78g合成し(収率:82%)、NH2‐Ala‐
Cys‐Thr‐Leu‐Pro‐His‐Pro‐Trp‐Phe‐
Cys‐COOH(配列番号
4)を0.92g合成した(収率:85%)。NH2‐
Cys‐Asp‐Leu‐Arg‐Arg‐Leu‐Glu‐Met‐Tyr‐
Cys‐COOH(配列番号
6)を0.76g合成した(収率:88%)。分子量測定機により測定したところ、配列番号1のペプチドの分子量630.7(理論値:630.7)、配列番号2のペプチドの分子量924.5(理論値:924.1)、配列番号
4のペプチドの分子量1236(理論値:1236.5)、配列番号
6のペプチドの分子量1301.5(理論値:1301.5)が得られた。
【0059】
一方、それぞれの配列番号1、配列番号3、および配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチドを同量で混合してペプチド複合体を作製し、その効能を評価した。
【0060】
実施例1:脂質生成抑制活性の評価
1‐1.脂肪前駆細胞を用いた脂質蓄積の抑制(オイルレッドO染色)
脂肪前駆細胞(pre‐adipocyte)である3T3‐L1細胞をConfluent状態まで培養した後、10ug/mlのインスリン、0.1uMのデキサメタゾン、および0.5uMのIBMXが含まれた分化培地に交換、およびペプチドを濃度毎に処理して2日間培養した。その後、2日毎に10ug/mlのインスリンが含まれた培地に交換し、10日間分化を誘導した後、細胞中の滴(droplet)の生成を確認するために、オイルレッドO染色を行った。
【0061】
準備された3T3‐L1脂肪前駆細胞をPBSで洗浄した後、3.7%のホルマリンで1時間固定し、60%のイソプロパノールを用いて洗浄してからオイルレッドO溶液を処理し、室温で20分間染色した。染色後、オイルレッドO溶液を除去し、蒸留水で3回洗浄した後、染色された細胞を位相差顕微鏡で観察し、その結果を
図1aおよび
図1bに示した。また、定量分析のために、100%のイソプロパノールを用いて脂肪を抽出した後、96ウェルプレートに200ulずつ移し、ELISAリーダーで500nmでの吸光度を測定し、その結果を
図2に示した。
【0062】
図1aおよび
図1bから確認されるように、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した時に、細胞中における脂肪蓄積程度が減少することをオイルレッドO染色により確認することができた。
【0063】
また、
図2から確認されるように、ペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、細胞中における脂肪蓄積程度が減少することを確認することができた。
【0064】
1‐2.脂質生成に関与する遺伝子の発現の抑制
3X105細胞/ウェルの細胞密度で、6ウェルプレートに3T3‐L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度毎(0.1、1、10ug/ml)に処理し、37℃の培養器にて14日間培養した。培養が完了された細胞を回収した後、RNA抽出溶液(Easy Blue、Intron)を処理してRNAを準備し、RTプリミックス(Intron)を用いてcDNAを合成した。各標識因子(PPARγ、ACC、aP2)に対するプライマーとPCRプリミックス(Intron)を用いてPCRを行った。次に、1%のアガロースゲルにPCR産物を5ulずつローディングして電気泳動した後、Gel‐Docでバンドを確認し、その結果を
図3aおよび
図3bに示した。
【0065】
脂質生成標識因子PCRに用いられたターゲット‐特異的プライマー配列は、次のとおりである:
【0067】
図3aおよび
図3bから確認されるように、マウス骨芽細胞株3T3‐L1に、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理して3日間培養した結果、脂質生成標識因子であるaP2の発現が減少されることを観察することができた。
【0068】
また、
図4から確認されるように、マウス骨芽細胞株3T3‐L1に、ペプチド複合体を0.1ug/ml、1ug/ml、10ug/mlの濃度で処理して3日間培養した結果、脂質生成標識因子であるPPARγ、ACC、aP2の発現が、陽性対照群として100ng/mlのTNFαを処理した群とペプチド複合体処理群の何れでも減少していることを観察することができた。
【0069】
1‐3.脂肪前駆細胞を用いた脂質生成および分解誘導タンパク質発現の観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で、6ウェルプレートに3T3‐L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチド複合体を濃度毎(0.1、1、10ug/ml)に処理し、37℃の培養器にて14日間培養した。細胞溶解バッファーを処理して溶解物を確保した後、タンパク質を定量し、脂肪生成因子である抗‐PPARγ抗体(Santa Cruz Biotechnology、USA)と脂肪分解因子である抗‐pHSL 抗体(Santa Cruz Biotechnology、USA)を用いてウエスタンブロットを行った。
【0070】
図5から確認されるように、脂肪生成標識因子であるPPARγタンパク質の発現が、ペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、何れも濃度依存的に減少していることを観察することができ、脂肪分解標識因子であるpHSLタンパク質の発現量を観察した時に、ペプチド複合体処理群は何れも増加していることを観察することができた。
【0071】
実施例2:脂質分解活性の評価
2‐1.脂質分解に関与する遺伝子の発現増加
3X105細胞/ウェルの細胞密度で、6ウェルプレートに3T3‐L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度毎(0.1、1、10ug/ml)に処理し、37℃の培養器にて14日間培養した(陽性対照群:100ng/mlのTNFα(SIGMA))。培養が完了された細胞を回収した後、RNA抽出溶液(Easy Blue、Intron)を処理してRNAを準備し、RTプリミックス(Intron)を用いてcDNAを合成した。各標識因子(AMPK‐α1、CGI58)に対するプライマーとPCRプリミックス(Intron)を用いてPCRを行った。次に、1%アガロースゲルにPCR産物を5ulずつローディングして電気泳動した後、Gel‐Docでバンドを確認し、その結果を
図6に示した。
【0072】
脂質生成標識因子PCRに用いられたターゲット‐特異的プライマー配列は、次のとおりである:
【0074】
図6aおよび
図6bから確認されるように、脂肪前駆細胞(3T3‐L1)にペプチドを処理して培養した結果、脂質分解標識因子であるAMPK‐α1とCGI‐58の発現が、各ペプチド処理群の何れでも増加していることを観察することができた。
【0075】
また、
図6cから確認されるように、ペプチド複合体を処理した場合、AMPK‐α1とCGI‐58の発現が濃度依存的に増加することを確認することができ、陽性対照群である100ng/mlのTNFα処理群に比べても、脂肪分解因子の発現増加が高く現れることを観察することができた。
【0076】
2‐2.脂肪前駆細胞を用いた脂質分解誘導タンパク質発現の観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で、6ウェルプレートに3T3‐L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチド複合体を濃度毎(0.1、1、10ug/ml)に処理し、37℃の培養器にて14日間培養した(陽性対照群:100ng/mlのTNFα(SIGMA))。細胞溶解バッファーを処理して溶解物を確保した後、タンパク質を定量し、脂肪分解因子である抗‐ATGL抗体(Santa Cruz Biotechnology、USA)を用いてウエスタンブロットを行った。
【0077】
図7から確認されるように、脂肪分解因子であるATGLの発現がペプチド複合体によって増加することを確認することができた。
【0078】
2‐3.脂肪前駆細胞を用いた脂質分解誘導タンパク質発現の蛍光顕微鏡観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で、6ウェルプレートに3T3‐L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、各ペプチドまたはペプチド複合体(1ug/ml)を処理し、37℃の培養器にて14日間培養した(陽性対照群:100ng/mlのTNFα(SIGMA))。培養が完了された細胞を70%エタノールを用いて細胞を固定した後、抗‐Phospho‐HSL抗体(Santa Cruz Biotechnology、USA)を用いて細胞免疫染色法により脂肪分解誘導因子であるphospho‐HSLの細胞中の発現を観察した。
【0079】
図8aから
図8cから確認されるように、各ペプチド(
図8aおよび
図8b)およびペプチド複合体(
図8c)により、脂肪分解誘導因子であるphospho‐HSLの発現が増加することを確認することができた。
【0080】
2‐4.脂肪分解産物であるグリセロール量の測定
肥満誘導マウス動物の腹部から脂肪組織を採取した後、24ウェル培養プレートにウェル当たり100mgずつ脂肪組織を入れ、培養培地(1ml Krebs‐Ringer buffer containing 25mM HEPES、5.5mM glucose、and 2%(w/v) bovine serum albumin)に培養した。培養時に、ペプチド複合体を0.1ug/ml、1ug/ml、10ug/mlの濃度で処理し、陽性対照群として100ng/mlのTNFαを処理して、48時間培養した後、脂肪が分解されながら生じたグリセロールの量を測定した。
【0081】
図9から確認されるように、ペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂肪が分解されながら生じたグリセロールの量がペプチド複合体処理濃度依存的に増加することを観察することができた。陽性対照群であるTNFα処理群に比べて多量のグリセロールが検出されることを確認した。
【0082】
2‐5.肥満マウス分離脂肪組職に対する分解効果の確認
脂肪組織は、色によって白色脂肪(White Fat)、褐色脂肪(Brown Fat)に分けられ、部位によって皮下脂肪、腹膜脂肪、腸間膜脂肪(内臓脂肪)、および副睾丸脂肪に分けられる。解剖後に各脂肪を摘出して白色脂肪を分離した後、それぞれ100mg/ウェルの重量で、24ウェルプレートに複合剤を濃度毎に処理し、培養培地(1ml Krebs‐Ringer buffer containing 25mM HEPES、5.5mM glucose、and 2%(w/v) bovine serum albumin)で72時間培養してから組織を切片化してヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、200倍で顕微鏡(TS100、Nicon)観察して脂肪細胞の大きさを比較した。
【0083】
図10aから確認されるように、ペプチド複合体を濃度毎に処理した時に、脂肪細胞の大きさを比較した結果、脂肪細胞の大きさが対照群に比べて小さくなることを確認した。
【0084】
また、
図10bから確認されるように、染色後、脂肪細胞の大きさを測定するために、プログラムを用いて脂肪細胞の大きさを測定した結果、ペプチド複合体処理群で、明らかな細胞膜区画を有する脂肪組職中の細胞の大きさの減少が観察された。
【0085】
2‐6.脂肪組職に対する脂肪分解因子の観察
肥満誘導マウス動物の腹部から脂肪組織を採取した後、24ウェル培養プレートにウェル当たり100mgずつ脂肪組織を入れ、培養培地(1ml Krebs‐Ringer buffer containing 25mM HEPES、5.5mM glucose、and 2%(w/v) bovine serum albumin)に培養した。培養時に、ペプチド複合体を処理し、陽性対照群として100ng/mlのTNFαを処理して、48時間培養した後、脂肪分解因子であるphospho‐HSL(緑色蛍光物質)の発現を確認した。
【0086】
図11から確認されるように、脂肪組職における脂肪分解因子であるphospho‐HSLの発現を確認した結果、ペプチド複合体を処理した時に、脂肪分解因子であるphospho‐HSLの発現が増加していることを確認することができた。
【0087】
実施例3:実験動物を用いた脂肪生成抑制および脂肪分解促進の効果
正常C57BL/6マウスに高脂肪食餌をさせて誘導した肥満誘導モデルDIO(Diets induced obesity)を用いて抗肥満効能実験を行い、陽性対照群薬物として、5ug/mlのTNFαを使用した。対照群は、高脂肪食餌でなく一般食餌で進行した。実験は、高脂肪食餌を12週間進行しながら、それぞれペプチド複合体または陽性対照群を処理して体重の減少を確認した。
【0088】
TNFαおよび抗肥満効能化合物は、12週間毎週午後3時‐4時に、84日間強制的に腹腔注射した。体重と食餌量は、最初に薬物を投与する直前に測定し、その後、一週間隔で体重と食餌量を測定した。
【0089】
血糖は、薬物投薬実験の終了後、尾静脈から採血した後、アキュチェックアクティブ(Accu‐Check Active)(Roche)を用いて測定し、コレステロールも尾静脈から採血した血清をCholesterol calculation Kit(BioVision)を用いて分析した。
【0090】
脂肪組織は、色によって白色脂肪(White Fat)、褐色脂肪(Brown Fat)に分けられ、部位によって皮下脂肪、腹膜脂肪、腸間膜脂肪(内臓脂肪)、および副睾丸脂肪に分けられる。解剖後、各脂肪を摘出して観察し、組織学的検査のために、脂肪を10%の中性緩衝ホルマリンに固定した後、パラフィンブロックに包埋し、5umに区画してヘマトキシリン(Hematoxylin)とエオシン(eosin)で染色した。
【0091】
脂質分解因子であるHSLのリン酸化程度を確認するために、抗‐pHSL抗体を用いた蛍光染色を行った。組織サンプルを製作した後、グリセリンゼルマウンティングメディア(glycerine Jell mounting Media)でマウンティングし、カバーガラスを覆って顕微鏡(Nicon、TS100)で観察した。この際、顕微鏡に内蔵されているデジタルカメラで組織を撮影した。
【0092】
一般食餌を12週間したマウスは、実験初期に20.9g、12週後に28.74gの体重を示し、高脂肪食餌をしたマウスは、初期に20.99gであった体重が、12週後に49.5gまで増加することを確認した。しかし、高脂肪食と並行してペプチド複合体を処理した群では、初期に21.1gで、12週後には36.76gであって、高脂肪食餌のみを進行した対照群(235.8%)に比べて、高い体重減少(174.2%)が起こることを確認することができた(表4、表5、および
図12)。表4および表5は、肥満マウスモデルにペプチド複合体を処理した後、体重測定の結果をグラム(g)とパーセント(%)で示したものである。
【0095】
図13から確認されるように、12週間の実験が完了された動物の写真を測定した結果、ペプチド複合体処理群が、高脂肪食餌のみを進行した群に比べてマウスの体が正常マウス(一般食)と類似の大きさの体に維持されることを観察することができた。
【0097】
図14および表6から確認されるように、12週間の実験を進行したマウスに対し、マイクロ‐CT撮影をして全身に分布されている脂肪(黄色を呈している)を確認した結果、一般食餌を進行した対照群に比べて、高脂肪食餌を進行した対照群のマウスで、全身に分布されている脂肪の量が急激に増加していることを確認することができ、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群では、全身に分布されている脂肪の量が急激に減少していることを確認することができた。
【0098】
図15から確認されるように、上記のマイクロ‐CT撮影が終わったマウスを解剖し、全身に分布されている脂肪組職を採取して脂肪組職の量を観察した結果、一般食餌を進行した対照群に比べて、高脂肪食餌を進行した対照群のマウスで、脂肪の量が多いことを確認することができ、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群で、脂肪の量が急激に減少していることを確認した。
【0099】
図16aから確認されるように、脂肪を分離し、H&E染色により脂肪の大きさを観察した結果、高脂肪食餌対照群に比べて、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群で、脂肪の大きさが小さくなることを確認することができた。
【0100】
図16bおよび
図16cから確認されるように、脂肪の大きさをプログラムにより分析した結果、一般食餌対照群の脂肪の大きさを100%として計算したときに、高脂肪食餌対照群の脂肪の大きさは127%であって、脂肪の大きさが大きくなっていることを確認し、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群の脂肪の大きさは、97%に減少していることを確認した。
【0101】
図17から確認されるように、脂肪を分離し、脂肪組織中に発現されている脂肪分解因子であるPhospho‐HSLの発現量を確認した結果、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群で、phospho‐HSLの発現が増加していることを確認した。
【0102】
図18から確認されるように、実験が終わったマウスの血液中のコレステロールの量を確認した結果、一般食餌を進行した対照群のコレステロール量は2.52ug/ml、高脂肪食餌対照群のコレステロールの量は3.5ug/ml、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群では2.86ug/mlのコレステロールの量が検出されることを確認することができた。ペプチド複合体処理群で、肥満時に上昇するコレステロールの数値を低めることを確認することができた。
【0103】
図19から確認されるように、実験が終わったマウスの血液中の血糖の数値を確認した結果、一般食餌を進行した対照群のマウスの血糖は174mg/dL、高脂肪食餌対照群の血糖は235mg/dLであって、血糖数値が上昇することを確認することができ、高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群での血糖の数値は183mg/dLであって、一般食餌対照群と類似に血糖数値が減少していることを確認した。
【0104】
実施例4:血糖調節
本動物実験では、C57BL/6(正常マウス)((株)SAMTAKO)とC57BLKS/JLepr(糖尿病モデルマウス、db/dbマウス)((株)中央実験動物から購入)雄を使用し、抗糖尿病および/または抗肥満効能物質としては複合剤を使用し、陽性対照群薬物としてはシタグリプチン(sitagliptin)を使用した。
【0105】
本実施例では、正常マウスモデルと遺伝的に糖尿病の可能性があるモデルに対する急性抗糖尿病効能(単回投与)を、代表的な糖尿病診断検査方法であるGTT(Glucose Tolerance Test)方法により抗糖尿病および/または抗肥満効能複合剤に対して評価した。
【0106】
マウスの飼育環境の条件は、22〜24℃、相対湿度50〜30%と設定し、飼育箱当たり4匹ずつ飼育した。午前8時から午後8時まで150〜300ルクス(Lux)の照明を与え、一日に12時間点灯、12時間消灯した。飼料は、一般食餌(18%のタンパク質、2018、Harlan Laboratories Inc,USA製)を用いて自由摂取させ、ITT実験を行う前に4時間以上絶食させ、GTT実験を行う12時間前から絶食させた。GTT実験の1時間前に、複合剤をそれぞれ経口投与用使い捨て注射器を用いて強制経口投与し、GTT実験のために、実験0時間目に高脂肪食餌を40分間自由食餌させた。高脂肪自由食餌40分後に、それぞれ血液中のグルコースレベルの検査のために、0分、30分、60分、90分、120分、および180分間隔で尾静脈から採血し、アキュチェックアクティブ(Accu‐Chek active)(Roche)を用いて血糖レベルを測定した。一方、陽性対照群薬物としては、現在糖尿治療剤として用いられているシタグリプチン(sitagliptin)を選定し、100mg/kgの投与量で投与した。抗糖尿病および/または抗肥満効能候補物質として選定した複合剤を100mg/kgの投与量別に実験群を分け、各実験群当たり4匹のマウスを使用した。
【0107】
図20から確認されるように、高脂肪食餌により増加された血糖数値が、ペプチド複合体の処理によって減少する血糖減少効果が観察された。糖尿病誘発マウスモデルで糖尿病の高い血糖が減少されることを確認した。
【0108】
また、
図21から確認されるように、コレステロールの量が、高脂肪食餌の対照群に比べて高脂肪食餌とともにペプチド複合体を処理した群で低くなっていることを確認した。
【0109】
また、DB/DB糖尿病が誘導されたマウスを16時間空腹とした後、30分間食餌を与えてから、ペプチドを摂取させ、時間毎に血糖数値を測定し、
図22、
図23、表7、および表8に示した。
【0112】
図22、
図23、表7、および表8から確認されるように、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドを処理した群で、高血糖の数値が時間依存的に低くなることを観察した。
【0113】
実施例5:臨床実験による血糖減少効果の観察
空腹血糖170mg/dL以上の45〜65歳を対象として、簡易臨床実験を行った。空腹血糖を基準として、食後30分に複合製剤を摂取させ30、60、90、120、150、180分間隔で採血し、アキュチェックアクティブ(Accu‐Chek active)(Roche)により血糖レベルを測定し、
図24a〜
図24dに示した。
【0114】
図24a〜
図24dから確認されるように、実験結果、複合製剤による血糖減少がそれぞれの実験者で観察された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、抗肥満および抗糖尿病効能を有するペプチド、並びにその用途に関する。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]