特許第6875602号(P6875602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875602保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875602
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-522645(P2020-522645)
(86)(22)【出願日】2019年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2019021869
(87)【国際公開番号】WO2019230975
(87)【国際公開日】20191205
【審査請求日】2020年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2018-106475(P2018-106475)
(32)【優先日】2018年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度および平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業/研究開発項目(2) loT技術を活用した新たな産業保安システムの開発/各種データ(設備、運転、点検、テキスト、環境、熟練従業員のノウハウ等)の活用により保安を高度化するシステムの構築のうち、化学プラントにおける保温材下腐食発生予測モデルの高精度化と実証に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中原 正大
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−025497(JP,A)
【文献】 特開2018−017704(JP,A)
【文献】 特開2001−012698(JP,A)
【文献】 特開平08−178172(JP,A)
【文献】 特開平02−306135(JP,A)
【文献】 特開2006−201844(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300184(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第109115635(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得する取得部と、
前記取得部で取得したデータが含む属性に基づき、前記構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する減肉深さ予測部と、
前記取得部で取得したデータが含む初期板厚から前記減肉深さ予測部で算出した減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出する余裕肉厚算出部と、
予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって前記構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報記憶装置と、
前記確率情報記憶装置を参照し、前記複数の数値範囲のうちから、前記余裕肉厚算出部で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する確率指標取得部と、
前記確率指標取得部で取得した確率指標を出力する出力部と、を備える保全支援装置。
【請求項2】
前記データは、必要肉厚、または前記必要肉厚よりも大きく設定された肉厚を基準肉厚として含み、
前記確率情報記憶装置は、予め定められた複数の基準肉厚の候補値のそれぞれ毎に、前記複数の数値範囲と前記複数の確率指標とを記憶しており、
前記確率指標取得部は、前記確率情報記憶装置が記憶している、前記取得部で取得したデータが含む基準肉厚と同一の、または最も近い前記基準肉厚の候補値に対応する複数の数値範囲と複数の確率指標とを参照し、当該複数の数値範囲のうちから、前記余裕肉厚算出部で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する請求項1に記載の保全支援装置。
【請求項3】
前記減肉深さ予測部は、前記属性を基に前記減肉深さの予測値を算出する予測モデルを用いて、前記取得部で取得したデータが含む属性を基に前記減肉深さの予測値を算出し、
プラントの構造物の保温材下腐食による減肉深さの測定値、当該構造物の属性及び当該構造物の初期板厚を含む測定データを多数記憶している測定データ記憶装置と、
前記予測モデルを用いて、前記測定データ毎に、当該測定データが含む属性を基に前記減肉深さの予測値である、予測減肉深さを算出する予測減肉深さ算出部と、
前記測定データ毎に、当該測定データが含む初期板厚から、当該測定データに対応する予測減肉深さを減算した減算結果である、予測余裕肉厚を算出する予測値算出部と、
前記測定データ毎に、当該測定データが含む初期板厚から、当該測定データが含む減肉深さの測定値を減算した減算結果である、実余裕肉厚を算出する実余裕肉厚算出部と、
前記基準肉厚の候補値毎に、前記複数の数値範囲のそれぞれに対して、当該数値範囲に含まれる前記予測余裕肉厚に対応する前記実余裕肉厚のうちに、当該基準肉厚以下の前記実余裕肉厚が含まれる割合が、当該数値範囲に対応づけられている確率指標が示す確率と同一の数値となるように、前記複数の数値範囲を区分する境界値を設定する境界値設定部と、を備える請求項2に記載の保全支援装置。
【請求項4】
前記測定データ記憶装置が記憶している測定データが含む構造物の属性を説明変数とし、前記測定データが含む減肉深さの測定値を目的変数として、機械学習のアルゴリズムを用いて、前記説明変数と前記目的変数との関係を学習した前記予測モデルを導出する機械学習部を備える請求項3に記載の保全支援装置。
【請求項5】
前記確率指標は、前記確率を示すランク、または前記確率を示す数値であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の保全支援装置。
【請求項6】
コンピュータを、
プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得する取得部、
前記取得部で取得したデータが含む属性に基づき、前記構造物の保温材で覆われている部分の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する減肉深さ予測部、
前記取得部で取得したデータが含む初期板厚から前記減肉深さ予測部で算出した減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出する余裕肉厚算出部、
予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって前記構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報記憶装置を参照し、前記複数の数値範囲のうちから、前記余裕肉厚算出部で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する確率指標取得部、
及び前記確率指標取得部で取得した確率指標を出力する出力部として機能させるための保全支援用プログラム。
【請求項7】
プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得することと、
前記取得したデータが含む属性に基づき、前記構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出することとと、
前記取得したデータが含む初期板厚から前記減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出することと、
予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって前記構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報を参照することと、
前記複数の数値範囲のうちから、前記余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得することとと、
前記確率指標を出力することと、を含む、
保全支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等の決定を支援するための保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等の決定を支援するための技術としては、例えば、構造物の種類に応じた腐食速度の推定値と、構造物の使用期間及び初期板厚とから、構造物の寿命を推定する技術がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「化学プラントにおける断熱材下の外面腐食の実機検査結果の解析と発生可能性推定方法の検討」、材料と環境、59、291−297(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、構造物の寿命を推定できるものの、寿命に到達する確率、つまり構造物が使用不能状態となる確率を算出するという観点がなかった。それゆえ、構造物の保全方式や検査仕様等を適切に決定することが困難であった。
本発明は、上記のような点に着目し、プラントの構造物が使用不能状態となる確率を提示可能な保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、(a)プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得する取得部と、(b)取得部で取得したデータが含む属性に基づき、構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する減肉深さ予測部と、(c)取得部で取得したデータが含む初期板厚から減肉深さ予測部で算出した減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出する余裕肉厚算出部と、(d)予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報記憶装置と、(e)確率情報記憶装置を参照し、複数の数値範囲のうちから、余裕肉厚算出部で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する確率情報取得部と、(f)確率情報取得部で取得した確率指標を出力する出力部と、を備える保全支援装置であることを要旨とする。ここで、保温材下腐食とは、プラントの構造物(配管、熱交換器、塔、槽等)、例えば炭素鋼製もしくは低合金鋼製の構造物の保温材で覆われている部分に生じる腐食である。
【0006】
また、本発明の他の態様は、(a)コンピュータを、プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得する取得部、(b)取得部で取得したデータが含む属性に基づき、構造物の保温材で覆われている部分の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する減肉深さ予測部、(c)取得部で取得したデータが含む初期板厚から減肉深さ予測部で算出した減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出する余裕肉厚算出部、(d)予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報記憶装置を参照し、複数の数値範囲のうちから、余裕肉厚算出部で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する確率情報取得部、(e)及び確率情報取得部で取得した確率指標を出力する出力部として機能させるための保全支援用プログラムであることを要旨とする。
【0007】
また、本発明の他の態様は、(a)プラントの構造物の属性及び初期板厚を含むデータを取得することと、(b)前記取得したデータが含む属性に基づき、前記構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出することとと、(c)前記取得したデータが含む初期板厚から前記減肉深さの予測値を減算した減算結果である、余裕肉厚の予測値を算出することと、(d)予め定められた複数の数値範囲と、保温材下腐食によって前記構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標とを対応づけて記憶している確率情報を参照することと、(e)前記複数の数値範囲のうちから、前記余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得することとと、(f)前記確率指標を出力することと、を含む、保全支援方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、プラントの構造物が使用不能状態となる確率を提示可能な保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一態様に係る保全支援システムのハードウェアブロック図である。
図2】本発明の一態様に係る保全支援システムの機能ブロック図である。
図3】確率情報記憶領域に記憶された記憶情報の一例を示す図である。
図4】変形例に係る確率情報記憶領域に記憶された記憶情報を示す図である。
図5】測定データの内容の一例を示す図である。
図6】保全支援の対象となる構造物に関するデータの内容の一例を示す図である。
図7】ディスプレイの表示態様の一例を示す図である。
図8】確率情報出力処理を示すフローチャートである。
図9】予測モデルの一例を示すブロック図である。
図10】余裕肉厚の予測値を説明するための構造物の断面図である。
図11】確率情報の取得処理を説明するための図である。
図12】数値範囲設定処理を示すフローチャートである。
図13】予測余裕肉厚を説明するための構造物の断面図である。
図14】実余裕肉厚を説明するための構造物の断面図である。
図15】第1〜第3の境界値の設定方法を説明するための図であり、(a)は第1の境界値の設定方法を説明するための図であり、(b)は第2の境界値の設定方法を説明するための図であり、(c)は第3の境界値の設定方法を説明するための図であり、(d)は第1〜第4の数値範囲と第1〜第3の境界値との関係を説明するための図である。
図16】第1〜第3の境界値の設定方法を説明するための図である。
図17】保全システムの動作のシーケンスを示すフローチャートである。
図18】確率情報の取得手順を説明するための図であり、(a)は管理肉厚が「0mm」の場合を示す図であり、(b)は管理肉厚が「1mm」の場合を示す図である。
図19】保全システムの動作のシーケンスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る保全支援装置、保全支援用プログラム及び保全支援方法について、図面を参照しつつ説明する。本開示に係る保全支援装置は、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等の決定を支援する保全支援サービスを実施するための保全支援システムを構成している。構造物とは、例えば、保温材で覆われた配管、熱交換器、塔、槽である。後述するように、本開示に係る保全支援システムは、保全支援装置とサービス利用端末とを備える。保全支援装置は、サービス利用端末からデータを取得し、取得したデータを基に、構造物の保全や修理の必要性の程度を示す指標として、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示す確率情報を取得し、取得した確率情報を、データ送信元のサーバ利用者端末に送信する。
【0011】
また、本開示に係る保全支援装置は、予め収集された構造物の属性に関する情報、及び、腐食度合いに関する情報を含む測定データに基づいて、保全対象の構造物の腐食度合いを予測するための予測モデルを生成する。
【0012】
なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法や装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成要素の構造、配置等を、下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内で、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(構成)
図1図2に示すように、保全支援システム1は、保全支援装置2と、サービス利用端末3とを備えている。保全支援装置2及びサービス利用端末3は、インターネット等の通信路4を介して、互いに情報を送受信可能に構成されている。
【0014】
(保全支援装置)
保全支援装置2は、例えば、保全支援サービスのサービス提供者が所有しているサーバ装置である。保全支援装置2としては、例えば、Webサーバ(コンピュータ)を採用できる。
【0015】
図1に示すように、保全支援装置2は、記憶装置5及びプロセッサを含む演算装置6、及び、通信路4(ネットワーク)を介して他の装置(例えば、後述するサービス利用端末3)と情報の送受信を行う通信インタフェース(以下、「通信I/F」と称する。)30等のハードウェア資源を備えている。保全支援装置2は、演算装置6が、記憶装置5に記憶された所定のプロブラム及びデータに基づく情報処理を実行することにより、少なくとも保全対象物の腐食度合いを推定するように構成されている。本開示において、保全対象物の腐食の度合いとして、減肉深さを用いる。
演算装置6は、ハードウェアプロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)6a、RAM(Random Access Memory)6b、及び、ROM(Read Only Memory)6cを含む。演算装置6は、記憶装置5に記憶された所定のデータ及び所定のプログラムを用いた、特定の情報処理を実行する。なお、ハードウェアプロセッサとしては、CPUに限定されず、GPU、ASIC、FPGA等の各種プロセッサを用いることができる。
【0016】
記憶装置5は、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等のメモリにより構成される補助記憶装置である。記憶装置5は、演算装置6による特定の情報処理に必要な所定のプログラム、及び、所定のデータを記憶している。本開示において、記憶装置5は、演算装置6が保全支援処理、確率情報の生成処理、予測モデルの生成処理、等の所定の情報処理を実行するためのプログラム9、及び、確率情報7、測定データ10、学習結果データ35を記憶している。確率情報7、測定データ10、プログラム9、学習結果データ35のそれぞれは、記憶装置5の所定の領域、例えば、確率情報記憶領域、測定データ記憶領域及びプログラム記憶領域に分けて記憶されていてもよい。また、確率情報7、測定データ10、プログラム9、学習結果データ35のそれぞれが、別個に構成された確率情報記憶装置、測定データ記憶装置、プログラム記憶装置に、ぞれぞれ記憶されるように構成されていてもよい。
【0017】
なお、所定のデータ、及び、所定のプログラムは、常時記憶装置5に記憶されていなくてもよい。例えば、演算装置6が特定の情報処理を実行するときに、その一部または全部を、通信路4を介して他の装置から取得してもよい。また、所定のデータ、及び、所定のプログラムは、演算装置6が特定の情報処理を実行するときに、後述のドライブ31を介して記憶媒体32から読み込んでもよい。
【0018】
通信I/F30は、例えば、有線LANモジュール、無線LANモジュール等であり、通信路4を介して他の装置と有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。本開示において、通信I/Fは、通信路4を介して、後述のサービス利用端末3及び他の装置(図示せず)から所定のデータ等を受信するように構成されている。
【0019】
保全支援装置2は、入力装置33、表示装置(出力装置)34をさらに備えていてもよい。入力装置33としては、マウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。また、表示装置(出力装置)34としてはディスプレイ、スピーカ等を用いることができる。また、保全支援装置2は、CDドライブ、DVDドライブ等の、記憶媒体32に記憶されたデータ及びプログラムを読み込むためのドライブ31をさらに備えていてもよい。
【0020】
確率情報記憶領域には、後述する保全支援処理に用いられる確率情報7が記憶されている。本開示において、確率情報7は、基準肉厚の候補値、腐食が生じたときの肉厚の予測値が取り得る数値範囲、構造物の保全や修理の必要性の程度を示す指標としての確率、を含む。
【0021】
基準肉厚は、保全対象の構造物が満たすべき肉厚(板厚)であって、保全支援処理におけるリスクの算出の前に予め定められたパラメータである。本開示において、基準肉厚は、一又は複数の候補値として設定される。複数の候補値は互いに異なるように設定される。基準肉厚の候補値は、例えば、後述する必要肉厚または管理肉厚に基づいて定めることができる。
【0022】
必要肉厚とは、例えば、法規制や準拠すべき規格により定められた肉厚の値である。法規制や準拠すべき規格としては、例えば、運転時における構造物の内部の圧力等に応じ、構造物に必要とされる肉厚が定められている法規制や規格が挙げられる。管理肉厚は、プラントの構造物を管理する保全主体が任意に設定する肉厚である。管理肉厚は、必要肉厚を用いてもよく、必要肉厚にある一定の値を加えたり、安全率を乗算したり等して、必要肉厚よりも大きい値に設定されてもよい。管理肉厚は、例えば、延性破壊の生ずる肉厚である必要肉厚や、構造物の補修の是非を判断するためにプラントの管理者が必要肉厚よりも安全側に(厚く)規定した肉厚を採用できる。
【0023】
確率情報記憶領域は、確率情報7として、図3に示すように、予め定められた複数の数値範囲b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7、b8を、基準肉厚の候補値a1、a2と対応づけて記憶している。本開示において、複数の数値範囲b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7、b8は、保温材下腐食の進行によっても残存する肉厚(余裕肉厚)の予測値(予測余裕肉厚)の数値範囲であるが、これに限定されない。予測余裕肉厚の算出は、予め収集された測定データによって生成される予測モデルを用いて行われる。ここで、本開示において、複数の数値範囲b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7、b8のそれぞれは、同一の予測モデルを用いて設定される値である。予測余裕肉厚の算出方法は、図10等を用いて後述する。
【0024】
図3では、基準肉厚の候補値a1、a2として、「0mm」、「1mm」が用いられている。また数値範囲b1〜b8は、図10に示した余裕肉厚の予測値が取り得る範囲を区分する数値範囲である。
【0025】
また、確率情報記憶領域には、構造物の保全、修理の必要性の程度を示す指標が記憶されている。本開示において、確率情報記憶領域は、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標c1、c2、c3、c4、c5、c6、c7、c8を、保全、修理の必要性の程度を示す指標として記憶している。確率指標c1、c2、c3、c4、c5、c6、c7、c8は、基準肉厚及び複数の数値範囲と対応づけられ、記憶されている。
【0026】
確率指標c1〜c8としては、例えば、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示すランク(例えば、「A」「B」「C」「D」)を採用できる。ランク「A」は確率「0.1%未満」を示し、ランク「B」は確率「0.1%以上1%未満」を示し、ランク「C」は確率「1%以上10%未満」を示し、ランク「D」は確率「10%以上」を示すものとする。すなわち、ランク「A」「B」「C」「D」のうち、ランク「A」からランク「D」に向けて、順に、構造物が使用不能状態となる確率が高くなることを示す。
【0027】
また、複数の数値範囲b1〜b8と、複数の確率指標c1〜c8とは、互いに対応づけられている。図3では、数値範囲b1に確率指標c1が対応づけられ、以下同様に、数値範囲b2に確率指標c2が対応づけられ、数値範囲b3に確率指標c3が対応づけられ、数値範囲b4に確率指標c4が対応づけられ、数値範囲b5に確率指標c5が対応づけられ、数値範囲b6に確率指標c6が対応づけられ、数値範囲b7に確率指標c7が対応づけられ、数値範囲b8に確率指標c8が対応づけられている。
【0028】
なお、本開示に係る保全支援装置2では、図3に示すように、確率指標c1〜c8として、使用不能状態となる確率を示すランク(「A」「B」「C」「D」)を用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、図4に示すように、確率指標c1〜c8として、使用不能状態となる確率を示す数値(例えば、「0.1%未満」「0.1%以上1%未満」「1%以上10%未満」「10%以上」)を用いてもよい。
また、数値範囲b1〜b8は、後述する数値範囲設定処理によって設定される。
【0029】
これによれば、基準肉厚の候補値の値が大きいことは、保全対象の構造物に対して、保全や修理が必要な条件を厳しく設定していること、換言すると、より安全側に設定しているすることを示す。これにより、余裕肉厚の予測値(予測余裕肉厚)の数値が相対的に大きい場合でも、使用不能状態となる確率は同等またはそれよりも高く設定されることになる。例えば、図3及び図4に示すように、基準肉厚の候補値a1(「0」)と、基準肉厚の候補値a2(「1」)とは、候補値a2の方が厳しい条件である。ここで、候補値a1の予測余裕肉厚の数値範囲b4は「0〜2mm」であり、候補値a2の予測余裕肉厚の数値範囲b8は「0〜4mm」であり、かつ、いずれの数値範囲に対しても、確率指標はランクD(10%以上)が対応づけられている。すなわち、基準肉厚の候補値a2は、候補値a1と比較して保全や修理が必要な条件を相対的に厳しく設定しており、これにより、候補値a1に対応する予測余裕肉厚の数値範囲b4よりも大きな値を含む数値範囲b8に対して、同じ確率指標であるランクD(10%以上)が対応づけられている。
【0030】
測定データ記憶領域には、図5に示すように、プラントの構造物の保温材下腐食による減肉深さの測定値d、その構造物の属性e1、e2、…、及びその構造物の初期板厚fを含む測定データ10が多数記憶されている。構造物の属性とは、プラントの構造物の特徴を示す何らかの情報であって、腐食度合い(発生確率、進行速さ、腐食深さ等)を変動させる因子となる情報である。構造物の属性e1、e2、…としては、例えば、構造物の使用期間及び温度等の数値属性、構造物の種類、環境(海からの距離、冷水塔からの距離、年間降雨量等)、塗装有無及び塗装種類、並びに保温材の種類等の質的属性の少なくともいずれかを用いることができる。また、初期板厚fとしては、例えば、保温材下腐食がされる前の構造物の実測肉厚を用いることができる。また、例えば、設計図に記載されている構造物の公称肉厚を採用することができる。
【0031】
測定データ10は、種々のプラントの検査の際に取得されたデータである。なお、後述する測定データ10を用いる情報処理の開始後に、測定データ10を取得するために種々のプラントで検査を行うことは可能ではある。しかしながら、多量のデータを種々のプラントでの検査により短期間で収集することは、困難な場合が多い。したがって、種々のプラントにおける過去の検査時に取得したデータを、後述する情報処理の開始前に、予め収集し、記憶装置5に記憶しておくことが好ましい。
また、測定データ記憶領域は、サービス利用端末3等から、測定データ10を随時収集し、記憶している測定データ10の総数を継続的に増加させるように構成されている。
プログラム記憶領域には、プロセッサが実行可能な保全支援プログラムを記憶している。また、記憶装置5は、上述のように、保全支援プログラムの実行に必要な各種データを記憶している。
【0032】
演算装置6は、サービス利用端末3から送信され、保全支援の対象物である構造物のデータ16と、プログラム記憶領域に記憶された確率情報の出力用の保全支援プログラムとを用いて、保全支援処理を実行する。これにより、取得部11、減肉深さ予測部12、余裕肉厚算出部13、確率指標取得部14、出力部15等が実現される。なお、前述のように、データ16は、サービス利用端末3等の他の装置から通信路4を介して受信するだけでなく、保全支援装置2に対して、例えば、ドライブ31を用いて記憶媒体から読み込んだり、また、例えば、入力装置33を用いて直接入力されてもよい。
【0033】
サービス利用端末3から送信され、保全支援の対象物である構造物のデータであって、当該構造物が使用不能状態となるか否かの判定用のデータ16は、保全対象物の属性に関するデータを含む。したがって、データ16は、測定データ10と異なり、減肉深さが未知である構造物のデータである。データ16は、例えば、図6に示すように、プラントの構造物の属性g1、g2、…、初期板厚h、及び、基準肉厚として管理肉厚iを含む情報群を採用できる。管理肉厚iとしては、例えば、プラントの構造物の内部圧力がほとんどない場合には、「0mm」を用いることができる。また、例えば、構造物の内部圧力がある場合には、管理肉厚として、「1mm」を用いることができる。
【0034】
演算装置6は、記憶装置5、通信I/F30等の他のハードウェア資源と協働して確率情報出力処理を実行することで、取得部11、減肉深さ予測部12、余裕肉厚算出部13、確率指標取得部14、出力部15等を実現する。確率情報出力処理の詳細については後述する。
【0035】
また、演算装置6は、図3に示した数値範囲b1〜b8の設定・更新の指示と、数値範囲b1〜b8の設定用の保全支援プログラムとを用いて、数値範囲設定処理を実行する。これにより、機械学習部17、予測減肉深さ算出部18、予測値算出部19、実余裕肉厚算出部20、境界値設定部21等が実現される。数値範囲b1〜b8の設定・更新の指示は、サービス提供者、または、サービス利用者が、保全支援装置2の入力装置33を操作したり、保全支援装置2と通信路4を介して接続された他の装置を操作したりすることにより行われる。
【0036】
演算装置6は、記憶装置5、通信I/F30等の他のハードウェア資源と協働して数値範囲設定処理を実行することで、予測減肉深さ算出部18、予測値算出部19、実余裕肉厚算出部20、境界値設定部21等を実現する。数値範囲設定処理の詳細については後述する。
【0037】
(サービス利用端末)
サービス利用端末3は、保全支援サービスのサービス利用者が利用する端末装置である。サービス利用端末3としては、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等を用いることができる。サービス利用端末3は、キーボードやマウス、タッチパネル等の入力装置22、各種情報の出力装置の一例として、各種情報を表示するディスプレイ(表示装置)23、記憶装置24、プロセッサ(図示せず)を有する演算装置25、通信路4(ネットワーク)を介して他の装置(例えば、後述するサービス利用端末3)と情報の送受信を行う通信インタフェース(以下、「通信I/F」と称する。)42等のハードウェア資源を備えている。
【0038】
記憶装置24は、演算装置25で実行可能な1または2以上のプログラムを記憶している。さらに、記憶装置24は、プログラムの実行に必要な各種データを記憶する。演算装置25は、保全支援装置2に設けられた演算装置6と同様の構成としてよい。また、演算装置6は、演算処理の種別等に応じて、種々のプロセッサを用いて構成してよい。また、記憶装置24は、保全支援装置2に設けられた記憶装置5と同様の構成としてよい。また、通信I/F42は、保全支援装置2に設けられた通信I/Fと同様の構成としてよい。なお、サービス利用端末3は、CDドライブ、DVDドライブ等の、記憶媒体41に記憶されたデータ及びプログラムを読み込むためのドライブ40をさらに備えていてもよい。
【0039】
演算装置25は、他のハードウェア資源と協働して、サービス利用端末3に対する、保全支援サービスの利用を要求する操作を検出し、記憶装置24からプログラムを読み出して実行する。これにより、データ送信部26及び確率情報表示部27、データ受信部28、取得部29等が実現される。
【0040】
取得部29は、確率指標c1〜c8を得たいプラントの構造物の属性g1、g2、…、初期板厚h及び基準肉厚としての管理肉厚iを含むデータ16の入力を受け付ける。データ16は、サービス利用者が入力装置22を用いて入力する。データ16に含まれる基準肉厚に関する情報は、確率指標c1〜c8を得たいプラントの構造物の保全主体が任意に瀬一定し得る、当該構造物に許容される肉厚(以下、「許容肉厚」と称する)に関する情報である。
【0041】
データ送信部26は、入力されたデータ16を、通信I/F42を介して保全支援装置2に送信する。なお、データ16は、例えば、ドライブ40を介して記憶媒体41から読み込まれてもよい。
【0042】
データ受信部28は、保全支援装置2から送信される確率指標c1〜c8を、通信I/F42を介して受信する。
【0043】
確率情報表示部27は、図7に示すように、受信した確率指標c1〜c8をディスプレイ23に表示させる。これにより、確率指標c1〜c8をサービス利用者に提示することができる。
【0044】
(確率情報出力処理)
次に、取得部11、減肉深さ予測部12、余裕肉厚算出部13、確率指標取得部14、出力部15等が実行する確率情報出力処理について説明する。前述のように、確率情報を出力する処理は、保全支援装置2の演算装置6が、所定のデータ及び所定のプログラムに基づく特定の情報処理を実行することにより、取得部11、減肉深さ予測部12、余裕肉厚算出部13、確率指標取得部14、出力部15等を実現することで達成される。
【0045】
図8に示すように、ステップS101でデータを取得する処理を行う。ステップS101では、取得部11が、サービス利用端末3から送信されるデータ16(構造物の属性g1、g2、…、初期板厚h、管理肉厚i)を取得する。
【0046】
続いてステップS102に移行して、減肉深さの予測値を算出する処理を行う。ステップS102では、減肉深さ予測部12が、ステップS101で取得したデータ16が含む属性g1、g2、…に基づき、構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する。減肉深さの予測値の算出方法としては、例えば、図9に示すように、構造物の属性g1、g2、…を基に保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する予測モデル50を使用する方法を用いることができる。予測モデル50としては、例えば、記憶装置5が記憶している測定データ10を基に、機械学習で導出されたモデルを採用できる。
【0047】
続いてステップS103に移行して、余裕肉厚の予測値を算出する処理を行う。ステップS103では、余裕肉厚算出部13が、図10に示すように、ステップS101で取得したデータ16が含む初期板厚hから、ステップS102で算出した減肉深さの予測値を減算した減算結果(以下、「余裕肉厚の予測値」と称する。)を算出する。図10には、構造物が配管である場合の「初期板厚」、「減肉深さの予測値」、「余裕肉厚の予測値」が図示されている。
【0048】
続いてステップS104に移行して、確率情報を取得する処理を行う。ステップS104では、確率指標取得部14が、記憶装置5を参照し、複数の数値範囲b1〜b8のうちから、ステップS103で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定する。具体的には、まず図11に示すように、記憶装置5から、ステップS101で取得したデータ16が含む基準肉厚としての管理肉厚iと同一の基準肉厚の候補値a1(またはa2)に対応する複数の数値範囲b1〜b4(またはb5〜b8)と複数の確率指標c1〜c4(またはc5〜c8)とを読み出す(ステップS201)。続いて、読み出した複数の数値範囲b1〜b4(またはb5〜b8)と複数の確率指標c1〜c4(またはc5〜c8)とを参照し、その複数の数値範囲b1〜b4(またはb5〜b8)のうちから、ステップS103で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)を特定する(ステップS202)。続いて、特定した数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に対応づけられている確率指標c1(またはc2〜c8の何れか)を取得する(ステップS203)。図11には、データ16が含む基準肉厚としての管理肉厚iが「0mm」であり、余裕肉厚の予測値が「3mm」である場合が図示されている。
【0049】
続いてステップS105に移行して、確率情報を出力する処理を行う。ステップS105では、出力部15が、ステップS104で取得した確率指標c1(またはc2〜c8の何れか)を、データ16の送信元のサービス利用端末3に出力(送信)した後、この確率情報出力処理を終了する。なお、前述のように、確率情報の出力は、保全支援装置2が有する出力装置34に対して行われてもよい。
【0050】
(数値範囲設定処理)
次に、機械学習部17、予測減肉深さ算出部18、予測値算出部19、実余裕肉厚算出部20、境界値設定部21等が実行する数値範囲設定処理について説明する。前述のように、数値範囲を設定する処理は、保全支援装置2の演算装置6が、所定のデータ及び所定のプログラムに基づく特定の情報処理を実行することにより、機械学習部17、予測減肉深さ算出部18、予測値算出部19、実余裕肉厚算出部20、境界値設定部21等を実現することで達成される。
図12に示すように、ステップS301で予測モデル50を生成する処理を行う。本開示において、ステップS301では、機械学習部17が、記憶装置5が記憶している多数の測定データ10に基づき、予測モデル50を生成する。予測モデル50の生成方法としては、例えば、機械学習のアルゴリズムに基づく方法を採用できる。
【0051】
具体的には、まず、測定データ10が含む構造物の属性e1、e2、…を説明変数とし、測定データ10が含む減肉深さの測定値dを目的変数として、機械学習のアルゴリズムを用いることで、説明変数と目的変数との関係を学習した予測モデル50を導出する。すなわち、機械学習部17は、特定の構造物の属性e1、e2、…と、属性e1、e2、…に対応づけられた当該特定の構造物の減肉深さの測定値dと、の組が複数含まれる訓練データ(学習データ)を用いた機械学習により、予測モデル50を生成する。訓練データは、測定データ10に基づいて生成することができる。
【0052】
予測モデル50(学習器)としては、予測精度が高く、ソースコードの公開されているモデルを利用して機械学習を行うことが好ましい。例えば、予測モデル50として、ニューラルネットワークを用いることができる。学習器の一例であるニューラルネットワークは、入力側から順に、入力層、中間層(隠れ層)、出力層を備える。なお、中間層は1層に限られず、2層以上の中間層を備えていてよい。
【0053】
各層は、それぞれ一又は複数のニューロンを備えている。例えば、入力層のニューロンの数は、学習器に入力される構造物の属性e1、e2、を示す情報の種別数に応じて、適宜設定することができる。入力層の一又は複数のニューロンに入力される値は、属性e1、e2、…の種類により適宜設定される。例えば、属性e1、e2、…が構造物の使用期間や使用温度等、数値で表現される属性である場合には、当該数値を入力層のニューロンに入力することができる。また、属性e1、e2、…が構造物の種類、環境等の数値で表現されない属性である場合には、これを予め定めた一定の法則で数値化し、当該数値を入力層のニューロンに入力することができる。例えば、属性e1、e2、…が構造物の種類を示し、構造物の種類として、配管、熱交換機、塔、槽が含まれる場合、配管、熱交換機、塔、槽のそれぞれに互いに異なる数値を対応づけて、当該数値を入力層のニューロンに入力する。例えば、配管は1、熱交換機は2、塔は3、槽は4、とする。中間層のニューロンの数は、予測モデル50が出力すべき減肉深さの予測値の予測精度、予測に係る処理速度、予測モデル50の学習にかかる時間等に応じて適宜設定することができる。出力層は、例えば、減肉深さの予測値を数値として出力する単一のニューロンによって構成されてよい。また、出力層に複数のニューロンを設けてもよい。例えば、各ニューロンに対して、互いに異なる減肉深さの数値幅を対応づけ、各ニューロンは、当該対応づけられた数値幅となり得る確率を出力するようにしてもよい。この場合、予測モデル50は、各ニューロンに対応づけられた減肉深さの数値幅及び確率とから算出される平均値を出力するように構成してよい。
【0054】
各ニューロンには閾値が設定され、基本的には各入力と各重みとの積の和が閾値を超えているか否かによって各ニューロンの出力が決定される。機械学習部17は、訓練データに含まれる、属性e1、e2、…と減肉深さの測定値dとの組を読み出す。機械学習部17は、属性を入力すると、減肉深さの測定値dに対応する出力値を出力するように学習器を学習させ、予測モデル50を生成する。
【0055】
このようなニューラルネットワークの構成(例えば、ニューラルネットワークの層数、各層におけるニューロンの個数、ニューロン同士の結合関係、各ニューロンの伝達関数)、各ニューロン間の結合の重み、各ニューロンの閾値を示す情報は、学習結果データとして、記憶装置5に記憶される。
【0056】
続いてステップS302に移行して、予測減肉深さを算出する処理を行う。本開示において、ステップS302では、予測減肉深さ算出部18が、予測モデル50を用いて、記憶装置5が記憶している測定データ10毎に、その測定データ10が含む属性e1、e2、…を基に減肉深さの予測値(以下、「予測減肉深さ」と称する。)を算出する。具体的には、まず、予測減肉深さ算出部18が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10を1つ読み出す。続いて、読み出した測定データ10が含む属性e1、e2、…に基づき、予測モデル50を用いて、減肉深さの予測値(予測減肉深さ)を算出する。そして、このような「測定データ10の読み出し」→「予測減肉深さの算出」のフローを、残りの全ての測定データ10に繰り返し実行する。
【0057】
続いてステップS303に移行して、余裕肉厚の予測値を算出する処理を行う。本開示において、ステップS303では、予測値算出部19が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10毎に、図13に示すように、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10に対応する予測減肉深さを減算した減算結果である余裕肉厚の予測値(以下「予測余裕肉厚」と称する。)を算出する。具体的には、まず、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10を1つ読み出す。続いて、読み出した測定データ10(以下、「読出データ」と称する。)に含まれる初期板厚fから、その読出データ(測定データ10)を基にステップS302で算出された予測減肉深さを減算して、予測余裕肉厚を算出する。そして、このような「測定データ10の読み出し」→「予測余裕肉厚の算出」のフローを、残りの全ての測定データ10に繰り返し実行する。図13には、構造物が配管である場合の「予測減肉深さ」「予測余裕肉厚」等が図示されている。
【0058】
続いてステップS304に移行して、測定値に基づいて算出される余裕肉厚の実際値を算出する処理を行う。本開示において、ステップS304では、実余裕肉厚算出部20が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10毎に、図14に示すように、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10が含む減肉深さの測定値dを減算した減算結果である余裕肉厚の実際値(以下、「実余裕肉厚」と称する。)を算出する。具体的には、まず、実余裕肉厚算出部20が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10を1つ読み出す。続いて、読み出した測定データ10が含む初期板厚fから、測定データ10が含む減肉深さの測定値dを減算して実余裕肉厚を算出する。そして、このような「測定データ10の読み出し」→「実余裕肉厚の算出」のフローを、残りの全ての測定データ10に繰り返し実行する。図14には、構造物が配管である場合の「減肉深さの測定値」「実余裕肉厚」等が図示されている。
【0059】
続いてステップS305に移行して、複数の数値範囲及び確率情報を設定する処理を行う。本開示において、ステップS305では、境界値設定部21が、確率情報記憶領域に記憶されている複数の数値範囲b1〜b8を設定する。前述のように、本開示において、複数の数値範囲b1〜b8は、予測余裕肉厚の数値範囲を示す。具体的には、まず基準肉厚の候補値a1、a2毎に、複数の数値範囲b1〜b8のそれぞれに対して、その数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に含まれる予測余裕肉厚に対応する実余裕肉厚のうちに、その候補値a1(またはa2)以下の実余裕肉厚が含まれる割合が、数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に対応づけられている確率指標c1(またはc2〜c8の何れか)が示す確率(「0.1%未満」「0.1%以上1%未満」「1%以上10%未満」「10%以上」等)と同一の数値となるように複数の数値範囲b1〜b8を区分する境界値を設定する。
【0060】
ここで、図15(d)に示すように、数値範囲b1(以下、「第1の数値範囲b1」と称する。)と数値範囲b2(以下、「第2の数値範囲b2」と称する。)との間の第1の境界値j、第2の数値範囲b2と数値範囲b3(以下、「第3の数値範囲b3」と称する。)との間の第2の境界値k、第3の数値範囲b3と数値範囲b4(以下、「第4の数値範囲b4」と称する。)との間の第3の境界値lの設定手順について説明する。まず第1の境界値jとして仮の数値を設定する。続いて、図15(a)に示すように、ステップS303で算出した予測余裕肉厚のうちから、仮に設定した第1の境界値jを基に定まる第1の数値範囲b1に含まれる予測余裕肉厚を特定する。続いて、ステップS304で算出した実余裕肉厚のうちから、特定した予測余裕肉厚に対応する実余裕肉厚を特定する。
【0061】
実余裕肉厚の特定方法としては、例えば、予測余裕肉厚を算出した条件におけるCUI減肉深さより、実余裕肉厚を算出する。続いて、特定した実余裕肉厚のうちに、選択した管理肉厚(0mm)以下の実余裕肉厚が含まれる割合を算出する。続いて、算出結果を考慮して、算出される割合が「0.1%」に近づくように、第1の境界値jを変更する。言い換えると、図16に示すように、特定した実余裕肉厚の累積確率を近似直線51で表したときに、近似直線51において実余裕肉厚を、選択した管理肉厚(0mm)と同じ値としたときの累積確率の値が「0.1%」に近づくように第1の境界値jを変更する。そして、このような「予測余裕肉厚の特定」→「実余裕肉厚の特定」→「境界値の変更」のフローを繰り返し実行し、算出される割合が「0.1%」となる第1の境界値jを求める。
【0062】
続いて、第2の境界値kとして仮の数値を設定する。続いて、図15(b)に示すように、ステップS303で算出した予測余裕肉厚のうちから、第1の境界値jと、仮に設定した第2の境界値kとを基に定まる第2の数値範囲b2に含まれる予測余裕肉厚を特定する。続いて、ステップS304で算出した実余裕肉厚のうちから、特定した予測余裕肉厚に対応する実余裕肉厚を特定する。続いて、特定した実余裕肉厚のうちに、選択した管理肉厚(0mm)以下の実余裕肉厚が含まれる割合を算出する。続いて、算出結果を考慮して、算出される割合が「1%」に近づくように、第2の境界値kを変更する。言い換えると、図16に示すように、特定した実余裕肉厚の累積確率を近似直線52で表したときに、近似直線52において実余裕肉厚を、選択した管理肉厚(0mm)と同じ値としたときの累積確率の値が「1%」に近づくように、第2の境界値kを変更する。そして、このような「予測余裕肉厚の特定」→「実余裕肉厚の特定」→「境界値の変更」のフローを繰り返し実行し、算出される割合が「1%」となる第2の境界値kを求める。
なお、図16において、実余裕肉厚に負値が含まれているのは、初期板厚fとして公称肉厚が入力されたが、実際の構造物の肉厚が公称肉厚よりも厚かったためと考えられる。
【0063】
続いて、第3の境界値lとして仮の数値を設定する。続いて、図15(c)に示すように、ステップS303で算出した予測余裕肉厚のうちから、第2の境界値kと、仮に設定した第3の境界値lとを基に定まる第3の数値範囲b3に含まれる予測余裕肉厚を特定する。続いて、ステップS304で算出した実余裕肉厚のうちから、特定した予測余裕肉厚に対応する実余裕肉厚を特定する。続いて、特定した実余裕肉厚のうちに、選択した管理肉厚(0mm)以下の実余裕肉厚が含まれる割合を算出する。続いて、算出結果を考慮して、算出される割合が「10%」に近づくように第3の境界値lを変更する。言い換えると、図16に示すように、特定した実余裕肉厚の累積確率を近似直線53で表したときに、近似直線53において実余裕肉厚を、選択した管理肉厚(0mm)と同じ値としたときの累積確率の値が「10%」に近づくように、第3の境界値lを変更する。そしてこのような「予測余裕肉厚の特定」→「実余裕肉厚の特定」→「境界値の変更」のフローを繰り返し実行し、算出される割合が「10%」となる第3の境界値lを求める。
【0064】
このような手順により、図15(d)に示すように、数値範囲b1〜b4を区分する第1の境界値j、第2の境界値k及び第3の境界値lを設定することができる。
なお、数値範囲b5〜b8の境界値についても、同様の手順を用いて設定できる。
続いて、境界値設定部21が、設定した境界値を基に、数値範囲b1〜b8を設定して記憶装置5に記憶させた後、この数値範囲設定処理を終了する。なお、記憶装置5に既に数値範囲b1〜b8が記憶されている場合には、新しく求めた数値範囲b1〜b8を、記憶装置5が記憶している数値範囲b1〜b8に上書きする。
【0065】
ステップ305に示す数値範囲及び確率指標を設定する処理は、換言すると、以下のように表現できる。
【0066】
数値範囲及び確率情報を設定する処理の前に、ステップS301〜S304に示すように、測定データ10について、実余裕肉厚と予測余裕肉厚とを算出する。なお、実余裕肉厚及び予測余裕肉厚の算出は、すべての測定データ10に対して行われなくてもよく、確率情報7を生成するのに十分な量の測定データ10について、実余裕肉厚及び予測余裕肉厚の算出を行えばよい。例えば、1000個の測定データ10について実余裕肉厚及び予測余裕肉厚の算出を行い、算出された実余裕肉厚及び予測余裕肉厚に基づいて確率情報7を生成することができる。
【0067】
算出された実余裕肉厚と予測余裕肉厚との組が複数含まれるデータ群を、所定の条件が満たされるように、予測余裕肉厚の数値範囲によって複数に区分する。データ群を区分する当該複数の数値範囲を、確率情報7の複数の数値範囲として設定する。ここで、所定の条件とは、ある数値範囲で区分けされたデータ群に占める、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値以下であるデータの割合が、確率指標に規定する予め定められた所定の基準を満たすことである。所定の基準には、前述のように、確率、ランク等の定量的、または、定性的な基準を適宜採用することができる。
【0068】
例えば、予測余裕肉厚についての第1の数値範囲b1は、当該第1の数値範囲b1によって区分された第1のデータ群に占める、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値(例えば、0mm)以下であるデータの割合が、第1の基準(例えば、0.1%未満)となるような数値範囲に設定される。図15に示すように、当該第1の数値範囲b1は、例えば、8mm以上である。
【0069】
また、予測余裕肉厚についての第2の数値範囲b2は、当該第2の数値範囲b2によって区分された第2のデータ群に占める、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値(例えば、0mm)以下であるデータの割合が、第2の基準(例えば、0.1%以上1%未満)となるような数値範囲に設定される。図15に示すように、当該第2の数値範囲b2は、例えば、5mm以上8mm未満である。
【0070】
以下同様に、第3の数値範囲b3及び第4の数値範囲b4が設定される。すなわち、第3の数値範囲b3は、当該第3の数値範囲b3によって区分された第3のデータ群に占める、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値(例えば、0mm)以下であるデータの割合が、第3の基準(例えば、1%以上10%未満)となるような数値範囲に設定される。また、第4の数値範囲d4は、当該第4の数値範囲d4によって区分された第4のデータ群に占める、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値(例えば、0mm)以下であるデータの割合が、第4の基準(例えば、10%以上)となるような数値範囲に設定される。図15によれば、第3の数値範囲d3は2mm以上5mm未満であり、第4の数値範囲d4は0mm以上2mm未満である。
【0071】
上述のように、予測余裕肉厚についての複数の数値範囲、及び、当該数値範囲を規定する境界値が設定される。これを、一又は複数の基準肉厚の候補値に対して行う。
【0072】
すなわち、本開示においては、プラント構造物が使用不能状態となる可能性の高さを示す指標として、実余裕肉厚が基準肉厚の候補値以下となるデータの割合を確率指標として用いている。
【0073】
ここで、複数の数値範囲は、プラント構造物が使用不能状態となる可能性の高さを示す指標が、順に増大(または減少)するように設定されることが好ましい。なお、前述のように、確率指標に規定する予め定められた所定の基準は、その数値の種別、及び、表示形式は特に限定されない。例えば、図3に示すように、所定の基準を定性的なランクとして表示してもよく、また、図4に示すように、確率として表示してもよい。また、本開示では、データ群を4つの数値範囲により区分することとしたが、その個数は特に限定されない。さらに、隣接する数値範囲及び確率指標の値は、一部が重複していてもよい。
【0074】
(動作その他)
次に、本開示に係る保全支援システム1における、保全支援サービスの提供時の動作を説明する。以下、基準肉厚として、管理肉厚iを用いた例を示す。
まず、サービス利用者が、サービス利用端末3を操作し、図17に示すように、サービス利用端末3が、通信路4を介して、図6に示したデータ16(属性g1、g2、…、初期板厚h、管理肉厚i)を保全支援装置2に送信したとする(ステップS401)。すると、保全支援装置2が、送信されてきたデータ16を受信し(ステップS402)、取得したデータ16が含む属性g1、g2、…に基づき、予測モデル50を用いて、構造物の保温材下腐食による減肉深さの予測値を算出する(ステップS403)。続いて、保全支援装置2が、図10に示すように、取得したデータ16が含む初期板厚hから、算出した減肉深さの予測値を減算して、余裕肉厚の予測値を算出する(ステップS404)。
【0075】
続いて、保全支援装置2が、確率情報記憶領域を参照し、図3に示した複数の数値範囲b1〜b8のうちから、算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し(ステップS405)、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する(ステップS406)。ここで、図18(a)に示すように、データ16が含む管理肉厚iが「0mm」であり、余裕肉厚の予測値が「3mm」であった場合、余裕肉厚の予測値「3mm」を含む数値範囲として数値範囲b3が特定され、数値範囲b3に対応づけられている確率指標c3であるランク「C」が取得される。一方、図18(b)に示すように、データ16が含む管理肉厚iが「1mm」であり、余裕肉厚の予測値が「3mm」であった場合、余裕肉厚の予測値「3mm」を含む数値範囲として数値範囲b8が特定され、数値範囲b8に対応づけられている確率指標c8であるランク「D」が取得される。すなわち、データ16が含んでいる管理肉厚iに応じて異なるランク(ランク「C」「D」等)が取得される。続いて、保全支援装置2が、取得した確率指標を、通信路4を介してデータ16の送信元のサービス利用端末3に出力(送信)する(ステップS407)。
【0076】
続いて、サービス利用端末3が、送信されてきた確率指標を受信し(ステップS408)、受信した確率指標をディスプレイ23に表示させる(ステップS409)。これにより、サービス利用者は、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を知ることができ、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等をより適切に決定することができる。
【0077】
次に、本開示に係る保全支援システム1における、予測モデル50及び数値範囲b1〜b8の設定時の動作を説明する。
まず、サービス提供者が、保全支援装置2を操作し、保全支援装置2が、数値範囲設定処理を実行し、図19に示すように、測定データ記憶領域に記憶されている多数の測定データ10を基に、機械学習のアルゴリズムを用いて、属性e1、e2、…と減肉深さの測定値dとの関係を学習した予測モデル50を導出する(ステップS501)。続いて、保全支援装置2が、導出した予測モデル50を用いて、測定データ記憶領域に記憶されている図5に示した測定データ10毎に、その測定データ10が含む属性e1、e2、…を基に減肉深さの予測値(予測減肉深さ)を算出する(ステップS502)。続いて、保全支援装置2が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10毎に、図13に示すように、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10に対応する予測減肉深さを減算した減算結果(予測余裕肉厚)を算出する(ステップS503)。
【0078】
続いて、保全支援装置2が、測定データ記憶領域に記憶されている測定データ10毎に、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10が含む減肉深さの測定値dを減算した減算結果(実余裕肉厚)を算出する(ステップS504)。続いて、保全支援装置2が、管理肉厚の候補値a1、a2毎に、複数の数値範囲b1〜b8を区分する境界値を設定し(ステップS505)、設定した境界値を基に、数値範囲b1〜b8を設定して確率情報記憶領域に記憶させる(ステップS506)。これにより、測定データ10の増加に応じて、予測モデル50及び数値範囲b1〜b8を更新することができ、サービス利用者に、より精度の高い確率情報を知らせることができる。
【0079】
なお、予測モデル50及び数値範囲b1〜b8の設定時の動作の例を示したが、例えば、予測モデル50及び数値範囲b1〜b8の更新時に同様の動作を行うようにしてもよい。予測モデル50及び数値範囲b1〜b8の更新は、例えば、記憶されている測定データ10の数が、前回の更新時から所定数(例えば、100)増えた場合に行うようにする。
【0080】
以上説明したように、本開示に係る保全支援装置2では、複数の数値範囲b1〜b8と、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を示す複数の確率指標c1〜c8とを対応づけて記憶している確率情報記憶領域を参照し、複数の数値範囲b1〜b8のうちから、算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲を特定し、特定した数値範囲に対応づけられている確率指標を取得する確率指標取得部14と、取得した確率指標を出力する出力部15とを備えるようにした。それゆえ、プラントの構造物が使用不能状態となる確率を提示可能な保全支援装置2を提供できる。そして、保全支援装置2を用いることで、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率を知ることができ、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等をより適切に決定できる。
【0081】
また同様に、プラントの構造物が使用不能状態となる確率を提示でき、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等をより適切に決定可能な保全支援用プログラムを提供できる。
また、本開示に係る保全支援装置2では、データ16は、基準肉厚として、例えば、管理肉厚iを含むようにした。また、確率情報記憶領域には、複数の管理肉厚の候補値a1、a2のそれぞれ毎に、複数の数値範囲b1〜b8と複数の確率指標c1〜c8とを記憶するようにした。さらに、確率指標取得部14は、確率情報記憶領域に記憶されている、取得部11で取得したデータ16が含む管理肉厚iと同一の管理肉厚の候補値a1(またはa2)に対応する複数の数値範囲b1〜b8と複数の確率指標c1〜c8とを参照し、その複数の数値範囲b1〜b8のうちから、余裕肉厚算出部13で算出した余裕肉厚の予測値を含む数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)を特定し、特定した数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に対応づけられている確率指標c1(またはc2〜c8の何れか)を取得するようにした。それゆえ、構造物の管理肉厚iに応じた確率指標を出力できる。
【0082】
そのため、例えば、構造物の内部圧力が低く、データ16に管理肉厚iとして「0mm」が含まれている場合には、構造物の肉厚が「0mm」になる確率指標を提示できる。また、例えば、構造物の内部圧力が高く、データ16に管理肉厚iとして例えば「1mm」が含まれている場合には、構造物の肉厚が「1mm」になる確率指標を提示できる。したがって、保温材下腐食によって構造物が使用不能状態となる確率をより高精度に知ることができ、プラントの構造物の保全方式や検査仕様等をより適切に決定することができる。
【0083】
さらに、本開示に係る保全支援装置2では、減肉深さ予測部12は、属性g1、g2、…を基に減肉深さの予測値を算出する予測モデル50を用いて、取得部11で取得したデータ16が含む属性g1、g2、…を基に減肉深さの予測値を算出する。また、プラントの構造物の保温材下腐食による減肉深さの測定値d、構造物の属性e1、e2、…及び構造物の初期板厚fを含む測定データ10を多数記憶している測定データ記憶領域を備えるようにした。さらに、予測モデル50を用いて、測定データ10毎に、測定データ10が含む属性e1、e2、…を基に減肉深さの予測値(予測減肉深さ)を算出する予測減肉深さ算出部18を備えるようにした。また、測定データ10毎に、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10に対応する予測減肉深さを減算した減算結果(予測余裕肉厚)を算出する予測値算出部19を備えるようにした。さらに、測定データ10毎に、その測定データ10が含む初期板厚fから、その測定データ10が含む減肉深さの測定値dを減算した減算結果(実余裕肉厚)を算出する実余裕肉厚算出部20を備えるようにした。
【0084】
また、管理肉厚の候補値a1、a2毎に、複数の数値範囲b1〜b8のそれぞれに対して、その数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に含まれる予測余裕肉厚に対応する実余裕肉厚のうちに、その管理肉厚以下の実余裕肉厚が含まれる割合が、その数値範囲b1(またはb2〜b8の何れか)に対応づけられている確率指標c1(またはc2〜c8の何れか)が示す確率と同一の数値となるように、複数の数値範囲b1〜b8を区分する境界値を設定する境界値設定部21を備えるようにした。それゆえ、例えば、数値範囲b1〜b8を適切に設定でき、サービス利用者により精度の高い確率指標を提示できる。
【0085】
また、本開示に係る保全支援装置2では、記憶装置5が記憶している測定データ10が含む構造物の属性e1、e2、…を説明変数とし、測定データ10が含む減肉深さの測定値dを目的変数として、機械学習のアルゴリズムを用いて、説明変数と目的変数との関係を学習した予測モデル50を導出する機械学習部17を備えるようにした。それゆえ、保全支援装置2(コンピュータ)に予測モデル50を導き出させることができ、比較的少ない手間でより精度の高い予測モデル50を得ることができる。
さらに、本開示に係る保全支援装置2では、確率指標c1〜c8として、構造物が使用不能状態となる確率を示すランク、確率を示す数値を用いるようにした。例えば、確率を示すランク「A」「B」「C」「D」を用いることで、確率をより直感的に把握できる。また、例えば、確率を示す数値「0.1%未満」「0.1%以上1%未満」「1%以上10%未満」「10%以上」を用いることで、確率をより正確に把握できる。
【0086】
(変形例)
(1)なお、上記実施形態では、保全支援装置2とサービス利用端末3とを備える保全支援システム1を構成し、サービス利用者に確率指標c1〜c8を提示する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、1台の保全支援装置2内で各種処理を行うように構成して、サービス利用者に確率指標c1〜c8を提示する構成ととしてもよい。
(2)また、上記実施形態では、予測モデル50として、属性e1、e2、…と減肉深さの測定値dとから、機械学習によって導出したモデルを用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、統計的手法によって導出したモデルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…保全支援システム、2…保全支援装置、3…サービス利用端末、4…通信路、5…記憶装置、6…演算装置、7…確率情報、9…プログラム、10…測定データ、11…取得部、12…減肉深さ予測部、13…余裕肉厚算出部、14…確率指標取得部、15…出力部、16…データ、17…機械学習部、18…予測減肉深さ算出部、19…予測値算出部、20…実余裕肉厚算出部、21…境界値設定部、22…入力装置、23…ディスプレイ(出力装置)、24…記憶装置、25…演算装置、26…データ送信部、27…確率情報表示部、28…データ受信部、29…取得部、30…通信I/F、31…ドライブ、32…記憶媒体、33…入力装置、34…出力装置、35…学習結果データ、40…ドライブ、41…記憶媒体、42…通信I/F、50…予測モデル、51〜53…近似直線、a1、a2…管理肉厚の候補値、b1〜b8…数値範囲、c1〜c8…確率情報、d…減肉深さの測定値、e1、e2…属性、f…初期板厚、g1、g2…属性、h…初期板厚、i…管理肉厚、j…第1の境界値、k…第2の境界値、l…第3の境界値
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