【文献】
MATSUMURA, Kiichiro et al,In vitro degradation of the Duchenne muscular dystrophy gene product (dystrophin),Biomedical Research,1989年,Vol. 10, No. 4,p. 325-328
【文献】
石川幸辰ほか,“Two−antibody sandwich”ELISAによるジストロフィン蛋白定量化の試み,医学のあゆみ ,1995年 5月13日,Vol.173,No.7,PP.685-686
【文献】
Yukitoshi ISHIKAWA et al.,Tohoku Journal of experimental medicine ,1996年 9月,Vol.180, No.1,PP.57-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可溶化工程において、前記生体試料として、筋肉、脳、血液、もしくは心臓に由来する細胞もしくは組織、または生体の細胞に由来する幹細胞から誘導されるもしくは培養される細胞もしくは組織を用いる、
請求項6に記載のタンパク質の測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その上限値「1」及び下限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0020】
本実施形態のタンパク質の測定方法(以降、単に「本測定方法」とも称する。)は、タンパク質とこのタンパク質を認識する捕捉抗体とを結合させる抗原結合工程、捕捉抗体に結合したタンパク質と、タンパク質の捕捉抗体が認識する領域とは別の領域を認識し且つ発光性金属錯体が標識される検出抗体とを結合させる検出抗体結合工程、及びタンパク質に結合し且つ発光性金属錯体が標識された検出抗体を、電気化学的刺激によって生じる電気化学発光量を測定することによって検出する測定工程を備える。すなわち、本測定方法は、電気化学発光(Electrochemiluminescence;ECL)法を利用して、タンパク質を検出するものである。好ましくは、本測定方法は、生体試料に含まれるタンパク質を検出するものである。
【0021】
さらに、本測定方法は、界面活性剤及び還元剤を含有する溶液を用いて、生体試料からタンパク質を可溶化する可溶化工程、及び可溶化工程で得られた可溶化溶液を希釈して、タンパク質を含む希釈試料溶液を調製する希釈工程をさらに備えることが好ましい。また、本測定方法は、標準品タンパク質の濃度と化学発光量との検量線を作成する検量線作成工程と、この検量線と生体試料に含まれるタンパク質における電気化学発光量とに基づいて、生体試料に含まれるタンパク質の量を算出する算出工程とをさらに備えることが好ましい。また、本測定方法は、捕捉抗体を認識する固定化二次抗体を固定化する二次抗体固定化工程と、固定化二次抗体と捕捉抗体とを結合させる捕捉抗体結合工程を備えていてもよい。
【0022】
本測定方法は、感度、真度、及び精度に優れたタンパク質の測定を可能とすることにより、遺伝性疾患に関わるタンパク質の測定に好適に用いられる。遺伝性疾患とは、一つ以上の遺伝子または染色体の異常によって起こる疾患をいう。遺伝性疾患では、遺伝子または染色体の異常に起因して、タンパク質の発現量の低下、または異常なタンパク質の発現が生じることが原因となって、疾患の症状を呈する。本測定方法は、遺伝性疾患の原因に関わるタンパク質について、薬剤又は遺伝子治療による発現回復を行った際に、正常なタンパク質の発現を確認するために特に好適に用いられる。
【0023】
遺伝性疾患としては、例えば、先天性筋ジストロフィー、マルファン症候群、神経線維腫症、鎌状赤血球症などの常染色体優性遺伝病、異染性白質ジストロフィー、嚢胞性線維症、フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、ガラクトース血症などの常染色体劣性遺伝病、及びデュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー、血友病などのX染色体連鎖遺伝病を含む単一遺伝子疾患;口唇裂、口蓋裂、先天性心疾患などの多因子遺伝疾患;ダウン症候群、4Pマイナス症候群、ターナー症候群などの染色体異常、慢性進行性外眼筋麻痺、レーバー病などのミトコンドリア遺伝病;癌などの体細胞遺伝病が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの遺伝性疾患の中でも、本測定方法は、アンチセンス薬またはリードスルー薬、もしくは遺伝子療法によって、正常なタンパク質の発現を回復させることで症状を効果的に改善することができる、単一遺伝子疾患に関わるタンパク質の測定に好適に用いられる。より好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関わるジストロフィン、またはベッカー型筋ジストロフィーに関わるジストロフィンの測定に用いられ、さらに好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関わるジストロフィンの測定に好適に用いられる。
【0024】
またさらに、本測定方法では高感度であるために、界面活性剤及び還元剤を用いて可溶化したタンパク質を含む試料溶液を希釈した場合であっても測定可能である。このため、本測定方法は、高分子量及び/または疎水性が高いタンパク質の測定に好適に用いることができる。このような高分子量及び/または疎水性が高いタンパク質として、例えば、ジストロフィン、ラミニン、コラーゲン、ジスフェルリン、タイチン、ネブリン、スーパーオキシドジスムダーゼ、チトクロム酸化酵素、アクチンなどが挙げられ、中でも本測定方法は、ジストロフィンの測定に好適に用いられる。
【0025】
以下の実施形態では、ジストロフィンの測定を行う場合を例に挙げて説明するが、本測定方法の測定対象となる遺伝性疾患に関わるタンパク質はこれに限定されない。また、本測定方法は、測定対象のタンパク質に応じて適宜変更して実施することが可能である。
【0026】
[試験材料、抗体、及び試薬類について]
本測定方法において測定を行う試験材料は、測定を行う対象となる生体組織に由来する生体試料と、検量線を得るための測定対象となる標準品とに分けられる。まずはこれら試験材料について説明する。次いで、本測定方法に用いる、抗体及び試薬類について説明する。
【0027】
<生体試料>
本測定方法に用いられる生体試料は、ジストロフィンを発現する細胞、組織、または検体に由来する生体試料であれば、特に限定せず用いることができる。生体試料として例えば、人間、マウス、ラット、犬等の動物を検体として、これらの検体から採取した生体試料を用いることができる。具体的な生体試料として、これらの検体の筋肉、脳、血液、もしくは心臓に由来する細胞もしくは組織を用いることができるが、これらに特に限定されない。または、上記の筋肉、脳、血液、もしくは心臓に由来する細胞、または検体の皮膚もしくは毛髪などの末梢組織の細胞等の、生体の細胞に由来する幹細胞から誘導されるもしくは培養される細胞もしくは組織であって、ジストロフィンを発現するよう分化誘導されたものを用いることができる。幹細胞とは、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられるが、これらに特に限定されない。生体試料は、後述する可溶化工程によってジストロフィンを可溶化した状態で測定に供される。
【0028】
<標準品>
標準品(標準品ジストロフィン)は、検量線作成工程において標準試料として用いられるタンパク質であって、分子量427kDaのジストロフィンの全長またはその一部を用いることができる。中でも、標準品ジストロフィンとして用いられるジストロフィンとしては、分子量427kDaの全長ジストロフィンをコードする遺伝子(Dp427)のcDNAが組み込まれた発現ベクターを、哺乳動物細胞に導入して発現させた、リコンビナント全長ジストロフィン(Recombinant full-length dystrophin;RFD)を用いることが好ましい。
【0029】
このとき、標準ジストロフィンは、分子量427kDaのジストロフィンの全長を含むものであってもよいが、分子量427kDaのジストロフィンの一部を含むものであってもよい。この場合、分子量427kDaのジストロフィンの一部とは、少なくとも捕捉抗体の認識部位、及び検出抗体の認識部位を含むものであることが好ましい。また、検体に投与されたアンチセンス薬もしくはリードスルー薬、または遺伝子治療によって引き起こされるジストロフィンの発現回復に応じて、この発現回復するジストロフィンの部位と重複するアミノ酸配列を含むものであることが好ましい。
【0030】
<捕捉抗体>
捕捉抗体は、ジストロフィンを特異的に認識して、ジストロフィンとの抗原抗体反応を生じることで、ジストロフィンと結合する抗体である。
【0031】
捕捉抗体のジストロフィン上の認識部位は特に限定されないが、後述する検出抗体とは別の領域を認識して結合することが好ましい。より好ましくは、捕捉抗体と検出抗体とは、ジストロフィンにおける相互に干渉しない二つ以上のエピトープをそれぞれ認識することが好ましい。さらに好ましくは、捕捉抗体と検出抗体とのいずれか一方がジストロフィンのN末端領域を認識し、他方がジストロフィンのC末端領域を認識することが好ましい。すなわち、捕捉抗体と検出抗体とを用いて、ジストロフィンの二つ以上のエピトープにそれぞれ結合するサンドイッチイムノアッセイを行うことが好ましい。特に好ましくは、捕捉抗体がジストロフィンのC末端領域を認識し且つ検出抗体がジストロフィンのN末端領域を認識するか、または捕捉抗体がジストロフィンのN末端領域を認識し且つ検出抗体が前記ジストロフィンのC末端領域を認識することが好ましい。
【0032】
捕捉抗体または検出抗体がジストロフィンのC末端領域を認識することにより、C末端領域まで合成されたジストロフィンを結合することができる。これによって、C末端領域を認識する捕捉抗体または検出抗体によれば、リードスルーまたはエキソンスキッピングによって発現が回復したジストロフィンを検出することができる。捕捉抗体または検出抗体がジストロフィンのN末端領域を認識することにより、ジストロフィンアイソフォームの内、N末端領域を含む分子量427kDaの全長ジストロフィンに結合することができる。これによって、N末端領域を認識する捕捉抗体または検出抗体は、全長ジストロフィンの他の、N末端領域を含まない分子量260kDa、140kDa、116kDa、71−75kDaのジストロフィンアイソフォームには結合せずに、全長ジストロフィンを検出することができる。
【0033】
なお、ジストロフィンのN末端領域とは、一例として、全長ジストロフィンの410〜450番のアミノ酸、またはこのアミノ酸の少なくとも一部を含む領域をいう。ジストロフィンのC末端領域とは、一例として、全長ジストロフィンの3669〜3685番のアミノ酸、またはこのアミノ酸の少なくとも一部を含む領域をいう。
【0034】
捕捉抗体はジストロフィンに対するモノクローナル抗体であってもよく、またはジストロフィンに対するポリクローナル抗体であってもよい。捕捉抗体が認識するジストロフィンのエピトープと同一または類似するエピトープを有する、ジストロフィン以外の抗原との交叉反応を避けて、ジストロフィンへの特異性を高める観点から、捕捉抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。または、ジストロフィンの複数のエピトープへの結合を可能として、一つのジストロフィンに対して複数の捕捉抗体の結合が生じることによって感度を向上させる観点から、捕捉抗体はポリクローナル抗体であることが好ましい。ジストロフィン検出の特異性と感度とを両立させる観点から、捕捉抗体がモノクローナル抗体であり且つ検出抗体がポリクローナル抗体であるか、または、捕捉抗体がポリクローナル抗体であり且つ検出抗体がモノクローナル抗体であることがより好ましい。
【0035】
捕捉抗体及び後述する検出抗体のポリクローナル抗体の産生は、公知の手法を用いて行うことができる。例えば、マウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジ、ニワトリなどの宿主動物に、全長ジストロフィン、ジストロフィン断片、またはジストロフィン断片に相当するペプチドを投与することによって免疫する。そして、免疫した宿主動物から抗血清を採取して、抗体を精製することにより得ることができる。
【0036】
また、捕捉抗体及び後述する検出抗体のモノクローナル抗体の産生も、公知の手法を用いて行うことができる。例えば、上記モノクローナル抗体の産生に用いた宿主動物に、全長ジストロフィン、ジストロフィン断片、またはジストロフィン断片に相当するペプチドを投与することによって免疫する。免疫後に、免疫した宿主動物から脾臓またはリンパ節を採取して、所望の抗体を産生する細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得る。さらにこのハイブリドーマをクローン化することで、得られたクローンよりモノクローナル抗体を産生することができる。
【0037】
C末端領域を認識する捕捉抗体または検出抗体のポリクローナル抗体を得るためには、ジストロフィンのC末端領域に相当するペプチドを免疫に用いて抗体を産生することが好ましい。また、C末端領域を認識する捕捉抗体または検出抗体のモノクローナル抗体を得るためには、ジストロフィンのC末端領域に相当するペプチドを免疫に用いて抗体を産生するか、ジストロフィンのC末端領域に相当するペプチドを用いて、ハイブリドーマのスクリーニングを行うことが好ましい。同様に、N末端領域を認識する捕捉抗体または検出抗体のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を得るためには、ジストロフィンのN末端領域に相当するペプチドを免疫に用いて抗体を産生するか、または、ジストロフィンのN末端領域に相当するペプチドを用いて、ハイブリドーマのスクリーニングを行うことが好ましい。
【0038】
捕捉抗体は、捕捉抗体を緩衝液に溶解した捕捉抗体溶液として測定に供されることが好ましい。緩衝液としては、特に限定されず、例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスグリシン緩衝液、リン酸緩衝液などを用いることができるが、これらに特に限定されない。緩衝液のpHは、pH6.5〜pH8.5であることが好ましく、pH7〜pH8であることがより好ましい。また、緩衝液は、必要に応じて、タンパク質を安定化するためのキャリアタンパク質、塩、キレート剤を含有してもよい。キャリアタンパク質としては、例えば、牛血清アルブミン(Bovine serum albumin;BSA)、馬血清アルブミン、オボアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等を用いることができるが、これらに特に限定されない。塩としては、例えば、NaCl、KCl等を用いることができるが、これらに特に限定されない。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenediaminetetraacetic acid;EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸等を用いることができるが、これらに特に限定されない。塩を含有する緩衝液の具体例としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)、トリス緩衝生理食塩水(Tris-Buffered Saline;TBS)が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0039】
捕捉抗体溶液の濃度は、特に限定されないが、0.01〜10μg/mlであることが好ましく、0.1〜5μg/mlであることがより好ましく、0.5〜2μg/mlであることがさらに好ましい。捕捉抗体溶液の濃度が上記の範囲内にあることにより、測定の感度を向上させることができる。
【0040】
捕捉抗体は、固相に固定化されてもよい。捕捉抗体が固相に固定化される場合には、捕捉抗体を固相に対して結合させることによって直接固定化を行ってもよく、後述する固定化二次抗体を固相に固定化して、この固定化二次抗体と捕捉抗体とを結合させることによって、固定化二次抗体を介して固定化を行ってもよい。電気化学発光量の測定の際にバックグラウンドを低減する観点から、固定化二次抗体を介して捕捉抗体の固定化を行うことが好ましい。
【0041】
捕捉抗体を、固相に対して固定化する場合には、捕捉抗体と固相との共有結合または非共有結合(例えば、疎水性相互作用、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、双極子間結合)によって結合させることができる。または、アビジンとストレプトアビジンとの結合のように、リガンドとこのリガンドに特異的に結合する物質とを用いて、いずれか一方を捕捉抗体に標識して、他方を固相に標識することで結合させてもよい。
【0042】
捕捉抗体を、固定化二次抗体を介して固定化する場合には、捕捉抗体と固定化二次抗体との抗原抗体反応によって結合させることができる。この場合、固定化二次抗体が捕捉抗体の定常領域を特異的に認識して結合することが好ましい。
【0043】
<検出抗体>
検出抗体は、ジストロフィンの捕捉抗体が認識する領域とは別の領域を特異的に認識して、ジストロフィンとの抗原抗体反応を生じることで、ジストロフィンと結合する抗体である。検出抗体のジストロフィン上の認識部位は特に限定されないが、捕捉抗体とは別の領域を認識して結合することが好ましい。検出抗体の認識部位と捕捉抗体の認識部位との関係は、上記の捕捉抗体についての説明を行った通りである。
【0044】
検出抗体はジストロフィンに対するモノクローナル抗体であってもよく、またはジストロフィンに対するポリクローナル抗体であってもよい。捕捉抗体と同様に、ジストロフィンへの特異性を高める観点から、検出抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。または、感度を向上させる観点から、検出抗体はポリクローナル抗体であることが好ましい。検出抗体と捕捉抗体におけるモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との関係は、上記の捕捉抗体についての説明を行った通りである。
【0045】
本測定方法では、ジストロフィンに結合した検出抗体を、ECL法によって生じる電気化学発光量を測定することによって検出する。ECL法による電気化学発光は、ECL法に通常用いられる発光性金属錯体を利用することによって行うことができる。この発光性金属錯体は、中心原子としての多価金属と配位子とによって構成される。発光性金属錯体に含まれる多価金属としては、例えば、ルテニウム、オスミウム、レニウム、セリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、配位子としては、例えば、ビピリジル、置換ビピリジル、1,10−フェナントロリン、置換1,10−フェナントロリン等の芳香族多座配位子が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの発光性金属錯体の中でも、中心原子としてルテニウムを有する、ルテニウム含有化合物(ルテニウム錯体)が好ましく、より好ましくはルテニウムと芳香族多座配位子との金属錯体、例えばビス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体、またはトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体がより好ましく、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体がさらに好ましい。
【0046】
検出抗体のECL法による検出は、発光性金属錯体が標識された検出抗体の電気化学発光によって行うことができる。検出抗体への発光性金属錯体の導入は、検出抗体に発光性金属錯体を直接標識する、または、検出抗体を認識し且つ前記発光性金属錯体が標識された後述する検出二次抗体を検出抗体に結合させる等によって行うことができる。測定の感度を向上させる点からは、発光性金属錯体を標識した検出二次抗体を検出抗体に結合させ、検出二次抗体を介して検出抗体に標識している発光性金属錯体の電気化学発光によって行うことが好ましい。検出抗体または検出二次抗体への発光性金属錯体の標識は、これに限定されるものではないが、例えば、発光性金属錯体の多座配位子におけるスルホン化誘導体(例えば、Meso Scale Discovery製のSULFO−TAG(商標)標識)を用いることで行うことができる。
【0047】
検出抗体は、検出抗体を緩衝液に溶解した検出抗体溶液として測定に供されることが好ましい。緩衝液としては、上記の捕捉抗体溶液の説明において挙げた緩衝液を用いることができる。
【0048】
検出抗体溶液の濃度は、特に限定されないが、0.01〜10μg/mlであることが好ましく、0.1〜5μg/mlであることがより好ましく、0.5〜2μg/mlであることがさらに好ましい。検出抗体溶液の濃度が上記の範囲内にあることにより、測定の感度を向上させることができる。
【0049】
<固定化二次抗体>
固定化二次抗体は、捕捉抗体を特異的に認識して、捕捉抗体との抗原抗体反応を生じることで、捕捉抗体と結合する抗体である。また、固定化二次抗体は、固定化されうる。固定化二次抗体を、固相に対して固定化する場合には、上記の捕捉抗体の固相に対する固定化と同様に行うことができる。
【0050】
固定化二次抗体の認識部位は、捕捉抗体の定常領域であることが好ましい。また、固定化二次抗体は、捕捉抗体の産生に用いられたホスト動物に対する抗体を用いることが好ましい。固定化二次抗体は、捕捉抗体に対するモノクローナル抗体であってもよく、または捕捉抗体に対するポリクローナル抗体であってもよい。捕捉抗体の複数のエピトープへの結合を可能として、固相に固定化した固定化二次抗体と捕捉抗体との結合を促進して高い感度を得る観点から、固定化二次抗体はポリクローナル抗体であることが好ましい。
【0051】
固定化二次抗体は、固定化二次抗体を緩衝液に溶解した固定化二次抗体溶液として測定に供されることが好ましい。緩衝液としては、上記の捕捉抗体溶液の説明において挙げた緩衝液を用いることができる。
【0052】
固定化二次抗体溶液の濃度は、特に限定されないが、0.1〜100μg/mlであることが好ましく、1〜50μg/mlであることがより好ましく、5〜20μg/mlであることがさらに好ましい。固定化二次抗体溶液の濃度が上記の範囲内にあることにより、測定の感度を向上させることができる。
【0053】
<検出二次抗体>
検出二次抗体は、検出抗体を特異的に認識して、検出抗体との抗原抗体反応を生じることで結合する抗体である。検出二次抗体は、上記の検出抗体において説明した、ECL法による検出に用いられる発光性金属錯体によって標識される。これにより、検出二次抗体は、ECL法による電気化学発光を生じる。
【0054】
検出二次抗体は、検出抗体の産生に用いられたホスト動物に対する抗体を用いることが好ましい。検出二次抗体は、検出抗体に対するモノクローナル抗体であってもよく、または検出抗体に対するポリクローナル抗体であってもよい。検出抗体の複数のエピトープへの結合を可能として、一つの検出抗体に対する複数の検出二次抗体の結合により高い感度を得る観点から、検出二次抗体はポリクローナル抗体であることが好ましい。
【0055】
検出二次抗体は、検出二次抗体を緩衝液に溶解した検出二次抗体溶液として測定に供されることが好ましい。緩衝液としては、上記の捕捉抗体溶液の説明において挙げた緩衝液を用いることができる。
【0056】
検出二次抗体溶液の濃度は、特に限定されないが、0.01〜10μg/mlであることが好ましく、0.1〜5μg/mlであることがより好ましく、0.5〜2μg/mlであることがさらに好ましい。検出二次抗体溶液の濃度が上記の範囲内にあることにより、測定の感度を向上させることができる。
【0057】
<固相>
本測定方法では、上記の通り捕捉抗体を固相に固定化してもよく、この固相にジストロフィンを含む試料溶液を適用することで、固定化された捕捉抗体とジストロフィンとの抗原抗体反応を生じさせてもよい。この場合、試料溶液に含まれるジストロフィンを、捕捉抗体に結合することができるとともに、試料溶液に含まれる捕捉抗体に結合しない成分を分離することができる。よって、生体試料に含まれるジストロフィンの特異的な検出が可能となる。なお、試料溶液を適用するとは、固相に対して試料溶液を分注、注入、または滴下等を行うことにより、試料溶液に含まれるジストロフィンと捕捉抗体とを接触させることをいう。
【0058】
固相は、特に限定されず、ECL法に用いられる、捕捉抗体を固定するための支持体面を有する公知の基材を適宜用いることができる。このような固相としては、例えば、樹脂、ポリマー、ガラス、セラミック、または金属などの物質で形成される、プレート、キュベット、チューブ、ビーズ、多孔質体、またはメンブレンが挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、複数のウェルを備えるプラスチック製のプレートであって、各ウェル中に電気化学発光を生じさせるための一対の電極をそれぞれ有するマルチウェルプレートが好ましい。
【0059】
<可溶化溶液>
可溶化溶液は、生体試料に含まれるジストロフィンの可溶化に用いられる、少なくとも界面活性剤を含有する水溶液である。ジストロフィンは疎水性の巨大分子であって水には溶けにくい性質を有する。また、ジストロフィンは、細胞膜の内側に存在して、細胞骨格のアクチンと結合している。このため、ジストロフィンの測定を行うにあたっては、界面活性剤を含む可溶化溶液を用いることによりジストロフィンの可溶化を行って、可溶化試料溶液を得ることが好ましい。
【0060】
可溶化に用いられる界面活性剤は、特に限定されないが、通常、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが用いられる。これらの中でも、陰イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。陰イオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium dodecyl sulfate;SDS)、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、SDSが好ましい。
【0061】
界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、可溶化溶液総量に対して、0.1w/v%〜10w/v%が好ましく、0.5w/v%〜5w/v%がより好ましく、1w/v%〜3w/v%がさらに好ましい。界面活性剤の濃度が上記範囲内であることにより、生体試料からジストロフィンを可溶化して測定に十分なジストロフィンを得ることができ、且つ過剰な界面活性剤が測定に与える影響を抑えることができる。
【0062】
可溶化溶液は、さらに還元剤を含むことが好ましい。可溶化溶液に含有される還元剤は、例えば、2−メルカプトエタノール(2-mercaptoethano;2−ME)、1,4−ジチオトレイトール、還元型グルタチオン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、2−MEが好ましい。
【0063】
還元剤の濃度は特に限定されないが、可溶化溶液総量に対して、0.05w/v%〜5w/v%が好ましく、0.1w/v%〜1w/v%がより好ましく、0.2w/v%〜0.5w/v%がさらに好ましい。還元剤の濃度が上記範囲内であることにより、可溶化したジストロフィンの酸化を防ぎ、ジスルフィド結合の形成によるジストロフィンの凝集を防止することができ、且つ過剰な還元剤が測定に与える影響を抑えることができる。
【0064】
可溶化溶液は、界面活性剤及び還元剤を含有する緩衝液であることが好ましい。緩衝液としては、上記の捕捉抗体溶液の説明において挙げた緩衝液を用いることができる。
【0065】
<希釈溶液>
希釈溶液は、可溶化試料溶液の希釈に用いられる、少なくとも非イオン性界面活性剤を含有する水溶液である。可溶化試料溶液には界面活性剤が含まれるため、この可溶化試料溶液をそのまま測定に供した場合には、抗原抗体反応に影響を及ぼして、測定の感度を低下させるおそれがある。一方で、単純に可溶化試料溶液を希釈した場合には、界面活性剤の濃度が低下することで、ジストロフィンが凝集する場合がある。このため、ジストロフィンの測定を行うにあたっては、非イオン性界面活性剤を含有する希釈溶液を用いることにより可溶化試料溶液の希釈を行って、希釈試料溶液を得ることが好ましい。非イオン性界面活性剤は界面活性剤の中でもマイルドな性質を有することから、可溶化に用いられた界面活性剤の濃度を下げて測定への影響を抑えるとともに、ジストロフィンの可溶化を維持することができる。
【0066】
希釈溶液に含有される非イオン性界面活性剤としては、例えば、Nonidet(登録商標)P−40(NP−40)、Triton(登録商標)X−100、Tween(登録商標)20、オクチルβ−グルコシド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、NP−40が好ましい。
【0067】
非イオン性界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、希釈溶液総量に対して、0.005w/v%〜1w/v%が好ましく、0.01w/v%〜0.1w/v%がより好ましい。非イオン性界面活性剤の濃度が上記範囲内であることにより、可溶化試料溶液に含まれる界面活性剤を希釈して測定への影響を抑えることができ、且つジストロフィンの可溶化を維持することができる。
【0068】
希釈溶液は、非イオン性界面活性剤を含有する緩衝液であることが好ましい。緩衝液としては、上記の捕捉抗体溶液の説明において挙げた緩衝液を用いることができる。
【0069】
[測定方法について]
本測定方法は、操作の順序に従って、抗原結合工程、検出抗体結合工程、及び測定工程を備えて構成される。さらに、本測定方法は、可溶化工程、希釈工程、二次抗体固定化工程、ブロッキング工程、捕捉抗体結合工程、検出二次抗体結合工程、検量線作成工程、算出工程を備えることが好ましい。以下に、
図1を参照して、これらの工程を順に説明する。なお、本測定方法は、公知のECL法による電気化学発光量の測定方法を利用して行うことができる。
【0070】
なお、ここでは、固相に固定化二次抗体を固定化して、この固定化二次抗体に捕捉抗体を結合させる場合を例に挙げて説明する。また、検出二次抗体に標識した発光性金属錯体の電気化学発光を生じさせることによって、電気化学発光量の測定を行う場合を例に挙げて説明する。また、ここでは、捕捉抗体としてジストロフィンのC末端領域を認識するモノクローナル抗体を、検出抗体としてジストロフィンのN末端領域を認識するポリクローナル抗体を用いる場合を例に挙げて説明する。また、ここでは、固相としてウェルを備えるプレートを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0071】
<可溶化工程>
まず、検体から採取した生体試料に対して、可溶化溶液を用いて生体試料の可溶化を行い、ジストロフィンを可溶化した可溶化試料溶液を得る(ステップS11:可溶化工程)。このとき、通常、生体試料に含まれる他のタンパク質と共に、ジストロフィンが可溶化される。生体試料の可溶化の手法は、特に限定されないが、例えば、生体試料に可溶化溶液を加えて冷却しながら、ホモジナイザー、ガラスビーズ、または超音波処理などを用いて細胞を破砕する処理を行い、生体試料の細胞破砕液(ホモジネート)を調製することにより行うことができる。さらに、このホモジネートに遠心分離を行い、上清を回収することで、可溶化試料溶液を得ることが好ましい。
【0072】
<希釈工程>
次に、可溶化試料溶液と希釈溶液とを混合して、可溶化試料溶液の希釈を行い、希釈化試料溶液を得る(ステップS12:希釈工程)。このとき、希釈を行った状態の希釈化試料溶液において、可溶化試料溶液に含まれていた界面活性剤の濃度が、希釈化試料溶液の総量に対して、通常1w/v%以下、好ましくは0.5w/v%以下、より好ましくは0.2w/v%以下となるよう希釈を行うことが好ましい。
【0073】
<二次抗体固定化工程>
ECL法によるジストロフィンの測定に先立って、固定化二次抗体を固相に固定化する(ステップS13:二次抗体固定化工程)。固定化二次抗体の固定化は、固定化二次抗体を含有する固定化二次抗体溶液をウェルに加えて、振とうさせつつ一定温度でインキュベーションすることにより行う。これにより、固定化二次抗体が固相に接触して結合することで、固相に固定化される。
【0074】
<ブロッキング工程>
次に、固定化二次抗体を固定化した固相にブロッキングを行う(ステップS14:ブロッキング工程)。ブロッキングは、二次抗体、捕捉抗体、検出抗体、及び検出二次抗体のいずれとも結合しない、BSA、スキムミルク、カゼイン等のブロッキング剤を含む溶液をウェルに加えて静置することにより行う。これにより、ブロッキング剤が固相に接触して吸着することで、固相表面がブロッキングされる。ブロッキングを行うことにより、抗体及びジストロフィンが固相に非特異的に吸着することを防ぐ。
【0075】
<捕捉抗体結合工程>
ブロッキングを行った固相に、捕捉抗体を結合させる(ステップS15:捕捉抗体結合工程)。捕捉抗体の結合は、捕捉抗体を含む捕捉抗体溶液をウェルに加えて、振とうさせつつ一定温度でインキュベーションすることにより行う。これにより、捕捉抗体と固定化二次抗体とが抗原抗体反応を生じて結合することで、捕捉抗体が固相に固定化される。
【0076】
<抗原結合工程>
続いて、固相に固定化された捕捉抗体に、ジストロフィンを結合させる(ステップS16:抗原結合工程)。ジストロフィンの結合は、ステップS12で得られた希釈化試料溶液を測定試料としてウェルに加えて、振とうさせつつ一定温度でインキュベーションすることにより行う。これにより、捕捉抗体がジストロフィンのN末領域を認識して、抗原抗体反応を生じて結合する。
【0077】
<検出抗体結合工程>
さらに、捕捉抗体に結合したジストロフィンに、検出抗体を結合させる(ステップS17:検出抗体結合工程)。検出抗体の結合は、検出抗体を含む検出抗体溶液をウェルに加えて、振とうさせつつ一定温度でインキュベーションすることにより行う。これにより、検出抗体がジストロフィンのC末領域を認識して、抗原抗体反応を生じて結合する。
【0078】
<検出二次抗体結合工程>
またさらに、ジストロフィンに結合した検出抗体に、検出二次抗体を結合させる(ステップS18:検出二次抗体結合工程)。検出二次抗体の結合は、検出二次抗体を含む検出二次抗体溶液をウェルに加えて、振とうさせつつ一定温度でインキュベーションすることにより行う。これにより、検出二次抗体が検出抗体を認識して、抗原抗体反応を生じて結合する。このとき、固相上には、固定化二次抗体、捕捉抗体、ジストロフィン、検出抗体、及び検出二次抗体がこの順で結合した複合体が形成される。
【0079】
<測定工程>
上記の複合体の形成後、電気化学発光リーダーを用いて、ECL法により生じる電気化学発光量を測定する(ステップS19:測定工程)。電気化学発光量の測定は、まず、ECL反応における電子供与物質を含む溶液をウェルに加える。さらに、ウェルに備えられた電極を介して、ウェル内の溶液に電圧を印加することによって、検出二次抗体に標識された発光性金属錯体と電子供与物質との酸化還元反応により、発光性金属錯体から電気化学発光が誘導される。この電気化学発光を、電気化学発光リーダーが備える光電子増倍管によって検出することで、電気化学発光量を測定する。電子供与物質としては、例えば、トリプロピルアミン(Tripropylamine;TPA)等の第三級アルキルアミンが用いられるが、これに特に限定されない。
【0080】
<検量線作成工程>
上記の生体試料を用いた生体試料に含まれる前記ジストロフィンにおける電気化学発光量の測定(ステップS13〜S19)と同様にして、標準品ジストロフィンを用いて電気化学発光量の測定を行う。このとき、標準品ジストロフィンの濃度が異なる複数の標準試料溶液を調製して、それぞれの電気化学発光量の測定を行うことで、標準品ジストロフィンの濃度と電気化学発光量との検量線を作成する(ステップS20:検量線作成工程)。なお、本明細書において検量線という場合、ジストロフィンの濃度と各濃度における電気化学発光量との関係をプロットして得られるグラフと、ジストロフィンの濃度と各濃度における電気化学発光量との関係から算出される回帰式とを含むものとする。
【0081】
<算出工程>
さらに、ステップS20で得られた検量線と、ステップS19で得られた生体試料に含まれるジストロフィンにおける電気化学発光量とに基づいて、生体試料に含まれる前記ジストロフィンの量を算出する(ステップS21:算出工程)。
【0082】
[測定キットについて]
本実施形態のタンパク質の測定キット(以降、単に「本測定キット」とも称する。)は、上記の本測定方法のために用いられるキットであって、上記測定方法を行うために必要な要素を提供する。すなわち本測定キットは、ECL法用のタンパク質の測定キットである。より具体的には、遺伝性疾患に関わるタンパク質の測定キットである。
【0083】
本測定キットは、少なくとも捕捉抗体、及び検出抗体を備えるものである。また、本測定キットは、検出二次抗体を備えることが好ましい。さらに、本測定キットは、固定化二次抗体を備えていてもよく、可溶化溶液及び希釈溶液を備えていてもよい。また、本測定キットは、ECL法により電気化学発光を生じさせるための電子供与物質を備えていてもよく、検量線を作成する際に用いられるRFDを備えていてもよい。またさらに、本測定キットは、固相を備えていてもよく、本測定方法を行う上での使用説明書を備えていてもよい。
【0084】
本測定キットにおいては、捕捉抗体、検出抗体、検出二次抗体、固定化二次抗体、電子供与物質、及びRFDは、これらの水溶液であることが好ましい。また、これらの水溶液は、緩衝液であることが好ましい。
【0085】
[作用、効果]
本測定方法は、捕捉抗体に結合したタンパク質と検出抗体とを結合させて、この検出抗体を、電気化学的刺激によって生じる電気化学発光量を測定することによって検出することで、タンパク質の測定を行う。本測定方法によれば、ECL法を利用することによって、感度、真度、及び精度に優れるタンパク質の測定方法を提供することができる。また、捕捉抗体、タンパク質、及び検出抗体がこの順序でサンドイッチされた複合体を形成することで、タンパク質に対して特異性の高い測定を行うことができる。これにより、本測定方法は、遺伝性疾患に関わるタンパク質の発現回復の確認を行う際に、微量なタンパク質であっても測定を行うことが可能である。
【0086】
従来のタンパク質の測定方法としてELISAが知られているが、本測定方法によれば、ELISAの10〜100倍程度の感度で測定を行うことができる。ここで、ELISAなどの免疫アッセイ法においては、高濃度の界面活性剤及び還元剤の存在下では検出感度が低下することがある。例えば市販キットの場合、SDSの濃度が0.02%未満、2−MEの濃度が0.5mM未満であることが要求される。界面活性剤及び還元剤の影響を避けるためには、界面活性剤及び還元剤、並びにタンパク質を含む試料溶液を希釈することが考えられるが、この場合、希釈によりタンパク質の濃度が下がることでシグナル量が低下することから、ELISAでは測定が困難となる課題があった。一方、本測定方法では高感度であるために、タンパク質を含む試料溶液を希釈した場合であっても測定が可能であり、且つ希釈によって界面活性剤及び還元剤の濃度を低下させて、界面活性剤及び還元剤の影響を受けないようにした状態で、高感度な測定を行うことができる。
【0087】
本測定方法は、ウェスタンブロット法と比較しても感度に優れた測定方法である。また、ウェスタンブロット法では操作が煩雑であるため、精度が低くなることがあった。一方、本測定方法によれば電気化学的刺激による発光を行うことで操作が簡便となり、これも精度の向上に繋がっている。
【0088】
また、本測定方法では、捕捉抗体または検出抗体がタンパク質のC末端領域を認識する抗体であることにより、捕捉抗体または検出抗体は発現欠損が生じたタンパク質には結合せず、全長タンパク質を認識して結合することができる。これにより、DMD患者の組織に由来する生体試料を測定する場合において、アンチセンス薬もしくはリードスルー薬、または遺伝子治療によってエクソンスキップまたはリードスルーが生じた場合に、発現回復したジストロフィンに結合することができる。また、本測定方法では、捕捉抗体または検出抗体がタンパク質のN末端領域を認識する抗体であることにより、捕捉抗体または検出抗体はジストロフィンのアイソフォームを検出せずに、427kDaのジストロフィンを認識して結合できる。このように、C末端領域を認識する捕捉抗体とN末端領域を認識する検出抗体とを組み合せるか、またはN末端領域を認識する捕捉抗体とC末端領域を認識する検出抗体とを組み合せることにより、全長タンパク質を検出して測定を行うことができる。このため、本測定方法によれば、アンチセンス薬もしくはリードスルー薬投与後、または遺伝子治療後の検体組織中のタンパク質の発現回復の確認が可能となる。
【0089】
またさらに、本測定方法では、標準品ジストロフィンとして分子量427kDaのジストロフィンの全長またはその一部を用いて検量線を作成し、この検量線に基づいてジストロフィンの量を算出する。全長ジストロフィンを精製した市販の標準品は存在していないため、従来の定量測定法では、生体組織から可溶化した全タンパク質量に対するジストロフィン量の相対的な定量を行うに留まり、絶対定量的な真度が求められない課題があった。これに対して、本測定方法によれば、ジストロフィン量の絶対的な存在量を定量することで、真度を高めることができる。
【実施例】
【0090】
以下、各種試験結果に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、なお、以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
[抗体、試薬類、機器及び器具]
<抗体>
表1に、実施例及び参照例において使用した抗体を示す。
【0092】
【表1】
【0093】
捕捉抗体として用いるNovocastra(登録商標) Lyophilized Mouse Monoclonal Antibody Dystrophin NCL-DYS2(以降、「mAb3」と称する。)は、全長ジストロフィンの3669〜3685番のアミノ酸からなるC末端ペプチドを免疫原として産生した、ジストロフィンのC末端領域を認識するマウスIgGモノクローナル抗体である。
【0094】
検出抗体として用いるAnti-Dystrophin antibody ab131315(以降、「pAb1」と称する。)は、全長ジストロフィンの410〜450番のアミノ酸からなるC末端ペプチドを免疫原として産生した、ジストロフィンのN末端領域を認識するラビットIgGポリクローナル抗体である。
【0095】
固定化二次抗体として用いるAffiniPure Goat Anti-Mouse IgG、 Fcγ Subclass 1 Specific(以降、「2nd Ab1」と称する。)は、ヤギ抗マウスIgGサブクラス特異的ポリクローナル抗体である。
【0096】
検出二次抗体として用いるMSD SULFO-TAG labeled Anti-Rabbit Antibody (Goat)(以降、「SULFO−TAG Ab」と称する。)は、ヤギ抗ラビットIgGサブクラス特異的ポリクローナル抗体であって、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体のスルホン化誘導体による標識がなされている。
【0097】
<試薬類、機器及び器具>
表2に、実施例及び参照例において使用した試薬類を示す。また、表3に、実施例及び参照例において使用した機器及び器具を示す。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
[試薬の調製例]
<PBSの調製例>
10×D−PBS(−)10ml、及び水90mlを混合した。これにより、PBS(1×)を得た。
【0101】
<塩化ナトリウム水溶液の調製例>
少量の水に塩化ナトリウム5.8gを加え溶解し、水で全量を100mlとした。これにより、1mol/l塩化ナトリウム水溶液を得た。
【0102】
<可溶化溶液の調製例>
1mol/l Tris−HCl(pH6.8)0.22ml、20%SDS5ml、グリセロール 2ml、及び2−メルカプトエタノールに水を加えて全量を50mlとした。これにより、可溶化溶液(4.4mmol/lTris、2% SDS、4% グリセロール、0.25% 2−ME)を得た。
【0103】
<希釈溶液の調製例>
1mol/l Tris−HClBuffer Solution(pH8.0)2ml、1mol/l 塩化ナトリウム水溶液15ml、NP−40(10%in H
2O)0.5ml、10% BSA 10ml、及び0.5mol/l−EDTA Solution(pH8.0) 0.1mlを混合した。0.1mol/l塩酸を加え、pH7.5に調整した後に、水で全量100mlとした。これにより、希釈溶液(20mmol/lTris、150mmol/l 塩化ナトリウム、0.05%NP−40、1% BSA、0.5mmol/lEDTA、pH7.5)を得た。
【0104】
<洗浄液の調製例>
20× TBS−Twith Tween 20(以降、「20×TBST」と称する。)50ml、及び水950mlを混合した。これにより、これにより、洗浄液(1×TBST)を得た。
【0105】
<TBST−BSA水溶液の調製例>
10% BSADiluent/Blocking Solution(以降、「10%BSA」と称する。)50ml、20×TBST 5ml、及び水45mlを混合した。これにより、TBST−BSA水溶液(以降、「TBST−BSA」と称する。)を得た。
【0106】
<Read bufferの調製例>
MSD Readbuffer T(4×)with surfactant 5ml、及び水15mlを混合した。これにより、Read buffer(1×)を得た。
<固定化二次抗体溶液>
2nd Ab1(1.2mg/ml)21μl、及びPBS 2499μlを混合した。これにより、固定化二次抗体溶液(10μg/ml)を得た。
<捕捉抗体溶液>
mAb3(36μg/ml) 75μl、及びTBST−BSA 2625μlを混合した。これにより、捕捉抗体溶液(1μg/ml)を得た。
【0107】
<検出抗体溶液の調製例>
pAb1(500μg/ml) 6μl、及びTBST−BSA 2994μlを混合した。これにより、検出抗体溶液(1μg/ml)を得た。
【0108】
<検出二次抗体溶液の調製例>
SULFO−TAG Ab(500μg/ml) 6μl、及びTBST−BSA 2994μlを混合した。これにより、検出二次抗体溶液(1μg/ml)を得た。
【0109】
[試験材料の調整例]
<標準品ジストロフィンの調製例(RFD))>
国立研究開発法人産業技術総合研究所より提供されたリコンビナント全長ジストロフィン(RFD)溶液(10fmol/μl)を、希釈溶液で段階的に希釈して、表4に示すように、RFD濃度が0.00001〜0.04fmol/μlの15段階となるようにして、15種類の標準試料溶液A1〜A15を得た。
【0110】
<生体試料の調製例(ヒト筋組織ホモジネート)>
正常人由来筋組織に可溶化溶液100μlを加え、ジルコニアビーズ及びビーズ式細胞破砕装置を用いて細胞を破砕してヒト筋組織ホモジネートを調製した。このホモジネートを遠心分離(4℃、100000×g、10分間)して、上清を回収することにより、ジストロフィンを含むタンパク質を可溶化した可溶化試料溶液を得た。この可溶化試料溶液のタンパク質濃度を、タンパク質定量キット(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製、商品名:2DQuant Kit)を用いて測定した。可溶化試料溶液のタンパク質濃度は、630μg/mlであった。続いて、この可溶化試料溶液を希釈溶液で段階的に希釈して、表5に示すように、タンパク質濃度が0.4〜28.8μg/mlの5段階となるようにして、5種類の希釈試料溶液(生体試料溶液a1〜a5)を得た。
【0111】
<検量線試験試料の調製例>
RFD溶液(10fmol/μl)を、希釈溶液で段階的に希釈して、表6に示すように、RFD濃度が0.00150〜0.0100fmol/μlの7段階となるようにして、7種類の標準試料溶液B1〜B7を得た。
【0112】
<再現性確認試料の調製例>
RFD溶液(10fmol/μl)を、希釈溶液で段階的に希釈して、表7に示すように、RFD濃度が0.00150〜0.0100fmol/μlの7段階となるようにして、7種類の再現性確認試料溶液C1〜C7を得た。
【0113】
<特異性確認試料の調製例1>
タンパク質濃度が5mg/mlの小脳ライセートを、希釈溶液で希釈して、タンパク質濃度が0.006fmol/μlの生体試料溶液bを得た。
【0114】
<特異性確認試料の調製例2>
タンパク質濃度が19.5μg/mlのDMD患者筋組織ホモジネートを、希釈溶液で希釈して、タンパク質濃度が0.006fmol/μlの生体試料溶液cを得た。
【0115】
[実施例1:検量線範囲の確認とジストロフィンの測定]
<電気化学発光量の測定>
以下の手順によって、電気化学発光量の測定を行った。なお、測定は標準試料溶液A1〜A15、及び生体試料溶液a1〜a5について、それぞれ3点実施して、3点の電気化学発光量(ECLシグナル)の平均値を、各試料の電気化学発光量の測定値とした。
【0116】
〔1〕固定化二次抗体溶液を、固相として用いられるMULTI-ARRAY 96-well Bare plate(High Bind) ECLイムノアッセイ用プレート(以降、単に「プレート」と称する。)の各ウェルに25μlずつ加え、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、30分以上振とうした。これにより、固定化二次抗体溶液2ndAb1が固相に固定化された。
【0117】
〔2〕プレート内の溶液を除去し、洗浄液をプレートの各ウェルに300μlずつ加えて除去する洗浄操作を行った後、充分に水分を取り除くことで、過剰の固定化二次抗体溶液2ndAb1を洗い流した。
【0118】
〔3〕TBST−BSAを、プレートの各ウェルに150μlずつ加え、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、振とうした。
〔4〕プログラム低温恒温器(設定値4℃、保存庫管理温度範囲:2.0〜8.0℃)にて、8時間以上静置した。これにより、プレートがBSAによりブロッキングされた。
〔5〕プレート内の溶液を除去し、充分に水分を取り除いた。
【0119】
〔6〕捕捉抗体溶液を、プレートの各ウェルに25μlずつ加え、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、30分以上振とうした。これにより、捕捉抗体溶液mAb3が固定化二次抗体溶液2ndAb1に結合することで、固相に固定化された。
【0120】
〔7〕プレート内の溶液を除去し、洗浄液をプレートの各ウェルに300μlずつ加えて除去する洗浄操作を行った後、充分に水分を取り除くことで、過剰の捕捉抗体溶液mAb3を洗い流した。
【0121】
〔8〕標準試料溶液A1〜A15、及び生体試料溶液a1〜a5を、測定試料としてプレートの各ウェルにそれぞれ25μlずつ加え、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、振とうした。これにより、測定試料に含まれるジストロフィンが捕捉抗体溶液mAb3に結合された。
【0122】
〔9〕プレート内の溶液を除去し、洗浄液をプレートの各ウェルに300μlずつ加えて除去する洗浄操作を行った後、充分に水分を取り除くことで、過剰のジストロフィン、及び捕捉抗体溶液mAb3に結合しない測定試料に含まれる成分を洗い流した。
【0123】
〔10〕検出抗体溶液を、プレートの各ウェルに25μlずつ加え、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、30分以上振とうした。これにより、検出抗体pAb1がジストロフィンに結合された。
【0124】
〔11〕プレート内の溶液を除去し、洗浄液をプレートの各ウェルに300μlずつ加えて除去する洗浄操作を行った後、充分に水分を取り除くことで、過剰の検出抗体pAb1を洗い流した。
【0125】
〔12〕検出二次抗体溶液を、プレートの各ウェルに25μlずつ加え、遮光し、恒温振とう培養器(25℃)を用いて、30分以上振とうした。これにより、検出二次抗体SULFO−TAGAbが検出抗体pAb1に結合された。
【0126】
〔13〕プレート内の溶液を除去し、洗浄液をプレートの各ウェルに300μlずつ加えて除去する洗浄操作を行った後、充分に水分を取り除くことで、過剰の検出二次抗体溶液SULFO−TAGAbを洗い流した。
【0127】
〔14〕Read bufferを、プレートの各ウェルに150μlずつ加え、電気化学発光リーダーにて電気化学発光を生じさせて、電気化学発光量(ECLシグナル)を測定した。標準試料溶液A1〜A15の測定結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
<検量線の作成と評価>
標準試料溶液A1〜A15の測定で得られたECLシグナルの測定値をY、RFD濃度(fmol/μl)をXとし、4−パラメーターロジスティックモデル(重み付け:1/Y2)を用いた回帰式を算出することで、検量線(A1〜A15)を作成した。検量線の作製には、コンピュータシステム(Molecular Devices Inc.製、商品名:SoftMax Pro(Ver. 5.4))を用いて行った。さらに、この検量線(A1〜A15)に基づいて、各標準試料溶液の逆算値と、逆算値の真度を算出し、検量線を評価した。評価結果を表4に示す(検量線(A1〜A15))。真度(%)は、「逆算値/添加濃度×100」によって算出した。なお、表4において、標準試料溶液A13の逆算値が算出されなかったのは、逆算値が負の値になるためであると推測される。
【0130】
表4に示すように、標準試料溶液A10〜A15のECLシグナルは、ほぼ同等のECLシグナルを示していた。この結果から、本測定方法によるRFDの検出は、少なくとも0.000004fmol/μl(0.001fmol)〜0.04fmol/μl(1fmol)の範囲において可能であることが分かる。さらに、検量線(A1〜A15)に対する逆算値の真度が±25%以内であるA9を測定下限と考えると、測定範囲は0.0001fmol/μl(0.0025fmol)〜0.04fmol/μl(1fmol)、測定下限は0.0001fmol/μl(0.0025fmol)と判断することができる。
【0131】
この測定範囲に基づいて、標準試料溶液A1〜A9のECLシグナルをY、RFD濃度(fmol/μl)をXとし、4−パラメーターロジスティックモデル(重み付け:1/Y2)を用いた回帰式を算出することで、検量線(A1〜A9)を作成した。この検量線を
図2に示す。なお、
図2は、横軸にジストロフィン濃度(fmol/μl)、縦軸にECLシグナルをとった検量線を示すものである。さらに、この検量線(A1〜A9)に基づいて、各標準試料溶液の逆算値と、逆算値の真度とを算出し、検量線を評価した。評価結果を表4に示す(検量線(A1〜A9))。この結果から、本測定方法は、感度と真度に優れることが分かる。
【0132】
<定量値の算出>
生体試料溶液a1〜a5を測定して得られたECLシグナルを、標準試料溶液A1〜A9から算出された回帰式に代入して、ジストロフィンの定量値を算出した。結果を表5に示す。
【0133】
【表5】
【0134】
表5に示すように、本測定方法により、ヒト筋組織ホモジネート中タンパク質濃度0.4μg/ml(10ng)〜14.4μg/ml(360ng)まで、濃度依存的なジストロフィン濃度の増加が確認することができた。28.8μg/ml(720ng)において14.4μg/ml(360ng)のジストロフィン濃度と同等の値となり、ECLシグナルが飽和している事が確認された。ただし、プロゾンは認められないと考えられた。この結果から、ヒト筋組織ホモジネート中のジストロフィン濃度は、少なくともタンパク質濃度0.4μg/ml(10ng)〜14.4μg/ml(360ng)の範囲で測定が可能であり、検出範囲の下限が低く、感度に優れたジストロフィンの測定方法であることが分かる。なお、既存のウェスタンブロット法によるジストロフィンの測定では、1000μgが定量限界であるため、本測定方法によれば、その100倍の感度が得られることになる。
【0135】
[実施例2:検量線の評価]
<電気化学発光量の測定:1回目>
測定試料として、標準試料溶液A1〜A15及び生体試料溶液a1〜a5に代えて、標準試料溶液B1〜B7を用いて、それぞれ1点測定を実施する以外は実施例1と同様にして、電気化学発光量の測定を行った。標準試料溶液B1〜B7の1点の電気化学発光量を、各試料の測定値とした。この測定値を、検量線(1回目)のデータとして用いた。
【0136】
<電気化学発光量の測定:2,3回目>
実施例2の1回目の電気化学発光量の測定と同一の環境(実施者、装置)で、異なる実施日に同一の試料(標準試料溶液B1〜B7)の電気化学発光量の測定を2回行い、それぞれについて測定値を得た。この測定値を、検量線(2,3回目)のデータとして用いた。
【0137】
<検量線の作成と評価>
標準試料溶液B1〜B7の測定で得られたECLシグナルの測定値をY、RFD濃度(fmol/μl)をXとし、4−パラメーターロジスティックモデル(重み付け:1/Y2)を用いた回帰式を算出することで、1〜3回目の電気化学発光量の測定それぞれについて検量線を作成した。さらに、これらの検量線の相関係数を算出した。また、これらの検量線に基づいて、各標準試料溶液の逆算値と、逆算値の真度を算出し、検量線を評価した。結果を表6に示す(検量線(1〜3回目))。
【0138】
【表6】
【0139】
表6に示すように、計3回のそれぞれの電気化学発光量の測定において、相関係数は0.9989以上、逆算値の真度は、B1及びB7で87.6〜118.5%、その他の標準試料溶液で91.7〜114.4%であった。これらの結果によれば、実施例1において検討した測定範囲内となる、0.000150fmol/μl〜0.01fmol/μlの範囲において、4−パラメーターロジスティックモデル(重み付け:1/Y2)を用いた回帰式を算出することで、良好な検量線が得られることを確認できた。
【0140】
[実施例3:再現性の評価]
<電気化学発光量の測定:1回目>
測定試料として、標準試料溶液A1〜A15及び生体試料溶液a1〜a5に代えて、標準試料溶液B1〜B7及び再現性確認試料溶液C1〜C7を用いて、それぞれ5点測定を実施する以外は実施例1と同様にして、電気化学発光量の測定を行った。5点の電気化学発光量の平均値を、各試料の電気化学発光量の測定値とした。この測定値を、日内再現性のデータ、また日間再現性1回目のデータとして用いた。
【0141】
<電気化学発光量の測定:2,3回目>
実施例3の1回目の電気化学発光量の測定と同一の環境(実施者、装置)で、同一の試料(標準試料溶液B1〜B7及び再現性確認試料溶液C1〜C7)の電気化学発光量の測定を、異なる実施日で2回行い、それぞれについて測定値を得た。この測定値を、日間再現性2回目のデータ、及び日間再現性3回目のデータとして用いた。
【0142】
<検量線の作成と定量値の算出>
標準試料溶液B1〜B7の測定で得られたECLシグナルの測定値をY、RFD濃度(fmol/μl)をXとし、4−パラメーターロジスティックモデル(重み付け:1/Y2)を用いた回帰式を算出することで、1〜3回目の電気化学発光量の測定それぞれについて検量線を作成した。さらに、再現性確認試料溶液C1〜C7を測定して得られた1〜3回目のECLシグナルを、標準試料溶液B1〜B7から算出された1〜3回目の各回帰式に代入して、ジストロフィンの定量値を算出した。1〜3回目の電気化学発光量の測定値から算出された結果を表7に示す(再現性1〜3回目)。
【0143】
【表7】
【0144】
<日内再現性の評価>
1〜3回目の電気化学発光量の測定それぞれについて、再現性確認試料溶液C1〜C7の定量値の平均値、精度(CV)、真度、及びトータルエラーを算出した。なお、精度(%)は、「定量値の標準偏差/定量値の平均値×100」によって算出した。また、トータルエラー(%)は、「{(真度−100.0)の絶対値}+CV」によって算出した。
【0145】
表7に示すように、1回目の日内再現性において、C1(0.000150fmol/μl)及びC7(0.0100fmol/μl)の精度は11.3%及び3.0%、真度は128.7%及び100.8%であった。その他の標準試料溶液の精度は2.1〜12.6%、真度は89.9〜114.9%であった。通常、ウェスタンブロット法では、日内再現性の精度は2.9〜33.3%であることに鑑みると、本測定方法は、日内再現性の精度に優れたジストロフィンの測定方法であることが分かる。
【0146】
<日間再現性の評価>
表7に示すように、日間再現性(全体)において、C1(0.000150fmol/μl)及びC7(0.0100fmol/μl)の精度25.7及び4.3%、真度は103.8及び101.2%であった。他の標準試料溶液の精度は3.2〜10.5%、真度は100.2〜112.5%であった。通常、ウェスタンブロット法では、日間再現性の精度が6.3〜20.4%であることに鑑みると、本測定方法は、日間再現性の精度に優れたジストロフィンの測定法であることが分かる。
上記の実施例1〜3の評価結果を総合的に考慮すると、本測定方法は、感度、真度、及び精度に優れたジストロフィンの測定方法であるといえる。
【0147】
[実施例4、参照例:特異性の評価]
<電気化学発光量の測定>
測定試料として、生体試料溶液a1〜a5に代えて、生体試料溶液b及び生体試料溶液cを用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学発光量の測定を行った。このとき、測定試料として、生体試料溶液b(小脳ライセート)を用いたものが実施例4にあたり、生体試料溶液c(DMD患者筋組織ホモジネート)を用いたものが参照例にあたる。
【0148】
<検量線の作成>
実施例1と同様にして、標準試料溶液A1〜A9の測定で得られたECLシグナルから回帰式を算出することで、検量線を作成した。
【0149】
<定量値の算出>
生体試料溶液b及び生体試料溶液cを測定して得られたECLシグナルを、標準試料溶液A1〜A9から算出された回帰式に代入して、ジストロフィンの定量値を算出した。結果を表8に示す。
【0150】
【表8】
【0151】
表8に示すように、生体試料として小脳ライセートを用いた実施例4の場合にも、小脳に存在するジストロフィンの測定を行うことが可能であった。
一方、生体試料としてのDMD患者筋組織ホモジネートを用いた参照例では、測定限界未満となりジストロフィンの測定を行うことができなかった。これは、DMD患者筋組織に発現するジストロフィンは全長のジストロフィンではなく、C末端を欠くため、検出抗体pAb1による結合ができなかったためであると推測される。
このように、本測定方法によれば、ジストロフィンの測定を特異的に行うことが可能である。