(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875648
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
B22D11/108 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-192884(P2019-192884)
(22)【出願日】2019年10月23日
(65)【公開番号】特開2021-65906(P2021-65906A)
(43)【公開日】2021年4月30日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正典
【審査官】
中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−303652(JP,A)
【文献】
特開2001−225152(JP,A)
【文献】
特開平08−025009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてSiO2とCaOを含み、
副成分としてカリウム原料を含み、
前記カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩を含むことを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドパウダーであって、
前記カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩からなることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造とは、溶鋼を連続鋳造機のモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をモールドの下方向に引き抜くことを連続的に行うことにより、鋼を連続的に鋳造することをいう。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し(以下、溶融状態のモールドパウダーを「溶融スラグ」とよぶ。)、溶融スラグは凝固シェルとモールドの間に流入して消費される。この間のモールドパウダーの主な役割は(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)凝固シェルとモールドの間の潤滑の保持、(4)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御等である。
【0003】
溶融スラグが凝固シェルとモールドの間に流入する駆動力は、モールドのオシレーション(振動)、凝固シェルの引き抜きによる引き込み及び溶融スラグの自重であるが、高品質な鋳片の連続鋳造の安定操業に資するには、特に、以下の要件1〜3を高度に調和させる必要がある。
(要件1)凝固シェルとモールドの間の潤滑を保つこと
(要件2)粘度と界面張力を適切に保ち、溶鋼に巻き込まれないこと
(要件3)凝固シェルからモールドへの熱流束を制御し、適切な冷却速度を保つこと
【0004】
特許文献1には、モールドパウダーは高粘度であっても、低表面張力にすることでモールドとシェル間の隙間に流入しやすくなること、K
2Oが表面張力を大きく低下させる効果があること、鋼の連続鋳造用モールドパウダーにK
2Oを配合することにより、高粘度と低表面張力を両立できることが記載されている。
【0005】
K
2O原料(カリウム原料)としては、炭酸カリウム(K
2CO
3)、カリウム長石(KAlSi
3O
8)、硝酸カリウム(KNO
3)、フッ化カリウム(KF)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019−069462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭酸カリウムは安価、安全であり、また、高純度品を得やすい点で好適である。しかし、炭酸カリウムは潮解性を有し、空気中の水分を吸収して液状化する。その結果、炭酸カリウムを含むモールドパウダーは、製造過程で原料ホッパー、ミキサー又は輸送経路等に付着するという問題がある。また、水を添加して造粒されると、乾燥工程で乾燥しにくいという問題がある。保管中に水分を吸収しやすいという問題もある。さらに、吸湿した炭酸カリウムを含むモールドパウダーが溶鋼の表面に投入されると、吸湿した炭酸カリウムの脱水吸熱反応によりモールドパウダーの溶融性状を悪化させるとともに、溶鋼の表面を冷やし、鋼の品質に悪影響を与えるという問題もある。炭酸カリウムは強力な酸化剤であるため、溶鋼の表面に投入されると溶鋼を再酸化するという問題もある。
【0008】
カリウム長石は吸湿性を有しない点で好適である。しかし、カリウム長石はK
2Oの含有量が少なく、Al
2O
3の含有量が多いため、K
2Oの必要量を確保するために多くのカリウム長石を添加すると、高Al
2O
3のモールドパウダーしか設計できないという問題がある。
【0009】
硝酸カリウムも吸湿性を有しない点で好適である。しかし、モールドパウダーの原料としては融点が低すぎること、強力な酸化作用もあることから、硝酸カリウムを含むモールドパウダーが溶鋼の表面に投入されると、激しく反応してモールドパウダーの溶融性状を悪化させるとともに、炭酸カリウムと同様、溶鋼を再酸化するという問題がある。
【0010】
フッ化カリウムは酸素を含まないため、溶鋼の表面に投入されても溶鋼を再酸化させない点で好適である。しかし、フッ化カリウムは潮解性を有し、空気中の水分を吸収して液状化する。その結果、フッ化カリウムを含むモールドパウダーは、炭酸カリウムと同様、製造過程でミキサー等に付着したり、溶鋼の表面に投入されると溶融性状を悪化させ、鋼の品質に悪影響を与えるという問題がある。
【0011】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、カリウム原料が吸湿性を有せず、また、溶鋼の表面に投入される際にモールドパウダーの溶融性状を悪化させないとともに、溶鋼を再酸化させないため、安定した鋼の連続鋳造が可能なモールドパウダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本開示の態様は、副成分としてカリウム原料を含み、カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩を含むことを特徴とするモールドパウダーに関する。フッ化アルミニウムカリウム錯塩は吸湿性を有しない。したがって、副成分としてカリウム原料を含み、カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩を含むモールドパウダーは、製造過程や保管中の吸湿の問題を生じにくい。さらに、フッ化アルミニウムカリウム錯塩は分子式がAlF
nK
(n−3)(n=4,5,6)で表され、酸素を含まないため、溶鋼表面に投入される際にモールドパウダーの溶融性状を悪化させないとともに、溶鋼を再酸化させない。また、フッ化アルミニウムカリウム錯塩は他のカリウム原料よりも比較的K
2Oの含有量が多く、K
2Oの含有量に対してAl
2O
3の含有量が少ない。したがって、比較的Al
2O
3が少ないモールドパウダーの設計も容易である。以上より、このモールドパウダーを用いると安定した鋼の連続鋳造が可能である。なお、モールドパウダーの設計は一般に酸化物で行うため、酸化物以外の成分は酸化物に換算する。以下、同様。
【0013】
(2)本開示の態様では、カリウム原料はフッ化アルミニウムカリウム錯塩からなることが好ましい。カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩からなるため、吸湿性を有せず、製造過程や保管中の吸湿の問題がさらに生じにくい。また、比較的K
2Oの含有量がさらに多く、かつ、K
2Oの含有量に対してAl
2O
3の含有量がさらに少ない。したがって、比較的Al
2O
3がさらに少ないモールドパウダーの設計が容易である。このモールドパウダーを用いると、さらに安定した鋼の連続鋳造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0015】
本実施形態のモールドパウダーは、副成分としてカリウム原料を含み、カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩を含む。
【0016】
<主成分>
モールドパウダーは一般に主成分としてSiO
2とCaOを含む。主成分の原料としては、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、CaO−SiO
2基材原料やシリカ原料を用いることができる。CaO−SiO
2基材原料としては、例えば、ポルトランドセメント、石灰石、生石灰、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム等のセメント類等を用いることができる。シリカ原料としては、例えば、珪砂、長石、珪石、珪藻土、パーライト、フライアッシュ、ガラス粉、シリカフューム、シリカフラワー等を用いることができる。
【0017】
CaOのSiO
2に対する質量比(CaO/SiO
2)は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はない。
【0018】
<副成分>
副成分として含まれるフッ化アルミニウムカリウム錯塩は吸湿性を有しない。したがって、フッ化アルミニウムカリウム錯塩を副成分として含むモールドパウダーは製造過程や保管中に吸湿の問題を生じにくい。さらに、フッ化アルミニウムカリウム錯塩は分子式がAlF
nK
(n−3)(n=4,5,6)で表され、酸素を含まないため、溶鋼表面に投入される際にモールドパウダーの溶融性状を悪化させないとともに、溶鋼を再酸化させない。また、フッ化アルミニウムカリウム錯塩は他のカリウム原料よりも比較的K
2Oの含有量が多く、K
2Oの含有量に対してAl
2O
3の含有量が少ない。したがって、比較的Al
2O
3が少ないモールドパウダーの設計も容易である。以上より、このモールドパウダーを用いると安定した鋼の連続鋳造が可能である。
【0019】
カリウム原料はフッ化アルミニウムカリウム錯塩からなることが好ましい。カリウム原料がフッ化アルミニウムカリウム錯塩からなるため、吸湿性を有せず、製造過程や保管中の吸湿の問題がさらに生じにくい。また、比較的K
2Oの含有量がさらに多く、かつ、K
2Oの含有量に対してAl
2O
3の含有量がさらに少ない。したがって、比較的Al
2O
3がさらに少ないモールドパウダーの設計が容易である。このモールドパウダーを用いると、さらに安定した鋼の連続鋳造が可能である。
【0020】
フッ化アルミニウムカリウム錯塩はAlF
nK
(n−3)(n=4,5,6)からなる群から選ばれる1種又は2種以上であってもよい。フッ化アルミニウムカリウム錯塩としては、市販のカリウム氷晶石(AlF
6K
3)や四フッ化アルミン酸カリウム(AlF
4K)を用いることができる。
【0021】
モールドパウダーは副成分としてカリウム原料以外の、一般にモールドパウダーに用いられるもの、例えば、フラックス原料、炭素原料及び/又はその他の原料を含んでもよい。フラックス原料は、軟化点、粘度及び/又は結晶化温度を調整する役割を有し、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、氷晶石、蛍石(フッ化カルシウム)、フッ化マグネシウム等の弗化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等を用いることができる。炭素原料は、モールドパウダーの滓化速度を調整する役割を有し、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等を用いることができる。その他の原料としては、マグネシア、アルミナ等を用いることができる。モールドパウダーは不可避成分として微量のFe
2O
3、TiO
2、MnO、Cr
2O
3、P
2O
5、S等を含んでもよい。
【0022】
モールドパウダーの形態は一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等を用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0024】
[実験方法]
主成分としてSiO
2とCaOを含み、副成分としてカリウム原料を含むモールドパウダーを用いた。用いたカリウム原料を表1に示す。実施例1〜2はカリウム氷晶石(AlF
6K
3)、実施例3〜4は四フッ化アルミン酸カリウム(AlF
4K)、実施例5〜6は両者の混合物、比較例1は炭酸カリウム(K
2CO
3)、比較例2は硝酸カリウム(KNO
3)を用いた。
【表1】
【0025】
[評価方法]
実施例及び比較例のモールドパウダーについて、吸湿性及び溶融性状を評価した。
【0026】
モールドパウダーの吸湿性は、加熱乾燥式水分計で判定した。モールドパウダーを常温、大気中で3日間放置し、水分が0.5%以下であれば良好(◎)、0.5%超1.0%以下であれば可(○)、1.0%超であれば不可(×)と評価した。
【0027】
モールドパウダーの溶融性状は、高周波誘導炉で1500℃に加熱した溶鉄の上に投入して確認した。モールドパウダーが円滑に溶融して溶融スラグが生成されれば良好(◎)、溶融過程で焼結や溶融スラグの粘り等が発生して溶融性状が悪ければ不可(×)と評価した。
【0028】
総合評価は、吸湿性及び溶融性状がいずれも良好(◎)又は可(○)であれば良好(◎)、1つでも不可(×)があれば不可(×)と評価した。
【0029】
[評価結果]
実施例及び比較例の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0030】
カリウム原料としてフッ化アルミニウムカリウム錯塩を用いた実施例1〜6は、吸湿性は良好(◎)で吸湿は生じず、溶融性状も非常に良好(◎)で、総合評価も良好(◎)であった。したがって、実施例1〜6は安定した鋼の連続鋳造が可能である。一方、炭酸カリウムを用いた比較例1は吸湿が著しく、吸湿性は不可(×)、また、半溶融部で粘りが発生して溶融が著しく遅くなり、溶融性状は不可(×)、総合評価も不可(×)であった。硝酸カリウムを用いた比較例2は吸湿がなく、吸湿性は良好(◎)であったが、硝酸カリウムの融点が低すぎるとともに反応が激しく、溶融性状は不可(×)、総合評価も不可(×)であった。
【0031】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。