(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
四塩化チタン溶液又はチタンフッ化水素酸溶液と、アルカリ金属水溶液又はアンモニア水溶液とを反応させて、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、チタンとを含有したチタン水和物を生成し、次に、これらの水和物とフッ化水素とを反応させてフッ素化チタンの水和物を生成し、さらにペルオキソ化することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(a)フッ素化チタン酸化物を含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液の製造方法。
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
四塩化チタン溶液又はチタンフッ化水素酸溶液と、アルカリ金属水溶液又はアンモニア水溶液とを反応させて、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、チタンとを含有したチタン水和物を生成し、さらにこれらのチタン水和物の生成前又は生成後にドープさせる金属又はその他の無機の化合物の水溶液を添加してこれらの金属又はその他の無機物がドープされたチタンの水和物を生成し、次に、これらの水和物とフッ化水素とを反応させてフッ素化チタンの水和物を生成し、さらにペルオキソ化することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物を含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液の製造方法。
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
四塩化ケイ素溶液又はケイフッ化水素酸溶液と、アルカリ金属水溶液又はアンモニア水溶液とを反応させて、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、ケイ素とを含有したケイ素水和物を生成し、次に、これらの水和物とフッ化水素とを反応させてフッ素化ケイ素の水和物を生成し、アルカリ溶液で中和後アルコールを添加することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(c)フッ素化ケイ素酸化物を含む基体表面保護膜の造膜液に含有される水酸基又は水酸基とメチル基とを修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造方法。
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
四塩化ケイ素溶液又はケイフッ化水素酸溶液と、アルカリ金属水溶液又はアンモニア水溶液とを反応させて、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、ケイ素とを含有したケイ素水和物を生成し、さらにこれらのケイ素水和物の生成前又は生成後にドープさせる金属又はその他の無機化合物の水溶液を添加してこれらの金属又はその他の無機物がドープされたケイ素の水和物を生成し、次に、これらの水和物とフッ化水素とを反応させてフッ素化ケイ素の水和物を生成し、アルカリ溶液で中和後アルコールを添加することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物を含有する基体表面保護膜の造膜液に含有される水酸基又は水酸基とメチル基とを修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造方法。
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
メチルシリケートと触媒と純水とメチルアルコールとを反応させ加水分解してシリカゾルを生成し、このシリカゾルにフッ化水素を添加し、アンモニア水溶液で中和することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(c)フッ素化ケイ素酸化物を含む基体表面保護膜の造膜液に含有される水酸基又は水酸基とメチル基とを修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造方法。
基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能とを与えるためにフッ素基を有した以下に記載する(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液の製造方法であって、
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
メチルシリケートと触媒と純水とメチルアルコールとを反応させ加水分解してシリカゾルを生成し、このシリカゾルの生成の前後にドープさせる金属又はその他の無機化合物の水溶液を添加して、これらの金属又はその他の無機物がドープされたフッ素化シリカゾルを生成し、加熱後アンモニア水溶液で中和することを特徴とする、上記(a)〜(d)の少なくともいずれかを含む基体表面保護膜の造膜液に含有されるフッ素化過酸化チタン水溶液又はフッ素化ケイ素水溶液のうち、(d)正電荷を有する金属若しくは正電荷を有するその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物を含む基体表面保護膜の造膜液に含有される水酸基又は水酸基とメチル基とを修飾した正電荷を有する金属若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素水溶液の製造方法。
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載した製造方法により製造した水溶液に、さらに正電荷物質を含有する溶液又は水液を混合した、基体表面保護膜の造膜液の製造方法。
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載した製造方法により製造した水溶液に、さらに撥水性及び/又は撥油性を有する物質を含有する溶液又は水液を混合した、基体表面保護膜の造膜液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態について説明する。
概要
本願発明は、基体表面に撥水・撥油機能と正及び負に帯電させる機能(両性電荷付与機能)とを与えるための基体表面保護膜、その基体表面保護膜を基体表面に形成するための造膜液及びその製造方法等を提供するものである。
【0030】
本願発明による基体表面保護膜は、基体表面に撥水・撥油機能を与えるために、まず、フッ素基を有する以下の(a)〜(d)のチタン酸化物又はケイ素酸化物を含有する。
【0031】
(a)フッ素化チタン酸化物
(b)正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
(c)フッ素化ケイ素酸化物
(d)正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
これらの(a)〜(d)の物質は、いずれも基体表面に膜を形成する場合に、ノーバインダーで基体に固着することができる。
【0032】
ここで、「フッ素化」とは、フッ素基を導入するという意味合いで用いており、チタン、ケイ素、チタン酸化物やケイ素酸化物の表面にフッ素基が吸着されている態様、チタン、ケイ素、チタン酸化物やケイ素酸化物の格子にフッ素基がドープされている態様を含み、フッ素基がチタン、ケイ素、チタン酸化物やケイ素酸化物に修飾され、あるいはチタン、ケイ素、チタン酸化物やケイ素酸化物と共存している状態をいう。基体表面保護膜の造膜成分としての上記(a)〜(d)は発明者が知る限り新規な物質である。なお、上記(a)〜(d)の物質は、基体表面保護膜又は造膜液において、結晶体あるいは粒子、アモルファス型酸化チタンでは微細不定形物質、として存在する。
【0033】
また、本願発明による基体表面保護膜は、基体表面に安定した正及び負の両性にバランスよく帯電させる機能を提供するために、上記の(a)〜(d)の少なくともいずれかの基体表面保護膜含有物質に、さらに正電荷物質を含有させることができる。ここで、正電荷物質とは、基体表面保護膜に含有させることにより基体の表面を正に帯電させる物質をいう。例えば、(a)及び(c)は、フッ素化されることにより負電荷を呈するので、正電荷物質を含有させることにより、基体表面を正及び負に帯電させることが出来る。また、(b)及び(d)は、その物質自体で正及び負の両性電荷を呈するが、正電荷強度が十分でない場合はさらに正電荷物質を含有させることが出来る。
【0034】
本願発明による基体表面保護膜は、上記した(a)〜(d)の物質に、上記した正電荷物質の含有の有無に係らず、「撥水」及び/又は「撥油」性能を有する物質をさらに混合することが出来、これにより「撥水」及び「撥油」機能のバランスの向上やこれらの機能の強化、電荷のバランスの調整が可能となる。
【0035】
以下、基体表面への両性電荷付与機能、(a)〜(d)の各基体表面保護膜含有物質及びその製造方法、基体表面保護膜にさらに含有させる正電荷物質、基体表面保護膜にさらに含有させる「撥水」及び/又は「撥油」性能を有する物質、これらの物質の混合複合化方法、本発明が適用される基体について順次説明する。
【0036】
<基体表面への両性電荷付与機能>
本発明による基体表面保護膜は、フッ素化したチタン酸化物又はケイ素酸化物に、正電荷物質を複合化することにより、基体表面に撥水・撥油機能と安定した正及び負の両性に帯電させる機能とを提供することを特徴とする。
【0037】
本発明で使用される基本物質としての撥水・撥油性を有するフッ素は、元素中最も電気陰性度の大きい物質であり、このフッ素を修飾あるいは共存させる物質として、チタン酸化物やケイ素酸化物、正電荷を有する金属若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたチタン酸化物やケイ素酸化物が選択されるのは、これらの物質が基体表面に正電荷を付与する正電荷物質に介在させる誘電体又は半導体として優れた誘電特性や半導体特性を有しており、基体表面に安定して均一な帯電機能を提供できること、さらにコストの点や透明で硬質のノーバインダー膜を形成することができるという成膜機能の点からも優れているからである。このように、電気陰性度の大きいフッ素を修飾あるいは共存させたチタン酸化物やケイ素酸化物(金属若しくはその他の無機物や陽イオンをドープしたものを含む)と、正電荷物質とを基体表面保護膜に含有させることにより、基体表面に撥水・撥油機能と安定した正及び負の両性に帯電させる機能とを提供することが可能となる。
【0038】
また、出願人は、特願2015−257483号において、基体表面又は表面層において、酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)と、酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を除いた誘電体や半導体を一種以上複合させると、基体表面又は基体表面層が正、負、あるいは正と負の両性に帯電することを開示した。従って、この技術を利用することにより、本願発明による基体表面保護膜においても、チタン酸化物(これらの化合物も含む)とチタン酸化物(これらの化合物も含む)を除いた半導体又は誘電体とを、あるいは、ケイ素酸化物(これらの化合物を含む)とケイ素酸化物(これらの化合物を含む)を除いた半導体又は誘電体と、を共存させ、チタン酸化物又はケイ素酸化物をフッ素化することにより、基体表面に撥水・撥油機能と安定した正及び負の両性に帯電させる機能とを提供することができる。
【0039】
以下、
図1〜
図4を用いて、基体表面における電荷形成の原理について説明する。
【0040】
図1(1)は、正電荷を有する導電体(正電荷物質)と、半導体又は誘電体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)とを使用して、基体表面に正電荷を付与する原理を模式的に示した図である。なお、これらの導電体や半導体又は誘電体は、結晶体又は粒子、あるいは微細不定形物質である。図(1)では、正電荷を有する導電体に、誘電体又は半導体としての酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)とが隣接した状態で、基体表面に層が形成されている。正電荷を呈する導電体は、内部に自由に移動できる自由電子が高い濃度で存在し、励起により形成層の表面に正の電子が集中することで、正の電荷状態を持つことになる。導電体に隣接する誘電体又は半導体は、導電体の表面電荷状態の影響により誘電分極され、正電荷を有する導電体に隣接する側には負電荷の状態が発生し、その対極側には正の電荷の状態が発生する。従って、形成されたこれらの結晶体又は粒子の層の表面には、均一かつ均等な正電荷が形成される。本願発明による基体表面保護膜においては、半導体又は誘電体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)をフッ素化することにより負電荷を発生させ、この酸化チタン又は酸化ケイ素に正電荷物質を複合化することにより、基体表面に撥水・撥油機能と安定した正及び負の両性に帯電させる機能とを提供する。
【0041】
図1(2)では、半導体又は誘電体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)と、酸化チタン又は酸化ケイ素を除く半導体又は誘電体とを隣接させることにより、基体表面に正電荷を発生させる態様を示している。本願発明による基体表面保護膜においては、半導体又は誘電体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)をフッ素化することにより負電荷を発生させ、酸化チタン(これらの化合物を含む)を用いる場合には酸化チタン(これらの化合物を含む)を除いた半導体又は誘電体を複合化することにより、また、酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を用いる場合には酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を除いた半導体又は誘電体を複合化することにより、基体表面に撥水・撥油機能と安定した正及び負の両性に帯電させる機能とを提供する。
【0042】
図2は、本願発明による基体表面保護膜を基体Sに形成した状態を模式的に示した図である。
図2(1)では、○で示すフッ素化された誘電体又は半導体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)と、●で示す正の導電体又は酸化チタン若しくは酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を除く誘電体若しくは半導体とが隣接して基体Sに形成された基体表面保護膜の例を示している。また、
図2(2)では、○で示すフッ素化された誘電体又は半導体である酸化チタン又は酸化ケイ素(これらの化合物を含む)と、●で示す正の導電体又は酸化チタン若しくは酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を除く誘電体若しくは半導体に、さらにフッ素樹脂等の撥水・撥油性を有する負電荷物質を混合して基体Sに形成された基体表面保護膜の例を示している。なお、図中、F
−は、フッ素基を示している。
【0043】
図3及び
図4は、前段で記載した(a)〜(d)の基体表面保護膜含有物質のうち、(b)に記載した物質の基体表面保護膜における態様及び(b)を使用した基体Sの表面の造膜断面を模式的に示した図であり、原理的には(d)に記載した物質についても同様である。
【0044】
図3(1)は、(b)、すなわち、正電荷を有する金属若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物の基体表面保護膜における態様を模式的に示しており、M
+は、チタン酸化物にドープされた正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンを示している。チタン酸化物はフッ素化されているために、チタン酸化物にはフッ素基が修飾あるいは共存されている。F
−は、フッ素基を表している。
図3(2)及び(3)では、M
+は●、フッ素化チタン酸化物は○で表現されている。
【0045】
図3(1)では、M
+をチタン酸化物が内包するコロイド粒子としての態様を示しており、M
+とチタン酸化物とを含む造膜液を基体に塗布して加熱又は乾燥させることにより基体表面に固着させたときに、チタン酸化物がM
+を内包してコロイド粒子となり、
図3(2)のように基体Sの表面にこのコロイド粒子が接合された層が形成される。このコロイド粒子では、チタン酸化物がフッ素化されて負電荷を呈するとともに、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンがドープされているので、コロイド粒子が基体Sの表面に接合されていれば、正及び負の両電荷を付与できる。なお、このままの状態であると電気陰性度が強い場合は、さらに正電荷物質を複合化することができる。
【0046】
また、
図3(3)では、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物と正電荷物質にさらにフッ素樹脂等の撥水・撥油性を有する負電荷物質を複合化した基体表面保護膜の態様を示している。
【0047】
図4(1)は、(b)、すなわち、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物の基体表面保護膜における他の態様を模式的に示しており、M
+は、チタン酸化物にドープされた正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンを示している。チタン酸化物はフッ素化されているために、チタン酸化物にはフッ素基が修飾あるいは共存されている。F
−は、フッ素基を表している。
図4(2)及び(3)では、M
+は●、フッ素化チタン酸化物は○で表現されている。
【0048】
図4(1)では、M
+とチタン酸化物とが、分子レベルの複合体としての、ペロブスカイト型又はペロブスカイト型疑似結晶粒子としての態様を示しており、外側に表示されている円によって、粒子が内部にイオンを取り込んだ結晶構造又は疑似結晶構造であることを示している。チタン酸化物を形成するTi分子とO
2分子又はO
3分子とが溶液中で解離した状態で、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンを、分子イオン状態で反応させ、酸性剤・アルカリ性剤あるいは電磁波照射等により固体化させることにより、複合結晶物を生成する。この複合結晶物は、一般的に知られている内部に複合分子がイオンとして取り込まれたペロブスカイト型の結晶構造又は疑似結晶構造を有しており、
図4(2)のように基体Sの表面にこの複合結晶物粒子が接合された層が形成される。その複合結晶粒子からは、Tiが正電荷として、O
2が負電荷として機能し、内包されるのは正電荷物質としてのイオンなので、この複合結晶粒子は基体Sの表面において正電荷を呈するが、フッ素基が強い負電荷を呈するので、基体表面に正及び負に帯電した状態を付与することができる。このままの状態であると電気陰性度が強い場合は、さらに正電荷物質を複合化することができる。
【0049】
また、
図4(3)では、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物と正電荷物質にさらにフッ素樹脂等の撥水・撥油性を有する負電荷物質を複合化した基体表面保護膜の態様を示している。
【0050】
<基体表面保護膜含有物質>
前段で基体表面保護膜含有物質(a)〜(d)として記載した各物質を含有した基体表面保護膜を形成するためには、これらの物質を含む造膜液に基体を浸漬してディップコーティングを行い、あるいはこのような造膜液を、基体の表面にスプレー、ロール、刷毛、スポンジ等や、スリットコータ、スピンコータ等の各種コータ類装置を用いて塗布した後、乾燥又は加熱により溶媒を揮散させる工程を経て造膜することができる。以下では、(a)〜(d)について、それぞれ造膜液の製造方法を説明する。
【0051】
(a)フッ素化チタン酸化物
フッ素化チタン酸化物を含有する基体表面保護膜を造膜するために用いる造膜液の例として、フッ素化過酸化チタンTi(OH)F
3又はTi(OH)
n(OOH)
mF
2水溶液の製造方法を、
図5を用いて説明する。
【0052】
出発原料として、チタンの塩化物である四塩化チタン溶液又はチタンのフッ化物であるチタンフッ化水素酸溶液と、アンモニア水又はアルカリ金属水(水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液等)とを、各々希釈した上で混合する。
【0053】
この第1段階の混合によって、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、チタンとを含有したチタン水和物が生成され、沈殿する。この沈殿物中の余剰のアンモニアイオン、塩素イオン、アルカリ金属イオン、又はフッ素イオンを除去・洗浄し、フッ素化チタン酸化物の生成のためのフッ化水素酸を添加して反応促進し、アンモニア水などのアルカリ溶液を添加して不純物を除去した後、生成されたフッ素化チタンの水和物を収集し、過酸化水素水を添加して加水分解(酸化)すると、フッ素化過酸化チタン水溶液が出来上がる。なお、フッ化水素酸を添加した後、チタン酸化物との反応を促進するために、50℃程度で加温してもよい。
【0054】
(b)正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物
正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物を含有する基体表面保護膜を造膜するために用いる造膜液の例として、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液の製造方法を、
図6を用いて説明する。
【0055】
図5で説明したフッ素化過酸化チタンの製造方法の製造工程において、チタンの塩化物である四塩化チタン溶液又はチタンのフッ化物であるチタンフッ化水素酸溶液と、アンモニア水又はアルカリ金属水(水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液等)との反応の前後に、ドープする物質の金属若しくは無機物の化合物又はこれらのイオンを添加し、ドープ用物質が複合したチタン水和物の沈殿物を生成し、以降(a)と同一の工程を経て、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素過酸化チタン水溶液が出来上がる。
【0056】
なお、ドープされる金属又はその他の無機物を得るために混合されるニッケル、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、金、銀、白金、リチウム、ナトリウム、ケイ素、カリウム、ジルコニウム、セリウム、ハフニウムの化合物の例としては、それぞれ以下のものが例示できる。
【0057】
Ni化合物:Ni(OH)
2、NiCl
2等
Co化合物:Co(OH)NO
3、Co(OH)
2、CoSO
4、CoCl
2等
Cu化合物:Cu(OH)
2、Cu(NO
3)
2、CuSO
4、CuCl
2等
Mn化合物:MnNO
4、MnSO
4、MnCl
2等
Fe化合物:Fe(OH)
2、Fe(OH)
3、FeCl
3等
Zn化合物:Zn(NO
3)
2、ZnSO
4、ZnCl
2等
Au化合物:AuCl、AuCl
3、AuOH、Au(OH)
4、等
Ag化合物:AgNO
3、AgF、AgClO
3、AgOH、Ag(NH
3)OH、Ag
2SO
4等
Pt化合物:PtCl
2、PtO、Pt(NH
3)Cl
2、PtO
2、PtCl
4、[Pt(OH)
6]
2−等
Li化合物:LiOH、Li
2CO
3、LiCl等
Na化合物:NaOH、NaCl、Na
2CO
2等
Si化合物:SiO
2、SiH
4、SiCl
4等
K化合物:KOH、K
2O、KCl等
Zr化合物:Zr
2O、Zr(OH)
2、ZrCl等
Ce化合物:CeO
2、CeCl
2等
Hf化合物:HfCl
2、Hf(OH)
2等。
【0058】
(c)フッ素化ケイ素酸化物
フッ素化ケイ素酸化物を含有する基体表面保護膜を造膜するために用いる造膜液の例として、水酸基又は水酸基とメチル基とを修飾したフッ素化ケイ素Si(OH)F
3又はSi(OH)(CH
3)F
2水溶液の製造方法を、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0059】
図7で示す工程において、出発原料として、ケイ素の塩化物である四塩化ケイ素溶液又はケイ素のフッ化物であるケイフッ化水素酸溶液と、アンモニア水又はアルカリ金属水(水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液等)とを、各々希釈した上で混合する。
【0060】
この第1段階の混合によって、塩素イオンとアンモニウムイオン、塩素イオンとアルカリ金属イオン、フッ素イオンとアンモニウムイオン、又は、フッ素イオンとアルカリ金属イオンのいずれかと、ケイ素とを含有したケイ素水和物が生成され、沈殿する。この沈殿物中の余剰のアンモニアイオン、塩素イオン、アルカリ金属イオン、又はフッ素イオンを除去・洗浄して水酸化物を生成し、フッ素化ケイ素酸化物の生成のための4%フッ化水素酸を添加して酸溶解した後、加熱工程を経て、アンモニア水などのアルカリ溶液を添加して中和し不純物を除去し、メチルアルコールを添加して、水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液が出来上がる。
【0061】
他の製造方法として、
図8に示すように、メチルシリケートと触媒及び純水とメチルアルコールとを反応させて加水分解後、シリカゾルを生成しておき、
図7の工程と同様に、4%フッ化水素酸を添加して加熱し、アンモニア水で中和後洗浄し精製して、水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液が出来上がる。
【0062】
(d)正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物
正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物を含有する基体表面保護膜造膜するために用いる造膜液の例として、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープした水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造方法を、
図9及び
図10を用いて説明する。
【0063】
図9に示す工程では、
図7で説明した水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造工程において、ケイ素の塩化物である四塩化ケイ素溶液又はケイ素のフッ化物であるケイフッ化水素酸溶液と、アンモニア水又はアルカリ金属水(水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液等)との反応の前後に、ドープする物質の金属若しくは無機物の化合物又はこれらのイオンを添加し、反応時の不純物を除去して、ドープ用物質が複合したケイ素水酸化物を生成する。水和物の沈殿物を精製し、以降(c)の
図7と同一の工程を経て、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープした水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液が出来上がる。なお、ドープされる金属又はその他の無機物を得るために混合されるニッケル、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、金、銀、白金、リチウム、ナトリウム、カリウム、ジルコニウム、セリウム、ハフニウムの化合物の例としては、
図6で説明した正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液で説明したものと同様である。
【0064】
図10に示す工程では、
図8で説明した水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液の製造工程において、メチルシリケートと触媒及び純水とメチルアルコールとを反応させて加水分解してシリカゾルの生成前後に、ドープする物質の金属若しくは無機物の化合物又はこれらのイオンを添加し、フッ化水素酸を添加の上、酸溶解して加熱し、アンモニア水で中和洗浄後に、正電荷を有する金属若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープした水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液が出来上がる。なお、ドープされる金属又はその他の無機物を得るために混合されるニッケル、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、金、銀、白金、リチウム、ナトリウム、カリウム、ジルコニウム、セリウム、ハフニウムの化合物の例としては、
図6で説明した正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液で説明したものと同様である。
【0065】
<基体表面保護膜に混合複合化する正電荷物質>
本発明による基体表面保護膜は、前段で基体表面保護膜含有物質として記載した(a)及び(c)については、正電荷物質を含有させることにより、(b)及び(d)については、正電荷強度が十分でない場合はさらに正電荷物質を含有させることにより、バランスのよい両性電荷付与膜を形成することができる。
【0066】
上記した正電荷物質は、下記の(e)及び(f)から選択される少なくとも1種の正電荷を有する物質である。
【0067】
(e)陽イオン
(f)正電荷を有する導電体、正電荷を有する導電体と誘電体又は半導体との複合体、正電荷を有する2種以上の誘電体又は半導体からなる複合体
以下、(e)及び(f)について説明する。
【0068】
(e)陽イオン
正電荷物質として用いる陽イオンとしては、特に限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のイオン;カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン;アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、コバルト、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属元素のイオンが好ましく、特に銅イオンが好ましい。さらに、メチルバイオレット、ビスマルクブラウン、メチレンブルー、マラカイトグリーン等のカチオン性染料、第4級窒素原子含有基により変性されたシリコーン等のカチオン基を備えた有機分子も使用可能である。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陽イオンが使用可能である。
【0069】
上記した陽イオンとしての金属イオンの供給源として、金属塩を使用することも可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、炭酸バリウム等の各種の金属塩が挙げられる。更に、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化クロム、水酸化インジウム等の金属水酸化物、ケイタングステン酸等の水酸化物、または、油脂酸化物等の酸化物等も使用可能である。
【0070】
(f)正電荷を有する導電体、正電荷を有する導電体と誘電体又は半導体との複合体、正電荷を有する2種以上の誘電体又は半導体からなる複合体
正電荷を有する導電体としては、上記の陽イオン以外の、正電荷が発生した導電体を挙げることができ、例えば、後述する各種の導電体からなる電池の正電極、並びに、摩擦により正に帯電した羊毛、ナイロン等の誘電体が挙げられる。
【0071】
本発明において使用される導電体は耐久性の点から金属が好ましく、アルミニウム、錫、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、銅、マンガン、白金、タングステン、亜鉛等の金属が挙げられる。また、これらの金属の酸化物や複合体又は合金も使用することができる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
【0072】
上記した導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第2白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、塩化亜鉛等の各種の金属塩が例示できる。また、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等の水酸化物又は酸化物等も使用可能である。
【0073】
さらに、上記した導電体としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等の導電性高分子も使用可能である。
【0074】
正電荷物質を形成するための導電体との複合体を構成する半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、Inp、GeN、ZnSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。好ましくは、酸化チタン(TiO
2)の他に、ZnO、SrTiOP
3、CdS、CdO、CaP、InP、In
2O
3、CaAs、BaTiO
3、K
2NbO
3、Fe
2O
3、Ta
2O
3、WO
3、NiO、Cu
2O、SiC、SiO
2、MoS
3、InSb、RuO
2、CeO
2等が使用されるが、半導体として使用する場合は、Na等で光触媒能を不活性化したものが好ましい。
【0075】
又、導電体との複合体を構成する誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げる PZT、PLZT―(Pb、La)(Zr、Ti)O
3、SBT、SBTN―SrBi
2(Ta、Nb)
2O
9、BST―(Ba、Sr)TiO
3、LSCO―(La、Sr)CoO
3、BLT、BIT―(Bi、La)
4Ti
3O
12、BSO―Bi
2SiO
5等の複合金属が使用可能である。また、有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコーン化合物、いわゆる有機変性シリカ化合物も、使用可能である。
【0076】
<基体表面保護膜に混合複合化する酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(酸化チタン及び/又は酸化ケイ素の化合物を含む)を除いた誘電体や半導体>
すでに概要や
図1(2)を用いて説明したように、フッ素を修飾させた酸化チタン(これらの化合物を含む)を用いる場合には酸化チタン(これらの化合物を含む)を除いた半導体又は誘電体を1種以上複合化することにより、また、フッ素を修飾させた酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を用いる場合には酸化ケイ素(これらの化合物を含む)を除いた半導体又は誘電体を1種以上複合化することにより、基体表面が、両性電荷に帯電する。
【0077】
従って、本発明による基体表面保護膜は、前段で基体表面保護膜含有物質として記載した(a)及び(c)に対し、さらに酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(酸化チタン及び/又は酸化ケイ素の化合物を含む)を除いた誘電体や半導体を混合複合化させることにより、両性電荷付与膜を形成することができる。
【0078】
また、基体表面保護含有物質として記載した(b)及び(d)については、正電荷強度が十分でない場合はさらに酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(酸化チタン及び/又は酸化ケイ素の化合物を含む)を除いた誘電体や半導体を混合複合化させることにより、目的に合ったバランスの両性電荷付与膜を形成することができる。
【0079】
なお、これらの誘電体や半導体の詳細については、酸化チタンや酸化ケイ素を除いて、前段で説明したものと同様である。
【0080】
<基体表面保護膜に混合複合化する撥水性及び/又は撥油性を有する物質>
前段において、本発明による基体表面保護膜では、基体表面保護膜含有物質として記載した(a)〜(d)の物質に、正電荷物質、又は、酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(酸化チタン及び/又は酸化ケイ素の化合物を含む)を除いた誘電体や半導体を混合複合化させることを説明したが、これらの物質にさらに、撥水性及び/又は撥油性を有する物質を混合複合化することにより、目的に合ったバランスの両性電荷付与膜を形成することができる。
【0081】
この撥水性及び/又は撥油性を有する物質として、フッ素系の樹脂を用いることができる。例えば、いわゆる四フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やPVF、PVDF、PCTFE等が、また、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンポリマー(ETFE)等を用いることができる。
【0082】
また、上記のフッ素系樹脂以外の物質としては、撥水・撥油性を有する有機物質として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリアクリレート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル;ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン・プロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート等のポリエステル;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;ポリイミド樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;ポリウレタン;シリコーン樹脂;アクリルシリコーン樹脂等の変性シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0083】
上記の撥水・撥油性を有する有機物質中、フッ素樹脂が好ましく、特に、強誘電性と撥水・撥油性を有するフッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドのβ型結晶体及びそれを含有するものが好ましい。フッ素樹脂としては市販のものを使用することが可能であり、市販品としては、例えば、NTT−AT株式会社製のHIREC1550等が挙げられる。
【0084】
さらに、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンと炭化水素モノマーとの共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体と熱可塑性アクリル樹脂との混合物とからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂と界面活性剤とからなるフッ素樹脂エマルジョン、並びに、硬化剤(特開平5−124880号公報、特開平5−117578号公報、特開平5−179191号公報参照)及び/又は上記シリコーン樹脂系撥水剤からなる組成物(特開2000−121543号公報、特開2003−26461号公報参照)も使用することができる。このフッ素樹脂エマルジョンとしては、市販されているものを使用することでき、ダイキン工業株式会社よりゼッフルシリーズとして、旭硝子株式会社よりルミフロンシリーズとして、それぞれ購入可能である。上記硬化剤としては、メラミン硬化剤、アミン系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、及び、ブロック多価イソシアネート系硬化剤の使用が好ましい。
【0085】
本発明による「撥水」「撥油」「両性電荷」の機能を備えた基体表面保護膜を形成する基体が吸水性を有する場合や、この基体表面保護膜において撥水性を補完する場合に用いる無機系材料としては、例えば、シラン系、シリコネート系、シリコーン系及びシラン複合系、又は、フッ素系の撥水剤あるいは吸水防止材等を挙げることができる。特にフッ素系撥水剤が好ましく、例としては、パーフルロロアルキル基含有化合物などの含フッ素化合物又は含フッ素化合物含有組成物が挙げられる。なお、基体表面への吸着性が高いフッ素化合物を中間層に含む場合は、基体表面に適用した後、撥水剤又は吸水防止材の化学成分が基体と反応して化学結合を生じたり、化学成分同士が架橋したりする必要は必ずしもない。
【0086】
このようなフッ素系撥水剤として用いることが出来る含フッ素化合物は、分子中にパーフルオロアルキル基を含有する分子量1,000〜20,000のものが好ましく、具体手的には、パーフルオロスルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。中でも、基体表面への吸着性に優れることから、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及び、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。このような材料としては、サーフロンS−112、及びサーフロンS−121(共に商品名、セイミケミカル株式会社製)などが市販されている。
【0087】
なお、吸水性の高い基体の場合では、撥水・撥油・両性電荷物質の層の下に、シラン化合物を含む中間層を予め基体上に形成した場合、この中間層は、Si−O結合を大量に含有する為、撥水・撥油・両性電荷物質の層の強度や基体との密着性を向上することが可能になる。
【0088】
前記シラン化合物としては、加水分解性シラン、その加水分解物及びこれらの混合物が挙げられる。加水分解性シランとしては各種のアルコキシシランが使用でき、具体的には、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシランが挙げられる。これらの内、1種類の加水分解性シランを単独で使用してもよく、必要に応じて2種類以上の加水分解性シランを混合して使用してもよい。またこれらのシラン化合物に、各種のオルガノポリシロキサンを配合してもよい。このようなシラン化合物を含有する中間層の構成材料としては、例えば、ドライシールS(東レ・ダウコーニング株式会社製)がある。
【0089】
また、中間層の構成材料としては、メチルシリコーン樹脂及びメチルフェニルシリコーン樹脂等の室温硬化型シリコーン樹脂を使用してもよい。このような室温硬化型シリコーン樹脂としては、例えば、AY42−170、SR2510、SR2406、SR2410、SR2405、SR2411(東レ・ダウコーニング株式会社製)がある。
【0090】
<基体表面保護膜含有物質と、正電荷物質と、撥水性及び/又は撥油性を有する物質との混合複合化方法>
次に、基体表面保護膜含有物質と、正電荷物質と、撥水性及び/又は撥油性を有する物質との混合複合化方法についての好ましい例を以下に説明する。
【0091】
例えば、基体表面保護膜の造膜液として、基体表面保護膜含有物質(a)に対応するフッ素化過酸化チタン水溶液、(b)に対応する正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液、(c)に対応する水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液、(d)に対応する正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープした水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液、のそれぞれと、正電荷物質や撥水性及び/又は撥油性を有する物質と、をどのように混合複合化するかについて説明する。
【0092】
なお、上記した各物質の水溶液は、水液及び溶液を含み、水溶液に含まれる各物質の態様は、微細粒子による態様を含むものとする。
【0093】
1.フッ素化過酸化チタン水溶液と正電荷物質とフッ素樹脂との複合液の製造法
負電荷を呈するフッ素化過酸化チタン水溶液と、正電荷物質と、負電荷を呈するフッ素樹脂との複合比は、本発明の目的である「撥水・撥油・両性電荷」膜表面を形成するに当たって、対象となる汚染物の静電反撥機能付与に最適な両性電荷バランスから選択される。
【0094】
例えば、負電荷物質と正電荷物質の各々の電荷強度が相似している場合には、負電荷物質と正電荷物質とを1:1で膜表面に配置すれば、等電点にある両性電荷膜が形成される。そのうち、負電荷を呈するフッ素化過酸化チタン水溶液とフッ素樹脂の配分は、撥水・撥油特性強度や膜固定温度等から選択される。
【0095】
2.正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液とフッ素樹脂との複合液の製造法
正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液(正電荷及び負電荷を呈する)と、負電荷を呈するフッ素樹脂の複合比は、上記1.と同様に本発明の目的である「撥水・撥油・両性電荷」膜表面を形成するに当たって、対象となる汚染物の静電反撥機能付与に最適な両性電荷バランスと表面膜形成条件の優良性から選択される。表面膜を電荷バランスの両性電荷等電点の正側に配する場合は、正電荷物質を添加しても良い。
【0096】
3.水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液と正電荷物質とフッ素樹脂との複合液の製造方法
負電荷を呈する水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液と、正電荷物質と、負電荷を呈するフッ素樹脂との複合比は、上記した1.及び2.と同様に、電荷バランスと表面膜形成条件の優良性から選択される。
【0097】
4.正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化過酸化チタン水溶液とフッ素樹脂との複合液の製造法
正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープした水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液(正電荷及び負電荷を呈する)と、負電荷を呈するフッ素樹脂の複合比は、上記2.と同様に本発明の目的である「撥水・撥油・両性電荷」膜表面を形成するに当たって、対象となる汚染物の静電反撥機能付与に最適な両性電荷バランスと表面膜形成条件の優良性から選択される。表面膜を電荷バランスの両性電荷等電点の正側に配する場合は、正電荷物質を添加しても良い。
【0098】
なお、概要でも述べたように、本願発明による基体表面保護膜は、基体表面に撥水・撥油機能を与えるために、まず、フッ素化したチタン酸化物又はケイ素酸化物を含有するものであり、さらに基体表面への正及び負の両電荷付のための正負電荷バランスを調整するために正電荷物質を含有させ、また、同様に正負電荷バランスと撥水又は撥油機能のバランスや強化のために、撥水性及び/又は撥油性を有する物質を含有させることが出来るものである。上記に記載した基体表面保護膜含有物質と、正電荷物質と、撥水性及び/又は撥油性を有する物質との混合複合化方法は、本願発明の好ましい例の一部を記載したものであり、本願発明は上記した例に限定されることはない。例えば、フッ素化チタン酸化物の造膜液として、フッ素化過酸化チタン水溶液と記載し、フッ素化ケイ素酸化物の造膜液として、水酸基又は水酸基とメチル基を修飾したフッ素化ケイ素水溶液を上記で記載しているが、基体表面保護膜中にフッ素化チタン酸化物やフッ素化ケイ素酸化物を含有させるものであれば、他の物質も用いることが可能である。また、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化チタン酸化物や、正電荷を有する金属又若しくはその他の無機物又は陽イオンをドープしたフッ素化ケイ素酸化物を含有させるだけで、基体表面に撥水・撥油機能と両性電荷付与機能を満足させることが出来るのであれば、さらに正電荷物質を複合化する必要はない。
【0099】
造膜液の調整方法についても、フッ素化したチタン酸化物又はケイ素酸化物を含有する基体表面保護膜を形成できるものであれば、上記に記載した造膜液又は造膜液の調整方法に限定されることはない。また、上記した例では、フッ素化したチタン酸化物又はケイ素酸化物にさらに含有させる撥水性及び/又は撥油性を有する物質としてフッ素樹脂を使用しているが、すでに説明している通り、様々な物質を用いることができ、撥水性又は撥油性のいずれかのみを有する物質を複合化することも出来る。
【0100】
本発明による基体表面保護膜は、基体表面保護膜含有物質として記載した(a)〜(d)、正電荷物質、撥水性及び/又は撥油性を有する物質に、さらに、組成材分散目的や成膜性向上・促進のための有機溶材やフッ素樹脂以外の高分子樹脂バインダーを含有させてもよい。また、負電荷強化のために別途負電荷金属及び/又は陰イオン物質が添加されていても両性電荷を形成する目的であれば構わない。さらに、ガラス表面に弗酸稀釈液によるガラス成分のシリカのフッ素化を直接起こして、その上に正電荷粒子膜液を塗布させると、各膜液固定温度又は電磁波照射条件による乾燥工程後には、表面に、正電荷粒子膜表面からは正を、その膜の下部であるフッ素化したガラス表面からは正電荷粒子空隙を介してフッ素基の負の電荷が表出することにより、両性電荷を有する撥水、撥油の機能を付与することができる。
【0101】
<基体について>
本発明の対象となる基体の材質は、特に限定されるものではなく、各種の親水性又は疎水性の無機系基体及び有機系基体、あるいは、それらを組み合わせたものを使用することができる。
【0102】
無機系基体としては、例えば、ソーダライムガラス等の透明または不透明ガラス、ジルコニア等の金属酸化物、セラミックス、コンクリート、モルタル、石材、金属等の物質からなる基体が挙げられる。また、有機系基体としては、例えば、有機樹脂、木材、紙、布等の物質からなる基体が挙げられる。有機樹脂をより具体的に例示すると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET等のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーン、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース、エポキシ変性樹脂等が挙げられる。
【0103】
本発明の対象となる基体の形状は、特に限定されるものではなく、立方体、直方体、球形、シート形、繊維状等の任意の形状をとることができる。なお、基体は多孔質であってもよい。基体表面は、コロナ放電処理又は紫外線照射処理等によって親水性化されていてもよい。基体としては、建築・土木内外装用基板や、空気清浄機、空調機内外及び熱交換フィン機器、装置搬送用ボディ内外、車両、表示画面等の用途基板が好適である。
【0104】
また、本発明は、空気清浄化装置(空調機等も含む)、洗濯機、調理器具等に対して適用することも可能であり、これらの機器の内部で使用される装置や発光素子等の、撥水・撥油・両性電荷表面を形成して汚染防止又は汚染の低減に効果を発揮することが出来る。
【0105】
空気清浄化装置(空気調和機も含む)の熱交換フィン、送風ファンや空気流動部分に汚染物付着防止に使用する場合には空気取り入れ口と空気吹き出し口付近に汚染物除去フィルターを取り付けることが望ましい。
【実施例】
【0106】
本願発明による基体表面保護膜を造膜した実施例として、評価基板1〜10及び評価基板11〜20を作製し、それぞれ比較基板1〜4及び比較基板5〜7との評価を行った。評価基板と比較基板を作製するための造膜液として、以下に記載する参考液1、参考液2と、水溶性フッ素樹脂と、試作液1〜6を準備した。
【0107】
参考液1:酸化チタン(誘電体:アモルファス型過酸化チタン)と、
正電荷物質(導電体:Cu)と、の複合体分散液
純水1000gに四塩化チタン(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gと97%CuCl
2・2H
2O(塩化第二銅)(日本化学産業株式会社製)0.463gを完全に溶かした溶液に、2.5%に調製したアンモニア水を滴下してpH7前後に調製して水酸化物を析出させた。この析出した水酸化物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.888mS/mになったので洗浄を終了すると、0.76wt%濃度の水酸化物が315g作製された。次に、過酸化水素水を混合し数時間反応させると、銅が修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液が得られた。さらに、この銅がドープされたアモルファス型過酸化チタン溶液100gに銅粉0.12gと35%過酸化水素水2.0gを混合し撹拌溶解させると、銅が1600ppmドープされたアモルファス型過酸化チタン溶液が作製された。
【0108】
参考液2:酸化ケイ素(半導体:ポリシリケート)と、
正電荷物質(導電体:Cu)と、の複合体分散液
メチルシリケート51(三菱化学株式会社製)30gとメタ変性アルコール60gと純水5.7gと3%塩酸0.3gとを混合し、60℃に加温しながら撹拌すると、ポリシリケート96gが作製される。さらに、この作製されたポリシリケートを純水で固形分濃度4wt%に調整し、MS−400W液を作製する。次に、このMS−400W液100gにCu粉末1.0gと35%過酸化水素水1.0gと2.5%アンモニア水とを20時間撹拌混合すると酸化ケイ素と銅の複合体分散液が作製された。
【0109】
試作液1:フッ素化過酸化チタン水溶液
(基体表面保護膜含有物質(a)の評価基板作製用)
純水1000gに50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化チタンを沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.875mS/mになったので洗浄を終了すると固形分濃度0.72wt%の水酸化物が345g作製された。
【0110】
次に、市販品の55%フッ化水素酸(日本弗素工業株式会社製)を純水で希釈して4%フッ化水素水を調製した。作製された水酸化物に4%フッ化水素水を水酸化物が透明になるまで加えた。この時のpHはpH1であった。次に、この作製された透明な溶液に25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH9.0に調製し、白色の水酸化物を析出沈降させた。この沈降物を純水で導電率が10.0mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が9.55mS/mになったので洗浄を終了するとフッ素に修飾された水酸化物が作製された。さらに、このフッ素に修飾された水酸化物を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると黄色のフッ素が修飾された固形分濃度0.91wt%の過酸化チタン懸濁液が得られた。さらに、この懸濁液を静置して沈降物を除去して透明な黄色のフッ素が修飾された過酸化チタン容液を作製した。
【0111】
試作液2:銅ドープフッ素化過酸化チタン水溶液
(基体表面保護膜含有物質(b)の評価基板作製用)
純水1000gに97%CuCl
2・2H
2O(塩化第二銅)0.926gを完全に溶かし、さらに50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化チタンを沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.883mS/mになったので洗浄を終了すると固形分濃度0.74wt%の水酸化物が345g作製された。
【0112】
次に、市販品の55%フッ化水素酸(日本弗素工業株式会社製)を純水で希釈して固形分濃度4%フッ化水素水を調製した。作製された水酸化物に4%フッ化水素水を水酸化物が透明になるまで加えた。この時のpHはpH1であった。次に、この作製された透明な溶液に25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH9.0に調製し、淡青色の水酸化物を析出沈降させた。この沈降物を純水で導電率が10.0mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が9.05mS/mになったので洗浄を終了すると銅とフッ素に修飾された水酸化物が作製された。さらに、この銅とフッ素に修飾された水酸化物を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると淡緑色の銅とフッ素が修飾された0.86wt%の過酸化チタン懸濁液が得られた。さらに、この懸濁液を静置して沈降物を除去して透明な淡緑色の銅とフッ素が修飾された過酸化チタン容液を作製した。
【0113】
試作液3:水酸基及びメチル基修飾フッソ化ケイ素水溶液
(基体表面保護膜含有物質(c)の評価基板作製用)
メチルシリケート51(三菱化学株式会社製)30g、メタノール変性アルコール60g、純水5.7g、アセチルアセトンアルミニウム0.3gを混合し、60℃に加温しながら24時間撹拌すると、固形分濃度16wt%のポリシリケート96gが作製された。さらに、この作製された液13.7gと4%フッ化水素水45.4gと純水40.9を混合調製して固形分濃度4.0wt%のフッ化珪素液を100.0g作製した。
【0114】
次に、この4.0wt%のフッ化珪素液に25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して白色析出物を得た。この析出物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄すると水酸化物が345g作製された。さらに、この水酸化物に4%フッ化水素水を透明液になるまで加えた。その時のpHはpH1であった。この液は強酸なので、2.5%アンモニア水でpH7に調製して、水酸基及びメチル基修飾フッソ化ケイ素水溶液が得られた。
【0115】
試作液4:カリウムドープ水酸基及びメチル基修飾フッ素化ケイ素水溶液
(基体表面保護膜含有物質(d)の評価基板作製用)
試作液3で作製した水酸基及びメチル基修飾フッ素化ケイ素水溶液12.5gと1%KOH(水酸化カリウム)溶液50.0gと純水37.5gを混合調製して固形分濃度1.0wt%のカリウムドープ水酸基及びメチル基修飾フッ素化ケイ素水溶液を100.0g作製した。
【0116】
試作液5:フッ素化過酸化チタン水溶液+銅ドープフッ素化過酸化チタン水溶液
+フッ素樹脂液
(基体表面保護膜含有物質(a)+(b)+撥水・撥油性を有する
物質の評価基板作製用)
試作液1で作製したフッ素化過酸化チタン水溶液と、試作液2で作製した銅ドープフッ素化過酸化チタン水溶液と、フッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロテクノロジー製)を成分比で8:1:1の割合で混合して作製した。
【0117】
試作液6:水酸基及びメチル基修飾フッソ化ケイ素水溶液+フッ素樹脂液
(基体表面保護膜含有物質(c)+(d)+撥水・撥油性を有する
物質の評価基板作製用)
試作液3で作製した水酸基及びメチル基修飾フッソ化ケイ素水溶液と、試作液4で作製したカリウムドープ水酸基及びメチル基修飾フッ素化ケイ素水溶液とフッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロテクノロジー製)を成分比で8:1:1の割合で混合して作製した。
【0118】
上記した参考液と試作液を用いて、以下の評価基板作製実施例1〜10を作製した。
【0119】
評価基板作製実施例1:フッ素化チタン酸化物(a)造膜基板
試作液1を、市販の施釉陶磁器タイル(白色)10cm角表面に約100nmの膜の厚さを想定してスポンジスキージ工法で塗布し、表面乾燥温度150℃で15分加熱して固定化し評価基板1とした。
【0120】
評価基板作製実施例2:正電荷金属ドープフッ素化チタン酸化物(b)造膜基板
試作液2を用いて、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板2とした。
【0121】
評価基板作製実施例3:フッ素化ケイ素酸化物(c)造膜基板
試作液3を用いて、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板3とした。
【0122】
評価基板作製実施例4:正電荷金属ドープフッ素化ケイ素酸化物(d)造膜基板
試作液4を用いて、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板4とした。
【0123】
評価基板作製実施例5:フッ素化チタン酸化物(a)+正電荷物質の造膜基板
試作液1と正電荷物質である参考液1を、同一濃度に調整の上7:3で混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板5とした。
【0124】
評価基板作製実施例6:フッ素化ケイ素酸化物(c)+正電荷物質の造膜基板
試作液3と正電荷物質である参考液1を、同一濃度に調整の上7:3で混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板6とした。
【0125】
評価基板作製実施例7:フッ素化チタン酸化物(a)+正電荷物質+
フッ素化樹脂の造膜基板
試作液1と、正電荷物質である参考液1と、水溶性フッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロサーフテクノロジー社製)を8:1:1の割合で、各液同一濃度に調整の上混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板7とした。
【0126】
評価基板作製実施例8:正電荷金属ドープフッ素化チタン酸化物(b)+
フッ素樹脂の造膜基板
試作液2と水溶性フッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロサーフテクノロジー社製)を9:1の割合で、各液同一濃度に調整の上混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板8とした。
【0127】
評価基板作製実施例9:フッ素化ケイ素酸化物(c)+正電荷物質+
フッ素樹脂の造膜基板
試作液3と、正電荷物質である参考液2と、水溶性フッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロサーフテクノロジー社製)を8:1:1の割合で、各液同一濃度に調整の上混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板9とした。
【0128】
評価基板作製実施例10:正電荷金属ドープフッ素化ケイ素酸化物(d)+
フッ素化樹脂の造膜基板
試作液4と水溶性フッ素樹脂液(FS−6050:株式会社フロロサーフテクノロジー社製)を9:1の割合で、各液同一濃度に調整の上混合し、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化し評価基板10とした。
【0129】
一方、比較基板として、参考液1〜2と水溶性フッ素樹脂を用いて、以下の比較基板を作製した。
比較基板1:正電荷物質含有造膜基板
参考液1を、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化して、比較基板1とした。
比較基板2:正電荷物質含有造膜基板
参考液2を、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化して、比較基板2とした。
比較基板3:負電荷物質含有造膜基板
水溶性フッ素樹脂を、評価基板作製実施例1と同様の手法により同様のタイルに膜を固定化して、比較基板3とした。
比較基板4:無造膜タイル基板(負電荷)
評価基板作製実施例1と同様のタイルに造膜せずに、比較基板4とした。
【0130】
<評価1>
上記の評価基板1〜10及び比較基板1〜4の各基板表面に負電荷(アニオン)染料としてインジコレッドを含有した赤インク(パイロット株式会社製)、正電荷(カチオン)顔料としてメチレンブルーを均一に同量塗布して乾燥させ、UVカット透明フィルムで包装し、その表面を白色蛍光灯(20W)の光を照射(紫外線強度0.0μw/cm
2)して、各基板から染料、顔料が静電反撥により離脱することによる消色率を、色彩計(CR−200:ミノルタ社製)を用いて消色評価し、そのうえで各基板の表面の電荷状況を判断した。消色評価の結果は、表1及び表2に示すとおりである。なお、消色率及び残存率は、以下の通りに計算される。
【0131】
消色率=100−√((L2−L0)
2+(a2−a0)
2+
(b2−b0)
2)/√((L1−L0)
2+(a1−a0)
2+
(b1−b0)
2)*100
残存率=100−消色率
=√((L2−L0)
2+(a2−a0)
2+(b2−b0)
2)/
√((L1−L0)
2+(a1−a0)
2+(b1−b0)
2)*100
・着色前の各基板の色:(L0,a0,b0)
・赤インク、メチレンブルー着色後の色:(L1,a1,b1)
・光照射時間ごとの各基板の色:(L2,a2,b2)
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
<評価1の結果>
評価基板1と評価基板3、及び、比較基板3と、表面釉薬が負電荷を有する無造膜タイル(比較基板4)は、静電反撥による赤インク(負電荷染料)の消色率は高く、メチレンブルー(正電荷顔料)の消色率は静電吸着により消色率は低い数値を示し、基板表面及び造膜表面が負電荷である特性を示している。
【0134】
一方、正電荷物質造膜表面である比較基板1と比較基板2は静電吸着により赤インク(負電荷染料)の消色率は低く、メチレンブルー(正電荷顔料)の消色率は静電反撥により高い数値を示している。
【0135】
上記した正電荷造膜基板と負電荷造膜基板との中間的な特性を示しているのが、評価基板2、評価基板4、評価基板5、評価基板6、評価基板7、評価基板8、評価基板9、評価基板10である。これらの基板における、赤インク(負電荷染料)及び、メチレンブルー(正電荷顔料)の消色率は、正・電荷造膜基板数値のほぼ中間的数値を示し、両性電荷の特性を示していることが分かる。
【0136】
<評価2>
評価1で準備した評価基板1〜10、及び比較基板1〜3に使用したそれぞれの造膜液と同種の造膜液を、ソーダライムフロートガラス厚さ3mm(建材用青フロートガラス)10cm角表面に100nmの厚さの膜が形成されるようにスポンジスキージ工法で塗布造膜し、150℃で10分加熱した。
【0137】
その上で、評価基板11〜20及び比較基板5〜7として、イオン交換水を滴下して接触角から撥水性を、また撥油性は市販のサラダ油を滴下して、各々の接触角を手動分度器(5°毎評価)で測量した。
【0138】
また両性電荷表面の防汚性を評価した。その方法は各評価基板及び比較基板の表面に関東ローム層粉体+コットンリンタ混合物(両性電荷)、ドバイ砂漠塵(両性電荷)、及び、火山灰(負電荷)をそれぞれ小さじ1杯ずつ滴下し、その滴下粉体を基板を立てて落下させ軽く打設し、その後、基板を水平に戻し、粉体の残留状態を、光沢計(1G−331:堀場製作所製)を用いて各基板の紛体付着前と付着後の変化を付着物の凹凸状態による反射率(光沢率)の差により評価した。評価2の結果を、表3に示す。
【0139】
【表3】
<評価2の結果>
表3から、撥水性能及び撥油性能は各評価基板の造膜表面の電荷特性にして負電荷膜評価基板である評価基板11、13、及びフッ素樹脂膜である比較基板7は撥水性能と撥油性能が高く、その反対に正電荷膜評価基板である比較基板5、6は、撥水性能と撥油性能が大変低いことがわかる。
【0140】
これらに対し、両性電荷膜評価のうち、フッ素樹脂を含まない評価基板12、14、15、16は負電荷膜と正電荷膜の間の性能を有し、正電荷と負電荷物質の複合比に合わせてその撥水性能と撥油性能が変化する。
【0141】
これに対し両性電荷膜組成分中に約1/10程度のフッ素樹脂を含む評価基板17、18、19、20は、フッ素樹脂単体膜である比較基板7と同等又は同等以上の撥水・撥油性能を有することによって、防汚性能が高いことがわかる。
【0142】
又、静電反撥性能は両性電荷膜評価基板である評価基板12、14、15、16、17、18、19、20の粉体付着残留量が少なく光沢率変化値が小さいことで静電反撥防汚性が優れていることがわかる。
【0143】
これに対し負電荷膜である評価基板11、13、比較基板7は紛体付着残留量が多く、光沢率変化値が大きいことによって汚染物の吸着防止性能が低く防汚性能が悪いことがわかる。
【0144】
上に述べた、優れた撥水・撥油性能と静電反撥防汚性能に優れた両性電荷膜評価基板12、14、15、16、17、18、19、20、特にフッ素樹脂を含有する評価基板17、18、19、20が「撥水・撥油・両性電荷」による優れた防汚性能を有することがわかる。