【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年6月9日、https://ecs.confex.com/ecs/230/webprogram/Paper92489.html にて公開。
【文献】
梶晃平,メソポーラス金属電極によるキラルセンシング,大学院研究年報 理工学研究科編,中央大学大学院研究年報編集委員会、中央大学理工学部事務室,2015年 7月 1日,第45巻,[online][令和2年9月14日検索]インターネット,URL,https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=6928&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
【文献】
AHMADI Ahmad et al.,Surface Reactivity at "Chiral" Platinum Surfaces,Langmuir,1999年,Vol.15,pp.2420-2424
【文献】
Martins A. et al.,Enantiomeric electro-oxidation of D- and L-glucose on chiral gold single crystal surfaces,Electrochemistry Comunications,2003年,V0l.5,pp.741-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための一実施形態を例示する。
【0018】
(キラリティー測定方法)
本発明のキラリティー測定方法は、表面の全部又は一部が金属又は金属酸化物である作用電極を用いて、キラル化合物のキラリティーを識別し、検出するキラリティー測定方法であって、接触工程、検出工程及び分析工程を少なくとも含み、必要に応じてその他の工程を含む。
本発明によれば、キラル化合物の検出を簡便且つ迅速に行うことができる。
【0019】
先行技術文献に報告があるように、金属単結晶の結晶面のうち、金属原子の配列に非回転対称となる不斉を有する高指数なギザギザ構造の結晶面のいくつかは、キラル分子の識別に有効である。このことを踏まえ、発明者らは、表面にステップ及びキンクの原子レベルのジグザグ構造を多量に有する金属電極を利用すれば、分子識別能に関するキラリティーが発現しうると仮説をたて、結晶性を維持したまま様々な金属を様々な手法で多孔化し、それを基板に固定化させることでキラル化合物に対する分子識別能との関係を検討した。
発明者は、表面にキラルな結晶面を有し得る金属として、白金を用い、電気めっき法で白金電極を作製したところ、驚くべきことに、該白金電極がキラル化合物のキラリティーを識別することを示す実験データを得た。具体的には、電気めっき法で、メソポーラス白金薄膜電極を作製し、該メソポーラス白金薄膜電極に、L体のグルコースの溶液又はD体のグルコースの溶液を接触させ、メソポーラス白金薄膜電極に0V〜+1.0Vの範囲で電圧を掃引印加した。すると、掃引印加に応じて発生する応答電流の中に、L体のグルコースに対して発生するが、D体のグルコースに対しては発生しない応答電流が存在していることに気付いた。斯かる応答電流は、L体のグルコースの濃度を高めると、比例関係で増加したことから、メソポーラス白金薄膜電極が、L体のグルコースを濃度依存的に識別できることが明らかになった。発明者らは、メソポーラス白金薄膜電極が、グルコース以外の他のキラル化合物についてもキラリティー識別をすることを突き止め、本発明のキラリティー測定方法を完成するに至った。発明者らは、さらに鋭意検討をし、白金電極として白金粒子を固定した電極、例えば、メソポーラス白金粒子を固定したメソポーラス白金粒子固定電極を用いると、メソポーラス白金薄膜電極を用いるよりも、更に高感度にキラリティーを測定できることを見出した。
白金電極を用いることで、キラル化合物のキラリティーを定性又は定量できる理由としては、得られた白金電極表面では、キラリティーを識別可能な結晶面が、一方の不斉に偏った状態で多数含まれるためと考えられる。
作用電極の表面の素材としては、白金に限らず、キラルな結晶面を形成する金属又は金属酸化物であれば、上述のメソポーラス白金薄膜電極と同様のメカニズムで、キラリティー識別が可能である。
【0020】
<キラル化合物>
上記キラル化合物は、分子内に不斉炭素を有し、鏡像異性体が存在する化合物を意味する。
前記キラル化合物としては、キラリティーを有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、糖類、アミノ酸類、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<作用電極>
上記作用電極としては、表面の全部又は一部が金属又は金属酸化物である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記作用電極の表面の全部又は一部が、キラルな結晶面を有する金属又は金属酸化物であると、高感度にキラリティー識別ができる点で好ましい。
【0022】
<<キラルな結晶面を有する金属又は金属酸化物>>
上記キラルな結晶面を有する金属又は金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白金、金、酸化銅(II)、酸化銅(I)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、白金は、電気化学反応下で原子配列が安定なため、安定的にキラリティーの識別が可能である点で有利である。
【0023】
<酸化銅電極>
上記酸化銅電極は、作用電極の表面の全部又は一部が酸化銅である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酸化銅としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸化銅(II)を用いると、より高感度にキラリティー測定をできる点で有利である。
【0024】
<白金電極>
上記白金電極は、作用電極の表面の全部又は一部が白金である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記白金電極は、基板の表面に白金膜を設けてなることが好ましい。この構成によれば、白金の使用量を低減してキラリティー測定をできるため、設備費を低減できる。
【0025】
上記白金電極としては、キラル識別能を有する結晶面を有するものであればよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白金粒子(白金黒粒子、メソポーラス白金粒子)を固定した作用電極、メソポーラス白金薄膜電極、単結晶白金電極などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、白金黒粒子を固定した白金黒粒子固定電極、メソポーラス白金粒子を固定したメソポーラス白金粒子固定電極、及びメソポーラス白金薄膜電極は、さらに高感度にキラリティー測定をできるため好ましい。そして、メソポーラス白金粒子固定電極は、他の白金電極よりも、応答電流を大きく得られる点、およびキラル選択性(ピーク電流値の鏡像体比)が高い点で、特に好ましい。
また、前記メソポーラス白金粒子固定電極の表面は、フッ素系スルホン酸ポリマーで更にコーティングされていることが好ましい。この構成によれば、白金電極としての安定性が向上するとともに、より高感度な測定が可能となる。
【0026】
上記白金電極の白金は、白金の他に、白金−ルテニウム合金、白金−パラジウム合金等の白金系合金を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、白金を用いると、感度をより高められる点で有利である。
【0027】
<<白金粒子を固定した作用電極>>
上記白金粒子を固定した作用電極は、白金黒粒子、メソポーラス白金粒子等の白金粒子が、作用電極表面の全部又は一部で固定されている作用電極であり、固定する白金粒子の種類に応じて、白金黒粒子固定電極、メソポーラス白金粒子固定電極、などが挙げられる。
固定に用いる白金粒子は、それぞれの直径が、数nmから数μmサイズであり、白金粒子の表面は、原子レベルのジグザグ構造の結晶面を有するという特徴を有する。例えば、白金黒粒子は、Wangらの文献(Chem.Mater.2014年、第24巻、第1591−1598頁)のサポーティングインフォメーションの
図S5で示されているように、ジグザグ構造の結晶面を僅かに有し、メソポーラス白金粒子は、Liらの文献(Phys.Chem.Chem.Phys.、2014年、第16巻、第8787−8790頁)の
図3で示されているように、ジグザグ構造の結晶面を高密度に有する。
このような白金粒子が作用電極の表面に固定されると、作用電極の表面にも、同様のジグザグ構造の結晶面を有することとなる。
【0028】
−白金粒子を固定した作用電極の製造方法−
上記白金粒子を固定した作用電極は、公知の方法、例えば、山内らの報告(Chemistry A European Journal、2011年、第17巻、第8810−8815頁)に記載されているように、ナフィオンなどの高分子を塗布して製造したり、ナフィオンなどの高分子を白金粒子と複合化して製造することができる。具体的には、白金粒子を作用電極表面へ堆積させた後にナフィオン溶液を塗布する方法、あらかじめ白金粒子とナフィオンとを溶媒中に分散させて、その溶液を作用電極に塗布する方法、などが挙げられる。前者の方が導電性を有する基板と粒子との間に確実に電気的接触をとることができるため、好ましい。
【0029】
<<白金黒粒子固定電極>>
上記白金黒粒子固定電極は、白金黒粒子を固定した作用電極である。前記白金黒粒子固定電極の表面は、原子レベルのジグザグ構造の結晶面を僅かに有する他、薄膜状のものと比較し、白金の比表面積(m
2g
−1)が大きいという特徴を有する点で、他の白金電極と異なる。
前記白金黒粒子固定電極は、公知の方法、例えば、山内らの文献(Phys.Chem.Chem.Phys.、2014年、第16巻、第8787−8790頁)によって製造することができる。また、白金黒粒子固定電極は、表面エネルギーの高い基板上に電気めっき法により析出することも可能である。
【0030】
<<メソポーラス白金粒子固定電極>>
上記メソポーラス白金粒子固定電極は、メソポーラス白金粒子を固定した電極である。前記メソポーラス白金粒子固定電極の表面は、原子レベルのジグザグ構造の結晶面を高密度に有する。
前記メソポーラス白金粒子固定電極は、公知の方法、例えば、山内らの文献(Phys.Chem.Chem.Phys.、2014年、第16巻、第8787−8790頁)によって製造することができる。
前記メソポーラス白金粒子固定電極を用いると、40μMほどの低濃度のグルコース濃度条件においても応答電流差を大きく得られる点で有利である。
【0031】
<<メソポーラス白金薄膜電極>>
上記メソポーラス白金薄膜電極は、原子レベルのジグザグ構造の結晶面を多量に有する。さらに、前記メソポーラス白金薄膜電極の白金薄膜内には、数nmから数μmの球状の孔が3次元的に配列正しく空いているという特徴がある。前記メソポーラス白金薄膜電極は、多数の孔が存在していることにより、白金で形成される表面積が基板の面積よりも大幅に広くなるため、薄膜の厚さ次第では、基板の面積から期待される電気化学活性に対して、数十倍から数百倍の電気化学活性を有する。
前記メソポーラス白金薄膜電極は、表面に、例えば、Wangらの文献(Chem.Mater.2014年、第24巻、第1591−1598頁)の
図5(d)、(e)の形状のような、ジグザグ構造を有する。
【0032】
−メソポーラス白金薄膜電極の製造方法−
上記メソポーラス白金薄膜電極は、公知の方法、例えば、H.WangらのChem.Mater.2014年、第24巻、第1591−1598頁の文献の製造方法に従って製造することができる。前記メソポーラス白金薄膜電極は、白金イオン及び界面活性剤を含む水溶液中で、電気めっきすることで製造できる。
図3(b)に示すように、界面活性剤は、水溶液中でミセル構造を形成し、白金イオンが該ミセル構造の表面を覆う。斯かる状態で電気めっきを行うと、白金イオンが界面活性剤ミセルとともに電極に引き寄せられ、白金イオンがミセルと共に電極表面に付着し、白金が析出する。その後に界面活性剤を抽出すると、メソポーラス白金で覆われた白金電極を得ることができる。使用する界面活性剤の種類や、水溶液に更に添加する疎水性化合物により、得られる白金電極の表面の微細孔サイズを調節することができる。
白金の析出は、Ag/AgCl(KCL飽和溶液)電極に対して、−0.1Vまたは−0.2Vの電位で析出すると、得られる薄膜がより均一にでき、高い表面積を確保できる点で好ましい。
【0033】
<<フッ素系スルホン酸ポリマー>>
上記フッ素系スルホン酸ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)−プロリルビニルエーテル]の共重合体などが挙げられる。
テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)−プロリルビニルエーテル]の共重合体は、高分子電解質であり、イオン伝導性が高い点で好ましい。
前記テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)−プロリルビニルエーテル]の共重合体としては、例えば、商業的に入手可能な、ナフィオン(登録商標)(製造会社:デュポン社)を用いることができる。
【0034】
上記フッ素系スルホン酸ポリマーで白金電極の表面をコーティングする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、滴下法、スピンコート法、ディップ法、などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、滴下法やスピンコート法は、均一な成膜が可能である点で有利である。
【0035】
上記コーティング量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜1000μl/cm
2が好ましく、100〜250μl/cm
2がより好ましい。
前記コーティングの量が、10μl/cm
2以上であると、均一にコーティングできる点で有利であり、1000μl/cm
2以下であると、検出電流量の減少を回避することができる点で有利である。前記コーティングの厚みが、前記より好ましい範囲であると、同様の観点でより有利である。
【0036】
<<基板>>
上記基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チタン、金、白金、銀、炭素、及び透明導電材料からなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。これらの中でも、白金/チタン基板は、剥離耐性が経験的に高い点でより有利である。
前記基板のうち、特に白金膜と接する部分が、金、白金、銀、炭素、及び透明導電材料からなる群のいずれかであることが好ましい。この構成によれば、基板と白金膜との結合の安定性が優れるため白金電極としての安定性が向上し、長期間再現性の高いデータを取得できる。
【0037】
−透明導電材料−
上記透明導電材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(IZO、AZO、GZO)、酸化スズ(PTO、ATO、FTO)、などがあげられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
<<白金膜>>
上記白金膜は、上記基板の表面に設けられることが好ましい。
前記白金膜の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01〜0.1μmが好ましく、0.05〜0.1μmがより好ましい。
前記白金膜の厚みが、0.01μm以上であると、下地基板との均一性を確保でき、剥離耐性が得られる点で有利であり、前記白金膜の厚みが、0.1μm以下であると、白金使用量を低減でき、製造コストを低減できる点で有利である。前記白金膜の厚みが、前記より好ましい範囲内であると、同様の観点でより有利である。
【0039】
<接触工程>
上記接触工程は、上記キラル化合物を含む溶液を上記作用電極と接触させる工程である。
前記接触工程は、例えば、作用電極を、キラル化合物を含む溶液中に浸すことで行うことができる。
【0040】
<<溶液>>
上記溶液は、上記キラル化合物を少なくとも含み、必要に応じて、電解質等のその他の成分を含む。
【0041】
−キラル化合物の濃度−
上記溶液中のキラル化合物の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.04〜5mMが好ましい。
前記キラル化合物の濃度が、0.04mM以上であると、キラリティーによる差がノイズに埋もれにくくなり、正確に測定しやすい点で有利であり、前記キラル化合物の濃度が、5mM以下であると、他方の鏡像異性体による反応を抑えることができる点で有利である。
【0042】
−電解質−
上記電解質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫酸、硫酸ナトリウム、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、硫酸は、検出する電流ピークの電位が、電極の電位窓の範囲内に入る点で好ましい。
【0043】
−−電解質濃度−−
上記溶液中の電解質の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1〜1Mが好ましく、0.5〜1mMがより好ましい。
前記電解質の濃度が、0.1M以上であると、イオン伝導性を確保でき、検出電流値を得やすい点で有利であり、前記電解質の濃度が、1M以下であると、電解質の吸着に伴う反応阻害を低減できる点で有利である。前記電解質の濃度が、前記より好ましい範囲内であると、同様の観点でより有利である。
【0044】
<検出工程>
上記検出工程は、前記溶液と接触した作用電極に電位を印加して得られる応答電流を検出する工程である。
【0045】
上記検出工程は、上記作用電極を用い、その他の器具として、通常の電気化学測定で用いられる、対極、参照電極、ポテンショスタット、ファンクションジェネレーター、プロッター及び配線等の機材を組み合わせて行うことができる。
前記検出工程の一例として、前記作用電極としての白金電極、対極及び参照電極を、キラル化合物を含む溶液中に浸漬した状態で、参照電極と白金電極との間にポテンショスタット等を介して電圧を印加し、白金電極表面で生じるキラル化合物の酸化還元反応に起因する応答電流を、ポテンショスタット等で検出する態様が挙げられる。
【0046】
上記検出工程には、電極と電子の受け渡しをする物質の定量分析又は定性分析を行える一般的な方法を適用して行うことができ、例えば、サイクリックボルタンメトリー法や微分パルスボルタンメトリーなどの各種ボルタンメトリー法、アンペロメトリー法、などの方法を適用して行うことができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記ボルタンメトリー法は、電極に印加する電位を変動させ、そのときの応答電流の変動を測定する方法であり、前記アンペロメトリー法は、電位を一定に維持したときの電流値の変動を測定する方法である。
ボルタンメトリー法、アンペロメトリー法を適用する場合、市販されているポテンショスタット、ファンクションジェネレーター(関数発生器)及びプロッターを、電極に組み合わせることで測定可能となるため、高額な装置を必要とせず、設備投資を低減できる点で有利である。
また、ボルタンメトリー法の1種であるサイクリックボルタンメトリー法は、印加する電位を直線的に掃引するため、所望の印加電位の範囲内で網羅的に応答電流を検出できるため、操作をより簡易にできる点で有利である。
【0047】
<<参照電極>>
上記参照電極は、電位の基準となる電極である。
前記参照電極としては、水系に用いられる参照電極であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Ag/AgCl電極、ガラス複合電極、標準水素電極、カロメル電極、白金の参照電極などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
<<対極>>
上記対極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白金線、白金板、カーボン電極などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
<<印加電圧>>
上記印加電圧としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記参照電極に対して、0〜1Vが好ましい。
前記印加電圧は0V以上であると、プロトンの吸着/脱着、および水素発生を回避することができる点で好ましい。また、前記印加電圧は1V以下であると、酸化白金層の形成・再還元及び酸素の発生を回避することができる点で好ましい。
【0050】
<<サイクリックボルタンメトリー法>>
上記サイクリックボルタンメトリー法は、電極電位を直線的に掃引し、応答電流を測定する手法である。サイクリックボルタンメトリー法を用いる場合、印加する電圧を変化させるスピード(走査速度)を適宜調節することにより、検出しようとする応答電流のピークを高感度に得ることができる。
前記サイクリックボルタンメトリー法は、単一サイクルで行ってもよく、マルチサイクルで行ってもよい。検出結果を比較する場合には、サイクル数を統一して行うのが好ましい。
【0051】
−走査速度−
上記サイクリックボルタンメトリー法で用いる走査速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜100mV/sが好ましく、50〜100mV/sがより好ましい。
前記走査速度が、5mV/s以上であると、ピーク電流値を識別しやすくできる点で有利であり、前記走査速度が、100mV/s以下であると、電極の寿命を長くできる点で有利である。前記走査速度が、前記より好ましい範囲内であると、同様の観点でより有利である。
【0052】
<分析工程>
上記分析工程は、上記検出工程で得られた応答電流に基づいて、上記溶液中のキラル化合物を定性的及び/又は定量的に分析する工程である。
前記分析工程は、前記検出工程で発生した応答電流のうち、特定の電位で検出された応答電流に基づいて、前記溶液中のキラル化合物を定性的及び/又は定量的に分析することが好ましい。
【0053】
<<特定の電位>>
上記特定の電位は、キラル化合物の一方の対掌体を試料として得られた応答電流の結果と、前記キラル化合物のもう一方の対掌体を試料として得られた応答電流の結果とを比較したときに、応答電流について、一方の試料の応答電流が、もう一方の試料の応答電流よりも大きく検出された電位条件を抽出し、特定することができる。
なお、前記特定の電位の妥当性は、前記特定の電位で検出される応答電流が、キラル化合物の濃度に依存して変化するかで確認することができる。
【0054】
以下に、図を用いて、上記特定の電位を説明する。
上記検出工程により、
図4〜6及び8で示すようなボルタモグラムが得られる。
図4〜6及び8のボルタモグラムの横軸は、掃引電位(参照電極に対する白金電極の電位)を表し、縦軸は、応答電流の電流(mA)又は電流密度(mA/cm
2)を表す。ここで、
図6は、試料として、L−グルコース含有溶液(a)、D−グルコース含有溶液(b)又はグルコース未含有溶液(c)を用いたボルタモグラムを示す。
図6の(a)〜(c)のボルタモグラムを比較すると、0.35V付近において、L−グルコース含有溶液で応答電流のピークを確認でき、0.55V付近においては、L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液の両方で応答電流のピークが確認できる。0.35V付近の応答電流は、一方の試料の応答電流が、もう一方の試料の応答電流よりも大きく検出された電位条件であり、0.35V付近の電位は、グルコースのキラリティーを識別するための、前記特定の電位であると判断できる。
図7は、グルコースの濃度を変化させたときの、0.35Vにおける応答電流について、まとめたグラフである。
図7において、D−グルコース含有溶液を試料としたプロット((D)と表記されたプロット)と、L−グルコース含有溶液を試料としたプロット((L)と表記されたプロット)とを比較すると、(D)と表記されたプロットについては、D−グルコースの濃度に依存した応答電流の上昇は少ないが、(L)と表記されたプロットについては、L−グルコースの濃度に依存した応答電流の上昇が大きいことが確認できる。このことから、電位0.35Vにおける応答電流が、L−グルコースの濃度に依存して変化することが確認でき、0.35Vの電位における応答電流が、グルコースのキラリティーを定性的及び/又は定量的に分析するための指標として妥当であることが確認できる。
なお、前記特定の電位は、用いる白金電極、試料に用いる溶液の組成、走査速度等によって変化するため、例えば、上述の0.35Vの電位は、グルコースに固有な数値ではなく、測定条件に応じて最適な電位を特定することが必要となる。
【0055】
定性的及び/又は定量的に分析する際の分析は、例えば、前記特定の電位における応答電流の値、前記特定の電位における応答電流に達するまでの電流の増加速度、前記特定の電位における応答電流から電流が減少するときの減少速度、前記特定の電位付近における応答電流のピーク面積、などを対象として行うことができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
−定性的及び/又は定量的に分析−
上記定性的及び/又は定量的に分析することにより、キラル化合物の存在を定性したり、キラル化合物の対掌体間の純度を定量したりできる。
【0057】
<その他の工程>
本発明のキラリティー測定方法に必要に応じて含まれるその他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脱気工程、電極保管工程、洗浄工程などが挙げられる。
【0058】
<<脱気工程>>
上記脱気工程は、溶液から溶存酸素を脱気する工程であり、上記接触工程及び上記検出工程の間で必要に応じて行うことができる。
前記脱気の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルゴン等の希ガス、窒素ガス、などを前記溶液中に吹きかける方法、前記溶液を含む容器から真空ポンプで空気を吸引する方法、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明の一実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0060】
(実施例1)
<白金黒粒子固定電極の作製>
白金黒粒子固定電極は、市販の白金黒粒子(Platinum black: Alafa Aesar 1275)を用いて、山内らの文献(Phys.Chem.Chem.Phys.、2014年、第16巻、第8787−8790頁)に記載の方法によって作製した。
【0061】
<メソポーラス白金粒子固定電極の作製>
メソポーラス白金粒子固定電極のメソポーラス白金粒子は、山内らの文献(Phys.Chem.Chem.Phys.、2014年、第16巻、第8787−8790頁)に記載の方法により作製した。
メソポーラス白金粒子固定電極は、得られたメソポーラス白金粒子を用いて、濃度1mg/mLのメソポーラス白金粒子の水溶液を直径1.6mmの白金電極上に2μL垂らし、自然乾燥し、更にナフィオンを上から2μL滴下し自然乾燥することで作製した。
【0062】
<メソポーラス白金薄膜電極の作製>
メソポーラス白金薄膜電極は、H.WangらのChem.Mater.2014年、第24巻、第1591−1598頁の文献の製造方法に従って作製した。
【0063】
<単結晶白金電極の作製>
単結晶白金電極の作製は、Ahmadiらの文献(Langmuir,1999年、第15巻、第7号、第2420−2424頁)のCllavillier法に従う。
【0064】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による評価>
超高分解能ジェントルビームを搭載した日本電子JSM−7800Fによって、5kVの基板電圧を印可し加速電圧は1kVでSEM像を得た。
メソポーラス白金粒子のSEM画像を
図1、白金黒粒子のSEM画像を
図2、メソポーラス白金薄膜電極のSEM画像を
図3(a)に示す。
【0065】
<グルコース含有溶液の調製>
50mMの硫酸水溶液に、終濃度が40μM、1mM、2mM、5mMとなるようにL−グルコース又はD−グルコースを添加して、L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液を調製した。
【0066】
<3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)含有溶液の調製>
250mMの硫酸水溶液に、終濃度が40μMとなるようにL−DOPA又はD−DOPAを添加して、L−DOPA含有溶液及びD−DOPA含有溶液を調製した。
【0067】
<キラリティー測定装置>
得られた白金電極を作用電極として用い、電気化学測定装置(ポテンショスタットとファンクションジェネレーターとを兼ねる)(製造会社:Princeton Applied Research、商品名:Versastat MC)、参照電極(製造会社:BAS、商品名:Ag|AgCl(satld.KCl))、及び対極(製造会社:ニラコ、白金線)を配線し、キラリティー測定装置を作製した。
【0068】
<キラリティー測定の方法>
【0069】
<<接触工程、脱気工程、検出工程>>
得られたL−グルコース含有溶液又はD−グルコース含有溶液に、キラリティー測定装置の白金電極、参照電極及び対極を浸した。用いた白金電極の電極面積は、いずれも2.01mm
2とした。
L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液中に、アルゴンガスを吹き込んで、脱気を行った。L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液は、室温で作製し使用した。
サイクリックボルタンメトリー法を用い、走査範囲を0〜1.0V、走査速度を主に50mV/sとして、参照電極と白金電極との間に電位を印加し、応答電流を測定し、プロッターで、ボルタモグラムを作成した。電位の印加は、単一サイクルで行った。
【0070】
5mMのL−グルコース含有溶液及び5mMのD−グルコース含有溶液を試料として、メソポーラス白金粒子固定電極を用いて得られたボルタモグラムを
図4に示し、白金黒粒子固定電極を用いて得られたボルタモグラムを
図5に示し、メソポーラス白金薄膜電極を用いて得られたボルタモグラムを
図6に示す。
図6においては、グルコース未含有溶液を試料としたボルタモグラムも示す(
図6(c))。
40μM、1mM、2mM、5mMの各濃度の、L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液を試料として、各種の白金電極で得られた、電位0.35Vにおける応答電流の数値を、
図7に示す。
図7の横軸は、グルコース濃度(M)を示し、縦軸は電位0.35Vにおける応答電流(mA)を示す。
図7は、各種白金電極の白金量(質量g)を同量となるように補正した数値でグラフ化した。
【0071】
<<分析工程>>
図6に示すように、L−グルコース含有溶液を試料として得られた応答電流の結果と、D−グルコース含有溶液を試料として得られた応答電流の結果とを比較したときに、応答電流のピークのうち、L−グルコース含有溶液の応答電流ピークが、D−グルコース含有溶液の応答電流ピークよりも大きく検出された電位条件を探したところ、0.35V付近で確認できた。また、
図7に示すように、0.35Vでの応答電流は、L−グルコースの濃度に依存して上昇することが確認できた。
そこで、L−グルコースの濃度が既知の溶液を試料に用いて、L−グルコースの濃度と、0.35Vでの応答電流との関係について検量線を作成し、次に、未知のL−グルコース濃度の溶液を試料に用いて得られた応答電流の数値を、検量線に基づき換算することで、L−グルコース濃度を定量した(データは非掲載)。
図6に示すように、L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液を試料として得られた応答電流の結果と、グルコース未含溶液を試料として得られた応答電流の結果とを比較したときに、0.55V付近での応答電流ピークについて、L−グルコース含有溶液及びD−グルコース含有溶液での応答電流が、グルコース未含有溶液での応答電流よりも大きい。0.55Vの応答電流は、L−グルコースとD−グルコースの両者から検出されたことから、グルコースの一方の対掌体のみを識別するピークではないと判断できる。
【0072】
(実施例2)
実施例1において、試料として、L−グルコース含有溶液、D−グルコース含有溶液を用いた代わりに、測定試料として、L−DOPA含有溶液、D−DOPA含有溶液を用いた点以外は実施例1と同様にして、実施例2を実施した。メソポーラス白金薄膜電極を用いて得られたボルタモグラムを
図8に示す。
【0073】
実施例1の
図7において、白金電極として、メソポーラス白金粒子固定電極を用いると、メソポーラス白金薄膜電極を用いるときよりも、応答電流差(L−グルコースでの応答電流とD−グルコースでの応答電流との差)を大きく得られることが示された。したがって、メソポーラス白金粒子固定電極は、メソポーラス白金薄膜電極を用いるよりも、得られる応答電流差の大きさの観点で高感度であるといえる。
図7では、白金黒粒子固定電極についての応答電流差を確認しづらいが、
図7のピークの大きさ[mA]のレンジを変更すると、応答電流差が生じていることを確認できる。白金黒粒子固定電極は、メソポーラス白金粒子固定電極やメソポーラス白金薄膜電極に比べて、応答電流値およびその鏡像体による差の値は大きくないが、試料のグルコースの濃度がより低濃度でも、応答電流を有意に検出できるという特徴がある。
【0074】
実施例2の
図8において、L−DOPA含有溶液及びD−DOPA含有溶液で認められるが、250mM硫酸水溶液では認められない、応答電流ピークが検出された。L−DOPA含有溶液を試料として得られた応答電流では、2つの応答電流ピークが認められ、D−DOPA含有溶液を試料として得られた応答電流では、1つの応答電流ピークが認められ、L−DOPA含有溶液とD−DOPA含有溶液とで、得られる応答電流ピークが異なることが確認できた。また、0.45Vでの応答電流は、L−DOPAの濃度依存的に増加し、0.55Vでの応答電流は、D−DOPAおよびL−DOPAに対し濃度依存的に増加したため、DOPAのキラリティー識別の指標にできることが示された。