【実施例】
【0024】
以下、本発明を、東京都港区六本木でのビル新築工事における外構植栽計画を例に説明する。
図2に、施工現場の周辺地図を示す。
図2中において、Aが計画地である。Aを中心とする半径2kmの範囲に存在する主な緑地としては、B〜Gの6箇所であり、緑地Bが中規模公園、緑地C、Dが小規模な都市公園、緑地E、Fが近隣ビルの外構緑地、緑地Gが寺院の庭園である。
【0025】
「群落環の決定」
「日本植生誌7 関東」の潜在自然植生図によると、計画地である東京都港区六本木における潜在的な極相植物群落である潜在自然植生は、ヤブコウジ−スダジイ群集である。また、現地調査したところ、計画地の周辺にはスダジイの大木が複数確認され、断片的なヤブコウジ−スダジイ群集が確認された。ヤブコウジ−スダジイ群集は、スダジイが優占する常緑広葉樹の自然林であり、丘陵や山地斜面の乾燥した立地を好む。
【0026】
極相植物群落がヤブコウジ−スダジイ群集からなる群落環を
図3に示す。
図3に示す群落環は、ヤブコウジ−スダジイ群集を極相林とし、植生遷移順に、一年生草本=ベニバナボロギク−ダンドボロギク群集、多年生草本=トダシバ−ススキ群集、つる−低木=センニンソウ群集、先駆性陽樹林=クサイチゴ−タラノキ群集、亜高木林=ミゾシダ−ミズキ群集、極相林=ヤブコウジ−スダジイ群集をこの順に含む。
表1に、この群落環に含まれる各植物群落を構成する植物リストを示す。
【0027】
【表1】
【0028】
「現地調査」
次に、計画地と周辺緑地における植生の現地調査を行う。表2に、表1に示す各植物種のうち、周辺緑地B〜Gに存在する植物種を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
周辺緑地B〜Gは、存在する植物種から群落環を構成する植物群落のいずれかに分類することができる。緑地Bは、草本層が欠落したヤブコウジ−スダジイ群集に類似した植生であり、高木、亜高木、低木を有するが、その種類数が少ない。緑地Dは、緑地Bと全く同じ植生である。緑地Cは、ミゾシダ−ミズキ群集、緑地Eは、ベニバナボロギク−ダンドボロギク群集とクサイチゴ−タラノキ群集、緑地Fは、クサイチゴ−タラノキ群集、緑地Gはトダシバ−ススキ群集である。
【0031】
表1、2から、ヤブコウジ−スダジイ群集を極相植物群落とする群落環に含まれる植物群落のうち、センニンソウ群集は、周辺緑地B〜Gに存在しないことが分かる。また、緑地B、Dには、ヤブコウジ−スダジイ群集を構成する植物種が生息しているが、群集と言えるほどの植物多様性はない。その他の群集については、構成種の多くが生息している。
【0032】
「緑地計画立案」
計画地を含む7箇所の近接する緑地A〜Gにより、ヤブコウジ−スダジイ群集を含む群落環を形成する植物群落を再現するように、緑地計画を立案する。群落環に含まれる植物群落のうち、完全に欠落しているセンニンソウ群集を再現し、ヤブコウジ−スダジイ群集を補強することにより、施工現場の環境に適した群落環を構築することができる。
【0033】
この方針に従って、緑地計画を立案する。計画地Aは、施工者が自由に植栽する植物種を決定することができる。そのため、計画地Aに、周辺環境において欠落しているセンニンソウ群集を再現することが好ましい。センニンソウ群集は、つる−低木であるため、ノイバラ、ウツギ等の低木を植栽する。さらに、計画地Aにおいて壁面緑化を行い、つる植物に適した栽培環境を再現し、エビヅル、センニンソウ等のつる植物を植栽する。
ヤブコウジ−スダジイ群集は、既にヤブコウジ−スダジイ群集を構成する植物種が生息する緑地B、Dにおいて再現する。但し、緑地B、Dは、公園であるため、所有者、管理者等の許可を得る必要がある。緑地B、Dにおけるヤブコウジ−スダジイ群集の補強ができない場合は、施工面積を考慮しつつ、計画地Aの一部に、ヤブコウジ−スダジイ群集を再現する。計画地Aにヤブコウジ−スダジイ群集を再現する際は、予め、施工現場を模した模擬環境において、計画地Aから採取した土壌で馴化育成した植物を、土壌とともに植栽することが好ましい。
【0034】
その他の群集は、緑地C、E、F、Gに、それぞれ群集とみなせるだけの植物種が生息しているため、現状のままで問題ない。ただし、それぞれの所有者、管理者に対して、計画地Aの緑地計画が周辺を含む広い地域での群落環を構築する緑地計画であることを説明し、地域全体としての生態系を豊かにするため、緑地の維持、管理を現状のまま続けてもらうように依頼することが好ましい。
【0035】
「植栽種の選定」
上記計画に基づいて、ヤブコウジ−スダジイ群集、センニンソウ群集の中から、導入する植物種を選定する。本計画では、計画地Aにセンニンソウ群集を再現し、緑地B、Dでヤブコウジ−スダジイ群集を補強する。植栽する植物種は、群集を構成する植物種の中から、群集の中での出現頻度、群集の優占種、群集の骨格となる出現頻度の高い種、周辺から種子飛来が容易にはない種、市場流通性、栽培容易性、審美性等に基づいて、群集としての機能を発揮するために森の階層構造、優占種、出現頻度を考慮して選定する。表3に、選定する植物種を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
緑地B、Dは、現状の緑地に新たな植物種を植栽することにより、ヤブコウジ−スダジイ群集を補強する。緑地B、Dは、面積が十分にあり、また、不足する植物種の全てが市場で市販されており、不足する植物種の全てを植栽することができる。ヤブコウジ−スダジイ群集を構成するために不足している高木のアカガシ、アラカシ、亜高木/低木のカクレミノ、シロダモ、モッコク、ヤブニッケイ、そして草本であるカブダチジャノヒゲ、キヅタ、テイカカズラ、ヤブコウジ、ベニシダ、ヤマイタチシダ、アリドオシ、シュンランを全て植栽する。
【0038】
計画地Aは、新規に緑地を創出することができるため、センニンソウ群集を構成する植物種である種の全てとなる、亜高木/低木のノイバラ、ウツギ、ナワシロイチゴ、草本のエビヅル、センニンソウ、ノブドウ、スイカズラ、ヘクソカズラ、アオツヅラフジ、ヤマノイモ、トコロ、ヨモギ、ススキ、カモジグサ、クズ、ヤエムグラを植栽する。クズは、本計画では壁面緑化の種として導入するが、他の植物を被圧する可能性があるため壁面ではなく通常の植栽の場合は植栽しないことが好ましい。また、棘がある種や、種子が被服に付着する種など、人に嫌われる種は、植栽しない、または、人が接近できない箇所に植栽することが好ましい。
【0039】
「群落環の構築」
この方針に従い、計画地Aにセンニンソウ群集を構成する植物種、緑地B、Dにヤブコウジ−スダジイ群集を補強する植物種を植栽する。この際、計画地Aに植栽する植物は、計画地Aの土壌により模擬環境で予め馴化育成したものを植栽することが、植栽後の枯死を防ぐために好ましい。特に、植栽した後に枯死した場合、植え替え作業が大変な亜高木/低木は、馴化育成することが好ましい。表4に、植栽後の緑地A〜Gに生息する植物種を示す。なお、表4において太字で示す植物種が元から生息していた種、ハッチングした枠に示す植物種が新たに植栽する種である。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示すように、本発明の緑地施工方法により、計画地Aとその周辺緑地B〜Gを含む範囲内において、施工現場に適した群落環に含まれる各植物群落を再現し、群落環を構築することができる。群落環に含まれる植物群落を近接する緑地に再現して配置することにより、近接する緑地同士が有機的に結びつくため、緑地の自己治癒力が高く、緑地の維持管理コストを低減することができる。また、施工現場だけでなく広い範囲内で群落環を構築することにより、地域全体として植物の多様性が豊かとなり、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、昆虫類、菌類等まで含めた生物多様性を豊かにすることができる。