【文献】
KIM, M. et al.,Epigenetic down-regulation and suppressive role of DCBLD2 in gastric cancer cell proliferation and invasion,Mol Cancer Res,2008年,Vol.6, No.2,p.222-230
【文献】
菊田一貴, 外,粘液線維肉腫浸潤性関連候補タンパク質同定のための蛍光2次元電気泳動法を用いたプロテオーム解析,電気泳動,2016年,Vol.60, No.Suppl.,p.s43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載の方法に用いられる粘液線維肉腫の浸潤性判定用キットであって、前記DCBLD2の発現量を測定することができる試薬を含んでなる、キット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の粘液線維肉腫の浸潤性の判定補助方法では、粘液線維肉腫患者の患部組織におけるDCBLD2の発現量を測定する。患部組織は、腫瘍組織、その周辺の反応層及び腫瘍が疑われる組織を含む。反応層は、出血巣、変色した筋肉、浮腫状の組織などの肉眼的な変色部を含む。患部組織に該当するかは、例えば、単純X線、超音波検査、CT、MRI、PETなどの画像に基づき判断できる。DCBLD2は、DCBLD2遺伝子によってコードされるタンパク質であり、そのアミノ酸配列は公知である。アミノ酸配列は、例えば、Swiss-Plot database Accession No.Q96PD2のものを例示できる。粘液線維肉腫は、局所再発率が高いことが知られている。局所再発とは、転移を伴う再発とは異なり、腫瘍切除後、同一組織型の腫瘍が元の腫瘍近くに出現することをいう。本明細書において、「浸潤性」とは、局所再発に関わる局所的浸潤性をいう。
【0014】
患部組織におけるDCBLD2の発現量を測定する方法は、生体試料中のDCBLD2発現量を定量的に評価できる方法であれば特に限定されない。例えば、蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法等の免疫組織染色法、ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法等により測定できる。またDCBLD2の発現量は、DCBLD2のmRNA発現量であってもよい。mRNA発現量の測定方法としては、例えば、RT-PCR、ノーザン・ブロッティング法、Branched DNAアッセイ、in situ ハイブリダイゼーション法等を例示できる。
ここで、本実施形態で用いられる「DCBLD2の発現量」は、DCBLD2タンパク質のモル数やmRNAのコピー数など発現量を直接的に表す値であってもよいし、これらの値を表す標識量であってもよい。具体的には、標識量は、DCBLD2タンパク質の発現量は蛍光強度、波高強度などで表すことができ、DCBLD2mRNAの発現量は、蛍光強度、蛍光強度が一定の値に達するまでのPCRサイクル数や増幅反応時間などで表すことができる。
【0015】
DCBLD2の発現量の測定において、粘液線維肉腫患者から生検または手術により採取した患部組織から試料を調製できる。患部組織は腫瘍細胞を含むことが好ましい。例えば、患部組織から調製したホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片を試料とすることができる。またmRNA発現量を測定する場合、患部組織から調製したタンパク質抽出液又はmRNA抽出液を試料とすることができる。
【0016】
免疫組織染色法は公知の方法を採用することができ、例えば以下の方法を例示できる。まず患者から採取した患部組織をホルマリン固定する。これをパラフィン包埋してミクロトームにて厚さ3〜4μm程度に薄切し、スライドグラス上に貼付して切片試料とする。切片試料はキシレン処理後、アルコール溶液にくぐらせてから水に戻して脱パラフィンする。その後、抗体の浸透性を高めるためにpH6.0のクエン酸緩衝液中に切片試料を漬け、オートクレーブにて121℃で10分間熱処理し抗原を賦活化する。内因性ペルオキシダーゼを失活させた後、切片試料に抗DCBLD2抗体を滴下し、常温で1時間反応させる。洗浄後、標識抗体、増幅試薬等を用いてそれぞれ反応させる。洗浄後、DAB溶液 (3,3'-diaminobenzidine tetrahydrochloride)を用いて発色を行う。流水にて洗浄後、ヘマトキシリン液にて試料の細胞核を染色する。流水にて水洗後、アルコール溶液、次いでキシレン溶液をくぐらせて脱水し、試料上に封入剤を滴下しカバーグラスを被せて、顕微鏡にてDCBLDの発色を観察する。
【0017】
本実施形態では、測定されたDCBLD2の発現量が所定の閾値以上の場合に、患者の粘液線維肉腫が浸潤性であると判定できる。一方、測定されたDCBLD2の発現量が所定の閾値未満の場合に、患者の粘液線維肉腫が非浸潤性であると判定できる。
所定の閾値は特に限定されず、種々の生体試料についてのデータの蓄積により経験的に設定できる。例えば、まずMRI画像に基づき、浸潤性と評価される患部組織と、非浸潤性と評価される患部組織に分類する。次いでそれぞれの患部組織におけるDBCLD2発現量を測定し、その結果に基づき、両者を高精度に区別し得る値を閾値として設定できる。なお、閾値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮して設定できる。またMRI画像に基づく浸潤性の評価は、例えば、MRI画像上、腫瘍組織周縁にヒゲ様突起の存在が認められる場合は浸潤性、そのような突起が認められない場合を非浸潤性と判定できる(
図1参照)。
【0018】
閾値は段階的に設けてもよい。例えば、免疫組織染色法による染色強度を、以下の基準に従ってG0〜G3の4段階で評価し、このうちG2以上(G2〜3)の場合を浸潤性、G2未満(G0〜G1)の場合を非浸潤性と判定できる。
(基準)
G3:腫瘍細胞の細胞膜全体が強く染色される。
G2:腫瘍細胞の細胞膜全体が弱く〜中程度に染色される。
G1:腫瘍細胞の細胞膜においてかすかに/かろうじて染色が認められる。
G0:腫瘍細胞は染色されない。
【0019】
別の実施形態では、DCBLD2の発現量に基づき粘液線維肉腫の浸潤性の程度を判定できる。例えば、測定されたDCBLD2の発現量が所定の閾値以上の場合に、患者の粘液線維肉腫の浸潤性の程度が高いと判定できる。これに対し、測定されたDCBLD2の発現量が所定の閾値未満の場合に、患者の粘液線維肉腫の浸潤性が低いと判定できる。
所定の閾値は特に限定されず、種々の生体試料についてのデータの蓄積により経験的に設定できる。例えば、まずMRI画像に基づき特定された腫瘍境界から所定の距離を離して切除範囲を設定し、切除後、組織学的に断端陰性と評価される患部組織と、断端陽性と評価される患部組織に分類する。次いでそれぞれの患部組織におけるDBCLD2発現量を測定し、その結果に基づき、両者を高精度に区別し得る値を閾値として設定できる。なお、閾値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮して設定できる。組織学的断端の陽性/陰性の判定は、例えば、MRI画像に基づく腫瘍境界から所定の距離を離してMRI画像上の正常組織を含めて切除した腫瘍切除検体の表面が、組織学的に全て正常組織であると評価される場合に陰性、少なくとも一部が正常組織ではないと評価される場合に陽性と判定できる。組織学的な評価は、例えば、細胞及び組織の形態や腫瘍からの連続性などに基づき行うことができる。組織学的評価を行う割面は、腫瘍の長軸を含む割面(最大割面)及びこれに垂直な割面の2割面を含み得る。
【0020】
本発明の範囲には、粘液線維肉腫の浸潤性判定用キット(以下、単に「キット」ともいう)も含まれる。本実施形態のキットには、抗DCBLD2抗体が試薬に含まれ得る。本実施形態のキットは、例えば免疫組織染色やウエスタンブロット法などの免疫学的手法によりDCBLD2の発現量を測定できる。抗DCBLD2抗体は、DCBLD2の発現を検出し得る抗体であれば特に限定されない。例えばモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びこれらの結合活性断片などが挙げられる。また本実施形態のキットには、上記抗体のほか二次抗体、ブロッキング剤等の試薬などを含むことができる。
【0021】
粘液線維肉腫の浸潤性の判定は、例えば、
図4に示される判定装置11によって行なうことができる。以下、粘液線維肉腫の浸潤性の判定に用いることができる判定装置を、添付の図面を参照しながら、より詳細に説明するが、本発明は、かかる実施形態のみに限定されるものではない。
図4は、本発明の一実施形態に係る粘液線維肉腫の浸潤性判定装置の概略説明図である。
図4に示された判定装置11は、測定装置22と、当該測定装置22と接続されたコンピュータシステム33とを含んでいる。
【0022】
本実施形態において、測定装置22は、免疫組織染色法によりDCBLD2に結合した抗体からのシグナルを検出するスキャナーを含み得る。本実施形態において、前記シグナルは例えば蛍光シグナルなどのDCBLD2の発現量に関する光学的情報であり得る。得られた光学的情報はコンピュータシステム33に送信される。
【0023】
スキャナーは、DCBLD2に基づくシグナルの検出が可能なものであればよい。DCBLD2に基づくシグナルは、標識物質によって異なることから、スキャナーは標識物質の種類に応じて、当該標識物質から生じるシグナルを検出するのに適したものを適宜選択することができる。例えば、標識物質が蛍光である場合、測定装置22として、当該蛍光を検出可能なスキャナーを用いることができる。スキャナーで検出された光学的情報は、コンピュータシステム33に送信される。
【0024】
コンピュータシステム33は、コンピュータ本体33aと、入力デバイス33bと、検体情報、判定結果などを表示する表示部33cとを含む。コンピュータシステム33は、測定装置22から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム33のプロセッサは、前記光学的情報に基づいて、粘液線維肉腫の浸潤性を判定するプログラムを実行する。
【0025】
図5は、
図4に示された判定補助装置の機能構成を示すブロック図である。
コンピュータシステム33は、
図5に示されるように、取得部301と、記憶部302と、算出部303と、判定部304と、出力部305とを備える。取得部301は、測定装置22と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。なお、算出部303と判定部304とは、制御部306を構成している。
取得部301は、測定装置22から送信された情報を取得する。記憶部302は、判定に必要な閾値、DCBLD2発現量を算出するための式、浸潤性判定のための処理プログラムなどを記憶する。算出部303は、取得部301で取得された情報を用い、記憶部302に記憶された式や処理プログラム等を用いて、DCBLD2発現量を算出する。判定部304は、算出部303によって算出された値に基づき、浸潤性判定を行う。出力部305は、判定部304による判定結果を、粘液線維肉腫の浸潤性の該当性として表示部33cに出力する。
【0026】
図6は、
図4に示された判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6に示されるように、コンピュータ本体33aは、CPU(Central Processing Unit)330と、ROM(Read Only Memory)331と、RAM332と、ハードディスク333と、入出力インターフェイス334と、読出装置335と、通信インターフェイス336と、画像出力インターフェイス337とを備えている。CPU330、ROM331、RAM(Random Access Memory)332、ハードディスク333、入出力インターフェイス334、読出装置335、通信インターフェイス336および画像出力インターフェイス337は、バス338によってデータ通信可能に接続されている。
CPU330は、ROM331に記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM332にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU330がアプリケーションプログラムを実行することにより、前述した各機能ブロックが実現される。
これにより、コンピュータシステムが、粘液線維肉腫の浸潤性の判定補助装置の端末として機能する。
ROM331は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM331には、CPU330によって実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータが記録されている。
RAM332は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM332は、ROM331およびハードディスク333に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。ROM332はまた、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU330の作業領域として利用される。
ハードディスク333は、CPU330に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(粘液線維肉腫の浸潤性判定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
読出装置335は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置335は、可搬型記録媒体340に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
入出力インターフェイス334は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス334には、キーボード、マウスなどの入力デバイス33bが接続されている。操作者は、当該入力デバイス33bを使用することにより、コンピュータ本体33aにデータを入力することが可能である。
通信インターフェイス336は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータシステム33は、通信インターフェイス336により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。
画像出力インターフェイス337は、LCD、CRTなどで構成される表示部33cに接続されている。これにより、表示部33cは、CPU330から与えられた画像データに応じた映像信号を出力することができる。表示部33cは、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0027】
つぎに、判定装置11による粘液線維肉腫の浸潤性判定の処理手順を説明する。
図7は、
図4に示された判定装置を用いた粘液線維肉腫の浸潤性判定のフローチャートである。ここでは、被験者の患部組織から調製した切片試料のDCBLD2に結合した抗体に基づく蛍光情報を用いて判定を行なう場合を例として挙げて説明するが、本発明は、かかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0028】
まず、ステップS−1において、取得部301は、測定装置22から蛍光情報を取得する。そして、ステップS−2において、算出部303は、取得部301が取得した蛍光情報からDCBLD2発現量を算出し、記憶部302に送信する。
つぎに、ステップS−3において、算出部303は、記憶部302に取得したDCBLD2発現量が、記憶部302に記憶された閾値以上であるか否かの判定を行う。ここで、DCBLD2発現量が閾値以上であるとき、ステップS−4に進行する。そして、判定部304は粘液線維肉腫が浸潤性であることを示す判定結果を出力部305に送信する。一方、DCBLD2発現量が閾値よりも小さいとき、ステップS−5に進行する。そして、判定部304は、粘液線維肉腫が非浸潤性であることを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0029】
その後、ステップS−6において、出力部305は、判定結果を出力し、表示部33cに表示させたり、プリンタに印刷させたりする。これにより、医師などが、粘液線維肉腫が浸潤性か、非浸潤性かについて判断することを補助する情報を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1:蛍光二次元電気泳動(2D-DIGE)によるタンパク質の解析
(1)粘液線維肉腫患者11例の切除検体を使用した(表1)。各検体の腫瘍組織のMRI画像から浸潤性を評価し、浸潤性群及び非浸潤性群に群分けした。浸潤性の評価は、MRI画像において、腫瘍組織周縁にヒゲ様突起(tail like pattern)が認められるか否かによって評価し(
図1参照)、認められる場合を浸潤性、認められない場合を非浸潤性と判定した。
【0032】
【表1】
【0033】
(2)サンプル調製
凍結された切除検体をマルチビーズショッカー(安井器械)を用いて液体窒素で粉末状に破砕した。粉末は、尿素溶解バッファー(6 mol/L urea , 2 mol/L thiourea , 3% CHAPS, 1% Triton X-100)で処理した。15,000rpm、30分遠心分離後、上清を回収してタンパク質サンプルとした。
(3)全てのタンパク質サンプルを少量ずつ等量で混合し、内部標準サンプルを調製した。内部標準サンプルはCy3により、それぞれのサンプルはCy5(ともにCyDye DIGE Fluor saturation dye , GE Healthcare Biosciences , Uppsala , Sweden)により標識した。これらの異なる蛍光色素で標識化したサンプルを混合し、2次元電気泳動を行った。
第一次の分離は、24cm長のイモビラインゲル(IPG、pI 4-7、GE Healthcare Biosciences)と、Multiphor IITM(GE Healthcare Biosciences社)を使用し、第二次の分離は、GiantGelRunner(Biocraft , Tokyo , Japan)により作成したグラジェントゲルを用いた。電気泳動後、ゲルはレーザースキャナー(Typhoon Trio , GE Healthcare Biosciences)を用いてスキャンした。ゲル間の差異を取除くため、ソフトウェアProgenesis SameSpots(Nonlinear Dynamics , Newcastle , UK)により、Cy5強度を同じスポットのCy3強度で補正した。全てのサンプルについて3回実験を行い、補正した強度の平均値を用いて統計解析処理した。
【0034】
補正後のタンパク質スポットの蛍光強度データは、ソフトウェアExpressionist(GeneData , Basel , Switzerland)を用いてWilcoxon検定を行った。浸潤群と非浸潤群のタンパク質発現プロファイルを比較して、3453個のタンパク質スポットの中から、2群間の比較において、平均値の差が2倍以上、かつ、Wilcoxon検定によるp<0.05という基準を満たす59個のタンパク質スポットを選別した。この59個のタンパク質スポットを質量分析により解析した。
各タンパク質スポットを回収しトリプシンで分解した。得られたトリプシン分解物を、ナノイオンスプレイイオン供給源(Finnigan LTQ linear ion trap mass spectrometer,Thermo Electron Co., San Jose , CA)を備えた高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いて解析し、対応する47個のタンパク質を同定した。そのヒートマップを
図2に示す。免疫染色による検証実験の結果、特に浸潤性との関連性が高いタンパク質としてDCBLD2を特定した。それ以外のタンパク質は染色が適切に行われなかった。
【0035】
実施例2:免疫組織染色による発現検証
DCBLD2発現レベルと粘液線維肉腫の浸潤性との相関を検証するために、新たな21人の粘液線維肉腫患者について検証実験を行った。全ての患者に対し、ガドリニウム増強MRI画像診断を行って、ガドリニウム増強脂肪抑制T1強調画像から腫瘍領域の範囲を画定した。画像に基づき特定される腫瘍辺縁から遠位部2cmを切除縁とした。切除された検体からホルマリン固定パラフィン包埋組織切片試料を調製し、免疫組織染色を行った。各切片試料について、腫瘍組織の中央部と周辺部の両方を検査した。免疫組織染色は、ポリマー法(Envision Dual Ling System-HRP, Dako, DK-2600, Glostrup, Denmark)を採用した。切片試料を脱パラフィン処理及び脱水処理した後、10ml/l過酸化水素添加メタノールで30分間処理し、内因性ペルオキシダーゼ活性を除去した。10mMクエン酸塩緩衝液(pH 6.0)中で10分間121℃オートクレーブ処理して抗原賦活化を行った。DCBLD2抗体(Atlas Antibodies , Stockholm , Sweden)は100倍希釈して用い、常温で1時間反応させた。反応後3,3'-diaminobenzidine tetrahydrochlorideを用いて発色させた。その後ヘマトキシリン液にて対比染色した。染色強度は2名がブラインド下で独立して以下の基準によりG0〜G3の4段階で評価した。G2−3をDCBLD2陽性、G0−1をDCBLD2陰性に分類した。結果を表2に併せて示す。またG0〜G3と評価された組織の顕微鏡写真を
図3に示す。
【0036】
(基準)
G3:腫瘍細胞の細胞膜全体が強く染色される。
G2:腫瘍細胞の細胞膜全体が弱く〜中程度に染色される。
G1:腫瘍細胞の細胞膜においてかすかに/かろうじて染色が認められる。
G0:腫瘍細胞は染色されない。
【0037】
さらに術後、全ての患者について組織学的断端の陽性/陰性を判定した。組織学的断端の陽性/陰性の判定は、MRI画像に基づく腫瘍境界から2cmの距離を離してMRI画像上の正常組織を含めて切除した腫瘍切除検体の表面が、組織学的に全て正常組織であると評価される場合に陰性、少なくとも一部が正常組織ではないと評価される場合に陽性と判定した。組織学的な評価は、腫瘍の長軸を含む割面(最大割面)及びこれに垂直な割面について、細胞及び組織の形態や腫瘍からの連続性などに基づき行った。その結果を表2に併せて示す。
【0038】
【表2】
【0039】
粘液線維肉腫の浸潤性のバイオマーカーとして、腫瘍中心部におけるDCBLD2の感度及び特異度はそれぞれ69.2%と87.5%であった。また陽性的中率及び陰性的中率は、それぞれ90%と63.6%であった。DCBLD2発現量とMRI画像に基づく浸潤性及びDCBLD2発現量と組織学的断端(陽性/陰性)との相関は、単変量解析によりいずれも統計学的に有意であった(P<0.05)。また腫瘍周辺部においてDCBLD2陽性であった10症例はいずれも、中心部でもDCBLD2高発現であった。
【0040】
粘液線維肉腫の治療では、切除による根治性を高めるために、腫瘍組織周辺の正常組織を被包した広範囲切除が必要となる。腫瘍が浸潤性を示すか否かは、局所再発率に影響し、術前計画における切除範囲の設定にも関わるため、浸潤性を高精度に判定することが重要である。
粘液線維肉腫の画像診断では、MRI,CT,PETなどが用いられているが、特にMRIはコントラスト分解能に優れ腫瘍領域を明瞭に描出可能であるため、一般にMRI画像に基づき粘液線維肉腫の浸潤性が判定される。MRI画像に基づく浸潤性判定とDCBLD2の発現量には有意な相関が認められ、その感度及び特異度はそれぞれ69.2%と87.5%であり、また陽性的中率及び陰性的中率はそれぞれ90%,63.6%と高い値を示した。したがって、DCBLD2をバイオマーカーとして用いる粘液線維肉腫の浸潤性判定方法は、MRI画像に基づく判定を補完または代替する方法となり得る。
【0041】
また術後に切除検体を組織学的に評価すると、MRI画像により特定した腫瘍境界を越えて浸潤が進展していることがある。例えば、組織学的に評価した結果、断端まで浸潤が及んでいたり、浸潤の先端部と断端までの距離が十分に確保されていないと、再発を防止するために、追加広範切除や術後放射線治療が必要とされる場合がある。その原因としてMRI画像で描出可能な組織量に満たない微小な腫瘍の存在が考えられる。
これに対し、DCBLD2発現量と組織学的断端に有意な相関が認められたことから、術前の免疫組織染色などによって測定したDCBLD2発現量に基づき、MRI画像で描出される腫瘍境界を越えて浸潤が進展しているか、その浸潤性の程度を判定し得る。
さらに、従来の粘液線維肉腫の広範切除では、MRI画像に基づく腫瘍境界から切除縁までの距離を、浸潤性か非浸潤性かによって2段階で設定していたが、DCBLD2発現量に応じて、切除縁までの距離をより細分化し、再発防止と術後機能の確保を考慮した適切な切除範囲を設定できる可能性がある。
【0042】
また浸潤性/非浸潤性の判定においても、従来のMRI画像に基づく判定では、描出可能な組織量に満たない微小な浸潤部分が存在していた場合に非浸潤性と判定するおそれもあるが、このような微小な腫瘍も反映し得るDCBLD2をバイオマーカーとすることでより判定の精度を高めうる。