【文献】
千原典夫、外1名,視神経脊髄炎(NMO)における自己抗体産生細胞,医学のあゆみ,日本,2012年,Vol.240,No.6,Page.534-535
【文献】
中村雅一、外2名,多発性硬化症病態におけるプラズマブラスト,日本臨床免疫学会会誌,2015年,Vol.38,No.5,Page.403-411
【文献】
中村雅一、外9名,再発寛解型多発性硬化症の病態におけるIL−6依存性プラズマブラスト,日本臨床免疫学会会誌,日本,2013年,Vol.6,No.5,Page.345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療の適応の可否の判定用マーカーに関する。具体的には本発明は、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の判定における、未熟プラズマブラスト指標の使用に関する。本発明の「未熟プラズマブラスト指標」は少なくとも以下の一方または両方を含む。
・プラズマブラスト量
・未熟プラズマブラストの変化指標
【0015】
本発明においては、プラズマブラスト量の高い多発性硬化症の患者において、未熟プラズマブラストの変化指標が高い場合に、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果が高いと判定される。本発明において、「未熟プラズマブラストの変化指標」は、生体試料中の未熟プラズマブラストの量やその変化量の測定に使用できるものであれば特に限定されない。本発明の「未熟プラズマブラストの変化指標」として、例えば、未熟プラズマブラストの変化幅や濾胞性ヘルパーT細胞の量(例えば、CD4+T細胞に対する濾胞性ヘルパーT細胞の割合)を挙げることができるがこれらに限定されない。本発明においては、濾胞性ヘルパーT細胞の量が少ない場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高く、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果が高いと判定される。また本発明においては、IL-6阻害剤の投与により未熟プラズマブラスト量が増加した場合、または未熟プラズマブラストの増加量が多い場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高く、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果が高いと判定される。
【0016】
あるいは本発明は、多発性硬化症患者由来の生物試料における未熟プラズマブラスト指標に基づいて、多発性硬化症の治療効果や治療の適応の可否を予測あるいは判定する方法に関する。
【0017】
より具体的には、本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の判定における未熟プラズマブラスト指標の使用であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、使用
に関する。
上記(i)は、「プラズマブラスト量が高い再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれる未熟プラズマブラストの変化指標を測定し」と言い換えることもできる。
【0018】
また本発明は、
多発性硬化症患者におけるIL-6阻害剤による治療効果の予測方法であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと予測される工程
を含む方法に関する。
あるいは本発明は、(ii)の後さらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する工程
を含むことができる。すなわち本発明は、(i)〜(iii)の工程を含む、多発性硬化症の治療方法に関する。
【0019】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、未熟プラズマブラスト指標の検出試薬の使用
に関する。
【0020】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、未熟プラズマブラスト指標の検出試薬の使用
に関する。
【0021】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、未熟プラズマブラスト指標の検出試薬の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0022】
また本発明は、多発性硬化症の治療おけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0023】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、未熟プラズマブラスト指標の検出試薬の使用であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0024】
また本発明は、多発性硬化症の治療剤の製造におけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0025】
あるいは発明は、
多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定する工程を含む、IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーの検出方法
に関する。
【0026】
あるいは発明は、
以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者への投与に使用するための、または、以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症の治療に使用するための、IL-6阻害剤または多発性硬化症治療剤に関する。
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程。
本発明においては、(ii)の後にさらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤もしくは多発性硬化症治療剤を投与する工程
を含むことができる。
【0027】
あるいは発明は、
IL-6阻害剤を有効成分として含有する多発性硬化症治療剤であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者に投与するための多発性硬化症治療剤
に関する。
【0028】
あるいは本発明は、
プラズマブラスト検出試薬および/または未熟プラズマブラストの変化指標の検出試薬を含むIL-6阻害剤による多発性硬化症の治療効果の予測剤であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与するための予測剤
に関する。
【0029】
本発明において、治療効果の予測方法は、予後の予測方法、治療の適応の可否の判定方法、治療効果の診断方法、治療継続の可否の判断方法などと言い換えることもできる。
また本発明において「治療の効果が高いと示される」という表現は、「治療の効果が高いと判断される」と言い換えることもできる。
【0030】
また本発明においては、「IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者」は「IL-6阻害剤による治療の適応患者」、「IL-6阻害剤応答性患者」などと言い換えることができる。したがって本発明は、
IL-6阻害剤による多発性硬化症の治療の適応患者の同定方法であって、
(i) 多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程
を含む方法に関する。
【0031】
本発明においては、多発性硬化症患者から単離された生物試料に含まれるプラズマブラスト(PB)量および/または未熟プラズマブラスト(未熟PB)の変化指標を測定する。本発明における「生物試料」とは、患者から採取可能なものであって、PBおよび未熟PBの変化指標の測定ができるものであれば特に限定されない。そのような試料として、血液由来のサンプルを例示することができるがこれに限定されない。血液由来のサンプルはリンパ球を含む限り限定されないが、好ましくは末梢血、全血、特に好ましくは末梢血が挙げられる。被験者からの血液由来サンプルの取得方法は当業者に周知である。
【0032】
本発明においては、多発性硬化症として、再発寛解型多発性硬化症、二次進行型多発性硬化症などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明において再発寛解型多発性硬化症とは、多発性硬化症のうち再発と寛解を繰り返すものをいう。本発明において再発寛解型多発性硬化症患者は、「再発寛解型多発性硬化症の疑いを有する被験者」、「再発寛解型多発性硬化症の治療を必要とする患者」と表現することもできる。本発明の「再発寛解型多発性硬化症患者」は、血清アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎ではない再発寛解型多発性硬化症患者とすることができるがこれに限定されない。本発明の再発寛解型多発性硬化症として、患者由来の生物試料中に含まれるプラズマブラスト量が高い再発寛解型多発性硬化症を例示できるがこれに限定されない。
【0033】
プラズマブラスト(形質芽細胞:PB)は、リンパ球の一種であるB細胞のサブセットであり、抗体産生に特化した機能を有する。本発明における「プラズマブラスト(PB)」として、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highの発現を示すB細胞が挙げられるがこれに限定されない。本発明において「プラズマブラスト(PB)量」とは、プラズマブラストの数やその割合をいう。具体的には、例えば、末梢血におけるCD19
+B細胞数に対するプラズマブラスト(PB)数の割合(プラズマブラスト(PB)数/CD19
+B細胞数×100(%))で表すことができる。本発明においてプラズマブラスト(PB)量は、CD19
+B細胞の数に対するプラズマブラスト(PB)の数の割合、あるいは単に、プラズマブラスト(PB)の割合、プラズマブラスト(PB)頻度などと表現することもできる。
【0034】
本発明において「プラズマブラスト(PB)量が高い」、「プラズマブラスト(PB)量が多い」、「プラズマブラスト(PB)頻度が高い」とは、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるPB量が、健常者におけるPB量の平均+1SD(SD: 標準偏差)以上の場合、更に好ましくは2SD(SD: 標準偏差)以上の場合をいう。本発明においては、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量が上記末梢血におけるCD19
+B細胞数に対するプラズマブラスト(PB)数の割合(プラズマブラスト(PB)数/CD19
+B細胞数×100(%))で表される場合には、例えば3.00%以上、好ましくは3.50%以上、特に好ましくは3.94%以上、より好ましくは4.50%以上の場合に、プラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者と示される。
【0035】
本発明におけるPB量の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば蛍光ラベルした抗体を使用するフローサイトメトリー分析により患者から単離された末梢血中のB細胞量を測定して行なうことができる。具体的には、末梢血単核細胞(PBMC)を蛍光抗CD3抗体(例えば、抗CD3-PerCP-Cy5.5: BioLegend, 300430)、CD14抗体(例えば、抗CD14-APC: BioLegend, 301808)、CD19抗体(例えば、抗CD19-APC-Cy7, BD Biosciences, 348794)、CD27抗体(例えば、抗CD27-PE-Cy7, BD Biosciences, 560609)、CD180抗体(例えば、抗CD180-PE, BD Biosciences, 551953)、CD38抗体(例えば、抗CD38-FITC, BECKMAN COULTER, A0778)にて同時に染色し、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highの発現を示す細胞を選択することができる。
より具体的には、例えばPBMCからCD3
+T細胞、あるいはCD14
+単球を除外しCD19
+CD27
+細胞を選択し、さらにCD180
−CD38
high細胞を選択すれば、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
high細胞を取得することができる。例えば、CD19の発現量が10
3以上の細胞をCD19
+細胞と、CD27の発現量が2×10
3以上のB細胞をCD27
+細胞と、CD180の発現量が2×10
3以下のB細胞をCD180
−細胞と、CD38の発現量が3×10
3以上のB細胞をCD38
high細胞と定義し、この基準にしたがってCD19
+CD27
+CD180
−CD38
high細胞を取得することができる。またCD19の発現量が10
3以上の細胞をCD19
+B細胞と定義することができる。PB量は、上述のように、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highのB細胞数/CD19
+B細胞数×100(%)で求めることができる。
【0036】
また本発明の「未熟プラズマブラスト(PB)の変化指標」は、例えば、未熟プラズマブラスト量やそのIL-6阻害剤の投与前後における変化量、濾胞性ヘルパーT細胞の量を含む。本発明において未熟プラズマブラスト(PB)とは、B細胞から分化した細胞であって成熟プラズマブラストへ分化する前のプラズマブラストをいう。本発明においては、未熟プラズマブラスト量やその変化量は、例えばKi-67およびHLA-DRの発現量の変化や発現の有無を指標に測定することができる。
【0037】
・Ki-67およびHLA-DRの発現量や発現の有無
細胞増殖マーカーKi-67とMHCクラスII分子HLA-DRは、プラズマブラストの分化の進行に伴い発現が低下する。したがって、Ki-67とHLA-DRの発現量や発現の有無を指標に、未熟プラズマブラストを検出、単離することができる。本発明においては、多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれる末梢血PBにしめるKi-67
+HLA-DR
high細胞の割合が増加する場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと示される。本発明においては、未熟プラズマブラスト量を、IL-6阻害剤の投与前と投与後の両方において測定してもよい。その場合、IL-6阻害剤の投与により投与前と比較して未熟プラズマブラスト量が増加した場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判定することができる。
Ki-67およびHLA-DRを発現する未熟プラズマブラストは、例えば、フローサイトメトリー等当業者に公知の手法によって検出または取得することができる。具体的には、例えば、PBMCからKi-67
−細胞及びHLA-DR
−細胞を除外し、Ki-67
+HLA-DR
high細胞を選択すれば本発明における未熟プラズマブラストを検出または取得することができるが、これに限定されない。
【0038】
・濾胞性ヘルパーT細胞の量
本発明者らは、末梢血における濾胞性ヘルパーT細胞の量が少ないMS患者群ではそうではない患者群と比較しIL-6阻害剤による治療効果が見られること、濾胞性ヘルパーT細胞の量が少ないRRMS患者群では未熟PB量の増加量が多い、または未熟PB量が増加することを見出した。したがって、濾胞性ヘルパーT細胞の量を指標にIL-6阻害剤によるMSの治療効果を予測することができる。また、IL-6阻害剤による治療効果が良好な濾胞性ヘルパーT細胞の量の少ない患者群では未熟PB量の増加量が多い、または未熟PB量が増加することから、濾胞性ヘルパーT細胞の量は、未熟PB量の変化指標となり得る。
【0039】
濾胞性ヘルパーT細胞は二次リンパ組織の濾胞胚中心に位置するCD4+T細胞サブセットであり、CXCR5およびCCR7を発現する。本発明において濾胞性ヘルパーT細胞の量は、例えば、末梢血におけるメモリーCD4+T細胞に対するCD3+CD4+CD45RA-CCR7+CXCR5+細胞の割合として表すことができる。すなわち、本発明は、
(i) メモリーCD4+T細胞中におけるCXCR5+CCR7+細胞を測定する工程、および
(ii) メモリーCD4+T細胞中におけるCXCR5+CCR7+の割合が低い場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと示される工程、
を含むことができる。
【0040】
本発明においては、メモリーCD4+T細胞におけるCD3+CD4+CD45RA-CCR7+CXCR5+細胞の割合が低い場合に、濾胞性ヘルパーT細胞の量が少なく、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断することができる。具体的には、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるメモリーCD4+T細胞中におけるCD3+CD4+CD45RA-CCR7+CXCR5+細胞の割合が、例えば30.0%、好ましくは28.2%、特に好ましくは26.0%、より好ましくは25.0%よりも低い場合に、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと示される。当該割合もまた、患者から単離された末梢血等をサンプルとするフローサイトメトリー等、当業者に公知の手法によって測定することができる。
【0041】
本発明においては、プラズマブラストの検出はプラズマブラスト検出試薬を用いて行うこともできる。また未熟プラズマブラストの変化指標の検出は未熟プラズマブラストの変化指標の検出試薬を用いて行うこともできる。プラズマブラスト検出試薬、未熟プラズマブラスト検出試薬は、それぞれ、プラズマブラスト、未熟プラズマブラストの変化指標の検出が可能な限り特に限定されないが、プラズマブラスト、未熟プラズマブラストの変化指標を認識することが可能な抗体を例示することができる。プラズマブラスト、未熟プラズマブラストの変化指標を認識することが可能な抗体は、それぞれ、プラズマブラスト、未熟プラズマブラストの変化指標の表面に発現するタンパク質や受容体を認識できるものであれば特に限定されるものではないが、プラズマブラストを検出する抗体として、例えば抗CD19抗体、CD27抗体、抗CD38抗体等を挙げることができる。また未熟プラズマブラスト量やその変化量を未熟プラズマブラストの変化指標とする場合、例えば抗ki-67抗体、抗HLA-DR抗体等を用いることができる。あるいは、濾胞性ヘルパーT細胞を未熟プラズマブラストの変化指標とする場合、濾胞性ヘルパーT細胞に発現するCXCR5やCCR7に対する抗体を使用することもできる。濾胞性ヘルパーT細胞の量を未熟プラズマブラストの変化指標とする場合、濾胞性ヘルパーT細胞の量が少ないまたは濾胞性ヘルパーT細胞の存在を確認できない場合、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判定することができる。
本発明においては、これらの抗体のうち2種以上、あるいは3種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、またはモノクローナル抗体とすることができる。あるいは、プラズマブラストの表面に発現するタンパク質や受容体の異なる抗原決定基を相互に認識する多重特異性抗体であってよい。
【0042】
本発明は、(i) 生物試料におけるプラズマブラストおよび/または未熟プラズマブラストの変化指標を検出するための試薬、および(ii) プラズマブラストおよび/または未熟プラズマブラストの変化指標に対する陽性対照試料を含む、多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーを検出するためのキットをも提供する。
本発明のキットは、
(i)多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量および/または未熟プラズマブラストの変化指標を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高いプラズマブラスト高発現患者群において、未熟プラズマブラストの変化指標が高いと判断された場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与するための、
多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーを検出するためのキットである。
【0043】
本発明は、未熟PBを指標として、IL-6阻害剤による多発性硬化症(特に、末梢血PB量の多い再発寛解型多発性硬化症)の治療効果を予測する。本発明において「IL-6阻害剤」は、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害することが可能な限り限定されない。IL-6阻害剤の具体的な例として、IL-6に結合する物質、IL-6受容体に結合する物質、gp130に結合する物質などを挙げることができるがこれらに限定されない。また、IL-6阻害剤としては、IL-6による細胞内シグナルとして重要なSTAT3リン酸化を阻害する物質、例えばAG490などを挙げることもできるがこれに限定されない。IL-6阻害剤には、特に限定されないが、抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体、IL-6部分ペプチド、IL-6受容体部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子化合物などが含まれる。
【0044】
IL-6阻害剤の好ましい態様として、IL-6受容体阻害剤、特に抗IL-6受容体抗体を挙げることができる。
【0045】
本発明で用いられる抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
【0046】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。通常、この抗体はIL-6、IL-6受容体、gp130等と結合することにより、IL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0047】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体、IL-6、gp130等を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0048】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗IL-6受容体抗体を作製する場合、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子の塩基配列/IL-6受容体タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0049】
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
【0050】
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0051】
同様に、IL-6を抗体取得の感作抗原として用いる場合には、ヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550、J. Immunol.(1988)140, 1534-1541、あるいはAgr. Biol. Chem. (1990)54, 2685-2688に開示されたIL-6遺伝子の塩基配列/IL-6タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。また、抗gp130抗体取得の感作抗原としては、欧州特許出願公開番号EP 411946に開示されたgp130遺伝子の塩基配列/gp130タンパク質のアミノ酸配列を用いることができる。
【0052】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0053】
感作抗原の動物への免疫は、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0054】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0055】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F.Et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell (1976) 8, 405-415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133)等が適宜使用される。
【0056】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0057】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0058】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0059】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0060】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0061】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0062】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0063】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0064】
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0065】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0066】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0067】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M.A. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0068】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0069】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0070】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体等を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0071】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0072】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0073】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0074】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0075】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、通常、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体重鎖C領域としては、Cγなどが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。ヒト抗体軽鎖C領域としては、例えば、κまたはλを挙げることができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0076】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、これらはヒト体内における抗原性が低下しているため、医薬品として使用される抗体として有用である。
【0077】
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0078】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0079】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0080】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0081】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R.C. et al., Nature (1979) 277, 108-114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)に従えば容易に実施することができる。
【0082】
宿主として原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0083】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E.S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E.S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043)に従えばよい。
【0084】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S.P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0085】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0086】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。In vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0087】
宿主として真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(babY hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0088】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0089】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0090】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0091】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0092】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
【0093】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO94-11523参照)。
【0094】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
【0095】
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0096】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0097】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0098】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
【0099】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0100】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0101】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0102】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0103】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0104】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0105】
抗IL-6抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MH166(Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1998) 18, 951-956)やSK2抗体(Sato K et al., 第21回日本免疫学会総会、学術記録 (1991) 21,166)などを挙げることができる。
【0106】
抗IL-6受容体抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられるが、これらに限定されない。また、ヒト化抗IL-6受容体抗体の好ましい例としては、ヒト化PM-1抗体(Tocilizumab、MRA)を挙げることができるがこれに限定されない。ヒト化抗IL-6受容体抗体の他の好ましい例としてはWO2009/041621、WO2010/035769に記載された抗体を挙げることができるがこれらに限定されない。さらに、抗IL-6受容体抗体の他の好ましい態様として、ヒト化PM-1抗体(Tocilizumab、MRA)が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗IL-6受容体抗体を挙げることができるがこれに限定されない。
【0107】
抗gp130抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、AM64抗体(日本公開公報 特開平3-219894)、4B11抗体、2H4抗体(アメリカ特許公報 US5571513)、B-P8抗体(日本公開公報 特開平8-291199)などが挙げられる。
【0108】
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
【0109】
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56)を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
【0110】
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367、WO96-18648、WO96-17869に開示されているIL-6改変体を挙げることができる。
【0111】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
【0112】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
【0113】
IL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
【0114】
IL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
【0115】
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
【0116】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
【0117】
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
【0118】
また本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含む、プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標が高い多発性硬化症の治療剤に関する。本発明における「プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標が高い再発寛解型多発性硬化症」とは、プラズマブラスト(PB)量が高い多発性硬化症であって、IL-6阻害剤投与前と比較し投与後において未熟プラズマブラスト(PB)量が増加する、またはIL-6阻害剤の投与による未熟プラズマブラスト(PB)の増加量が多いと判定された多発性硬化症をいう。あるいは、プラズマブラスト(PB)量が高い多発性硬化症であって、濾胞性ヘルパーT細胞の量が少ない多発性硬化症をいう。
本発明においては、「プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い再発寛解型多発性硬化症」は「プラズマブラスト高発現かつ濾胞性ヘルパーT細胞低発現の再発寛解型多発性硬化症」と表現することもできる。
【0119】
本発明において「有効成分として含有する」とは、IL-6阻害剤を活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、その含有率を制限するものではない。また、本発明の治療剤は、IL-6阻害剤以外の他の有効成分を含有してもよい。また本発明の治療剤は治療目的だけでなく、予防目的に用いられてもよい。
【0120】
本発明の治療剤は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の治療剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、アミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、IL-6阻害剤を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0121】
IL-6阻害剤をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明のIL-6阻害剤に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。さらに、本発明の治療剤にヒアルロニダーゼを添加あるいは混合することで皮下に投与する液量を増加させることも可能である(例えば、WO2004/078140等)。
【0122】
本発明の治療剤は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。治療部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。経皮投与剤型の例としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、および貼付剤等があげられ、全身又は局所的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1 kgあたり活性成分が0.0001 mg〜100 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001〜1000 mg/kg・body・weightの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、本発明の抗体が0.01〜50mg/kg・body・weight程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明の治療剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0123】
本発明の治療剤は、単独でヒトおよび動物におけるプラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い多発性硬化症の治療に用いることができる。あるいは医薬品や食品に通常使用されうる他の成分と混合して経口投与することもできる。また、多発性硬化症の治療および/または予防効果が知られている他の化合物や微生物等と併用することもできる。
【0124】
また本発明は、IL-6阻害剤を動物に投与する工程を含む、プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い多発性硬化症の治療方法に関する。IL-6阻害剤が投与される対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としてはヒト及びヒト以外の再発寛解型多発性硬化症の治療や予防を必要とする哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトやサルが挙げられ、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0125】
また本発明は、プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い多発性硬化症の治療に使用するためのIL-6阻害剤に関する。あるいは本発明は、プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い多発性硬化症の治療剤の製造における、IL-6阻害剤の使用に関する。
【0126】
また本発明は、IL-6阻害剤と薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、プラズマブラスト高発現かつ未熟プラズマブラストの変化指標の高い多発性硬化症の治療剤の製造方法に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0127】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
多発性硬化症(MS)治療は、再発回数の減少と臨床症状の改善を目的とする。そこで、IL-6阻害剤であるトシリズマブ(TCZ)導入前後12ヶ月間における再発回数を比較した。臨床症状の比較は、TCZ導入前と導入12ヶ月後における以下の指標に基づき行った。EDSSは歩行障害に重点が置かれているため、NRS、眼科的評価を併用した。
・MS障害度スケールExpanded Disability Status Scale (EDSS)
・倦怠感と四肢、体幹の神経痛に関するNumerical Rating Scale (NRS)
・視力検査,視野検査などの眼科的評価
【0129】
患者は、以下に示すように、末梢血PB頻度の高いPB-high MS患者3群(Pt1、Pt2、Pt3)を対象とした(
図1、2)。
・Pt1:末梢血濾胞性ヘルパーT細胞頻度の高いT
FH-high群
・Pt2、Pt3:末梢血濾胞性ヘルパーT細胞頻度の低いT
FH-low群
【0130】
Pt2ではTCZ導入前12ヶ月間に歩行障害の悪化を伴う4回の再発を認めたが、導入12ヶ月後は有意な再発は認めず、EDSSの悪化は伴わなかった。倦怠感と神経痛に関するNRSも共に6から4に改善した。Pt3では、もともと両視野狭窄があり、導入前12ヶ月間にも右視野狭窄増悪による再発を1回認めたが、導入後は再発なく経過し、さらに両視野の顕著な改善も認めた。EDSSも4.0から3.5に改善した。一方、Pt1では、導入後9ヶ月間は再発なく経過するも、導入10、11ヶ月後に2回の再発をきたし、EDSSが4.0から5.0に悪化したため、投与中止となった。これらの結果より、Pt2およびPt 3ではTCZは有効であるが、Pt1では効果不十分と判断した。
【0131】
図2に示されるように、トシリズマブ投与による治療経過が良好なPt2およびPt3では、トシリズマブ投与前に末梢血PB量高値が確認されている。したがって、末梢血PB量を指標に、IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症(RRMS)の治療効果を予測できることが明らかとなった。また治療無効のPt1とは対照的に、Pt2およびPt3では、末梢血濾胞性ヘルパーT(T
FH)細胞の量が少ない。したがって、末梢血PB量高値の再発寛解型多発性硬化症において末梢血T
FH細胞量はRRMSの治療効果を予測する指標となり得ることが明らかとなった。
【0132】
PBは二次リンパ組織でナイーブ、あるいはメモリーB細胞から分化し、抗体産生を介して感染症などの際に生体防御に貢献する。ナイーブB細胞は抗原刺激を受け活性化するとCD4陽性T細胞との相互作用を経て、その一部は素早く未熟PBに分化し、感染源など抗原に対する初期対応を行う。一方、残りの活性化ナイーブB細胞は、胚中心B細胞として胚中心を形成し、この構造物の中で濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用を経てPBへの分化が決定される(Craft JE. Nat Rev rheumatol 2012; 8: 360-2.、Crotty s. Immunity 2014; 41: 529-42.)。この過程で生じた未熟PBは、濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用を反復することにより成熟し、抗原排除に高い機能を発揮する(Liu D, et al. Nature 2015; 517: 214-8.)。胚中心B細胞と濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用は、同時にメモリーB細胞も産生する。メモリーB細胞は、感染症などの免疫イベントが収束した後も生存し続け、同じ特異的抗原刺激を受けるナイーブB細胞より素早く、より成熟したPBに分化する能力を有する(Craft JE、Crotty s)。最近,メモリーB細胞のPBへの分化においても、消退しつつある胚中心付近に待機する濾胞性ヘルパーT細胞と相互作用を示すことが報告され、このメモリーB細胞からの成熟PBの産生にも濾胞性ヘルパーT細胞は重要な役割を担うと考えられている(Aiba Y, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 12192-7.)。
【0133】
最近、マウスでは末梢血を循環する濾胞性ヘルパーT細胞がin vivoで高いPB分化能を発揮することが報告され、ヒトでも濾胞性ヘルパーT細胞は末梢血を循環しつつ二次リンパ組織においてPB分化を促進していると推測されている(Sage PT, et al. J Clin Invest 2014; 124: 5191-204.)。実際に、ヒト感染症、及び自己免疫疾患では、末梢血濾胞性ヘルパーT細胞の増加と血中特異的抗体量、及び臨床的重症度との相関も示されている(Locci M, et al. Immunity 2013; 39: 758-69.、Simpson N, et al. Arthritis Rheum 2010; 62: 234-44.)。