特許第6875694号(P6875694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 木戸 平太郎の特許一覧

<>
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000002
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000003
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000004
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000005
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000006
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000007
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000008
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000009
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000010
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000011
  • 特許6875694-標識プレート及びその製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875694
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】標識プレート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 7/16 20060101AFI20210517BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210517BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20210517BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20210517BHJP
   B44C 5/00 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   G09F7/16 D
   B33Y10/00
   B22C9/00 Z
   B28B1/30
   B44C5/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-215786(P2016-215786)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-72746(P2018-72746A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】596166472
【氏名又は名称】木戸 平太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 平太郎
【審査官】 藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−020998(JP,A)
【文献】 特表2013−507703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 7/00− 7/22
B22C 7/02
B22C 9/00
B22C 9/22
B22D 25/02
B28B 1/30
B33Y 10/00
B44C 5/00
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製板材にその肉厚方向に貫通した透孔を規則的に配置した地模様体と、当該地模様体の表面から上方に一体的に突出し、かつ、複数の前記透孔にかかるように配置された金属製の表示体を有しており、前記表示体の地模様体からはみ出した部分の背面は地模様体の背面と面一になるまで伸びており、前記地模様体及び表示体が、これらの鋳造キャビティに金属溶湯を鋳込むことにより一体成形したものであり、前記表示体の地模様体からはみ出した部分の裏面が地模様体の裏面と面一であることを特徴とする、立体感のある標識プレート。
【請求項2】
3Dモデリングソフトウエアを用いて標識プレートの3Dデータを作成し、この3Dデータを用いて作成した鋳造キャビティを有する鋳型の3Dデータを作成し、当該鋳型の3Dデータを3Dプリンタで出力して鋳型を形成し、当該鋳型に金属溶湯を鋳込むことにより、地模様体と表示体とを一体的に形成する標識プレートの製造方法において、
前記鋳造キャビティが鋳型の母材の3Dデータから前記標識プレートの3Dデータを引き算することにより、母材表面に標識プレートの裏側面を開口させたものであることを特徴とする、請求項1記載の立体感のある標識プレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、看板、表札、銘板 定礎板、ネクタイピン、カフスボタン、印鑑その他の金属製標識プレートに関するものであり、特に、地模様体の表面側に文字や家紋等の表示体を立体的に配設した標識プレート及び当該標識プレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属製標識プレートとしては、金属板をレーザー加工することにより、種々の文字、記号、模様などの外輪郭形状に沿った透孔を形成した表示部分と、この表示部分の裏側に一定の間隔を隔てて配置された基板で構成されたものがある。金属板に設けられた透孔を介して、その裏面側にある基板の色彩を見ることができるようにして、立体感があり、かつ色彩のある標識プレートとしたものである(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記の標識プレートは、金属板から文字等の表示部分を切り抜いたものであり、薄い金属板を使用しており、かつ、文字等以外の部分は未加工の金属板のままである。即ち、表示部分が透孔であり、金属板と面一であるから、表示部分それ自体には立体感がない。また、屋外に設置される標識プレートは、風雨や直射日光に晒されることが多いので、長期の使用に耐えることが要求される。そこで、従来の標識プレートは、金属板としてステンレス板を用いている。ステンレス板は錆びないが、硬くて加工しづらく、後処理仕上げも必要である。更に、ステンレス板に透孔を形成するには、レーザー加工用設備や後処理仕上げ設備が必要であるから、受注生産による一品製作的な性格が強い標識プレートでは、どうしても製品原価が高くなってしまうという問題がある。
【0004】
一方、鋳型を使用して標識プレートを製造する従来の方法は、木材を彫って原型(木型)を作成し、石膏泥漿を流し込み硬化後に脱型し、養生したあと乾燥して石膏鋳型を作成し、金属溶湯を鋳込んで硬化後に石膏鋳型を破壊して型外しを行うものである。鋳物製標識プレートを製造する別の方法として、マスク材に設けられた透光部に光を通して、その下方にある液状光硬化性樹脂層に照射することで、透光部の模様を樹脂層に形成すると共に、未硬化部位の樹脂層を除去することにより透光部の模様に対応する盛り上がり部を有する樹脂製の原型を製作する方法がある。この従来方法によれば、作業者の熟練度に関係なく、簡単かつ正確に模様を原型の表面に盛り上がらせた、美麗な装飾鋳物用の樹脂製の原型を製造することができる(特許文献2)。
【0005】
更に、チタン合金製印鑑を鋳造する方法として、木材で印鑑型(木型)を作製し、この印鑑型を用いてワックス製の印鑑形状の消失性模型を作製し、この消失性模型の表面に耐火物スラリーを付着させて耐火物皮膜を形成し、加熱により内部の消失性模型を除去し、消失性材料があった部分が鋳造空間となる精密鋳造鋳型とし、この精密鋳造鋳型に溶融状態のチタン合金溶湯を流し込み、固化後に精密鋳造鋳型を破壊することによってチタン合金製印鑑を得ることが知られている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、樹脂製の原型ないしワックス製の消失性模型を使用する方法は、上記のような木型を使用する方法と同様に、鋳型用の原型を作成する必要があり、原型を製造するための材料や作業時間等により製造コストがかかる。また、標識プレートは、受注生産による一品製作的な性格が強く高価であるから、出来上がった標識プレートに顧客の要望が十分に反映されることが好ましいが、鋳型の原型(木型)ないし消失性模型を見ながら顧客と対話し、原型ないし消失性模型に顧客の要望を取り入れて修正を加えることには相当の困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−106256号公報
【特許文献2】特開2002−254141号公報
【特許文献3】特開平5−169785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1の目的は、以上のような従来の欠点に鑑み、一定の肉厚がある金属製地模様体の表面に一定の肉厚がある文字等の金属製表示体を一体的に設け、更に、当該地模様体の模様はその肉厚方向に貫通した透孔を規則的に設けることにより形成すると共に、前記表示体を地模様体の複数の透孔にかかるような大きさとすることにより、前記表示体を地模様体で支持させるようにしたので、表示体自身に立体感があり、地模様体の模様にも立体感があり、更に、地模様体の透孔を介して、標識プレートを取り付けた家屋等の外壁の模様や色彩を取り込むことが可能な、きわめて独創的な立体感を有する標識プレートを提供することである。
【0009】
本発明の第2の目的は、木材や樹脂からなる鋳型用原型を作成することなく、コンピュータの画面上で鋳型用原型の3Dデータを作成し、コンピュータの画面に3Dデータで作成された鋳型用原型(製品の標識プレートに相当する外観)を画面表示させ、画面上に表示された鋳型用原型を見ながら顧客と対話し、顧客の要望を取り入れながら3Dデータに変更を加え、できあがった鋳型用原型の3Dデータを鋳型の母材(通常は直方体)となる3Dデータから引き算することにより、基板表面に鋳造キャビティを有する鋳型の3Dデータを作成し、この鋳型の3Dデータを3Dプリンタで出力して石膏等からなる鋳型を作成する(ダイレクト デジタル マニュファクチャリング、DDM)。つまり、現物の鋳型用原型を作成することなく、3Dデータから直接的に製作した鋳型(現物の鋳型)に金属溶湯を鋳込むことにより、顧客の要望を反映させた標識プレートを製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の立体的な標識プレートは、金属製板材にその肉厚方向に貫通した透孔を規則的に配置した地模様体と、当該地模様体の表面から上方に一体的に突出し、かつ、複数の前記透孔にかかるように配置された金属製の表示体を有することを構成している。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の標識プレートにおいて、前記地模様体が蒲鉾形、椀形、波形等の曲面形状であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の標識プレートにおいて、当該地模様体の外周を囲むように設けられた金属製の外枠体を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の標識プレートにおいて、前記地模様体の透孔の断面形状が鹿の子模様、麻の葉模様、青海波模様等の日本文様の空白部と同一ないし類似の形状であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1、2、3又は4記載の標識プレートにおいて、前記地模様体の最大長さが10mm以上である場合、前記地模様体の肉厚を1mm上とするとともに、表示体の突出寸法を1mm以上として全体として立体感のあるものとしたことを特徴とするものである。標識プレートの用途によって前記地模様体の肉厚及び表示体の突出寸法を変化させて、立体感を維持することができる。例えば定礎板であれば地模様体の幅450mm程度であるから上記肉厚及び突出寸法を7mm以上とし、表札であれば地模様体の幅220mm程度であるから上記肉厚及び突出寸法を5mm以上とし、カフスボタンであれば地模様体の幅20mmであるから上記肉厚及び突出寸法を1.5mm以上とし、認用印鑑であれば地模様体の直径10mmであるからし肉厚及び突出寸法を1mm以上とする。つまり、上記肉厚及び突出寸法が地模様体の幅ないし直径(最大長さ)の平方根の3分の1以上になるようにすれば、立体感を維持できる。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1、2、3、4又は5記載の標識プレートにおいて、前記地模様体、表示体及び外枠体のうち、少なくとも前記地模様体及び表示体を、これらの鋳造キャビティに金属溶湯を鋳込むことにより一体成形したものであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1、2、3、4、5又は6記載の標識プレートの製造方法において、コンピュータ上で標識プレートの3Dデータを作成し、この3Dデータに基づき鋳型用の3Dデータを作成し、当該鋳型用の3Dデータを3Dプリンタで出力して鋳型を形成し、当該鋳型の鋳造キャビティに金属溶湯を鋳込むことにより、少なくとも前記地模様体と表示体とが一体的の標識プレートを形成する方法を提供することである。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明にあたっては次に列挙する効果が得られる。
請求項1の標識プレートは、平面形状ないし曲面形状の地模様体の表面に、一定の肉厚がある文字等の表示体を、複数の透孔にかかるようにかつ一体的に設けたので、地模様体で表示体を支持すると共に表示体自体に立体感を付与することができる。また、標識プレートは、透孔を規則的に配置した地模様体を有しているから、地模様体にも立体感を付与することができると共に、標識プレートを設置した家屋等の外壁の色や模様を、透孔を介して標識プレートに取り込むことができるので、きわめて独創的な立体感を有する標識プレートを提供することができる。
【0018】
また、地模様体の透孔が肉盗み部となり金属材料の使用量を抑えることができるので、標識プレートを安価に提供することができる。更に、表示体は、複数の透孔にかかるような大きさ、即ち、透孔に比べて十分な大きさを有しているから、表示体は地模様体により確実に支持される。
【0019】
請求項2の標識プレートは、前記地模様体が蒲鉾形、椀形、波形等の曲面形状であるから、請求項1の標識プレートに比べてより一層立体感のある標識プレートを提供することができる。請求項3の標識プレートは、地模様体の先端の枝分かれ部が外枠体により連続的につながれるので、デザイン性に優れ、まとまりのある標識プレートを提供すことができる。請求項4の標識プレートは、透孔の断面形状が日本文様を構成する空白部に相当する断面形状と同一ないし類似の形状であるから、きわめて和風的で親近感のある標識プレートを提供することができる。請求項5の標識プレートは、前記地模様体の最大長さが10mm以上である場合、前記地模様体の肉厚を1mm上とするとともに、地模様体の表面から視覚で認識できる厚さ、即ち1mm以上の厚さの表示体を有するので、表示体自身に立体感を付与することができる。請求項6の標識プレートは、地模様体及び表示体に相当する鋳造キャビティを有する鋳型を用意し、これに金属溶湯を鋳込んで一体成形したものであるから、重厚で耐久性のある標識プレートを得ることができる。
【0020】
請求項7の発明によれば、予め作成した標識プレートの3Dデータをコンピュータの画面に表示させ、これを見ながら顧客の要望を確認しながら3Dデータを変更し、顧客の要望を反映した標識プレートの3Dデータを作成し、この標識プレートの3Dデータを用いて、鋳造キャビティを有する鋳型用3Dデータを作成し、鋳型用3Dデータを3Dプリンタで出力することにより鋳型(現物の鋳型)を作成し、この鋳型の鋳造キャビティに金属溶湯を流し込むことにより標識プレートを成形するものであるから、従来のような木製ないし樹脂製の原型が不要となり、受注による一品製作に好適で、かつ安価な標識プレートの製造方法を提供することができる。また、3Dプリンタ(積層造形)を用いて鋳型を作るので、切削による金属粉末や砂型の廃棄砂その他の廃棄物の発生を抑えることができ、3Dプリンタ内に余った材料(例えば石膏粒)もほぼすべて回収できるので廃棄物がほとんど出ない。内部形状が複雑で鋳型の製造が困難なものや、従来なら高額な加工コストがかかっていたものも簡単に製造できるうえ、強度や品質の優れた一体形成品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施例の立体的な標識プレートを正面側から見た斜視図である。
図2】第1実施例の立体的な標識プレートを背面側から見た斜視図である。
図3図1の鋳物のA−A断面図である。
図4】第1実施例の標識プレートの鋳込みに使用する鋳型の斜視図である。
図5図4のB‐Bの断面図である。
図6】埋込ナットを保持する保持枠の斜視図である。
図7】第1実施例の標識プレートの3Dデータの組立過程を示す摸試図であり、(a)は地模様体の3Dデータを画面に表示した正面図であり、(b)は外枠体の3Dデータを画面に表示した正面図であり、(c)は文字等の表示体の3Dデータ等を画面に表示した正面図である。
図8】第2実施例の立体的な標識プレートを示す正面図である。
図9】第2実施例の標識プレートを示すもので、(a)は図8のC―C断面図に相当する鋳型の断面図、(b)は(a)のD部拡大図である。
図10】第3実施例の立体的な標識プレートを示す正面図である。
図11】第4実施例の立体的な標識プレートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の標識プレートに使用する金属材料としては、錆びない金属が好ましい。例えば、鋳鉄、青銅、真鍮などである。標識プレートの地模様体としては、平面形状のものが製造しやすいが、蒲鉾形、椀形、波形等の曲面形状のものの方がより一層立体感を発揮することができる。地模様体の透孔を形成する手段としては、金属製板材の打ち抜き加工やレーザー加工が可能であるが、鋳型に金属溶湯を鋳込んで成形する方が好ましい。鋳型は、曲面を有する地模様体を成形するための3次元的な鋳造キャビティとすることも可能である。鋳型は、3Dモデリングソフトウエアにより作成した鋳型の3Dデータを3Dプリンタにより出力することにより製造すること(DDM)ができ、その材料としては石膏が好ましい。石膏製の鋳型を用いるのであれば、溶解温度が低く、金色、銀色、銅色等の各種色彩を表現できる銅合金を使用することが好ましい。標識プレートの仕上げ方法としては、バフ仕上げ、ヘアーライン仕上げ、ランダム仕上げなどの研摩や、緑青仕上げ、銅古美仕上げ、金箔仕上げ、塗装仕上げなどの表面処理、ホワイトブロンズ、真鍮めっき、溶融亜鉛等のメッキ加工を行うことができる。
【0023】
標識プレートや鋳型などの3Dデータ(拡張子.stl)の作成には、3Dモデリングソフトウエアのソリッドワークスやスペースクレーム、オートディスクのような3DCAD用ソフトウエアを使用することができる。また、123Dデザイン(拡張子.123d)やDSメカニカル(拡張子.rsdoc)のようなフリーのモデリングソフトを使用することができる。標識プレート用の鋳造キャビティは、鋳型となる母材(通常は直方体)の3Dデータから標識プレートの3Dデータを引き算(CombineコマンドのSubtract)することにより、母材表面に標識プレートの表側面又は裏側面が開口した鋳造キャビティ―を有する鋳型の3Dデータを作成することができる。なお、足し算や引き算という用語は、使用するソフトウエアによっては、ブーリアン(集合演算)と呼ばれることもある。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の第1の実施例を図1ないし図6を用いて説明する。図1は標識プレートを正面側から見た斜視図である。図2は標識プレートを背面側から見た斜視図である。図3図1のA−A断面図である。図4は鋳型の斜視図である。図5図4のB‐Bの断面図である。図6は保持枠の斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本実施例の標識プレート1は、青銅合金の溶湯を後述する鋳型の鋳造キャビティに流し込んで成形したものである。標識プレートの地模様体6は、幅5mmで厚さ3mmの長円形外枠体2の内側に、傾き45度及び逆傾き45度で一定間隔を隔てて配置した複数本の棒材3、4を有している。各棒材は幅3mmで、厚さ3mmであり、それぞれの棒材が直角に交差して正面側から見て菱形の多数の透孔5・・・を形成している。外枠体2の周縁内側にある透孔5は、外枠体と棒材とで形成された不定形な断面形状を有するものとなっている。即ち、地模様体6は、各棒材3、4と、各棒材の外側先端部7・・・を連結する外枠体2とにより構成され、各棒材及び外枠体により表側から裏側に貫通する断面菱形の透孔5・・・を有している。
【0026】
地模様体6の左右対称位置に、「A」と「B」の立体的な文字9、10が配置されている。各文字は、幅4mm厚さ6mmであって、菱形の透孔5・・・より大きく形成されている。各文字は複数の透孔5・・・(図面上は5個ないし6個の透孔)にかかるように配置され、各棒材3、4と一体なった状態で支持されている。文字9、10はひとつの透孔5よりも大きく、棒材からはみ出した部分8(棒材と重ならない部分)の背面は地模様体6の背面と面一なるまで延びている。図3は標識プレートのA―A断面図を示したものであり、文字10は、肉厚3mmの地模様体の表面側上方に3mm上方に突出していることになる。つまり、図3に示すように、文字10は、棒材3、4からはみ出した部分8の裏面が地模様体の裏面と面一となり、文字の表面は地模様体の表面から3mm突出していることになる。
【0027】
図2において、外枠体2の左右の円弧部の略中央位置には、埋込ナット25、25が埋め込まれている。埋込ナットは標識プレート1を家屋等の正面外壁に取り付ける際に、外壁と標識プレートとをつなぐネジ杆を螺合するためのものである。埋め込みナット25、25はステンレス製であり、その埋め込み方法については後述する。
【0028】
図4及び図5は第1実施例の標識プレート用の鋳型の斜視図及び断面図である。鋳型11は石膏製であり、後述する方法で作成した鋳型の3Dデータを用いて、石膏用3Dプリンタで出力したものである。金属製標識プレートの棒材3、4を形成する凹溝14及び15に囲まれた突出部(鋳型表面側から見て菱形の部分)12は、標識プレートの断面菱形の透孔5を形成する部分であり、その頂面が鋳型の表面13と面一になっている。また、文字9、10を成形する凹溝17、18は、棒材の凹溝14、15よりさらに深く窪んでいる。外枠体2を形成する凹溝19は棒材の凹溝14、15と同じ深さである。外枠体及び棒材を形成する凹溝14、15、19及び文字を形成する凹溝17、18により鋳造キャビティ16が構成される。この鋳造キャビティ16に金属溶湯を鋳込むときは、金属溶湯の表面が鋳型表面から少し下がった位置になったら注入作業を止めて、透孔5の貫通性を確保するのがよい。上記のような鋳型構造であれば、若干の抜き勾配を向けると共に、鋳造キャビティ16の成形面に離型剤を塗布しておくことにより、脱型作業が容易となり、繰り返して鋳型を使用することができる。また、文字や棒材、外枠体の各表面は鋳型の成形面を転写することになるので、模様をつけたり、平滑面としたりすることが可能である。
【0029】
図6は、標識プレートに埋込ナット25を埋め込むときに使用する保持枠の斜視図である。保持枠21は、2本の縦材と2本の横材とを連結した矩形を有しており、鋳込み時に埋込ナット8を標識プレート1の所望の位置に保持するための治具である。保持枠21は、保持枠の左右縦材の中間位置に設けられた貫通孔22にネジ杆20を通し、表側と裏側にナット23、24を螺合し、両方のナットを締めつけることによりネジ杆を所定の突出長さに保持する構造である。鋳込み時に、ネジ杆の先端にステンレス製の埋込ナット25を螺合し、保持枠を鋳型11の表面に当接させて、埋込ナットが外枠体の凹溝26の中で浮いた状態で保持する。埋込ナット25は、銅合金の金属溶湯を鋳込んだときに標識プレートの外枠体内に表面部を残して埋没するように設けられる。埋込ナットは、金属溶湯が固化した後にナットを緩めてネジ杆20を逆回転しながら後退させて、埋込ナットからネジ杆20を取り外すことにより、標識プレートに一体的に埋設される。
【0030】
図4に示す石膏製鋳型11の表面に保持枠をセットし、保持枠の中央の開口から鋳型の鋳造キャビティに銅合金の金属溶湯を鋳込み、固化後保持枠を取外し、鋳型から標識プレート1を取り出す。取り出した標識プレート1は、顧客要望に応じて、バフ仕上げや本緑青仕上げ等の後処理を施す。
【0031】
仕上げられた標識プレートを家屋等の正面壁27に設置するときは、埋込ナット8にステンレス製の取付用ネジ杆28を螺合し、ネジ杆28に対応する間隔で取付孔29を正面壁の所望の位置に設ける。取付用ネジ杆28の先端部及び正面壁27の取付孔29に無機接着剤を塗布して、取付用ネジ杆を取付孔に押し込んで標識プレートの取り付け作業が完了する。
【0032】
図7は第1実施例の標識プレートの3Dデータを作成する方法を示したものである。コンピュータにインストールされた3Dモデル作成ソフト(3Dモデラー)を動作させて、まず、長さ300mm、幅3mm、厚さ3mmの棒材の3Dデータを準備し、この棒材を傾き45度及び逆傾き45度で交差させながら16mmの間隔で配置して、深さ3mmの菱形の多数の透孔5・・・を形成する。これにより、肉厚方向に貫通した透孔を規則的に配置した地模様体6の3Dデータができるので、ファイル1に保存する。ファイル1の地模様体6の3Dデータを画面上に表示した図形31を示したものが図7(a)である。なお、上記地模様体は平面形状であるが、蒲鉾形、椀形、波形等の曲面形状とすることも可能である。
【0033】
次に、幅3mm厚さ3mmで内径の半径50mmの左右の半円形円弧を、中心点間距離100mmに離間させてそれぞれの円弧端を長さ100mmの棒材で連結して外枠体の3Dデータを作成し、ファイル2に保存する。ファイル2の外枠体の3Dデータを画面上に表示した図形32が図7の(b)である。
【0034】
最後に既存の文字データファイルから文字「A」「B」のデータを呼び出し、厚さ6mmに立体化して文字の3Dデータを作成し、ファイル3に保存する。なお、文字「A」「B」のデータはグループ化されており、各要素を拡縮、立体化、移動が同時に可能である。ファイル3の文字の3Dデータを画面上に表示したものが図7の(c)である。
【0035】
標識プレートの3Dデータは、これらの3個のファイル1、2、3に格納された3Dデータを用いて構築する。即ち、標識プレートの3Dデータを作成するには、図7の(a)の地模様体6の3Dデータを呼び出し、この3Dデータの中央部に図7の(b)の外枠体の3Dデータを挿入して重ね、3Dデータ同士を足し算する。そうして外枠体からはみ出した地模様体の3Dデータを削除することにより、外枠体に囲まれた地模様体の3Dデータができる。この地模様体の3Dデータに、図7の(c)の文字データを挿入して、地模様体の中心位置に「A」「B」からなる立体文字の3Dデータを重ね、3Dデータ同士を足し算する。これにより本発明の標識プレートの3Dデータを作製することができるので、ファイル4に保存する。ファイル4の標識プレートの3Dデータを画面上に表示したものが図1と同様な形となる。
【0036】
顧客の要望に迅速に応えるために、図示の格子状の地模様体のほかに、麻の葉模様、青海波模様、などの多種類の地模様体の3Dデータを準備しておく。更に、外枠体に関しても、正方形、長方形、楕円形、円形など様々な形状の外枠体の3Dデータを準備しておく。文字に関しては、顧客の要望に基づき市販のフォントの文字データを選択し、立体化して3Dデータを作成する。これらの3Dデータを組み合わせてコンピュータの画面上に表示し、顧客と打ち合わせながら標識プレートの3Dデータを修正し、顧客の要望する標識プレートの3Dデータをコンピュータの画面上で作成する。標識プレートのデザイン(標識プレートの3Dデータ)が確定したら、鋳型の母材の3Dデータに標識プレートの3Dデータの上下反転したものを上方から重ね、母材の3Dデータから標識プレートの3Dデータを引き算することにより、鋳造キャビティ―を有する鋳型の3Dデータを作成することができる。
【0037】
標識プレートの3Dデータ(拡張子.stl)を3Dプリンタで出力して、石膏製の鋳型(現物の鋳型)11を得る。この石膏製の鋳型に保持枠21を取り付けて埋込ナット25を保持した状態で、鋳造キャビティに銅合金の金属溶湯を流し込み、固化後に保持枠を外して、標識プレート1を脱型する。
【実施例2】
【0038】
図8及び図9は本発明の第2実施例の標識プレート51を示したものである。地模様体52は、波形の棒材53を傾き約30度及び逆傾き約30度で傾斜させ、波の底部となる直線部で交差させたものである。交差する棒材53、53の間には断面笠形の透孔54が形成されている。断面笠形の透孔54は、伝統的な日本文様である青海波模様の空白部と同一ないし類似の形状である。地模様体の外周は厚さ10mmで幅5mmの長方形の外枠体55によって囲まれている。本実施例の標識プレート51は、この厚さ5mmの青海波模様の地模様体52の表面に、厚さ5mm「木戸」という立体的な文字(表示体)56を複数の笠形透孔54にかかるように配設したものである。標識プレートを正面側から見ると、文字「木」は6個の透孔54にかかっており、文字「戸」は4個の透孔54にかかっている。図示していないが、外枠体54の裏面四隅に埋め込みナットが埋め込まれている。
【0039】
図9(a)は図8のC−C断面図に相当する鋳型の断面を示したものであり、図9(b)は図9(a)におけるD部の拡大図である。鋳型64において、外枠体55を形成する凹溝59の表面と文字56を形成する凹溝58の表面とは同一の仮想平面57上にあり、地模様体52を形成する凹溝の表面は仮想表面57から裏面側に5mm後退した位置にある。図9(b)に示すように、外枠体の凹溝59の側壁表面側は、内側にゆるくカーブして庇部63、63が設けられている。このような構造は文字の凹部の側壁表面側にも設けられている。
なお、本実施例において、立体的な文字56はその底面で地模様体52の表面に一体的に連設されており、地模様体の裏面まで延びていない。標識プレート51を鋳造する鋳型からみれば、鋳造キャビティの表面(鋳型の表面)に文字を形成する凹部58と外枠体を形成する凹部59のみがあり、その奥側に地模様体の棒材53を形成する凹溝60があり、各凹部58、59と凹溝60は部分的につながっているという構造である。61は表面が仮想平面57と面一の突起部であり、標識プレート51の透孔54を形成するものである。
【0040】
鋳造キャビティに金属溶湯を鋳込んだときに、鋳型64の表面に、外枠体55の表面と文字56の表面が露出し、一段奥側に地模様体の棒材53が存在するということになる。本実施例の鋳型では、地模様体の棒材を形成する凹溝60につながる湯道と湯口を別途設けておき、金属溶湯が標識プレートの裏面側(棒材の鋳造キャビティ)から満たされていくようにする。鋳込み時には外枠体の凹溝の仮想表面より若干下方(庇部のある部分)まで流し込む。庇部63は、標識プレートの外枠体55の表面及び文字56の表面の外縁に尖鋭部が発生するのを防止している。この様な構造の鋳造キャビティ62であると、文字56の表面はキャビティ面に接することがないので、空気だまりによる痘痕が発生せず、肉盗み量を多くすることができるという長所を有するが、標識プレート51を脱型するとき、外枠体の凹溝59及び文字の凹溝58の庇部63、63及び棒材53の凹溝の表面形成部65があり、標識プレートを脱型するときには、鋳型を破壊しなければならないという欠点を有する。
【実施例3】
【0041】
図10は本発明の第3実施例の標識プレートを示した正面図である。本実施例の標識プレート71に係る地模様体72は、厚さ8mm幅8mmの棒材73を40mm隔てて、傾き30度、逆傾き30度及び90℃方向(上下方向)に交差させて、断面形状が正三角形の透孔74が形成されている。透孔74の断面形状は正三角形であり、伝統的な日本文様である三つ組亀甲模様の空白部と同一ないし類似の形状である。地模様体72の外周部は、厚さ8mm幅12mmの円形の外枠体75によって囲まれている。地模様体の表面には厚さ2mmの桐の家紋(表示体)76が一体的に設けられており、裏面の埋込ナットにネジ杆を螺着することにより、門柱や蔵の扉に取り付けて家紋を表示することができる。
【0042】
第3実施例の標識プレートを縮尺して、厚さ1mm幅1mmの棒材を5mm隔てて、傾き30度、逆傾き30度に交差させて地模様体72を形成し、その外周を直径15mm程度の外枠体75で囲んで、表示体として家紋76を配置したネクタイピンやカフスボタンを作製する。表示体の突出高さは、1.3mmとし、その裏面の埋込ナットにクリップを固着すればネクタイピンとして使用することができ、また裏面の埋込ナットにストッパを固着すればカフスボタンとして使用することができる。カフスボタンの家紋を左右対称の家紋にしたいときは、3Dモデラーの線対称(ミラー)コマンドを用いて家紋の向きが互いに逆向きの3Dデータを作成し、3Dプリンタで出力した鋳型で一対のカフスボタンを作るのがよい。また、地模様体を椀形すれば、極めて立体感のあるカフスボタンとすることができる。いずれの場合においても、地模様体の透孔からカッターシャツの色、袖の色を見ることができ、独創性のある立体的な標識プレートを製造することができる。
【実施例4】
【0043】
図11は本発明の第4実施例の標識プレートを示した斜視図である。本実施例は印鑑の印面部材に関するものであり、印面部材90はチタン合金製であり、大理石で形成された短円柱状の把持部材91の下面に固定して使用するものであり、実施例1と同様な方法により製造される。本実施例の標識プレートに係る地模様体92は、厚さ1mm幅1mmの棒材93を3mm隔てて、傾き30度及び逆傾き30度に交差させたもので、断面形状が菱形の透孔94が形成されている。地模様体92の外周部は、直径は10mm、厚さ2mm幅1mmの円形の外枠体95によって囲まれている。地模様体の表面には「木戸」の文字の鏡像形の文字96が厚さ1mm幅2mmで一体的に形成されている。図示されていないが、印面部材90の裏面側には図示しないネジ杆が突設されており、このネジ杆を把持部91の端面に穿設された取付孔97に挿入し、無機接着剤等で固定して印鑑ができる。大理石製の把持部材91を用いずに、把持部材もチタン合金製で一体成形品とすれば、ネジ杆や取付孔が不要になる。なお、チタン合金製の鏡像形文字96や外枠体95の表面(印面)にエンボス加工により小さな凸凹を設けは、朱肉の付着性がよくなる。更に、地模様体及び表示体を蒲鉾形とすることにより、長手方向に軸をもつ緩い曲面形状の印面とすることができ、軸回りに搖動させながら押印することができるので、長い文字列の印鑑とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、看板、表札、銘板 定礎板、印鑑その他の金属製標識プレートを製造する産業に利用される。また本発明の製造方法は、看板、表札や銘板、定礎板、印鑑のような一品製作的な標識プレートを、顧客の要望に応えながら、迅速に製造する産業に利用される。
【符号の説明】
【0045】
1、51、71、90 標識プレート(表札、家紋体、印面部材)
2、55、75、95 外枠体
5、54、74、94 透孔
6、52、72、92 地模様体
9、10 、56、76、96 表示体(文字、家紋、鏡像文字)
11、65 鋳型
16、62 鋳造キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11