(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875711
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】溶融塩電解による金属チタン箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20210517BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20210517BHJP
C25C 3/18 20060101ALI20210517BHJP
C25C 3/28 20060101ALI20210517BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20210517BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
C25D1/04
C25D1/00 311
C25C3/18
C25C3/28
C25C7/06 302
C22C14/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-51219(P2020-51219)
(22)【出願日】2020年3月23日
(62)【分割の表示】特願2016-21152(P2016-21152)の分割
【原出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2020-109209(P2020-109209A)
(43)【公開日】2020年7月16日
【審査請求日】2020年3月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月8日から現時点(終期未定)のウェブサイト「https://confit.atlas.jp/guide/event/mmij2015b/subject/3814/advanced」 平成27年9月8日に一般社団法人 資源・素材学会発行の刊行物 「資源・素材2015(松山)大会プログラム・要旨集,第140頁」
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうちチタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】宇田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
【審査官】
西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−057605(JP,A)
【文献】
特開平02−213490(JP,A)
【文献】
特開2017−137551(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/159774(WO,A1)
【文献】
Akihiro Kishimoto et al.,Suitable electrode materials for Titanium sheet deposition,Advanced engineering materials,2020年
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解法で金属チタンを製造する方法において、
カソード電極板の少なくともチタン電析面が金属モリブデンであり、
溶融塩浴が、NaCl−30〜70モル%KClの混合塩にチタンイオンが溶解した溶融塩浴であり、
溶融塩に供給されるチタン原料が、チタン塩化物である
ことを特徴とする厚さが40μm以上の平滑な金属チタン箔の製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩浴の温度を700〜800℃とすることを特徴とする請求項1に記載の金属チタン箔の製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩電解法で金属チタンを製造する方法において、電解のための電流がON/OFF制御のパルス電流であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属チタン箔の製造方法。
【請求項4】
得られた金属チタンの酸素濃度が1000ppm以下、鉄濃度が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の金属チタン箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電解による金属チタン箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン箔は、軽量化が求められる自動車、航空機、あるいは、電池部品、基板、電極材料、耐食フィルター、防食シート、半導体の配線材料、耐食性の機能性材料等に使用されている。
【0003】
チタン箔を製造するには、一般的に、チタン鉱石をアップグレード処理するなどしてTiO
2純度を高めた原料を塩化してTiCl
4とし、精製した後、クロール法、ハンター法、電解法により金属チタンを製造し、溶解、鋳造、分塊、圧延により目的の厚さの箔とするか、あるいは、精製された金属チタンを原料として、スパッタリング等の気相反応により箔を製膜する方法などが用いられている。
【0004】
しかしながら、このように、いったん金属チタンとしてから、目的の厚さに再加工して箔形状とすることは、工程の多段化、煩雑化とコストの上昇を招くので、チタン原料化合物から金属チタンへの還元の際に、箔形状に近い形で取り出すことが求められている。
【0005】
また、成形性を維持するためには、不純物濃度を現在の工業用純チタンJIS2種程度に抑える必要がある。
【0006】
チタンをチタン化合物から直接製造する方法として、溶融塩電解析出法があげられる。特許文献1には、塩化ナトリウムを融解した浴に、スポンジチタンを添加し、さらに浴にTiCl
4を導入することでTiCl
2とTiCl
3を含ませた電解浴からチタンを電解析出させる高純度チタンの製造方法の発明が記載されている。
【0007】
特許文献2には、ステンレス電極に、塩化物浴からの溶融塩パルス電解法によりチタン薄膜コーティングを施す発明が記載されている。
【0008】
非特許文献1には、チタン薄膜を製造する方法として、SUS304をカソード電極に使用し、塩化物浴にK
2TiF
6を添加した電解浴を使用し、溶融塩パルス電解を行う発明が記載されている。
【0009】
一方、非特許文献2には、炭素鋼をカソード電極とし、LiF−NaF−KF浴にK
2TiF
6を添加した電解浴からチタンを電解析出させる発明が記載されている。
【0010】
また、非特許文献3には、LiCl−KCl−TiCl
3溶融塩を用いて、カソードにAu基板を用いた場合に、平滑なTi電析膜が得られたと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−213490号公報
【特許文献2】特開平8−142398号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】魏 大維ら、”溶融塩中のパルス法によるチタン薄膜の電析とその特性” 表面技術、Vol.44,No.1,(1999)p.33−38
【非特許文献2】ROBINら、"Pulse electrodeposition of titanium on carbon steel in the LiF-NaF-KF eutectic melt" J. Appl. Electrochem. 30, (2000) P.239-246
【非特許文献3】高村ら、”LiCl−KCl−TiCl3溶融塩からのチタニウムの平滑電析” 日本金属学会誌、第60巻、第4号、(1996)、p.388−397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
チタン溶融塩から金属チタンを電解析出させる場合、特許文献1にあるように一般に、粒子状あるいはデンドライト形状にて、カソード電極(陰極)上に析出する。このような形状にチタンが析出すると、チタン析出生成物の隙間に溶融塩の巻込みを生じる。巻込み物自体が不純物であることと、洗浄等で除去する際に酸素を吸収してしまい、工業用純チタンJIS2種程度の酸素含有量の金属チタンを得ることが難しい。
【0014】
溶融塩電解により平滑なチタン析出物も得られることはあったが、特許文献2、非特許文献1のように、せいぜい、耐食コーティング程度の薄い厚さか、20μm程度の膜厚しか得られていないことが多かった。箔の厚さがこれよりも厚く、表面が平滑なチタン析出物に関する言及はない。非特許文献3の例では高価なAuを基板に使う必要があって高価なため、工業プロセスには不適な方法であった。一部には、非特許文献2のように、100μm程度の膜厚が得られるという報告もあった。これらは原料あるいは溶融塩に、毒性が高く、装置への腐食攻撃性の高いF(フッ素)を含むために、工業的に利用するには取り扱いが非常に困難になる課題があった。
【0015】
本発明は、溶融塩電解において、フッ素を含まず、電解析出させるチタン箔の厚さが40μm以上の厚い厚さとなっても、表面が平滑な電析チタンが得られ、チタンの純度も工業用純チタン並みの純度であるチタン箔を製造することができる、チタン箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は、以下の事項によって解決される。
(1)溶融塩電解法で金属チタンを製造する方法において、
カソード電極板の少なくともチタン電析面が金属モリブデ
ンであり、
溶融塩浴が、
NaCl−30〜70モル%KClの混合塩にチタンイオンが溶解した溶融塩浴であ
り、
溶融塩に供給されるチタン原料が、チタン塩化物である
ことを特徴とする厚さが40μm以上の平滑な金属チタン箔の製造方法。
(2)前記溶融塩浴の温度を700〜800℃とすることを特徴とする(1)に記載の金属チタン箔の製造方法。
(3)前記溶融塩電解法で金属チタンを製造する方法において、電解のための電流がON/OFF制御のパルス電流であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の金属チタン箔の製造方法。
(
4)得られた金属チタンの酸素濃度が1000ppm以下、鉄濃度が2000ppm以下であることを特徴とする(1)
から(3)までのいずれか1つに記載の金属チタン箔の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、直接平滑なチタン箔が得られるため、熱間鍛造や熱間圧延などの工程が不要となり、工程削減や歩留向上が可能であり、工業用純チタンレベルの低酸素(1000ppm以下)、低鉄濃度(2000ppm以下)のチタン箔を低コストで得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、最も特徴的な点は、チタン箔の溶融塩電解析出を行うためのカソード電極に、金属モリブデン又は金属シリコンを採用した点である。
本発明者らは、いくつかの金属をカソード電極に用いて試験した結果、カソード電極がモリブデン又はシリコンの場合に、析出チタンの表層が平滑になることを見出した。カソード電極にモリブデンあるいはシリコンを用いることで、厚み40μm以上という厚い厚さとなっても、表面が平滑な金属チタン箔が得られる。
ここで、カソード電極本体にはその他の材料を用いて、表面に金属モリブデンあるいは金属シリコンをコーティングしても良い。それによって、金属モリブデン、金属シリコン量を減少できて、コストの削減が可能である。
カソード電極の表面にモリブデン又はシリコンを使用した際に、表面が平滑なチタン箔が得られる理由は定かではないが、下地のモリブデン又はシリコンの結晶構造や、チタンとの親和性が、チタン薄膜の初期析出挙動に影響していると考えられる。
【0020】
本発明において、前提となるのは、溶融塩電解法を採用したことである。溶融塩電解は、電解浴として、アルカリ金属の塩化物浴あるいは塩化物浴とヨウ化物浴の混合浴に、還元析出の際のチタン源となるチタンイオンを添加したものを用いる。そして、アノード電極とカソード電極の間に電流を流し、カソード電極表面上に、チタン膜を析出させるものである。
【0021】
本発明の電解浴は、フッ素を含まないアルカリ金属の塩化物が大部分を占める。アルカリ金属塩化物は、水素を除く第1族元素の塩化物であり、その中でもLiCl、NaCl、KCl、CsClを使用することが好ましい。そして、溶融塩電解により製造することで、クロール法等とは異なり、スポンジチタンを経ずに直接箔形状とすることができるので、溶解、鋳造、分塊、圧延工程の負担を低減できる。また、毒性および腐食性が強いフッ素を含まないことから、工業的に装置設計および操業が容易である。さらに、フッ化物に比べれば、アルカリ金属塩化物は、安価であり、特に、NaCl、KClはLiClよりも安価なのでこの点でも有利である。また、アルカリ金属塩化物は、複数種類の塩化物を混合させて、共晶組成付近に混合すると、融点が低下するので好ましい。たとえば、NaCl、KClならば、各々等モル程度に混合すると低融点となる。好ましい範囲は、NaCl−30〜70モル%KCl、さらに好ましいのはNaCl−40〜60モル%KClである。
また、混合浴にヨウ化物を使用する場合は、50%未満としておき、好ましくは30%未満とする。通常は塩化物とチタンが錯イオンを作っているため、塩素イオン濃度が低下するとチタンの錯イオンの性質が変化する。そうなると、反応に寄与する錯イオンのたとえば、TiCl
64−の生成効率が低下するため、ヨウ化物の上限を上記の範囲とすることが好ましい。
【0022】
さらに、チタン塩化物をアルカリ塩化物浴に添加する場合は、予め塩化チタン(たとえばTiCl
2)とアルカリヨウ化物(たとえばヨウ化カリウム)を混合、溶融させて塩化チタンとアルカリヨウ化物混合塩とし、この混合塩をアルカリ塩化物浴に添加することが好ましい。塩化チタンをアルカリ塩化物浴に直接に添加すると、塩化チタンの溶解速度が遅い場合があるが、予め塩化チタンとアルカリヨウ化物混合塩としてから添加すると、速やかに高濃度で塩化チタンを塩化物浴に添加することができる。
【0023】
チタンイオンのチタン源となる原料は、チタン塩化物を主とすることが好ましい。TiCl
4は溶融塩に対する溶解度が小さいため、特に、TiCl
2を溶解した2価のチタンイオンとすることが好ましい。また、TiCl
2は還元時に必要な電価数が、4価等の多価のチタンイオンよりも少なくなり、同じ電気量でもTiの析出量が高くなるので好ましい。2価チタンイオンは、TiCl
4(4価)と金属チタン(0価)を混合することでも得られる。TiCl
4は、現行のチタン製錬の工程でも使用され、蒸留によって不純物を低減できるため、不純物濃度を管理するために有利である。また、チタン源には、塩化物の他にチタンスクラップや、スポンジチタンのような金属チタンを用いることができる。
【0024】
電解は、印加電流をON/OFF制御のパルス電流として行うことが好ましい。ON/OFF制御のパルス電流とは、一定時間還元析出のための電流をカソードに流してチタンをカソード上に還元析出させることと、一定時間電流を休止することを、交互に繰り返す、電流の流し方である。還元析出のための電流を流し続けると、カソード電極表面近傍のチタンイオンは、還元析出により減少する。このとき、電極から離れた沖合から運ばれてくるチタンイオンは、電極近傍におけるチタンイオン減少に応じた一定速度で電極近傍に供給されるとは、必ずしも限らない。なぜならば、電極の形状等により、電極表面から等距離の場所でも、必ずしも電極沖合方向の印加電圧(ポテンシャル)などは一定にならないからである。そうすると、電極平面の各所に対応する沖合場所において、チタンイオンが不均一に減少する場所が発生する。これに対し、電解中に電流の休止時間を置くと、休止時間中に濃度拡散によりチタンイオンの不均一は解消あるいは緩和されるために、パルス電流とすることで析出界面周辺のチタンイオン濃度が平均化されるため平滑化すると考えられている。この機構を発展させると、充分に小さい電流であれば、チタンイオンの拡散を充分に生じることができ、濃度の不均一が軽減されるため、平滑化することができる。
【0025】
印加電流のパルス幅は、パルス周波数で、0.1〜10Hzが好ましく、より好ましくは、0.5〜2Hzとする。すなわち、連続して電流を流す時間(T
on)を0.05〜5秒、電流休止時間(T
off)も同様に0.05〜5秒が好ましく、より好ましくは、T
on=T
off=0・25〜2秒である。一方、カソード電流値は、チタンが電解析出可能な一定以上の電流量(カソード電流密度)であれば、特に制限はない。
【0026】
電解析出によって得られた、チタン箔を、電極から分離し、さらに再加工してもよい。それによって、寸法精度および機械的特性をより向上させることができる。
【0027】
本発明における、「平滑」とは、電析物の空隙が少なく緻密であり、かつ、表面凹凸が小さいものをいう。一方、「粒状」とは、電極表面に突起状あるいはデンドライト状の電析物が散在し、表面あるいは断面から観察した際に空隙が多いものをいう。
【0028】
具体例として、
図1に平滑でない比較例、
図2に平滑である本発明の概念図を示す。
図1において、Mo、Siではないカソード電極により製造されたTi電析膜の概念図を示す。Ti電析物1の表面から、Tiの、デンドライト状析出物2、突起状析出物3が析出段階において成長しており、このような膜を、平滑なTi膜が得られていないという。
一方、
図2において、図面中央部に平行線で示された電極板4の上下に、Ti電析膜が析出している状態を示している。デンドライト状析出物2や突起状析出物3は認められず、空隙が存在しない、このような平滑な膜を平滑という。
【0029】
なお、本発明は、チタン箔を製造する発明であるが、本発明の表面がモリブデン又はシリコンであるカソード電極を適用すれば、電解装置を大規模化あるいは電解析出を長時間行うことにより、箔に限らず、より大きなチタン物品を電解析出させた場合にも、表面の平滑化したチタン物品が得られるから、箔に限定される技術ではない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0031】
(実施例1)
電解は、溶融塩浴の容器にNiるつぼを用い、Arガス雰囲気中で行った。加熱はるつぼ外部から行った。
700℃のNaCl−KCl等モル塩に、カチオン比で5mol%となるようにTiCl
2を溶解させた。
電流はパルス電流とし、流す時間T
onと流さない時間T
offはともに1.5秒とし、流している時間の電流値Ipを−0.226Acm
−2とした。通電量Qtを179C・cm
−2としてチタン電析を行った。試験時間はおおよそ1600secであった。カソード電極には、SUS304、炭素鋼、チタン、ニッケル、シリコン、モリブデンの0.1〜4mm厚の板をそれぞれ用いた。カソード電極の浸漬部は10mm幅×10mm深さとした。アノード電極と参照極には10〜20mm幅、1〜3mm厚のチタン板を用いた。電析後は、カソード電極に電析したチタンを調査した。電析チタン形態は、粒状と平滑に分類した。粒状とは、電極表面に突起状あるいはデンドライト状の電析物が散在し、表面あるいは断面から観察した際に空隙が多いものである。平滑とは、電析物の空隙が少なく緻密であり、かつ、表面凹凸が小さいものである。膜厚は、平滑に形成された生成物の断面を1mmの長さに渡って観察した平均値とした。Si電極は、フルウチ化学、方位<111>、N型、抵抗率0.01〜0.02Ω・cm、ドープ元素はSbで、ドープ量は30〜100ppm、厚さ380μmのSiに、ニクロム線を取り付け、電極線をつないで作製した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示したように、カソード電極にシリコン、モリブデンを使用した本発明は、平滑な電析チタン膜が得られた。一方、カソード電極にSUS304、炭素鋼、チタン、ニッケルを使用した比較例では、電析チタンは粒状となり、平滑なチタン膜は得られなかった。
【0034】
(実施例2)
NaCl−KCl等モル塩に、カチオン比で5mol%となるようにTiCl
2を溶解させた。
電流はIp=−0.226Acm
−2、パルス時間はT
on=T
off=1.5sとし、モリブデン電極を使用した際の浴温度と通電量を変化させた。その他の条件は実施例1と同様である。また、得られたチタン膜の酸素濃度は、LECO社製酸素窒素同時分析装置を用い不活性ガス溶融−赤外線吸収法で測定し、鉄濃度は、ICP発光分析法で測定した。
結果を表2に示す。浴温度や通電量が変化しても本発明によって製造された電析チタン膜は、平滑形態で得られることが確認できた。
また、No.2で作製した電析チタン中の酸素および鉄濃度を測定したところ、酸素濃度は70ppm、鉄濃度は50ppm未満、であり、極めて低い不純物濃度の金属チタンが得られたことが確認できた。
【0035】
【表2】
【0036】
(実施例3)
800℃のNaCl−KCl等モル塩に、カチオン比で8mol%TiCl
2−10mol%KI(ヨウ化カリウム)を溶解させた。電流はIp=−0.075Acm
−2、パルス時間はT
on=T
off=0.5秒とした。その他の条件は実施例1と同様である。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に示したように、ヨウ化物を添加した電解浴からも、本発明によって、十分な厚さの平滑なチタン膜が得られることが確認できた。
【0039】
(実施例4)
カソード電極に、Ti基板表面にMoの薄膜を形成した材料を用いた。スパッタは、ターゲット材として3NのMoを用い、7×10
−1PaのAr雰囲気中で行った。Mo薄膜の膜厚は750〜900nm程度であった。通電量Qtは895C・cm
−2で行い、その他の条件は実施例1と同様とした。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示したように、電極の表面のみがモリブデンである場合でも、本発明によって、十分な厚さの平滑なチタン膜が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、直接平滑なチタン箔が得られるため、熱間鍛造や熱間圧延などの工程が不要となり、工程削減や歩留向上が可能であり、工業用純チタンレベルの低酸素(1000ppm以下)、低鉄濃度(2000ppm以下)のチタン箔を低コストで得られるチタン箔の製造方法が提供できる。
【符号の説明】
【0043】
1…Ti電析物、2…デンドライト状析出物、3…突起状析出物、4…カソード電極