特許第6875733号(P6875733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875733半導体基体及びその製造方法、基体並びに積層体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875733
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】半導体基体及びその製造方法、基体並びに積層体
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20210517BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20210517BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20210517BHJP
   C01B 17/00 20060101ALI20210517BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/34
   C01B33/06
   C01B17/00
   C01B19/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-114352(P2017-114352)
(22)【出願日】2017年6月9日
(65)【公開番号】特開2018-207071(P2018-207071A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー・環境新技術先導プログラム/未利用廃熱回収を可能とする温度差を必要としない革新的発電材料の研究開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】寺西 亮
(72)【発明者】
【氏名】宗藤 伸治
(72)【発明者】
【氏名】古君 修
【審査官】 西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/125823(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050100(WO,A1)
【文献】 特開2005−217310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
C01B 17/00
C01B 19/00
C01B 33/06
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)のクラスレート化合物を含む半導体基体であって、
厚さ方向に沿って前記クラスレート化合物を含む組成が変化するとともにpn接合部を含む組成変化層を有し、
前記組成を前記クラスレート化合物の組成比に換算したときに、前記組成変化層の前記pn接合部を含む部分の前記厚さ方向におけるyの変化率が1×10−4/μm〜10/μmである、半導体基体。
46−y (I)
(式中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9であり、yは3.5〜6又は11〜17である。)
【請求項2】
前記pn接合部を挟むようにして、n型半導体部と、当該n型半導体部よりもy/xが大きいp型半導体部と、を有し、
厚さが5mm以下である、請求項1に記載の半導体基体。
【請求項3】
p型半導体部におけるyとn型半導体部におけるyの差の最大値が1以上である、請求項1又は2に記載の半導体基体。
【請求項4】
前記クラスレート化合物は下記一般式(II)で表わされる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体基体。
BaAuSi46−y (II)
(式中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。)
【請求項5】
下記一般式(I)の組成を有するクラスレート化合物を含むn型半導体基材と、当該n型半導体基材の表面に、前記一般式(I)におけるB元素のモル濃度が前記n型半導体基材よりも高い被覆層と、を有する基体を加熱し、前記B元素を前記n型半導体基材の内部に拡散させてpn接合部を形成する工程を有する、半導体基体の製造方法。
46−y (I)
(式中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9であり、yは3.5〜6又は11〜17である。)
【請求項6】
前記工程において、前記基体を300〜1000℃に加熱する、請求項5に記載の半導体基体の製造方法。
【請求項7】
前記半導体基体は、厚さ方向に沿って組成が変化するとともに前記pn接合部を含む組成変化層を有し、前記組成を前記クラスレート化合物の組成比に換算したときに、前記組成変化層の前記pn接合部を含む部分の前記厚さ方向におけるyの変化率が1×10−4/μm以上である、請求項5又は6に記載の半導体基体の製造方法。
【請求項8】
前記クラスレート化合物は下記一般式(II)で表わされる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の半導体基体の製造方法。
BaAuSi46−y (II)
(式中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。)
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体基体の複数が、前記厚さ方向に隣り合うとともに、yの増減方向が同じになるように積層される積層部を備える、積層体。
【請求項10】
下記一般式(I)の組成を有するクラスレート化合物を含むn型半導体基材と、当該n型半導体基材の表面に、前記一般式(I)におけるB元素のモル濃度が前記n型半導体基材よりも高い被覆層と、を有する基体。
46−y (I)
(式中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9であり、yは3.5〜6又は11〜17である。)
【請求項11】
前記クラスレート化合物は下記一般式(II)で表わされる、請求項10に記載の基体。
BaAuSi46−y (II)
(式中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体基体及びその製造方法、基体並びに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車及び航空機などの内燃機関では、化石燃料の燃焼によって得られるエネルギーを利用している。現状、内燃機関のエネルギー効率は、約30%に過ぎず、大半は熱エネルギーとして放出されている。この熱エネルギーを有効利用するために、ゼーベック効果を利用した様々な熱電材料が研究されている。
【0003】
熱電材料としては、種々の半導体材料が検討されている。例えば、特許文献1では、Siクラスレート化合物(包接化合物)の焼結体である熱電素子が提案されている。そして、このような熱電素子の性能を評価するための指標の一つとして、無次元の性能指数ZT値が提示されている。このZT値を向上するために、種々の手法が検討されている。
【0004】
クラスレート化合物は、Si等の14族元素で構成された8つのカゴ状ネットワークと、そのカゴの中に一つずつ内包された1族又は2族の原子(ゲスト原子)で構成されている。このゲスト原子が低周波数の振動をすることでフォノンが散乱されるため、クラスレート化合物は、十分に低い熱伝導度を有する。このように低い熱伝導度を有することが、ZT値の向上に寄与している。
【0005】
このように熱電材料のZT値を向上させるための手法が種々検討されているものの、熱電変換効率は、未だ改善の余地がある。また、熱電材料は、温度差に基づく起電力の相違を利用して発電を行うものであるが、熱電材料を用いて発電モジュールを組み立てた場合、熱伝導などによって温度差が小さくなり、発電量が低下することが懸念される。
【0006】
そこで、特許文献2では、n型半導体部とp型半導体部とこれらの間に真性半導体部を有し、真性半導体部が、n型半導体部及びp型半導体部よりも小さいバンドギャップを有する半導体単結晶が提案されている。特許文献2の半導体単結晶によれば、n型半導体部とp型半導体部との間に温度差がなくても所定の温度範囲で発電を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−57124号公報
【特許文献2】国際公開第2015/125823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のような半導体単結晶は、発電材料として有用であると考えられる。このような性能を損なうことなく薄型形状のものを簡便に作製する技術が確立されれば、さらに有用性が向上し、産業分野に広く技術展開されることが期待される。そこで、本開示は、一つの側面において、薄型化しても、効率良く発電することができる半導体基体を提供することを目的とする。また、別の側面において、発電材料として有用な半導体基体を簡便に製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。さらに、別の側面において、上述の半導体基体を製造するのに有用な基体、及び、上述の半導体基体を積層することによって得られる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも一つの実施形態に係る半導体基体は、下記一般式(I)のクラスレート化合物を含む半導体基体であって、厚さ方向に沿って組成が変化するとともにpn接合部を含む組成変化層を有し、組成をクラスレート化合物の組成比に換算したときに、組成変化層のpn接合部を含む部分の厚さ方向におけるyの変化率が1×10−4/μm以上である。
46−y (I)
【0010】
上記一般式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9であり、yは3.5〜6又は11〜17である。
【0011】
上記一般式(I)のクラスレート化合物を含有する半導体基体は、厚さ方向に沿ってその組成を変化させることによって、バンドギャップを制御することができる。このため、厚さ方向に沿って温度差がなくても起電力を生じさせることができる。上記半導体基体は、厚さ方向におけるyの変化率が大きいことから、薄型化しても効率良く発電することができる。ただし、上記半導体基体の用途は発電材料に限定されるものではなく、その特性に応じて種々の用途に用いることができる。
【0012】
上記半導体基体は、pn接合部を挟むようにして、n型半導体部と、当該n型半導体部よりもy/xが大きいp型半導体部とを有し、厚さが5mm以下であってもよい。これによって、薄型化を図りつつyの変化率を一層大きくして、さらに大きい起電力を得ることができる。
【0013】
上記半導体基体において、p型半導体部におけるyとn型半導体部におけるyの差の最大値が1以上であってもよい。yの差の最大値を大きくすることによって、薄型化と起電力増大を一層高い水準で両立することができる。
【0014】
クラスレート化合物は下記一般式(II)で表わされるものであってもよい。
BaAuSi46−y (II)
上記一般式(II)中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。
【0015】
本発明の少なくとも一つの実施形態に係る半導体基体の製造方法は、下記一般式(I)の組成を有するクラスレート化合物を含むn型半導体基材と、当該n型半導体基材の表面に、一般式(I)におけるB元素のモル濃度がn型半導体基材よりも高い被覆層と、を有する基体を加熱し、B元素をn型半導体基材の内部に拡散させてpn接合部を形成する工程を有する。
46−y (I)
【0016】
上記一般式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9であり、yは3.5〜6又は11〜17である。
【0017】
上記製造方法によれば、発電材料として有用な半導体基体を、簡便に製造することができる。基体の形状及びサイズに応じて、種々の形状の半導体基体を製造することが可能であることから、薄型の半導体基体も簡便に製造することができる。
【0018】
上述の製造方法では、上記工程において、n型半導体基材と、その表面に被覆層を有する基体を、300〜1000℃に加熱することが好ましい。このような温度範囲で加熱することによって、B元素の拡散が促進され、大きい起電力を生じることが可能な半導体基体を製造することができる。
【0019】
上記半導体基体は、厚さ方向に沿って組成が変化するとともにpn接合部を含む組成変化層を有し、組成を上記クラスレート化合物の組成比に換算したときに、組成変化層のpn接合部を含む部分の厚さ方向におけるyの変化率が1×10−4/μm以上であってもよい。この半導体基体は、厚さ方向におけるyの変化率が大きい部分を有することから、薄型化しても効率良く発電することができる。
【0020】
上記クラスレート化合物は下記一般式(II)で表わされるものであってもよい。
BaAuSi46−y (II)
上記一般式(I)中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。
【0021】
本発明の少なくとも一つの実施形態に係る積層体は、半導体基体の複数が、厚さ方向に隣り合うとともに、yの増減方向が同じになるように積層される積層部を備える。この積層体は、十分に大きい起電力を生じることができるため、発電材料として極めて有用である。ただし、積層体の用途はこれに限定されるものではなく、その特性に応じて別の用途に用いることも可能である。
【0022】
本発明の少なくとも一つの実施形態に係る基体は、上記一般式(I)の組成を有するクラスレート化合物を含むn型半導体基材と、当該n型半導体基材の表面に、上記一般式(I)におけるB元素のモル濃度がn型半導体基材よりも高い被覆層と、を有する基体を提供する。この基体は、効率良く発電することが可能な上述の半導体基体を製造するうえで有用である。ただし、基体の用途はこれに限定されるものではない。上記クラスレート化合物は上記一般式(II)で表わされるものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示は、一つの側面において、薄型化しても、効率良く発電することができる半導体基体を提供することができる。また、別の側面において、発電材料として有用な半導体基体を簡便に製造することが可能な製造方法を提供することができる。さらに、別の側面において、上述の半導体基体を製造するのに有用な基体、及び、上述の半導体基体を積層することによって得られる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、一実施形態の半導体基体を模式的に示す断面図である。
図2図2(A)は、一実施形態に係る半導体基体を、所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。図2(B)は、一実施形態に係る半導体基体を、所定の温度に加熱したときの電子及び正孔の移動を示す概念図である。
図3図3(A)は、BaAuSi46−yのクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。図3(B)は、BaAuSi46−yのクラスレート化合物において、y=5の場合のバンドエネルギーを示す図である。図3(C)は、BaAuSi46−yのクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図4図4(A)は、BaAlSi46−yのクラスレート化合物において、y=14の場合のバンドエネルギーを示す図である。図4(B)は、BaAlSi46−yのクラスレート化合物において、y=15の場合のバンドエネルギーを示す図である。図4(C)は、BaAlSi46−yのクラスレート化合物において、y=16の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図5図5(A)は、BaCuSi46−yのクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。図5(B)は、BaCuSi46−yのクラスレート化合物において、y5の場合のバンドエネルギーを示す図である。図5(C)は、BaCuSi46−yのクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図6図6は、別の実施形態の半導体基体を模式的に示す断面図である。
図7図7は、一実施形態の積層体を模式的に示す断面図である。
図8図8は、一実施形態の基体を模式的に示す断面図である。
図9図9は、実施例1の半導体基体の主面近傍における、厚さ方向に沿った切断面のEPMA画像を示す写真である。
図10図10は、図9に示す切断面をさらに拡大して行ったSEM−EDX組成分析の画像と分析結果を示す写真である。
図11図11は、図9図10と同じ切断面のEPMA画像の写真である。
図12図12は、図11と同じ切断面のEPMA画像の写真である。
図13図13は、実施例2の半導体基体の主面近傍における、厚さ方向に沿った切断面のEPMA画像を示す写真である。
図14図14は、図13に示す切断面をさらに拡大して行ったSEM−EDX組成分析の画像と分析結果を示す写真である。
図15図15は、図13図14と同じ切断面のEPMA画像の写真である。
図16図16は、図15と同じ切断面のEPMA画像の写真である。
図17図17は、図16に示す半導体基体の切断面における、表面層が存在する主面からの距離と、一般式(II)の組成比に換算して求めたyとの関係を示すグラフである。
図18図18は、基体及び半導体基体の写真である。図18(A)は加熱前の基体の写真であり、図18(B)は基体を300℃に加熱して得られた後の写真である。図18(C)は、基体を400℃に加熱して得られた半導体基体の写真である。
図19図19は、半導体基体の写真である。図19(A)は基体を500℃に加熱して得られた半導体基体の写真であり、図19(B)は基体を600℃に加熱して得られた半導体基体の写真である。図19(C)は、基体を700℃に加熱して得られた半導体基体の写真である。
図20図20は、半導体基体の写真である。図20(A)は基体を800℃に加熱して得られた半導体基体(実施例2)の写真であり、図20(B)は基体を900℃に加熱して得られた半導体基体(実施例1)の写真である。図20(C)は、基体を950℃に加熱して得られた半導体基体の写真である。
図21図21は、起電力を測定する装置の概要を示す図である。
図22図22は、実施例1,2で得られた半導体基体の起電力の測定結果を示すグラフである。
図23図23は、実施例1,2で得られた半導体基体の起電力の測定結果を示すグラフである。
図24図24は、比較例1の基体の起電力の測定結果を示すグラフである。
図25図25は、比較例2で得られた半導体単結晶の光学顕微鏡写真とその組成を併せて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の幾つかの実施形態を、場合により図面を参照しながら以下に詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。なお、図面において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、場合により重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
図1は、本実施形態の半導体基体の厚さ方向に沿う断面を模式的に示す図である。半導体基体100は、例えば平板形状を有しており、厚さ方向(図1の上下方向)に沿って、上側から、p型半導体部10とn型半導体部20とをこの順で有する。すなわち、半導体基体の厚さ方向は、p型半導体部10とn型半導体部20の対向方向に一致する。半導体基体100は、p型半導体部10とn型半導体部20の間に、pn接合部15を有する。pn接合部15は真正半導体であってもよい。
【0027】
半導体基体100は、基板状(半導体基板)であってもよいし、例えば、厚さを小さくして膜状(半導体膜)としてもよい。半導体基体100の厚さは、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは3mm以下であり、さらに好ましくは2mm以下である。半導体基体100を薄型にすることによって、半導体基体100を搭載する各種機器を小型化することができる。したがって、その用途を一層拡大することができる。
【0028】
半導体基体100のp型半導体部10及びn型半導体部20は、一般式(I)で表されるクラスレート化合物を含む。このクラスレート化合物は、構成元素としてA,B,Cを有する。
46−y (I)
【0029】
一般式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜9、及びyは3.5〜6又は11〜17である。
【0030】
一般式(I)のクラスレート化合物において、A元素は1価又は2価のドナーとして機能し、B元素は3価又は1価のアクセプタとして機能する。クラスレート化合物の組成は、組成変化層30において、半導体基体100の厚さ方向に沿って変化している。組成変化層30は、p型半導体部10、pn接合部15、及びn型半導体部20の拡散層22を含む。組成変化層30の厚さは、例えば0.1〜100μmであってもよく、0.5〜50μmであってもよい。
【0031】
組成変化層30のpn接合部15を含む部分の厚さ方向におけるyの変化率は、1×10−4/μm以上である。このように、組成変化層30が、yの変化率が大きい部分を有することによって、半導体基体100の厚さを薄くしても、十分に大きい起電力を得て効率良く発電することができる。一層大きい起電力を得る観点から、上述のyの変化率は、好ましくは1×10−3/μm以上であり、より好ましくは1×10−2/μm以上であり、さらに好ましくは0.1/μm以上である。yの変化率に上限は特にないが、製造の容易性の観点から、上限は例えば10/μmである。
【0032】
yの変化率は、次のようにして求められる。厚さ方向に沿った組成変化層30の断面において、半導体基体100の主面100aからの距離が互いに異なる2点を選択する。このとき、この2点は、厚さ方向に直交するように延在するpn接合部15を挟むように選択する。2点において組成を測定し、当該組成を一般式(I)のクラスレート化合物の組成比に換算する。換算して求められた2点におけるyの差の絶対値を2点間の距離で割る。このようにして、yの変化率を求めることができる。上記2点間の距離は、値のばらつきを抑制する観点から、2〜10μmであることが好ましい。
【0033】
半導体基体100の厚さを小さくして薄型化する観点から、yを1変化させるのに必要な距離L(厚さ)は、例えば100μm以下であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0034】
半導体基体100において、上記一般式(I)のクラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyの大小関係は、下記式(1)を満たしてもよい。このように、半導体基体100の厚さ方向に沿ってB元素の濃度勾配を設けることによって、良好な発電材料にすることができる。
p型半導体部10>pn接合部15>n型半導体部20 (1)
【0035】
A元素のモル比を示すxは、半導体基体100全体においてほぼ均一であってもよいし、xの大小関係が下記式(2)を満たしてもよい。
p型半導体部10<pn接合部15<n型半導体部20 (2)
【0036】
p型半導体部10に含まれるクラスレート化合物のxは例えば7〜9であり、yは例えば5〜5.3又は16〜17である。n型半導体部20に含まれるクラスレート化合物のxは例えば7〜9であり、yは例えば3.5〜5.3又は11〜16である。pn接合部15におけるクラスレート化合物のxは7〜9であり、yは約5.3又は約16である。
【0037】
A元素に対するB元素のモル比(y/x)の大小関係は、上記式(1)を満たす傾向にある。n型半導体部20の拡散層22では、pn接合部15に近接するにつれて、y及びy/xが大きくなる傾向にある。一方、n型半導体部20の基材層24では、半導体基体100の厚さ方向に沿って組成が変化しない。なお、n型半導体部20が基材層24を有することは必須ではなく、基材層24はなくてもよい。
【0038】
p型半導体部10におけるyとn型半導体部20におけるyの差の最大値は、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.1以上であり、さらに好ましくは、1.2以上である。このようにyの差の最大値を大きくすることによって、薄型化と起電力増大の両方を一層高い水準で両立することができる。yの差の最大値は、例えば、半導体基体100のp型半導体部10側の主面100aの組成をクラスレート化合物の組成比に換算して求められるyと、n型半導体部20側の主面100bの組成をクラスレート化合物の組成比に換算して求められるyとの差として求めてもよい。このようにして求められるyの差は好ましくは1以上であり、より好ましくは1.1以上であり、さらに好ましくは、1.2以上である。
【0039】
p型半導体部10におけるyとn型半導体部20におけるy/xの差の最大値は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは、0.15以上である。このようにy/xの差の最大値を大きくすることによって、薄型化と起電力増大の両方を一層高い水準で両立することができる。y/xの差の最大値は、yと同様に、半導体基体100のp型半導体部10側の主面100aの組成をクラスレート組成物の組成比に換算して求められるy/xと、n型半導体部20側の主面100bの組成をクラスレート組成物の組成比に換算して求められるy/xとの差として求めてもよい。このようにして求められるy/xの差は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは、0.15以上である。
【0040】
上述のy及びy/xの差を大きくする観点から、p型半導体部10、pn接合部15及びn型半導体部20の拡散層22において、y及びy/xは、n型半導体部20からp型半導体部10に向かう方向に沿って増加していることが好ましい。このような元素の濃度変化が、以下に説明するような、半導体基体100のバンドギャップの分布に寄与している。
【0041】
図2(A)及び(B)は、半導体基体100のバンドギャップ状態の一例を示す概念図である。図2(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体基体100のn型半導体部20側からp型半導体部10側に向かう、厚さ方向に沿った距離である。半導体基体100は、十分に小さい厚さで図2(A)及び図2(B)に示すバンドギャップ状態を実現することができる。
【0042】
図2(A)及び(B)に示すとおり、pn接合部15におけるバンドギャップは、p型半導体部10及びn型半導体部20におけるバンドギャップよりも小さくなっている。なお、n型半導体部20は、フェルミレベルfが伝導帯側にある部分であり、p型半導体部10は、フェルミレベルfが価電子帯側にある部分である。pn接合部15は、真性半導体部を有しており、フェルミレベルfが、伝導帯と価電子帯との間の禁止帯の中央にある。
【0043】
図2(A)は、半導体基体100を所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。図2(A)に示すように、半導体基体100を所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さいpn接合部15の真性半導体部のみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが真性半導体部よりも大きいp型半導体部10及びn型半導体部20では、電子が熱励起されない。
【0044】
図2(B)は、半導体基体100を所定の温度に加熱したときの電子(黒丸)及び正孔(白丸)の移動を示す概念図である。図2(B)に示すように、伝導帯に励起した電子は、エネルギーの低い方、すなわちn型半導体部20側に移動する。一方、電子の励起により価電子帯側に生じたホールはエネルギーの低いp型半導体部10側へと移動する。これによって、n型半導体部20が負に帯電し、p型半導体部10が正に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体基体100は、p型半導体部10とn型半導体部20との間に温度差がなくても、発電することができる。このような起電力発生のメカニズムは、温度差に基づいて起電力を生じるゼーベック効果とは異なる。
【0045】
半導体基体100は、温度差がなくても発電できることから、モジュール化した場合にも、冷却又は加熱等の温度制御のための設備をなくしたり、簡素化したりすることができる。また、薄型化することが可能であるため、モジュールの小型化を図ることができる。したがって、半導体基体100は、熱電変換用、又は排熱回収用の発電材料として好適に使用することができる。例えば、発電モジュールにして、内燃機関を有する自動車及び航空機などの輸送機器、装置、並びにプラント等に設置することができる。
【0046】
p型半導体部10及びn型半導体部20におけるバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)に対する、pn接合部15のバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)の比は、特に制限はないが、小さい方が好ましい。例えば、上記比は、0.8以下であってもよく、0.1〜0.7であってもよい。この比が小さいほど、発電できる温度領域を十分に広くすることができる。
【0047】
pn接合部15のエネルギーギャップは、例えば、0.4eV以下であってもよく、0.05〜0.3eVであってもよい。p型半導体部10、n型半導体部20、及びpn接合部15におけるエネルギーギャップは、例えば逆光電子分光法などによって測定することができる。
【0048】
半導体基体100に含まれる一般式(I)のクラスレート化合物の好ましい例としては、以下の一般式(II)〜(IV)のものが挙げられる。
BaAuSi46−y (II)
BaAlSi46−y (III)
BaCuSi46−y (IV)
【0049】
一般式(II)中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。一般式(III)中、xは7〜9であり、yは11〜17である。一般式(IV)中、xは7〜9であり、yは3.5〜6である。
【0050】
図3(A)は、一般式(II)のクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。図3(B)は、一般式(II)のクラスレート化合物において、y=5の場合のバンドエネルギーを示す図である。図3(C)は、一般式(II)のクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0051】
図4(A)は、一般式(III)のクラスレート化合物において、y=14の場合のバンドエネルギーを示す図である。図4(B)は、一般式(III)のクラスレート化合物において、y=15の場合のバンドエネルギーを示す図である。図4(C)は、一般式(III)のクラスレート化合物において、y=16の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0052】
図5(A)は、一般式(IV)のクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。図5(B)は、一般式(IV)のクラスレート化合物において、y=5の場合のバンドエネルギーを示す図である。図5(C)は、一般式(IV)のクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0053】
図3図4及び図5のそれぞれにおける(A)、(B)及び(C)に示すバンドエネルギーは、第一原理計算ソフトAdvance/PHASEを用いて導出したものである。導出にあたっては、計算速度及び計算精度の観点から、密度汎関数法を用い、交換相互作用ポテンシャルはPBE−GGAを用いた。計算方法は、Projector augmented wave(PAW)法を用いた。K−Point(k点)は4×4×4=64点とし、cut off energyは340eVとした。図3図4及び図5から求められるバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す結果から、一般式(II)のクラスレート化合物の場合、y=5の組成では、y=4及びy=6の組成に比べてバンドギャップの幅がかなり小さくなっていることがわかる。すなわち、一般式(II)のクラスレート化合物のバンドギャップの幅は、Auのモル比に大きく依存する。一方、一般式(III)のようなクラスレート化合物の場合、y=15の組成では、y=14及びy=16の組成に比べてバンドギャップの幅がわずかに小さくなっていることがわかる。すなわち、一般式(III)のクラスレート化合物Bのバンドギャップの幅はAlのモル比に依存するが、その依存性は、一般式(II)のクラスレート化合物のAuのモル比に比べて小さい。
【0056】
表1によれば、一般式(II)のクラスレート化合物は、一般式(III)のクラスレート化合物よりも、バンドギャップの幅の差が大きい。このようにバンドギャップの幅の差が大きいクラスレート化合物を含む半導体基体100の方が、より広い温度領域において、起電力を発生することができる。したがって、汎用性が一層高い発電材料とすることができる。ただし、一般式(III)のクラスレート化合物も、所定の温度範囲で起電力を生じる有望な発電材料である。
【0057】
一般式(IV)のクラスレート化合物の場合、y=6の組成では、y=4及びy=5の組成に比べてバンドギャップの幅がかなり小さくなっていることがわかる。すなわち、一般式(IV)のクラスレート化合物のバンドギャップの幅は、Cuのモル比に大きく依存する。一般式(IV)のクラスレート化合物は、一般式(III)のクラスレート化合物よりも、バンドギャップの幅の差が大きい。一般式(III)のクラスレート化合物を含む半導体基体100も、広い温度領域において、起電力を発生することができる。したがって、汎用性が一層高い発電材料とすることができる。
【0058】
半導体基体100は、上述のクラスレート化合物とは異なる成分を含んでいてもよい。例えば、一般式(I)のB元素の金属を単体で含んでいてもよい。例えば、p型半導体部10は、このような金属をn型半導体部20よりも多く含んでもよい。
【0059】
図6は、別の実施形態の半導体基体を模式的に示す断面図である。半導体基体130は、例えば平板形状を有しており、厚さ方向(図6の上下方向)に沿って、上側からp型半導体部10とn型半導体部20とをこの順で有する。半導体基体130は、p型半導体部10とn型半導体部20の間に、pn接合部15を有する。
【0060】
半導体基体130のn型半導体部20は、基材層24を有さず、拡散層22のみで形成される点で、図1の半導体基体100と異なっている。半導体基体130のその他の構成は、半導体基体100と同じであってよい。このように、半導体基体130は基材層24を有しないことから、半導体基体100よりもさらに厚さを小さくすることができる。半導体基体130は、基板状であってもよいし、例えば、厚さを0.1mm以下、又は0.01mm以下にして、膜状(半導体膜)としてもよい。このような膜状の半導体基体130は、例えば、半導体基体100に対して、研磨又は切断等の加工を行って作製してもよいし、後述する半導体基体の製造方法において、厚さの小さい半導体基材を用いて作製してもよい。或いは、当該半導体基材とは異なる基材の上に半導体基体を形成してもよい。
【0061】
半導体基体130の組成変化層30は、その全体において、厚さ方向におけるyの変化率が1×10−4/μm以上であってもよい。この場合のyの変化率は、半導体基体130の一方側の主面130aと他方側の主面130bにおける組成をクラスレート化合物の組成比に換算して求められるyの差異を、半導体基体130の厚さで割って求めることができる。一方側の主面130aと他方側の主面130bにおけるクラスレート化合物の組成を測定して求められるyの差異は、十分に大きい起電力を得る観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.1以上であり、さらに好ましくは1.2以上である。
【0062】
上述の半導体基体100(130)は、その変形例として、任意の表面層を有していてもよい。このような表面層は、主面100a(130a)側において、p型半導体部10の少なくとも一部を覆うように設けられてもよい。また、主面100b(130b)側において、n型半導体部20の少なくとも一部を覆うように設けられてもよい。そのような表面層としては、金属層又は合金層が挙げられる。金属層又は合金層は、一般式(I)のB元素を含んでいてもよいし、電極等に用いられる金属を含んでいてもよい。
【0063】
半導体基体100(130)は、例えば、テープ状の長尺基材の上に、当該長尺基材の長手方向に沿って複数配列して線材化してもよいし、半導体基体100(130)同士を複数積層して積層体を構成してもよい。また、積層体を上記長尺基材の上に、当該長尺基材の長手方向に沿って複数配列して線材化してもよい。
【0064】
図7は、一実施形態の積層体を模式的に示す断面図である。積層体200は、一対の電極50と、その間に、半導体基体130がその厚さ方向に隣り合うように複数積層される積層部150を有する。積層部150において隣り合って配置される半導体基体130同士は、p型半導体部10とn型半導体部20とが接するようにして積層されている。このため、積層部150を構成するそれぞれの半導体基体130のyの増減方向は、同じになっている。
【0065】
積層部150を構成するそれぞれの半導体基体130の起電力の向き(正負の向き)が一致していることから、積層体200全体の起電力は、各半導体基体130の起電力の総和にほぼ等しくなる。このため、十分に大きな起電力を得ることができる。半導体基体130の厚さは十分に薄いことから、これを複数積層した積層体200の厚さも薄くすることができる。積層体200の厚さに特に制限はなく、例えば、30mm以下であってもよいし、10mm以下であってもよい。
【0066】
図7では、半導体基体130を複数積層した積層部150を備える積層体200を示したが、これに限定されない。例えば、半導体基体130に変えて半導体基体100を用いて積層体としてもよいし、半導体基体130と半導体基体100の両方を用いて積層体としてもよい。積層部150を構成する半導体基体130又は半導体基体100の数は特に限定されない。電極50及び積層部150の一部をエッチングにより除去して、パターン形成してもよい。
【0067】
積層体200又は半導体基体100(130)を用いて発電モジュールを作製し、発電方法を実施することもできる。発電モジュールの積層体200又は半導体基体100(130)以外の構成は、公知のものを用いることができる。積層体200又は半導体基体100(130)は、例えば50〜700℃に、好ましくは200〜500℃に加熱することによって、効率良く発電することができる。半導体基体100(130)、例えば、400℃における両端部の間の電位差の絶対値を0.3mV以上、又は、0.5mV以上にすることが可能である。このため、積層体とすることによって、十分に大きい起電力を得ることができる。
【0068】
半導体基体の製造方法の一実施形態を以下に説明する。本実施形態の製造方法は、一般式(I)のクラスレート化合物を含むn型半導体基体を作製する工程と、基体の表面の少なくとも一部を覆うように、一般式(I)におけるB元素のモル濃度がn型半導体基材よりも高い被覆層を形成する工程と、被覆層が形成された基体を加熱して、B元素を前記n型半導体基材の内部に拡散させてpn接合部を形成する工程とを有する。以下、詳細に説明する。
【0069】
一般式(I)の構成元素であるA元素、B元素及びC元素に対応する、金属又は半金属を準備する。そして、最終目的物の組成に応じて、準備した金属及び半金属を所定量秤量する。秤量は、必要に応じて不活性ガスに置換された密閉容器内で行う。秤量した金属及び反金属を、銅製のモールド内に入れて、アーク溶融法等によって溶解する。アーク溶解中の溶融金属の温度は、例えば約3000℃である。
【0070】
アーク溶融によって得られた融液を冷却すると、一般式(I)のクラスレート化合物のインゴットが得られる。得られたインゴットを破砕して、クラスレート化合物の粒子としてもよい。この粒子を坩堝中で溶融させた後、冷却して所定形状を有するn型半導体基体を得る。得られたn型半導体基体は、所望の形状(例えば平板形状)となるように加工してもよい。
【0071】
得られたn型半導体基体の表面に被覆層を形成する。被覆層は、一般式(I)におけるB元素のモル濃度がn型半導体基材よりも高い層である。被覆層は、例えばスパッタリング、蒸着、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法、化学気相法、又は液相法等の公知の方法で形成することができる。被覆層は、B元素の少なくとも一つを構成元素とする合金の膜又は化合物の膜であってもよいし、B元素からなる金属膜であってもよい。
【0072】
図8は、被覆層を有する基体の一例を模式的に示す断面図である。図8の基体110は、例えば平板形状を有しており、一般式(I)の組成を有するクラスレート化合物を含むn型半導体基材25と、n型半導体基材25の一方の主面に、B元素のモル濃度がn型半導体基材25よりも高い被覆層40と、を有する。被覆層40の厚さは、例えば、0.1〜5μmであってもよく、0.5〜3μmであってもよい。n型半導体基材25の厚さは、例えば0.001〜5mmであってもよい。n型半導体基材25の厚さを変えることによって、半導体基体100(130)の厚さを調節することができる。
【0073】
次に、基体110を加熱して、被覆層40に含まれるB元素をn型半導体基材25の内部に拡散させて、n型半導体基材25の内部にpn接合部を形成する。加熱温度は、例えば300〜1000℃であり、B元素を効率良く拡散させる観点から、好ましくは700〜1000℃であり、より好ましくは800〜1000℃である。上記加熱温度における加熱時間は、1分間〜300分間であってもよく、1〜180分間であってもよい。加熱は、アルゴンガス又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0074】
以上の工程によって、組成が厚さ方向に沿って変化するとともにpn接合部15を含む組成変化層30を有する半導体基体100(130)を得ることができる。半導体基体の表面には、被覆層の少なくとも一部が残存していてもよい。残存する被覆層は、研磨又は切断等の加工方法によって取り除いてもよい。このようにして、半導体基体100(130)を得ることができる。半導体基体100(130)の製造方法は上述の方法に限定されず、例えば、n型半導体基材25とは別の基材の上に半導体基体100(130)を形成してもよい。
【0075】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の半導体基体、基体及び積層体は、平板形状(四角柱形状)のものを挙げたが、このような形状に限定されない。半導体基体及び基体は、別の幾つかの実施形態では、四角柱以外の多角柱形状であってもよいし、円柱形状又は楕円柱形状であってもよい。また、湾曲形状であってもよいし、これらの形状とは異なる特殊な形状に加工されたものであってもよい。組成変化層において、厚さ方向に沿ったクラスレート化合物の組成は必ずしも一様に傾斜していることは必須ではなく、所望の起電力が得られる範囲で組成変化層の一部の領域の組成が逆向きに傾斜していてもよい。
【実施例】
【0076】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
[半導体基体の作製と組成評価]
(実施例1)
<基材の作製>
市販のBa粉末、Au粉末、及びSi粉末(いずれも高純度品)を準備した。これらの粉末を、Ba:Au:Si=8:4:42(モル比)となるように秤量した。秤量した各粉末をCuモールドに入れて、チャンバー内に載置した。チャンバー内をアルゴンガスで置換した後、アーク溶融法によって約2000℃に加熱し、Cuモールド内の粉末を溶融させた。このようにして、クラスレート化合物(BaAuSi42)のバルク体を作製した。このバルク体を平板形状(縦×横×厚さ=4mm×4mm×2mm)に加工して上記クラスレート化合物からなるn型半導体基材を得た。
【0078】
2極対向電極型スパッタリング装置(サンユー電子株式会社製、装置名:SC−701 QUICK COATER)を用いて、n型半導体基材の一方の主面に、被覆層として金の蒸着膜(厚さ:約1μm)を形成した。このようにして、n型半導体基材と、n型半導体基材の一方の主面に金の蒸着膜を有する基体を得た。
【0079】
<pn接合部を有する半導体基体の作製>
管状型電気炉に、上述のとおり作製した基体を入れて、アルゴンガス雰囲気下で加熱した。加熱条件は、約30℃/分の昇温速度で900℃まで昇温した後、900℃で5分間保持した。その後、約3℃/分の速度で室温まで自然冷却した。このようにして半導体基体を作製した。加熱前には、基体の主面に金の蒸着膜による金属光沢があったが、加熱後の半導体基体には、金属光沢は認められなかった。このことは、金が半導体基体の内部に拡散していることを示している。
【0080】
<半導体基体の評価1>
作製した半導体基体を厚さ方向に沿って切断した。そして、切断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて観察した。また、エネルギー分散型X線分光分析法(EDX)及び波長分散型X線分光分析法(WDX)を用いて切断面の組成分析を行った。
【0081】
図9は、半導体基体の主面(金の蒸着膜があった主面)近傍における、厚さ方向に沿った切断面のEPMA画像を示す写真である。図9に示すとおり、半導体基体の主面側(金の蒸着膜が形成されていた方の主面)には、金が拡散したことによって内部側とはコントラストが異なる組成変化層30が形成されていた。組成変化層30の厚さは最大で11.8μmであり、平均で約9.3μmであった。また、組成変化層30は、主面側に金単体とクラスレート化合物を含有する表面層42を有していた。
【0082】
図10は、図9に示す切断面をさらに拡大して行ったSEM−EDX組成分析の画像と分析結果を示す写真である。この写真において中央付近を縦断する線は、金(Au)濃度の線分析結果であり、当該線が図10の右側に振れるほど、金濃度が高いことを示している。この結果から、半導体基体の主面近傍に、クラスレート化合物の組成が厚さ方向に沿って変化する組成変化層30が形成されていることが確認された。また、組成変化層30の下側(半導体基体の内部側)には、組成が厚さ方向に沿って変化しない基材層24が存在していた。
【0083】
図11は、図9及び図10と同じ切断面のEPMA画像の写真である。図11において、十字印が付されたP1〜P4の位置において、EPMA−WDX装置(株式会社 島津製作所製、装置名:EPMA−1720)を用いて点分析を行った。点分析は、図11に示すとおり、P1,P2,P3,P4の各点において計8点で行った。半導体基体の主面から同等の深さにある点に、P1〜P4の同じ符号を割り振り、P1〜P4のそれぞれについて、元素分析の算術平均値を求めた。求めた算術平均値を、一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算して表2に示した。
【0084】
表2のP2〜P4の「距離」は、半導体基体の厚さ方向に沿って測定したP1からの距離である。なお、P1〜P4は、それぞれ2点あるので、各々の距離の算術平均値を表2に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
一般式(II)のクラスレート化合物の場合、理論上、yが5.33よりも大きい部分はp型半導体部に相当し、yが5.33よりも小さい部分はn型半導体部に相当する。表2の結果から、P1からP3の領域は、一般式(II)のクラスレート化合物の組成が厚さ方向に沿って変化する組成変化層に含まれることが確認された。
【0087】
P2とP3の間において、図11を横断するようにpn接合部が形成されている。表2には、厚さ方向に隣り合うP2とP3の間における「yの変化率」を示した。この「yの変化率」は、P2とP3の間の距離(8.3−3.2=5.1μm)で、yの変化量(Δ=6.12−4.89=1.23)を割った値である。表2の「L」は、「yの変化率」でyが変化する場合に、yを1変化させるのに必要な厚さ方向の距離を示している。この「L」は、「yの変化率」の逆数として求めることもできる。
【0088】
本評価によれば、pn接合部を含む部分における組成変化層のyの変化率は0.24/μmであった。
【0089】
<半導体基体の評価2>
上述の「半導体基体の評価1」で評価した切断面と同じ切断面において、別の位置の点分析を行った。図12は、図11と同じ切断面のEPMA画像の写真である。そして、図12において、十字印が付されたP1〜P15の位置において、「半導体基体の評価1」と同様にしてEPMA−WDXによる点分析を行った。点分析の結果を、一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算して表3〜5に示した。
【0090】
表3のP2の「距離」は、P1を起点として、半導体基体の厚さ方向に沿ったP1からの距離である。表4のP4〜P7の「距離」は、P3を起点として、半導体基体の厚さ方向に沿ったP3からの距離である。表5のP9〜P11の「距離」は、P8を起点として、半導体基体の厚さ方向に沿ったP8からの距離である。表6のP13〜P15の「距離」は、P12を起点として、半導体基体の厚さ方向に沿ったP12からの距離である。表3〜表6の各項目は、表2の各項目と同義である。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、P1とP2の間の領域は、組成が変化していることから組成変化層に属している。そして、P1とP2の間に、pn接合部があることが分かった。P1とP2の間における「yの変化率」は0.22/μmであった。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、P3〜P7の領域は、組成が変化していることから組成変化層に属している。そして、P4とP5の間にpn接合部があることが分かった。P4とP5の間における「yの変化率」は0.33/μmであった。
【0095】
【表5】
【0096】
表5に示すように、P8〜P10の領域は、組成が変化していることから組成変化層に属している。そして、P9とP10の間にpn接合部があることが分かった。P9とP10の間における「yの変化率」は0.23/μmであった。
【0097】
【表6】
【0098】
表6に示すように、P12〜P15の領域は、組成が変化していることから組成変化層に属している。そして、P12とP13の間にpn接合部があることが分かった。なお、P13は、理論値である5.33に近いことから、P13付近にpn接合部があると推察される。P12とP13の間における「yの変化率」は0.34/μmであった。
【0099】
本評価によれば、pn接合部を含む部分における組成変化層のyの変化率は0.22〜0.34/μmであった。このように、評価によってyの変化率が異なるのは、測定する位置によってyの変化率が異なるためである。
【0100】
(実施例2)
<基体の作製>
実施例1と同じ手法で、クラスレート化合物(BaAuSi42)からなるn型半導体基材と、n型半導体基材の一方の主面に被覆層として金の蒸着膜(厚さ:約1μm)を有する基体を得た。
【0101】
<pn接合部を有する半導体基体の作製>
管状型電気炉に、上述のとおり作製した基体を入れて、アルゴンガス雰囲気下で加熱した。加熱条件は、約30℃/分の昇温速度で800℃まで昇温した後、800℃で5分間保持した。その後、約3℃/分の速度で室温まで自然冷却した。このようにして、pn接合部を有する半導体基体を作製した。加熱前には、基体の主面に金の蒸着膜による金属光沢があったが、加熱後には、金属光沢が消失していた。このことは、金が半導体基体の内部に拡散したことを示している。
【0102】
<半導体基体の評価1>
作製した半導体基体を厚さ方向に沿って切断した。そして、切断面を、実施例1と同様にして評価した。図13は、半導体基体の主面近傍における、厚さ方向に沿った切断面のEPMA画像を示す写真である。図13に示すとおり、半導体基体の主面側には、金が拡散したことによって内部側とはコントラストが異なる組成変化層30が形成されていた。組成変化層30の厚さは平均で約12μmであった。また、組成変化層30は、表面側に表面層42を有していた。表面層42は、金単体とクラスレート化合物を含有していた。
【0103】
図14は、図13に示す切断面をさらに拡大して行ったSEM−EDX組成分析の画像と分析結果を示す写真である。この写真において中央付近を縦断する線は、金(Au)濃度の線分析結果であり、当該線が図14の右側に振れるほど、金濃度が高いことを示している。この結果から、基体側に金が拡散し、組成が厚さ方向に沿って変化する組成変化層30が形成されていることが確認された。また、組成変化層30の下側に、クラスレート化合物の組成が厚さ方向に沿って変化しない基材層24があることが確認された。
【0104】
図15は、図13図14と同じ切断面のEPMA画像の写真である。そして、図15において、十字記号が付されたP2〜P4の位置において、実施例1と同様に、EPMA−WDXによる点分析を行った。点分析は、図15に示すとおり、P1,P2,P3,P4の各点において計8点で行った。半導体基体の表面から同等の深さにある点について、P1〜P4のうち同じ符号を割り振り、P1〜P4のそれぞれについて、元素分析の算術平均値を求めた。P1〜P4について、求めた算術平均値を、一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算して表7に示した。表7の各項目は、表2の各項目と同義である。
【0105】
【表7】
【0106】
表7のP1は、表面層中に位置しており、P2〜P4よりも金濃度が高かった。これは、表面層が、金単体とクラスレート化合物を含有しているためである。このP1についても、分析結果をそのまま一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算していることから、yは6を超えており、xは7未満となっている。
【0107】
P1〜P4の領域は、半導体基体の厚さ方向に沿って組成が変化していた。また、P2とP3の間にpn接合部があることが確認された。P2とP3の間における「yの変化率」は0.15/μmであった。
【0108】
<半導体基体の評価2>
上述の「半導体基体の評価1」で評価した切断面と同じ切断面において、別の位置の点分析を行った。図16は、図15と同じ切断面のEPMA画像の写真である。そして、図16において、十字記号が付されたP1〜P4の位置において、「半導体基体の評価1」と同様にしてEPMA−WDXによる点分析を行った。点分析は、図16に示すとおり、P1〜P4の各点において計4点で行った。測定値を、一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算して表8に示した。表8の各項目は、表2の各項目と同義である。
【0109】
図17は、半導体基体の切断面において、表面層が存在する主面からの距離と、一般式(II)の組成比に換算して求めたyとの関係を示すグラフである。図17に示すとおり、P1及びP2は、クラスレート化合物と単体の金を含有する表面層中に位置している。このため、P1及びP2のyは6を超えており、P1のxは7未満となっている。P3,P4については、基体の原料として用いたクラスレート化合物と同等の組成を有していた。
【0110】
【表8】
【0111】
図17及び表8に示す結果から、P1とP3の間で金の濃度が急激に変化しており、P2とP3の間にpn接合部があることが分かった。また、加熱温度が800℃であるとき、金の拡散長は、概ね20μm程度であることが確認された。したがって、図16のP3は拡散層22に属し、P4は基材層24に属する。
【0112】
[基体の加熱温度と外観の関係]
図18(A)は、実施例1で用いた基体の写真である。基体は、表面に金の蒸着膜を有することから金属光沢を有していた。図18(B)は、実施例1と同じ手順で作製した基体を300℃に加熱して得られた基体の写真である。加熱条件は、アルゴンガス雰囲気下、約5℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で1分間保持した後、約3℃/分の速度で室温まで自然冷却した。基体の表面には、金属光沢が残っていた。
【0113】
図18(C)は、加熱温度を300℃から400℃に変更したこと以外は、図18(B)の場合と同じ加熱条件で得られた半導体基体の写真である。この半導体基体の表面には金属光沢がなかった。このことから、基体を400℃に加熱すれば、基体(n型半導体基材)の内部に金が拡散することが確認された。
【0114】
図19(A)は、加熱温度を300℃から500℃に変更したこと以外は、図18(B)の場合と同じ加熱条件で得られた半導体基体の写真である。この半導体基体の表面にも金属光沢がなかった。
【0115】
図19(B)は、加熱の温度を900℃から600℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ加熱条件で得られた半導体基体の写真である。この半導体基体の表面にも金属光沢がなかった。図19(C)は、加熱の温度を900℃から700℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ加熱条件で得られた半導体基体の写真である。この半導体基体の表面にも金属光沢がなかった。
【0116】
図20(A)は、実施例2で作製した半導体基体の写真である。図20(B)は、実施例1で作製した半導体基体の写真である。図20(C)は、加熱の温度を900℃から950℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ加熱条件で得られた半導体基体の写真である。図20(A)、図20(B)及び図20(C)の半導体基体は、いずれも表面に金属光沢を有しなかった。これらの結果から、基体を400〜950℃に加熱すれば、基体(n型半導体基材)の内部に金が拡散することが確認された。
【0117】
[起電力の測定]
実施例1,2の半導体基体の起電力を以下の手順で評価した。図21に示す測定装置を準備した。実施例1,2の半導体基体の厚さ方向の両端部(すなわち、p型半導体部とn型半導体部)に、それぞれ導線を接続した。半導体基体の両端部のうち、金の蒸着膜を蒸着した方の端部(p型半導体部)を+側に、反対側の端部(n型半導体部)を−側に接続した。そして、半導体基体を厚さ方向に挟むように配置された一対のヒータ60で半導体基体を加熱し、半導体基体の厚さ方向の両端部間の電位差を測定した。加熱に際しては、一対のヒータ60の出力を調整して、半導体基体100の両端部間に温度差が生じないようにしながら、電位差を測定した。起電力と両端部の温度を、記録部70にて記録した。
【0118】
図22は、実施例1,2で作製した半導体基体のそれぞれの起電力の測定結果を示すグラフである。図22に示すとおり、実施例1,2ともに、半導体基体の両端部の間に温度差がないにもかかわらず、所定の温度以上に加熱することによって、電位差が生じることが確認された。絶対値でみると、実施例1の方が実施例2よりも大きい起電力が得られた。
【0119】
このように、昇温によって電位差が大きくなるのは、熱エネルギーの増加によって、バンドギャップが小さいpn接合部において励起される電子及びホールが増えるためであると考えられる。すなわち、半導体基体は、所定の温度範囲で、pn接合部の真性半導体部でのみ価電子帯から伝導帯へと電子が励起し、伝導帯へ移動した電子はエネルギーの低いn型半導体部側に移動する。一方、pn接合部で価電子帯に生じたホールはp型半導体部側へと移動する。このキャリアの偏りによって、実施例1,2の半導体基体は、p型半導体部を正極、n型半導体部を負極とした発電材料になる。
【0120】
次に、実施例1,2の半導体基体の厚さ方向の向きが逆になるように反転して、逆方向の起電力を同様にして測定した。その結果を図23に示す。図23に示すとおり、正負が逆になったこと以外は図22に示す結果と同様の結果が得られた。これらの結果から、実施例1,2の半導体基体は、両端の間に温度差がなくても、加熱によって電位差が発生することが確認された。
【0121】
(比較例1)
実施例1で用いた基体の起電力を評価した。具体的には、金の蒸着膜を形成する前の、n型半導体からなる基体を、図21に示す測定装置にセットして、実施例1,2の半導体基体と同様にして起電力を測定した。その結果を図24に示す。図24に示すとおり、起電力は殆ど得られなかった。なお、わずかに起電力が生じているが、これは、基体の両端部間に0.5℃程度の温度差が生じていたことに起因するものである。
【0122】
[半導体単結晶の作製と組成評価]
(比較例2)
市販のBa粉末、Au粉末、及びSi粉末(いずれも高純度品)を準備した。これらの粉末を、Ba:Au:Si=8:8:38(モル比)となるように秤量した。秤量した各粉末をCuモールドに入れて、チャンバー内に載置した。チャンバー内をアルゴンガスで置換した後、アーク溶融法によって約2000℃に加熱し、Cuモールド内の粉末を溶融させた。溶融してから1時間経過後に、種結晶として先端にSiを備えたシャフトを、30rpmで回転させながら溶融液の液面に接触させた。そして、クラスレート化合物を1079℃まで降温させながら、シャフトを5mm/時の速度で引き上げた。このようなチョクラルスキー法によって、図25に示すような釣鐘形状を有するクラスレート化合物の単結晶を作製した。図25の上方が、チョクラルスキー法の引き上げ方向である。
【0123】
単結晶の上方から下方に向かってほぼ同じサイズに切断し、電子線マイクロアナライザ(EPMA−1200(WDX))を用いて元素分析を行った。このとき、フィラメント電圧は15kVに、フィラメント電流は10nAにそれぞれ設定した。元素分析の測定値を、一般式(II)のクラスレート化合物の組成比に換算した。換算した組成比は、図25に示すとおりであった。
【0124】
得られた単結晶の長手方向に沿う長さは約24mmであった。図25に示す組成比から明らかなように、yの値は、図25の上方から下方に向かって徐々に増加していた。単結晶全体に亘って、長さ方向におけるyの変化率は、大きく変わらなかった。pn接合部を含む部分のyの変化率は、(4.95−4.80)/5mm=0.03/mm=3×10−5/μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示によれば、一つの側面において、薄型化しても、効率良く発電することができる半導体基体を提供することができる。また、別の側面において、発電材料として有用な半導体基体を簡便に製造することが可能な製造方法を提供することができる。さらに、別の側面において、上述の半導体基体を製造するのに有用な基体、及び、上述の半導体基体を積層することによって得られる積層体を提供することができる。
【符号の説明】
【0126】
10…p型半導体部、15…pn接合部、20…n型半導体部、22…拡散層、24…基材層、30…組成変化層、40…被覆層、42…表面層、50…電極、60…ヒータ、70…記録部、100,130…半導体基体、100a,100b,130a,130b…主面、110…基体、150…積層部、200…積層体。
図1
図2
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