特許第6875767号(P6875767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6875767-根菜を用いた加工食品の製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6875767
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】根菜を用いた加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/10 20160101AFI20210517BHJP
【FI】
   A23L19/10
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-131243(P2020-131243)
(22)【出願日】2020年7月31日
【審査請求日】2020年7月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000124926
【氏名又は名称】会津天宝醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】満田 盛護
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0123322(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第106954823(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0049733(KR,A)
【文献】 特開2008−079562(JP,A)
【文献】 特開平05−137532(JP,A)
【文献】 特開平09−275929(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059610(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2019−0028582(KR,A)
【文献】 特開2013−158324(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1889431(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00−19/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のオタネニンジン、生ショウガ、又は立川ゴボウからなる根菜の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄後の前記根菜を気密性の容器の内部に投入し、前記容器内の残留空気の体積が前記根菜の体積の1/2以下になるように充填した後、前記容器を密閉する密閉工程と、
前記密閉された容器を、60℃乃至80℃の温度範囲の加温雰囲気内に入れて所定期間加温することにより、前記容器内に投入された前記根菜を軟化し湿潤化させ、前記根菜に含まれるポリフェノールオキシダーゼを不活性化させる加温工程と、
軟化し湿潤化した前記根菜を所定期間乾燥する乾燥工程と、を備えることを特徴とするオタネニンジン、生ショウガ、又は立川ゴボウからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記加温工程の加温期間が2日間乃至2日間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記根菜が、オタネニンジンであり、前記オタネニンジンの加温工程の加温期間が10日間乃至20日間の範囲であり、前記オタネニンジンの乾燥期間が1日間であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオタネニンジンからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記根菜が、ショウガであり、前記生ショウガの加温工程の加温期間が2日間乃至28日間であり、前記生ショウガの乾燥期間が1日間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生ショウガからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項5】
前記根菜が、立川ゴボウであることを特徴とする請求項1又は2に記載の立川ゴボウからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記立川ゴボウの加温工程の加温期間が11日間乃至17日間の範囲であり、前記立川ゴボウの乾燥期間が1日間であることを特徴とする請求項に記載の立川ゴボウからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項7】
前記気密性の容器として、光透過性を有する二重袋体を用いることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のオタネニンジン、生ショウガ、又は立川ゴボウからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記加温工程の終了時点を、前記加温工程における前記根菜の表面状態の変化から決定することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のオタネニンジン、生ショウガ、又は立川ゴボウからなる根菜を用いた加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品の製造方法に係り、より詳しくは、根菜を空気との接触を制限した状態で加温処理して製造する加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生野菜は、切りとってから時間が経つに従って、空気中の酸素による酸化分解、及び生野菜自身が含有する酵素による分解によって有効成分が減少し、乾燥によって水分を失って食感及び香味が低下してゆく。また、そのまま生で食せる野菜の種類には限りがある。
一方、漬物や、かんぴょう、切り干し大根、干柿等のような加工野菜は、長時間保存し熟成させることによって香味及び有効成分が増加する。
【0003】
しかし、加工野菜を熟成させる方法は種類が限られ、長時間かかる場合が多く、乾燥、熟成の進み具合が天候に左右される場合も多い。
最近の食生活の多様化に伴って、香味の優れた、或いは健康の増進に役立つような成分を多く含む加工野菜の開発が求められている。
【0004】
野菜を調理する場合は、80℃以上の温度で行われ、また、野菜を長期間保存する乾燥及び熟成は、室温以下で行われることが多い。また、室温〜60℃の温度範囲では病原菌が繁殖するので、野菜の発酵以外の長期間処理は行いにくい。
【0005】
上記の温度以外の60℃〜80℃の温度範囲は、野菜の大部分の酵素は分解されて失活しているものと考えられるが、いくつかの重要な反応が進行し得る。例えば、野菜の主要構成成分の一つであってヒトが消化できないβ−でんぷんが、ヒトが消化できるα−でんぷんに転化するでんぷんの糊化温度は、多く野菜の場合60℃〜80℃付近であり、α−でんぷんを分解して二糖に分解するα−アミラーゼは、70℃付近まで活性を有する。生成する二糖は甘味を有するものが多いので、野菜は、60℃〜70℃に加温されると甘味を増すことがある。
【0006】
このような状態にある野菜の周囲に酸素が存在すると、野菜の有効成分の酸化分解が進行して、野菜の劣化が急速に進行するものと推測される。
このような状況で起こり得る酸化分解の一つとして、ポリフェノールオキシダーゼと空気中の酸素とによるポリフェノール類の酸化分解がある。
【0007】
ポリフェノール類は多くの野菜に含まれ、人体に有害な活性酸素を捕捉して除去する効果を有するが、ポリフェノールオキシダーゼによって酸化分解されると活性を失って黒色になり、渋味や苦みを有するアクを生じて食品の味を低下させることが知られている。料理の下ごしらえとしてアク抜きを行うことがあるが、アク抜きを行うと有用なポリフェノールが失われてしまう。
ポリフェノールオキシダーゼは、通常は細胞内に保護されて不活性であるが、細胞が破壊されると活性化されてポリフェノールを酸化する。しかし酸素が制限された状態ではポリフェノールを酸化することができず、また、70℃以上の温度で徐々に失活されるという性質を有する(例えば非特許文献1を参照)。
【0008】
ここで、野菜の中に「根菜」と呼ばれる一群の野菜がある。「根菜」とは、地下にある部分を食する野菜の総称としての実用的な分類であり、たとえば、ゴボウ、ニンジン、ダイコン、サツマイモ、立川ゴボウ、オタネニンジン、及びカブ等を含む根、レンコン及びショウガ等を含む根茎、ジャガイモ、キクイモ、及びクワイ等を含む塊茎、又はタマネギ、エシャロット、ニンニク、ラッキョウ等を含む鱗茎を含む。根菜は、水分を50〜90質量%、或はそれ以上含み、水分とでんぷんの含有量を合計すると80質量%以上になるものが多く、また、ポリフェノール類を多く含むものが多い。
【0009】
近年、新しい野菜の熟成方法として、ニンニク、タマネギ又はラッキョウを65℃〜85℃、湿度75%〜90%で250時間〜500時間熟成させて黒にんにくを得、これを混錬してペースト状の加工食品を得る方法が記載されている(例えば、特許文献1を参照)。また、ゴボウを55℃〜80℃以下で6日蒸した後乾燥する処理を2回以上行って得られるゴボウ加工食品が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
しかし、特許文献1、2のニンニク及びゴボウ中のポリフェノールは、ポリフェノールオキシダーゼが失活する前に酸化分解され、生成物に渋味や苦みをあたえて食味を損なっていた。
【0011】
また、根菜は、水分を50〜90質量%、或はそれ以上含み、水分とでんぷんの含有量を合計すると80質量%以上になるものが多いので、このような根菜を60℃〜80℃に加温すると、根菜が軟化し湿潤化することが多い。また、根菜のα−でんぷんを根菜が含有するアミラーゼで分解して、甘みを有する2糖類を生成させて根菜の甘味を増加させ得ることがあり、場合によってはβ−でんぷんをα−化させてそのままでも食し得るようにすることもできる。しかし、根菜を60℃〜80℃に加温するだけでは、渋みや苦みを除くことはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018−101号公報
【特許文献2】特開2013−158324号公報
【特許文献3】特許第5697121号公報
【特許文献4】特表2018−515537号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】若山忠明ら、日本調理科学会誌、P243〜248、(Vol.36−3)、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、根菜を酸素の供給が制限された状態で加温処理した後に乾燥することによって、根菜に含まれるポリフェノール類の酸化を防ぎながら根菜を加温してポリフェノールオキシダーゼを不活性化させ、これにより渋みや苦みの原因となるポリフェノール酸化物を含まず有用なポリフェノールが残存する、根菜を用いた加工食品の製造方法を提供すことを目的とする。
【0015】
また、本発明は、軟化し湿潤化した根菜を所定期間乾燥させることによって、長期保存を可能とした根菜を用いた加工食品を提供することを目的とする。
更に、本発明は、空気の供給を制限して加熱することによって、新規な有効成分や公知の有効成分である機能性成分を増加させることが可能な、根菜を用いた新規な加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる課題を解決するための本発明の加工食品の製造方法は、原料のオタネニンジン、生ショウガ、又は立川ゴボウからなる根菜の表面を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の根菜を気密性の容器の内部に投入し、容器内の残留空気の体積が前記根菜の体積の1/2以下となるように充填した後、容器を密閉する密閉工程と、密閉された容器を、60〜80℃の温度範囲の加温雰囲気内に入れて所定期間加温することにより、容器内に投入された根菜を軟化し湿潤化させ、根菜に含まれるポリフェノールオキシダーゼを不活性化させる加温工程と、軟化し湿潤化した根菜を所定期間乾燥する乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明は、加温工程の加温期間が2日間〜2日間の範囲であることが好ましい
【0018】
また本発明は、前記根菜がオタネニンジンであり、オタネニンジンの加温工程の加温期間が10日間〜20日間の範囲であり、オタネニンジンの乾燥期間が1日間であることが好ましい。
また本発明は、根菜がショウガであり、前記ショウガの加温工程の加温期間が日間〜14日間であり、ショウガの乾燥期間が1日間であることが好ましい。
また本発明は、前記根菜が立川ゴボウであり、立川ゴボウの加温工程の加温期間が11日間〜17日間の範囲であり、立川ゴボウの乾燥期間が1日間であることが好ましい。
また本発明は、前記根菜がサツマイモであり、前記サツマイモの加温工程の加温期間が5日間〜9日間の範囲であり、前記サツマイモの乾燥期間が1日間であることが好ましい。
【0019】
また、前記気密性の容器として、光透過性を有する二重袋体を用いることが好ましい。
また、加温工程の終了時点を根菜の表面状態の変化から決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明による根菜を用いた加工食品の製造方法によれば、根菜を酸素の供給が制限された状態で加温処理することによって、甘みが増し、柔らかく、そのままでも食すことができる加工食品とすることができる。また、ポリフェノール類などの有効成分が増し、室温で2ヶ月以上香味を保ったままで保存できる加工食品とすることができる。
【0021】
例えば、本発明による加工食品の製造方法を用いてショウガを処理した場合は、ショウガの香味及び食感が改善されると共に、辛み成分の1つであるジンゲロールが、ポリフェノール酸化物に変化することなく、3倍の辛みを有するショウガオールに変化することを促進するという優れた効果がある。
【0022】
例えば、本発明による加工食品の製造方法を用いてオタネニンジンを処理した場合は、オタネニンジンの有効成分の一つであるジンセノサイドRg3の含有量が、加温処理前には検出限界以下であったのに、加温処理後には原料のオタネニンジン100g当たり41.3mg得られるという優れた効果がある。
【0023】
また、本発明による加工食品の製造方法を用いて立川ごぼうを処理した場合には、立川ゴボウの含有するポリフェノール類の酸化分解を防ぎ香味を改善すると共に、甘みの強いフルクトースを生成し、甘味が増加するいう優れた効果がある。
また、本発明による加工食品の製造方法を用いてサツマイモを処理した場合には、甘味を増加させ、サツマイモが含むポリフェノール類の酸化を防いで香味を改善すると共に、豊富な食物繊維を含み、大腸の機能を活性化し、腸内環境を整え、便秘を解消させるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の加工食品の製造方法の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の加工食品の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。図1に示すように、本発明の加工食品の製造方法は、原料の根菜の表面を洗浄する洗浄工程(S−1)と、洗浄後の根菜を気密な容器に収容する密閉工程(S−2)と、根菜を収容した袋を加温する加温工程(S−3)と、加温後の根菜を乾燥する乾燥工程(S−4)と、を有する。
【0026】
洗浄工程(S−1)は、原料の根菜に付着した土、及びほこりなどを水洗して除くと共に、不要部分をトリミングなどによって除去する工程である。この工程は、用いる原料の種類及びその状態に対応して適宜行われる。また、所望によって、皮むきをする操作、細かく切り分ける操作、熱湯又は水蒸気で短時間加熱した後に直ちに冷却するブランチング操作などを含むことができる。
【0027】
次の密閉工程(S−2)は、洗浄した根菜を気密な容器に入れて密閉する工程である。この際、容器内に残存する空気の体積が、容器に詰めた根菜の体積の1/2以下になるように密に充填することが好ましい。残存する空気の体積が原料の根菜の体積の1/2を越えると空気(酸素)が残ってポリフェノールオキシダーゼの活性を充分に阻害することができないことがあり好ましくない。残存する空気の量は少なければ少ないほど良いが、根菜は固体であって隙間を有するので空気の体積を零にすることは困難である。この場合には、耐圧性の容器を用いて内部を減圧したり、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスを導入したりして容器内に共存する空気(酸素)の量を更に減少させることもできる。
【0028】
根菜を収容し密閉する容器は、原料の根菜を気密に収容でき、水及び水蒸気が漏れない食品用の容器であればいずれでも用いることができる。好ましくは、光透過性を有する合成高分子樹脂製の袋体を挙げることができる。透明な合成高分子樹脂製の袋を用いると、根菜の表面の変化が目視で観察できるという利点がある。最も好ましい実例として、ポリエチレン又はポリエチレンテレフタレート製の透明な袋体を挙げることができる。また、根菜を密閉して加温することによって、気体が発生して袋が膨張する場合があるので、袋体を用いる場合は二重袋にして使用することが好ましい。
【0029】
加温工程(S−3)は、完全に密封された容器に収容された根菜を、所定温度範囲の恒温器中に所定期間保存すると共に、ポリフェノールオキシダーゼを不活性化させながら根菜を加温処理する工程である。所定温度範囲は、根菜が軟化し湿潤化すると共にポリフェノールオキシダーゼが不活性化される60℃〜80℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0030】
加温温度が80℃を超えると所望しない熱分解が進み過ぎることがあって好ましくなく、60℃未満では根菜が充分に軟化及び湿潤化しないことがあるので好ましくない。また、根菜の中心部を80℃に加温するためには恒温器の温度設定を85℃まで上げる必要があることがあるので、加温装置の好ましい温度設定範囲として、60℃〜85℃を例示することができる。反応の上限温度は、使用する機器、原料に用いる根菜の種類、同じ根菜間の品質のバラツキ、処理後の根菜の使用目的等の多様性に対応して多様且つ厳密に管理されることが好ましい。
【0031】
加温工程の最適な加温温度及び加温期間は、別途に予備試験を行って設定することが好ましい。しかし、実際の製造工程においては、予備試験の結果を参照して、表面状態の変化に基づいて加温期間の終了点を判断することができる場合がある。なお、判断の基準となる表面状態の変化としては、表面の色及び軟化湿潤状態等の形状の変化が指標となり得る。また、用いる根菜によっては着色しない場合もあるが、当業者であれば根菜(食材)の形状の変化を詳細に観察することによって反応の終点を判断し得ることがある。
なお、表面状態の変化を観察するために、気密性の容器として、光透過性を有する合成高分子樹脂製の二重袋体を用いることが好ましい。
【0032】
また、加温条件は、原料に用いる根菜の種類、同じ根菜間の品質のバラツキ、製造された加工食品の使用目的等によって異なり得るが、加温期間は、2日間〜28日間の範囲が好ましく、3日間〜14日間であることがより好ましい。反応期間が2日間未満では反応が充分に進まない可能性があり、28日間を超えると目的以外の反応が進むことがあり、好ましくない。
【0033】
根菜は、水分含量が50%〜90%、あるいはそれ以上であることが多いから、上記の加温処理によって形状が軟化し湿潤化することが多いので、加温工程の終了した根菜を所定期間乾燥させる乾燥工程(S−4)を行う。乾燥工程は、加温処理された根菜の水分を、水分に含まれる有効成分を分解させずに蒸発させて乾燥させることができる方法であれば何れでもよい。
乾燥方法は、たとえば気密な容器を開封して加温温度又はそれ以下に保つ方法、乾燥した気体を吹き付ける方法、減圧にする方法、又は凍結乾燥などを例示することができる。また、乾燥工程によって有効成分が生成又は増加することもあり得る。
【0034】
本発明の原料として用いる根菜とは、地下にある部分を食する野菜を示すものであって、植物学上の「根」だけでなく、これと形状が類似した地下茎、担根体やこれらと他の器官との複合体であるものを含む。具体的には、ゴボウ、ニンジン、ダイコン、サツマイモ、立川ゴボウ、オタネニンジン、及びカブ等を含む「根」を食するもの、根と形状が類似したレンコン及びショウガ等を含む根茎を食するもの、並びに根と形状が類似した栄養分の貯蔵庫であるジャガイモ、キクイモ、及びクワイ等を含む塊茎を食するものを含むことができる。また、根よりも茎や葉に近いが、地下にある部分を食するので根菜に含まれるタマネギ、エシャロット、ニンニク、ラッキョウ等の鱗茎も含まれる。
【0035】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ショウガの実施例]
本発明の原料に用いる根菜の好ましい実施例として、ショウガを挙げることができる。ショウガは、ショウガ科の多年草であって、根茎部分が食用又は生薬として利用される。
【0036】
生のショウガは、水分含量が約90質量%であり、[化1]に示すジンゲロール1と、ショウガオール2との2種類の辛味成分を含有する。ジンゲロール1とショウガオール2とは、共にポリフェノールに属し、またショウガの生薬としての有効成分でもある。生のショウガはジンゲロール1を多く含み、ショウガを加熱するとショウガオール2が増え、またショウガオール2はジンゲロール1の3倍の辛さを有する。更に、ジンゲロール1は、逆アルドール反応によってショウガの芳香成分である[化1]に示すジンゲロン3を生成する。
【0037】
【化1】
【0038】
<実施例1>
市販の生のショウガの不要部分をトリミングして除き、水で洗浄した後に水を切り、厚さ2mmにスライスし、スライスしたショウガ7.8Kgを得た。スライスしたショウガを1以上の透明な合成高分子樹脂製袋に入れ、それぞれの袋の内部に残存する空気の体積がショウガの体積の1/2以下になるように充填し、各袋を密閉し、更にそれぞれの袋に別の袋をかぶせて袋を二重にして密閉し、ショウガを充填した袋を、内温を77℃に設定した恒温器に入れ、袋の内容物を観察しながら4日間放置した。4日後にショウガを収容した袋を開封し、内温を77℃に設定した恒温乾燥器に入れ1日間乾燥して、実施例1の0.62Kgの加工ショウガを得た。
【0039】
<実施例2〜5>
実施例1と同様に、ショウガを洗浄しスライスしたのち1以上の袋に、それぞれの袋の内部に残存する空気の体積がショウガの体積の1/2以下になるように充填し、各袋を二重にしてそれぞれを密閉し、ショウガを充填した袋を表1に示す加温温度及び加温期間で加温した後、袋を開封し乾燥して、表1に示す実施例2〜5の加工ショウガを得た。
実施例1、2、5で得た加工ショウガは、粉末化できなかったが、実施例3で得た0.62kgの加工ショウガを小型粉砕機により粉末化して、0.60Kgの淡褐色の加工粉末ショウガを得た。
【0040】
<比較例1>
実施例3と同様に、但し、洗浄及びスライスしたショウガを入れた合成高分子樹脂製袋の口を開けたままで、内温を77℃に設定した恒温器に14日間入れた。得られた比較例1の加工ショウガを小型粉砕機により粉末化し、加工粉末ショウガを得た。
実施例1〜5及び比較例1の加工粉末ショウガ中のジンゲロール1及びショウガオール2の定量を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
ショウガは、辛み成分としてジンゲロール1とジンゲロール1の3倍の辛みを有するショウガオール2とを含むが、実施例1〜5及び比較例1に示す加工ショウガは、辛みが強いショウガオール2の含有量が原料のショウガよりも増大するという共通の特徴を有する。具体的には、表1に示すように、原料ショウガ100gに含まれているショウガオール2の生成量が27mgであったのに対し、比較例1では約3倍の78mgのショウガオール2を生成したが、実施例1〜5においては、183〜277mg(約6.7〜10倍)のショウガオール2が生成するという優れた特徴を有する。
【0043】
また、比較例1の加工粉末ショウガは、ポリフェノールであるジンゲロール1及びショウガオール2の酸化分解によって茶褐色に着色すると共に、ポリフェノール類及びその酸化物特有の渋み及び苦みを含むが、実施例1〜5で得た加工粉末ショウガは、酸素の供給が制限されてポリフェノール類の酸化分解が少ししか起こらないため、得られた粉末加工ショウガは淡褐色であり、ショウガ特有のさわやかで強い辛みと強い香気とを有するという優れた特徴がある。
【0044】
ショウガの加温温度は、60℃〜80℃であることが好ましく、70〜80℃であることがより好ましい。加温温度が60℃未満ではポリフェノールオキシダーゼが不活性化されないことがあり、80℃を超えると有効成分の熱分解が進みすぎることがあって好ましくない。
【0045】
ショウガの加温期間は、2日間〜28日間であることが好ましく、3日間〜14日間であることがより好ましい。加温期間が2日間未満ではジンゲロール1が充分にショウガオール2に変換されない可能性があり、加温期間が28日間を超過するとジンゲロール1及びショウガオール2の分解が進行しすぎて辛み成分の合計量が減少することがあり好ましくない。
【0046】
[立川ごぼうの実施例]
また、本発明の原料に用いる根菜の好ましい実施例として、立川ゴボウを挙げることができる。立川ゴボウは、福島県会津坂下町の立川地区周辺で栽培されているこの地方特有のゴボウであり、植物学的な分類系統は不明である。葉がアザミの葉と似ているためにアザミゴボウとも呼ばれる。香りが高く肉質が柔らかく味が良いことが知られている。
【0047】
<実施例6>
市販の立川ごぼう10Kgの不要部分をトリミングして除き、流水で洗浄後、水分を切って得た洗浄後の立川ごぼうを、1以上の透明な合成高分子樹脂製の袋に入れ、それぞれの袋の内部に残存する空気の体積が立川ごぼうの体積の1/2以下になるように充填し、各袋を密閉し、更にそれぞれの袋を別の袋に収容し密閉して袋を2重にし、内温を77℃に設定した恒温器に入れ、内容物を観察しながら14日間放置した。14日後に、立川ゴボウの表面が焦げ茶色に変化したので袋を開封し、袋を開封したまま内温を77℃に設定した恒温乾燥器に入れて1日間加温して乾燥し、実施例6の3.0Kgの加工立川ゴボウを得た。なお、加温工程の時間は、予備実験を行って決定した。得られた実施例6の加工立川ゴボウの表面及び内部は茶色に着色していた。
【0048】
<比較例2>
実施例6と同じ条件で、但し、洗浄後の立川ごぼうを入れた合成高分子樹脂製の袋の口を開けたままで内温を77℃に設定した恒温器に14日間放置した。得られた比較例2の加工立川ゴボウは、表面は濃い焦げ茶色であり、内部は着色していなかった。
【0049】
実施例6及び比較例2の加工立川ゴボウは、共に、でんぷんがα−化されているので、そのまま食すことができ、食感が甘く柔らかく食べやすいという特徴、及び製造から2ヶ月間以上常温で保存しても風味・食味が変わらないという共通の特徴を有する。
【0050】
実施例6は、加温工程(S−3)を、酸素量が制限された雰囲気で77℃で行うので、ポリフェノールオキシダーゼがポリフェノールを少量しか分解せずに不活性化されるので、抗活性酸素活性を有するポリフェノール類を含み且つポリフェノール酸化物による渋みやえぐみがない、すっきりした味の加工立川ゴボウが得られるという特徴がある。
【0051】
しかし、原料の立川ゴボウは、ポリフェノール類の含有量が多い根菜であって、調理する前にアク抜きをしてポリフェノール類を除去する下ごしらえが必要なものであるが、比較例2の製造方法で製造された加工立川ゴボウは、アク抜きをしていないので、ポリフェノール類が酸化された黒色色素を多量に含んで焦げ茶色のゴボウになって渋みとえぐみが強くなっていて、実施例6の加工立川ゴボウに比べると味が落るものになり、活性酸素を抑える作用がある有効成分のポリフェノールも分解されてしまっていた。
【0052】
実施例6の加工立川ごぼうは、試食において甘味が強いという評価であったので、原料の立川ゴボウ及び加工立川ごぼうに含まれる甘味の強いスクロース、フルクトース、及びグルコースの定量を行なって比較した。その結果を表2に示す。
表2は、原料の立川ごぼうと、原料の立川ごぼうを用いて製造した実施例6の加工立川ごぼうと、の各100g中に含まれるスクロース、フルクトース、及びグルコースの質量(g)量を示す。
通常、でんぷんをアミラーゼで加水分解するとマルトース(麦芽糖)を生成するが、表2に示すように、実施例6の加工立川ごぼうは、予想外にも、天然の糖の中で最も甘さの強いフルクトース(果糖)を42.6g/100gも大量に含んでいるという優れた特徴を有する。
【0053】
【表2】
【0054】
[オタネニンジンの実施例]
更に、本発明の原料に用いる根菜の好ましい実施例として、オタネニンジン(高麗人参)を挙げることができる。オタネニンジンは、ウコギ科の植物であってウド、タラノキの仲間であり、その根を薬草として用いる根菜であって、薬効成分としてジンセノサイドと呼ばれる複数のサポニン群が含まれている。オタネニンジンは、ストレスによる胃腸虚弱や食欲不振、嘔吐、下痢、病後の回復期及び疲労回復のための滋養強壮、抗がん作用、並びにその他多様な効能があるとされている。
【0055】
<実施例7>
オタネニンジン10Kgを水で洗浄し、表面の水分を取り除き、1以上の合成高分子樹脂製の透明な袋に収容し、それぞれの袋の内部に残存する空気の体積がオタネニンジンの体積の1/2以下になるように充填し、各袋を密閉し、更にそれぞれの袋に別の袋をかぶせて袋を二重にして密閉し、オタネニンジンを充填した袋を、内温を77℃に設定した恒温器に入れて加温した。外観を観察しながら14日間放置し、オタネニンジンの表面が黒く着色した時点で袋を開封した。開封した袋を、内温を70℃に設定した恒温乾燥器に入れて1日間加温して乾燥することにより実施例7の、2.74Kgの加工オタネニンジンを得た。
【0056】
原料オタネニンジン及び加工オタネニンジンのジンセノサイドRb1、Rg1、及びRg3の定量を行い、その結果を表3に示す。
表3に示すように、オタネニンジンを本発明の方法で加温処理することによって、生のオタネニンジンに含まれていたジンセノサイドRb1及びRg1が消失し、活性の高いジンセノサイドRg3が100gのオタネニンジンから41.3mg生成するという優れた効果があった。
ジンセノサイドはポリフェノールではないので、実施例7は、ポリフェノールオキシダーゼの活性阻害以外の反応機構が関与したものと推察される。
【0057】
<比較例3>
実施例7と同じ条件で、但し、洗浄後のオタネニンジンを入れた合成高分子樹脂製の袋の口を開けたままで内温を77℃に設定した恒温器に14日間入れた。特許文献3には、ジンセノサイドRb1がジンセノサイドRg3へ変換することが記載されているが、比較例3の条件では、ジンセノサイドRb1からジンセノサイドRg3への変換は起こらなかった。
実施例7及び比較例3の結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
ジンセノサイドRg3(符号4)は、オタネニンジンの主要薬効成分の一つであり、[化2]に示す構造を有する。
【化2】
【0060】
ジンセノサイドRg3は、生のオタネニンジンには含有量が極めて少なく、オタネニンジンに熱処理を繰り返して得られる最高級の黒参に含まれるマイナージンセノサイドであるが、メジャージンセノサイドであるジンセノサイドRb1、Rb2、及びRcを加熱処理することや発酵させることによって増加することが報告されている(例えば特許文献3を参照)。また、ジンセノサイドRg3は、人体に吸収性がよく、極めて高い薬効性を持つことが報告されている。
【0061】
ジンセノサイドRg3には、以下のような多様な効果が報告されている。
・ヒトメガロウイルス感染症の治療に用いることができる(例えば特許文献4を参照)。
・ジンセノサイドRb1及びRg3との組み合わせで不定愁訴を改善できる(例えば特許文献3を参照)。
・細胞転移抑制作用がある。
・サイクリンキナーゼインヒビターを活性化し、ヒト前立腺がん由来の細胞の増殖を阻害する。
・マウスにおいて正常細胞からがん細胞への転移(例えばB16−B16メラノーマ転移)を阻害する。
【0062】
[サツマイモの実施例]
本発明の原料に用いる根菜の好ましい実施例として、サツマイモを挙げることができる。
サツマイモは、ヒルガオ科サツマイモ属植物の根であって、栄養を蓄えて肥大した根の
部分(塊根)を食用にする。サツマイモは、生芋の質量100gあたり炭水化物31.5g、たんぱく質1.2g、及び水分66.1gを含み、また、ビタミンCや植物繊維を多く含み、更に、ポリフェノールとして平均228mg/100gというコーヒー1杯分に相当する多量のクロルゲン酸を含む。
【0063】
<実施例8>
市販のサツマイモ8Kgの皮を剥かずに流水で洗浄後水分をきり、1以上の透明な合成高分子樹脂製袋に入れ、それぞれの袋の内部に残存する空気の体積がサツマイモの体積の1/2以下になるように充填し、各袋を密閉し、更にそれぞれの袋に別の袋をかぶせて密閉して袋を二重にし、サツマイモを充填した袋を、内温を77℃に設定した恒温器に入れ、外観を観察しながら7日間放置した。7日後にサツマイモが変色し形状が崩れたので、サツマイモを収容していた袋を開封し、内温を77℃に設定した恒温乾燥器に入れ1日間加温して乾燥して実施例8の、3.8Kgの加工サツマイモを得た。
【0064】
<比較例4>
実施例8と同様に、但し、洗浄後のサツマイモを入れた合成高分子樹脂製の袋の口を開けたままで内温を77℃に設定した恒温器に7日間放置した。
【0065】
実施例8で得た加工サツマイモは、柔らかくそのまま食すことができ、しかも雑味がなく甘くて食べやすく、クロルゲン酸を含むという新規な食材を提供する。加熱せずにそのまま、又は加熱して多方面の料理に利用することができる。
一方、比較例4で得た加工サツマイモは、変色がなく、水分が抜けて固くなり食すことができなかった。
【0066】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【要約】
【課題】60℃〜80℃の温度範囲で酸素の供給が制限された状態で根菜を加温処理し、食味を改善し又は機能性成分を増強させた加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の加工食品の製造方法は、根菜の表面を整えて洗浄する洗浄工程と、洗浄後の根菜を気密性の容器の内部に投入し、前記容器内の空気が前記根菜の体積の1/2以下となるように充填した後、前記容器を密閉する密閉工程と、密閉状態の容器を60〜80℃の加温雰囲気内に入れて加温する加温工程と、加温後の根菜を乾燥する乾燥工程と、を備えていることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1