【実施例】
【0030】
<熱可塑性ポリエステル樹脂の物性測定>
本実施例において、熱可塑性ポリエステル樹脂として、非晶性ポリエステル樹脂であるUE−9800(ユニチカ株式会社社製)を用い、結晶性ポリエステルであるGA−6400(東洋紡株式会社製)、UE−3800(ユニチカ株式会社製)、およびGM−380(東洋紡株式会社製)を用いた。これらの熱可塑性ポリエステルの物性を以下の方法で測定した。
【0031】
(数平均分子量Mn)
上記熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量MnをGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。結果を表1にまとめた。
【0032】
(DSC曲線)
上記熱可塑性ポリエステル樹脂の物性をDSC(示差走査熱量分析)により測定した。DSCにおける装置、測定セル、試料量、および測定条件は、以下のとおり
DSC装置:セイコーインスツル株式会社製EXSTAR−DSC6100
測定セル:アルミニウム製オープン型試料容器
試料量:5.0±0.3mg
測定条件:窒素ガス通気下(50mL(ミリリットル)/min)において、1)まず、200℃まで昇温(1回目の昇温)、2)次いで、−70℃まで10℃/minで降温、3)次いで、200℃まで10℃/minで昇温(2回目の昇温)したときのDSC曲線から測定値を読み取った。
図1〜4に、UE−9800、GA−6400、UE−3800、およびGM−380のぞれぞれのDSCにより得られたDSC曲線を示した。
【0033】
図1を参照して、UE−9800のDSC曲線には結晶化発熱ピークおよび融解吸熱ピークが現れなかったことから、UE−9800は非晶性ポリエステル樹脂であることが確認できた。また、
図2〜4を参照して、GA−6400、UE−3800、およびGM−380のDSC曲線には結晶化発熱ピークおよび融解吸熱ピークが現れたことから、GA−6400、UE−3800、およびGM−380は結晶性ポリエステル樹脂であることが確認できた。
【0034】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度Tg(℃)は、上記DSC曲線において、JIS K7121:2012の9.3(1)中間点ガラス転移温度に基づいて算出した。結果を表1にまとめた。
【0035】
(結晶化温度)
結晶化温度Tc(℃)は、上記DSC曲線において、結晶化を示す発熱ピークの頂点の温度を読み取った。結果を表1にまとめた。
【0036】
(結晶化における発熱エネルギー)
結晶化における発熱エネルギーEc(mJ/mg)は、上記DSC曲線において、結晶化を示す発熱ピークのピーク面積から得られる発熱量(mJ)を試料量(mg)で除することにより算出した。結果を表1にまとめた。
【0037】
(融解温度)
融解温度Tm(融点)は、融解を示す吸熱ピークの頂点の温度を読み取った。結果を表1にまとめた。
【0038】
(融解における吸熱エネルギー)
融解における吸熱エネルギーEm(mJ/mg)は、上記DSC曲線において、融解を示す吸熱ピークのピーク面積から得られる吸熱量(mJ)を試料量(mg)で除することにより算出した。結果を表1にまとめた。
【0039】
(比Ec/Em)
比Ec/Emは、上記において算出された結晶化における発熱エネルギーEc(mJ/mg)を、上記において算出された融解における吸熱エネルギーEm(mJ/mg)で除することにより算出した。結果を表1にまとめた。
【0040】
【表1】
【0041】
<熱可塑性ポリエステル樹脂の溶液または分散液の製造>
[非晶性ポリエステル樹脂の溶液の製造]
1L(リットル)の5つ口のフラスコに、撹拌機、コンデンサー、温度計、温度調節器をセットし、UE−9800(ユニチカ株式会社)200g、メチルエチルケトン150g、および酢酸エチル150gを仕込み、撹拌しながら、70℃まで昇温し、2時間後、室温(25℃)まで冷やすことにより、固形分40質量%の少し茶色がかった透明なUE−9800溶液を得た。
【0042】
[結晶性ポリエステル樹脂の分散液の製造]
1L(リットル)の5つ口のフラスコに、撹拌機、コンデンサー、温度計、温度調節器をセットし、GA−6400(東洋紡株式会社製)40g、メチルエチルケトン46.6g、トルエン46.6g、および酢酸エチル66.6gを仕込み、撹拌しながら、80℃まで昇温し、2時間後、冷やした。その後、70℃まで冷やしてさらに酢酸エチル244gを入れ、40℃まで冷やした後、900mL(ミリリットル)のマヨネーズ瓶に入れて、24時間室温(25℃)で静置した。24時間後に内容物が半固形状になった。次いで、上記マヨネーズ瓶にビーズ径2mmのソーダガラスビーズ300gを入れて、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)を用いて、4時間振動させることにより、固形分9質量%の少し黄色がかった半透明のGA−6400分散液を得た。また、GA−6400に代えて、UE−3800(ユニチカ株式会社製)またはGM−380(東洋紡株式会社製)を用いて、上記と同様の製造工程で、それぞれ固形分9質量%の半透明のUE−3800分散液および固形分9質量%の半透明のGM−380分散液を得た。
【0043】
(結晶性ポリエステル樹脂分散液の粒度分布の測定)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂分散液中の結晶性ポリエステル樹脂の粒度分布を、レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD2300(株式会社島津製作所製)を用いて測定したところ、GA−6400分散液中のGA−6400のメジアン粒径D
50は40μmであり、UE−3800分散液中のUE−3800のメジアン粒径D
50は3μmであり、GM−380分散液中のGM−380のメジアン粒径D
50は16μmであった。
【0044】
[紙用コート剤の製造]
比較例1の紙用コート剤として、上記UE−9800溶液に質量比が1:1のメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの混合溶媒を添加してUE−9800固形分20質量%溶液を製造した。比較例2〜4の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液、UE−3800分散液、およびGM−380分散液をそれぞれ準備した。比較例PEにおいては、紙用コート剤に代えて膜厚30μmのポリエチレンフィルムを準備した。
【0045】
実施例1の紙用コート剤として、上記UE−9800溶液5.0gおよび上記GA−6400分散液87.3gに質量比が1:1のメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの混合溶媒を添加して固形分10質量%(このうちUE−9800/GA−6400の質量比が2/8)のUE−9800/GA−6400分散液を製造した。実施例2の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記UE−3800分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、固形分10質量%(このうちUE−9800/UE−3800の質量比が2/8)のUE−9800/UE−3800分散液を製造した。実施例3の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記GM−380分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、固形分10質量%(このうちUE−9800/GM−380の質量比が2/8)のUE−9800/GM−380分散液を製造した。
【0046】
実施例4の紙用コート剤として、上記UE−9800溶液12.4gおよび上記GA−6400分散液54.6gに質量比が1:1のメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの混合溶媒を添加して固形分14質量%(このうちUE−9800/GA−6400の質量比が5/5)のUE−9800/GA−6400分散液を製造した。実施例5の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記UE−3800分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、固形分14質量%(このうちUE−9800/UE−3800の質量比が5/5)のUE−9800/UE−3800分散液を製造した。実施例6の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記GM−380分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、固形分14質量%(このうちUE−9800/GM−380の質量比が5/5)のUE−9800/GM−380分散液を製造した。
【0047】
実施例7、13、16、19、および22の紙用コート剤として、上記UE−9800溶液20.0gおよび上記GA−6400分散液21.9gに質量比が1:1のメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの混合溶媒を添加して固形分20質量%(このうちUE−9800/GA−6400の質量比が8/2)のUE−9800/GA−6400分散液を製造した。実施例8、14、17、20、および23の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記UE−3800分散液を用いたこと以外は実施例7と同様にして、固形分20質量%(このうちUE−9800/UE−3800の質量比が8/2)のUE−9800/UE−3800分散液を製造した。実施例9、15、18、21、および24の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記GM−380分散液を用いたこと以外は実施例7と同様にして、固形分20質量%(このうちUE−9800/GM−380の質量比が8/2)のUE−9800/GM−380分散液を製造した。
【0048】
実施例10の紙用コート剤として、上記UE−9800溶液20.0gおよび上記GA−6400分散液9.8gに質量比が1:1のメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの混合溶媒を添加して固形分20質量%(このうちUE−9800/GA−6400の質量比が9/1)のUE−9800/GA−6400分散液を製造した。実施例11の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記UE−3800分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、固形分20質量%(このうちUE−9800/UE−3800の質量比が9/1)のUE−9800/UE−3800分散液を製造した。実施例12の紙用コート剤として、上記GA−6400分散液に代えて上記GM−380分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、固形分20質量%(このうちUE−9800/GM−380の質量比が9/1)のUE−9800/GM−380分散液を製造した。
【0049】
[紙基材への紙用コート剤のコーティング]
(紙用コート剤の塗布)
紙基材として紙コップ原紙PIN220(日本製紙株式会社製、坪量220g/m
2)を準備した。比較例1〜4、実施例1〜12および19〜24においては、上記紙基材の表面に、各紙用コート剤をバーコーター#6を用いて4回塗布した。実施例13〜15においては、上記紙基材の表面に、各紙用コート剤をバーコーター#6を用いて2回塗布した。実施例16〜18においては、上記紙基材の1つの表面に、各紙用コート剤をバーコーター#14を用いて4回塗布した。
【0050】
(紙用コート剤の乾燥)
紙基材の表面に塗布された各紙用コート剤を以下の乾燥条件で乾燥させることにより、紙基材の少なくとも1つの表面に紙用コート剤がコーティングされたコート紙を得た。乾燥条件は、比較例1〜4および実施例1〜18においては100℃×5秒間、実施例19〜21においては80℃×5秒間、実施例22〜24においては120℃×5秒間とした。
【0051】
(紙用コート剤の乾燥後の膜厚)
コート紙の紙基材の表面上に塗布および乾燥された紙用コート剤(以下、コーティング後の紙用コート剤)の膜厚は、所定面積の紙基材のコーティング前後の質量を測定したところ、比較例1〜4、実施例1〜12および19〜24については10g/m
2(8μmに相当)であり、実施例13〜15については5g/m
2(4μmに相当)であり、実施例16〜18については20g/m
2(16μmに相当)であった。
【0052】
[紙基材へのポリエチレンフィルムのラミネート]
比較例PEにおいては、ドライフィルムラミネーターML−600D/JK(株式会社エム・シー・ケー製)を用いて、上記紙基材に上記で準備した膜厚30μmのポリエチレンフィルムをラミネートすることにより、紙基材の表面上にコート紙を得た。
【0053】
[コート紙の物性評価]
上記のようにして比較例1〜4および比較例RE、ならびに実施例1〜24において得られたコート紙の諸物性を以下の項目、方法、および基準により評価した。
【0054】
(表面状態)
コート紙の紙用コート剤コーティング側の表面状態を、ルーペを用いた目視により評価した。表面状態の評価基準は、表面に粒子がなく平滑なものをA、表面にわずかに粒子が存在するものをB、表面に多くの粒子が存在するものをCとした。結果を表2〜4にまとめた。
【0055】
(耐水性)
コート紙の紙用コート剤コーティング側の耐水性を、JIS P8140:1988に準拠してCobb法により評価した。具体的には、コート紙をその紙用コート剤コーティング側が金属シリンジの内側に向くように金属シリンジに挟み、金属シリンジ内に水100mL(ミリリットル)を入れ、30分後に水を取り除き紙用コート剤コーティング側の表面の水滴を拭き取り、水接触前後のコート紙の質量から以下の式(1)
A=(m
2−m
1)F ・・・(1)
式(1)において、A:吸水度(Cobb値)(g/m
2)
m
1:コート紙試験片の水接触前質量(g)
m
2:コート紙試験片の水接触後質量(g)
F:10000/S
S:試験(水接触)面積(cm
2)
により吸水度を算出した。耐水性の評価基準は、吸水度が1.0g/m
2以下のものをA、吸水度が1.0g/m
2より大きく5.0g/m
2以下のものをB、吸水度が5.0g/m
2より大きいものをCとした。結果を表2〜4にまとめた。
【0056】
(ヒートシール性)
2つのコート紙の紙用コート剤コーティング側を互いに向かい合わせて、熱傾斜試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、140℃および4kgf/cm
2で4秒間の条件でヒートシール後、剥離して剥離面を評価した。ヒートシール性の評価基準は、剥離面が紙層破壊であるものをA、剥離面が紙用コート剤層破壊であるものをB、ヒートシールできなかったものをCとした。結果を表2〜4にまとめた。
【0057】
(リサイクル性)
比較例1〜4および実施例1〜24におけるリサイクル性評価のための青紫色コート紙は、紙基材として18cm×12cmの大きさに切り出したコピー用紙(PPC(普通紙複写機)用紙、TANOSEE αエコペーパー タイプDII)を用いたこと、紙用コート剤として青紫色塗料で着色した青紫色コート剤(着色前のコート剤の固形分に対してBasic Violet固形分1質量%)を用いたこと、紙用コート剤の乾燥後の膜厚が10g/m
2となるように塗布したこと以外は、上記と同様にして製造した。また、比較例PEにおけるリサイクル性評価のための青紫色コート紙は、紙基材として18cm×12cmの大きさに切り出したコピー用紙(PPC(普通紙複写機)用紙、TANOSEE αエコペーパー タイプDII)を用いたこと、ポリエチレンフィルムとしてあらかじめ青紫色塗料で着色した膜厚30μmの青紫色ポリエチレンフィルムを用いたこと以外は、上記と同様にして製造した。
【0058】
次に、上記の青紫色コート紙を5mm角に切り、1質量%水酸化ナトリウム水溶液40gを加えて、30分間ディスパーで撹拌した。撹拌物を濾過して、残渣(濾物)を洗浄した。洗浄後の残渣を絞って水気をとって乾燥させた。乾燥させた残渣の青紫色の着色の均一性を評価した。着色が均一なほどリサイクル性が高い。リサイクル性の評価基準は、乾燥させた残渣の着色が均一なものをA、乾燥させた残渣の一部のみが不均一ものをB、乾燥させた残渣の全部が不均一なものをCとした。結果を表2〜4にまとめた。
【0059】
(総合評価)
上記の表面状態、耐水性、ヒートシール性、およびリサイクル性の総合評価を以下の評価基準に基づいて行った。総合評価の評価基準は、すべての項目の評価がAであったものをA(優)とし、1つの項目の評価がBでそれ以外の項目の評価がAであったものをB(良)とし、2つ以上の項目の評価がBおよび/または1つ以上の項目の評価がCであったものをC(不良)とした。結果を表2〜4にまとめた。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
表2〜4を参照して、熱可塑性ポリエステル樹脂と溶剤とを含み、熱可塑性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含み、結晶性ポリエステル樹脂の質量Cに対する非晶性ポリエステル樹脂の質量Nの比N/Cが2/8から9/1の範囲にある紙用コート剤が表面にコーティングされたコート紙は、表面状態、耐水性、ヒートシール性、およびリサイクル性がいずれも良好であった。
【0064】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。