(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁場特定部は、前記磁性体の配置情報と、前記磁力強度情報とに基づいて、前記ターゲットに平行な方向の磁力成分を特定し、当該磁力成分に基づいて移動する電子の速度が所定値以上となる磁場の分布を特定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩耗予測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のシミュレーション装置では、複数の電子の軌道のベクトル演算や、不活性ガスイオンの発生位置の算出など、複雑かつ計算量の多い演算を行うことになり、シミュレーション装置に重い処理負荷がかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて成されたものであり
、ターゲットの摩耗度合をなるべく正確に予測することができる摩耗予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩耗予測装置は、基板上に成膜する素材である平板状のターゲットと、ターゲットの裏面に配され、ターゲット側に正極を対向させた磁性体及び負極を対向させた磁性体をそれぞれ複数配したマグネットユニットと、を備え、ターゲットに対向させて配置する基板と、ターゲットとの間に電圧を印加して、ターゲットの成分を基板に成膜するマグネトロンスパッタ装置におけるターゲットの摩耗予測装置であって、少なくとも複数の磁性体各々の配置位置を示す配置情報と、各磁性体の磁力強度を示す磁力強度情報と、を受け付ける受付部と、受付部が受け付けた磁性体の配置情報と、各磁性体の磁力強度情報とに基づいて、マグネットユニットが発生する磁場の分布を特定する磁場特定部と、磁場特定部が特定した磁場の分布に基づいて、ターゲットの摩耗度合を予測する摩耗予測部とを備える。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩耗予測方法は、基板上に成膜する素材である平板状のターゲットと、ターゲットの裏面に配され、ターゲット側に正極を対向させた磁性体及び負極を対向させた磁性体をそれぞれ複数配したマグネットユニットと、を備え、ターゲットに対向させて配置する基板と、ターゲットとの間に電圧を印加して、ターゲットの成分を基板に成膜するマグネトロンスパッタ装置におけるターゲットの摩耗度合を予測する摩耗予測方法であって、少なくとも複数の磁性体各々の配置位置を示す配置情報と、各磁性体の磁力強度を示す磁力強度情報と、を受け付ける受付ステップと、受付ステップが受け付けた磁性体の配置情報と、各磁性体の磁力強度情報とに基づいて、マグネットユニットが発生する磁場の分布を特定する磁場特定ステップと、磁場特定ステップが特定した磁場の分布に基づいて、ターゲットの摩耗度合を予測する摩耗予測ステップとを含む。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩耗予測プログラムは、基板上に成膜する素材である平板状のターゲットと、ターゲットの裏面に配され、ターゲット側に正極を対向させた磁性体及び負極を対向させた磁性体をそれぞれ複数配したマグネットユニットと、を備え、ターゲットに対向させて配置する基板と、ターゲットとの間に電圧を印加して、ターゲットの成分を基板に成膜するマグネトロンスパッタ装置におけるターゲットの摩耗度合を予測する摩耗予測プログラムであって、コンピュータに、少なくとも複数の磁性体各々の配置位置を示す配置情報と、各磁性体の磁力強度を示す磁力強度情報と、を受け付ける受付機能と、受付機能が受け付けた磁性体の配置情報と、各磁性体の磁力強度情報とに基づいて、マグネットユニットが発生する磁場の分布を特定する磁場特定機能と、磁場特定機能が特定した磁場の分布に基づいて、ターゲットの摩耗度合を予測する摩耗予測機能とを実現させる。
【0010】
上記摩耗予測装置において、受付部は、さらに、電圧の電圧値情報を受け付け、摩耗予測部は、さらに、電圧値情報を加味してターゲットの摩耗度合を予測することとしてもよい。
【0011】
上記摩耗予測装置において、マグネットユニットは、所定の軸を中心として回動するように構成されており、マグネトロンスパッタ装置は、マグネットユニットを回動させて成膜を行うものであり、摩耗予測部は、磁場の分布を所定の軸を中心に回転させて面積分した結果に基づいて、ターゲットの摩耗度合を予測することとしてもよい。
【0012】
上記摩耗予測装置において、磁場特定部は、磁性体の配置情報と、磁力強度情報とに基づいて、ターゲットに平行な方向の磁力成分を特定し、当該磁力成分に基づいて移動する電子の速度が所定値以上となる磁場の分布を特定することとしてもよい。
【0013】
上記摩耗予測装置において、マグネトロンスパッタ装置は、少なくとも基板を載置するステージと、ターゲットとを内部に含み、ターゲットと基板との間に不活性ガスを充てんするためのチャンバーを備え、マグネトロンスパッタ装置は、不活性ガスの成分に磁場が形成する磁場により移動する電子を衝突させて生成される当該不活性ガスに基づくイオン分子をターゲットに衝突させることで、ターゲットのイオン分子を基板上に成膜するものであり、速度は、不活性ガスを構成する成分のイオン化エネルギーに基づいて算出されることとしてもよい。
【0014】
上記摩耗予測装置において、マグネトロンスパッタ装置は、ターゲットの成分を基板上に成膜する際に、ターゲットの成分がチャンバーに付着するのを防止する防着板を備え、防着板は、ステージと連結して電圧を印加するための正極となり、ターゲットは、電圧を印加するための負極となり、受付部は、さらに、防着板とステージとが成す形状を示す形状情報を受け付け、摩耗予測装置は、さらに、形状情報に基づいて、電圧が印加されたときの電場の分布を特定する電場特定部と、特定した電場に基づいて、摩耗予測部が予測した摩耗度合を補正する補正部とを備えることとしてもよい。
【0015】
上記摩耗予測装置において、摩耗予測装置は、さらに、補正後のターゲットの摩耗度合に基づいて、基板上に成膜される薄膜の膜厚を予測する膜厚予測部を備えることとしてもよい。
【0016】
上記摩耗予測装置において、摩耗予測装置は、さらに、膜厚予測部が予測した膜厚を示す膜厚情報を出力する第1出力部を備えることとしてもよい。
【0017】
上記摩耗予測装置において、摩耗予測装置は、さらに、摩耗予測部が予測した摩耗度合を示す摩耗度情報を出力する第2出力部を備えることとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係る摩耗予測装置は、マグネトロンスパッタ装置に発生する磁界に関する情報に基づいてターゲットの摩耗度合を予測する。したがって、上記摩耗予測装置等は、電子の速度やイオン分布等に関する演算を行わないので
、ターゲットの摩耗度合を予測することができ、装置の処理負担を軽減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施態様に係る摩耗予測装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
<実施の形態>
<構成>
本実施の形態に係る摩耗予測装置は、マグネトロンスパッタリングによりスパッタリングを行うマグネトロンスパッタ装置において、基板上に成膜する対象であるターゲットの摩耗度合を予測するとともに、基板上に成膜された薄膜の膜厚を予測する。まず、摩耗予測装置が予測するターゲットを取り付けるマグネトロンスパッタ装置について説明する。
【0022】
図1は、マグネトロンスパッタ装置100の構成を示す断面図である。本実施の形態に係る摩耗予測装置500は、
図1に示すマグネトロンスパッタ装置100に備えられたターゲット131の摩耗度合を予測するとともに、基板132に成膜される薄膜の膜厚を予測する。
【0023】
図1に示すようにマグネトロンスパッタ装置100は、マグネットユニット110と、ターゲット取付部120と、ターゲット131と、基板132と、ステージ140と、チャンバー150と、防着板160aと、防着板160bとを備える。
【0024】
図1に示すように、ターゲット131と、基板132と、ステージ140と、防着板160a、160bとは、チャンバー150内に設けられる。図示していないがチャンバー150は、開閉自在に構成されており、チャンバー150を開けた状態で、ターゲット131が固定されたターゲット取付部120を取り付けたり、基板132をステージ140上に載置することができる。
【0025】
マグネットユニット110は、ターゲット131に対して、N極を対向させた磁性体112a、112dと、S極を対向させた磁性体112b、112cとを内部に含み、軸111を中心として回転する円盤状のユニットである。なお、以降、本実施の形態において磁性体を総称する場合は、磁性体112と記載する。また、磁性体112としては、ここでは、磁石を用いることとするが、磁場を発生するものであれば、磁石以外のもの(例えば、コイル)を用いることとしてもよい。
図2は、マグネットユニット110をターゲット取付部120側から見た場合の平面図であり、
図3は、マグネットユニット110をターゲット取付部120側から見た場合の斜視図である。
図1に示す断面図は、
図2におけるA−A´線でマグネトロンスパッタ装置を切断した場合の断面図である。マグネットユニット110においては、各磁性体112は、マグネトロンスパッタリングにより、基板132に成膜される薄膜の面内均一性がなるべく低くなるように、即ち、薄膜の膜厚がなるべく均一になるように、配されている。面内均一性とは、基板132上に成膜された薄膜の最も膜厚が厚い箇所の膜厚から最も膜厚が薄い箇所の膜厚を引いた長さを、平均膜厚の2倍で除した値のことである。
図2、
図3に示す磁性体112のマグネットユニット110における配置は、近年のマグネトロンスパッタリングにおいて用いられる配置である。マグネットユニット110は、ターゲット取付部120に、間に数ミリ程度の間隙を空けて接するように構成されるが、接着はされない。また、
図2、
図3における矢印200は、マグネットユニット110が発生する磁界により補足された電子の動きを示している。
図2、
図3に示すように、電源130からの電圧が印加されることにより発生する電子は、N極がターゲット131側に向けられた磁性体112と、S極がターゲット131側に向けられた磁性体112との間を、交互に移動する。
【0026】
図1に戻って、ターゲット取付部120は、ターゲット131を取り付けるための部材であり、導電性の素材からなる。
【0027】
ターゲット131は、基板132上に薄膜を形成する材料である。ターゲット131には、例えば、アルミニウム、チタン、ニッケル、金など基板132上に成膜したい各種の金属を用いることができる。ターゲット131は、成膜前にターゲット取付部120に取り付けられる。ターゲット131は、成膜後にはターゲット取付部120から取り外すことができる。
【0028】
基板132は、ターゲット131を成分とする薄膜が形成される対象である。基板132は、成膜前にステージ140上に載置され、成膜後にステージ140から取り外される。
【0029】
ステージ140は、基板132を載置するための装置である。
【0030】
チャンバー150は、不活性ガスを注入するための注入孔を有し、不活性ガス注入器180と接続される。ここで、不活性ガス注入器180は、不活性ガスをチャンバー150に注入する機器であり、チャンバー150と着脱自在に接続される。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンを用いる。不活性ガスは、真空装置190により、チャンバー150内が真空状態になってから注入される。
【0031】
また、チャンバー150は、内部の空気を排出する排出孔を有し、内部の空気を吸収して、真空状態にするための真空装置190と接続される。ここで、真空装置190は、チャンバー150内の空気を吸出して、チャンバー150内部を真空状態にすることができる。
【0032】
防着板160a、160bは、円筒状の導電性の板であり、ターゲットから飛散するターゲット原子が、チャンバー150内に付着するのを防止するために設けられている。
【0033】
ターゲット取付部120とステージ140とには、電源130が接続される。ターゲット取付部120には電源130の負極側が、ステージ140には電源130の正極側が接続される。したがって、ターゲット取付部120とターゲット131とで負極となり、ステージ140と基板132とで正極となって、ターゲット131と基板132との間に電圧が印加される。
図1においては、負極として作用する場所を点線171で、正極として作用する場所を点線170で示している。電源130は、ターゲット取付部120とステージ140との間に電圧を印加する。なお、ここで、ターゲット取付部120とステージ140各々が電極として作用してもよいし、それぞれの表面に電極を設けて電圧を印加する構成としてもよい。
【0034】
マグネトロンスパッタ装置100においては、真空装置190がチャンバー150内を真空状態にした後に、不活性ガス注入器180からアルゴンガスがチャンバー150内に注入される。チャンバー150内がアルゴンガスで充填されると、電源130からターゲット131と基板132との間に電圧が印加されるとともに、マグネットユニット110が軸111を中心として、モーター(図示せず)の駆動により回転する。
【0035】
ここで、マグネトロンスパッタ装置100におけるマグネトロンスパッタリングの原理について簡単に説明する。
図4(a)〜(f)は、マグネトロンスパッタ装置100におけるマグネトロンスパッタリングの概念を説明するための概念図である。ここでは、一例として、チャンバー150内に封入される不活性ガスをアルゴンガスとし、ターゲット131はニッケルであるとする。
【0036】
図4(a)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100に電源130から電圧が印加されると、ターゲット131と基板132との間に矢印401に示されるように電界が発生する。矢印401は、電子が運動する方向を示している。また、磁性体112により、
図4(a)の矢印402に示されるように磁界が発生する。
【0037】
ターゲット131と基板132との間に発生した電界中の電子411は、
図4(b)に示すように、磁性体112により発生する磁界に補足される。上述の通り、チャンバー150内にはアルゴンガスが充填されており、補足された電子411は、
図4(c)に示すように、チャンバー150内に充填されたアルゴンガスに基づくアルゴン分子431と衝突する。この衝突によって、アルゴン分子431は、アルゴンイオン432と電子433とに分離する。
【0038】
分離して発生したアルゴンイオン432は、正の極性を有するため、
図4(d)に示すように、負極側、即ち、ターゲット131側に引き寄せられる。その結果、アルゴンイオン432は、ターゲット131と衝突する。
図4(e)に示すように、ターゲット131と衝突したアルゴンイオン432は、ターゲット131内に埋没するか、電子を受け取りアルゴン分子となる。その一方で、ターゲット131に対するアルゴンイオン432の衝突により、ターゲット原子、即ち、ニッケル原子435が放出される。放出されたニッケル原子435は、
図4(f)に示すように基板132上に付着する。このようにして、基板132上にターゲット131の成分が成膜される。
【0039】
本実施の形態に係る摩耗予測装置500は、
図1に示すようなマグネトロンスパッタ装置100においてマグネトロンスパッタリングを実行したと想定した場合にターゲット131が摩耗する度合を予測する。そして、摩耗予測装置500は、更に、予測したターゲット131の摩耗度合から、基板132上に成膜された薄膜の膜厚を予測する。以下、摩耗予測装置500について詳細に説明する。
【0040】
図5は、摩耗予測装置500の機能構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、摩耗予測装置500は、通信部501と、記憶部502と、制御部503とを備える。
【0041】
通信部501は、外部の装置と通信を実行する機能を有する。通信部501は、少なくともマグネットユニット110の複数の磁性体各々の配置位置を示す配置情報と、各磁性体の磁力強度を示す磁力強度情報と、を受け付ける受付部として機能する。また、通信部501は、制御部503が予測したターゲット131の摩耗度合を示す摩耗度情報や、制御部503が予測した基板132に成膜された薄膜の膜厚を示す膜厚情報を出力する出力部として機能する。通信部501は、外部の装置と通信を実行できれば、その通信形態は、有線、無線を問うものではない。また、通信に用いる通信プロトコルとしても、外部の装置との通信ができるものあれば、通信規格を問うものではない。外部の装置としては、例えば、摩耗度情報や膜厚情報を表示するモニターや、それらの情報をプリントアウトするためのプリンター、摩耗予測装置500に情報を入力するためのマウスやキーボードなどの入力機器、配置情報や磁力強度情報を保持する記録媒体などが考えられる。
【0042】
通信部501は、外部の装置から配置情報や磁力強度情報を受け付けると、制御部503に伝達する。また、通信部501は、制御部503からの指示にしたがって、伝達された摩耗度情報や膜厚情報を外部の装置に送信する。
【0043】
記憶部502は、摩耗予測装置500が動作上必要とする各種プログラム及びデータを記憶する機能を有する記憶媒体である。記憶部502は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等、各種の記録媒体により実現できる。記憶部502は、マグネットユニット110に関する情報として、少なくとも、マグネットユニット110における複数の磁性体各々の配置位置を示す配置情報と、各磁性体の磁力強度を示す磁力強度情報とを記憶している。配置情報及び磁力強度情報は、通信部501を介して外部の装置から摩耗予測装置500が取得する情報である。また、記憶部502は、不活性ガスの種類ごとの、磁力密度と摩耗度合との関係を示す関係式を記憶している。当該関係式は、磁力密度を入力として摩耗度合を算出する式である。また、記憶部502は、膜厚を算出するための数式を、ターゲット131の蒸発分布モデルに応じて記憶する。ターゲット131の蒸発分布モデルは、予めターゲット131の種類と印加する電圧に応じたモデルが入力されたものが、記憶部502に記憶されている。また、記憶部502は、膜厚を算出するために用いるターゲット131の蒸発量に対する付着率と、ターゲット131と基板132との間の距離情報とを記憶している。
【0044】
制御部503は、摩耗予測装置500の各部を制御する機能を有するプロセッサである。制御部503は、磁性体の配置情報及び磁力強度情報とに基づいてマグネットユニット110から発生する磁界を特定する磁界特定部として機能する。また、制御部503は、ターゲット131の摩耗度合を予測する摩耗予測部として機能する。また、制御部503は、基板132に成膜された薄膜の膜厚を予測する膜厚予測部としても機能する。
【0045】
制御部503は、通信部501から配置情報や磁力強度情報を伝達されると、記憶部502に記憶する。制御部503は、記憶部502に記憶した配置情報や磁力強度情報に基づいて、マグネットユニット110から発生する磁界を特定する。ここで、「磁界を特定する」とは、マグネットユニット110に設けられた複数の磁性体112により形成される磁界の形状及び強度を特定することを意味し、特に、所定以上の磁力強度を有する範囲、言い換えれば、磁束密度の水平成分が所定値以上となる範囲を特定することを意味する。
【0046】
本実施の形態に係る制御部503は、配置情報と磁力強度情報とに基づいて特定される磁界分布と磁束密度に基づいて、ターゲット131の摩耗度を予測する。当該予測のために、予め磁束密度と、その磁束密度に対応する位置のターゲット131の摩耗度を測定し、磁束密度と摩耗度との関係を示す関係式を記憶部502に記憶しておく。そして、制御部503は、記憶部502に記憶した磁束密度と摩耗度との関係式に特定した磁束密度を入力することで、摩耗度を算出することができる。
【0047】
制御部503は、予測した摩耗度を摩耗度情報として、通信部501を介して外部の装置に出力する。ここで摩耗度情報は、ターゲット131のマグネトロンスパッタリングを行ったと仮定した場合の摩耗状態を特定できる情報であればよく、ターゲット131の各箇所における摩耗量を示すものであってもよいし、ターゲット131の中心(マグネットユニット110の中心)から、外周に向けて、中心からの距離に応じた摩耗度を算出するための関数であってもよい。あるいは、摩耗度情報は、摩耗度合を示す後述する摩耗度のグラフ(
図10の予測値参照)であってもよい。
【0048】
摩耗度と、磁界強度との関係式は、最も磁界強度の高い箇所に対応する箇所(すなわち、当該箇所からターゲット131におろした垂線の交点)のターゲット131の摩耗度合が最も高くなる箇所として特定し、そこから磁界強度に摩耗度が比例するように、各場所における摩耗度を算出できる式である。なお、本実施の形態に係るマグネトロンスパッタ装置100は、マグネットユニット110が回転するので、回転中心を通るある方向におけるターゲット131の摩耗度を示す関係式を算出し、それを上記回転中心を中心として周方向に面積分することによって、ターゲット131の全体における摩耗度を算出することができる。
【0049】
制御部503は、予測した摩耗度に基づいて、ターゲット131に対して成膜される薄膜の膜厚を予測する。制御部503は、ターゲット131における薄膜の膜厚を、所謂コサイン則を用いて、予測する。制御部503は、コサイン則に予測したターゲット131の摩耗度を適用して、基板132上に形成された薄膜の膜厚を予測する。コサイン則を用いた膜厚予測は広範に知られており、ターゲット131の蒸発分布に応じて、膜厚を予測する。
【0050】
制御部503は、ターゲット131の蒸発分布がSpherical(球状)である場合は、下記数式(1)から成膜される薄膜の膜厚tを予測する。
【0052】
制御部503は、ターゲット131の蒸発分布がcos
0.5θ分布に従う場合は、下記数式(2)から成膜される薄膜の膜厚tを予測する。本書面において、θは、蒸発源にたてた法線から基板132における膜厚予測点(
図6の付着点602参照)までの開き角を示す(
図6のθ参照)。
【0054】
制御部503は、ターゲット131の蒸発分布がcosθ分布に従う場合は、下記数式(3)から、成膜される薄膜の膜厚tを予測する。
【0056】
制御部503は、ターゲット131の蒸発分布がcos
2θ分布に従う場合は、下記数式(4)から、成膜される薄膜の膜厚tを予測する。
【0058】
制御部503は、ターゲット131の蒸発分布がcos
3θ分布に従う場合は、下記数式(5)から、成膜される薄膜の膜厚tを予測する。
【0060】
いずれのモデルを用いるかは、ターゲット131の蒸発分布モデルにしたがって最適なモデル(式)を決定する。上記各式(1)〜(5)において、Mは、ターゲット131のある箇所におけるスパッタ量(蒸発量)を示している。また、hは、ターゲット131と基板132との間の距離、即ち、蒸発源直上から基板132までの高さを示している。βは、ターゲット131のスパッタ量(蒸発量)に対してターゲット131の成分が基板132に付着する確率(付着率)を示している。ρは蒸発物の密度、より正確には蒸着膜の密度を示している。lは、ターゲット131からスパッタした箇所(蒸発源)から基板132に付着する箇所までの水平方向の距離を示している。
図6には、hとlとの関係を分かりやすくするための関係図を示しているので、そちらも参照されたい。
図6に示すように、衝突点(蒸発源)600において、不活性ガスイオンがターゲット131に衝突した際に矢印601で示す方向にターゲット131の原子が飛散し、付着点602に付着したとする。このときの、衝突点600から基板132におろした垂線の長さがhであり、当該垂線と基板132との交点から付着点602までの距離がlである。膜厚tは、付着点602における膜厚、即ち、開き角θの場合の膜厚を示している。
【0061】
制御部503は、ターゲット131の蒸着分布モデルに応じた数式(上記式(1)〜(5)のいずれか)を記憶部502から読み出して、予測したターゲット131の摩耗度から算出されるスパッタ量Mと蒸発密度ρから、基板132の各部における膜厚を算出する。制御部503は、算出した膜厚を膜厚情報として通信部501を介して、外部の装置に出力する。ここで、膜厚情報は、マグネトロンスパッタリングを行ったと仮定した場合の基板132に成膜されるはずの薄膜の膜厚を特定できる情報であればよく、基板132の各箇所における膜厚(積層方向の長さ)を示すものであってもよいし、基板132の中心(マグネットユニット110の中心に対応)から、外周に向けて、中心からの距離に応じた膜厚を算出するための関数であってもよい。あるいは、膜厚情報は、膜厚状態を示す後述する膜厚のグラフ(
図11の予測値参照)であってもよい。
【0062】
以上が摩耗予測装置500の構成である。
【0063】
<動作>
図7を用いて摩耗予測装置500の動作を説明する。ここでは、マグネトロンスパッタ装置100において用いるターゲット131及び基板132の種別の情報や、配置情報、磁力強度情報については、既に受信して、記憶部502に記憶している状態であるとして説明する。
【0064】
摩耗予測装置500の制御部503は、記憶部502から、配置情報及び磁力強度情報を取得する(ステップS701)。
【0065】
制御部503は、取得した配置情報で示される磁性体112の配置と、磁力強度情報で示される磁性体112の磁力強度とからマグネトロンスパッタ装置100において形成される磁束密度を算出する(ステップS702)。
【0066】
制御部503は、算出した磁界の形状と磁束密度に基づいて、記憶部502に記憶している関係式を用いて、ターゲット131の摩耗度を予測する(ステップS703)。
【0067】
制御部503は、予測したターゲット131の摩耗度に基づいて、マグネトロンスパッタ装置100でマグネトロンスパッタリングを適用するターゲット131の蒸発分布の仕方および蒸発量に対する付着率に基づいて、成膜される膜厚を予測する(ステップS704)。
【0068】
制御部503は、予測した摩耗度と、膜厚とを、通信部501を介して、外部の装置に出力して(ステップS705)、処理を終了する。
【0069】
以上が、摩耗予測装置500の動作である。
【0070】
<考察>
マグネトロンスパッタ装置のターゲットの摩耗度合の予測にあたっては、特許文献1にも示されるように、磁力を考慮する必要がある。しかしながら、上記特許文献1における予測手法では、電子の動きや、イオン分布等様々な要素を考慮に入れて膜厚を予測することになるため、その演算量が膨大になるという問題がある。そこで、発明者らは、マグネットユニット110の磁力だけからターゲット131の摩耗度を予測できれば、演算量を軽減できるのではないかとの発想に至った。
【0071】
マグネットユニット110における磁性体により発生する磁力線は、
図8(a)の矢印701〜706に示されるように形成されている。そこで、各磁性体から発生する磁力全てを考慮に入れて、ターゲット131の摩耗度の予測を行い、実際にマグネトロンスパッタリングを行って実測したところ、摩耗度の予測値と、実測値との間には、
図9に示されるように、予測の精度が甘いことを知見した。
図9は、横軸にターゲット131の半径をとり、縦軸に、ターゲット131の摩耗度をとったグラフである。すなわち、
図9に示すグラフにおいては、横軸は、左側がターゲットの中心、即ち、マグネットユニット110の中心(軸111)に対応する位置をとり、そこから、外周方向に広げたターゲットの位置を示している。また、縦軸のターゲット摩耗度は、最もターゲットの摩耗度合が高い箇所を1としたときの予測値及び実測値をプロットしている。
図9に示すように予測値と実測値で示されるターゲット摩耗度のグラフは、互いに乖離しており、予測値の精度が低いことが理解できる。そして、予測精度が低いため、
図10に示すように、膜厚予測においてもずれが発生した。
図10は、横軸に基板半径の距離を、縦軸に膜厚をとったグラフである。基板132の中心とは、マグネットユニット110の中心(軸111)に対応する箇所であり、基板132の半径は、マグネットユニット110の半径にも対応する。そこで、発明者らは、予測の精度を向上させる手法を模索した。
【0072】
ターゲット131と基板132との間に発生する電界中の電子は、上記
図2や
図3の矢印200で示すように、磁性体112に補足された磁界により移動する。そして、その電子が、チャンバー150内に注入される不活性ガスの分子と電離衝突した場合にのみアルゴンイオンとなり、そのアルゴンイオンがターゲット131と衝突することで、ターゲット131の分子が飛散して基板132上に成膜される。逆に、電子とアルゴン分子との単なる弾性衝突をするだけでは、アルゴンイオンが発生しない。したがって、電子は一定速度以上で、アルゴン分子と衝突する必要がある。電離衝突は、不活性ガスの第1イオン化エネルギーを超える場合に発生することが一般に知られている。例えば、不活性ガスがアルゴンの場合であれば、その第1イオン化エネルギーが15.8eVであるから、これを運動エネルギーの式(F=mv
2/2=15.8)にあてはめることで、電子の速度が、2.36×10
6m/s以上であれば、電離衝突が発生すると想定できる。
【0073】
ところで、
図2において、電子は、磁性体112に最も近づく箇所で、その速度が0に近くなり、N極をターゲット131側に向けた磁性体112とS極をターゲット131側に向けた磁性体112との中間地点で、その速度が最も速くなる。すなわち、電子の速度分布は、磁束密度の水平成分と密接に関連すると言える。したがって、磁束密度の水平成分が大きいほど、電子の速度が速くなると言えることから、磁束密度強度が所定以上高い領域においては、電離衝突が発生している確率が高いと推定できる。
【0074】
このことから、発明者らは磁束密度の水平成分が一定以上となる箇所を特定し、そこから、ターゲット131の摩耗度を予測することに想到した。すなわち、
図8(b)に示すように、磁性体112間に発生する矢印701、702で示されるような磁束密度の高い箇所の磁力線のみを考慮して予測を行うこととした。即ち、発明者らは磁性体112により発生する磁界の磁束密度が、不活性ガスの第1イオン化エネルギーを超える速度を電子に与える領域を特定し、その特定した領域から、ターゲット131の摩耗度を予測することで、
図11に示すように、摩耗度の予測の精度を向上させることができた。
図9と
図11とを比較すれば明らかなように、ターゲット131の摩耗度合の予測の精度を向上できている。また、当然のことながら、予測した摩耗度合に基づいて算出した基板132に成膜された薄膜の膜厚の予測値も、
図12に示すように、予測の精度を向上させることができた。
図10と
図12とを比較すれば明らかなように、基板132に成膜された薄膜の膜厚の予測の精度も向上できている。
【0075】
摩耗予測装置500の制御部503は、上記考察の上で、磁界強度に基づいて、ターゲット131の摩耗度合を予測し、膜厚を予測するという構成をとっている。
【0076】
<まとめ>
以上に説明したように、本実施の形態に係る摩耗予測装置500は、磁界の磁束密度成分が所定値以上(不活性ガスの第1イオン化エネルギーを超える速度を電子に与えることができる磁束密度以上)となる箇所を特定し、特定した箇所に基づいてマグネトロンスパッタ装置100に取り付けられたターゲット131の摩耗度を予測する。そして、摩耗予測装置500は、予測した摩耗度に基づいて、マグネトロンスパッタ装置100に載置された基板132に成膜された薄膜の膜厚を予測する。摩耗予測装置500は、電子の動きやイオンの分布等を考慮せず、マグネトロンスパッタ装置100に設けられた磁性体112の配置とその磁力強度、ターゲット131の素材、基板132の素材、電源130の電圧値だけで、ターゲット131の摩耗度を予測することができるので、摩耗予測のための演算処理を従来よりも軽減することができる。したがって、摩耗予測装置500は、基板に成膜する際の試験を行う工程における試作工程に係る時間を短縮することができる。
【0077】
<補足>
本実施の形態に係る摩耗予測装置500を実現するための手法は、上記実施の形態に示した態様に限定されるものではない。以下、各種の変形例について説明する。
【0078】
(1)上記実施の形態においては、マグネトロンスパッタ装置100において、マグネットユニット110を回転させる構成を示したが、マグネットユニット110は必ずしも回転させる必要はなく、円盤状に構成される必要もない。磁界が形成され、電子が移動し、不活性ガスの成分と衝突して、イオン分子が生成できるようになっていれば、マグネットユニット110は、その他の形状でもよく、例えば、矩形状に構成して、回転させないように構成してもよい。摩耗予測装置500は、磁界強度を特定できれば、マグネットユニットの形状に依らずに、ターゲット131の摩耗度合を予測することができる。
【0079】
(2)上記実施の形態においては、記載していないが、摩耗予測装置500は、更に、ステージ140とターゲット131との間に発生する電界の形状に基づく、ターゲット131の摩耗度の予測のずれを補正する補正手段を備えてもよい。すなわち、制御部503は、通信部501を介して、ステージ140とターゲット131との間に発生する電界の形状に関する情報の入力を受け付けて、その歪みに基づいて、ターゲットの摩耗が発生する箇所のずれを補正することとしてもよい。ここで、電界の形状とは、電子に作用する力の方向で示される形のことをいう。以下、具体的に説明する。
【0080】
まず、電界の形状を考慮しなかった場合に、ターゲットの摩耗度の予測値と、実測値との間では、
図13に示すように、ターゲットの摩耗度が最も高くなる箇所にずれがあることを発明者らは発見した。発明者らは、このずれの原因として、以下の理由があることに想到した。
【0081】
マグネトロンスパッタ装置100において、防着板160aは実際には電源130と接続しており(図示せず)、防着板160aも電極として作用する。そのため、ステージ140からターゲット131に向けて発生する電界は、その端部(防着板160aが防壁として機能する箇所)において、歪んで形成される。すなわち、
図14に示すように、電界が形成される。すなわち、
図4(a)に示すように一様な電位に基づいて電子に作用する力は垂直方向の力が作用するが、
図14のように防着板160aを考慮すると、電位は完全に一様とならず、外周方向に誘因される(
図14、矢印1400、1401参照)。そのため、一様な電位が印加されている場合に動く電子の軌道と、電界の形状が歪められている場合の電子の軌道とは異なり、電子の軌道が外周方向に誘因されるために予測がずれることを発明者らは知見した。
【0082】
そこで、摩耗予測装置500の制御部503は、電界の形状を示す情報を入力し、その形状に応じて、予測された摩耗度を、水平方向にずらす補正を行う。この補正は、形成される電界の端部において、防着板160aにより歪む歪み量から、摩耗度の摩耗位置を水平方向にずらす補正量を算出するための算出式を記憶部502に記憶し、制御部503は、当該算出式を利用することでずれ量を算出する構成をとってもよい。これにより、摩耗予測装置500は、より正確に摩耗度を予測することができる。
【0083】
(3)また、上記実施の形態においては、摩耗予測装置におけるターゲット131の摩耗度を予測する手法や膜厚を予測する手法として、装置のプロセッサが摩耗予測プログラム等を実行することにより、実現することとしているが、これは装置に集積回路(IC(Integrated Circuit)チップ、LSI(Large Scale Integration))等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって実現してもよい。また、これらの回路は、1または複数の集積回路により実現されてよく、上記実施の形態に示した複数の機能部の機能を1つの集積回路により実現されることとしてもよい。LSIは、集積度の違いにより、VLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIなどと呼称されることもある。すなわち、
図16に示すように、摩耗予測装置500は、通信回路501aと、記憶回路502aと、制御回路503aから構成されてよく、それぞれの機能は、上記実施の形態に示した同様の名称を有する各部と同様である。
【0084】
また、上記摩耗予測プログラムは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体に記録されていてよく、記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記摩耗予測プログラムは、当該摩耗予測プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記プロセッサに供給されてもよい。本発明は、上記摩耗予測プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0085】
なお、上記摩耗予測プログラムは、例えば、ActionScript、JavaScript(登録商標)などのスクリプト言語、Objective-C、Java(登録商標)などのオブジェクト指向プログラミング言語、HTML5などのマークアップ言語などを用いて実装できる。
【0086】
(4)上記実施の形態及び各補足に示した構成は、適宜組み合わせることとしてもよい。