【実施例】
【0056】
以下に、保存効力試験、ソフトコンタクトレンズの変形抑制評価試験、角膜上皮細胞による細胞障害性試験、NIBUT上昇作用の評価試験、NIBUT上昇作用の比較試験、クロルヘキシジングルコン酸塩の残存率測定試験およびクロルヘキシジングルコン酸塩の長期安定性試験の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。なお、CLはコンタクトレンズ、SCLはソフトコンタクトレンズの略である。
【0057】
試験例1.保存効力試験
表1に示す処方の点眼液1〜6について、保存効力試験を行った。
【0058】
(試料調製)
点眼液1:
表1に示す処方に従って、点眼液1を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.39g)、塩化カリウム(0.15g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.01g)、ポリソルベート80(0.0005g)およびクロルヘキシジングルコン酸塩(0.002g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2とした。
【0059】
点眼液2〜6:
表1に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液2〜6の各点眼液を調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
(試験方法)
保存効力試験は、第十六改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus brasiliensis(A.brasiliensis)を用いた。
【0062】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
なお、表2の試験結果は検査時の生菌数が接種した菌数に比べてどの程度減少したかをlog reductionで示しており、たとえば「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示している。
【0065】
表2に示された通り、点眼液1〜6は、日本薬局方の保存効力試験基準に適合することが示された。
【0066】
(考察)
上記の結果から、本点眼液は、優れた保存効力を有することが示された。
【0067】
試験例2.ソフトコンタクトレンズの変形抑制評価試験
点眼液4を使用して、ソフトコンタクトレンズに及ぼす影響について検討した。
【0068】
(試料調製)
表1に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液4を調製した。
【0069】
(試験方法)
表3に示すFDAによるコンタクトレンズ分類のうち、グループIVに該当するコンタクトレンズ(2weekアキュビュー
(登録商標))を点眼液4に24時間浸漬し、前後でのコンタクトレンズの直径、ベースカーブの変化量を算出し、以下の表4に示す判定基準を満たすか否か検討した。また、試験終了後の各コンタクトレンズの性状を観察した。なお、当該判定基準は、厚生労働省告示第349号 視力補正用コンタクトレンズ基準(平成13年10月5日)に基づき設定した。
【0070】
【表3】
【0071】
(判定基準)
【0072】
【表4】
【0073】
(結果)
結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示すように、長時間浸漬後のコンタクトレンズは判定基準を満たした。よって、点眼液4は、ソフトコンタクトレンズの変形を抑制することが示された。
【0076】
(考察)
上記の結果から、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズの変形を抑制することから、ソフトコンタクトレンズ用として使用することができる。
【0077】
試験例3.角膜上皮細胞による細胞障害性試験
本点眼液が角膜上皮細胞に及ぼす影響を検討するため、角膜上皮細胞による細胞障害性試験を行った。
【0078】
(試料調製)
表6に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液7、8、9、10を調製した。
【0079】
【表6】
【0080】
(試験方法)
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE−T:理化学研究所、バイオリソースセンター、Cell No.:RCB2280)を96ウエルプレートに播種(1×10
4細胞/ウエル)し、10%FBS含有D−MEM/F12培地で1日培養した。翌日、培地を点眼液7、点眼液8、点眼液9または点眼液10に交換した後、前記角膜上皮細胞を15分間培養した。Cell Proliferation Assay Kit)(Promega社製、カタログ番号:G3580)を用いて、生細胞活性(490nmの吸光度に相当する)を測定した。
【0081】
(結果)
試験結果を
図1に示す。
【0082】
図1から明らかなように、クロルヘキシジングルコン酸塩を含有するジクアホソル点眼液(点眼液7)が、BAKを含有する点眼液(点眼液9、点眼液10)およびジクアホソルまたはその塩を含まないクロルヘキシジン類を含有する点眼液(点眼液8)よりも、培養した不死化ヒト角膜上皮細胞において高い生細胞活性を示した。
【0083】
(考察)
本点眼液は、培養した不死化ヒト角膜上皮細胞において高い生細胞活性を示すことから、生体、特に角結膜上皮に対する安全性がより高く、ドライアイのような角結膜上皮が不安定な疾患に用いるのに有用である。
【0084】
試験例4.NIBUT上昇作用の評価試験1
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、ジクアホソル点眼液のNIBUTを検討した。
【0085】
(試料調製)
表1に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液4を調製した。
【0086】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA
(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液4(20μL/眼)を点眼する前、および点眼15、30、45、60分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR−1、コーワ)で測定した。対照薬として人工涙液(製品名:ソフトサンティア
(登録商標))を用いた(N=10〜11眼)。
【0087】
(結果)
試験結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼液4を点眼すると、点眼60分後までの全測定ポイントで、点眼前と比較して顕著なNIBUTの上昇が認められた。一方、人工涙液点眼ではNIBUTの上昇が認められなかった。
【0088】
(考察)
上記の結果から、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。本点眼液のこのような効果は、一般にドライアイ治療に用いられる人工涙液と比較しても、顕著なものであった。よって、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用眼における、ドライアイの予防および/または治療に有用である。また、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用眼における、眼乾燥感および/または眼不快感の予防および/または治療にも有用である。
【0089】
試験例5.NIBUT上昇作用の評価試験2
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、ジクアホソル点眼液のNIBUTを検討した。
【0090】
(試料調製)
表1に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液4を調製した。
【0091】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA
(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液4(20μL/眼)を点眼する前、および点眼5、15、30、45、60分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR−1、コーワ)で測定した。対照薬として人工涙液(製品名:ソフトサンティア
(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウム(製品名:ヒアレイン
(登録商標)ミニ点眼液0.1%)を用いた(N=11眼)。
【0092】
(結果)
試験結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼液4を点眼すると、点眼60分後までの全測定ポイントで、点眼前と比較して顕著なNIBUTの上昇が認められた。一方、人工涙液点眼ではNIBUTの上昇が認められなかった。また、ヒアルロン酸ナトリウム点眼では点眼5分後NIBUTの上昇が認められたものの、その上昇作用は点眼液4より低く、点眼15分後以降はNIBUTの上昇が認められなかった。
【0093】
(考察)
上記の結果から、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。本点眼液のこのような効果は、一般にドライアイ治療に用いられる人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼液と比較しても、顕著なものであった。よって、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用眼における、ドライアイの予防および/または治療に有用である。また、本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用眼における、眼乾燥感および/または眼不快感の予防および/または治療にも有用である。
【0094】
試験例6.NIBUT上昇作用の比較試験
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、本点眼液とBAK含有点眼液(ジクアホソルナトリウムおよびBAKを含有する点眼液)のNIBUTを比較検討した。
【0095】
(試料調製)
表1に示す処方に従って、点眼液1と同様に点眼液4を調製した。
また、比較例として、点眼液4のクロルヘキシジングルコン酸塩の代わりにBAKを含有する点眼液11を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.41g)、塩化カリウム(0.15g)およびBAK(0.0075g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5とした。点眼液4と点眼液11は、共に同一濃度の有効成分(ジクアホソルナトリウム)を含有する点眼液である。また、点眼液4と点眼液11は、共に日本薬局方の保存効力試験基準に適合し、同等の保存効力を有する点眼液である。
【0096】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA
(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液4、点眼液11(20μL/眼)を点眼する前、および点眼30分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR−1、コーワ)で測定した(N=11眼)。
【0097】
(結果)
試験結果を表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
日本薬局方の保存効力試験基準に適合し、同等の保存効力を有する、本点眼液(点眼液4)とBAK含有点眼液(点眼液11)の点眼30分後におけるNIBUTを測定し、比較検討した結果、本点眼液はBAK含有点眼液よりも高いNIBUT上昇作用を有することが示された。
【0100】
(考察)
上記の結果から、本点眼液はBAK含有点眼液よりもソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。
【0101】
試験例7.クロルヘキシジングルコン酸塩の残存率測定試験
クロルヘキシジングルコン酸塩の濃度が、ジクアホソル点眼液調製後におけるクロルヘキシジングルコン酸塩の残存率に与える影響を検討した。
【0102】
(試料調製)
点眼液12:
表8に示す処方に従って、点眼液12を調製した。具体的には、以下のように調製した。
1)0.5%(w/v)クロルヘキシジングルコン酸塩溶液を調製した。
2)0.4%(w/v)リン酸水素ナトリウム水和物、0.78%(w/v)塩化ナトリウム、0.3%(w/v)塩化カリウムおよび0.02%(w/v)エデト酸ナトリウム水和物を含有する水溶液(2倍濃厚液)を調製した。
3)水に1)で調製した溶液を加え、さらに2)で調製した溶液を加えた。
4)マグネチックスターラ―を用いて撹拌後、ジクアホソルナトリウム、さらにpH調節剤(水酸化ナトリウムまたは塩酸)を加え、pHを7.5に調節した。
4)表8に示す濃度になるように水で全量を調整した。
5)0.22μmフィルターを用いてろ過し、点眼液12を調製した。
点眼液13、点眼液14:
点眼液12と同様に点眼液13、点眼液14を調製した。
【0103】
【表8】
【0104】
(試験方法)
上記点眼液12〜14中のクロルヘキシジングルコン酸塩の含有量を測定し、その残存率を算出した。
【0105】
(結果)
試験結果を表9に示す。
【0106】
【表9】
【0107】
(考察)
表9に示すように、0.01%(w/v)の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を用いた点眼液14では、点眼液調製後、クロルヘキシジングルコン酸塩の残存率が低下することが明らかになった。一方、0.0025%(w/v)、0.005%(w/v)の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を用いた点眼液12および点眼液13では、点眼液調製後においても高いクロルヘキシジングルコン酸塩の残存率を維持した。以上より、クロルヘキシジングルコン酸塩を含有するジクアホソル点眼液の調製には、0.005%(w/v)以下の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を用いることが好ましいことが示された。
【0108】
試験例8.クロルヘキシジングルコン酸塩の長期安定性試験
ジクアホソル点眼液におけるクロルヘキシジングルコン酸塩の長期安定性を検討した。
【0109】
(試料調製)
試験例7と同様に、表10に示す処方に従って、点眼液15〜17を調製した。
【0110】
【表10】
【0111】
(試験方法)
点眼液15〜17を40℃/20%RHで、それぞれ6か月まで保存したときの、クロルヘキシジングルコン酸塩の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その残存率(%)を算出した。
【0112】
(結果)
試験結果を表11に示す。
【表11】
【0113】
(考察)
0.0025%(w/v)、0.01%(w/v)の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を含有する点眼液16、点眼液17は、0.001%(w/v)の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩を含有する点眼液15よりも、40℃/20%RHで、6か月間高いクロルヘキシジングルコン酸塩の残存率を維持し、優れた長期安定性を有することが示された。すなわち、ジクアホソル点眼液中のクロルヘキシジングルコン酸塩を安定化するには、該クロルヘキシジングルコン酸塩の濃度が0.001%(w/v)超であることが好ましいことが示された。
【0114】
以上、試験例7、8の結果から、特定の濃度範囲、すなわち0.001〜0.005%(w/v)の濃度のクロルヘキシジン類を含有するジクアホソル点眼液は、点眼液調製時に高いクロルヘキシジン類の残存率を維持し、かつ該点眼液中のクロルヘキシジン類が優れた長期安定性を有することが示された。よって、該点眼液は、試験例1に示すように、長期間優れた保存効力を有することも期待される。
【0115】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0116】
(処方例1:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001〜0.1g
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0117】
(処方例2:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001〜0.1g
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.0001〜0.1g
ポリソルベート80 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。