特許第6875891号(P6875891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875891
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】回転機械
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/16 20060101AFI20210517BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20210517BHJP
   F16C 35/00 20060101ALI20210517BHJP
   F16C 32/06 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   F01D25/16 B
   F01D25/00 U
   F16C35/00
   !F16C32/06 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-52769(P2017-52769)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155184(P2018-155184A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼沢 伸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】本坊 亮吉
【審査官】 小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−088004(JP,U)
【文献】 実開昭60−010806(JP,U)
【文献】 特開平11−210406(JP,A)
【文献】 特開昭59−018207(JP,A)
【文献】 特開2006−138318(JP,A)
【文献】 実開昭60−014208(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 19/00,25/00−25/26
F16C 32/00−32/06,35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転するロータを含む回転体と、
前記回転体を回転自在に収納する車室と、
前記ロータの一端側を回転自在に受ける軸受を支持する固定側軸受台であって、基部上において前記軸線方向位置が固定された固定側軸受台と、
前記ロータの他端側を回転自在に受ける軸受を支持する可動側軸受台であって、前記車室の前記軸線方向の熱伸びに追従して前記基部上において前記軸線方向に移動するように構成された可動側軸受台と、
を備え、
前記可動側軸受台には、
前記可動側軸受台の下部に対し鉛直方向上向きの浮上力を作用させるグリースを保持する少なくとも一のグリース保持空間であって、前記基部との間で前記グリースを保持する閉空間が形成されるように前記可動側軸受台の下部に設けられた切り欠きを含む、少なくとも一のグリース保持空間と、
前記可動側軸受台の下面に前記軸線方向に延びるように形成されたキー溝と、が設けられており、
前記グリース保持空間に前記グリースを供給する高圧グリース供給源と、
前記高圧グリース供給源よりも低い圧力で前記グリースを前記キー溝に充満する低圧グリース供給源と、
前記基部に設けられて、前記キー溝にはめ込まれることによって前記可動側軸受台を前記基部に対して前記軸線方向のみに移動可能とするキーと、
をさらに備える回転機械。
【請求項2】
前記グリース保持空間が、前記可動側軸受台の直下に設けられている請求項1に記載の回転機械。
【請求項3】
前記可動側軸受台の下部の全面積に対する前記グリース保持空間の面積が、20%以上である請求項2に記載の回転機械。
【請求項4】
前記可動側軸受台の前記グリース保持空間に設けられた支持部であって、前記可動側軸受台の下部を前記基部上にて支持する支持部を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項5】
前記車室から突出する猫足部分を支持する可動側猫足台であって、前記可動側軸受台とともに前記基部上において前記軸線方向に移動するように構成された可動側猫足台をさらに備え、
前記グリース保持空間がさらに、前記可動側猫足台の下部に設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項6】
前記グリース保持空間が、前記可動側猫足台の直下に設けられている請求項5に記載の回転機械。
【請求項7】
前記可動側猫足台の下部の全面積に対する前記グリース保持空間の面積が、20%以上である請求項6に記載の回転機械。
【請求項8】
前記可動側猫足台の前記グリース保持空間に設けられた支持部であって、前記可動側猫足台の下部を前記基部上にて支持する支持部を備える請求項5から7のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項9】
前記グリース保持空間から溢れた前記グリースを回収するグリース回収ラインをさらに備える請求項1から8のいずれか一項に記載の回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転機械、特にその軸受台構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より種々の回転機械が用いられている。例えば、蒸気タービンやガスタービンといった高温下で運転される回転機械は、発電機等の機械駆動用などに用いられている。これらのタービンは、軸受台により軸線回りに回転可能に支持されたロータを、タービンの外殻を形成する車室内に備えている。ロータは、車室内に作動流体として蒸気や燃焼ガスが供給されることにより、車室内で回転する。タービンは、このロータの回転により、発電機等を回転駆動させる。
【0003】
ところで、蒸気タービンやガスタービンといった高温下で運転される回転機械では、タービンの作動時に車室内やロータの軸受で生じる熱により、種々の熱変形が起こる。例えば、蒸気タービンの運転中、熱変形により車室が軸線方向に伸びる。
【0004】
このため、車室熱変形が生じるタービンは、車室の軸線方向伸びに追従して、軸受台などの可動部品を、基礎などの固定部品に対し移動させる設計となっている。
例えば、蒸気タービンの熱膨張時に基礎プレートに対し排気フードを軸線方向に移動するために設計された技術ではあるが、特許文献1には、基礎プレートと排気フードとの間に低摩擦パッドを組込んだスライド用プレート組立体を設け、基礎プレートと排気フードとの間の摩擦力を低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−138318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術でも、固定部品と可動部品との間でスティック(膠着)が生じることがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、固定部品と可動部品との間でのスティックを防ぐことができる回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明の一態様に係る回転機械は、軸線回りに回転するロータを含む回転体と、前記回転体を回転自在に収納する車室と、前記ロータの一端側を回転自在に受ける軸受を支持する固定側軸受台であって、基部上において前記軸線方向位置が固定された固定側軸受台と、前記ロータの他端側を回転自在に受ける軸受を支持する可動側軸受台であって、前記車室の前記軸線方向の熱伸びに追従して前記基部上において前記軸線方向に移動するように構成された可動側軸受台と、を備え、前記可動側軸受台には、前記可動側軸受台の下部に対し鉛直方向上向きの浮上力を作用させるグリースを保持する少なくとも一のグリース保持空間であって、前記基部との間で前記グリースを保持する閉空間が形成されるように前記可動側軸受台の下部に設けられた切り欠きを含む、少なくとも一のグリース保持空間と、前記可動側軸受台の下面に前記軸線方向に延びるように形成されたキー溝と、が設けられており、前記グリース保持空間に前記グリースを供給する高圧グリース供給源と、前記高圧グリース供給源よりも低い圧力で前記グリースを前記キー溝に充満する低圧グリース供給源と、前記基部に設けられて、前記キー溝にはめ込まれることによって前記可動側軸受台を前記基部に対して前記軸線方向のみに移動可能とするキーと、をさらに備える。
【0009】
この構成によれば、可動側軸受台の下部に浮上力発生空間が設けられているため、可動側軸受台に対し鉛直方向上向きの浮上力が作用する。これにより、車室の軸線方向の熱伸びが生じても、可動側軸受台をスムーズに軸線方向に動かすことができる。
【0010】
上記の回転機械は、前記グリース保持空間が、前記可動側軸受台の直下に設けられていてもよい。
【0011】
この構成によれば、浮上力発生空間が可動側軸受台の直下に設けられているので、可動側軸受台に対し鉛直方向上向きの浮上力を効率よく作用させることができる。これにより、可動側軸受台を、よりスムーズに動かすことができる。
【0012】
上記の回転機械は、可動側軸受台の下部の全面積に対する前記グリース保持空間の面積が、20%以上であってもよい。
ここにいう「可動側軸受台の下部」とは、可動側軸受台における基部との対向面をいい、例えば、可動側軸受台の下部に底板が設けられている場合、「底板」をいう。可動側軸受台の下部に底板が設けられている場合、「可動側軸受台の下部の全面積」とは、底板の全面積をいう。ここにいう「全面積」とは、浮上力発生空間に相当する範囲を含む底板の下面の全範囲の面積をいう。ここにいう浮上力発生空間に相当する範囲とは、浮上力発生空間を規定する面のうちの水平方向面の範囲をいう。
【0013】
この構成によれば、可動側軸受台の下部の全面積に対する浮上力発生空間の面積を20%以上とするため、可動側軸受台に鉛直方向上向きの浮上力を効率よく作用させることができる。これにより、可動側軸受台を、よりスムーズに動かすことができる。
【0014】
上記の回転機械は、前記可動側軸受台の前記グリース保持空間に設けられた支持部であって、前記可動側軸受台の下部を前記基部上にて支持する支持部を備えてもよい。
【0015】
この構成によれば、浮上力発生空間の全範囲を切り欠かず、つまり浮上力発生空間の中央は切り欠かず、支持部を設ける構造となっているので、可動側軸受台の自重による撓みを抑制する。この結果、可動側軸受台をスムーズに動かすことができる。
【0016】
上記の回転機械は、前記車室から突出する猫足部分を支持する可動側猫足台であって、前記可動側軸受台とともに前記基部上において前記軸線方向に移動するように構成された可動側猫足台をさらに備え、前記グリース保持空間がさらに、前記可動側猫足台の下部に設けられてもよい。
【0017】
この構成によれば、可動側猫足台の下部にも浮上力発生空間が設けられているため、可動側猫足台に対しても鉛直方向上向きの浮上力が作用する。これにより、車室の軸線方向の熱伸びが生じても、可動側軸受台および可動側猫足台をスムーズに軸線方向に動かすことができる。
【0018】
上記の回転機械は、前記グリース保持空間が、前記可動側猫足台の直下に設けられてもよい。
【0019】
この構成によれば、浮上力発生空間が可動側猫足台の直下にも設けられているので、可動側軸受台および可動側猫足台に鉛直方向上向きの浮上力を効率よく作用させることができる。このため、車室が軸線方向に熱伸びしても、可動側軸受台および可動側猫足台を、よりスムーズに動かすことができる。
【0020】
上記の回転機械は、前記可動側猫足台の下部の全面積に対する前記グリース保持空間の面積が、20%以上であってもよい。
ここにいう「可動側猫足台の下部」とは、可動側猫足台における基部との対向面をいい、例えば、可動側猫足台の下部に底板が設けられている場合、「底板」をいう。可動側軸受台の下部に底板が設けられている場合、「可動側猫足台の下部の全面積」とは、底板の全面積をいう。ここにいう「全面積」とは、浮上力発生空間に相当する範囲を含む底板の下面の全範囲の面積をいう。ここにいう浮上力発生空間に相当する範囲とは、浮上力発生空間を規定する面のうちの水平方向面の範囲をいう。
【0021】
この構成によれば、可動側猫足台の下部の全面積に対する浮上力発生空間の面積も20%以上とするため、可動側猫足台にも鉛直方向上向きの浮上力を効率よく作用させることができる。これにより、可動側軸受台および可動側猫足台を、よりスムーズに動かすことができる。
【0022】
上記の回転機械は、前記可動側猫足台の前記グリース保持空間に設けられた支持部であって、前記可動側猫足台の下部を前記基部上にて支持する支持部を備えてもよい。
【0023】
この構成によれば、浮上力発生空間の全範囲を切り欠かず、つまり浮上力発生空間の中央は切り欠かず、支持部を設ける構造となっているので、可動側猫足台の自重による撓みを抑制する。この結果、可動側猫足台をスムーズに動かすことができる。
【0028】
上記の回転機械は、前記グリース保持空間から溢れた前記グリースを回収するグリース回収ラインをさらに備えてもよい。
【0029】
この構成によれば、グリース回収ラインにより、グリース保持空間から溢れたグリースが回収される。このため、グリースを効率よく利用することができるので、グリースによる軸受台および/または猫足台の可動容易化を効率よく行うことができる。
【0030】
本発明は以下の点に着目してなされたものである。
例えば発電用の蒸気タービンは運転中に熱変形を生じて車室が軸方向に伸びることがある。この車室の軸方向の伸びに追従して軸受台が動くように車室と軸受台とが接続部材により接続されている。
このため、固定側軸受台を起点に車室が軸線方向に伸びると、接続部材は車室が伸びた分、可動側軸受台を押し、可動側軸受台が移動する設計になっている。
このように従来の回転機械では、可動側軸受台が軸線方向に可動する設計にはなっているものの、実際には、何等かの要因により、可動側軸受台がスティックしてしまうことがある。
本発明者らによれば、このような可動側軸受台のスティックは、特定の条件下で起こり得るというよりは、通常の運転中に起こり得る事象であることが分かった。
【発明の効果】
【0031】
本発明の回転機械によれば、特に熱伸びが発生するであろう回転機械において、上記構造により運転中の可動側軸受台のスティックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態にかかる回転機械の全体構成を模式的に示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる回転機械の全体構成を模式的に示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる回転機械において特徴的なグリース保持空間を説明するための模式図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる回転機械において特徴的なグリース保持空間を説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態にかかる回転機械のグリース保持空間の説明図である。
図6】本発明の一実施形態にかかるグリース保持空間においてより好適な支持部の説明図である。
図7】本発明の一実施形態にかかる回転機械のグリース保持空間の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態に係る回転機械の概略構成が模式的に示されている。なお、図1は模式図のため、浮上力発生体供給路、車室端部から外方に向けて突出する被支持部である猫足部分、および猫足部分を支持する猫足台の図示は省略している。
本発明の一実施形態に係る蒸気タービン(回転機械)10は、蒸気Sのエネルギーを回転動力として取りだす外燃機械であって、発電所における発電機等に用いられるものである。
【0034】
蒸気タービン10は、タービン本体(回転体)12と、車室14と、固定側軸受台16と、可動側軸受台18と、を備えている。可動側軸受台18には、高圧グリース保持空間(浮上力発生空間)20が設けられている。
【0035】
タービン本体12は、車室14を貫通するように軸線Oに沿って伸びて軸線O回りに回転するロータ22と、ロータ22に設けられた動翼24と、を備えている。
ロータ22は、動翼24が設けられた中間部が車室14内に収容されている。
ロータ22は、その両端部が、軸線Oに沿った方向において車室14の両側の端部を貫通して、車室14の外部に突出している。
ロータ22は、車室14から外方に突出した両端が軸受部26、28により回転自在に支持されている。
【0036】
車室14は、タービン本体12の中間部を回転自在に収納する。
車室14は、車室14に保持された静翼30を備えている。
【0037】
固定側軸受台16は、ロータ22の一端側を回転自在に支持する軸受26を支持する。 固定側軸受台16は、台板(基部)32上において軸線O方向位置が固定されている。
【0038】
可動側軸受台18は、ロータ22の他端側を回転自在に支持する軸受28を支持する。
可動側軸受台18は、その下面に、底板(可動側軸受台の下部)34が取り付けられている。底板34は、車室14と同じ材質で構成されている。
可動側軸受台18は、車室14の軸線O方向の熱伸びに追従して、台板32上において軸線O方向に移動するように構成されている。
このために本実施形態では、車室14と可動側軸受台18とを軸線O方向に接続する接続部材であるセンタリングビーム36を備えている。
【0039】
本発明において特徴的なことは、浮上力発生空間を備えたことにある。
このために本実施形態では、可動側軸受台18の直下の底板34に、高圧グリース保持空間20が形成されている。ここにいう高圧とは、可動側軸受台18がスティックすることなく軸線O方向に移動可能な浮上力を発生する圧力をいう。
高圧グリース保持空間20は、高圧グリース(浮上力発生体)38で満たされている。 高圧グリース保持空間20は、高圧グリース38を、高圧グリース保持空間20と台板32とで形成される閉空間にしっかり保持している。この閉空間が底板34と台板32とで形成されるように、底板34に切り欠きが設けられている。
高圧グリース38は、可動側軸受台18の底板(可動側軸受台の下部)36に対し、鉛直方向上向き(図1中、上向き)の浮上力を作用させる。
この構成によれば、高圧グリース保持空間20により、可動側軸受台18に作用する抵抗力、例えば台板32と底板34との間の摩擦力を低減し、可動側軸受台18のスティックを防止することができる。
以下、この作用について、より具体的に説明する。
蒸気タービン10では、運転中、熱変形により車室14が軸線O方向に伸びる。この車室14の軸線O方向の伸びに追従して可動軸受台18が動くように、車室14と可動側軸受台18とは、センタリングビーム36により接続されている。
このため、固定側軸受台16を起点に車室14が軸線O方向に熱伸びすると、センタリングビーム36を介して可動側軸受台18を軸線O方向に押す。
ここで、一般的な蒸気タービンでは、可動側軸受台はスムーズに動く設計となっているものの、実際には何らかの要因により可動側軸受台と台板とがスティックして、可動側軸受台がスムーズに動かなくなる事象を生じる場合がある。
これに対し、本実施形態では、可動側軸受台18の底板34の下面に高圧グリース保持空間20を設け、グリースの圧力により可動側軸受台18に鉛直方向上向きの力を作用させて、可動側軸受台18に作用する抵抗力、例えば台板32と底板34との間の摩擦力を緩和している。このため、台板32と底板34とがスティックすることなく、底板34とともに可動側軸受台18がスムーズに動く。つまり、本実施形態では、運転中、可動側軸受台18を、車室14の熱延びの分だけ軸線O方向に移動させることができるので、車室14の熱伸びの影響を十分に解消することができる。
【0040】
[猫足台]
可動部品のスティックをより確実に防ぐためには、本実施形態の高圧グリース保持空間を、車室を支持する猫足台にも適用することが好適である。このために本実施形態においては、高圧グリース保持空間を図2に示されるような猫足台にも適用している。
【0041】
以下、図2を参照しつつ、高圧グリース保持空間の猫足台への適用例について説明する。なお、図2は模式図のため、浮上力発生体供給路の図示は省略している。
【0042】
車室14は、下半車室14aと、上半車室14bと、を備えている。下半車室14aと上半車室14bとは、ボルトおよびナット等の締結具(図示省略)を用いて一体に締結されることにより、車室14を構成している。
【0043】
車室14の端部では、下半車室14aの端部に、下半車室14aの端部から外方に向けて突出する被支持部である猫足部分が形成されている。猫足部分は、下半車室14aの端部から軸線O方向に伸びる片持ち梁状に形成されている。
猫足部分は、下半車室14aの各端部において、軸線Oを挟んだ両側に1つずつ、合計4箇所に配置されている。同図において、猫足部分は、固定側猫足部分40と、可動側猫足部分42と、を備えている。
固定側猫足部分40は、固定側猫足台44により支持されている。
可動側猫足部分42は、可動側猫足台46により支持されている。
【0044】
可動側猫足台46は、その下面に底板(可動側猫足台の下部)34が設けられ、底板34を介して可動側軸受台18とともに台板32上を軸線O方向のみに移動するように構成されている。
【0045】
本実施形態では、可動側猫足台46の直下の底板(可動側猫足台の直下)34に、上記した可動側軸受台直下の底板34に設けられた高圧グリース保持空間と同様の、高圧グリース保持空間(浮上力発生空間)48が形成されている。
台板32と底板34の高圧グリース保持空間48とで規定される閉空間に、高圧グリース38がしっかりと保持されている。
高圧グリース38は、可動側猫足台46直下の底板34に鉛直方向上向き(図中、上向き)の力(浮上力)を作用させている。
【0046】
このように本実施形態では、可動側猫足台46直下の底板34にも、上記した可動側軸受台直下の高圧グリース保持空間と同様の高圧グリース保持空間48を設けている。この高圧グリース保持空間48のグリース圧により、可動側猫足台46にも鉛直方向上向きの力を作用させることにより、可動側猫足台46に作用する抵抗力、例えば台板32と底板34との間の摩擦力を低減し、可動側猫足台46のスティックを防止している。
【0047】
[形成場所]
なお、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、本実施形態に係る高圧グリース保持空間の形成場所も非常に重要である。
そこで、本実施形態では、図3にも示されるように、底板34において、重量物である可動側軸受台18の直下に高圧グリース38を保持する高圧グリース保持空間20が設けられている。底板34において、重量物である可動側猫足台46の直下にも、高圧グリース38を保持する高圧グリース保持空間48が設けられている。
【0048】
このように、高圧グリース38を保持する高圧グリース保持空間20を可動側軸受台18の直下に形成することにより、高圧グリース38による鉛直方向上向きの力が、可動側軸受台18の下面に効率的に作用する。同様に、高圧グリース38を保持する高圧グリース保持空間48を可動側猫足台46の直下に形成することにより、高圧グリース38による鉛直方向上向きの力が、可動側猫足台46の下面にも効率的に作用する。
このようにして高圧グリース保持空間を軸受台直下および猫足台直下に設けることにより、可動側軸受台および可動側猫足台に対し、より効率よく浮上力を作用させることができるので、重量物である可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)のスティックを、より確実に防ぐことができる。
【0049】
[キー溝]
可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、台板32に対する底板34の移動方向をより確実に軸線O方向のみに規制することも好ましい。
そこで、本実施形態では、図3に示されるように、底板34の下面には、軸線O方向(図示省略)にキー溝50が形成されている。台板32には、キー溝50に、はめ込まれたキー52が設けられている。
このように、本実施形態では、台板32に対し底板34は、キー溝50及びキー52の方向に沿って、つまり軸線方向のみに移動し、かつ直交方向には動かないように構成されているので、底板34のスティックを、より確実に防ぐことができる。
【0050】
[潤滑]
可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、浮上力の付与に加えて、潤滑も好ましい。
そこで、本実施形態では、図3に示されるようなキー溝50に、潤滑のためのグリースを供給してもよい。
これにより台板32と底板34との間を潤滑し、台板32上を底板34が、より移動しやすくなっている。
【0051】
[形成面積]
可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすため、本実施形態では、図4に示されるような台板を裏側から見た図からも明らかなように、可動側軸受台直下の底板に高圧グリース保持空間20が設けられており、可動側猫足台直下の底板にも高圧グリース保持空間48が設けられている。
さらに、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、高圧グリース保持空間20、48の面積も非常に重要である。
そこで、本実施形態では、底板34の下面の全面積(水平方向面)に対する、可動側軸受台直下の高圧グリース保持空間20の面積(水平方向面)と可動側猫足台直下の高圧グリース保持空間48の面積(水平方向面)との合計を、20%以上としている。
【0052】
上記構成の蒸気タービンでは、高圧グリース保持空間20、48の面積が、底板34の全面積に対し20%以上であるので、グリース圧による鉛直方向上向きの力を、可動側軸受台および可動側猫足台に対して、より積極的に作用させることができる。
【0053】
[高圧グリース供給源]
可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすため、高圧グリース保持空間に、高圧グリースをより確実に供給することも非常に重要である。
そこで、本実施形態では、図4に示されるような、高圧グリース供給源60と、高圧グリース供給溝(浮上力発生体供給路)62と、をさらに備えている。
高圧グリース供給源60は、高圧グリース供給溝62に接続されている。高圧グリース供給源60は、グリースに圧力をかけて高圧グリース38としている。ここにいう高圧グリース38とは、底板34がスティックすることなくスムーズに軸線O方向に移動可能な浮上力を発生する圧力のグリースをいう。
高圧グリース供給溝62は、可動側軸受台の下にある底板(可動側軸受台の下部)に設けられ、高圧グリース保持空間20に、高圧グリース供給源60からの高圧グリース38を供給している。高圧グリース供給溝62は、可動側猫足台の下にある底板(可動側猫足台の下部)にも設けられており、高圧グリース保持空間48に、高圧グリース供給源60からの高圧グリース38を供給している。
【0054】
上記構成の蒸気タービンでは、外部に高圧グリース供給源60を備えるので、高圧グリース保持空間20、48に高圧グリースをより確実に供給することができる。このため、高圧グリース保持空間20、48に高圧グリースをより確実に保持することができる。これにより、高圧グリース38による鉛直方向上向きの力を、底板34に対して、より確実に作用させることができるので、底板34をよりスムーズに動かすことができる。
【0055】
このように本実施形態では、底板34に、高圧グリース供給溝62と、高圧グリース保持空間20、48と、を設けている。
高圧グリース保持空間20、48は、高圧グリース供給溝62よりも面積を大きくしている。つまり高圧グリース供給溝62の流路幅よりも、高圧グリース保持空間20、48の流路幅は広くなっている。
このような高圧グリース保持空間20、48に対し、高圧グリースを、高圧グリース供給溝62を介して供給し、供給された高圧グリース38を高圧グリース保持空間20、48に溜めている。これにより、高圧グリース保持空間20、48に高圧グリースを保持している。
その結果、本実施形態では、重量物である可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をグリースの圧力で浮上させることができる。
本実施形態によれば、可動側軸受台および可動側猫足台の重量にかかわらず、底板34の全体が均一に浮上するので、可動側軸受台および可動側猫足台のような重量物であっても、よりスムーズに動かすことができる。
【0056】
なお、浮上とは、実際に可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)が持ち上がるというよりは、台板32と底板45とがすりあうぐらいに浮上することをいう。つまり台板32上を底板34がスティックすることなく、スムーズに動く程度に底板34に浮上力が作用することをいう。
【0057】
本実施形態に係る高圧グリース38は、底板34がスティックすることなくスムーズに軸線O方向に移動可能な浮上力を発生する圧力を有するグリースをいう。このような高圧グリース38の圧力としては、100ataまでが一例として挙げられるが、高圧グリース保持空間20(高圧グリース保持空間48)の水平方向面の面積を可動側軸受台18(可動側猫足台46)直下の水平方向面の全面積と同じにした条件で、一般的な潤滑用の狭いグリース溝幅の場合に比べて、1/2〜1/5程度に、高圧グリース38の圧力を低減することができる。このように本実施形態では、高圧グリース保持空間の広い溝幅により、一般的な潤滑用の狭いグリース溝幅の場合と比較し、高圧グリース38の圧力を低く抑えることもできるので、より簡単な構成で、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をスムーズに動かすことができる。
【0058】
[グリース回収ライン]
本実施形態では、グリースが高圧になるため、高圧グリース保持空間20、48からグリースが漏れる可能性がある。このため、高圧グリース保持空間20、48から溢れたグリースを回収することも非常に重要である。
そこで、本実施形態では、図4に示されるように、高圧グリース保持空間20、48の外周囲に沿って、グリース回収ライン64を設けている。
【0059】
上記構成の蒸気タービンでは、グリース回収ライン64を備えているので、運転中、グリース回収ライン64により、高圧グリース保持空間20、48から溢れたグリースが回収される。このため、運転中、グリースを効率よく利用して、高圧グリースによる可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)の可動容易化を効率よく行うことができる。
【0060】
[低圧グリース供給源]
上述したように、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、浮上力の付与に加えて、潤滑も重要である。
そこで、本実施形態では、キー溝50に潤滑のためのグリースを供給するため、低圧グリース供給源70と、低圧グリース供給溝72とを備えている。本実施形態では、低圧グリース供給源70からの低圧グリースを、低圧グリース供給溝72を介して、底板34のキー溝50に供給している。
【0061】
これにより本実施形態では、台板32と底板34との間を確実に潤滑することができるので、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)がよりスムーズに動くように構成されている。なお、低圧グリース供給源70は、潤滑のためのグリースをキー溝に充満する程度に供給するものであり、浮上力発生用の高圧グリースのように積極的に高い圧力を与えるものではない。
【0062】
[支持部]
可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)をよりスムーズに動かすためには、高圧グリース保持空間に支持部を設けることも好ましい。
そこで、図4にも示されるように、本実施形態では、高圧グリース保持空間20に支持部80を設け、高圧グリース保持空間48に支持部82を設けている。
【0063】
以下、図5〜7を参照しつつ、本実施形態に係る支持部についてより具体的に説明する。以下では可動側軸受台の支持部80を例に説明しているが、可動側猫足台の支持部82も同様である。
図5に示されるように、高圧グリース保持空間20の溝幅(開口幅)aが2500mmを越えると、自重による底板34のたわみが過大になる可能性がある。
そこで、高圧グリース保持空間20の溝幅aが2500mmを越える場合は、図6に示されるような支持部80を高圧グリース保持空間20に必ず適用することとする。
【0064】
図6の構成によれば、高圧グリース保持空間20の溝幅aが2500mmを越える場合であっても、自重によるたわみを防ぐことができる。これにより、台板32に対する底板34のスティックを防ぎ、台板32に対し底板34をスムーズに動かすことができる。
【0065】
高圧グリース保持空間20の溝幅aが2500mm未満の場合は、図6に示されるような支持部80があっても、図7に示されるように高圧グリース保持空間20の溝幅aの全範囲を切り欠いてもよい。
【0066】
このように、高圧グリース供給空間の溝幅が大きい場合、自重によるたわみが大きくなると考えられる。そこで、本実施形態では、高圧グリース保持空間20を設けたことによる底板34のたわみを低減するために、高圧グリース供給空間20の中央は切り欠かずに支持部80を設ける構造とした。可動側猫足台も同様である。
【0067】
したがって、実施形態の蒸気タービンによれば、上記構造により運転中の可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)のスティックを防止することができる。
さらに、実施形態の蒸気タービンによれば、組立時も高圧グリースを供給することにより、可動側軸受台および可動側猫足台(底板34)を容易に動かせるようにし、蒸気タービンの組立性を向上させることができる。
【0068】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0069】
(回転機械)
例えば、上記実施形態では、回転機械として蒸気タービンを用いた例について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば他の回転機械としてもよい。
【0070】
(浮上力)
上記実施形態では、浮上力発生体として高圧グリースを用いることが特に好ましいが、台板(基部)に対する可動側軸受台および可動側猫足台(底板)のスティックを防止することのできる鉛直方向上向きの浮上力が得られるものであれば、他の浮上力発生体を用いることも可能である。
【0071】
(供給路)
上記実施形態では、高圧グリース供給路として供給溝を用いた例について説明したが、本発明は供給溝に限定されるものではなく、供給管を用いることも可能である。
【0072】
(底板)
上記実施形態では、一の底板上に可動側軸受台と可動側猫足台とを設けた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、可動側軸受台と可動側猫足台とをそれぞれ、別の底板上に設けることも可能である。
なお、可動側軸受台と可動側猫足台とをそれぞれ、別の底板上に設けた場合、可動側軸受台用の底板の全面積に対する高圧グリース保持空間の面積を20%以上とし、かつ可動側軸猫足用の底板の全面積に対する高圧グリース保持空間の面積を20%以上とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
10 蒸気タービン(回転機械)
12 タービン本体(回転体)
14 車室
16 固定側軸受台
18 可動側軸受台
20、48 高圧グリース保持空間(浮上力発生空間)
32 台板(基部)
34 底板(可動側軸受台の下部、可動側猫足台の下部)
38 高圧グリース(グリース、浮上力発生体)
46 可動側猫足台
62 高圧グリース供給溝(浮上力発生体供給路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7