特許第6875908号(P6875908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875908
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】電気音響変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20210517BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20210517BHJP
   H04R 1/24 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   H04R1/10 104Z
   H04R17/00
   H04R1/24 A
   H04R1/10 101Z
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-66713(P2017-66713)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170638(P2018-170638A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(72)【発明者】
【氏名】石井 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】浜田 浩
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
(72)【発明者】
【氏名】富田 隆
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−1598413(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/24
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部を有する第1の振動板と、前記第1の振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子と、前記圧電素子の周囲に設けられ前記第1の振動板をその厚み方向である第1の軸方向に貫通する複数の開口部と、を有する圧電式発音体と、
前記周縁部を支持する支持部と、前記圧電式発音体と前記第1の軸方向に対向し、前記複数の開口部のうち最も大きい開口面積を有し前記圧電素子の周縁部に一部が被覆される第1の開口部と前記第1の軸方向に重なり合わない位置に設けられた導音口と、を有する筐体と
を具備する電気音響変換装置。
【請求項2】
請求項に記載の電気音響変換装置であって、
前記第1の開口部は、前記第1の軸方向と直交する第2の軸方向に相互に対向する一対の開口部で構成される
電気音響変換装置。
【請求項3】
請求項に記載の電気音響変換装置であって、
前記複数の開口部は、前記導音口と前記第1の軸方向に重なり合う第2の開口部を含む
電気音響変換装置。
【請求項4】
請求項に記載の電気音響変換装置であって、
前記複数の開口部は、前記第1の軸方向と直交する第2の軸方向に前記第1の開口部と対向する第2の開口部を含む
電気音響変換装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1つに記載の電気音響変換装置であって、
第2の振動板を含む電磁式発音体をさらに具備し、
前記筐体は、
前記電磁式発音体が配置される第1の空間部と、
前記複数の開口部を介して前記第1の空間部と前記導音口とを連通させる第2の空間部と、を有する
電気音響変換装置。
【請求項6】
周縁部を有する第1の振動板と、前記第1の振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子と、前記第1の振動板及び前記圧電素子をそれらの厚み方向である第1の軸方向に貫通する開口部と、を有する圧電式発音体と、
前記周縁部を支持する支持部と、前記圧電式発音体と前記第1の軸方向に対向し前記開口部と前記第1の軸方向に重なり合わない位置に設けられた導音口と、を有する筐体と
を具備する電気音響変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイヤホンあるいはヘッドホン、携帯情報端末等に適用可能な電気音響変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電発音素子は、簡易な電気音響変換手段として広く利用されており、例えば、イヤホンあるいはヘッドホンのような音響機器、さらには携帯情報端末のスピーカなどとして多用されている。圧電発音素子は、典型的には、振動板の片面あるいは両面に圧電素子を貼り合わせた構成を有する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一方、特許文献2には、ダイナミック型ドライバと圧電型ドライバとを備え、これら2つのドライバを並列駆動させることで帯域幅の広い再生を可能としたヘッドホンが記載されている。上記圧電型ドライバは、ダイナミック型ドライバの前面を閉塞し振動板として機能するフロントカバーの内面中央部に設けられており、この圧電型ドライバを高音域用ドライバとして機能させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−150305号公報
【特許文献2】実開昭62−68400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えばイヤホンやヘッドホン等の音響機器においては、音質の更なる向上が求められている。このため圧電発音素子においては、その電気音響変換機能の特性向上が必要不可欠とされている。また、ダイナミック型スピーカと組み合わせた場合における高音域での高音圧化が望まれている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、圧電式発音体の音響特性の向上を図ることができる電気音響変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電気音響変換装置は、圧電式発音体と、筐体とを具備する。
上記圧電式発音体は、周縁部を有する第1の振動板と、上記第1の振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子と、上記圧電素子の周囲に設けられ上記第1の振動板をその厚み方向である第1の軸方向に貫通する複数の開口部と、を有する。
上記筐体は、上記周縁部を直接又は間接的に支持する支持部と、上記圧電式発音体と上記第1の軸方向に対向する導音口とを有する。上記導音口は、上記複数の開口部のうち最も大きい開口面積を有する第1の開口部と上記第1の軸方向に重なり合わない位置に設けられる。
【0008】
上記電気音響変換装置によれば、導音口が第1の開口部と第1の軸方向に重なり合わない位置に設けられているため、圧電式発音体の音圧特性の向上を図ることができる。
【0009】
上記第1の開口部は、上記圧電素子の周縁部に一部が被覆されてもよい。
この場合、上記第1の開口部は、上記第1の軸方向と直交する第2の軸方向に相互に対向する一対の開口部で構成されてもよい。
そして、記複数の開口部は、上記導音口と上記第1の軸方向に重なり合う第2の開口部を含んでもよい。
【0010】
あるいは、上記複数の開口部は、上記第1の軸方向と直交する第2の軸方向に上記第1の開口部と対向する第2の開口部を含んでもよい。
【0011】
上記電気音響変換装置は、第2の振動板を含む電磁式発音体をさらに具備してもよい。この場合、上記筐体は、上記電磁式発音体が配置される第1の空間部と、上記複数の開口部を介して上記第1の空間部と上記導音口とを連通させる第2の空間部と、を有する。
【0012】
本発明の他の形態に係る電気音響変換装置は、圧電式発音体と、筐体とを具備する。
上記圧電式発音体は、周縁部を有する第1の振動板と、上記第1の振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子と、上記第1の振動板及び上記圧電素子をそれらの厚み方向である第1の軸方向に貫通する開口部と、を有する。
上記筐体は、上記周縁部を支持する支持部と、上記圧電式発音体と上記第1の軸方向に対向し上記開口部と上記第1の軸方向に重なり合わない位置に設けられた導音口と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、圧電式発音体の音響特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気音響変換装置の構成を示す概略側断面図である。
図2】上記電気音響変換装置における電磁式発音体の一構成例を示す要部の断面図である。
図3】上記電気音響変換装置における圧電式発音体の概略平面図である。
図4】上記圧電式発音体における圧電素子の内部構造を示す概略断面図である。
図5】上記電気音響変換装置における支持部材の概略平面図である。
図6】上記圧電式発音体を含む発音ユニットの分解側断面図である。
図7】上記圧電式発音体の音圧特性の一例を示す実験結果である。
図8】圧電式発音体と導音口との相対位置を説明する概略平面図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る電気音響変換装置における圧電式発音体の概略平面図である。
図10】上記圧電式発音体の音圧特性の一例を示す実験結果である。
図11】圧電式発音体と導音口との相対位置を説明する概略平面図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る電気音響変換装置における圧電式発音体の概略平面図である。
図13】上記圧電式発音体の構成の変形例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る電気音響変換装置としてのイヤホン100の構成を示す概略側断面図である。
図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示している。
【0017】
[イヤホンの全体構成]
イヤホン100は、イヤホン本体10と、イヤピース20とを有する。イヤピース20は、イヤホン本体10の導音路41に取り付けられるとともに、ユーザの耳に装着可能に構成される。
【0018】
イヤホン本体10は、発音ユニット30と、発音ユニット30を収容する筐体40とを有する。発音ユニット30は、電磁式発音体31と、圧電式発音体32とを有する。
【0019】
[筐体]
筐体40は、発音ユニット30を収容する内部空間を有し、Z軸方向に分離可能な2分割構造で構成される。
【0020】
筐体40は、第1の筐体部401と第2の筐体部402との結合体で構成される。第1の筐体部401は、発音ユニット30を内部に収容する収容空間を有する。第2の筐体部402は、発音ユニット30により生成される音波を外部へ導く導音路41を有し、第1の筐体部401とZ軸方向に組み合わされることで、発音ユニット30を被覆する。
【0021】
導音路41は、その基端部(イヤピース20が装着される先端部とは反対の端部)に導音口41aを有する。導音口41aは、導音路41の入口に相当し、XY平面に平行な円形の開口形状を有する。導音口41aは、筐体40の中心からX軸方向に偏った位置に設けられるとともに、圧電式発音体32とZ軸方向に対向している。導音路41は、導音口41aからZ軸方向に対してX軸方向へ所定角度傾斜して第2の筐体部42の底部410から外方へ直線的に突出する。
【0022】
筐体40の内部空間は、圧電式発音体32によって第1の空間部S1と第2の空間部S2とに区画される。第1の空間部S1には電磁式発音体31が配置される。第2の空間部S2は、導音路41に連通する空間部であり、圧電式発音体32と第2の筐体部402の底部410との間に形成される。第1の空間部S1と第2の空間部S2とは、圧電式発音体32の通路部330(図3参照)を介して相互に連通している。
【0023】
[電磁式発音体]
電磁式発音体31は、低音域を再生するウーハ(Woofer)として機能するダイナミック型スピーカユニットで構成される。本実施形態では、例えば7kHz以下の音波を主として生成するダイナミックスピーカで構成され、ボイスコイルモータ(電磁コイル)等の振動体を含む機構部311と、機構部311を振動可能に支持する台座部312とを有する。
【0024】
電磁式発音体31の機構部311の構成は特に限定されない。図2は、機構部311の一構成例を示す要部の断面図である。機構部311は、台座部312に振動可能に支持された振動板E1(第2の振動板)と、永久磁石E2と、ボイスコイルE3と、永久磁石E2を支持するヨークE4とを有する。振動板E1は、その周縁部が台座部312の底部とこれに一体的に組み付けられる環状固定具310との間に挟持されることで、台座部312に支持される。
【0025】
ボイスコイルE3は、巻き芯となるボビンに導線を巻きつけて形成され、振動板E1の中央部に接合されている。また、ボイスコイルE3は、永久磁石E2の磁束の方向に対して垂直に配置される。ボイスコイルE3に交流電流(音声信号)を流すとボイスコイルE3に電磁力が作用するため、ボイスコイルE3は信号波形に合わせて図中Z軸方向に振動する。この振動がボイスコイルE3に連結された振動板E1に伝達され、第1の空間部S1(図1)内の空気を振動させることにより上記低音域の音波を発生させる。
【0026】
電磁式発音体31は、筐体40の内部に適宜の方法で固定される。電磁式発音体31の上部には、発音ユニット30の電気回路を構成する回路基板33が固定されている。回路基板33は、筐体40のリード部42を介して導入されたケーブル50と電気的に接続され、図示しない配線部材を介して電磁式発音体31及び圧電式発音体32へそれぞれ電気信号を出力する。
【0027】
[圧電式発音体]
圧電式発音体32は、高音域を再生するツイータ(Tweeter)として機能するスピーカユニットを構成する。本実施形態では、例えば7kHz以上の音波を主として生成するようにその発振周波数が設定される。圧電式発音体32は、振動板321(第1の振動板)と、圧電素子322とを有する。
【0028】
振動板321は、金属(例えば42アロイ)等の導電材料または樹脂(例えば液晶ポリマー)等の絶縁材料で構成され、その平面形状は略円形に形成される。「略円形」とは、円形だけでなく、後述するように実質的に円形のものも意味する。振動板321の外径や厚みは特に限定されず、筐体40の大きさ、再生音波の周波数帯域などに応じて適宜設定される。本実施形態では、直径約8〜12mm、厚み約0.2mmの振動板が用いられる。
【0029】
振動板321は、必要に応じ、その外周から内周側に向けてくぼむ凹状やスリット状などに形成された切欠き部を有していてもよい。なお、振動板321の平面形状は、概形が円形であれば、上記切欠き部が形成されることなどにより厳密には円形でない場合にも、実質的に円形として扱うものとする。
【0030】
振動板321は、導音路41に臨む第1の主面32aと、電磁式発音体31に臨む第2の主面32bとを有する。本実施形態において圧電式発音体32は、振動板321の第1の主面32aにのみ圧電素子322が接合されたユニモルフ構造を有する。
なおこれに限られず、圧電素子322は、振動板321の第2の主面32bに接合されてもよい。また、圧電式発音体32は、振動板321の両主面32a,32bに圧電素子がそれぞれ接合されたバイモルフ構造で構成されてもよい。
【0031】
図3は、圧電式発音体32の平面図である。
【0032】
図3に示すように、圧電素子322の平面形状は矩形状であり、圧電素子322の中心軸は、典型的には、振動板321の中心軸C1と同軸上に配置されている。これに限られず、圧電素子322の中心軸は、振動板321の中心軸C1よりも例えばX軸方向に所定量だけ変位してもよい。つまり、圧電素子322は、振動板321に対して偏心した位置に配置されてもよい。これにより、振動板321の振動中心が中心軸C1とは異なる位置にずれるため、圧電式発音体32の振動モードが振動板321の中心軸C1に関して非対称となる。したがって、例えば振動板321の振動中心を導音路41に接近させることにより、高音域の音圧特性の更なる向上を図ることができる。
【0033】
振動板321は、その面内に複数の通路部330を有する。これら通路部330は、振動板321を厚み方向(Z軸方向)に貫通する通路部を構成し、第1の開口部331と、第2の開口部332とを含む。通路部330は、筐体40の内部において、第1の空間部S1と第2の空間部S2とを相互に連通させる。
【0034】
第1の開口部331は、周縁部321cと圧電素子322との間にそれぞれ設けられ、X軸方向に長辺を有する矩形状に形成される。第1の開口部331は、圧電素子322の周縁部に沿って形成され、それらの一部は、圧電素子322の周縁部に部分的に被覆される。第1の開口部331は、振動板321の表裏を貫通する通路としての機能のほか、後述するように、圧電素子322の有する2つの外部電極間の短絡防止の機能をも有する。
【0035】
第1の開口部331は、通路部330を構成する複数の開口部のうち最も大きい開口面積を有する開口部である。第1の開口部331の数は特に限定されず、1つ又は2つ以上であってもよい。本実施形態では、圧電素子322のY軸方向に対向する一対の対辺の直下にそれぞれ同一の大きさで設けられた、X軸方向に長辺を有する開口形状が矩形の開口部で構成される。
【0036】
第2の開口部332は、振動板321の周縁部321cと圧電素子322との間の領域に設けられた複数の円形の孔で構成される。これら第2の開口部332は、中心線CL(振動板321の中心を通るX軸方向に平行な線)上の、中心軸C1に関して対称な位置にそれぞれ(計4つ)設けられる。第2の開口部332はそれぞれ同一径(例えば直径約1mm)の丸孔で形成されるが、勿論これに限られない。
【0037】
本実施形態では、図3に示すように、振動板321の周縁部に90度間隔で円弧状あるいは矩形状の凹部321a,321bが設けられている。これらの凹部321a,321bは、筐体40あるいは支持部材50への振動板321の接合時に参照される基準点として用いられてもよいし、振動板321への圧電素子322の位置決めに参照される基準点として用いられてもよい。特に図示するように、4つの凹部のうち1つの凹部321bを他の3つの凹部321aとは異なる形状とすることで、振動板321の方向性を示す指針が得られるため、筐体40に対する誤組付けを防止できるという利点がある。
【0038】
本実施形態において導音口41aは、第1の開口部331とZ軸方向に重なり合わない(対向しない)位置に設けられる。換言すれば、圧電式発音体32は、第1の開口部331が導音路41aとZ軸方向に重なり合わないように筐体40に装着される。これにより、後述するように、圧電式発音体32の音響特性の向上を図ることができる。なお図3には、導音口41aが第2の開口部332のうち1つの開口部とZ軸方向に重なり合う(対向する)位置に設けられた例を示している。
【0039】
図4は、圧電素子322の内部構造を示す概略断面図である。
【0040】
圧電素子322は、素体328と、XY軸方向に相互に対向する第1の外部電極326a及び第2の外部電極326bとを有する。また、圧電素子322は、相互に対向するZ軸に垂直な第1の主面322a及び第2の主面322bを有する。圧電素子322の第2の主面322bは、振動板321の第1の主面32aに対向する実装面として構成される。
【0041】
素体328は、セラミックシート323と、内部電極層324a,324bとがZ軸方向に積層された構造を有する。つまり、内部電極層324a,324bは、セラミックシート323を挟んで交互に積層されている。セラミックシート323は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、アルカリ金属含有ニオブ酸化物等の圧電材料によって形成されている。内部電極層324a,324bは各種金属材料などの導電性材料によって形成されている。
【0042】
素体328の第1の内部電極層324aは、第1の外部電極326aに接続されるとともに、セラミックシート323のマージン部によって第2の外部電極326bから絶縁されている。また、素体328の第2の内部電極層324bは、第2の外部電極326bに接続されるとともに、セラミックシート323のマージン部によって第1の外部電極326aから絶縁されている。
【0043】
図4において、第1の内部電極層324aの最上層は、素体328の表面(図4において上面)を部分的に被覆する第1の引出電極層325aを構成し、第2の内部電極層324bの最下層は、素体328の裏面(図4において下面)を部分的に被覆する第2の引出電極層325bを構成する。第1の引出電極層325aは、回路基板33(図1)と電気的に接続される一方の極の端子部327aを有し、第2の引出し電極層325bは、適宜の接合材を介して振動板321の第1の主面32aに電気的かつ機械的に接続される。振動板321が導電性材料で構成される場合、接合材には、導電性接着剤、はんだ等の導電性接合材が用いられてもよく、この場合には他方の極の端子部を振動板321に設けることができる。
【0044】
第1及び第2の外部電極326a,326bは、素体328のX軸方向の両端面の略中央部に各種金属材料などの導電性材料によって形成されている。第1の外部電極326aは、第1の内部電極層324a及び第1の引出電極層325aと電気的に接続され、第2の外部電極326bは、第2の内部電極層324b及び第2の引出電極層325bと電気的に接続される。
【0045】
このような構成により、外部電極326a,326b間に交流電圧が印加されると、各内部電極層324a,324b間にある各セラミックシート323が所定周波数で伸縮する。これにより、圧電素子322は振動板321に付与する振動を発生させることができる。
【0046】
ここで、第1及び第2の外部電極326a,326bは、図4に示すように、それぞれ素体328の上記両端面の各々から突出する。このとき、第1及び第2の外部電極326a,326bは、振動板321の第1の主面32aに向かって突出する隆起部329a,329bが形成される場合がある。そこで、上述の第1の開口部331は、隆起部329a,329bを収容できる大きさに形成される。これにより、隆起部329a,329bと振動板321との接触による外部電極326a,326b間の電気的短絡が阻止される。
【0047】
イヤホン100は、筐体40の内部において圧電式発音体32を振動可能に支持する支持部材50(支持部)を有する。図5は支持部材50の概略平面図、図6は支持部材50を含む発音ユニット30の分解側断面図である。
【0048】
支持部材50は、図5に示すようにリング状(円環状)のブロック体で構成される。支持部材50は、圧電式発音体32の振動板321の周縁部321cを支持する支持面51と、筐体40の内壁面に対向する外周面52と、第1の空間部S1に臨む内周面53と、筐体40(第2の筐体部402)に接合される先端面54と、電磁式発音体31の周縁部に接合される底面55とを有する。
【0049】
支持面51は、円環状の粘着材層61(第1の粘着材層)を介して振動板321の周縁部321cに接合される。これにより、振動板321は支持部材50に対して弾性的に支持されるため、振動板321の共振のぶれが抑制され、振動板321の安定した共振動作が確保される。
【0050】
また、先端面54は、円環状の粘着材層62(第2の粘着材層)を介して第2の筐体部402の周縁内周部に接合される。底面55は、円環状の粘着材層63(第3の粘着材層)を介して電磁式発音体31に接合される。これにより、第1の筐体部401と第2の筐体部402との間で支持部材50を弾性的に挟持することができるため、支持部材50により圧電式発音体32を安定に支持することができる。
【0051】
粘着材層61〜63は、適度な弾性を有する材料で構成され、典型的には、各々所定の径でカッティングされた両面粘着テープで構成される。これ以外にも、粘着材層61〜63は、粘弾性樹脂の硬化物や加圧接着性の粘弾性フィルム等で構成されてもよい。また、粘着材層61〜63が環状体で構成されることにより、電磁式発音体31と支持部材50との間の気密性、支持部材50と振動板321との間の気密性、そして、支持部材50と筐体40との間の気密性がそれぞれ高められ、第1及び第2の空間部S1,S2で発生した音波を効率よく導音路41へ導くことができる。
【0052】
支持部材50は、例えば、3GPa以上のヤング率(縦弾性係数)を有する材料で構成される。このような材料で構成された支持部材50は、比較的高い剛性を確保することができるため、7kHz以上の比較的高い周波数帯域で振動する圧電式発音体31(振動板321)を安定に支持することができる。
【0053】
支持部材50を構成する材料のヤング率の上限は特に限定されないが、例えば5GPa以上の材料単体では、金属やセラミックス等の無機材料にほぼ限定されるため、重量や生産コスト等との兼ね合いで上限は適宜設定可能であり、例えば500GPa以下とすることができる。一方、支持部材50を合成樹脂材料製とすることにより、軽量化、生産性の点で有利である。
【0054】
ヤング率が3GPa以上の材料としては、例えば、金属材料、セラミックス、合成樹脂材料、合成樹脂材料を主体とする複合材料が挙げられる。金属材料としては、圧延鋼、ステンレス鋼、鋳鉄等の鉄系材料のほか、アルミニウムや黄銅等の非鉄系材料など、特に制限なく採用可能である。セラミックスとしては、SiCやAl等の適宜の材料が適用可能である。
【0055】
合成樹脂材料としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリアセタール(POM)、硬質塩化ビニル、メチルメタクリレート・スチレン共重合体(MS)等が挙げられる。また、ポリカーボネート(PC)やスチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(ABS)等のような単体で3GPa以上のヤング率を有しない樹脂材料であっても、これにガラス繊維等の繊維質や無機粒子等の微粒子からなるフィラー(充填材)が添加された、ヤング率(縦弾性係数)3GPa以上の複合材料(強化型プラスチック)が採用可能である。
【0056】
支持部材50は、単純な板材ではなく領域によって厚みが異なる3次元形状に形成されてもよい。これにより断面二次モーメントが大きくすることができ、同一のヤング率を有する材料であっても剛性(曲げ剛性)をさらに高めることができる。
【0057】
例えば本実施形態における支持部材50には、支持面51の外周縁部に沿って上方へ突出し、振動板321の周縁部321cを囲繞する環状片部56(第1の環状片部)が設けられており(図6参照)、その頂部に上述した先端面54が形成されている。これにより支持部材50の外周側が内周側よりも厚肉となるため、捻りや曲げに対する剛性が高められる。
【0058】
[イヤホンの動作]
続いて、以上のように構成される本実施形態のイヤホン100の典型的な動作について説明する。
【0059】
本実施形態のイヤホン100において、発音ユニット30の回路基板33には、ケーブル50を介して再生信号が入力される。再生信号は、回路基板33を介して、電磁式発音体31及び圧電式発音体32にそれぞれ入力される。これにより、電磁式発音体31が駆動されて、主として7kHz以下の低音域の音波が生成される。一方、圧電式発音体32においては、圧電素子322の伸縮動作により振動板321が振動し、主として7kHz以上の高音域の音波が生成される。生成された各帯域の音波は、導音路41を介してユーザの耳に伝達される。このようにイヤホン100は、低音域用の発音体と高音域用の発音体とを有するハイブリッドスピーカとして機能する。
【0060】
一方、電磁式発音体31によって発生した音波は、圧電式発音体32の振動板321を振動させて第2の空間部S2へ伝播する音波成分と、通路部330を介して第2の空間部S2へ伝播する音波成分との合成波で形成される。したがって、通路部330の大きさ、個数等を最適化することにより、圧電式発音体32から出力される低音域の音波を、例えば所定の低音帯域に音圧ピークが得られるような周波数特性に調整あるいはチューニングすることが可能となる。
【0061】
本実施形態によれば、導音口41aが圧電式発音体32の第1の開口部331とZ軸方向に重なり合わない位置に設けられているため、圧電式発音体32の音圧特性の向上を図ることができる。
【0062】
図7及び図8は、圧電式発音体32に対する導音口41aの相対位置の違いによる音圧特性の変化を示す一実験結果である。本実験では、図3に示す圧電式発音体32を作製し、筐体40内において中心軸C1のまわりに15°ピッチで回転させながら導音口41aとの相対位置を変化させ、その各々について8kHz〜20kHzの平均音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)を測定した。ここでは、図8Aに示す圧電式発音体32の回転位置を0°とし、ここから時計まわりに180°回転させた。図7において各回転位置における音圧レベルは、0°のときの平均音圧レベルとの差分で示した。
【0063】
圧電式発音体32の各部の寸法は以下のとおりとした。
振動板321の直径:12mm
圧電素子322の大きさ:縦(Y軸方向寸法)7mm、横(X軸方向寸法)7mm
第1の開口部331の大きさ:長さ(X軸方向寸法)3.6mm、幅(Y軸方向寸法)0.5mm
第2の開口部332の直径:1mm
導音口41aの直径:4.1mm
【0064】
図7に示すように、0°以外のすべての回転位置において、0度よりも高い平均音圧レベルが得られることが確認された。なお、圧電式発音体32はX軸に関して対称であるため(図3参照)、180°における音圧レベルは実質的に0度のときの同じで評価される。
【0065】
また、図7においてR1で示す角度範囲は、導音口41aと第1の開口部331との重なりが最大とならない領域を示しており、当該角度範囲では回転位置に応じて音圧レベルが変動することがわかる。中でも、R2で示す角度範囲(60°〜120°)は、導音口41aと第1の開口部331とがZ軸方向に重なり合わない領域に相当し、他の角度範囲と比較して高い音圧レベルが得られることがわかる。
【0066】
以上のように本実施形態によれば、導音口41aが第1の開口部331と対向しない位置に配置されているため、本実施形態のように電磁式発音体31と圧電式発音体32とを備えた電気音響変換装置100においては、電磁式発音体31の発生音がダイレクトに導音路41へ到達しにくくなる。これにより圧電式発音体32に起因する高音域の音圧レベルを相対的に大きくすることができる。
【0067】
<第2の実施形態>
図9は、本発明の第2の実施形態に係る電気音響変換装置における圧電式発音体の平面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0068】
本実施形態の圧電式発音体72は、円形の振動板721の面内に設けられた通路部としての第1の開口部731及び第2の開口部732の2つの開口部を有する。第1及び第2の開口部731,732は、短絡防止用の開口部としての機能をも有する。第1の開口部731は、第2の開口部732よりも大きな開口面積で形成される。
【0069】
第1の開口部731は、振動板721の周縁部721cと圧電素子322の一側辺部との間の領域に概略半円または半月形状に形成される。本実施形態において圧電式発音体72は、図9に示すように、第1の開口部731が導音口41aにZ軸方向に対向しないように筐体40に組み立てられる。第2の開口部732は、第1の実施形態における第1の開口部331と同様な矩形状に形成される。
【0070】
振動板721の周縁部721cには、90°間隔で4つの凹部721a,721bが設けられている。これら凹部721a,721bは、筐体40に対する位置決めに用いられる。特に図示するように、4つの凹部のうち1つの凹部721bを他の3つの凹部721aとは異なる形状とすることで、振動板721の方向性を示す指針が得られるため、筐体40に対する誤組付けを防止できるという利点がある。
【0071】
以上のように構成される本実施形態の電気音響変換装置によれば、導音口41aが圧電式発音体32の第1の開口部331とZ軸方向に重なり合わない位置に設けられているため、第1の実施形態と同様に、圧電式発音体72の音圧特性の向上を図ることができる。
【0072】
図10及び図11は、圧電式発音体72に対する導音口41aの相対位置の違いによる音圧特性の変化を示す一実験結果である。本実験では、図9に示す圧電式発音体72を作製し、筐体40内において中心軸C1のまわりに15°ピッチで回転させながら導音口41aとの相対位置を変化させ、その各々について8kHz〜20kHzの平均音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)を測定した。ここでは、図11Aに示す圧電式発音体32の回転位置を0°とし、ここから時計まわりに360°回転(1回転)させた。図10において各回転位置における音圧レベルは、0°のときの平均音圧レベルとの差分で示した。
【0073】
圧電式発音体72の各部の寸法は以下のとおりとした。
振動板721の直径:12mm
圧電素子322の大きさ:縦(Y軸方向寸法)7mm、横(X軸方向寸法)7mm
第1の開口部731の大きさ:長さ(X軸方向最大寸法)6.1mm、幅(Y軸方向最大寸法)1.6mm
第2の開口部332の直径:1mm
導音口41aの直径:4.1mm
【0074】
図10に示すように、0°及び180°以外のすべての回転位置において、0°よりも高い平均音圧レベルが得られることが確認された。
【0075】
また、図10においてR1で示す角度範囲は、導音口41aと第1の開口部731との重なりが最大とならない領域を示しており、当該角度範囲では回転位置に応じて音圧レベルが変動することがわかる。中でも、R2で示す角度範囲(60°〜300°)は、導音口41aと第1の開口部331とがZ軸方向に重なり合わない領域に相当し、比較的高い音圧レベルが得られることがわかる。特に、R3で示す角度範囲(約100°〜約230°)は他の角度範囲と比較して高い音圧レベルが得られることがわかる。
【0076】
<第3の実施形態>
図12は、本発明の第3の実施形態に係る電気音響変換装置における圧電式発音体の平面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0077】
本実施形態の圧電式発音体82は、通路部330を構成する開口部831の構成が第1の実施形態と異なる。すなわち、開口部831は、振動板321及び圧電素子322をそれらの厚み方向(Z軸方向)に貫通する単一の貫通孔で構成される。開口部831は、振動板321(圧電式発音体82)の中心部に設けられている。開口部831の開口形状は図示する円形に限られず、楕円、矩形その他の形状で形成されてもよい。
【0078】
本実施形態の電気音響変換装置においても、導音口41aが圧電式発音体32の開口部831とZ軸方向に重なり合わない位置に設けられる。開口部831は、Z軸方向に導音口41aと重なり合わない適宜の大きさに形成される。これにより、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0079】
本実施形態よれば、開口部831が振動板321の中心部に導音口41aとZ軸方向に重なり合わない大きさに形成されているため、筐体40に対する圧電式発音体82の相対位置(回転位置)に依存しない音響特性を得ることができる。
【0080】
なお、開口部831は振動板321の中心部に設けられる場合に限られず、例えば図13に示すように振動板321の中心部以外に設けられてもよい。また、開口部831以外にも他の開口部が圧電素子322の面内に設けられてもよいし、図13に示すように圧電素子322の外部電極の短絡防止を兼ねる開口部331や、振動板321の周縁部321cと圧電素子322の間に設けられた開口部332(図3参照)等が振動板321にさらに設けられてもよい(図12についても同様)。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0082】
例えば以上の実施形態では、電磁式発音体31と圧電式発音体32,72の双方を備えた電気音響変換装置を例に挙げて説明したが、圧電式発音体のみで構成された電気音響変換装置にも本発明は適用可能である。
【0083】
また以上の実施形態では、電気音響変換装置としてイヤホンを例に挙げて説明したが、これに限られず、ヘッドホン、据え置き型スピーカ、携帯情報端末に内蔵されるスピーカ等にも本発明は適用可能である。
【0084】
さらに以上の実施形態では、支持部材50が圧電式発音体32を支持する支持部として設けられたが、支持部材50は筐体40あるいは電磁式発音体31の一部として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0085】
31…電磁式発音体
32,72,82…圧電式発音体
40…筐体
41a…導音口
100,200…イヤホン
321,721…振動板
322…圧電素子
331,731…第1の開口部
332,732…第2の開口部
831…開口部
401…第1の筐体部
402…第2の筐体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13