(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記試料調製部は、前記尿検体の一部に前記溶血剤を混合して前記測定試料を調製するとともに、前記尿検体の他の一部から赤血球を溶血することなく他の測定試料を調製し、
前記受光部は、前記光の照射により前記フローセルを流れる前記他の測定試料から生じた光を受光し、
前記解析部は、前記受光部が前記他の測定試料から受光した光に基づいて、前記他の測定試料中の赤血球を検出する、請求項1ないし5の何れか一項に記載の尿分析装置。
前記試料調製部は、細胞膜に結合し前記光源からの光により蛍光を発する細胞膜結合色素を含有する他の染色剤を前記尿検体の他の一部に混合して前記他の測定試料を調製し、
前記受光部は、前記光の照射により前記他の測定試料から生じた蛍光を受光し、
前記解析部は、前記受光部が前記他の測定試料から受光した前記蛍光に基づいて、前記他の測定試料中の赤血球を検出する、請求項6に記載の尿分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
尿中の有形成分の分析には、フローサイトメトリー方式の尿分析装置を用いることができる。フローサイトメトリー方式の尿分析装置を用いることにより、尿中の白血球や赤血球、結晶、円柱、真菌、上皮細胞、細菌等の種々の有形成分を検出できる。しかし、脂肪粒子は染色されにくいため、フローサイトメトリー法に基づいた従来の解析手法では、尿中の脂肪粒子を適正に検出することは困難であった。また、上記特許文献1の手法では、酵素反応により尿中の脂肪粒子を測定するものであるため、この手法の実行には、フローサイトメトリー方式の測定とは別の測定を行う必要がある。このため、この手法を用いる場合は、手間と費用を要する結果となってしまう。したがって、フローサイトメトリー方式の尿分析装置において、脂肪粒子を検出することが望まれていた。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、フローサイトメトリー法に基づいて尿中の脂肪粒子を検出できる尿分析装置および尿分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、尿分析装置に関する。本態様に係る尿分析装置(10)は、尿検体に溶血剤を混合して測定試料を調製する試料調製部(30)と、測定試料が流されるフローセル(41)と、フローセル(41)を流れる測定試料に光を照射するための光源(42)と、光の照射により測定試料から生じた散乱光を受光し、散乱光信号を出力する受光部(50)と、受光部(50)が出力した
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと、散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとを用いて、測定試料中の脂肪粒子を検出する解析部(12)と、を備える。
【0008】
散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータとは、散乱光信号の波形の高さを反映した値のことである。散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータは、たとえば、散乱光信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの散乱光信号の波形のピークすなわち最大値である。散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータは、散乱光信号の波形の高さを反映していればよく、ピークの半分の値でもよい。散乱光信号の
波形の幅を反映するパラメータとは、散乱光信号の波形の幅を反映した値のことである。散乱光信号の
波形の幅を反映するパラメータは、たとえば、ベースラインより大きい強度を示す散乱光信号の波形の幅である。この場合のベースラインは、装置内の各種の設定等に応じて設定され得る。散乱光信号の波形の幅は、測定対象となる有形成分がフローセル中の感知領域を通過している間の通過時間を示す。言い換えれば、散乱光信号の
波形の幅を反映するパラメータは、たとえば、散乱光信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの散乱光信号の波形の時間間隔である。脂肪粒子とは、細胞外に存在する脂肪分子の集合体を意味し、たとえば、脂肪滴や脂肪球を含む。
【0009】
本態様に係る尿分析装置よれば、脂肪粒子と類似の散乱光信号を生じ得る赤血球が溶血されるため、赤血球が脂肪粒子として検出されることを抑制できる。また、脂肪粒子は球状であるため、脂肪粒子に基づく散乱光信号には、強度と幅との間に所定の関係を規定でき、この関係に基づいて脂肪粒子を適正に検出できる。さらに、測定試料がフローセルに流されて測定されるため、脂肪粒子の比重が小さくても、脂肪粒子の散乱光信号を適正に取得でき、脂肪粒子の検出漏れを抑制できる。よって、本態様に係る尿分析装置によれば、脂肪粒子を精度良く検出できる。また、脂肪粒子の検出結果を、腎疾患の診断等に役立てることができる。
【0010】
本態様に係る尿分析装置(10)において、受光部(50)は、測定試料から生じた散乱光として前方散乱光を受光するよう構成され得る。前方散乱光とは、前方方向に生じた散乱光だけでなく、前方方向から僅かにずれた方向に生じた散乱光をも含む概念である。前方散乱光は、前方散乱光以外の他の散乱光に比べて、脂肪粒子の形状をより適正に反映する。よって、前方散乱光によれば、脂肪粒子を適正に検出できる。
【0011】
本態様に係る尿分析装置(10)において、試料調製部(30)は、核酸に結合し光源(42)からの光により蛍光を発する核酸結合色素を含有する染色剤を尿検体にさらに混合して測定試料を調製し、受光部(50)は、光の照射により測定試料から生じた蛍光を受光し、解析部(12)は、
測定試料中の脂肪粒子の検出において、前記2つのパラメータとともに、受光部(50)が受光した蛍光にさらに基づいて、測定試料中の脂肪粒子を検出するよう構成され得る。尿検体には、小型の酵母様真菌や、連鎖していない球菌等の細菌も含まれることがある。これらの酵母様真菌および細菌は、散乱光に基づく2つのパラメータの値において、脂肪粒子と重なり得る。他方、これらの酵母様真菌および細菌は、核酸を有するため核酸結合色素が結合するが、脂肪粒子は、核酸を有さないため核酸結合色素が結合しない。したがって、核酸結合色素を含有する染色剤をさらに尿検体に混合し、核酸結合色素からの蛍光にさらに基づけば、これらの酵母様真菌および細菌を、脂肪粒子の検出対象から排除できる。よって、脂肪粒子をより精度良く検出できる。
【0012】
本態様に係る尿分析装置(10)において、解析部(12)は、検出した脂肪粒子を計数するよう構成され得る。脂肪粒子の数は、尿検体または測定試料に含まれる脂肪粒子の個数自体に限らず、尿検体または測定試料の単位体積あたりに含まれる脂肪粒子の個数をも含む概念である。
【0013】
本態様に係る尿分析装置(10)は、尿検体を検体容器(25)内で攪拌するための攪拌部(21)と、攪拌部(21)により尿検体を攪拌した後、尿検体を検体容器(25)から吸引する吸引部(22、23)と、を備え、試料調製部(30)は、吸引部(22、23)により吸引された尿検体から測定試料を調製するよう構成され得る。こうすると、比重の小さい脂肪粒子が攪拌部により尿検体中に拡散された後、吸引部により尿検体が吸引されるため、試料調製部で調製される尿検体中に脂肪粒子を確実に含めることができる。よって、尿検体に含まれる脂肪粒子をより精度よく検出できる。
【0014】
本態様に係る尿分析装置(10)において、試料調製部(30)は、尿検体の一部に溶血剤を混合して測定試料を調製するとともに、尿検体の他の一部から赤血球を溶血することなく他の測定試料を調製し、受光部(50)は、光の照射によりフローセル(41)を流れる他の測定試料から生じた光を受光し、解析部(12)は、受光部(50)が他の測定試料から受光した光に基づいて、他の測定試料中の赤血球を検出するよう構成され得る。こうすると、腎疾患の罹患の可能性を判断するのに極めて有効な赤血球をさらに検出できる。
【0015】
この場合に、試料調製部(30)は、細胞膜に結合し光源(42)からの光により蛍光を発する細胞膜結合色素を含有する他の染色剤を尿検体の他の一部に混合して他の測定試料を調製し、受光部(50)は、光の照射により他の測定試料から生じた蛍光を受光し、解析部(12)は、受光部(50)が他の測定試料から受光した蛍光に基づいて、他の測定試料中の赤血球を検出するよう構成され得る。他の測定試料から受光した蛍光に基づけば、赤血球および結晶を合わせた有形成分以外の有形成分などを除去でき、不適正な形状の赤血球などを除去できる。
【0017】
この場合に、受光部(50)は、光の照射によりフローセル(41)を流れる他の測定試料から生じた散乱光を受光して散乱光信号を出力し、解析部(12)は、測定試料から脂肪粒子を検出した場合、
他の測定試料からの蛍光に基づき赤血球として検出した有形成分について、他の測定試料から得られた
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと、他の測定試料から得られた散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとにより
、脂肪粒子の出現範囲(341)
を規定し、赤血球として検出した有形成分から脂肪粒子の出現範囲(341)に含まれる有形成分を除いた有形成分を、他の測定試料中の赤血球
として計数するよう構成され得る。赤血球を含む有形成分の出現範囲とは、たとえば、有形成分を赤血球とみなすためのデータ範囲であり、スキャッタグラム上に設定された領域に対応する。脂肪粒子の出現範囲とは、たとえば、有形成分を脂肪粒子とみなすためのデータ範囲であり、スキャッタグラム上に設定された領域に対応する。この構成によれば、脂肪粒子と赤血球を区別できるため、脂肪粒子が赤血球として計数されてしまうことを抑制できる。
【0018】
この場合に、解析部(12)は、測定試料から脂肪粒子を検出した場合、
他の測定試料から蛍光に基づき赤血球として検出した有形成分のうち、他の測定試料について規定した脂肪粒子の出現範囲(341)を除いた範囲に含まれる有形成分を、他の測定試料中の赤血球として計数するよう構成され得る。散乱光信号の強度および幅を反映するパラメータを用いる場合、赤血球を含む有形成分の出現範囲の一部に、脂肪粒子の出現範囲が重なる。したがって、脂肪粒子が存在する場合は、脂肪粒子が赤血球として検出されてしまう可能性がある。よって、このような場合に、赤血球を含む有形成分の出現範囲から脂肪粒子の出現範囲を除くことにより、赤血球をより正確に検出できる。また、腎疾患の患者から採取した尿検体には脂肪粒子が出現しやすいため、このような尿検体の場合、赤血球が混じっていないにも関わらず赤血球の検出結果が陽性となる偽陽性が発生しやすい。しかしながら、この構成によれば、赤血球を含む有形成分の出現範囲から脂肪粒子の出現範囲が除かれるため、脂肪粒子を含む尿検体の場合に赤血球の検出結果が陽性となる偽陽性を抑制できる。
【0019】
本態様に係る尿分析装置(10)は、表示部(83)を備え、解析部(12)は、測定試料から脂肪粒子を検出した場合には、脂肪粒子の存在を示唆する情報(621)とともに他の測定試料から得られた赤血球の計数結果を表示部(83)に表示させるよう構成され得る。赤血球の計数結果は、尿検体または他の測定試料に含まれる赤血球の個数自体に限らず、尿検体または他の測定試料の単位体積あたりに含まれる赤血球の個数をも含む概念である。この構成によれば、赤血球の検出において脂肪粒子が干渉したことをオペレータに知らせることができる。
【0020】
本態様に係る尿分析装置(10)において、光源(42)は、フローセル(41)を流れる測定試料に直線偏光の光を照射し、受光部(50)は、測定試料から生じ直線偏光が解消された偏光解消散乱光を受光し、解析部(12)は、受光部(50)が測定試料から受光した偏光解消散乱光に基づいて、測定試料中の脂肪細胞を検出するよう構成され得る。脂肪細胞とは、一部が脂肪に変性した状態や脂肪粒子を取り込んだ状態の細胞を意味し、たとえば、卵円形脂肪体や脂肪円柱などを含む。受光部は、偏光解消散乱光として、たとえば、側方方向に生じた側方散乱光に基づく偏光解消側方散乱光を受光する。この構成によれば、脂肪粒子とともに、腎疾患に対する罹患の可能性を判断するのに有効な脂肪細胞を検出できる。
【0021】
この場合に、脂肪細胞は、卵円形脂肪体を含む。こうすると、ネフローゼ症候群や慢性腎炎に対する罹患の可能性を判断するのに有効な卵円形脂肪体を検出できる。
【0022】
本態様に係る尿分析装置(10)は、表示部(83)を備え、解析部(12)は、尿検体中の有形成分の検出結果を表示部(83)に表示させるよう構成され得る。検出結果とは、たとえば、検出対象となった有形成分の有無や計数結果である。この構成によれば、オペレータは、脂肪粒子の検出結果を参照することにより、腎疾患に関する診断を行うことができる。また、赤血球および卵円形脂肪体の検出結果が表示される場合、オペレータは、これら検出結果を参照することにより、腎疾患に関する診断をさらに的確に行うことができる。
【0023】
本発明の第2の態様は、尿分析方法に関する。本態様に係る尿分析方法において、尿検体に溶血剤を混合して測定試料を調製(S11)し、測定試料をフローセル(41)に流し(S12)、フローセル(41)を流れる測定試料に光を照射することにより生じた散乱光を受光し(S13)、受光した散乱光に応じた
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと、散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとを用いて、測定試料中の脂肪粒子を検出する(S20)。
【0024】
本態様に係る尿分析方法よれば、第1の態様と同様の効果が奏される。
【0025】
本発明の第3の態様は、尿分析装置に関する。本態様に係る尿分析装置(10)は、尿検体から赤血球を溶血することなく測定試料を調製する試料調製部(30)と、測定試料が流されるフローセル(41)と、フローセル(41)を流れる測定試料に光を照射するための光源(42)と、光の照射により測定試料から生じた散乱光を受光し、散乱光信号を出力する受光部(50)と、受光部(50)が出力した
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとにより規定される赤血球を含む有形成分の出現範囲(340)から、散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと散乱光信号の
波形の幅を反映するパラメータとが所定の関係を有する
脂肪細胞の出現範囲(341)を除いた範囲に含まれる有形成分を赤血球として計数する解析部(12)と、を備える。
【0026】
散乱光の強度および幅を反映するパラメータを用いる場合、赤血球を含む有形成分の出現範囲の一部に、たとえば、脂肪粒子のような赤血球以外の有形成分の出現範囲が重なる。したがって、他の有形成分が存在する場合は、他の有形成分が赤血球として検出されてしまう可能性がある。本態様に係る尿分析装置によれば、このような場合に、赤血球を含む有形成分の出現範囲から他の有形成分に対応する所定の出現範囲を除くことにより、赤血球をより正確に検出できる。
【0028】
本態様に係る尿分析装置(10)において、試料調製部(30)は、尿検体の一部から測定試料を調製し、尿検体の他の一部に溶血剤を混合して他の測定試料を調製し、受光部(50)は、光の照射によりフローセル(41)を流れる他の測定試料から生じた散乱光を受光して散乱光信号を出力し、解析部(12)は、他の測定試料から得られた
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと、他の測定試料から得られた散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとが所定の関係を有する
脂肪細胞の出現範囲(221)で有形成分を検出しなかった場合は、赤血球を含む有形成分の出現範囲(340)に含まれる有形成分を赤血球として計数するよう構成され得る。「有形成分が検出されなかった場合」とは、たとえば、有形成分の個数が所定値以下である場合を示す。こうすると、測定試料に基づく赤血球を含む有形成分の出現範囲に重なり得る有形成分、たとえば脂肪粒子が、他の測定試料に基づいて尿検体中に存在するか否かが判定される。そして、赤血球を含む有形成分の出現範囲に重なり得る有形成分が検出されなかった場合、所定の範囲を除くことなく、赤血球を含む有形成分の出現範囲に含まれる有形成分が赤血球として計数される。これにより、赤血球の計数結果が意図せず少なくなることを抑制できる。
【0029】
本発明の第4の態様は、尿分析方法に関する。本態様に係る尿分析方法において、尿検体から赤血球を溶血することなく測定試料を調製し(S11)、測定試料をフローセル(41)に流し(S12)、フローセル(41)を流れる測定試料に光を照射することにより生じた散乱光を受光し(S13)、受光した散乱光に応じた
有形成分ごとの散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと散乱光信号の
前記波形の幅を反映するパラメータとにより規定される赤血球を含む有形成分の出現範囲(340)から、散乱光信号の
波形のピークを反映するパラメータと散乱光信号の
波形の幅を反映するパラメータとが所定の関係を有する
脂肪細胞の出現範囲(341)を除いた範囲に含まれる有形成分を赤血球として計数する(S21)。
【0030】
本態様に係る尿分析方法よれば、第3の態様と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、フローサイトメトリー法に基づいて尿中の脂肪粒子を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の実施形態は、尿検体中の有形成分を分析するフローサイトメトリー方式の尿分析装置に本発明を適用したものである。尿検体中の有形成分は、脂肪粒子、脂肪細胞、赤血球、白血球、精子、真菌、トリコモナス、上皮細胞、細菌、円柱、粘液糸、結晶などを含む。脂肪粒子とは、細胞外に存在する脂肪分子の集合体を意味し、たとえば、脂肪滴や脂肪球を含む。脂肪細胞とは、一部が脂肪に変性した状態や脂肪粒子を取り込んだ状態の細胞を意味し、たとえば、卵円形脂肪体や脂肪円柱などを含む。分析対象となる尿検体は、排泄された尿の他に、原尿、尿管中の尿、膀胱内の尿、尿道中の尿など、生体内から採取した尿を含む。
【0038】
図1に示すように、尿分析装置10は、測定部11と解析部12を備える。測定部11は、分注部20と、試料調製部30と、光学検出部40と、信号処理部60と、制御部70と、を備える。解析部12は、処理部81と、記憶部82と、表示部83と、入力部84と、を備える。解析部12は、たとえばパーソナルコンピュータにより構成される。
【0039】
図2に示すように、分注部20は、攪拌部21と、吸引部22、23と、チャンバ24と、を備える。攪拌部21は、尿検体を検体容器25内で攪拌する。吸引部22、23は、尿検体を検体容器25から吸引し、チャンバ24を介して試料調製部30に分注する。
【0040】
攪拌部21は、ノズル111と、圧力源112と、空圧源113と、を備える。ノズル111と圧力源112は、流路により接続されている。空圧源113は、ノズル111と圧力源112とを接続する流路上の位置114に、流路を介して接続されている。圧力源112は、ダイヤフラムポンプである。ノズル111は、図示しない機構により支持されており、この機構によって水平方向および鉛直方向に移動できる。なお、空圧源113は、測定部11において、洗浄液や測定試料を移動させる際にも用いられる。
【0041】
吸引部22は、ノズル121と、フィルタ122と、バルブ123、124と、圧力源125と、を備える。ノズル121は、ノズル111と一体的に移動可能となるよう、ノズル111を移動させるための機構に設置されている。ノズル121と、フィルタ122と、バルブ123と、圧力源125は、流路を介して直列に接続されている。バルブ124の両端は、ノズル121とフィルタ122とを接続する流路上の位置126aと、バルブ123と圧力源125とを接続する流路上の位置126bとに、それぞれ流路を介して接続されている。バルブ123、124は、電磁的に開閉可能に構成されている。フィルタ122は、尿検体中の異物は通過させず、尿検体中の有形成分は通過させる径の孔を備えている。圧力源125は、シリンジポンプである。
【0042】
なお、攪拌部21のノズル111と吸引部22のノズル121とは、一体的に移動可能となるよう構成されたが、それぞれ別々の機構に支持され個別に移動可能となるよう構成されてもよい。また、攪拌部21を省略して、吸引部22により、検体容器25内の尿検体が攪拌されてもよい。
【0043】
吸引部23は、ノズル131と圧力源132を備える。ノズル131と圧力源132は、流路を介して接続されている。圧力源132は、シリンジポンプである。ノズル131は、図示しない機構により支持されており、この機構によって水平方向および鉛直方向に移動できる。
【0044】
分注部20による分注動作は以下のように行われる。
【0045】
測定部11に尿検体を収容する検体容器25がセットされると、ノズル111が検体容器25内に挿入される。そして、圧力源112によって発生される吸引圧力によって、検体容器25内の尿検体がノズル111を介して吸引される。その後、圧力源112によって発生される吐出圧力によって、ノズル111と圧力源112とを接続する流路に吸引された尿検体が、ノズル111を介して検体容器25に戻される。このように、ノズル111による吸引および吐出によって、検体容器25内の尿検体の吸排攪拌が行われる。また、空圧源113から供給される空気が、流路を介してノズル111の先端から検体容器25の尿検体中に吐出される。このように、ノズル111から吐出される空気によって、検体容器25内の尿検体中に気泡が形成され、尿検体の気泡攪拌が行われる。尿検体に対する吸排攪拌および気泡攪拌が所定回数行われると、尿検体の攪拌が終了する。
【0046】
続いて、バルブ123が開けられバルブ124が閉じられた状態で、ノズル121が検体容器25内に挿入される。そして、圧力源125によって発生される吸引圧力によって、検体容器25内の尿検体がノズル121を介して吸引される。吸引された尿検体がフィルタ122を通過することにより、吸引された尿検体に含まれる異物が、フィルタ122により捕捉される。そして、ノズル121が検体容器25から退出した後、ノズル121が空気を吸引することにより、吸引された全ての尿検体が、位置126bよりも圧力源125側へ移動する。
【0047】
その後、バルブ123が閉じられバルブ124が開けられた状態で、ノズル121がチャンバ24内に挿入される。そして、圧力源125によって発生される吐出圧力によって、位置126bよりも圧力源125側の流路に収容された尿検体が、ノズル121を介してチャンバ24に吐出される。そして、ノズル121がチャンバ24から退出する。吸引部22によってチャンバ24に吐出された尿検体は、フィルタ122によって異物が取り除かれた状態の尿検体である。
【0048】
続いて、ノズル131がチャンバ24内に挿入され、圧力源132によって発生される吸引圧力によって、チャンバ24内の尿検体がノズル131を介して吸引される。続いて、ノズル131が、試料調製部30のチャンバ31内に挿入される。そして、圧力源132によって発生される吐出圧力によって、ノズル131を介して吸引された尿検体が、チャンバ31に吐出される。同様に、ノズル131が、試料調製部30のチャンバ32内に挿入される。そして、圧力源132によって発生される吐出圧力によって、ノズル131を介して吸引された尿検体が、チャンバ32に吐出される。これにより、チャンバ31に尿検体の一部が吐出され、チャンバ32に尿検体の他の一部が吐出される。以下、チャンバ31に吐出された尿検体を、「第1部分」と称し、チャンバ32に吐出された尿検体を、「第2部分」と称する。
【0049】
以上のように、攪拌部21は、検体容器25内の尿検体を攪拌し、吸引部22、23は、検体容器25内の攪拌された尿検体を、チャンバ24を介して試料調製部30に分注する。
【0050】
試料調製部30は、チャンバ31、32を備える。試料調製部30は、吸引部22、23により分注された尿検体と、試薬とを混合して、1つの尿検体から2種類の測定試料を調製する。
【0051】
チャンバ31には、染色液31aと希釈液31bが個別に供給可能に接続されている。チャンバ31において、尿検体の第1部分は、染色液31aおよび希釈液31bと混合される。これにより、尿検体の第1部分に含まれる有形成分が染色され、測定試料が調製される。以下、チャンバ31で調製される測定試料を、「第1測定試料」と称する。
【0052】
染色液31aは、核酸に特異的に結合する核酸結合色素を含む染色剤である。核酸結合色素は、後述する光源42からの光により蛍光を発する。第1測定試料は、尿検体中の白血球、上皮細胞、精子、真菌、トリコモナス、細菌などの核酸を有する細胞の分析に用いられる。以下、白血球、上皮細胞、精子、真菌、トリコモナス、細菌など、粒子の基本構造として核酸を有する尿検体中の粒子を「有核成分」と称する。精子および細菌は、核を持たないが核酸を含んでいるため有核成分に属する。
【0053】
有核成分を染色するための染色液31aとしては、脂質および蛋白質よりも核酸に結合しやすい色素が選ばれる。より詳細に説明すると、染色液31aには、核酸を特異的に染色するためのインターカレータや副溝(minor groove)に結合する色素が含まれている。インターカレータとしては、シアニン系、アクリジン系、phenanthridium系の公知の色素が挙げられる。たとえば、シアニン系のインターカレータとしては、SYBR Green I、Thiazole orangeが挙げられる。アクリジン系のインターカレータとしては、Acridin orangeが挙げられる。phenanthridium系のインターカレータとしては、propidium Iodide、Ethidium bromideが挙げられる。副溝に結合する色素としては、DAPI、Hoechstの公知の色素が挙げられる。たとえば、Hoechetの副溝に結合する色素としては、Hoechst 33342、Hoechst 33258が挙げられる。実施形態の染色液31aに含まれる染色色素としては、シアニン系のインターカレータが好ましく、特に、SYBR Green I、Thiazole orangeが好ましい。
【0054】
希釈液31bは、溶血剤である。希釈液31bは、細胞膜に損傷を与えることにより染色液31aの膜通過を進行させるとともに、赤血球を溶血させ赤血球破片等の夾雑物を収縮させるためのカチオン系界面活性剤を含んでいる。希釈液31bは、カチオン系界面活性剤ではなく、ノニオン系界面活性剤を含んでもよい。尿検体と、染色液31aと、希釈液31bとが混合されることにより、有核成分がその構成および特性に応じた程度で染色される。
【0055】
なお、染色液31aと希釈液31bが個別にチャンバ31に供給されることに限らず、あらかじめ染色液31aと希釈液31bとが1つの試薬としてまとめられ、まとめられた1つの試薬がチャンバ31に供給されてもよい。
【0056】
チャンバ32には、染色液32aと希釈液32bが個別に供給可能に接続されている。チャンバ32において、尿検体の第2部分は、染色液32aおよび希釈液32bと混合される。これにより、尿検体の第2部分に含まれる有形成分が染色され、他の測定試料が調製される。以下、チャンバ32で調製される他の測定試料を、「第2測定試料」と称する。
【0057】
染色液32aは、細胞膜および蛋白質に結合する細胞膜結合色素を含む他の染色剤である。細胞膜結合色素は、後述する光源42からの光により蛍光を発する。第2測定試料は、尿検体中の赤血球、円柱、結晶、粘液糸などの核酸を有さない粒子の分析に用いられる。以下、赤血球、円柱、結晶、粘液糸など、粒子の基本構造として核酸を有さない尿検体中の粒子を「無核成分」と称する。
【0058】
無核成分を染色するための染色液32aとしては、核酸よりも細胞膜の脂質および蛋白質に結合しやすい色素が選ばれる。このような色素としては、シアニン系、スチリル系、アクリジン系色素のうち赤血球の形態に影響を及ぼさない色素が好ましい。無核成分を染色する色素としては、脂溶性カルボシアニン色素が好ましく、特にインドカルボシアニン色素、オキサカルボシアニン色素等が好ましい。具体的なインドカルボシアニン色素としては、DiI(1,1‘-dioctadecyl-3,3,3’,3‘-tetramethylindocarbocyanine perchlorate), DiD(1,1’-dioctadecyl-3,3,3‘,3’- tetramethylindodicarbocyanine), DiR(1,1’-dioctadecyltetramethyl indotricarbocyanine Iodide)等が挙げられる。オキサカルボシアニン色素としては、DiOC2(3)(3,3′-diethyloxacarbocyanine iodide), DiOC3(3)(3,3-Dipropyloxacarbocyanine iodide), DiOC4(3)(3,3′-Dibutyloxacarbocyanine iodide), DiOC5(3)(3,3-Dipentyloxacarbocyanine iodide)等が挙げられる。実施形態の染色液32aに含まれる染色色素としては、DiOC3(3)(3,3-Dipropyloxacarbocyanine iodide)が特に好ましい。
【0059】
希釈液32bは、緩衝剤である。希釈液32bは、赤血球を溶血させずに安定した蛍光信号を得ることができるように浸透圧補償剤を含んでいる。希釈液32bの浸透圧は、分類測定に適するような浸透圧となるよう100〜600mOsm/kgに調整されている。尿検体と、染色液32aと、希釈液32bとが混合されることにより、無核成分の細胞膜または蛋白質が染色される。
【0060】
なお、染色液32aと希釈液32bが個別にチャンバ32に供給されることに限らず、あらかじめ染色液32aと希釈液32bとが1つの試薬としてまとめられ、まとめられた1つの試薬がチャンバ32に供給されてもよい。
【0061】
チャンバ31、32は、それぞれ光学検出部40のフローセル41に流路を介して接続されている。チャンバ31で調製された第1測定試料と、チャンバ32で調製された第2測定試料とは、流路を介してフローセル41に供給される。
【0062】
図1に戻り、光学検出部40は、フローセル41と、光源42と、集光レンズ43〜45と、ダイクロイックミラー46と、ハーフミラー47と、偏光フィルタ48と、受光部50と、を備える。受光部50は、光検出器51〜54からなる。受光部50は、光源42からの光の照射により測定試料中の有形成分から生じた光を検出する。
図1には、光学検出部40の各部の配置を説明するためのXYZ軸が示されている。XYZ軸は、互いに直交する。
【0063】
フローセル41は、Z軸方向に第1測定試料および第2測定試料を流す。第1測定試料および第2測定試料は、フローセル41においてシース液に包まれた細い流れを形成する。これにより、第1測定試料および第2測定試料に含まれる有形成分は、1つずつフローセル41内を通過する。
【0064】
光源42は、波長488nm程度のレーザ光をX軸正方向に出射し、フローセル41を流れる測定試料にレーザ光を照射する。光源42は、たとえば、半導体レーザ光源やガスレーザ光源により構成される。光源42から出射されるレーザ光は、直線偏光である。光源42は、直線偏光の偏光方向がフローセル41内の測定試料の流れ方向に平行となるよう、すなわちZ軸方向に平行となるよう測定部11内に設置されている。言い換えれば、光源42から出射されるレーザ光の偏光方向は、Z軸方向に垂直な面を入射面としたとき、当該入射面に対して垂直となっている。
【0065】
集光レンズ43は、光源42から出射されたレーザ光を、フローセル41を流れる測定試料に集光させる。レーザ光が測定試料に照射されると、レーザ光が照射された領域を通過する有形成分から、前方散乱光、側方散乱光および蛍光が生じる。
【0066】
集光レンズ44は、フローセル41のX軸正方向に生じた前方散乱光を、光検出器51に集光させる。光検出器51は、前方散乱光を受光し、受光した前方散乱光の強度に応じた検出信号を出力する。前方散乱光の強度に応じた検出信号すなわち前方散乱光信号を、以下、「FSC」と称する。光検出器51は、たとえばフォトダイオードにより構成される。
【0067】
集光レンズ45は、フローセル41のY軸正方向に生じた側方散乱光と蛍光を、ダイクロイックミラー46に集光させる。ダイクロイックミラー46は、側方散乱光を反射し、蛍光を透過させる。無偏光タイプのハーフミラー47は、ダイクロイックミラー46により反射された側方散乱光を2分割する。光検出器52は、ハーフミラー47を透過した側方散乱光を受光し、受光した側方散乱光の強度に応じた検出信号を出力する。側方散乱光の強度に応じた検出信号すなわち側方散乱光信号を、以下、「SSC」と称する。光検出器52は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。ハーフミラー47によって反射された側方散乱光は、偏光フィルタ48に入射する。
【0068】
偏光フィルタ48は、Z軸方向に平行な偏光方向の光を遮断し、X軸方向に平行な偏光方向の光を通過させるよう構成されている。偏光フィルタ48を通過した側方散乱光を、以下、「偏光解消側方散乱光」と称する。光検出器53は、偏光解消側方散乱光を受光し、受光した偏光解消側方散乱光の強度に応じた検出信号を出力する。偏光解消側方散乱光の強度に応じた検出信号すなわち偏光解消側方散乱光信号を、以下、「DSSC」と称する。光検出器53は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。
【0069】
ここで、測定試料中の有形成分にレーザ光が照射されると、有形成分に含まれる成分が持つ旋光性に応じて、成分が分布する部分のレーザ光の偏光方向が変化する。測定試料に照射されるレーザ光の偏光方向が部分的に変化すると、側方散乱光には種々の偏光状態の光成分が含まれるようになる。有形成分からY軸正方向に生じる側方散乱光のうち、X軸方向に平行な偏光方向の光成分の割合、すなわちZ軸方向に平行な初期の偏光方向が崩される度合いは、有形成分に含まれる成分に応じて決まる。したがって、偏光フィルタ48を通過し光検出器53に到達する偏光解消側方散乱光の光量は、有形成分の種類ごとに異なる。
【0070】
光検出器54は、ダイクロイックミラー46を透過した蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に応じた検出信号を出力する。蛍光の強度に応じた検出信号すなわち蛍光信号を、以下、「FL」と称する。光検出器54は、たとえばフォトマルチプライヤにより構成される。
【0071】
なお、前方散乱光とは、前方方向であるX軸正方向に生じた散乱光だけでなく、前方方向から僅かにずれた方向に生じた散乱光をも含む概念である。したがって、光検出器51が検出する前方散乱光は、必ずしもフローセル41の前方方向に生じた散乱光でなくてもよく、フローセル41の前方方向から僅かにずれた方向に生じた散乱光でもよい。同様に、側方散乱光とは、側方方向であるX軸に垂直な方向に生じた散乱光だけでなく、側方方向から僅かにずれた方向に生じた散乱光をも含む概念である。したがって、光検出器52が検出する側方散乱光は、必ずしもフローセル41の側方方向に生じた散乱光でなくてもよく、フローセル41の側方方向から僅かにずれた方向に生じた散乱光でもよい。
【0072】
光検出器51〜54は、制御部70によって受光感度が高感度または低感度に切り替え可能に構成されている。光検出器51〜54は、それぞれ、制御部70によって設定された受光感度で、FSC、SSC、FLを出力する。
【0073】
光検出器51〜54の後段には、図示しない増幅回路が設けられている。増幅回路は、FSCを増幅するためのFSCアンプと、SSCを増幅するためのSSCアンプと、FLを高増幅率で増幅するためのFLHアンプと、FLを低増幅率で増幅するためのFLLアンプと、を備える。各アンプのゲインは、制御部70によって、ローレベル、ミドルレベル、ハイレベルの3段階に設定可能に構成されている。FLHアンプに入力されるFLを、以下、「FLH」と称し、FLLアンプに入力されるFLを、以下、「FLL」と称する。増幅回路のアンプでそれぞれ増幅されたFSC、SSC、FLH、FLLの各信号は、増幅回路の後段に設けられた図示しないA/Dコンバータによりデジタル信号に変換され、信号処理部60に入力される。
【0074】
信号処理部60は、信号を処理するための複数の回路と、記憶部61とにより構成される。記憶部61は、たとえばRAMにより構成される。信号処理部60は、入力されたFSC、SSC、FLH、FLLの各信号の波形に基づいて、解析に用いるための複数のパラメータを算出する。具体的には、信号処理部60は、各信号に対して所定の信号処理を施し、有形成分ごとに、各信号波形のピーク値、幅、および面積などのパラメータを算出する。信号処理部60は、算出したパラメータを記憶部61に記憶する。
【0075】
図3(a)に示すように、FSC、SSC、FLH、FLLの各信号の大きさは、レーザ光が照射されるフローセル41の領域を有形成分が通過することに応じてパルス状に変化する。したがって、信号波形の形状は、時間の経過に応じて変化する。信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの間の信号波形、すなわちベースラインよりも大きい強度を示す信号の波形は、1つの有形成分に基づく信号波形と見なされる。ベースラインは、尿分析装置10内の各種の設定等に応じて設定され得る。
【0076】
ピーク値Pは、信号の強度を反映するパラメータである。信号の強度を反映するパラメータとは、信号の波形の高さを反映した値のことである。ピーク値Pは、具体的には、
図3(a)に示すように、信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの信号波形のピークすなわち最大値である。幅Wは、信号の幅を反映するパラメータである。信号の幅を反映するパラメータとは、信号の波形の幅を反映した値のことである。幅Wは、具体的には、ベースラインより大きい強度を示す信号の波形の幅である。信号の波形の幅は、測定対象となる有形成分がフローセル41中の感知領域を通過している間の通過時間を示す。言い換えれば、幅Wは、
図3(b)に示すように、信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの信号波形の時間間隔である。面積Aは、信号の面積を反映するパラメータであり、具体的には、
図3(c)に示すように、信号が閾値を上回ってから閾値を下回るまでの信号波形の積分値である。
【0077】
なお、パラメータの算出方法は上記方法に限らない。たとえば、ピーク値Pは、信号波形の最大値に所定の値を乗算または加算した値など、信号波形の最大値を反映した値であればよい。幅Wは、信号波形の時間間隔に所定の値を乗算または加算した値など、信号波形の時間間隔を反映した値であればよい。面積Aは、ピーク値Pと幅Wから求められる三角形の面積など、信号波形の積分値を反映した値であればよい。
【0078】
以下の説明において、前方散乱光に基づくFSCの波形から算出されたピーク値および幅を、それぞれ、FSCPおよびFSCWと称する。側方散乱光に基づくSSCの波形から算出されたピーク値および幅を、それぞれ、SSCPおよびSSCWと称する。偏光解消側方散乱光に基づくDSSCの波形から算出されたピーク値および面積を、DSSCPおよびDSSCAと称する。蛍光に基づくFLHの波形から算出されたピーク値を、FLHPと称する。蛍光に基づくFLLの波形から算出された幅および面積を、それぞれ、FLLWおよびFLLAと称する。
【0079】
図1に戻り、制御部70は、測定部11の各部から信号を受信し、測定部11の各部を制御する。制御部70は、マイクロコンピュータにより構成される。制御部70は、解析部12の処理部81と通信可能に接続されている。制御部70は、信号処理部60によって取得された第1測定試料および第2測定試料に基づく有形成分ごとの複数のパラメータを、測定データとして処理部81に送信する。
【0080】
処理部81は、解析部12の各部からの信号を受信し、解析部12の各部を制御する。処理部81は、CPUにより構成される。記憶部82は、RAM、ROM、ハードディスク等により構成される。記憶部82は、有形成分の分析および計数を実行するためのプログラム82aをあらかじめ記憶している。処理部81は、制御部70から受信した測定データを記憶部82に記憶する。処理部81は、プログラム82aを実行することにより、記憶部82に記憶した測定データに基づいて尿検体中の有形成分の分類および計数を行う。
【0081】
表示部83は、ディスプレイにより構成され、処理部81による分類結果や計数結果などの情報を表示する。入力部84は、マウスおよびキーボードにより構成される。オペレータは、入力部84を介して尿分析装置10に対して指示を入力する。
【0082】
次に、
図4を参照して、尿分析装置10による測定処理および解析処理について説明する。ステップS11〜S19が測定処理であり、ステップS20〜S23が解析処理である。
【0083】
ステップS11において、制御部70は、分注部20と試料調製部30を制御して、1つの尿検体から第1測定試料と第2測定試料を調製する。このとき、
図2を参照して説明したように、攪拌部21が尿検体を攪拌し、攪拌部21による尿検体の攪拌後に、吸引部22、23が尿検体を吸引して吸引した尿検体を試料調製部30に分注する。このように攪拌および分注が行われると、比重の小さい脂肪粒子が攪拌部21により尿検体中に拡散された後、吸引部22により尿検体が吸引されることになる。これにより、試料調製部30へ分注される尿検体中に脂肪粒子を確実に含めることができるため、第1測定試料の測定において脂肪粒子を確実に測定できる。よって、後述する第1解析処理において、尿検体に含まれる脂肪粒子を精度よく検出できる。
【0084】
ステップS12において、制御部70は、試料調製部30と光学検出部40を制御して、第1測定試料をフローセル41に流し、光源42を制御して、フローセル41を流れる第1測定試料に光を照射する。第1測定試料は、上述したように、尿検体の第1部分から調製された測定試料であり、第1測定試料において赤血球は溶血されている。
【0085】
ステップS13において、制御部70は、光検出器51〜54の受光感度と、光検出器51〜54の後段に設けられた増幅回路の各アンプのゲインとを、細菌を除く有核成分の測定に対応した値に設定する。たとえば、光検出器51〜54の受光感度が低感度に設定され、FSCアンプのゲインがローレベルに設定され、FLLアンプのゲインがローレベルに設定され、FLHアンプのゲインがミドルレベルに設定される。受光感度およびゲインによって決められる増幅率に応じて、第1測定試料に含まれる有形成分から生じた光に基づく各信号が増幅され、信号処理部60に入力される。
【0086】
ステップS14において、制御部70は、信号処理部60を制御して、信号処理部60に入力された各信号に基づいて、有形成分ごとに複数のパラメータを算出する。ここで取得したパラメータは、脂肪粒子、卵円形脂肪体、白血球、上皮細胞、扁平上皮細胞、尿細管上皮細胞、異型細胞、精子、真菌、トリコモナスの検出に用いられる。信号処理部60は、算出したパラメータを記憶部61に記憶する。
【0087】
続いて、ステップS15において、制御部70は、光検出器51〜54の受光感度と、光検出器51〜54の後段に設けられた増幅回路の各アンプのゲインとを、細菌の測定に対応した値に設定する。たとえば、光検出器51〜54の受光感度が高感度に設定され、FSCアンプのレベルがハイレベルに設定され、FLHアンプのゲインがハイレベルに設定される。この場合も、受光感度およびゲインによって決められる増幅率に応じて、第1測定試料に含まれる有形成分から生じた光に基づく各信号が増幅され、信号処理部60に入力される。なお、この場合のFSCおよびFLHに対する増幅率は、それぞれ、ステップS13の設定によるFSCおよびFLHに対する増幅率よりも高い。これは、細菌が他の有核成分に比べて、サイズが小さく、生じる蛍光量が小さいためである。
【0088】
ステップS16において、制御部70は、信号処理部60を制御して、信号処理部60に入力された各信号に基づいて、有形成分ごとに複数のパラメータを算出する。ここで取得したパラメータは、細菌の検出に用いられる。信号処理部60は、算出したパラメータを記憶部61に記憶する。
【0089】
同様に、制御部70は、第2測定試料に基づいて有形成分ごとに複数のパラメータを算出する。すなわち、ステップS17において、制御部70は、試料調製部30と光学検出部40を制御して、第2測定試料をフローセル41に流し、光源42を制御して、フローセル41を流れる第2測定試料に光を照射する。第2測定試料は、上述したように、尿検体の第2部分から調製された測定試料であり、第2測定試料において赤血球は溶血されていない。
【0090】
ステップS18において、制御部70は、光検出器51〜54の受光感度と、光検出器51〜54の後段に設けられた増幅回路の各アンプのゲインとを、無核成分の測定に対応した値に設定する。たとえば、光検出器51〜54の受光感度が低感度に設定され、FSCアンプのゲインがミドルレベルに設定され、FLLアンプのゲインがミドルレベルに設定され、FLHアンプのゲインがローレベルに設定される。受光感度およびゲインによって決められる増幅率に応じて、第2測定試料に含まれる有形成分から生じた光に基づく各信号が増幅され、信号処理部60に入力される。
【0091】
ステップS19において、制御部70は、信号処理部60を制御して、信号処理部60に入力された各信号に基づいて、有形成分ごとに複数のパラメータを算出する。ここで取得したパラメータは、赤血球、円柱、結晶、粘液糸の検出に用いられる。信号処理部60は、算出したパラメータを記憶部61に記憶する。
【0092】
そして、制御部70は、ステップS14、S16、S19で記憶部61に記憶した有形成分ごとの複数のパラメータを、同一の尿検体から得られた測定データとして解析部12の処理部81に送信する。処理部81は、受信した測定データを記憶部82に記憶する。
【0093】
ステップS20において、処理部81は、プログラム82aを実行することにより第1解析処理を行う。第1解析処理において、処理部81は、ステップS14で算出された有形成分ごとの複数のパラメータを記憶部82から読み出し、読み出したパラメータに基づいて、脂肪粒子を検出する。第1解析処理の詳細については、追って
図5(a)を参照して説明する。
【0094】
ステップS21において、処理部81は、プログラム82aを実行することにより第2解析処理を行う。第2解析処理において、処理部81は、ステップS19で算出された有形成分ごとの複数のパラメータを記憶部82から読み出し、読み出したパラメータに基づいて、赤血球を検出する。第2解析処理の詳細については、追って
図7を参照して説明する。
【0095】
ステップS22において、処理部81は、プログラム82aを実行することにより第3解析処理を行う。第3解析処理において、処理部81は、ステップS14で算出された有形成分ごとの複数のパラメータを記憶部82から読み出し、読み出したパラメータに基づいて、卵円形脂肪体、扁平上皮細胞、尿細管上皮細胞を検出する。第3解析処理の詳細については、追って
図10(a)を参照して説明する。
【0096】
ステップS23において、処理部81は、プログラム82aを実行することにより、第4解析処理を行う。第4解析処理において、処理部81は、ステップS14、S16、S19で算出された有形成分ごとの複数のパラメータを記憶部82から読み出し、読み出したパラメータに基づいて、結晶、円柱、粘液糸、異型細胞、白血球、上皮細胞、精子、真菌、トリコモナス、細菌を検出する。第4解析処理の詳細については、追って
図11(a)〜(e)を参照して説明する。
【0097】
図5(a)を参照して、第1解析処理について説明する。
【0098】
ステップS101において、処理部81は、第1測定試料に基づいて
図4のステップS14でパラメータの算出を行った全ての有形成分を、
図5(b)に示すスキャッタグラム210に展開し、スキャッタグラム210から領域211内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム210の横軸と縦軸は、それぞれ、FLHPとFSCPである。領域211は、脂肪粒子を含む領域である。脂肪粒子は核酸を有さないため、脂肪粒子からは蛍光がほぼ生じない。したがって、脂肪粒子を含む領域211は、スキャッタグラム210の左端付近に設定される。
【0099】
ここで、尿検体には、小型の酵母様真菌や、連鎖していない球菌等の細菌も含まれることがある。これらの酵母様真菌および細菌は、
図5(c)を参照して後述するスキャッタグラム220にプロットされると、スキャッタグラム220において脂肪粒子と重なり得る。他方、酵母様真菌および細菌は、核酸を有するため核酸結合色素が結合するが、脂肪粒子は、核酸を有さないため核酸結合色素が結合しない。したがって、蛍光に基づく信号の強度を反映したパラメータとしてFLHPを用いると、酵母様真菌および細菌を、脂肪粒子の検出対象から排除できる。すなわち、酵母様真菌および細菌は、
図5(b)に示すスキャッタグラム210において、領域211よりも右側に分布するため、領域211内の有形成分を抽出することにより、酵母様真菌および細菌を排除できる。これにより、後述するステップS103において、脂肪粒子をより精度良く検出できる。
【0100】
続いて、ステップS102において、処理部81は、ステップS101で抽出した有形成分を、
図5(c)に示すスキャッタグラム220に展開し、スキャッタグラム220から領域221内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム220の横軸と縦軸は、それぞれ、FSCWとFSCPである。領域221は、脂肪粒子に対応する領域である。
【0101】
ここで、脂肪粒子は球状であるため、脂肪粒子に基づくFSCWとFSCPとの間には、所定の係数nを用いて、以下の式(1)に示す関係を規定できる。
【0102】
FSCP=n・(FSCW)
2 … (1)
【0103】
脂肪粒子の場合、上記式(1)の係数nは、脂肪粒子ごとにばらつきを有するものではなく、ほぼ一定である。したがって、脂肪粒子は、
図6(a)に示すように、スキャッタグラム220において2次曲線222上に分布する。また、2次曲線222の左側には、他の有形成分はほぼ分布しない。以上のような理由から、
図6(a)に示すように、脂肪粒子に対応する領域221は、2次曲線222を含み、2次曲線222の左側の領域を含むよう設定されている。
【0104】
なお、脂肪粒子は2次曲線222の左側にはほぼ分布しないため、領域221は、
図6(b)に示すように、2次曲線222に沿って設定されてもよい。また、スキャッタグラム220の横軸は、FSCWに代えてSSCWでもよく、スキャッタグラム220の縦軸は、FSCPに代えてSSCPでもよい。ただし、FSCWとFSCPの方が脂肪粒子の形状をより適正に反映するため、スキャッタグラム220の横軸と縦軸は、それぞれFSCWとFSCPである方が好ましい。
【0105】
図5(a)に戻り、ステップS103において、処理部81は、ステップS102で抽出した有形成分を、脂肪粒子として検出する。また、ステップS103において、処理部81は、検出した脂肪粒子を計数して、脂肪粒子の数を取得する。ステップS103で取得される脂肪粒子の数は、尿検体または測定試料の単位体積あたりの個数である。以下に示す第2解析処理、第3解析処理、および第4解析処理において取得される有形成分の数も、尿検体または測定試料の単位体積あたりの個数である。なお、有形成分の数は、単位体積あたりの個数に限らず、スキャッタグラムの対象となる領域内の有形成分の個数であってもよい。
【0106】
上述したように、第1測定試料の調製においては、脂肪粒子と類似の検出信号を生じ得る赤血球が溶血される。このため、スキャッタグラム210の領域211とスキャッタグラム220の領域221には、赤血球がほぼ分布しない。したがって、赤血球が脂肪粒子として検出されることを抑制できる。また、脂肪粒子は球状であるため、脂肪粒子に基づく前方散乱光の信号には、強度と幅との間に上記式(1)に示す関係を規定でき、この関係に基づいて設定された領域221内の有形成分を脂肪粒子とみなすことにより、脂肪粒子を適正に検出できる。さらに、第1測定試料がフローセル41に流されて測定されるため、脂肪粒子の比重が小さくても、脂肪粒子の検出信号を適正に取得でき、脂肪粒子の検出漏れを抑制できる。よって、尿分析装置10によれば、脂肪粒子を精度良く検出できる。また、脂肪粒子の検出結果を、腎疾患の診断等に役立てることができる。
【0107】
なお、第1解析処理の説明では、便宜上、スキャッタグラムが生成され、生成されたスキャッタグラムにおいて対象となる有形成分に対応した領域が設定された。しかしながら、スキャッタグラムの生成と領域の設定は必ずしも行われる必要はなく、スキャッタグラムの領域に含まれる有形成分が、データ処理により抽出および計数されてもよい。以下に示す第2解析処理、第3解析処理、および第4解析処理においても同様に、スキャッタグラムの生成と領域の設定は必ずしも行われる必要はなく、スキャッタグラムの領域に含まれる有形成分が、データ処理により抽出および計数されてもよい。
【0108】
また、ステップS103の脂肪粒子の検出において、必ずしも脂肪粒子の数が取得される必要はなく、抽出された脂肪粒子に基づいて脂肪粒子の有無のみが取得されてもよい。同様に、以下に示す赤血球など他の有形成分についても、検出ステップにおいて必ずしも有形成分の数が取得される必要はなく、抽出された有形成分に基づいて有形成分の有無のみが取得されてもよい。
【0109】
図7を参照して、第2解析処理について説明する。
【0110】
ステップS201において、処理部81は、第2測定試料に基づいて
図4のステップS19でパラメータの算出を行った全ての有形成分を、
図8(a)に示すスキャッタグラム310に展開し、スキャッタグラム310から領域311内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム310の横軸と縦軸は、それぞれ、FLLWとFSCPである。領域311は、赤血球を含む領域である。領域311内の有形成分が抽出されることにより、赤血球および結晶を合わせた有形成分以外の有形成分などが除去される。
【0111】
続いて、ステップS202において、処理部81は、ステップS201で抽出した有形成分を、
図8(b)に示すスキャッタグラム320に展開し、スキャッタグラム320から領域321内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム320の横軸と縦軸は、それぞれ、DSSCPとFSCPである。領域321は、赤血球を含む領域である。なお、結晶は、スキャッタグラム320において領域321よりも右側に分布するため、領域321内の有形成分が抽出されることにより、結晶が除去される。
【0112】
続いて、ステップS203において、処理部81は、ステップS202で抽出した有形成分を、
図8(c)に示すスキャッタグラム330に展開し、スキャッタグラム330から領域331内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム330の横軸と縦軸は、それぞれ、FLHPとFSCPである。領域331は、赤血球を含む領域である。領域331内の有形成分が抽出されることにより、不適正な形状の赤血球などが除去される。
【0113】
続いて、ステップS204において、処理部81は、第1測定試料から脂肪粒子を検出したか否かを判定する。具体的には、処理部81は、第1解析処理において計数された脂肪粒子の数が所定の閾値thより多いか否かを判定する。この場合の閾値thは、脂肪粒子が含まれない尿検体を測定した場合に、第1解析処理において計数されるスキャッタグラム220の領域221内の有形成分の個数程度に設定される。閾値thは、たとえば、10個/μLに設定される。このように設定された閾値thが、記憶部82にあらかじめ記憶されている。したがって、ステップS204において第1解析処理で計数された脂肪粒子の数が閾値thより多いと判定される場合は、実際に尿検体中に脂肪粒子が存在しているものと考えられ、第1測定試料から脂肪粒子が検出されたと判定される。他方、ステップS204において第1解析処理で計数された脂肪粒子の数が閾値th以下であると判定される場合は、尿検体中に脂肪粒子が存在していないと考えられ、第1測定試料から脂肪粒子が検出されていないと判定される。
【0114】
なお、第1解析処理において脂肪粒子の数に代えて脂肪粒子の有無が取得された場合には、ステップS204において、処理部81は、第1解析処理において脂肪粒子ありと判定された場合にYESと判定し、第1解析処理において脂肪粒子なしと判定された場合にNOと判定する。
【0115】
ステップS204において第1測定試料から脂肪粒子を検出したと判定されると、ステップS205において、処理部81は、ステップS203で抽出した有形成分を、
図9(a)、(b)に示すスキャッタグラム340に展開し、スキャッタグラム340から領域341を除いた領域の有形成分を抽出する。スキャッタグラム340の横軸と縦軸は、FSCWとFSCPである。スキャッタグラム340の全領域は、第2測定試料中の赤血球を含む有形成分の出現範囲であり、領域341は、第2測定試料中の脂肪粒子の出現範囲である。なお、後述のように、
図9(a)は、脂肪粒子が出現し赤血球が出現しなかった尿検体の場合のスキャッタグラム340であり、
図9(b)は、脂肪粒子が出現せず赤血球が出現した尿検体の場合のスキャッタグラム340である。
【0116】
ここで、第1測定試料に脂肪粒子が含まれる場合、上述したように、脂肪粒子に基づくFSCWとFSCPの関係は上記式(1)により規定されるため、脂肪粒子は、
図6(a)に示す2次曲線222上に分布する。したがって、第2測定試料に含まれる脂肪粒子についても、
図9(a)、(b)のスキャッタグラム340において2次曲線上に分布する。領域341は、
図6(a)の領域221と同様に設定されている。すなわち、領域341は、第2測定試料に含まれる脂肪粒子が分布する2次曲線を含み、当該2次曲線の左側の領域を含むように設定されている。よって、ステップS205において、スキャッタグラム340から領域341を除いた領域の有形成分が抽出されれば、抽出された有形成分は、脂肪粒子が除去されたものとなる。
【0117】
なお、スキャッタグラム340の横軸は、FSCWに代えてSSCWでもよく、スキャッタグラム340の縦軸は、FSCPに代えてSSCPでもよい。ただし、スキャッタグラム220の場合と同様、FSCWとFSCPの方が脂肪粒子の形状をより適正に反映するため、スキャッタグラム340の横軸と縦軸は、それぞれFSCWとFSCPである方が好ましい。
【0118】
続いて、ステップS206において、処理部81は、前段で抽出した有形成分を赤血球として検出する。具体的には、尿検体中に脂肪粒子が存在していると判定されステップS205が実行された場合、処理部81は、ステップS205で抽出した有形成分を赤血球として検出する。他方、尿検体中に脂肪粒子が存在していないと判定されステップS205が実行されなかった場合、処理部81は、ステップS203で抽出した有形成分、言い換えればスキャッタグラム340の全領域の有形成分を赤血球として検出する。また、ステップS206において、処理部81は、検出した赤血球を計数して、赤血球の数を取得する。このように実施形態によれば、腎疾患の罹患の可能性を判断するのに極めて有効な赤血球を正確に検出できる。
【0119】
なお、処理部81は、ステップS203においてスキャッタグラム330の領域331内の有形成分を赤血球として検出した上で、ステップS204において脂肪粒子の数が閾値thよりも多いと判定された場合には、領域341内の有形成分を、ステップS203で取得した赤血球から除く補正を行ってもよい。
【0120】
図9(a)は、脂肪粒子が出現し赤血球が出現しなかった尿検体の場合のスキャッタグラム340であり、
図9(b)は、脂肪粒子が出現せず赤血球が出現した尿検体の場合のスキャッタグラム340である。
図9(a)、(b)の尿検体に対する脂肪粒子の出現有無は、第1解析処理において計数された脂肪粒子の数が閾値thより多いか否かに基づいて判定された。
図9(a)、(b)の尿検体に対する赤血球の出現有無は、顕微鏡により目視された赤血球の数が所定値より多いか否かに基づいて判定された。
図9(a)の尿検体は、このような判定に基づいて脂肪粒子ありと判定され赤血球なしと判定された尿検体である。
図9(b)の尿検体は、このような判定に基づいて脂肪粒子なしと判定され赤血球ありと判定された尿検体である。
【0121】
尿検体に対する判定を考慮すれば、
図9(a)の領域341には脂肪粒子が分布することが分かり、
図9(b)の領域341には赤血球が分布することが分かる。このように、領域341には、尿検体に含まれる脂肪粒子および赤血球の量に応じて、赤血球と脂肪粒子が分布する可能性がある。
【0122】
図9(a)の場合は、第1解析処理で計数された脂肪粒子の数が閾値thより多いと判定されるため、スキャッタグラム340から領域341を除いた領域の有形成分が赤血球として検出される。この場合、
図9(a)の領域341に分布する脂肪粒子が除外されることになるため、脂肪粒子を誤って赤血球として検出することが抑制される。よって、このように脂肪粒子の計数結果に基づいて赤血球の検出結果を補正することにより、赤血球の検出結果の精度を高めることができる。また、腎疾患の患者から採取した尿検体には脂肪粒子が出現しやすいため、このような尿検体の場合、赤血球が混じっていないにも関わらず赤血球の検出結果が陽性となる偽陽性が発生しやすい。しかしながら、赤血球の検出結果が補正されると、脂肪粒子を含む尿検体の場合でも赤血球の検出結果が陽性となる偽陽性を抑制できる。
【0123】
他方、
図9(b)の場合は、第1解析処理で計数された脂肪粒子の数が閾値th以下であると判定されるため、スキャッタグラム340の全領域の有形成分が赤血球として検出される。この場合、
図9(b)の領域341に分布する赤血球が除外されることがないため、赤血球を適正に検出できる。
【0124】
なお、第1測定試料の元となる尿検体の第1部分と、第2測定試料の元となる尿検体の第2部分には、それぞれ、同じ割合で脂肪粒子が含まれると考えられる。したがって、第1測定試料に含まれる脂肪粒子の割合を算出し、算出した割合を第2測定試料に適用することにより、第2測定試料に含まれる脂肪粒子の数を算出できる。この場合、スキャッタグラム340の全領域の有形成分の数から、算出した第2測定試料に含まれる脂肪粒子の数を除算する補正を行うことにより、第2測定試料に含まれる赤血球数を取得してもよい。
【0125】
図10(a)を参照して、第3解析処理について説明する。
【0126】
ステップS301において、処理部81は、第1測定試料に基づいて
図4のステップS14でパラメータの算出を行った全ての有形成分を、
図10(b)に示すスキャッタグラム410に展開し、スキャッタグラム410から領域411内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム410の横軸と縦軸は、それぞれ、FSCWとFLLWである。領域411は、全上皮細胞に対応する領域であり、領域412は、円柱に対応する領域である。また、スキャッタグラム410の原点付近に分布する有形成分は、小型の血球や細菌などである。
【0127】
続いて、ステップS302において、処理部81は、ステップS301で抽出した有形成分を、
図10(c)に示すスキャッタグラム420に展開し、スキャッタグラム420から領域421内の有形成分を抽出する。スキャッタグラム420の横軸と縦軸は、それぞれ、FSCWとDSSCAである。領域421は、卵円形脂肪体に対応する領域であり、領域422は、扁平上皮細胞に対応する領域であり、領域423は、尿細管上皮細胞に対応する領域である。
【0128】
ここで、縦軸のDSSCAは、粒子から生じる側方散乱光のうち、第1測定試料に照射される前の偏光方向に垂直な偏光方向の光成分の割合を示すものである。このため、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に比べて、通常、初期の偏光状態を崩す成分を多く含むとされる卵円形脂肪体は、DSSCAの値が大きい領域に分布することになる。また、横軸のFSCWは、有形成分の幅を示すものである。このため、尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体に比べて、通常、幅が大きいとされる扁平上皮細胞は、FSCWの値が大きい領域に分布することになる。また、卵円形脂肪体に比べて、通常、初期の偏光状態を崩す成分を多く含まず、かつ、扁平上皮細胞に比べて、通常、幅が小さいとされる尿細管上皮細胞は、FSCWとDSSCAの値が小さい領域に分布することになる。
【0129】
続いて、ステップS303において、処理部81は、ステップS302で抽出した有形成分を、卵円形脂肪体として検出する。また、ステップS303において、処理部81は、検出した卵円形脂肪体を計数して、卵円形脂肪体の数を取得する。このように実施形態によれば、ネフローゼ症候群や慢性腎炎に対する罹患の可能性を判断するのに有効な卵円形脂肪体を検出できる。
【0130】
また、ステップS303において、処理部81は、卵円形脂肪体の検出に加えて、扁平上皮細胞および尿細管上皮細胞の検出を行う。具体的には、処理部81は、スキャッタグラム420の領域422、423内の有形成分を抽出し、抽出した有形成分をそれぞれ扁平上皮細胞および尿細管上皮細胞として検出する。そして、処理部81は、扁平上皮細胞および尿細管上皮細胞の数を取得する。
【0131】
なお、スキャッタグラム420には、FSCWとDSSCAの両方の値が大きい領域に、脂肪円柱が分布することがある。したがって、ステップS303において、FSCWとDSSCAの両方の値が大きい領域の有形成分を抽出し、抽出した有形成分を脂肪円柱として検出してもよい。このように卵円形脂肪体や脂肪円柱などの脂肪細胞の検出が行われると、脂肪粒子や赤血球とともに、腎疾患に対する罹患の可能性を判断できるようになる。
【0132】
図11(a)〜(e)を参照して、第4解析処理について説明する。第4解析処理では、
図11(a)〜(e)に示すスキャッタグラムが生成され、各種の有形成分が検出され、各種の有形成分の数が取得される。
【0133】
図11(a)に示すスキャッタグラム510は、第2測定試料に基づいて
図4のステップS19で算出されたFLHPおよびFSCPを2軸とするスキャッタグラムである。領域511、512は、それぞれ、結晶と赤血球に対応する領域である。第4解析処理では、領域511内の有形成分が結晶として検出される。
【0134】
なお、領域512を用いて赤血球の検出は可能であるが、尿検体中に脂肪粒子が含まれる場合、領域512内に脂肪粒子が分布してしまう。したがって、尿検体中に脂肪粒子が含まれる可能性を考慮すれば、
図7の第2解析処理で示したように赤血球の検出が行われるのが好ましい。また、結晶を、DSSCPを用いて検出してもよい。たとえば、
図8(b)のスキャッタグラム320において、領域321よりも右側の領域に分布する有形成分を結晶として検出してもよい。
【0135】
図11(b)に示すスキャッタグラム520は、第2測定試料に基づいて
図4のステップS19で算出されたFLLWおよびFLLAを2軸とするスキャッタグラムである。領域521、522は、それぞれ、円柱と粘液糸に対応する領域である。第4解析処理では、領域521内の有形成分が円柱として検出され、領域522内の有形成分が粘液糸として検出される。
【0136】
図11(c)に示すスキャッタグラム530は、第1測定試料に基づいて
図4のステップS14で算出されたFLLAおよびFSCWを2軸とするスキャッタグラムである。領域531〜533は、それぞれ、異型細胞、白血球、および上皮細胞に対応する領域である。第4解析処理では、領域531内の有形成分が異型細胞として検出され、領域532内の有形成分が白血球として検出され、領域533内の有形成分が上皮細胞として検出される。
【0137】
図11(d)に示すスキャッタグラム540は、第1測定試料に基づいて
図4のステップS14で算出されたFLHPおよびFSCPを2軸とするスキャッタグラムである。領域541〜543は、それぞれ、精子、真菌、およびトリコモナスに対応する領域である。第4解析処理では、領域541内の有形成分が精子として検出され、領域542内の有形成分が真菌として検出され、領域543内の有形成分がトリコモナスとして検出される。
【0138】
図11(e)に示すスキャッタグラム550は、第1測定試料に基づいて
図4のステップS16で算出されたFLHPおよびFSCPを2軸とするスキャッタグラムである。領域551は、細菌に対応する領域である。第4解析処理では、領域551内の有形成分が細菌として検出される。
【0139】
以上のように、尿分析装置10によれば、ステップS20〜S22において脂肪粒子、赤血球、および卵円形脂肪体を検出できることに加えて、ステップS23において、結晶、円柱、粘液糸、異型細胞、白血球、上皮細胞、精子、真菌、トリコモナス、および細菌を検出できる。すなわち、これらの有形成分を1つの尿分析装置10によって検出できるため、オペレータは複数の尿分析装置を使い分ける必要がなくなる。
【0140】
次に、
図12を参照して、尿分析装置10による解析の結果を表示するための処理について説明する。
【0141】
ステップS401において、処理部81は、入力部84を介してオペレータから表示指示を受け付けたか否かを判定する。表示指示を受け付けると、ステップS402において、処理部81は、
図4のステップS20〜S23の解析処理で取得した尿検体中の有形成分の検出結果を表示部83に表示する。具体的には、処理部81は、各有形成分の数を含む画面600を表示部83に表示する。画面600については、追って
図13を参照して説明する。なお、解析処理において有形成分の有無が取得された場合には、ステップS402において、画面600に当該有形成分の有無が表示される。
【0142】
続いて、ステップS403において、処理部81は、第1測定試料から脂肪粒子を検出したか否かを判定する。言い換えれば、処理部81は、脂肪粒子の計数結果に基づき赤血球の検出結果を補正したか否かを判定する。ステップS403の判定は、
図7の第2解析処理におけるステップS204の判定と同様である。すなわち、処理部81は、第1解析処理において得られた脂肪粒子の数が閾値thより多いか否かを判定する。
【0143】
第1測定試料から脂肪粒子を検出したと判定した場合、ステップS404において、処理部81は、第2解析処理で得られた赤血球の検出結果とともに、脂肪粒子の存在を示唆する情報を表示部83に表示させる。具体的には、処理部81は、ステップS402で表示部83に表示した画面600に、脂肪粒子の存在を示唆する情報を表示する。これにより、赤血球の検出において脂肪粒子が干渉したことをオペレータに知らせることができる。
【0144】
図13に示すように、画面600は、領域610とリスト620を備える。領域610には、画面600に表示される解析結果の元となる尿検体の情報が表示される。尿検体の情報は、尿検体のIDと、尿検体を採取した患者のIDおよび氏名と、尿検体の測定日時とを含む。リスト620には、
図4のステップS20〜S23の解析処理で取得された有形成分の数が、検出結果として表示される。また、第1測定試料から脂肪粒子が検出されたと判定された場合、
図13に例示するように、脂肪粒子の存在を示唆する情報として、リスト620の赤血球の項目に文字列621が表示される。文字列621は、
図13に示すように、たとえば「*」である。文字列621は、「補正あり」などでもよい。
【0145】
有形成分の有無や計数結果を含む検出結果が表示されると、オペレータは、各有形成分の検出結果を様々な診断に役立てることができる。具体的には、オペレータは、脂肪粒子の検出結果を参照することにより、腎疾患に関する診断を行うことができる。また、オペレータは、赤血球および卵円形脂肪体の検出結果を参照することにより、腎疾患に関する診断をさらに的確に行うことができる。
【0146】
<実施形態の検証>
次に、発明者らは、実際の尿検体に対して比較例および実施形態の手法に基づいて赤血球の計数を行い、実施形態による赤血球の検出精度を検証した。比較例では、
図7の第2解析処理において、ステップS204、S205が省略された。すなわち、比較例では、
図8(c)に示すスキャッタグラム330の領域331内の有形成分が、赤血球として計数された。
【0147】
図14(a)、(b)は、127個の尿検体に対して、比較例および実施形態の手法に基づいて赤血球を計数した結果である。これらの尿検体は、脂肪粒子を含む疑いのある尿検体を中心に集められたものである。この検証では、比較例および実施形態に基づく計数に加えて、顕微鏡に基づく赤血球の計数が行われた。発明者らは、顕微鏡による赤血球の計数において、これら127個の尿検体を遠心分離を行うことなくスライド上に配置し、スライド上に配置した尿検体を顕微鏡により観察して赤血球を計数した。以下に示す検証において、顕微鏡に基づいて取得される赤血球の個数が真の赤血球の個数であるとして、比較例および実施形態の手法で取得される赤血球の個数を、顕微鏡に基づいて取得される赤血球の個数と比較することにより、比較例および実施形態による赤血球の検出精度を検証した。
【0148】
図14(a)、(b)では、比較例、実施形態、顕微鏡の3つの手法について、赤血球数のランクが0個、1〜5個、6〜10個、11〜15個、15より多い個数の5段階に分けられ、該当する尿検体の個数が示されている。実線で囲った部分は、比較例または実施形態の手法に基づく赤血球数のランクが、顕微鏡に基づく赤血球数のランクと一致する場合の尿検体の個数を表している。破線で囲った部分は、比較例または実施形態の手法に基づく赤血球数のランクが、顕微鏡に基づく赤血球数のランクと+1ランクまたは−1ランクだけずれる場合の尿検体の個数を表している。
【0149】
図14(a)に示すように、比較例の場合、実線および破線で囲まれた尿検体の個数は45個であった。したがって、比較例の場合、赤血球数のランクが顕微鏡と±1ランク以内で一致する尿検体の個数が全尿検体に占める比率、すなわち±1ランク一致率は、45/127=35.4%であった。一方、
図14(b)に示すように、実施形態の場合、実線および破線で囲まれた尿検体の個数は74個であった。したがって、実施形態の場合、±1ランク一致率は、74/127=58.3%であった。
【0150】
以上のように、
図14(a)、(b)に示す検証において、実施形態の計数結果は、比較例に比べて、より顕微鏡の計数結果に近付くことが分かった。よって、実施形態によれば、比較例よりも精度よく赤血球を計数できることが分かった。
【0151】
図15(a)、(b)は、248個の一般の尿検体に対して、比較例および実施形態の手法に基づいて赤血球を計数した結果である。この検証においても、比較例および実施形態に基づく計数に加えて、顕微鏡に基づく赤血球の計数が行われた。発明者らは、顕微鏡による赤血球の計数において、これら248個の尿検体を遠心分離を行った上で計算盤に配置し、計算盤に配置した尿検体を顕微鏡により観察して赤血球を計数した。以下に示す検証においても、顕微鏡に基づいて取得される赤血球の個数が真の赤血球の個数であるとして、比較例および実施形態の手法で取得される赤血球の個数を、顕微鏡に基づいて取得される赤血球の個数と比較することにより、比較例および実施形態による赤血球の検出精度を検証した。
【0152】
図15(a)、(b)では、比較例、実施形態、顕微鏡の3つの手法について、赤血球数のランクが0個、1〜4個、5〜9個、10〜19個、20〜29個、30〜49個、50〜99個、100より多い個数の8段階に分けられ、該当する尿検体の個数が示されている。この場合も、実線で囲った部分は、比較例または実施形態の手法に基づく赤血球数のランクが、顕微鏡に基づく赤血球数のランクと一致する場合の尿検体の個数を表している。破線で囲った部分は、比較例または実施形態の手法に基づく赤血球数のランクが、顕微鏡に基づく赤血球数のランクと+1ランクまたは−1ランクだけずれる場合の尿検体の個数を表している。
【0153】
図15(a)に示すように、比較例の場合、実線および破線で囲まれた尿検体の個数は222個であった。したがって、比較例の場合、±1ランク一致率は、222/248=89.5%であった。一方、
図15(b)に示すように、実施形態の場合、実線および破線で囲まれた尿検体の個数は226個であった。したがって、実施形態の場合、±1ランク一致率は、226/248=91.1%であった。
【0154】
以上のように、
図15(a)、(b)に示す検証においても、実施形態の計数結果は、比較例に比べて、より顕微鏡の計数結果に近付くことが分かった。よって、実施形態によれば、比較例よりも精度よく赤血球を計数できることが分かった。