特許第6875940号(P6875940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875940
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】相互間距離算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20210517BHJP
   G06T 7/593 20170101ALI20210517BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   G01C3/06 110V
   G01C3/06 120S
   G06T7/593
   G08G1/16 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-117964(P2017-117964)
(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公開番号】特開2019-2802(P2019-2802A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】中川 亮
(72)【発明者】
【氏名】金子 法正
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−110173(JP,A)
【文献】 特開2006−031313(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0076463(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/06
G01B 11/00−11/30
G06T 7/00− 7/90
G08G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に搭載されて前方の走行環境を一対の撮像手段で撮像する撮像装置と、
一対の前記撮像手段で撮像した一対の撮像画像に基づき前記自車両前方の立体物を認識する認識処理手段と、
一対の前記撮像画像に基づき、前記認識処理手段で認識した前記立体物と前記自車両との基準となる第1距離を算出する第1距離算出手段と、
前記立体物の特定した基準点から特徴点までの一対の前記撮像画像上の基準画素幅を算出する基準画素幅算出手段と、
前記第1距離算出手段で算出した前記第1距離及び前記基準画素幅算出手段で算出した前記基準画素幅を記憶させる記憶手段と、
一対の前記撮像手段の視界が阻害されて一方の前記撮像画像で前記特徴点が検出されない場合、他方の前記撮像画像上の対象画素幅を算出する対象画素幅算出手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記第1距離及び前記基準画素幅と前記対象画素幅算出手段で算出した前記対象画素幅との比率に基づいて、該対象画素幅に対応する前記立体物と前記自車両との第2距離を算出する第2距離算出手段と
を備えることを特徴とする相互間距離算出装置。
【請求項2】
前記特徴点は前記立体物の前記基準点を挟む左右端点であり、
前記基準画素幅と前記対象画素幅とは前記基準点から前記左端点までの左画素幅及び該基準点から前記右端点までの右画素幅であり、
前記対象画素幅算出手段は、一対の前記撮像画像の一方で前記対象画素幅の前記左画素幅のみが検出され、他方で前記対象画素幅前記右画素幅のみが検出された場合、該左画素幅と該右画素幅とを前記対象画素幅として設定し、
前記第2距離算出手段は、前記第1距離及び前記基準画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅とを加算した値と、前記対象画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅とを加算した値との比率に基づいて、前記第2距離を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の相互間距離算出装置。
【請求項3】
前記特徴点は前記立体物の前記基準点を挟む左右端点であり、
前記基準画素幅と前記対象画素幅とは前記基準点から前記左端点までの左画素幅及び該基準点から前記右端点までの右画素幅であり、
前記対象画素幅算出手段は、一対の前記撮像画像の一方でのみ前記対象画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅が検出された場合、該左画素幅と該右画素幅とを前記対象画素幅として設定し、
前記第2距離算出手段は、前記第1距離及び前記基準画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅とを加算した値と、前記対象画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅とを加算した値との比率に基づいて、前記第2距離を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の相互間距離算出装置。
【請求項4】
前記特徴点は前記立体物の前記基準点を挟む左右端点であり、
前記基準画素幅と前記対象画素幅とは前記基準点から前記左端点までの左画素幅及び該基準点から前記右端点までの右画素幅であり、
前記対象画素幅算出手段は、一対の前記撮像画像の一方でのみ前記対象画素幅の前記左画素幅と前記右画素幅との一方が検出された場合、検出された一方の該画素幅を前記対象画素幅として設定し、
前記第2距離算出手段は、前記第1距離及び前記対象画素幅と同一側の前記基準画素幅と、前記対象画素幅との比率に基づいて、前記第2距離を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の相互間距離算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の撮像手段で撮像した撮像画像に基づいて自車両前方の立体物までの距離を算出する相互間距離算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ACC(Adaptive Cruise Control)装置等の運転支援装置を搭載している車両においては、自車両前方を常時監視し、前方立体物が検出された場合には、それに対する適応制御が実行される。前方立体物は、左右一対のカメラ(ステレオカメラ)によって撮像した自車両前方の走行環境画像に基づいてパターンマッチングにより認識する手段が知られている。又、その際、両カメラの視差を利用して自車両と前方立体物との距離を算出し、前方立体物が先行車の場合には、車間距離を一定に保持した状態での先行車追従制御が実行される。
【0003】
ステレオカメラは、雨雪、埃等による汚れを避けるためフロントガラス内側の車室内前部に設置される場合が多い。従って、雨天や降雪時、或いはフロントガラスが汚れている場合はワイパを作動させてカメラ前方の視界を確保する必要がある。ワイパの拭き残しによる水滴などがフロントガラスに付着し、それが、カメラによって取り込まれると、前方立体物との距離を正しく計測することができなくなる。又、ワイパの払拭エリアから前方立体物の一部が外れた場合も同様である。
【0004】
カメラ前方の視界が阻害されると、例えば、前方立体物が先行車であれば、先行車との距離を把握することができないため、先行車追従制御を継続させることが困難となる。そのため、例えば、特許文献1(特開2017−5894号公報)には、カメラで撮像した画像に基づきフロントガラスの汚れを監視し、汚れが検出された場合、運転者にその旨を報知すると共に画像認識処理を中断して、運転支援装置の不要な動作を回避させるようにした態様が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−58949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した文献に開示されている技術では、フロントガラスの汚れが検出された場合、運転支援制御が中断されてしまうため、運転者の負担が増してしまう不都合がある。
【0007】
この場合、フロントガラスの汚れが検出された場合であっても、前方立体物が認識され、且つ自車両との距離が検出される状況の場合は、運転支援制御を継続させることで、運転者の負担をより軽減させることができる。
【0008】
しかし、両カメラによる視差を利用することができなくなれば、前方立体物との距離を求めることができなくなるため、運転支援制御は中断せざるを得ず、継続性が確保されず、より高い利便性を実現させることが困難となる不都合がある。尚、このことは、フロントガラスの汚れ、拭き残しのみならず、両カメラに逆光等の外的要因が取り込まれた際にも同様の不都合が生じる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、一対のカメラによる視差を利用して前方の立体物と自車両との距離を求めることができない状況となった場合であっても、前方の立体物との距離を求めることが可能となり、運転支援制御の中断、再開の頻度を低減し、より高い利便性を実現させることのできる相互間距離算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による相互間距離算出装置は、自車両に搭載されて前方の走行環境を一対の撮像手段で撮像する撮像装置と、一対の前記撮像手段で撮像した一対の撮像画像に基づき前記自車両前方の立体物を認識する認識処理手段と、一対の前記撮像画像に基づき、前記認識処理手段で認識した前記立体物と前記自車両との基準となる第1距離を算出する第1距離算出手段と、前記立体物の特定した基準点から特徴点までの一対の前記撮像画像上の基準画素幅を算出する基準画素幅算出手段と、前記第1距離算出手段で算出した前記第1距離及び前記基準画素幅算出手段で算出した基準画素幅を記憶きせる記憶手段と、一対の前記撮像手段の視界が阻害されて一方の前記撮像画像で前記特徴点が検出されない場合、他方の前記撮像画像上の対象画素幅を算出する対象画素幅算出手段と、前記記憶手段に記憶されている前記第1距離及び前記基準画素幅と前記対象画素幅算出手段で算出した前記対象画素幅との比率に基づいて、該対象画素幅に対応する前記立体物と前記自車両との第2距離を算出する第2距離算出手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一対の撮像手段で撮像した一対の撮像画像で前方の立体物が認識されている場合に算出した、立体物と自車両との第1距離、及び立体物の基準点から特徴点までの画素幅を基準として、一対の撮像手段の視界が阻害されて一方の撮像画像で特徴点が検出されない場合は、他方の撮像画像に基づいて算出した対象画素幅との比率に基づいて、第2距離を算出するようにしたので、一対のカメラによる視差を利用して前方の立体物と自車両との距離を求めることができない状況となった場合であっても、前方の立体物との距離を求めることが可能となり、運転支援制御の中断、再開の頻度を低減し、より高い利便性を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】相互間距離算出装置の概略図
図2】ワイパ払拭エリアとステレオカメラとの位置関係を示す正面図
図3】(a)は良好な視界でのカメラ画像を示す模式図、(b)は左カメラで撮像した左カメラ画像を示す模式図、(c)右カメラで撮像した右カメラ画像を示す模式図
図4】先行車間距離算出ルーチンを示すフローチャート(その1)
図5】先行車間距離算出ルーチンを示すフローチャート(その2)
図6】先行車との車間距離の求め方を示す説明図
図7】(a)左カメラ画像を時系列示す模式図、(b)右カメラ画像を時系列で示す模式図、(c)右カメラ画像を左カメラ画像で補完した状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に示す相互間距離算出装置1は、自動車等の車両(自車両)Mmに搭載されているものであり、マイクロコンピュータを中心として構成されている先行車認識処理部2と、この先行車認識処理部2に接続されている読み書き自在な記憶手段としてのデータ記憶部3とを備えている。
【0014】
又、この相互間距離算出装置1の入力側に、撮像装置としての車載カメラユニット4が接続されている。この車載カメラユニット4は、メインカメラ(本実施形態では右カメラ)5a及びサブカメラ(本実施形態では左カメラ)5bからなる、一対の撮像手段としてのステレオカメラ5と画像処理ユニット(IPU)6とを備えている。この両カメラ5a,5bはフロントガラス7の内側であって、車室内前部の上部(例えば、ルームミラーの両側)に一定の間隔を保持した状態で固設されている。又、このフロントガラス7の前面には左右ワイパ11a,11bが配設されており、図2に示すように、両カメラ5a,5bは、当該左右ワイパ11a,11bの払拭エリア12a、12bに視野範囲が収まるように設定されている。
【0015】
両カメラ5a,5bは、CCDやCMOS等、撮像手段としてのイメージセンサをそれぞれ内蔵しており、自車両Mm前方の走行環境を異なる視点、すなわち視差を有して撮像する。これにより、ステレオ画像処理を行う際に必要な基準画像(右カメラ画像)と比較画像(左カメラ画像)とが取得される。この両カメラ5a,5bで撮像した自車前方の走行環境の画像信号がIPU6に送信されて、所定に画像処理された後、先行車認識処理部2へ送信される。
【0016】
先行車認識処理部2は、IPU6からの画像信号に基づき、メインカメラ5aで撮像した画像に基づいて基準画像を生成し、サブカメラ5bで撮像した画像に基づいて比較画像を生成する。そして、基準画像と比較画像とに基づいて、1フレーム相当の撮像画像に関し、対応する同一の前方立体物に対する視差から周知の三角測量の原理を用いて対象となる前方立体物までの距離を算出する。尚、前方立体物は先行車、歩行者、自転車等の移動体に限らず、駐停車している車両、電柱や設置物等の固定物が含まれるが、以下においては、説明を容易にするため、自車両Mmの直前を走行する先行車Mfを、その代表として説明する。
【0017】
ところで、フロントガラス7に雨滴が付着するとステレオカメラ5の視界が阻害される。そのため、左右ワイパ11a,11bを作動させてフロントガラス7を払拭し、視界を確保する。フロントガラス7が汚れた場合も同様に、ウォッシャー液をフロントガラス7に吹き付け、左右ワイパ11a,11bを作動させて視界を確保する。
【0018】
その際、図2に示すように、フロントガラス7の払拭エリア12a,12bに、拭き残し13a,13bが発生する場合がある。そして、この拭き残し13a,13bの一方或いは双方がカメラ5a,5bの視野に入り込んだ場合、図3(b),(c)に示すように、各カメラ5a,5bで撮像したカメラ画像Ri,Liの一方或いは双方に、拭き残し13a,13bが映されてしまい、先行車Mfとの基準となる第1車間距離L1(図6参照)を正確に求めることが困難となる。
【0019】
しかし、フロントガラス7に残存する拭き残し13a,13bは一時的なものであり、時間の経過とともに消失するため、この拭き残し13a,13bが存在している間だけ、車間距離を推定することができれば、ACC装置等の運転支援装置における先行車追従制御を継続させることが可能となり、より高い利便性を得ることができる。
【0020】
そのため、先行車認識処理部2では、フロントガラス7に付着した拭き残し13a,13b等に起因して先行車Mfの認識が阻害された場合であっても、両カメラ5a,5bで撮像した基準画像と比較画像とで先行車Mfの水平方向の幅を補完し合って検出できる状態のときは、それに基づいて第2車間距離L1’を求めることで先行車追従制御を継続させるようにしている。
【0021】
先行車認識処理部2は自車両Mmと先行車Mfとの車間距離L1,L1’を、具体的には、図4図5に示す先行車間距離算出ルーチンに従って算出する。
【0022】
すなわち、このルーチンが起動されると、先ず、ステップS1で、メインカメラ5aで撮像した右カメラ画像(基準画像)Lrとサブカメラ5bで撮像した左カメラ画像(比較画像)Llとを読込み、先行車検出のための画像処理(例えば、パターンマッチング処理)により、先行車Mfのリヤ面の認識処理を行う。尚、このステップでの処理が、本発明の認識処理手段に対応している。
【0023】
そして、ステップS2へ進み、自車両Mm直前の所定距離内に先行車Mfが捕捉されたか否かを調べ、捕捉された場合はステップS3へ進む。又、捕捉されない場合はルーチンを抜け、第1車間距離L1は求めることができずエラーとなる。
【0024】
又、ステップS3へ進むと、ステップS1で認識した先行車Mfの左右カメラ画像Li,Riに基づき、車幅方向中央付近に共通の基準点Xoを特定する。この基準点Xoは、左右カメラ画像Li,Riに映された先行車Mfの画像のリヤ面において、輝度差により二値化処理した際に明確に判別できる部位が好ましい。
【0025】
この候補としては、ナンバプレートc1やエンブレムを代表とするオーナメントc2等があり、本実施形態はナンバプレートc1の幅方向端部(図においては右端部)のエッジを基準点Xoとしている。尚、この基準点Xoは、ナンバプレートc1のエッジに加えてオーナメントc2のエッジ等、多点に設定しても良いが、以下においては、ナンバプレートc1のエッジを、それらの代表として説明する。
【0026】
そして、ステップS4へ進み、左右カメラ画像Li,Riにおいて、共通する特徴点である、基準点Xoを挟む両側の左右端点Xl,Xrが検出されたか否かを調べる。この左右端点Xl,Xrは、例えば車体幅方向のエッジを二値化処理による輝度差で検出する。そして、共通する左右端点Xl,Xrが検出された場合、ステップS5へ進み、検出されなかった場合はステップS9へ分岐する。尚、特徴点は左右端点Xl,Xrに限らず、二値化処理による輝度差が明確に表れる部位であれば、左右ドアミラーの端部等であっても良い。
【0027】
ステップS5へ進むと、先行車Mfに対する視差から三角測量の原理を用いて先行車Mfまでの基準となる第1車間距離L1を求める。尚、このステップS5での処理が、本発明の第1距離算出手段に対応している。
【0028】
次いで、ステップS6へ進み、基準点Xoから左右端点Xl,Xrまでの実幅X1,X2(図3(a)参照)に対応する、メインカメラ5aの撮像面に結像された右カメラ画像(基準画像)Lr上の基準画素幅(左基準画素幅と右基準画素幅)ds1,ds2(図6参照)を、1画素ピッチにXo−Xl、及びXo−Xr間の画素数を乗算して算出する(画素ピッチ×画素数)。尚、このステップS6での処理が、本発明の基準画素幅算出手段に対応している。
【0029】
そして、ステップS7で、第1車間距離L1と基準画素幅ds1,ds2とを、データ記憶部3に1フレーム毎の時系列で記憶させ、ステップS8へ進み、今回設定した第1車間距離L1を制御用車間距離Lsとして設定し、ルーチンを抜ける。制御用車間距離Lsは各種制御ユニットにおいて読込まれ、例えば、ACC装置では、制御用車間距離Lsが目標車間距離と一致するように車間距離維持制御を実行して、自車両Mmを先行車Mfに対して追従走行させる。
【0030】
ところで、フロントガラス7に雨滴が付着しているとステレオカメラ5の視界が阻害され、前方の走行環境の認識性能が低下する。そのため、運転者がワイパスイッチをONし、或いは雨滴感知式オートワイパーが併設されている車両では自動的にワイパスイッチがONし、左右ワイパ11a,11bの作動によりフロントガラス7を払拭して視界を確保する。ステレオカメラ5の視界はフロントガラス7の汚れによっても阻害される。このような場合は、ウォッシャー液をフロントガラス7に吹き付け、左右ワイパ11a,11bを作動させてウォッシャー液を払拭することで視界を確保する。
【0031】
ワイパ11a,11bによる払拭動作に際し、図2に示すように、払拭エリア12a,12bに拭き残し13a,13bが発生する場合がある。そして、この拭き残し13a,13bの一方、或いは双方が、左右カメラ画像Li,Riの一方或いは双方に映されて、先行車Mfに対する視界が阻害されると、先行車Mfの視認性が低下し、視差に基づき三角測量の原理を利用して正確な車間距離を算出することが困難となり、ACC装置は追従走行が停止される。
【0032】
しかし、左右カメラ画像Li,Riに拭き残し13a,13bが映された場合であっても、例えば、図3(b),(c)示すように、一方のカメラ画像(図においては左カメラ画像Li)では基準点Xo及び右端点Xrが検出され、他方のカメラ画像(図においては右カメラ画像Ri)では基準点Xo及び左端点Xlが検出されている場合がある。このような場合、一方のカメラ画像からはXo−Xr間の画像上の距離を求めることができ、又、他方のカメラ画像からはXo−Xl間の画像上の距離を求めることができる。
【0033】
ステップS9以下では、左右カメラ画像Li,Riの一方で左端点Xlが検出され、他方で右端点Xrが検出されている場合には、この基準点Xoと左端点Xl間の実幅X1に対応する左対象画素幅ds1’と基準点Xoと右端点Xr間の実幅X2に対応する右対象画素幅ds2’とから制御用車間距離Lsを算出し、ACC装置による追従走行等を継続させるようにする。
【0034】
すなわち、先ず、ステップS9で、左右カメラ画像Li,Riの何れかで左端点Xlが検出されたか否かを調べ、検出されている場合はステップS10へ進む。又、左右カメラ画像Li,Riの何れにおいても左端点Xlが検出されていない場合は、ルーチンを抜ける。そして、ステップS10へ進むと、左右カメラ画像Li,Riの何れかで右端点Xrが検出されたか否かを調べ、検出されている場合はステップS11へ進む。又、左右カメラ画像Li,Riの何れにおいても右端点Xrが検出されていない場合は、ルーチンを抜ける。
【0035】
従って、ステップS9,S10において、左右端点Xl,Xrの一方のみしか検出されていない場合、後述する第2車間距離L1’は求めることができないのでエラーとなる。尚。左右カメラ画像Li,Riの一方のみで左右端点Xl,Xrが検出された場合は、第2車間距離L1’の算出が可能であるためステップS11へ進む。
【0036】
ステップS11へ進むと、基準点Xoと左端点Xl間の実幅X1に対応する左対象画素幅ds1’を、検出したカメラ画像Li,Riの画素ピッチに画素数を乗算して算出する。又、ステップS12で、基準点Xoと右端点Xr間の実幅X2に対応する右対象画素幅ds2’を、検出したカメラ画像Li,Riの画素ピッチに画素数を乗算して算出する(図6参照)。尚、このステップS11での処理が、本発明の対象画素幅算出手段に対応している。
【0037】
その後、ステップS12へ進み、データ記憶部3に記憶されている最新の第1車間距離L1と基準画素幅ds1,ds2とを読込み、ステップS13で比率により第2車間距離L1’を、
L1’←{(ds1+ds2)/(ds1’+ds2’)}・L1 …(1)
から算出する。尚、図6のfは焦点距離である。この場合、(1)式に比し、精度は低下するが、第2車間距離L1’を、
L1’←(ds1/ds1’)・L1 …(2)
或いは、
L1’←(ds2/ds2’)・L1 …(3)
から簡略的に求めることも可能である。
【0038】
従って、左右カメラ画像Li,Riの何れかで対象画像ds1’,ds2’の一方のみしか検出されなかった場合であっても、第2車間距離L1’を算出することは可能である。尚、このステップS13での処理が、本発明の第2距離算出手段に対応している。
【0039】
そして、ステップS14へ進み、今回求めた第2車間距離L1’を制御用車間距離Lsとして設定してルーチンを抜ける。その結果、各種制御ユニットでは、今回の制御用車間距離Lsに基づき、ACC装置における車間距離維持制御等の運転支援制御を継続的に行うことができる。
【0040】
このように、本実施形態は、左右カメラ画像Li,Riで認識した先行車Mfの第1車間距離L1を視差を利用して算出することができない状況であっても、視差を利用して第1車間距離L1と、それを算出した際の最新の基準点Xoと左右端点Xl,Xrとの基準画素幅ds1,ds2とを記憶させておき、それらに基づいて第2車間距離L1’を算出するようにしている。そして、この第2車間距離L1’を制御用車間距離Lsとして設定して、ACC装置で実行される車間距離維持制御等の運転支援制御を継続させるようにしたので、運転支援制御の中断、再開の頻度が低減され、より高い利便性を得ることができる。
【0041】
従って、例えば、図7(b)に示すように、基準画像である右カメラ画像にワイパ11bの拭き残し13bによって先行車Mfの右端点Xrは非検出だが、左端点Xlは検出されているフレームがある。一方、同図(b)に示すように、比較画像である左カメラ画像にワイパ11aの拭き残し13aによって先行車Mfの左端点Xlは非検出だが、右端点Xrは検出されているフレームがある。
【0042】
この場合、同じ時系列のフレームにおいて、互いに補完可能な左右端点Xl,Xrがあり、或いは、左右カメラ画像の一方でのみ左右端点Xl,Xrが検出されていれば、同図(c)に破線で示すように、互いの左右端点Xl,Xrを補完して対象画素幅ds1’,ds2’を求めることで、補完直前に求めた実線で示す基準画素幅ds1,ds2と第1車間距離L1から、その比率により第2車間距離L1’を容易に求めることができる。従って、大きな改変が不要で、簡単なロジックの変更のみで対応することができるため、低コストで、しかも高い汎用性を得ることができる。
【0043】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、先行車Mfのリヤ面に対して複数の基準点Xoを設定した場合、この各基準点Xoから左右端点Xl,Xrまでの実幅X1,X2に対応する基準画素幅ds1,ds2を複数設定し、最も信頼性の高い基準画素幅ds1,ds2をフレーム毎に選択するようにしても良い。
【0044】
又、上述した実施形態において、ステレオカメラ5の視界を阻害する要因として掲げたワイパ11a,11bによる拭き残し13a,13bは例示であり、他の阻害要因としては、先行車Mfや隣接する車両から排出される排気ガス、水はね、雪や埃の巻き上げ等がある。更に、逆行以外に、霧や陽炎による揺らぎも視界の阻害要因となる。
【符号の説明】
【0045】
1…相互間距離算出装置、
2…先行車認識処理部、
3…データ記憶部、
4…車載カメラユニット、
5…ステレオカメラ、
5a…メインカメラ、
5b…サブカメラ、
6…IPU、
7…フロントガラス、
11a,11b…ワイパ、
12a,12b…払拭エリア、
13a,13b…拭き残し、
c1…ナンバプレート、
c2…オーナメント、
ds1…左基準画素幅、
ds2…右基準画素幅、
ds1’…左対象画素幅、
ds2’…右対象画素幅、
L1…第1車間距離、
L1’…第2車間距離、
Li…比較画像、
Mf…先行車、
Mm…自車両、
Ri…基準画像、
X1…左実幅、
X2…右実幅、
Xl…左端点、
Xo…基準点、
Xr…右端点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7