(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
後方端及び前方端を有するスクリューシャフト及び前記スクリューシャフトの外周に設けられたフライトを有するフライトスクリュー部と、前記スクリューシャフトの前記後方端に接続されるとともに前記後方端から前記スクリューシャフトの延設方向とは反対の方向に沿って螺旋状に延設されたコイル体を有するコイルスクリュー部と、を備える射出スクリューと、
円柱状の内部空間が形成されるように筒状に形成され、前記内部空間内に前記射出スクリューが同軸的に配設されるとともに、樹脂及び強化材を含む材料を前記内部空間に供給するための開口が形成された射出シリンダと、
を備え、
前記材料が前記コイルスクリュー部に供給されるように前記開口の位置が定められ、
前記コイル体と前記射出シリンダの前記内部空間を構成する内周壁とのクリアランスが、前記フライトと前記内周壁とのクリアランスよりも大きくなるように、前記コイル体が形成される、射出成形装置。
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
一般的に、インラインスクリュー方式の射出成形装置には、射出スクリューとしてフルフライトスクリューが用いられる。また、射出スクリューには、その後端側(上流側)から前端側(下流側)にかけて、材料供給部、圧縮部、計量部が設けられる。そして、ホッパーから材料供給部に材料が供給される。また、射出スクリューが回転して樹脂を射出スクリューの前端側(下流側)に輸送すると、樹脂背圧により射出スクリューが後退する。このとき射出スクリューのフライトが、射出シリンダに形成され材料を射出シリンダの内部空間に供給するための開口を横切る。従って、開口から供給される材料の一部は、開口を横切ろうとするフライトを乗り越えて材料供給部に供給される。しかしながら、フライトと射出シリンダの内周壁とのクリアランスは一般的に0.2mm〜0.5mm程度であり、非常に小さいので、材料がフライトを乗り越える際にクリアランスに強化材が挟持される虞がある。クリアランスに強化材が挟持されると、強化材に大きなせん断力が作用して強化材が折損される。これにより強化材の長さが短くされる。
【0006】
図10は、ガラス繊維強化樹脂成形体中に含まれる強化材としてのガラス繊維の繊維長とガラス繊維強化樹脂成形体の材料特性(剛性、強度、耐衝撃性)との関係を表すグラフである(出典:Automotive technology, [3](2010))。
図10において、横軸がガラス繊維の繊維長、縦軸がガラス繊維強化樹脂成形体の材料特性の大きさを表す。
図10に示すように、ガラス繊維の繊維長が長くなればなるほど、ガラス繊維強化樹脂成形体の剛性(modulus)、強度(strength)、耐衝撃性(impact resistance)といった材料特性が向上することがわかる。
【0007】
従って、強化樹脂成形体の材料特性を向上させるためにも、強化材は長い方が好ましいが、従来技術によれば、材料供給部にて強化材が上記したようにクリアランスに挟持されて折損されるため、成形体の材料特性を十分に向上させることができない。
【0008】
この点に関し、フライトの径を小さくしてフライトと射出シリンダの内周壁とのクリアランスを大きく設定することにより、クリアランスに強化材が挟持される可能性を減じることができる。しかしながらこの場合、射出シリンダの内周壁付近の材料が輸送されずにその位置に滞留するため、材料の輸送能力が低下する。また、滞留した材料中の樹脂が炭化し、炭化物が輸送される材料に混ざることにより、成形品品質低下を招く。従って、フライトの径を小さくするだけでは、別の不具合の発生が懸念されるため、根本的な解決手段にはなり得ない。
【0009】
本発明は、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部での強化材の折損を抑えることができる射出成形装置及び強化樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
(課題を解決するための手段)
本発明は、後方端(321a)及び前方端(321b)を有するスクリューシャフト(321)及びスクリューシャフトの外周に設けられたフライト(322)を有するフライトスクリュー部(32)と、スクリューシャフトの後方端に接続されるとともに後方端からスクリューシャフトの延設方向(前方)とは反対の方向(後方)に沿って螺旋状に延設されたコイル体(332)を有するコイルスクリュー部(33)と、を備える射出スクリュー(3)と、円柱状の内部空間(2a)が形成されるように筒状に形成され、内部空間内に射出スクリューが同軸的に配設されるとともに、樹脂(R)及び強化材(S)を含む材料を内部空間に供給するための開口(2c)が形成された射出シリンダ(2)と、を備え、材料がコイルスクリュー部に供給されるように開口の位置が定められ、コイル体と射出シリンダの内部空間を構成する内周壁(2d)とのクリアランスが、フライトと内周壁とのクリアランスよりも大きくなるように、コイル体が形成される、射出成形装置(1)を提供する。
【0011】
本発明によれば、射出成形装置が備える射出スクリューは、フライトを有するフライトスクリュー部と、コイル体を有するコイルスクリュー部を備える。フライトスクリュー部の後方端にコイルスクリュー部が接続される。また、射出スクリューは、射出シリンダ内に同軸的に配設される。射出シリンダには、その内部空間に樹脂及び強化材を含む材料を供給するための開口が形成される。この開口の位置は、材料がコイルスクリュー部に供給されるように定められる。従って、コイルスクリュー部に材料が供給される。すなわち、コイルスクリュー部が、材料供給部に相当する。このコイルスクリュー部が回転すると、コイル体の内周側の材料がコイル体の回転に伴い輸送される。このときコイル体の内周側の材料に作用する輸送に係る推進力がコイル体の外周側の材料に伝播することにより、コイル体の内周側及び外周側の材料が輸送される。このような材料の輸送原理によれば、コイル体の外周側の材料に輸送に係る推進力が伝播される範囲内で、コイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスを設定することができる。
【0012】
コイル体の外周側の材料に輸送に係る推進力が伝播される範囲で設定し得るコイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスは、従来のフライトと射出シリンダの内周壁とのクリアランス(0.2mm〜0.5mm)よりも大きい。よって、コイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスが、フライトと射出シリンダの内周壁とのクリアランスよりも大きくなるように、コイル体を形成することができる。別言すれば、コイル体の外径が、フライトの外径よりも小さくなるように、コイル体を形成することができる。そして、そのようにコイル体を形成した場合においても、材料の輸送能力は確保される。また、こうしてクリアランスを大きく設定することができるため、クリアランスに強化材が挟持される可能性を減じることができ、それにより、材料供給部(コイルスクリュー部)での強化材の折損を抑えることができる。すなわち本発明によれば、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部での強化材の折損を抑えることができる。
【0013】
コイルスクリュー部は、スクリューシャフトの後方端に連結されるとともに後方端からスクリューシャフトの延設方向(前方)とは反対の方向(後方)に沿って延設された連結シャフト(331)と、連結シャフトとコイル体とを連結する固定部材(333)と、を備えるとよい。そして、コイル体が、連結シャフトの外周回りに同軸的に配設された状態で、固定部材を介して連結シャフトに固定されるとよい。これによれば、コイル体が連結シャフトに固定されることにより、コイル体の弾性変形が抑制される。このため、樹脂圧が作用した場合にコイル体の変形が防止され、これにより、安定的に材料を輸送することができる。
【0014】
また、コイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスが6mm以下である場合に、コイル体の回転による材料の輸送能力が十分に確保されることが、発明者等により確認されている。従って、上記クリアランスは6mm以下であるのがよい。また、クリアランスが0.5mmよりも大きければ、従来のフルフライトスクリューを用いた場合と比較して、クリアランスに強化材が挟持される可能性を減じることができる。よって、上記クリアランスは0.5mmよりも大きいのがよい。つまり、コイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスは、0.5mmより大きく6mm以下であるのがよい。また、クリアランスが3mm以上である場合に、クリアランスに強化材が挟持されることに起因した材料供給部(コイルスクリュー部)での強化材の折損が十分に抑えられることが、発明者等により確認されている。従って、上記クリアランスは3mm以上であるのがより好ましい。なお、上記クリアランスは、0.5mmよりも大きく且つ3mm以下であってもよい。
【0015】
また、射出スクリューには、材料が供給される材料供給部(3A)、材料供給部に供給された材料を圧縮する圧縮部(3B)、圧縮部で圧縮された材料を計量する計量部(3C)が、この順で射出スクリューの長手方向に沿って設けられており、フライトスクリュー部により計量部及び圧縮部が構成され、コイルスクリュー部により材料供給部が構成されるとよい。これによれば、コイルスクリュー部に供給された材料が圧縮部で圧縮されるとともに計量部で計量される。そして、計量された一定量の材料が射出されることにより、強化樹脂成形体が製造される。
【0016】
また、本発明は、上記本発明に係る射出成形装置を用いた強化樹脂成形品の製造方法であって、樹脂及び強化材を含む材料を、コイルスクリュー部に供給する材料供給工程と、コイルスクリュー部に供給された材料をフライトスクリュー部に輸送する輸送工程と、フライトスクリュー部に輸送された材料を圧縮するとともに、材料中の樹脂を溶融させる圧縮・溶融工程と、圧縮・溶融工程にて圧縮及び溶融された樹脂を含む材料を金型に射出する射出工程と、を含む、強化樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0017】
上記発明によれば、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部(コイルスクリュー部)での強化材の折損を抑えることができる強化樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る射出成形装置を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1は、射出シリンダ2と、射出スクリュー3と、ホッパー4と、駆動ユニット5と、ヒータ6とを備える。なお、
図1において、型締装置、射出シリンダ2の動作制御装置等の付帯設備の構成は公知であるので省略されている。
【0020】
射出シリンダ2は、先端(
図1において左端)及び基端(
図1において右端)を有する筒状部材であり、その内部には円柱状の内部空間2aが形成される。射出シリンダ2内には、後述する樹脂ペレットR及び強化材Sを含む材料が供給される。また、射出シリンダ2の先端には開閉可能なノズル2bが取付けられる。
【0021】
射出シリンダ2の外周にヒータ6が取付けられる。ヒータ6を作動させることにより射出シリンダ2が加熱される。射出シリンダ2が加熱されることにより、射出シリンダ2内の材料が加熱される。なお、射出シリンダ2の適所に温度センサが設置されており、この温度センサにより検出された温度情報が図示しないヒータ制御装置に入力される。ヒータ制御装置は、検出温度が設定温度に一致するようにヒータ6の動作を制御する。
【0022】
ホッパー4は、射出シリンダ2の上部に配設される。ホッパー4は、樹脂ペレットR及び強化材Sを含む材料を受け入れることができるような容器形状をなし、内部に材料が貯留される材料貯留空間4aが形成される。また、ホッパー4の下端部には材料貯留空間4aに連通した出口通路4bが形成され、この出口通路4bは、射出シリンダ2に設けられた内部空間2aに通じる開口2cに連通する。従って、材料貯留空間4aは、出口通路4b及び開口2cを経由して射出シリンダ2の内部空間2aに連通することになる。ここで、開口2cは、射出シリンダ2の基端に近い部分に設けられる。従って、ホッパー4の材料貯留空間4aは、射出シリンダ2の内部空間2aのうち射出シリンダ2の基端に近い部分に連通することになる。
【0023】
ホッパー4に供給される樹脂ペレットRは球状でも良いし、円柱状でも良いし、パウダー状でも良い。また、樹脂ペレットRを構成する主要な樹脂成分は、一般的に射出成形に利用される熱可塑性樹脂(汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックを含む)であればどのようなものでもよい。
【0024】
ホッパー4に供給される強化材Sは、それを樹脂に混ぜることにより、成形体の材料特性が向上するものであれば、どのようなものでもよい。強化材Sとして、ガラス繊維或いは炭素繊維等の繊維強化材、炭酸カルシウムやタルク等のフィラー、を例示することができる。典型的には、強化材Sは、繊維強化材である。強化材が繊維強化材である場合、ホッパー4に供給する繊維強化材の形態は、束状(チョップドストランド状)にされたものでもよく、また、ロービング状の繊維をホッパー4に供給する前に所望の長さに切断したものでもよい。
【0025】
また、ホッパー4には、樹脂ペレットR及び強化材S以外に、必要に応じて(例えば製造する製品の要求特性に応じて)、その他の添加材、例えば改質剤、着色剤、熱安定剤等を供給することができる。
【0026】
ホッパー4への各材料(樹脂ペレット、強化材、添加剤等)の供給形態は、それぞれが個別に供給されるのであれば、どのようであってもよい。すなわち、直接ブレンド成形を行い得る材料の供給形態であれば、どのようであってもよい。例えば、各材料(樹脂ペレット、強化材、添加剤等)を、所望の配合比に基づいてそれぞれ定量供給装置により計量し、計量した各材料を個別にホッパー4に供給してもよい。或は、各材料を事前にブレンド(ドライブレンド)した後に、ブレンドした材料をホッパー4に供給してもよい。
【0027】
射出シリンダ2内に射出スクリュー3が配設される。
図2は、本実施形態に係る射出スクリュー3の側面図である。この射出スクリュー3は、後方端3a及び前方端3bを有し、長尺状に形成される。前方端3b側が射出シリンダ2の先端側に位置し後方端3aが射出シリンダ2の基端側に位置するように、射出シリンダ2内の円柱状の内部空間2a内に射出シリンダ2と同軸的に配設される。なお、射出スクリュー3の構造を説明するに際に方向を用いる場合、後方端3aから前方端3bに向かう方向(
図2の左方)を前方と言い、前方端3bから後方端3aに向かう方向(
図2の右方)を後方と言う場合もある。前方は、射出スクリュー3が射出シリンダ2内で回転した場合に材料が輸送される方向であり、後方は、その反対方向である。
【0028】
射出スクリュー3は、軸方向(長手方向)に沿って、機能的に分けることができる4つの部位を有する。これらの機能部位は、材料供給部3A、圧縮部3B、計量部3C、ミキシング部3Dであり、射出スクリュー3の後方端3aから前方端3bに向かって上記した部位が上記した順に設けられる。
【0029】
また、射出スクリュー3は、軸方向(長手方向)に沿って、構造的に分けることができる3つの部位を有する。これらの構造部位は、コイルスクリュー部33、フライトスクリュー部32、ミキシングエレメント31であり、射出スクリュー3の後方端3aから前方端3bに向かって上記した部位が上記した順に設けられる。
【0030】
ミキシング部3Dには、ミキシングエレメント31が装着される。ミキシングエレメント31として、ダルメージ型のミキシングエレメントやマドック型のミキシングエレメントを例示することができるが、この限りでない。また、このミキシングエレメント31(ミキシング部)は、必要に応じて設けられていればよく、場合によっては省略することもできる。
【0031】
計量部3C及び圧縮部3Bは、フライトスクリュー部32により構成される。フライトスクリュー部32は、射出スクリューとして通常用いられるフルフライトスクリューの計量部及び圧縮部を構成する部分と同じ構造を有する。
【0032】
フライトスクリュー部32は、スクリューシャフト321及び複数の同一形状のフライト322を有する。スクリューシャフト321は、後方端321a及び前方端321bを有し、丸棒状に形成される。スクリューシャフト321のうち、後方端321aに近い側の部分が圧縮部3Bを構成し、前方端321bに近い側の部分が計量部Aを構成する。スクリューシャフト321の前方端321bが、ミキシングエレメント31の後方端に接続される。
【0033】
スクリューシャフト321のうち圧縮部3Bを構成する部分である第一スクリューシャフト321Bの径は、前方に向かうほど大きくなる。そして、第一スクリューシャフト321Bの前方端が、スクリューシャフト321のうち計量部3Cを構成する部分である第二スクリューシャフト321Cの後方端に同軸的につながっている。第二スクリューシャフト321Cの径は、長手方向に沿って一定である。なお、第二スクリューシャフト321Cの径は、第一スクリューシャフト321Bの前方端の径と等しい。
【0034】
複数のフライト322は、スクリューシャフト321の外周に同軸的に設けられ、圧縮部3B及び計量部3Cに亘って等ピッチ間隔に配置する。また、上記したように、圧縮部3Bに設けられる第一スクリューシャフト321Bの径は、前方に向かって拡径している。従って、圧縮部3Bのスクリュー溝深さ(第一スクリューシャフト321Bの軸方向に直交する方向における、第一スクリューシャフト321Bの外周面からフライト322の外周面までの長さ)は、前方に向かうほど浅くなる。一方、計量部3Cに設けられる第二スクリューシャフト321Cの径は、長手方向に亘って一定である。従って、計量部3Cのスクリュー溝深さは長手方向に亘って一定である。
【0035】
射出スクリュー3の材料供給部3Aは、コイルスクリュー部33により構成される。
図3は、コイルスクリュー部33の側面図であり、
図4は、コイルスクリュー部33を前方から見た
図3のA方向矢視図である。
図3及び
図4に示すように、コイルスクリュー部33は、連結シャフト331と、コイル体332と、固定部材333(
図4参照)とを有する。
【0036】
連結シャフト331は径が一定の丸棒状に形成されており、その前方端331bがスクリューシャフト321の後方端321a(第一スクリューシャフト321Bの後方端)にスクリューシャフト321と同軸的に連結され、後方端321aからスクリューシャフト321の延設方向(前方)とは反対の方向(後方)に沿って延設される。この連結シャフトの後方端331aが駆動ユニット5に接続される。従って、駆動ユニット5からの駆動力は、連結シャフト331に伝達され、さらに連結シャフト331からスクリューシャフト321に伝達される。
【0037】
コイル体332は、所定の方向に沿って螺旋状に延設され、且つ、内周側には延設方向(軸方向)に貫通する空間が形成される部材である。本実施形態では、コイル体332は、螺旋状に形成された長尺部材からなり、連結シャフト331の外周を長手方向に亘って覆うように、連結シャフト331に対して同軸的に配設される。コイル体332の一方(前方)の端部は、連結シャフト331の前方端331bに接続され、コイル体332の他方(後方)の端部は、連結シャフト331の後方端331aに接続される。これにより、コイル体332は、スクリューシャフト321の後方端321aに連結シャフト331を介して接続されるとともに、スクリューシャフト321の後方端321aからスクリューシャフト321の延設方向(前方)とは反対の方向(後方)に沿って、螺旋状に延設するように、形成される。
【0038】
また、
図2からわかるように、螺旋状に形成されたコイル体332の外径が、フライトスクリュー部32に備えられるフライト322の外径よりも小さくなるように、コイル体332が形成される。なお、コイル体332の外径とは、コイル体332と同軸であり且つ周面がコイル体332に接する仮想円筒体の径である。別言すれば、コイル体332の外径とは、コイル体332の軸方向に直交する方向におけるコイル体332の長さである。また、フライト322の外径とは、所謂スクリュー径であり、スクリューシャフト321と同軸であり且つ周面がフライト322に接する仮想円筒体の径である。別言すれば、フライトの外径とは、スクリューシャフト321の軸方向に直交する方向におけるフライトの長さである。
【0039】
図4に示すように、連結シャフト331の外周面に固定部材333が取り付けられる。固定部材333は、連結シャフト331の外周面から連結シャフト331の径外方に延設されており、その先端が、コイル体332に接続される。これにより、コイル体332は、連結シャフト331の外周回りに同軸的に配設された状態で、固定部材333を介して連結シャフト331に固定される。また、こうしてコイル体332が連結シャフト331に固定されることにより、コイル体332の弾性変形が極力阻止される。なお、
図4においては、3つの固定部材333が連結シャフト331から周方向に沿って等間隔に設けられるが、固定部材333の個数はこの例に限定されない。また、複数の固定部材333が設けられる場合、それらは連結シャフト331の周方向に沿って等間隔に連結シャフト331に取り付けられるとよい。また、連結シャフト331の長手方向の異なる複数の位置にて、固定部材333が連結シャフト331に取り付けられていると良い。
【0040】
以上の説明からわかるように、本実施形態に係る射出スクリュー3は、通常のフライトスクリューの材料供給部をコイルスクリュー部33に置き換えた構造を有する。このような射出スクリューは、通常のフライトスクリューの計量部及び圧縮部(必要に応じてミキシング部)を作製し、或いは、通常のフライトスクリューから材料供給部を切断し、その後、フライトスクリューの圧縮部の後方端にコイルスクリュー部33を装着することにより、製造することができる。なお、射出スクリュー部33の圧縮部3B及び計量部3Cを構成するフライトスクリュー部32は、一体的に形成するのが強度的な面から好ましい。さらに、射出スクリュー3の各部分を一体的に形成しても良い。
【0041】
上記構成の射出スクリュー3は、上述したように、射出シリンダ2の内部空間2aに、射出シリンダ2と同軸的に配設される。この場合、
図1に示すように、射出シリンダ2に設けられた開口2cが、コイルスクリュー部33(材料供給部3A)に対面するように、射出スクリュー3が射出シリンダ2の内部空間2aに配設される。つまり、射出スクリュー3が軸方向におけるどの位置にあっても、ホッパー4内の材料が開口2cを経由して射出シリンダ2内の射出スクリュー3のコイルスクリュー部33に供給されるように、開口2cの位置が定められる。
【0042】
また、射出シリンダ2は、内部空間2aを構成する内周壁2dをする。この内周壁2dとフライトスクリュー部32のフライト322との間、及び、内周壁2dとコイルスクリュー部33のコイル体332との間に、射出スクリュー3の軸方向に直交する方向に沿って微小な隙間が設けられる。この隙間をクリアランスと言う。ここで、上記したように、コイル体332の外径はフライト322の外径よりも小さいので、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとクリアランスよりも大きい。つまり、コイル体332は、コイル体332と射出シリンダ2の内部空間2aを構成する内周壁2dとのクリアランスが、フライト322と内周壁2dとのクリアランスよりも大きくなるように、形成される。
【0043】
射出シリンダ2の内部空間2a内に配設された射出スクリュー3の後方端3a(すなわち連結シャフト331の後方端331a)は、駆動ユニット5に連結される。従って、駆動ユニット5が駆動することにより射出スクリュー3が射出シリンダ2内で回転する。つまり、射出スクリュー3は射出シリンダ2内に回転可能に配設される。また、射出スクリュー3は、軸方向に沿って射出シリンダ2内を前方移動(前進)及び後方移動(後退)することができるように構成されている。
【0044】
次に、上記構成の射出成形装置1を用いた強化樹脂成形体の製造方法について説明する。まず、ホッパー4の材料貯留空間4aに樹脂ペレットR及び強化材Sを含む材料を投入するとともに、射出成形装置1を駆動させる。すると、ヒータ6により所望の温度に加熱されている射出シリンダ2内で射出スクリュー3が回転する。これとともに、ホッパー4の材料貯留空間4a内の樹脂ペレットR及び強化材Sを含む材料が、ホッパー4の出口通路4b及び射出シリンダ2の開口2cを経由して、射出シリンダ2の内部空間2a内に供給される。ここで、上述したように、射出シリンダ2の開口2cは、射出シリンダ2内の射出スクリュー3のコイルスクリュー部33(材料供給部3A)に対面配置しているので、この開口2cを経由して射出シリンダ2に進入した材料は、射出シリンダ2内にて射出スクリュー3のコイルスクリュー部33(材料供給部3A)に供給される(材料供給工程)。
【0045】
また、射出スクリュー3が回転すると、コイルスクリュー部33のコイル体332が、後方から前方に向かって並進動作する。これに伴い、コイルスクリュー部33に供給された材料が前方に移動する。すなわち材料が前方に送られる。コイルスクリュー部33(材料供給部3A)から前方に送られた材料は、コイルスクリュー部33の前方に位置するフライトスクリュー部32のうち圧縮部3Bを構成する部分に輸送される(輸送工程)。
【0046】
圧縮部3Bでは、材料は、フライト322の回転により前方に送られる。また、上述したように、圧縮部3Bにおけるスクリュー溝深さは、前方に向かうほど浅いので、圧縮部3B内の材料が圧縮部3Bを前方に移動するにつれて強い圧縮力が材料に作用する。このため材料が圧縮部3Bにて圧縮及び混錬されるとともにヒータ6からの熱で加熱される。これにより、樹脂が溶融する(圧縮・溶融工程)。
【0047】
圧縮部3Bから前方に送られた材料は、フライトスクリュー部32のうち計量部3Cを構成する部分に輸送される。計量部3Cでは、材料が計量される。計量部3Cで計量された材料は、計量部3Cの前方のミキシング部3Dに輸送される。ミキシング部3Dでは、さらに材料が混錬されるとともに強化材Sが溶融樹脂中に均一に分散される。
【0048】
ミキシング部3Dで混錬され且つ強化材Sが均一に溶融樹脂中に分散された材料は、さらに射出スクリュー3の前方に送られて、射出スクリュー3の前方に充填される。そして、計量部3Cで計量された定量の材料が射出スクリュー3の前方に充填されたときに、射出スクリュー3の回転が停止される。なお、射出スクリュー3の回転中、射出シリンダ2のノズル2bは閉止している。このため、射出スクリュー3の前方に充填された材料はノズル2bから流出することなく、射出スクリュー3の前方に溜まる。このとき射出スクリュー3の前方に溜められた樹脂の圧力(樹脂背圧)によって、射出スクリュー3に前進方向の力が付与されていても、射出スクリュー3は回転しながら後方に移動する。
【0049】
射出スクリュー3の回転が停止した後、所定のタイミングで射出シリンダ2のノズル2bが開放されるとともに、射出スクリュー3が前進駆動される。これにより、射出スクリュー3の前方に溜められた材料が射出シリンダ2から金型MOのキャビティ内に射出される(射出工程)。金型MOのキャビティ内に射出された材料は、金型MO内で冷却固化される。そして、所定時間経過後に金型MOが型開き動作し、キャビティから成形体が取り出される。このようにして、強化材を含む樹脂成形体(強化樹脂成形体)が製造される。
【0050】
ところで、上述したように、射出スクリュー3の回転中、射出スクリュー3は、その前方に溜められた樹脂の圧力により後方に移動する。このとき、材料供給部3Aが従来の射出スクリューのようにフライトスクリューにより構成されている場合、射出スクリューの後方移動によって、射出シリンダ2に形成された開口2cをフライトが横切る。従って、開口2cを経由した材料が材料供給部3Aに至るまでに、材料の一部は、開口2cを横切るフライトを乗り越えなければならない。つまり、開口2cを経由した材料の一部は、フライトと射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスを通過して、材料供給部3Aに至る。
【0051】
フライトと射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが大きければ、開口2cを経由した材料は容易にフライトを乗り越えて材料供給部3Aに至ることができる。しかしながら、従来のフライトスクリューを用いた場合、材料はフライトに運ばれるように前方に送られるため、フライトと射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが大きいと、クリアランスに位置する材料がフライトに運ばれずにその場に滞留し、それにより材料の輸送能力が低下する。従って、材料の輸送能力を確保するために、従来のフライトスクリューを用いた場合にクリアランスは非常に小さく設定される。一般的には、フルフライトスクリューのフライトと射出シリンダ内周壁との間のクリアランスは、0.2mm〜0.5mmに設定される。このように非常に小さいクリアランスが設定されている場合、開口2cを経由した材料のうち強化材Sが、開口2cを横切るフライトを乗り越えることができずに、クリアランスに挟持される。クリアランスに挟持された強化材Sは、射出スクリューの回転による強いせん断力を受けて、折損する。
図5は、材料供給部3Aがフライトスクリューにより構成されている場合に、ホッパー4から開口2cを経由して射出シリンダ2内に進入する強化材Sが、フライトと射出シリンダ2の内周壁2dとの間のクリアランスに挟持された状態を示す図である。
図5の破線で囲った領域Aで示す部分において、フライトFと射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスに強化材S1が挟持されている。
【0052】
本実施形態のように材料供給部3Aがコイルスクリュー部33により構成されている場合、射出スクリュー3の回転中、コイルスクリュー部33のコイル体332が、射出シリンダ2の開口2cを横切る。しかしながら、コイル体332の外径はフライト322の外径よりも小さく、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、フライトと射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランス(一般的には0.2mm〜0.5mm)よりも大きい。よって、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスに強化材Sが挟持される可能性が低減される。
図6は、材料供給部3Aがコイルスクリュー部33により構成されている場合に、ホッパー4から開口2cを経由して射出シリンダ2内に進入する強化材Sが、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとの間のクリアランスに挟持されない状態を示す図である。
図6の破線で囲った領域Bで示す部分において、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスに強化材S2が挟持されることなくクリアランスを通過している。
【0053】
また、
図6に示すように、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスを大きく設定した場合でも、材料の輸送能力が確保できることが、後述する確認実験により確認されている。よって、材料供給部3Aをコイルスクリュー部33により構成し、且つ、コイル体332と内周壁2dとのクリアランスが、フライト322と内周壁2dとのクリアランスよりも大きくなるように(すなわちコイル体332の外径がフライト322の外径よりも小さくなるように)コイル体332を形成することにより、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部3Aにおいてクリアランスに強化材Sが挟持されることによる強化材Sの折損を防止あるいは抑制することができる。
【0054】
発明者等は、透明な射出シリンダを用いて、コイルスクリュー部33(材料供給部A)に供給された材料の輸送状態を可視化する実験を行った。これによれば、コイルスクリュー部33が回転すると、コイル体332が前方に並進動作し、このコイル体332の並進動作によってコイル体332の内周側に位置する材料が前方に移動する。すると、コイル体332の外周側に位置する材料がコイル体332の内周側の材料の移動によってコイル体332の内周側に引きずり込まれる。コイル体332の外周側から内周側に引きずり込まれる材料により、コイル体332の内周側の材料がコイル体332の外周側に押し出される。このように、コイルスクリュー部33に供給された材料は、コイル体332の内周側と外周側との間を移動しながら前方に移動していく。
【0055】
つまり、コイル体332の並進動作に伴うコイル体332の内周側の材料の移動に係る推進力が、コイル体332の外周側の材料にも伝播されることにより、コイルスクリュー部33に供給された材料が全体的に移動する。従って、コイル体332の外周側の材料に移動推進力が伝播される限りにおいては、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとの間のクリアランスを大きくしても、材料の輸送能力を確保することができる。
【0056】
さらに、発明者等の実験によれば、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが6mm以下であれば、コイル体332の外周側の材料に移動に係る推進力が伝播されることが確認されている。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが6mm以下の範囲で、当該クリアランスを、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスよりも大きくなるように、コイル体332を形成することにより、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部3Aにおいてクリアランスに強化材Sが挟持されることによる強化材Sの折損を効果的に防止あるいは抑制することができる。
【0057】
また、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが0.5mmよりも大きければ、従来のフライトスクリューを用いた場合と比較して、クリアランスに強化材Sが挟持される可能性を減じることができ、その結果、クリアランスに強化材Sが挟持されることによる強化材Sの折損を抑制することができる。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが0.5mmよりも大きいのが良い。特に、後述する確認実験で示されるように、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが3.0mmである場合には、材料の輸送能力を低下させることなく、材料供給部3Aにおける強化材Sの折損を十分に防止或いは抑制できることが確認されている。よって、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは3mm以上であるのがよく、より好ましくは、上記クリアランスは、3mm以上且つ6mm以下である。
【0058】
また、コイル体332が固定部材333を介して連結シャフト331に固定されているので、コイル体332の弾性変形が抑制される。このため、コイル体332に樹脂圧が作用した場合にコイル体332の変形が防止される。よって、コイル体332が変形することによる材料の輸送能力の低下が防止される。つまり、安定的に材料を輸送することができる。
【0059】
また、材料供給部3Aに供給される材料中の樹脂が材料供給部3Aにて溶融すると、コイルスクリュー部33による材料の輸送ができなくなる虞がある。従って、材料供給部3Aが位置する部分における内部空間2aの温度は、材料中の樹脂の融点よりも20℃以上低い温度に設定されるのがよい。また、それに伴い、樹脂の溶融プロセスが射出スクリュー3の前方側にシフトする。すなわち射出スクリュー3のフライトスクリュー部32で樹脂の溶融がなされることになる。従って、射出スクリュー3のフライトスクリュー部32の全長は長い方がよく、少なくともフライト322の外径(スクリュー径D)に対するフライトスクリュー部32の有効長(L)の比(L/D)が20以上であるとよい。また、圧縮部3Bにおける強化材Sの折損を抑制するため、圧縮部3Bを構成するフライトスクリュー部32の圧縮比はより小さい方が好ましい。この場合、圧縮部3Bを構成するフライトスクリュー部32の圧縮比が2以下であると良い。
【0060】
また、コイルスクリュー部33による材料の輸送能力と、フライトスクリュー部32による材料の輸送能力は、同じであるのが好ましい。このため、コイルスクリュー部33のコイル体332のピッチは、フライトスクリュー部32のフライト322のピッチと同じであるのがよい。
【0061】
<確認実験>
(実施例1)
配合比58wt%のポリプロピレン樹脂ペレットと、配合比42wt%のチョップドストランド状(束状)のガラス繊維を材料とし、
図2に示す射出スクリュー3を用いた
図1に示す射出成形装置1により射出成形を実施した。この場合において、ポリプロピレン樹脂ペレットとガラス繊維をそれぞれ個別にホッパー4に供給した。また、射出スクリュー3のコイルスクリュー部33のコイル体332の断面形状は、φ8mmの丸形である。また、コイル体332の外径はφ62.5mmであり、射出シリンダ2の内径はφ68.5mmである。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、3.0mmである。また、フライトスクリュー部32のフライト322の外径はφ67.5である。従って、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、0.5mmである。よって、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランス(3.0mm)は、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランス(0.5mm)よりも大きい。
【0062】
(実施例2)
配合比58wt%のポリプロピレン樹脂ペレットと、配合比42wt%のチョップドストランド状のガラス繊維を材料とし、
図2に示す射出スクリュー3を用いた
図1に示す射出成形装置1により射出成形を実施した。この場合において、ポリプロピレン樹脂ペレットとガラス繊維をそれぞれ個別にホッパー4に供給した。また、射出スクリュー3のコイルスクリュー部33のコイル体332の断面形状は、φ8mmの丸形である。また、コイル体332の外径はφ56.5mmであり、射出シリンダ2の内径はφ68.5mmである。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、6.0mmである。また、フライトスクリュー部32のフライト322の外径はφ67.5である。従って、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスは、0.5mmである。よって、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランス(6.0mm)は、フライト322と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランス(0.5mm)よりも大きい。
【0063】
(比較例)
配合比58wt%のポリプロピレン樹脂ペレットと、配合比42wt%のチョップドストランド状のガラス繊維を材料として、通常のフルフライトスクリューを用いて射出成形を実施した。この場合において、ポリプロピレン樹脂ペレットとガラス繊維をそれぞれ個別にホッパーに供給した。また、射出成形装置は、射出スクリューが通常のフルフライトスクリューであることを除き、
図1に示す射出成形装置1と同じである。また、フライトの外径はφ67.5mmであり、射出シリンダ2の内径はφ68.5mmである。従って、フライトと射出シリンダ2の内周壁とのクリアランスは、0.5mmである。
【0064】
<輸送能力の確認>
実施例1,2及び比較例に係る射出成形装置において、射出スクリューの回転数が、36rpm、72rpm、108rpm、144rpm、180rpmである場合に1秒間に送り出される(輸送される)材料の重量[g/sec.]を、輸送能力として測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
また、
図7は、スクリュー回転数と輸送能力との関係を表すグラフを示す。
図7において横軸がスクリュー回転数[rpm]であり、縦軸が輸送能力[g/sec.]である。また、
図7中、丸で示す点を結んだ線が、実施例1に係る射出成形装置を用いた場合におけるスクリュー回転数と輸送能力との関係を表すグラフ(グラフA)であり、三角で示す点を結んだ線が、実施例2に係る射出成形装置を用いた場合におけるスクリュー回転数と輸送能力との関係を表すグラフ(グラフB)であり、四角で示す点を結んだ線が、比較例に係る射出成形装置を用いた場合におけるスクリュー回転数と輸送能力との関係を表すグラフ(グラフC)である。
【0066】
表1及び
図7からわかるように、実施例1及び実施例2に係る射出成形装置を用いた場合における材料の輸送能力は、比較例に係る射出成形装置を用いた場合における材料の輸送能力とほとんど同じである。また、実施例1及び実施例2に係る射出成形装置を用いた場合でも、比較例に係る射出成形装置を用いた場合と同様に、スクリュー回転数を増加させると、それに比例するように輸送能力が増加することがわかる。このことから、本実施形態に係る射出スクリュー3を用いた場合でも、フルフライトスクリューを用いた場合と同等か同等以上の輸送能力を確保できることがわかる。また、実施例1に係る射出成形装置においてはコイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが3.0mmであり、実施例2に係る射出成形装置においてはコイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが6.0mmである。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが6.0mm以下であれば、輸送能力が十分に確保できることがわかる。
【0067】
<ガラス繊維の重量平均繊維長の測定>
実施例1、実施例2及び比較例に係る射出成形装置により射出成形した場合において、射出スクリューの材料供給部、圧縮部、計量部、射出シリンダのノズル出口にそれぞれ位置する材料に含まれるガラス繊維、及び、金型内に射出された繊維強化樹脂成形品(成形品)に含まれるガラス繊維の重量平均繊維長をそれぞれ測定し、成形プロセスの進行に伴うガラス繊維の重量平均繊維長の変化を調査した。なお、射出スクリューの各部(材料供給部、圧縮部、計量部)に位置する材料内のガラス繊維の重量平均繊維長は、射出成形中(ただし射出スクリューの動作停止中)に射出成形装置から射出スクリューを引き出し、各部位に位置する材料を採取することにより、測定した。表2は、実施例及び比較例についての、各位置における重量平均繊維長の測定結果である。
【表2】
なお、表2における位置の欄の「材料(素材)」とは、ホッパーに供給するガラス繊維の重量平均繊維長である。
【0068】
また、
図8は、上記した各位置におけるガラス繊維の重量平均繊維長の変化を表すグラフである。
図8の横軸がガラス繊維の重量平均繊維長を測定した位置であり、右方から左方に向かって材料の成形プロセスが進んでいく。また、
図8の縦軸は各位置におけるガラス繊維の重量平均繊維長である。また、
図8において、丸で示す点を結んだ線が、実施例1に係る射出成形装置を用いた場合におけるガラス繊維の重量平均繊維長の変化を示すグラフ(グラフD)であり、三角で示す点を結んだ線が、実施例2に係る射出成形装置を用いた場合におけるガラス繊維の重量平均繊維長の変化を示すグラフ(グラフE)であり、四角で示す点を結んだ線が、比較例に係る射出成形装置を用いた場合におけるガラス繊維の重量平均繊維長の変化を示すグラフ(グラフF)である。
【0069】
表2及び
図8からわかるように、実施例1、2に係る射出成形装置を用いた場合でも比較例に係る射出成形装置を用いた場合でも、成形プロセスが進むにつれて(
図8の横軸の右方から左方に向かうにつれて)、ガラス繊維の重量平均繊維長は短くなる。しかしながら、実施例1、2に係る射出成形装置を用いた場合における材料供給部でのガラス繊維の重量平均繊維長は、比較例に係る射出成形装置を用いた場合における材料供給部でのガラス繊維の重量平均繊維長よりもはるかに長い。このことから、実施例1、2に係る射出成形装置を用いることにより、材料供給部での(或いは材料供給部に至るまでの)ガラス繊維の折損が十分に抑えられていることがわかる。また、実施例1に係る射出成形装置においてはコイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが3.0mmであり、実施例2に係る射出成形装置においてはコイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが6.0mmである。従って、コイル体332と射出シリンダ2の内周壁2dとのクリアランスが3.0mm以上であれば、ガラス繊維の折損を十分に抑制できることがわかる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、射出スクリュー3の材料供給部3Aを構成するコイルスクリュー部33が、コイル体332、連結シャフト331及び固定部材333を備える構成を示したが、例えば
図9に示すように、コイル体332のみによりコイルスクリュー部33を構成してもよい。また、コイル体332の断面形状は、円形であっても良いし、それ以外の形状(例えば四角形)であってもよい。
【0071】
また、本発明は、材料供給部がコイルスクリュー部により構成され、且つ、コイルスクリュー部のコイル体と射出シリンダの内周壁とのクリアランスが通常のフルフライトスクリューを用いた場合におけるクリアランスよりも大きいことを特徴としている。従って、材料供給部以外の機能部位におけるスクリュー形状は、上記実施形態に捕らわれる必要はなく、必要に応じて変形してもよい。例えば、上記実施形態では、スクリューシャフト321のうち圧縮部3Bを構成する部分である第一スクリューシャフト321Bの径が、前方に向かうほど大きくされている。しかしながら、圧縮部3Bの後方側を構成する部分(圧縮部後方部分)のスクリューシャフトの径を一定にし、前方側を構成する部分(圧縮部前方部分)のスクリューシャフトの径を、前方に向かうほど大きくしてもよい。この場合、圧縮部3Bの圧縮部後方部分のスクリュー溝深さは一定である。よって、圧縮部後方部分は材料の輸送機能及び溶融機能を果たす。一方、圧縮部3Bの圧縮部前方部分のスクリュー溝深さは前方に向かうほど浅くなる。よって、圧縮部前方部分が材料の圧縮機能及び溶融機能を果たす。つまり、圧縮部3Bは、材料を圧縮する機能を有する限り、それ以外の機能を有していても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、材料供給部3Aを構成するコイルスクリュー部33が備えるコイル体332が、螺旋状に形成された長尺部材により構成される例を示した。しかしながら、コイル体は、螺旋状をなし且つ内周側に延設方向(軸方向)に貫通する空間が形成されるように構成されていれば、上記実施形態に示すコイル体332以外の形状を採用することができる。例えば、フライト322よりも小径であり且つ射出スクリュー3の軸方向に沿って貫通した貫通孔が形成された複数のフライト(以下、貫通孔付き小径フライト)により、本発明のコイル体及び固定部材を構成してもよい。コイル体及び固定部材を貫通孔付き小径フライトにより構成する場合、射出スクリューの回転に伴う貫通孔付き小径フライトの並進動作によって、貫通孔付き小径フライトの貫通孔内の材料に推進力が与えられる。これにより貫通孔内の材料が輸送されるとともに、その推進力が貫通孔付き小径フライトの外周側の材料にも伝播されて、貫通孔付き小径フライトの外周側の材料も輸送される。このような構成もまた、本発明の一実施形態に含まれる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。