(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における免震用ダンパDは、
図1に示すように、水平横置きにして積層ゴムで構成される免震装置Mとともに構造物Sと地盤Gとの間に介装される。なお、免震装置Mは、積層ゴムのほか、ボールアイソレータ等といった構造物Sの水平方向の移動を許容できるものを採用できる。
【0020】
そして、免震用ダンパDは、
図2に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されて伸側室Eと圧側室Cを仕切るピストン2と、シリンダ1に挿入されるとともにピストン2に連結されるロッド3と、液体を貯留するリザーバRと、シリンダ1内に移動可能に挿入されて伸側室Eを伸側作動室EWと伸側副リザーバ室ERとに区画する伸側隔壁部材4と、シリンダ1内に移動可能に挿入されて圧側室Cを圧側作動室CWと圧側副リザーバ室CRとに区画する圧側隔壁部材5とを備えて構成されている。
【0021】
以下、免震用ダンパDの各部について詳細に説明する。シリンダ1の一端には、バルブケース6が嵌合されており、他端にはロッドガイド7が嵌合されている。また、シリンダ1の外側には、シリンダ1の外周を覆ってシリンダ1との間の環状隙間でリザーバRを形成する外筒8が設けられている。外筒8の一端は、キャップ9によって閉塞され、外筒8の他端はロッドガイド7によって閉塞されている。シリンダ1は、外筒8に装着されるロッドガイド7とキャップ9に当接するバルブケース6によって挟持されて外筒8内に収容されつつ固定されている。よって、シリンダ1の
図2中左端である伸側端部が伸側閉塞部材としてのロッドガイド7によって閉塞され、シリンダ1の
図2中右端である圧側端部が圧側閉塞部材としてのバルブケース6によって閉塞されている。
【0022】
ピストン2は、シリンダ1内に摺動自在に挿入されており、シリンダ1内を伸側室Eと圧側室Cとに仕切っている。また、ロッド3は、一端がロッドガイド7内を通してシリンダ1内に移動自在に挿入されてピストン2に連結されるとともに他端はシリンダ1外に突出している。
【0023】
本例では、免震用ダンパDは、ロッド3が伸側室R1内にのみ挿通される所謂片ロッド型のダンパとされているが、圧側室R2にも挿通されてロッド3の両端がシリンダ1の両端側からそれぞれ外方へ突出する所謂両ロッド型のダンパとされていてもよい。
【0024】
キャップ9には、構造物Sに設けた取付部Bsに連結されるブラケット9aが設けられ、ロッド3の他端には地盤Gに設けた取付部Bgに連結されるブラケット3aが設けられており、ブラケット3a,9aにより免震用ダンパDを構造物Sと地盤Gとの間に設置できる。
【0025】
シリンダ1内であって伸側室E内には伸側隔壁部材4がシリンダ1に対して移動可能に収容されている。伸側隔壁部材4は、シリンダ1内の伸側室Eに摺動自在に挿入されるとともに内周にロッド3が摺動自在に挿入される環状のフリーピストンとされている。そして、伸側隔壁部材4は、伸側室E内をピストン2に面する伸側作動室EWとピストン2に面しない伸側副リザーバ室ERとに区画している。詳細には、伸側隔壁部材4は、環状であって内周がロッド3の外周に摺接するとともに外周がシリンダ1の内周に摺接して伸側室E内を伸側作動室EWと伸側副リザーバ室ERとに仕切る環状の伸側仕切部4aと、伸側仕切部4aから反ピストン側へ突出してシリンダ1の内周に摺接する伸側筒部4bとを備えている。
【0026】
伸側副リザーバ室ER内であって伸側隔壁部材4とロッドガイド7との間には、伸側作動室EWを圧縮する方向へ向けて伸側隔壁部材4を附勢する伸側ばね部材12が設けられている。本例では、伸側ばね部材12は、伸側隔壁部材4をピストン2へ接近させるように附勢しており、免震用ダンパDが静止状態であってピストン2が伸側隔壁部材4に接触しない場合、伸側ばね部材12が自然長となって伸側隔壁部材4を所定位置に位置決める。なお、ピストン2がシリンダ1に対して中立位置にある状態では、伸側ばね部材12が自然長となっても、伸側隔壁部材4とピストン2とが互いに離間するようになっており、伸側隔壁部材4の前記所定位置は伸側ばね部材12の自然長によって決せされている。シリンダ1に対するピストン2の中立位置は、ピストン2のシリンダ1に対するストローク範囲の中央とされており、必ずしもシリンダ1の中央に一致しなくともよい。
【0027】
伸側副リザーバ室ERは、シリンダ1の
図2中左端近傍に設けられた伸側リザーバ通路EPを介してリザーバRに連通されている。伸側隔壁部材4は、伸側ばね部材12を押し縮めて
図2中左方へ移動していくと、伸側筒部4bが伸側リザーバ通路EPに対向するようになり伸側リザーバ通路EPを徐々に閉塞していく。そして、伸側隔壁部材4がシリンダ1に対して伸側副リザーバ室ERを圧縮する方向へ所定の伸側規制位置まで変位すると、伸側隔壁部材4は、完全に伸側リザーバ通路EPを閉塞し、伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通が遮断される。すると、伸側副リザーバ室ERが閉鎖されるため、伸側隔壁部材4はそれ以上伸側副リザーバ室ERを圧縮する方向へ変位しようとしても、伸側副リザーバ室ER内の圧力上昇によって変位できなくなる。このように、伸側隔壁部材4が伸側リザーバ通路EPを閉塞すると、油圧ロックによって、伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通が遮断されて伸側隔壁部材4の変位が規制される。伸側規制位置は、伸側隔壁部材4が伸側ばね部材12によって位置決めされる所定位置よりもシリンダ1の伸側端である左端側にあって、任意に設定可能である。また、伸側リザーバ通路EPのシリンダ1への穿設位置は、伸側規制位置に応じて決定すればよい。また、本例の免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位すると閉塞されるようになっていれば、伸側リザーバ通路EPの設置数は任意に設定でき、その場合、各々の伸側リザーバ通路EPをシリンダ1に対して軸方向にずらして配置してもよい。
【0028】
また、シリンダ1内であって圧側室C内には圧側隔壁部材5がシリンダ1に対して移動可能に収容されている。圧側隔壁部材5は、シリンダ1内の圧側室Cに摺動自在に挿入されるとともに内周にガイド軸6aが摺動自在に挿入される環状のフリーピストンとされている。そして、圧側隔壁部材5は、圧側室C内をピストン2に面する圧側作動室CWとピストン2に面しない圧側副リザーバ室CRとに区画している。詳細には、圧側隔壁部材5は、環状であって内周がバルブケース6に圧側室C側へ向けて突出するように設けられたガイド軸6aの外周に摺接するとともに外周がシリンダ1の内周に摺接して圧側室C内を圧側作動室CWと圧側副リザーバ室CRとに仕切る環状の圧側仕切部5aと、圧側仕切部5aから反ピストン側へ突出してシリンダ1の内周に摺接する圧側筒部5bとを備えている。
【0029】
圧側副リザーバ室CR内であって圧側隔壁部材5とバルブケース6との間には、圧側作動室CWを圧縮する方向へ向けて圧側隔壁部材5を附勢する圧側ばね部材13が設けられている。本例では、圧側ばね部材13は、圧側隔壁部材5をピストン2へ接近させるように附勢しており、免震用ダンパDが静止状態であってピストン2が接触しない場合、圧側ばね部材13が自然長となって圧側隔壁部材5を所定位置に位置決める。なお、ピストン2がシリンダ1に対して中立位置にある状態では、圧側ばね部材13が自然長となっても、圧側隔壁部材5とピストン2とが互いに離間するようになっており、圧側隔壁部材5の前記所定位置は圧側ばね部材13の自然長によって決せ
られている。
【0030】
圧側副リザーバ室CRは、シリンダ1の
図2中右端近傍に設けられた圧側リザーバ通路CPを介してリザーバRに連通されている。圧側隔壁部材5は、圧側ばね部材13を押し縮めて
図2中右方へ移動していくと、圧側筒部5bが圧側リザーバ通路CPに対向するようになり圧側リザーバ通路CPを徐々に閉塞していく。そして、圧側隔壁部材5がシリンダ1に対して圧側副リザーバ室CRを圧縮する方向へ所定の圧側規制位置まで変位すると、圧側隔壁部材5は、完全に圧側リザーバ通路CPを閉塞し、圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通が遮断される。すると、圧側副リザーバ室CRが閉鎖されるため、圧側隔壁部材5はそれ以上圧側副リザーバ室CRを圧縮する方向へ変位しようとしても、圧側副リザーバ室CRの圧力上昇によって変位できなくなる。このように、圧側隔壁部材5が圧側リザーバ通路CPを閉塞すると、油圧ロックによって、圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通が遮断されて圧側隔壁部材5の変位が規制される。圧側規制位置は、圧側隔壁部材5が圧側ばね部材13によって位置決めされる所定位置よりもシリンダ1の圧側端である右端側にあって、任意に設定可能である。また、圧側リザーバ通路CPのシリンダ1への穿設位置は、圧側規制位置に応じて決定すればよい。また、本例の免震用ダンパDでは、圧側隔壁部材5が圧側規制位置まで変位すると閉塞されるようになっていれば、圧側リザーバ通路CPの設置数は任意に設定でき、その場合、各々の圧側リザーバ通路CPをシリンダ1に対して軸方向にずらして配置してもよい。
【0031】
また、伸側作動室EW、伸側副リザーバ室ER、圧側作動室CWおよび圧側副リザーバ室CRには、それぞれ、液体として作動油が充填されており、リザーバRには、液体としての作動油と気体とが充填されている。なお、液体は、本例では、作動油とされているが、水や水溶液等といった他の液体とされてもよい。また、気体は、作動油の劣化を招かない窒素等の不活性ガスとされるとよいが、大気等、他の気体の利用も可能である。
【0032】
ピストン2には、伸側作動室EWと圧側作動室CWとを連通する減衰通路10と、減衰通路10を通過する作動油の流れに抵抗を与える減衰弁11とが設けられている。なお、減衰弁11には、調圧弁、リリーフ弁や絞りといった種々の弁を利用できる。また、一方通行の減衰弁を用いる場合には、減衰通路10を複数設けて、減衰通路10の一部に伸側作動室EWから圧側作動室CWへ向かう流体の流れのみを許容する減衰弁を設け、残りの減衰通路10に反対向きの流体の流れのみを許容する減衰弁を設ければよい。
【0033】
バルブケース6は、圧側室Cへ向けて突出するガイド軸6aと、反圧側室側に設けられてリザーバRに連通される凹部6bとを備えている。また、バルブケース6には、ガイド軸6aの先端から開口して凹部6bへ通じる減衰通路14と吸込通路15とが設けられている。この減衰通路14と吸込通路15は、圧側作動室CWとリザーバRとを連通している。そして、減衰通路14の途中には減衰通路14を通過する作動油の流れに抵抗を与える減衰弁16が設けられ、吸込通路15の途中にはリザーバRから圧側作動室CWへ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁17が設けられている。なお、減衰弁16には、減衰弁11と同様に種々の構造の減衰弁を利用でき、減衰弁16は、圧側作動室CWからリザーバRへ向かう流体の流れのみを許容するものでもよい。
【0034】
このように構成された免震用ダンパDの作動について説明する。まず、免震用ダンパDが伸長する際の作動について説明する。
【0035】
ピストン2がシリンダ1に対して
図2に示す中立位置から伸側室Eを圧縮する方向である左方へ移動すると、ピストン2の移動に伴って伸側室Eが圧縮されて容積が減少する。ここで、伸側リザーバ通路EPにおける流路抵抗は、減衰弁11における流路抵抗に比して非常に小さく設定されている。したがって、伸側隔壁部材4の
図2中左方への移動が可能な状態では、ピストン2が
図2中左方へ移動すると、伸側隔壁部材4が伸側ばね部材12を押し縮めて左方へ移動して伸側副リザーバ室ERの容積を減少させる。よって、伸側隔壁部材4がシリンダ1に対して伸側副リザーバ室ERを圧縮する方向へ移動できる状況では、ピストン2の移動による伸側室Eの容積減少分は、その殆どが伸側副リザーバ室ERの容積減少によって賄われる。
【0036】
また、この状況における伸側作動室EWの圧力は、伸側ばね部材12が押し縮められて発揮するばね力を伸側隔壁部材4における伸側仕切部4aの断面積で除した値だけリザーバ圧力より高くなる。他方、ピストン2の左方への変位に伴って拡大される圧側室Cでは、圧側作動室CW内に吸込通路15を介して作動油が供給される。圧側作動室CWと圧側副リザーバ室CRの圧力はリザーバ圧となるので、圧側隔壁部材5は圧側ばね部材13によって所定位置から変位しない。よって、この状況では、圧側室Cの容積増大分は、殆ど圧側作動室CWの容積増大分によって賄われる。以上より、伸側ばね部材12のばね定数を小さくすれば、伸側隔壁部材4の
図2中左方への移動が可能な状態では、伸側作動室EWと圧側作動室CWの圧力差が非常に小さくなり、免震用ダンパDが発揮する伸側減衰力は、非常に小さなものとなる。
【0037】
つづいて、ピストン2の中立位置からの伸側室Eを圧縮する方向への変位が先程よりも多く、伸側隔壁部材4の変位量が多くなり伸側規制位置まで達すると伸側リザーバ通路EPが完全に閉塞される。すると、伸側隔壁部材4のシリンダ1に対する伸側副リザーバ室ERを圧縮する方向への変位が規制される。そうなると、伸側隔壁部材4が
図2中で左方へ移動できなくなるため、伸側副リザーバ室ERの圧縮が不能となり、伸側作動室EW内の作動油は、減衰弁11を介して圧側作動室CWへ移動するようになる。圧側作動室CWには、吸込通路15を通じてリザーバRから作動油が供給されるので、圧側作動室CWの圧力はリザーバ圧となる。伸側作動室EWの圧力は、作動油が減衰弁11を通過する際の圧力損失分だけ圧側作動室CWの圧力よりも高くなるため、免震用ダンパDは発揮する伸側減衰力は大きくなる。つまり、伸側隔壁部材4の変位が規制されるまでは、免震用ダンパDが発揮する伸側減衰力は小さく、伸側隔壁部材4がシリンダ1の伸側規制位置まで変位すると免震用ダンパDが発揮する伸側減衰力が大きくなる。
【0038】
次に、免震用ダンパDが収縮する際の作動について説明する。ピストン2がシリンダ1に対して
図2に示す中立位置から圧側室Cを圧縮する方向である
右方へ移動すると、ピストン2の移動に伴って圧側室Cが圧縮されて容積が減少する。ここで、圧側リザーバ通路CPにおける流路抵抗は、減衰弁16における流路抵抗に比して非常に小さく設定されている。したがって、圧側隔壁部材5の
図2中右方への移動が可能な状態では、ピストン2が
図2中右方へ移動すると、圧側隔壁部材5が圧側ばね部材13を押し縮めて
右方へ移動して圧側副リザーバ室CRの容積を減少させる。よって、圧側隔壁部材5がシリンダ1に対して圧側副リザーバ室CRを圧縮する方向へ移動できる状況では、ピストン2の移動による圧側室Cの容積減少分は、その殆どが圧側副リザーバ室CRの容積減少によって賄われる。
【0039】
また、この状況における圧側作動室CWの圧力は、圧側ばね部材13が押し縮められて発揮するばね力を圧側隔壁部材5における圧側仕切部5aの断面積で除した値だけリザーバ圧力よりも高くなる。他方、ピストン2の
右方への変位に伴って伸側室Eが拡大するが、この拡大分は伸側副リザーバ室ER内に伸側リザーバ通路EPを介して作動油が供給されて伸側副リザーバ室ERの拡大によって賄われ、伸側作動室EWの圧力は略リザーバ圧と同等の圧力となる。以上より、圧側ばね部材13のばね定数を小さくすれば、圧側隔壁部材5の
図2中右方への移動が可能な状態では、圧側作動室CWと伸側作動室EWの圧力差が非常に小さくなり、免震用ダンパDが発揮する圧側減衰力は、非常に小さなものとなる。
【0040】
つづいて、ピストン2の中立位置からの圧側室Cを圧縮する方向への変位が先程よりも多く、圧側隔壁部材5の変位量が多くなり圧側規制位置まで達すると圧側リザーバ通路CPが完全に閉塞される。すると、圧側隔壁部材5のシリンダ1に対する圧側副リザーバ室CRを圧縮する方向への変位が規制される。そうなると、圧側隔壁部材5が
図2中で右方へ移動できなくなるため、圧側副リザーバ室CRの圧縮が不能となり、圧側作動室CW内の作動油は、減衰弁11,16を介して伸側作動室EWとリザーバRとへ移動するようになる。圧側作動室CWの圧力は、作動油が減衰弁16を通過する際の圧力損失分だけリザーバ圧よりも高くなり、他方の伸側作動室EWの圧力は略リザーバ圧となる。よって、免震用ダンパDは発揮する圧側減衰力は大きくなる。つまり、圧側隔壁部材5の変位が規制されるまでは、免震用ダンパDが発揮する圧側減衰力は小さく、圧側隔壁部材5がシリンダ1の圧側規制位置まで変位すると免震用ダンパDが発揮する圧側減衰力が大きくなる。
【0041】
このように、本例の免震用ダンパDは、ピストン2が中立位置から移動して伸長しても収縮してもピストン2のストローク量が小さいと低い減衰力を発揮し、ストローク量が大きくなると高い減衰力を発揮する。つまり、免震用ダンパDは、ピストン2の変位に依存して減衰力を高低切換える。なお、免震用ダンパDの減衰力が低い減衰力から高い減衰力に切換わるピストン2の中立位置からのストローク量は、免震用ダンパDを設置する構造物Sの地盤Gに対するストローク限界等によって適するように設定されればよい。
【0042】
よって、本例の免震用ダンパDにあっては、ピストン2の中立位置からの移動距離が小さくなる中小振幅の規模の地震の揺れに対しては、伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位せず、また、圧側隔壁部材5も圧側規制位置まで変位しないので、
図3に示すように、低い減衰力を発揮する。これに対して、本例の免震用ダンパDにあっては、ピストン2の中立位置からの移動距離が大きくなる大振幅の地震の揺れに対しては、伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位し、また、圧側隔壁部材5も圧側規制位置まで変位するので、
図4に示すように、高い減衰力を発揮できる。
【0043】
また、免震用ダンパDでは、ピストン2の中立位置からの移動距離により低い減衰力と高い減衰力を切換えるのに際し、複雑な機構の装置を利用せずに済むので、免震用ダンパDが軽量かつ構造が簡単で安価となる。以上より、本発明の免震用ダンパDによれば、中小振幅の規模の地震の揺れに対して低い減衰力を発揮し、大振幅の地震の揺れに対して高い減衰力を発揮できるとともに、免震用ダンパDが軽量かつ構造が簡単で安価となる。なお、免震用ダンパDが伸長時に発揮する低減衰力の特性は、伸側リザーバ通路EPの流路抵抗と伸側ばね部材12のばね定数によって設定できる。また、免震用ダンパDが収縮時に発揮する低減衰力の特性は、圧側リザーバ通路CPの流路抵抗と圧側ばね部材13のばね定数によって設定できる。
【0044】
さらに、本例の免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4の変位を規制するのに際し、シリンダ1に設けた伸側リザーバ通路EPを伸側隔壁部材4で閉塞して伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通を遮断する。また、圧側隔壁部材5の変位を規制するのに際し、シリンダ1に設けた圧側リザーバ通路CPを圧側隔壁部材5で閉塞して圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通を遮断する。このようにすると、伸側隔壁部材4が伸側規制変位に到達するまでに伸側リザーバ通路EPを徐々に閉塞するので、伸側隔壁部材4を徐々に減速して伸側規制位置で停止させられる。
また、圧側隔壁部材5が圧側規制変位に到達するまでに圧側リザーバ通路CPを徐々に閉塞するので、圧側隔壁部材5を徐々に減速して圧側規制位置で停止させられる。このように、本例の免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4と圧側隔壁部材5がそれぞれ徐々に減速して停止するので、低減衰力から高減衰力の切換わりにおいて、減衰力が徐々に低減衰力から高減衰力に切換わり、減衰力の急変が緩和される。したがって、本例の免震用ダンパDによれば、低減衰力から高減衰力の切換わりにおいて、減衰力の急変が緩和されるので、異音の発生や減衰力波形の乱れが緩和される。
【0045】
なお、伸側規制位置で伸側隔壁部材4の伸側副リザーバ室ERを圧縮する方向への変位を規制するには、伸側リザーバ通路EPの伸側隔壁部材4による閉塞以外にも、シリンダ1にストッパを設けてもよいし、伸側隔壁部材4における伸側筒部4bの端部と伸側閉塞部材としてのロッドガイド7とを当接させてもよい。なお、このように伸側リザーバ通路EPの閉塞によらずに伸側隔壁部材4の変位を規制する場合、伸側リザーバ通路EPの設置個所は、シリンダ1以外であってもよく、たとえば、ロッドガイド7に設けてもよい。このように、伸側リザーバ通路EPの設置個所の自由度が向上する。また、圧側規制位置で圧側隔壁部材5のそれ以上の圧側副リザーバ室CRを圧縮する方向への変位を規制するには、圧側リザーバ通路CPの圧側隔壁部材5による閉塞以外にも、シリンダ1にストッパを設けてもよいし、圧側隔壁部材5における圧側筒部5bの端部と圧側閉塞部材としてのバルブケース6との当接によってもよい。なお、このように圧側リザーバ通路CPの閉塞によらずに圧側隔壁部材5の変位を規制する場合、圧側リザーバ通路CPの設置個所は、シリンダ1以外であってもよく、たとえば、バルブケース6に設けてもよい。このように、圧側リザーバ通路CPの設置個所の自由度が向上する。
【0046】
さらに、本例の免震用ダンパDでは、伸側副リザーバ室ER内に設けられて伸側作動室EWを圧縮する方向へ向けて伸側隔壁部材4を附勢する伸側ばね部材12と、圧側副リザーバ室CR内に設けられて圧側作動室CWを圧縮する方向へ向けて圧側隔壁部材5を附勢する圧側ばね部材13とを備えている。このように構成された免震用ダンパDでは、地震動が収まって免震用ダンパDが免震装置Mによってピストン2が中立位置に復帰して静止すると、伸側隔壁部材4が伸側ばね部材12により、圧側隔壁部材5が圧側ばね部材13により、それぞれ元の所定位置に復帰する。よって、次回に地震が発生した際に、免震用ダンパDは、ピストン2の中立位置からのストローク量が小さい範囲では必ず低い減衰力を発揮し、ストローク量が大きくなると高い減衰力を発揮できる。したがって、このように構成された免震用ダンパDでは、地震が発生後に伸側隔壁部材4と圧側隔壁部材5の位置を元の位置に戻す手間がなく、メンテナンス作業が不要となる。
【0047】
また、本例の免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4が伸側室E内を伸側作動室EWと伸側副リザーバ室ERとに仕切る伸側仕切部4aと、伸側仕切部4aから反ピストン側へ突出してシリンダ1の内周に摺接する伸側筒部4bとを備え、圧側隔壁部材5が圧側室C内を圧側作動室CWと圧側副リザーバ室CRとに仕切る圧側仕切部5aと、圧側仕切部5aから反ピストン側へ突出してシリンダ1の内周に摺接する圧側筒部5bとを備えている。このように構成された免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4のシリンダ1に嵌合する全長である嵌合長と圧側隔壁部材5のシリンダ1に嵌合する全長である嵌合長を長くでき、伸側隔壁部材4と圧側隔壁部材5がシリンダ1に対して傾かずに円滑に変位できる。また、伸側隔壁部材4が伸側筒部4bを備え、圧側隔壁部材5が圧側筒部5bを備えているので、伸側筒部4bと圧側筒部5b内に対応する伸側ばね部材12と圧側ばね部材13を配置でき、伸側ばね部材12と圧側ばね部材13のシリンダ1への接触が阻止されてシリンダ1の内周面を保護できる。
【0048】
なお、免震用ダンパDを両ロッド型のダンパとしてロッド3を圧側室Cにも
挿通させる場合、バルブケース6でシリンダ1と外筒8の右端を閉塞する代わりに、ロッドガイド7と同様のロッドガイドで閉塞し、圧側隔壁部材5の内周をロッド3の外周に摺接させればよい。
【0049】
また、伸側室Eにおいて伸側作動室EWとリザーバRに連通される伸側副リザーバ室ERとに区画する伸側隔壁部材4は、
図2に示したところでは、シリンダ1とロッド3とに摺接するフリーピストンとされているが、ダイヤフラムやベローズ等で形成されてもよい。伸側隔壁部材4がダイヤフラムやベローズ等とされる場合、伸側副リザーバ室ERの容積が所定容積となるとそれ以上伸側副リザーバ室ERが圧縮されないように変位が規制されればよい。圧側隔壁部材5についても同様に、ダイヤフラムやベローズ等とされてもよく、その場合には、圧側副リザーバ室CRの容積が所定容積となるとそれ以上圧側副リザーバ室CRが圧縮されないように変位が規制されればよい。
【0050】
また、伸側ばね部材12と圧側ばね部材13は、ピッチが途中で変わるコイルばねか或いはピッチの異なるコイルばねを直列配置した二段ばねとしておき、ピッチが狭い部位が最圧縮されるとばね定数が大きくなるようにしておき、ピッチが狭い部位の最圧縮によって伸側隔壁部材4および圧側隔壁部材5の移動を大きく妨げるようにしてもよい。このようにすれば、ピッチが狭い部位が最圧縮されると免震用ダンパDの減衰力を高くでき、低減衰力から高減衰力への切換りに際して段階的に減衰力を大きくできるから、減衰力の急変を緩和できる。なお、伸側ばね部材12および圧側ばね部材13は、コイルばねのほか、ゴム等の弾性体で構成されてもよい。
【0051】
また、伸側ばね部材12および圧側ばね部材13を省略する場合であっても、ピストン2が中立位置にある際にリザーバRの圧力が大気圧となるように設定しておき、伸側副リザーバ室ERと圧側副リザーバ室CRの受圧面積を等しくすれば、ピストン2が中立位置に静止すれば、伸側隔壁部材4と圧側隔壁部材5が元の位置に復帰させ得る。
【0052】
なお、前述の構成の免震用ダンパDでは、伸側隔壁部材4のピストン2側である
図2中右方への変位と、圧側隔壁部材5のピストン2側である
図2中
左方への変位が規制されていない。よって、
図2に示した免震用ダンパDでは、
図4に示すように、大振幅の地震の揺れに対して伸長して高減衰力を発揮する場合、収縮行程に転じると圧側隔壁部材5が圧側規制位置まで変位しないと圧側の減衰力は低くなる。反対に、
図2に示した免震用ダンパDでは、
図4に示すように、大振幅の地震の揺れに対して収縮して高減衰力を発揮する場合、伸長行程に転じると伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位しないと圧側の減衰力は低くなる。
【0053】
これに対して、
図5に示す一実施の形態の第一変形例における免震用ダンパD1は、伸側隔壁部材4が伸側規制位置よりもピストン2側に設定される伸側切換位置までピストン2側となる
図5中右方へ変位するとそれ以上の右方への変位を規制する伸側切換用ストッパ20と、圧側隔壁部材5が圧側規制位置よりもピストン2側に設定される圧側切換位置までピストン2側となる
図5中左方へ変位するとそれ以上の左方への変位を規制する圧側切換用ストッパ21とを備えている。
【0054】
伸側切換用ストッパ20は、シリンダ1の内周に設けられており、伸側隔壁部材4に当接すると、伸側隔壁部材4のそれ以上の
図5中右方への変位を規制する。伸側隔壁部材4を附勢する伸側ばね部材12は、伸側隔壁部材4が正面と背面の圧力が等しい場合、伸側隔壁部材4を伸側切換用ストッパ20へ当接する位置へ位置決めている。
【0055】
圧側切換用ストッパ21は、シリンダ1の内周に設けられており、圧側隔壁部材5に当接すると、圧側隔壁部材5のそれ以上の
図5中左方への変位を規制する。圧側隔壁部材5を附勢する圧側ばね部材13は、圧側隔壁部材5が正面と背面の圧力が等しい場合、圧側隔壁部材5を圧側切換用ストッパ21へ当接する位置へ位置決めている。
【0056】
このように構成された免震用ダンパD1は、ピストン2が中立位置にある状態から収縮して、圧側隔壁部材5が圧側規制位置まで変位すると、
図6に示すように、免震用ダンパDと同様に、発揮する減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。伸側隔壁部材4は、伸側切換用ストッパ20によって
図5中右方への変位が規制されているので、ピストン2の変位に追従せずにその場に留まる。その後、免震用ダンパD1の伸縮方向が伸長に切換わると、今度は、ピストン2が伸側作動室EWを圧縮するので、伸側隔壁部材4もピストン2と同方向へ変位する。そして、伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位すると、免震用ダンパD1は、
図6に示すように、ピストン2が中立位置を超えて
図5中左方へ変位しなくとも、発揮する減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。なお、圧側隔壁部材5は、ピストン2のシリンダ1に対する
図5中左方への変位により同方向へ変位するが、やがて、圧側切換用ストッパ21に当接して、それ以上は
図5中左方へ変位しなくなる。さらに、その後、免震用ダンパD1の伸縮方向が収縮に切換わると、今度は、ピストン2が圧側作動室CWを圧縮するので、圧側隔壁部材5もピストン2と同方向へ変位する。そして、圧側隔壁部材5が圧側規制位置まで変位すると、免震用ダンパD1は、
図6に示すように、ピストン2が中立位置を超えて
図5中右方へ変位しなくとも、発揮する減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。なお、伸側隔壁部材4は、ピストン2のシリンダ1に対する
図5中右方への変位により同方向へ変位するが、やがて、伸側切換用ストッパ20に当接して、それ以上は
図5中右方へ変位しなくなる。
図6に示した免震用ダンパD1のストロークに対する減衰力の特性は、免震用ダンパDをサイン波で振動させた場合の特性である。
図6において、特性線上の矢印は、特性がどのように遷移するかを示している。
【0057】
なお、免震用ダンパD1は、伸側隔壁部材4が伸側規制位置まで変位せず、また、圧側隔壁部材5も圧側規制位置まで変位しない中小振幅の規模の地震の揺れに対しては、
図3に示すように、免震用ダンパDと同様に低い減衰力を発揮する。
【0058】
このように、第一変形例における免震用ダンパD1では、伸側隔壁部材4と圧側隔壁部材5がそれぞれ伸側切換位置と圧側切換位置でピストン2側への変位が規制されるので、免震用ダンパD1の伸縮が切換わるとピストン2が所定量変位すると減衰力を高減衰力へ切換え得る。よって、このように構成された免震用ダンパD1によれば、大振幅の地震の揺れに対して高い減衰力を発揮する時間が長くなり、より大きな振動エネルギを吸収できるから、大地震時の構造物Sの振動を効果的に抑制できる。
【0059】
なお、免震用ダンパD1の収縮から伸長への切換わりから減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換えるまでのピストン2の伸長側への移動距離は、伸側切換位置と伸側規制位置との間の距離で設定できる。同様に、免震用ダンパD1の伸長から収縮への切換わりから減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換えるまでのピストン2の収縮側への移動距離は、圧側切換位置と圧側規制位置との間の距離で設定できる。伸側切換位置は、伸側隔壁部材4の軸方向長さを考慮したうえで伸側規制位置よりもピストン2側の任意に設定でき、圧側切換位置は、圧側隔壁部材5の軸方向長さを考慮したうえで圧側規制位置よりもピストン2側の任意に設定できる。
【0060】
また、
図7に示した一実施の形態の第二変形例における免震用ダンパD2のように、リザーバRと伸側副リザーバ室ERとを連通する伸側リザーババルブ部EVと、リザーバRと圧側副リザーバ室CRとを連通する圧側リザーババルブ部CVとを備えていてもよい。
【0061】
伸側リザーババルブ部EVは、作動油の伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの行き来を許容するが、伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通を遮断する。具体的に、伸側リザーババルブ部EVは、本例では、ロッドガイド7に設けられてリザーバRと伸側副リザーバ室ERとを連通する伸側リザーバ通路EPに設けられている。伸側リザーババルブ部EVは、伸側リザーバ通路EPに並列される流量制御シャットオフバルブSV1と伸側逆止弁ECとを備えて構成されている。
【0062】
伸側リザーバ通路EPは、途中で二つの分岐流路ep1,ep2に分岐されており、一方の分岐流路ep1に流量制御シャットオフバルブSV1が設けられ、他方の分岐流路ep2に伸側逆止弁ECが設けられている。
【0063】
流量制御シャットオフバルブSV1は、分岐流路ep1を開閉するバルブであって、伸側副リザーバ室ERの圧力が閉弁方向に作用するとともにばねの附勢力が開弁方向に作用しており、分岐流路ep1を連通させる連通ポジションにて通過する液体の流れに抵抗を与えるオリフィスを備えている。よって、流量制御シャットオフバルブSV1は、常時ばねで附勢されており、伸側副リザーバ室ER内の圧力が低い状態では連通ポジションを採る。対して、流量制御シャットオフバルブSV1は、伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう流量が多くなると連通ポジションにて作動油の流れに与える抵抗が大きくなり、伸側副リザーバ室ER内の圧力が上昇するため、連通ポジションから遮断ポジションへ移行して分岐流路ep1を遮断する。
【0064】
他方の伸側逆止弁ECは、分岐流路ep2に設けられており、伸側リザーバ通路EPに対して
流量制御シャットオフバルブ
SV1と並列に設けられている。そして、伸側逆止弁ECは、リザーバRから伸側副リザーバ室ERへ向かう作動油の流れを許容するが、反対向きの作動油の流れを阻止する。
【0065】
したがって、一実施の形態の第二変形例における免震用ダンパD2では、ピストン2が
図7中左方への移動に応じて伸側隔壁部材4が左方へ変位して伸側副リザーバ室ERが圧縮される場合、伸側逆止弁ECが分岐流路ep2を遮断するので、伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう作動油は、伸側リザーバ通路EPにおける分岐流路ep1に設けた流量制御シャットオフバルブSV1を介して移動する。
【0066】
そして、ピストン2が
図7中左方への移動速度が速く、ピストン2の移動に応じてピストン2とともに左方へ移動する伸側隔壁部材4の移動速度が所定速度を上回ると、伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう作動油量が多くなる。そして、伸側隔壁部材4の移動速度が所定速度を上回ると、流量制御シャットオフバルブSV1を通過する作動油の流速が予め設定された流速よりも速くなるように設定されている。そのため、流量制御シャットオフバルブSV1が閉弁し、伸側隔壁部材4は、移動規制位置まで到達していなくとも左方へ移動し得なくなる。つまり、ピストン2の移動速度が所定速度を上回ると、伸側隔壁部材4が移動規制位置まで到達していなくとも左方へ移動できなくなり、この状態では免震用ダンパD2は、伸長に対して高い減衰力を発揮するようになる。よって、免震用ダンパD2は、リザーバRと伸側副リザーバ室ERとを伸側リザーババルブ部EVを介して連通したので、伸長作動時のピストン2の移動速度が所定速度以上になると、減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。なお、免震用ダンパD2は、免震用ダンパD,D1と同様に、伸長作動時のピストン2の移動速度が所定速度未満の場合で、伸側隔壁部材4が移動規制位置に到達するまで変位すると、減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。また、伸側隔壁部材4が伸側作動室EWを圧縮する右方へ移動する場合には、伸側逆止弁ECが開弁してリザーバRから伸側副リザーバ室ERへ速やかに作動油が供給されるので、伸側隔壁部材4は、元の位置へ速やかに復帰できる。
【0067】
圧側リザーババルブ部CVは、作動油の圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの行き来を許容するが、圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通を遮断する。具体的に、圧側リザーババルブ部CVは、本例では、バルブケース6に設けられてリザーバRと圧側副リザーバ室CRとを連通する圧側リザーバ通路CPに設けられている。圧側リザーババルブ部CVは、圧側リザーバ通路CPに並列される流量制御シャットオフバルブSV2と圧側逆止弁CCとを備えて構成されている。
【0068】
圧側リザーバ通路CPは、途中で二つの分岐流路ep3,ep4に分岐されており、一方の分岐流路ep3に流量制御シャットオフバルブSV2が設けられ、他方の分岐流路ep4に圧側逆止弁CCが設けられている。
【0069】
流量制御シャットオフバルブSV2は、分岐流路ep3を開閉するバルブであって、圧側副リザーバ室CRの圧力が閉弁方向に作用するとともにばねの附勢力が開弁方向に作用しており、分岐流路ep3を連通させる連通ポジションにて通過する作動油の流れに抵抗を与えるオリフィスを備えている。よって、流量制御シャットオフバルブSV2は、常時ばねで附勢されており、圧側副リザーバ室CR内の圧力が低い状態では連通ポジションを採る。対して、流量制御シャットオフバルブSV2は、圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう流量が多くなると連通ポジションにて作動油の流れに与える抵抗が大きくなり、伸側副リザーバ室ER内の圧力が上昇するため、連通ポジションから遮断ポジションへ移行して分岐流路ep3を遮断する。
【0070】
他方の圧側逆止弁CCは、分岐流路ep4に設けられており、
圧側リザーバ通路
CPに対して
流量制御シャットオフバルブ
SV2と並列に設けられている。そして、
圧側逆止弁
CCは、リザーバRから
圧側副リザーバ室
CRへ向かう作動油の流れを許容するが、反対向きの作動油の流れを阻止する。
【0071】
したがって、一実施の形態の第二変形例における免震用ダンパD2では、ピストン2が
図7中右方への移動に応じて圧側隔壁部材5が右方へ変位して圧側副リザーバ室CRが圧縮される場合、圧側逆止弁CCが分岐流路ep4を遮断するので、圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう作動油は、圧側リザーバ通路CPにおける分岐流路ep3に設けた流量制御シャットオフバルブSV2を介して移動する。
【0072】
そして、ピストン2が
図7中右方への移動速度が速く、ピストン2の移動に応じてピストン2とともに
右方へ移動する圧側隔壁部材5の移動速度が所定速度を上回ると、圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう作動油量が多くなる。そして、圧側隔壁部材5の移動速度が所定速度を上回ると、流量制御シャットオフバルブSV2を通過する作動油の流速が予め設定された流速よりも速くなるように設定されている。そのため、流量制御シャットオフバルブSV2が閉弁し、圧側隔壁部材5は、移動規制位置まで到達していなくとも
右方へ移動し得なくなる。つまり、ピストン2の移動速度が所定速度を上回ると、圧側隔壁部材5が移動規制位置まで到達していなくとも
右方へ移動できなくなり、この状態では免震用ダンパD2は、収縮に対して高い減衰力を発揮するようになる。よって、免震用ダンパD2は、リザーバRと圧側副リザーバ室CRとを圧側リザーババルブ部CVを介して連通したので、収縮作動時のピストン2の移動速度が所定速度以上になると、減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。なお、免震用ダンパD2は、免震用ダンパD,D1と同様に、収縮作動時のピストン2の移動速度が所定速度未満の場合で、圧側隔壁部材5が移動規制位置に到達するまで変位すると、減衰力を低い減衰力から高い減衰力へ切換える。また、圧側隔壁部材5が圧側作動室CWを圧縮する左方へ移動する場合には、圧側逆止弁CCが開弁してリザーバRから圧側副リザーバ室CRへ速やかに作動油が供給されるので、圧側隔壁部材5は、元の位置へ速やかに復帰できる。
【0073】
このように、免震用ダンパD2は、リザーバRと伸側副リザーバ室ERとを伸側リザーババルブ部EVを介して連通し、リザーバRと圧側副リザーバ室CRとを圧側リザーババルブ部CVを介して連通し、伸側リザーババルブ部EVが伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通を遮断し、圧側リザーババルブ部CVが圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通を遮断する。よって、免震用ダンパD2は、伸縮する際におけるピストン2の移動速度が所定速度以上となると低い減衰力から高い減衰力へ切換えできる。つまり、免震用ダンパD2は、ピストン2の変位に依存して減衰力を高低切換えるだけでなく、ピストン2の移動速度に依存して減衰力を高低切換える。したがって、このように構成された免震用ダンパD2によれば、伸縮速度が高くなる大地震に対してはピストン2の中立位置からの変位が小さくとも高い減衰力を発揮できるので、大地震の発生初期から高い減衰力を発揮して構造物Sの振動を効果的に抑制できる。
【0074】
リザーバRと伸側副リザーバ室ERとを伸側リザーババルブ部EVを介して連通するとともに、リザーバRと圧側副リザーバ室CRとを圧側リザーババルブ部CVを介して連通する構成は、免震用ダンパD1にも適用できる。所定速度は、流量制御シャットオフバルブSV1,SV2の連通ポジションにおける抵抗によって設定でき、構造物Sの制振に適するように設定されればよく、免震用ダンパD2の伸長側と収縮側で別個独立に設定できる。伸側リザーババルブ部EVと圧側副リザーバ室CRは、本例では、ロッドガイド7とバルブケース6に設置されているが、他所に設置されてもよく、また、伸側リザーババルブ部EVと圧側副リザーバ室CRは、それぞれ、異なる特性の複数の流量制御シャットオフバルブを並列に備えていてもよい。
【0075】
なお、伸側リザーババルブ部EVは、本例では、流量制御シャットオフバルブSV1とこれに並列される伸側逆止弁ECで構成されている。しかしながら、伸側リザーババルブ部EVは、液体の伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの行き来を許容し、伸側副リザーバ室ERからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると伸側副リザーバ室ERとリザーバRとの連通を遮断すればよい。よって、伸側リザーババルブ部EVの構成は、前述の構成に限定されない。
【0076】
また、圧側リザーババルブ部CVは、本例では、流量制御シャットオフバルブSV2とこれに並列される圧側逆止弁CCで構成されている。しかしながら、圧側リザーババルブ部CVは、液体の圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの行き来を許容し、圧側副リザーバ室CRからリザーバRへ向かう液体の流れに対しては流速が予め設定された流速よりも速くなると圧側副リザーバ室CRとリザーバRとの連通を遮断すればよい。よって、圧側リザーババルブ部CVの構成は、前述の構成に限定されない。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。