特許第6875971号(P6875971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

特許6875971円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受
<>
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000002
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000003
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000004
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000005
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000006
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000007
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000008
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000009
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000010
  • 特許6875971-円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875971
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20210517BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20210517BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20210517BHJP
   F16C 33/36 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C33/56
   F16C19/36
   F16C33/36
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-188695(P2017-188695)
(22)【出願日】2017年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-65880(P2019-65880A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓也
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185625(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/163177(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/163527(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/129709(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の射出成形体である円すいころ軸受用保持器であって、
該保持器は、大径リング部と、小径リング部と、これらを連結する複数の柱部とを備え、隣接する柱部同士の間にポケット部が形成されており、
前記大径リング部と前記柱部、および、前記小径リング部と前記柱部は、それぞれ隅R部を形成して連結され、
前記ポケット部を構成する前記隣接する柱部の一対の面に、射出成形による金型分割線が軸方向に沿ってそれぞれ形成され、前記一対の面は、前記金型分割線よりも大径リング部側で、且つ外径方向に向かって前記ポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第1面と、前記金型分割線よりも小径リング部側で、且つ外径方向に向かって前記ポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第2面とを有し、
前記一対の第1面のテーパ角が、前記一対の第2面のテーパ角よりも小さいことを特徴とする円すいころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記大径リング部と前記柱部との間の前記隅R部として、前記大径リング部に凹状のぬすみ部を設けたことを特徴とする請求項1記載の円すいころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記ぬすみ部の軸方向長さの、前記大径リング部の軸方向幅に対する割合が、10%未満であることを特徴とする請求項2記載の円すいころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記小径リング部と前記柱部との間の前記隅R部として、前記小径リング部に凹状のぬすみ部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の円すいころ軸受用保持器。
【請求項5】
外周面にテーパ状の軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の軌道面を有する外輪と前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間を転動する複数の円すいころと、前記円すいころをポケット部で転動自在に保持する保持器とを備える円すいころ軸受であって、
前記保持器が、請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の円すいころ軸受用保持器であることを特徴とする円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、自動車、産業機械などに用いられる樹脂製の円すいころ軸受用保持器および該保持器を用いた円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、一般に、外周面にテーパ状の軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の軌道面を有する外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間を転動する複数の円すいころと、各円すいころをポケット部で転動自在に保持する保持器とを備えている。さらに、保持器は、大径リング部と小径リング部とを複数の柱部で連結してなり、柱部同士の間のポケット部に円すいころを収納している。
【0003】
従来、円すいころ軸受の保持器としては、圧延鋼板などの金属材質が用いられてきた。しかし、金属製の保持器は重量が重くなること、また、使用中に軸受内で発生する磨耗分が潤滑油の劣化を促進させ、ひいては軸受の製品寿命を短縮させることなどが問題であった。そこで、軸受の軽量化や長寿命化の観点から、樹脂組成物の射出成形体である樹脂製保持器が知られている。ただし、樹脂製保持器は、金属製の保持器に比べて強度が劣ることから、樹脂製保持器の強度を確保する手法が提案されている。
【0004】
樹脂製保持器の強度を確保する手法としては、射出成形時の際に溶融樹脂が合流してできるウエルドラインに着目した手法が知られている。例えば、特許文献1に記載の技術では、小径リング部にのみウエルドラインを発生させ、大径リング部にウエルドラインを発生させないことで、大径リング部の径方向に対する強度の向上を図っている。また、特許文献2に記載の技術では、一方のリング部にのみウエルドラインを発生させ、さらにそのウエルドラインに配向が乱れた強化繊維を含ませることで、保持器の強度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−92252号公報
【特許文献2】特開2013−46982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、樹脂製保持器の強度の向上は、ウエルドラインを制御することだけで達成されるものではない。円すいころ軸受の回転時において、保持器には、円すいころから押される力や遠心力など様々な力が加わる。特に、柱部と各リング部との連結部となる隅R部には、応力集中により高い応力が加わる。そのため、高速回転下や高振動下などのより高い応力が発生する使用条件下では、隅R部に依拠して樹脂製保持器が破損するおそがある。それゆえ、樹脂製保持器の強度向上において、隅R部の応力集中を緩和し、発生応力を低減させることが望ましい。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、柱部と各リング部との間の隅R部での強度に優れる円すいころ軸受用保持器および該保持器を用いた円すいころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の円すいころ軸受用保持器は、樹脂組成物の射出成形体である円すいころ軸受用保持器であって、該保持器は、大径リング部と、小径リング部と、これらを連結する複数の柱部とを備え、隣接する柱部同士の間にポケット部が形成されており、上記大径リング部と上記柱部、および、上記小径リング部と上記柱部は、それぞれ隅R部を形成して連結され、上記ポケット部を構成する上記隣接する柱部の一対の面に、射出成形による金型分割線が軸方向に沿ってそれぞれ形成され、上記一対の面は、上記金型分割線よりも大径リング部側で、且つ外径方向に向かって上記ポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第1面と、上記金型分割線よりも小径リング部側で、且つ外径方向に向かって上記ポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第2面とを有し、上記一対の第1面のテーパ角が、上記一対の第2面のテーパ角よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
また、上記大径リング部と上記柱部との間の上記隅R部として、上記大径リング部に凹状のぬすみ部を設けたことを特徴とする。さらに、上記ぬすみ部の軸方向長さの、上記大径リング部の軸方向幅に対する割合が、10%未満であることを特徴とする。
【0010】
また、上記小径リング部と上記柱部との間の上記隅R部として、上記小径リング部に凹状のぬすみ部を設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明の円すいころ軸受は、外周面にテーパ状の軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の軌道面を有する外輪と、上記内輪の軌道面と上記外輪の軌道面との間を転動する複数の円すいころと、上記円すいころをポケット部で転動自在に保持する保持器とを備える円すいころ軸受であって、上記保持器が、本発明の円すいころ軸受用保持器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円すいころ軸受用保持器は、ポケット部を構成する隣接する柱部の一対の面に、射出成形による金型分割線が軸方向に沿ってそれぞれ形成され、一対の面は、金型分割線よりも大径リング部側で、且つ外径方向に向かってポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第1面と、金型分割線よりも小径リング部側で、且つ外径方向に向かってポケット部の周方向の幅を狭めるテーパ状の一対の第2面とを有しているので、上記保持器が円すいころを保持した状態では、一対の第2面が円すいころと接触し、一対の第1面は円すいころに接触しない。つまり、隣接する柱部の一対の第2面で円すいころを保持している。
【0013】
この構成において、一対の第1面のテーパ角が、一対の第2面のテーパ角よりも小さくなるようにしたので、これらのテーパ角が同じ場合に比べて、大径リング部側のポケット部の周方向の幅が広くなる。その結果、柱部と大径リング部との間の隅R部の曲率半径を大きくすることができる。またこの場合、一対の第1面は円すいころに接触しないため、該隅R部の曲率半径を大きくしても円すいころとの干渉は生じにくい。以上より、隅R部の応力集中を緩和でき、ひいては、樹脂製保持器の強度を向上させることができる。
【0014】
また、大径リング部と柱部との間の隅R部として、大径リング部に凹状のぬすみ部を設けたので、該隅R部の曲率半径をより大きくとることができ、応力集中を好適に緩和できる。さらに、上記隅R部におけるぬすみ部の軸方向長さの、大径リング部の軸方向幅に対する割合が、10%未満であるので、大径リング部の軸方向幅が小さくなることに起因する大径リング部の強度低下を抑制することができる。
【0015】
さらに、小径リング部と柱部との間の隅R部として、小径リング部に凹状のぬすみ部を設けたので、小径リング部側の隅R部についても応力集中を緩和できる。
【0016】
本発明の円すいころ軸受は、外周面にテーパ状の軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の軌道面を有する外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間を転動する複数の円すいころと、円すいころをポケット部で転動自在に保持する保持器とを備え、上記保持器が、本発明の円すいころ軸受用保持器であり、該保持器は隅R部の強度に優れるので、円すいころ軸受の軽量化や長寿命化を好適に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の円すいころ軸受の軸方向断面図である。
図2】本発明の円すいころ軸受用保持器を示す斜視図である。
図3】射出成形に使用する保持器用金型の概略図である。
図4】本発明の円すいころ軸受用保持器の斜視拡大図である。
図5】円すいころと隅R部の関係を示す図である。
図6】円すいころと保持器の接触の関係を示す図である。
図7】保持器と軸受周辺部品との関係を示す図である。
図8】円すいころの軸に沿った断面模式図である。
図9】隅R部としてぬすみ部を設けた図である。
図10】隅R部に発生する応力の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の円すいころ軸受を図1に基づいて説明する。図1は、円すいころ軸受の軸方向断面図である。図1に示すように、円すいころ軸受1は、外周面にテーパ状の軌道面2aを有する内輪2と、内周面にテーパ状の軌道面3aを有する外輪3と、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間を転動する複数の円すいころ4と、円すいころ4を周方向一定間隔で転動自在に保持する保持器5とを備えている。各軌道面は、軸方向に沿って該軌道面を構成する径が増加・減少するテーパ状である。テーパの角度は特に限定されないが、軸方向に対して通常15°〜60°程度である。
【0019】
図2には、本発明の円すいころ軸受用保持器の一例を示す。保持器5は、大径リング部6と、小径リング部7と、これらを連結する複数の柱部8とを備えてなり、隣接する柱部8同士の間にポケット部9が形成されている。このポケット部9に円すいころ4が収納される。大径リング部6と柱部8は、これらを滑らかに連続させる隅R部10aを形成して連結されている。同様に、小径リング部7と柱部8は、これらを滑らかに連続させる隅R部10bを形成して連結されている。隅R部10aおよび隅R部10bは、径方向断面が円弧状に形成されている。この隅R部により、各リング部6、7と柱部8が交差する位置への過度な応力集中を抑制することができる。
【0020】
保持器5は、樹脂組成物の射出成形体であり、軸方向(アキシャルドロー)の2枚の金型を利用して得られる。図3には、該金型の概略図を示す。図3に示すように、金型11は、円環状の保持器5を樹脂組成物の射出成形で製造するための軸受保持器用金型である。金型11は、固定型12と、固定型12に対して型締め・型開き可能な可動型13とを少なくとも有し、これらが衝合することで、所望の軸受保持器の形状の成形キャビティ14を形成している。保持器5の製造において、具体的には、成形キャビティ14に対して樹脂注入口であるゲートを1点または複数点設け、このゲートより溶融樹脂を注入し成形キャビティに充填させる。成形キャビティ内が樹脂で充填されると、この成形キャビティ内の樹脂を圧縮するように圧力をかける(保圧)。一定時間、金型内で溶融樹脂を冷却して固化させたのち、金型を開いて樹脂製の軸受保持器が得られる。
【0021】
図4には、保持器5の斜視拡大図を示す。図4に示すように、隣接する柱部8の一対の面はポケット部9を形成している。隣接する柱部8の一対の面は、ポケット部を隔てて互いに対向している。ここで、上述の射出成形では、2つの金型の割り面の都合上、各柱部8のポケット部9を形成する面が2つの金型の影響を受ける。そのため、上記一対の面には、射出成形による金属分割線Xが円すいころ軸受1の軸方向(保持器5の軸方向)に沿ってそれぞれ形成されている。この場合、各柱部8のポケット部9を形成する面はそれぞれ、金属分割線Xを境に分断された不連続面となっており、各柱部8のポケット部9を形成する面は、金属分割線Xよりも大径リング部6側(大径側)の面8aと、金属分割線Xよりも小径リング部7側(小径側)の面8bとを有している。なお、金属分割線Xは、柱部8の中央より大径リング部6側にシフトしている。
【0022】
図4では、大径側の面8aが、固定型12によって形成され、小径側の面8bが、可動型13によって形成されている。なお、大径側の面8aを可動型13によって形成し、小径側の面8bを固定型12によって形成してもよい。
【0023】
図4において、隣接する柱部8の一対の面に関して言えば、一対の面は、金属分割線Xよりも大径リング部6側(大径側)の一対の面8a、8aと、金属分割線Xよりも小径リング部7側(小径側)の一対の面8b、8bとを有している。一対の面8a、8aおよび一対の面8b、8bは、いずれも外径方向に向かってポケット部9の周方向の幅を狭めるようにテーパ状に形成されている。この構成において円すいころ4が収納された場合には、一対の面8b、8bが、円すいころ4に接触する一方、一対の面8a、8aは円すいころ4に接触しない。
【0024】
ところで、保持器5には、軸受の回転時に様々な力が加わり、特に、図4に示す隅R部10aや隅R部10bには、応力集中によって高い応力が発生する。そのため、保持器5の強度の向上を図るため、隅R部10aおよび隅R部10bの応力集中を緩和させることが望ましい。特に円すいころ軸受では、大径リング部6の方が、小径リング部7よりも高い応力が発生するため、隅R部10aにおける対策がより重要となる。
【0025】
ここで、応力集中を緩和させる方法として、例えば、隅R部の曲率半径(R寸法)を大きくすることが考えられる。曲率半径を大きくすることで、発生応力が分散され、応力集中が緩和されることが期待される。しかし、例えば、図5(a)に示すように、隅R部10aの曲率半径を、円すいころ4の面取り部4aの曲率半径よりも大きくすると、隅R部10aと円すいころ4の面取り部4aとが干渉してしまい、円すいころ4を保持することが困難となる。
【0026】
これの対処として、例えば、図5(b)に示すように、隅R部10aとして大径リング部6の軸方向に凹状のぬすみ部Nを設け、隅R部10aの曲率半径を大きくすることが考えられる。この場合、応力集中を緩和しつつ、円すいころ4の面取り部4aとの干渉を防ぐことができる。しかしこの場合、隅R部10aの曲率半径を大きくするべく、ぬすみ部Nを大きく(例えば、軸方向に大きく)すると、大径リング部6の軸方向幅、ひいては断面積が減少してしまい、結果として保持器5の強度が低下するおそれがある。
【0027】
そのため、ぬすみ部を設けるにあたり、ぬすみ部に起因する保持器5の強度低下を防ぐ方策が必要となる。例えば、方策の一つとして、図6に示すように、大径リング部6の軸方向断面高さ(径方向幅)hを大きくして、大径リング部6を径方向に肉厚とすることで強度低下を防ぐことが考えられる。図6において、h1とh2の大小関係はh1<h2である。この場合、大径リング部6の径方向幅hを大きくすると、金型分割線Xが径方向内側に寄ることになる。その結果、面8bの面積が小さくなり、結果的に柱部8と円すいころ4の接触長さdが短くなる。図6において、d1とd2の大小関係はd1>d2である。そうすると、大径リング部6の径方向幅hを大きくすることで、円すいころ4を安定して保持することが困難となるおそれがある。
【0028】
一方、その他の方策として、例えば図7に示すように、大径リング部6の軸方向断面長さ(軸方向幅)Lを大きくして、大径リング部6を軸方向に肉厚とすることで強度低下を防ぐことが考えられる。しかしながら、保持器5の軸方向近傍には軸受周辺部品15などが存在するため、大径リング部6の軸方向幅Lを大きくすると、軸受周辺部品15との干渉が懸念される。
【0029】
このように、ぬすみ部を設けるなどの隅R部10aの曲率半径を大きくすることは、隅R部10aへの応力集中を緩和する上で有利となり得るが、大径リング部6の強度を維持することが困難であると考えられる。
【0030】
そこで、本発明の保持器5は、隅R部10aの曲率半径を大きくすることを可能としつつも、大径リング部6の強度を維持した構成を実現している。具体的には、ポケット部9を構成する隣接した柱部8の一対の面において、大径側の一対の面8a、8aのテーパ角を、小径側の一対の面8b、8bのテーパ角よりも小さくなるようにした。すなわち、大径側の一対の面8a、8aについて、金型分割線Xを基準としてポケット部9の周方向幅が広がるようにテーパ角を変更している。なお、大径側の一対の面8a、8aが「一対の第1面」であり、小径側の一対の面8b、8bが「一対の第2面」である。以下に、図8に基づいて説明する。
【0031】
図8には、円すいころ4の軸に沿って小径リング部7側から見た断面模式図を示す。隣接する柱部8の一対の面において、大径側の一対の面8a、8aのテーパ角をθaとし、小径側の一対の面8b、8bのテーパ角をθbとする。ここで、従来の保持器ではθaとθbが同じ角度(θa=θb)となっているのに対し、本発明の保持器5ではθaがθbよりも小さくなっている(θa<θb)。これにより、θaとθbが同じ角度の場合に比べて、大径リング部6側(図8の紙面奥側)のポケット部9の外径側の周方向幅Wが広くなる。その結果、隅R部10aの曲率半径を大きくすることができる。これにより、隅R部10aにおいて応力集中が緩和され、高い応力が隅R部10aに加わることを抑制することができる。
【0032】
一方で、図8に示すように、円すいころ4は、小径側(図8の紙面手前側)の一対の面8b、8bに接触して保持されている。そのため、一対の面8a、8aのテーパ角θaを小さくする側に変更し、ポケット部9の周方向幅Wが広くなっても、円すいころ4の保持性は維持される。
【0033】
ここで、小径側の一対の面8b、8bのテーパ角θbは、円すいころ4を安定して保持できる角度であれば特に限定されず、例えば20〜60度であり、より好ましくは30〜50度である。一方、大径側の一対の面8a、8aのテーパ角θaは、テーパ角θbよりも小さい角であれば特に限定されない。また、テーパ角θaとテーパ角θbの差は、例えば1〜10度であり、好ましくは、1〜5度である。これらを考慮して、テーパ角θbが30〜50度であり、且つテーパ角θaが、当該テーパ角θbよりも1〜5度小さい角度であることが特に好ましい。
【0034】
また、隅R部10aへの応力集中をより好適に緩和すべく、隅R部10aとして凹状のぬすみ部を設けることが好ましい。ぬすみ部は、径方向断面が円弧状に形成される。ぬすみ部を設ける位置は特に限定されないが、例えば、図9に示すように、ぬすみ部16を円すいころ4の外径面に沿って、大径リング部6に設けることができる。ここで、本発明の保持器5は、テーパ角の調整により応力集中がすでに緩和されているため、従来の保持器に比べ、ぬすみ部を設ける際にぬすみ部を小さくすることができる。
【0035】
例えば、図9において、ぬすみ部16における円すいころ4の外径面に沿った軸方向長さをt1とし、大径リング部6における円すいころ4の外径面に沿った軸方向幅(t1を含む)をt2とすると、従来の保持器(テーパ角θaとテーパ角θbが同じ保持器)では、ぬすみ量は大径リング部6の軸方向長さ比(t1/t2)で10〜20%程度である。これに対し、本発明の保持器は、テーパ角を変更することによって応力集中が緩和されることから、従来の保持器に比べて、小さいぬすみ量とすることができる。具体的な数値としては、ぬすみ量を大径リング部6の軸方向長さ比(t1/t2)で10%未満とすることができる。すなわち、本発明の保持器にぬすみ部を設けた場合にはぬすみ量が小さく済むため、大径リング部6の強度を維持したまま、隅R部10aの応力集中をより好適に緩和することができる。
【0036】
また、上記では、大径側の隅R部10aをぬすみ部16とする場合について述べたが、小径側の隅R部10bについても同様に、ぬすみ部16を設けることができる。さらに、隅R部10aおよび隅R部10bのそれぞれに応じて、ぬすみ部16を設ける位置や形状を変更してもよい。保持器5の強度および応力分散の点から、軸方向に沿って大径リング部6にぬすみ部16を設けるとともに、軸方向に沿って小径リング部7にぬすみ部16を設けることが好ましい。
【0037】
本発明の軸受用保持器の材料として用いる樹脂組成物は、射出成形が可能であり、保持器材料として十分な耐熱性や機械的強度を有するものであれば、任意のものを使用できる。この樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド6−6(PA66)樹脂、ポリアミド6−10(PA610)樹脂、ポリアミド6−12(PA612)樹脂、ポリアミド4−6(PA46)樹脂、ポリアミド9−T(PA9T)樹脂、ポリアミド6−T(PA6T)樹脂、ポリメタキシレンアジパミド(ポリアミドMXD−6)樹脂などのポリアミド(PA)樹脂、射出成形可能なフッ素樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン(PE)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、射出成形可能なポリイミド(PI)樹脂などが挙げられる。これらの合成樹脂の中でも、耐熱性や射出成形性に優れることから、PA樹脂を用いることが好ましい。また、これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。
【0038】
また、保持器の弾性率などの機械的強度を向上させるため、これらの樹脂に、射出成形性を阻害しない範囲で、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカー)などの繊維状補強材を配合することが好ましい。さらに必要に応じて、繊維状補強材以外の添加剤などを配合してもよい。この添加剤として、例えば、珪酸カルシウム、タルクなどの無機充填材、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの固体潤滑剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0039】
本発明の円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受は、隅R部での保持器破損などの問題を防止できる。また、樹脂製保持器を採用することで、軸受の軽量化や長寿命化が図れる。
【0040】
以上、各図に基づき本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明の円すいころ軸受はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
実施例
樹脂組成物を用いて、図3に示す金型で、図2に示す形状の保持器を成形した。作製した保持器において、大径側の一対の面のテーパ角θaは38度であり、小径側の一対の面のテーパ角θbは40度であった。なお、この保持器には、大径リング部と柱部との連結部となる隅R部として、ぬすみ部を設けていない。保持器の3Dモデルを用いて、落下衝撃条件で発生する応力を計算した。算出された応力の応力分布を図10に示す。
【0042】
比較例
実施例と同じ樹脂組成物を用いて、射出成形して保持器を成形した。作製した保持器において、大径側の一対の面のテーパ角θa、および、小径側の一対の面のテーパ角θbはいずれも40度であった。また、大径リング部と柱部との連結部となる隅R部として、ぬすみ部を設けた。ぬすみ部は、円すいころの外径面に沿って大径リング部に設けた。ぬすみ部における円すいころの外径面に沿った軸方向長さ(t1)は、1.6mmであり、大径リング部における円すいころの外径面に沿った軸方向幅(t2)は、9.0mmであった。ぬすみ部の上記軸方向長さの大径リング部の上記軸方向幅に対する割合(t1/t2)は、約18%であった。保持器の3Dモデルを用いて、実施例1と同じ条件で発生する応力を計算した。算出された応力の応力分布を図10に示す。
【0043】
図10において、比較例の応力分布では、ぬすみ部の中央で最大51MPaの応力が発生した。一方、実施例の応力分布では、隅R部の中央で最大38MPaの応力が発生した。このように実施例の保持器では、比較例の保持器に比べて、隅R部での応力集中が緩和され、発生応力が約25%程度低下した。さらに、実施例の保持器は、比較例の保持器と異なりぬすみ部を有していないため、大径リング部の強度低下が抑制されており、保持器としての強度に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の円すいころ軸受用保持器は、隅R部での強度に優れるので、鉄道車両、自動車、産業機械などに用いられる円すいころ軸受の保持器として広く利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 円すいころ軸受
2 内輪
3 外輪
4 円すいころ
5 保持器
6 大径リング部
7 小径リング部
8 柱部
9 ポケット部
10 隅R部
11 金型
12 固定型
13 可動型
14 成形キャビティ
15 軸受周辺部品
16 ぬすみ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10