(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
  以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
 
【0023】
  図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るバルブは、緩衝器Dのピストン部に具現化された減衰バルブVである。そして、緩衝器Dは、自動車等の車両の車体と車軸との間に介装されている。以下の説明では、説明の便宜上、特別な説明がない限り
図1に示す緩衝器Dの上下を、単に「上」「下」という。
 
【0024】
  なお、本発明に係るバルブを備えた緩衝器の取付対象は、車両に限らず適宜変更できる。また、取付状態での緩衝器の上下を取付対象に応じて適宜変更できるのは勿論である。具体的には、本実施の形態の緩衝器Dを
図1と同じ向きで車両に取り付けても、上下逆向きにして車両に取り付けてもよい。
 
【0025】
  つづいて、上記緩衝器Dの具体的な構造について説明する。
図1に示すように、緩衝器Dは、有底筒状のシリンダ1と、このシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、下端がピストン2に連結されて上端がシリンダ1外へと突出するピストンロッド3とを備える。
 
【0026】
  そして、ピストンロッド3の上端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド3がそのブラケットを介して車体と車軸の一方に連結される。その一方、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1がそのブラケットを介して車体と車軸の他方に連結される。
 
【0027】
  このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド3がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン2がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
 
【0028】
  また、緩衝器Dは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、ピストンロッド3を摺動自在に支える環状のシリンダヘッド10を備える。その一方、シリンダ1の下端は底部1aで塞がれている。このように、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン2から見てピストンロッド3とは反対側に、フリーピストン11が摺動自在に挿入されている。
 
【0029】
  シリンダ1内におけるフリーピストン11の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン2でピストンロッド3側の伸側室L1とピストン2側の圧側室L2とに区画されており、伸側室L1と圧側室L2には、それぞれ作動油等の液体が充填されている。その一方、ガス室Gには、エア、又は窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
 
【0030】
  そして、緩衝器Dの伸長時にピストンロッド3がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン11がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮時にピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン11がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
 
【0031】
  なお、フリーピストン11に替えて、ブラダ、又はベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
 
【0032】
  さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド、単筒型であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン(可動隔壁)11でガス室Gを拡大又は縮小させて、シリンダ1に出入りするピストンロッド3の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
 
【0033】
  例えば、フリーピストン(可動隔壁)11とガス室Gとを廃し、シリンダ1の外周にアウターシェルを設けて緩衝器を複筒型にするとともに、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバ室を形成し、このリザーバ室で体積補償をしてもよい。さらに、そのリザーバ室は、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。
 
【0034】
  また、ピストンの両側にピストンロッドを設けて緩衝器を両ロッド型にしてもよい。このような場合には、ピストンロッドの体積補償自体を不要にできる。
 
【0035】
  つづいて、ピストン2は、ピストンロッド3の外周にナット30で保持される二つのバルブケースを有して構成されている。以下、二つのバルブケースを区別するため、後述する主弁体6,7が積層されるバルブケースをメインバルブケース4、後述する弁体8が取り付けられるもう一方のバルブケースを単にバルブケース5とする。
 
【0036】
  このように、本実施の形態のピストン2は、主弁体6,7又は弁体8等の弁体が取り付けられるバルブケースとして機能しており、弁体等とともに減衰バルブVを構成している。以下、その減衰バルブVの構成について説明する。
 
【0037】
  図2に示すように、メインバルブケース4は、環状の本体部4aと、この本体部4aの下端外周部から下方へ突出する環状のスカート部4bとを含む。そして、本体部4aには、スカート部4bの内周側に開口して本体部4aを軸方向に貫通する伸側と圧側の通路4c,4dが形成されている。さらに、その本体部4aの下側(圧側室L2側)には、伸側の通路4cの出口を開閉する伸側の主弁体6が積層されるとともに、本体部4aの上側(伸側室L1側)には、圧側の通路4dの出口を開閉する圧側の主弁体7が積層されている。
 
【0038】
  伸側と圧側の主弁体6,7は、それぞれ、複数の弾性変形可能なリーフバルブが積層された積層リーフバルブである。そして、伸側の主弁体6は、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、伸側の通路4cを伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。その一方、圧側の主弁体7は、緩衝器Dの収縮時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、圧側の通路4dを圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。
 
【0039】
  また、伸側と圧側の主弁体6,7を構成する複数のリーフバルブのうちの、最もメインバルブケース4側に位置する一枚目のリーフバルブの外周部には、それぞれ切欠き6a,7aが形成されている。そして、ピストン速度が低速域にあり、伸側と圧側の主弁体6,7が閉弁している場合、液体が切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスを通って伸側室L1と圧側室L2との間を行き来する。当該液体の流れに対しては、オリフィス(切欠き6a,7a)により抵抗が付与される。
 
【0040】
  なお、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスは、液体の双方向流れを許容する。そこで、伸側と圧側の主弁体6,7に形成される切欠き6a,7aのうちの一方を省略してもよい。さらに、オリフィスの形成方法は、適宜変更できる。例えば、伸側又は圧側の主弁体6,7が離着座する弁座に打刻を形成し、この打刻によりオリフィスを形成してもよい。また、オリフィスをチョークに替えてもよい。また、メインバルブケース4に取り付けられて緩衝器Dに中高速域の減衰力を発生させるための主弁体6,7は、積層リーフバルブ以外でもよく、例えば、ポペットバルブ等であってもよい。
 
【0041】
  つづいて、バルブケース5は、メインバルブケース4のスカート部4bの内周に嵌合する環状の嵌合部5aと、この嵌合部5aの下端外周部から下方へ突出する筒状のケース部5bとを含む。そして、嵌合部5aとスカート部4bとの間がシール50で塞がれており、嵌合部5aには、ケース部5bの内周側に開口して嵌合部5aを軸方向に貫通する通路5cが形成されている。その一方、ケース部5bには、バルブストッパ80が収容されるとともに、このバルブストッパ80の下側に弁体8が積層されている。
 
【0042】
  本実施の形態において、その弁体8は、積層された三枚のリーフバルブを有して構成されていて、弾性変形できる。これら三枚のリーフバルブのうちの中央のリーフバルブ8aの外径は、他のリーフバルブの外径よりも大きい。そして、弁体8とバルブケース5との間、及び弁体8とナット30との間には、それぞれ間座81,82が介装されている。
 
【0043】
  本実施の形態において、各間座81,82は、外径が弁体8を構成する各リーフバルブの外径よりも小さい環状板であり、弁体8はその内周部を間座81,82で挟まれた状態でバルブケース5に固定されている。その一方、弁体8の間座81,82よりも外周側は、間座81,82と弁体8との当接部の外周縁を支点に上下(軸方向)へ移動できる。
 
【0044】
  このように、本実施の形態では、バルブケース5に装着された弁体8の内周側の端(内周端)がバルブケース5に対して動かない固定端8bとなっている。さらには、弁体8の外周側の端(外周端)に位置する中央のリーフバルブ8aの外周面が、バルブケース5に対して上下(軸方向の両側)へ動ける自由端8cとなっている。
 
【0045】
  また、バルブケース5におけるケース部5bの内周には、弁体8側へ突出する環状の対向部5dが設けられており、その対向部5dの内周に弁体8の自由端8cに対向する環状の対向面5eが形成されている。本実施の形態において、その対向面5eは、緩衝器Dの中心軸Xに沿うように形成されているが、その中心軸Xに対して若干傾いていたり、湾曲したりしていてもよい。
 
【0046】
  そして、緩衝器Dの動き出しのような、ピストン速度が0(ゼロ)に近い極低速域では、弁体8が撓まず、取付初期の状態に保たれる(
図2)。このように、弁体8が撓んでいない状態では、弁体8の自由端8cが対向面5eと隙間Pをあけて対向するが、その隙間Pが非常に狭くなる。より具体的に、その弁体8の取付初期状態での隙間Pの開口面積は、前述の主弁体6,7に形成された切欠き6a,7aにより形成される全オリフィスの開口面積よりも小さい。
 
【0047】
  その一方、ピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、弁体8の外周部が上側又は下側へと撓み、自由端8cが対向面5eから上下にずれる。そして、上下にずれた弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
 
【0048】
  また、本実施の形態では、取付初期状態で対向面5eと対向する自由端8cを含む中央のリーフバルブ8aの厚みと、対向面5eの軸方向長さが等しく、取付初期状態では、中央のリーフバルブ8aの外周面と対向面5eが径方向視で完全に重なる(
図2)。このため、弁体8が上下のどちらに撓んだとしても、少ない撓み量で自由端8cと対向面5eとが対向しなくなる。
 
【0049】
  しかし、取付初期状態で、弁体8の自由端8cと対向面5eの少なくとも一部が対向し、径方向視で自由端8cと対向面5eとが重なり合う部分がある限り、弁体8を構成する各リーフバルブの厚み、及び対向面5eの軸方向長さを変更できる。例えば、取付初期状態での中央のリーフバルブ8aの外周面が
図2に示す位置から多少上下にずれていてもよく、中央のリーフバルブ8aの厚みが対向面5eの軸方向長さより厚く、又は薄くてもよい。
 
【0050】
  また、弁体8は、少なくとも一枚のリーフバルブを有して構成されていればよく、弁体8を構成するリーフバルブの枚数は自由に変更できる。そして、本実施の形態のように、外径の異なるリーフバルブを積層して弁体を構成する場合には、外径の大きいリーフバルブと小さいリーフバルブをどのような順番で積層してもよい。
 
【0051】
  また、本実施の形態では、弁体8が撓んでその自由端8cが上側へ移動していくと、弁体8の外周部がバルブストッパ80に突き当たり、自由端8cのそれ以上の上側への移動が阻止される。反対に、弁体8が逆側へ撓んでその自由端8cが下側へ移動していくと、弁体8の外周部がナット30に突き当たり、自由端8cのそれ以上の下側への移動が阻止される。
 
【0052】
  このように、本実施の形態では、バルブストッパ80とナット30で弁体8の撓み量を制限している。しかし、弁体8の自由端8cの下側への移動を阻止するバルブストッパをナット30とは別に設けてもよい。さらには、バルブストッパ80を廃してもよく、ナット30のバルブストッパとして機能する部分を省略してもよい。
 
【0053】
  つづいて、バルブケース5におけるケース部5bの先端には、対向部5dに連なる複数のガイド5fが設けられている。ガイド5fの数は任意ではあるが、本実施の形態では
図3(c)に示すように、八つのガイド5fが対向部5dの周方向に等間隔で配置されている。
 
【0054】
  さらに、
図3(b)に示すように、各ガイド5fには、対向面5eの下端に連なり、その対向面5eと面一な延長面5gと、この延長面5gの下端に連なり、下端へ向かうに従って弁体8(
図2)から離れる方向へ傾斜するガイド面5hが形成されている。換言すると、
図3(a)に示すバルブケース5を上下逆向きにした状態でバルブケース5を見た時に、ガイド面5hは対向面5eへ向かって下り勾配となっている。
 
【0055】
  つづいて、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vの組立方法の一例について説明する。
 
【0056】
  図2に示すように、ピストンロッド3の先端部には、その直上部よりも外径の小さな取付部3aが設けられている。さらに、この取付部3aの先端外周には螺子溝3bが形成されていて、ナット30を螺合できるようになっている。また、取付部3aの末端には、環状の段差3cが形成されている。
 
【0057】
  そして、圧側の主弁体7、メインバルブケース4、伸側の主弁体6、バルブケース5、バルブストッパ80、間座81、弁体8、及び間座82等の、減衰バルブVを構成する各部材を針山(図示せず)で予め積層した状態にしてから取付部3aの外周に移し替え、ナット30を締める。すると、減衰バルブVがその内周部をナット30と段差3cとで挟まれてピストンロッド3の外周に固定される。
 
【0058】
  また、上記したように減衰バルブVを構成する各部材を針山で積層状態にする場合、
図2とは上下逆向きにした状態で積層作業をする。このため、その積層作業の際には、ケース部5bの先端(
図2中下端)が上側を向くようにバルブケース5が配置される。そして、ガイド5fの上側からケース部5b内へ向けて弁体8を落とすと、その弁体8がガイド面5hに案内されて、弁体8の自由端8cが対向面5eに対向する所定の位置に自然と納まる。
 
【0059】
  さらに、ガイド5fには、ガイド面5hと対向面5eとの間に、この対向面5eと面一な延長面5gが形成されている。このため、減衰バルブVを針山からピストンロッド3へ移し替えるとき、又はナット30を締め付けるとき等に弁体8が多少動いたとしても、弁体8の自由端8cがガイド面5hへ乗り上げることがなく、弁体8が所定の取付位置からずれた状態で減衰バルブVが装着されるのを防止できる。
 
【0060】
  換言すると、延長面5gは、弁体8が所定の取付位置からずれた状態で減衰バルブVが装着されるのを抑制する、ずれ抑制面として機能する。そして、本実施の形態では、このずれ抑制面である延長面5gとガイド面5hの両方がガイド5fに形成されていて、延長面5gが対向面5eの軸方向の一端の周方向の一部に連なり、ガイド面5hが対向面5eの軸方向の一端の周方向の一部に延長面5gを介して連なる構造となっている。
 
【0061】
  このように、本実施の形態では、ガイド面5hと延長面5gの両方が対向面5eの周方向に断続的に配置されている。このため、弁体8の自由端8cが対向面5eを超えて延長面5g又はガイド面5hに達したときに、対向面5eの内周側を通過した液体が延長面5gの途切れた部分とガイド面5hの途切れた部分を通過できる。よって、弁体8の撓み量が少なくても、弁体8を通過する液体の流量を多くできる。
 
【0062】
  以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vを備えた緩衝器Dの作動について説明する。
 
【0063】
  緩衝器Dの伸長時には、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室L1を圧縮し、この伸側室L1の液体が伸側の主弁体6と弁体8を通過して圧側室L2へと移動する。当該液体の流れに対しては、伸側の主弁体6、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は弁体8により抵抗が付与されるので、伸側室L1の圧力が上昇し、緩衝器Dが伸長作動を妨げる伸側減衰力を発揮する。
 
【0064】
  反対に、緩衝器Dの収縮時には、ピストン2がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室L2を圧縮し、この圧側室L2の液体が弁体8と圧側の主弁体7を通過して伸側室L1へと移動する。当該液体の流れに対しては、圧側の主弁体7、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は弁体8により抵抗が付与されるので、圧側室L2の圧力が上昇し、緩衝器Dが収縮作動を妨げる圧側減衰力を発揮する。
 
【0065】
  そして、本実施の形態では、ピストン速度に応じて伸側と圧側の主弁体6,7が開弁したり、弁体8の外周部(自由端8c側の端部)が上下に撓んだりして、緩衝器Dがピストン速度に依存した速度依存の減衰力を発生できる。
 
【0066】
  より詳しくは、ピストン速度が0に近い極低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7が閉じるとともに、弁体8が撓まずにその自由端8cを対向面5eに対向させている。
 
【0067】
  そして、緩衝器Dの伸長時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aを通って伸側室L1からスカート部4b内へと流入し、通路5c、バルブストッパ80とケース部5bとの間を
図2中下向きに流れて、相対向する弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pから圧側室L2へと流出する。
 
【0068】
  反対に、緩衝器Dの収縮時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が圧側室L2から相対向する弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pからケース部5b内へ流入し、バルブストッパ80とケース部5bとの間、通路5cを
図2中上向きに流れて、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aから伸側室L1へと流出する。
 
【0069】
  前述のように、相対向する弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pの開口面積は非常に小さいので、ピストン速度が極低速域にある場合、緩衝器Dは、その隙間Pを液体が流れる際の抵抗に起因する極低速域の減衰力を発揮できる。
 
【0070】
  また、ピストン速度が高くなり、極低速域から脱して低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7は閉じているが、弁体8の外周部(自由端8c側の端部)が伸長時には下側へ、収縮時には上側へと撓み、弁体8の自由端8cと対向面5eとが上下にずれる。
 
【0071】
  このため、緩衝器Dの伸長時にピストン速度が低速域にあり、弁体8の外周部が下側へ撓むと、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aを通って伸側室L1からスカート部4b内へ流入した液体が、通路5cと、上下にずれた弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間と、隣り合うガイド5fの間を通って圧側室L2へと流出する。
 
【0072】
  反対に、緩衝器Dの収縮時にピストン速度が低速域にあり、弁体8の外周部が上側へ撓むと、隣り合うガイド5fの間と、上下にずれた弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間を通って圧側室L2からケース部5b内へ流入した液体が、通路5cと、伸側と圧側の主弁体6,7に形成された切欠き6a,7aを通って伸側室L1へと流出する。
 
【0073】
  前述のように、ピストン速度が低速域にある場合、上下にずれた弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
 
【0074】
  このため、ピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの抵抗に起因する低速域の減衰力を発揮するようになる。そして、ピストン速度が極低速域からこのような低速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
 
【0075】
  また、ピストン速度がさらに高くなり、低速域から脱して中高速域にある場合、弁体8の外周部が上側又は下側へ撓んでいるのは勿論、伸長時には伸側の主弁体6が開き、収縮時には圧側の主弁体7が開く。
 
【0076】
  本実施の形態では、伸側の主弁体6が開くと、その主弁体6の外周部が
図2中下側へ撓み、その外周部とメインバルブケース4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。同様に、圧側の主弁体7が開くと、その主弁体7の外周部が
図2中上側へ撓み、その外周部とメインバルブケース4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。
 
【0077】
  このため、ピストン速度が中高速域にある場合、緩衝器Dは、伸側又は圧側の主弁体6,7の開弁によってできる隙間の抵抗に起因する中高速域の減衰力を発揮するようになる。そして、ピストン速度が低速域からこのような中高速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
 
【0078】
  なお、中高速域の途中で、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量を規制してもよい。このような場合には、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量が最大となった速度を境に、減衰係数が再び大きくなる。
 
【0079】
  以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)V、及びその減衰バルブVを備えた緩衝器Dの作用効果について説明する。
 
【0080】
  本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、バルブケース5と、外周がバルブケース5に対して軸方向の両側へ動ける自由端8cとされる環状の弁体8とを備える。そして、バルブケース5が弁体8の外周側に位置して弁体8の自由端8cと隙間Pをあけて対向できる環状の対向面5eと、この対向面5eの
図2中下側(軸方向の一方側)に位置して対向面5eの周方向の一部に連なるガイド面5hとを有し、このガイド面5hが対向面5eから離れるに従って弁体8から離れる方向へ傾斜している。
 
【0081】
  上記構成によれば、弁体8をバルブケース5に装着する際に、弁体8をガイド面5hで所定の取付位置へ案内できるので、減衰バルブVの組立性を良好にできる。さらに、バルブケース5自体に対向面5eが形成されていて、この対向面5eを含む対向部5dと弁体8が積層される嵌合部5aが一体成形されているので、減衰バルブVの部品数を少なくできる。よって、このことからも、減衰バルブVの組立性を良好にできる。
 
【0082】
  加えて、上記構成によれば、ガイド面5hが対向面5eの周方向の一部に連なるように、断続的に形成されている。このため、弁体8の自由端8cが対向面5eからずれてガイド面5hに対向したとき、液体がガイド面5hの途切れた部分を通過できる。よって、少ない撓み量でも弁体8を通過する液体の流量を多くでき、弁体8の耐久性を向上できる。
 
【0083】
  なお、本実施の形態では、弁体8の内周端が固定端8b、外周端が自由端8cとなっており、対向面5eが弁体8の外周側に位置しているが、反対に、弁体の内周端が自由端、外周端が固定端となっていて、対向面が弁体の内周側に位置していてもよい。
 
【0084】
  また、本実施の形態において、ガイド面5hは、軸方向視で扇状であり、同一円周上に八つ、等間隔に配置されている。換言すると、ガイド面5hが途切れて、液体が通過可能なガイド面5hの間隙が対向面5eの周方向に等間隔に形成されている。このため、弁体8の外周部をなるべく均等に撓ませることができ、弁体8の耐久性を一層向上できる。
 
【0085】
  しかし、ガイド面5hが対向面5eの全周に亘って連なる構成でなく、且つ、ガイド面5hで弁体8を所定の取付位置に案内できる限り、ガイド面5hの数、位置、及び形状は、適宜変更できる。より具体的には、ガイド面5hは、弁体8の内周又は外周の少なくとも三点を支えつつ、弁体8を所定の取付位置に案内できればよい。
 
【0086】
  そして、そのようにするには、弁体8を軸方向の一方側から見た状態で、弁体8の中心を通る任意の直線をX軸、弁体8の中心でX軸と直交する直線をY軸としたとき、X軸を挟んで両側にそれぞれ上記三点のうちの一点以上があり、Y軸を挟んで両側にそれぞれ上記三点のうちの一点以上があればよい。また、弁体8を支える各点は、一続きのガイド面5h上にあっても、分割されたガイド面5h上にあってもよい。
 
【0087】
  また、本実施の形態のバルブケース5は、対向面5eの軸方向の一端の周方向の一部に連なり、前記対向面5eと面一な延長面(ずれ抑制面)5gを有する。当該構成によれば、弁体8が所定の取付位置からずれた状態で減衰バルブVが組み付けられるのを防止できるので、減衰バルブVの組付作業を容易にできる。
 
【0088】
  さらに、上記構成によれば、延長面(ずれ抑制面)5gが対向面5eの周方向の一部に連なるように、断続的に形成されているので、弁体8の自由端8cが対向面5eからずれて延長面5gに対向したとき、液体がその延長面5gの途切れた部分を通過できる。よって、延長面5gを設けたとしても、弁体8の撓み量が大きくなるのを防止できる。
 
【0089】
  また、バルブケース5において、弁体8を装着するときにその入口側となる方が先端側であり、ガイド面5hは対向面5eよりも先端側に形成されている。そして、本実施の形態では、バルブケース5の下端(先端)に、周方向に並べて複数のガイド5fが配置されるとともに、各ガイド5fにガイド面5hと延長面(ずれ抑制面)5gが形成されていて、ガイド面5hがその延長面5gを介して対向面5eに連なる。
 
【0090】
  上記構成によれば、ガイド面5hと延長面(ずれ抑制面)5gを対向面5eの周方向に断続的に形成するのが容易である。さらに、上記構成によれば、弁体8がガイド面5hへ乗り上がるのを延長面(ずれ抑制面)5gで防止できる。このため、対向面5eに対するガイド面5hの傾斜角度α(
図2)を大きくし、ガイド面5hの勾配を緩やかにして弁体取付用の間口を広げられるので、減衰バルブVの組立作業をさらに一層容易にできる。
 
【0091】
  また、各ガイド5fにおいて、弁体8側(バルブケース5の内周側)の端を先端、シリンダ1側(バルブケース5の外周側)の端を末端とすると、各ガイド5fは、先端から末端へ向かうに従って幅が広くなるように、扇状となっている(
図3(c))。
 
【0092】
  このように、本実施の形態では、各ガイド5fの先端側を細くして、対向面5eとガイド面5hの周方向の幅を狭くしている。このため、弁体8が撓んでその自由端8cが対向面5e又はガイド面5hに対向し、ガイド5fの間を液体が流れる際に、その入口側の流路面積を大きくできる。さらには、各ガイド5fの末端側が太いので、フライス加工等の切削加工でガイド5fを形成する場合には、加工量(切削する量)を少なくできる。
 
【0093】
  なお、ガイド5fの形状及び加工方法は上記の限りではなく、適宜変更できる。例えば、ガイド5fの幅は、先端から末端にかけて一定でもよい。さらに、本実施の形態の延長面(ずれ抑制面)5gは、対向面5eの軸方向の一端にのみ連なっているが、対向面5eの軸方向の両側に連なっていてもよい。このような場合には、さらに確実に弁体8のずれを防止できる。
 
【0094】
  また、対向面5eの軸方向の一端又は両端に連なるずれ抑制面は、必ずしも対向面5eと面一な延長面5gでなくてもよい。具体的には、ずれ抑制面の勾配がガイド面5hの勾配よりも急(対向面5eに対するずれ抑制面の傾斜角度が、対向面5eに対するガイド面5hの傾斜角度αよりも小さい角度)であれば、弁体8が所定の取付位置からずれた状態で減衰バルブVが組み付けられるのを抑制できる。
 
【0095】
  しかし、延長面5g等のずれ抑制面を廃し、ガイド面5hが対向面5eに直接連なる構造にしてもよい。また、ずれ抑制面とガイド面5hの数は、必ずしも一緒でなくてもよい。そして、このような変更は、弁体8の内周端と外周端のどちらを自由端にするかによらず可能である。
 
【0096】
  また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド3と、減衰バルブ(バルブ)Vとを備える。そして、減衰バルブ(バルブ)Vは、シリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して抵抗を与える。このため、緩衝器Dが伸縮してシリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動するときに、減衰バルブ(バルブ)Vの抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
 
【0097】
  また、本実施の形態の減衰バルブ(バルブ)Vは、通路4c,4dが形成されるメインバルブケース4と、メインバルブケース4に積層されて通路4c,4dを開閉する主弁体6,7とを備える。そして、メインバルブケース4の通路4c,4dは、弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pと直列に接続されている。
 
【0098】
  上記したように、主弁体6,7と弁体8を有して減衰バルブVが構成されている場合、弁体8を撓ませるピストン速度の領域と、主弁体6,7を開くピストン速度の領域をそれぞれ設定できるので、緩衝器Dの減衰力特性を細かく設定できる。
 
【0099】
  そして、本実施の形態のように、弁体8を極低速域の減衰力の発生に利用する場合、弁体8を所定の取付位置に設置したときに弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pが非常に小さくなって精密な組立が必要になる。このため、弁体8を極低速域の減衰力の発生に利用する場合には、ガイド面5hを設けたり、ずれ抑制面を設けたりして組立作業を容易にするのが特に効果的である。
 
【0100】
  なお、このような効果は、弁体8の自由端8cと対向面5eとの間にできる隙間Pと、メインバルブケース4の通路4c,4dとを並列に接続した場合にも得られるので、そのようにしてもよい。具体的には、ピストンロッド3にメインバルブケース4の通路4c,4dを迂回するバイパス路を設け、そのバイパス路に隙間Pを連通させてもよい。
 
【0101】
  さらには、必ずしも弁体8を主弁体6,7と組み合わせて利用しなくてもよい。具体的には、
図4に示す減衰バルブV1のように、バルブケース5をピストン2として機能させ、ピストン速度が中高速域にある場合に撓む主弁体として、弁体8を利用してもよい。
 
【0102】
  そして、上記説明では、ピストン速度の領域を、弁体8が撓まず、主弁体6,7が閉じた状態に維持される領域である極低速域、弁体8は撓むが主弁体6,7は閉じている領域である低速域、及び弁体8が撓むとともに主弁体6,7が開弁する領域である中高速域に区画している。しかし、どのようにピストン速度の領域を区分けしてもよく、各領域の閾値もそれぞれ任意に設定できる。
 
【0103】
  また、
図2,4に示す減衰バルブV,V1は、それぞれ緩衝器のピストンロッド3に装着されたピストン部分に具現化されている。しかし、シリンダ1に出入りするロッドは、必ずしもピストン2が取り付けられたピストンロッド3でなくてもよく、減衰バルブV,V1を設ける位置はピストン部に限らない。
 
【0104】
  例えば、前述のように、緩衝器がリザーバ室を備え、このリザーバ室でシリンダに出入りするピストンロッドの体積補償をする場合には、シリンダ内とリザーバ室とを連通する通路の途中に減衰バルブV,V1を設けてもよい。そして、このような変更は、弁体8の内周端と外周端のどちらを自由端にするかによらず可能であるのは勿論、ガイド面5hの数、位置、及び形状、並びに、ずれ抑制面の傾斜角度、位置、及び有無によらず可能である。
 
【0105】
  以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。