【0060】
本発明の目的に関して、各々の一本鎖二重特異性抗体ドメインまたはリンカーは以下のように対応する配列番号を有する:
配列番号1は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのアミノ酸配列:VH
A 16E2(クラスIGHV 3−20
*01)に対応し;
配列番号2は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VH
Aに対応し;
配列番号3は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのアミノ酸配列;VL
B(hUCTH1)に対応し;
配列番号4は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VL
Bに対応し;
配列番号5は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのアミノ酸配列:VH
B(hUCTH1)に対応し;
配列番号6は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VH
Bに対応し;
配列番号7は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのアミノ酸配列:16E2のVL
A(クラスIGLV3−19
*01)に対応し;
配列番号8は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VL
Aに対応し;
配列番号9(VHAドメインの前に来る配列、Sfi I制限部位)
配列番号10(VH
AドメインとVL
Bドメインとの間のリンカー、Age I制限部位)
配列番号11(VL
BドメインとVH
Bドメインとの間のリンカー、(GGGGS)
3リンカー)
配列番号12(VH
BドメインとVL
Aドメインとの間のリンカー、Xba I制限部位)
末端リンカーの配列:GCGGCCGC(末端リンカー、VL
Aドメイン後、Not I制限部位)
配列番号13は、一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1のアミノ酸配列に対応し、
配列番号14は、ベクター内にscDbをクローニングするために使用される上流配列を有する一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1のヌクレオチド配列に対応し、
配列番号15は、VLBドメインとVHBドメインとの間の代替リンカーのアミノ酸配列に対応し、
配列番号16は、HisおよびMycタグを有する一本鎖二重特異性抗体のアミノ酸配列に対応し、
配列番号17は、ファージディスプレイで単離されたクローン7抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号18は、ファージディスプレイで単離されたクローン8抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号19は、ファージディスプレイで単離されたクローン44抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号20は、ファージディスプレイで単離されたクローン56抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号21は、一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1(BsAb)のヌクレオチド配列に対応し、
配列番号22は、(GGGGS)リンカーのヌクレオチド配列に対応する。
【実施例】
【0062】
ここで上記の説明と共に以下の実施例を参照して本発明のいくつかの実施形態を例示する。
【0063】
細胞株
M41、M15およびM64ヒト黒色腫細胞を使用した。M15、M64およびM41は、異なるTRAIL−R2発現およびsTRAIL処理に対する感受性を有する細胞である:特に、M15はsTRAIL感受性および高発現であり;M41は部分的にsTRAIL感受性および高発現であり、一方でM64は低発現で耐性がある。
【0064】
HeLa(頸部上皮腺癌)、A431(扁平上皮癌)、SKOV3、A2774、A2780およびNL3507 INT−Ov−11(上皮性卵巣癌)、MDA−MB−231およびMT−3(トリプルネガティブ乳癌)、LnCAP、DU145およびPC3(前立腺癌)、CaCo2(結腸直腸腺癌)、HepG2(肝細胞癌)、SkMes(肺扁平上皮癌)、HEK−293(正常胚腎臓)、Jurkat(ヒトTリンパ球の不死化株)およびMDA−MB−468(トリプルネガティブ乳癌、TRAIL−R2ネガティブ細胞株)、SU−DHL−4(リンパ腫)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Manassas、MD)から購入した。INT−Ov−11(上皮性卵巣癌)は本発明者らのグループによって開発された。
【0065】
mAbを産生するハイブリドーマ、抗mycタグmAb 9E10(CRL−1729)はATCCから購入した。
【0066】
細菌株
大腸菌株。TG1{supEthi−1((lac−proAB)hsd(5[F’ traD36+proAB+lacIq lacZ(M15)]}を抗体ファージディスプレイパニングのために使用し、HB2151{nalr thi−1 ara lac−proAB[F’ proAB+laciq lacZ(M15)]}を二重特異性抗体の可溶性産生のために使用した。
【0067】
実施例1
TRAIL−R2に対する一本鎖抗体断片(一本鎖可変断片scFv)の単離
3サイクルの濃縮を実施して、以下に記載されるようにTRAIL−R2に対するscFvを単離した。溶出ファージの力価は各サイクル後に徐々に増加し、産生したファージの結合をファージELISAにおいて試験し、濃縮後のファージに由来する、濃縮した768個の無作為に採取したコロニーと共に比例的に増加させ、天然のTRAIL−R2に特異的な単一のクローンファージELISAおよび4個のクローンにおいて試験し、単離し、シークエンスし、特性付けした。4個のscFvを可溶性形態で産生し、その結果、TRAIL−R2
+細胞に特異的に結合できた。
【0068】
材料および方法:
抗体ファージディスプレイ
TRAIL−R2に対するScFvを、ファージディスプレイ抗体技術を使用して単離した。予め作製したヒトScFvファージディスプレイライブラリー(所有)を使用し、3ラウンドの選択を実施した。天然のTRAIL−R2での選択のために、6×10
6個のリンパ腫SU−DHL−4受容体陽性細胞を溶解した。溶解物に含有するTRAIL−R2タンパク質を、DYNABEADS(登録商標)M−280ヒツジ抗マウスIgG(Life Technologies)と以前にコンジュゲートしたマウス抗ヒトTRAIL−R2抗体(R&D Systems)を用いて捕捉した。磁性ビーズを用いて捕らえたTRAIL−R2を、1時間撹拌しながらMPBS(ミルク4%+PBS)中でインキュベートし、その後、ファージライブラリーを加え、室温にて2時間撹拌しながらインキュベートし、第1、第2および第3サイクルの濃縮においてそれぞれ20、15および10回、PBST(PBSおよびTween 0.1%)で洗浄した。洗浄工程後、受容体に特異的な抗体断片を示したファージをビーズに付着させたままにし、2×TY培地中で0.4〜0.5のO.D.にて増殖させた2mlのTG1大腸菌を感染させるために使用した。感染した細菌を、四角のプレートディッシュ(100×15mm)において2xTYE+100μg/mLのアンピシリンに播種し、30℃にてO/N(一晩)増殖させた。コロニーを計数し、PCRによってスクリーニングし、プレートを擦った。連続ラウンドのためのファージを産生するために、50μlの擦った細菌を、1%のグルコースおよびアンピシリン(100mg/ml)を含む50mlの2xTY培地中に接種した。O.D.が0.4〜0.5に到達したら、細菌を、37℃にて30分間、恒温槽中で、5×10
5pfuのM13KO7ヘルパーファージ(New England Biolabs)に感染させた。次いで細菌を遠心分離し、グルコースを含まない同じ培地中で再懸濁し、30℃にてO/N増殖させた。ファージをPEGで沈殿させ、PBS中に再懸濁し、連続ラウンドの選択のためにそれらを使用する前に滴定した。第3ラウンドの後、ファージをFACS中で試験してTRAIL−R2結合能力を評価した。濃縮後に得られた単一コロニーを用いて、単一ファージELISAを実施した。
【0069】
単一クローンファージELISA
第3ラウンドの選択後、ファージ感染させた細菌を2xTYE+アンピシリンプレートに播種した。単一クローンファージの産生を、ディープ96ウェルプレートの各ウェルにおいて上記のように実施した。各ウェルの上清の結合能力を試験するために、単一ファージElisaを実施した。抗TRAIL−R2(R&D Systems)を用いて96ウェルELISAプレートを4℃にてO/Nコーティングした。PBS−Tween 0.1%およびPBSによる3回の洗浄後、0.5μgのSU−DHL−4溶解物を室温にて1時間インキュベートした。特異的クローンの存在が抗M13 HRP抗体と共に明らかになった。
【0070】
抗体断片可溶性発現
可溶性二重特異性抗体または抗体断片を大腸菌において産生した。コンピテントHB2151大腸菌を新たに形質転換し、2xTYEに播種し、37℃にてO/N増殖させた。1つの単一コロニーを接種し、2xTY(0.1%のグルコースおよび100μg/mlのアンピシリン)培地中で37℃にて一晩増殖させた。翌日、培養物を0.1のODから開始する新たな培地に接種し、培養物が0.8〜0.9のODに到達するまで細菌を増殖させた。培養物を遠心分離し、使い果たした培地を、可溶性タンパク質の誘導に特有の新たな培地(2xTY+0.1%のグルコース+100μg/mLのアンピシリン+1mMのIPTG)に交換した。効果的な可溶性タンパク質発現を可能にするために、細菌を各タンパク質について最適な温度(25〜30℃)にてO/Nインキュベートした。翌日、細菌を遠心分離によって採取し、撹拌しながら4℃にて1時間、1mMのEDTAおよび20%のスクロースを含有する200mMのTris緩衝液(pH7.5)を使用する浸透圧衝撃処理プロトコルを実施して、二重特異性抗体または抗体断片を含有するペリプラズムタンパク質を抽出した。
【0071】
ペリプラズム調製物を、ニッケルまたはLプロテインクロマトグラフィーカラムと共にIMACプロトコルを使用して精製した。
【0072】
実施例2
二重特異性抗体の構築
本発明者らは、実施例1に記載される4個の単離した抗TRAIL−R2 scFvの可変ドメインを使用し、それらを、以下に記載される2つのマウス抗CD3ハイブリドーマ(TR66およびOKT3)のうちの1つの可変ドメインと結合して、タンデムScFvフォーマット(配列番号17、18、19および20)において二重特異性抗体を構築した。二重特異性抗体の構造は2つのScFvである、第1の抗TRAIL−R2および第2の抗CD3によって構成され、それらは、構造に剛性を与え、異なる特異性の可変ドメインのミスマッチ対を可能にしない短いGGGGSリンカーによって結合された(
図1A)。タンデムScFvフォーマットとしてTR66 scFvと対合する、これらのクローンのうちの1つであるクローン8(配列番号18)は最適な結合能力を示した。TRAIL−R2の異なる発現のNHL、HeLaおよび黒色腫細胞株でのFACSによってBsAbは、その一価結合にも関わらず、完全なIgG二価陽性対照と類似した良好な反応性を実証する。不幸にも、BsAbは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実証されるように、恐らく凝集体の存在に起因する時間の間、不十分な安定性を実証した。より安定なクローンを見つけるために、本発明者らは、クローン8をランダム変異導入し、変異したscFvのプールを、TR66 scFvを含有するベクター内にクローニングした。単一クローンELISAを実施して、陽性細胞に対して良好に結合するクローンを単離した。90個のクローンのうち、2つのC2およびC3は良好な結合および特異性を与える。それらの配列は、それらが、フレームワークにおいてそれぞれ2および1点突然変異を有することを実証する。より正確には、C2において、VHのフレームワーク1において1アミノ酸変化およびフレームワーク2において1アミノ酸変化が存在し、C3において、VLのフレームワーク1において1アミノ酸変化が存在する。安定性はいずれの場合も本発明者らの目的のためにまだ十分ではなかった。
【0073】
並行して、本発明者らは、BiTE様BsAbフォーマットにおいてライブラリーの直接的な選択を開始することを決定した:異なる種類のリンカーはscFv断片の結合および特性に影響を及ぼし得、scFvは、BsAbとして構築された場合、異なる性質を有し得る。断片のプールを天然scFvライブラリーの第2のパニング後に得、それらから本発明者らは上記のクローンを選択し、TR66のscFvを含有するベクター内にクローニングした。また、十分に特性付けられた抗TRAIL−R2クローン16e2を含有する構築物を、陽性対照として使用するために生成し、産生した。得られたライブラリーを一時的に加熱して、アンフォールディングを誘導し、凝集を促進した。冷却後、ファージディスプレイ抗体断片は可逆的にアンフォールドし、それによりそうしないものに対して濃縮した。2ラウンドの選択後、90個のクローンのうち6個が、黒色腫細胞でELISAにおいて陽性であり、TRAIL−R2を発現しない細胞(MDA−MB−468)株で陰性であると見出した。これらの6個のクローンをFACSによってさらに分析し、それらのうちの3個が両方のアームに良好に結合することが実証された。また、16e2 scFvを含有するクローンはTRAIL−R2およびCD3に特異的に結合できるが、他の6個のクローンと同様に、それは特異性を少なくとも1週間維持し、その後、結合はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実証されるように恐らく凝集体の存在に起因して喪失した(
図2A)。
【0074】
【表1】
【0075】
材料および方法:
Bite様フォーマット構築物における二重特異性抗体
本発明者らの目的のために、TRAIL−R2に対する単離した一本鎖Fv断片を、フレキシブルなGGGGSリンカーによって抗CD3 scFvに結合した。使用した抗CD3 scFvは2つのマウスハイブリドーマTR66およびOKT3に由来した。抗体遺伝子を、二重特異性カセット遺伝子の後にエキサヒスチジン(exahistidine)およびMycタグの両方を含むpIT2ベクター内にクローニングした。二重特異性抗体をHB2151大腸菌において発現させ、実施例1に記載されるように精製した。
【0076】
第2のパニング抗TRAIL−R2に由来する増幅VhおよびVl
天然TRAIL−R2での2回のパニングサイクル後に誘導されたファージからのプラスミドを、Wizard(登録商標)Plus SV Minipreps DNA Purification(Promega)を使用して単離した。VhおよびJk生殖細胞系列の全てに特異的なプライマーのプールを使用して、scFvをPCRによって増幅させ、プライマーによってTR66 scFvを含むpIT2ベクター内にクローニングし、SfiI/NotI部位をコードして、二重特異性抗体ライブラリーを生成した。このライブラリーを、抗TRAIL−R2の市販の抗体を使用して磁性ビーズに固定した天然TRAIL−R2に対してスクリーニングした。
【0077】
組換え抗体:FACSの結合特異性
全ての実験において、2×10
5個の細胞を、4℃にて30分間、1%の飽和FCSを含有するPBS中で一次抗体とインキュベートした。抗ヒスチジンタグ抗体および標識した抗マウスIgG(H+L特異的)Alexa488を使用してBsAbを検出した。ハイブリドーマに由来するマウス抗ヒトTRAIL−R2(R&D Systems)およびマウスTR66 mAbを陽性対照のように使用した。FACS Calibur機器(Becton Dickinson、Heidelberg、ドイツ)を使用して蛍光標識を測定した。Flowjoソフトウェア(Tree Star Inc)を使用してデータ分析を実施した。
【0078】
実施例3
新規フォーマット
BiTE様フォーマットの安定性の欠如により、本発明者らは異なるフォーマットの二重特異性抗体を構築することを動機付けされた。免疫細胞溶解シナプスに必要なT細胞および腫瘍細胞の隣接を可能にする小型のフォーマットは一本鎖二重特異性ダイアボディ(scDb)である。二重特異性ダイアボディフォーマット(
図1B)は、VHドメインのC末端が、VHおよびVLの鎖内対合を制限するために短い剛性リンカーを使用して別の特異性のVLドメインのN末端に結合している2つのscFvによって構成される。scDbフォーマットにおいて、2つの鎖間の別のリンカー(GGGGS)
3は構造を安定化させる。本発明者らは、単離した抗TRAIL−R2 scFv、16e2またはドロジツマブ(Genentech)の全ての可変ドメインの配列および抗CD3特異性に対するヒト化抗体UCTH1(hUCTH1)を有するscDbを構築した。hUCTH1のscFvを多くのBsAb構築物において使用し、16e2と結合させてscDbを形成して使用した場合、安定であることを実証した。
【0079】
構築物を、IPTGによる誘導後、細菌HB2151ペリプラズムにおいてscDbの分泌を可能にするpIT2プラスミド内にクローニングした。産生したBsAbは、C末端において、c−mycおよびエキサヒスチジンタグをそれぞれコードする2つの配列を有する。Hisタグを挿入し、IMACプロトコルを使用してBsAb精製を可能にした。二重特異性タンデムscFvまたはscDbフォーマットの全て異なって産生した構築物の中で、本発明者らは、低い産生量、結合の欠如および/または凝集の存在は、16e2およびhUCTH1と共に構築されたscDbを除いて安定な試薬を有する可能性をなくすことに気付いた。
【0080】
全ての構築物は16e2×hUCTH1 scDbと比較して非常に低い産生量であった。標準産生物の産生量は約50〜100μg/Lであり、scDbについては約1〜2mg/Lである。産生量の差が偶然によらないようにするために、約20の異なる産生の試みを実施し、結果は同等であった。
【0081】
また、16e2×hUCTH1 TaScFvは、TRAIL−R2に特異的に結合できなかったこと(
図2C)、およびドロジツマブ×hUCTH1 scDbのような他の構築物(
図2D)または16e2×TR66 TaScFv(
図2A)が、産生直後の特異性で両方に結合できたが、1〜3日の保存後、TRAIL−R2またはCD3結合能力をそれぞれ損失したことも観察することができ、この結合の損失の原因を調べ、サイズ排除クロマトグラフィー(SUPEROSE 12 10/300)(分離範囲:300Kd〜10Kd;GE Healthcare)アッセイを実施し、精製の16時間後に発生した16E2×TR66 TaScFvの凝集を観察した。16E2×hUCTH1 scDbフォーマットは凝集傾向のない他の構築物と比較して優れており、2年の保存後でも両方の特異性、TRAIL−R2およびCD3に対する結合親和性を維持した(
図2B)。
【0082】
一本鎖ダイアボディ特性付け
精製したscDbを4〜12%のSDSゲルでの電気泳動によって試験し、エキサヒスチジニル(exahystidinil)エピトープに特異的なMAb抗Hisを使用して、Comassieブルーで染色したか、またはニトロセルロース膜でのブロッティング後に染色した。検出したバンドは正確な分子量であり、他のバンドは観察されなかった(
図3C)。SUPEROSE 12 10/300カラムでのサイズ排除クロマトグラフィー分析により、精製後のscDbの純度は97%超であることが示された。FACScalibur試験により、TRAIL−R2+黒色腫細胞およびCD3+Jurkat細胞に対するscDbの特異的結合が実証された。両方の特異性についてMDA−MB−468の完全に陰性細胞に対する結合は観察されなかった(
図3A)。
【0083】
BIAcore分析
BsAbのTRAIL−R2の結合親和性を、BIAcoreを使用して表面プラズモン共鳴によって測定した。チップに固定した組換えヒトTRAIL−R2を使用して分析を実施した。実験データに基づいて、結合および解離曲線を算出し、動力学的評価により、1.48×10
7nMの算出された親和定数(KD)が得られた(
図3B、左のパネル)。
【0084】
scDb抗TRAIL−アームのsTRAILとの結合競合を評価するために、組換え受容体をチップに固定し、1μMの可溶性TRAILで飽和させた。分析により、同じ結合部位に対して強力な競合が示された。なぜなら、sTRAIL飽和TRAIL−R2に対するBsAb結合は観察されないからである(
図3B、右のパネル)。この理由のために、本発明者らは、scDbがアゴニスト様式でsTRAILのように作用できるかどうかを調べた。
【0085】
ScDbアゴニスト活性
TRAILR2アゴニスト活性をより深く特性付けるために、本発明者らは、単量体形態または異なる方法で多量体化したscDbを使用した。本発明者らが使用した第1の方法は、9E10モノクローナル抗体によって与えられたMycタグの認識の可能性を利用した:この抗体はmycタグを認識でき、scDbの二量体化を可能にし、Fc特異的抗マウス抗体とインキュベートする場合、それは9E10のFcに結合でき、scDbの人工四量体形態を有することができる。第2の方法は、ストレプトアビジンのビオチン四量体化特性を利用する:scDbをビオチン化し、ストレプトアビジンとインキュベートした。四量体化したscDbを、SECを用いて単離し、細胞を処理するために使用した。M15、M64およびM41は、異なるTRAIL−R2発現およびsTRAIL処理に対する感受性を有する細胞である:特にM15はsTRAIL感受性および高発現である;M41は部分的にsTRAIL感受性および高発現であり、M64は低発現で耐性がある。scDbを多量体化するために使用した全ての方法はアゴニスト効果を示唆しており、特にビオチン−ストレプトアビジン戦略で多量体化したscDbは最適なアゴニスト活性を実証する。
【0086】
scDbによる細胞傷害性の誘導
腫瘍細胞に対して増殖阻害または細胞傷害性を誘導する二重特異性抗体の能力を、
健康なドナーから単離した、活性化または非活性化PBLを腫瘍細胞に対して再誘導することによって調べた。TRAIL−R2を発現するM15、M41およびM64黒色腫細胞株、A2774、A2780、SKOV3、NL3507およびA431卵巣癌細胞株、A431扁平上皮癌細胞株、MDA−MB−231およびMT−3トリプルネガティブ乳癌細胞株、LnCap、DU145およびPC3前立腺癌細胞株、CaCO2結腸直腸腺癌細胞株、HepG2肝細胞癌細胞株およびSkMes肺扁平上皮癌細胞株を標的細胞として使用した。MDA−MB−468、TRAIL−R2陰性細胞株を使用して、オフターゲットの細胞傷害性の不在を試験した;正常な腎臓不死化細胞株であるHEK−293を使用して、正常細胞に対する毒性を排除した。増殖阻害についてCellTiterGloまたは直接的なT細胞の細胞傷害性についてカルセインAM放出アッセイを使用してscDbの効果を測定した。異なる濃度のBsAb(0.01μg/mlに到達するまで1:2希釈で1μg/mlから開始する)、異なるエフェクター対標的比(20:1〜1.25:1)および活性化または非活性化PBLを使用して最初の実験を実施した。
【0087】
0.5μg/mlの濃度および5:1のE:T比を使用して最適な結果を得た。scDbは、使用した全ての腫瘍細胞株に対して良好な効果を示す。M64およびM15に関するデータを
図4Aに報告する。
【0088】
10人の異なる健常ドナーの末梢血から抽出したPBLを使用した結果の再現性を試験するためにこれらの条件を使用して他の実験を実施した。異なるドナーに由来するPBMCの異なる細胞傷害性力に起因する歪みを回避するために、腫瘍細胞の処理前に、PBMC基礎活性化状態をFACSによって評価した。CD69およびCD25マーカーが非常に多い場合、PBMCはちょうど活性化しているとみなし、処理に使用しなかった。黒色腫細胞株で、scDbおよびPBMCによる処理は同じ結果を繰り返した。MDA−MB−468においてオフターゲット細胞傷害性は観察されなかった。さらに、各群において算出した非常に低い標準偏差により、処理が再現可能であり、異なるPBLプールによる影響を受けないことが示された(
図4B)。
【0089】
二重特異性抗体の反応性をさらに特性付けるために、異なる癌細胞株上のTRAIL−R2受容体の存在を評価した。TRAIL−R2の表面発現を、抗TRAIL−R2 mAbを使用してFACSによって分析した。この分析から、本発明者らは、INT−Ov−11、A2774、A2780、SKOV3、NL3507卵巣癌細胞株、MDA−MB−231およびMT−3トリプルネガティブ乳癌細胞株、LnCaP、DU145およびPC3前立腺癌細胞株、CaCO2結腸直腸腺癌細胞株、HepG2肝細胞癌細胞株、SkMes肺扁平上皮癌細胞株、A431扁平上皮癌細胞株はTRAIL−R2を発現することを見出し、標的細胞として使用した。HEK−293、正常な腎臓不死化細胞株は非常に高いレベルのTRAIL−R2を示し、正常細胞に対する毒性を排除するために使用した。
【0090】
0.5μg/mlのscDbによるPBL(5:1のE:T比)の再標的化後、本発明者らは、BsAbが使用した全ての細胞株について標的細胞増殖阻害を誘導できることを観察した。処理したHEK−293に対して細胞傷害性は観察されなかった(
図4C〜4D)。
【0091】
カルセインAM放出
直接的なT細胞の細胞傷害性を調べるために、
51Cr放出と同等の方法である、カルセインAM(カルセイン−アセトキシメチルジアセチルエステル)放出を使用した(Lichtenfelsら、1994およびRodenら、1999)。腫瘍標的細胞数および密度に対するカルセイン−AM濃度を、1〜10μMの濃度範囲で細胞をインキュベートすることによって決定し、最大と自然放出との間の最適な分離を評価した(データは示さず)。scDbによる処理は良好な結果を示し、黒色腫細胞M15、M64およびM41を溶解するためにT細胞を再標的化することができた。T細胞を再標的化することにより、腫瘍細胞に損傷を与えることができ、カルセインは培地中に放出した。4時間後、細胞傷害性はTRAIL−R2高発現M15およびM41について約50%であり、低発現M64について約30%であった。16時間後、細胞傷害性は全ての処理した細胞株について100%に達した。直接的な細胞傷害性はMDA−MB−468、TRAIL−R2陰性細胞株において観察されなかった(
図4E)。
【0092】
T細胞活性化
細胞傷害性の機構を調査するために、TRAIL−R2陽性および陰性腫瘍ならびに正常細胞との同時インキュベーション後、活性化のPBMC状態を分析した。T細胞上で発現したCD69およびCD25活性化マーカーはTRAIL−R2+細胞とのインキュベーション後にPBMCに存在し、scDbの存在下でのみ増加した。対照的に、2つのマーカーの上方制御はscDbの非存在下またはTRAIL−R2−MDA−MB−468もしくはTRAIL−R2高発現HEK−293正常細胞との同時培養後に存在しなかった(
図6A)。M15細胞株を処理して実施した実験により、T細胞活性化マーカーCD25、CD137、CD69およびPD−1の用量依存的発現が、CD4
+およびCD8
+T細胞亜集団の両方において誘導されたことが明らかになった(
図6B)。腫瘍細胞に対するscDb媒介性再標的化後、T細胞活性化が、培地中に放出されたサイトカインの濃度の増加によってさらに実証された。特に、
図7は、これらのサイトカイン産生の増加が、24時間における産生のピークでscDbの存在下でのみ特異的に誘導したことを示す。24時間の上清に対するサイトカイン産生は48時間後に減少し、72時間後に同様に戻った。4回全てにおいて、scDb処理培地において測定したサイトカインは、PBMCのみで処理した細胞の培地中で産生されたサイトカインより多い。陰性TRAIL−R2または正常細胞を使用するとサイトカイン産生は観察されなかった。
【0093】
材料および方法
BIAcore
BsAb抗TRAIL−R2アームの結合を、研究グレードのCM5センサーチップ(
Biacore AB、Uppsala、スウェーデン)を備えたBIAcore2000を使用して表面プラズモン共鳴によって評価した。組換えヒトTRAIL−R2(R&D Systems)およびBSA(Thermo Scientific)非相関タンパク質を、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびエタノールアミン塩酸塩(pH8.5)との標準的なアミンカップリングプロトコルを使用してCM5センサーチップの2つの異なるレーンに固定した。BsAbを30μL/分の流速で3分間注入した。動態分析を400〜25nMの範囲の濃度のscDbで実施した。初期ベースラインの回復を各注入後に検証した。得られたデータを、1:1のLangmuir−結合モデルを仮定するBIAevaluationソフトウェア3.2(グローバルフィッティング)によって分析した。
【0094】
生化学的特性付けおよび完全性
サイズおよび均一性を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロッティングおよび質量分析(SELDI−TOF)によって分析した。
【0095】
潜在的二量体化を、SUPEROSE 12 10/300(分離範囲:300Kd〜10Kd;GE Healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。
【0096】
PBLの単離
PBMCを、Ficoll密度勾配遠心分離標準プロトコル(Ficoll plus hystopaque、GE Healthcare)によって健康なドナーの軟膜から単離した。単離したPBMCをRPMI 1640完全培地中に再懸濁し、細胞数を1×10
6/mlに調整した。フラスコを、5%CO
2の加湿インキュベーターにおいて37℃にて30分間、横にして置き、単球を付着させた。上清に存在するPBLを除去し、別のフラスコに入れた。PBLを、5%FBSを含むRPMI1640で培養し、IL−2およびPHAを使用して4日間活性化した。
【0097】
腫瘍/正常細胞増殖阻害および細胞傷害性アッセイ
再誘導したT細胞増殖阻害を、PBLおよび一組の異なるTRAIL−R2
+細胞株を使用してMTTアッセイによって評価した。1.2×10
4個の細胞を、適切な培地を含む96ウェル平底プレートの各ウェルに播種し、ONインキュベートし、それらを付着させた。0.5μg/mlのscDbを加え、細胞を1時間インキュベートし、その後、PBLを加えた(E:T比:5:1)。陰性対照:未処理の細胞として、scDbのみとインキュベートした細胞またはPBLのみとインキュベートした細胞を使用した。48または96時間後、上清を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄してPBLを除去した。各ウェルに、0.5mg/mlのMTT塩を含有する100μlの新たな培地を加えた。3時間後、上清を捨て、150μlのMTT溶媒(イソプロパノール+4mM HCl+0.1% NP40)を使用して、形成したホルマザン塩を再懸濁した。Biorad−550マイクロプレートリーダーを使用して590nm(620nmの参照フィルター)における吸光度を読み取った。
【0098】
再誘導したT細胞の細胞傷害性を、カルセインAM(Biovision Inc)放出アッセイによって分析した。10
6個の標的細胞を、15μMのカルセイン−AMを含有する1mlの完全培地中に再懸濁し、37℃にて30分インキュベートし、新たな培地で3回洗浄した。10
4個の細胞を、増殖阻害アッセイのために使用した同じ処理後(各々について3連)に96ウェル丸底プレートに播種した。6個の複製ウェルを自然放出の測定のために使用し、最大放出について6であった(2%のTriton X−100を含有する培地中の標的細胞)。4時間後、プレートを1500rpmにて10分間遠心分離し、放出された蛍光カルセインを含有する上清を黒壁の96ウェルプレートに移した。485/535nmの励起/発光波長でUltraマルチプレートリーダー(Tecan Group、Mannedorf/Zurich、スイス)によって蛍光強度を測定した。
【0099】
T細胞活性化
活性化マーカー評価
TRAIl−R2+黒色腫(M15、M41およびM64)ならびにHek−293正常細胞およびTRAIl−R2−MDA−MB−468細胞を標的細胞として使用し、ウェル当たり3.5×10
4個の細胞密度で48ウェルプレート(Corning)内のRPMI1640培地中で増殖させた。12時間後、0.5μg/mlのscDbを加え、1時間インキュベートして、腫瘍細胞に存在するTRAIL−R2に結合させた。新たに単離したヒトPBMCをエフェクター細胞として使用し、5:1のエフェクター対標的比でscDb処理/未処理標的細胞に加えた。37℃、5%CO
2にて16時間のインキュベーション後、上清に含まれたT細胞を回収し、PBSで洗浄し、抗ヒトCD137(Miltenyi Biotec)、抗ヒトPD−1 BV421(Biolegend)、抗ヒトCD69(BD Biosciences)および抗ヒトCD25(Caltag Laboratories)で染色し、氷上で30分間、異なる蛍光色素で標識した。PBS+FCS 1%で3回洗浄した後、細胞をFACSCaliburでフローサイトメトリーによって分析した。
【0100】
サイトカイン放出の決定(Bioplex)
分泌したIFN−γ、IL−4、TNF、およびIL−2の量を決定するために、上清を、scDbプラスT細胞による腫瘍細胞の処理の開始後、4日間毎日回収した。上清を、製造業者のプロトコルに従ってBio−plex ProTM Human Cytokine standard 27−Plex、グループI(BIORAD)を使用してサイトカイン分泌について分析した。試料の吸収を測定し、得られた値を使用して、製造業者によって提供される標準的なシリーズについて得られた値に従って試料中のサイトカインの濃度を算出した。
【0101】
上記の説明および上記の実施例から、本発明に従って記載され、得られる生成物によって達成される利点が明らかである。