特許第6876006号(P6876006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876006癌免疫療法に使用するための二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876006
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】癌免疫療法に使用するための二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20210517BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   C07K16/28ZNA
   C07K16/46
   A61K39/395 N
   A61K39/395 T
   A61P37/04
   A61P35/00
   A61P17/00
   A61P15/00
   A61P13/08
   A61P1/00
   A61P1/16
   A61P11/00
   !C12N15/13
【請求項の数】12
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-568240(P2017-568240)
(86)(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公表番号】特表2018-525347(P2018-525347A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016065577
(87)【国際公開番号】WO2017001681
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】15174741.7
(32)【優先日】2015年7月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517451799
【氏名又は名称】フォンダチオーネ アイアールシーシーエス イスティテュート ナチオナーレ デイ ツモリ
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】フィギニ マリアンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】サッタ アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ジャッニ アレッサンドロ マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコラ マッシモ
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−519743(JP,A)
【文献】 特表2016−515389(JP,A)
【文献】 BUEHLER, P. et al.,A bispecific diabody directed against prostate-specific membrane antigen and CD3 induces T-cell mediated lysis of prostate cancer cells,Cancer Immunology, Immunotherapy,2008年,Vol.57, No.1,P.43-52
【文献】 COCHLOVIUS, B. et al.,Treatment of Human B Cell Lymphoma Xenografts with a CD3 × CD19 Diabody and T Cells,The Journal of Immunology,2000年,Vol.165, No.2,P.888-895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K A61K A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインであって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号1によるアミノ酸配列を有し、第1の特異性(A)はTRAIL−R2抗原に対してである、第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインと、
b.第2の特異性(B)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインであって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号3によるアミノ酸配列を有し、第2の特異性(B)はTリンパ球CD3に対してである、第2の特異性(B)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインと、
c.特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインであって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号5によるアミノ酸配列を有する、特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインと、
d.特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインであって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号7によるアミノ酸配列を有する、特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインと
を含み、
一本鎖二重特異性抗体のVHおよびVLドメインは、VH−VL−VH−VLの順序で連結し、各々のVHおよびVLドメインはペプチドリンカーにより連結し、VHドメインとVLドメインとの間、およびVHドメインとVLドメインとの間の前記ペプチドリンカーは、4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)からなり、VLドメインとVHドメインとの間の前記ペプチドリンカーは、各々4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基からなる3個のリンカー配列(GGGGS)からなる、
一本鎖二重特異性抗体。
【請求項2】
配列番号13によるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の一本鎖二重特異性抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の一本鎖二重特異性抗体と、標識化剤とを含む組成物。
【請求項4】
前記標識化剤が、放射性ヌクレオチドまたは蛍光ナノ粒子からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の一本鎖二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項6】
筋肉内、静脈内注射、皮下、または吸入投与経路用の請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物の効力を増強または低減させることができる、少なくとも1種のさらなる化合物と組み合わせて使用される、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
腫瘍細胞に対するTリンパ球の細胞傷害作用をインビトロで再誘導する方法であって、前記腫瘍細胞を、請求項1または2に記載の一本鎖二重特異性抗体と接触させる工程を含む、方法。
【請求項9】
腫瘍の治療用の医薬の製造のための請求項1または2に記載の一本鎖二重特異性抗体の使用。
【請求項10】
前記腫瘍が、黒色腫、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸腺癌、肝細胞癌および肺扁平上皮癌からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記治療が、少なくとも1種の抗腫瘍剤による以前の治療に対して耐性があるか、もしくは不耐容である患者に対してであるか、または抗腫瘍剤による治療が回避されなければならない患者に対してである、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記治療が予防的または治療的である、請求項10または11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法、特に薬物耐性を克服できる薬物の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、TRAIL−R2およびTリンパ球CD3の両方に結合する能力を有する新規二重特異性抗体に関する。
【0003】
本発明はさらに、二重特異性抗体を含む医薬組成物および腫瘍の治療における二重特異性抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
悪性腫瘍はヒトの死および非常に大きな健康問題の最大の原因の1つである。最近の10年において、科学者らは、前臨床研究において非常に良好な結果を有する多くの療法を開発してきたが、多くの場合、毒性または薬物耐性の発生に起因して、その後の臨床試験において不十分であるかまたは全く効果がないことがしばしばあった。腫瘍壊死因子スーパーファミリーの天然のサイトカインメンバーである、FasL、TNFαおよびTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)の発見は、それらのアポトーシスを誘導する能力のおかげで新たな癌療法の開発についての新たな可能性を開いた。スーパーファミリーの最初の2つのメンバーであるFasLおよびTNFαは抗癌分子としての使用が考慮されている。
【0005】
インビトロで腫瘍細胞の根絶を生じる最初の優れた結果の後、これらの2つの戦略を使用した治療は、前臨床モデルを使用してインビボで重大な副作用の発生を示した:TNFαの使用は強力な炎症反応を引き起こし、一方で組換え抗Fasアゴニスト抗体の使用は重篤な肝臓毒性の原因となった。
【0006】
TRAILは腫瘍プロアポトーシスリガンドであり、TNFαおよびFasLと対照的に、インビボ研究では、腫瘍細胞に対する特異性のために毒性が排除され、正常な細胞を保護する。
【0007】
TRAIL−R1およびTRAIL−R2の両方は、天然に、または特定の化学療法薬に反応してのいずれかで多くの腫瘍細胞において上方制御される。
【0008】
臨床試験が、TRAILの組換え型およびアゴニスト抗体などのTRAIL受容体アゴニスト化合物で開始された。組換えTRAILは両方の受容体(TRAIL−R1およびTRAIL−R2)を標的化する能力を有するので、より広い作用範囲を有する。
【0009】
対照的に、TRAIL−R1に対する抗体(マパツムマブ(mapatumuab))またはTRAIL−R2に対する抗体(ドロジツマブ、コナツムマブ、レクサツムマブおよびティガツズマブ)は1つのみの受容体を認識できるので、それらは組換えTRAILと比較して狭い作用範囲を有するが、それらは、リガンドを隔離する役割を有するデコイ受容体TRAIL−R3およびTRAIL−R4によって隔離されず、機能的受容体へのTRAIL結合を阻止するという利点を有する。
【0010】
これらの薬剤を試験した第I相臨床試験は有望であったが(患者の特定のサブセットに対する組換えタンパク質の投与は安全であり、部分的または完全に反応にしていくらかの抗腫瘍活性が実証された)、無作為化した第II相臨床試験は抗癌活性を現さなかった。ほとんどの場合、腫瘍細胞による耐性の発生に起因して失敗した。
【0011】
耐性を回避するために、TRAIL−R2アゴニスト化合物が、「TRAIL感作剤」と呼ばれる薬物と併用して使用されている。いくつかの従来の化学療法剤(ドキソルビシン、カルボプラチンまたはシスプラチン、イリノテカン、ボルテゾミブなど)は良好な「TRAIL感作剤」とみなされ、良好な前臨床結果を示したが、臨床試験においては期待を裏切った。
【0012】
組換え技術の出現後、医学研究において二重特異性抗体(BsAb)が急増した。これらの抗体は2つの異なる標的に同時に結合でき、この理由のためにそれらは2つの作用機構を1つの分子に付与することができ、活性を高めることができる。50より多くの異なるBsAbフォーマットが操作された。BsAbは、放射線イメージングもしくは放射線免疫療法において、または同じ細胞上の2つの異なる抗原もしくは2つの可溶性リガンドの二重標的化によって標的化前戦略と共に使用することができるが、最も頻繁な用途は免疫細胞を腫瘍細胞に再標的化することである。
【0013】
特に、良好な結果が、(T細胞受容体)TCRとは関係ない方法で腫瘍細胞を溶解するためにT細胞を再標的化できる二重特異性抗体で得られた。これらの例は、ハイブリッドハイブリドーマ技術を用いて産生されたIgGから作製されたカツマキソマブ(EpCAM x CD3)、およびブリナツモマブ(CD19 x CD3)、二重特異性T細胞エンゲイジャー(Bispecific T−Cell Engager)(BiTE)である。両方の分子は、腫瘍関連抗原およびCD3、T細胞受容体の定常部分に結合する能力を有する。特にBITEクラスのBsAb、ブリナツモマブが2014年12月にFDAに承認された。BiTEは2つの連結された一本鎖抗体断片(ScFv)から作製される。得られた構造は小型であり、腫瘍と免疫細胞との間で免疫細胞溶解シナプスを形成できる:この構造により、特に両方のアームがそれらの標的抗原と結合したときだけサブナノモル濃度のBiTEでT細胞の活性化が可能となる。
【0014】
TRAILを用いてT細胞の細胞傷害性装備を高める目的のために2つの二重特異性分子が開発されている。sTRAILおよびscFv、抗CD3または抗CD7によって構成される3つの融合タンパク質からなる各構築物を一緒にして、TRAILの三量体を形成した。sTRAILより腫瘍細胞に対して細胞傷害性を生じるこれらの化合物で装備したT細胞にも関わらず、scFv抗CD3または抗CD7の三量体はT細胞オフターゲットを活性化でき、サイトカインストームおよび正常細胞に対する毒性のような重大な副作用を引き起こす。この理由のために著者は、特定の解剖学的に拘束された領域に制限された腫瘍を治療するためだけのこれらの化合物の使用を提案している。1つの抗CD3結合部位のみを含有する二重特異性抗体の使用はこの問題を回避でき、このBsAbは全身治療のために使用され得る。なぜなら1つのみのCD3の結合はT細胞活性化を達成するのに十分ではないからである。タンデムscFvまたは一本鎖ダイアボディフォーマット(scDb)フォーマットにおいて二重特異性抗体を使用することにより、免疫細胞溶解シナプスが形成した場合のみ、およびそれにより腫瘍細胞上の抗原の結合後のみにT細胞は活性化される(非特許文献1)。
【0015】
前立腺癌の分野において二重特異性ダイアボディによって媒介される免疫療法は、前立腺特異的膜抗原およびCD3を標的とする二重特異性ダイアボディを用いて調査されている(非特許文献2)。
【0016】
ヒトB細胞リンパ腫成長に対するダイアボディの効果が非特許文献3によって研究された。B細胞上のヒトCD19およびTCR複合体のCD3ε鎖に特異的なヘテロ二量体ダイアボディが、Bリンパ腫異種移植片を保有する免疫不全マウスにおいてインビトロおよびインビボの両方で腫瘍成長阻害に対する効果を調査するために使用された。
【0017】
特許文献1は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)およびTRAIL Death Receptor5(DR5)を標的とする二重特異性抗体を記載しており、それらはアポトーシス誘導における使用を調査された。
【0018】
多くの異なる腫瘍細胞において上方制御される抗原を認識する化合物を識別するための必要性および重要性が徐々に増している。TRAIL−R2は非従来的な腫瘍関連抗原であると認識され得、実際に腫瘍上で受容体は上方制御され得るが、同じレベルの正常細胞においても存在し得る。TRAIL−R2は、発現レベルとは関係なく、正常細胞を保ち、腫瘍細胞を殺傷でき、正常細胞はTRAIL−R2によって誘導される殺傷に抵抗するための十分な機構を発生することに留意すべきである。この重要な特性に関わらず、腫瘍細胞はまた、TRAILアゴニスト治療に対する抵抗を発生し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2014161845号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】de Bruyn M.ら、Clinical cancer Res 2011、Sep 1;17(17):5626−37
【非特許文献2】Buhler P.ら、Cancer Immunol immunother 2008、57:43−52
【非特許文献3】Cochlovius B.ら、Journal of Immunology、2000、165:888−895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の目的は、アゴニストTRAIL化合物として作用する腫瘍細胞を特異的に殺傷する抗TRAIL−R2アーム、および腫瘍細胞を溶解するために腫瘍細胞に対してT細胞を再標的化する抗CD3アームを有するBsAbの開発である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の基本的な問題は、関連する腫瘍病理学の治療のための医薬の製造を可能にするための、腫瘍細胞に特異的に結合でき、殺傷できる利用可能な化合物を作製することである。
【0023】
この問題は、本明細書の説明、実施例および添付の特許請求の範囲に記載されている、それらの結合特異性および細胞傷害性能を有することができる二重特異性抗体の使用による本発明の発見によって解決される。
【0024】
本発明は、TRAIL−R2およびT細胞上で発現されたCD3の両方に結合する能力を有するscDbフォーマットの新規二重特異性抗体に関する。広範囲の腫瘍(黒色腫、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸腺癌、肝細胞癌および肺扁平上皮癌など)におけるTRAIL−R2を認識する同じ能力を有すること以外に、本明細書に提示される二重特異性抗体は、TRAILアゴニストとしておよびCD3を介してリンパ球細胞傷害を引き起こすことによっての両方で作用できる。
【0025】
T細胞活性化は標的特異的であることが実証されている。本発明は、
a.第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片であって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号1によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有し、第1の特異性(A)はTRAIL−R2に対してである、第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片と、
b.第2の特異性(B)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片であって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号3によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有し、第2の特異性(B)はTリンパ球CD3に対してである、第2の特異性(B)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片と、
c.特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片であって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号5によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有する、特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片と、
d.特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片であって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号7によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有する、特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片と
を含み、
一本鎖多重抗原結合分子のVHおよびVLドメインは、VH−VL−VH−VLの順序で連結し、各々のVHおよびVLドメインはペプチドリンカーにより連結し、VHドメインとVLドメインとの間、およびVHドメインとVLドメインとの間の前記ペプチドリンカーは、4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)からなり、VLドメインとVHドメインとの間の前記ペプチドリンカーは、各々4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基の各々からなる3個のリンカー配列(GGGGS)からなる、
一本鎖二重特異性ダイアボディまたはその断片に関連する。
【0026】
本発明の詳細な説明にさらに記載されるように、二重特異性抗体は、TRAILの潜在的抗腫瘍能力に耐性を回避する能力を付与する利点を有する。
【0027】
実際に、BsAbは2つのアームを有する:1つのアームはTRAIL−R2に結合し、可溶性TRAILのプロアポトーシス潜在性を模倣し、抗CD3アームは腫瘍細胞に対してT細胞を再標的化し、腫瘍細胞を殺傷する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、本発明による一本鎖二重特異性抗体分子またはその断片と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物である。
【0029】
別の態様によれば、記載される本発明は、腫瘍細胞に対してTリンパ球の細胞傷害作用を再誘導する方法であって、前記腫瘍細胞を、本明細書に開示される一本鎖二重特異性抗体と接触させる工程を含む、方法を提供する。
【0030】
別の態様によれば、記載される本発明は、腫瘍の治療に使用するための、本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片を提供する。
【0031】
本発明の特性および利点は、以下に報告される詳細な説明、例示であり、非限定的目的のために与えられる実施例、および添付の図1〜7から明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A図1は、実施例2および3に記載されるように、TRAIL−R2に結合でき、腫瘍細胞に対してT細胞を効果的に再標的化できる二重特異性抗体を創出するように操作した二重特異性構築物フォーマットの図を示す。図1A:タンデムscFv BsAbフォーマット:短いリンカーによって抗CD3 scFv(濃灰色)(TR66またはhUCTH1に由来する)に結合した抗TRAIL−R2 scFv(薄灰色)。
図1B】二重特異性scDbフォーマット:抗TRAIL−R2可変ドメインは構造の先端にあり、ミスマッチ対の形成を回避する2つの同一の5アミノ酸の短いリンカーによって抗CD3 scFvに結合している。
図1C】二重特異性scDb構築物の図。
図2A図2は、実施例2および3に記載される、本発明による、BITE様立体配座におけるBsAb 16e2/TR66と、scDb 16e2/hUCTH1により得られたものとの間のサイズ排除クロマトグラフィープロファイルの結果の比較を示す。TRAIL−R2およびCD3を発現するかまたは発現しない細胞でFACSによって結合能力を評価した。空ピーク:陰性対照;灰色ピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体。図2A:数日後にその結合能力を喪失し、凝集する傾向があるタンデムscFv BsAb 16e2/TR66のサイズ排除クロマトグラフィープロファイル。
図2B】安定であり、凝集は2年後でも0.5%を超えなかったscDb 16e2/hUCTH1のサイズ排除クロマトグラフィープロファイル。
図2C】抗CD3としてhUCTH1を使用して構築したタンデムscFvフォーマットのサイズ排除クロマトグラフィープロファイル。この構築物はCD3を認識するが、TRAIL−R2を認識できなかった。
図2D】抗TRAIL−R2ドロジツマブとして、少数のアミノ酸のみ16e2から変化している16e2の誘導体、および抗CD3としてhUCTH1を使用して同様に構築したscDbのサイズ排除クロマトグラフィープロファイル。この場合、構築物は数日間だけ作用し、生産収率は非常に低かった。
図3A-1】実施例3に記載されるscDb 16e2/hUCTH1の機能的および生化学的分析。図3A:CD3 JurkatおよびTRAIL−R2\CD3 MDA−MB−468上で異なる受容体発現レベルを有するTRAIL−R2黒色腫細胞株のパネルで実施したフローサイトメトリー分析。試験により、BsAbの結合特異性を確認した:異なる細胞株上の受容体の発現後のscDb結合プロファイル(上段)。市販の抗TRAIL−R2抗体またはJurkatについてのTR66抗CD3抗体(下段)を対照として使用した。空ピーク:陰性対照;灰色のピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体(上段)または市販の抗体プラス抗マウス抗体(下段)。
図3A-2】実施例3に記載されるscDb 16e2/hUCTH1の機能的および生化学的分析。図3A:CD3 JurkatおよびTRAIL−R2\CD3 MDA−MB−468上で異なる受容体発現レベルを有するTRAIL−R2黒色腫細胞株のパネルで実施したフローサイトメトリー分析。試験により、BsAbの結合特異性を確認した:異なる細胞株上の受容体の発現後のscDb結合プロファイル(上段)。市販の抗TRAIL−R2抗体またはJurkatについてのTR66抗CD3抗体(下段)を対照として使用した。空ピーク:陰性対照;灰色のピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体(上段)または市販の抗体プラス抗マウス抗体(下段)。
図3A-3】実施例3に記載されるscDb 16e2/hUCTH1の機能的および生化学的分析。図3A:CD3 JurkatおよびTRAIL−R2\CD3 MDA−MB−468上で異なる受容体発現レベルを有するTRAIL−R2黒色腫細胞株のパネルで実施したフローサイトメトリー分析。試験により、BsAbの結合特異性を確認した:異なる細胞株上の受容体の発現後のscDb結合プロファイル(上段)。市販の抗TRAIL−R2抗体またはJurkatについてのTR66抗CD3抗体(下段)を対照として使用した。空ピーク:陰性対照;灰色のピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体(上段)または市販の抗体プラス抗マウス抗体(下段)。
図3A-4】実施例3に記載されるscDb 16e2/hUCTH1の機能的および生化学的分析。図3A:CD3 JurkatおよびTRAIL−R2\CD3 MDA−MB−468上で異なる受容体発現レベルを有するTRAIL−R2黒色腫細胞株のパネルで実施したフローサイトメトリー分析。試験により、BsAbの結合特異性を確認した:異なる細胞株上の受容体の発現後のscDb結合プロファイル(上段)。市販の抗TRAIL−R2抗体またはJurkatについてのTR66抗CD3抗体(下段)を対照として使用した。空ピーク:陰性対照;灰色のピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体(上段)または市販の抗体プラス抗マウス抗体(下段)。
図3A-5】実施例3に記載されるscDb 16e2/hUCTH1の機能的および生化学的分析。図3A:CD3 JurkatおよびTRAIL−R2\CD3 MDA−MB−468上で異なる受容体発現レベルを有するTRAIL−R2黒色腫細胞株のパネルで実施したフローサイトメトリー分析。試験により、BsAbの結合特異性を確認した:異なる細胞株上の受容体の発現後のscDb結合プロファイル(上段)。市販の抗TRAIL−R2抗体またはJurkatについてのTR66抗CD3抗体(下段)を対照として使用した。空ピーク:陰性対照;灰色のピーク:scDbプラス抗Tagおよび抗マウス抗体(上段)または市販の抗体プラス抗マウス抗体(下段)。
図3B】Biacore分析(リアルタイムで2つのタンパク質間の動力学的相互作用を追跡することを可能にする表面プラズモン共鳴に基づいた方法)。左のパネル:scDb 16e2/hUCTH1は、CM5チップに固定したTRAIL−R2組換えタンパク質に急速に結合し、それから急速に分離したことを実証した。平衡(KD)での解離定数は148nmole/Lであり、400nmのscDbから開始して25nMまでの5つの異なる濃度を使用して算出した。右のパネル:競合研究を示すBIAcoreからのセンサーグラム。黒色の矢印において1μMのsTRAILを注入してチップに存在する全ての受容体を飽和させた;灰色の矢印において400nMのscDb16e2/hUCTH1を注入した。飽和受容体上のscDbの結合は観察されず、2つの化合物が同じ結合部位に競合していることが明らかになった。
図3C】SDSページおよびウェスタンブロット分析により、scDbの質量は約54kDaであることが明らかになった。
図3D図3Cにおいて得られたデータを確認するSELDI−TOF分析。
図4A図4は細胞障害性である。図4Aは、M64(TRAIL−R2の低発現およびsTRAIL抵抗)およびM15(TRAIL−R2の高発現およびsTRAIL感知)黒色腫細胞株上での二重特異性scDb 16e2/hUCTH1の細胞障害性。異なるE:T比および濃度を使用してscDb細胞障害性を評価した。ScDbを、細胞障害性実験においてF2希釈物と共に10:1から開始して0.15:1までのE:T比で1、0.5および0.1μg/mlにて使用して最適なscDb用量およびE:T比を決定した。実験により、最適なE:T比は5:1であることが示され、本発明者らは、未処理腫瘍細胞上での細胞傷害性の不在および0.5μg/mlの濃度にてscDbの活性は実施例3に記載されるようにプラトーに達することを観察した。
図4B】グラフは、処理結果の再現性を試験するために実施した9つの異なる成長阻害アッセイを示した。PBLの異なるバッチ(健康なドナーに由来する)を各実験において使用した。0.5μg/mlのscDbプラスPBL(5:1のE:T比)によるM64、M41およびM15の処理は全ての実験において同様の結果を与えた。TRAIL−R2陰性MDA−MB−468は、予想されるように処理に反応しなかった。
図4C】抗体依存性PBL媒介性成長阻害を、0.5μg/mlの濃度および5:1のE:T比を使用していくつかの癌細胞株について実施した。細胞を48または96時間の処理に曝露した。処理は、全ての試験した腫瘍TRAIL−R2陽性細胞株での増殖阻害を誘導し;毒性はTRAIL−R2陰性MDA−MB−468細胞および正常TRAIL−R2高発現HEK293細胞で観察されなかった。
図4D】抗体依存性PBL媒介性成長阻害を、0.5μg/mlの濃度のscDbおよび5:1のE:T比を使用していくつかの癌細胞株について実施した。細胞を48または96時間処理に曝露した。処理は全ての試験した腫瘍TRAIL−R2陽性細胞株での増殖阻害を誘導した。
図4E】カルセイン−AM放出アッセイ。腫瘍細胞にカルセイン−AMを負荷し、細胞に一旦入れて、エステル化し、蛍光にした。細胞をscDbで再誘導して、4および16時間処理して、T細胞毒性を測定した。グラフは溶解細胞のパーセンテージを示す。4時間後、約45〜50%のTRAIL−R2高発現M15およびM41を溶解し、さらに、低発現M64について、処理細胞の変動は対照と比較して有意ではなかった。16時間後、100%の処理細胞、M64もまた、処理の結果として溶解した。溶解はTRAIL−R2−MDA−MB−468細胞において観察されなかった。グラフは平均±SDを表す、n=5、**p<0.01、***p<0.001。
図5A図5はアゴニスト活性である。図5Aは多量体化したscDbを表す図である:抗タグMAbはそれらを二量体化するscDbに存在するタグに結合できる。抗マウスMAbを抗タグ/scDbコンジュゲートに加えることにより、二量体化でき、BsAbの四量体化を誘導できる。
図5B】sTRAIL感受性M15細胞に対するscDbのアゴニストプロアポトーシス活性。M15細胞をいくつかの用量のscDbのみまたは図5Aの記載に従って二量体化または四量体化した等しい用量のscDbで処理した。細胞毒性を、CellTiterGloアッセイを使用した処理の24時間後に評価した。等しいscDb濃度でsTRAILを陽性対照のように使用した。結果を陰性対照のパーセンテージとして表した。
図5C】TRAILに対して異なる感受性を有する黒色腫細胞でのscDbのアゴニストプロアポトーシス活性。sTRAIL感受性M15、半抵抗性M41および抵抗性M64を、0.5μg/mlのscDbのみまたは抗タグおよび抗マウスストラテジーで多量体化したscDbで24時間処理した(C)。可溶性TRAIL(100ng/ml)を受容体媒介性アポトーシス誘導の陽性対照のように使用した。
図5D】ビオチン−ストレプトアビジン結合によるscDbの四量体化を表す図である。ScDbを、ビオチンN−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル(Sigma)を使用してインビトロでビオチン化し、ストレプトアビジンとインキュベートした。四量体scDbをサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。
図5E】sTRAIL感受性M15細胞に対するストレプトアビジン四量体化scDbのアゴニストプロアポトーシス活性。M15細胞を、0.5または0.05μg/mlの四量体化scDbで処理した。細胞毒性を、CellTiterGloアッセイを使用した処理の24時間後に評価した。結果を陰性対照のパーセンテージとして表した。
図6A図6はScDb媒介性T細胞活性化分析である。図6A:実施例3に記載されるように、新たに単離したT細胞を、濃度E:T=5:1で、3つの異なる黒色腫細胞株上で0.5μg/mlのscDbと共にまたはそれを含まずにインキュベートした。CD25およびCD69の発現。CD69およびCD25の細胞表面発現、再誘導したT細胞上の活性化関連マーカーを、共培養を開始してから24時間後、フローサイトメトリー分析によって測定した。グラフは、各マーカーについての全T細胞集団と比較した陽性細胞のパーセンテージを表す。腫瘍細胞を含まないT細胞をインキュベートしてT細胞自己活性化を測定した。結果は、健康なドナー由来のT細胞の3つの異なるバッチで実施した3つの異なるアッセイの平均±SDを表す。
図6B】実施例3に記載されるように、新たに単離したT細胞を、濃度E:T=5:1で、M15腫瘍細胞株上で0.01〜0.5μg/mlの滴定濃度のscDbと共にまたはそれを含まずにインキュベートした。CD4およびCD8再誘導T細胞上のCD25、CD137、PD−1およびCD69の発現。CD137、PD−1、CD69およびCD25、再誘導T細胞上の活性化関連マーカーの細胞表面発現を、共培養を開始してから16時間後にフローサイトメトリー分析によって測定した。グラフは、各マーカーについて全CD4またはCD8T細胞集団と比較した陽性細胞のパーセンテージを表す。腫瘍細胞を含まないT細胞をインキュベートしてT細胞自己活性化を測定した。
図7A図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IL−2(図7A)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7B図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IL−4(図7B)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7C図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IL−6(図7C)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7D図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IL−10(図7D)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7E図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:TNFα(図7E)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7F図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IFNγ(図7F)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7G図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:GM−CSF(図7G)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
図7H図7は、実施例3に記載されるように、scDb再誘導T細胞のサイトカイン(ck)放出プロファイルである。T細胞と、scDbとまたはscDbを含まずにインキュベートした腫瘍細胞の培地を4日間毎日採取した:IL−8(図7H)の量を、Bioplexを使用して測定した。二連のウェルの平均値を各グラフに表す。各点はscDbによる処理後に生じたckのレベルを表し、T細胞を腫瘍細胞のみとインキュベートしたとき、T細胞はT細胞サイトカイン基礎産生から差し引いた。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、TRAIL−R2およびT細胞上で発現されるCD3の両方に結合する能力を有するscDbフォーマットにおける新規二重特異性抗体に関する。
【0034】
多くの療法が癌免疫療法の分野において開発されているが、それらは必ずしも有効ではないか、または良好な結果を示さない。
【0035】
実際に、ほとんどの場合、疾患の予備的緩和または安定化の後、腫瘍は再発し、この事実は特に腫瘍細胞における薬物耐性の発生に起因する。近年、化学療法と併用した標的化療法が、化学療法のみよりも転帰を改善することが示されている。特に、免疫療法において有用な手段である、療法の新規クラスである二重特異性抗体が現れた。二重特異性抗体は免疫細胞を腫瘍細胞に再標的化するように作用してそれらを殺傷する。
【0036】
本発明は、TRAIL−R2およびT細胞上に存在するCD3に結合できる二重特異性抗体に関する。
【0037】
異なる構築物である抗TRAIL−R2/抗CD3の中で、1つのみが良好な生化学的特性および生物活性を示した。異なる方法を使用して、本発明者らは、BsAbが、腫瘍細胞とリンパ球との間で免疫細胞溶解(immunocytolitic)シナプスを形成できることを実証した。シナプスの形成後、本発明者らは、CD69、CD137、PD−1およびCD25の上方制御によるT細胞(CD4およびCD8の両方)活性化ならびにオフターゲットの毒性を有さずに炎症性サイトカインの産生を観察できた。シナプスの形成および活性化後、T細胞は、乳癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肝細胞癌および肺癌のような、非常に異なる悪性腫瘍に由来する腫瘍細胞を溶解できた。正常細胞で行った同じ実験はT細胞活性化を示さず、細胞傷害性事象は生じなかった。
【0038】
したがって、本発明は、
a.第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片であって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号1によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有し、第1の特異性(A)はTRAIL−R2抗原に対してである、第1の特異性(A)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片と、
b.第2の特異性(B)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片であって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号3によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有し、第2の特異性(B)はTリンパ球CD3に対してである、第2の特異性(B)を免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片と、
c.特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片であって、前記重鎖(VH)の可変ドメインは配列番号5によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有する、特異性(B)を有する免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインまたはその断片と、
d.特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片であって、前記軽鎖(VL)の可変ドメインは配列番号7によるアミノ酸配列またはその直接的な等価物を有する、特異性(A)を有する免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインまたはその断片と
を含み、
一本鎖多重抗原結合分子のVHおよびVLドメインはVH−VL−VH−VLの順序で連結し、各々のVHおよびVLドメインはペプチドリンカーにより連結し、VHドメインとVLドメインとの間、およびVHドメインとVLドメインとの間の前記ペプチドリンカーは、4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)からなり、VLドメインとVHドメインとの間のペプチドリンカーは、各々4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)の各々からなる3個のリンカー配列からなる、一本鎖二重特異性ダイアボディまたはその断片を記載している。
【0039】
BsAbは、黒色腫、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸腺癌、肝細胞癌および肺扁平上皮癌などの異なる腫瘍細胞に対して活性であり、TRAILの潜在的抗腫瘍能力に耐性を回避する能力を付与する。
【0040】
ScDbフォーマットはダイアボディ(Db)フォーマットに由来する。抗CD3部分を有するDbフォーマットにおけるBsAbは、前立腺特異的膜抗原との結合により前立腺癌細胞株(Buhler P.ら、Cancer Immunol immunother 2008、57:43−52)およびCD19との結合によりB細胞リンパ腫(Cochlovius B.ら、Journal of Immunology、2000、165:888−895)を含む腫瘍を溶解するためにT細胞を効果的に再標的化することができることが実証された。
【0041】
インビトロでの有望な結果にも関わらず、Dbsは、インビボ安定性の低下および機能的ヘテロ二量体と共に不活性ホモ二量体の存在などの、それらの使用の制限という顕著な欠点に出くわした。これらの問題は、同種可変ドメイン間の、より効果的な対合を可能にし、2つの抗体ドメインを融合し、一本鎖ダイアボディを生じる、2つのポリペプチド鎖を連結する約15aaの別のペプチドリンカーを導入することによって克服された。
【0042】
本発明において、
本明細書に使用される場合、「特異性」という用語は、特定の配列またはドメインを認識する能力を指し、さらに、その配列またはドメインに結合する能力を指し、
一本鎖二重特異性抗体(scBsAb)という用語は、2つのアーム:TRAIL−R2に結合し、可溶性TRAILのアポトーシス促進可能性を模倣する抗TRAIL−R2アーム、および腫瘍細胞に対してT細胞を再標的化し、腫瘍細胞を殺傷する抗CD3アームを有する多重抗原結合分子を指す。本発明によるBsAbはscDbであり、
本明細書に使用される場合、「その断片」という用語は、対応する抗体に対して、より小さいサイズを有する一本鎖抗体断片を指す。本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片はscDBフォーマットであり、それは、有益には、他の二重特異性抗体フォーマットと比較して、より小型の形態を有し、免疫細胞溶解シナプスの形成を可能にする。BiTE様フォーマットにおいて組織化/構築された同じ抗体可変ドメインは機能的ではない。
【0043】
実施例3に記載され、図2に示される結果は、BITE様フォーマットであるタンデムscFv BsAb 16e2/TR66が、2日後のみにその結合する能力を喪失することを示す。いかなる理論にも束縛されないが、これは、サイズ排除クロマトグラフィープロファイルによって実証されるように凝集する傾向を有する構造の不安定性に起因し得る。
【0044】
対照的に、ダイアボディフォーマットである、本発明によるscDb 16e2/hUCTH1は、驚くべきことに安定であり、凝集体は2年後でも0.5%を超えなかった(図2B)。BsAbをタンデムscFvフォーマットに変換することを除いて同じ可変領域(16e2およびhUCTH1)を使用すると、構築物がTRAIL−R2だけでなく、CD3も決して認識しないことが示され得る(図2C)。本発明者らはまた、抗TRAIL−R2として、少数のアミノ酸のみ16e2とは異なる16e2の誘導体であるドロジツマブおよび抗CD3としてhUCTH1を使用してscDbを構築した。この場合も同様に、構築物は数日間だけ作用する。
【0045】
さらなる態様では、本発明は一本鎖二重特異性抗体またはその断片を提供し、前記直接的な等価物は前記可変ドメインと少なくとも95%の全体の配列相同性/同一性を有する。
【0046】
本発明によるVHおよびVL可変ドメインの直接的な等価物は、少なくとも96%、97%、98%または99%の全体の配列類似性または相同性を有する。好ましい発明において、一本鎖二重特異性抗体またはその断片は配列番号13によるアミノ酸配列を有し、「scDb16e2/hUCHT1」またはその直接的な等価物とも称される。本発明によるBsAbもまた、例えば図1Cに表され、それは、VおよびVドメインが連結している配列の一例を報告している。
【0047】
一態様において、本発明によるBsAbの例は以下の配列である:
VHドメイン、続いて4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)からなるリンカー配列、VLドメイン、続いて配列番号15に対応する、各々4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基の各々((GGGGS))からなる3個のリンカー配列、続いてVHドメイン、続いて4個のグリシンアミノ酸残基および1個のセリンアミノ酸残基(GGGGS)からなるリンカー配列およびVLドメイン。
【0048】
さらなる態様では、本発明によるBsAbの例は、以下の配列でリンカーおよびドメインを有する:配列番号22、配列番号2、配列番号10、配列番号4、配列番号11、配列番号6、配列番号12、配列番号8、末端リンカーGCGGCCGC。
【0049】
リンカー配列はクローニング目的のための制限酵素部位を含んでもよいが、当業者は、このような制限酵素部位が研究者の必要性に応じて修飾されてもよいこと、およびリンカー配列は特定の制限部位に制限されないことを容易に理解できる。
【0050】
好ましい実施形態では、本開示は、配列番号13のアミノ酸配列、および配列番号21のヌクレオチド配列を有するBsAbを提供する。
【0051】
本発明の第2の態様では、本発明はさらに、本発明による一本鎖二重特異性抗体分子またはその断片と、標識化剤とを含む組成物を提供する。
【0052】
好ましい態様では、本発明による組成物は、放射性ヌクレオチド、蛍光ナノ粒子からなる群から選択される標識化剤、または本発明によるBsAbを多量体化できる任意の方法(ビオチンタグまたはロイシンジッパーなど)を含む。
【0053】
本発明のさらなる態様は、本発明による一本鎖二重特異性抗体分子またはその断片と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物である。
【0054】
本発明による医薬組成物は、局所、筋肉内、静脈内注射、皮下、または他の投与経路用である。
【0055】
提供される医薬組成物は、その効果を増強または低減できる少なくとも1種のさらなる化合物と組み合わせて使用されてもよい。本発明による医薬組成物の効果を増強または低減できる化合物の例としては、アントラサイクリン(ドキソルビシンなど)の群に含まれるTRAIL増感剤、HDAC阻害剤(例えばスベロイルアニリドヒドロキサム酸)、CDK阻害剤(例えばフラボピリドール)、ER阻害剤(例えばタモキシフェン)、Bcl−2阻害剤(例えばABT−737)、Smac模倣剤(例えばLBW242)、カルボプラチンまたはシスプラチン、イリノテカン、ボルテゾミブが挙げられる。
【0056】
別の態様によれば、記載される本発明は、腫瘍細胞に対してTリンパ球の細胞傷害作用を再誘導する方法であって、前記腫瘍細胞を、本明細書に開示される一本鎖二重特異性抗体と接触させる工程を含む、方法を提供する。別の態様によれば、記載される本発明は、腫瘍の治療に使用するための、本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片を提供する。
【0057】
好ましい態様では、本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片は腫瘍の治療に使用するためであり、前記腫瘍は、黒色腫、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸腺癌、肝細胞癌および肺扁平上皮癌からなる群から選択される。
【0058】
有益には、本発明によるScDbは、異なる器官ならびに異なるステージおよびグレードに由来する全てのTRAIL−R2陽性腫瘍の治療に使用され得る。
【0059】
好ましい態様では、本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片は、少なくとも1種の抗腫瘍剤による以前の治療に対して耐性があるか、もしくは不耐容であるか、または抗腫瘍剤による治療が回避されなければならない患者の治療に使用するためでもある。このことは、他の治療に対して耐性があるか、または耐性になる、これらの患者を治療するさらなる機会を与える。さらに、本発明による一本鎖二重特異性抗体またはその断片は、予防的または治療的処置のためである。
【0060】
本発明の目的に関して、各々の一本鎖二重特異性抗体ドメインまたはリンカーは以下のように対応する配列番号を有する:
配列番号1は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのアミノ酸配列:VH 16E2(クラスIGHV 3−2001)に対応し;
配列番号2は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VHに対応し;
配列番号3は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのアミノ酸配列;VL(hUCTH1)に対応し;
配列番号4は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VLに対応し;
配列番号5は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのアミノ酸配列:VH(hUCTH1)に対応し;
配列番号6は、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VHに対応し;
配列番号7は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのアミノ酸配列:16E2のVL(クラスIGLV3−1901)に対応し;
配列番号8は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)の可変ドメインのヌクレオチド配列:VLに対応し;
配列番号9(VHAドメインの前に来る配列、Sfi I制限部位)
配列番号10(VHドメインとVLドメインとの間のリンカー、Age I制限部位)
配列番号11(VLドメインとVHドメインとの間のリンカー、(GGGGS)リンカー)
配列番号12(VHドメインとVLドメインとの間のリンカー、Xba I制限部位)
末端リンカーの配列:GCGGCCGC(末端リンカー、VLドメイン後、Not I制限部位)
配列番号13は、一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1のアミノ酸配列に対応し、
配列番号14は、ベクター内にscDbをクローニングするために使用される上流配列を有する一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1のヌクレオチド配列に対応し、
配列番号15は、VLBドメインとVHBドメインとの間の代替リンカーのアミノ酸配列に対応し、
配列番号16は、HisおよびMycタグを有する一本鎖二重特異性抗体のアミノ酸配列に対応し、
配列番号17は、ファージディスプレイで単離されたクローン7抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号18は、ファージディスプレイで単離されたクローン8抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号19は、ファージディスプレイで単離されたクローン44抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号20は、ファージディスプレイで単離されたクローン56抗TRAIL−R2 ScFvのアミノ酸配列に対応し、
配列番号21は、一本鎖二重特異性抗体scDb 16e2/hUCTH1(BsAb)のヌクレオチド配列に対応し、
配列番号22は、(GGGGS)リンカーのヌクレオチド配列に対応する。
【0061】
本明細書上記に説明されている本発明の種々の実施形態および態様ならびに添付の特許請求の範囲における請求項は以下の実施例の実験により支持されることが見出される。
【実施例】
【0062】
ここで上記の説明と共に以下の実施例を参照して本発明のいくつかの実施形態を例示する。
【0063】
細胞株
M41、M15およびM64ヒト黒色腫細胞を使用した。M15、M64およびM41は、異なるTRAIL−R2発現およびsTRAIL処理に対する感受性を有する細胞である:特に、M15はsTRAIL感受性および高発現であり;M41は部分的にsTRAIL感受性および高発現であり、一方でM64は低発現で耐性がある。
【0064】
HeLa(頸部上皮腺癌)、A431(扁平上皮癌)、SKOV3、A2774、A2780およびNL3507 INT−Ov−11(上皮性卵巣癌)、MDA−MB−231およびMT−3(トリプルネガティブ乳癌)、LnCAP、DU145およびPC3(前立腺癌)、CaCo2(結腸直腸腺癌)、HepG2(肝細胞癌)、SkMes(肺扁平上皮癌)、HEK−293(正常胚腎臓)、Jurkat(ヒトTリンパ球の不死化株)およびMDA−MB−468(トリプルネガティブ乳癌、TRAIL−R2ネガティブ細胞株)、SU−DHL−4(リンパ腫)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Manassas、MD)から購入した。INT−Ov−11(上皮性卵巣癌)は本発明者らのグループによって開発された。
【0065】
mAbを産生するハイブリドーマ、抗mycタグmAb 9E10(CRL−1729)はATCCから購入した。
【0066】
細菌株
大腸菌株。TG1{supEthi−1((lac−proAB)hsd(5[F’ traD36+proAB+lacIq lacZ(M15)]}を抗体ファージディスプレイパニングのために使用し、HB2151{nalr thi−1 ara lac−proAB[F’ proAB+laciq lacZ(M15)]}を二重特異性抗体の可溶性産生のために使用した。
【0067】
実施例1
TRAIL−R2に対する一本鎖抗体断片(一本鎖可変断片scFv)の単離
3サイクルの濃縮を実施して、以下に記載されるようにTRAIL−R2に対するscFvを単離した。溶出ファージの力価は各サイクル後に徐々に増加し、産生したファージの結合をファージELISAにおいて試験し、濃縮後のファージに由来する、濃縮した768個の無作為に採取したコロニーと共に比例的に増加させ、天然のTRAIL−R2に特異的な単一のクローンファージELISAおよび4個のクローンにおいて試験し、単離し、シークエンスし、特性付けした。4個のscFvを可溶性形態で産生し、その結果、TRAIL−R2細胞に特異的に結合できた。
【0068】
材料および方法:
抗体ファージディスプレイ
TRAIL−R2に対するScFvを、ファージディスプレイ抗体技術を使用して単離した。予め作製したヒトScFvファージディスプレイライブラリー(所有)を使用し、3ラウンドの選択を実施した。天然のTRAIL−R2での選択のために、6×10個のリンパ腫SU−DHL−4受容体陽性細胞を溶解した。溶解物に含有するTRAIL−R2タンパク質を、DYNABEADS(登録商標)M−280ヒツジ抗マウスIgG(Life Technologies)と以前にコンジュゲートしたマウス抗ヒトTRAIL−R2抗体(R&D Systems)を用いて捕捉した。磁性ビーズを用いて捕らえたTRAIL−R2を、1時間撹拌しながらMPBS(ミルク4%+PBS)中でインキュベートし、その後、ファージライブラリーを加え、室温にて2時間撹拌しながらインキュベートし、第1、第2および第3サイクルの濃縮においてそれぞれ20、15および10回、PBST(PBSおよびTween 0.1%)で洗浄した。洗浄工程後、受容体に特異的な抗体断片を示したファージをビーズに付着させたままにし、2×TY培地中で0.4〜0.5のO.D.にて増殖させた2mlのTG1大腸菌を感染させるために使用した。感染した細菌を、四角のプレートディッシュ(100×15mm)において2xTYE+100μg/mLのアンピシリンに播種し、30℃にてO/N(一晩)増殖させた。コロニーを計数し、PCRによってスクリーニングし、プレートを擦った。連続ラウンドのためのファージを産生するために、50μlの擦った細菌を、1%のグルコースおよびアンピシリン(100mg/ml)を含む50mlの2xTY培地中に接種した。O.D.が0.4〜0.5に到達したら、細菌を、37℃にて30分間、恒温槽中で、5×10pfuのM13KO7ヘルパーファージ(New England Biolabs)に感染させた。次いで細菌を遠心分離し、グルコースを含まない同じ培地中で再懸濁し、30℃にてO/N増殖させた。ファージをPEGで沈殿させ、PBS中に再懸濁し、連続ラウンドの選択のためにそれらを使用する前に滴定した。第3ラウンドの後、ファージをFACS中で試験してTRAIL−R2結合能力を評価した。濃縮後に得られた単一コロニーを用いて、単一ファージELISAを実施した。
【0069】
単一クローンファージELISA
第3ラウンドの選択後、ファージ感染させた細菌を2xTYE+アンピシリンプレートに播種した。単一クローンファージの産生を、ディープ96ウェルプレートの各ウェルにおいて上記のように実施した。各ウェルの上清の結合能力を試験するために、単一ファージElisaを実施した。抗TRAIL−R2(R&D Systems)を用いて96ウェルELISAプレートを4℃にてO/Nコーティングした。PBS−Tween 0.1%およびPBSによる3回の洗浄後、0.5μgのSU−DHL−4溶解物を室温にて1時間インキュベートした。特異的クローンの存在が抗M13 HRP抗体と共に明らかになった。
【0070】
抗体断片可溶性発現
可溶性二重特異性抗体または抗体断片を大腸菌において産生した。コンピテントHB2151大腸菌を新たに形質転換し、2xTYEに播種し、37℃にてO/N増殖させた。1つの単一コロニーを接種し、2xTY(0.1%のグルコースおよび100μg/mlのアンピシリン)培地中で37℃にて一晩増殖させた。翌日、培養物を0.1のODから開始する新たな培地に接種し、培養物が0.8〜0.9のODに到達するまで細菌を増殖させた。培養物を遠心分離し、使い果たした培地を、可溶性タンパク質の誘導に特有の新たな培地(2xTY+0.1%のグルコース+100μg/mLのアンピシリン+1mMのIPTG)に交換した。効果的な可溶性タンパク質発現を可能にするために、細菌を各タンパク質について最適な温度(25〜30℃)にてO/Nインキュベートした。翌日、細菌を遠心分離によって採取し、撹拌しながら4℃にて1時間、1mMのEDTAおよび20%のスクロースを含有する200mMのTris緩衝液(pH7.5)を使用する浸透圧衝撃処理プロトコルを実施して、二重特異性抗体または抗体断片を含有するペリプラズムタンパク質を抽出した。
【0071】
ペリプラズム調製物を、ニッケルまたはLプロテインクロマトグラフィーカラムと共にIMACプロトコルを使用して精製した。
【0072】
実施例2
二重特異性抗体の構築
本発明者らは、実施例1に記載される4個の単離した抗TRAIL−R2 scFvの可変ドメインを使用し、それらを、以下に記載される2つのマウス抗CD3ハイブリドーマ(TR66およびOKT3)のうちの1つの可変ドメインと結合して、タンデムScFvフォーマット(配列番号17、18、19および20)において二重特異性抗体を構築した。二重特異性抗体の構造は2つのScFvである、第1の抗TRAIL−R2および第2の抗CD3によって構成され、それらは、構造に剛性を与え、異なる特異性の可変ドメインのミスマッチ対を可能にしない短いGGGGSリンカーによって結合された(図1A)。タンデムScFvフォーマットとしてTR66 scFvと対合する、これらのクローンのうちの1つであるクローン8(配列番号18)は最適な結合能力を示した。TRAIL−R2の異なる発現のNHL、HeLaおよび黒色腫細胞株でのFACSによってBsAbは、その一価結合にも関わらず、完全なIgG二価陽性対照と類似した良好な反応性を実証する。不幸にも、BsAbは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実証されるように、恐らく凝集体の存在に起因する時間の間、不十分な安定性を実証した。より安定なクローンを見つけるために、本発明者らは、クローン8をランダム変異導入し、変異したscFvのプールを、TR66 scFvを含有するベクター内にクローニングした。単一クローンELISAを実施して、陽性細胞に対して良好に結合するクローンを単離した。90個のクローンのうち、2つのC2およびC3は良好な結合および特異性を与える。それらの配列は、それらが、フレームワークにおいてそれぞれ2および1点突然変異を有することを実証する。より正確には、C2において、VHのフレームワーク1において1アミノ酸変化およびフレームワーク2において1アミノ酸変化が存在し、C3において、VLのフレームワーク1において1アミノ酸変化が存在する。安定性はいずれの場合も本発明者らの目的のためにまだ十分ではなかった。
【0073】
並行して、本発明者らは、BiTE様BsAbフォーマットにおいてライブラリーの直接的な選択を開始することを決定した:異なる種類のリンカーはscFv断片の結合および特性に影響を及ぼし得、scFvは、BsAbとして構築された場合、異なる性質を有し得る。断片のプールを天然scFvライブラリーの第2のパニング後に得、それらから本発明者らは上記のクローンを選択し、TR66のscFvを含有するベクター内にクローニングした。また、十分に特性付けられた抗TRAIL−R2クローン16e2を含有する構築物を、陽性対照として使用するために生成し、産生した。得られたライブラリーを一時的に加熱して、アンフォールディングを誘導し、凝集を促進した。冷却後、ファージディスプレイ抗体断片は可逆的にアンフォールドし、それによりそうしないものに対して濃縮した。2ラウンドの選択後、90個のクローンのうち6個が、黒色腫細胞でELISAにおいて陽性であり、TRAIL−R2を発現しない細胞(MDA−MB−468)株で陰性であると見出した。これらの6個のクローンをFACSによってさらに分析し、それらのうちの3個が両方のアームに良好に結合することが実証された。また、16e2 scFvを含有するクローンはTRAIL−R2およびCD3に特異的に結合できるが、他の6個のクローンと同様に、それは特異性を少なくとも1週間維持し、その後、結合はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実証されるように恐らく凝集体の存在に起因して喪失した(図2A)。
【0074】
【表1】
【0075】
材料および方法:
Bite様フォーマット構築物における二重特異性抗体
本発明者らの目的のために、TRAIL−R2に対する単離した一本鎖Fv断片を、フレキシブルなGGGGSリンカーによって抗CD3 scFvに結合した。使用した抗CD3 scFvは2つのマウスハイブリドーマTR66およびOKT3に由来した。抗体遺伝子を、二重特異性カセット遺伝子の後にエキサヒスチジン(exahistidine)およびMycタグの両方を含むpIT2ベクター内にクローニングした。二重特異性抗体をHB2151大腸菌において発現させ、実施例1に記載されるように精製した。
【0076】
第2のパニング抗TRAIL−R2に由来する増幅VhおよびVl
天然TRAIL−R2での2回のパニングサイクル後に誘導されたファージからのプラスミドを、Wizard(登録商標)Plus SV Minipreps DNA Purification(Promega)を使用して単離した。VhおよびJk生殖細胞系列の全てに特異的なプライマーのプールを使用して、scFvをPCRによって増幅させ、プライマーによってTR66 scFvを含むpIT2ベクター内にクローニングし、SfiI/NotI部位をコードして、二重特異性抗体ライブラリーを生成した。このライブラリーを、抗TRAIL−R2の市販の抗体を使用して磁性ビーズに固定した天然TRAIL−R2に対してスクリーニングした。
【0077】
組換え抗体:FACSの結合特異性
全ての実験において、2×10個の細胞を、4℃にて30分間、1%の飽和FCSを含有するPBS中で一次抗体とインキュベートした。抗ヒスチジンタグ抗体および標識した抗マウスIgG(H+L特異的)Alexa488を使用してBsAbを検出した。ハイブリドーマに由来するマウス抗ヒトTRAIL−R2(R&D Systems)およびマウスTR66 mAbを陽性対照のように使用した。FACS Calibur機器(Becton Dickinson、Heidelberg、ドイツ)を使用して蛍光標識を測定した。Flowjoソフトウェア(Tree Star Inc)を使用してデータ分析を実施した。
【0078】
実施例3
新規フォーマット
BiTE様フォーマットの安定性の欠如により、本発明者らは異なるフォーマットの二重特異性抗体を構築することを動機付けされた。免疫細胞溶解シナプスに必要なT細胞および腫瘍細胞の隣接を可能にする小型のフォーマットは一本鎖二重特異性ダイアボディ(scDb)である。二重特異性ダイアボディフォーマット(図1B)は、VHドメインのC末端が、VHおよびVLの鎖内対合を制限するために短い剛性リンカーを使用して別の特異性のVLドメインのN末端に結合している2つのscFvによって構成される。scDbフォーマットにおいて、2つの鎖間の別のリンカー(GGGGS)は構造を安定化させる。本発明者らは、単離した抗TRAIL−R2 scFv、16e2またはドロジツマブ(Genentech)の全ての可変ドメインの配列および抗CD3特異性に対するヒト化抗体UCTH1(hUCTH1)を有するscDbを構築した。hUCTH1のscFvを多くのBsAb構築物において使用し、16e2と結合させてscDbを形成して使用した場合、安定であることを実証した。
【0079】
構築物を、IPTGによる誘導後、細菌HB2151ペリプラズムにおいてscDbの分泌を可能にするpIT2プラスミド内にクローニングした。産生したBsAbは、C末端において、c−mycおよびエキサヒスチジンタグをそれぞれコードする2つの配列を有する。Hisタグを挿入し、IMACプロトコルを使用してBsAb精製を可能にした。二重特異性タンデムscFvまたはscDbフォーマットの全て異なって産生した構築物の中で、本発明者らは、低い産生量、結合の欠如および/または凝集の存在は、16e2およびhUCTH1と共に構築されたscDbを除いて安定な試薬を有する可能性をなくすことに気付いた。
【0080】
全ての構築物は16e2×hUCTH1 scDbと比較して非常に低い産生量であった。標準産生物の産生量は約50〜100μg/Lであり、scDbについては約1〜2mg/Lである。産生量の差が偶然によらないようにするために、約20の異なる産生の試みを実施し、結果は同等であった。
【0081】
また、16e2×hUCTH1 TaScFvは、TRAIL−R2に特異的に結合できなかったこと(図2C)、およびドロジツマブ×hUCTH1 scDbのような他の構築物(図2D)または16e2×TR66 TaScFv(図2A)が、産生直後の特異性で両方に結合できたが、1〜3日の保存後、TRAIL−R2またはCD3結合能力をそれぞれ損失したことも観察することができ、この結合の損失の原因を調べ、サイズ排除クロマトグラフィー(SUPEROSE 12 10/300)(分離範囲:300Kd〜10Kd;GE Healthcare)アッセイを実施し、精製の16時間後に発生した16E2×TR66 TaScFvの凝集を観察した。16E2×hUCTH1 scDbフォーマットは凝集傾向のない他の構築物と比較して優れており、2年の保存後でも両方の特異性、TRAIL−R2およびCD3に対する結合親和性を維持した(図2B)。
【0082】
一本鎖ダイアボディ特性付け
精製したscDbを4〜12%のSDSゲルでの電気泳動によって試験し、エキサヒスチジニル(exahystidinil)エピトープに特異的なMAb抗Hisを使用して、Comassieブルーで染色したか、またはニトロセルロース膜でのブロッティング後に染色した。検出したバンドは正確な分子量であり、他のバンドは観察されなかった(図3C)。SUPEROSE 12 10/300カラムでのサイズ排除クロマトグラフィー分析により、精製後のscDbの純度は97%超であることが示された。FACScalibur試験により、TRAIL−R2+黒色腫細胞およびCD3+Jurkat細胞に対するscDbの特異的結合が実証された。両方の特異性についてMDA−MB−468の完全に陰性細胞に対する結合は観察されなかった(図3A)。
【0083】
BIAcore分析
BsAbのTRAIL−R2の結合親和性を、BIAcoreを使用して表面プラズモン共鳴によって測定した。チップに固定した組換えヒトTRAIL−R2を使用して分析を実施した。実験データに基づいて、結合および解離曲線を算出し、動力学的評価により、1.48×10nMの算出された親和定数(KD)が得られた(図3B、左のパネル)。
【0084】
scDb抗TRAIL−アームのsTRAILとの結合競合を評価するために、組換え受容体をチップに固定し、1μMの可溶性TRAILで飽和させた。分析により、同じ結合部位に対して強力な競合が示された。なぜなら、sTRAIL飽和TRAIL−R2に対するBsAb結合は観察されないからである(図3B、右のパネル)。この理由のために、本発明者らは、scDbがアゴニスト様式でsTRAILのように作用できるかどうかを調べた。
【0085】
ScDbアゴニスト活性
TRAILR2アゴニスト活性をより深く特性付けるために、本発明者らは、単量体形態または異なる方法で多量体化したscDbを使用した。本発明者らが使用した第1の方法は、9E10モノクローナル抗体によって与えられたMycタグの認識の可能性を利用した:この抗体はmycタグを認識でき、scDbの二量体化を可能にし、Fc特異的抗マウス抗体とインキュベートする場合、それは9E10のFcに結合でき、scDbの人工四量体形態を有することができる。第2の方法は、ストレプトアビジンのビオチン四量体化特性を利用する:scDbをビオチン化し、ストレプトアビジンとインキュベートした。四量体化したscDbを、SECを用いて単離し、細胞を処理するために使用した。M15、M64およびM41は、異なるTRAIL−R2発現およびsTRAIL処理に対する感受性を有する細胞である:特にM15はsTRAIL感受性および高発現である;M41は部分的にsTRAIL感受性および高発現であり、M64は低発現で耐性がある。scDbを多量体化するために使用した全ての方法はアゴニスト効果を示唆しており、特にビオチン−ストレプトアビジン戦略で多量体化したscDbは最適なアゴニスト活性を実証する。
【0086】
scDbによる細胞傷害性の誘導
腫瘍細胞に対して増殖阻害または細胞傷害性を誘導する二重特異性抗体の能力を、
健康なドナーから単離した、活性化または非活性化PBLを腫瘍細胞に対して再誘導することによって調べた。TRAIL−R2を発現するM15、M41およびM64黒色腫細胞株、A2774、A2780、SKOV3、NL3507およびA431卵巣癌細胞株、A431扁平上皮癌細胞株、MDA−MB−231およびMT−3トリプルネガティブ乳癌細胞株、LnCap、DU145およびPC3前立腺癌細胞株、CaCO2結腸直腸腺癌細胞株、HepG2肝細胞癌細胞株およびSkMes肺扁平上皮癌細胞株を標的細胞として使用した。MDA−MB−468、TRAIL−R2陰性細胞株を使用して、オフターゲットの細胞傷害性の不在を試験した;正常な腎臓不死化細胞株であるHEK−293を使用して、正常細胞に対する毒性を排除した。増殖阻害についてCellTiterGloまたは直接的なT細胞の細胞傷害性についてカルセインAM放出アッセイを使用してscDbの効果を測定した。異なる濃度のBsAb(0.01μg/mlに到達するまで1:2希釈で1μg/mlから開始する)、異なるエフェクター対標的比(20:1〜1.25:1)および活性化または非活性化PBLを使用して最初の実験を実施した。
【0087】
0.5μg/mlの濃度および5:1のE:T比を使用して最適な結果を得た。scDbは、使用した全ての腫瘍細胞株に対して良好な効果を示す。M64およびM15に関するデータを図4Aに報告する。
【0088】
10人の異なる健常ドナーの末梢血から抽出したPBLを使用した結果の再現性を試験するためにこれらの条件を使用して他の実験を実施した。異なるドナーに由来するPBMCの異なる細胞傷害性力に起因する歪みを回避するために、腫瘍細胞の処理前に、PBMC基礎活性化状態をFACSによって評価した。CD69およびCD25マーカーが非常に多い場合、PBMCはちょうど活性化しているとみなし、処理に使用しなかった。黒色腫細胞株で、scDbおよびPBMCによる処理は同じ結果を繰り返した。MDA−MB−468においてオフターゲット細胞傷害性は観察されなかった。さらに、各群において算出した非常に低い標準偏差により、処理が再現可能であり、異なるPBLプールによる影響を受けないことが示された(図4B)。
【0089】
二重特異性抗体の反応性をさらに特性付けるために、異なる癌細胞株上のTRAIL−R2受容体の存在を評価した。TRAIL−R2の表面発現を、抗TRAIL−R2 mAbを使用してFACSによって分析した。この分析から、本発明者らは、INT−Ov−11、A2774、A2780、SKOV3、NL3507卵巣癌細胞株、MDA−MB−231およびMT−3トリプルネガティブ乳癌細胞株、LnCaP、DU145およびPC3前立腺癌細胞株、CaCO2結腸直腸腺癌細胞株、HepG2肝細胞癌細胞株、SkMes肺扁平上皮癌細胞株、A431扁平上皮癌細胞株はTRAIL−R2を発現することを見出し、標的細胞として使用した。HEK−293、正常な腎臓不死化細胞株は非常に高いレベルのTRAIL−R2を示し、正常細胞に対する毒性を排除するために使用した。
【0090】
0.5μg/mlのscDbによるPBL(5:1のE:T比)の再標的化後、本発明者らは、BsAbが使用した全ての細胞株について標的細胞増殖阻害を誘導できることを観察した。処理したHEK−293に対して細胞傷害性は観察されなかった(図4C〜4D)。
【0091】
カルセインAM放出
直接的なT細胞の細胞傷害性を調べるために、51Cr放出と同等の方法である、カルセインAM(カルセイン−アセトキシメチルジアセチルエステル)放出を使用した(Lichtenfelsら、1994およびRodenら、1999)。腫瘍標的細胞数および密度に対するカルセイン−AM濃度を、1〜10μMの濃度範囲で細胞をインキュベートすることによって決定し、最大と自然放出との間の最適な分離を評価した(データは示さず)。scDbによる処理は良好な結果を示し、黒色腫細胞M15、M64およびM41を溶解するためにT細胞を再標的化することができた。T細胞を再標的化することにより、腫瘍細胞に損傷を与えることができ、カルセインは培地中に放出した。4時間後、細胞傷害性はTRAIL−R2高発現M15およびM41について約50%であり、低発現M64について約30%であった。16時間後、細胞傷害性は全ての処理した細胞株について100%に達した。直接的な細胞傷害性はMDA−MB−468、TRAIL−R2陰性細胞株において観察されなかった(図4E)。
【0092】
T細胞活性化
細胞傷害性の機構を調査するために、TRAIL−R2陽性および陰性腫瘍ならびに正常細胞との同時インキュベーション後、活性化のPBMC状態を分析した。T細胞上で発現したCD69およびCD25活性化マーカーはTRAIL−R2+細胞とのインキュベーション後にPBMCに存在し、scDbの存在下でのみ増加した。対照的に、2つのマーカーの上方制御はscDbの非存在下またはTRAIL−R2−MDA−MB−468もしくはTRAIL−R2高発現HEK−293正常細胞との同時培養後に存在しなかった(図6A)。M15細胞株を処理して実施した実験により、T細胞活性化マーカーCD25、CD137、CD69およびPD−1の用量依存的発現が、CD4およびCD8T細胞亜集団の両方において誘導されたことが明らかになった(図6B)。腫瘍細胞に対するscDb媒介性再標的化後、T細胞活性化が、培地中に放出されたサイトカインの濃度の増加によってさらに実証された。特に、図7は、これらのサイトカイン産生の増加が、24時間における産生のピークでscDbの存在下でのみ特異的に誘導したことを示す。24時間の上清に対するサイトカイン産生は48時間後に減少し、72時間後に同様に戻った。4回全てにおいて、scDb処理培地において測定したサイトカインは、PBMCのみで処理した細胞の培地中で産生されたサイトカインより多い。陰性TRAIL−R2または正常細胞を使用するとサイトカイン産生は観察されなかった。
【0093】
材料および方法
BIAcore
BsAb抗TRAIL−R2アームの結合を、研究グレードのCM5センサーチップ(
Biacore AB、Uppsala、スウェーデン)を備えたBIAcore2000を使用して表面プラズモン共鳴によって評価した。組換えヒトTRAIL−R2(R&D Systems)およびBSA(Thermo Scientific)非相関タンパク質を、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびエタノールアミン塩酸塩(pH8.5)との標準的なアミンカップリングプロトコルを使用してCM5センサーチップの2つの異なるレーンに固定した。BsAbを30μL/分の流速で3分間注入した。動態分析を400〜25nMの範囲の濃度のscDbで実施した。初期ベースラインの回復を各注入後に検証した。得られたデータを、1:1のLangmuir−結合モデルを仮定するBIAevaluationソフトウェア3.2(グローバルフィッティング)によって分析した。
【0094】
生化学的特性付けおよび完全性
サイズおよび均一性を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロッティングおよび質量分析(SELDI−TOF)によって分析した。
【0095】
潜在的二量体化を、SUPEROSE 12 10/300(分離範囲:300Kd〜10Kd;GE Healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。
【0096】
PBLの単離
PBMCを、Ficoll密度勾配遠心分離標準プロトコル(Ficoll plus hystopaque、GE Healthcare)によって健康なドナーの軟膜から単離した。単離したPBMCをRPMI 1640完全培地中に再懸濁し、細胞数を1×10/mlに調整した。フラスコを、5%COの加湿インキュベーターにおいて37℃にて30分間、横にして置き、単球を付着させた。上清に存在するPBLを除去し、別のフラスコに入れた。PBLを、5%FBSを含むRPMI1640で培養し、IL−2およびPHAを使用して4日間活性化した。
【0097】
腫瘍/正常細胞増殖阻害および細胞傷害性アッセイ
再誘導したT細胞増殖阻害を、PBLおよび一組の異なるTRAIL−R2細胞株を使用してMTTアッセイによって評価した。1.2×10個の細胞を、適切な培地を含む96ウェル平底プレートの各ウェルに播種し、ONインキュベートし、それらを付着させた。0.5μg/mlのscDbを加え、細胞を1時間インキュベートし、その後、PBLを加えた(E:T比:5:1)。陰性対照:未処理の細胞として、scDbのみとインキュベートした細胞またはPBLのみとインキュベートした細胞を使用した。48または96時間後、上清を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄してPBLを除去した。各ウェルに、0.5mg/mlのMTT塩を含有する100μlの新たな培地を加えた。3時間後、上清を捨て、150μlのMTT溶媒(イソプロパノール+4mM HCl+0.1% NP40)を使用して、形成したホルマザン塩を再懸濁した。Biorad−550マイクロプレートリーダーを使用して590nm(620nmの参照フィルター)における吸光度を読み取った。
【0098】
再誘導したT細胞の細胞傷害性を、カルセインAM(Biovision Inc)放出アッセイによって分析した。10個の標的細胞を、15μMのカルセイン−AMを含有する1mlの完全培地中に再懸濁し、37℃にて30分インキュベートし、新たな培地で3回洗浄した。10個の細胞を、増殖阻害アッセイのために使用した同じ処理後(各々について3連)に96ウェル丸底プレートに播種した。6個の複製ウェルを自然放出の測定のために使用し、最大放出について6であった(2%のTriton X−100を含有する培地中の標的細胞)。4時間後、プレートを1500rpmにて10分間遠心分離し、放出された蛍光カルセインを含有する上清を黒壁の96ウェルプレートに移した。485/535nmの励起/発光波長でUltraマルチプレートリーダー(Tecan Group、Mannedorf/Zurich、スイス)によって蛍光強度を測定した。
【0099】
T細胞活性化
活性化マーカー評価
TRAIl−R2+黒色腫(M15、M41およびM64)ならびにHek−293正常細胞およびTRAIl−R2−MDA−MB−468細胞を標的細胞として使用し、ウェル当たり3.5×10個の細胞密度で48ウェルプレート(Corning)内のRPMI1640培地中で増殖させた。12時間後、0.5μg/mlのscDbを加え、1時間インキュベートして、腫瘍細胞に存在するTRAIL−R2に結合させた。新たに単離したヒトPBMCをエフェクター細胞として使用し、5:1のエフェクター対標的比でscDb処理/未処理標的細胞に加えた。37℃、5%COにて16時間のインキュベーション後、上清に含まれたT細胞を回収し、PBSで洗浄し、抗ヒトCD137(Miltenyi Biotec)、抗ヒトPD−1 BV421(Biolegend)、抗ヒトCD69(BD Biosciences)および抗ヒトCD25(Caltag Laboratories)で染色し、氷上で30分間、異なる蛍光色素で標識した。PBS+FCS 1%で3回洗浄した後、細胞をFACSCaliburでフローサイトメトリーによって分析した。
【0100】
サイトカイン放出の決定(Bioplex)
分泌したIFN−γ、IL−4、TNF、およびIL−2の量を決定するために、上清を、scDbプラスT細胞による腫瘍細胞の処理の開始後、4日間毎日回収した。上清を、製造業者のプロトコルに従ってBio−plex ProTM Human Cytokine standard 27−Plex、グループI(BIORAD)を使用してサイトカイン分泌について分析した。試料の吸収を測定し、得られた値を使用して、製造業者によって提供される標準的なシリーズについて得られた値に従って試料中のサイトカインの濃度を算出した。
【0101】
上記の説明および上記の実施例から、本発明に従って記載され、得られる生成物によって達成される利点が明らかである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A-1】
図3A-2】
図3A-3】
図3A-4】
図3A-5】
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
【配列表】
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